頂き物の小説
その4.春日未来です、アイドルになるために部活をやめてきました!
とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録
2013年 ミリオンシアター
39プロジェクト・オーディション会場
「では最後のかた、入室してください」
「はい!」
中に入ると机に着席してる人が3人いた。
スーツを着てるおじさんと、私と同じくらいの歳の女の子と、髪の毛真っ白のおじいさん。あ、目が紫色だ。外国の人かな?
よし、最初の挨拶は元気よくだよね!やるぞ!
「春日未来、14歳です!アイドルになるために部活をやめてきました!!」
「部活をやめたんだったら帰ってくださーい」
「は、はい!失礼しました!!」
私は入ってきたばかりのドアを開けて急いで建物から出て行く。
そのまま慌てて家に帰ろうとして――初めて気づいた。
も、もしかしてこれって不合格!?そんなぁぁぁぁ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「春日未来、ノリツッコミの知識は無し―――面接途中で退席、不合格!」
「ちょっと待ちたまえ、プロデューサー!」
「さぁ終わった終わった帰ろーっと」
「君ぃっ!?」
「アオナギ・ヤスフミ、この仕事に対する熱意なし、適当に済ませて早く帰りたいという意識が丸分かり」
「アマサキくん!?」
「あ、お気になさらず。今日はたまたまアカバネチーフたちの代理で面接官を引き受けましたが、私の本分はあくまで
外部からの技術スタッフ兼監査役兼雑用係です。アイドルの選定基準には口を出しませんのでご自由に」
「いやいや、君までそんなこと言わないでくれたまえ!それに――そう、君は今日の面接官だったんだし、彼女について何か批評を」
「元気な挨拶でしたが、極めて騙されやすい子でしたね」
そうだね、それくらいしか言うことないよね!一瞬しかいなかったしね!
「だがそれは素直さの裏返しでもある。なによりあの笑顔、実にキラキラしていたじゃないか」
正直に言って――――ティンと来た!彼女は39プロジェクト最後の枠にふさわしい人材ではないかと思ってる。
「それがアイドルとして愛される資質ってところは否定しませんが。39プロジェクトに入れても無駄だと思いますよ」
「む、それは何故かね」
順一郎兄さんだって、彼女を直接見ればティンと来ると思うのだが
「彼女をうちに入れた場合、その真っすぐな性質は徹底的にスクラップにされて別人同然になっちゃう可能性が極めて高いからです」
「スクラップ!?」
「例えばアオナギプロデューサーが何かの事件に関わり、あの子も巻き込まれたとします。
あるいは逆でもいいですが、彼女が動揺してちょっと弱気になったとして」
『あの、何とかならないんですか!?プロデューサーさんなら』
『お前は馬鹿か』
『ええっ!?』
『いや、言い直す。お前は馬鹿だ。みんなを舐めてやがる。お前なんか××の##で$$の &&なんだよボケが!』
『ええええええええええええっ!?』
「と言う感じでボコボコにいじられることでしょう。さらに吊り橋効果やストックホルム症候群が合わさった結果、フラグを立てられて
ごしゅP様って言ったり『くっ!』って言いながら瘴気を出したり、人目もはばからず子作り宣言したりする女の子に変わる可能性が―」
「あるかぁぁぁぁぁぁぁっ」
「と、このように主犯はまったく反省をしていないため、この未来を回避することは極めて難しいのです」
……ふむ、そう言われてしまうと。
「なるほど、それは残念だけど仕方ないのかねぇ」
「専務!?」
≪まったく、本当に仕方ない人ですねぇ≫
「アルトまでいったいなんなの!?何でいわれのない誹謗中傷を受けなきゃいけないの!?」
≪主様、ダイジョーブなの。みんなちゃんと分かってるの≫
しかし…それで彼女を手放すというのも勿体ない。問題がそれだけなら何とか克服の手段は無いモノか。
「一目見てティンときただけの相手に執心しすぎではないかと……。
そもそもアオナギプロデューサーが直接担当しなくても同じことです。
素直さと言う長所はこちらの『部活』を経験する中で悪辣さや鬼畜さにすり変わるリスクがあります。
今更ですけど、この劇場に所属する人材として必要な資質はアオナギプロデューサー及びその薫陶を
受けた人間にどれほど弄られようが、それでもブレることのない強い意思や目的を持っていることです。
そうでなければどんな長所や夢を持っていようと今の段階で審査する意味がありません」
うーむ、それもまた一理ある。しかし、参ったね。
「それでは春日くんに限らず今日面接した子たちは合格させるわけにはいかないと言うことになってしまうねぇ」
頭悩ませる私にアマサキくんは言った。とてもいい笑顔で。
「次善の策としてはミス・トヨカワやミス・サクラモリのように既にフラグを立てられている
人材の中からスカウトするべきかと。それなら所属後の変化も最低限に抑えられますから
と言うわけで――ナターリアとかどうでしょう?」
「公私混同でしょうがぁぁぁぁ!色々言ってたのはそのためかぁぁぁぁぁ」
◆◆◆◆◆
「うー、どうしよう。もう一度オーディション受けさせてくださいって言えば何とかなるかなぁ―――ってわぁっ!」
帰るに帰れず、とぼとぼとシアターの周りを歩いていたら何かにつまずいてコケちゃった。
「痛たた、って何これ?ロボット?」
私が躓いたのは掌に乗るくらいの大きさの緑色のロボットだった。なんか口からホースみたいのが繋がってて。
それで両腕に自分の体と同じくらいの大きさのスコップを抱えていて
「わぁ、ごめんねぇ。大丈夫かい?」
声を掛けられて横を向いたらそこには何か緑の植物がいっぱい生えてる……植木鉢?
にしては大きいからもしかして畑かな?があって、そこに女の子が一人いた。
緑のロボットと同じスコップを持って、顔と手袋に土がついてる。
「ほら、ザク太郎もごめんなさいだよぉ」
その子に言われたからなのか、私の手の中にいたロボットがお辞儀して謝ってきて…って。
「ロボットが動いたぁ!?わぁ凄い凄い!これ何で動いてるの?電池?ガソリン?」
「わたしも良く知らないんだけどぉ、ロボットじゃなくてガンプラって言うんだよぉ
なんとかりゅうしって言うので動いてるんだってぇ。みんな私の畑を手伝ってくれる凄い良い子たちなんだよぉ」
女の子の後ろからはザク太郎とよく似たロボットがたくさん出てきて、手を振ってきた。
「そうなんだ、ザク太郎えらいなぁ。畑の手伝いなんて、私したことないよぉ。あっ私、春日未来。よろしくね」
「私は木下ひなただよぉ。よろしくだべさぁ
こっちはグフ彦、ドム丸、アグたん、ゴッくんだよぉ」
「よろしくぅ。あ、ひなたちゃんってもしかしてこのシアターの人?」
「そうだよぉ。この子たちもねぇ」
「そうなんだぁ。用務員さんかなぁ、それとも園芸部?」
「ほえ?」
「あれ、違うの?でも畑でお仕事する人って……あ、もしかしてお花係とか?」
「あはは、違うよぉ。私はこのシアターの―――アイドルだよぉ」
「えええっ!じゃ、じゃあザク太郎たちも!?」
「うーんと、ザク太郎たちはガンプラだから、たぶん違うべさ」
「そうなんだぁ、でも良いなぁ。私も今日アイドルになるためにオーディション受けに来たんだけど」
「本当だべかぁ?じゃあもしかしたら一緒にアイドルやる仲間になるかもしれないんだねぇ」
「それが……部活を辞めたなら帰れーって言われちゃって」
「えー?おかしいなぁ、わたしはバトルも部活も苦手だけど、そんなこと言われてないよぉ」
「うぅ…もう一回受けさせてくれないかなぁ」
「えーと、そういう事なら――」
「――そういう事ならさ、一度『部活』をやってみたらいーと思うよ!」
「だ、誰ですか!?」
◆◆◆◆◆◆
「どうだろう、いっそ今日面接した子たちを全員集めて『部活』をさせてみて様子を見ると言うのは…駄目か
私もすっかり感覚がマヒしてるが、『雛見沢ゲーム部』は十分にスキャンダラスな内容だからねぇ。部外者を巻き込むわけにはいかないよ」
ひとまず今日は結論は出せないとして我々は解散した。蒼凪プロデューサーは既に退社している
それにしても39プロジェクト最後の一人をどうするか。一人事務所で思い悩んでいたら、ドアをノックする音がした。
「あのぉ、専務さん入ってもいいかなぁ?」
「木下くんかね?開いているよ」
ドアを開けて入ってきたのは39プロジェクト所属・北海道出身の木下ひなたくんだった。
他にも2体のガンプラがフワフワと浮かんで入ってきた
「グフ彦くとドム丸くん…だったかな」
「うん、そうだよぉ。専務さんありがとねぇ、皆の名前をちゃんと覚えてくれて」
「何、彼らもシアターの仲間だからねぇ。しかし相変わらず不思議だねぇ、彼らはどうやって動いているのか」
「んーとね、私もよく分かってないんだけど。りゅうしっていうのが皆の中には詰まってて、それが漏れないようにしてるんだって
それからこのシアターの中と周りに電波を流してて、その中にいるとみんなが自分で考えて動けるようになるんだって」
「うん、そうだね。アマサキくんとカルロス・カイザー氏の技術は本当に素晴らしいことだよ」
アマサキくん曰く、コンピュータチップもなくラジコンでもないのに彼らは自分の意思があるらしい。
彼らが成長すれば『発声』までも出来るようになると言うのだから本当に凄いと思う。
「それで、何か私に用事かな?」
「あ、うんそうだった。あのね、春日未来さんって子とザク太郎が今ね――」
★★★★★★★★★★★★★★★★
「それじゃあ今日の部活を始めるよー。今日のお題は――『ガンプラバトル』!!」
「はい、海美ちゃん質問!
畑で会った女の子――高坂海美ちゃんもシアターのアイドルさんでした。
その海美ちゃんとザク太郎に連れられて―――なんか大きな機械の上にザク太郎を載せたら何もない所にモニターとかメーターとか丸いのとか出てきた!
それでザク太郎がバビューンって飛び出したらモニターになんか綺麗な景色が映った!
でもこれって――
「はーい!何かな未来?何でも聞いて♪」
「それじゃあ――ガンプラバトルって、何?」
これって――いったい何?それで海美ちゃんや周りの皆もどうしてこけてるの?
それからかくがくしかじかでガンプラバトルとかリューシって言うのがどういうものかお話を聞いて
「え、じゃぁこの景色が全部この機械の上にあるの!?」
びっくりした私は真っ暗でモニターがいっぱいの所から出て――もっとびっくりした。
機械から青い光が立ち上って、その中にさっき見た桜が満開の景色が広がっててザク太郎と海美ちゃんのロボットが立っていた。
「うわー何コレ♪3D?じゃないや、触れるこれもリューシて言うのがやってるの?」
興奮して頭と腕を突っ込んで、桜の木に触ってみた!
「感触も本物そっくり!凄い凄い!凄いね、ザク太郎」
ザク太郎も一緒になって桜の花をさわさわする。その拍子に花びらがふわーって散って風に乗ってとっても綺麗だった!!
「ねぇ海美ちゃん、そっちのピンクのロボットもザク太郎の友達なんだよね?名前は何て言うの?」
「あ、うん。ティエレン・タオツーだよ」
「ティー?タコ?…エレンちゃん?やっぱり女の子なんだよね、ピンクだし!」
「えっと、ガンプラに女の子とかそう言うのは無いと思うんだけど……はっ!でもそう言う話が出来たほうが女子力高いかな!?」」
「よろしく、エレンちゃん」
「よーし今日からあなたの名前はエレンだよ!一緒に女子力付けようね!!」
エレンちゃんも嬉しそうにガッツポーズ。また新しい友達出来ちゃった!
「それで海美ちゃん、これでどうやって遊ぶの?お花見?」
それは楽しそうだけど、お弁当やお菓子が欲しいなぁ。
「違うよー、ほらコックピットに戻って戻って」
「えーでも暗いし周りも良く見えないよー?」
こうして手を伸ばしてるほうが色々触れて楽しいと思うんだけど
でもザク太郎も身振り手振りで私に戻れーって言ってきてる気がして
「ザク太郎、戻ったほうがいいの?」
そう聞いたら首を縦に振られたので、よくわかんないけど戻ってみる。
「そこの丸いのが2つあるでしょ?それはね、アームレイカーって言うんだけどそれでガンプラを操縦できるんだよ♪」
「そうなの、ザク太郎?」
モニターの映像が上下に動いた。これ、たぶんザク太郎が首を縦に振ったんだよね
「ふーん。じゃあまずやってみよう!」
その丸いのを両方同時に前に押して――
「うわわわわっ!?コケちゃった!」
それどころか足が滑った拍子に桜の木を蹴り飛ばしちゃったー!ごめんなさーい!!
「ちょ、だいじょーぶ?」
「うん、たぶん。今度こそ―――て、わあぁぁぁぁ!!」
もういちど挑戦してみたけど何でかすぐにコケちゃう
丸いのを前に左右に後ろにぐいぐい動かしてみたけど全然うまくいかない
『あれー、おかしいな?もっと簡単に動かせるはずなんだけど』
「えいっえいっ!やー」
押すだけじゃなくて引いたり回したりしてみる。そうしたら、丸いの隣にウインドウがいくつか出てきた。
「何だろこれ?――いいや、押しちゃえ。スイッチオンっ!」
"cracker”って書いてあったウインドウをポチっと押してみる
『ちょ、何やってるのーー!?手元でクラッカーを爆発させたりしたら』
ドゴーンと大きな音がして、それでモニターに映ってる景色がグラグラしてる!
警報みたいなのがウィンウィン鳴って、周りのメーターとかが真っ赤になってる!
「何?いったい何がどうなったの」
『爆弾がザク太郎のお腹を吹っ飛ばしたんだよ』
爆弾!?え、何それ!??そんなの聞いてない!!
私はあわててコックピットを出て、脇から機械の上にもう一度飛び込んだ
そこにいたのはお腹に穴が開いたザク太郎。私はザク太郎に手を伸ばして――勢い余って握りしめてしまった。
「うわザク太郎の体がポッキリ割れちゃった」
『えええええええええええええええええ』
≪Battle End≫
周りの桜が煙みたいに消えて、立ち上ってた青い光も止まって、機械はガンプラバトルが始まる前の状態に戻った。
違うのは、体がポッキリ割れちゃったザク太郎だけ
「ザク太郎――?ねぇ、ザク太郎…ザク太郎ってば!!」
それで何度呼びかけても、揺さぶっても動いてくれない
「まさかザク太郎、死――」
「そ、そんなわけないよ。ガンプラなんだから、ちょっと壊れただけで、死んじゃう訳がないよ…」
海美ちゃんはそう言ってくれたけどその顔は真っ青だった。
周りにいた他のアイドルさんたちも似たような顔色だった。
「ザク太郎!ザク太ろ―――」
「全員、動くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
私がそれでも呼びかけようしたとき、物凄く大きな声がして動きを止めてしまって。
ザク太郎を両手に抱えたまま振り返ると、さっき面接してくれた白髪のおじいさんと、ひなたちゃんがいた。
「いいか、今からお前ら全員俺の許可なく動くんじゃねえぞ」
そのおじいさんは何と日本刀を取り出して皆に怒鳴って。
そして私の傍にやってきて、ザク太郎を抱えてる私の両手をしたから包み込むように握ってきて。
「あ、あの」
「質問は後だ。ザク太郎は俺が受け止める。そのままゆっくり手をひらけ。ひらいたら握り直さず上を向けてろ」
とにかく言うことを聞けって感じのその人はものすごく怖い顔で、でも意外に優しい手つきでザク太郎を受け取ってくれて。
機械の上に紙を敷いて、その上に残ってた下半分と一緒にザク太郎の体を並べたの
それから今度は筆と紙を取り出して。
「次は君の掌に残ったザク太郎の破片を粉一粒残さず全部回収する。
くすぐったいかもしれないが我慢しろ。クシャミなんて以ての外だ」
「あの、これはいったい何をして」
「ザク太郎のパーツを全部集める。そうでないと体が動いても記憶が一部飛んでしまう可能性がある」
「ザク太郎、治るんですか!?」
「君がじっとしてればな!」
おじいさんは言った通り筆を箒みたいにして、私の掌から紙の上にザク太郎のカケラを移した。
「それからキノシタ。この子の服や足元に破片が残ってないか確認してくれ。できるな?」
「だいじょうぶだよぉ」
ひなたちゃんも筆と紙を持って私の服や足元を調べて、欠片を集めてくれた。
「ね、ねぇ主任。私にも何かできること」
「動くなって言っとろーがこのバカコーサカ!」
「ひぃっ!?そ、そんなこと言ったってー。だいたい主任だってちゃんと仕事してるの?
なんか今日のバトルベースおかしかったよ、ザク太郎もちゃんと動けなかったし」
「そりゃおのれが自律稼働も切らずにザク太郎と素人をバトルベースに放り込んだからだよ」
「へ?」
「ザク太郎とこの子がそれぞれ『別々に』体を動かそうとしたから、変な方にチカラが入ったんだ。二人羽織しながら二人三脚するようなもんだ」
「あ、あ!」
「それに今動けないのは単純に腹に穴が開いて粒子を留め置けなくなったから!――よし重量測定OK、全部集まったな!」
それからおじいさんはシュパシュパシュパーって目に見えないくらい早く手を動かして、バラバラになったザク太郎を治しちゃった!
「凄い、魔法みたい!」
「こんなもの、魔法でも何でもない。ほら」
それでおじいさんの手の中で……ザク太郎が動いたーーー!!
「ザク太郎!良かった」
おじいさんからザク太郎を受け取った私はぎゅーっと抱きしめた。
「おいコラ、また壊れるぞ!」
「あわわ、ごめんなさーい!ザク太郎、痛かった?」
ザク太郎はそんな私に首を横に振ってくれた
それから右手で私の服の袖を引っ張って、左手でガンプラバトルの機械を指さして。
「もしかして、またバトルしたいのかな?――よし、やってみよう!」
「って、ちょっと待て!」
2人で勢いよく手を振り上げたら、おじいさんに待てと言われちゃった。
「はい?」
「君、たった今ザク太郎が死んだんじゃないかって本気で怖がってたよな。
なのにいいのか、止めなくて?次は本当にもう会えなくなるかもしれないぞ」
おじいさんの紫色の目でじーっと見つめられる。こうされるほうがさっき怒鳴られたときよりも、ちょっとだけ怖いなぁと思う。
でも私、別におかしいことなんて何も言ってないよね?。
「あの、友達のザク太郎がせっかく誘ってくれたし、今度は私もうまくやりたいし、
それにまだガンプラバトルやシアターの部活って言うのがどんなのかも知らないし、だから、一緒に色々やってみたいです」
「次にケガさせたとき、俺が傍にいるとは限らないぞ」
「じゃあ次は私が治します!ばんそうこう持ち歩いてますし!!だから大丈夫です、おじいさん!!」
おじいさんは右手で頭を押さえてため息…駄目ですよ、ため息なんてついたら幸せが逃げちゃいますよ?
「コーサカ、この子お前より女子力あるんじゃないか?」
「ええっ、そんなぁぁぁぁ!!いや、まだ分からないよ主任。これからやるガンプラバトルでそれを証明して―――」
「はっはっは面白いこと言うなぁ。そもそも―――なんでシアターの中に部外者がいるのかな?」
その瞬間、急に気温が下がったような気がした。
周りにいたアイドルさんたちも顔を真っ青にしてるから気のせいじゃない。
「しかも素人にろくに説明もしないままガンプラバトルと部活を押し付けてどうする気だった?
カモにして罰ゲーム押し付ける気だったのかな?」
「そ、そんなことないよ。あくまで歓迎のつもりで――」
この場にいちゃいけない。私とザク太郎と周りのアイドルさんたちは言葉に出さなくても気持が一つになった気がした。
そろりそろり、抜き足差し足忍び足でここから脱出を。
「それとなカスガ・ミライさん。この髪のせいでよく言われるんだが、俺はまだ20歳なんだ」
「ええっ!?」
衝撃の告白に思わず大きな声を上げてしまった。わわわ、しまったーーー。
「全員正座!!これから説教タイムじゃボケェェェ!」
★★★★★★★★★★★★★★★★
とりあえずカスガ・ミライについては面接以降こちらの対応が色々アレだったということで、そのまま家に帰した。
後日改めて面接しなおすと専務から約束もした。
「それでどうだったかね、彼女は」
「一言でいうと……バカですね」
専務が苦笑するけど、要約するとどうしてもそうなってしまう。
「いえ、バカと言うより大バカ者でしょうか。きわめて情弱ですが、泣き虫ではあっても弱虫ではないようです。
最初イブキと同じタイプかと思いましたが、存外打たれ慣れしてます。
問題が起きたら人に頼るのではなく自分からガシガシ動くタイプです」
それが適切な方法かどうかはともかく。
「ふむ…つまり君の提示した問題点を彼女はクリアしていると言う事かね?」
「……判断されるのは専務やプロデューサーたちのお仕事です。私は何も口出ししません。では私はこれで」
「待ちたまえ、最後に一つだけ。彼女とザク太郎くんのことはあれでよかったのかね?」
もう特に話すことは無いので退室しようとするも、そんな俺を専務が引き留めた。
「あれで、とは?」
「先ほどの件でザク太郎くんの死を恐れたのは春日くんではなく、君の方ではないかね?
彼女たちがガンプラバトルをすることを止めなくて良かったのかい?」
「………アイツとその友達が自分たちの意思で選んだことです。
彼女は恐いモノ、都合の悪いモノから目を伏せるのではなく、
その恐さを知った上でそうすることが『自然だ』とする感性に従った
それはザク太郎も同じです。だから、私は2人の選択を支持しますよ
その結果が悲しい別れぶばったとしても、それはその時になってからの問題です」
それだけ言って、今度こそ退室する………一人になって先ほど見たものを思い出す。
砕けたガンプラと、泣き崩れそうだった少女と、そして治った途端に笑い合っていた2人の姿。
連鎖して、遠い昔の灰色の記憶――10年前、目の前で壊されたガンプラたちの姿も思い出す。
アノ時の自分はどんな顔で、どんな気持ちをしていただろうか。
その時大切に思っていたはずの何かは、ガンプラたちと一緒に壊れてしまって、まるで思い出せないけど
少なくともあの日一人では立ち上がれなかった俺に、彼女を止める気持ちはもう湧いてこなかった。
「はぁ、ナターリアのことも色々動かなきゃなぁ……」
実質シアター入りは、もう無理だしなぁ。
★★★★★★★★★★★★★★★★
それから数日後、再面接の日
「――――では最後に。春日未来さん、あなたはどうしてアイドルになりたいのですか?」
「はい、アイドルになって踊ったり歌ったりしてキラキラ輝きたいと思ったからです!
でも今はそれだけじゃなくてザク太郎たちとも一緒に踊ったり歌ったり色んなことしたいです
それもピンクで大きいザク太郎の掌の上とか宇宙とかジャングルとか北極とか――いろんな場所で
他にも畑を作ったり無人島に家を建てたりサッカーしたりマラソンしたり釣りしたり―――他にもたくさん!!」
「……夢がいっぱいですね」
「はい!」
無邪気な笑顔だった。なんて言うか、これは専務たちじゃなくても無下にできない。いわんや、専務たちは。
「それで、社長、専務はどう思われ―――」
「「ティンと来た!!」」
でしょうねぇ。あぁ、アキヅキ先輩が呆れてる。アカバネチーフも冷や汗かいてるよ。
「春日未来くん、合格だ。39プロジェクトの一員として、アイドルを頑張ってくれたまえ!」
「はい!ありがとうございます!!」
「彼女の加入をもって、39プロジェクトは正式に稼働する。赤羽根くん、秋月くん。君たちは
彼女たちのメイン担当ではないが、折々にはチカラを振るってもらうこともあるだろう。よろしく頼む。
そしてアマサキくん。君はプロデューサーでもない。ある意味ではもっとも彼女たちに
近い場所でチカラを合わせて働く人間だ。その君から彼女に何かあるかね」
「そうですねぇ……ではミス・カスガ」
「は、はい!」
「夢がいっぱいあるのはとっても素敵なことですが、残念ながら宇宙旅行は今すぐには無理です」
「えー!そうなんですか、でもアニメで見ましたよ!ガンプラが宇宙で戦ってる所!」
「………それはガンプラじゃなくて、本当のロボットが戦争してる映像だから。何より、アニメだから」
あぁアキヅキ先輩から不穏な気配がする。アカバネチーフ、なんとか落ち着かせてください。
「それから、この後シアターのみんなに顔合わせしてもらいます。
アイドル、スタッフ、それにガンプラたち……何か印象的な挨拶を考えてください。こっちは今すぐに」
「はーい!と言うか、挨拶ならもう決めてます」
「ほう?」
「あの、この前プロデューサーさんには弄られちゃったけど、でもそのおかげで
ザク太郎やひなたちゃんたちと友達になれたし、やっぱり単純に気に入ってるんです」
「……その挨拶とは?」
「はい、それは―――」
とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録
『その4.春日未来です、アイドルになるために部活をやめてきました!』
――――ここから始まる、ミリオンスターズの物語。
("おしまい”じゃなくて "はじまりはじまり" )
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