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頂き物の小説
ケースExtra02-B「CASE00.デストロイ・アンド・リビルド(その2)」


とあるガンプラビルダーの第8回世界大会メイキング


ケースExtra02-B「CASE00.デストロイ・アンド・リビルド(その2)」


Wooooooooooon!


ずっと考えていることがある。

どうしてあの人は、あのタイミングで三代目にユウキ・タツヤにガンプラバトルを申し込んだのか。

あのバトルでどっちが勝とうと負けようと、今更ユウキが三代目でなくなるわけもない。

では一体何のためにバトルをしたのか?

あそこでもし三代目が勝ってくれていたら、あるいは二代目がトドメをさしていたら。

それはガンプラバトルの隆盛にどんな影響を与えていたのかと。

あの人は何を勝利条件と定めてバトルをしたのかと、何度も何度も考えた。


そしてもうひとつ。

あの人はフルムーン・スプリームアローを「一撃必殺」と呼んだ

だけど俺が事前に知っていた二代目のおじさんのあの技は「一撃必倒」だったはずなんだ。



放てば相手に必ずトドメをさせる技ではなく、確実にトドメをさせる状況を作り出す技

大地を構成する粒子を根こそぎ集めることで、威力・範囲共に十分な光弾を作る大技。

特筆すべきはその威力以上に技後硬直時間の短さ。

技を避けようとしても、正面から迎え撃とうとしても、対峙する相手は必ず全力を出す。出さざるを得ない。

つまりたとえこの技から逃れ生き残ったとしても、全力を使い果たしたその瞬間にこそ致命的な隙が出来る。

その一瞬を、カティは決して見逃さない。

例えるなら、それは強力なコークスクリューブローを直接的な破壊以外の用途に使うハートブレイクショット。


それ故に一撃必殺ではなく一撃必倒。

あまりにも強力な技を囮にした、二段構えの必勝の戦略……だったはずなのに


なのに何故、あのときおじさんは


『……ター』


おじさんは一撃必殺だなんて言ったんだろう。そんな技、二代目メイジン・カワグチが作るわけがないのに

『……ター……オウ!』


だって誰もが使える一撃必殺の技なんて、そんなのが本当の本当に作れてしまったら。


『…………ミスタージオウ!応答してくれ』


そんなのが本当の本当に作れてしまったらガンプラバトルの歴史が終わってしまうんだって、おじさんなら分かってた筈なのに。


◆◆◆◆◆◆


「ミスタージオウ!ミスタージオウ!応答してくれ」

『…アダ、ムス?』

「ミスター、無事か!今どういう状況か分かっているか」

『【デストロイ】の、試験中……二代目が、乱入して』

「あぁそうだ!意識ははっきりして

『なんか…ちょっと前のことが…ソーマトーみたいに』

「駄目だろそれはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


あぁヤバイ!第8回大会競技のテスト見学に来てた二代目がいきなり乱入して、フルムーンを撃って!

モンスターズレッドが地に落ちて今も圧し潰されそうになってて!

しかもガンプラと一緒にミスターが死にかけてるってどういうことだ!体が悪いのは二代目だけのはずだろう!


「いけない!今すぐテストの緊急停止を」


「駄目です、停止シークエンス作動しません!おそらくあの『月』のせいで装置に負荷が掛かっているのが原因かと」


ニルスが慌てて大型バトルベースを止めようとするけど、それもできない……くそっ!

こんなときに不具合なんて……いやテストなんだから不具合を洗い出すのが本来あるべき姿なんだが!


「テストファイター各位へ!テストは中止します。ガンプラは
その場に放置してすみやかにバトルベースから離れてください」


ニルスは全体通信でテストファイターのみんなに避難を促す。

取るものも取らずにみんなが逃げ出し、残ったのは二代目とミスタージオウだけ


「ジオさん聞こえますか!この通信はあなたと僕たちだけが聞いています!

今すぐアシムレイトを解除してその場から退避してください。そのままでは危険だ!」

『…………』

「駄目だ聞こえてない!」

「いっそ強制的に電源を落としたらどうですの?」

「ダメ、そんなことしたら集まってる粒子が制御を外れてドカンするかも。それに」

「今ここで手順を踏まずにバトルを強制終了したら、ジオさんの身体に深刻なダメージを与える可能性が無視できません」

「なっ!」

それはどういう事だ、ニルス!二代目ではなくミスターがだと!?

「皆さんも既にご存知の通り、二代目名人カワグチはアシムレイトの乱用をしダメージ・フィードバックを受けていました。
その都度ガンプラと呼応して損傷したと『錯覚』した彼の内蔵は、一部機能障害を起こしてるんです」

「それが、病気の原因?」

「今流行りの阿頼耶識システムに体を持っていかれた状態、
もしくはパソコンをちゃんとした手順を踏まずに電源切ったみたいな?

ジオさんもアシムレイトの使い手だし、さっき一瞬気を失ってたのも
情報過多で脳がショートしたんだよ。ダブルオーの劇場版みたいに」

「そんな」


それじゃあ一刻も早く止なきゃいけないじゃないか!何か手はないのか、何か!

状況を改善する一手を探して各計器を目を皿にしてチェック、だが僕より早くスタッフの一人が「それ」に気づいた。


「主任、見てください!モンスターズレッドの首の下!」


そこには一本の花があった。あれはテスト中だった競技『デストロイ』の最後の防衛対象!と言うことは


「あれが消失すればゲーム終了、プログラムに従ってバトルフィールドは解除されます」

「よし、ならば放置されたガンプラを遠隔操作してでも」

『やめろ』


バトルを終わらせようとする僕らに刺さるのは、冷たく鋭い二代目の声。

「二代目メイジン、なにを」

『バトルを途中で中断することなど、ありえん』

「今はそんなことを言ってる場合ではないでしょう!」

『は……よく言う、ぜ。三代目には、トドメもささなかったくせに』

「ミスター!」

あくまで平常運転の二代目に声を荒げる。だがその思いは現場の当事者たちには届かない。

『だが、同感だ。ここで止め…て、させな…』

「何を君まで、なんでそんな」

『決まって…ろ、ガンプラバトルは…勝利こそ絶対、なんだ

「はぁ!?この状況でそれを言うのかい!しかもよりにもよって君がだ!!」

普段その言葉とは一番縁遠いところにいるのが君じゃないか!

この状況を見たまえ!この状況ならタツヤだって

『三代目なら…この状況でワガママ言わずに…やめると?』

「うぐっ!」

自分で叫びかけて、それは絶対にありえないと思ってしまった。

『だいじょ…ぶ、俺たちに何か…ときは…アオナギに遺族への手紙の書き方を習えばいい」

「なんでだ!」

『あいつの…決め台詞の一つ…あいつはきっと……日本中の誰より……遺族への手紙に詳しい』

「こんな時にふざけてる場合か!」

「はは…ははは…はぁぁぁぁぁぁぁ!」

こちらが心配しているというのに、ミスタージオウはふざけてばかり。だがそれに何らかの意味があったのだろうか。

寝転がされ今にも押しつぶされそうだったモンスターズレッドは、恐ろしいことに両手を伸ばして巨大なフルムーンを押し返して見せた

『ハイーーネェェェェェ(灰猫)!!』

持ち上げられたフルムーンに、四方からいくつもの赤い星屑が襲来した。

「なんだあれは赤い星屑がフルムーンを削ってる!?」

「あれは、砕けたガーベラストレートの破片か!?いやだがしかし、何でそれが飛んでるんだ!?」

「……そっかそういうことだったんだ」

「どういうことですかアンズ?」

「あれは紅の彗星だよ。どうやって飛ばしてるのかまでは分かんないけど、紅の彗星を
まとったガーベラの破片でフルムーンを斬り裂いてるんだ。あの日の三代目も、さっきのも、今も」

「はぁぁ!?」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

理解できないと僕が間抜けな声を上げている間に、ミスターは雄たけびを上げる

その叫びに呼応するように星屑たちも加速していく

その加速する星々に削られて、これなら消失も時間の問題と思ったその時


「いや待て何してるんですか、二代目!」


そこには遥か高みから『次弾』の装填をしているカテドラルガンダムの姿があった。


◆◆◆◆◆◆◆

Wooooooooooon!

そこは真っ白い空間だった。

白いだけで何もない。精神と時の部屋だって地平線くらいあっただろうに、本気で何もここには無い

ただ俺自身と、あの人二代目メイジン・カワグチだけがここに"いた"


「ずっと考えてたんだ。アンタはあの日、何がしたくてバトルを仕掛けたのかって」


もとよりアンタは三代目メイジン継承の条件を、自分を倒したファイターと決めていた。

ユウキはアンタが不在の間に三代目に就任していたけれど、それを認めない人間も多かった。

その状況で正面からアンタに勝利したならば、例えアンタと違う方法論だとしても、勝利こそ絶対を貫くアンタのシンパは認めざるを得ない。

そしてアイツを中心に新たなガンプラバトルの隆盛が極まったことだろう。


「逆にアンタが勝った場合は簡単だ。アンタのやり方こそが正しいって、アンタのシンパが息を吹き返してた」

アンタの思想を受け継ぐものが現れて、その『正しき思想』の下にガンプラバトルはやっぱり盛り上がっったろう……少なくともアンタの予定の中では。

だから勝っても負けても、それが真剣勝負の果てならば、ガンプラバトルの未来を思う二代目メイジンの目的はちゃん叶ったんだ。


「問題は、実際のバトルが勝ちでも負けでもない形で終わったことだったけど」


三代目は二代目が自分の思想を体現しているとまでいったフルムーン・スプリームアローを倒したところで力尽きた。

動けなくなったというより、気持ちが切れた。そこで満足してしまった。

確かに凄い偉業だった事に違いない。ギャラリーも二代目さえも目を丸くしてたくらいだし。

だが勝てなかった。勝とうとしなかった。月を越えた先にいたカティに、二代目に更なる一撃を繰り出そうとはしなかった。

二代目もとどめを刺さずに背を向けてゆえにあの勝負を経てもなお二代目派と三代目派との格付けは終わらず。

つまりは二代目の思惑は外され、現状維持と相成った。二代目の言う所の「思い通りにならない」三代目によって


「つくづく自分勝手なフラグクラッシャーだよアイツは。
だがアンタやアオナギさえ振り回すアイツこそ、あんたの後釜らしいと俺は思うよ。
あんたの思想を次ぐものではなく、アンタと同類の生きざまを刻むものとしてはな」

皮肉な話であり、あるいは自業自得でもある。もっともメイジンにふさわしいのが、誰よりメイジンに逆らったものだなんて。


「だがまだ分からないことがあった。あの日どうしてフルムーン・スプリームアローを『一撃必殺』の技なんて呼んだかだ」


俺がアンタから聞いていたのは確かに『一撃必倒』だった。

一撃必殺なんて大味な技は二代目のスタイルにそぐわないし、そもそも
ガンプラバトルの未来を守ろうとするメイジンには、作ってはいけない技なんだ。


一撃必殺、究極無敵。古今東西の多くの少年たちが夢見て憧れただろう必殺技と言う存在。


もしも本当に放てば誰でも必ず敵を倒せる技が出来たら。

反撃することも逃げることもできず、しかも今後一切誰にも覆されないのだとしたら

そしてその手の技によくある対処法「技の発射を止める」ことさえできないのだとしたら


それはもう、その技を使える人間が必ず勝つということだ。


必然、誰もが同じ技を覚えようとする。しなければ敗北をするだけだから。

そして対峙する双方が同じ技を覚えたなら、あらゆるバトルで開始直後に早撃ち勝負する展開になるのは時間の問題だ。

そうしてガンプラバトルからは多様性が失われ、駆け引きが失われ、娯楽性が失われ遠からず衰退の道を辿ることになる。


「将棋の世界にもあるんだろ?互いに最善手を指し続けたなら先手と後手のどっちが勝つかって命題が」


その命題が解けてしまった時、将棋の歴史は終わってしまうと言われている。

先手か後手かで勝敗が決まってしまうことが確約された遊戯なんて、勝負としても娯楽としても成立しない。


しかもフルムーン・スプリームアローの場合、バーサーカーシステムみたいに使用禁止することも出来ない

なんせやってることは超々完成度のガンプラの粒子制御力にものを言わせた粒子の収束と発射と言うシンプルさ。


ガンプラバトルの根幹であるそれを禁じたら、そもそもバトルが成立しない。

故に完成したが最後、ガンプラバトル終焉を誰にも止められない。


「だからアンタは一撃必倒で開発を止めたんだと思っていた。。フルムーンそれ自体には
穴があっても、それを使うのがカティとアンタなら実質常勝が約束されているも同じだ」


それに穴があると思われた方が挑戦者(カモ)がいなくならなくて済む。

必要なのは勝利する力であって、戦いを避ける抑止力じゃないんだから。



「二代目メイジンの「一撃必倒」のフィニッシュホールドとしてなら、フルムーン・スプリームアローは既に完成していた

なら何故、あの日あの時アンタは「一撃必殺」の技と示したのか」


その理由が分からなくて、ずっと考えていた。

だがハタと気づいた。そもそもこんなことを悩むのは、あの技が「一撃必倒」だと知っている人間にしかできないことだと。


つまりは、俺だ。


「あれが俺へのメッセージだったと仮定して、その真意は何か。

二代目メイジンの技としてなら、フルムーンは一撃必倒で正解だった

だがもしもあの技の本来目指した場所が一撃必殺の境地で、考案したものが二代目メイジンではなかったのだとしたら?」


その考案者はおそらく、既に誰からも名前を忘れられた一人のガンプラビルダーだ。

ガンプラが好きで好きで好きで、いい歳こいてガンプラをずっと作り続けてて、親兄弟さえも泣かせて。

ガンプラバトルが生まれたことを心の底から喜んで、奇跡のようなその出会いをずっと守ろうとした男。

のちに二代目メイジン・カワグチを名乗ることになるその男が、ずっと胸に秘めていた『理想』


すなわち「ぼくのかんがえたさいきょうむてきのひっさつわざ」、おそらくそれがフルムーン・スプリームアローの原点だ。


「ずっと二代目メイジンとしてガンプラバトルに尽くしてきたアンタは、余命いくばくもない今になって思ったんだ。

胸の中にしまっていたその理想を、誰も知らないまま消してしまいたくないと、誰かにその完成を託したいと!

それが命がけで守ってきたガンプラバトルを終わらせるものだとわかっていながら、それを許容できないと今でも思っているのに!!」



ならばだれに託す?三代目をつぐユウキ・タツヤか、その親友のアオナギ・ヤスフミか!

アンタを慕うエレオノーラ・マクバガンか?それともレナート兄弟か!


「いいや、誰に託したって完成までは持って行かない。
なぜなら奴らは結局ガンプラバトルが好きだから!ガンプラバトルに無くなられては困るから」

二代目メイジン自身がそうだったんだ。ましてや他のファイターたちの誰が、ガンプラバトルを終わらせることなんてできるだろう


「故にガンプラバトルを愛する者には究極技を『完成』させようとする意志が持てないだから、俺だったんだろ?

世界中で俺だけに、ガンプラバトルを終わらせることのメリットがあるから。世界のトップファイターの中で、
俺だけがガンプラバトルを疎んでる俺にだけ、究極のフルムーンアローを完成させる動機があるから!」


あぁそうさ、俺はガンプラバトルを疎んでる!滅んでしまえと思ったことは数知れない!


「そして、ジュリアンを追い詰めてなおガンプラバトルが楽しいって言えちまう、三代目ほどには俺は図太くない
"もしも"あんたが死んじまえば、俺は責任を感じて逃げられない。そう踏んだんじゃないのか?」


だからここに来たんだろうと、詰め寄る俺の言をおじさんは否定しなかった。

だけど俺の方は、その希望を否定しなきゃならない


「そんなの、お断りだ。余命がなかろうが何だろうが、自分でやれよ」

「…………貴様が何を思おうと、私は私の勝利を目指すのみだ。どんなことをしようとな」


その意志はひどく穏やかだった。

往年の押しつぶされるような殺気は無く、かといって無気力でも虚ろでもない。

それは俺が憧れた、いつだって必死で一生懸命だったあの人の姿とは違う、いわば自然体の構え。

……この姿を見ていると俺の推理が間違ってたんじゃないかって気がしてくる。

いや駄目だ、揺れるな。


「なら俺もあえて言おう。

俺は今日ここで、最強不敗のガンプラファイター二代目メイジン・カワグチを、倒す。
誰にもできなかったアンタの打倒を成し遂げて、隠居させてやる。

そのあとで二代目でなくなったあんたは自分の手で究極の必殺技を開発しろ。
そんな面倒で途方もなくて、面白すぎることを自分から手放すなよ」


「甘い考えだな。甘さが弱さだとは言わんが、今まさに敗北しようとしている貴様がどうやってそれを成し遂げる?」


「甘いのはあんたのほうだよ、おじさん。アンタは2つ失策を犯した。
ひとつは時期。その話をあと4年早く、ガンプラ塾を開いた頃にされてりゃ俺は引き受けたかもしれない。
そしてもうひとつはアンタの究極技の形が「月」をかたどっていたこと」


Wooooooooooon!


この白い世界でもずっと聞こえていた”遠吠え”に耳を澄ませながら、俺は突きつける


「知らなかったか。満月の夜には、正義の狼男が現れるんだって」


突きつけた右手を左胸にあてて、俺は大切なキーワードを口にした。


「"ボク"の心」 


◆◆◆◆◆◆◆


「待ってくださいメイジン!今そんなことしたら」


僕らの制止も届かずカテドラルガンダムは「月」を集めた弓を右足にセット。

あろうことか今もモンスターズレッドを押さえている「前の月」を踏みつぶす勢いで、
「新しい月」ごと飛び蹴りを繰り出して、って駄目だぁぁぁぁコレは死ぬぅぅぅぅ!


「フルムーン・スプリームブレイク」


その一撃は今までに見たフルムーンよりも、速くて重くて、当たれば間違いなく粉々だったろう。


「ミスター逃げろぉぉぉぉぉ!逃げるんだぁぁぁぁぁ!」


無駄と分かっていながら僕は大声で叫ばずにはいられなかった。


『……ボクの心、アンロック』


なのに彼の口から出たその"呪文"は、決して大きくはないのによく耳に響いた

瞬間白い光がモンスターズレッドから閃いて、ずっと押さえつけていた月をかき消した。


「え?」


その光の中でモンスターズレッドとは違う何かのシルエットを見た気がした。

もちろんそれはただの錯覚で、一瞬のフラッシュの後にはボロボロのモンスターズレッドが立っていた。

ボロボロではあったけれど、それはあくまでモンスターズレッド。別の姿のガンプラなんかじゃなかったのに。


『一瞬で、十分だ』


変わっていたのは、むしろミスターの方だった。

さっきまでの今にも死にそうな声とは違う、通信越しにも自信と力強さに満ちた声だった。


『"みんな"が見せてくれた答えがあれば辿り着けるトランザム・ブラックホールゥゥゥ!!』


砕けた月を構成していた粒子を、通常の3倍を超える猛烈な勢いでモンスターズレッドの太陽炉に吸い込んでいく。

それどころかカテドラルの蹴り技になってる月まで自分から吸い寄せて額で受け止める。

衝撃で両足が大地にめり込んだけど決して倒れはせず。背後にある最後の「花」を傷つけることもさせず。


周囲から粒子に圧されながらなおも立つモンスターズレッドの色が赤から虹の色へ、そして黄金へと変化。

同時に太陽炉に吸い込み切れなかった粒子が、破損個所から漏れ出た粒子が、物質化してツララのように尖った形に結晶化していく。


「あれはまさか、ハイパーモード?」


それはELSと融合したモビルスーツにも似て、だがそれ以上に黄金の光をギラギラとさせながらシルエットを変えて。


『これが俺の明鏡止水(クリアマインド)。

これが俺のダイヤモンドパワー。

これが俺の


光の中から生まれた新たな"怪物"は、その黄金の右拳から繰り出すアッパーカットで自分を踏みつぶさんとする月を粉砕。

カテドラル本体のふくらはぎを左手で握りしめ、高らかに産声を上げた。


『これが俺のスペースモンスターズレッド!!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』



(ケースExtra02-C「CASE00.デストロイ・アンド・リビルド(その3)」に続く)



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あきゅろす。
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