頂き物の小説
第16話「原子の太陽」
アームで外に放り出される様にオウミから発艦。
スロットルを最大推力に叩き込むと同時にバレルを展開したGNマルチキャノンから高圧縮ビームであるハイパーグレネードをグランゾンに発射。
高密度に特化した結果オウミのバイタルパートすらぶち抜く火力を持つこれだが案の定、グランゾンは湾曲フィールドで受け止めた。
うーん、あいっかわらずやたらと固い。当てられるのが救いか。
とか考えていると、通信を受信。発信源は目の前だった。
通信を開いてモニターに映ったのは、グランゾンのパイロットはやはりな人物だった。
《今度の私の相手は貴方ですか?》
「シュウ......先生......!」
彼らがやってきたのは霧に支配された世界。だが唯の霧の世界で済むとは限らない。
彼らはあれだこれだと知識を振り絞って己の力を引き出してこの難局を乗り越えられるか。
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第16話「原子の太陽」
《先生......ですか》
「こっちの話です。
にしてもよくもまあ、オウミをやってくれました、ね!」
話を一旦終えると同時に取り敢えず全身の射撃兵装を逃げ場を潰す様に乱射。
だがグランゾンは紫の円の中に入って消える。ワームホールで逃げられたという事だ。
グランゾンの弱点なんて縦の小回りが利きにくいのと関節の可動範囲位なんだよなぁ、マジで。
攻防は御察しの通りだし、最大速度も風の魔装機神たるサイバスターより上で人型故に体の向きを変える事は造作もない。
何だ、このチート野郎と思っているとグランゾンが真下からグランワームソードを突き上げてくる。
離脱は間に合わないので咄嗟に足のビームサーベルを最大出力にして受け止めるが、超重力による干渉波を受け止めるのにビームサーベルのキャパがまるで足りていない。
「チィッ!」
最大出力である証の緑色の刀身のビームサーベルはグランワームソードにより散らされ、稼いだ時間で咄嗟に離脱するが足を半ば真っ二つにされる。
それでもある程度離れて立て直しつつ足は再生。
「シュウ先生め、やってくれる!」
《確かに私の名前はシュウ・シラカワですが、貴方の先生ではありませんよ?》
「そりゃそうですよ。こっちにとっては自分の恩師はあなたですから。
勝手ですけど言い慣れた言い方で呼ばせてもらいます」
そこまで答えてこっちの世界の先生との思い出がふと蘇る。
立川山の頂上で先生と初めて出会った時。
先生からグランゾンの試験運用を依頼され、引き受けて設計図を頂いた時。
その直後にグランゾンで剛さんを倒した蛮野を叩き潰して強過ぎワロスになった事。
連中に加担すると宣言した時に止めようとしたが、グラビトロンカノンで手も足も出せなかったあの時。
そして雪の降る中で俺が自我を取り戻して変身したカタルシスと先生が纏ったグランゾンとのぶつかり合い。
倒れ伏す先生の胸に拾ったグランワームソードを突き刺したあの時を。
そんな懐かしく、悔しかった思いを思い出しているとエンジェルシステム、俺が本来の状態になる為のシステムが起動。
俺の半身たるカタルシスもやる気になってくれたらしい。
「やってやるさ」
カタルシスが緑の光を宿して変身していくのを感じる。
さらにカタルシスと俺がダイレクトに接続されて本来あるべき姿である人機一体へと昇華されていく。
あの時とは違う自分で今度こそ成し遂げる。あの時、本当にやりたかった事を......!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
オウミを撃った蒼いロボットがカタルシスと戦い始めた。
それをサーチャーとモニター越しに見ながら正直唖然とした。
ってんな阿呆な!?
《何だ奴は!?》
《グランゾン。一言で言えば重力を操る魔神だ》
《重力を操る......か。簡単に言ってくれる》
シンの疑問をダーグが一言で文字通り存在を示し、そのキチガイっぷりにティエリアが苦い顔をする。
今までを前座にするくらいとんでもないのが来たけど、さらっと聞き逃せない事がなかった!?
「というかちょっと待て、先生って何!?」
《そりゃ、文字通りだ。
こっちの世界のシュウ・シラカワは終夜の恩師だ。そしてうちのお得意様》
誠哉さんの凄まじい暴露に一同声を失った。
どうなってんの!?そっちの世界にはスパロボまで混じってるわけ!?
《恩師って何ですか。あれですか?ラスボス化してるのも受け継いだんですかね》
《それは......あり得るな。前に言ったスーパー戦隊と仮面ライダーを同時に叩き潰した以外に別件でスーパー戦隊や昭和ライダーと殴り合った奴だ。
まあ昭和ライダーは殴りかかってきたから家全体で殴りかかる形だが。
その辺りは硫黄島で話してやる。軽い戦争の次は歴史の授業だ》
本当に何があった!?
つーか管理局崩壊云々が軽い戦争でしかないっていうのがまた......。
《まあ、あいつが真っ先に飛び出たのも訳ありだ。詮索はしないでくれ》
《訳あり......ですか。分かりました》
誠哉さんの頼みをルビーが即座に了承。
まあ、個人的な問題に深く踏み込むわけにもいかんか。無論、こっちの迷惑になるなら話は別だけど。
《でもグランゾンといってもカタルシスなら......》
《肝心な事を忘れていないか?カタルシスは変身しない限り、装備はリアルロボットの枠は出ないんだぞ?》
あ、考えてみればサイコフレームの超パワーを除けば装備自体はリアル枠だった。
光子力ビームやロケットパンチがある訳じゃないし、Gストーンや次元連結システムを積んでる訳ではない。
待て、確かGストーンはあるんだったっけ。じゃあなんで積んでない?
この中途半端な性能はなんだ?終夜が変身するからコスト面は一切無視できるのに。
《安心しろ。だからといってあいつが負けるわけじゃない。実際に1度倒してるからな》
「あれを倒したのか!?」
「普通に化け物ではないですか。リアルロボット枠から外した方がいいのでは?」
「なら放置だな。突っ込んでも火傷するだけだ。もぐ」
以上、僕のしゅごキャラ達の感想である。
そんな事をしていたら、本気を出したのかカタルシスが変身した。あの時の様に。
一部があの時の実質的なフルボッコを思い出したの小さい悲鳴を上げているが、あの時の様な雰囲気はなくすぐグランゾンに突撃した。
《ダッグアースラより各機へ。
よそ見している場合じゃないですよ。敵戦爆大編隊接近中。各機迎撃をお願いします》
それに内心ホッとしていると、エマさんの管制が通信機を通して聞こえてくる。
僕らは本来なら待機組、というより遊撃部隊と言うべきか。
いざという時に投入される奇襲部隊とも予備部隊とも取れる位置だけどね。
今ではその予備部隊投入の準備に大忙しだけどね。旭日艦隊の存在から長期戦を見込み、可能な限りの装備を積み込んで機体状態のチェックに勤しんでいる。
にしても何で爆撃機が大編隊でこんなところにいるんだか。正直場違いな気がしてならない。
でもその後に痛感する事になる。
世界間の常識は凄まじく変わる事を、そして現代で戦争が起きた時の最悪の場合を。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お互いに瞬間移動とワームホールによって攻撃の隙を無くしつつの転移をそれぞれ繰り返しながらGNブレイドUとグランワームソードで斬り結ぶ。
少しの鍔迫り合いの後に放たれたカタルシスのカリドゥスとグランゾンの胸からのビームが零距離でぶつかり合い、エネルギー波を撒き散らしながらお互い後退する。
追撃と牽制のために俺はドラグーンやファンネルを展開しようとして......止めた。
グラビトロンカノン撃たれたら最悪何も出来ずに全滅する。攻撃端末故にカタルシス程硬いわけじゃない。
キャパも限界はあるから再生しようにもこれだと足をすくわれかねない。
「だがファンネルが無理でも打つ手はなくはない。トランザム!」
ならばと下方に降下してグランゾンの足元を占有する。
同時にチャージ時間を極限まで削る為にトランザムしながら、要請しておいたポイントでオウミからエネルギーを受け取る。
その甲斐があったのか、一瞬で120%チャージ完了。
迷う事なく、トランザムの効果で火力を極限まで高めたツインサテライトキャノンを放つ。
《ククク、グランゾンならばこういった事も可能なのですよ?》
だがグランゾンは余裕と言わんばかりにグラビトロンカノンを発射。
するとグランゾンに向かっていたツインサテライトキャノンが高重力の影響で歪み、消滅する。
うわっ、卑怯過ぎる。当てる当てない以前の問題だぞ、これ。
それにDXより破壊力は数段上なのにこれかい。
......ヤバい、有効打が思いつかない。
今ほどカタルシスの性能に制限をかけてしまう肉体を持っている事が焦れったいと思った事はない。まあ言うほど時間が経っているわけでもないが。
カタルシスはその性格上、多種多様な武装を積んでいる。
だがそれらに耐えられるとなると、変身して超絶的な火力を叩き込みざるを得ないのだ。
そうなると、今度は先生の無事が保証出来ないという真逆の事態に陥る。下手したら余波で先生を消し炭にしかねない。
超火力を除外した場合、不意の一撃も変身しないと突く事が出来ず、というかあっちはワームホールでの転移と湾曲フィールドがあるから突けるかさえ怪しい。
さらにグラビトロンカノンを撃たれたら近づく事が儘ならない可能性も考慮しなくてはならない。
なんだかんだ言ったが、要は今のカタルシスはグランゾンとの相性が良くないという事だ。そして今の目的を考えると絶望的になる。
あれをぶち込めれば話は別だが、あれは少々手間がかかる技。馬鹿正直に食らってくれるとも思えない。
「一応聞きます。オウミを撃ったのは何故ですか?」
《そうですね......。誠に不本意ながら見えざる神のせい、とでも言っておきましょうか》
ふと聞いてみた事に先生はあっさり答えてくれた。
先生の言葉からしてやはりヴォルクルスか?
というかこの世界の先生も奴の呪縛に......!
自由を愛した先生らしくもない。
でもこの状況で先生が自由を取り戻す為にはキッカケが必要になる。ヴォルクルスの呪縛を緩める必要が。
ならば......!
「先生、あなたをここで解放する。全ての呪縛から......今度こそ!」
《ほう、いいでしょう。試してみなさい、異世界から来た私の弟子よ》
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アクエリオンを一旦帰還させてアサルトとフォースウェアに換装したメシア、エクストリームで構成された編隊でヘッドオン、真正面から向き合う形での迎撃。
今頃後続が発艦準備に大忙しだろうからある程度速度は妥協しているが。
護衛機はF-15Eのみ。だがその程度の護衛機ではこっちの相手にはなるわけがない。
そんな事からあっさりF-15Eは全滅。後方の爆撃編隊に狙いをつける。
レーダーの敵影から恐らく重爆撃機の類......見えてきた。
《今回の敵は古臭い爆撃機かよ。今までとは随分大違いだな》
《だが数が多い。手を抜く余裕はなさそうだ》
見えてきたのは特徴的な機首と主翼を持つ4発爆撃機のBM-335、リントヴルムの大編隊だった。
BM-335といえばベルカの爆撃機だ、それが何故こんな所に?
......ちょっと待て。BM-335と言えばあの時、シューティア城上空にいた奴だ。
そして奴はあの時何が積まれていた?
《こちらアサルト4!敵編隊を撹乱するからその隙に!》
それらが思い浮かんで解答が導かれた瞬間、身体中から一斉に血が引いた。
「止めろ、アサルト4!ブレイク、ブレイク!」
YF-29から放たれた重力子ビームがBM-335の胴体に直撃した時、巨大な閃光が生まれた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これは......」
巨大な閃光の後に現れたきのこ雲。
あれは間違いない。質量兵器の中でも凶悪な性能を秘めた兵器。
「核......兵器......!」
エマ君が唸る様にその名を呟いた。
彼女は憎いものを見るかの様にその光景を見つめていたが、立ち直って行方不明の憐君に呼びかけた。
「アサルト4!アサルト4!返事をして!!」
《こ、こちらアサルト4。吹き飛ばされたけど何とか大丈夫です》
《アサルト1より4。右の垂直尾翼が脱落、さらに右エンジンから火を吹いている。直ちに帰還しろ》
「整備兵に連絡だ。憐君の緊急着艦準備を急げ!
着艦後に待機部隊を出す!」
あちらの状況を通信で確認しながら必要だと思う指示を出す。
幸い我々の機体の通信システムはこちらで作られた電磁パルス対応型。
機体も対電磁兵器戦を考慮してシーリングは施されている為、こうして通信は問題ないのが救いか......!
「ざっと計算してみたが、破壊力は核兵器でも最大クラスの100メガトンクラス。ダッグアースラが食らったら一溜まりもない」
《アサルト2よりオウミ及びダッグアースラ!核搭載機の識別は出来るか!?》
「ネガティブ、数が多過ぎます。
ダッグアースラより各機へ。敵編隊上空から敵爆撃機を迎撃!全機落として下さい!核兵器に巻き込まれる可能性があるから絶対に近寄らないで!」
ギアが出ず、胴体着陸を強行したYF-29は格納庫のネットに突っ込んで動きを止めた。
そしてすぐにガジェットによる除染作業が行われる。
それと同時に反対側ではダーグ君のヴァルヴレイヴがカタパルトに接続しようと移動を開始した。
だがその時だった。コブラ君からの凶報は。
「待て、いきなり次元断層が出た。これでは転移できないぞ!」
このタイミングでか!?
あまりにもできすぎたタイミングでのこれはおそらく自然現象の類ではないだろう。
となるとこういった事象を自由自在に出せる相手というわけか......!
兎も角、これで援軍の投入タイミングを逸してしまった訳か、クッ......!
《オウミから各機へ通達。本艦12時方向はこちらで対応する》
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「対核砲戦、用意!1番2番3番主砲に対空炉号弾を装填!32000で射撃するぞ!」
矢継ぎ早に指示を出して半分機能不全状態な艦を動かす。
まあ、こんな対核兵器戦は設計段階で想定の範囲内だったりはする。
ベルカの7つの核の起爆やSOLG、アークバードなどの核関連の出来事があったこっちの世界では核兵器に対しての恐怖は尋常じゃない。
それは核戦争対応型の戦略戦艦と超大型空母が存在している事が証明している。
無論、オウミではない。つーかうちの日本の播磨型と大鳳型。それにこっちの世界ならこれからやる事位は割と出来る。
「旭日艦隊は何処にいる!?」
「旭日艦隊は本艦から86000の位置で停止中です。様子見しているものと思われます」
それは朗報だな。
核兵器乱打中に霧が殴り込んで来たらこっちは壊滅だ。
だがそれは旭日艦隊にとってこの事態は予想外である事を意味する。
となると霧以外の連中になるんだが......また世界が繋がったのか?
となると、どっかのベルカか?
だとしたらその世界はどうなっているんだ?これだけの数の核搭載機を投入する事態があったのか?
「敵爆撃機、距離32000!主砲対空射撃用意よし!」
「よし、アサルト4の仇を討つ。主砲対空炉号弾、撃てぇ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
オウミから放たれた砲弾は巨大な火の玉になり、爆撃機を飲み込む。
それで腹に抱えていた物に誘爆したのか、この僅かな時間に見慣れてしまった巨大な爆発が火の玉をさらに飲み込む。
それが最初の火の玉を逃れた爆撃機を飲み込んでどんどん連鎖していった。
そして残ったのは複雑に折り重なったキノコ雲だけだった。
自我がはっきりしている今ならこの恐ろしさが分かる。
あの時はハイパークロックアップで食い止められたけど、俺は一歩踏み外していたらこんな光景を作り出そうとしていたのか......!?
《クソッタレ!弾道ミサイルを撃ってきやがった!》
《数が多すぎる!捌ききれない!》
そう呆然としていると、通信機から悲鳴が聞こえる。
何も出来ず、見守るしかない現状に苛立ちすら感じているとふと気づいた。敵の物量が異常すぎるんだ。
たった1隻を撃沈するためにこれだけの数を投入する意味があるのか?それに自爆というか巻きぞえがある時点で非効率的過ぎる。
ということは敵はそれほどまでの物量を確保した存在になる。オマケに世界の現状が現状だからそんな物量ここで投入するなら霧に使ってもいいはずだ。
俺達は一体何と戦っているんだ......?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
実を言うと、弾道弾迎撃戦も想定の内。
すぐにミサイルや三式弾、パルスレーザーによる迎撃が始まり、光のシャワーとミサイルがキノコ雲を量産していく。
これだけ見るなら順調なのだろうが、徐々にヤバイことになってきた。
敵機が飽和状態でこっちのレーダーシステムもパンク寸前になってしまったのだ。
それに付随して管制射撃の精度もダダ下がりで敵味方の識別すら困難。下手に味方機が近づくとそいつも撃ちかねない事態が起きていた。
「敵機、さらに接近!」
「やむを得ん。近距離対核砲戦に切り替えろ!」
これは簡単に言えば人員損耗と砲弾への誘爆を防ぐ為にこちらから全砲塔の一括管理と砲弾装填時や発射直後の着弾を考慮して攻撃手段をショックカノンとパルスレーザーのみとするやり方だ。
だがショックカノンを散弾にする技術はない為、必然的に対空迎撃には向いていない事が分かる。
つまりこれの発動は被爆を前提とせざるを得ない時にのみだ。
そう悲観的に概要を思い出していると副砲で右の主翼を吹き飛ばされた爆撃機が進路を必死にこちらに向けて落下してくる。
パルスレーザーも迎撃しているが、爆撃機の勢いは止まらない。その腹に核を抱えながら。
もう駄目だ、これ。この瞬間に出来ても誘爆したら間違いなくアウト。
被弾を覚悟して自然と宇宙服越しにアームを握る手が強くなった時にそれがきた。
「高速推進機音、両舷より多数!魚雷です!雷速200ノット!回避、不可能!」
「艦底VLS、迎撃魚雷発射!」
ちょっと待て、この状況下で魚雷だと!?
アンドロイド故の動揺がない素早さで戦術長が即座に迎撃魚雷を発射。
迎撃された魚雷は巨大な閃光に早変わり。
それで生じた海流がスーパーキャビテーション魚雷の膜を奪い去り、魚雷が自壊して次々の巨大な閃光となる。
今度はスーパーキャビテーションの核魚雷か!?
これはただでさえ対空砲戦に手一杯なこちらにとどめを刺す形だ。一体どんな物量を誇ってやがる!
「総員!衝撃に備えろ!上空の機は緊急退避だ、急げぇ!!」
迎撃が間に合う内に退避を促す。
その間にも数十発の魚雷がオウミに殺到している。
一体どれだけの数の潜水艦が彷徨いてるんだよ、これ。
「敵潜水艦は何処だ!?」
「次元アクティブソナーにも反応なし!いきなり魚雷が現れているとしか......次元潜航艦でもありません!」
魚雷がいきなり現れるってどういう事だ!?次元潜航艦の類でもないならどういった原理だ!?
そうこう考えているうちに迎撃での爆風がやがてこっちの姿勢制御を超える段階までヤバイ事になる。
そして覚悟していた時がやってきた。
まず両側から押しつぶされるような衝撃が、その直後に右側から凄まじい衝撃が襲いかかってきた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
駄目......だった......。
オウミは核の炎に飲まれて姿を消した。
その炎の中に爆撃機やミサイルが突っ込んでさらに巨大な爆発を作り出す。
せめてこれ以上はやらせないと、迎撃を続けるが、数の暴力に俺達は屈しかけている。
何で......何でこんな時に守れないんだ............ッ!?
その時、核の爆炎と巨大な波の中から現れた蒼い光が爆撃機を撃ち貫く。
さらに複数の赤や蒼の光やミサイルが次々と敵を喰らっていく。
「生き......てる......」
ある程度爆煙が晴れたそこには、塗装が剥がれ落ちて巨大な破口を作りながらも牙を天高く突き上げて偉容を保つオウミの姿があった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ツァーリ・ボンバクラスの100メガトン水爆と核魚雷の乱打、さらに核を抱えた爆撃機の特攻を食らったオウミの被害は耐核防御を行っていたとはいえ、大きかった。
パルスレーザー砲台は直前に収納されたガトリングタイプを除いて砲身の融解や根こそぎ吹き飛ばされるなど含めると全滅。右舷に至っては爆撃機の特攻で大穴が開いていた。
レーダーシステムも大半が焼け落ちたり至近距離の強烈な電磁パルスの嵐でダウン、艦長室も天井がぶち破られて放射能で汚染された。
さらに艦体の一部に破口が出来てしまい、艦内隔壁を全閉鎖しているとはいえそこから内部を荒らされている。
《オ......を.........!》
《......に出......!》
幸い、爆撃機や弾道ミサイルはこれで打ち止めだった。
そうなった事から手の空いている全戦力が旭日艦隊迎撃の為にか、オウミの前に出る。
恐らくは守っているつもりだろう。もう弾薬やエネルギーもだいぶ消費している癖に。
だが......悪いな、これが最善の手なんだ。この狂気の舞台を一刻も早く終わらせる為にはな。
「準備はいいな?」
「はい、いつでも発射可能です」
「よし。瞬間物質移送機、照射」
あいつらは悲鳴を上げる前にオウミの前から消え去った。
これでいい。もう、オウミ......俺は持たない。だがだからこそ出来る事がある。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの馬鹿、逃がしやがったか。
間違っているとは思ってはいないが、自分を犠牲にでもする気か?いや、脱出しないあたり何か狙いがあるのか?
「耐えられるわけがない......。波動防壁なしに核数十発なんて想定外にも程がある......!」
そう考えている隣で真田が呻くように現状を呟く。
それは設計図を作成した俺にも分かる。理論値はとっくにオーバー状態。何とか内側は食い止められているのが奇跡だ。
「でも大きな破口があるくらいじゃ......」
「表向きはな。だが表面が溶かされ、中身も破口や歪みから相応にズタボロと考えたほうがいい」
眼鏡の言葉はすぐに切り捨てる。
まあ、あいつが助からないとは思ってはいないがそれは終夜次第か。
他の転移させられた迎撃組は損耗が激しすぎる。ミサイルなどの実弾系の弾数もそうだが、砲身の損耗やあの電磁パルスの影響も無視できない。
このまま硫黄島で合流するのが妥当だろうな。
必然的に見捨てる形になってしまうがこの状況だと打つ手がない。
終夜、お前次第だ。頼む......!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「この核パルスの中でもやる気ですか、先生」
《ええ、これくらいで倒れるグランゾンではありませんよ》
微妙に顔が引きつっている俺の問いに先生は平然と答える。
化け物じみてやがる。こっちも特に被害はないけどさ。
というかそれどころじゃない。冗談抜きでオウミが凄まじくヤバイ。
いつまでも先生を救うことに構っているわけにいかない。
《ですがこうなった以上、ここに長い間止まるのは良策ではありませんのでね。ここらで終わりとさせてもらいましょうか》
終わりだと?ブラックホールクラスター?それともネオでも引っ張り出す気か?
いや待て、グランゾンにはMAP兵器がある。俺も結構使う分子間引力を超える高重力を叩きつけるえげつない奴が。
そこまで瞬時に考えつき、背筋が凍る。不味い......!
《グラビトロンカノン、発射!》
離脱は間に合わないか!
こっちの移動範囲を考慮した重力波から逃れる事は出来なかった。
でも自慢の構成材質やサイコフレームからのエネルギーで機体は維持出来る。俺も人外故に耐えられる。
だが推進力は限界だった。咄嗟に推力を最大限発揮出来る姿勢を取っても駄目だった。
分子間引力を超える超重力に抵抗出来ず、俺は何もかもが歪んだ世界の海の中に叩きこまれる。
普通ならこれで終わり。解除される前に深海の奥底に叩き込まれたら水圧で流石に殺られる。
あー、これはマズイ。あの人がこんなところで中途半端に躊躇したり慢心する訳がない。
「こんなとこで殺られてたまるか、この野郎が!」
そうだ、俺はこんなところで散れない。帰りたい、あの場所に......!帰らなくちゃならない!
「だから邪魔するな!グランゾン如きが!!」
カタルシス、トランザム再始動。その他の何もかも後先考えずの全開。
召喚した天聖剣を右手に持ち、最大推力と瞬間移動で突撃を敢行。
上下左右とあらゆる方向から斬りかかりながら、最終的にグランゾンの左後ろ下方に出現して突撃する。
「零距離!取ったぁぁぁ!!」
気付いて頭をなんとか向けたグランゾンの額から放たれたグランビームを重力レンズ6枚で増幅という即興のディストリオンブレイクがGNフィールドとIフィールドをぶち抜いて左腕と左のウイングが消し飛ばされる。
構うか!ぶち抜け!
左腕が俺の連撃で弱体化した湾曲フィールド内にめり込む。
サイコフレームで再生された緑に輝く左腕をグランゾンの首根っこに向かって全力で伸ばす。
湾曲フィールドに阻まれて左腕が軋む音がコクピット内に響く。
持つか!?いや、持たせる!
《湾曲フィールドを貫きますか......!》
その言葉の通り、湾曲フィールドを突破した左手でグランゾンの首根っこを掴む。
さらに天聖剣の切っ先を湾曲フィールド内に突き込ながら射線に入った頭と胸のバルカンを乱射して注意を逸らす。
そんな事をして動きが止まった俺をグランゾンはグランワームソードで横から腹を貫き、さらにグランワームビームに咄嗟に傾けた頭の右側を貫かれる。
だがこの距離、外さん!
「確約された必勝の砲剣」
俺はいつも通り感覚すらカタルシスと共有しているが故に感じる激痛に耐えながら、ありったけの力を注ぎ込んだ唯一の可能性をかけた技を繰り出す。
湾曲フィールド内に入った天聖剣から放たれた仲間譲りの光の斬撃がグランゾンを飲み込んだ。
後書き
終夜:「というわけで大変お待たせいたしました。神崎終夜です」
遊梨:「神崎遊梨です。色々あるけどまずオウミが大破、どうすんのこれ」
終夜:「知らね。
まあ、オウミも持てる技術を全てぶち込んだ訳じゃないからなぁ。コスト面や情勢の関係で予定された装備の一部積んでないという未完成仕様だ。それに関しては幕間1で語られている」
遊梨:「それはVFも同様で開発を後回しにした結果、予定通り行かずに搭載できなかった装備があるんだよね。
そして恭文の言葉の通り不完全なカタルシスは......」
終夜:「見事に大破した状況です、ごめんなさい」
遊梨:「でも如何にかならないの?霧くらいならやれるでしょ」
終夜:「まあ......それは次回をお楽しみに、だ。では今回はこれで失礼します。神崎終夜と」
遊梨:「神崎遊梨でした」
(今まで時間がかかって申し訳ありません。オウミの撃沈プロセスが決められなかったんです。強力だと詰まるんですよね、こういうのって。
今日のED:藤本大輔『ダークプリズン』)
「速力は現状を維持。スラスターでもなんでも使え」
やれやれ、こんな事なら電磁推進でも積めばよかった。
宇宙戦艦だから選択肢から外していたが、外に明確なスラスターを持たない電磁推進をコストと重防御の引き換えに導入しなかったツケが回ってきた。
そのツケは凄まじく大きく、もう生還が絶望的となっている。
それでもやるべき事をやる。それが出来ないなら俺はこの船に乗ってはない。乗る資格がない。
「左舷回頭105。右砲戦用意!
旭日艦隊を地獄の釜に引きずり込む!」
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