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頂き物の小説
第30話「贖罪の紅炎(プロミネンス)」:02


「クロックアップ!」

《Clock Up!》







 ベルトの側面のスイッチを叩くと同時、世界が静止したのかと錯覚するほどにその動きを遅くする――そんな中で、私は同じくクロックアップ状態に入ったグリラスワームへと突っ込む。



 相手も突っ込んできて、交錯――すれ違った、加速した時間の中でもさらに刹那の一瞬、私とグリラスワームの拳がかすめ合い、衝撃で空気が弾き飛ばされたのがわかる。



 着地と同時、振り向く――その時には、すでに私は“得物”を手にしていた。グリラスワームの爪による攻撃を、両肩にマウントしてあった湾刀“ガタックダブルカリバー”で受け止める。



 何合か打ち合っても互いに一撃入れられない。埒があかないと距離を取り合って――







《Clock Over!》







 そこでクロックアップの時間切れ。私達の周囲で、世界が元通り動き始める。

 同時、私達の耳に聞こえてくるのは、刃と刃がぶつかり合う、耳障りな金属音――







「あー、もうっ、やりづらいっ!」

「そらそら、どうした!? 援軍が来てもこの程度か!?」







 “こっちの時間の私”の妹、ホクトと、瘴魔獣将ピアスとの一騎打ち。その中でお互いの得物がぶつかり合った音だ――けど、あっちは正直旗色が悪そうだ。

 ホクトもいい動きしてる……動き的にはピアスにも負けてない。でも、得物の相性が悪い。

 どちらも長物使いとはいえ、振り回し中心の大鎌では突き攻撃主体の槍の連続攻撃の前にはどうしても遅れが出る。うまくしのいでるけど、完全に抑え込まれてる。

 このままじゃ、まだ子供のホクトの方が先にガス欠を起こす。その前になんとか助けに行きたいけど――







「させるかっ!」







 こっちも、それどころじゃないっ!

 殴りかかってきたグリラスワームの拳をさばいて、間合いを離しながら蹴り――くっ、止められたか。

 早く倒して、ホクトの援護に行きたいのに、長引くのは避けられそうにない。このままじゃ……







「気にしないで、ギンガお姉ちゃん!」







 ――って、ホクト!?







「わたしだって……まだがんばれるんだもんっ!」







 言って、ホクトは突き込んできたピアスの槍を弾いてみせる。







「パパのためにも、負けられないんだ……っ!
 こんなヤツに、負けてたまるかぁっ!」







 さらに、ピアスに向けて思い切り斬りかかる――ガードしたピアスが、ガードの上から弾き飛ばされるほどのパワーで。







「コイツは絶対にわたしがやっつけるからっ!
 だから、ギンガお姉ちゃんはそいつを!」

「…………わかったわ。
 信じるわよ、ホクト」

「うんっ!」







 ……そうだよね。



 あの子は、生きてる時間こそ違っても、私達の“妹”なんだものね。



 その上“こっち”のジュンイチくんの娘でもある……そりゃたくましくもなるわよね。



 心配は無用。むしろ失礼なくらいだったみたいだ。気を取り直して、グリラスワームに対してダブルカリバーをかまえる。



 余計な心配はもうやめだ――目の前の相手に集中する。そして――倒す。







「いくわよっ!」

《Clock Up!》







 宣言と同時に相手も動いて――私達は同時に、クロックアップの加速世界の中へと飛び込んでいった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「どうしたの?
 もっとボクを笑顔にしてよ」







 無邪気なセリフと共に無慈悲な一撃。自分を狙い、凶悪な意思が宿った拳がオレの腹に迫る――回避不能の速度・タイミングで迫るそれをなんとかガードするが、その衝撃はオレの身体を浮き上がらせて、







「がっ!?」







 気づき、視線を上げたオレの目に入ったのは、今まさにこちらに向けて迫ってくる拳――直後、顔面に衝撃。



 反対の拳による一撃をもらい、空中で踏ん張りのきかなかったオレの視界は高速回転。背中への衝撃が、地面に叩きつけられたことを教えてくれる。



 強烈な衝撃で身体がバウンド――すぐに立て直し、着地と同時に突っ込むと相手の脇腹に右のリバーブローを叩き込む。



 さすがに相手もたじろぐが――それだけだ。すぐに何事もなかったかのように、ただ腕を振り回すだけの反撃。まともにくらったこちらが逆に吹っ飛ばされる。



 またも視界がめちゃくちゃに回転して――何度かの衝撃。地面をバウンドしながら転がったようだ。勢いが死んで、停止したところでようやく視界も動きを止める。



 すぐに身体の具合を確認――よし、まだ動ける。立ち上がって、自分を圧倒する相手をにらみつける。







 というか……やはり、強い。



 瘴魔神将当代最強とうたわれたこのオレの力――年齢的に身体能力のピークこそすぎたが、それでも未だ鈍らせた覚えのないオレの力をもってしても、目の前の相手を揺るがすには至らない。



 まったく通用しないワケではないが、いくら打ち込んでもすぐにそれ以上の力で反撃が飛んでくる。さすがはグロンギ最強の戦士、ン・ダグバ・ゼバといったところか。



 炎を封じればなんとかなるかと思っていたが、さすがにそこまで甘くはなかったか……



 野上達から離れ、一対一で戦える場に舞台を移して正解だった。オレが苦戦しているのを見れば、あのお人好しどもは必ず手助けに動くだろう――が、こんな怪物、ネガタロス達の片手間に相手などできるか。



 ヤツらにはヤツらの戦いに集中してもらわなければ。この戦い、何が何でも負けられないのだから。



 もちろん、負けられないのはオレも同じだ。この戦いにはクラナガンの命運だけではない。テスタロッサの……そして柾木や高町の時間もかかっているんだ。



 苦戦しているくらいで弱音を吐いていられるか――突破口、必ずや切り拓k











「んー……もういいや」











 ………………って、何?

 『もういい』だと……? ダグバのヤツ、突然何を……?







「なんか飽きちゃった。
 だって、お前と戦ったってちっともおもしろくないし」

「…………何……?」







 続けて放たれたダグバの言葉は、オレをさらに混乱させた。

 “オリジナル”と同様に戦いに楽しみを求めているようなことを言っていただろうが。それがここにきて『おもしろくない』だと?







「どういうことだ?
 『笑顔にしろ』と言うから、もっと白熱した戦いを希望しているのかと思っていたが……」

「は? 何で?
 そんなのどこが楽しいのさ?」







 思わず問い返すオレに対し、ダグバは本当に『何を言っているんだコイツは』と言わんばかりの声色でそう返してきた。







「だって、戦いだよ? 相手を殺せなきゃつまらないじゃない。
 強い相手を、それ以上の力でゴミのように殺すのが、最高に楽しいんじゃないか」







 …………コイツ…………



 あぁ、そういうことか。ようやく合点がいった。







「だから……殺せないお前なんかと戦ったってつまらない。
 もういいから……さっさとコイツらに殺されてよ」







 その言葉にあわせるかのように――集まってきた。



 ダグバが率いるグロンギ達だ。ズ集団、メ集団……ちらほらとゴのヤツらもいるな。



 ヤツの、ダグバの言いたいことは明らかだ――自分はもうオレと戦うのは飽きた。だから適当にコイツらに殺されていろ、か……







「なるほど……
 “原作”での戦いの楽しみぶりから、ある種の武人気質かと思っていたが……なかなかどうして、大した下衆のようだな。
 この違い、“原作”では描かれなかった本性が表れたと見るべきか、『あくまで“原作”とは別人』と割り切るべきか……」







 オレの言葉に、ダグバは軽く首をかしげる――別にとぼけているワケでもないだろう。ヤツの中では、本当に“戦いを楽しむ”ということが“なぶり殺し”とイコールなんだろうな。

 だが――







「……“おかげで助かった”

「………………え?」







 “むしろそちらの方が都合がよかった”――オレの言葉に、初めてダグバの表情に困惑の色が浮かんだ。







「貴様のような外道が相手なら……」







 だが、かまうことはない――右手を軽く右方へ、水平に払い、







「オレも、遠慮なく本気になれる」







 そんなオレを包み込むように、オレの巻き起こした蒼い炎が渦を巻く。







「“Bネット”機動部、独立機動部隊“ケルベロス”所属――“第二の牙セカンド・ファング”、“炎滅のイクト”。
 その真髄を……今から貴様に見せてやる」







 そう告げる、オレの周囲で――











 オレの炎が、蒼から赤へと変色した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」







 腹を狙った足刀をグリラスワームがガード。押し戻され、動きが止まったところに飛び込む――足刀のガードから復帰できていないその顔面を狙う。



 左フックをアゴに引っかけ脳をゆらして、さらにその拍子にガードの腕が解け、あらわになった脇腹に右のリバーブロー。



 相手がひるんで後ずさり。距離がいい感じに開いたのでそこからさらに左ハイにつなぐ――こめかみをライダースーツのつま先が打ち抜く感触とともに、グリラスワームの身体がプロペラのように一回転する。



 その場で上下がひっくり返り、グリラスワームの頭が地面に叩きつけられる――足刀からここまでの攻防に、一秒どころか一瞬すらかかっていない。



 言うまでもなく、クロックアップによる加速中の攻防だからだ――と、ここでクロックオーバー。時間が元通り流れ始める中、グリラスワームの身体が地面を転がる。



 その向こう側で――







「よっ! はっ! ほっ!」







 ピアスの繰り出す、槍による連続突き――そのすべてを、ホクトは防御すらせずにかわしていく。



 そう――『防御すらせずに』だ。最初はあの大鎌を使ってなんとか防いでいた攻撃が、今やかすりもしない。







「バカな……!?
 どうして、このオレの槍が見切られている――!?」







 そして、それはホクトがピアスの攻撃を完璧に見切っている証。ピアスがうめく声が私のいるところまで届く――えっと、ごめんなさいね。



 実は、ホクトがピアスの攻撃を見切れた原因は私にあったりする――もっと言うと、ガタックに変身しているおかげで出番のないブリッツキャリバーだ。



 ただし出番がないからと言って働いていないワケじゃない。実はちゃっかり、ピアスの動きをサーチャーで分析してもらっていたのだ。



 対峙している当事者視点では把握の難しいピアスの怒涛のラッシュも、距離を置いたところにいる私達からすればよく見える。オマケに一部はクロックアップによって超スローモーション。



 おかげで分析の材料に不自由はしなかった。きっちりデータをまとめ上げて、ホクトのデバイスへと転送。そのデータをもとにピアスの攻撃を先読みしたデバイスのサポートを受け、ホクトのあの動きにつながっているんだ。







「こんっ、のぉっ!」







 今も、ホクトが『×』の字に繰り出した大鎌の斬撃を回避。カウンターを狙ってるけど――







「はい、引っかかったっ!」







 残念ながら、『×』の字斬りはオトリだ。二撃目の勢いに乗ってそのまま一回転、カウンターよりも先にホクトが放った追撃の一撃がピアスを捉え、吹っ飛ばす。







「ピアス!」



「行かせないっ!」







 そんな向こうの攻防に、グリラスワームが援護に向かおうとする――ので、立ちふさがってシャットアウト。ちょうど、さっきホクトの援護に向かおうとした私をグリラスワームが止めた、あの逆パターンだ。







「ジャマをするな、ガタック!」



「それは」







 殴りかかってきたグリラスワームの拳をさばきながら、その外側へと回り込む。







「こっちの」







 その流れのままグリラスワームの、殴りかかってきたその手、手首をつかんでグイと引っ張り、







「セリフよっ!」







 手を引かれ、本人の認識以上の速度で前進することになったグリラスワームの顔面に、カウンターの手刀を叩き込む!







「あの子のジャマは、させないっ!」







 さらに、ふらついたグリラスワームの顔面を思い切り蹴り飛ばす――外骨格が砕けて、その中の柔らかい肉をつま先がえぐるのがハッキリとわかる。







「とどめっ!」







《One, Two, Three!》








 立て直しは許さない。このまま一気にフィニッシュまで――ガタックゼクターのボタンをテンポよく三度押し込み、ゼクターの角を閉じてエネルギーをチャージ。



 発生した強力なエネルギーが私の右足に流れ込んでいく中、グリラスワームへと跳んで――











「ライダーキック!」



《Rider Kick!》



















 跳び回し蹴りに乗せて、右足に集めたエネルギーを思い切り叩き込む!



 蹴りは先の蹴りで外骨格を砕いた、無防備な部位へと正確にヒット。何の抵抗もなくエネルギーが打ち込まれ、グリラスワームがブッ飛ぶ。



 しかも飛ばされたその先には“降魔点”。私が蹴り込んだエネルギーが火花を散らしている状態のまま、グリラスワームは“降魔点”を巻き込む形で落下して――爆発。



 当然、“降魔点”も巻き添えだ。グリラスワームの爆発でエネルギーの渦を崩されて、暴発。一緒になって吹っ飛んだ。







「そんな“降魔点”――がっ!?」







 そんな私の耳が拾う、驚愕の声と一体になった悲鳴――見れば、ピアスがホクトの大鎌を受けて吹っ飛ばされたところだ。どうやら私の“降魔点”破壊に気を取られたスキにホクトの一撃をもらったらしい。



 吹っ飛んだピアスが私の目の前に落下。バウンドして私の方へ。なので――







「返すわよっ!」



「がぶっ!?」







 蹴り返した。ホクトの方へと戻っていったピアスは、改めてホクトの大鎌を叩きつけられて地面に突っ込む。



 さて、このまま彼も倒して、他の応援に回らないと……







「………………あれ?」







 ……って、ホクト……?

 いきなり立ち止まって、どうかしたの?







「…………イクトさん……?」







 え? 何? イクトさん?



 イクトさんに……何かあったの!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《KAMEN-RIDE!
 “BEAST”! “ABISU”! “O-DEEN”!》








 カメンライドのカードを使い、ライダーを召還――ビースト、アビス、そしてオーディーン。



 地の、水の、そして風の。エルロード三種の属性に合わせて呼び出した三人のライダーをエルロード達へと向かわせる……さて。







「こちらも、そろそろ始めようか」







 こちらもそろそろ本格的に開戦といこうか――言いながら、ここを守護する瘴魔獣将、ロブスタークロウフィッシュのシザーと改めて対峙する。







「フンッ、よくも言う。
 今の今まで、のらりくらりとこちらをあしらっておきながら」

「別になめてかかっていたワケではないんだがな」







 シザーの問いにそう答える――そう。オレは別に、コイツらのことをあなどってなどいない。



 まぁ、もっとも――そちらの戦力の観察に集中して、攻防に注力していなかったのは認めるがな。



 だが、それもここまでだ。ここからは勝ちに行かせてもら――











 ――――――











「――――――っ!?」







 この感じ……この瘴魔力は、この時間のオレか……!?



 だが、この感じは……







「…………そうか……
 とうとうなったか、本気に……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」







 一気に距離を詰め、腕の手甲に備えたニードルで敵怪人を刺し貫く。



 …………チッ、コイツも大した“力”を持っていないか。“力”を拝借して分身を作るにはまるで足りない。







〈ホーネットさん!〉







 っと、六課本部からの管制連絡か。この声は……クラエッタか。







〈今どちらに!?〉

「新市街から旧市街・南地区にかけての裏通りで、討ちもらしの掃除中……だっ!」







 全身真っ白の、伊勢海老のデザインを受け継いだかのような怪人を蹴り倒しながらそう答える。







〈なら、そのまま南の防衛線に合流してください。ちょっと苦戦してるみたいなので……〉



「了解だ」







 簡潔に答えて通信を終える。さて……











 ――――――











「………………む?」







 炎皇寺往人の、“力”か……



 だがこの発現の仕方は、“あの時”の……!?







「炎皇寺往人……」











「……とうとう、“アレ”を使うのか……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これがオレの……本当の“炎”だ」







 周囲で燃え盛る炎は、いつものオレの炎ではない――普段の青い炎とは違う、赤々と燃えている炎で周囲へと威嚇しながら、オレがダグバや彼が率いる怪人達へと告げる。







「それがどうしたの?
 ただの炎じゃないか。そんなもので……」



「オレの炎がどうして普段は青いのか、教えてやろう」







 もっとも、“見た目には”ただの炎だ。誰も特に警戒していないようなので、ダグバの言葉に被せる形で説明してやる。







「オレの瘴魔力光の色は青色。故にその色が反映されて青色なのだと思われがちだが、実際にはそういうワケではない。
 ガスバーナーの炎が青いのと同じ。ただ単純に、それだけ温度が高いからだ。
 まぁ……同等以上の温度域を操りながらも精霊力光の色の影響で赤いままの炎を操る柾木がそばにいるからな、同じパターンだと誤解を受けるのもやむなしと理解はしているが、な」







 ここまでは、すでにオレを知る者にとっては敵も味方もよく知っている話……問題はここからだ。







「本来、オレは直接攻撃系の能力者ではない」



「…………何?」



「オレの真の能力は効果系――炎そのものではなく、その炎に付随する特殊効果によって戦うのが、本来の姿だ」







 ダグバではない。包囲している怪人の誰かが発した疑問の声にそう答える。







「だが普段は、その特殊効果に封印を施している。
 結果、本来その特殊効果を発揮させるために使われる分の瘴魔力は行き場を失い、火力に転化されることとなり――炎の温度が上がり、炎を青く変化させる。
 そしてその余剰瘴魔力は同時に、炎のチャージサイクルの高速化という副産物をももたらした――オレの“いつもの”炎が持つ固有能力“瞬間点火”がそれだ。
 ――――――そしてっ!」







 それは自分でもそう思うほどの、電光石火の速攻――オレの放った炎が周囲を駆け巡り、ダグバを除く全員を包み込む。



 突然のオレの攻撃に、連中の包囲網に動揺が走る――が、それだけだ。炎はすぐに勢いを弱め、消えてしまう。







 そう――“誰ひとり、その身体を焼き尽くされることなく”







「………………ハッ。
 何が『本来の炎』だよ。そんな弱い炎で、ボクを倒そうって?」







 包囲網から一歩前に出ていたおかげで巻き込まれずにすんだダグバはあくまで余裕の表情だが――バカが。気づかないのか。



 オレの炎に包まれ、上がった貴様の手下どもの動揺の声――あれを最後に、“周りがすっかり静まり返っていることに”



 まぁ、気づいたところで何が起きているかもわかるまい。かまわず、手を進める。







「貴様ら……」





















「全員、死ね」





















「はぁ?
 いきなり何を言い出すのさ? 『死ね』と言われて、誰が『はい、わかりました』って死ぬもんk







 ダグバの言葉は最後まで聞こえなかった。



 “周囲の怪人達が迷わず自らののど笛をかき切り”、鮮血がぶちまけられた音にさえぎられて。







「な…………っ!?」



「もう一度言う――これが、オレの本来の炎だ」







 一瞬にして行われた、手下全員の一斉自殺――驚愕するダグバにそう答える。







「お前……何をした!?」



「単純な話さ。
 “焼き尽くした”のさ――“そいつらの、オレに対する敵対心と、生への執着心を”
 そして同時に、“燃え上がらせた”――“そいつらの、他者に意思決定を委ねたがる依存心と、自己破壊衝動を”







 そう――これが、オレの炎の、本来の効果だ。







「オレの炎が本来焼くのは、相手の肉体ではない。
 情念焼火エモーショナル・ブレイズ――相手の精神、それも特定、任意の感情だけを狙い、焼くことができる」







 先に語った通り、普段は特殊効果自体に封印を施しているがために物理的な炎としての破壊しかもたらさないが、本来オレの炎に物理的な破壊力はほとんどない。



 その代わり、相手の精神に対して強烈な破壊力を発揮する――精神攻撃としての炎なのだ。







「しかもただ焼くだけじゃない――燃やし尽くすことで狙った感情を失わせるのはもちろん、逆に強く燃え上がらせることで、狙った感情を限りなく強めることもできる。
 今の場合で言えば、オレに対する敵対心を焼き尽くし、同時に他者への依存心を燃え上がらせた――そうすることで、彼らはオレの自殺命令に対し何の抵抗もなく従った。
 当然だな。オレに対し抵抗する意思がなくなり、しかも依存心が限りなく強まっていたことで他者の言葉に従わずにはいられなかったのだから。
 しかも、同時に生きることへの執着心を焼き尽くし、自己破壊衝動を燃え上がらせた――生きようと思わず、自分を破壊したくてしょうがなくなっていたところへの自殺命令だ。なおのこと抵抗する理由はないだろう」







 その結果、怪人達は自ら死を選んだ――オレの言葉に従って。



 このように、オレの炎は使い方次第で相手の心を自在に操り、支配できる。



 だがそれは、相手の意思をねじ伏せ、自分のいいように操るということ……相手の誇りを踏みにじる、邪悪な力だ。



 瘴魔の力なのだから、邪悪なのは当然と言われればそうだが――オレはそれが許せなかった。



 だから、オレはオレ自身の力を封じた。特殊効果を封印し、その結果余剰となった力を物理的な破壊力に転化させることであの“青い炎”を生み出し、その力で戦うことを選んだ。







 だが――こいつらが相手なら、正直「話は別」というヤツだ。







「人の心を弄ぶ邪炎……貴様のような外道が相手なら、ためらう理由は何もない」



「く………………っ!」







 言い切るオレの言葉に危険を感じたか、ダグバが地を蹴り、突っ込んでくる。



 だが――遅い。オレの腕の一振りと共に真っ赤な炎が放たれ――その炎に包み込まれたダグバが動きを止めた。



 オレの炎が、ヤツの中の感情を新たにひとつ焼き尽くし、同時にひとつの感情を燃え上がらせた。それは――







 ――パンッ。







 目の前で、手を軽く叩く――その音だけで、ダグバはビクリと身をすくませ、後ずさりする。







「どうした?
 笑ってみろよ――“笑うことができるなら”







 そう告げるオレの言葉にも、ダグバは驚き、さらに後ずさり。



 顔が顔だ。そこから感情を読み取るのは正直難しい――が、その瞳は明らかにひとつの感情に染まっていた。



 すなわち――恐怖。



 もちろん、オレの炎で感情を“燃やされた”結果だ――恐怖を乗り越える“勇気”を焼き尽くされ、同時に“恐怖心”を限界まで燃え上がらせた。



 今のヤツは、どんな些細な恐怖であろうが乗り越えることは不可能――それどころか、どんな些細なものにも、その恐怖心を限りなく刺激される。







 もはや、ヤツはグロンギの首領、絶対的な強者などではない。



 あらゆるものにおびえ、身を縮こまらせ、逃げ惑うしかない――絶対的な、弱者だ。







「貴様には、死すら生ぬるい」







 ただ一言、告げる――それだけで、ダグバは腰を抜かし、へたり込んでしまう。



 そんなダグバに対し、右手を掲げる。そこにいつもの、青い炎を燃やして――







「すべてにおびえ、自らの死すらも恐れ――」











「独りみじめに、生きていけ」











 宣告と共に、炎を足元に叩きつけた。轟音と共に地面を爆砕し――その衝撃は爆音はダグバの“限界”をいともたやすく振り切った。腰を抜かしていたのも忘れたか、無様によろめき、何度もひっくり返りながら、ダグバは一目散に逃げ出していった。










 …………ふぅっ……







「……『できれば、こんな勝ち方はしたくなかった』――そんな顔だな」



 ………………?



「ホーネットか」

「貴様の“力”の気配が変質したのを見て、まさかと思ってきてみれば……」



 振り向くと、そこには予想通りの顔があった――言って、遊撃として自由に戦い回っていたはずのホーネットがこちらに向けて歩いてくる。



「そんなに嫌いか? その力が」

「まぁ……な……」



 ホーネットに答え、自らの右手に視線を落とす。

 オレの炎は、人の心を弄ぶ邪炎……外道に報いを受けさせるのにもってこいな力だが、正直この勝ち方だけは好きになれん。



 できることなら使わずに終わりたいのだが……



「確かに、後味の悪い勝ち方だしな……」



 オレが自分の力の何が気に入らないのか、ホーネットは察してくれたらしい。軽いため息混じりにそんなことをもらし――



「……だが」



 む…………?



「貴様は、その力をなんとかうまく使おうとしているじゃないか。
 実際……先日の集落での戦い、貴様はその炎で暴徒達を鎮めただろう」



 そう。

 大して付き合いのあるワケではないホーネットがオレの炎の真の力を知っていた理由がそれ――先日、ザインが集落を舞台に“降魔陣”を仕掛けたあの戦いで、ホーネットと共に暴徒の足止めと“サクラ”の排除に回ったオレはこの力を使った。



 柾木の心の傷を無遠慮に踏みにじってくれたヤツらが、それにまんまと踊らされている暴徒達が許せず……怒りに任せ、思わず使ってしまった。



 暴徒達の敵愾心を焼き尽くし、その全員を無力化――おかげで人的被害は最小限に留められたが、やはりいい気分はしなかった。

 彼らは確かに暴れるのをやめた……だがそれは、自らの意思で思いとどまったワケではない。オレの炎で心を変えられ、暴れる理由を失っただけの話だ。



 そう。オレは彼らの心に土足で踏み込んだ。この炎の力をもって、ムリヤリ彼らの意思を捻じ曲げた。

 それは、彼らの意思を踏みにじる行為――その意思の是非、それ以前の問題。彼らの意思を意思と思わず、自分のいいように操る、最低の行いだ。



「だから、テスタロッサや蒼凪恭文にも教えないのか? その力のことは」

「知れば、必ず気を遣うからな、あの二人は」



 ホーネットに答えて、ため息まじりに天を仰ぐ――そう。あの二人にはこの力のことを教えるつもりはないし、知るべきだとも思わない。

 『水臭い』『一緒に背負う』とあの二人なら言うだろう……だが、これはオレがひとりで背負うと決めたことだ。

 蒼凪が背負っているのと同じだ――これはオレ自身に課せられた業。だから、オレ自身が越えなければ意味がない。



 今回の……あのダグバのようなヤツらを討つためなら、外道のそしりも甘んじて受けよう。

 あえて外道の中に身を投じ、生粋の外道を闇に葬る――すでに一度悪に堕ちた身だ。汚れ役にはちょうどいい。



 テスタロッサや蒼凪と共に歩むと決めた今でも、これだけは譲るつもりはない。











 それが……10年前の“瘴魔大戦”で世界に敵対したオレの選んだ、贖罪の道なのだから……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……来たわね。



 戦場を見守る私の耳に聞こえてくるローター音……見上げれば、そこには予想通り、こちらに向けて飛んでくるスプラング。

 私のいる廃ビルの屋上、ヘリポートとして使うにはギリギリ、くらいの広さのそこに器用に着陸。そして……



「お待たせっス、シャマルさん。
 予備のカートリッジ、持ってきましたよ」



 操縦席から顔を出して言うのは、もちろんスプラングのパートナーのヴァイスくんだ。



「それで……みんなの様子は?」

「うん……まだあちこちで戦ってるわ」



 ある程度は本部とのやり取りで把握しているだろうけど、それでも断片的にしか聞いていないだろうヴァイスくんにそう答える。



「けっこう派手にやってるみたい……カートリッジの激発と思われる魔力反応を、クラールヴィントが何回もキャッチしてる。
 ティアナなんて、そろそろ手持ちが尽きそうな感じ。“降魔点”の破壊が済んだら、一度戻ってきて補充した方がいいとは思うんだけど……」

「相手、手強いのがそろってるみたいっスからね……」



 ヴァイスくんの言葉にうなずいて、クラールヴィントから送られてくる情報に意識を向ける。

 今回は状況が状況だったから、戦いは長丁場、且つ激戦が予想された――だからこうして戦場から遠すぎず、近すぎずなところに支援拠点を設けたのだけど、今のところ誰も補給や負傷の手当てのために戻ってきていない。



 その理由が「戻る必要もないくらいの楽勝だった」なら、まだ安心もできるんだけど……「戻る余裕もないくらいの苦戦・激戦」だったりするものだから、こちらとしても気が気じゃない。



 戦闘開始から今まで、何度ここを放り出してみんなを助けに行こうかと思ったか……



「ま、大丈夫っスよ、アイツらなら。
 何しろ、あの“JS事件”を戦い抜いてここにいるんですからね、オレ達みんな」

「だけど……」

「それに。
 後ろでシャマル先生がこうして待機していてくれるから……後ろを支えてくれてる人がいるから、アイツらも安心して思い切り戦えるんです。
 機能的な意味では出番はなくても、ちゃんとアイツらの支援っていう役目は果たしてますよ」

「なら、いいんだけど……」

「ま、この荷物降ろしたら、オレ達も空中から狙撃でもして支援でもしてやろうかと思って……ん?」



 荷物を次々に降ろしていたヴァイスくんの手が止まった。どうしたの?



「いや……オレ、確か荷物はきっちり、すき間なく積んだはずなんスけど……」



 首をかしげるヴァイスくんの様子が気になって、私もスプラングの機内に入って……







 ヴァイスくんの持ってきてくれた荷物の山――その一角に、私から見ても明らかに不自然なすき間が空いていた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………よし。



 ヘリのおにーちゃんやお医者さんのお姉さんには、気づかれなかったね。



 段ボールってすごいね。かぶっただけでみんなから見つからなくなっちゃうんだから。ゲームでやってた通りだよ、うん。







 けど……問題はここからだ。

 なのはお姉ちゃんやフェイトお姉ちゃんをいじめてる悪い人をやっつけて、お姉ちゃん達を助けないと……

 やすーみおにーちゃんはぼくに『フェイトお姉ちゃん達を頼む』って……ぼくに、お姉ちゃん達のことを頼んでいったんだもん。



 だから……







 悪い人達と戦うなんて、ほんとうは怖いけど……それでも、やるんだ。











 ぼくが……お姉ちゃん達を、助けるんだ!







(第31話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「いくよ、ティア!」
「OK!」



「ネガショッカーの一員にしちゃ、なかなか気の利いたことしてくれるじゃねぇか!」



「やすーみおにーちゃん達を、いぢめるなぁっ!」



「よせ、ローズイマジン!
 ヤツをこれ以上刺激するな!」





第31話「リターン・オブ・超破壊大帝」





「いい度胸だな、貴様」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「あー、本当に……ほんっとーに久しぶりの第30話だ」

オメガ《えーっと、前回の投稿って何“年”前でしたっけ……》

Mコンボイ「何しろ年単位で止まってたからなー……
 まぁ、こうして話が進んだだけよしとしておこうか」

オメガ《ですよねー。
 さて、今回もまた引き続き各地でのバトルを視点を変えつつ……で、今回の主軸はミスタ・イクトですか》

Mコンボイ「炎皇寺往人とダグバの戦い、そしてヤツの真の能力が発動か」

オメガ《まさかの特殊効果系ですか……
 ミスタ・ジュンイチですら真っ向では勝てないと認めるほどの実力者ですし、今まで普通にぶん殴って焼いて、なスタイルを通してきた。
 その上、工夫なんてしたくてもできないような不器用人間ですからねぇ。そのものズバリ、見たまんまな直接攻撃系の能力者だと思っていた方も多かったのではないでしょうかね?……主に三つめの理由で》

Mコンボイ「というか、これもまだ作者のサイトでの『ブレイカー』原作で語られていない設定だな。
 作者め、ますます設定の蔵出しに遠慮がなくなってきているな」

オメガ《まぁ、原作では登場すらしていないミスタ・鷲悟なんて出してきてる時点で手遅れかと》

Mコンボイ「……確かに」

オメガ《ま、その辺は作者がなんとかするべき問題ですし、我々はがんばって目の前の戦いに集中するとしましょうか》

Mコンボイ「というか、次回のサブタイトル……」

オメガ《さて、あのサブタイトルはどういう意味ですかねー?(棒読み)
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」

オメガ《次、何年後になりますかね……》

Mコンボイ「そういうことを言うな! 本当にそうなりそうでシャレにならんっ!」





(おしまい)


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