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頂き物の小説
第31話「リターン・オブ・超破壊大帝」


「いい加減――沈めぇっ!」







 そんな言葉と共に、僕らに向けて魔力の奔流がぶちまけられて――







「誰がっ!」







 相手の思い通りになってやる理由なんてカケラもない。あっさりとアルトで斬り裂いて、距離を詰める。

 そのままの勢いでアルトを叩き込――もうとするけど、逃げられた。シューターでけん制しながらのバックダッシュで、せっかく詰めた距離をまた離される。

 こちらに向けた左手にはすでに桃色のスフィアがスタンバイ。砲撃が来る――けどっ!







《Stinger Snipe》







 そんなのこっちも予測済み。スフィア自体を狙撃して、撃たれる前につぶすっ!

 これで相手の次の手までにはタイムラグが生じるはず。一気に――







「なめたマネをっ!」







 ――って、突っ込んできた!?

 そんなローズイマジンの右手には、金色の魔力で形作られた大剣――ザンバー!

 さっきの僕の突撃と同じように、突っ込んできた勢いを上乗せした斬撃。アルトで受けて――力で耐えない。受け流すっ!

 すかさずこっちも反撃するけど、相手もそれを受け止める。そのまま数合、足を止めて斬り合って――







書庫バンク――接続アクセス!」







 ――今っ!

 聞こえた声を合図に、大上段から振り下ろされた斬撃からバックステップで逃れる。そして――







「ブラッディ――ダガー!」







 再び聞こえるマスターコンボイの声――同時、ローズイマジンの周囲に無数の真紅の短剣が出現。相手が対応するよりも早く降り注ぎ、爆発の嵐を巻き起こすっ!

 僕が引きつけ、マスターコンボイが本命――こんな見え見えの連携に引っかかるとか、程度が知れるねっ!







「どの道、ヤツには引っかかる以外の道はなかったろうがな。
 逃げるにせよ、撃たれる前にオレを止めるにせよ、そんなことはお前が許さないだろう?」

「とーぜん」







 客観的にマジレスを返してくるマスターコンボイに答える。さて、ダメージのほどは……











「………………やってくれるじゃねぇか」











 ……まぢですか。

 煙の向こう側から現れたローズイマジンは軽くダメージこそ受けてるけど、撃破にはまだまだ程遠い感じ。

 フェイト達の時間を奪ってるから……だけじゃないな。純粋に、アイツ自身がタフなんだ。







「まぁ、元々ヤツのモチーフであるバラ自体が丈夫な植物だからな。
 とはいえ、効かないワケじゃない! たたみかけるぞ恭文!」

「とーぜんっ!」







 マスターコンボイに答えて、一気に加速。最大戦速でローズイマジンへと突っ込んで――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――――っ、とっ!

 迫る刃、その切っ先の位置を見極めて、『紙一重』なんて言葉じゃ生ぬるいくらい、仮面の鼻先をかすめるほどのギリギリでかわす――







《ASSIST-RIDE!》







 もちろん、反撃のためのカードをディケイドライバーに装填しながら。







《“METIS”――“PROMINENCE”!》







 その手に生み出されるのは、オレ自身の能力によるものとは別の、異質の炎。そこに自分の炎を加えて、火力を底上げして――







「“プロミネンス”――“ファイア・アコーディオン・プリーツ”!」







 解き放った。オレの手を離れた炎は分厚い炎のカーテンとなり、オレを、そしてシャドームーンとジャーク将軍を包囲する。







「バカめ、自ら逃げ場を絶ったか」

「そんなにデスマッチがお望みか?」

「言ってろ、バーカ。
 逃げ場を失ったのも、デスマッチ気分を味わうハメになるのもてめぇらだけだっつの」







 シャドームーン達に言い返しながら、新たなカードをディケイドライバーに装填する。

 そう――この炎のカーテンはあくまで布石。

 アイツらの言う通り逃げ場を奪うため――もっと言うと、ヤツらとバラ野郎との合流を阻むため、というのがまずひとつ。

 そして、目的はもうひとつ――むしろそっちのために、あえて“炎の壁での包囲”という手段を選んだんだ。







《ASSIST-RIDE!》







 そう――







《“METIS”――“UMBRA”!》







 “次の一手の下準備を兼ねるために”。



 新たに発動させたのは、ブレイカーズの仲間・橋本の能力と同系統、すなわち“影”属性の力――発動させた効果によって、“炎に照らし出され、より強く描き出された”オレの影がうごめき始める。

 そして、そのうごめく影から、まるで千切れるように分裂、飛び出してきたのは、影でできた、ディフォルメされたデザインのかわいらしいウサギ達。

 ……一応弁明させてもらうと、コレ、オレがデザインしたワケじゃないからな? “オリジナル”の使い手の使い方がそのままコピーされた結果であって……いや、好みのデザインであることは否定しないけどさ。







「よっしゃ、お前ら、狙いはあの二人だ。
 総員、かかれぇーっ!」







 そして、オレの号令で影人形達が一斉に動く――言うまでもなく、標的はシャドームーンとジャーク将軍っ!

 飛びかかられたアイツらへの対応で意識が逸れてるスキに、大技のひとつも……







「させるかぁっ!」







 って、そううまくはいかねぇかっ!

 こっちの大技狙いはお見通しだったらしい――見え見えだったのは否定しないけど。ともかくジャーク将軍が地面に剣を突き立てて、周囲にぶちまけた衝撃波が“アンブラ”の影人形達を吹き飛ばす。

 けど、影人形達も吹き飛ばされただけでまだまだ健在――周りの炎に照らされて影はより強く描き出されている。元々の素材が強烈に自己主張しているおかげで、強度が増してるんだ。

 後から発動させた“アンブラ”はもちろん、“プロミネンス”の炎のカーテンも効果時間はまだまだたっぷり残ってる――もうちょっとばかり、この影人形劇に付き合ってもらうぜ!











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第31話「リターン・オブ・超破壊大帝」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いくよ――ロンギヌス!」

《やぼーる!》







 ロンギヌスの舌足らずな声が応じる中、その切っ先を目標に向ける――ターゲット、目の前の魔化魍の団体さん!







《らけーてん、ばれっと!》







 瞬間、強烈なGが全身に加わった。爆発的な加速と共に、私は魔化魍の群れへと突撃して――











 そのまま駆け抜けた。











 私のラケーテンバレットは、魔化魍のどいつも捉えなかった。連中の間を駆け抜け、突破した私に、魔化魍達の注意が集まって――







「私達を相手に余所見なんてっ!」

「スキありですっ!」







 そこに飛び込んでいったのはゴッドオンしたかがみとみゆき。かがみライトフットによる至近距離からの銃撃が、みゆきロードキングの両手のロードアックスが、バケガニやヤマビコを打ちのめす――いくら魔化魍のオツムが獣同然っつっても、こんなに簡単に陽動に引っかかるとか、引っかけ甲斐がないよね、ホントっ!







「つかさ!」

「はいっ!
 お姉ちゃん達――いくよっ!」







 まぁ、だからといって手加減してやる理由もないワケで――私の合図でつかさがゴッドオンしたレインジャーが一斉射撃。彼女の援護を受け、かがみ達は後退、改めてつかさと合流する。



 そして――







「どぉりゃあっ!」

「いっ、くぞぉぉぉぉぉっ!」







 かがみ達と入れ替わりに飛び込むのは青木さんとライ。それぞれの持ち味である突破力と機動性をフルに発揮して、飛び込んだ先、敵のデカブツ達をブッ飛ばして――で、そのまま駆け抜ける。

 敵の真っ只中に留まるようなバカを、あの二人がやらかすワケがない――青木さんはともかく、ライだってそんなにバカじゃない。日頃からおバカキャラで通ってるけど、言動の子供っぽさからそういう印象を持たれているだけで、むしろけっこう機転が利く方だったりするんだから。

 と、それはともかくっ!







「つかさ! もっかい砲撃雨アラレ!」

「え? でも……」

「いいから撃つっ!」

「は、はいっ!」







 私に促されて、つかさが砲撃――ちなみに、つかさが一瞬ためらった理由は単純明快。







「どわぁぁぁぁぁっ!?」

「何だぁっ!?」







 今撃つと、青木さん達に続けとばかりに突撃したバリケードとブラックアウトも巻き込むからだ。つか巻き込ませた。







「何すんだ、てめぇらっ!」

「アンタ達なら大丈夫と踏んだんだけど!? 強いんだもの!」

「それほどでもあるけどなっ!」







 あっさりごまかされるバリケードに心の中で感謝する――ライと違って、正真正銘のバカでいてくれてありがとう。



 なお、感謝した理由は、あっさりごまかされてくれたから、それだけじゃない。

 つかさの砲撃に巻き込まれたことで、バリケードはブラックアウト共々離脱のタイミングを逃した。今や二人は敵中ド真ん中。しばらくは敵の注意を引きつけてくれるだろう。



 というワケで――







「かがみ、つかさ、みゆき! あとヴェルも!
 今のうちに、合体よ!」

『了解っ!』







「ライトフット!」
「レインジャー!」
「ロードキング!」

 かがみが、つかさが、みゆきが――トランステクターにゴッドオンした三人が名乗りを上げて、頭上に大きく跳躍。そして――
『ゴッド、リンク!』
 咆哮と同時、三体のトランステクターが、三人がゴッドオンしたまま分離、変形を開始する。
 かがみのゴッドオンしたライトフットは両足が分離、両腕を後方にたたんだライトフットの両側に合体して、より巨大な上半身へと変形する。
 一方でつかさのレインジャー、みゆきのロードキングはそれぞれ上半身と下半身、さらにバックユニットの三つに分離、下半身は両足がビークルモードの時のように合わさってより巨大な両足に。さらに二つの下半身が背中合わせに合体、下半身が完成する。
 完成した下半身にライトフットの変形した上半身が合体、さらにそのボディの両横、右側にレインジャーの、左側にロードキングの上半身が合体して両肩になると、内部から二の腕が展開される。
 そして、現れた二の腕にレインジャーとロードキングのバックユニットが合体。拳がせり出して両腕が完成。
 最後にライトフットの頭部により大型のヘルメットが被せられた。フェイスガードが閉じると、その瞳に輝きが生まれる。
 すべてのシークエンスを完了。ひとつとなったかがみとつかさ、みゆきは高らかに名乗りを上げる。
『連結、合体! トリプルライナー!』



 



「スーパーモード、スタンバイ!
 トランス、フォーム!」
「オォォォォォンッ!」
 ミラーを介して届けられたつかさからの指示にヴェルが、ワイルドファイアが咆哮する――タンクライナーを牽引して、力強く大地を疾走する。
 そこから、連結を解くと同時にワイルドファイアが頭上高く跳躍。同時に、タンクライナーも土台と砲台が分離する。
 タンクライナーの土台はさらに左右に分割。四肢をたたんだワイルドファイアの後方に合体、人型の両足に。
 先に分離した砲台は折りたたまれたワイルドファイアの両前足をカバーするように合体。両腕になるとワイルドファイアの頭部が左右に分割。断面がその両腕をカバーするように反転しながら倒れ込んで、両肩のアーマーになる。
 最後に、ボディ内部に収納されていたロボットモードの頭部がせり上がって、ロボット、ビースト両モード共通の胸にはビーストモードの姿を描いたエンブレムが浮かび上がる。
 そして、新たな姿となったワイルドファイアが大地に降り立つ――人語を話せないヴェルに代わって、つかさが高らかに名乗りを上げる。
「連結合体! ワイルドライナー!」







 合体を遂げて、二体の巨人が大地に降り立つ。バリケードやブラックアウトに気を取られていた敵さん達も、その地響きでようやく私達のことを思い出したらしい――けど、もう遅い。

 合体したかがみ達のパワーは、スペックだけなら六課隊長格・TF組の面々にも匹敵する。魔化魍やギガンデスと言えど、一対一ではまず勝ち目はない。

 今までは数で圧されることを懸念して、合体は控えてきたけど、敵の数も減ってきたここに至ってはその遠慮も不要というワケだ――唯一のネックだった合体の所要時間の確保も、バリケードやブラックアウトをオトリにしたことで解決されたしね。

 と、いうワケで――みんな、後は任せたっ!







「いや、お前も働けよ」







 はい、青木さん、お約束のツッコミありがと――う?



 何……? 今、向こうの物陰に人影らしいものが見えたんだけど……

 試しにロンギヌスで簡易サーチ――反応ナシ。それほど広い範囲を調べたワケじゃないから、サーチ前に範囲外に出られた可能性もあるけど……

 とはいえ、殺気らしい殺気も感じなかったし……気のせい、かな?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………ふぅっ」







 あぶないなー、ここでもおねーちゃん達がたたかってるのか……



 でも……“ここ”じゃない。

 なのはおねーちゃんや、フェイトおねーちゃんのためにやっつけなきゃいけない“悪い人”は……もっと向こうにいる。

 どうしてなのかわからないけど……“そう”だって、わかるんだ。







 やすーみおにーちゃん……ぼく、がんばるから。



 お願いされたとおり、フェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんを助けるから……







 二人に何か悪いことしてる、悪い人をやっつけて!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――――来たっ!

 斬りかかってきた火焔大将が横薙ぎに振るった剣を身を沈めてかわす――そして、それは同時にしっかりと踏ん張り、両足に力を溜める予備動作も兼ねる。

 その理由は直後に――火焔大将に続いて突っ込んできたヒトツミの槍を、しっかりと力を溜めた両足のバネで横っ飛びにかわす。

 ただ、それでもかわしきれず、刃が右肩をかすめる。飛び込んできた突きによるものじゃない。野郎、突きをかわされたと見るや即座に横薙ぎに派生しやがった。



 サイドステップで十分なはずの突きをおおげさに跳んでかわした理由がこれだ。単純な突きや薙ぎ払いじゃない。こっちの回避や防御に合わせて臨機応変に攻め手を切り替えてきやがる。

 さすがは戦国時代発祥の人型魔化魍。実戦経験の賜物ってヤツか。クウガに変身してなきゃ……戦闘機人としてのスペックだけじゃ対応できていたかどうか怪しいくらい、コイツらは強い。

 しかも、ヒトツミの槍をかわしたところに、仕切り直した火焔大将が改めて突っ込んでくる――くそっ、コイツらの連携、本当にウザすぎる。切れ目がなかなか見出せなくて、反撃の糸口がつかめない。



 とはいえ……うかつに連携を断つのも考えものだ。

 理由は簡単。あたしから見てコイツら二体のさらに向こう側、そこでこっちの時間のギンガとグライドがやり合っているからだ。

 空からの援護でこっちの反撃つぶしに専念しているアイツをまずつぶそうということで、ギンガが向かってくれてるんだ。ここで目の前の二人のどちらかを放り出そうものなら、そいつは迷わずグライドと二人でギンガをつぶしにかかるだろう。



 それをさせないためのあたしだ。ヤツらの意識がギンガに向かない程度にちょっかいを出し続けて、ギンガに対グライド戦へと集中してもらう――







「……とは、納得してるんだけどさっ!」







 こいつら、本当にうっとうしいっ!

 斬りつけてきた火焔大将の剣をサイドステップでかわして、背後に押しやるように駆け抜け“させる”――火焔大将の背中を突き飛ばしたあたしに向けて、ヒトツミが槍をかまえて突っ込んでくる!

 距離を取るには間に合わない。かと言って横に逃げるのもナシだ。さっきみたいに横薙ぎに派生されて、追撃される。

 となると――







「――――っ、らぁっ!」







 安全地帯アンチはここしかない――むしろ前に踏み込んで、ヒトツミの懐に飛び込む。そのまま、体当たりでヒトツミをブッ飛ばす!



 よっしゃ、このまま一気にたたみかk











 一瞬、視界がめちゃくちゃに回転――気がついた時には地面を転がってた。







 背中が痛い――斬撃じゃねぇな。打撃……それもけっこう広い面に。体当たりだな、こりゃ。

 見れば、ヒトツミと合流する火焔大将の姿……今の体当たりはアイツかよ。立て直し早すぎるだろ、こんにゃろう。

 すぐに起き上がるあたしに向けて、ヒトツミと火焔大将が突っ込んでくる――さっきまでと同じように対応するけど、今の体当たり、衝撃が肺に届いてやがるか……呼吸が乱れるっ!







「…………ぷはっ!」







 変なところで息をついて、リズムが崩れる――くそっ!

 とっさにガードを固めたおかげで直撃はしなかったけど……腕に衝撃。そして浮遊感――勢いに負けてブッ飛ばされたかっ!



 一瞬位置の把握が滅茶苦茶になって――背中に衝撃があって、地面を転がる。



 視界が暗くなったことで、近くの廃ビルの中に叩き込まれたんだとかろうじて認識――起き上がって確認して、それが事実だと理解する。



 つか、ここって……







 ――ジャリッ。







 ――――っ! 来たっ!

 足音が、ヤツらが追ってきたことを教えてくれる――考えてる時間はねぇかっ!

 決断して、即実行。一瞬だけ意識を集中させて――











 “ドラゴンロッドによる横薙ぎの一撃で”、ヒトツミと火焔大将をまとめてブッ飛ばすっ!











 壁に叩きつけられ――いや、めり込んだ二人の前で、あたしは改めて立ち上がる。

 真紅から青色へ。マイティフォームからドラゴンフォームへと超変身した状態で。







「ずいぶんと、“いい場所”に叩き込んでくれたな、おい」







 言って、周囲を見回す――







「ネガショッカーの一員にしちゃ、なかなか気の利いたことしてくれるじゃねぇか!」







 工事用の資材やカラーバー、夜間誘導用のライトロッドなんかが転がる資材置き場を。

 再開発の一環でここか近くのビルでも解体工事してたんだろうな。おかげで、超変身に伴う武器作りの素材にも不自由しねぇや。



 と、いうワケで、近くに転がっていた電動ドライバーを手にとって――







「その気遣いに免じて、超変身の大盤振る舞い、やってやろうじゃねぇか!」







 ペガサスフォームに超変身。電動ドライバーがペガサスボウガンへと変化した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――パァンッ!



 弾ける音と共に、相手がバランスを崩して地面に突っ込む――まぁ、勢いよく突っ込んできたところに、横から不意打ちで別方向へのベクトルを叩き込まれたんだ。ムリもない話だと私も思う。

 と、いうワケで――私への体当たりをあっけなくかわされたグライドは、私の嫌がらせジャブによる後押しがあったとはいえ盛大に自爆。顔面から地面に突っ込んだ。







「く……っ、そっ……!」

「ムダよ。
 向こうの二人も一緒に相手しなきゃならなかったさっきまでとは違う――集中して相手できるようになれば、あなた程度なら!」







 身を起して、うめくグライドへと言い放つ――そう。仮面ライダークウガに変身したノーヴェに火焔大将とヒトツミを任せたことで、グライドへの対処が格段に楽になった。それこそ、それまでの優劣があっけなくひっくり返ってしまうほどに。

 単に私が彼の相手に集中できるようになったから、だけじゃない。やり合ってみてわかったけど、グライドが徹底した援護専門に調整されているせいでもあるんだ。

 飛翔能力にソースのほとんどを割いていて、攻撃力は今まで戦ってきた下級のモグラのイマジン……モールイマジン、だったっけ? 彼らと同程度、くらいしかない。

 JS事件を通じて瘴魔とも何度もやり合ってきたから断言できる。瘴魔獣将クラスでこの火力の貧弱さはありえない。明らかに、他に火力をあてにすることを前提に意図的な調整がされている。







「あなたは、周りと連携することで初めてその真価が発揮されるタイプ……
 けど、余りにそれに特化しすぎている。だから連携が崩れたとたんに何もできなくなった……」

「フンッ、よくも言う……っ!
 それは貴様らも同じだろうが! 絆だ想いだと、仲間とつるまなければ敵ひとり倒せない!」







 反論しながら、グライドが空中に舞い上がる――まったく、言ってくれるわね。







「確かに、ノーヴェが来てくれなかったら危なかった私が言っても説得力に欠けるわね……
 ……けどっ!」

「ぶっ!?」







 私の言葉と同時、グライドのつぶれた悲鳴――相手の行く手に回り込むように展開、壁代わりにしたウィングロードに正面から突っ込んだんだ。







「それでも、あえて言わせてもらうわ――」







 言いながら、ウィングロードをもう一本展開。自身の足場にしてグライドへと突っ込んで、







「『一緒にするな』ってね!」







 こちらに気づいて、振り向いたグライドの顔面に、私の右ストレートが突き刺さった。そのまま、壁代わりのウィングロードとのサンドイッチにしてやる。







「私達は、『仲間といなきゃ何もできない』ワケじゃないっ!」







 そのまま、ウィングロード(壁)に叩きつけられたグライドに向けてラッシュを叩き込む――そして、続ける。







「私達は――『仲間といることで強くなれる』のよ!
 確かに連携も大切だけど、それができなくなっても大丈夫なように、私達はひとりでも戦い抜けるように鍛えてる!
 ううん――違う!」







 言いながら、右半身を大きく引く。拳を緩めてリラックス、でもその一方で思いきり魔力を込めて――







「ジュンイチさんや、なのはさんや、なぎくん……みんなが、鍛えてくれた!」







 一瞬のインパクトに全力を込めた渾身の右拳が、グライドの顔面を打ち抜いた。背後のウィングロード(壁)も打ち砕いて、グライドの身体が宙に投げ出されて――







「仲間がいなきゃ、正真正銘何もできなくなるあなたと、一緒にしないで!」







 足場のウィングロードを延長、追いついて、グライドをノーヴェに向けて蹴り落とす!







「ノーヴェ!」







 私の合図で、その意図を正しく理解してくれたノーヴェが“その場からどいてくれる”

 そう、吹っ飛ばしたグライドを迎撃することもなく、だ。

 理由は簡単。“そうする必要がないから”。だって――







「そんなに仲間の力をあてにしたいなら――」











「仲間に介錯してもらうといいわ」











 ノーヴェを狙っていた、そのノーヴェにかわされて狙いを外した火焔大将の太刀の一撃が、代わりにグライドを斬り捨ててくれたから。







「な………………っ!?」







 信じられない、といった顔を見せたのは一瞬。瘴魔獣を倒した時と同じように、叩き斬られたグライドの身体が爆散、消滅する――これでひとりっ!



 いや――ひとりじゃないっ!







「もう、ひとりっ!」







 すでに私は追撃に入ってる。誤爆で仲間を仕留めてしまって動揺する相手方へと突撃、ヒトツミを思いきり殴り倒す。



 そして火焔大将にも――







「お前はこっちだ!」







 ノーヴェが向ってくれた。ペガサスボウガンの銃撃で、火焔大将の剣を弾いて、







「もらいっ!」







 その剣はノーヴェの手に。ペガサスボウガンを手放したノーヴェの、クウガの色が緑から紫へ。







「カラミティ!」







 手にした火焔大将の剣がタイタンソードへ変化。ノーヴェが右半身を大きく引いて刺突のかまえ。



 そして――











「タイタン!」











 火焔大将――ではなく、戦線に復帰してきたヒトツミの身体に突き立てた。

 ノーヴェが火焔大将に向かっていったことで、自分には来ないとでも油断していたんだろう。ヒトツミは回避も防御もなしにまともにくらった。さらにそのままノーヴェに押し込まれ、お腹にタイタンソードを突き立てられたまま押し戻されていく。

 その先には私達のターゲットである“降魔点”――さすがにノーヴェの狙いに気づいたヒトツミもなんとか踏んばろうとするけど、どうすることもできないまま“降魔点”のエネルギーの渦へと押し込まれて――







「グォアォオォォォォォッ!」







 吹き飛んだ。断末魔の咆哮を残して、“降魔点”もろとも木端微塵。



 あとは火焔大将ただひとり――って、







「………………っ!」

「あ、逃げた!」







 そう、ノーヴェの言う通り、火焔大将が逃げ出した。守るべき“降魔点”を失ったからなのか、今までの奮戦がウソのようにあっさりと私達に背を向けて走り出す。



 けど――







「このヤロ! 逃がすか!」

「ノーヴェ、ダメ!」







 後を追いかけようとしたノーヴェを止める――そう、今すべきことは火焔大将を追いかけることじゃない。







「確かに状況は二対一。押し込めば倒せるかもしれない
 けど、それはあくまで“この場だけに限った話”――全体で見れば、数ではこっちが圧倒的に負けてる。
 ここが片づいても、他はまだみんなが戦ってるはず。わざわざ逃げる相手を追いかけてトドメを刺しているヒマがあったら、まだ戦ってるみんなを助けに行く方に力を割くべきだわ」

「けど、だからってアイツをこのまま逃がすのもちょっと違わないか?
 このまま逃げられるってのはもちろん、もし他のところの敵と合流してまた出てきたら……」







 きっと仮面の下では口をとがらせているんだろうな――そんなことを考えながらノーヴェの主張に耳を傾け、その上で私は答える。

 ノーヴェの言っていることも一理ある――けど、もしこの場にジュンイチさんがいたら、それでもきっとこう答えただろう、そんな一言で。







「その時は、また改めてブッ飛ばせばいいだけよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぅわぁっ!?」







 ブッ飛ばされた――それも、ただの腕の一振りで、ティアとまとめて。

 何とか受け身に成功。地面をゴロゴロと転がって――







「オォラァッ!」







 って、バラクーダ!?

 襲いかかってきたもうひとりの敵、振り下ろしてきた剣を、さらに転がってかわす。

 追撃に備えてすぐに立ち上がって、相手に向けてかまえる――バラクーダと、バットファンガイアに向けて。



 けど、やっぱり強いなぁ……バラクーダもだけど、バットファンガイアもさすがはファンガイアの王のひとりなだけあるよ。







「逃がすか!」







 ――とか考えてる間にバラクーダキターッ!

 あたしに向けて一気に距離を詰めてきたバラクーダが、手にした刀を力任せに振り下ろしてくる――のでっ!







「なんのっ!」







 あたしも自分の得物をもう手にしてる――イクサに変身したあたしの得物、イクサナックルで、バラクーダの剣を受け止める。

 ……はい? イクサカリバーがあるだろって? 言わないでよ! 剣の扱いとかまだまだヘタクソなんだもんっ!







「スバル!」







 って、援護来た!

 身をひねってバラクーダの刀を受け流す――勢い余ってバランスを崩したバラクーダに、ティアのばらまいた魔力弾が降り注ぐ。

 さすがにこれはまともに入った。吹っ飛ばされたバラクーダが地面を転がる――今っ!







「ティア! 目と耳ふさいで!」







 言いながら――そしてイクサの仮面の遮音、遮光レベルを上げながら、“それ”をバットファンガイアに向けて放り投げる。

 バットファンガイア対策にってジュンイチ(あたし達と旅してる、ディケイドな方のジュンイチね)が持たせてくれた――











 ――パァンッ!











 スタングレネード!



 ものすごい音と光が、遮断レベルをめいいっぱい上げた仮面越しにもわかる――まぁ、光の目つぶしの方はオマケ程度にしか思ってないけどね。

 本命は――







「ぐぉおぉぉぉぉぉっ!?」







 狙い通り、バットファンガイアが“両耳を押さえて”悶絶してる――超音波エコーを使う、聴覚の発達したコウモリの怪人にはこれ以上なく効いてるね。

 もちろん、アイツが従えていた吸血コウモリ達にも効果は絶大――というか、怪人、しかもボスクラスのバットファンガイアでこれなんだ。ただのコウモリ達にしてみればたまったものじゃないワケで。

 結果として一匹残らず耳から流血して絶命してる……うん、操られていたとはいえキミ達に罪はないよね、ゴメン。



 とにかく、これでバットファンガイアは当面放置でOK。今のうち――







「ティア!」







 呼びかけながら、こっちもそれなりに効いてた、前後不覚に陥っていたバラクーダを思いきり殴り飛ばして――







「シールド!
 “アイツの向こう”……“こっち向きに”!

「OK!」







 それだけであたしの狙いに気づいてくれたらしい。やっぱり別の時間でもティアはティアだね!

 とにかくティアがラウンドシールドを“バラクーダの吹っ飛ぶ先に、防御面をこちらに向ける形で”展開。そこに突っ込んだバラクーダが“跳ね返されてこちらに戻ってくる”ので――







「ティア!」

「わかってるわよ!」







 言葉を交わしながら、あたしとティアでダブルキック!

 もう一度ラウンドシールドに突っ込んで、跳ね返されたバラクーダが戻ってくる前にイクサナックルをティアにパスして――今度はパンチ。ダブルの拳で改めてブッ飛ばす。

 またまたシールドに激突。バラクーダが跳ね返されてきて――







「このぉっ!」

「えぇいっ!」







 仕上げは剣。あたしのイクサカリバーとティアのクロスミラージュのダガーが、本命の一撃を叩き込む!







「ティア!」

「決めなさい!」







 呼びかけに応じて、ティアがさっき貸したイクサナックルを返してくれる。パスされたそれを受け取って、











《イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル、ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ!》











 イクサナックルをライズアップ。スパークの走り始めたそれをかまえて、再度シールドに跳ね返されてきたバラクーダに突っ込んで――











「ブロウクン、ファング!」











 渾身の右ストレート!

 派手に吹っ飛んだバラクーダが、とうとう耐えきれなくなったラウンドシールドを突き破って地面を転がって――あ、耐えた。ヨロヨロと立ち上がってくる。



 けど――残念っ!







「まだ、だ……っ!」

「ううん――もう終わりだよ!」







 あたしはもうすでに、トドメの一撃・パート2の準備に入っていたりする。

 残念ながら、ブロウクンファングはイクサ最強の必殺技というワケじゃない――けど、正真正銘の最強技、イクサジャッジメントはイクサカリバーを使う。一応修行はしてるけど、まだまだ剣に不慣れなあたしじゃ確実さに不安が残る。

 結果、ブロウクンファングに頼るしかなくて、仕留めきれない――そんなことは今までに何度も経験してる。対策のひとつや二つ、さすがのあたしだって用意してるよ!

 今こうして追撃をスタンバイしてたのもそう。最初からブロウクンファングを耐えられるのを前提に、もう一撃叩き込む算段でいたんだ。



 そして――







「マッハキャリバー!」

《Revolver Knuckle》







 イクサへの変身に伴って待機状態に戻していたマッハキャリバーに呼びかけて、右手、イクサの装甲にさらに被せて構築されるリボルバーナックル――ダメ押しの、とっておきの一撃のための下準備。

 続いて目の前、バラクーダとの間に展開される環状魔法陣とその中央に作り出される魔力スフィア――ここまでは“こっちのあたし”も得意なあたし版ディバインバスターだけど、ここからが違う。











《イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル、ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ!》



「ブロウクンっ!」







 リボルバーナックルの魔力粒子加速システム・ナックルスピナーが高速回転を始める。それもあたしの魔力だけじゃない。リボルバーナックルを装着した右手で握るイクサナックル、そこから発生する“ライズアップ済みのエネルギーも巻き込んで”粒子加速、さらにその力を高めていく。



 これぞ(あたし達側の)ジュンイチ考案の、あたし版イクサのとっておき――











「ファンッ! トォムッ!」











 魔力スフィアを思いきり殴りつけて――撃発!



 スフィアに込められた魔力とリボルバーナックル、イクサナックルで高めた魔力が、単一方向にぶちまけられ……ううん、“撃ち出された”。

 それはまるでシューター系魔法の魔力弾。だけど、撃ち出したモノがモノ。砲撃魔力レベルの魔力弾をギリギリまで圧縮、オマケにライフル弾みたいに回転を加えて弾道の安定性と貫通力アップ!



 そんなものをいくら耐えたと言ってもブロウクンファングをまともにくらった後の身体で受ければどうなるか――







「ぐはァッ!」







 うん、耐えられるワケないよね……と、ゆーワケで、あたしのブロウクンファントムの魔力弾はバラクーダの身体、お腹の生体装甲を粉々に粉砕、その内側に突き刺さる。

 それでも勢いは止まらない。魔力弾のライフル回転に巻き込まれて、プロペラのように回転しながらバラクーダが吹っ飛ばされて――“狙い通り、“降魔点”に叩き込む”!







「ぐわぁぁぁぁぁっ!」







 そして――爆発。“降魔点”のエネルギーも巻き込んでの大爆発が、バラクーダの身体を木端微塵に爆砕した。







「よしっ!
 やったよ、ティア! イェ〜イ♪」

「まだよ!
 まだひとり残ってるでしょうがっ!」







 ――ハイタッチしようとしたら怒られた。うぅっ、この挙げた両手がむなしいよっ!



 まぁ、ティアもあぁ言ってることだし、バットファンガイアの方を――って!?







「くっ……!」







 あ! 逃げる気!? そうはいk











「…………っ……!」











 って、ティア!?



 いきなりヒザから力が抜けたのがわかった――とっさに倒れそうになったティアを支える。



「ティア、大丈夫!?」

「なワケないでしょ……
 失敗したわ……シールドの反発力を強めに設定してたおかげで魔力を使いすぎた。せっかく回復させた魔力、赤字どころかスッカラカンよ」



 よかった。単なる魔力切れか。じゃあ……



「ムリしなくていいよ。
 少し休もう。その間はあたしがガードにつくから」

「って、アンタは行きなさいよ! アイツを逃がすつもり!?
 アンタはアンタで、自分の仕事を果たしなs

「“だから残るんだよ”」

「――って、へ?」



 あたしの答えに、ティアの目がテンになる――うん、そうなると思った。



「だって、あたしは“アイツらと戦うために”ここに来たんじゃないから」



 そう。あたしの目的は別にある――正確にはここに来るよう指示した(あたし達側の)ジュンイチの考えでもあるんだけど、あたしも全面的に賛成してる。

 だって、その“指示”ってのは――



「あたしは――」







“ティアと一緒に戦うために”来たんだからね♪」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「むんっ!」







 気合の入った掛け声と一緒に、戦杖が振り上げられる――すくい上げるようなその一撃をレッコウで受け止めたあたしの身体が真上にかち上げられる。

 ――ううん、違う。







「イカヅチ!」

《Vulcan mode!》







 一撃の勢いを利用して、“自分からかち上げられた”んだ――あらかじめ射撃魔法をしこたまスタンバイしていたイカヅチで、レオイマジンの頭上から魔力弾の雨を降らす。

 けど、相手も負けてない。素早く射線から逃れて、跳躍。こっちに向かって突っ込んでくる――のでっ!







「イスルギ!」







 号令と同時、目の前に集結するシールドビットが攻撃を受け止める。そして――







「お返しっ!」







 レッコウを思いきり振り下ろした――ガードされたけど、こっちだって飛べないあちらさんが空中でしのげるようなヤワな一撃を叩き込んだつもりはない。



 と、いうワケで、ガードごと叩き落とされたレオイマジンは轟音を立てて地面に激突。その間に、あたしは悠々と着地して――







「……やるじゃないか、柾木あずさ」







 ……うん、無事だろうと思っていたよ。



 着実にダメージは積み重なっている――けど、倒れるのはまだまだ先みたいだ。ため息をついて、あたしはレオイマジンへと向き直る。

 もちろん、ロコツなため息も未だにかまえずにいるのも“誘い”だ。戦いに飽きてきた、やる気をなくしたふうを装って、ムキになったあちらさんに突っ込んできてもらう――つもり、だったんだけど……




 ……うん、こないね。



 生意気にもあたしの“誘い”を読んできた……? それとも、野生のカンが危機を報せたか……どっちにしても、カウンター狙いってのはあきらめた方がよさそうだ。







「それじゃあ、続き、始めようか」







 落胆を心の中に押し込めて、改めてレッコウをかまえる。



 とはいえ……さて、どうするか。

 他の現場も、いろいろと状況が動いてるらしい――いくつか決着ついたところもあるみたいだし、さっきもイクトさんが“本気”を出したのを感じた。作戦の全体の流れを考えると、こっちの思惑通りに進むにせよひっくり返されるにせよ、そろそろ大きく流れが変わってくる頃合いだ。



 そんな中で、ここで足を止められたままだと、間違いなく次の動きに置いていかれる。

 元々この場はあたしの意地とワガママで無理矢理任せてもらった形だ。これ以上は……うん、時間はかけられないね。



 …………しょうがない。



「……ホントは、このまま真っ向からの実力勝負で押し通りたかったんだけどね……」

「………………? 何?」



 さすがはネコ科の聴覚。あたしのもらしたつぶやきを拾ったらしい。レオイマジンが眉をひそめてる……けど、かまわない。



「ううん、気にしないで」



 言いながら、腰の後ろに留めていたポーチのロックを外し、中の物をいつでも取り出せるように準備する。



「ちょっと……本気“の出し方”を変えるだけだから」

「どういう意味だ?」

「今までは、“機動六課の魔導師としての”あたしの本気。
 けど、ここからは……」







“柾木一門としての”、あたしの本気を見せてあげる」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――っ、とぉっ!?



 受け流せるタイミングじゃなかった。とっさに身をひねった僕のすぐ脇を刃が振り下ろされて、地面を思い切り打ち砕く。

 飛び散る破片が視界を遮る――けど、その程度で相手の位置を見失ったりはしない。







「オォォォォォッ!」







 そしてそれは相方も同じ。マスターコンボイが、手にしたオメガで斬りかかr







「――っ、伏せて!」



「――――――っ!」







 告げた時には、僕はもう伏せている。同じようにマスターコンボイも伏せて――直後、ローズイマジンが身体から伸ばしたツタが僕らのすぐ頭上を薙ぎ払った。

 僕はともかく、マスターコンボイにとってはかなり際どいタイミングだった。あとコンマ一秒でも警告が遅れていたら、マスターコンボイの頭が上下に真っ二つにされていたところだ――っとっ!

 そんな、内心で安堵する僕らを狙って第二波が来た――地面スレスレをさらうようにもう一度放ってきたツタのムチを、はね起きる勢いのまま跳んでかわす。

 つか、またマスターコンボイの突撃をつぶされたか……さっきから二人で手を変え品を変え、攻め手を片っ端から試してるんだけど、あっちも同じく手を変え品を変え防いできてる。

 ……とはいえ、まるっきり収穫がないワケでもないんだけど……







〔マスターコンボイ、気づいてる?〕

〔あぁ〕







 念話での呼びかけにはすぐに答えが返ってきた。







〔今のカウンターもそうだが、なのはのものでもフェイト・T・高町のものでもない、ヤツ自身の能力による防御が増えてきた〕

〔ひょっとしたら、防御に関してはネタ切れになってきたのかも……
 フェイトやなのはの時間を奪って、その情報を見れたとしても、全部が全部、一気に覚えられるワケでもないだろうし〕







 そうだ。いくらフェイト達の戦闘経験を根こそぎ奪ったと言っても、それを覚えるアイツの脳みそはあくまでひとり分。時間をかけて覚えていくならまだしも、昨日の今日であの面々の濃密な経験を全部モノにするには、相当なムリがあるはず……







〔だとすれば、今が攻め時か……
 ヤツの防御の手の内が知れた今なら、押し通るのも不可能ではあるまい〕







 もうすっかりその気らしい。そう念話で言いながらマスターコンボイがオメガをかまえて――







〔本当に、そう思っているのか?〕







 ――っ!? 今の念話……っ!?







「貴様……っ!?」

「聞かれていないとでも思ったのか?
 オレはお前らの仲間の時間を持ってるんだぜ――念話の回線くらい把握してらぁな」







 そう、ローズイマジンだ。うめくマスターコンボイに対して、ムカつくくらい余裕シャクシャクの笑顔でそう答えてくる。

 つか僕らの念話、最初から筒抜けだったってワケか。やってくれる……いや、僕らがうかつだっただけか。







「で? さっきの一言、どういう意味かな?」

「なぁに、簡単な話さ」







 僕に答えて、ローズイマジンが腰をわずかに落として――







「お前らが……このオレを見誤ってるってことs







 セリフが終わるよりも早く、ヤツの姿がその場から消え失せる――ソニックムーブ!



 けど――悪いね! その動きは“知ってる”よ!

 それはフェイトが相手の背後に回り込む時によく使う機動――そう読んだ通り、僕の背後に現れる気配。

 反応できないタイミングじゃない、振り向きざまにアルトを一閃――







「恭文! “後ろだ”!」







 ――――っ!?







 マスターコンボイの声と同時、背後に悪寒。とっさに横に跳んでローズイマジンの剣を回避。さらに僕を狙って飛んできた“それ”を弾く。

 背後から、つまり一瞬前まで正面だった方向から飛んできたのは、多数の真紅の短剣。つかこれって――







「ブラッディダガー!?」







 ちょっと待って! ブラッディダガーはなのはの魔法でもなければフェイトの魔法でもない。マスターコンボイも使うけどそれだってコピーで、本来ははやてが使う魔法なんだ。

 アイツ、はやて達の時間を奪ったワケでもないのに、なんで!?







「いや……ありえない話じゃない」

「マスターコンボイ……?」

「ブラッディダガー自体はそれほど難しい魔法じゃない。
 なのは達ほどの技量があれば、真似るのは簡単なはず……おそらく、オレがさっき使ったのを見て術式を把握して、再現したんだろう」

「マヂか……」







 マスターコンボイの言葉に、僕は思わず頭を抱えた――と言っても、ブラッディダガーをパクられた、そのこと自体に対してじゃない。

 ダガー系の本家であるはやてやリインには失礼な話になるけど、ブラッディダガー自体は大して脅威というワケじゃない。コピーされても“それだけなら”焦る必要なんかどこにもない。



 問題なのはコピーされたという事実、“それが意味すること”の方だ。



 今までアイツは、フェイトやなのはが元々使っていた魔法をそのまま使っていた――言ってみれば、用意されていた手札をそのまま使っていたにすぎない。

 けど、今のは違う――コイツ、マスターコンボイのブラッディダガーという手札を、自分の手札に描き写しやがった。



 それはつまり――







「また来るぞ!」







 ――――っ、またソニックムーブ、さっきの手か! バカのひとつ覚えがっ!



 今度はブラッディダガーに気をつけつつ、今度こそ背後に現れたローズイマジンに一撃入れ――











「あらよっと!」











 ――られなかった!?



 カウンターを狙った僕の一撃は外れた――いや、“かわされた”

 当たるか当たらないか、ギリギリ紙一重のタイミングで、ヒラリと身をひるがえしてかわしやがった。“慣性を殺しきれず、細かな機動ができないはずのソニックムーブ中に”……って、冷静に状況把握してる場合じゃないっ!

 何だよ、今の動き!? ソニックムーブ中にあんな動きって!? あれじゃまるでなのはのフラッシュムーブ……











 ――――あ。











 瞬間、気づいた――アイツが何をしたのか。



 ソニックムーブを使ったのは“トップスピードに達するまでだけ”――後はフラッシュムーブに切り替えて、機動を制御していたんだ。



 つか……これ、ちょっとヤバイ。ブラッディダガーをコピーされた時に感じたイヤな予感、的中してたみたいだ。







 ネタ切れ? 押し切れる? 冗談じゃない。

 コイツ――奪った二人の時間を使いこなし始めてる!







 さっきからアイツ自身のツタを使ったアクションが混じり始めてるのも、ただフェイト達の時間をなぞるだけじゃない、自身の独自の動きも織り交ぜていけるだけの余裕が出てきたからだったんだ……っ!







「――なんか、考え事してるみたいだけどよぉ……」







 ――――――っ!







「ずいぶんと余裕じゃねぇか!」







 ザンバー!



 刃をガッツリ伸ばしての横薙ぎ――後退じゃ逃げ切れない! 跳ぶ!

 地上のものを根こそぎ刈り払わんとばかりに振り回された一撃をかわして上空へ逃れt







「……いいのかよ」







 ?







「その辺、立ち入り禁止の機雷原だぜ?」







 ――――――っ!? しm





















 ――――っ。



 気がついたら、地上の、ガレキの山の中に叩き込まれていた。







「アルト……僕、どのくらい意識飛んでた?」

《ほんの2、3秒です》







 つまり、2、3秒も敵に無防備な姿をさらしていたワケか……あの地上最強の生物な範馬さんちのパパさんなら何回僕を殺せたかね?



 にしても……やってくれるね。ブラッディダガーが座標を指定して発動させる設置型なのを利用して、トラップとして使ってくるとはね……

 厄介なことこの上ないな……この応用の仕方、やっぱり術の特性を理解して、使いこなしてきている証拠だ。



 つまり――







《マスター!》







 ――っ、足元!

 とっさに横っ飛びに回避。足元の地中から飛び出してきたローズイマジンのツタをかわす――って!?

 ツタ一本一本、そのすべての先端に桃色の魔力スフィア――マズイっ!



 背筋が凍るのと同時、ツタの先から片っ端からぶっ放されるディバインシューター。必死にアルトで弾く――弾、く……弾、き、きれないっ!?

 何発か直撃をもらって、吹っ飛ばされる。とはいえ、姿勢が崩れたおかげで何発か外れt







「どわぁっ!?」







 ――マスターコンボイ!?



 声のした方を見れば、ディバインシューターをくらって吹っ飛ぶマスターコンボイ――って、あれ僕が吹っ飛ばされたせいで外れた流れ弾!?

 まさか今のディバインシューター、最初からここまで計算してた!? 僕を狙いつつ、外した流れ弾はマスターコンボイに行くように……



 つまり、僕への攻撃は当たろうが外れようがどっちでもよかったと……ずいぶんと軽く扱ってくれるじゃないのさ!

 いい度胸してるよ。今からその報いをタップリと――







「おっと、そこまでだ」







 ――――っ!?

 立ち上がろうとした僕らの周囲に出現する大量のブラッディダガー。まさか、また追い込まれた!?







「こいつをくらったら、さすがのお前らもひとたまりもないだろ。
 くたばる前に遺言くらいは聞いてやるぜ?」

「勝ち誇るには、まだ早くない?」

「おっと、そうくるか。
 それじゃあ、お前らをブチ殺した後で、改めて勝ち誇らせてもらおうか」







 僕のイヤミにも余裕の態度を崩すことなく、ローズイマジンがブラッディダガーに攻撃命令を下s





















「たぁぁぁぁぁっ!」



 ごちんっ!





















「がはぁっ!?」







 ――――――っ!?



 上がった悲鳴は僕のものでも、マスターコンボイのものでもなくて――ローズイマジンのものだった。



 つか……何アレ。



 直前までローズイマジンをにらみつけていたおかげで、僕もマスターコンボイもいったい何が起きたのか、一部始終を目撃することができた。

 けど……うん、何て言うの? こう、目の前で起きたことを事実として認めてたまるか、というか、認めちゃっていいの、コレ? というか……

 きっと、となりのマスターコンボイも似たような感じだろう――とりあえず、これだけはツッコんどこう。せーのっ。







『なんでここにいる?――』











『(柾木)ジュンイチ(さん)!?』











 そう――たぶん“さっきの”をかました時にどこかでぶつけたんだろう。頭を抱えて涙目になっているのは、六課隊舎で留守番しているはずのちびジュンイチさん。

 彼がいきなり、ガレキの塊を手に降ってきて、ローズイマジンの脳天に一撃をお見舞いしたんだ。



 見れば、僕らの戦ってるすぐ真上には途中で途切れたビルの渡り廊下の成れの果て。きっとあそこから飛び降りてきたんだろうね。

 つか、泣き虫のクセによくやるわ。すぐ真上、2階相当の高さとはいえ、何の訓練もしてない子供が飛び降りるには危険極まる高さだし、勇気だって要っただろうに。







「ってぇ……っ!
 おいガキ! 何しやがる!?」



「ぴやぁっ!?」







 ほら、今だって復活してきたローズイマジンににらまれて僕らのところまで半泣きで逃げてくるし。

 こんな弱気なクセして、それでもここまでやってきて、ローズイマジンに一撃入れるなんてよほどじゃないと……







「よくもやってくれたな、このガキ!」



「や、やるもんっ! やっちゃうもんっ!
 やすーみおにーちゃん達を、いぢめるなぁっ!」







 ……ん。納得したわ。

 僕の後ろに隠れて、それでもローズイマジンに言い返す姿に、理解する――いくら若返っていても、幼児特有の弱小メンタルになっていても、やっぱりジュンイチさんはジュンイチさんだ。

 誰かのためならどんなに怖くてもがんばれる――そんな、決して折れない“不屈”の心に支えられた、「勇者」を名乗るに値する勇気。復讐鬼と化しながらも決して失うことのなかった、ジョジョで言うところの“黄金の精神”ってヤツは、この頃からしっかり健在だったワケか。







「だが、それだけで隊舎を抜け出して、ここまでやってきたというのか……?」

「え?
 だって、やすーみおにーちゃんが……」

「え…………?」







 マスターコンボイに答えたジュンイチさんの言葉が頭に、思考に引っかかる――僕が、何だって?







「やすーみおにーちゃん、言ってたもん。『フェイトおねーちゃんをたのむ』って……
 だから、おねーちゃん達を困らせてる、わるい人達をやっつけなくちゃ、って……」







 ……そーゆーことかぁぁぁぁぁっ!?



 つまりこの子、「面倒を見ててあげて」程度のつもりで言った『フェイトを頼む』って言葉をガチ方向に拡大解釈して……ローズイマジンが元凶だと察知して、何とかしようとしてここまで来たってこと!? つまり原因僕かぁぁぁぁぁっ!?







「そ、それだけでこの場に乗り込んできたのか……?」

「だって、おかーさんが言ってたもんっ! 『おんなの子は大事にしてあげなきゃいけない』って!」







 いや、それでここまで突っ走れるのアンタだけだからっ!







「言ってたよ! 『おんなの子をほれさせるのはやさしさで、のめりこませるのは“にひるさ”で、さいごはべんごしとたたかうつよしいしだ』って!」







 ついでにもうひとつ納得できちゃったよ! この異性関係の豪快なズレっぷり、やっぱりジュンイチさんはジュンイチさんだったわっ! つかこんな子供にナニ教えてるの霞澄さぁぁぁぁぁんっ!?











 ――ナニって、そりゃ……ナ・ニ♪











 空の彼方に幻で出てきてドヤ顔キメてくれましたよあの人。







「……てめぇら……っ!」







 あ、ローズイマジンが怒った。







「このオレを前に、よくもまぁそんなバカなやり取りができるな……っ!」

「むーっ! バカじゃないもんっ!
 バカって言った人の方がバカなんだぞーっ!」

「やかましいっ!」

「ぴぃっ!?」







 言い返したジュンイチさんがローズイマジンににらまれて僕のところまで逃げてくる。それでも僕の後ろからローズイマジンをにらみつけ……ようとしてるけど、その表情は半泣き。本格的に泣き出す一歩手前といったところだ。







 ……ん、あれ?







 僕の気のせいかな……なんか、ジュンイチさんの周りの空気に違和感が……?







「そんなザマで、このオレとやろうってか!? あぁっ!?」

「うぅ……や、やっちゃうもんっ!
 お前をやっつけちゃえば、フェイトおねーちゃんたちがたすかるんでしょ!?」







 ……うぅん、気のせいじゃない。

 よくよく様子を伺わないとわからないけど、辺りを舞い散る土ぼこりの動きはゆっくりと、けど確かに、ジュンイチさんを中心に渦を巻き始めている。







「フェイトおねーちゃん達をこまらせて、やすーみおにーちゃんたちをいじめた……っ!」







 それに、心なしか温度も上がってきてるような……







《その通りですね。
 ジュンイチさんの周囲の温度が一帯の平均温度と比較して三度上昇……今プラス四度になりました。
 それに、ジュンイチさんの中で精霊力の過剰集束の反応があります》







 はぁ!? どういうこと、それ!? だってジュンイチさん、この頃はまだブレイカーの“力”は……











 ………………あ。











 そうだ。ローズイマジンに時間を奪われて、ジュンイチさんは戦う力を身につける前まで戻されてしまった。

 けど、“それだけ”だ。奪われたのはジュンイチさんの戦士としての時間だけで、ジュンイチさんの“素養”まで奪われたワケじゃない。ジュンイチさんのブレイカーとしての“力”は、今も変わらずにジュンイチさんの中にあるんだ。



 けど……もし、それが今ここで、ジュンイチさんの感情の爆発を引き金に解放されようとしているとしたら……?



 (今のジュンイチさん視点で)今まで使われることもなく、身体の中に貯まりに貯まった力が、感情に任せて一気に解き放たれようとしているとしたら……







 結論。今のジュンイチさんは、ドラゴンボールで言うところの……





 ラディッツ戦の孫悟飯くん状態っ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 おいおい、ちょっと待ったのしばし待ていっ!



 背筋に寒気が走り、オレはジャーク将軍の剣を受け流すと同時、背後から水平に振るわれたシャドームーンのサタンサーベルを身を沈めて回避する。

 ――と言っても、感じた寒気の原因はジャーク将軍でもシャドームーンでもない。



 オレだ。



 プロミネンスの効果が切れて、オレ達を囲っていた炎の壁が消滅すると、いったいいつの間に、つかそもそもどうやってここまで来たのか、この世界の、子供の頃にまで時間を戻されてしまったオレが恭文達と合流していた。

 しかも、今にもかんしゃくを起こして泣きギレしそうなくらいにため込んだ状態で。



 ヤバイヤバイヤバイヤバイ、あの状態は本気でヤバイ!

 オレのヤツ……怒りに任せて、力を暴発させかかってやがる!



 ……はい、そこの読者さん。「たかがガキの“力”くらい大したものじゃないだろ」とか、そう思う気持ちはわからないでもないけど、そこはちょっと見方を変えてほしい。

 これが体力や精神力、すなわち“気”や魔力の問題ならその意見の通りだけど、オレが使うのは命の力とも揶揄される精霊力。身体や心の成長よりも命そのものの強さ、言ってみれば“命がどれだけ元気か”がモノを言う力なんだ。

 そして、“命の元気さ”に関して言うなら、子供であればあるほど分がある。当然だ。若ければ若いほど命は新鮮。寿命という形で消費される前の、エネルギーに満ち溢れた状態なワケだから。

 結論として――お子様になってしまった今のこっちのオレでも、精霊力の出力そのものは、26歳バージョンのオレと比べたって遜色はないと思っていい。ヘタをすれば、上回っている可能性すらある。



 そんなものが、手加減もペース配分も関係なく、たった一発にすべてを込めて一気に全解放なんてされればどうなるか……







「よせ、ローズイマジン!
 これ以上、こちらの柾木ジュンイチを刺激するな!」

「ただのガキになっちまったお前に何ができるってんだ、あぁっ!?」







 同じ結論に至ったらしく、さすがのジャーク将軍もこれには止めに入る――けど、事の危険性に気づいてないらしく、ローズイマジンはこっちのオレへの挑発をやめやしない。







「ローズイマジン、やめろ!」

「ガキはさっさと逃げ帰って、ママのおっぱいでもしゃぶってろ!」






 シャドームーンが叫んでもだ。しっかり追撃をかましてくれた。







「……うぅっ……うぅ〜っ……!」







 あああああっ! こっちのオレがとうとうぐずり始めた!



 もーあかんっ! オレがガキの頃の経験からして、あそこまでいって泣かずに耐えられた記憶がないっ!







「お前ら、今すぐ伏せろぉっ!」



「言われるまでもなくっ!」

「そうさせてもらおうっ!」







 さすがはこっちのオレの身内。今のこっちのオレの状態を正しく理解していたらしい恭文とマスターコンボイがヘッドスライディングの如くその場に伏せる。



 もちろんオレもそれにならって――







「お前らなんか……」











「お前ら、なんか……っ!」





















「キ、ラ、イ、だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





















 “爆発”した。



 こっちのオレの叫びをトリガーに、その体内で高まりに高まっていた“力”が一気に解放された。

 オーラの噴出、なんて生易しいレベルじゃない。先に述べたそのまま、“爆発”としか言いようのない規模のエネルギーの解放。こっちのオレを中心に、周りのものを根こそぎ吹っ飛ばしながらぶちまけられて――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……無事か、恭文」

「う、うん……」



 かけた声にはすぐに返事が返ってきた――幸い二人そろって同じ方向に吹っ飛んだらしい。すぐ傍らで恭文が起き上がり――



「……そーゆーマスターコンボイは大丈夫?
 なんか上下逆さまにめり込んでるけど」

「……引き抜いてくれるとありがたい」



 素直に白旗を揚げる――仕方ないだろ。四肢や頭はともかく身体がガレキに完全にめり込んでしまっているのだから。こんな状態では手足も満足に踏んばれない。

 ロボットモードに戻って無理矢理脱出という手段は敵がどうなったかわからないうちは避けたい。不用意に目立って的になるのはゴメンだ。



「マスターコンボイ、ジュンイチさんは……?」

「呼んだー?」

「いや、そっちじゃなくて」

「ひどっ!?」



 ひょっこり顔を出した若い方の柾木ジュンイチが一蹴された。ちなみに今の衝撃で変身が解けたらしく素顔だ。



 というか……



「おい、若い方。貴様あの二人の足止めはどうした?」

「ムリ言うなよ。
 あのバラ野郎がこっちのオレを“爆発”させちまったんだぞ。あの“力”の嵐の中で、二人も捕捉し続けろっつー方がムリな話だ」


 む、それは確かに。


 試しに“力”を探ってみる――チッ、やはりジャーク将軍もシャドームーンも今のドサクサに紛れてローズイマジンと合流しているか。



「つか、なんつー威力……
 さすが、目覚める前まで“戻されて”いても、ジュンイチさんはジュンイチさんってことか……」



 うめく恭文には全面的に同意したいところだ。

 この威力、普段の戦闘で柾木ジュンイチが発揮していた火力を完全に上回っている。普段ヤツがどれだけ手加減していたかがよくわかるというものd



「いーや、そーゆー話でもねぇよ」



 ………………? 何……?



「どういうことだ、若い方?」

「ん」




 オレに答えて、若い方の柾木ジュンイチが指さした先には――



「きゅう……」



 あ、こちらの柾木ジュンイチが目を回して倒れている。



「マスター・ランクのブレイカーが何も考えなしに全力ブッパしたんだぞ。ガキだろうが覚醒前だろうがあのくらいの威力は出らぁな」



 なるほど。子供特有の考えなしの全力投球というヤツか。



 しかし――それがわかったところで、感情的な部分まで納得させられるワケじゃない。

 目の前に、四車線道路を完全に寸断するほどの規模で穿たれた大穴を、それを作り出した大爆発を間近で見せつけられたんだ。どうしても自分の技の威力と比べてしまう。



 そして、普段のヤツと、今のヤツの状態を理解しているから、理屈を超えて思ってしまう。「時間が戻った方が強くなるなんて反則だろう」と――





















 ………………ん?





















 “時間が戻った方が強くなる”?





















 瞬間――頭の中で言い訳じみた感じで垂れ流していた言葉が引っかかった。



 そうだ。考えてみればそうじゃないか。

 以前の自分の方が強い――それも圧倒的に。そんな条件を、今の柾木ジュンイチの一撃のような見せかけだけのものでなく、正真正銘満たしている存在が、ここにいるだろうが。



 まぁ、問題がひとつ、ないワケではないが――それもクリアする手段はある。気の進まないクリア手段ではあるが、得られる恩恵を考えれば微々たるものだろう。







 となれば……







「恭文」

「ん?」

「いざという時はなのはの名前を出せ。
 それでだいたい話は通じるはずだ」

「え…………?」



 「それはどういうことだ(意訳)」と尋ねてくる恭文の声を無視して、オメガを手に走り出す。

 標的は立ち込めたままの土煙の向こう――まだこちらを捕捉していないバラのイマジン!







「――――っ!? ちぃっ!」







 気づかれた。斬撃は止められた――だが、かまわん!







「ハッ不意打ち失敗、ごくろーさんっ!
 あのチビの一発の不意を突いたつもりだろうが、残念だったな!」

「不意打ち?
 何をバカなことを」







 つばぜり合いの体勢で、バラのイマジンの言葉を鼻で笑う。







「あの程度の爆発、オレ達にだってできること。
 そういう貴様こそ、あんな程度の爆発でスキがどうこう言い出すとは、ずいぶんと肝の小さいことだな!」

「………………っ」







 フンッ、反応を見せたか。







「どうした? 図星でも突かれたか?
 何を気にすることがある? 貴様の奪った“時間”を使えば、この程度のことはたやすかろう。
 ……あぁ、そうだったな。なのはもフェイト・T・高町も、あれだけの威力を出そうと思ったら相応のチャージ時間が必要だったな。それは確かにスキを突かれるのが怖くてやり返したくてもできないか。これは悪いことを言ってしまったな」

「やかましいっ!」







 お、キレたか。これは来るか?







「黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって……っ!
 そんなに“時間”を取られてぇか!?」

「奪えるものならな!」







 来た!――内心ほくそ笑みながら、突き飛ばすようにバラのイマジンを押し返し、自らも距離を取る。“こちらがヤツの能力を警戒しているように見せかけるために”。







「ハッ! それで逃げたつもりかよ!?」







 狙い通り、バラのイマジンがツタの触手を伸ばしてくる――素直にはくらわない。あくまで避けるふうを、避けきれずにくらうふうを装わなければn







「甘いんだよ!」







 ――――下っ!



 バックステップでかわした先、足元のガレキを吹き飛ばしてツタの触手が飛び出してきた。あっという間に全身に絡みつき、視界すらも覆い隠さr







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「マスターコンボイ!?」



 それはフォローする間もないほどの、まさに一瞬の決着。足元から不意打ちを仕掛けたローズイマジンのツタが、マスターコンボイを完全に包み込んでしまった。







 ……いや、そんな冷静に地の文で語ってる場合じゃなくてっ!







 何あっさりやられちゃってるの!? 何か策を思いついたんじゃなかったの!?



《落ち着いてください、マスター。
 彼は“いざという時”のことを私達に言い置いてから突撃していきました――つまり、自分が対処できる状態でなくなることもあり得ると想定していたということです。
 であれば、現状も彼の想定の内という可能性も考えるべきです》



 いや、これがマスターコンボイの想定内って……



 改めて、マスターコンボイを捕まえているツタの塊へと視線を向ける――もしアレがただ相手を捕まえておくだけのシロモノなら、僕だってこんなにあわてることはなかっただろう。

 けど、アレは違うんだ。アレに捕まっている限り、中の被害者はどんどん時間を奪われていく。しかも、奪って時間の中での経験をそっくりあのローズイマジンの戦力にされてしまうというオマケ付きで。

 つまり今まさに、マスターコンボイの時間が現在進行形で奪われているということで……





















 ………………おや?





















 瞬間、頭の中で閃くものがあった。



 まさか、マスターコンボイの狙いって……

 だとしたら、僕の今やるべきことは――



「マスターコンボイ!」



 アルトをかまえて地を蹴る。マスターコンボイを拘束しているツタの塊へと突撃、ツタを叩き斬――



「ぶべっ!?」



 瞬間、まったく予想なんてしてなかった衝撃――視界が閉ざされる、いや、覆われるのと同時に鼻っ柱に強烈なのがきた。

 たまらずふらついて、数歩下がって……そこでようやく、自分に何が起きたのかを把握した。



 把握したけど……



「………………何コレ?」

《まぁ、見たまんまですよ。
 マスターコンボイを捕まえたツタの塊、アレがいきなり膨張して、あの有様です。
 私が警告する間もないくらいにいきなりでしたからね、私のサポートなしじゃ鈍くさいことこの上ないマスターが反応しきれずに激突してしまったのもムリはないかと》

「誰が鈍くさいって?」



 アルトにツッコみながら、改めてそれを見る――アルトの言う通りだ。マスターコンボイを捕まえた、あのツタの塊が何倍にも膨張したんだ。

 で、その変化があまりにも突然すぎて、反応しきれなかった僕は我ながら無様な感じで激突してしまった、と……うぅ〜ん、“アイツらにマスターコンボイの狙いに気づかせないため”に、見た目そのままの状況にあわててるように見せるために一芝居打とうとしただけなのに、余計な恥かいちゃったよ。



 けど、これって何がどうなって……? 考えられる原因といえば……



「トランスフォーマーサイズに戻ったか……人間形態を手に入れる前まで戻りやがったな!
 仮に捕まっても、身体がでっかくなれば引きちぎって脱出できると、そこまでで被害を抑えられるとでも思ったか!?
 けど残念だったな! その程度じゃちぎれねぇよ!」



 ローズイマジンが代弁してくれた。

 あぁ、やっぱりそうか。中のマスターコンボイがヒューマンフォームから元のロボットモードに戻ったんだ。

 そして脱出できてないのもアイツの言う通り。それどころか、トランスフォーマーサイズに戻っても、相変わらず姿も見えないくらいに完全に包み込まれている。







 ……まぁ、“マスターコンボイの狙いを考えたら脱出できたらむしろ困る”んだけどね。







「所詮浅知恵だったな!
 テメェの負けだ! トランスフォーマーの現役戦士の実戦経験、何百年分になるか知らねぇが、そっくりそのままいただくz





















「……やかましいな」





















 ――それはまさに、ローズイマジンが有頂天の絶頂に達しただろう、まさにその瞬間の出来事。



 勝ち誇っていたヤツのたわ言を断ち切る、静かな一言――同時、ツタの塊が勢いよく弾け飛んだ。







 “内側から、バラバラに斬り刻まれて”。







「な…………!?」



 いったい何が起きたのか――それが今のアイツの正直な感想だろう。

 まんまとマスターコンボイの思惑に乗ってしまったことにすら気づいてない今のアイツに、マスターコンボイがどうなったのかなんて、想像できるワケがない。

 まぁ……マスターコンボイが何を企んだか気づいてるってだけで、僕もこれからどうなるかなんて、想像もつかないんだけど。



 本当、無茶苦茶なことを考えついたもんだよ。マスターコンボイも……











 ……いや、“マスターコンボイじゃない”











「というか……ここはどこだ?
 “ギガロニアじゃないのか?”



 そんな発言と共に、うっすらと晴れ始めた煙の向こうで見え隠れする白銀の装甲――はい、カンのいい読者のみなさんはもうこの時点で何が起きたかわかったと思う。



 え? わかんない人もいる? 仕方ないな〜、じゃあヒント。

 ギガロニアというのは、10年前、かつての“GBH戦役”の頃、フェイト達が訪れた星のひとつだ。

 “彼”の言葉からして、彼にとっての“今”、現在位置はギガロニア――今まさに、彼は“GBH戦役”の真っ只中にいるんだ。

 で、あの頃、マスターコンボイがどうなっていたかといえば――



「な、何なんだ、コイツ……!?
 マスターコンボイは、どこに……!?」

「…………む? 何だ、貴様?」



 あ、ローズイマジンが“彼”に見つかった。



「見たところ人間タイプヒューマノイドのようだが、貴様のようなヤツは初めて見るな……
 まさか、今オレを木のようなもので閉じ込めていたのは貴様か?」

「だ、だったら何だってんだ!?」

「そうか、貴様か……
 いったい何者か知らんが……いい度胸だな、貴様」



 この瞬間、ローズイマジンの運命が決したと言ってもいいだろう。



 なぜなら……ヤツは、この場でもっともケンカを売ってはいけない相手にケンカを売ってしまったのだから。







 そう――











 デストロン超破壊大帝、マスターガルバトロンに!







(第32話に続く)





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あきゅろす。
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