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頂き物の小説
その16.伊吹翼のお悩み初級編



とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録



「その16.伊吹翼のお悩み初級編」


2013年5月。ミリオンシアター内サロンにて



「あふぅ……Zzzz」

「あー、美希先輩だー♪」


ガンプラバトルのレッスンが中止になって、シアターの中を歩いてたらサロンのソファーで眠ってる美希先輩を発見。

よーしこのまま先輩誘ってお買い物にゴー!


「…………!…………?(美希せんぱーい!……あれ?)」


声を掛けようとしたんだけど、なんか変。


「………、…………(せんぱーい、せんぱーい)」


何回か口をパクパクさせて、声が出ないことに気づいた。どーしてー!?


(シャキ!シャキ!ザキ!)


訳が分からなくて困っていたら、いつの間にか足元にたくさんのガンプラ……ガンプラ?

えっと、たぶんガンプラだと思うんだけどシアターアイドルの野々原茜ちゃんそっくりで季節外れなサンタさんの真っ赤な服とナイトキャップを着てる人形がたくさん。

それとナイトキャップはないけど同じサンタさんの服を着ててシルクハットをカブっててちょび髭を生やして。

全体的に紫色だけど目の周りだけ真っ白でパンダみたいなベアッガイが一人いたの。


「……、…?(え、なに?)」


なにごとかと思ったら私に向かって飛んできて、そのまま背中を押されてサロンから追い出されちゃいました。


「何これー!?って、あれ。声が出てる?なんでなんでー?」


わけわかんなくて困っていたら、サロンの入り口に立て看板が立っていることに気づいて。


「えっと『ホシイ先輩安眠中。妨害厳禁。どうしても妨害したければガンプラで挑むべし』?」


しかもよく見たら隣にはいつもは無い筈のバトルベースまであって。


≪Plaese set your GP-Base≫


「これを使えってこと?」


レッスンで使うはずだったから一応持ってたGPベースを取り出してセット。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. mode-Outing≫


そうしたら普通は真っ暗になって空中に出てくるモニターがベースの表面に浮かんだ。周りは明るいまま。


≪Please set your GUNPLA≫


それから美希先輩とお揃いの「エールストライク」をセット。青い光のスキャンが足下から上に始まって、スフィアが出てきた。

カタパルトは出てこないけど、モニターのひとつにガンプラの前に広がってる景色が見えて。


「えーと」


これでいいのかなーと思いながらスフィアを押したら普通に動いて、空を飛んだから。


「よーし!」


そのままストライクを前進、美希先輩に向かって一直線。
そしたら茜ちゃん人形がみんな飛び上がって銃をこっちに向けて撃ってきたんだ。


「わーーっと」


音がしなかったから変な感じで、ちょっと焦っちゃった。
でもストライクは上昇しながら弾丸をぜーんぶ回避。

ビームライフルを構えてバンバン反撃だよー!


≪Hit!≫≪Hit!≫≪Hit!≫


そうしたらビームの当たった茜ちゃん人形のみんなから英語で「Hit」って光る文字がいっぱい飛び出してきちゃった。
やっぱり音は無かったけど!しかもどの茜ちゃん人形も全然壊れてないよー!

そこでびっくりしてる間に相手の弾丸が1発、ストライクのシールドに当たった!
しかもこっちでも「Hit」って光る文字が飛び出してる。

シールドが壊れないのもあっちと一緒だったけど、なんでかストライクの内蔵粒子が減っちゃったー!

驚いてる間にもっと弾丸が当たってカメラの前が「Hit」でいっぱいになっちゃって前が見えない!
私はスラスターを切って自由落下。文字と攻撃を振り切って床にぶつかる寸前で再点火。

わけがわかんないので一度距離を取ってバトルベースまで戻ったら、それ以上は追いかけてこなかった。


サンタさんな茜ちゃん人形たちはソファーの足元に整列、紫ベアッガイだけが美希先輩の枕元で杖を突いてた。
しかもいつの間にかソファーが芝生みたいに草が生えてた。


「………Zzzzzz(あふぅ…Zzzzzz)」


なんかフカフカで美希先輩が気持ちよさそうだけど!あーもー寝てないで買い物行きましょうよー!


「よーし、それなら今度こそー」


私はまずストライクを天井に接触するギリギリの高さまで飛ばして、サロンの端っこから加速して思いっきりスピードをつけて美希先輩を目指す。


当然茜ちゃん人形たちはストライクに向かって昇ってくる。みーんな大急ぎなせいでぎゅーぎゅー詰めの渋滞さん。

その先頭の茜ちゃん人形たちに向かってビームライフルを連射。えいえいえい!


さっき撃たれたときに気づいたんだけど、Hitって光る文字が出るとカラダは壊れたりしないけど少し後ろに弾き飛ばされるの。


だから一番上の茜ちゃん人形を撃ったらHitって文字が出て下に弾き飛ばされて後ろにいる茜ちゃん人形に当たってまた文字が出て弾かれてその下の茜ちゃん人形に…ってカンジで連鎖完成だよ。

そのまま先頭の茜ちゃん人形たちだけ撃って昇ってくる茜ちゃん人形みーんなを抑えて突破。

これで美希先輩まで邪魔するものなんてなーんにも無い!……と思っていた私は目を丸くしちゃった


「え?何あれ、竹?」


いつの間にかソファーの周りに床から天井まで竹が生えてたの。
七夕とかパンダとかタケノコ山とかのあの竹が!

訳が分からないと思ってたら紫色のベアッガイがそのうちの一本をよじ登ってきたの。
それで右肩に振りかぶった杖をストライクに向けて振り下ろしたと思ったら。


≪Critical Strike!≫


モニターの視界が金色に光って、ストライクのカラダも全部金色になって、動かなくなっちゃった。


「何これー!?」


動かなくなって落っこちるストライクは茜ちゃん人形たちがキャッチしてバトルベースの上まで運んでくれた。

くれたけど、私には何が何だかさっぱり分かんない。スフィアやモニターはそのままだったからゲームオーバーってことはないと思うけど。


「えい!えい!えい!」


そのスフィアをどう動かしてもストライクはさっぱり動かない


「ねぇ、動いてよ。動いてってば!」


何度もがしがし動かすけどピクリともしない。そんな時。


「あの。翼ちゃん、何をしてるんですか?」


後ろから声をかけられて振り返ったら、そこには布をかぶったお盆を持った可憐さんがいたの。


「可憐さん、あのね。ベアッガイが金色の光を出して、ストライクが動かなくなっちゃったの」


私は金色になったストライクを手に取って可憐さんに見せる。
可憐さんはあわあわ〜って感じに困っちゃったけど、それでも教えてくれた。


「えっと、これ確かジオウさんの言ってた『キンキンステッキ』の効果だと思います」

「キンキン?」

「は、はい。粒子変容塗料って言って、プラフスキー粒子に特別な性質を与えることができる塗料があるんです。
キンキンステッキは『ゴールド』の変容塗料を使ったもので、プラスチックをこんな風に金色に固めちゃうんだって。
一度固まっちゃうと、30分くらい粒子のないシアターの外に出さなきゃ溶けないって聞いてます」


えー、なんですかそれー。なんでこんなことするんですかー。


「し、シアターの建物やガンプラの皆を守るための実験だって聞いてます。
キンキンに硬くなるとすごく丈夫になって、火事とか起きても壊れないんだとか」

「……火事?」


ちょっと怒ってたのに、その言葉を聞いた私は急に頭が冷めて黙っちゃった
黙ってしまった私とは反対に、可憐さんは一生懸命『実験』の説明をしてくれた。


「えっと、あの、ですね。これは美希ちゃんのお昼寝を邪魔する人を追い返して、お昼寝を守るシステムを作るっていう実験なんです。
ここにいる茜ちゃん人形の皆が着ている服は『サンタクロース』と『ゲーム』の粒子変容材料を使ってます。

『サンタクロース』の変容材は音を消す力があって、その服を着た皆がいっぱいいるから、美希ちゃんの寝てるソファーの周りは音が消えちゃいます。
『ゲーム』は、翼ちゃんも見たかもしれないけど攻撃を受けると光る文字が飛び出してダメージを受け流してくれるんです」


そのおかげで、茜ちゃん人形の皆は何度攻撃を受けても美希先輩を守り続けて、しかも音が消えるからぐっすり眠れるんだって。


「ただ内蔵粒子の消費が激しいので、例えばビームサーベルを押し当てられたり火炎放射であぶられて継続的に
焼かれたりすると駄目なんです。そういう時はキンキンステッキで固めたほうが守れるんだってジオウさん言ってました」


守る…そう聞いて、私はまた胸がキュッとなった。


「他にもあそこの竹を出してるのは『パンダ』の変容材の効果で、美希ちゃんがよく眠れるようにリラックスさせる効果もあって…」

「ねぇ、可憐さん」


気づいたら私は質問してた。


「主任さん、他に何か言ってた?」

「何かって、何ですか?」

「だから、その……この前の事件のことで」


できることなら思い出したくないことだけど。
少し前、このシアターで放火殺人未遂の事件があったんだ。

男の人にガソリンをかけて、火をつけて焼いて殺そうとした人がいたの。

しかもその人は、私の近所に住んでるおばさんで。
毎日あいさつもしてくれる良い人で、そんな恐ろしいことをするような人じゃ絶対になくて

だから、こんなことをしたのには絶対に理由があると思って。
恭文ちゃんやみんなに、おばさんを許してほしいってお願いした。

結局全然聞いて貰えなかったけどね。
それは間違ってるって散々言われた。

私も、今は私が間違ってたって納得してたんだけど。


「主任さんは後始末で色々忙しいみたいです。この実験もその一つみたいで」

「そう、なんだ」

「……」

「……ひなたちゃんは?」

「え?」

「ひなたちゃん、何か言ってたかな?」

「ひなたちゃん、ですか?えっと、いつも一緒にいるグフ彦くんたちに何事もなくて良かったって」

「それだけ?」


そんなはずないと思ったから、聞き返してた。


「あの、翼ちゃん?何かあったんですか?それにたしか、この時間はガンプラバトルのレッスンだったんじゃ」

「うん、そうだったんだけどね」


本当は、今日はちゃんとガンプラバトルのレッスンがあった。遅刻してサボったとかでもなかった。

でもバトルの途中で、いつもひなたちゃんと一緒にいる『アッグのアグたん』が乱入してきたの。
それでフィールドのあちこちに穴を掘って、バトルベースにいたガンプラをみんな埋めちゃった。。


「それで慌てて駆け付けたひなたちゃんが取り押さえようとしてくれたの。
ひなたちゃんは私やみんなに迷惑かけてごめんなさいって謝ってくれたんだけど」

『みんなね、私が育ててる野菜や建物が焼かれそうになったことを、怒ったり恐がったりしてくれたんだよ
でもあたしはアグたん達みんなが燃えてたらどうしようってことのほうが怖くて、もっと自分たちのこと大事にしなきゃ駄目って叱ったんだけど』


叱られたアグたんは何でか『ガンプラがガンプラバトルで壊されることからも守ろう』って考えちゃったみたいだって、ひなたちゃんは言うの。
それを聞いた私はアグたんが私のところに来ちゃったのはただの勘違い、ちょっとした行き違いだって、笑い話で済むことだって思ったんだ。

私はあの事件で間違えたけど、それとは関係ないことだって。だからアグたんを笑って許してあげれば全部済むことだって、そう思っていたのに
私が許してあげるって言ったら、ひなたちゃんの手のひらに乗ってたアグたんは飛び出しちゃって、そのままどこかに行って。


『みんな、ごめんね。あとでアグたんにも皆にひどいことしたこと謝らせるから』


ひなたちゃんはそう言ってくれた。でも続く言葉があって。


『翼さんが、お友達を守ってあげたかったのはわかるよ。
でもごめんね。あたし、アグたんに翼さんを許してあげてって、言ってあげられないんだ』


申し訳なさそうに言うひなたちゃんの姿に胸がキュってなって、そしたら今度はザク太郎がしょんぼりして。未来まで慌てて。


「それで変な空気になっちゃったから、結局今日のレッスンは中止になっちゃったんだ。
もやもやしてパーっと遊びに行きたいなーって思ってたところに美希先輩を見つけて、声をかけようとしたらいつの間にかこうなってた」

「そうだったんだね…」

「私、やっぱりひなたちゃんに怒られたのかなぁ?」

「えっと…それは…私にもわからないけど…」

「でも私、何も悪いことしてないよね?」


ひなたちゃんはアグたんがガンプラが壊れるのを止めようとしたって言ったけど。

だってガンプラが壊れるなんて【当たり前】のことで、世界中の人たちがやってることですよね。

それが火事のせいでも、ガンプラバトルのせいでも、関係ない。
その筈、なのに―――。


『翼さんを許してあげてって、言ってあげられないんだ』


そう言った時のひなたちゃんの顔を思い出すと、胸がモヤモヤする。
そのモヤモヤするのをパーっと吹き飛ばしたくて、美希先輩と遊びに行こうって思ってたのに。


「翼ちゃん、それは――」

「――そうなの。それが世間のジョーシキなの」


何かを言おうとした可憐さんを遮ったのは、美希先輩の声だった。
びっくりして視線を向けたらいつの間にか竹は消えてたけど、美希先輩はソファーで眠ったままだった。


「あれ、美希先輩?」


やっぱり寝てるのかと思った。だけど。


「…問題ないの。美希は『名探偵・眠りの美希』なの。事件はまるっとお見通しなの…Zzzz」

「そ、そうだったんですか?」


わー凄い!美希先輩、寝ながら名探偵できるんだ!
私びっくりした!可憐さんもびっくりしてるよ!!


「そうなの。例えば、ここにいる茜ちゃん人形は茜が3Dプリンターでオリジナルガンプラ作ろうとしたときに麗花が割り込んで
製造数をいじったせいで山ほどできたことが分かってるの。そのまま放置もできないから主任が美希のガードに回したの」


すっごい、本当に美希先輩名探偵なんだ!


「じゃ、じゃあ。ひなたちゃんが何を怒ったのかもわかりますか?」

「あふぅ。怒ったというより傷ついてるの」


傷ついた…ひなたちゃんが?


「シアターが火事になって、ガンプラのみんなが死んでたらどうしようってひなたは心配したの。
でも翼は近所の友達ばっかり大事にして、危ない目にあったガンプラのみんなを大事にしなかった。

他のアイドルの皆も心配してなくて、ガンプラたち本人さえ自分たちが壊れることを悲しいことだって思わなかった。
それが全部、ひなたを傷つけるストレスになったんだよ」


なんで!?だってガンプラが壊れるのは当たり前で、それに今までそんなこと一度も言ってなかったのに!


「いつもなら「なんとかなるべさ」って呑み込めた悲しい気持ちが、色んなことがいっぺんに起きてごちゃごちゃしたせいで溢れちゃったの。
そんなひなたを見て、悲しんでることに気づいたアグたんも暴走しちゃったの――このままだとアグたんは殺されちゃうの」


ショックを受けていたら、美希先輩からもっとトンデモナイことを言われた。
殺される?壊れるんじゃなくてっ!?


「殺される!?なんで!?」

「そうですよ!どうしてそんなことに」


流石に慌てて大きな声が出ちゃった。可憐さんも大きな声を上げた。
殺されたら、死んじゃうんだよ!?そんなの、ゼッタイ駄目!


「翼たちのガンプラバトルを邪魔をしたから。人間を噛んだ犬が保健所に連れていかれるのと同じなの」


邪魔なんてそんな、ちょっと悪戯されただけじゃないですか。これから気を付けてくれたら。


「でもアグたんは翼やみんなやガンプラバトルを許してないの。なら何度でも今日みたいなことを繰り返すの。
そんな人間に迷惑でユーガイなロボット、殺して廃棄処分にされるのは当然なの」


だから、なんでそんなことになるの!?
ちょっと邪魔しちゃっただけで、また邪魔しちゃったとしても、それで死ななきゃいけない理由なんて


「翼、アグたんのしていることは翼と同じなの」

「え?」

「アグたんがひなたを悲しませたくなくてバトルを止めようとするのも
翼が友達を守るために色んなことを隠して許そうとしたのも。翼の友達が人を殺そうとしたのも。
3人とも身近な人を守ろうとしたの。それはトーゼンの感情なの」

「美希、先輩」

「たげど3人とも、やりかたが危なすぎなの。ハイリスクでローリターンな方法を選んで、自滅なの」


危ない?間違ってるんじゃ無くて?


「よーく考えるの。翼がプロデューサーを説得しようとか無理無茶無謀なの。
どっちが正しいとか間違ってるとか、実はあんまり関係ないの。
失言だけ集めてカウンターでマウント取ってごっそり搾り取るだけなの」


いやそれは……言い返せない部分も…あるかもしれないけど…


「100億歩譲ってプロデューサーを共犯者に出来ても、マスコミとか警察とか偉い人とか
しつこい人とか全部をだますのにすっごい手間暇かかるしバレた後が相手にしなきゃいけなくなってたの。
それじゃ幸せになれないの。それが敵をたくさん作るような「危ないことをする」ってことなの」

「じゃあアグたんは」

「アグたんもやり方を間違えたの。それに、自分が人間じゃないってことがわかってないの。
人権なんかないんだから、誰かがあの子を危険だって言ったらここにはいられないの」

「私、そんなの言わないですよ!」


SNSにも上げてない!そんなの、黙っていたらいいじゃないですか!


「翼が言わなくても、SNSにあげなくても、アグたんがこれからも暴れたらいつか外部の人目に付くの。とっても危ない選択なの」

「ならアグたんにそんなことしないでって言えば」

「無意味なの。翼は、翼と意見が違うプロデューサーのことを簡単に許せたの?」

「それは…」

「それと同じだよ。喧嘩してる相手をタダで許すのは難しいの。そもそも翼は何でそんなに焦ってるの?」


何でって、そんなの。


「別にアグたんが死んでも翼は困らないはずなの。だってガンプラが壊されるのは当たり前なんでしょ?」

「それは、でも!」


でも何か違うよ、おかしいよ。ガンプラが壊れるのは当たり前で、でも「死んじゃう」のは違う。
それは駄目なことだって、説明とか出来なくても分かるよ!分かるのにっ!

恭文ちゃんみたいにスパスパ言いたいのに、上手く言えない!

言いたいのに、何も言えない。
何も言えなくなって困ってた私に、美希先輩は言った。


「まぁもしここで翼がアグたんを見捨てるようなら、この先一生ハッピーライフもモテモテ生活もないって思うな」

「それ困る!」

うん、困る!すごく困る!絶対に困る!

だから、私がアグたんに生きて欲しいって思うことは【何もおかしくない】!

私は目の前のモヤモヤが晴れた気分になった。あとはアグたんを助ければそれでいいんだ。


「じゃぁどうしたらいいですか!」

「……ひなたと話をしてくるの。お互いのことが分かるまで、何度でも」

「話す?それだけですかぁ?」


正直拍子抜けだった。それだけで、解決するの?


「何度でも、なの。それと美希はもう手伝えないから、今後何を話したかとかは可憐に報告するの」

「ええっ!?」


いや待って、それだけで放り出されても。


「ほら、そうと決まったらさっさとひなたの所へ行くの!そうしないと一生モテないの!」

「はいっ、わかりましたぁ!」


私はサロンを一目散で飛び出した。


「あ、可憐はもう少し話があるから残るの」


私は可憐さんをサロンに残して、大急ぎでひなたちゃんとアグたんを探してお話したよ。

それで仲直りしたの……うん、あっさりしてるけどこの後にあったのは本当にそれだけなんだ。
色々考えてたから拍子抜けしちゃったけど、ひなたちゃんはやっぱりいい子で、すぐに許してくれた。

それでアグたんも落ち着いて一応死ななくて良くなったんだけど……なんでか雪歩さんに弟子入りした。

次に火事が起きたとき、シアターの地下にトンネル掘ってみんなを逃がすんって言ってるんだって。
だから雪歩さんに穴掘りを教えてもらうことになったんだって、ひなたちゃんが言ってた。


とにかくこれで全部解決ですよねー。あー良かったー。




……………でも。

私は、何があんなに怖かったのかなぁ。



(初級編・おしまい)




◆◆◆◆◆◆


≪ガンプラ紹介≫


●茜ちゃん人形

リトルミズキと同じように、野々原茜が自分をモデルにデフォルメされたオリジナルガンプラ。
3Dプリンタで作られたオリジナルガンプラだが本当は1体のみ作る予定だった。

しかし装置の設定中に他のアイドルに横からボタンを弄られた結果39体も同時に誕生してしまった。

誕生からカルロス・カイザー製の自立行動プログラムによって動き回り、悪戯を繰り返す。
一応の作成者である茜の手にも終えず、暇にしておくとマズイということで今回お仕事を与えられた。


●茜ちゃん人形・サイレント仕様(サンタゲーマー)

シアターの新しいセキュリティシステムの開発手伝いを命じられた茜ちゃん人形が
「サンタ」と「ゲーム」のBLD変容塗料を使ったサンタ服を着て実験する姿。

「サンタ」は消音と、粒子の物質化・造形を得意とするBLD。その機能でおもちゃを
作ることもできるが、その繊細な粒子コントロールは茜ちゃん人形たちにはできない

「ゲーム」はガンプラの周辺・内部粒子を使ってプラスチック周辺に粒子の膜を張り
衝撃や熱戦を受けるとこれが弾けて光文字を出しながらダメージを逃がす疑似的な
リアクティブアーマーと、プラスチック自身の強度を上げる疑似PS装甲の役割を果たす。

その効果は近接する他のガンプラにもおよび、「ゲーム」の効果範囲内にいるガンプラはお互いに
壊しあうことが出来ない。粒子と言う名のHPが尽きればゲームオーバーで、遊びだから「誰も壊れない」。

そんな思いをを実現するのが「ゲーム」のBLD変容材である。

「サンタ」と「ゲーム」はベストマッチの関係にはないが、数でカバーして効果範囲を広げている。


●チャップガイ

茜ちゃん人形たちと同じ「サンタ」「ゲーム」の服を来た紫色のベアッガイで、
パンダのような黒いクマのある目をしており、後の世に生まれる「パパッガイ」のようなちょび髭。

その顔と無音状態で動けることがサイレント映画で有名な「チャップリン」に似ていることから、
今回の開発実験のリーダーとしてそのコードネームを与えられた。

「サンタ」「ゲーム」のBLD変容材を使った服の他、「パンダ」と「ゴールド」を使った武器も
それぞれ持っており、今回の実験では無事に星井美希の安眠を守った。


なお、パンダのような目は液晶ビジョンを調整しているもので、「パンダ」のBLD変容材の効果ではない。

「パンダ」の効果は粒子を集めてリラックス効果・滅菌効果を持つ竹や笹を作ることであり、
火災時には「はしご車」の代わりに脱出経路を作ることも検討して実験が行われた。

また「ゴールド」は動きを固めると同時に鉄壁の守りを与える、ドラクエのアストロンのような効果を持つ。
こちらはガンプラや建物を火災による損耗から守る効果を期待している。



◇◇◇◇◇◇



翼ちゃんが去ったあと、一人残るように言われた私は美希ちゃんに問いかけました。


「あの、それでお話って?」

「……Zzzzzzz」

「美希ちゃん?」


あ、あれ、また寝ちゃったのかな?


「彼女は最初からずっと寝ているよ」

「え?」


突然男の人の声がして驚いた私は。キョロキョロと辺りを見まわしました。
昔の毛利小五郎さんみたいな声だけど、それらしい人はサロンのどこにもいません。


「驚いているところ悪いがもうすぐホシイ・ミキの仕事の時間だ。
まずは起こしてあげてくれ。その為に来てくれたんだろう?」

「え、あ、はい」


狐につままれたような気持だったけど、美希ちゃんを起こさなきゃというのはその通りです。
私は持ってきたお盆の布を取りました。そこにあったのは、七輪と団扇とおにぎり。


「じゃあ行きます」


本当はサロンでやっちゃいけないことだと思うけど、私はジオウさんにお願いされた通りに焼きおにぎりを作り始めました。
その焼きおにぎりをパタパタ団扇であおいで、お醤油の芳ばしくて美味しそう匂いを美希ちゃんに届けます。


「…………あふぅ」


その効果はテキメンで、美希ちゃんはすぐに目を覚ましました。


「ふぁー、よく寝たの。あ、可憐そのおにぎりチョーダイなの」

「お、おはよう美希ちゃん。緑茶もいるかな?」

「うん。くるしゅうないなの」

美希ちゃんはあっという間にモグモグぺろりと食べてしまって……おにぎりって凄い。


「ごちそうさまー…あふぅ。じゃぁもう一度お昼寝するの」

「だ、駄目だよ美希ちゃん。これからお仕事だよっ」


だから起こしに来たのに、また眠っちゃ駄目っ。

「あ、そうだっけ――じゃあ、ちょっと本気出すの」


私の心配をよそに、一瞬で雰囲気が変わった。
これが、お仕事モードの美希ちゃん……!


「行ってくるね、可憐」

「う、うん。行ってらっしゃい」


私はサロンから出ていく美希ちゃんを見送って手を振りました。


「さっきのツバサとの話を出さなかったのは、美希の声帯を模倣した私の仕業だって分かってたの?」

「ひゃっ!?」


誰もいなくなったはずの部屋で、また美希ちゃんの声がして。
今度はキョロキョロしないで前だけ見て答えます。


「わ、分かったわけでは無いです。ただ美希ちゃんのおにぎりを美味しそうに食べるところとか、
またすぐお昼寝しようとするところとか、お仕事モードのカッコいいところとかに見とれて忘れてただけで」

「そうか。確かに気持ちいいくらいの自由人だな、彼女は」


今度の声はまた毛利小五郎さんだった。


「ど、どこですか?」

「下だよ、下」


言われて視線を下すとそこにはシルクハットとステッキを持った紫のベアッガイさんがいました。

ただ服装がサンタさんの服から黒い服とマントになってって、髭の形もちょび髭からカイゼル髭に。
それにパンダみたいだった目も普通のベアッガイっぽくなっていて。


「改めて自己紹介しよう、私はディオパン」


彼が口を開き声を出す様子を、私は確かに見ました。


「ディオえもんと同じ、ジオウのなりたい自分から生まれた特別なガンプラの1体。以後お見知りおきを」


わ、私はとてもびっくりしました、びっくりしすぎて言葉が出てきません。
何を聞いたらいいのか、わからなくて自己紹介もできなくて。


「ふ……ワーッハッハッハ!」

「ひゃぁ!?」


突然沸き上がった笑い声に私は驚いて尻もちをついてしまいました。


「びっくりした?びっくりした?」

「え、ええ?」

「どっきり大成功ー!!」

「ええええっ!?」


目を白黒させる私の膝に乗って、ディオパンさんは手を差し出してくれて。


「いや、すまないマドモアゼル。少し緊張をほぐせればと思ってね」


そう言う殺気とは打って変わってディオパンさんは紳士的でした。
私は彼の手を取って、でも引っ張ってもらうのは無理だから両手で慎重に抱きかかえながら立ち上がりました。


「あ、ありがとうございます。篠宮可憐です」


今度はちゃんと自己紹介できました。少し詰まったけど。


「はじめましてカレン。君のことはシキ義母様から聞いているよ」

「志希さんから?」


志希さんというのはジオウさんの幼馴染で、私はアロマや香水やジオウさんの匂いのことでよくお話させてもらっています。

それからジオウさんの、内緒にしていることも少し。


「じゃあエレナさんとも」

「いいや、エレナ義母様とはまだご挨拶してない。私が生まれたことも知らないだろう。
本当は実験や警備を手伝いつつも君たちの前で話をすることはもまだしないで欲しいと、ジオウからお願いされている」


え、じゃあ今私とお話をしているのもいけないことなんじゃ?


「命令ではなくお願いだからね。もちろんできる限り聞くつもりだったが、
ジオウの負担を減らす為にはそうも言ってられなくなったんだ。
だから私の独断でイブキ・ツバサの思想を誘導し、シキ義母様の友達である君に接触させて貰った」


何が何だかわからないでいる私に、ディオパンさんは確かに言いました。


「シノミヤ・カレン。ジオウを助けてやって欲しい」


(おしまい)

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あきゅろす。
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