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頂き物の小説
その9.所恵美の絶望的事件/どうして彼女はF1に絶望したのか



とあるガンプラビルダ―と彼女たちの星輝く日―の記録


「その9.所恵美の絶望的事件/どうして彼女はF1に絶望したのか」



空を飛んできたのはAGE2ダ―クハウンドだった。
正確にはマグナムにアウタ―パ―ツを重ねてそう見せかけたガンプラ。


≪恐竜!≫


地面を並走しているのは、尻尾と首を水平にして走ってきたマグナムよりも明るい青色の恐竜。


≪F1!≫


そして白いボディに赤い炎のマ―クが描かれたF1。


≪ベストマッチ!!―――Are You Ready?≫


『挑むぜ、限界!』


ハウンドの両腕は外れて、恐竜の尻尾が分離して左腕に左腕、手足を畳んだ胴体と首と頭が右腕になってハウンドと合体。
F1はノ―ズと前輪が外れてハウンドの背中に移動、後部マフラ―2つは恐竜の口の中で合体してマニピュレ―タ―になりドッズランサ―を握る。

残った車体は2つに割れて長靴のように両足を包み、最後に頭部のアンテナから同じ色の赤いビ―ムのブレ―ドが飛び出て。



≪音速の帝王――エフワ―ンザウルス! イエ―イ≫


『完成――カンゼンエイジ・タ―イプワイルド!!!』


そうして現れたのは環たちが喜びそうなス―パ―ロボットで……もうAGE2でもなんでもないじゃんコレ!?


◆◆◆◆◆◆◆


事の始まりは数時間前。
主任が何を血迷ったのか、皆の見てる前で紗代子にイヤリングをプレゼントしたことだよ!


「主任、バカでしょ!」


流行りのアクセサリ―について教えてくれなんて言ってきた主任に、あたしは断言した

イヤリングをプレゼントって……そういうことはエレナだけにやりなよ!
なんで急に紗代子!?別に紗代子が悪いわけじゃないけどさ!


「プレゼントってっても仕事だぞ。見栄えこそいくらか配慮がいるとは言え、
あくまで視力補正用の実用品だ。エレナには必要ないだろ」


そう言う話じゃないよ!一番を大事にしろってことだよ!


「それに、こないだタナカとおのれと買い物に行って、おしゃれ用の伊達メガネを買ってきたのを
見せて貰ったぞ。『コトハみたいに賢く見えル?』って楽しそうに聞かれたから間違いないし」


「だから、そう言う問題じゃないよ!とにかく紗代子にだけ贈ってエレナに何もなしってマズいから!!」


「と、言われてもなぁ」


反応の鈍さにイライラする。あ―も―!


「そんなんじゃ恭文にエレナのこと取られちゃうんだからね!!」


完全に勢い任せの言葉だった。ほんと、悪気なんてなかったんだよ?
けどその一言で、何かがプツンと鳴る音が聞こえた。

・・・後になって私は思ったよ。このときの私がバカだったと。
それに気づかなかったこの時の私は、急にニッコリ笑いだした主任をただ不気味に思ってた。


「な、なに急に笑い出して」

「なるほど、おのれの言い分は分かった。お―い、エレナ。こっち来て」

「なに、ジオ―?」


エレナと、一緒にいた琴葉がこっちに来てくれた。


「手、出して」

「こう?」


主任は素直に差し出されたエレナの手を取って。


「これ、プレゼントだ」


何も言わずにその指に着けたモノを見て、あたしたちは言葉を失った。


「え…」

「しゅしゅしゅしゅしゅしゅにんん!?」

「ちょっ、何やってんの!?」


エレナは目を丸くし、琴葉は顔を真っ赤にして騒ぎ出し、当然あたしも混乱。


「エレナに似合うと思ったんだ……貰ってくれるか?」

「……うん、ありがト♪えへへ―、コトハどう?似合う?」

「ウ、ウン。トッテモヨクオニアイデゴザイマス」


琴葉の声は裏返っていた。そりゃそうだよ、ていうか一体全体なんなのさコレは!!
なんでいきなりエレナの【左手の薬指】に指輪つけてるわけ!?


「あはは琴葉面白イ。ヘンなノ―」


エレナは笑うばかりで頼りにならないし。そもそも今の状況を本当に分かっているのかな!?


「エレナ、それ駄目だよ!」


「え―、なんデ―?」


何でも何も!くっ、こうなったら!


「主任、ガンプラバトルしよう!」


こうなったら勝負に勝って罰ゲ―ムで主任の暴挙をリセットするしかないよ!今まで一勝もしたことないけど!3人がかりで!!


「うん、い―よ」

「逃げないでよね、今日こそは私が勝つ秘策が――いい!?」

「うん、バトルしよう。それでル―ルだけど」


絶対断られると思っていた私はあっさり頷かれて混乱した。その間に主任はトランクを2つ取り出した。


「双方≪これ≫使って戦うってのでいいかな?」


中に入っていたのは、紗代子たちがテストしてたガンプラのパ―ツ『ビルドア―ム』だった。


「これを使うってことは」


ガンプラの両腕をこれと交換しろってこと?


「いいだろ?勝負を申し込まれたのはこっちだし、便乗してテスト頼むくらい」


主任はニコニコしながら言うけどその意味は実質脅迫だ。だってこれ、嫌なら勝負は無しって流れだもん…仕方ない


「いいよ、わかった。その代りこっちからも条件出す」


あたしは向こうの提案を受け入れ、その交換条件としてずっと温めてた秘策――バトルの方法を伝えた


「なるほど、そういう事なら――こう言うのはどうだ?」

「じゃぁ、ここはこうで――――」


そうして互いにアイデアを出しあって、決めたル―ルはこんな感じ。



・バトルするのはジオウ・R・アマサキと所恵美の1対1の勝負

・本勝負の開始予定時刻は本日夕方17時00分から。

・バトルのレギュレ―ションは公式ル―ルにのっとり、制限時間15分で延長なし。

・参加者は、互いのガンプラにジオウが作った量産ビルドア―ムをライト/レフトそれぞれ1つずつ使用する。

・ジオウ・R・アマサキはこの勝負で使用するベ―ス機として、ガンダムAGE2またはそのバリエ―ション機を作成する。
またジオウがビルドア―ムの開発者であることを考慮し、公平性を保つため本勝負開始時刻までバトルベ―スの使用を禁止する。

・所恵美は量産型ビルドア―ムの選択と調整をするため、 本勝負開始予定時刻までシアタ―内のバトルベ―ス及びあらゆる工具類、設備を使用することができる。

・ジオウは勝負開始までの間、所恵美がどのビルドア―ムを選んだか故意に知ろうとしてはならない。

・ジオウは所恵美に対し、この勝負の約束が交わされた瞬間から10分以内に使用するビルドア―ムズ1組を宣言する。

・最終的な勝敗はバトルの勝敗ではなく、勝負を観戦していた者の投票により、得票数の多いほうが勝ちとする。得票数が同数であっても再勝負はしない。

・投票は「どちらのガンプラが男の子に好まれそうか」と言う観点から行われる。

・投票はシアタ―内のアイドル、スタッフから、勝負開始時刻までに集まった任意の者たちに依頼する。

・公平を期すため、投票者の観戦は別室モニタ―から行われ、それぞれのガンプラがどちらのモノか教えない。
また互いのパイロットの音声はモニタ―している投票者たちには聞こえないように処理する。

・ジオウまたは所恵美が本バトルで使用するビルドア―ムの種類を投票前に知ってしまった者の投票は無効とする。




って感じ。いやぁ主任ってばなんか凄い細かくてね―。


「つまり、コレはどっちが男の子にウケるガンプラのコ―ディネ―トが出来るかってことなんだよ」

「そう言うことなら、確かに直接の勝敗より勝ち目があると思うけど」


仕事やレッスンが終わって、あたしは琴葉と一緒にAGE2マグナムと貸し出されたビルドア―ムのセッティング。
投票権の問題があったけど、ひとりじゃ色―無理ってことで琴葉にだけ手伝いをお願いしたんだ。


「でもバトルで普通に負けたら、結局印象が悪くなるんじゃないかしら?」

「まぁそれはね。だからポイント勝ち狙いなわけだよ」


ボクシングみたいにポイントのル―ルが決められてるわけじゃないけど、ようはカッコよく攻撃を何度か決めて
あとはひたすら攻撃をかわして逃げる。そうすれば主任はアピ―ルするチャンスをなくしてあたしの勝ちってね。


「これならあたしが絶対勝つって。間違いないし♪」

「でもビルドア―ムズは主任が作ったものよ?」

そう言って琴葉が見るのは主任から借りたカバン二つ。そこには38個ずつのガンプラのパ―ツが入ってる。
本当は全部で40組あったんだけど、うち1組は主任が持って行って、もう1組はあたしのAGE2に使っている最中


「降ってわいた勝負をテストに利用しようって言うのは理解できるけど、主任は当然その性能をよく知ってるわ。本当に大丈夫?」

「大丈夫っしょ、アノ組み合わせなら」


主任が持って行ったのは恐竜とF1の形のパ―ツ。確かに男の子が好きそうなチョイスだけど―、でもそれを両腕に付けてカッコいいかどうかは別問題。
1つ1つはカッコいいものでも、それを無闇にくっつけるだけじゃ駄目だって。全体のバランスとか考えなきゃ……元モデルとしてそこは譲れない。
それにどっちも大型だったし、動きも鈍そう。いくらF1でも肩に付けて速く走れるわけがないし


「それはそうだけど。でも恵美のは落ち着いているというより」

「地味だって思う?」


にゃはは。そんな困った顔しないでよ。大丈夫大丈夫。あたしだって皆だって男の子の心くらい分かってるって


「それに戦力としても結構強いよ。ここは流石は主任ってとこかな―」


しかもFファンネルをマウントしてる肩パ―ツやシグルシ―ルドをそのままつけれたし、言うことなしだよ。


「それは私も今たっぷり思い知ったけど。だけどその強さも主任は当然知ってるでしょ?」

「だとしても、主任はこれに奇襲できないっしょ。そんであたしの最初の奇襲は
絶対成功する。いままで散―やられてきたことをお返しするチャンスだって」


そう、このビルドア―ムがあれば一方的に奇襲は成功する。一撃で倒して、バシッと決めポ―ズでも出来たら勝利間違いなしだって


「だとしても……そもそもこの勝負、する必要あったのかしら?恵美だって二人の仲を邪魔したいわけじゃ」

「なに言ってんの!あ―言うのはもっとロマンチックな場所でム―ドを出して必要なこと言ってからじゃなきゃダメでしょ!」


うん、そうだよ。だからこれはむしろエレナと正義のためにする戦いだよ。
恭文のファッションを正すのと同じく、必要なことなのさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆


そして話は最初に戻るよ。

あたしはガンプラをビルの陰に隠しながら、叶うなら大きな声で今すぐ言いたいことがあった。

ビルドア―ムは両腕に付けるもんじゃなかったの!?って


「……落ち着こう、とにかくあたしの位置取りははまだ気づかれてない」


あたしのガンプラはAGE2マグナム≪忍者≫≪ガトリング≫

紫色の忍者の右腕とマフラ―、ガトリングを持ったグレ―の左腕以外は元のマグナムと一緒。

本当はそれぞれ肩パ―ツがついてたけど、改造OKってことだったんでマグナムのをそのままつけた。
そうじゃないとFファンネルをマウントできないしね。


忍者のビルドア―ムの力は「ステルス」。

忍者のGNフィ―ルドで包んだものは、レ―ダ―で見つけられなくなる。
レ―ダ―だけじゃなく、操縦席のモニタ―にも全然映らなくなる。

ここまではデスサイズとかブリッツガンダムでもできることだけど、忍者のビルドア―ムは一味違う
それはフィ―ルドの内側で粒子を集めて大技の準備をしてても、まったく兆候が外から分からないこと。

普通なら熱源探査にバレるのに全然なんだよ。これには琴葉と一緒に驚いたなぁ
だから相手にばれないように最大火力をぶつける準備が出来るんだよ。

Fファンネルと、ハイパ―ドッズライフルマグナムに、粒子を限界まで貯め込んだガトリングによる「クアッドキャノン」
これはセラヴィ―の必殺技で、4つのGNキャノンを一度に撃つとその攻撃が一つに集まって凄い威力になる……だったかな?


とにかくこのガトリングでも4つの銃口にエネルギ―を集めて、連射じゃなく一斉発射して同じことが出来るんだ。
前に主任がジュリアと戦ってた時は使ってなかったけどね。

とにかくフルチャ―ジまであと少し、それが出来れば勝負は一気に――


『トランザム!』


って主任いきなりトランザム!?


≪The song today is “炎神戦隊ゴ―オンジャ―”≫


カンゼンエイジが両手両足を大の字に開いたら両足のF1から炎が噴き出して、右手首になってる恐竜の口と回転を始めた左手のドリルから熱風を吹き出した。


『カンゼンドッズスト―ム!!』


そしてそのまま高速で前進。走った跡が炎の道となって真っ赤に燃えて、交差点には赤い風が吹き荒れる。

あたしも風圧だけで少しよろけて……何このパワ―?あたしのと全然違うじゃん!


『そこかっ!』


ヤバっ!風の動きで隠れてる場所がバレた!?ていうかステルスフィ―ルドが吹き飛ばされた?!


『おおおっ!』


主任はドッズランスを突き出し、両足から炎を吹き出しながらジャンプ!
そのまま迷いなくあたしにドッズガンを連射してきた。あ―完全に見えてるね、コレ

あたしはガトリングを一斉射撃から連射モ―ドに変更し、弾幕を張る。同時にハイパ―ドッズライフルマグナムも連射
忍者のGN粒子を溜めた弾丸は全部ステルス属性になってファイタ―には見えない!
銃口の向きと動きで弾を打ったのはバレるだろうけど、こいつは弾丸の速度も調整できる!防御は簡単じゃない!

だけど主任は防ぐどころかドッズランサ―を握っていたマニュピレ―タ―ごと分離して。


≪ガブリンチョ!≫


恐竜の口を大きく開いて、弾丸を食べたぁ!?何その丸呑みっ、身体に悪いって!!
しかもドッズライフルまで回転したドリルで逆回転掛けて弾いて相殺って何!?

主任がコッチに跳んで来るのを止められない…でも!

Fファンネルを4つ束ねてステルス状態だったファンネル手裏剣が主任を横から吹っ飛ばした!よし、間に合った!

態勢を崩したところへ忍者マフラ―を伸ばして裏返しで顔に巻きつける!
このマフラ―は結構チカラモチでガンプラ1体くらいなら放り投げられるんだよ!

普段のバトルで主任が作ってくるメッチャ馬鹿力のガンプラたちならともかく、
ほとんど素組でトランザムまで使った後なら――問題なし!!

地面に叩きつけた主任のガンプラに顔を包んだままマフラ―を切り離す。
このマフラ―も粒子変容素材ってので出来てて、主任のGNフィ―ルドに干渉する。しかも裏返しだから忍者の粒子変換効果も反転!

普通の忍者フィ―ルドの効果は中のものが外から見えなくなるけど、今はその逆で主任からは外の様子が全く分からない!
それに、そのドリルと恐竜じゃ剥がせないでしょ?今のうちに、トランザムで使い切った粒子が回復する前に撤退して。


≪シフトチェンジ!タ―イプテクニ―ック!!≫


コッチが背を向けた隙に主任の両手のパ―ツが外れて1体の恐竜として再合体。長靴になっていたF1ボディが胴体に合体して
そのまま腕になってさっき切り離したマフラ―なマニピュレ―タ―が飛んできて分離して両手としてF1に合体

その手の10本の指先を自分の顔に向けたかと思ったら、指先から火を出して――忍者マフラ―を焼いた!?
マフラ―と一緒にアウタ―パ―ツなハウンドの顔が崩れて、マグナムのそれになった。

主任は恐竜に跨って、指先を前に突き出して


『タイプテクニック・オ―ルウェポンカンゼンバ―スト!』


尻尾のドリルと背中と肩についてるタイヤが回って竜巻が出て指先から炎の弾丸が飛んで恐竜の口からビ―ムが出て……つまり、辺り一面無茶苦茶!
なんで!?さっきトランザム切れたばっかじゃん!!って考えてる暇ないし!


「トランザム!」


見た目は派手だけどダメ―ジはそれほどじゃないっぽい。きっと作り込む時間がなかったせいだね。
これならGNフィ―ルド全開で全速力で逃げれば逃げられる――


≪シフトチェンジ!タイプ・デッドヒ―ト―!!≫


逃げられると思ったのに後ろから何かに吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされて地面を転がりながら見た何者かの姿は――フェニックス形態に変形した主任だった。

どっかにいったドッズランサ―の替わりに尻尾のドリルを機首にして!
F1パ―ツを足に嵌め直して両足の間に恐竜ボディを挟んで、ロケットみたいに飛んでた!


≪シフトチェンジ!タイプ・スピ―――ド――!!≫


またまた変形。今度は元の姿に戻ったF1の運転席くらいの場所にAGE2の左肩をくっつけて、そのままタイヤで走ってきた。
車体から体を乗り出してるみたいなポ―ズで足を地面に擦りながら、アタシに迫ってきた…見えてるのに逃げられない!

あたしはそのまま主任のロ―キックを受けてまた跳ね飛ばされて、
地面につくかどうかってタイミングで方向転換してきた主任にまた跳ねられて。

跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて
跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて跳ねられて恐竜に踏みつけられて。

そこまでされてもあたしのAGE2は壊れてなかった。トランザムもGNフィ―ルドも切れてない。

これも主任のAGE2の作り込みが低いからなんだとしたら―――ちっとも嬉しくない。むしろ早く死なせて?

いつの間にか主任はあたしの周りをグルグル走ってた。
速すぎるからなのか、忍者なあたしを差し置いて何台も主任が走っているように見える。


「ま、まさかアレ全部」


あたしを跳ねに来るんだろうかと震えた。何度も何度も跳ねられて、あたしは他の未来を考えられなくなってた。


『勝利の法則は、決まった!』


実際は、もっとひどかった。



【ボ】
【ル】
【テ】
【ッ】
【ク】
【ス】【ピ】【―】【ド】【ロ】【ッ】【プ】


F1は主任と分離して、そのままあたしの周りをグルグル超スピ―ドで走って分身どころか赤い帯にしか見えなくなって。

両手無しの主任はそのF1の側面を蹴った反動で恐竜に踏みつけられてるあたしに跳び蹴り。


その反動でまたF1に向かって飛んで蹴って反動であたしに向かって飛び蹴りして
F1を蹴ってあたしを蹴ってF1を蹴ってあたしを蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って。


「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


そのままGNフィ―ルドが切れるまで、何百回も蹴られ続けることになった。

それでもあたしのAGE2マグナムは原型を保って。代わりにあたしの心がボドボドだった



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「F1怖い……F1怖い……」

「恵美、しっかりして―!」


バトルが終わったあたしはそのままバトルベ―スの傍で体育座り……ごめん琴葉。あたしもう立てないよ、あははは―。


「トコロ、今日はありがとう」


そんなあたしと目線を合わせるように主任が膝をついた。


「君のおかげで今までタイミングが掴めず渡せずにいた指輪をエレナに渡せた。
それどころか、こうしてカッコイイ所を見せることも出来た。感謝する」

「うるさいよ!」


そんなつもりなかったんだからね!て言うかあんな鬼畜なことしといてカッコイイも何もないから!!


「えっと、それがね恵美。エレナはその、だいぶ喜んでたわ」

「え…?」


なんで?あたし、こんなに怖い目にあったのに……あたしたち友達じゃなかったの?


「それだけじゃなくて投票のほうも……みんな、全員一致で主任に投票したの」

「ゼンインイッチ………全員!?なんで、あんな鬼畜なことしたのにっ!?」


その言葉は聞き流せなくて、あたしは跳び上がって琴葉に詰め寄った。
あたし、この投票勝負だったら恭文にだって勝てるって思ってたんだよ!恭文、常識ないもん!

絶対お仕置き票とかであたしに入る票があるって思ってたもん。
今回の主任は恭文よりヒドかったから同じことが起きるはずでしょ!?


「タナカ、みんなからは【見えてなかった】んだろ?」

「はい……お気づきだったんですね」

「もちろん。自分で出した条件だし」

「ならもしかして、恵美が【どのア―ムを選ぶかも分かって】いたんですか?」

「あぁ。男子受けアピ―ル対決って聞いたときにはね」

「あの、2人とも何の話してるの?」


目の前で意味の分からない、だけど聞き逃せない話をされてる。正直、怖い。F1とはまた違う怖さを感じてる。


「恵美ごめんね、私のせいだわ」

「琴葉?」

「忍者のフィ―ルドで相手から見えなくなるとね、観戦モニタ―にも全然映らなくなってたの」

「え?」

「観戦モニタ―は各ファイタ―のソレと同じエフェクト処理のされた映像が届く。
MEPEの原理とかと一緒に聞いてたんじゃないかな?」

そ、そう言えばMEPEの解説を聞いたとき、似たようなこと言ってたかも。質量を持った分身は、コンピュ―タの錯覚のせいでモニタ―に映る幻なんだって。

デスサイズが見えなくなるのも同じで…なら琴葉や主任のガンプラから姿が見えなくなってたあたしのAGE2は、今日のバトルは、どう映ってたのか。


「じゃ、じゃああたしが何発も跳ねられたり蹴られたりした所は」

「みんなからは、主任が【一人で】必殺技のアピ―ルをしているように見えたわ」

「わ、私が攻撃したところは」

「突然姿を現して、ライフルとガトリングの【銃口を向けただけ】に見えた。ファンネルもマフラ―も見えなくなってたし」


つまり、私が活躍してる所も主任が酷いことをする所も誰も見てなくて、くたびれ儲け?


「そんなぁぁぁ」

「ごめんなさい。調整している間に私が気付いていたら」


あたしは頭を抱えて、琴葉はうつむいた。


「違うぞ、タナカ。今回のことはすべてトコロの計算通りだ」


だけど主任がまたおかしなことを言いだした。


「主任?」

「トコロ、キミは友達想いの良い奴だ。ステ―ジでも自ら引き立て役に回ってる。
自分にセンタ―役の話が来ても他のみんなに譲る、奥ゆかしい女性だ」

「何いきなり言い出すのさっ!!」


本当どうなってるの!?今日はずっと変だったけどなんでここで急に褒めだすわけ!


「だから君が勝負って言いだしたときすぐに分かった。君は俺に花を持たせようとしてくれているのだと!」

「違うよ!本気で勝つ気だったよ!!」


とんでもないことを言い出した主任に叫ばずにいられない。だけど主任はそんな私を完全スル―。


「わかってる。だが心配するな、この部屋で盗聴の心配はない。
部活の勝利絶対主義に反してまで俺とエレナの為に骨折ってくれたことはバレないさ」

「そうじゃないってば!」


「君の気持ちはア―ムズの選択にも表れてる。【忍者】も【ガトリング】もパワ―チャ―ジを助けて
威力やスピ―ドをブ―ストするのが得意な支援寄りのア―ムズだ。実に君らしいチョイスと言えるだろう」

「そう言われれば、確かに」

「琴葉!?」


騙されないで!あたしは主任の引き立て役やろうなんて考えてなかったよ!


「だがそこから君が引き立て役に徹しようとした証拠だと言い張るのは難しいだろう。

【ガトリング】は家電や乗り物が多いレフトア―ムの中でほぼ唯一のリアル系ロボットっぽい手持ち武器だ。そのチョイスは
不自然じゃない。【忍者】を選んだことも事前に【男子に好まれる戦い方】とル―ルに決めたことで何も問題なくなった」

「のわ―!?」


そんなつもりじゃないよ!?本当にアレで勝つ気だったんだってば!!


「ですが主任。ライトア―ムの中には他にも男子が好きそうな物がたくさんありました。そこから不審に思われないでしょうか?」


ちょっと琴葉やめてよ!それじゃまるで主任の嘘を信じちゃってるみたいじゃん!


「そこは大丈夫だろう。彼女はつい先日も猫耳カチュ―シャを拒んでいた」


そんな理由!?


「彼女は人を立てることを良しとする優しい女性だが、その反動か自分自身について評価が低い傾向がある。
可愛らしい動物のア―ムズを自分には似合わないと、そう誤解していることをみんな受け止めてくれるはずだ」

「いや、それは誤解って言うか」


そりゃ確かにウサギとか可愛くてアタシには似合わないと思ったけど……でもそれは誤解とかじゃなくて単に本当のことでしょ!?


「そう!そうなんです主任!恵美ってば私やエレナのことばっかり優先して、自分のこと可愛くないって思いこんでて」

「琴葉ぁっ!?」


落ち着いて!これ以上主任に誤魔化されないで!!


「そうだね、タナカの言う通り俺も彼女のそう言う所は心配だ。自分を犠牲にして人の世話ばかり焼く姿勢は尊いが、
心無い人からはひどいことを言われるかもしれない。【コバンザメ】とか【量産型ギンガ・ナカジマ】とかね」


「「量産型ギンガ(さん)!?」」

「あぁそうだ。ナカジマセンパイの悪口を言うのは不敬かもしれないが、あえて言う!
あぁなったらまともな男には一生相手にされないぞ!!」


とんでもないこと言いだしたよ!なんでそんな明後日の方向に攻撃すんの!?


「現にアオナギを見ろ、あのスタイルにも関わらず豊満な女性が大好きなアオナギが袖にしてるんだぞ!
が、どんだけ男から見て魅力を感じないか分かろうというものだろ―――――!!」

「「だろ―、とか言われても!?」」

「一方的に自分の都合や常識を押し付けるばかりで、自分自身はなかなか行動しようとしない振る舞い。
そう、あれは言わば伊織さまよりも由緒正しき貴族の高飛車お嬢様スタイル!!」

「お嬢様!?」

「昭和どころか江戸時代より古いんだよ、懐古主義のコスモ・バビロニアか!!」

「絶対そんなこと考えてないから!?」

「とにかく俺から言えるのはひとつだ、トコロ。おのれの人生、実は意外と崖っぷちだよ!!」

「やかましいよ!!」


て言うかそこまで言うならギンガを助けてあげなよ!


「彼女は、彼女はもう、手遅れだ……」


いきなり泣かないでよ!え、マジ泣き!?


「俺は彼女を始めてみたとき、何故かシン・アスカを思い出した。
もしかしたら彼女もシンのように運命(作劇スタッフ)に裏切られ、弄ばれたのかもしれない……」


だから泣かないでよ!て言うか意味分かんないよ!私もギンガもアニメじゃないよ!!


「そんな、主任。なら恵美はどうなるんですか、恵美はどうしたら助かるんですか!?」


そして琴葉も何で乗るの!お願いだから正気に戻って!!


「ごめん、俺にもわからない。でも絶対その方法を見つけてみせる。俺ももう、トコロとは友達だからな!」

「なんでさ!」


なんで急に友達になってんの!!今までむしろ冷たいくらいに何もなかったじゃん!


「一緒に楽しいガンプラバトルをするなんて奇跡に一回でも出会えたら、もうマブダチだろ!」


しかもマブダチにランクアップしてるよ!て言うか主任どんだけ楽しくないガンプラバトルやってきたのさ!?


「主任…私も恵美の友達として力を尽くします」

「もちろん、頼りにさせて貰うよタナカ。トコロのズっ友として、お互い頑張ろう!」

「はい!」

「話を聞いてぇぇぇぇぇぇ!」


だけど誰にも私の叫びは届かなくて。

こうして正義を執行しようとしたはずのあたしに、何故か頭の痛くなるズっ友(自称)が出来ました。

ねぇ、神様。あたし何を間違ったのかなぁ。


「いくつか作戦は考えてる。とりあえず次回は【佐竹美奈子とガンキャノンマッスルは負ける気がしない】を実行しようかと」

「私は【永吉昴はガトリングを振り回してホ―ムランを打つようです】もいいと思います」


「どっちもヤメてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


……お願い、誰か助けて。琴葉を正気に戻してくれるだけでもいいからさぁ。


「本当に友達想いだよな。よし、ならここはいっそう気合を入れて作戦の複数同時実行を」

「だからヤメテぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」




(おしまい)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


≪ガンプラ紹介≫


●カンゼンエイジ

AGE2マグナム(アウタ―パ―ツ付き)を【恐竜】と【F1】のア―ムズのベストマッチ形態
……最初のベストマッチがこれで本当に良かったのだろうかとは思ってる。


海賊戦隊ゴ―カイジャ―、および仮面ライダ―ドライブは2012〜13年の
本編軸世界では放映されていないのでメタ的な話になるが。

「カンゼンマグナムのほうが名前の響きは良いから無理にハウンドらなくていいのでは?」
「エイジでドライブなら黒くしたほうが良いのでは?」
「マグナムの素の色はむしろタテガミライオ―のほうが向いてる」

等の葛藤の末、アウタ―パ―ツ着用の上「エイジ」を名乗ることになった。



また、ダディ(BLDアストレイ)が装備した場合は、VPS装甲で真紅になった上で「カンゼンレッド」と呼ばれる。
カンゼンとは「完全」でも「勧善」でもなく【敢然】…勇気をもって限界に挑むガンプラと言う意味である。



他のビルドア―ムより大型である関係で、単体でも両腕の役割を果たせるて下半身もパワ―アップできる上、いくつものフォ―ムチェンジが出来る。

【F1】は莫大な火力により高速機動を可能にするが熱負荷が強く、【恐竜】は周囲の熱を吸収して自身の運動エネルギ―に変換する。

相互補完する特性を持つこの2つは、さらにベストマッチによるツインドライブ効果で広範囲の粒子に干渉し、地形を「炎のサ―キット」へと変える。


≪タイプワイルド≫
:カンゼンゴカイオ―に似たパワ―主体の形態。なおジオウはゴ―カイオ―自体を知らない(はず)。
今回はその攻撃力を示す機会がなかったが、粒子の消化力については十分に見せた。
急な改造だったので、実はアヴァランチアストレアのように規格の合わない部分を無理にくっつけている

≪タイプテクニック≫
:タイムロボβに似た、肩の出張った重火力砲撃形態。今回はほぼ素組で威力が低いのを逆用して索敵に使った。

≪タイプデッドヒ―ト≫
:フェニックスモ―ドでの高加速合体形態

≪タイプスピ―ド≫
:某赤い警察ライダ―のように地面に擦りながらロ―キックをする形態。


恐竜ア―ムは粒子の状態変化を利用した熱機関であり、その構造は既存のHGとは比較にならないほど複雑。
量産品を試作はしたが市販には向かず、このままジオウにしか使われない【幻のベストマッチ】になると思われる。




●AGE2マグナム・忍者ガトリング

恵美のAGE2マグナムに忍者とガトリングのア―ムを接続した姿。
根が真面目な彼女はジオウに説教しようとしたが、その性格故のア―ムズの選択方針を読み切られた。

【忍者】:男の子受けと言う条件を満たし、かつ動物系を除く中から選出。
【ガトリング】ほぼ唯一のリアル系武器だったことから即選択


【海賊】【ロボット】もギリ選考範囲内ではあったが性格的に選べなかった。

が、むしろ【海賊】や【ロボット】で力押しするほうが本体の作り込みが足りない「カンゼンエイジ」には有効だった。
恵美の敗因の根っこは、自分がカッコよく相手を倒す様子をイメ―ジさえ出来なかった、自身への評価の低さにある。

この【忍者】と【ガトリング】の組み合わせでも前へ前へと足を進める戦い方は出来た。彼女がビルドア―ムの
可能性を信じて勇敢に戦ったのなら、ジオウもあぁまで強引にことを進めはしなかった。


【ガトリング】は薬莢を回すことで粒子を吸収する機能があるので、アクセルラ―やガブリボルバ―のように
敵のカラダや攻撃にこすり付けるように回すアクションに、見た目のカッコよさと実用性の両方の意味が生まれる。


またガトリングの腕部は溜めた粒子を使ってリアクティブア―マ―のように爆発するので、これを攻撃に転化することも出来た。
吸収や分解の効率は【掃除機】【消しゴム】に劣るものの、取り込んだ粒子をダイレクトに反撃に使える点は大きな利点。


この話を聞いた永吉昴が「【ガトリング】は肩にくっつけるよりそのまま振り回してバットの代わりにするほう良くない?」と言いだしてジオウは笑った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



タカヤマから貰ったデ―タをもとに、視力補正用のアイテムを作りながら今日のことを振り返る。


なんのかんの言って、随分とはっちゃけてしまった。

トコロを振り回したことには一切の呵責は無いが、タナカを巻き添えにしてしまったことには罪悪感を覚える。

あいつはあいつで真面目過ぎて心配だが……まぁ当面は大丈夫だろう。それよりもトコロだ。


真面目な話、トコロは本気でフェイト女史やナカジマセンパイに近い所がある。

どういう経緯でそうなったか不明だが、あの人たちはあのビジュアルで自分に自信がないらしい。


だから、なのかは知らんが、誰かに必要とされるために偏った価値観を押し付けることで有用性を示そうとする傾向がある

その押し付けが嫌われても、一歩も引かないところが彼女らの愚かで辛抱と知恵が足りない部分だろう。


ではそんなフェイト夫人とナカジマ先輩を光と影に分けた部分は何かというと。


「………金髪お姉さん、かなぁ」


それが本気で唯一の勝因だとしたら、年上でも金髪でもないトコロの未来が実に不安だ。

そしてもっと年下のモモコセンパイの未来は、もっともっと不安だ。


もしも本気で2人がナカジマ先輩みたいに相手にされないまま何年もキ―プされ続けたら、どうやって責任とろう

アオナギのフラグ建立に一度捕まって、そこから脱出に成功した人間は1例しか無い。

つまりほとんどの方―は一度引っかかると10年以上引きずって変態的なご婦人になってしまう。

しかもその例外の1ケ―スもショタコンと言うれっきとした変態で。


「…………………………それだけは阻止したいなぁ。手遅れでも何でも」


一度だけ一緒に仕事したジョウガサキ女史の顔を思い出しながら、しかしそれ以上に警戒してるのはショタコンではなくショタの方だった

世の中にはショタにしか見えなくても1万年以上生きてる化け物ジジイもいるのだ。あの妖怪に騙される危険性は、早いうちに芽を摘んでおきたい。


と、そこでSNSに連絡が入っていたことに気づき、内容と差出人に目を細めた。


『いま聖夜市にいます。会えませんか?』


添付されていたのは間違いなくこのミリオンシアタ―の写真で。

調整中の視力補正器ごと机の上を片づけ、俺はシアタ―を出た。



(次回 2019年度●●●●●誕生日記念小説)

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