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頂き物の小説
その2.機動戦士人形傀儡録 エミリースチュアートの名簿
とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録



『その2.機動戦士人形傀儡録 エミリースチュアートの名簿』




数か月前 シアター発足直後



「don't shoot it at people, unless you get to be a better shot……日本語に訳すとどうなる?」


「はい。『もっと銃の腕前が上達しない限り、人々に向かって撃ってはならない』です」


技術主任様から掛けられた問いに自信をもって答えます。

私はこの国の生まれではありませんが、この日本と言う国が大好きで日本語の勉強もたくさんしました。


「うん、その通りだ。原典の前後の文脈を見てもこれはそう訳すのが正しい

ところが、だ。この国の人間は『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ』と訳そうとする」


「Why!?」


なのに不正解だと言われてショック…いえ、衝撃を受けました


「す、すみません。はしたないところをお見せしました」


「いや、構わない。それとお前の回答が間違っているわけじゃない。

良し悪しは別として、個人的にはおのれの素直な回答の方が好ましいと思う」


「技術主任様」


「しかし、だ。そんな素直なお嬢さんが

『単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用統合性兵器機構の百系
骨格を用いた五番の試作機を模した機動戦士人形から派生した星の輝きを創造する者』

と名付けるのはいったいどう言うことだ」


主任様はなんとも苦々しい顔を浮かべて……申し訳ありません!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


2013年春


皆さんこんにちは、はじめまして私は七六五芸能社百万劇場所属のエミリースチュアートと申します。


「えー!撃っていいのは〜ってイギリスの小説のセリフじゃないの?」


「実際に和訳された本でも人混みに向かって撃つなって書かれてるのはあるんだぞ」


今日は恵美さんに主任様のことでご相談があると告げられ、そう言うことでしたらと主任様にもお越し頂き、三人でお茶を飲んでおります。


「で、トコロはなんでこそこそ俺の話なんぞ聞いて回ってるんだ」


「別にこそこそしてた訳じゃ・・・て言うか主任のせいじゃんか」


「何がだ?」


「琴葉がおかしな方向に思い詰めてるのが!!」


「アマミ先輩やシマムラウヅキみたいになるよりはマシだろ」


「なんでその二人と比べるの!?あの二人と比べたら大抵の子はいい子だよ!!」


恵さん、それはどういう意味でしょうか。

春香さんも島村さまも素敵な大和撫子ですよ?


「・・・スチュアートは純粋だなぁ」


「・・・ほんとだねぇ〜」


「主任様、どうして私の頭を撫でてくださるのですか?はわわ、恵美さんまで」


「とにかくだ、センター属性っーつーか主人公属性っつーか、そういう人間がアオナギの傍にいるとするだろ。

そいつらは人間として取り返しがつかないレベルで性格歪むケースが多々見られるんだよ」


「そうなのですか?」


主任様は私の知らないことをたくさんご存知です。


「そうなのです。で、シアターだとタナカやカスガ辺りがヤベーイわけだ。

しかもタナカは真面目で勉強家で人を疑うことを知らないから、ほっとくとどんどん黒い道に染まるぞ。

だから少しばかり物事の意味を考えるように指導しただけなんだが、なんかまずかったか?」


「まずいに決まってるでしょー!あんな琴葉放っとけるわけ無いって!

だから主任の出した宿題ってやつをとっとと片付けて琴葉を元に戻さなきゃダメって思ったんじゃんか!」


「あぁ、だからスチュアートに俺の話を聞いてたと?」


「まぁ!そうなのですか?」


「そうなの!悪い!?」


「いや、別に。でもなんでそれでスチュアートと俺が初めて会った頃の話を?」


「はい、恵美さんが技術主任様が笑顔になられていたときの話を聞きたいと言われましたので」


私の言葉に主任様は首をかしげていらっしゃいます。


「笑ってたか、俺?」


「はい」


「そうだっけ?あの時は確か」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はじめまして、エミリースチュアートと申します。

七六五芸能社三九計画に所属し、大和撫子を目指すものです」


「あぁ、初めまして。ジオウ・R・アマサキだ。ところで、大和撫子と言うのは?」


「はい、大和撫子とは常に礼儀正しく和を尊ぶもの。

大和撫子の凛とした美しさ、そのしなやかさや謙虚さに私は心奪われました」


「それがどうして、アイドルに?今の時代のこの国のアイドルは、むしろ大和撫子とは真逆じゃぁないのか?」


「そんなことはありません。

昨年の秋のことです。とある温泉街の催しでお会いしたのです。

紅葉のように赤く美しい衣装を身に纏い、舞い踊る女性を。

『あの素敵な方は何という職業なんでしと尋ねたところ、『アイドル』だと教えていただきました。

私もあのように舞い踊ってみたい…そう告げると、この芸能社をご紹介いただいたのです。

そして私は大和撫子への道を踏み出し、現在に至りました」


「…その温泉街の催しは、いつ誰が行ったものかな」


「はい、それは ――


「そっか、なるほどなぁ。それで、今日はどうして俺の所へ?」


「はい、実は技術主任様に折り入ってお願いがありまして」


「アイドルのことならまず担当プロデューサーに話を通したほうがいいんだが」


「いえ、実はもうお話したのです。ですが私が至らないばかりに仕掛け人様を困らせてしまいまして」


「まぁ聞くだけ聞こうか」


「ありがとうございます。実は私、大和撫子だけでなくこの日本で生まれた色々なものが大好きです・

忍者、侍、富士山芸者、それに機動戦士人形――」


「待て、機動戦士?それはもしかしてガンダムのことか?機動戦士人形はガンプラとか?」


「はい、その通りです。」


「何故そんな言い回しを?」


「私は大和撫子を目指すものとして、正しく美しい日本語を使いたいのです」


「………うん、まぁ、それが正しくて美しい日本語かどうかはともかく、話を続けて」


「はい、ですが機動戦士人形の名前は難しくて……」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「こんな感じだったよな?」


「はい、その通りです」


「で、スチュアートの練習帳というか、機動戦士人形の名前を綴った名簿を見せたもらった。

『不死鳥の翼騎士』とか『月下の魔王』、『蝶母神』とか載ってたな」


「・・・なんか微妙に百合子っぽいよね。ちなみにさ、私や琴葉のガンプラは何て名前なの?」


「はい『第二世代弾丸』に『赤帽魔術書』です」


「うわーストレート〜」


「そう、素直なスチュアートらしい話だった。ところがた。


スタービルドストライクについてだけ何故か

『単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用統合性兵器機構の百系
骨格を用いた五番の試作機を模した機動戦士人形から派生した星の輝きを創造する者』

と訳したのには苦笑いしか出なかった」



「す、すみません。お恥ずかしです。うぅ…」


「そのままストレートに『星製造攻撃者』とかは考えなかったの?」


「それは…考えました。けど何かが違う気がして、色々考えてるうちに」


「迷走したわけだ。正直ニックネームをつけること自体、相手の気分を害する失礼な振る舞いになる場合もあるからな

ここで止めるべきかもとは思った。結局はニックネーム、いや『二つ名』をつけるのに協力することになったんだが」


「協力?」


「おう、迷走するのは要するにスタビルのことをよく知らないまま元の名前の音だけ捉えて名付けようとしたからだ

ディスチャージ機能なんて前大会の後半ほとんど封じられてたしな。だから実際に動く所をもっと見せたほうが良いだろうと」


「主任様はニールセン博士の『戦国迷子』と試合してくださったんです」


「……はい?」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「Wow!!」


思わずはしたない声を出した自分の口元を抑えます。けれど興奮は抑えきれません


「綺麗です、主任様……!」


目の前の人形闘技盤では、主任様の…StarBuildStrikeが星屑のちりばめられた青い翼を纏ってニールセン博士の戦国迷子様の周りを跳んでいました。


「……流石に驚きましたね。サイコシェードをあっさり回避するとは」


ニールセン博士も神妙なお顔で主任様たちをたたえていらっしゃいます。


「サイコシェードも粒子の働きによるもの、ゆえに高濃度粒子を身に纏い接触を断てばその攻撃はガンプラに届かない。

理屈はその通り。しかし僕は開始直後にサイコシェードを発動しフィールド全域をその支配下に置いていた。

そもそもディスチャージする暇は無かった筈ですが……そうか、その翼にはセイ君のオリジナルと違って攻撃能力がありませんね

攻撃力や高熱化の機能を持つ武器ではなく、いわばスラスターの同類。それゆえにサイコシェードの攻撃範囲から外れていた」



「流石は粒子のウラのウラまで知り尽くしたというだけはあるな。初見でそこまでお見通しか」


「えぇ。そして種が分かれば対処法はいくらでもあります」


「そうか?」


そう言うや否やStarBuildStrikeの前にいくつもの星の光の扉がどこからともなく現れました。


その扉をくぐる度、翼が大きくなって、色も変わって。まるで十二単を着たお姫様のようです。


「馬鹿な!アブソーブもせずそんな量の粒子を放出できるわけがない!いやそもそもそのパワーゲートはどこから出てきた!」


「見破られたら困るから、見られないようにしてみた」


「そんな」


「さて、俺は今からこの超スピードで正面から殴り掛かろうと思う。

スタービルドストライクと戦国アストレイ。フルスペック同士でぶつかったらどっちが上か実験してみようぜ」


「……いいでしょう」


戦国迷子様は両肩の鞘に納めている日本刀に手を掛けました。


これはもしや衝突の瞬間に居合切りをされるおつもりなんでしょうか


主任様はその間も戦国迷子様の周りをくるくる飛び回りながら加速を続けて


それを博士は音もなく待ち構えて


胸が痛いほどの緊張が高まる中――ついに主任様のStarBuildStrikeが軌道を変え、戦国迷子様の真正面から飛びこみました。


「ビルド、ナック――」


そして衝突の瞬間振り下ろされたその右拳は――しかし命中することなく博士の左手の刀で切り裂かれました。


切り下ろされたのは右拳だけではありません。

主任さまのStarBuildStrikeは、博士の右手の刀で体の中心を縦に切断され、バラバラになった部品は戦国迷子様の後ろに抜けていきました。



いえ――抜けていく姿を、幻視しました。


「――ビルドレッグ、ラリアットォォォォ!!」


背後からStarBuildStrikeに繰り出された回し蹴りを、戦国迷子様は無防備に受けてしまいました。


「何故!?確かに手ごたえは――」


「あぁ見事なまでに綺麗に斬られたぜ!断面があんまり綺麗すぎたから――内気功で溶接し直すのも容易だった!」


「!?」


ま、まさか斬られた直後、その刹那の一瞬で傷を直したというのでしょうか

いくら主任様が『狂気的な修理屋』と呼ばれるほどの人形師でも信じられません

いえ、もしかしたら以前に聞いたあの技が関係しているのでは。

戻し切りと言って、二つに斬られたものを接着剤などを使うことなくひとつに合わせ戻すことが出来る方法が日本にはあると

きっと博士の剣術の腕が音に聞いたその技を実現出来るほどの凄腕だったことも作用されたのかも。


「うおおおおお!」


私が思案している間にも主任様の猛攻は続きます。そして迎え撃つ博士も滾っていらっしゃいます。


「調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁ!」


戦国迷子様の両肩の隠し腕から繰り出された掌底が、StarBuildStrikeに命中

直後に大爆発が起きました。辺り一面白い光に覆われて、光が消えたときには――お二人とも無事な姿で立っていました。

そんなお二人を讃えるようにたくさんの星の扉が煌いて。


「……ディスチャージ、ですか。」


「死角に逃げなきゃ、やっぱ分かるのな」


「戦国アストレイの注入した粒子を、ほぼタイムラグなしで外部に放出し、最低限のダメージで受け流した。

理論上は可能でも、セイくんや『彼』には決してできない芸当ですね」


「そして大量の粒子を放出した戦国アストレイは一時的にパワダウン、だろ?」


「えぇ…ここまでのようです」


主任様とStarBuildStrikeはそのまま巴投げで戦国迷子様を扉に向かって放り投げました。


戦国迷子様はいくつもの扉を潜るたびに光を纏い、どんどん加速して――場外へはじき出されてしまいました。


≪Battle Ended≫


装置が試合の勝敗を告げ、盤上から粒子が引き潮のように引いていきます。

すると空の上、盤上の限界高度近い場所に突然緑色の鳥さんたちが何羽も現れました


≪トリィ♪≫


それに鳴き声も可愛らしいです♪


「ユニバースブースターの機能を移植したトリィだ。

ミラージュコロイドで姿を隠しながら粒子を集め、パワーゲート生成に手を貸してくれていたんだ」


そうだったんですね。ちっとも気づきませんでした。


「……何故ですか。光学迷彩で隠れていただけなら、僕には分かったはずです」


「ニールセン、それは計器やモニターの情報が正しかったらの話だ」


≪トリィ♪≫ ≪トリィ!≫≪トリィ〜≫


なんと博士の傍にも鳥さんたちが現れました


「僕の操縦スペースの中にも鳥の姿が!?いったい、いつから」


「もちろんバトルが開始してから。粒子供給と命令伝達用に有線を繋いだトリィを『上』から一度外に出したんだ。

後はそっちの操縦席に放り込んで、ミラージュコロイドを使ってモニター情報の一部を誤魔化した。

途中で言ったろ、見破られないようにしたって」


「そんなことが」


「一度やってみたかったんだよ、ミラージュコロイド・ウイルスごっこ。

ちなみに、これは反則じゃないぞ。こんなことが可能だなんて誰も考えなかったから、ルールブックにも載ってないんだ」


「……ですが、次の大会までには追記されるでしょう」


「かもな。でも別にいいよ、アーリージーニアスから1本取ったんだから。

それと一つ覚えといたほうが良いぜギフテッド。

粒子のウラのウラまで知ってても、それだけじゃあ勝てないくらいには世界は広いんだって。

――そう考えたほうが退屈しないと思うぞ」



そう告げる主任様の表情は、まるでいたずらっ子のように無邪気で、穏やかな『笑顔』をでした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……そんな顔してたっけ?」


主任様はやはり首をかしげていらっしゃいますが、確かに素敵な笑顔をされていました。


「はい、それだけではなく試合の最中も」


「そうだったか?」


「そうですよ」


「そうか。じゃぁそうなんだろうな」


「はい。恵美さん、こんなお話でしたがお役に立ちましたか?」


「うーん正直よく分からない。仕方ないからそのまま琴葉に話すよ」


「そうしてくれ。いつでも答え合わせは受け付けるから」


「それと、もう一つ気になってるんだけどさ」


「なんだ?」


「結局スタービルドストライクのニックネーム、どうなっちゃったわけ?」


あ、はい。そのお話がまだでしたね。


「主任様に星と共に踊る美しい姿を見せて頂いたことで閃きました。美しい星と書いて、『美星(ミホシ)』と」


「へー、美星か〜。イイ感じじゃん」


「あぁ俺も気に入ってる。まぁ世間一般が思い描く、イオリ・セイのスタビルのイメージじゃないかもだけどなぁ」



ですが私の中では美星様なのです。もちろん大変気に入っています。


そしてもう一つ密かに決めていることがあります。


大和撫子とは凛とした美しさ、そのしなやかさや謙虚さを持ち合わせるもの


その中にあの日見た美しい星の輝きを、穏やかで優しい笑みを取り入れたいと――そう願っています。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「結局、彼女最後まで僕のアストレイを迷子と呼んでいましたね」


「I was led astray by bad directions――いい加減な道案内で道に迷ってしまった。

アストレイの由来からすれば的外れでもないけど、気に入らないなら正式に抗議したほうが良いぞ。

スチュアートにもニックネームは相手と場合によっては失礼になるって念を押しといたし

悪気はなくても撃てば撃ち返される、そして生きてるだけで人は誰かを傷つけるんだから、覚悟はしとけってな」



「それはまた…ですが、あんな負け方をした以上当面は迷子でいいです」


「そんな気にしなくても良いと思うぞ。俺はただ隙をついて出し抜いただけで、あんなので勝ったとは思ってないし」


「けじめですから。そんなことよりも、僕はあなたの方が気になりますね」


「俺?」


「どうして初対面だったはずの彼女にそこまで親切にしたんですか?

彼女のやろうとしていることが必ずしも良いことだとは思っていないのに

しかもあなたはガンプラバトルのことが――」


「あー…内緒にしてくれるか?」


「もちろん」


「スチュアートがアイドルを志すきっかけを作ったアイドルって言うのがさ、どうも俺が贔屓にしてるアイドルだったらしい」


「――あぁ、彼女ですか」


「だから、彼女に憧れてアイドル始めた子の夢を、摘み取りたくは無かった。

しかも俺のバトルを見てスチュアートがつけた二つ名が≪ミホシ≫つーんだから縁があると言うか、無意識に意識されてると言うか」


「それは自意識過剰だと思いますが」


「言うなよ」


「加えて言うなら、一般のガンプラバトルファンは彼女よりもキララさんを思い出しそうですが」


「……だろうな。でも俺の贔屓するアイドルは、やっぱりあいつだよ。

いつか、俺の演出で彼女のステージを輝かせたい、彼女の夢を手伝いたい。

俺がこんな研究を始めたのも、ついにはこんなシアターなんてものまで作ってしまったのも

結局は、それだけだった。

だからシアター計画には『粒子を安全に運用できる』って実績さえ積んでくれるなら、それで良くて。

シアターの運用は765プロとヤジマ商事の選んだスタッフに丸投げ――するつもりだったんだけどなぁ」


「ジオさん」


「でもまぁ、今はスチュアートの今後に期待しようか。

あの子の『名づけ』は彼女の想い描く道から少しズレてるけれど。

あいつの輝きを受けた彼女がその反骨精神を貫いた先で、きっと見ごたえのある花を咲かせてくれるって」


「…だと、いいですね」


「あぁ。本当にそうなったら、いいよな」


「ですが他のアイドルに対しても平等に仕事してくださいね」


「分かってるよ」



Fin.――否、「おしまい」

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