[携帯モード] [URL送信]

頂き物の小説
CASE1.バイアスロン


真白い雪原を不似合いで巨大な機影が駆け抜ける。

人の手で開かれた道の左右には森の木々が並び、その道を占有するのはガンダム試作3号機"デンドロビウム"。

本来は宇宙空間用の巨大MAであるそれが一組のスキー板をつけて地上を滑走するなど、いったいどんな冗談だろうか

その背後には、3号機に道をふさがれ後に続くしかない試作1号機、2号機、4号機がそれぞれの専用シールドをスノーボードの代わりにして走っていた。

本当の戦場では決してあり得ない、シュールな光景。だが少なくとも彼らは冗談でも戯れでもなく、本気で競っていた。


「くそ、このままじゃ埒が明かない!」


そのうちの1つ、試作1号機Fb"ゼフィランサス・フルバーニアン"がバーニアを噴かせて大きくジャンプ。

同時に雪から離れたことで警告音が鳴り響き、カウントダウンが始まる。

カウントダウンが終わる前にデンドロビウムの上から追い抜こうとするが、クローアームによって道をふさがれて断念。

MS及びその武装によって対戦相手に直接傷をつければ即失格、その場で機体が停止されてしまう。それがこの勝負のルールだった。


成果なく3号機の後ろに戻ると同時にアラームは鎮まる…引き換えに1号機のファイターが歯ぎしりする音が聞こえるが3号機は一顧だにせず悠然と道を進む。

その真後ろに1号機、続く4号機、さらにその後ろにもう少し離れて2号機。

そんな順位が変わらないまま、まもなく4機は「射撃エリア」に到達する。


そこは今彼らが駆けているコースよりも広く、多種多様な射撃用のターゲットが存在している場所だ。

看板型・バルーン型・動物型など、それらターゲットを規定数破壊しなくては後半の走行エリアに進むことが出来ない。


ここまで他3機の動きを封じてきた3号機も、ここで先を越されれば水の泡となる。

それは3号機にも分かっている。だからこそ、滑走しながらメガ・ビーム砲のチャージを開始した。

エリア内に入ると同時にターゲットを薙ぎ払い、最短時間で抜ける算段なのだろう。


「そう上手くはいかねえよ!」


だがエリアに入る直前で最後尾にいた試作2号機”サイサリス”が両肩のフレキシブル・スラスター・バインダーを噴かす。

ラジエーターシールドをボード代わりに急加速からジャンプ、3号機の真上を通過する…今回ばかりは3号機もクローアームで妨害できなかった。


なぜなら2号機の加速がつき過ぎていた、それも自分では止まれないほどだったからだ。

あのスピードで衝突すればクローアームだけでなく2号機も破損する。そうなれば互いを傷つけた2号機と3号機は共倒れだ。

それを望まない3号機は、自分のほうが引くしかなかった。このレースにおいて、相手に退かせることが出来ない状況での妨害に意味はない。


「この勝負は俺が貰うぜチキン野郎!」


2号機はトップで射撃エリアに入り、雪原に着地するなり自らの最大火力兵装「アトミックバズーカ」を撃ち放つ。


彼の前面に広がる雪原が、雲が、森が、そこに隠れていたはずのターゲットたちが、一切合切まとめて焼き払われる

強力なIフィールドを持つ3号機とその後ろにいた1号機と4号機は無事だった。


だが無事でいられたのはあくまでもチカラちチエを持つ彼らだけ。

暴力と言う言葉ではまるで足りないチカラの奔流にフィールドは為す術もなく破壊され尽くす。

数秒後、破壊の光が収まったとき僕らの目に映ったのは、雪原とは似ても似つかない赤く爛れた大地の姿だった


この事態を引き起こした2号機のファイターはこの戦果に気をよくして高らかに笑いだすのだが。


「これでこの勝負は俺が頂きだぜ!はーっはっはっは」


≪貴方の攻撃が対戦者のガンプラを傷つけました。あなたは失格です≫


「はーっはっははぁ!?」


喜びに水を差す無情なシステム音が聞こえると同時に、勝者だったはずの2号機の目から光が消えた

突然のことに混乱した2号機ファイターはアームレイカーをしゃかりきに動かすが、全く動かない


「何でだよ、こいつらIフィールドで完全防御してたじゃねえか!それともチキン野郎のフィールドは俺の想定より弱かったってことなのか!?」


彼が混乱し叫んでいる間に4号機が3号機の後ろから脇に出る。

射撃エリアの雪はその下の地面ごとほとんど融けてしまった、普通にこの場所を走ればターゲットの再出現を待つことも出来ずに持ち時間が切れてしまう。


しかし4号機は2丁のマシンガンを取り出し、ケーブルを背部上側のプロペラントタンクに接続、引き金を引く。

銃口から飛び出したのは鉛玉でもビームでも、本来入っているべき推進剤でもなく"雪玉"だった。


4号機は自らばら撒いた雪の上を身軽に飛び交い、ボードにしたシールドに乗ったままを射撃エリアを駆けまわる。

一瞬遅れて1号機も4号機のばら撒いた雪の上を追いかけ、3号機はクレーターだらけとなった射撃エリアの入り口でメガビーム砲を撃つ

そうして3機がそれぞれのターゲットを破壊し、ノルマを達成するのはほぼ同時だった。


そう、先に動いたにもかかわらず、4号機がノルマを達成するのは1号機たちと同時だった。

何故なら彼はその先を考えて動いていたから。


「道が、消えてる!?」


ノルマを達成し、射撃エリアから離脱しようとした1号機のファイターは愕然とした。

射撃エリアから後半の走行エリアに続く道は、見渡す限り4号機のロングビームライフルによって雪を融かされていたから。

流石にアトミックバズーカの破壊には及ばず、剥き出しになった土の道はさほどデコボコしてはいないがそのことにあまり意味はない。


【雪に一定時間以上接していなければ失格となる】…これにより折角ノルマを達成したにもかかわらず、自ら道を開く用意がない1号機は動けずにいた。

4号機はそんな1号機に一瞥もくれず、エネルギーを使い切ったライフルをその場に捨ててシールドボードに搭乗。

背部下側のタンクと接続したマシンガンを右手で振るい、白い道を作りながら滑走を開始した。


またも4号機の後を追うしかない1号機も、ユニバーサル・ブースター・ポッドを全開にして敵の作った道を滑走するのだが


ピーピーピー!


「接地に対する警告音!?


雪から離れた際にだけ鳴り響くはずの警告音とカウントダウンが、何故か始まってしまった。

間違いなく1号機は、1号機を載せたシールドは、白い道の上を滑っていたのに。

なのに何故かアラームが鳴りやまない。事態が把握できず、1号機のファイターは混乱する。


「何でだ!?俺は確かに雪の上を走ってるぞっ」


そしてそのまま何もできないまま、何も分からないままタイムアップを迎えることになる。


≪あなたのガンプラは規定時間を超えて雪原から離れていました。あなたは失格です≫


「ちくしょー!いったいどうなってんだ!?」


カウントゼロと同時に1号機は機能を停止、暗くなったコックピットブロックでファイターが無念の声をあげる。

そしていったいどうなってると繰り返しつぶやき続けていた……それほど自分の身に起きたことが不可解だったんだろう。

彼が失格に追い込まれた理由。分かってみれば実に単純な"イタズラ"なのだが、緊張状態にあるバトル中に気づけなくても仕方ないと思う。

フィールドの状況をすべてモニターしている僕でさえ1号機を追い込んだ絡繰りが分かるのに少々時間がかかったのだから。


とにかく、こうして2号機に続き1号機もリタイヤ。コース上に通行十分な雪が存在しない以上3号機も射撃エリアに足止め。

この時点で4号機の勝利は確定だと僕ですら思った。直後、フィールドに響く爆発音が鳴り響くまでは。


「な、なんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!??」」


もはや動けなくなった1号機が突然コースに雪崩れ込んできた雪に飲まれ、埋もれてしまう。

その正体は3号機の大型コンテナから発射されたミサイルポッドだった。

射撃エリアにいた3号機が、コースの左右に広がる森とその奥にあった手つかずの雪原で爆発。


その衝撃で文字通り雪崩となった雪がコースを覆い尽くし……道を作ったのだ。

これで準備はできたとばかりに、ガンダム3号機"ステイメン"は巨大武装オプション”オーキス”から分離。

オーキスの底面から外したスキー板のひとつに乗り、さらにはIフィールドジェネレーターを抱えてメガビーム砲の前に立っていた。


まさか、と思う間もなくジェネレーターを全開にしてフィールドを張ったステイメンは遠隔操作でメガビーム砲を自分に向けて発射

本来は敵機を焼き払う筈のその光は、Iフィールドに散らされながらもそのエネルギーをステイメンの推進力に変換。

ヴォワチュール・リュミエールと違い運動エネルギーに置き換えられたのは熱エネルギーの一部に過ぎないが、それでも爆発的な加速だった。

見る見る間に差が縮まっていく。3号機が4号機を追い抜くのは、もはや時間の問題だった


すでに4号機のライフルは放棄されているため、この先のコースで雪を溶かし足止めすることは出来ない

シュツルムブースターもあれだけ色々詰めたりばら撒いたりした以上はタンクのエネルギーはゼロに近いはずだ。

今から何かしらの方法でエネルギーを調達することも、スピードアップすることも出来ない。

そんな4号機が取った行動は、3号機の進路上に左手から何かを投げただけだった。

その2秒後、3号機の乗るスキー板のエッジの鼻先が4号機に並ぶ。

もはや逆転は確実、おそらく僕と4号機のファイター以外は確信しただろう


…ぱきっ。


≪貴方の攻撃が対戦者のガンプラを傷つけました。あなたは失格です≫


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


この場にいるほとんどの人に聞こえないような小さな音と共に下された、突然の失格宣告。

3号機は先の2号機と同じ操縦不能となり、Iフィールドも消える。

だが一度ついた勢いまでは殺せない。コントロールを失ったステイメンはコースを暴走、コーナーを曲がれずクラッシュすることになった。

そして。

<GOAL!Winner GP04"Garbera"!>


対戦相手全てを沈黙させた4号機"ガーベラ"は、その後つつがなくゴールイン。

これをもってこのバトルは終了し、フィールドを構成する粒子も消失した


◆◆◆◆


あの熱かった夏から早数か月が経過した。

ヤスフミさんが346プロの騒動に巻き込まれていたその間にも、僕らは新たなプラフスキー粒子の開発と生産は進めてきた

そして来るべき第8回世界大会のための準備もまた、同時に。

例えば、現在実施している大会採用候補のレース競技「バイアスロン」のテスト等。


レース競技は毎年恒例、ですがこの競技は射撃との複合でよりバラエティ性が高いものになっている

このレースは前半と後半の走行エリア、そしてその間にある射撃エリアの3つで構成されていて、雪と一定時間以上離れると失格になる。

その点は第6回の川下りと同じですが、中間に存在する射撃ポイントで規定数のターゲットを破壊しないと先に進めない

つまりこの競技は銃火器の持ち込みが必須、その一方で【対戦相手のガンプラを傷付ければ即時失格】と言うある意味噛み合わないルールが付随している。


それが先の2号機と3号機の途中失格に繋がるのだが。


「どうし俺が失格になったのかきっちり説明してもらうぞ、ニルス・ニールセン」


「そうだ!これはきっとこの新型バトルシステムのバグに違いない!即時修正を」


それが理解できなければこうして動揺する気持ちも分からないではないわけで。

僕に詰め寄る2号機3号機のテストファイターを、まずどうやって落ち着かせるかを考えていたところ


「お二人の失格に関してはシステムの問題ではありません。お二人ともガーベラの武装に傷をつけたから失格になったんです」

そう言って二人と僕の間に入ってきたのは、今のテストで対戦相手を失格に追い込んだ"ガーベラ"のファイター「ジオウ・R・ラケルス」さんだった。


「簡単に言うと、2号機がアトミックバズーカを放つ直前に俺はビームサーベルを一本放り投げました。

結果として、バズーカの熱核エネルギーがサーベルをぶっ壊した為にサイサリスは失格になりました」


「んな!?」


「じゃ、じゃあ3号機のほうは」


「あれは予備のビームサーベルに切れ目を入れてステイメンの進路上に置いたんです。

発振してないサーベルの柄は白くて雪に紛れますし、あのスピードでは認識できなくても仕方ないですよ。

何より、分かっても急には止まれなかったでしょう?結果、あなたはこちらの狙い通りに踏みつぶしてくれました」


「……何でわざわざ切れ目を入れたんだ?」


「直接接触する以上、こっちがあなたのガンプラに傷をつける可能性はゼロじゃなかった。Iフィールドで対実体防御力が多少上がってもです。

あなたがもう少し早く戦線復帰していたら、ステイメンの背中を押していたメガビームに放り込んで"安全"にサーベルを壊させたんですけどね、

リスクを減らすために、少しでもこちらの武装を脆くしようと思ったんです。

それでも共倒れの可能性はゼロじゃないですが、まぁ結局はテストですしそこは仕事としてちゃんと調べなきゃなぁと」


楽しげに語るジオさんに対し、二人は苦虫をかみつぶしたような複雑な顔をしていた。おそらく、今言われて初めて気づいたのだろう。

例年のレースなら攻撃行動自体が禁止されるが、この競技は射撃との複合。それ故に今までの定石が通じなくなっている


相手を傷つけてはならないというこの競技のルールは、裏返せば相手に自分のパーツを傷つけさせれば勝利に近づくと言うことなのだ。

それをいやらしい手段だと思わない当たり、僕もこの人やヤスフミさんに随分と染まってきているのかもしれない。


「うーんうーんうーん」


そんな風に考えていたら、反省会に参加していなった1号機ファイターの声が聞こえてきた。

彼は停止したバトルベースに首を突っ込んで、そこにまだ寝かされたままの自分のガンプラを見つめながら唸り声をあげて。


「なぁマッドジャンキー、俺にはどう考えてもさっぱり分からないことがある」


「なんであなたが失格になったのか、ですか?」


「いや、それは分かった。証拠も残ってたからな」


そう言って彼が指さすのは自分の愛機と、その周辺に撒かれた"白い粉"の道だった。

雪原を構成していた雪はフィールドと共に消失した、つまりここに残っているのはそれとは別の何かと言うことだ。


「お前が後半パートでバラまいていたのは、フィールドから回収した雪なんかじゃなく同じ色した別のプラスチックパーツだったんだろ?

恐らく本当の用途はチャフか何かだったはずだ。俺はそれに気づかず、雪のつもりでその上を走ってた。だからシステムは雪から離れてるって警告してた

思い返せば、お前が射撃エリアに入ったときと、出て行く時とじゃマシンガンを繋げてたタンクが違ったんじゃないか」


「お見事。そこまで分かっていて、いったい何が分からないというんですか」


「お前も同じように偽物の雪の上を走ってた。なのにどうして、4号機は失格にならなかったんだ?」


「さて、何故でしょ


「それは彼が雪の上を走っていたのではなく、雪を上にして走っていたからです」


答えを保留してさらに焦らそうとするジオさんの言葉を遮り、僕から種明かしをする。

残念ながらテストはこの後もいろいろ詰まっているのであまり反省会に時間は取れない。

ここはさっさと疑問を解消してもらうほうが得策だと判断した。


「どういうことだ、アーリージーニアス」


「彼はシールドの上…内側に雪を敷き詰め、それを4号機で踏み固めました。

つまり雪の上を滑ってはいなくても、4号機は雪に接しながら移動していたのです」


システムはそんな彼を失格にはしなかった。ルール上、本当にアリなのかと言われるとグレーゾーンだが。


「………理屈は分かったけど、それはルール的にアリなのか?」


「アリかどうかは後でまとめてGPB(ガンプラバトル)公式審判員協会に提出して判断を仰ぎます。

今大事なのはこのように判断に困るグレーゾーンな事案について、システムがどう判断するのかを確かめておくことです」


ガンプラは自由……だからこそどんな無茶苦茶をする人だって出てくる可能性がある。

ルールの抜け穴を突こうと言う人も、システム的な裏技を探そうとする人も。


そのすべての検証はできなくても、工業的な安全基準と、我々が思いつく限りの状況には対処しなくてはいけない。

あらゆる状況を想定し、あらゆるガンプラを使用して、あらゆる過負荷をシステムに掛けて膨大な数のテストを行う。

まぁ、バグ取りみたいなものだと言っていいだろう。


「では反省会も終わったところで、次のレースを始めましょうか」


「もうかよ…俺たち結構傷心なんだけどなぁ」



とは言え消化しなければならないテストの数はあまりに膨大で……本当に膨大で……苦痛を伴うこともある。

有志のテスターの中には「もうガンプラなんて一生見たくない」なんて弱音を言ってしまうほど参ってしまった人たちも、残念ながらいる。

かと言って、そう言う疲労とは無縁なガンプラ馬鹿……ヤスフミさんやカイザー、メイジン・カワグチ、セイくんたちには頼めない。


「なら皆さんは一時休憩を。ジオさんは、大丈夫ですね?」


「まぁな。でもニルス、もう少しテスターの数を増やせないか?このままじゃ次の大会を1年延期する羽目になるぞ」


「そうしたいのはやまやまなんですが、めぼしい人材は大会出場を狙ってる人たちばかりで」


そう言った人材はみんな第8回大会への出場を狙っていますから、ここで協力をお願いするのはアンフェア。

公式審判員の人たちなら大会には出ないだろうが彼らにもそれぞれの日常と仕事があるわけで。

結果として僕やジオさんのようなバトルを引退して運営に身を置くようになったビルドファイターが駆り出されてしまう。




「なら大会参加者じゃなくて広報担当……マスコット役として現役アイドルや候補生に募集を掛けてみたらどうだ?

審査条件にここでの耐久バグ出し合宿とか組み込めば、最終的に全員が辞めても色々助かるだろ。どうだ?」


「……ガンプラバトルの評判にも関わりますからあまり厳しいことはさせられませんが、会議には提出しましょう」


実際、765プロとの提携も生かしてガンプラ普及のための新しいアイドルを発掘しようという話が矢島商事内にはある。

それどころか一部ではヤスフミさんやメイジン・カワグチに倣って僕やジオさんにコーチングさせようという話まで出ているらしい。

正直そこまで手が回らないので勘弁してほしいところなのだが………閑話休題。


「とりあえず、次は僕とジオさんの1対1で対戦しませんか?」


「それ、テストしたいのはシステムじゃなくて噂の新型のほうなんじゃないのか」


「否定はしません」


そして懐から取り出してみせるのはダークレッドに染め上げた僕の新しいガンプラ「忍パルスガンダム」

ガンダムSEED DESTINYに登場する前半主人公機であるインパルスガンダムをベースに改造した「忍者」だった。


「雪原でその色は目立つだろ……と油断させてVPSで色を変えて潜みそうだなあ」


「ふふ、どうでしょう」


軽く笑って返すけど、内心ドキリとする。この人はやはりそう言った発想力に長けている。


「それにバックパックに背負ってるのは傘…いや手裏剣か?忍者モチーフならコアスプレンダーを脱出させて空蝉の術とか」


「残念ながら、強度の問題で廃止しました。それにブースター(脱出機)の類はあまり好みじゃないんです」


なお【雪原に接触し続けなければならないこの競技でコアスプレンダーは無意味じゃないか】と言う指摘はそれこそ無意味だ。

何故なら、すでにドリルとキャタピラをつけた小型戦闘機がテストで使われた前例があるから。


そのドリル付きは、破壊不能オブジェクトな木々であふれる推奨コース外な森の隙間を縫うように走ってショートカットを成功させている。

………ガンプラバトルに関わって以来、自由と言う名の翼を得た人間の想像力は本当にとんでもないと日々感じてます。


「それのテストするなら地形選択バトルのテストのほうを先にしたほうが良いんじゃないか?」


「僕はレースで構いませんが、お望みとあらば」


「じゃあ俺も新型を出すか。ちょっと待っててくれ」


そう言って僕が知る中でも特に想像力がひねくれた、いや溢れる想像力を持つ人は自身に与えられた作業部屋のキャビネットに向かう

彼が持ち出してくるのが喜劇のように奇抜なMSか、淡々と勝利するための機体か、それとも意地を張るためのガンプラか。

内心それを楽しみにしながら、彼を待っている間にバトルベースの設定を済ませておくことにした。



(続く?)








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

≪機体紹介≫

<GP04ガーベラ・バイアスロン仕様>

ガーベラ・テトラの元になったガンダム試作4号機。背後にあるプロペラントタンク兼用の
シュツルムブースター3基を特殊マガジンラックに改造。専用マシンガン2丁を装備


今回はフィールドの雪を詰めて専用マシンガンから"雪鉄砲"として発射し、足場を作るなどに利用した


一方で、この装備は従来のプロペラントタンクとしての役割も果たしている。


第6回大会でザクアメイジングが川の水を推進剤としたように、フィールド上の粒子構造物は
それがどんな姿を取ったものであれ、ガンプラのエネルギーに変換できてしまう。


そのガンプラバトルだけの特性を利用したのが今回の作戦、タンクの中に詰めた雪と粒子を
帯びた白いチャフは、推進剤としてもキチンと利用していたのです。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「うわぁぁぁぁ♪凄い、忍者カッコイイ!」


"ラファエル"を持ってバトルベースに戻ってきたら、何故かキャロラインお嬢さんと見知らぬ女の子が二人いて、ニルスがそのうちの1人に懐かれてた。

どうやら忍パルスガンダムがたいそう気に入ったらしい。活発そうな印象だし、女の子でもやっぱり忍者が好きなんだろう

余りこういう経験がないらしいニルスは困ったような照れた表情を見せていた。


「でもね、ニルスさん。世界中の人が見てる前で試合相手の人のお母さんを馬鹿にするのはとってもイケないんだよ。わたしのお母さんも凄く怒ってたもん!」


かと思えばもう一人の女の子にお説教されて必死に頭を下げてもいた。どうやら前の大会でイオリ・リンコの悪口を言った件らしい。

まぁ怒る人は怒るよなぁ。あれくらいが面白いって言う人もいれば、教育上よろしくないって言う人もいっぱいいるだろうし


「育、そのくらいにしてあげてく。ニルスはその件ではちゃんとイオリ・セイとリンコさんに謝って仲直りしていますわ」


「そうなの、キャロラインさん?ニルスさん、反省したの?」


「は、はい、それはもう」


「ですから育も許してあげてちょうだい」


「うん、わかった。でもあんなこともう絶対にしちゃだめだからね!」


そんな感じで彼女たちの話はまとまったらしい。ひと段落着いたのを見計らって声を掛けようとしたところ


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!怪獣の兄ちゃんだぁぁぁぁぁ!」


俺に気づいた忍者大好き少女が大きな声をあげた。どうやら俺の事を知っているらしい


「ねぇねぇ!お兄さんだよね、TVの中で大きな声でわぁぁぁぁぁって叫びながら戦う怪獣の人だよね」


「えっと、君が言う怪獣の人かは分からないけど、俺の名前はジオウ・R・アマサキっていいます」


「やっぱり!えっと、大神環です!」


「は、はじめまして中谷 育です。よろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。それで二人はどんな用事でここに来たのかな?」


その質問に答えたのはいつも通り自信たっぷりなキャロラインお嬢さんだった。


「ふふん、それはですねぇ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【次回予告】


キャロライン「さぁお二人とも初仕事ですわよ!」


環「はーい。えっと、怪獣のお兄ちゃんが魔法少女になって、忍者のおやぶんとバッキュンバッキュン戦うんだぞ!」


育「環ちゃん、それじゃ全然分からないと思うよ」


環「えー、でも本当にバッキュンバッキュンだったんだよー?あとおやぶんの手裏剣がシュルシュルで怪獣のお兄さんの剣がシュパシュパーって」


育「そうだけどぉ……え、もう時間が無いんですか?わわわ、ごめんなさい」


キャロライン「ほら二人とも、最後の口上だけでもちゃんと合わせなさい!」



環・育「「はぁい!!………次回、CASE2・地形選択バトル!!」」



育「……私も、あんなふうに変身できるかなぁ」



(続く)

[次へ#]

1/4ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!