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頂き物の小説
第2話 「何事も最初が肝心 あたしもそう思うよ by氷室かえで」



とある魔導師と機動六課とガイアセイバーズの日常



第2話 「何事も最初が肝心 あたしもそう思うよ by氷室かえで」




Side 蒼凪恭文





八神はやて。時空管理局に所属する女性局員。出身世界は、僕と同じ第97管理外世界・地球。
年は19歳。お仕事は特別捜査官。(色々な事件の捜査をする仕事と思ってください)
現在の階級は二佐。魔導師ランクは総合SS。戦闘スタイルは、後方から広域魔法をぶちこむ支援攻撃型。

そして現在の彼女は、言わずと知れた機動六課の部隊長でもある。
で、さっきも言ったけど彼女は19歳。そんな年齢で六課のような大規模な部隊の部隊長になるには大変な苦労があったのは、想像に難くない。
確かに高い魔力資質やレアスキルを保有している。それと合わせた優秀な能力故に、二佐という高い階級も保持している。それでも大変だったのだ。

なにしろ、彼女は下っ端局員には、その明るく、温厚で人当たりのいい人柄から、なのはやフェイトに負けず劣らず人気者。
・・・なんだけど、上層部(特に地上部隊の連中)にはあまり受けがよろしくないときてる。
この辺りは色々と背景があるそうなのだが、僕は詳しくは知らない。
まぁそれがなんであろうと、はやてを友達だと思う僕の気持ちには関係ないしね。
別に差迫って知る必要のない事なら、相手がそれを言葉にしないのなら、こちらも無理に知る事は無いのだ。

それで、話がそれたけど、要するに『八神はやて』という一人の局員は、局の上層部からその存在と資質を常に疑問視されていた。
直接的になにかしら言われていたとも聞いている。(リンディさんクロノさん経由の情報)

そんな状況で、強力な支援者兼理解者の力添えがあったとは言え、部隊一つ設立して、そこの部隊長として収まるんだから、たいしたもんだよホントに。
今度爪の垢飲ませてもらおうかしら? お腹壊すだろうけど。

だけど、はやてに常に付きまとっていたそのうざったい風評の数々の大半は、ある事件を境に一蹴されることとなった。『JS事件』がそれだ。
彼女が指揮する機動六課は、地上本部襲撃を阻止できず、自らの隊舎も壊滅と、最初の段階こそ賊に遅れを取った。はっきり言えば、負けた。
だけど、結果だけを見れば、この事件の中心人物であり主犯でもあるスカリエッティとそれに組する戦闘機人達の確保という功績を残している。

そしてなにより、連中が持ち出してきた古代ベルカの遺産である巨大空中戦艦『聖王のゆりかご』を止めたことでミッドチルダ全土を救ったのが大きい。
聞くところによると、内部に突入した武装局員の救出作業のオプションまで無償でつけたそうだ。

それだけの事をなしたからこそ、六課は『奇跡の部隊』と言われるようになったのである。

そして、そんな部隊を指揮してきた才女、八神はやてが僕の目の前に居るのだけど・・・。

(恭文の独白終了)


「いやぁ、いきなりやらかしてくれたなぁ〜。やっぱ恭文に来てもらって正解やったわ。これから楽しくなりそうやなぁ」

・・・八神部隊長、お願いします。
頼むから、あの悪夢の時間をこれ以上思い出させるなぁぁぁぁっ!!


部隊長室に引きずられつつ移動して、そこで待ち構えていた八神部隊長に引き渡された。だけど、正直帰りたい。

だって、しょっぱながアレなんてありえませんぜ旦那? いや、やったの僕だけど。
あぁ、そうか。これはきっと全部夢なんだ。
きっとまだ出向前に見ている夢で、起きればいつもの布団の中。
ははははっ、嫌だなぁ僕は。なーんで出向前にこんな縁起の悪い夢見ちゃったんだろ?
それに気づけばもう大丈夫だ。
こうやって目をつぶれば、きっと自宅の布団の中でよだれ垂らしながら寝てるに決まってるんだそうだそうに違いない。


「でも、それはただの現実逃避や」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

部隊長室に、僕の悲痛な叫びが響いた。
・・・あぁ、わかってたよわかってたさ。
でもいいじゃないかよっ!! 現実逃避はありとあらゆるすべての事象に繋がる人間の真理だぞこんちくしょぉぉーーーー!!



「すみません部隊長。今日はこのまま帰って自宅警備員のバイトに勤しみたいんですがよろしいでしょうか?」
「あかんで♪」
「大丈夫ですよ。ほんの半年程行ってくるだけですから。マグロ漁船よりは短期間ですよ。うぅ・・・」
「あぁもう。別に泣くことないやろ? うちは面白かったし。大丈夫や。あれで自分は愛すべきキャラとして認識されたはずや」
「・・・そう思うなら、お願い。僕と目を合わせて。なんで微妙に合わないの? 僕の髪とか耳とか見てるよね」

つーか、おのれが面白くても僕が面白くなきゃ意味無いんだよっ!!


「相変わらずわがままやなぁ。そんなんやと彼女できへんで?」

いや、別に欲しくないし。


「嘘つき。フェイトちゃんにゾッコンLOVEやんか」
「待て待て19歳っ! 絶対年齢詐称してるでしょっ!? いつの時代の言い回しだよそれっ!!
なんで平成じゃなくて昭和の匂いがするのっ!? おかしいでしょうがっ!!」
「そないなこと気にしたらあかんよ。つか、それを抜いても前にうちが遊びに行った時に、あんなところにあんな本が・・・」

ピクッ!


「マッテ。その話は止めにしませんか?」
「えぇやんか。恭文かて男の子なわけやし、うちは別に軽蔑したりとかはせぇへんよ?
というか、一緒にその手の同人本読み漁った仲やんか。何を今さら・・・」
「・・・聞こえなかったかな? その話は、止めに、しようって言ってるんだけど」
「・・・なぁ。久しぶりに会ったんやから、そんな怖い目で睨むのはやめてな。うち、これでもか弱い女の子よ?」

やかましい。僕の中でお前は女性の欄には入ってないのよ。つーかたった今除外した。


「自分酷いなっ!!」
「酷くないわっ! 事ある事にちくちくからかいやがってっ!! さっきの事で僕がどんだけヒドイ目に遭ったと思ってるんだよっ!?」

フェイトのあの時の目を思い出して、僕がどれだけ枕を露で濡らしたとっ!?
二次性長に理解を示してくれていたはずなのに、なんで・・・。いや、今はそこはいいっ!!


「そんなことする暇があったら、あのワーカーホリックな砲撃魔導師を見習って仕事しろ仕事っ! 仕事に溺れろっ!!
もちろん倒れない程度にっ! 倒れられたら僕が困るからっ!!
つか、そんな余計なこと考えるからチビタヌキなんて言われるんだよっ!!」

主に、ゲンヤさんと僕にだけど。


「そういう事言う・・・? せやったら、出向祝いにフェイトちゃんのドキドキスクリーンショットをプレゼントしようかと思ってたんやけど、やめと」
「嫌だなぁ。ほんの出会い頭の小粋なジョークじゃないですか八神部隊長。私はあなたほど素敵な女性と出会った覚えがありませんよ。
タヌキなんてとんでもないっ! 誰ですかそ んな事言ったの? 信じられませんよそいつの神経を疑いますね〜。
まさにあなたは現代のジャンヌ・ダルクっ! ミロのヴィーナスっ! 小野小町か楊貴妃か、さてはクレオパトラかっ!!
もう、こうして貴方の前で立っているだけで胸の鼓動は切なく高鳴っているんですよ?」

はやての手を握り一息にまくし立てる。ハッキリ言えば口からデマカセ嘘八百。
だけど、これも全てはドキドキスクリーンショットのため。若干アレだと思うが我慢だ。


「・・・自分、プライドないな」
「そんなものはとうの昔にシロアリの餌にしましたから」

ため息吐きつつ僕の手から自分の手をゆっくりと離す部隊長。どっか呆れた表情なのは、気にしないことにする。


「まぁ、ちょっとだけえぇ気分になれたから許したるわ」

あんなのでなれるんかい。なんちゅう安上がりないい子ですかあなた。


「お望み通り、選りすぐりのをメールで送付しとくわ。楽しみにしとき?」
「・・・恩に着るよ」
「まーそれはそれとして、冗談抜きで自宅警備員はホントにやめたほうがいいと思うで? フェイトちゃんやなのはちゃんが悲しむよ。
二人とも今日はおらへんけど、恭文が六課に出向してくるって聞いて、やっぱり嬉しそうやったもん」
「そなの?」

そうなんだ、二人がそんなことを。あぁ、なのはは別にいいけど、フェイトが・・・・。


「・・・相変わらずなのはちゃんに対する扱いがひどいな」
「だって、なのはをからかうの楽しいし」

常に新鮮な反応が返ってくるし、ツッコミも長年の教育の賜物かなかなかにいい感じに仕上がったしねぇ。これが楽しくならないはずはないっ!


「まぁ、あれやで。あんまやりすぎたらあかんよ?
それと・・・多分、なのはちゃんは大事な友達と会えるのが嬉しいんやと思うし」

あー、そうだよね。あの横馬は予想してた。で、フェイトは・・・。


「フェイトちゃんは自分の家族が来るのがうれしいってとこやろうな。つか、覚悟しといた方がえぇよ?」
「なんで?」
「『いい機会だから、部隊の仕事を覚えて、局に入る気になってくれればいいな』・・・とか言うてたし」

・・・マジですか。僕はそんな気ないのに。


「マジや。ま、家族としては心配なんよ。アンタの気持ちは分かるけど、少しは理解したり?」

・・・だね。あー、またゴタゴタするのかな。よし、覚悟はしておこう。


「まぁ、それはヴィータやシグナム達もそうやし、うちも嬉しかったよ。・・・来てくれてありがとな」

そう言って、いきなり頭を下げる八神部隊長。それをなんともいえない心地で見る。
なんつうか、ちと戸惑うからそういうのはやめて欲しい。僕の好きでここに居るわけだしさ。
きっかけはリンディさんの依頼ではあったけど。といいますか・・・一回断ろうとしたのでなんか辛い。


「まぁ、そこは気にせんでえぇで? 休みの要求は当然の権利やし。
あと、もううちの事はいつもどおり『はやて』でかまわんで。恭文に八神部隊長なんて言われたら、なにか気持ち悪くてかなわんわ〜」
「どういう意味だよ」
「そういう意味や。まぁ、これからよろしくな恭文」

・・・手が差し出された。だから、こう返事をする。


「こちらこそ、よろしく。はやて」

そう言って、僕も同じように手を差し出し、硬く握手する。
それは、この半年を自宅警備員などではなく、機動六課の部隊員として生活するという決意の現れ。
この瞬間から、僕の機動六課の生活は始まる。


数週間後、自宅警備員の方がよかったかなと思う事が起きたけど、それはまた別の話とする。


「違うですっ! なに失礼なナレーションつけてるですかっ!?」
「そうよっ! みんな貴方が来るのを楽しみにしてたのにっ!!」
「蒼凪、相変わらずだな」
「・・・いきなり前フリも無く出てきて、揃いも揃って地の文につっこまないでください」

いきなり後ろから出てきたのは、ちっこい妖精サイズの少女にショートカットの金髪美女、それに青い犬。


「狼だ」

ええ、分かってますからその鋭い視線を向けないでくださいよ。怖いじゃないですか。


「恭文さんがいけないんですよっ!! ・せっかく久しぶりに会ったのにいきなりこれですかっ!? ・・・ひどいです」
「頼むからそんな恨めしい目で見ないでよ。僕が悪かったから」
「反省してますか?」
「もちろん、海よりも深く」

はやて、反省してないだろって目で見るのはやめてよ。心が痛いじゃないのさ。


「なら、許してあげるです。気を取り直して・・・恭文さん、久しぶりです〜♪」

そういって、少女は僕の胸に飛び込み、抱きつく。


「うん、久しぶりだね。リイン」

僕はそんな彼女を優しく抱きしめる。


「シャマルさん、ザフィーラさんも久しぶりです」
「お久しぶり、恭文くん」
「元気そうで安心したぞ」

今、僕の腕の中にいる子の名前はリインフォースU。
部隊長であるはやての家の末っ子で、僕にとっては妹みたいな存在で一番の友達。
・・・実は、僕が魔導師になったのはリインの存在が大きい。
まだ生まれて間もないリインと、数年前に偶然出会った事で、魔法と次元世界の存在を知ったのだけど・・・。
まぁ、この話は長くなるので、機会があれば話すことにする。

で、僕とリインがハグハグしているのを楽しそうに見ている綺麗なお姉さんと。


「あら、イヤだ。恭文くんったら、少し会わない間にずいぶん上手になって。
・・・うん、いいわよ。あなたがその気なら、私はいつだって受け止めるわっ!!」

・・・『次元世界でナンバーワンの呼び声も高い、自意識過剰な変なお姉さん』と。


「ひどーいっ!」
「それはこっちのセリフだよっ! なにしょっぱなから色んなものをぶっちぎってるのっ!? おかしいでしょうがっ!!」
「なに言ってるのっ!? あなたの主治医兼現ち」
「その呼称はお願いだから、今すぐ次元の狭間に捨て去れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

で、この不満そうな顔をしたお姉さんは、シャマルさん。はやて・・・八神家の一員で、局に所属を置く医務官。
今、本人が言ったように、僕の長年の主治医でもある。色んな意味で頭の上がらない人だったりします。
なお、シグナムさんと同じく『古代ベルカ式』を習得しており、その中でも回復と補助の魔法を得意とする風の癒し手でもある。


「蒼凪、気持ちは分かるがあまり言ってやるな。シャマルは、お前のことを相当心配していたのだからな」

う。そこを言われると辛い。ここ2ヶ月は色んなものをぶっちぎってたし。


「そうよ。私・・・本当に心配で・・・」
「だからといって蒼凪に抱きつこうとするのはやめろ」
「あら、いいじゃ・・・って、なんで恭文くんも逃げるのっ!?」

身の危険を感じたからですがなにか?

・・・そして、精悍な顔立ちの青い『狼』は、同じくはやての家族で、ザフィーラさん。
守護獣と呼ばれることもある人(今は狼だけど、人の姿にもなれるのよ)。で、シャマルさんと同じく古代ベルカ式の使い手。
ザフィーラさんは、防御の魔法を得意としている盾の守護獣。それだけじゃなくて、人の姿になれば格闘戦も強い。
二人とも、昔から色々とお世話になっている人たちだ。


「・・・というかザフィーラさん」
「なんだ?」

ついシャマルさんのバカに乗ってしまったけど、ツッコミたいところがある。


「元気そうってのはこっちのセリフですよ。リンディさんからみんなズタボロだって聞いてたんで」

だからこそ、出向もOKしたくらいなのに。


「日常生活には問題ないレベルには、みんな回復してるわ。ただ・・・」
「我やヴィータ、そして高町など一部の人間は戦闘となると、まだ本調子で行けないのが現状だ」
「・・・そうですか」

そこまでだったのか。ま、しゃあないか。その場にいなかったし、あーだこーだ言うのは間違いでしょ。


「・・・せやな。リンディさんから聞いとるとは思うけど、今の六課主要メンバーの・・・言うよりは、隊長陣の大半はこんな感じや」

全員が全員じゃないってことか。・・・なら、まだいい・・・ほうじゃないな。一番の爆弾が存在してるし。


「万が一に備えて、恭文には休み返上で来てもらっとるし、残り半年近く、何がなんでも何とかしていかないとあかん」
「はいですっ!!」

半年・・・。気合いを入れるリインを見て思った。結構、長いなと。何か起きるとしたら、充分すぎる期間だもの。


「恭文くん、あなたにはそう言う事情で来て貰っているわけだけど、もちろんあなた一人に全てを押し付けるような事はしないわ」
「もし何か起こったとき、我らにお前の力を貸してほしい。頼みたい事はそれだけだ」
「別に構いませんよ。そのためにここに来たわけですしね。
・・・ただしっ! なんにも起こんなかったら、定期的に休みはきちんともらいますからねっ!?」
「こだわるところはそこなんですね」
「本当に変わっていないな・・・」


人差し指をピンと上に向けて宣言する。僕以外の全員が呆れてるけど、なんと言われようとここだけは譲れない。
それだけ約束してくれれば、僕としては協力することには何の問題もない。みんなには沢山助けてもらってるしね。
なにより、ドキドキスクリーンショットも頂く約束を取り付けた以上、口ではどう言ってもホントに逃げる訳にはいかない。
といいますか、いい加減休まないと体外的にも僕の身体的にも色々とですね。結局、あの無茶振り提督のおかげで、この二週間もほぼ休み無しだし。
リゲ○ン飲んでないのに24時間戦えましたよ。えぇ。

あ、でも昨日一日だけはゆっくり休めたからしばらくは大丈夫かな? もう一日中布団の中の住人だったよ。


「それはもちろんや。リンディさんからもストライキとか起こされたくなかったら、そこはちゃんとするようにと言われてるしな」

あの人は僕をなんだと思っていますか?


「可愛い問題児ってところかしら?」
「蒼凪なら実際ありえるしな」
「です・・・」

あなたたちもなんだと思っていますか?


「まぁ・・・ストライキ起こせるなら起こしたかったけどさ」
『えっ!?』

「もう少しのんびりしてたかったのに・・・」


途中で、必死に書類をさばいて、一日休みを確保出来たのに・・・。あのバカ提督が追加で書類作成を命じてこなければ・・・ゆっくりできたのに。

「ね、提督潰しても罪にならないよね? ジャスティスだよね?」
「お願いやからそれはやめてーなっ! 間違いなく罪になるからなっ!? ジャスティスちゃうからっ!!」
「嘘だッ!!」
「嘘ちゃうからっ! なんでいきなりひぐら○っ!? そしてちょっと涙目はやめてくれんかなっ!!
・・・とにかく、休みは善処していくから、元気出してくれへんかな?」

・・・僕はその言葉に頷いた。あの提督には、きっちり仕返しをすることを決意した上で。


「・・・それはそうと。三人はどないしたん?」
「はいですっ! フフフっ!!」

なぜかいきなりニヤニヤと笑い出す祝福の風。あの、怖いから用件を早く言ってもらえませんか?


「恭文さん! あなたを生まれ変わった機動六課隊舎見学ツアーにご招待に来たです〜♪」
「「・・・はい?」」

はやてとついハモってしまった。・・・隊舎見学ツアー?


「はいですっ! 私、祝福の風・リインフォースUが責任もってガイドするですよっ!!」
「あぁ、つまるところオリエンテーション言うわけやな?」
「ですです♪」


自信満々に無い胸を張って、そう高らかに宣言する青いティンカーベル。
・・・今、なんか睨まれたけどきっと気のせいだ。

つかまてまてっ! 見学ツアーって、みんなが仕事してる中を跳梁闊歩するわけですか? それはないって・・・。
といいますか、僕は小学生ですかっ!?


「恭文くん、そう言わないであげて。リインちゃんったら、恭文くんに早く六課に慣れてもらうんだって言って、昨日までアレコレ考えてたのよ?」
「そうなん? うち全然知らんかったんやけど」
「申し訳ありません主。リインに当日まで秘密にしておくようにと頼まれましたので」

なるほど。でもまぁ、いきなりそんな話をされて、はいそうですかと納得するわけが。


「まぁ、そういうわけなら仕方ないなぁ。恭文、部隊長命令や。見学ツアー行っとき」
「ありがとうですっ!」
「納得したっ!? つーか即決だねおいっ!! 部隊長、一応確認。・・・・仕事はいいの?」

皆から白い目で見られるのとか、嫌だよ? いや、真面目な話よ。


「別に今日一日くらいやったら構わんやろ。どっちにしてもオリエンテーションは必要やしな」

さいですか。素晴らしい英断に感謝します。でも、ニヤニヤするのはやめて。なんかむかつくじゃないのさ。


「というわけでリイン、見学ツアーは構わへんけど、恭文を連れて改めて主要メンバーに挨拶させてな。さっきはアレやったし、何事も最初が肝心や。 あと、ガイアセイバーズのみんなにも挨拶させといてな。 みんな、恭文のこと、心配しとったから」
「はいですっ!!」
「あの、少しばかり子ども扱いなのが気になるんです」
「諦めろ。蒼凪」
「そうそう、あなたは女の子の尻にしかれるタイプなんですもの」

ちくしょう、来て早々なのにまた泣きたくなってきたぞ。でも、こうなったら腹をくくろう。


「分かったよ。リイン、ガイドよろしくね」
「はいです♪」

・・・そういや、リインと一緒に来たってことはシャマルとザフィーラさんもツアー参加者?


「いいえ、私たちは違うわよ」
「別の用件だ」
「別の?」
「恭文さんへの挨拶ですよ」

リインがそこまで言うと、シャマルさんとザフィーラさんが僕の方を向いて、柔らかい表情でこう切り出した。


「恭文くん、機動六課へようこそ。あなたを新しい仲間として歓迎します。そして、来てくれてありがとう」
「まさか休みを返上してまで来てくれるとは思わなかったぞ。
これから色々とあるとは思うが・・・なにかあればいつでも言ってくれ。必ずや我らが力になる」
「・・・こちらこそ、また面倒かけるとは思いますがよろしくおねがいします」

そうして、まず最初の挨拶を無事に済ませた僕は、はやて達に見送られリイン先導のもと、機動六課隊舎見学+挨拶参りツアーへと向かった。


・・・リイン。


「はいです?」
「これからよろしくね。で、もしなにかあったら・・・がんばろ」
「・・・もちろんです。リイン達が力を合わせれば、どんな理不尽も、きっと覆していけるですよ」
「うん」



Side ティアナ・ランスター





「しっかし、こうやってみんなでここを歩くのも久しぶりよね」
「そうだね〜。なんか気持ちいいや〜」
「ゆりかご戦の後は事件の報告書の作成や後処理とかで、基本的にはアースラの中でしたし」
「部隊長もおっしゃってましたけど、やっと帰ってきましたね」
「帰ってきたのはいいけど、お前ら、これから訓練きつくなるぞ〜」



そう口々に言うのは、私、スバル、それにキャロとエリオ、あと、楓。
・・・あの事件で壊滅した六課本部がやっと復旧した。

事件解決から復旧作業が完了するまでの間、六課主要メンバーは次元航行艦・アースラにそのまま乗艦して事件の事後処理を行いつつ生活していた。
まぁ、アースラでの生活と業務は、艦自体が長期間の次元航行での任務を目的として作られているだけあって、特に不自由は感じなかったけどね。

それでも、ここに戻ってきてなんだか嬉しいというか懐かしいというか落ち着くというか。
とにかく、そんな感じだ。なんだか変だな。私、10歳の頃から寮暮らしで、根なし草も同然なのに。


「なんだか私、やっと帰るべき場所に帰ってきたって気がします」
「うん、その気持ち少し分かるよ。僕もなんだかここにいるとすごく落ちつく」


どうやら、ライトニングの二人も同じ気持ちのようだ。


「懐かしいのも落ち着くのもいいけど、気を抜いちゃだめよ? まだまだやる事は残ってるんだから」
「「はいっ!!」」


ま、今日くらいは・・・よくないか。あり得ないやつが一人居るし。


「へへへ〜♪」
「なによ、なんかニヤニヤして」

私の隣りでニヤニヤしているのはスバル・ナカジマ。
私の長年のパートナーになる。・・・というか、なんでそんな表情になってるの?



「なんかさー、嬉しいな〜と思って」
「・・・はぁ?」
「だって、隊舎も復活したし、こうしてみんな無事に帰ってこれたし、新しい人も来てくれたし、いいこと尽くめじゃない?」


両手を大きく広げて、そう口にするスバル。
まぁ、確かに言いたい事は解るわよ。ただ・・・。


「隊舎とみんなの無事は解るけど、最後の一つは正直微妙よ。アレはないわよアレは」


言いながら思い出すのは今日の全体朝礼での一幕。
今日から六課で仕事をする事になった一人の男。
身長はスバルと同じくらいで細身の体系・・・って、ちっちゃいわね。あと、女の子っぽい顔立ちで、栗色の髪と、黒い瞳をしたアイツ。


年は私達と同じくらいよね? 正直そうは見えない。


「あれは、きっと私たちを和ませようとしてくれてたんだよっ!」
「いや、絶対違うから」


それだけは断言出来る。あれは間違いなく素だ。てーかホントにそれでアレなら、色々と読み間違えてるから。


「ライトニングはどうよ。朝のアイツについて知ってることある?」


アイツは、八神部隊長やなのはさん、フェイトさんの友達らしいから、二人は私達より詳しいかもしれないと思って聞いてみる。


「すみません、僕達も会った事があるわけじゃないんです」
「そうなの?」
「はい。いちおうフェイトさんから、一緒に暮らしている弟みたいな男の子が居るとは聞いていたんですけど・・・」

・・・へ? 一緒にっ!? つまり・・・それは・・・


「あ、そういう意味ではなくてですね。なんでも海鳴の家の方に居候・・・のようなことをしていたらしいんです」
「あぁ、なるほどね」


この二人の保護者で、六課の隊長陣の一人でもあるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンという人がいる。
その人は、4年前まで、地球の海鳴という街で暮らしていた。その時に同居してたってことか。
それで弟みたいだって言っていたのか。納得した。

・・・ってことは、アイツはハラオウン家の親族かなにかってわけ? でも、ファミリーネームが違うし。うーん・・・。


「フェイトさんからは『前にも言ったけど、ちょっと変わっているけど、真っ直ぐでいい子だから、仲良くしてあげてね』とは言われてるんですけど・・・」
「確かに、変わってはいるかもね」

あの男については、事前になのはさん達から説明を受けている。
なのはさんの友達で、あっちこっちの現場を渡り歩いている優秀なフリーの魔導師だと。
名前は蒼凪恭文。年は私より一つ上。

とは言うものの、魔導師としての腕前は実際には見てないが正直微妙な感じがする。だって、アレだしね・・・・。


「そんなことないよっ! すっごく強いんだからっ!!」
「・・・アンタ、なんでそんなこと言い切れるのよ。つか、知り合いってわけじゃないんでしょ?」

私の諦めも混じった発言は、胸を張って自身満々なうちの相方にあっさり否定された。・・・また大きくなってる、私なんてまだまだなのに。


「だって、あの人は空戦魔導師のA+ランクなんだよ?」
「・・・空戦Aの+(プラス)ッ!?」
「そうだよ。私達より1.5ランク上」

「んで、俺よりも3.5ランク上だな」


・・・魔導師には、能力を示すランクというものがある。

陸戦・空戦・総合の三つの分類に、上から『SSS・SS・S・AAA・AA・A・B・C・D』と言った風に分けられる。

あとは、0.5ランクを意味する『+』とか『−』が付いたり。



まぁ、あくまでも目安みたいなものなんだけどね。ちなみに、私とスバル、エリオが陸戦B。キャロがCになる。 ついでに、楓はいろいろあって空戦Dになっている。

で、新入りの空戦A+というのは、うちの隊長陣とまでいかなくても、なかなかに優秀な方になる。
特に空戦・・・飛行技能を持つ魔導師は、先天的なものか、訓練による後天的なものかを問わず、ある一定以上の適正がないとなれないものだから。


「つかスバル、あんたなんでそれを知ってるわけ?」
「ギン姉から聞いたんだよ」

捕捉ね。ギン姉というのは、スバルの姉のギンガ・ナカジマさん。局で捜査官をしている人だ。優秀な陸戦魔導師でもある。

・・・あぁ、そういえば。


「ギンガさんの友達でもあるって言ってたわね」
「それで、事前に情報収集してたんですね」
「そうだよ。実力はギン姉の折り紙付き。性格はちょっと変わっててクセはあるけど、大丈夫だって、自信満々だったよ」


あのギンガさんがそこまで言うんだから・・・実力はそれなりってことか。まぁ、そこは見てからよね。うん。


「でもね、ギン姉・・・『会って仲良くなってからのお楽しみ』って言って、あんまり細かい事は教えてくれなかったの。
あー、でも楽しみだな〜。ギン姉の話を聞いてたら、どんな感じか戦ってみたくなってさ。なのはさんたちに頼んで模擬戦組んでもらわないとっ!!」
「・・・アイツの意思は確認しときなさいよ? 強引に話決めたら迷惑でしょうから」
「うん、もちろんっ!!」


アイツも来た早々大変なことになりそうね。
まぁ、なのはさんやヴィータ副隊長達がそんなにすぐ許可をくれるとは思わないけど。仕事の都合だってあるし。

それはそれとして、今、私たちがどこへ向かっているかと言うと、デバイスルームだ。
一応、訓練の再開前に私達のデバイスの調整と整備をしっかりとしておきたいと言われ、一週間程前にシャーリーさんにパートナー達を預けていた。

そして、部屋の前に到着した。


「マッハキャリバー元気かなぁ〜。なんかドキドキしてきちゃった」
「あんた、いくらなんでも大げさよ」

とか言いながら部屋に入る。


「失礼しまーす」
「失礼するなら帰ってくださ〜い」
「す、すみません! 失礼しました!」

そうして、私たちは全員失礼しないためにデバイスルームから退出し・・・・って、ちょっと待った!!


「ちょっと邪魔するわよっ!!」

再びデバイスルームに突撃する。そして居た。小さい男の子と。更に小さい小鬼が。


「・・・リイン、なんでそんな怖い顔で睨んでるのかな。ほら、可愛い顔が台無しだよ?」
「なに言ってるですかっ!? 怒っててもリインは可愛いんですっ!!」
「自意識過剰に磨きがかかってるねおいっ!!」
「というかっ! どこの世界にあんな事言って追い出す人がいますかっ!?」
「え、吉○新喜劇でやってたよ? というか休みの日にいっしょに見たじゃないのさ」
「・・・お仕置きですーーー!!」
「いや、だって、てっきりシャーリーかと思って、本当にお客様とは思わな・・・って、痛い痛いっ! 髪の毛引っ張るなぁぁぁぁっ!!」


・・・よし。

"・・・なにこれ?"
"さぁ・・・?"
"お仕置き・・・ですよね。でも"
"あんなリインさん、初めて見ました"

同じくよ。・・・とにかく、リイン曹長が新入りの髪の毛をぐいぐい引っ張ってお仕置きしてる。
てか、アイツがなんでここにいるの?


「あ、みんなどうしたの〜」
「あ、シャーリーさん」
「えっと、マッハキャリバーたちを受け取りにきたんですけど」
「あのありさまで・・・」
「なんであの方がここにいるんですか・・・?」

シャーリーさんが、部屋の様子を見て納得したような顔になった。


「・・・あぁ、気にしなくていいよ」


いや、そう言われましても・・・。


「さっき、ロングアーチに挨拶に来ててね。なぎ君のデバイスもちょっと見たかったし、ここに連れてきたの。私は今少しだけ出てたから」
「そうなんですか」
「まぁ、どうせなぎ君がなにかしたんでしょ。すぐに終わると思うから、入って入って」


・・・・シャーリーさん、アイツと知り合いなんですか? というかどうしてそんなに慣れてるんですかっ!!
え、この状況って、ひょっとして普通のことなのっ!?


「それじゃああの・・・」
「お邪魔します・・・・」

そうして、私たちは無事(?)にデバイスルームに入出する事が出来た。

・・・これから、不安だわ。



Side 谷千明





しっかし、恭文も相変わらず抜けてんなぁ・・・

俺は今、機動六課の休憩室で丈瑠達と書の稽古をしながら話してる最中だ。



「まぁ、そう言ってやるな。 あいつは昔から少しドジだったからな。 それに、弟分が来て嬉しいんだろ?」

「バカ、そんなんじゃねぇよ。 あいつとは年の離れたダチみたいなもんだよ」

「千明、顔真っ赤やん」


ことはの指摘に俺は大きく手を振り、否定していく。

丈瑠達はそんな俺を見て、笑ってやがる・・・ 

人事だと思いやがって〜



「それより、スキマセンサーの方はどうなったんだよ?」

「それなら、俺とジイや黒子達でミッドチルダの各所に仕掛けている。 JS事件の時にも数体アヤカシが絡んでいたからな」


外道衆のアヤカシは隙間を通って三途の川から出てくるんでスキマセンサーがないと俺達はアヤカシの出現すら気づくことができないってわけだ。


「トライバル・エンドはきっとアヤカシと繋がっているはずだ。 奴が通った場所の一部でスキマセンサーが少しだが反応していたからな」


丈瑠はトライバル・エンドにご執心だからなぁ・・・

まっ、俺らはやれることをやればいいだけだよな。



Side 蒼凪恭文





リインによるお仕置きが終了した後、二人してゼーゼー言いながら、六課フォワード陣や楓と対面していた。
リインがあれやこれやとしている間に、フォワード陣のデバイスの受け渡しを完了していた(いつの間に・・・)。

そして、シャーリー先導である場所に移動していた。その間に、簡単な自己紹介をするのも忘れない。
そこの名は・・・食堂。
おそらく、これから先一番お世話になるであろう施設だ。食は大事だからねぇ。


「そういえば、シャーリーさんとリイン曹長、楓とは知り合いなんですか?」
「親しいみたいですけど」
「うん。リインは魔導師成り立ての頃からの友達だし、シャーリーはフェイト経由でね。
デバイスの事とかで相談に乗ってもらってるのよ。あと、オタク仲間。 あっ、楓は僕が仕事で何度かお世話になったの」
「なるほど、納得しました」

あー、なんかやりづらい。特にチビッ子二人だよ。本気でなに話していいか分からない。
・・・ねー、聞こえてるよね? ちょっと手伝ってよ。みんなに愛されるあなたの力が必要なのよ。僕はもう許容量が限界なんですよ。
・・・はい、分かりました。予定通り、自力でなんとかします。あー、まさかいきなり六課での一番の懸念事項にぶち当たるとは。どうしようかこれ。


「うーん、みんなかたいなぁ・・・」
「でも、初めて同士ですから」
「そうですね、これから遠慮が無くなっていきますか。というか、なぎ君相手にそんなことしてたら身が持たないですし」
「です」

「だな。 恭文相手に硬くなってたら馬鹿みたしだしな」

三人とも、そういう話なら聞こえないところでやってもらえませんかね? まぁいいけど。
一応、互いに挨拶は滞りなく(?)終了している。もうすぐ食事時という事もあり、少し早いけど一緒にご飯を食べながら話す事にした。が・・・。




・・・なんだこれ?
目の前には、僕の出身世界・・・地球で言う所の、ビックバン盛りとか流星盛りとか言われるようなサイズの山盛りパスタにサラダ。

それが見る見る間に消えていく。その光景に僕は驚きを隠せなかった。


「・・・・なんだこれ?」

深い意味はないけど、とりあえず口に出してみる。


「あんまり気にしないほうがいいですよ?」
「スバルもエリオも、いつもこれくらい食べるから」
「この量をいつも完食?」

ポカーンとした表情を浮かべる僕に、補足を入れてくれたリインにシャーリーに一つ聞いてみる。これを完食しているのかと。
答えは違う所から帰ってきた。


「当たり前じゃないですかっ!!」
「ご飯は残すのはいけないことだって、フェイトさんから教わりましたからっ!!」

・・・あぁ、なるほど。それはそれは素晴らしいことで・・・・って、んなわけあるかぁぁぁぁっ!!


「まてまてっ! あなた方はあれかっ!! 胃袋が七つあるどっかの犬顔の宇宙人っ!?」

所ジ○ージさんに似た声のアイツならこれくらいの量は充分ありえるけど、普通の人間にこのバカ盛りをいつも完食ってありえないぞっ!!
そしてフェイトっ! 腹8分目って文化も教えなさいよっ!! 食べ過ぎは体に毒だってわかってるっ!?


「蒼凪・・・だっけ? 気持ちは解るけど、気にしたら負けよ」
「大丈夫です。時がたてば、あなたにもこの光景が普通のものに見えてくるはずですから」
「なんか、あなた方悟ってるね」

心底疲れたような表情でそう口にするティアナ・ランスターさんとキャロ・ル・ルシエちゃん。あなた達も苦労しているんだね。
こんな話をしている間にも、どんどん皿の上のパスタ&サラダは質量を減らしていく。
あーうん、アレだよアレ。もう気にするのやめよう。気にしたら、食欲が無くなる。
しかし、あの姉さん以外でこんな馬鹿げた食いっぷりを見ることになるとは・・・。

そう思い、ご飯を食べながら別の話をして、気を紛らわせることにした。


「そういやリイン、この四人の教導担当って、なのはと師匠って聞いてるんだけど」
「そうです〜。スバル達は、なのはさん達が鍛えて育てている子達なんですよ〜♪」

よし、まずはおだててコミュニケーションを取っていこう。必要なのは飴だ。もっと言うと、糖分だ。


「ということは・・・ゆりかごやらスカリエッティのアジトやらで救出作業を行ったのってこの子達かな?」
「うん、スバル達だよ」
「なるほど、それで納得できたよ。・・・うわさは色々と聞いてるよ〜。
なのはと師匠が手塩にかけて育てている未来のストライカー達が居るって」

これはホントの話で、奇跡の部隊である機動六課の事を話すときに必ず出てくる事だ。

ゆりかご内やスカリエッティのアジトに閉じ込められた歴戦のエース達を救出したのは、まだ年端も行かない少年少女達だったと。
・・・フラグ、立て損なった。くそ、なんか貧乏クジばかりだよ。
とにかく僕は、事件解決直後のリインからのメールで大体の話は知っていた。
だけど・・・実際に会ってみて、またびっくりしてる。みんな成長期まだ終わってないよね?


「いえ、そんな」
「私たちなんてまだまだで」

そう口にするのは、一組の男の子と女の子。
桃色のセミロングになりかけな髪の女の子は、さっきのキャロ・ル・ルシエ。
で、赤髪で堅苦しい印象の男の子の方は、エリオ・モンディアル。
年のころは10歳前後か。確か、フェイトが保護責任者を務める子達。そして、六課出向においての最大の懸念事項。

・・・しかし、こんなチビッ子まで戦ってたとは。知ってはいたけど驚きである。
それもガジェットやら戦闘機人やらを相手に一歩も引かない戦いを見せたって話だし、なのはと師匠、どんだけシゴいてるんだ?


「なに言ってるですか。恭文さんだって同じくらいの時には魔導師やってたですよ?」

あー、そうだね。人の事は言えないや。


「なかなかに面白い子が入ってきたと、当時のリンディ提督やレティ提督は喜んでたって、フェイトさんから聞いたけど?」
「「そうなんですかっ!?」」

食いついてきたなチビッ子コンビ・・・というか、あなたがたは兄弟とか双子とかあれですか?
すっごいハモリ方しますね。挨拶もあれでしたけど。


「えっと、年は18って言ってたわよね。そうすると、魔導師暦7、8年・・・。私たちよりずっと先輩じゃない」
「あーでも、経験だけあるって話で、なのは達みたいにすごいわけでもなんでもないから」

手を振りながら、そう言ってみる。謙遜とかじゃなくて心からそう思うし。あやつらは色んな意味で別格ですよ。
・・・ただ、その別格は実力だけにして欲しいと思う。無茶まで別格じゃあフォローのしようがないって。


「けど、恭文がキャリアがあるのは事実だろ?」

「それはそうだけどさ。 でも、言うほど凄くないよ」



「そんなことないと思うけどね〜。だって、色々噂立ってるじゃない」
「噂・・・?」

・・・あるの? いや、覚えはあるんだけど。



「管理局のジョーカー。 なぎ君、そう呼ばれてるんだよ」

『えぇぇぇぇっ!!』
「・・・シャーリー」
「なに?」

ぺシっ!!


「うん、フカシこくのやめようか。あんまり過ぎるとデコピンするよ?」
「い、今したよね? 相変わらず容赦ないなぁ・・・」

「当たり前でしょうが! 何、その訳わかんないあだ名はさ!! 僕がいつそう呼ばれたっていうのさ!?」

「でも、なぎ君。 管理局の中でなぎ君のことをそう呼ぶ人っていっぱいいるよ。 ね、リインさん」

「はいです♪」


心から思う。この眼鏡マイスターはぶっ飛び過ぎだと。


「まぁでも、優秀なのは間違いないから。私も色々見てたし。・・・ちょっと変わり者だけどね」

シャーリー、失礼な事を言うな。僕は世界のスタンダードだよ。
フォワード四人は・・・呆気に取られてる。うん、これから慣れていこうか。僕とシャーリーとかはいつもこんな感じよ?


「・・・あの、蒼凪さん」

僕の心境などどこ吹く風。いきなりナカジマさんがなにやら神妙な顔で話し掛けてきた。


「はい、なんですかナカジマさん」
「あ、私の事はスバルでいいです。敬語じゃなくても大丈夫ですから」
「そうなの? ・・・なら、僕のことも恭文って呼び捨てでいいよ。敬語も無し」
「いいんですか?」
「いいよいいよ。というか、そうしなかったら返事しないよ♪」

にっこり笑顔でそう宣言する。あ、やばい。
なんか困ってるナカジ・・・じゃなかった。スバルを見てたらなんか悪い虫が騒ぎ出してくる。これは・・・うん、あれだな。
なのはをいじめるのと同じ感覚だ。つまり・・・どこか似てるってことかっ!


「そ、それは困るから・・・恭文って呼ぶね。いい?」

OKだよ。僕は別に、人から敬語使われたりさん付けで呼ばれるほど立派な人間じゃないし。で、話は何?


「うんと・・・恭文って、私のこと知らない?」
「・・・はい?」

あー、ひょっとしてあれかな? 『前世で恋人同士だった』とかいう電波的な話になるのだろうか。
まさか・・・いきなりそんな濃いアプローチを仕掛けられるとは。
楓がなんか笑ってるけど気にしないでおこう。

ほらリイン、だから僕の言った通りでしょ? 自宅警備員の方がいいかもしれないと思うことになるって・・・。


「違うからっ! いや、だから、私のこと・・・ギン姉から聞いてない?」

ギン姉・・・? 誰ですかそれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!!


「あぁ、思い出した思い出したっ!! ・・・そっか、ギンガさんの妹なんだね」
「そうだよ、私はスバル・ナカジマ。さっき自己紹介したのに、気付いてくれないんだもん。ひどいよ〜」

そこまで言われて思い出す。というか気付く。
ナカジマというファミリーネームに、あの大食いを見た時点で気付くべきだった。そうかそうか、あの姉さんの妹か。
・・・あの姉さんとは、ギンガ・ナカジマ。僕と同じ魔導師で、3年来の大事な友達である。
その人から、六課に以前話した妹が居るから、出向したら仲良くしてあげてねとは言われてたんだけど・・・。


「うん、今まで忘れてたけど思い出した。ギンガさんからスバルのことは聞いてるよ」
「恭文、それって結構最近の話だよね? なんで忘れるの・・・・」
「だって、朝からトラブル続きだったし」

あれの前には些細な問題になってしまったのだから仕方ない。こんなに早く絡むとは思ってなかったし。
予定では、ちょこっとずつ距離を縮めることになってたのさ。


「スバル、なぎ君はこういう子だから気にしないほうがいいよ?」
「です。悪い子ではないんですけど、いい子でもないんです・・・・」

・・・あなた方失礼だな。僕はいい子ですよ? 自分で言うと説得力が0になるのが悲しいけど。


「でも、ギンガさんの妹か・・・。色々と納得した」
「大食いなとことか?」
「あと、妙に距離感が近いというか、強引というか・・・・そんな感じがひしひしと」

ティアナ・ランスターさんの言葉に同意する僕。・・・そしてもう一つ納得した。
あなたもそれに振り回される人なのね? 仲良く出来そうだよ。

・・・なお、今『振り回しているのはなぎ君だよねっ!?』なんて電波を拾ったけど、気にしないことにする。


「それでね、一つ質問があるんだけど・・・」
「なに?」

あー、そんなに目をキラキラさせてなにが聞きたいんですかアナタは? とりあえず、身を乗り出さないでほしい。


「うんとね、恭文は魔法はどんなの使ってるの? 具体的な戦闘スタイルは? デバイスは?」

そう身を乗り出して聞くスバル。だから、顔近いからっ! 離して離してっ!!
というかさ、ギンガさんから聞いてないの?


「ギン姉は、細かいことは教えてくれなかったの。フロントアタッカーということだけしか・・・・」
「なるほど」

ならよかった。初対面で手札知られたくないし。・・・とはいえ、そこまで期待されたら答えは一つしかない。そう、あれだっ!!


「秘密」

左手の人差し指を唇に縦に当て、そう言いきった。あれ、全員がズッコケた。・・・なんで?


「えー、なんで? いいじゃん教えてよ〜」
「と言われましても、そんなに一度に聞かれても答えられません」
「じゃあじゃあ、一つずつでいいからさ。ね?」

むむ、なら仕方ないなぁ。


「・・・上から75」

「へ?」
「55」
「え?」
「76だよ」

あ、なんか表情面白い。コロコロ変わって、退屈しないね。


「それスリーサイズだよね!? 誰もそんなこと聞いてないしっ! というか、私より細っ!!」
「そなの? ちなみにスバルはいくつかな」
「えっと、上からはちじゅ・・・って、なに言わせるのっ!!」
「だって、僕が答えたんだからスバルだって答えなくちゃ不公平でしょ?」

ハガレ○読みなさい? 等価交換って大事だから。


「あ、なるほど・・・・って、なんでそうなるのー! てか、なんでそんなに細いのっ!?」
「知りたい?」
「うんっ!!」

頭をブンブン振り、頷くスバル。なので・・・。


「ヒミツ」
「どうしてっ!?」
「男は秘密というヴェールを纏う事で素敵になるのですよスバルさん。・・・というか、そこは察して。いや、本当にお願いしますから」
「・・・あ・・・うん、その・・・ごめん」

まぁ、からかうのはこれくらいにしといて、こっからは真面目に答えていきましょ。・・・アー、僕も一つ疑問が出来た。


「スバル、なんでそこまで僕の戦い方に興味があるのよ?」
「ギン姉から色々話を聞いてね。それに、恭文フロントアタッカーなんだよね? 私もそうだし」
「・・・スバル、フロントアタッカーなの?」

僕がそう言うと頷くスバル。あぁ、それで納得したわ。同じポジションの人の戦い方を見るのは勉強にもなるし、なにより楽しいんだよね。
例えばヴィータ師匠とシグナムさんだ。
腕前は同じくらいだし、フロントアタッカー同士ではあるけど、使ってる武器がハンマーと剣と違うのがまず一つ。
次に、師匠はオールレンジいける人。だけど、シグナムさんは僕と同じく基本は近接オンリーな人だから、取り回しや動き方がかなり違う。
そんな感じに互いの違う部分を見て、自分に対して生かせる部分を見つけられる時もあるし、実際に戦ってみるとこれが中々に楽しいのよ。


「でしょ? だから、どんな風なのかなって思ってたんだけど・・・・」

うん、それなら納得だわ。とは言っても・・・。


「そんな面白いとこはないよ? 使ってる魔法も近代ベルカ式の比較的単純な物だし。・・・そういや、スバルも近代ベルカだよね」
「そうだよ、シューティングアーツ」
「ギンガさんから教わってたんだよね」
「うんっ!!」

・・・魔導師が使う魔法は、大きく分けて二つの術式がある。
僕、そしてギンガさんとスバルが使用している『ベルカ式』。そして、『ミッド式』の二つだ。

まず、ミッド式は魔力の操作により、様々な事象を起こすことに長けている。
雷を落としたり、高速移動をしたり、大量の誘導弾を撃ったり・・・。
得意レンジは中・遠距離だけど、オールマイティーな特性をもっている。

そして、ベルカ式。これは攻撃の範囲や射程を犠牲にして、単体・近接戦闘に特化した魔法形態である。(人によります。あくまでも、一般的な認識)
魔力を術者の肉体強化。武器・・・使用デバイスに対する魔力付与による攻撃力の増加に使用する。
個人戦闘に特化した武闘派な術式なのだ。

なお、ベルカ式には『近代ベルカ式』とシグナムさん達の使用する『古代ベルカ式』の二種類がある。
僕やギンガさん、スバルの使う近代ベルカ式は、古代ベルカ式を、ミッド式と掛け合わせて作られた、比較的最近生まれた術式なのだ。

ま、この話はここまでにするとして・・・。


「・・・で、戦闘スタイルも剣術ベースの近接戦だけど、シグナムさんみたいに使えるわけじゃないし。あ、そういうわけだからパートナーデバイスも剣だね」
「でも、さっきのシャーリーさんの話だと・・・」
「そんなの大半はホラだから。つか、みんなの方が凄いでしょ。
だって、ナンバーズやらガジェットやらとやりあってなんだかんだで勝ってるんだし。なの○タなんて比喩とは違うでしょ」

とか話しながらパスタを一口パクリ。・・・うん、おいひい〜♪。


「あの、剣術ということは、蒼凪さんは騎士なんですか?」

スバルの次に食いついてきたのはモンディアル君。


「エリオで大丈夫ですよ?」

もとい、エリオ君。にこやかな笑みなど浮かべておられますが、目が笑っていません。
というかなんか燃えております。一体何が彼をそうさせているのよ・・・?


「いや、僕はベルカ式使うけど、師匠達と違って騎士の称号は取ってないのよ」

ベルカ式を使っている人間は、一般的に『騎士』と呼ばれているのだ。ま、個人の自由だけどね。


「そうなの?」
「うん。なんというか、ガラじゃないしね」

つーか、どこの世界に、ドサクサ紛れに初対面の女の子のスリーサイズ聞くような騎士が居るというのか。
どこの世界に、・・・スバルがなんか犬っぽいからという理由で、初対面にもかかわらず軽くをからかったりする騎士がいるというのか。

そんなのが居たら、世も末である。


「でも、剣を使うのは変わりないですよね? ・・・なら、今度模擬戦してもらえませんか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?


「それは、教導官の許可さえあれば僕の方は問題ないけど。・・・エリオも剣使うの?」
「いえ、僕は槍ですけど」
「恭文、エリオは騎士なんだよ?」

スバルのその言葉に頷くエリオ。
・・・あぁ、なるほど。だから剣術を使うって聞いた時に気になったのか。ベルカ式も使うって話したしね。


「はいっ! まだまだ見習いですけど」

そっか。つまり・・・。


「ひょっとして、シグナムさんやら師匠やらな騎士の先輩に憧れてたりする?」
「はいっ!」
「で、目標に近づくために、もっともっと色んな経験しなきゃいけないし、強くならなきゃいけないとか思ってたりする?」
「はいっ!!」
「・・・うん、なら納得だわ。もちろん教導官達の都合さえよければだけど・・・相手になるよ」

にっこり笑ってそう返事をすると、エリオがまた嬉しそうな顔になった。・・・そこまで?


「はい、ありがとうございますっ!」
「よかったね。エリオ君っ!!」
「うん」

・・・そこまでらしい。


「あ。それなら私も模擬戦やりたいんだけど!」
「スバルと? いいよ〜」

サラダをパクリと食べながらそう答える。
お、サラダも美味しい。野菜はシャキシャキで新鮮。かかっているドレッシングも実に野菜の味を上手く引き立てている。
うむぅ、六課のご飯はレベルが高いな。


「いいの?」
「待って、なぜ確認するの?」
「だって、なんか急に素直に答えたし。さっきは『秘密』ってはぐらかしたのに」
「・・・あぁ、そっか。いやだなぁスバル。いじめて欲しかったならそうだっていってくれ」
「怒るよ?」

・・・ごめんなさい。ちょっと調子乗りすぎました。
なのでその拳と単色の目は引っ込めてもらえるとありがたいです、はい。特に拳が痛そうだし。


「恭文さんが普通に相手すれば、スバルさんはそんな事しませんよ?」
「そうだよ〜。・・・で、なんで急に素直になったの?」
「別に〜。エリオはOKしといて、スバルだけダメってのはいくらなんでも意地が悪すぎでしょ。
僕も腕がなまるのは嫌だし、定期的な模擬戦はむしろ歓迎だよ」

退屈なのは嫌なのだ。どーせなら、楽しくいきたいのよ。


「ホントに?」
「ホントだよ」
「そっか。恭文、ありがとっ!!」

・・・なんかスバルがすっごく嬉しそうだな。尻尾があったらブンブン振ってそうな勢いだ。
というか、さっきからやたらと僕の魔導師としてのスキルに興味を持ってくるなぁ。いや、エリオもだけど。


「まぁ・・・あれよ。諦めなさい。スバルに興味持たれた時点でこうなるのは決定事項だから」

諦めろと言わんばかりの表情を浮かべているのは、ティアナ・ランスターさん。・・・・リゲイ○飲む?


「飲まないわよ。・・・あと、私もティアナでいいわよ」
「思考を読むのはやめない?」
「あ、私もキャロで大丈夫ですから」
「うん、そんなに僕の考えてることは分かりやすいのかな? ・・・いや、答えなくていい。もう分かったから」

とにかく、模擬戦の話ですよ。・・・さっきも言ったけど、同じポジションの人間の戦い方を見るのは楽しい。実際にやってみるのもこれまた面白い。

しかし・・・スバルもシグナムさんと同じ人種だったのか。うん、仲良く出来そう。


「どういうこと?」

「だから、戦うのが大好きなバトルマニア」
「違うよー! 私は、戦う事自体は好きでもなんでもないよっ?!」
「嘘だッ! そういうことを本気で思ってる人間はね、初対面の人間と模擬戦やることになったってそこまで嬉しそうな顔はしないんだよっ!!」

それを言ったらエリオはどうなるのかという話になるけど、それはまた別の話になる。
だって、明らかに違うテンションだったよ? 遠足前日の子どもみたいなウキウキ具合だったよ?
そのまま知恵熱出すんじゃないかって心配になるくらいに。


「別に・・・そういう訳じゃないんだけどなぁ」
「じゃあ、どういうわけなの?」
「うんとね、さっきも言ったけど、ギン姉から色々と聞いてて、どんな感じがすっごく気になって、それで・・・・」

あぁ、それで納得できた。つまり、ギンガさんが誇大広告気味なことを教えて、さんざんっぱらスバルを煽ってくれたわけだ。
それも、自称notバトルマニアなスバルのエンジンがかかるくらいに。

・・・怪我人じゃなければ色々とお礼をするところなのに。


「ね、それでいつする? 私は今日この後すぐでも大丈夫っ!!」
「まてまて、身を乗り出すなっ! ・・・いくらなんでも教導官の許可無しでいきなりやるわけにはいかないでしょ」

おじさんは来て早々、問題を起こしたくないのよ。・・・いや、もう遅いけど。


「まずは教導担当のなのはなり、ヴィータ師匠の許可をちゃんと取ってくる事。
許可さえあれば、教導官権限で仕事の方は何とかなると思うし、僕は身体さえ温めれば今日でも動けるから」
「わかった。じゃあ、絶対に許可取ってくるから、そうしたら必ず相手してね」
「いいよ〜。約束するからいつでも来なさい。むしろ待ってるから」
「うんっ!」

・・・あぁ、それと。


「なに?」
「もし、師匠達が許可をくれない雰囲気だったら、僕に話してくれるかな?
僕からもスバルと模擬戦やってみたいって言えば、多少はなにか変わるかもしれないから。エリオも同じだよ。
・・・まぁ、やると言った以上は少しは協力しないとね」

コホンと咳払いしつつ、スバルにそう言った。

それを聞いたスバルは、一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、意味が分かるとすぐに笑顔になった。
それはもう、眩しくて純情ボーイだったら恋に落ちるんじゃないかというくらいの素晴らしい笑顔に。


「うん、ありがと恭文っ!! ・・・秘密とか言わずに、いつもそういう風に優しくしてればいいと思うよ」
「気にしないで」

そうして、僕とスバルはお互いに笑顔で模擬戦の約束をしっかりと交わしたのだった。
・・・うーん、こうして話してると、やっぱりスバルってやっぱり犬っぽいんだよなぁ。笑ってるとことか見ると、尻尾や犬耳が連想出来るのよ。


「私は犬じゃないよっ!!」

やば、読まれてたっ! ・・・まぁ、そんなすぐに許可が出るとは思えないけど。
向こうの育成メニューや僕が仕事を手伝うロングアーチの都合だってあるわけだしさ。
僕は、嬉しそうな騎士と女の子を見つつ、のんきにパスタを食べながらそんな風に考えていた。

その後は、みんなでワイワイ言いながら食事を終了。
後片付けをしてから、オフィスでデスクワークに入るという四人とシャーリーを見送り、再び隊舎見学+挨拶回りツアーを再開した。
そして、この後事件は起こる。起こるべくして起こる。・・・僕はまだ知らなかったのだ。


彼女が・・・スバルが、その気になったらとても強いという事を・・・・。




時刻は既に夕方。
ミッドの湾岸部に設営されている六課隊舎は、当然海に近い。ここ、六課所有の陸戦演習スペースに関して言えば、海上に設置されているくらい。
海沿いから見る夕焼けは実に官能的で、見ているだけで胸が切なくなるような美しさを放ちながら、ゆっくりと地平線へと沈んでいこうとしている。
もうあと10数分もしないうちに、空は漆黒の闇へと色を変えて、人々を眠りに誘うだろう。
で、そんな時間になぜ僕がここにいるかというと、別に夕日を見るためでもない。そして、見学ツアーのコースというわけでもない。

・・・原因は目の前の少女だ。


「恭文、約束通りヴィータ副隊長の許可を取り付けたよっ! 私は全力で行くから、恭文も全力で来てっ!!」

白のシャツに厚手のズボン。訓練用の服装だ。そんな格好をして気合充分なスバルを見て、僕は頭を抱えていた。
まぁ、僕も同じ格好なんだけど。
あの後、リインに六課の駐機場に案内された。
ちょうどそこに居たシグナムさんとヘリパイロットのヴァイスさん、それにロングアーチスタッフのアルトさんや整備員の方たちに挨拶。
・・・ここまでは平和だった。だけど、突然ヴィータ師匠からのここへの呼び出しがかかった。これが悪夢の始まりだった。
なお、師匠は、病院の定期検診に行っていたそうだ。・・・どうりで姿を見か けないと思ったよ。

で、行ってみると既に着替えてそこに居たスバルから自分の予備のトレーニング服を渡された。(サイズは同じだったけど、胸がブカブカだった)
その場で着替えて(というか、着替えさせられました)スバルに促されて、一緒に軽くウォーミングアップ。
で、それが完了すると、海上の無機質な六角形のパネルが敷き詰められた平面状のスペースが、一瞬で廃墟の市街地へと姿を変えた。

そして、ここで模擬戦を始めると言われたのだ。
・・・なんだよこれっ!? 改めて考えると訳わかんないしっ! てーか状況に流されまくってるよ僕っ!!


「・・・悪いスバル。ちょぉぉぉぉっと待ってもらえるかな?」
「なんで?」 
「いや、これなに?」
「え? 模擬戦」

うわ、さも当然って言わんばかりの顔で言ってきたよあの豆柴。
つか、肝心な所が伝わってないなぁ・・・。


「・・・なんでいきなり模擬戦?」
「だって、恭文は『教導官の許可さえ得られればいつでも相手になる』って約束したよね。・・・嘘だったの?」

あぁ、もう。頼むからそんな泣きそうな顔はやめてー。罪悪感が沸いてくるからっ!


「違う違うそうじゃないよっ! ・・・そうだね、約束したよね」

こんなにすぐにやることになるとは思わなかったけどね。


「でしょ? だから、やろうよ模擬戦っ!!」
「うん、やるのは構わないんだけどさ」

何かが色々と間違っているような気がしないでもないけど・・・・よし、スバルの発言に関しては気にしない方向で行こう。気にしたらきっと負けだ。
きっと、あれなんだよ。やっぱりこの子ちょっとだけ電波なんだ(失礼)。


「あーそれとさ、さっきから気になってたんだけどアレはなに?」

そう言って、僕は指を指す。方角は隊舎の方。
そこには、人数にすると数十人というギャラリーがひしめいている。
フォワードの残り三人に、はやてにリイン、グリフィスさんにルキノさん、ついでにシャーリー。
さっきまで一緒にいたアルトさんとヴァイスさん、ライトニング分隊副隊長のシグナムさんにシャマルさんとザフィーラさん。
あとは・・・バックヤードスタッフの人たちに、駐機場に居た整備員の人たちかあれは?
ちなみに、整備員の人達はみんな気が良くていい感じの人たちだった。・・・女性には縁が無さそうだったけど。

とにかく、結構な人数がこの演習スペースに視線を集めている。というか、ここからでも楽々視認出来るくらいの大型モニター立ち上げてるし。


「みんな、恭文と戦うって言ったら、応援してくれるってっ!!」
「あぁ、応援・・・ですか」

どことなく、宴会というかお祭り騒ぎなノリが感じられるのは気のせいではないと思う。
・・・もしかしなくても、あいつら・・・楽しんでやがるっ!?
頼むから仕事してよエリート部隊っ! なんで復活初日にこんなお祭り騒ぎを傍観してるんだよっ!?
つーか止めてよっ! 具体的に言うとシグナム副隊長にグリフィス部隊長補佐っ!! そうだよあなた方だよっ!!
部隊長がアテにならないのは分かってるから、あなた方しかいないのよっ!!
・・・流されたっ!? なんか『諦めろ』ってオーラ出されたしっ!!


『うし、それじゃあそろそろ始めるぞ。二人とも準備しろ』
「はいっ!」
「師匠・・・」

いきなり発動した空間モニターに映る顔は、僕の魔法戦闘の先生であり、機動六課スターズ分隊の副隊長。ヴィータ師匠だ。
この模擬戦の許可を出した人物と言える。

お願い師匠。もう師匠しか居ないんです。
色々と手遅れな気がするんだけど、なんでもいいから助けて。怪我の事黙ってたのはもう何も言わないからー!


『バカ弟子、いきなりで悪いが諦めろ。つーかお前が悪い』

師匠まで毒されてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


「つか、なんでそうなります!? か弱い子羊いじめて、なにが楽しいんですかっ!!」
『うっせぇバカタレっ! つか、お前らはか弱くもなければ子羊でもねーだろっ!!
どーしてもこうなる理由が分からないなら、教えてやるよ。・・・スバルに、アタシやなのはの許可さえあれば、別に今日でも構わないって言ったそうだな?』

えぇ、言いましたがそれがなにか?


『アイツ、普段はちっとばかし気が弱いクセして、こうと決めたら異常に押しが強いんだよ。
アタシが何言っても今すぐやりたいって聞きやしなかったぞ?』
「・・・本当ですか?」

副隊長・・・というか、直属の上司である師匠の話をいっさいがっさい押し切って、ここにまで持ち込んだっていうの?
待って待ってっ! どんだけ押しが強いんだよスバルっ!?

いや、あのギンガさんの妹なんだから、ひょっとして当然だったりする?


『そうだ。・・・ったく、こっちは検査帰りだってのに、アイツの相手に模擬戦の準備でむちゃくちゃ疲れたぞ?』

すみません。知らなかったとは言え苦労かけしました。スバルの方を見ると、笑顔でガッツポーズなどかましてるし。
だぁぁぁぁっ! 余計なこと言わなきゃよかったぁぁぁぁっ!! てか、シャーリーもリインも、知ってたはずなんだからそういう事は早く言ってよっ!!

・・・と言いますか、師匠。この話聞かされた時から気になってたんですけど。


『なんだ?』
「・・・どうしてそんな『してやったり』って言わんばかりの悪い顔してるんですか」
『気のせいだ』
「いや、気のせいじゃないでしょっ!? 今、頬が明らかに緩んだしっ!!」
『・・・ま、正直に言うとだ。アタシとしてもお前とスバル達をやらせたかったからな」

あぁ、そういうことですか。で、スバルからいい感じで話が来たからここでやっちゃおうと。
うん、僕の都合とか完全無視なのがアレだけどもう慣れた。本当に慣れたから。

とにかく、こうなったらやるしかないか。約束はしてるわけだし、それはちゃんと守らないと。


『そういうこった。それに、お前だってこないだまでがしがしやってたろ。
師匠としてはそういうの抜きにしても、その中でどれだけ腕上げたか気になるんだよ
つーわけだから見せてくれよ。期待してるからな?』

「・・・まぁ、師匠の期待に応えられるかどうかは分かりませんけど、スバルとは約束しましたから。それはきっちりとやらせてもらいます。
あ、それと一つ確認です」
『なんだ?』

・・・一応ね。敵ってわけじゃないから確認。


「いつものノリでいいんですよね?」
『かまわねーぞ。ま、簡単にはいかねーとは思うがな』

また楽しそうに笑う師匠を見て、僕は気を引き締めることにした。・・・相当自信ありげってどういうことだろ。
なんにしても、油断は禁物かな。


「それだけ聞ければ充分です。んじゃま・・・行って来ます師匠」
『おう、キバっていけよ』

そして、空間モニターが消える。
残るのは、夕暮れ時の独特な空気。・・・あんま待たせてもあれだよな。うん。

そして、僕はスバルの方に向きながら気持ちを切り替える。
そう、戦うための気持ちに。今日出会ったばかりだけど、なかなかに面白い友達候補との約束を守るために。
全く・・・こっちは休み無しだというのに。まぁ仕方ないか。


「もう、大丈夫かな?」

自分の方に向き直った僕を見ながら、彼女は笑顔でそう言葉をかける。


「いや、ごめんね待たせちゃって。昔っからエンジンかかるの遅いのよ」

僕もそれに笑顔で応える。というか、苦笑い?
・・・昼間の食事の時と同じだけど、それは違う。どこか不思議な感じが辺りに漂っている。


「だめだよ、こんな可愛い女の子を待たせるなんて」
「自分で自分のことを『可愛い女の子』なんて言うな」

それより・・・。


「そろそろ始めようか。スバル」
「うんっ!」

そう言って、彼女が懐から取り出したのは、青空を思わせるような色合いの六角形のクリスタル。
なるほど、あれがスバルのパートナーってわけか。


「そうだよ。私の大事な相棒。・・・でもそれは、恭文だって同じでしょ?」
「まぁね」

大事な相棒っていうか・・・なんていうか・・・ねぇ?
僕もそれに釣られるように、首からかけていた相棒を取り出す。
丸い、球体状の宝石。形状はなのはのレイジングハートとほぼ同じ。色はスバルのパートナーと同じ青色。

でも、この子の色はスバルのパートナーよりも深い青色になっている。青空というよりも、深い海の色を思わせる青さだ。
それを前にかざす。そして叫ぶ。スバルも一緒に、この戦いの始まりを。


「マッハキャリバーッ!」
「アルトアイゼンッ!」
「「セットアップッ!!」」

・・・こうして、僕とスバルの戦いは始まった。結果がどうなるかなんてわかんない。

ただ、どっちが勝ったとしても、この戦いが無茶苦茶楽しくなりそうな予感はしていた。
つーか、せっかくだし楽しむよっ!


(第3話に続く)



おまけ:Side ギャラリー







「お、始まったなぁ」
「しかし、いいのですか主? いきなり模擬戦など」
「かまへんよザフィーラ。恭文呼んだ時点で、こういうことは折込み済みや。それに、自分かてどうなるか気になるやろ?」
「実を言うと・・・」
「でも、大丈夫かしら? 恭文くん、確かここに来るまでに2ヶ月くらいは休み無しだし・・・怪我しなければいいけど」

「あの、ヴィータ副隊長。シグナム副隊長」
「ん、なんだ?」
「スバルさんと恭文さん、一体どっちが勝つと思いますか?」
「・・・難しいところだな」
「アイツって、そんなに強いんですか?」
「アタシのバカ弟子はその辺なんて言ってた? 昼間話したんだろ?」
「自分はなのはさんや副隊長達と比べると、それほどでもないって・・・」
「・・・まぁ、先天資質で言えばそうなるな。魔力量や資質自体はお前らより下だし、身体能力だって並。
剣術の腕前も、最期に手合わせした時の話にはなるが、シグナムの域にはまだつけてねぇ」
「だが、お前達も分かると思うが、それだけで強さは決まるわけではない。
剣術に関しても、私が使うものとは系統も得意分野も違うし、そう簡単には比べられん」
「つまり・・・」
「・・・どうなるかは見ての楽しみといったところだ。
というより、もしもスバルに簡単に負けるようであれば、そこの師匠に文字通り鉄槌を食らうことになるだろう。
そういう意味で言えば・・・蒼凪は負けられんな。これでは、命がけの実戦とさほど変わらん。
蒼凪、死ぬなよ。骨は拾えないからな・・・・」
「そんなことしねぇよっ! つか真面目な顔してバカな事言ってんじゃねぇっ!!
・・・まぁどっちにしてもだ、お前達にも近いうちにアイツとやらせるからな。今のうちにしっかり見とけ」
「「「はいっ!!」」」

「えー、おせんにキャラメル〜。飲み物はいかがですか〜?」
「あ、シャーリー、キャラメルとお茶くださいですー♪」
「あ、俺にはビールもらえますか?」
「って、だめですヴァイス陸曹っ! 一応お仕事中なんですよっ!!」
「そうですよ。・・・騒ぎたい気持ちはわかりますが自重してください」
「いやだなぁ、グリフィス副隊長もリイン曹長も・・・、冗談じゃないですか」

「がんばれー! なぎくーんしっかりーーー!!」
「なぎ・・・君?」
「そうだよアルト。私やシャーリーさんは、昔からなぎ君って呼んでるの」
「へぇ、なんか可愛いあだ名だね。・・・ね、ルキノ。私がそう呼んでも、あの子怒らないかな?」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。なぎ君はひねくれてるように見えるけど、そんなことで怒ったりするような子じゃないから」
「そうなんだ。なら・・・・、なぎくんがんばれーー! スバルもしっかりーーー!!」
「こんなに可愛い女の子が二人も応援してるんだからーー! 簡単に負けたら怒るよーーー!?」
「「「「そうだそうだーーー! 気合入れてけよ新入りー!!」」」」
「「「「「男の意地を見せてみろーーー!! 負けたら承知しねぇぞぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

「・・・主、さすがにあれは止めたほうがいいのでは?」
「ははは・・・。そやなぁ」



(本当に続く)



あとがき



楓「さて、2話目のあとがきだが、今回のゲストは紅渡だ」

渡「あっ、どうも。 紅渡です」


(渡、大人らしくお辞儀をする)


楓「で、早速だけど・・・ なかなか、オリジナルの話が入れられねぇんだよな・・・」

渡「まぁ、本家の話がよくできてるしね。 でも、次回は少しオリジナルの要素が加わるんだよね?」

楓「あぁ、そうだな。 スバルと恭文の模擬戦はどうなるかだよな」

渡「そうだね。 まぁ、当分は本家に少しずつオリジナル要素を追加していくって感じだな」


(楓、そう言いながら頷く)


楓「ひらひらからのメッセージで1話目について謝らなきゃならないことができたみたいだぜ」

渡「シンケングリーンこと谷千明さんの名前を千秋と書いてしまっていました」


(どこかから、『「千秋」って誰だよ!?』という叫びが)


楓「なので、修正してまた送りますよ」

渡「それでは次回まで・・・」


楓・渡「「さよ〜なら〜!!」」



次回予告


恭文とスバルの模擬戦が開始された。

しかし、そこへ横やりを入れるようにトライバル・エンドが襲撃してくる。

トライバル・エンドの新兵器、イノケンティウスが機動六課に牙を剥く。


ガイアセイバーズ・機動六課、そして、恭文はどう立ち向かうのか?


次回『とある魔導師と機動六課とガイアセイバーズの日常 第3話 「イノケンティウスの脅威 古き鉄大活躍」』にご期待ください


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あきゅろす。
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