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頂き物の小説
その7.ジュリアに贈る愛と平和の歌


とあるガンプラビルダ―と彼女たちの星輝く日―の記録


「その7.ジュリアに贈る愛と平和の歌」






それは唐突な始まりだった。


『昨日の仕事で、アイドルがしちゃいけないような顔したのお前?』


ガンプラバトルのレッスンで、模擬戦を始めたら突然バトルフィ―ルドに主任が現れて怒り出した。


『お前なんだ……じゃあボク怒るよ。いい?』


主任が、厳密にはそのレッドフレ―ムが右手を振り上げて指をパチンと鳴らした。



≪ドラゴン!≫


するとどこからか青いドラゴン――翼はあってもヘビみたいに細長いから“龍”って呼ぶべきかも――が空を飛んできた。
ドラゴンは変形して、頭の部分が肩パ―ツになって長い胴体部分が右腕になった。

さらに内蔵されていた拳が姿を見せ、龍の四本の脚は一度分離して再合体。拳を覆うナックルになる。
2枚の翼が重なって前腕部に移動、敵を切り裂くブレ―ドに変化した。


≪ガトリング!≫


もうひとつ灰色のバカでかいガトリングがロケットみたいに火を噴きながらやってきた。

こっちはもっと単純で、腕の手首のところにハンドサイズのガトリングがついてて、
肩の部分のスラスタ―は砲門4つなガトリング型。こいつを吹かして空を飛んでた。

手首からガトリングが離れると内蔵されてた拳がくるんと姿を見せて、あっという間に左腕になった。


≪Are You Ready?≫


『変身』


どこからともなく聞こえる音声に合わせるように主任のレッドフレ―ムが両肩をパ―ジしながらジャンプ。

ドラゴンとガトリング、2つの腕と合体すると同時にその肘からGN粒子が噴き出してフィ―ルドを形成。
頭のビ―ムアンテナも変化して、赤いV字の光が青いドラゴンの横顔とグレ―の銃口の形になる。


『おまえ、壊すけどいいよね?』


主任は右手でヒットサインを作りながらあたしを指さす


≪ビルドアップ――ダンシングドラゴン!≫


かと思えば左手に握ったガトリングを振りあげて


≪コタエハキイテナ―イ!≫


『答えは聞かないけど!』


そのままぶっ放しやがった。とっさに避けたけど、後ろにいたビルに直撃した。
2フロアくらいまとめてハチの巣にされて、そのままゴゴンと倒壊したよ!


≪The song today is "Double-Action Gun-Form"≫


なんか音楽が流れた。て言うかこれ、カラオケか?


『ギヅボラビバ ギボヂボル ギョグダギ。 バゾグギデ ゴヂヅギデ ギサンバギ』


かと思ったらなんかいきなり主任が歌って踊り出した!?


『ガパギゼスラビ リゴドグダンダギ グォンドグェギド ズォォ ジガンガガ』


踊りながら右手で弾倉を回して、それで間奏で撃ちかましてきて!


『ジャラバジャヅパ ダゴギデバラパバギ ギデデリダザベ ボダゲギサバギ』


狙いは荒い、けどそれ以上に威力が荒っぽすぎる!
攻撃を外すたびに後ろのビルが砂になってくじゃないか!


『ロシガガシバ ゴゾサゲス ラギグダギス セヂヂュ ドゼィルルヅ』


落ち着いて躱せば避けれるんだとしても、とても落ち着けない。
威力も怖いけど、歌って踊りながら戦うってのが怖いじゃないか!


『ジョレバギデンバギ ジャシダギゾグザギ ゴボグロンザギ ゾンドンドボ ゴギゲデ 
ザンズガムム ギンザゲガ レンゾブガギゼ ダダバグザベ』


こんなのいつまでも付き合ってられるか!
あたしは踊ってガトリングの弾倉を回してる間に、なんとか距離を詰めて攻撃を


『ボドセゴヂスグバリダギビ ドサギゼィグガンズォォル
ドビパドラサバギゼ バズダギルゴゴズ ダギビャンドグドムムギドドサギド』


しようとしたら右腕のドラゴンの腕から青白い炎が飛び出たよ!

そのままぐるっと回ってギロチンバ―ストだよ!
あちこち飛び交ってた瓦礫や灰が蒸発したさ、この野郎!


『ギラゾリボガグバザヅスガブギョン ギギざザヅスガブギョン
ギラド リサギ ジドヅビドベガグ ギュンバン
バギギンググゴバグドムムガグジガグィィゴゴサギドバグ』


て言うか今更だけどこれ何語だよ!濁音ばっかで訳分かんねえ!


◆◆◆◆◆◆◆


『わけわかんないと言えばさっきまでのモノロ―グが誰のだったか分かんないって人は多いと思うぞ、プ―チャン』


約3分半の濁音だらけの一曲が終わったら、ようやくなんか普通に喋り出した。


≪い―じゃん!いい―じゃん!すごいじゃん!≫


なんかBGMは流れっぱなしで踊り続けてるけどな!


「わけわかんね―のはこっちであってんだよ!」


あとその名で呼ぶな!私にはジュリアって名前があるんだ!


『だが断る』

「なんでだよ!」

『おのれ、音楽関係の話から離れるとキャラ薄いんだよ!
書いてる方も『これメグミだっけ?アユムだっけ?それともザヨコォォ?』って首をかしげてんだぞ?』


メタるなよ!あと話を強引に戻すな!?


『あと濁音だらけだったのは権利関係を鑑みてグロンギ語に翻訳してみた』


ちくしょう、この野郎もっと前に話を戻しやがった!


『だって全部ぴ―ぴ―言い換えるだけじゃ音楽の楽しさとか伝わらないじゃんか。リズム感だけでも味わってほしいだろ?』


誰に対する配慮だぁぁぁぁぁ!!


「……あ―もう、なんなんだよ今日のアンタは。」


散―怒鳴りまくって、死にそうだったさっきまでよりも息を荒げていたかもしれない


「今日はいつもよりずいぶんご機嫌じゃないか?」


それは皮肉であり、純粋な驚きでもあった。

ジオウ・R・アマサキ技術主任。
粒子操作技術の専門家で、エレの幼馴染。

なんだけど仕事の話以外はほとんどしたことがない。あたしがいう事じゃないが社交性はあまり無い方だと思う。
それどころかガンプラバトルの模擬戦に立つときももあんまり感情を見せない。と言うか見せるほどバトルが長引かない。

初手の奇襲で相手を戦闘不能にするやり方が一番多い。
しかも同じ手は二度と使ってこないから、みんな何もできずに終わる奴がほとんどだ。

見どころもなく終わるもんだから、メグやエレなんかはつまらん、楽しくないと言ってた。
まぁエレのほうは幼馴染なこともあって、しょうがないな―って感じだったけど。

だからまぁ今日のバトルの主任は、意味わかんないことで怒り出すのはある意味いつも通りだけど、すごい珍しい。
こんなふうに時間をかけてバトルするのも、歌いまわりながら機嫌よく楽しそうにバトるところなんてのも初めて見た


『これが歌の力って奴なんだろう。まさしくリントの素晴らしき文化って奴だ。ヤックデカルチャ―だな』

「良く知らないけど、それなんか違くねえか?」

『そういうそっちは昨日はずいぶん不機嫌だったそうだな』

「うっ」


確かにフリフリ衣装の仕事でメンタルがりがり削られて、ダンスも失敗して、仕事中に顔が引きつったけど!
それで仕事の後まで落ち込んで、周りに心配かけちまったけどさ!!


『まぁそんなのどうでもいいや』

「おい」


じゃあ何で言った!


『ガンプラバトルなんて下らねえ、俺の歌を聞けぇぇぇ!』

「それをガンプラバトルやるアンタが言うのってどうなんだ!?」

『行くぜ、今日のセカンドナンバ―!』


あたし意見は至極まっとうなものだったはずなのに、ガン無視された。
同時に、どこからか空を飛んできたものが2つあった。


≪バット!≫


飛んできたひとつは蝙蝠だった。胴体が広がって右腕に、翼が右肩スラスタ―になった。


≪ダイヤモンド!≫


もうひとつはクリアパ―ツ製のでっかい宝石の付いた指輪だった。
リングの部分が変形して左肩と左腕に、宝石部分は肩ア―マ―になった。


≪Are You Ready?≫


「変身」


両腕が外れて、蝙蝠とダイヤがセット。外れた腕はドラゴンと大型ガトリングに戻って。


≪ビルドアップ――ミッドナイト・ジュエ―ル!≫


頭のビ―ムアンテナが変形変色。黒い蝙蝠と水色のダイヤになった。


≪イチバンノ ネガイゴト オシエテ≫


それでまた曲が流れてきた…って、これ主任には高くないか?
たぶん女性用の曲をキ―も変えずに流してるだろ。


『ギヂダンンベゴギゴドゴギゲデ ガバダンゾギギロボ
ドシュュルズシビセスゾゾヅジョブ ゴゴビバボゲガベンゼリデ』


思ったより声は出てる。濁音だらけは相変わらずだけど、さっきよりむしろ響いてる。
コウモリだから超音波で音響効果、ってことなのか?


『ダギジョググレザレブグヂビ ザジレジョグゲバギパ
ジバシビヅビラドグバゲドゴゾス ゴグビリンデゾドデデ』


いや違う。これ普通に主任の生の声だ。スピ―カ―なんて通してない
考えて見りゃ当たり前だ。主任のバカみたいな声量の話はあたしだって知ってる。


『ガァバビグゾギギン?バビゾロドレスン?
 ガヅレダバグジャビゴンデボジサビ』


それに…今回はまるで攻撃してこない。本当に歌って、振りつけてるだけだ。しかもなんか仕草が妙に色っぽい。
て言うかこれ、撃っていいのか?蒼凪プロデュ―サ―なら迷わず撃つんだろうけど、なんかやりにくい!


『グデデグブギドス ジョゴセダジョゾサビ
ブソギザギジャロンゾ ヅサブブザギジャロンゾ』


≪スマホ!≫


そうやって悩んでるうちになんか青いスマホが飛んできた。
身構えてたらメッセ―ジが表示されて≪あなたの一番したいことはなあに?≫だって

一番…そう言われてまっさきに浮かんじまったのは「大勢の前でロックが歌いたい」ってことだった
フリフリのアイドルも、ちまちましたガンプラづくりでもなく、ギタ―だけを相棒にステ―ジに立つ自分の姿


『ズスゲスデゼギボシゾガガゲデ ガバダンゾギギロボ
ギギンバギビンギョグンジョグジャベ バリザザデデバガゲバギ』


だけど、かぶりをふってそんな弱い考えを捨てる。今の私はガンプラアイドルだ!
なったからにはそれを貫かなきゃ駄目だ。


「あたしと戦え、主任!」


『ビズヅギデログゴザサベゼロ ベギギデブギギバギ』


≪もう戦ってる。俺の音楽でプ―チャンを落とせるか勝負だ≫


「その名で呼ぶなぁ!そう言うのと違う、普通に攻撃して攻撃し返して、そういうバトルをちゃんとしろって言ってるんだ」


≪じゃあなんでプ―チャンは攻撃しないの?今はバトル中だよ≫


『ゾンロボザベグバガジャギデギス リゲバギヂバサビガバサデデ』


「それは」


その言葉にすぐに返せなかった。プ―チャンってまた呼ばれたのも、怒る気になれなかった。
あたしが引き金を引けなかったのは確かなんだから。


≪俺に惚れると火傷をするぜ?≫

――反射的に引き金を引いた。簡単すぎて意外なほどだった。


『ガァバビゾグダグン?バビゾギンジスン? ラジョデデギスザベジャガサブダビバス』


だけど連発したビ―ムは左肩のダイヤからミラ―ボ―ルみたいに発射されたレ―ザ―と、
右手から出てきたスモ―ク、いや高温みたいだからスチ―ムか?によって防がれた。

まるでドライアイスを使った舞台演出みたいだった。てかなんでコウモリからスチ―ム?


『グデデゾズシビデデジュガンザジョゾサビ ブソギザギジャロンゾ ヅサブブザギジャロンゾ』


≪吸血鬼は霧を操るって言うし≫


そうかよ!わざわざ説明ありがとな!


≪俺に惚れて火傷したかい?≫


だからするかぁぁぁぁっ!そんなの打ってる暇があるなら普通に攻撃して来いよ!


『ガァバビグゾギギン?バビゾロドレスン?』


≪攻撃してもし倒しちゃったら歌える時間が減るでしょ?どうせなら時間いっぱい歌いたい≫


歌よりバトルしろよ!バトルをカラオケ扱いするな。


『ガヅレダバグジャビゴンデボジサビ』


そもそも1曲目のビル壊しまくりはなんだったんだ!


『グデデグブギドスベジセスジョゾサビ』


そう叫ばずにはいられなかった。だがそれは悪手だった。


『ブソギザギジャロンゾ ヅサブブザギジャロンゾ
……あんな雑な攻撃でプ―チャンはやられやしないって、アオナギの指導を信じたんだよ』


あたしが散―騒いでる間に主任は1曲歌い切ってしまったんだから。



◆◆◆◆◆◆◆



……なんだろうな、この気持ち。フィ―ルドは散―壊されたけどあたしは無傷だ。


向こうは機嫌よく歌を2曲唄っただけで、バトル的になにか1本取られたわけでもない
だってのに、なんだよこの勝ち逃げでもされたみたいな気持ちは!


「なんなんだよ主任!さっきからいい加減なバトルするはいい加減な歌を唄うは!」

『む、下手なのは自覚してるがいい加減に歌ったつもりはないぞ』


そっちに噛みつくのかよ!あんた歌は別に下手ってほどじゃねえよ!
バトル中に歌うのがおかしいって言うんだ!


「おまけになんだよその腕は!何度も取り換えて、なんなんだよ!」

『この腕?昔ツインドライブの実験をしたときいっぱい作ったもんだ、よっと』


ツインドライブ?

たしかダブルオ―で相性のいい太陽炉を2つ同時に使って、足し算じゃなくかけ算な凄いパワ―を出すやつだっけ?



『そうそう。二乗化の条件とかワカンナイからひたすら試しまくった。こんな風に』


《ラビット!》《ドライヤ―!》


主任が指をならすと今度は赤いウサギと赤いドライヤ―が飛んできた。


《Are You Ready?》


「って、今度は合体なんかさせるか!」


そう思ってライフルを撃つ。けど飛んできた部品とガンプラ本体から飛びだした両腕の計4パ―ツがGNフィ―ルドを展開。
4重のフィ―ルドに守られて、ガンプラにも腕にも攻撃は届かなかった。


『変身』


《ビルドアップ―――ビットビ―トヒ―タ―!》


主任は左肩にドライヤ―型のバインダ―だかバズ―カだかを背負った真っ赤な姿になって。ビ―ムアンテナも左右真っ赤で。
そこで主任は今日初めて背中のビ―ムサ―ベル2本を抜いた。


『さぁ、実験を続けよう』


《The song today is "IGNITE"》


直後、ドライヤ―から熱風どころか火炎放射が出て主任のガンプラは一気に私に迫った。
ビ―ムサ―ベルも炎と同じ赤色に燃えていた。

正直、油断した。またさっきみたいに歌って踊ってくるのかと。
だから攻撃はしてこないと勝手に思い込んで。


『シャクネツシンクノカタ!』


連打で思い切り叩かれた。・・・・・・あぁ叩かれたんだ、斬られたでも焼かれたでもない。

衝撃で地面に向かって吹っ飛ばされたけど、装甲にはほとんど傷が無かった。
ビ―ムサ―ベルなのにスポ―ツチャンバラの剣みたいに柔らかくて、なのにゴムみたいにビョンビョン弾けた。

いや、それも違う。たぶんこれ、ドラムスティックなんだ。
つまり、今度は歌うだけじゃなく楽器で遊びたいらしい。


「このっ…!」


すぐさま立ち上がって追いかけてきた主任を迎え撃つ。
サ―ベルやシ―ルドで主任のスティックを防ぐけど、その度にカンカン鳴り響く。


「あ―もう!なにがしたいんだよ本当に!」


叫ばずにはいられない。問わずにはいられない。


『ラブ&ピ―スだ!』

「なんだそりゃ!」


ガンプラファイタ―のあんたがガンプラバトル放り出して音楽やって!


『そう言っとくとサマになる!』

「嘘なのかよっ!」


……のあたしがギタ―も持たずにガンプラバトルやってるって、おかしいだろ!


「このっ、野郎!」


頭に血が上ってそのまま顔に向かって拳を振るう。
思いっきり大振りでノ―ガ―ドになっちまうけど、どうせ向こうはこっちを傷つける気なんてねぇんだ

ただ思い切り拳を振り抜こうとしたらGNフィ―ルドがボヨンと変形した。
拳は顔まで届かず、主任はボヨヨンって後ろに飛んでって。

そのままビルの壁に当たってまたボヨヨヨンって跳ね返ってきて。


………だからほんとなんなんだよっ!ガンダムってこういうのじゃないだろっ!?
そのスティックみたいなサ―ベルと言い、ウサギかドライヤ―かどっちの仕業だよ!


『どっちかなんて関係ね―ぜ!』


主任はまたも応えず、あたしをボヨンと蹴り飛ばす。


『ガンプラバトルは自由だぁ!』


そして大きく反り返りながら無駄に熱い宣言、さらには勢い任せに地面を連打。


『戦わなきゃいけない勝たなきゃいけない楽しくなきゃいけない歌ってはいけない邪魔してはいけない――――――そんな窮屈、なに一つこの場所にはない!』


地面が激しく揺れて、まるで地震みたいだった。


『ただ違うもの同士が出会って互いのやりたいことぶつけ合って!一人でいるよりもほんの少しだけ凄い瞬間を味わえたら超ファンキ―!』


だけど、動けなかったのはそのせいじゃない。


『それがセッションって奴じゃねえのかい、プ―チャン?』


その声に、心の中でうなずいてしまった自分がいたからだ。


「……それで、アンタの今やりたいことが歌うことだって言うのかよ」

『俺の美声で感動させて、バトらずに負けを認めさせることができたら尚ファンキ―だな』


そんなくだらない夢を、主任は目を輝かせて言いやがった。


「そりゃ無理だろ」

『まぁ無理だな』


当たり前のように口をついたあたしの非難を、主任はあっさり認めた。


『俺はク―デリアでもラクスでもないし、戦わずに闘いを止めようなんてカガリ・ユラみたいに滑るに決まってらぁ』


実際さっきまであたしは怒りっぱなしだったんだし、間違ったことは言ってない。


『でも出来たら凄いよな?』


だけど主任の目は陰ることなく輝いていて、綺麗だった。


『出来たらって考えたらドキドキする。一歩踏み出すにはそれで十分だ」


口元まで獰猛に吊り上がって、笑っていた。


「ガキかよ」

『ガキだよ。だからいい歳してガンプラ弄ってんだ」


敵に挑むように、自分を奮い立たせるように、力強く。

見てるだけで胸が沸き立つような、馬鹿な男の笑みだった。


≪マイク!≫≪桃太郎!≫


主任がさっと右手を掲げると新しいパ―ツが飛んできた。
ひとつはでっかいマイク、もうひとつは鬼の顔をした盾だった。


≪ジャストマッチ――キジンカクセイ≫


また腕の交換かと思ったら、マイクと盾が直に合体して鬼の頭からマイクが生えてるようなシルエットになった。
その鬼マイクを右手に掲げて、主任は言った。


『残り時間的にこれが今日のラストナンバ―、最後のセッションだ。準備は良いか、ガンドルロッカ―』


ごくりと喉を鳴らす。ここまで来たらもう反発なんかできやしない。


「いいぜ、アタシの全力でアンタを審査してやるよ」


"最後くらい一緒に歌わないか?" そう誘われることをほんの少しだけ想像して、その弱さを首を振って否定した。


≪ボイボイボ―イ!YoYoYo!≫


…今はただケジメをつける、色んなこと全部ひっくるめて真面目にガンプラバトルをやってやる。そして勝つ!


『ラスゼ ドグレギビ バダダリダギ』


相変わらずの濁音塗れ。でもそこに主任のマジがあるんだってこと、もう疑えない



『ゼンヅ ジヅンゾ グシブベデギブ』 


鬼の頭から突き出てたマイクから光の剣が発生した。刀身の長さはガンプラのだいたい2倍、40mくらいだと思う。


『ゴンバズグビ バンジデダボバギ』


そしてスピ―カ―になってる鬼の目から主任の声が響く。さっきまでのナンバ―より、重厚で落ち着いた選曲だった。


『ギョグベンジョ ダヂザヅボバサ ザセダジビ ルベゾザデデ』


その歌にあたしのカラダが震えた。主任のビ―ムサ―ベルもさらにデカくなっていく。

あぁ、これが粒子が人の気持ちに応えるってことか。主任の気持ちが高まってるから、あの剣はこんなにもデカいのか。


『ジドドジヂヂド! ビビムジュガヂヂド!』


ライフルを撃つ。でもしっかりと狙ったはずのビ―ムは直前で逸れていく。
音の振動でこれをやってるか、それとも歌って主任のテンション上がったからフィ―ルドがパワ―アップしたとでも言うのか。


『ボボソグズスゲスダギョ ガガギデ』


ならスピ―カ―のない背中からと思って回り込んでみるけど、どんなに振り回しても主任はあたしへのカメラ目線をやめない。
接近戦に持ち込んでも盾で、剣で、ドラムスティックで弾かれる。


『ジドドジヂヂド!ビビムジュガヂヂド!』


その度に剣がデッカくなって、歌い続ける間にどんどん強い光を放つようになっていく。
そして歌うことを、あたしに向かって歌うことを、絶対にやめない。


『ザセビロ ゼビバギボド リヅベザゲ』


あぁこれがプラフスキ―粒子が人の想いに応えてるってことなのかって、すとんと胸に落ちた。


『ゴセグ ビリン ジヂビ』


あ―ちくしょう。勝てねえわ、コレ。


◆◆◆◆◆◆


結局あたしは終了3秒前にビ―ムサ―ベルを弾かれた勢いで場外に吹っ飛ばされて負けた。
なのに主任は『次は俺が勝つ』って言った。歌であたしを負かすって言った本人的には、不本意なことだったんだろ―な。

その主任は今は他のシアタ―メンバ―と模擬戦。
『どうしてそ―いう楽しそうなバトルをいつもしてくれないのかな!?』ってメグたちに詰め寄られてたじたじしてた。

散―あたしを振り回してくれた主任が押されてる様子はちょっと面白かった。
今日のバトルのほうは……あ―なんだろうな、上手く言えねえや。


「ジュリア、お疲れ様」


クタクタになって寝転んでたあたしの上から声がかかった。


「チハ?」

「えぇ、随分振り回されたみたいね」


そこにいたのはチハ――765プロトップの歌唱力とガンプラバトルの実績を持つ、如月千早だった。


「まぁな、散―だった」

「それにしてはいい顔してるわよ。振り回されて少しはスッキリしたのかしら?」


それは気のせいだ。奇人変人な主任に振り回されてクタクタなんだから。


「それよりチハはどうしてここにいるんだ?急用が入ったんじゃなかったのか?」


今日の模擬戦、本当はチハがあたしたちの相手をする予定だった。
それが急に予定が変わったとかで、代理で来たのが主任だったって話だったんだが。


「いいえ、用なんてなかったわ。ジオに模擬戦の指導役を代わって欲しいと頼まれたのよ」

「へぇ?」


なんだそりゃ。どうして主任がそんなことするんだよ。


「ジオはエレナに頼まれたそうよ。あなたが落ち込んでたから元気づけたいって」

「は、そりゃまた」


言われて納得した。主任は隠してるつもりかもしれないけど、エレにはメチャクチャ甘いから。


「自分がやらないとエレナのダンス天国に巻き込まれてあなたが余計に落ち込みそうだからって言ってたわ」

「うわぁ」


変なこと言ってごめん主任。アンタはあたしの恩人だ。


「それよりさ、チハ。主任がやってたアレってどう思う?」

「どれのことかしら?」

「その、ガンプラバトルの場でゲリラライブするって言うか」


もしガンプラバトルの大会に出て、歌いながら勝ち上がり続けることが本当に出来たら。
その様子は動画サイトとかにもあがって世界中に知れ渡る。

控えめに言ってとんでもない宣伝効果がある訳だよな。歌の仕事だって入ってくる。
もちろん勝ち続けるって言うその前提がまず難しいわけだけど。


「まぁ難しいでしょうね。最近はバトル外のマナ―にも厳しいし、楽曲の権利関係を考えれば
事前に許可を取る必要もある。新しいことにはリスクが付き物だし、まず律子たちを納得させないと」

「だよなぁ」


うん、やっぱりそう上手くはいかないよな。


「ただジオはそう言うリスクとか関係なく、これからも公の舞台でアレをやるんじゃないかしら」

「なんでだ?」

「ジオがこれまで奇天烈な行動を繰り返してきたマッドジャンキ―だからよ。また突拍子のないことをして
失敗したとしても、彼のキャリアには今更傷はつかないし、むしろそれこそが彼に求められているものよ。
だから、それによって事務所やヤジマ商事に悪影響を及ぼすこともほぼ無いでしょうね」


「……あぁ」


なんかずるいなぁと思ってしまって、少し後悔した。

今の主任が失敗を笑って許されるのだとしたら、これまで苦労して実績を積み上げてきたからなんだって、すぐに気づいたから。


「それで世間の反応を見て需要がありそうだと判断されたら、私たちにもGOサインが出る…そんなところかしら」


それはそれで面白くはないなぁ。何から何までお膳立てされてるみたいでさ。


「ジオは自分の都合で動くだけだろうから、別に気にしなくていいと思うわよ。
それともあなた、彼を出し抜いてゲリラライブバトルに一番ノリしてみる?」


「いや、それも無理だな」


否定の言葉は思ったよりあっさりと出た。


「ガンプラバトルとロックを一緒にする。そいつはきっと楽しいと思う」


あんだけご機嫌だった主任のように、あたしもそうなれるとは思うんだ。


「けどあたしはまだガンプラバトルはからきしで、たぶんすぐに負けちまう」


それじゃあ恥かくだけだ。しかも私だけじゃなく、ロックやシアタ―まで
一緒に恥をかくことになる話だ。それを無視して、突っ込めるもんか。


「そうね、まずあなたは自分のガンプラのことをよく知るところから始めたほうがいいと思うわ」

「はは、基礎からちゃんとやれってことだな」

「そうね。だってあなた――さっきの模擬戦中のモノロ―グで一度も自分のガンプラの話をしてなかったでしょう?」


「へ?」


え、あれ?そうだったっけ?


「えぇ。ビ―ムサ―ベルとライフルにシ―ルド、ベ―シックな装備を持ってること以外は何も」


そ、そうか。で、でもまぁガンプラの名前とか種類とか、別にそこまで大事なものじゃ。


「また言われるかもしれないわね。音楽に関わらないと誰か分からない、キャラが立ってないって」

「ぐはっ!?」


まさか一日に二度も言われるとは思わなかったその言葉がグッサリ刺さった。


「………やっぱりガンプラライブしてみる?」

「い、いやいい。ひとつずつ、頑張るから」


うん、そこは間違えちゃいけないと思う。


………でもまぁ、またいつ日か。

セッションしようぜ、主任。



(おしまい)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



≪武装等 紹介≫
●XiNo013-bd05/06 ビルドアストレイ・ダンシングドラゴン
●XiNo013-bd29/04 ビルドアストレイ・ミッドナイトジュエル
●XiNo013-bd01/21 ビルドアストレイ・ビットビ―トヒ―タ―
● Arms-bd35/19 キジンカクセイ
● Arms-bd/11  スマホレフトア―ム


ビルドアストレイ本体であるレッドフレ―ムの外見上の変更点は、レッドドラゴンのビ―ムアンテナ
タ―ンレッドにも使われた腰部への増設バッテリ―、装甲・フレ―ム共に基本色:黒でVPS処理をした脚部。


最大の特徴は、粒子変容塗料によってそれぞれ異なる特性を与えた、リボ―ンズガンダムと
同じく肘に太陽炉を仕込んだ両腕「ビルドア―ム」を換装する仕様

換装した腕によって、VPS処理により両足も色を変える。


ビルドア―ムは右腕側が有機物、左腕側が無機物をモチ―フとした特性と変形機能を持ち、
左右40以上存在する(所謂ロストやレジェンド、お蔵入りのエレメントを含めた数字)

また仕込まれている太陽炉は設定上疑似ではなく、基本的にコ―ンスラスタ―もついてない。



これらの装備群の開発意図は、150Mガ―ベラストレ―トを振るうパワ―を手に入れるために
00のツインドライブを疑似的に再現しようとしたこと。

GNドライブ同士の同調と言う原作でも詳細不明なアプロ―チは再現ができないので、まったく異なる
特性のドライブを組み合わせることによって意図せぬ化学変化が起きないか可能性を検証したもの

左右全ての組み合わせで実験した結果、ガ―ベラを振るうという結果を残したのが『約40組』程。

今回バトルで試したのはその期待値に至らなかった未完成品であり、今話で音楽と組み合わせたのは、
ジュリアへの励ましであると同時に、ファイタ―であるジオウの精神状態を整え、チカラをより強く
引き出すことができないものかと言う実験の一環でもあった。



≪本日のグロンギ語に訳した楽曲紹介≫

・Double-Action Gun form  歌手:佐藤健/鈴村健一、 作詞:藤林聖子
・BLACK DIAMOND      歌手:ほしな歌唄(水樹奈―) 、作詞:PEACH-PIT・斉藤恵
・少年よ          歌手:布施明、 作詞:藤林聖子



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お疲れ様、ジオ」


シアタ―メンバ―との模擬戦が終わって、技術室で整備をしているジオに声をかける


「キサラギ、今日はありがとう。急に無理を言って悪かった」

「いいえ、面白いものを見せて貰えたわ。あなた、魔法少女にもなれたのね」


育との模擬戦中のことだ。彼はウサギとケ―キのビルドア―ムで変身した



"≪ラビット!≫≪ケ―キ!≫≪レジェ―ンドミックス!!≫"

"≪キラ☆キラ☆パティシエ―ル☆―――キュアホイ―ップ!≫"


顔をシビリアンアストレイと同じ様なフルフェイスのバイザ―で覆って、そのバイザ―に女の子の顔が映っていた
ビ―ムアンテナも白いウサギの耳そのものになって、首から下は無骨なモビルス―ツのままなのに仕草が可愛らしかった。

そして彼の口調や声色も少女のそれを演じて戦っていた。プロデュ―サ―なら今頃悶絶しているところかしら.



「まだまだ及第点には遠いデキだよ。でもナカタニが喜んでくれたのは良かった」


この様子だと彼はまたいずれ魔法少女になるらしい。やるからにはとことんまで、ということかしら。


「ところでもう一つ聞きたいことがあるのだけど」


世間話はほどほどに、本題に入る。


「ジュリアとの模擬戦中に歌っていた2曲目、何という曲かしら?」


そう、あの歌は私も知っている。その歌い手と曲の制作に関わった人物のことも。


「タイトルは知らないな。ただいわくつきのモノだって言う噂は聞いたよ」

「なら、あなたはその歌を何処で聞いたの?」

「たまたま手に入れた真っ黒いCDから」


いわくつきの黒いCD。間違いない、彼はアレを直接聞いている。


「それで、どうだったの?」

「いい歌だと思ったよ」

「それだけ?」


今の彼を見る限り、大切なものを失ったということは無いと思うけど、何も感じなかったのかしら?


「あぁ。しいて言えば、そのいい歌が変な噂で悪く言われて、世の中から無かったことにされるのは気の毒だって思った」


「噂、ね。あなたはそのいわくつきの内容について知ってるの?」


その歌を表に出すことのリスクだって分かっている筈なのに。


「あぁ。けど歌い手の罪と詞や曲の良し悪しは別だろ?アレはいい歌で、人に聞いてもらいたい歌だと思った。
それで全部だ。しいて言えば、あの歌をカバ―する機会でもあれば俺も一枚噛みたいなぁと思うかな」


だけど彼は全部わかっていて、それでも歌そのものに罪は無いと言い切った。


「いわくつきと知っているのに?色んな人が悪く言ったり、悲しい気持ちを思い出すとは考えないのかしら?」

「これは建前だが、だからこそだって思うよ。
怖がったり憎んだり恨んだり、そんなことをずっとされるのもするのも苦しいじゃないか」


だから歌に惑わされた人たちも、歌も一緒に救いたい。そんな善意を建前と彼は言い切った。
彼はあくまで自分が良いと感じた歌が人―に愛されて欲しいと願っているだけ。


「とは言え。じゃぁ歌の名誉回復のために具体的にどうすれば良いかって言うと、
全然思いつかないわけだけど。それでも追いかけるのがラブ&ピ―スってことで」


エゴイストでロマンチストな彼は、なんとも締まらないことを言いながら照れくさそうに頭をかいていた。



(おしまい)


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