[携帯モード] [URL送信]

頂き物の小説
第30話「贖罪の紅炎(プロミネンス)」:01


「いくぜいくぜいくぜぇっ!」

「フンッ、バカのひとつ覚えが」







 モモタロスが――ボクの身体を使って変身したモモタロスが斬りつけるけど、ネガタロスはものともしてない。ネガ電王のガッシャーで、モモタロスと互角に……ううん、それ以上に渡り合ってる。

 今も、真上からまっすぐに斬りつけたモモタロスの剣をかわして、胴を、胸を、立て続けに斬りつけてくる。

 仕上げとばかりに突き込まれて、吹き飛ばされる……うぅっ、アーマー越しなのにすごく痛い。



 そういえば、ボクとモモタロスだけでネガ電王と真っ向勝負するのって、初めてかも……前に戦った時はみんなや、キバの“オリジナル”、渡くんと一緒だったし……

 けど、今はボクとモモタロスの二人だけ……だから、こうして真っ正面から戦ってみて、アイツの強さがすごくよくわかる。

 そう……すごく強い。大ショッカーにも吸収されずに“悪の組織”として独立していられたのも、この強さがあってこそだったんだって、思い知らされる。

 侑斗やウラタロス……イクトさん達の援護は期待できない。みんな、それぞれの相手に苦戦させられてるみたいだ。

 つまりこの場は、ボクとモモタロスだけで乗り切らないといけない――たとえ、ネガタロスがどれだけ強かったとしても、だ。







「へっ、そんなの当たり前だろ。
 つか、オレひとりで十分だっての」







 うん……そうだn











「戦いの真っ最中に、特異点とおしゃべりか」











――っ! 来た!







「余裕だな――電王!」







 ネガタロスが勢いよく襲いかかってきた。反撃しようとするモモタロスだけど、防御で精一杯、どころかその防御も追いつかない。あっさりと防御を抜かれて、また攻撃を受けて吹っ飛ばされる。







「へっ、当たり前だろ……っ!
 オレ達のクライマックスは、まだまだ上があるんだよっ!」

「あぁ、そうかい」







 言い返して、モモタロスがボクの身体で起き上がるけど、ネガタロスはあっさりとそう返してきて――






「だがな、わざわざお前がその『上』まで上がりきるのを待ってやる理由もないんだ」







 その手のガッシャーは、いつの間にかリュウタが使うのと同じガンモード――まずいっ!







《Full Charge》







 ドスの利いた声が、ネガタロスのベルトから――ガンモードのフルチャージ、来るっ!







〔モモタロス!〕

「問題ねぇっ! あの程度!」

「そうか。
 なら――返してみろよ」







 ボクに答えるモモタロスに、さらにネガタロスが返してくる――デンガッシャー・ガンモードのフルチャージ、ワイルドショットを撃ちながら。







「野郎っ!」







 かわしてる余裕はない。迫ってくる真っ黒い光球を、モモタロスがデンガッシャーの刃で受け止める――すごい圧力。モモタロスはしっかり踏んばってるのに、その足が地面をえぐりながら押し戻されてる。







〔モモタロス、受け流して!〕

「簡単に、言ってくれるな、オイ……っ!」







 このままだと押し切られる――けど、モモタロスにもこれを受け流す余裕はないみたいだ。

 どうすることもできないまま、モモタロスの受け止めた光球がまるで力を溜め込むバネのように縮んで――





















 消えた。





















 ……うん、本当にそんな感じ。モモタロスのデンガッシャーと押し合いになっていたはずの光球が、突然解けるように散って、消えてしまったんだ。

 いきなり押し合っていた相手が消えて、モモタロスが勢い余ってつんのめってしまうけど……うん、そこはいい。

 問題は、今まさに爆発寸前だったあの光球が、何がどうなって消えてしまったのか、ということで……











「…………“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”」











 ――っ!?







「こうも対象が少ないところでは、披露したところでインパクトもたかが知れているな」







 そう言って、舞い降りてきた巨体――その姿に、ボクは見覚えがあった。







「イマジンどもをぞろぞろ引き連れて、ずいぶん派手にやってるじゃないか……ネガタロス」

〔…………え……?〕







 けど……“彼”が口にした言葉は、意外なものだった。

 だって……この人は確かにネガタロスのことを、ちゃんと名前で呼んだから。

 この世界では、物語の存在でしかないネガタロスのことを……しかも、迷いなく相手をネガタロスと断定したその口調に、戸惑いとかそういうものは感じられない。

 フィクションの存在であるはずのネガタロスがここにいることに、一切の疑問を感じてない……ボクらやネガタロス達が現実にこの世界に存在しているということを正しく把握してる証拠だ。

 事情を知ってるのは恭文くん達機動六課のみんなとヘイハチさん……あとはスタースクリームさんだけのはずなのに……

 ボクらのことを、『電王』の物語のことを知らないってことはないと思う……だって、さっきの言葉はイマジンのことにも触れていたし。







「獲物の独り占めは感心しないな」







 そんなボクの疑問は相手には届かない――まぁ、声に出してないから当然なんだけど――ともあれ、そう言いながら、乱入してきた“トランスフォーマーは”ネガタロスに向けて一歩を踏み出した。







「この祭、オレ達も混ぜてもらおうか。
 そう、このオレ――」











「マスターギガトロン率いる、ディセプティコンも、な」











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第30話「贖罪の紅炎プロミネンス







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



〔マスター……ギガトロン……っ!〕







 別に、その名前に聞き覚えがなかったワケじゃない。

 むしろ、聞き覚えがないワケがない――何しろ、命がけの実戦でぶつかり合った相手なんだから。



 前に、恭文くん達の密輸の摘発についていった時、乱入してきた相手。機動六課のみんなにとっては因縁の相手“ディセプティコン”――そのリーダーとして、あの時ボクらとも戦ったのが、このマスターギガトロン。



 でも、この戦いは別に“レリック”を取り合っているワケじゃない。いったい何をしにここへ……? それに、どうしてネガタロスのことを知っているのか……







「なんだ、貴様か……マスターギガトロン」







 って、ネガタロスの方も、マスターギガトロンのことを知ってる……?

 まさか、この二人、ボクらの知らないところで出会ってる……? だとしたら、ネガタロスがここにいるということに、マスターギガトロンが動じていなかったにも説明がつく。もうすでにネガタロスと出会っていたなら、ネガショッカーがミッドにいると知っていて当然だし、『電王』の物語のことを知らないまま出会っていたとすれば、そもそも疑問にすら思わないだろうし。



 でも、六課と戦ってる……言ってみればこの世界の“悪の組織”であるディセプティコン、そのリーダーがネガタロスの知り合い、ってことは……







「この場に現れたということは……オレ様の誘いを受けてくれるということか?
 オレ達ネガショッカーと共に、この世界で天下を取る気になったと?」

「…………フンッ」







 やっぱり、ネガタロスが同盟を持ちかけていたみたいだ……つまり、ネガショッカーに誘われてた、と。ココアちゃん達と、同じように。







「まぁ、確かに悪い話ではないな」







 って、この人……まさか、ネガタロスの誘いを受けるつもり!?







「貴様らのネガショッカー、確かに大した組織だ。
 手を組めば、我々ディセプティコンにとって得られる利益は計り知れない」

「だろう?
 オレ様のネガショッカーは天下無敵だ。手を組めば、こんな世界のひとつや二つ、簡単に手に入るってもんだ」

「あぁ、そうだな」







 まさか……この人、ネガショッカーと組むつもりなんじゃ……!?







「では、決まりだな。
 ディセプティコンとオレ達ネガショッカーの未来n











「だが」











 その瞬間――ネガタロスの言葉が途切れた。

 強烈な力によって、思い切りブッ飛ばされたから。

 そう――











 マスターギガトロンに、蹴り飛ばされて。











「カン違いしてもらっては困るな」







 『放物線を描いて』なんて生易しいレベルじゃない。文字通り一直線の軌跡を描いて、ネガタロスが近くのビルに突っ込む。

 ――って、何やってるの!? ここ旧市街じゃないんだから、あまり街を壊しちゃ……







「……何をとぼけたことを言っている?
 ここは機動六課の張った結界の中だろう?――だったら、いくら壊そうが現実の建物には被害はなかろう」







 あ、そっか……い、いや、でもだからって、少しは遠慮ってものを……







「カン違い、だと……?」







 あ、ネガタロスが起きてきた。







「そうだ――カン違いだ。
 確かに、貴様らネガショッカーと組むことは我々ディセプティコンにとって大きな利益となる。
 だがな……同時に不利益のことも、考えておかなければな」

「何……?」

「我らディセプティコンは、“このオレの手で”この世界を支配するためにオレが立ち上げた組織だ。
 わかるか? “このオレの手で”だ――オレが、オレの手で勝利できなければ、ディセプティコンの理念上、その勝利には何の意味もない。
 利用してやるならまだしも、他の組織と並び立つことなどできるものか……たとえその結果つかめる勝利を逃すことになろうとも、な」







 ネガタロスに対してそう答えて、マスターギガトロンがもう一歩前に。







「そして何より。
 貴様ら、この世界を支配してやろうとしているんだろう?――オレが支配するつもりの、この世界を。
 だとすれば、ますます手を組む理由などない――貴様らは我らディセプティコンにとって、“味方”になどなり得ない。
 むしろ、オレの獲物を横取りしようとする、敵だ」

「つまり、オレ達と組むつもりはない、か……」

「理解が早くて助かるな」







 ネガタロスの言葉に、マスターギガトロンは即答……とりあえず、この二つの組織が手を組むことはなさそうなのはわかったけど……だとしたら、どうしてここに?







「決まっている。
 オレの獲物を横取りしようとしているコイツらを……叩きつぶしてやるためだ!」







 言うと同時に、マスターギガトロンが右手から光線を放つ――ネガタロスにはあっさりとかわされてしまったけど。







「状況が状況だ。機動六課に対抗するための備えはしていても、我らディセプティコンの乱入など想定していまい。
 となれば、この場は貴様らネガショッカーの脇腹を食い破る千載一遇の機会――機動六課を助ける形にはなるが、利用しない手はないさ」

「フンッ。
 だとしても、お前ひとりで何ができる?」







 マスターギガトロンに決裂の一撃を撃たれても、ネガタロスは余裕だ――確かに、いくらマスターギガトロンが強くても、たったひとりじゃ……







「……舐められたものだな」







 って、マスターギガトロン……?







「ネガタロス……貴様もまだまだわかっていないな。
 “悪の組織”とはすなわち力による支配を目指すもの。力によって正義を食い破ってこそなんぼだ。
 そして、組織の長たる者、そうした組織の理念を自ら体現するものでなければ、決して部下はついてこない。
 だがな――」











「だからと言って、わざわざひとりで出てくるほど、脳筋じゃないつもりなんだがな、オレは」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オォォォォォッ、ラァッ!」

「消し飛びなさい。ルシフェリオンブレイカー……っ!」







 豪快に声を上げるブレードと静かに吼えるセイカ、テンションが両極端に最高潮な二人が、前線で大暴れしている――正直、敵側に同情したくなるほどに。

 ブレードのヤツはいつものこととして、セイカもセイカでかなり荒れている……雑魚相手にも容赦なくルシフェリオンブレイカーをぶちかますあたり、まったく出し惜しみする気配がない。よほど柾木がやられてしまったのが腹に据えかねたようだな。

 だが、そのおかげで私もシグナムも、それにピータロスやシャープエッジもうかつに前線に出られない。もし前に出すぎてしまったら――







「ヴぁあぁぁぁぁぁっ!?」

「みさちゃーんっ!?」







 ……“あぁ”なるからな。

 日下部め、また性懲りもなく前に出て巻き込まれたな……峰岸のフォローはこれで何回目だ?







「あー……もう好きにしてくれ……」







 そしてシグナムはいじけないでくれ。もう指揮もへったくれもなくなって、存在意義を見失いそうになってるのはわかるがな。

 というか、ここが廃棄都市区画で本当に良かった。あの様子では、ここが新市街だったとしても今のあの二人が手加減するとはとうてい思えないからな――ん?

 レーダーに反応……この反応は!?







「気をつけろ! ブレード! セイカ!」

「あん?」

「はい?」











「上から来るぞ!」











 私の警告とほぼ同時だった。

 上空から急降下、地面に直撃するか否かというところで軌道を変え、地面スレスレの低空飛行で飛び込んできた影が、戦場を豪快に“両断した”のは。

 巻き込まれたネガショッカーの怪人達が宙を舞う……おや、日下部は巻き込まれなかったか。







「ちょっ、スターセイバーの旦那! ちょっとひどくない!?
 私だって、そうそういつも巻き込まれたりしないってヴァ!」







 すまん、つい……







「だがな、日下部」

「何?」

「そこにいると……」











 ひぅうぅぅぅぅぅ……ちゅどーんっ!











「ヴァアァァァァァッ!?」

「今度こそ巻き込まれるぞ……って、遅かったか」

「遅すぎだってヴァァァァァァッ!」







 斬撃の次は爆撃がきた――悲鳴を上げている日下部だが、何だかんだ言いながらしっかり避けている。

 そもそも、さっきから再三ブレード達の大暴れに巻き込まれてもピンピンしてるのも、しっかり紙一重でかわしているから、余波に巻き込まれて吹っ飛んでいるだけにすぎないからだ。あぁ見えて、アイツもスタースクリームに鍛えられ、“JS事件”を戦い抜いたひとりなのだということを忘れてはいけない。







 それにしても、なぜ“ヤツら”がここで出てくる……!?

 出方によっては三つ巴もあり得る。警戒しながら、上空の乱入者達を見上げる――











「ジェノスラッシャー、トランスフォーム!」



「ラグナッツ、トランスフォームっツ!」











 翼竜から、爆撃機からトランスフォームした、ジェノスラッシャーとラグナッツの姿を。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「シャドー、サーヴァント!」







 橋本が叫ぶと同時――ヤツのまとう銀色の“装重甲メタル・ブレスト”、その背中の、まるでコウモリの羽……の骨組みを思わせる背中の飛行ユニットが分離した。

 具体的には、背中から直接伸びる基部だけを残し、残りの部分がバラバラに切り離された――切り離された角錐状のパーツ、その数3×2=6基。

 一瞬だけ落下しかけたそれらのパーツは、すぐに自ら飛翔、その先端に空いた穴から放たれたビームが、ネガショッカーの怪人達へと降り注ぐ。







「やるではないか、死神!
 これは私も負けていられないな!」







 一方で、そんな橋本のヤツに触発されたのがディアーチェ――ヤミだ。手にしたエルシニアクロイツを頭上にかざし、魔力を高め――って!?







「いかんっ!」







 とっさに相棒ヴィータを抱えて離脱。理由は簡単。







「デアボリック――エミッション!」







 さっきまでオレ達がいた場所も、ヤミのデアボリックエミッションの攻撃範囲の中だったからだ。







「おいコラ! あぶねぇだろ!」

「フンッ、そんなところでフラフラしているのが悪い」







 オレの腕の中で抗議の声を上げたヴィータにも、ヤミのヤツはいけしゃーしゃーと答えてくれた。







「この私が小鴉めと同じ広域型であることを忘れたか? そんな私の攻撃範囲内にいれば、巻き込まれて当然だろう。
 むしろこちらが『巻き込まれたいのか?』と抗議したいくらいだ」

「言ってくれるじゃねぇか……っ!
 はやてと同じ見た目だからってちょーしこいてんじゃねぇぞ……っ!」







 むぅ……いかんな。ヴィータの怒りがちょっと無視できないレベルに来てる。

 しょうがないので、少し助け舟を出そう。これで少しは溜飲が下がってくれれば……







「そうか。
 なら、ジュンイチのヤツに相談しておかないとな。アイツならお前との連携のコツを教えてくれそうd

「私めが悪ぅございましたお願いだからあ奴に報告だけは勘弁してくださいヴィータを巻き込んだと知られようものならコロされてしまいます」

「一転謝罪!? しかも土下座!? 挙句の果てにノンブレス!?」

「プライドよりもジュンイチへの恐怖が勝ったか……」







 ……思った以上の効果がありすぎたようだ。







「まぁ、いずれにせよフレンドリファイアは避けるべきだしな。
 少しは意識して立ち回るとしようか」







 ともあれ、ヤミが(ジュンイチへの恐怖で)謝罪してくれたおかげでなんとか治まりそうだ。気を取り直して、今後へと意識を向けて――











 突然の爆撃が、戦場に降り注いだ。











「ぅおぉっ!?」

「な、何事だ!?」







 またしてもヤミの仕業――というワケではない。むしろ彼女のもとにも爆撃が来てる。

 とっさにヴィータとヤミが背中を預け合い、警戒を強めるのを尻目に、オレも周囲を探る。

 攻撃はオレ達もネガショッカーも関係ない無差別攻撃――とりあえず、他の連中も無事だ。一番防御が遅れそうな万蟲姫一党も互いにカバーしあって爆撃をしのいだようだ。

 もちろん、難を逃れたのはオレ達だけではない。ネガショッカーの怪人達も未だかなりの数が生き残っていて――







「な、何だったんぶぎゃっ!?」







 今、目の前でそんなひとりが――おそらく牛か何かだろう、パワー系の動物の特徴を持ったオルフェノクが、煙の中から飛び出してきた“それ”に貫かれた。

 フォークを思わせる形状の、巨大なマシンアーム――まさか!?







「どうした、こんなもんかよ!?
 ネガショッカーってのも大したことねぇな!」







 ――ディセプティコンの、ボーンクラッシャー!



 ということは、さっきの爆撃は……







「……やはり、手を組むことを拒絶されたマスターギガトロン様の判断は正しかったな。
 こんな程度の戦力では足手まといになるのが関の山だ」







 空間が揺らめき、その中から声の主が姿を現す――やはり、ショックフリートか!







「お前ら……何のつもりだ!?」

「フンッ、そんなものは決まっている」







 オレと同様に新たな乱入者達に気づいたヴィータが声を上げるが、ショックフリートはあっさりとそう答えた。







「我らディセプティコンもまた、ネガショッカーと対立することになってな。
 こうして、マスターギガトロン様の命でこの戦いに名乗りを上げさせてもらったまでだ」







 言って、ショックフリートは頭上に右手をかざし、







「そういうワケだ。こっちはこっちで好きにやらせてもらう。
 巻き込まれても……文句を言うなよ!」







 告げると同時、右手を振り下ろし――ヤツの周囲に大量のエネルギー弾が生み出され、再度の爆撃がネガショッカーのヤツらへと降り注ぐ!







「ちょっ、ムチャクチャやってくれるっスね!」

「そりゃあ、私達もアイツらの敵だもの。手加減する理由は、ない……っ!」







 もちろん、オレ達にも、だ――爆撃から逃れ、ひよりとみなみがこちらに合流してくる。







「シロちんクロちんやキンタロスさんは無事っスかね……?」

「反応は消えてない。無事みたいだけど……」

〈こらーっ! わたし達のことも心配しろーっ!〉







 ひより達の会話にメープルから抗議の通信……いや、お前ら心配しなくてもしぶとく生き残りそうだし。







「くそっ、シャドーサーヴァント!」







 ――――っ、橋本!?

 頭上で橋本が叫ぶのが聞こえた――直後、アイツの操作で動いたと思われる6基のビットがショックフリートに攻撃、爆撃を中止させる。







「いい加減にしろよ、お前!」

「フンッ、お前らとて我らの敵だ。遠慮する理由など――」

「ンなことぁどーでもいいっ!」







 ………………は?







「……何?」

「オレ達も敵。だから巻き込む――そこは別に文句ないんだよ! とっくに承知の上だからっ!
 オレが問題にしてるのは……」







 オレ同様に呆けるショックフリートに対して、橋本はビシッとヤツを指さして――











「せっかくオレが目立とうとしてるのに、それより目立とうとするなっ!」











 ………………



 …………



 ……







 ………………うん。







『知るかぁぁぁぁぁっ!』







 六課、ディセプティコン、ネガショッカー、全員からのツッコミが飛んだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「シグナルランサー! 下がれ!」

「おぅっ!」







 背後からの声に従い、バックステップで後退――そんなオレに代わって前に出るのは、ライと共に助けに来てくれた青木啓二その人だ。







「スティンガー、ファング!」







 すでに“装重甲メタル・ブレスト”は着装済み。彼の叫びに答え、両肩アーマーの先端に留められていた大型のシールドに見える武装が彼の両腕に装着される。

 そう――大型のシールド“に見える武装”だ。あぁ見えて実際のところはシールドではなく手甲ガントレット。防具ではなく武器としての運用が本命なんだとか。

 青木氏の“装重甲メタル・ブレスト”、“ファング・スティンガー”、その主武装“スティンガーファング”――左右それぞれの内部から駆動音がして、空薬莢やっきょうのようなものが排出される。

 ――否、実際に空薬莢だ。“ブリッド”と呼ばれる、魔力ではなく精霊力を込めたカートリッジで力の増幅を行う“装重甲メタル・ブレスト”版カートリッジシステム、その名もブリッドシステム。

 ブリッドに込められた精霊力を解放、高められた力をあふれ出させながら、ヌリカベの前に飛び出して――











「スティンガー、インパクト!」











 “撃ち抜いた”

 スティンガーファングを叩きつけた瞬間、ヌリカベの身体の表面、外殻が“かき分けられて”、露出した内部をスティンガーファングに備えられたビーム砲で撃ち抜いたのだ。

 前にあずさから聞いた説明によると、スティンガーファングは高位のブレイカーが共通して持つ特殊スキル“空間湾曲”の効果を増幅する機能があるんだとか――ブリッドのパワーで強化したその機能で相手の外殻をこじ開け、内部に直接攻撃を叩き込む技、それがあの“スティンガーインパクト”だ。

 自慢の頑丈さもまるで役に立たず、痛恨の一撃をもらったヌリカベがたたらを踏む――今だ!







「ライ! 電撃を頼む!」

「りょーかいっ!」







 ライの返事を聞きながら槍を投げつける――それは狙い違わずヌリカベの身体、スティンガーインパクトによって外殻をこじ開けられた部分に突き刺さる。

 さらにそこに、ライの魔法が落雷を叩き落とす。オレの槍を避雷針として、誘導された電撃がヌリカベの身体を撃ち抜く!







「やったね、イエイ♪」







 内側から黒こげになって倒れるヌリカベを前に、舞い降りてきたライとハイタッチ。

 さて、ヌリカベの死骸に突き刺さったままの槍を取りに行かなきゃな――む?



 何だ? 何か聞こえる……







「サイレン……? パトカー?」







 オレの幻聴ではないらしい。同じ音を聞いたらしいライも首をかしげている。そんなオレ達の前に、廃ビルの向こう、通りの曲がり角をドリフトしながら姿を現したのは一台のパトカー。

 管理局の車――じゃない! アイツは!











「バリケード、トランスフォーム!」











 オレの直感は的中。途中でガレキをジャンプ台に跳躍、ロボットモードにトランスフォームしたのはディセプティコンのバリケード!

 くっ、まさかこんなタイミングでアイツらディセプティコンが出てくるとは――







「フォースチップ、イグニッション!
 ホイール、ナックル!」








 さらに、そのまま空中でイグニッション。ビークルモードのタイヤを変形させたナックルを両の拳に装着し、その着地点にいたギガンデスヘルに鉄拳一発――って!?







「ネガショッカーに仕掛けた!?」

「え? 何? 敵じゃないの、アイツ!?」







 青木やライも驚いている。てっきり、ネガショッカーを相手に総力戦に挑んでいるこの機に便乗し、オレ達を叩きに現れたのだと思ったが――







「安心しろ。
 今のところは敵対するつもりはない――『今のところは』だがな」







 そんな声はオレ達の頭上から――見上げれば、そこには一機の武装ヘリコプター。











「ブラックアウト、トランスフォーム!」











 もちろん、ヤツもディセプティコンのひとり――咆哮し、ロボットモードとなったブラックアウトが、ネガショッカーの連中にエネルギーミサイルを叩き込む!







「攻撃目標確認――ネガショッカー大型戦力!
 ブラックアウト――作戦オペレーション開始スタート!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オォォォォォッ!」







 オレの手にした、新しいバルゴラ――バルゴラ・グローリーが装着している巨大な刃が、オレの咆哮に伴って輝きを宿す。

 オレの魔力を握り手側のパーツ、ブーストユニット(近接用)が増幅し、刃へと流し込んでいるんだ。その魔力を存分に込めたバルゴラを振りかぶって――横一閃!







《Slash Blast!》







 オレの振り抜いたバルゴラ、その刃の軌跡に光があふれる。それは見る見るうちに輝きを強めていき――炸裂。軌跡に残されていた魔力が解放され、衝撃波となってネガショッカーの怪人達を吹っ飛ばす!

 まともにくらって、連中の布陣が大きく乱れて――







「そこっ!」

「いっくでぇっ!」







 なずなが、いぶきが飛び込んだ。手にした得物で、怪人達を片っ端からブッ倒していく。







〈ジン! 二人を!〉

「はいよっ!」







 しかも、それで終わりじゃない。通信越しの指示にうなずいて、オレはなずなといぶきに合流。二人を捕まえると、レオーのジャッキを使って真上に大ジャンプ。上空に逃れて――







「どぉりゃあっ!」







 さっきの指示の主――つまり鷲悟さんの放った、真っ黒な精霊力の渦がネガショッカーを薙ぎ払った。

 砲撃と定義するにも値しないような、単に精霊力をぶちまけただけの広域攻撃――なのに、それでもその威力はさすがの一言。砲撃型のマスター・ランク・ブレイカーってのは伊達じゃないね、ホント。

 こりゃ、オレも負けてられないな!







「なずな! いぶき! 着地は自力でよろしくっ!」







 言って、抱えていた二人を放すと二枚のカードを取り出す。

 “LANCHER”と“BUST〔B〕”。それを、バルゴラの本体部分に読み込ませる。







《LANCHER!》

《BUST!》








 同時、バルゴラに装着されていた実体刃と反対側の握りが消滅する――代わりに現れたのは大型の砲身ユニットと銃尾ユニット。それが、改めてバルゴラに装着される。











《COMBO――“MAOU”!》











 …………ツッコまない。うん、オレはツッコまない。



 砲戦仕様のコンボの名前が“マオウ”。“MAOHマオー”ではなくあえての“MAOUマオウ”……明らかに何か言いたそうなネーミングだけど、ツッコまないったらツッコまない。



 というか……ツッコんでたらその間に着地しちまう。さっさとぶっ放すべく、完成した大型砲形態のバルゴラを地上に向ける。

 専用仕様ということもあって、急速に魔力がチャージされる――狙いなんかつける必要はない。眼下の敵集団に向けて。迷うことなくトリガーを引く!











《TAKAMACHI-Buster!》











 ……だからツッコまないからな、オレはっ! 犯人は魔法名とかコンボ名とかの登録を一括して請け負ったジュンイチさんなんだからっ!



 ともあれ、放たれた閃光は敵の一団へと突き刺さった。そのまま、バルゴラを振るうオレの動きにあわせて戦場をぶった斬って――“足元から”爆発。

 あー、なんか見たことあるわこの光景。具体的には『ナウシカ』とか平成版『ガメラ2』とかで。

 とはいえ、別にそこまで火力がトンデモというワケじゃない。タネを明かせば何のことはない。さっき撃った閃光はそれ自体が攻撃というんじゃなくて、地面に向けて炸裂性の魔力を流し込んでいたんだ。

 相手は攻撃と思って閃光の方に注意を払うけど、実際の攻撃は地面に流し込まれた魔力の爆発――閃光をやり過ごした、当たっても何ともないと思って安心した相手は地面からの爆発で不意打ち同然に吹っ飛ばされるってワケだ。

 まぁ、この光景を前にしたら若干の同情の念もないワケじゃないけれど……とりあえずは、オレ達にケンカを売るという自殺行為に出たアイツらの自業自得ということで――







《………………っ!?
 熱源発生! 来る!》

「な――――っ!?」







 何だ――そう声に発するよりも早く状況に気づいて、いぶき達と一緒に離脱――直後、飛んできた閃光が、難を逃れていたネガショッカーの怪人達の集団を直撃、吹っ飛ばす!

 それだけじゃない。風切り音がすると思って見上げてみれば、飛来した多数の砲弾がヤツら目がけて降り注いでる。

 つか、誰だ……? ここにいるオレ達側のメンツの仕業じゃないのは確かだけど……ん?

 攻撃の飛んできた方向から何か来る。あれって……?







「装甲車……?」







 あぁ、そうだ。いぶきの言う通り、あれは装甲車……って!?







「まさか――アイツ!?」











「レッケージ、トランスフォーム!」











 やっぱり――レッケージ!

 飛び込んできた装甲車の正体はディセプティコンのフォワードリーダー、レッケージ。ロボットモードにトランスフォームするとネガショッカーの集団の中に飛び込んで、腕のブレードの一振りで数体の怪人を斬り飛ばす。

 つか、飛び込んできたのがレッケージってことは……







「ジン、上!」







 ――――――っ!?

 なずなの声に頭上を見上げると、ちょうど目の前の廃ビルの屋上から二つの影が、レッケージの暴れているすぐそばに落下――いや、“着地”したところだった。

 着地ついでに真下にいた怪人を踏みつけ、仁王立ちで立ち上がったのは――







「フンッ、ネガショッカーの怪人どもとはこの程度か!
 簡単な不意打ちですぐに浮き足立ってくれるとは――その程度でこのジェノスクリームの相手が務まると思うなよ!」

「ブロウル様もいるぞーっ!」







 そう、ジェノスクリームにブロウル――ディセプティコンの陸戦砲撃コンビだ。







「お前ら……なんで!?」

「そんなもの、決まっている!
 コイツら、貴様らのみならずディセプティコンにもケンカを売ってくれてな」







 とりあえず、狙いがネガショッカーなのはわかったけど、そもそもどうしてコイツらがネガショッカーに攻撃を仕掛けるようなことになってるのか……思わず尋ねたオレにはジェノスクリームが答えてくれた。







「コイツら、よりにもよって我々に傘下に入れと言ってきた。
 こちらを格下と見くびった……そして何よりマスターギガトロン様を配下にしようと、ひざまずかせようとした。
 その罪、論ずるまでもなく万死に値するっ!」







 あー……そいつぁまた、忠誠心の強いことで。







「貴様らの相手もしてやりたいところだが、今回は二の次だ。
 まずはコイツらを叩きつぶす――手伝ってくれるならかまわんが、ジャマだけはするなよ」

「誰がするかよ。
 オレ達だって、コイツらには頭に来てるんだ」







 そうジェノスクリームに答えたのはオレ――じゃなくて、上空から舞い降りてきて合流してきた鷲悟さんだ。







「つーワケで、今回はお互いつるんでネガショッカーをブッ飛ばすのを最優先に、ってことで」

「異議なし」







 鷲悟さんに答えて、ジェノスクリームがビーストモードにトランスフォーム。







「フォースチップ、イグニッション!」







 そしてフォースチップをイグニッション。大きく開いた口、その中に備えられた大型砲がチャージを始める。

 同時に、鷲悟さんもその手の中に漆黒のエネルギーの渦を作り出す――うん。







「なずな、いぶき。
 少し下がった方が――」







 言いながら振り向いて――とっくに後退済みかよ。抜け目ねぇな。

 とはいえ、なずな達の心配をしなくていいのは助かる。オレもオレでその場から後退して――











「グラヴィトン、スマッシャー!」

「ジェノサイド、バスター!」












 鷲悟さんとジェノスクリームのダブル砲撃が、戦場を貫いた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《FIRE》

《BULETTE》








 取り出したカードをギャレンラウザーに読み込ませて、効果を発動――炎属性の付加・及び弾丸自体の強化を施した銃撃、ファイアバレットでジョーカーと敵瘴魔を狙う。

 対して、敵さん達は散開して回避――けど、今はこれでいい。

 最優先はアイツらにいたぶられていた“こっちのあたし”の仲間……確か、こなたっていったっけ。あの子の安全確保。あの子から引き離せた時点でファイアバレットの目的は達成された。







《GEMINI》







 と、いうワケで、ここからが本番だ。ダイヤの9、“GEMINI”のカードを使用、あたし自身の分身を作り出す。

 ギャレンを受け継いだ直後は分身を作り出すので精一杯、ライダーシステム任せにあたしの動きをトレースさせるのが限界だったコイツも、今では任意にコントロールできる。あたしとは別に地を蹴って、あたしがジョーカーと、分身が瘴魔とにらみ合う。







「我々を連携させないつもりか……」

「だが、浅知恵だなっ!」







 そのあたしの動き、それがどういう意味を持つのか――こっちの狙いを読んできたジョーカーの声が聞こえたのか、瘴魔……ケンザン、だっけ。アイツがジョーカーの言葉に乗っかってくる。







「いくら分身して人数が増えようが、それを操ってるてめぇの脳ミソまで増えたワケじゃないだろ!
 分身をコントロールしながら、オレ達の相手ができるとでも思っているのか!?」

「さぁて、ね……
 そんなに言うなら、試してみましょうかっ!」







 ケンザンに言い返して、分身のあたしが銃撃――とはいえ、力場で威力を殺されてしまう瘴魔を相手に通常の銃撃じゃ通じない。ケンザンはかまわず分身のあたしに向けて突っ込んでくる。







「なら、こちらも始めるか!」







 って、ジョーカーも来たっ!

 分身のあたしの状況にも注意を払いながら、ジョーカーが手の平から放ってくる光弾をかわす。すかさず反撃。銃撃でジョーカーを後退させる。

 一方で分身のあたしもケンザンの突進をかわしてる。あたしがカードを読み込んで――







《FIRE》

《BULETTE》








 あたしのギャレンラウザーが解放した力を分身が受け取って、分身の方のギャレンラウザーからファイアバレット。さすがにこれはケンザンも警戒して回避。けど、







「しゃらくせぇっ!
 これならどうだ!」







 だからって向こうもやられてばかりじゃない。全身のトゲをおっ立てながら身体を丸めて、転がるように分身のあたしに向けて突進!

 当然、分身のあたしもそれをかわして――







「そっちばかり注意してて――いいのかよっ!」







 こっちもきた――大きく跳んだジョーカーの跳び蹴りを、あたしは前方に転がって、アイツの下をくぐるようにやりすごす。

 すぐに振り向いて、こちらに背を向ける形で着地したジョーカーの背中に銃げk――







「どこ見てやがる!?」







 ――って、ケンザ――きゃぁっ!?

 対応は間に合わず、振り向きかけたところを引っかけられる――直撃しなかっただけマシとはいえ、豪快に引き倒されて地面を転がる。



 つか、いったぁ……っ! 油断したわ……

 まさか、分身のあたしへの攻撃を外したあのまま、こっちに向けて転がり続けてたなんて……







「フンッ、浅知恵だと言っただろうが」

「オレ達相手に、分身使ってまとめて相手しようなんて、欲張りすぎなんだよ!」







 今の一撃でエネルギーの供給が断たれたか、ジェミニの分身が形状を維持できなくなって消滅する――勝ち誇るケンザンやジョーカーの言葉に「その通り」と心の中だけで同意しておく。

 そう――アイツらの言う通り。分身なんかでアイツらのレベルと対等に渡り合えるなんて、あたしだって“最初から思っちゃいなかった”

 けど、それでもよかったんだ――何しろあたしの狙いは別にあって、しかも“それはすでに達成されたから”



 だから――







《FIRE》

《BULETTE》








 こうする。再びファイアバレットの体勢――ただし、今回はそのまま撃たない。

 そこからさらに、ライダーではなくあたし自身の力を上乗せ。足元に魔法陣を展開、魔力のチャージに移る。もちろん待機状態で懐に忍ばせているクロスミラージュのサポート付きだ。

 そして、放つ魔法の術式は――







「砲撃魔法……?」

「へっ、頼みの分身攻撃が通じなくてやけっぱちか?」







 ジョーカーやケンザンが言ってくれてるけど――予想通りのリアクションなので放置。かまわず魔力を練り上げて――











「ファントム、ブレイザァァァァァッ!」











 放つ。トリガーを引き、ギャレンラウザーとラウズカードの力でパワーアップさせたファントムブレイザーを二人に向けてぶっ放して――







「はっ!」

「そんなもんっ!」







 かわされた。

 あたしの渾身の一撃を、ジョーカーとケンザンはあっさりと左右に散ってかわした。閃光は二人の間を駆け抜けて――





















 “狙い通り、その先の“降魔点”を木っ端微塵に爆砕した。”





















「な…………っ!?
 “降魔点”が!?」

「貴様……最初から、“降魔点”だけを狙って……!?」

「当然でしょう?」







 この辺り一帯の“力”を取り込み、“降魔陣”の他のポイントへと循環させていた“降魔点”がなくなって、周囲に立ち込めていた“力”が急速に霧散していく――驚く敵さん二名に、ちょっと勝ち誇って教えてあげる。







「あたしは『あんた達を倒す』ためにここに来たんじゃない。
 あたしの目的は、あくまで『“降魔点”を壊す』こと――アンタ達なんて、最初から二の次なのよ」







 そう。あの分身での戦いも、狙いはあくまでこの状況を作り出すこと。

 分身を駆使してアイツらにひとりで立ち向かうように、そしてそれが通じず、苦戦しているかのように装いながら、“アイツらを狙うフリをしながら“降魔点”を狙える位置を確保すること”にあったんだ。

 アイツらはそんなあたしの狙いにまんまと引っかかった。あたしの挑発に乗って、あたしさえ抑えておけば“降魔点”は無事だろうとたかを括ってあたしの相手をしてくれた。あたしの狙いが自分達じゃなくて、あくまで“降魔点”だけなんだということに気づかないまま。







「貴様……っ!」

「やってくれたな!」







 そして、狙い通り“降魔点”はブッつぶした。自分達の役目を果たせずに終わったジョーカーやケンザンがこっちをにらみつけてるけど――







「と、いうワケで……」







 ごめんね、まだこっちの策は“終わってない”のよ。







「ここからは任せたわよ――」





















「こなた!」





















「合点承知っ!」







 あたしのかけた声に、“どこからともなく”聞こえてきた声が答える。

 それと同時に、空間が揺らいで――











「こっちはとっくに、準備万端発射おーらいっ!」







 必殺技の発動準備完了。目の前に真っ赤に燃え上がる炎で形作られた鳳凰を控えさせたこなたが姿を現した。











 そう――彼女はとっくに、敵から受けた神経毒によるマヒから回復していた。

 そして、あたしが念話で提案した作戦に乗って、こうして必殺技のチャージをしながら隠れてもらっていたんだ。



 あたしの使った、オプティックハイドでその姿を隠しながら。



 いやはや、相手が怪人クラスで助かったわ。ジュンイチ達みたいな“力”を感知できるタイプが相手だったら、高めたあの子の“力”で気づかれてたところだわ。







「はぁっ!」







 そして、こなたが跳ぶ。炎の鳳凰の頭部に後ろから飛び込んで――







「紅蓮――蹴撃!」











「クリムゾン、ブレイク!」











 撃ち出された。



 鳳凰の口から、ジョーカーに向けて、勢いよく――鳳凰を形作っていた炎も巻き込んで、ジョーカーに向けて突っ込んで、渾身の飛び蹴りっ!



 さらに、そんな彼女の導いた炎もジョーカーに襲いかかった。炎の渦がジョーカーを包み込み、爆発。ジョーカーを吹っ飛ばす!



 一方で、こなたはジョーカーを飲み込んだ爆発、その爆風に乗るかのように再び宙に舞い上がって――







「……からのぉっ!」







 そのまま、続いてケンザンを狙って急降下っ!



 しかも、今の爆発から熱エネルギーをちゃっかり拝借していた。炎に包まれた彼女の盾剣型デバイスの刃を振りかざして――







「紅蓮――瞬閃しゅんぜん!」











「クリムゾン、スラッシュ!」











 空中で横向き、地面と平行ってくらいまで傾けた姿勢から全身を使って一回転。彼女にとっての水平斬り、実際には大上段からの唐竹割りで、ケンザンに必殺の斬撃を叩き込む!







「ぐわぁっ!」







 当然、彼女が刃に宿していた炎も一緒に叩き込む。炎が爆裂して、ケンザンを吹っ飛ばして――







「…………っ、がぁっ!」







 踏んばった。仰向けに倒れそうになったのをギリギリのところで耐えて、こなたをにらみつける。







「やっ……やってくれるじゃねぇかっ!
 だが、必殺技の連発ってのはやっぱりムリがあったか!? まだ生きてるぜ、オレはっ!」







 ダメージは確かにある。けど、撃破には至らなかった。勝ち誇った様子でケンザンが叫んで――







「うん。
 私もそー思って……」











「あんたへのフィニッシュはティアにゃんに譲ったから」











「…………は?」







 間の抜けた声を上げて――ケンザンはようやく気づいたらしい。



 そう。あたしだって伊達や酔狂でこなたの戦いを実況していたワケじゃない。



 こなたがジョーカーをブッ飛ばし、ケンザンに一撃を入れてくれるその間に、すでにフィニッシュの準備は完了よっ!







《GEMINI》

《FIRE》

《DROP》








 三枚のラウズカードをギャレンラウザーにラウズ――分身を作り出し、加えてそれぞれに炎属性付加、脚力強化の効果を追加。







《BURNING DIVIDE》







 間合いはバッチリ。分身と共にケンザンに向けて大ジャンプ。空中で前方に一回転して――











「バーニング、ディバイド!」











 左右の足による二連蹴り――分身の分も加えた計四発の蹴りが、ケンザンに叩きつけられる!







「がはぁっ!?」







 まともにくらって、吹っ飛ばされたケンザンが大地を転がる。それでもなんとか立ち上がるのはさすがだけど――











「……ぐわぁぁぁぁぁっ!?」











 そこまでだった。打ち込まれた炎のエネルギーが炸裂。内部からの爆発がケンザンを木っ端微塵に吹っ飛ばした。







「よし、終わりっ!」

「ま、ざっとこんなもんよ」







 これにてミッション完了――手を挙げるこなたに応え、パチンッ!と景気よくハイタッチを交わす。

 さて、こっちは片づいたけど……他のところのみんなは、うまくやってくれてるんでしょうね……?








[*前へ][次へ#]

37/40ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!