頂き物の小説
ケースExtra02-A「CASE00.デストロイ・アンド・リビルド(その1)」
とあるガンプラビルダーの第8回世界大会メイキング
ケースExtra02-A「CASE00.デストロイ・アンド・リビルド(その1)」
◆◆◆◆◆
ヤスフミやニルス達の活躍で新たなプラフスキー粒子の生成方法が確立されて数週間。
新たなバトルシステムの構築と同時に、色んなバトル競技のテストも行われてきた。
これは普段あまり発生しないようなレアな状況下でどんな負荷がかかるかを試験するものでもある。
最初のころはタツヤがトランザムを発動するだけでフリーズしていたようなシステムも、今ではもうPPSE時代とほぼ同等レベルにまで構築できた。
もちろんこの僕――アラン・アダムスも惜しみなく協力したつもりだが、それ以上にニルスやアンズ、ジオやカイザーのおかげだ。
だが……いくらなんでも、コレを試験するのはちょっと早すぎるんじゃないだろうか?
『ゼンッゼン効かねえ!』
『バスターライフルもサテライトキャノンも駄目って、どうしろってんだこんなのっ』
『さっきぶっ壊したコロニーの欠片ぶつけるか!?』
『どうやってだよ!』
『月』が、地球に向かってまっすぐに墜ちていた。
多くのガンプラとテストファイターたちが落下を阻止しようと持てるすべてを撃ち込むが、まるで効かない。
もちろん本物の――と言うのもややこしいが――月ではない。
かつて二代目メイジンがタツヤとバトルしたときに放った技「フルムーン・スプリームアロー」をシステム的に再現したものだ。
早い話が馬鹿みたいに大きいビームビットみたいなものだが、ここまで来るともはや天災に等しい。
アニメならばアクシズやリーブラを越える脅威、阻止失敗が即地球滅亡に繋がるほどの代物だ。
そんな技をモビルスーツ単体で繰り出した二代目と、さらにこれを再現したニルスたちヤジマ商事のスタッフに改めて敬意を覚える。
「いかがでしょう、あなたの技を完璧に再現したと自負しておりますわ」
ヤジマ商事社長令嬢であるミス・キャロラインの得意げな声も当然と言える。
実際僕の目から見ても、以前に見たスプリームアローとまったく違いがないように見えるんだから凄いとしか言いようがない。
「……たいしたものだ」
たった今ミス・キャロラインに声を掛けられたあの人――二代目メイジンも、同じ感想だったようだ。
「たしかに、これは三代目とのバトルで私が繰り出した技そのものだ。一分の違いもないだろう」
「おほめに預かり光栄です」
……今更だが、今日のテストには二代目に招待されていた。ちなみにマクバガン先生は都合が合わず、僕が代理のお目付け兼お世話役だ。
もちろん二代目が呼ばれたのはテストファイターとしてではなく、見学者としてだ。
昏睡状態から脱したとはいえ、二代目の健康状態はいまだ回復のめどが立っていない。
そんな二代目をわざわざ外出許可まで取ってキャロライン嬢が呼び出した理由は、この「月」を見せるためだ。
もっと言えば今後のガンプラバトル競技、もしくはアトラクションの障害の一つとして「スプリームアロー」を採用したがってる。
本人曰く「騎士ガンダムの世界なら月が空から落ちてくるようなお話もありますし、おかしくはないでしょう?」とのことだ。
あれは赤い月だが、彼女が言うように月が落ちるというシチュエーションはガンダムシリーズに関わる遊びとして十分アリだ。
問題は、騎士ガンダムの物語再現としてではなく、二代目の考案した技だと公表するつもりで二代目に許可を求めていること
そしてもうひとつ、あまりに単純で、重大な問題がある。
「誰にも攻略できないアトラクションなど、無意味だろう」
そう、それだ。
現に今、テストファイターたちの絶望と諦めの声がここまで聞こえてくる。
それにタツヤだって、『この競技』ではどうすることも出来ないかもしれない。
「ですが、三代目は見事あの月を叩っ切ったのでしょう?」
「その認識は間違いですキャロライン。この競技は三代目と二代目が戦った状況とは何もかも違います」
当然気づいていたらしいニルスが、そしてアンズが彼女の勘違いをただす。
「この競技であの日の3代目と同じ戦法を再現、つまり月と同方向に紅の彗星を発動すると大気圏に向かって自ら落下することになります。
そこから反転して、大気摩擦にさらされながらあの月を切るなど、難易度の桁が違います」
「さらに月を両断出来たとしても、分割された月が地表に届けば大ダメージ。獲得ポイントは結局全損になるんだよねー」
そう、二代目と三代目のバトルは地上で行われたものだった。こんな大気圏ギリギリの所での限界バトルじゃなかった。
しかも斬るだけじゃ駄目なんだ。完全に破壊しないと、この競技では意味がないんだ。
現在テスト中のこの競技の名前は「デストロイ」
コロニーやスペースデブリ等、大気圏外から地上に向かって墜ちる障害物を破壊するチームプレイ競技だ。
落下物を破壊しきれずに地上にダメージが入ると、その分ポイントが減点される。
スプリームアローの半月が2つも落ちたら、大陸の消滅どころか自転・公転の軌道にまで影響が出かねない。当然獲得ポイントもゼロだ。
つまりこの競技でフルムーン・スプリームアローを取り入れるなど、ゲーム難易度が崩壊するレベルの悪手なんだ。
「なんだ、そんなことですの」
なのにミス・キャロラインはあっさり受け流した。
「そんなもの、三代目や他の選手の皆さんがかつての三代目より強くなればいいだけの話ではありませんか」
「いやそんな簡単な話じゃ」
「少なくとも、この月を考案した彼は、そう思っているようですわよ」
そう言って彼女と僕らが目を向けるのは、月と地球の間の落下軌道上に残ったただ1機のガンプラ。
コズミック・イラで生まれたモビルスーツでありながら、西暦世界のGNドライブを複数装備したアストレイ、「モンスターズレッド」
彼は150Mガーベラストレートを両手で握り、刀身を右脇から背中に隠すように構える。
落下する月はどんどん加速し、あっという間に間合いを詰める。いや、詰まる。
あとコンマ数秒で轢殺されるというその距離で 。
『秘剣――ホウキボシ』
トランザムを瞬間発動して内蔵粒子を開放する。モンスターズレッドが、ガーベラストレートが一瞬で赤く染まる。
粒子解放と同時にガーベラを月に振るう。その所業、まさに電光石火。
僕の目ではその動きを捉えることは出来ず、気づいたときには――月が真っ二つになっていた。
「???……なぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
あまりにあっさりと引き起こされた結果に理解が一瞬遅れた。
『は ぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?? 』
僕とテスターの皆の口から遅れて漏れ出る驚愕の声。
月は文字通り一刀両断され、しかもかつてのタツヤと共に同じ偉業を成したザクアメイジングと違ってほぼ破損ゼロ。
分かたれた月はモンスターズレッドを避けるかのように地表に落ちていき――。
「まだ駄目だよ。あれじゃ地表は結局壊滅だよ」
信じられない事実に驚いていると、アンズから冷ややかな指摘が下されハっとする。
そうだ、二つに割れてもなおも月の粒子はその形状を維持している。
さっき話した通り、あのまま2つの半月が地表に落ちるなら結局決して許容できない被害が起きる。ゲームに負ける。
だが、そんなことはこの事象を起こした本人が一番良く分かっているのだろう。
『伸びろ――童子切(キッドキラー)』
自らの横を通り過ぎる二つの半月に、両肩と背中から伸びた10本の刃が突き刺さる
その刃の名は粒子成型変幻自在刀「童子切(キッドキラー)」
かつてベビーRと呼ばれたガンプラに持たせていたその刀の名を知る者は少ない。
ガンプラ界隈では「13kmや」という呼び名こそ通りがいいだろう。
この刀は周辺粒子を吸収し半物質化させることで刀身を伸ばし、さらには自在にその形状を変える。
その刃は、叩いても切り裂いても決して崩せないと思われた半月の粒子をかき乱し、自らの一部として取り込んで、食い尽くしてしまった。
後に残ったのは巨大な刃を体から何本も生やしてハリネズミのようになったモンスターズレッドの姿のみ。
『うおおおおおおおおおおおお!!』
それを見た途端に僕は、そしてみんなは歓声を上げた。
『すげえなマッドジャンキー!』
『とんでもねえよガーベラストレート!この化け物』
『テメーは人じゃねえよ、怪獣だぞコノヤロウ!?』
次々に投げかけられる賞賛の声……まぁ多少おかしな声もあるが、彼をたたえる声には違いない。
実際、僕も流石だと思う。今日のジオは、間違いなくあの日のタツヤを越えていた。
「いかがですか二代目」
ミスキャロラインの声も明らかに自慢げで――そこで僕も異変に気付く
「……あら?二代目はどちらに?」
二代目は車いすごと確かに居なくなっていた。慌てて周りを見回すが、その影もなく
「――バトルフィールドに高レベルの粒子収束反応!」
ニルスの鋭い声で視線がバトルベースに向けた。そこにはたった今消滅したはずの「月」の姿があった。それどころか
「カテドラル、ガンダム」
二代目の半身たる、白と黄金のガンプラの姿までそこにあった。
「二代目、そこにいるのですか!?今すぐバトルの中止を」
『………………………』
カテドラルガンダムとその操縦者は、無言のまま矢を放った。
その先にあるのはガーベラを手放し、10本のキッドキラーも伸ばし切ったモンスターズレッドの姿
『っ!』
ジオはキッドキラーの刀身を縮め、刃を構築していた粒子をレッドの体内に吸収。
そのままトランザムで背部のGNドライブから粒子を放出しガーベラの下へ。柄に飛び乗って、刃を月に向ける
だが今度は月を切り裂く時間も突き刺す時間も与えられなかった。
第1の月を見事両断した刀身は、何もできないまま第2の月に飲まれ、粉々に砕かれた。
柄に乗ったモンスターズレッドは両掌から光雷球を発動、月に向かって突き出すことで本体を守ろうとするがあまりにその力は小さい
ガンプラが月に飲まれることは拒めてもこの場所では足の踏ん張りがきかない、スラスターも推進力が足りない
モンスターズレッドとガーベラの柄はそのまま押し出され、地上に向かって墜ちて行った。
「ジオ!」
僕らの誰もが地球とモンスターズレッドの消滅を覚悟した。だがその覚悟はまたも裏切られた。
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ』
地表にまで押し出されたモンスターズレッドはその両の脚を大地につけて、月に押しつぶされることを抗っていた。
改めて思い知る。これがガンプラバトル史上最大のパワーを誇るガンプラのでたらめさなのだと
『がああああああああああああああああああああああっ!』
だがそれを成しているジオに自慢げな空気など微塵もない。絶対的な暴力に抗いながらただただ苦悶の声を上げる
「ミスタージオウ!今すぐにバトルシステムを停止させま――」
『――止めるなぁぁぁぁぁっ!』
永遠に続くんじゃないかと思われたその苦しみの声は、本人のより強い声に上書きされた。
システムを停止してジオを救おうとしたニルスを、そのジオウ自身が止めた。
『ま、だ、地上は破壊されてない。競技として成立して、いるはずだ』
「ですが、その月は本来ゲームに用意されたものではありません!二代目が乱入した時点でゲームは破たんしています」
『問題ない!フルムーン・スプリームアローは、本来こういう技だ!!』
「はい?」
「どういう事かな、ジオさん。何を知ってるの?」
僕もニルスも混乱する中でアンズが通信を秘匿回線に切り替えた。これで僕らと二代目以外にはジオとの会話は聞こえない
『……お前ら、は、フルムーンを、どういう技だと思ってる?』
それがどういう意図か掴めなかったので、思うまま正直に答えた
「通常では考えられないほどの粒子操作と収束によって繰り出される、二代目の思想を体現した一撃必殺の技…かな」
「まぁそうだよね、二代目も強さこそ絶対の一撃必殺の技って言ってたし」
『本当に、一撃必殺なら、なぜ、下か横に飛べばよかった、なんて、言葉が出た?』
「え?」
言われて記憶を掘り返す。それはタツヤが正面から「月」を両断して、ボロボロになったザクアメイジングを見て二代目が言った言葉だった。
『避けられたら必殺の近いが嘘になる、その程度の技を思想を体現した技だなんて、呼ぶと思うか?
あの時、もし三代目が避けることを選択していたなら、それは、次の行動なんて考えられないほど、全速力を出してたはずだ。
そうしなければ、間に合わなかった。当然、そんな状態で、追撃を避けられる筈がない』
「追撃って、まさか」
『二代目のバトルは、勝つためのバトル。関節を壊し、武装を壊し、相手を徹底的に弱らせるまで隙の大きな技を見せない、狩人の戦い。
あの日のカテドラルと、三代目が使わされたエクシアダークマターなら、二代目、『っぽい』、バトルだったのは、どっちだ?』
「待ってくれ、それでは」
『本来のフルムーンは、その一撃をもって勝利を掴む、『一撃必殺』の技じゃあない。
決して反撃できない隙を、確実に勝てる状況を呼び込む………『一撃必倒』にして『二撃必墜』の技なんだ』
(ケースExtra02-B「CASE00.デストロイ・アンド・リビルド(その2)」に続く)
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!