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頂き物の小説
その3.第8回シンデレラガールズ総選挙応援小説 ナターリア、愛のヒッサツケン!!
とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録



『その3.第8回シンデレラガールズ総選挙応援小説 ナターリア、愛のヒッサツケン!!』



第7回ガンプラバトル世界大会ブラジル予選 決勝戦


『ヴオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』



南米はアマゾン川流域に広がる巨大な鍾乳洞『ジャブロー』

地球連邦軍の本拠地にして天然の大要塞たるこの場所で2体のガンプラが戦っていた。

基地を襲う襲撃者と守ろうとする兵隊……ではない。それどころか宇宙世紀のMSでさえない。

いや、この状況を2体のMSが戦っていると表現するのは決してふさわしくない

客観的に見てこの状況は―――暴れまわる怪物と、今にも死んでしまいそうな哀れな少女と言う他なかった


怪物の名は『モンスターズレッド』、少女の名前は『ソードカラミティ・ブラックローズ』と言った。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァ!」


その怪物はトランザムの赤い光に包まれながら、岩壁を蹴って蹴って蹴りまくっていた。

その反動でジャブロー内部を飛び回り、その度に地響と共に足元が揺れてまともに立っていられなくなる。

ソードカラミティも出来ればこの場で頭を抱えてうずくまりたいところだったがそうもいかなかった


何故なら怪物が右肩に掲げた巨大過ぎる日本刀「150Mガーベラストレート」が石柱をスパスパ切っていたから

刀を振り回しているのではなく、両手で抱えて右肩に押し付けているだけ。

そんな状態で石柱に衝突すれば普通は『カキーン!』といい音を立てて弾かれるものだ。

しかしながら実際にはそんなことは関係ないとばかりに、まるでプリンのように刃が触れただけで石柱は切れてしまった。

結果、カラミティは足元の揺れだけではなく真上から降ってくる巨岩からも逃げるため、スラスター全開で逃げ回らなくてはならなくなった。

ガンプラの体内粒子はビームエネルギーにも使われるものだから、使い切れば反撃さえ出来なくなってしまう。

そうなれば後は暴走怪物に轢かれるか、斬られるか、岩に潰されるか生き埋めか―――


「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


怪物の放つ絶叫に耳を塞ぎながら、観客達は思う。

このままなすすべなく敗れてしまうのか。今年もあの怪物が世界への切符を手にしてしまうのか。

これまで幾多のガンプラたちが同じようにフィールドを破壊されて沈められてきたことを思えば、それはどれほど拒否したくとも当然の未来のように思えた。

だが。


「…よし、リズムは覚えたゾ!」


被害者の筈の少女は何一つ絶望していなかった。

その小さな声は咆哮にかき消されたが、カラミティの変化は劇的だった。あるいは劇場的だった。


振動によって跳ねたり落ちたりしている岩のひとつに飛び移り、二振りの対艦刀を抜いて。

あろうことか、踊り出したのである。クルクルと。


飛び交う岩を躱し、あるいは切り裂き、刀を羽のように広げてフワフワと。

時に赤い怪物の軌道上に立ち、しかし触れれば即死の暴力に何一つ臆することなく軽やかに避けてしまう。

それどころか躱す瞬間に剣を振るって反撃まで――残念ながら刃はGNフィールドを突破できなかったが、観客を沸かすには十分だった。


先ほどまでの怪物にやられるのを待つだけの哀れなガンプラはもういない。

ここにいるのは恐ろしき暴力に晒されながらまるで関せずとばかりに楽し気に踊る妖精だった

その姿に会場の誰もが見惚れた。


そして心を波立たせているのは妖精を襲う怪物もまた同じだった。

怪物は先刻妖精が発した『リズムは覚えた』という言葉を会場でただ一人聞いていた。


それは鍾乳洞を飛び交う自分のリズムを、ということだったのだと既に気づいている。

実際自分の軌道は直線的であるし、読もうと思えば読めるだろう。

ただ軌道は直線的でもそれが重複することで起きた振動は別だ。

まともに立たせることがまず難しいし、前もって練習できるようなことでもない


にも拘らず彼女は楽し気に踊っていた。

一体どんな経験と思いをもってここに立っているのだろうか。

聞いてみたい、と思う気持ちとは裏腹に、あるいは「これはこれ、それはそれ」の精神で怪物は壁を蹴り。


「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


そのまま天井に向かって飛んだ。

肩に担いでいた刀はそのまま天井を突き、鍔が岩肌に当たるまで差し込み、間髪入れず天井をまた蹴った。

向かう先にいるのは真下であり、ソードカラミティの頭上だった。

同時に右手で柄を抱えていた刀も天井から抜かれる。

するとどうなるか。

天井を蹴った反動でキックしてくる怪物がカラミティに向かう。

怪物に引っ張られた巨大な刀も落ちてくる。そして


≪Field Change≫


刀の刺さっていた天井の穴から――ジャブローの上を流れていたアマゾン川の莫大な水が降ってくる。

最後に亀裂が広がり、天井全体が崩壊して巨岩が迫ってくる。


『わわわわわわ!?』


そこでカラミティから聞こえてきた声は、恐怖よりも驚き、そして感嘆の感情だった。

観客たちは逃げ場のない絶望に諦め、声も出ない様子なのに。

カラミティは二刀を掲げ、頭上で交差して迎撃の構えを取った。

確かにそれこそが最適解だった。

一瞬後に水に流され岩に埋まるとしても、その一瞬前に怪物を討ち取りさえすればこの戦いは終わるのだから。


これが最後と決めたからだろう、対艦刀のビーム刃に注ぎ込まれた粒子量は今までで最大だった。

意識を集中し、同時に自然体でもある構え。

そこから繰り出される二振りの攻撃は間違いなく今日のこの試合が始まって以来最高のモノだった。

その攻撃ならば、今度こそGNフィールドを切り裂き怪物を討ち取れただろう。


―――当たってさえいれば。


『あぁっ!?』


攻撃は空振りした。

真っ赤に輝く怪物が最大加速度で迫ってくることを想定した迎撃は、その怪物自身が赤い光――トランザムを解除したことでタイミングがずれたのだ。

まるで野球のチェンジアップ。振り切ってしまった刃に、一瞬遅れて降りてきた怪物の双脚が繰り出される。


『きゃぁっ』


二刀を弾かれ、態勢も崩す。頭上には刀と水と岩が迫っている。

メイン武器もエネルギーもなく、今度こそカラミティに打つ手なしかと、観客も審判も怪物さえもが思った瞬間だった。


『まダっ!まだナターリア諦めないヨ!!』


少女は再び立ち上がった。

否、態勢は崩しても何一つ心は折れていなかったのだから「立ち続けていた」と言うべきか。

両肩のビームブーメラン「マイダスメッサー」を両手に構え、発生したビーム刃で落ちてきた刀の柄を受け止める。

余りにも無謀。そもそもビーム刃は焼き切るものであって巨大質量を受け止めるようにはできていない。

だが。


『だってナターリア、必ず優勝してヤスフミに会いに日本に行くんだかラーーー!!』


その表情は受け入れがたい現実に抗おうとする必死の形相ではなく、望む未来に手を伸ばし不敵に笑うものが持つ、希望に満ちた笑顔だった。



その後のことを何と表現すればいいだろうか

例えば、胸のスキュラを姿勢制御用のスラスターに換装した代わりに複層ビーム砲のメカニズムをマイダスメッサーに移植していたことが功を奏したのだとか。

仮説は幾らでも立てられるが、実際に何が起きたのか全容はそれから1年経っても明らかになっていない。

ただひとつだけその場にいた本人以外の全員が「こうであればいい」と思ったことはある。

これは恋する乙女の純真な気持ちにプラフスキー粒子が応えた奇跡なのだと

その奇跡ゆえに、ライザーソードもかくやという本来ならあり得ないほどの巨大な刃がマイダスメッサーから発生し全てを吹き飛ばしたのだと。


≪Field Change≫


もはや何もかもが吹き飛び、あるいは水の底に沈んでしまい、フィールドは元の地形とは似ても似つかぬ『湖』へと変わってしまった。

一応は此処はまだ地下で、設定上の『アマゾン川上流』から水が注がれ続けてはいるが、青空まで見えてしまってはここがジャブローだったと認識するのはいささか難しい。

しかもその青空には大量の水が吹き飛んだ影響で虹までかかっているのだ。

つまり、どういうことかと言うと。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


観客たちが一斉に歓声を上げるのも当然、と言う事だった。


怪物――ジオウ・R・ラケルスもその気持ちは同じだった。

もしも今観客席にいたなら歓声は上げずとも拍手くらいは打ちたいところだ。

彼をそんな気持ちにさせたガンプラファイターは、今までの人生で5人もいない。


「……ヤスフミと言うのは、ジャポンの"蒼い幽霊"ヤスフミ・アオナギのことか?」


湖から突き出た『150Mガーベラストレート』の柄の上に立ちながら、ジオウはこの試合で始めて人語を投げかけた。


『うン!ヤスフミとは4年前に一緒にリオのカーニバルで踊ったんダ!その時からずっと好きだったんだゾ!』


その言葉を聞いて会場中の観客がほっこりした。「エエハナシヤ」と。


『でもヤスフミ、ナターリアのこと待っててッて言ったのニ、勝手に結婚しちゃったんダ』


次の瞬間会場中から今は地球の裏側にいるであろうヤスフミ・アオナギに殺意を飛んだ。「オンドゥルルラギッタンディスカー!」と


『だからナターリア、この大会で優勝しなきゃなんダ。優勝すればタダで日本に行けるかラ!』

「……それはつまり、おまえを裏切った蒼い幽霊のことを刺しに行くとか?」

『違うヨ!本当はヤスフミを独り占めにしたいヨ!?

デモ、ナターリアいっぱい勉強して……奥さん達とイッショでも……いいかなッテ』

「…いいのカ?」

『ウン、だってナターリアはヤスフミのこと大好きだから……ヤスフミと幸せになりたいし、ヤスフミには幸せになって欲しいヨ!』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』


その瞬間、全ブラジルが泣いた。

会場に来ていた観客は勿論、テレビやネット配信で見ていた者、後日口コミを通じて彼女を知ったものも含めてブラジルの多くの国民が彼女のファンになった。

『ソードダンサー』―――妖精のように剣を振るい踊る者―――の二つ名と共に、ナターリアはブラジルの国民的アイドルになった。


そしてもう一人、この日ブラジル国民の脳裏に深く刻まれた名前があった。


ジャポンのガンプラファイター、ヤスフミ・アオナギ。


「オンドリャア ウチラノ ナターリアヲ モッペンナカセタラ ユルサンケンノー!」と言う覚悟と共にその名は記憶されることになった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『はいー、と言うわけでご覧いただいたVTRは第7回ガンプラバトル選手権ブラジル大会決勝の様子でしたー』

『みんな応援ありがとうだゾー』


シアター内の多目的ルームのテレビで、生放送中のナターリアの姿を見る。

先ほど流れたVTRと比べると1年ほどの間に少しばかり背が伸びたようだ

それでもその天真爛漫さが損なわれることなく、また畜生道に落ちたりもしていないことに安どする。

一応保護者代理なんだが、アレが346に入って以来最近はほとんど直接会えてないからなぁ。

それがまさかアイドルとして躍進するより先にガンプラファイターとしてテレビに出てる姿を見るとは。


「わ、わぁ……ナターリアちゃん、凄いですねぇ」

「主任さんも凄いよー、バババーって飛んだり跳ねたりしてぇ」

「あ、リインちゃんも映ってますよー。ヤッホー」

「……カスガ、これはテレビ電話でもスカイプでもないから。コメントも出来ないから」


ちなみに俺だけじゃなく予定の空いてた一部のアイドル達も一緒に見ている。

この番組は第8回世界大会・U18の部でシード枠を取った選手たちの特集なので、彼女たちも暇なら是非見ろと言われていたらしい。


シード選手とはこの場合、昨年の第7回大会で決勝トーナメントを戦った選手のうち、学生であるものを指す。

つまりイオリ・セイ、ヤサカ・マオ、アオナギ・リイン、そしてナターリアの4人で全員が今この番組に出演している。

リインちゃんとナターリアはメインファイターではなかったけれど、それぞれチームのセコンドとして決勝にコマを進めたから。

まぁナターリアはブラジル予選で一度敗退してるわけだし、この扱いをおかしいとする声もあるにはあった。

が、ニルスやアイラ・ユルキアイネン、それに赤毛の王子様が出ない以上、イオリとヤサカだけでは華やかさに欠けるとの声が上がり最終的にリインちゃん共々こういう扱いになった次第だ。


「でもナターリアちゃん、本当に凄いです。あんな、大勢の人の前で、あんな、あんな…」


シノミヤ(篠宮可憐)が顔を真っ赤にしながら何度も「あんな」というワードを繰り返していた

その先を言うのは、彼女にはちょっとばかり刺激が強すぎるらしい。


「まぁ確かにな。恋や愛の感情をパワーに変えるってのはアニメなら良くあることだが、だからこそ
リアルでそれをやられたら感動するしかない。まぁ感動したまま終われたら美しい話だったんだが」

「え、終われたらってどういうことですか主任さん」


カスガ(春日未来)が不思議そうな顔で聞いてくるのを見て、苦笑する。アキヅキ先輩がいたら勉強不足だって軽く叱られていただろう。


「ほら、このVTRの後で俺が勝っちまうから」


「「「あっ」」」


「その瞬間、会場どころか国内中から大ブーイングで……もう酷かったんだぜ。
元々無茶苦茶してたのもあって、俺を庇うのがとうのナターリアだけって言う始末でさ。

なんとか条件付きで俺のチームメイトとして日本に連れて食って約束することで収めたんだが」


「は大変だったねぇ。でも条件かい?なんだい、それ?」


キノシタ(木下ひなた)が俺を労いながらも疑問を呈する。まぁ大したことじゃない。


「アオナギへの愛が本物だと証明するために、ロボットアニメ界に伝わる三大告白拳をどれか覚えろと」


「「「こ、告白拳!?」」」


その響きだけでシノミヤもカスガもキノシタも顔を真っ赤にして戦慄した。

やはり女の子はこういうのが好きらしい



「……一般的には世界三大恥ずかしい告白シーンなんて不名誉な呼ばれ方をするんだがな。
告白時に振り絞られる愛や勇気や羞恥、幸福感等その他様々な感情でプラフスキー粒子に

乗せることで、通常戦闘の何十倍ものパワーを引き出そうって理論だ。とはいえ実戦で
繰り出したケースはまだ無いから与太話扱いされているマイナー理論なんだけど」


昔ガーベラを振るうパワーを獲得するためにあれこれ調べてた頃の研究のひとつでもある。

その中ではかなり効率のいい方法だったのだが、惜しむらくは俺との相性が悪かったことだ。


「で、でも日本に来たってことはナターリアちゃんはその技をちゃんと覚えたんですよね?」


「まぁな。つっても『ゲイナー拳』は奪い取る愛が前提で融和を希望するあいつには向かなかった。
『ドモン拳』は告白を受け入れてもらった後のラブラブ天驚拳までがセットだから練習のしようがない。

結果、何とか形になったのは最後のひとつだけだったな」


「それでもなんか凄そうです!告白か告白ってことは、告白なんですよね!告白なんだから」

「浮かれてんのか混乱してるのか、意味のない言葉遊びになってるぞ」


ちょっとは落ち着けって。


「で、でも告白なんだから…プ、プロデューサーさんはどう思ったんでしょうか」

「そ、そうだよねぇ。プロデューサーも、このテレビどこかで見てるかなぁ」


浮ついているのはカスガだけではなかったらしい。シノミヤとキノシタまで顔を真っ赤にしながらそんなことを言う。

そりゃああんだけの告白を見せられたら、それが上手くいってほしいと思うのが人情と言うものではあるだろう。

だがそう言う期待があっさり裏切られるのがこの世の無情と言うものでもあって。


≪この人なら、テーブルの下にいますよ≫


「へ?……て、うわああああああプロデューサーさん!?」


そう、テーブルの下には白目を向いて転がっているアオナギの姿があった。


「プロデューサーさん!しっかり!」

「いったい、なにがあったんだべさー」

「何があったも何も、さっきのVTRが始まった途端にこの有様だ」

「えー!?」

「なぁ、アルトアイゼン?」


≪えぇ、実は実は去年の国内決勝のバトル映像、前にも見せたことあったんですよ

そのときもブラジル全国民の前でナターリアさんが告白したことと、国民の大半からナターリアさんが
応援された事実を受け止めきれずに気絶しました……まったく、本当に駄目な人ですねぇ≫

「今回の場合は、身体がその時のことを思い出したってとこかなぁ」


これも一種のアナフィラキシーショックなのかもしれん。知らんけど。


「た、大変です。早く気付けを」

「ほっとけ。起こしてもまたすぐに気絶するんだから」

「え?」

≪このあと、番組内でシード選手同士がバトルする予定なんですよ≫

「えーっと?」

「もしかして……ナターリアさん、また告白するんかい?」

「えぇ!?で、でもそうとは限らないんじゃ…プロデューサーさんが現場にいるならともかく」

「いいや、仮にナターリアにその気がなくてもさっきのVTRを見たリインちゃんは触発されるだろうな

ガンプラマフィアとのバトルで“告白キャノン”を見せたヤサカ・マオも同じ。

他の奴が動くならナターリアも…てこと感じになる可能性は極めて高いな」


で、俺にも彼女たちを止める権利はない。そもそも止める意思もないけどさ。


「い、いいのかなぁ。ナターリアさんももう346プロのアイドルだよねぇ?

アイドルは皆の前でそう言うこと言わないって、ばあちゃん言ってたよ?」


ところがキノシタはそこに不安があるらしい。本当にそれで大丈夫なのかと心配してくれる。

やはりこの子は純粋ないい子だなぁ。俺は彼女を安心させるように微笑みながら言った、


「うん、ほんのちょっと前まではそうだった。でも今は違うんだよキノシタ」


ほんのつい最近、レディ・マユ・サクマが日本のアイドルの在り方を変えた。

アイドルが恋をして、恋する誰かのためにアイドルを頑張っていると公言してもいい時代になった。


「もちろん何でもかんでも思っていることを口にすればいいってもんじゃない

仕事の上で色んな人に迷惑をかけることもあるし、好意を寄せてる相手に嫌われることもある」


自由恋愛が許される時代になったとは言え、人と人の間で生きる以上は必要な配慮と言うものがある。


「だからもしもキノシタに好きな人が出来て、真剣な気持ちでお付き合いしたいって言うなら俺や担当プロデューサーに相談してくれ。悪いようにはしないから」

「う、うん」


彼女は素直に頷いてくれた。若干顔が赤い気がするが、まぁ話題が話題だしな。


「で、今回の場合、ナターリアがもし告白拳を使ってくるならそれは346のプロデューサー、あるいは
プロデューサー達の間で許可が下りてるとみて良い。おそらくは今後の346プロ全体の展開も考えた上でな」

「今後って、ナターリアちゃんが他にも何かするんですか?」

「346全体って言ったろ。あそこにはアオナギが無責任にフラグを立てまくったアイドルが相当いるからな。

タカガキ・カエデ、カワシマ・ミズキ、ニッタ・ミナミ……その他多数のアイドルが公の場でアオナギへの愛を叫ぶようになるだろうな」


「えぇ!」

「そ、それは本当にいいんかい?」

「今更だよ。彼女らに慎みを求めるのは今更だし、これからはそっちのほうが多数派になるだろうな」


そしてアオナギの首はどんどん締まっていくわけだ。


「それは何て言うか、プロデューサーも大変なんじゃないかい?」


キノシタは相変わらず優しいが、それは視野が狭いってもんだ


「だとしても自業自得だよ。346のアイドルであるナターリアのプロデュース方針に口出す権利はこいつにない。

そもそも今更文句を言うくらいなら、俺がナターリアを39プロジェクト推薦したとき765に入れとけば良かったんだ」


≪チャンスがあったのにヘタレて色々言い訳して、規定人数集まるまで逃げ続けてたのはこの人ですしねぇ。

もっともナターリアさんが765プロに入っても止めれたかどうかは怪しいですけど。

この人39プロジェクトの担当プロデューサーになることも拒否してますから≫


「だよなぁ。リーゼさんたちなら状況次第であっさり許可を出しそうだ」


だからまぁ、今回のアオナギの失態から得るべき教訓があるとしたら。


「人間がおのれの感情に従うのは正しいが、その結果が先々にどう影響するかはちゃんと考えておくべきってとこか

でないと感情のままにウイングゼロを動かして、あわやトロワを失いかけたカトルみたいになっちゃうからな」


「「「はーい」」」


うん、いい返事だ。さて、そろそろテレビの視聴に


『痛いのいきますよぉぉぉ』

戻ろうとしたらもうバトルが始まってた。と言うかヤサカがいきなりフィニッシュアーツを繰り出そうとしてた!?


◆◆◆◆◆◆◆◆


『マイクロウェーブ受信完了。ガンダムX十魔王、十連サテライト"ミサキちゃん命"キャノン、発射やぁぁぁぁぁぁぁ!!』


世界を埋め尽くすほどの青い光がナターリアとカラミティに降り注いでくル。

その光の面には赤い文字で『ミサキ命』って書かれてテ。

たぶん、横から見ても同じことが書いてあるんだよね。ガンプラマフィアの戦いを見てたから分かるゾ


これがガンプラ心形流、心を形にするガンプラファイター。


"心ってのは1秒ごとに形を変えるもの。だからこそそれは形にするのは難しい

大抵の武道ってのは最高スペックを引き出せる心理状態をいつでもセットできるように修行するもんだが奴らは違う

刹那の一瞬に、その瞬間の自分のすべてを表現するために、彼らの日々の修練はある"


ジオはバトルに負けたナターリアをセコンドにして日本に連れてきてくれタ。

それだけじゃなくテ、『2番弟子』にしてたくさんのことを教えてくれタ。



"お前が大好きな人に会いたいように、俺にももう一度会いたい人たちがいる。
その為だけに、俺はガンプラバトルをやってる。"


例えばあの決勝戦のバトルのトキ


"だから、お前に手は抜かない。全力でお前を倒して道を切り開く"




【俺は××××を××××する奴らが嫌いだ!自分の喜びの為に××を傷つけるような奴は皆××してしまえばいい。お前も、アイツも、おじさんも!!】


例えば、間違ってウィスキーボンボンを食べて酔っぱらったトキ。


【だけどお前らみたいのが報われないのはもっと嫌いだ!だから××へ××る前にとっとと夢をかなえやがれ、馬鹿野郎ども!!】




『いいか、ガンプラの性能が完成度に左右されるのは色んな人の想いを集めるからだ。

それを見て感動したもの、向かい合って戦慄したもの、そして何よりもそれを作り上げようと苦心してきたビルダーの想いが詰まってるし、そこにガンプラがある限り想いは注がれ続ける

逆にガンプラに向いていない感情はプラフスキー粒子に反応しにくい。まったく反応しないではないが、燃費が著しく悪い』


例えば、告白拳の練習をしていたトキ。


『だからお前はアオナギ・ヤスフミへの想いとは別に、いついかなる時もガンプラへの気持ちを忘れるな

信頼、誇り、愛情、仲間意識。何でもいいがお前の人生からガンプラを置き去りにするな。そうすれば。

そうすれば―――お前は二代目メイジン・カワグチにさえ勝ち得るスーパーガンプラファイターになるだろう』



ヤスフミのことは大好き。一番大好き。それは一生カワラナイ。

けどジオには感謝と、あとよくわからない温かい気持ちが胸の中にあル。


もう一度目の前に迫ってくるマオのサテライトキャノンを見ル。

そこに籠ってるマオの気持ちが分かる。マオがミサキって人のことをどれだけ好きか分かル

マオの大好きな気持ちはナターリアに全然負けてナイ。それが今のナターリアには分かル。


この攻撃は大きくて速くて熱くて、ナターリアだけの力じゃ逃げても逃げきれないし、打ち消すことも出来なイ。


でも――大丈夫。


ソードカラミティ・ブラックローズの両足にはスラスター付きのブレードを追加してル。

使わないときはふくらはぎにピッタリくっつけてるそれを広げて、サテライトキャノンに向かって推力全開

上か横に逃げても間に合わない、キャノンの光はもう目の前。

一瞬後には接触して融解しちゃう。ミンナそう思ったと思ウ

でもその瞬間、ソードカラミティ・ブラックローズは急上昇した。


「なんやて!!」


キャノンからあふれ出る粒子の余剰エネルギーを揚力に変えて。


"飛行機ってのは向かい風に向かって飛ぶから昇っていけるんだ"


「マオ!マオのサテライトキャノン凄かったヨ!

凄かったからナターリアはマオのサテライトキャノンから脱出デキタ!

ソレデ今度はコッチのバン!―――無限ビームアンカー!!」



ワイヤーの代わりに牽引ビームで繋がってる両手のアンカーを、真上に向かって飛ばす


「何してるんや!?空にアンカー伸ばしたかて、そこには何もない!雲一つなくて――まさか」


「そのマサカだヨ!マイクロウェーブが使えたんダカラ、当然あるよね!!」


マオにナターリアの狙いが分かってもガンダムX十魔王はパワー切れ、すぐには動き出せナイ!

だからこっちもヒッサツワザの準備が出来ル!!


「ナターリアはヤスフミが好き!

一杯お金稼いで、大人になって、結婚して、赤ちゃん産んデ、年を取ってしわくちゃのおばあちゃんになっても!

ずっとヤスフミの傍にイル!ヤスフミがどこに飛んで行っても、無限に飛びマクッテ、無限に好きでい続ける!!

だから――今日はマオに勝ツヨ!ガンプラバトルにだけじゃない、好きな人を大好きだって気持ちでも!!」


だから普通に勝つだけじゃ駄目なんだ

ヤスフミを大好きだって気持ちとジオに教えて貰ったこと、それにカラミティなら絶対できるって信じる気持ち

それを全部込めて、今――――


『月が落っこちてきたやとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?』


"騎士ガンダムやGガン系のメカニズムを取り込んどけば、大抵の無茶苦茶は通るから"


そう、このステージには最初から月がデテイタ。もしそうでなかったら流石にできなかったケド、結果オーライ!

その月の表面にハートマークとヤスフミ、ナターリアの名前を彫る!

そして無限アンカーに騎士ガンダムの「赤い月が地上に落ちてくるエピソード」を混ぜて繰り出すこの技の名前は


「レッドハート・ムーンフォール!!」


月を丸ごと落っことしながら告白するこの技――受けてミテ、マオ!


「んなアホな……いつの間にハートマークなんか彫ったんやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「それはキギョーヒミツだよぉぉぉぉぉぉ!!」


必殺技を放ってエネルギー切れの所を狙われて、十魔王は反撃も出来ずに月の落下をクラッタヨ!


≪Battle Ended≫


………ナターリアの勝ちだ!

ヤスフミ、ジオ!!見ていてくれたカナ!?


◆◆◆◆◆◆


テレビの放送が終わったら、携帯にジオからメールが来てタヨ。


"いい告白だったぞ"

”ありがと。ジューマオウーは思った歩道壊れて無かったよ。問題なく治せるって”

すぐに返信シタ。ついでにジオが気にしてそうな十魔王のことも教えてアゲル


"それは良かった"

”ジオもハヤく告白しなよ?ガン×ソードみたいなのとかドーダ?”

"それじゃエレナが死んでるじゃないか(# ゚Д゚)"

”とにかくミホをあんまり待たせないようにナ!”

"……善処する"

”↑なんてよむの?”

"ゼンショだ。とにかくワルいようにはしないよ。じゃあな"



それでジオとのやりとりはおしまい。他の皆からの連絡にも返信シテイク

でもヤスフミからは来てないよ。ウー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふー……分かってるよ」


ナターリアとのやりとりを終えてそっと息を吐く。


「ナターリアちゃんですか?」

「あぁ、なんで分かった?」


テレビも終わったので技術スタッフ用の事務室に戻ってきたら、何故かシノミヤがついてきて、しかも気持の落ち着くアロマとやらまで焚いてくれた。


「ジオウさん、テレビでヤサカくんのガンプラがやられたところを見て少しだけ辛そうな匂いをしてました。

でもメッセージを読んでジオウさんの辛い匂いがほんの少し薄らいだんです。

だから、何か安心させてくれるようなことをナターリアちゃんが教えてくれたのかなーって思って」


その分析にはただただ驚愕を覚えた。

匂いフェチのケミカリスト兼アルケミストな幼馴染ならともかく、付き合いの短い彼女にそこまで読まれるとは。


「そんなことまで匂いから分かるのか」

「は、はい。志希さんに色々教えて貰いましたから」


案の定、問題児なセカンド幼馴染の仕業だった。


「そうか……あいつに何か苦労させられてないか?」

「い、いえ。私はお世話になってるばっかりで」

「口にはできないような目にあってると」

「違いますっ!私はただ、教わっただけなんです。
その、ジオウさんがこのシアターを作った本当の理由とか、このシアターに来た理由――」

「ストップ。それ以上はここで言うな」


どこで誰が聞いてるか分からないし、アイドル達に知られたら彼女らの活動に水を差すことになる。


「いや、いいよ。正直お前みたいに知っててくれてる奴がいてくれて俺も気が楽だ」

「わ、私は別に何もできてなくて」

「でもお前の方はどうなんだ。俺みたいに顔で笑いながら皆に嘘ついてる奴が傍にいるって、嫌じゃないのか?」


そう、俺の思想はこのシアターに集ったアイドルにとっては異端だ。

ナターリアとのバトルでも、直接攻撃することを避けて『生き埋め』と言う消極的手段を取った。

俺と言う存在は、アイドルたちが励み求めているものを見下しているも同然だ


「そんな…嘘なんて何もつかれてないです。
ジオウさんが私たちのやりたいことを、一生懸命応援してくれてるって知ってます

ガンプラの皆が、ひなたちゃんのガーデンをお手伝いしてくれたり。
未来ちゃんと一緒に遊んだり、スバルちゃんと野球したり、ステージで踊ったり。

リトルミズキちゃんや茜ちゃん人形ちゃん達が喋れるようになったのも、みんなジオウさんのおかげです。
だから、ジオウさんが迷惑だなんてことないです!」


「そっか、ありがとう」

そう言ってもらえるとだいぶ気が楽だ。


「いえ、そんな。私の方こそ、ご迷惑じゃないですか?私、まだ全然気弱で、駄目駄目で――」


と思ってたらネガティブ思考は向こうも同じだった。と言うかこれは俺よりもアイツに似てるかも


「でも、そんな弱気な自分から変われるようにって、頑張ってるんだろ?」

「え?あ、はい。それはそうですけど、でも全然で」

「なら十分だ。俺、お前みたいな奴は結構好きだぜ」

「え…えええ!?」

「自分のことにはネガティブなくせに、あるいはだからこそ、人の良い所は良く見える所とか、気弱そうに
見えて、時々すごく頑固で強気になる所とか、良いと思う。俺が推してるアイドルと、少し似てるよ」


うん、だからまぁ、応援したい気にもなるんだ。


「そ、そうですか、ありがとうございます!…私、私も、ジオウさんが…ジオウさんのことが…」

「うん?」


ちょっと待った、この流れはまさか。いや、まさか


「ジオウさんのことが、す、ス――――ジオウさんの匂いが大好きです!!」

「………………は?」

「あの、初めて会った日からジオウさんの匂いは特別で、シキさんに色々教えて貰ってもっと好きになって!!

嗅いでいると凄く落ち着いて体が温かくなって、ずっと嗅いでいたい気分になるんです!」

「――――――――うん、わかった。わかったから少し落ち着けカレン?」


とりあえず、まさかはまさかに過ぎなかったらしい。


「あ、すみません。私ったらはしたない真似を」


物凄く脱力しながら、なんとか彼女を落ち着かせる。


「とりあえずアレだ、さっきはアイドルが誰かを好きだと公言してもいい時代になったなんて言ったけどな。
特定の男の匂いだけが好きって発言は流石にまだ時代が追いついてないと思うから、当分は内緒にしとこうな?」

「す、すみません…」

「いいよカレン、何度も謝らなくても」

「いえ…まだ、勇気が出せなくて…ってアレ?今もしかして私の名前を」

「あぁ、うん。まぁ互いの秘密を知る仲だし、少しは友達ぶってもいいかなって思ったんだが」


まぁ当初は【一ノ瀬志希被害者友の会】の仲間だと思ってたのが、実はあいつと二人で【パフューム研究会】メンバーだったわけだから、あんまり馴れ馴れしいのも違うかもしれないが。


「い、いえ、いいです!これからはそれでお願いします、ジオウさん!!」


とりあえずそう言うことになったらしい。


(おしまい)


―――P.S.

DIOとジオウ・R・アマサキは、第8回シンデレラガールズ総選挙において、ナターリアを応援しています。

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