頂き物の小説
その13.宮尾美也の野望!
とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録
「その13.宮尾美也の野望!」
みなさん、はじめましてー。宮尾美也、と申しますー。
私にはー、夢がありますー。それはー、歴史の教科書に載ってみたいんですー
だからわたしはー、765プロのガンプラアイドルになりましたー。
『美也ちゃん、どこー!』
今日もシアターで未来ちゃんとザク太郎ちゃんとガンプラバトルをしていますー。
バトルフィールドは雨が降っていて、残念ながら良いお天気ではありませんがー、頑張りますよー。
私の『蝶々さん』はハネを広げてー、いつもやってるようにお日様からエネルギーを充電中しますー。
ポカポカの良いお天気ならすぐにエネルギーが貯まるんですがー、今日はちょっとゆっくりですねー。
そうしている間にも未来ちゃんの動かすアメイジングブースターがバビューンってお空を飛んでますー。
『美也ちゃん見つけた!』
おや、見つかってしまったようですねー。エネルギーは……まだ足りてませんねー。
『未来ちゃん、美也ちゃんの【ガンダムエックス蝶々】ちゃんの作り込みはありさのザクファンクションちゃんより上です!
でもおっとりした美也ちゃんより未来ちゃんとザク太郎ちゃんの方が視野の広さと反射速度は上の筈です!』
『つまり……どういうことですか!?』
『二人がかりでスピードで翻弄して、背中に回り込みましょう!』
『わかりました!行くよザク太郎くん!』
『■■■■■!』
おお、セコンドの亜利沙ちゃんからいい作戦が出ましたなー。
レーダーに映ってるザク太郎ちゃんもジグザグにビュンビュン走って、私はもう目が回りそうですー。
そうしてる間に真っ赤な点滅と警報がいっぱい鳴って、右から近づいてきたザク太郎ちゃんが斧を持って攻撃してきましたー。
私はアームレイカーをキュって回して、SPスロットから「IFBD:FF」と書かれている5番のを選択しますー。
『■■■■!?』
そのザク太郎ちゃんの斧に向かって蝶々さんが右手を伸ばしたらー、ぶつかる直前でザク太郎ちゃんの動きが止まりましたー。
そのまま、えいやーって押し返します……ふふふ、蝶々さん実はけっこう力持ちなんですよー。
でもこれをやると貯めたエネルギーがどんどんなくなって必殺技が撃てませんー。困りましたー。
『えーい!』
おー?困っていたら未来ちゃんのアメイジングブースターがバラバラになって、蝶々さんの体にぴったりしがみつきましたー。
『捕まえた!』
エネルギーも心許ないですー。これでは身動き取れませんー。
『ザク太郎くん、今だよ!』
むぅー。このままじゃやられてしまいますなー。それは嫌なので、「SMW」と書かれたSPスロットの1番を使いますー。
そうすると蝶々さんの胸から空に向かってガイドラインの光が発射して、すぐに雲の上の『お月様』から蝶々さんのハネにスーパーマイクロウェーブが下りてきましたー。
『熱っ、なにこれ!?』
ちょうど背中にくっついていた未来ちゃんのパーツにもマイクロウェーブが当たって、未来ちゃんは離れていきましたー。
もしかして驚かせちゃいましたかー?ごめんなさいー。
『うえぇっ、マイクロウェーブ!?マズいです未来ちゃんザク太郎ちゃん!
【サテライトキャノン】が来ます逃げて逃げてバラバラに逃げてくださぁぁぁぁいっ!』
ふふふ、バレてしまいましたかー。亜利沙ちゃん、その通りですよー。
蝶々さんのエネルギーは満タンになりましたー。
『バ、バラバラって?』
『サテライトキャノンの攻撃範囲はMAP兵器レベルです!正面にいたら絶対に逃げられません!
対処法は一つです!二人が逆方向に逃げて攻撃範囲から脱出、最悪どっちかだけでも攻撃を避けて!
その上で撃った直後でエネルギー切れになった美也ちゃんを攻撃することです!』
ふふふ。勝負ですよー。
私はSPスロットの3番を選択しますー。蝶々さんは腰のサブアームを動かしてサテライトキャノンを構えますー。
『■■■■!』
『あわわ。逃げる暇なんてー』
モニターのセンサーは慌てて背中を向ける未来ちゃんとザク太郎ちゃんを既に捉えてますー。
私はのんびり屋さんですけどー。バトルシステムさんはお仕事が早くて優秀ですなー。
それではスイッチオン……発射ー。
『うわーーーーーーー!?』
『■■■■■■■■■!?』
キャノンから出たビームは見事未来ちゃんとザク太郎ちゃんのすぐ後ろの地面に命中ー。大爆発が起きましたー。
爆風で吹き飛ばされて、未来ちゃんとザク太郎ちゃんはそのままバトルフィールドの外へー。
『わわわ、ザク太郎くんが落ちたーーー!?ザク太郎くん、大丈夫!?』
『■■ー!』
未来ちゃんのブースターはバラバラになってそのまま床に落ちましたー。
ザク太郎ちゃんはスラスターから粒子を噴射して何とか無事着地したようですー。
≪Battle Ended≫
こうして今日のバトルは、まず私の一勝から始まりましたー。
◆◆◆◆◆◆
バトルが終わって反省会ですー。司会は亜利沙ちゃんですよー。
「と言うわけで未来ちゃん、ザク太郎ちゃん!美也ちゃんのガンプラ『ガンダムエックス蝶々さん』とのバトルはどうしたか?」
「なんか凄かったです!すっごいビームが出てバーンて爆発して吹き飛ばされて。
それに凄い力持ちで、ザク太郎くんが片手で押し返されて。
背中のハネもとってもキレイで、外国のチョウチョみたいでした!」
えへへ。そんなに褒められると照れますなー。
「あと顔が面白いですよね。アンテナも美也ちゃんの眉みたいで、頬っぺたにおヒゲが生えてて」
おお、中々いい目の付け所ですねー。そのおヒゲはターンエーさんからお借りしたものですよー。
お腹にもコアファイターさんを身に着けていますしー。おかげでIFBDが使えるようになりましたー。
「ふむふむ。感想はだいたい出たみたいですね。
では改めて、このありさが美也ちゃんのガンプラ『ガンダムエックス蝶々』さんについて説明しましょう」
おーパチパチー。
「まずこのガンプラのベースになったのは第7回世界大会でヤサカ・マオ選手が使った【ガンダムエックス魔王】の市販品です。
そのまた元になったガンダムエックスとはリアクターやキャノンの配置が違うんですが、開くとアルファベットのXの形になるところは一緒です」
「あ、だからエックスって名前なんだー」
そうなんですー。エックスだからエックスさんなんですよー。でもそれだけじゃないんですよー。
「でもこのエックスすごくキレイですね。外国のチョウチョみたい」
「そうなんです!いきなりですがそれこそがこの蝶々さんの目玉!最大のチャームポイントです!
Xの形にリフレクターを広げると前から後ろからチョウチョのハネみたいに綺麗な模様が見えるようになるんです!
しかもこのリフレクターは何種類も作ってあって、その日のバトルに合わせてに交換できるんです!」
「えええええ!?こんな綺麗で難しそうな模様が他にもたくさんあるんですか!凄い!見たいー!!」
いやーそこまで喜ばれると照れますなー。
「そうでしょうそうでしょう。これこそは美也ちゃんの汗と涙と努力の結晶!
そして作り込んだこのハネは、リフレクターの本来の機能も強力に再現するのです」
「本来の機能?」
「そうです。このXの形のリアクターはスラスターとソーラーパネルを兼ねていて、光を媒介に
プラフスキー粒子を吸収することでエネルギーを貯めて、ガンダム史上でもトップクラスの
戦略破壊兵器である【サテライトキャノン】や特大のビームソード【魔王剣】を放つのです!」
「キャノンって最後に出たあの凄い攻撃ですか?」
「そうです!あのパワーも美也ちゃんの作り込みあってのことなのです!」
「凄いです!あんな攻撃ができるなんて、もしかして美也ちゃんのガンプラ一番強いんじゃ」
ありがとうございますー。でもー、そうでもないんですよー。
「■■■■■!」
「うえぇっ?ザク太郎くんどうしたの?なに怒ってるの!?」
きっとザク太郎ちゃんはー、私と蝶々さんより主任さんのほうが強いーって言ってるんだと思いますよー
「そうなの、ザク太郎くん?」
「まぁ主任さんは世界大会の決勝トーナメントに2回も出た人ですからね。
現段階だとありさや美也ちゃんより主任さんや蒼凪プロデューサーのほうが強いのは
当然のことです。それに、この蝶々ちゃんは強いですけど弱点だってあるんですよ」
「弱点?」
「はい。まずサテライトキャノンは威力がとても大きい分、エネルギーをためるのに時間がかかります
チャージの方法は2つあって、ひとつはリフレクターのソーラーパネルで光を吸収すること。
これは今回みたいに雨が降っていたりコロニーみたいな屋内で戦うとき、効率がぐんと落ちて時間がかかります。
もう一つの方法はガンダムエックスの本来のチャージ方法で、月からマイクロウェーブを受信する方法です。
これは効率がいい代わりに月が空にないと全く使えませんし、居場所が相手にバレてチャージ完了までに攻撃されます。
そしてサテライトシステムを搭載しているガンプラと戦う場合は、攻撃される前に攻撃するのが一番有効です」
そうですねー。サテライトキャノンを撃つ前にやられちゃったら、何もできないまま負けちゃいますからー。
「あれ、でもさっき逃げろって」
「あの時はもうチャージが終わってましたから、攻撃が間に合いそうもなかったんです。
ありさもこのフィールドに月が出てるなんて思わなかったので、アドバイスが遅れました。
それにまさかマイクロウェーブの熱量で組みついたアメイジングブースターを攻撃、
その上にIFBDで振り払うなんて考えもしてませんでした」
「あいえふびーでぃー?」
はいー。Iフィールド・ビームドライブと言って、おヒゲのターンエーさんはビームのパワーで外から手足を押して動かしているんですよー。
「その応用で自分以外のガンプラのパーツを美也ちゃんは押し出したんです。ガンプラバトルもプラフスキー粒子で
外からプラスチックを押して手足を動かしたり空に浮かべたりしてるので、相性は良かったんでしょうね」
「それで力持ちだったんだー。あれ、でもそれならやっぱり美也ちゃんが一番強いんじゃ」
いいえー。そんなことないですよー。
主任さんとダディさんのガーベラストレートならー、サテライトキャノンもIフィールドもー。
全部まとめてえいやーって弾き飛ばせたと思いますー。
「え、主任さんはそんなことができるんですか!?」
それに蒼凪プロデューサーさんだと、速すぎて攻撃が当たりませんー。
今日だって、もし未来ちゃんとザク太郎ちゃんが私たちの背中に回り込んでいたら、負けていたかもしれませんー。
私はサテライトキャノンを向けるためにグルーっと回って後ろに向いてー、その間に未来ちゃんたちはビューンって背中に回り込んでー。
私はまたグルーっと回って後ろに向いてー、またその間に未来ちゃんたちはビューンって背中に回り込んでー。
グルーっと回ってー、グルーっと回ってー、グルーっと回ってー、グルーっと回ってー、グルーっと回ってー。
私は、目を回していたと思いますー。
「そうだったんですか!?」
はいー。そうだったんですよー。
「うぅ、ありさも慌てててそこまで気が回りませんでした。
ベースのガンダムエックス魔王は強襲型のセッティングがされた、速く動けるガンプラですけど。
ほんわかしている美也ちゃんは、そのパワーを火力と防御に割り振っていたんですね」
私もまだまだ未熟ですからー。できないことはたくさんあるんですー。
「それにやっぱりサテライトシステムが地形や天候に左右されるところは大きいですよね。
お日様もお月様も出てないとキャノンやIフィールドを満足に使えないのはやっぱり厳しいのですよねー」
あ、そこはもう対策済みですよー。
「へ?」
私は、さっきのバトルでも使った秘密兵器を二人に見せましたー
「白いサッカーボールのぬいぐるみ?ですか?」
ふふふふ。これはプラスチック繊維で作った『お月さま』ですー。
バトルが始まってすぐ蝶々さんと一緒にカタパルトから出てー、そのまま空でプラフスキー粒子を集めてくれていましたー
マイクロウェーブをお願いすると、蝶々さんに集めた粒子を送ってくれるんですよー。
「こんなの用意してたんですか!?曇り空だったとはいえ、ありさはまったく気づきませんでした!」
してやったりー、ですねー。
「あっ、よくみたら餅つきしてるウサギまで描いてる!すごい!ガンプラバトルって、お月様まで作っちゃうんだ!!」
そうですねー。私もびっくりしましたー。
「美也ちゃんも、ですか?自分で作ったのに?」
はいー。実はこれ、主任さんからアドバイスをもらって、作ってみたんですー。
足りないものがあるならしっかり準備すればいい、月がなくて困るなら作ればいいって言われまして―。
「何という発想の転換…!」
「じゃあこれでどんなバトルフィールドでもサテライトキャノンを撃ち放題ですね」
いいえー。実はそうでもないんですよー。
「なんでですか、美也ちゃん?」
マイクロウェーブはこのお月様の中に集まった粒子を放出するのでー、基本的に一度のバトルで1回しか使えませんー。
「じゃあじゃあ、お月様をいっぱい作ればいっぱい撃てるんじゃないですか?」
それもやってみましたー。でもフィールドが海に沈みましたー。
「???海、ですか?」
テストしたのが『ローレライの海』のフィールドだったんですがー、たくさんの月のせいで凄い満ち潮になってしまってー。
「うええっ、そんな仕様があったんですか!?まさか月の引力で起こる
満ち潮まで再現するよう作り込まれてたなんてっ!ガンプラバトル、恐るべし」
それで蝶々さんもダディさんもみんな海の中に溺れちゃいましたー。
「あー、そうですね。蝶々さんが海の中じゃあ、残念だけどサテライトキャノンは使えないですね」
「え、なんで海だとダメなんですか?」
「海の中でマイクロウェーブを受信しようとすると、海の水にマイクロウェーブが当たって蒸発する筈です。
それもサテライトキャノンの為の凄い熱量だから、水蒸気爆発をさせちゃうくらいになる筈です」
そうなんですー。同じ海の中にいた蝶々さんも吹き飛ばされちゃいましたー。
なのでー、そこをどうするか工夫も考え中ですー。
主任さんはー、ガンセキのキョヘイが欲しいって言ってましたけど、よくわかりませんー。
「うう、前に進むことを止めない美也ちゃん。その素晴らしい向上心にありさはまた一つときめいてしまいした!」
ありがとうございますー。でもまだまだですよー
もっともーっとスゴイ私にならないと、歴史の教科書には乗れませんから―
「歴史の教科書?」
はいー、歴史の教科書に乗るのが私の夢なんですよー
「うわー、それ凄いー!歴史の教科書に美也ちゃんの写真も載るってことですよね!
いいなー、もしそうなったら友達みんなに自慢していいですか?」
「はいはーい!その写真、ありさが撮影してもいいですか!?」
もちろんですー。でも教科書に載るのって、やっぱりすごく大変みたいですよー。
主任さんにはー、ガンプラバトルで世界チャンピオンになるより難しいって言われました
「ええ!?それって主任さんやプロデューサーより強くなっても無理ってことですか?」
未来ちゃん、そうなんですよー。
「残念ですけど、ガンプラバトルに限らず競技選手は世界大会で金メダルを取ったくらいじゃ
教科書には乗れないと思います。政府から何らかの表彰でもされたら別かもしれませんが」
はいー。歴史の教科書に乗るのはー、歴史を動かしたり、今まで誰もやったことのないことをした人ですー。
例えば蒼凪プロデューサーさんはニルスくんと一緒にプラフスキー粒子の作り方を見つけたからー。
歴史の教科書にも理科の教科書にも、将来乗るかも知れないって聞いてますー。
「プロデューサーさんってそんなにスゴイ人だったんですか!?
いつもシアターにいないし、いても桃子たちをイジメてるだけの人だと思ってたのに」
未来ちゃん、そう言うこと言っちゃだめですよー。
プロデューサーさんは、凄い人なんですからー。
響さん、あずささん、千早さん、雪歩さん。他にもたくさんのお嫁さんがいる人なんですからー。
「確かに。プロデューサーさんならそっちでも乗りそうですよねー。
日本の一夫多妻制が施行された直後に大ハーレムを作った男性として」
ですねー。羨ましいですー。
それとー、もし未来ちゃんとザク太郎くんが世界一になったら、教科書に乗るかも知れないですよー
「へっ?え、なんで?美也ちゃんじゃなくて私たちが?」
「■■■?」
はいー。ザク太郎ちゃんは自分の心を持ってるガンプラですよねー?
もしそのザク太郎ちゃんが世界一になったら、それは世界で初めてのー、スゴイことなんですよー。
「そ、そうだったんですかー!?」
「■■■。」
はいー。だから未来ちゃんとザク太郎ちゃんは私にとって、ライバルなんですよー。
「私と美也ちゃんが、ライバル!?いつの間にそんなことになってたのっ」
と言うわけでー、またバトルしましょー。
「ええ、そんな急に!?で、でも私たちさっき負けたばっかりだし。またサテライトでバーってやられちゃうかなって」
じゃあ今度はー、サテライトなしで頑張りますよー
「なんでですかっ!?だってサテライトってあんなに強いのに。
サテライトをたくさん撃つためにお月様だって作ったのに」
はいー。確かにー。
蝶々さんはー、動きが遅くて不器用な私でもー、バーンって一発で勝負を決められるガンプラですー。
でもそれだけじゃー、私のしたいバトルにはならないんですよー。
「美也ちゃんがしたいバトルって、なんですか?」
私はカバンから1体のガンプラを取り出します。
SDの将頑駄無さんに大きなつづらを背負ってもらってー、その中にプラスチックの将棋の駒が入ってます。
これは私が最初に作った、『将棋頑駄無くん』です。
「この子もおヒゲが生えてますね。チョウチョさんと一緒だー」
ありがとうございますー。おじいちゃんみたいでカッコいいですよねー
この子の駒は、ビュンビューンって飛んだり、バリアーを張ってくれたりするビットって言う武器になってもらってたんですがー。
私が速い動きについていけなくてー、ぐるぐる動かすと目が回りそうでー、ちゃんと戦わせてあげられませんでしたー。
それで主任さんに相談したらー。まず私が、ひとつひとつの駒の動きが出来るようになったらどうだーって言われたんですなー。
「じゃあそれで蝶々さんを作ったんですか?」
はいー。この蝶々さんは、『香車』の気持ちを知りたくて作ったんですよー
「キョーシャ?どんな子なんですか?」
「たしか、横には動けないけど前になら何マスでも進める駒ですよね?」
そうですー。盤上をまっすぐ貫くので『槍』とも言われていますねー。
「前にまっすぐ……あ、サテライトキャノン」
はいー、サテライトキャノンのえいやーってやっつけちゃう動きは香車に似てますよねー
「でもそれだと、やっぱりサテライトキャノンを手放しちゃダメなんじゃ
大丈夫ですよー。将棋の駒は、相手の陣地に入ると『金』に成りますからー
「キン?え、金色になるんですか?」
「未来ちゃん、そうじゃありません。将棋の駒は、条件を満たすとひっくり返って変身するんです。
これを成駒って言うんですけど、動き方が変わるんです。1マスずつしか動けない代わりに横や後ろ、斜め前に動けるんです」
はいー。いっぱい動いて、目が回りそうですよねー。
「えーとチョウチョさんが槍でー、でも金色になって斜め前に動けてー??」
まぁまぁー。一度やってみましょー。
「■■■■!」
おお、ザク太郎ちゃんもやる気ですねー
「美也ちゃん、本当に大丈夫ですか?さっきも背中を取られたら目がぐるぐる回って
負けるかもしれないって言ってたし、ありさも結構心配なんですが」
大丈夫ですー。確かに私は不器用で、簡単には克服できないかもしれませんがー。
速いバトルが出来るようになるためにー。とっておきの秘策を用意してきましたー。
「秘策、ですか?」
はいー。それはー【歌いながら】バトルすることですよー。
「ほえ?」
「歌ぁ?」
主任さんにー言われたんですー。
ステージの上で歌って踊ってるときはー、みんなに遅れたりしてないからー。
いっそバトルするときも歌ってみたらー、キビキビ戦えるんじゃないかーって。
「ちょ、その作戦ホントに大丈夫なんですか?」
大丈夫ですよー。それじゃー、頑張りましょうかー。
◆◆◆◆◆◆◆
『リンバ パビバデデ デゾバガベデ ザギドゴゴ』
『ガボガセンヅダギ ザシビデデ ビリンロドゼ』
「……結局お互いに『Welcome』歌いながらバトったのか」
はいー。そうなんですー。
あれから未来ちゃんとザク太郎バトルしてー。一緒に歌いあってー、楽しくなって―。
その後一緒にアイドルのレッスンを受けてー。
今は主任さんに今日のバトルの記録を見てもらってるんですよー。
「うん、平均して歌いだしてから5%、一緒に歌いだしてからさらに7%反応速度が上がってるな。
歌うことによる集中力アップとかプラシーボ効果とかはあったんじゃないかな」
おー、やりましたなー。
「一方でこの状況にハッスルしたマツダのほうは20%くらい良い動きしてるんだよな。セコンドの筈が
乱入してこのデータ取ってるザクファンクションが一番スペック向上してるってのはどういうわけだ」
むむむー、流石ですねー。亜利沙ちゃんもライバルですよー。
「あれはあれで貴重な個性なんだが、アイドルなんだから一緒に歌えばいいだろうに。
口パクで許されるのはどっかのファン公認スーパーニートとナカイさんだけだっての」
ふふふ、亜利沙ちゃんも一緒に歌えたら楽しかったでしょうねー。
でもー、写真を撮ってる亜利沙ちゃんもとっても楽しそうでしたからー。これでいいかなーって思いましたよー。
「そっか、優しいなお前は」
ありがとうございますー。それにー、バトルの後で歌のレッスンを受けたのでー、ちゃんとみんなで歌いましたよー。
亜利沙ちゃんもー、未来ちゃんもー、ザク太郎ちゃんもー。
「ザク太郎も?あいつ。まだ喋れないだろ」
そうですねー。でも一緒にお腹から声を出す練習はしましたー。
「……そっか」
はいー。だからきっと、いつか一緒に歌えるようになりますよー。
「うん、そうだといいな。でもさぁ、ミャオ」
なんですかー?
「おのれ今日の最初のバトルで、サテライトキャノンをどうしてザク太郎に直撃させなかった?おのれ、わざと外しただろ」
そんな質問をしてきた主任さんはーちょっと怖い顔をしていましたー。
「大気圏内の戦闘だったから爆風でふっとばせたけど、あれが真空の宇宙空間だったら空振りしてた。
あそこで目標を撃てないようじゃ、これから先バトルで勝っていくは難しいだろう。
おのれは教科書に乗るような強いファイターになりたくて、頑張ってるんじゃなかったのか?」
じーっと私の目を見ながら主任さんは怖い顔でそう言いましたー。
でもー、私はちっとも恐くありませんー。
主任さんが私のことを思って言ってくれてる、優しい人だって知ってましたからー。
だから私はー、はっきり答えることが出来ましたー。
ザク太郎ちゃんを撃たなかったのはー、そうしたほうが楽しそうだったからですよー。
「楽しい?」
はいー。前にー、主任さんが言ってましたよねー。
"将棋は打ち取った駒を奪えるところがいいな。
裏切りだとか寝取りだとか言う意見はあるだろうけど、駒が死なないところがとても良い。
お互いに相手を絶対殺さない生け捕りにするのが前提の戦いは、とっても優しいなって思う"
私もー、将棋頑駄無くんと将棋の駒のみんなをー上手に動かせなくてー。
いっぱい壊れてー。とーっても、悲しかったですー。
だからー、みんなが悲しくなったりー、痛かったりー、いなくなったりしないでー。
みんな揃って楽しくバトルするのがー、一番楽しいバトルだって思うんですー
「相手のガンプラを絶対傷つけないバトルなんてのは難易度の桁が違う。そんなのをずっと続けて
勝ち続けるなんて真似、キラ・ヤマトやキオ・アスノにだって無理だ。それでもおのれはやる気か?」
むむむー。難しいとは思うのですがー、それでも一歩ずつ前に進んでいけばいつかはできるーって思いますー。
それにー。それだけ難しいことをやり遂げたらー。きっと歴史の教科書に乗れますよねー?
「……誰にも傷つけずに公式試合の勝利を重ねるだけじゃ、ギネスブックには乗れても歴史の教科書には乗れないだろ。
お前と同じことを考えるファイターがいっぱい増えて、一時の流行り廃りを超えて動物愛護や人権思想みたいな新しい常識になって。
今のガンプラバトルの在り方で既得権益を受けてる連中全部とドロドロした戦争なんかもして。
壊して当然のバトルの形態が撤廃、とはいかなくても住み分けくらいは出来るようになったら何とかー、ってとこだろうな」
おおー。それは良いことを聞きましたー。頑張りますよー。
「ちょっとは気が重くなったりしないのか、おのれは」
はいー。私にできるのはー、一歩ずつ頑張ることだけですからー。
だからー、いろいろご迷惑をおかけするかもしれませんがー、ご指導ご鞭撻のほどー、よろしくお願いしますー。
「何でそこで急に固くなるんだよ」
何故か主任さんは頭を抱え始めましたー。風邪ですかー?あったかくしないと駄目ですよー。
「あぁもういいよ、分かった。俺も付き合う」
ありがとうございますー。改めてよろしくお願いしますねー。
「よろしく……なぁミャオ」
なんですかー?
「ありがとな」
主任さんは私の頭を撫でてくれましたー。えへへー、あったかいですなー。
(おしまい : 2020年4月24日・宮尾美也の誕生日記念の、少し遅れたプレゼントに代えて)
≪ガンプラ紹介≫
●将棋頑駄無
宮尾美也の最初のガンプラ。SDの将頑駄無がベース
選んだ理由は「おじいちゃんみたいなヒゲが生えてるから」「将棋みたいな名前だから」
「つづら」のようなバックパックを背負わせ、その中にポケットゲームに使うようなプラスチックの将棋の駒を入れた。
GPベースに「これはビットです」と登録し、基本的には本体との相対距離を保って浮遊し続けるシールドビットとして活用。
折を見て敵に目掛けてビームを撃ちながら突撃する兵器だったが、美也のおっとりした性格とビット兵器は相性が悪かった。
タイミングが合わずに回避されたり、撃ち落とされたりすることが続き、さらに金銀角のような小回りの利く駒は
その素早い動きを扱いきれず、自分で自分の目を回す有様だたったから、ジオウに相談。
結果、最初からたくさんの武器を動かそうとするよりも、ひとつずつの駒の特徴を持ったガンプラを作って
順番にその操縦をマスターする計画をたてた。その第1号が『ガンダムエックス蝶々』である。
●ガンダムエックス蝶々
宮尾美也のガンダムエックス魔王がベースのガンプラ
ベース機との外見上の変更点は
@背中のリフレクターに蝶のような綺麗で複雑な模様を描いていること。
このリフレクターはポケモンのビビヨンの翅のように複数種類の模様があり
フィールドや競技、その日の気分に合わせて変更している。
A∀(ターンエー)ガンダムの髭を頬に、コアファイターをフロントスカートに
魔王のリフレクトスラスターの意匠はもちろんコアファイターにも移植済み
B胸部メインカラーが明るい青から美也のイメージカラーであるブラウンに変更。
さらに額のエックス字のアンテナも、下2本を太くして美也の眉と雰囲気が似ている。
(劇中では美也の視点で描いていた為、あまり強調はされなかった)
武装はハイパーサテライトキャノン、シールドライフル、ビームサーベル、大型ビームサーベル、ブレストキャノンに加え
ターンエーガンダムのIFBD操作により、相手のガンプラも押し返す「IFBD:FF(フルフォース)」
Iフィールドを全開にすることで、敵の攻撃を受けてあえてそのまま吹き飛ばされることで衝撃を流す
ファントムのヴェスバー対策のような戦い方もできる。
美也の『いずれは将棋の駒のみんなを使って将棋頑駄無と共にもう一度戦いたい、一緒に夢を追いかけたい』と言う
思いを受けて、サテライトキャノンの前方制圧力を『香車』に見立てて採用された
強襲型としてセッティングされたベース機の特徴を受け継ぐこのガンプラは『金』のような近接機動タイプの戦いも
可能だが、現在はまだ使いこなせていないので、基本的にはセラヴィー等と同タイプの高火力・防御重視な運用を行う。
なおターンエーのパーツを移植したのはIフィールド機能の再現というよりも
『将棋頑駄無と同じでおじいちゃんみたいにしたら素敵』との考えによる。
もしかしたらアンテナを太くしたのも自分にではなく、おじいさんに似せようとしたのかもしれない
(おじいさんの容姿は現在不明だが)
オプションパーツとして、サテライトキャノン用のエネルギーを補給する人工衛星『お月様』を持つ。
プラスチック繊維製のぬいぐるみに月のウサギの模様やマイクロウェーブ発信基地のアップリケをつけたもの。
将来的はフォン・ブラウンやレクイエム、ムーンレィスの住居なども作り込みたいらしい。
なおプラスチックでなくぬいぐるみとして作ったのは、やわらかい方が質量兵器で壊されなくて良いかと考えたから
ここからメタ視点での話。
美也のガンプラを作るにあたって、「将棋・囲碁」「おじいちゃん子」「サンドイッチ」「お昼寝」「猫」「蝶々」と言った
彼女の特徴を絡めようと、蝶からの連想でターンエーかあるいはハイネ用のデスティニーにしようかと検討。
(種運命のハイネの二つ名は緋蝶です)
しかしターンエーはすでに他のアイドルが使っていて、おっとり気味の彼女に高速戦闘は無理ではないかと変更。
狙撃型・砲撃型から新しい候補を探した結果、GX魔王のシルエットも蝶に似ているし、ソーラーパネルが
日向の昼寝とか好きそうな彼女にピッタリではないかと考え、さらに没にしたターンエーのIフィールド発生
機能を持たせれば防御も万全で美也も戦えるのではないか、等々から採用しました。
(防御力と言う点で考えれば、光波シールド付きで猫でもある「ニャイアストレイ」も候補でした)
美也はおっとりした優しそうな女の子ですが、彼女はきっと戦いそのものを否定しない、
むしろ自分の信念を持ってガンプラバトルをするだろうなと思いました。
結果としてジオウの思想に付き合わせる形になりましたが、それもまた彼女の信念、そして夢のための行動です。
(おしまい)
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