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頂き物の小説
その1.タナカ・ガンダム・レポート

とあるガンプラビルダーと彼女たちの星輝く日々の記録

『その1.タナカ・ガンダム・レポート』



皆さんこんにちは、田中琴葉です。39プロジェクトに参加するアイドル候補生の一人です。

実は最近シアターの技術主任であるジオウ・R・アマサキさんと模擬戦をするようになりまして。

その様子をちょっと振り返ってみたいと思います



◆◆◆◆◆◆



●月×日 (???)


『むー。やっぱりヤスフミにやられっぱなしは嫌だよ。だから特訓シヨ!』


そんなことを言うエレナに誘われて、アマサキ主任に模擬線の相手をしてもらうことになりました。

メンバーは私とエレナと恵美の3人チーム対主任1人による変則編成。

つい数日前に蒼凪プロデューサーに挑んだ時と同じです。

ガンプラも同じで、私がグリモアレッドベレー、エレナがシャイニングブレイク、恵美がAGE−2マグナム。

奇しくもバトルフィールドも同じ【キリマンジャロ】

雪中行軍しながら、今度こそと気持ちを高めていたところにオープン回線で主任から通信が入りました。


≪リュウシハッケイ≫


その直後、轟音と共に雪崩が起きまして。

飛べない私に反射的に手を伸ばしたエレナと恵美も巻き込んで、3人揃って雪崩に流されてリングアウト。

私たちは主任のガンプラを見ることも出来ずに敗北したのでした。

恵美が『いくらなんでもこんなのズルイでしょ!』と抗議したのだけど当然聞き入れられるわけもなくて


≪ワンキル狙いが駄目なら関ヶ原でスペイン代表がやらかしたのも反則か?≫


とスガ・トウリさんを引き合いに出されて、それ以上何も言えずに引き下がることになりました。

……次は、せめて空を飛ぶ用意くらいしておこうと思いました



◆◆◆◆◆◆



●月△日(Xioグーン)


今度はサブフライトシステムとして「ノッセル」を持ち込みました

ティルトローターパックの使用も考えたんですが、昨日話に出たスガ・トウリさんみたいに核ミサイルを使われること恐いので。

ノッセルなら核攻撃もある程度防げますし、それにティルトローターだと宇宙や海のステージで使いにくいですし。


そんなこんなで今回のステージは…【オーブ連合首長国】


一網打尽にされないよう3人バラバラに空中から索敵していたところ、地上からペイント弾の狙撃を受けて。

すぐさま地上に向かって各機攻撃したんですが敵の姿はどこにもなくて。


これはおかしいと思って恵美のAGE2マグナムが地上に降りたところ――その姿が一瞬で消えて連絡もつかなくなりました。

続いてエレナも消えて、私も恐る恐る地面に近づいてその正体がようやく分かりました。


相手はスケイルモーターで地面を液状化する能力を持つ地中潜行用MS「ジオグーン」その改造機でした。

紺のカラーリングにちっちゃな目と鯨ひげな模様もあって、まさしくクジラをモデルにしたデコレーションがされていたんです。

もしかしたらさっきのペイント弾は潮吹きのようなものだったのかも


グリモア本体はノッセルを犠牲にして何とか地面に引き込まれるのを防ぎましたが、この時点ですでに詰んでいました。

地中の索敵を行えるレーダーもソナーもなければ、地中の敵を撃ち抜けるだけの重火器もありません。

残された手は相手が顔を出した瞬間にカウンターを入れると言うモグラたたき戦法だけ。


結論から言うと、グーンはその後二度と顔を見せませんでした。

そのまま地中を動き回り、長い時間をかけてオーブの土地をまるごと液状化して建物の上に退避していたグリモアごと国を沈めました。


…やはり火力は重要です。それにサブフライトシステムに頼りっきりになることなく、本体のガンプラも空を飛べないと駄目だと思いました。

模擬戦後に映像記録を確認したところ、この改造グーンは足の裏を全領域対応の推進スラスターに改造したうえ、一瞬だけですが背中から光の翼まで出していました。


これならきっと宇宙や大気圏内飛行もバッチリです。……もしかして、エヴィデンス01「ハネくじら」がモデルだったのかなーと思いついたのは数日後のことでした。



◆◆◆◆◆◆



●月□日(ガンダムフラウロス慈桜)


索敵装備OK。これで地中だろうとどこだろうと探せるはずです。

重火器OK。これでどんな壁に守られていても撃ち抜けます。

飛行装備OK。ティルトローターを海中でも使えるように改造しました。

ホバー機能OK。代わりにインラインローラーは取り外し。

ノッセルもちゃんと整備したし、今度はどこから攻められても大丈夫!

フィールドのどこにいてもちゃんと見つけ出して倒しますからね、主任!


…そう思っていた時間が私にもありました。


今度のフィールドは【コロシアム】、今までとは違って主任は最初から開けた場所にその姿を見せていました。

この瞬間、私が一生懸命用意した装備は大半が無駄になりました。


そこにいたのはガンダムフラウロス、その砲撃態勢です。

ただし彼を中心に半径30mくらいの円が石灰で引かれていて、その縁に立て看板が立っていました。


『この円の中では体重が5倍になります』


……嘘か本当か、確かめるには勇気がいる言葉です。美奈子ならむしろ喜ぶのでしょうけど

フラウロスのような鉄血のオルフェンズ出身のMSにはエイハブ・リアクターと言う機関があって、これは宇宙船内の疑似重力を発生させることも出来ます。

看板に書いていることが本当なら、その機能を利用した重力場があるのでしょう。


少なくともフラウロスの四肢は地面に埋まっていました。

元々フラウロスの変形はガイアガンダム等とは違って機動力は無いに等しいですが、これでは固定砲台です。


ただエレナに言わせると『ジオーならそんなもったいないことしないよー。絶対走り回るよー』とのことなので油断はできません。


とりあえず円の外から機銃を撃ち込んだところ、まっすぐ撃ち込んだはずの弾丸はストレートではなくフォークボールになって地面に命中。

AGE−2マグナムのFファンネルも地面に突き刺さりました。

これはやはり重力によって落下加速度が高まっているんだ。なら今度はメガ粒子砲なら?

やはりその軌道は下方修正されたけど速度と質量の関係から実弾ほど軌道が変わったわけじゃない。

だけどフラウロスに命中したビームはその瞬間に散らされて少しもダメージを与えられなかった。

予想はしていたけど、これはナノラミネートアーマーの効果だ。持ち込んだ重火器もこれではまるで意味がない。

なら、重力による落下を計算に入れて最初から上向きに撃ったらどうだろう

あぁでも、その瞬間に重力を解除されて空に向かっていくかもしれない。

だったら上に向かって撃つのと同時に、普通に真っすぐ狙う弾丸も合わせればいいかも。

それなら重力を解除されようとされまいと、どちらかは当たるはず。


『ジオーーーー!!』


けど私より先にエレナのシャイニングブレイクが飛行形態になって真上から主任を強襲していました。


『フライングアタックだヨーー』


そのままビームを連射して……あ、そうか。真上からの攻撃なら真っすぐに墜ちるだけだから重力場があろうと軌道を変えられることはないんだ。

と言ってもビームは効かないから体当たり以上の意味はない――と思っていたら今まで微動だにしなかったフラウロスが起き上がって人型に変形しながら、ブレイクに向かって砲撃を放つ。

砲弾は空中で爆発すると中からピンクのスモークが周囲に広がり、なんとエレナの撃ったビームを乱反射。


『うわあああっとっと!』


こっちにも反射したビームが飛んできて後ろに引いたところへさっきの砲弾、否スモークグレネードが飛んできて私と恵美も煙の中に囚われて。

いつの間にか重力結界は解かれたみたいでスモークは良く広がる。今なら攻撃は真っすぐ飛ぶけどこれじゃ狙えない。

煙が晴れた瞬間に何とか攻撃をしようと、そう考えていたらグリモアの動きがおかしくなって転倒しました。

もしかして重力場に囚われたのかと思ったけど計器を見る限りそうじゃないみたい。

理由は不明ですが肘や膝や指の関節が動かなくなっている感じです。

煙が晴れた時、AGE−2マグナムはグリモアと同じくピンクまみれで地面に転がっていて。

同じくピンク一色になっていたシャイニングブレイクは何故かフラウロスに抱きかかえられていました。


『うぇっ!?エレナ、何お姫様抱っこされてるの!?』


『ち、違うよー!ジオー降ろして』


降ろしてと言われた主任は、逆に上に放り投げてそのまま背中のレールカノンを向けて。

今度の弾丸は爆散することなく直撃して、ブレイクはその衝撃でフィールドの外まで吹っ飛ばされました。

その後は言うまでもなく。私と恵美も同じように拾い上げられ砲弾を受けてリングアウト。


こうして私たちの3度目の模擬戦はまたも完封されました。


そして、主任は速やかに退室されてしまって、私たちだけで自主的に反省会をする運びとなりました。


……思えば主任はこの3回の模擬戦で、自分からは何も口にされませんでした。

蒼凪プロデューサーなら、それはもう凄い数のダメ出しが来るのに。

例外は恵美が初回に言い出したクレームに対する返答だけ。

そのことに恵美もエレナも内心不満には思っているようです。


主任は、何を考えて私たちの模擬戦の相手をしてくださるのでしょうか。



◆◆◆◆◆◆



主任の過去のバトルデータなどを見ながら一晩考えたけど結局答えは出なくて。

翌日思い切って主任に聞いてみました。

もしかしたら内緒にしたい理由があるかもしれないので、私一人で。


まず、どうして模擬戦の後に反省会をしないのですか、と

すると主任にこう言われたんです。


『お前は推理小説の犯人を先に教えられて喜ぶ人間か、タナカガンダム?』


…私は、田中琴葉です。それで推理小説とガンプラバトルに何の関係が?


『アオナギが対戦ゲームの相手なら、俺はストーリーモードのボスキャラみたいなもんだ。
なんだかよく分からない能力で無敵っぽいボスの弱点を探って、対抗手段を見つけて、倒す。

その謎解きこそが面白さだと言う人間は多いだろう?
もちろん攻略本に初手から手を出すのもありだが、周りが押し付けるものでもない』


どうもそういう事らしい。


『さらに言えばガンプラバトルは、残酷なことに自由だ。バーリトゥードだ。
だからバトルが広まり色んな経歴を持つ奴が集まれば、未知の初見殺しを使う相手なんて幾らでも出てくる。

それを情報がないから手も足も出ませんでした、じゃ駄目だろう』


だから模擬戦で手の内を聞かれても答えないことにしている、私たちが自分の手で考える癖を身に着けるように、ということですか?

だから初回の模擬戦で使ったガンプラも教えないし、2回目の液状化を起こした技術や3回目の謎のスモークのことも解説していただけない。

あくまで、自分で考えなさいと?


『まぁな、頼まれごとは請け負っても、俺のほうからお前たちの方向性に影響するようなことはしないと決めているんだ。

ただ、答え合わせなら受け付ける。おのれは昨日のバトルの回答を持ってそうだな、封印されしタナカ』


ですから私は田中琴葉です。そもそも何を封印されたというんですか。


『……正統派アイドルとして成功する道?』


なんでですか!?


『部活の道に入った時点で今更だろ。それよりほら、答えを教えてくれ』


納得できない気持ちでいっぱいだったけど、とにかく話を戻す。

主任がバトル中に使った謎のスモーク。それは恐らくナノラミネートアーマーの為の粉末状の塗料です。

エイハブ粒子によって鏡面化した粉末はビームを反射し、関節に蒸着、硬化させることでこちらの動きを封じ込めたんです。


何故そう思ったかと言うと、きっかけは最後に受けた砲弾です。

正確には砲弾を受けた場所が、場外に吹き飛ばすほどの衝撃を受けたのに、破損も変形もしていなかったんです。

同時にそこは関節部分と同じくスモークがたっぷり蒸着されていて、それで閃きました。


この塗料によってナノラミネート処理が施されたから、グリモアの装甲は守られたんじゃないかって。

これがエイハブ粒子によって硬化するナノラミネートアーマーに通ずるものなら、ビームを反射したのも納得がいきます。


ガンプラが動かなくなったのも同じ理由です。関節に付着した塗料をエイハブ粒子で固めて、曲がらなくしたんです

ただ、あくまでナノラミネートである以上長時間力をかけ続ければ振り払うことはできたと思います。



『まぁだいたい合ってるな。ついでに言おうか、“光と闇の舞”は本当は今回出す予定じゃなかった。

あれは開発中のM.E.P.E.との合わせ技で初披露する予定だったんだ』



言われて想像してみました。ビーム攻撃を乱反射する、質量をもった分身。

エレナが言う、四足形態での高速機動というオプションまでも追加すれば。

対戦相手が都合よくビーム攻撃をしてくれればですが、きっととても綺麗な光景になっただろうと思います。


でもそれなら、どうしてあの時使ったんですか?


『…エレナがフライングアタックって飛びついてきたとき、懐かしくなって。それでつい気が緩んだ』


なんでもブラジル時代、エレナのご両親は日本とブラジルを行ったり来たりする生活を送っていて、エレナはそんなとき、何度も主任のお家に預けられてお世話されていたのだとか。

その時一緒に暮らしていた人たちの真似をして、エレナはよくフライングアタックごっこをしていたらしいです。


『高さが重要とか、弟は姉を受け止めるべきだとか、そんな言葉をよく分かってないのに真似をする4歳児だった。

当のエレナ本人はほとんど覚えてないだろうけど、今思い出しても危なっかしい話だ』


それは何と言うか…のり子なら喜びそうな話かも。


ただそれ以上に主任の幸せそうな顔が印象的でした。


よくよく考えたら、主任がこんな表情で穏やかに笑っているところを見たことがないです。

このシアターで出会ってからはもちろん、昨日見たバトル記録でもありません。


『んー、まぁそうかもな』


それについては主任も否定してくれなくて。


どうしてでしょう?主任はガンプラバトル世界大会の決勝トーナメントに2年連続で出場するほどの人で、このシアターだって主任の発案で始まったものだと聞きました。

そんな人なら、ここでの日々は毎日楽しいはずなのに。


『おのれはやっぱり推理小説のトリックを教えて貰いたい人か、タナカガンダム?』


私の疑問の声は、そんな風に誤魔化されてしまいました。それも何かを少し楽しんでいるような顔で。


もしかして主任は、私にその秘密を解いて欲しいんでしょうか?

――いいです、わかりました。部活の心得と言うものを教わったシアターの一人として受けて立ちます。


その代り、謎が解けたときには私が田中琴葉だって覚えてください。


えぇ、そうです。ここから先はもう私の部活です。


『そこは私たちの聖戦(ケンカ)ですっていう所じゃないのか』


だから何の話ですか!?



◆◆◆◆◆◆



▼月★日(ガンダム・Lフェニーチェ)


あれから毎日、主任のことを観察するようになりました。

えぇ、これも部活ですから。目指すは勝利のみです。


ただ彼もそう簡単に解かれてはいけないと思ったのか、主任も今までと違う行動をとるようになりました。


具体的に言うと、ガンプラバトルの最中に笑っているんです。

一説には『マッドジャンキーはガンプラを壊すことを嫌う』とか『ガンプラバトルそのものを憎んでる』なんて噂もあったんです。

でもすべてのバトルで彼が笑わないというわけでも無いと分かりました。



『――このL(エル)フェニーチェに惚れて火傷するなよ、セニョリータ!』



マントを翻しながら聞いたことも無いような決めポーズをしているのは真っ赤なウイングガンダムフェニーチェの改造機体。


リナーシタではなく、リカルド・フェリーニさんが第6回と第7回の大会で使った仕様がベースです。


ただし特徴的な背中の翼は排除され、ビームキャノンとビームマントが両肩に装備されています。

額のアンテナは排除され、代わりに側頭部にマジンガーZみたいな、くの字型の角が生えています。

名前はガンダムL(エル)フェニーチェ。もしかすると名前のLはダガーLと同じく、軽装と言う意味なのかもしれません。


全体的なカラーリングは赤と白、ライフルは持たずビームレイピア1本で戦っています。


『綿あめ返し!』


今も砂を巻き上げくるくるとレイピアを回し粒子をからめ、言葉通り『綿あめ』を作り出して襲い来るバルカンを受け止めてしまいました。


『たこ焼き返し!』


さらにレイピアを突き刺した地面をクルンとひっくり返して敵ガンプラの足場を崩し、そのまま掘った穴に埋めてしまいました。

これならいつでも縁日のお店が出来るかもしれません。けど型がバラバラなので正式なフェンシングを習ったことは無いんだと思います。



『あのー、琴葉?物陰からこそこそ主任を観察するのってもの凄い挙動不審なんだけど。
真面目で一途なのは琴葉の魅力だと思うんだけどさ、それは止めたほうが良いんじゃない?】


恵美が何か言ってるような気がするけど問題ありません。

それより私たちとの模擬戦では一言も喋らなかった主任が大立ち回りをしていることの方がよっぽど重要です。

えぇこの異常事態はしっかり観察、いえ監視しなくてはいけないの。勝利のために!


『いや、そこ言いなおす必要なかったと思うんだけど。確かに主任の豹変ぶりも怪しいけどそれはまずいって!
なんかもう亜利沙より酷いって言うか志保より駄目って言うか、はっきり言ってストーカ』


まったく問題ありません!だってこれは部活なんだから!!



◆◆◆◆◆◆



読み返してみると、確かに恵美が言う通りちょっと冷静じゃ無かったかもしれません……。


ですが、主任の秘密はいつか私が必ず解き明かしてみせます!


部活だからじゃなくて、私自身が主任のことを気になって仕方ないんです。


謎が解けたときそのときには、皆さんにもご報告しますね。


―――それでは、またいつか。


Fin.


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