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頂き物の小説
第29話「断罪の時間だ」:2



「…………っ、く……っ!」



 立ち上がろうと、両手に力を込める……けど、ダメだ。

 今のあたしには、ほとんど力が入らない……徹底的にブッ飛ばされて、地面に転がされて……ちょっと身じろぎするだけでも全身に激痛が走る。



「チッ、しぶといヤツだぜ……」

「そう言うな。
 これだけの戦力差……むしろここまでもちこたえたことは賞賛に値する」



 向こうじゃ、舌打ちするファングをガミオが注意してるのが聞こえる……敵にほめられても正直うれしくないし、何より今のあたしはそれどころじゃない。

 身動きすらままならないくらいのダメージに加えて、周りは狼系怪人のオンパレード……結局、あれから反撃どころじゃなく徹底的に袋叩きにされた。もう、殺されないように耐えるので精一杯、ってくらいに。



「まぁ、いいや。
 ここまで痛めつけてやったんだ。もう防ぐことなんてできねぇだろ……さっさと首を落として、終わりにしてやろうか」



 けど、耐えるのももう限界っぽい。動けないあたしに向けて、ファングがゆっくりと歩いてくる……あたしの命に、ピリオドを叩きつけるために。



「く…………っ!」



 なんとかしなきゃ……けど、ダメだ。いくら力を込めても、まともに動けない。ダメージがひどすぎて、物理的な意味で動けなくなってる。



 まだ、終われないのに……あきらめたくない、戦いたい……なのに、身体が動いてくれない……っ! こんな終わり方なんて……っ!



「残念だな……終わりだよ」



 とうとう、ファングがあたしの目の前までやってきた。右手を、手刀の形でゆっくりと振り上げて――





















「待ちなさぁいっ!」



「ぶげっ!?」





















 突然の悲鳴と同時、ファングがこっちに向けてよろめいて――あたしの身体に蹴つまずいて向こう側にすっ転んだ。

 ファングがどうなったのか、身動きできない――それこそ寝返りすらキツイあたしに確かめることはできない。けど……何が起きたかはわかった。

 ファングの後頭部に当たったらしい、少し縁が凹んだそれが目の前に落ちてきたからだ。

 未開封、中身満タンの缶コーヒー(350ml、スチール缶)……あぁ、確かにこれを、しかも缶の方も凹むくらいの勢いで投げつけられれば、そりゃいくら瘴魔獣将でも痛いよね。しかも縁の一番硬いところだし。

 そして、これがファングの後頭部に直撃したってことは、投げつけられたのはその背後、つまり今のあたしの視線の先から――と、いうワケで、投げつけてきたらしい人の姿も見える。

 長い金髪をポニーテールにまとめた、美人のお姉さん……服装は、空色のミニスカートに真っ白なシャツ、その上に春物の若草色のジャケットを羽織ってる。



 あと……うん。胸おっきい。八神部隊長とか絶対もみそう。あと、あたしもちょっともんでみたい。



 そんな美人の女の人が、こっちを……あたしの周りの怪人達をにらみつけてる。

 ただし……







「放せーっ! オレまで巻き込むなーっ!」







 何やらじたばたもがいてる男の人を引きずってなきゃ、それなりにカッコもついたと思うんだけど。

 どう見ても『嫌がってるのをムリヤリ連れてこられました』っていう感じだ。男の人はえり首をつかまれて、お尻をズルズルと引きずられて…………って、あれ?

 男の人に、見覚えがある。どこだっけ……?

 そんなに前じゃない。つい最近、ここ数日の間……あぁっ!

 思い出した! あの人、ひったくりを捕まえるのに協力してくれた、あの人間嫌いのお兄さん!

 それが、どうしてここに現れるのか……というか、それよりもむしろ……







「はーなーせーっ!
 オレは帰る! 帰るったら帰る!」

「だーかーらーっ! そんなワガママ言わないでくださいよ!」

「だいたい、なんでオレが異世界くんだりまで来て戦わなきゃいけないんだよ!?
 オレには関係ない話だろ!? どうなろうが知ったことじゃねぇよ!」

「そんなこと言わないで、ほら、もう現場なんですからっ!」







 いやいや、ちょっと! そんなトコで何ケンカしてるの!?

 助けてもらっておいて何だけど、ここは危ないんだから、早く逃げてーっ!







「わかりました! わかりましたから!
 それじゃあ、ここの人達をやっつけたら帰ってもいいですから!」

「…………本当か?」

「本当です」

「この場のヤツらだけだな?
 終わってから『「ここ」っていうのは戦場全体のことですよ』とか言い出さない?」

「………………」

「黙るなぁぁぁぁぁっ!」







「……何だ? 貴様ら」







 完全にあたし達をそっちのけで言い争う二人に、ガミオも呆れ顔……なんだよね? 顔が顔だからよくわかんないけど。

 まぁ、あたしもその気持ちはわかるけど……いきなり乱入しておいて、かと思えば自分達だけで勝手にケンカ始めてるんだから。

 突然のことに、あたしの周りの怪人のみなさんもポカンとしてる……って、ダメだよっ! あたしまで呆けてちゃ!







「だ、ダメだよ! こんなところに来ちゃ!
 危ないんだから、早く逃げて!」

「うるせぇっ!」

「がっ!?」







 一瞬視界に星が散る――誰かに顔面を蹴られたんだ。







「てめぇは余計なこと言わなくていいんだよっ!」

「おとなしくしてろ、このバカ女がっ!」

「心配すんな! あの二人をぶち殺したら、次はてめぇだっ!」







 それを合図に、他の怪人達もあたしを踏みつけてくる――身体中を踏みつけるように蹴られて、全身を激痛が襲う。

 もう、誰のセリフかも、誰の蹴りかもわからない。そんな暴力の嵐の真っ只中に放り込まれて――





















「おい」





















 その声だけが、イヤにハッキリ聞こえた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 目の前で、“こっちの時間”のスバルがボコボコにされてる。

 文字通りのリンチだ。元々ボロボロにやられてたみたいで、反撃どころか防御もまともにできてない。



 ――そう。何の抵抗もできないスバルを、連中は一方的にボコってる。

 一方的に……何もできないヤツを……っ!







 だから――











「おい」











 気づけば、オレは自分を引きずってきた手を払って立ち上がって……ヤツらに声をかけていた。







「……おい」







 だけど……反応なし。







「…………おい」







 …………やっぱり反応なし。



 全員が全員――実際ボコってるヤツらはもちろん、傍観してるガミオも含めて、ついさっきまでアホなやり取りをしていたオレ達のことなんかもう眼中にないらしい。

 ………………上等だ。











「………………そこの犬コロども」

『誰が犬だっ!?』











 呼ぶついでに悪口を混ぜてみたら、ようやく食いついてきた――ピタリとスバルをボコるのを止めて、全員がこっちをにらみつけてくる。

 けど……知らない。知ったことじゃない。オレはオレで、言いたいことを言わせてもらう。聞きたいことを聞かせてもらう。



「楽しいかよ?
 そんなよってたかって、女の子ひとりを袋叩きにしてさ」

「あん?
 そんなの、楽しいに決まってるだろ!」

「大した力もねぇのに、一丁前に立ち向かってきたりしやがってな。
 オレ達に勝てるとでも思ったのかよ、コイツ」



 何人かの答えに、怪人どもの間で笑い声が上がる……なるほど。コイツら全員、同じ意見か。



「…………そうか」



 あぁ……本当に上等だ。



「……イカス答えをありがとう」



 決まりだ。



「おかげでハッキリわかったよ。
 お前ら全員……」



 コイツら全員……











「オレの、一番嫌いな人種だわ」



 皆殺みなごろす。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 全身くまなく蹴られて、踏みつけられて……おかげで、何て言ったのかはわからなかった。

 けど、あの男の人の言葉で、怪人達の意識はあの人の方に向いた。あたしを蹴るのをやめて、みんなあの人に向けて殺気立ってる。

 だけど……ダメだ。

 あの人がどういうつもりかはわからないけど……これだけの怪人を相手に、普通の人が太刀打ちできるワケがない。



「ダメ……っ!
 危ないよ……早く、逃げて……っ!」

「うるせぇな……っ!
 てめぇは黙ってろ!」



 なんとか、あの人を逃がさないと……そんな願いを込めた呼びかけは、怪人達に阻まれた。誰かがあたしを思い切り蹴飛ばして、吹っ飛ばす!

 自分の身体が放物線を描いて飛ばされるのが、なぜか他人事みたいに理解できて――







「危ないっ!」







 地面にぶつかりそうになったところを、誰かが受け止めてくれた。

 それでも支えきれずに、受け止めてくれた人もあたしと一緒にひっくり返る……あ、あの人をここまで連れてきた女の人だ。



「大丈夫ですk……」

「だ、大丈夫です……っつ……っ!」

「……ぜんぜん、大丈夫じゃないみたいですね。
 待ってください。今治療しますから」



 あたしだって局員なんだ。一般の人を不安にさせちゃいけない。痛みをこらえて離れようとするけど……ダメだった。痛みで動けないあたしに、女の人が手をかざして……あれ?

 痛みが……引いてく?

 けど、これ、魔力によるものじゃない……魔法じゃ、ない……?

 かと言って、この力、精霊力でもないみたいだし……



「そこはどうでもいいじゃないですか。
 それよりも、今は……」



 顔に出てたみたいだ。不思議がっていたあたしに答えると、女の人が男の人の方を見る……って、そうだ!

 このままじゃあの人が危ない。早く助けに入らないと……っ!



「大丈夫ですよ。
 “あぁ”なった信長さんは、絶対に負けませんから」



 けど、そんなあたしを女の人が止める……って、『ノブナガさん』? あの人のこと?



「はい。
 家須いえす信長のぶなが……それが、あの人の名前です。
 ……あぁ、私はブレスっていいます。よろしく」



 あ、こちらこそよろしく……じゃなくてっ!

 あの男の人――信長さんへと視線を戻す。

 ネガショッカーの怪人のみんな、信長さんに何言われたのか知らないけどすごく殺気立ってる……けど、信長さんも負けてない。一歩も気圧されずににらみ返してる。

 というか……何、あれ……

 さっきまで、あんなに戦うのをイヤがってたのに……?



「あぁ、気にしなくてもいいですよ。いつものことですから」



 いつものことなんだ……



「それに、戦力的な意味でも……あ。
 もう本当に心配いらないみたいですね」



 ブレスさんがそうつぶやく中、信長さんが腰に何かを巻きつける……って、ちょっと待って。

 この展開って……今から戦おうって時に、腰に巻きつけるものって、まさか……







「ライダーベルト!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とりあえず、コイツらの皆殺しは決定――と、いうワケで、さっそく戦闘準備に入る。

 腰に巻くのは、バックルが少々ゴツくて、中央に縦に谷間の刻まれた大仰なベルト……“ギルティドライバー”

 そして、次は左手に着けた腕時計型のツール、“ギルティコマンダー”をかまえる――細長い本体部分は上部全体がカバーになってて、開くようになっている。

 それを開き、口を開けた中身にセットするのは、結晶でできた、厚めのコインのような護符――“デモンズタリスマン”







《ルシフェル!》







 タリスマンの“中身”を読み込んで、ギルティコマンダーがコールする――その本体部分を台座から外して、右後方へ、大きく身をよじるようにかまえる。



 そして――











「変身!」











 手にしたギルティコマンダーを、ギルティドライバーの中央、縦方向にくぼんだターンテーブル状のプレート――“アルターテーブル”に、叩きつけるようにセットする!











《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》











 “祭壇”の名を冠したアルターテーブルにコマンダーをセットしたことで、ギルティドライバーから叫び声かというくらいの勢いでコール――あー、うるせー。相変わらずテンションたけー。

 そんなやかましいコールが響く中、コマンダーをセットしたアルターテーブルが90度回転。縦にはめ込んだコマンダーが横向きになるまで回転して、コマンダーを完全に固定する。

 と、その瞬間――“力”が巻き起こった。

 ベルトから放たれた漆黒の光――否、“闇”が渦を巻き、オレの全身を包み込んでいく。

 十分な時間を経て、渦を内側から弾き飛ばす。一連の流れに巻き込まれ、舞い上がっていた土煙が少しずつ晴れていって――その中から、“オレ”はゆっくりと進み出る。

 漆黒のスキンスーツに、黒と赤を基本色に配色したプロテクター。

 プロテクターのデザインは禍々しい曲線系のデザインで、白銀の縁取りがスキンスーツの漆黒によく映えてる。

 頭をすっぽりと覆った仮面は口元に呼吸用のスリットがあって、ゴーグル部分は真ん中に仕切りが入って左右に分けられているけど、視野自体は仮面の左右、上方までかなり広めに確保されている。このゴーグルも、まるで翼を広げたコウモリのように鋭角と曲線の組み合わさったデザインで、全身のプロテクターと合わせてかなり禍々しい印象がある。



 そう。ドライバーやコマンダーが発した、『ルシフェル』というコールを象徴するように、その姿はまさしく“悪魔的”なそれ。

 最後に、背中の部分、肩甲骨周辺を守るように配されていたプロテクターから翼が“生えた”。コウモリのそれのような、骨組みと翼膜によって構成された翼が羽ばたき、周囲の土煙を吹き飛ばすと、すぐにその翼を元通り収納する。だって陸で戦う分にはぶっちゃけジャマだし。

 ともあれ、これにて変身完了。オレの変身に明らかに驚いている連中を右手で、指鉄砲の形で軽く指さして、



「覚悟を決めろ……」



 言いながら、指鉄砲をサムズアップサインに切り替えて――







「断罪の時間だ」







 手首を返して上下反転。真下に向けた親指でファ○クサインをぶちかました。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「仮面、ライダー……!?」



 そう。あの人が……信長さんが、仮面ライダーに変身した。

 少なくとも、あたしの見たことのない……まったく未知のライダーに。



「ら、ライダーだと!?」

「てめぇ……仮面ライダーだったのか!?」



 驚いているのはあたしだけじゃない。相手も同じ……信長さんの変身に、ネガショッカーの怪人達の間からも驚きの声が上がる。



「仮面ライダー、ねぇ……
 なんか、どいつもこいつも同じようなことばっかり言いやがる。コイツにゃ、“ギルティ”っていうれっきとした名前があるのによ」



 そんなあたし達の反応に対して、信長さんはマスクの裏側で明らかにため息をつきながらつぶやいてる。

 なんだか、『仮面ライダー』って呼ばれてることに納得がいってないみたいだ。本来の名前にこだわりでもあるのかな?



 で、その本来の名前はギルティ……意味は確か、“断罪”……?



「あぁ。
 こいつぁギルティ……“断罪者”、ギルティだ」



 断罪者、ギルティ……仮面ライダー、ギルティ……



「はっ、何がギルティだ。こけおどしが」



 けど、そんな信長さんの変身も、アイツらにとっては一時的なサプライズでしかなかったみたいだ。落ち着きを取り戻したガミオの言葉に、他の怪人達も動揺が収まったらしい。ついさっきまであたしに向けられていた、獣特有の獰猛な殺気が今度は信長さんに向けられてるのがわかる。

 それに対して、信長さんは――



「……一度だけ、忠告してやる」



 特に動揺する様子もなく、そう言い出した。



「死にたくないヤツは今すぐ消えろ。
 逃げるヤツをわざわざ追いかけてぶち殺すようなくだらねぇマネはしねぇからさ」

「何だと、こいつ!?」

「ずいぶんとなめた口叩くじゃねぇか!」



 …………まぁ、当然そうなるよねー。

 と、いうワケで、完全に相手を下に見た信長さんの“忠告”に、怪人のみなさんは非常にエキサイトしてる。ほんのわずかでも何かしらのきっかけがあれば、その瞬間に信長さんを細切れにするために襲いかかることだろう。



「……やっぱ帰らねぇか」



 そんな怪人達を前に、信長さんは本当にめんどうくさそうにため息……そんな信長さんの態度に、怪人達の間から「なめるな」的な苦情の嵐が巻き起こってる。







「ぶち殺せぇぇぇぇぇっ!」







 そして、誰かの声が口火を切った。それを合図に、怪人達が一斉に信長さんに襲いかかる!







「ったく……手間取らせるなよな」







 対して、信長さんも動く――自分から前に出て迎え撃つ。先頭のウルフイマジンを、向こうが一撃を放つ前に殴り倒して、そのあまりにもあっけないカウンターに動揺した後続のウルフオルフェノクの顔面にブーツの靴底を叩きつける。

 さらに、つかみかかってきたウルフアンデッドの腕をかわすと逆につかみ返して――







 べぎっ。







 イヤな音がして――悲鳴。右腕を抱えるようにして、苦痛にもがくウルフアンデッドがその場に崩れ落ちて、







「寝てろ」







 その後頭部を、信長さんが思い切り踏みつけた。

 しかも、それで終わりじゃない。何度も何度も、執拗に後頭部を踏みつける。

 というか――音がおかしい。普通こういうシーンって『ガスガス』とか普通の打撃音だよね? なんで『バキバキ』とか割れる音がするの? 頭蓋骨が踏み割られてるとしか思えないんだけど。

 最後に、一際思い切り力を込めて踏みつけて、その衝撃でウルフアンデッドの頭の下のアスファルトが砕け散る――顔面を、というか、頭の前半分を地面にうずめて、ウルフアンデッドの全身がピクピクと痙攣けいれんした後、ぐったりと脱力する。



「……どーせ、また復活してくるんだろうなー。コイツら不死身アンデッドだし」



 言って、マスクごしに前髪をかき上げるような仕草を見せる信長さんを前に、怪人のみなさんはそろってドン引き――まぁ、ムリないよね。前二人はともかく、ウルフアンデッドのやられっぷりはあたしから見てもむごかったもの。







「な、何やってんだ!
 相手はひとりだけだぞ! さっさと囲んでフクロにしてしまえ!」







 けど、そんなひるんだ怪人達にはファングからの檄が飛ぶ――その声に我に返ったのか、怪人達は散開。信長さんを取り囲みにかかる。



「ふぅん……数に任せて押しつぶしに来る気か……
 なら」



 けど……信長さんは落ち着いていた。腰のベルトに手をかけて、変身する時にベルトにはめ込んだ、あのブレスレット(本体)のカバーを開いた。

 変身の時にはめ込んでいたコインっぽい何かを外すと、それと同じ、だけど別のヤツをセットする。具体的には、青色だった最初のヤツに対して、今度は赤色だ。







《アスモデウス!》







 コインのようなものの交換を済ませて、コール音が響く中カバーを閉じる。ブレスレットを狙ったのか、ベルトのバックル全体をパンと叩いて――











《ゥアァァァァァスモォッ! デェェェェェェェェェェゥウスッ!》











 ベルトから、さっきの変身の時と同じようにやたらとテンションの高いコール音声――それに伴って、信長さんの変身したギルティの姿が変わる。

 スーツの真っ黒だった部分が真っ赤に変化。プロテクターの縁取りも、まるで炎をイメージしたみたいな、渦巻き状の曲線中心のデザインに変わる。

 あれって、まさか、電王と同じ――



「フォーム、チェンジ……!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 数に任せて攻めてこられたら、あのままじゃちょっと不利だった――なので、こっちもそれに対応した姿へとモードチェンジ。

 バランス重視の全局面対応型であるさっきまでの姿、モード・ルシフェルから、この状況にあっていそうなモード、モード・アスモデウスへと変身する。

 そして、ベルトのバックル、その右側面に備わったスライド式のスイッチを下へと押し下げて――







《ゥアァァァァァスモォッ! スェエイヴァアァァァァァァァァァァッ!》







 ……つくづく思う。やかましいからこのやたらとテンションの高いコール音はなんとかしてほしい。音量調節とかマナーモードとかねぇのか、コイツ。

 ともかく、クソやかましいコール音と共にベルトのバックル――のすぐ前に生まれた拳大の空間の穴――から顔を出したグリップを握る。一気に引き抜いたのは、片刃の太刀。

 ギルティの使う専用武器デモンアームズのひとつ、アスモセイバー。ブンッ……と音を立てて、刃の部分が光に包まれたそれをかまえるオレの姿に、怪人達が何やら警戒してる。

 けど、もう“遅い”。お前らがビビってる間に地を蹴って――











 全員に一太刀ずつ浴びせた上で、包囲網の外に着地した後だから。











「ぐわぁっ!?」

「がはぁっ!?」







 次々に上がる悲鳴、さらに怪人達が受けた刀傷から発火して、何人かの怪人が倒れる――ま、致命傷にはまだ遠いみたいだけど。

 とはいえ――これでわかったはずだ。このモードの能力特性が。

 今見ての通り、モード・アスモデウスは“炎”属性のスピード特化型。パワーを犠牲にスピードに特化したこのモードなら、相手がどれだけ厚い包囲網を強いていようが関係ない。

 全部かわして、すり抜けて、ぶった斬るだけ――ちなみに威力の方は属性である炎と加速の勢いに全面依存だ。







「なんだ、コイツ!?」

「今何しやがった!?」







 未だに自分達が何をされたのかわかってないヤツらのことなんぞどうでもいい。かまわず地を蹴って、再び突撃。片っ端からぶった斬る。

 行って、そして戻って――結果、オレは連中の敷いた(あってないようなものな)包囲網の内側に戻ってきた。トッ、なんて軽快な足音を立てて足を止めて――







「がぁぁぁぁぁっ!」







 あ、ウルフアンデッド復活。

 腕はもちろん、オレにさんざん踏み砕かれた頭も治ってるっぽい。さすがは不死者アンデッド、ってところだけど――







「おせぇ」







 関係ない。改めて滅多斬りにしてやって、ウルフアンデッドが地面を転がる。

 とはいえ、死なないし復活されるしでちょっとウザイ。どうしたものか……



 ………………よし。



 “ちょうどいいモードでいることだし”、“これ”でいくか。

 ギルティドライバーの中央、アルターテーブルの向きを発動モードの横向きから奉納モードの縦向きに戻し、ギルティコマンダーを取り外す。アスモセイバーの柄尻に供えられたコネクタにコマンダーをセットして――







《アスモデウス!》

《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》








 コマンダーから、そしてアスモセイバーからテンションの落差がやたらとでっかいコール音声。それに伴って、アスモセイバーの刀身に炎が宿り、燃え盛る。

 立ち上がるウルフアンデッドに向けて、その距離を一瞬で縮めて――











「アスモ――スラッシュ!」











 一閃――で済ませるつもりは一切ない。刃に込められた炎がヤツの身体にすべて燃え移るまで、ウルフアンデッドの身体を徹底的に滅多斬り。

 最後の一閃は真下からの斬り上げで、ウルフアンデッドの身体を思い切り弾き飛ばす。放物線を描いて、ヤツが地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。

 それでもしぶとく立ち上がるウルフアンデッドだけど――もう“終わり”だ。







「ぐっ!? がっ!? はぁっ!?」







 ヤツの身体に刻まれた無数の刀傷、そこに叩き込まれた炎が次々に爆発。ヤツの身体を内側から打ちのめして――











「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」











 大爆発。ウルフアンデッドのヤツはその中に消えた。







「さて……次はどいつだ?」







 もうヤツは“終わった”。次の獲物に立候補してくるのはどいつか、適当に周りの怪人どもに問いかけて……







「……ま、待て……」







 爆煙の中からの声――ウルフアンデッドだ。







「まだ生きてる……!?」

「そりゃアンデッドだし、殺したって死なないだろ」







 呆然とつぶやくスバルの声が聞こえたので、適当にそう答えておく。

 けど……







「ま、だとしても……もう“終わり”だ」







 そうオレが付け加えた、その時――







「ぐっ!? がっ!? はぁっ!?」







 それはまるでさっきの再現――ウルフアンデッドの身体が内側から連続爆発、ヤツをまたもや打ちのめす。

 そう――アスモスラッシュで叩き込んだ炎が、まだヤツの中で燃え続けているんだ。







「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」







 そして、再度の大爆発。崩れ落ちて――それでも生きてるウルフアンデッドの身体の中で、炎による爆発がまた始まる。内側からの衝撃で、その身体がビクンビクンと跳ね回る。







「オレがてめぇに叩き込んだ炎はただの炎じゃねぇ。
 かの大悪魔、“煉獄の剣王”アスモデウスの力によって冥界から召喚された地獄の炎――その炎は、燃やしているものが燃え尽きるまで、決して消えることはねぇ」







 つまり、その炎を全身に叩き込まれたウルフアンデッドは、その全身が燃え尽きるまであの炎に燃やされ続けることになる。

 けど、アイツはアンデッド。決して死ぬことのない存在――さて、その身体が燃え尽きる時なんて、果たして来るのかね?







「死なねぇてめぇにゃ似合いの末路だ。
 地獄の炎にその身を焼かれて……」











「死ぬまで死んでろ」











 オレがウルフアンデッドに言い放って――再びの爆発が、ヤツの身体を飲み込んだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぐぁあぁぁぁぁぁっ!」



 三度目の爆発と共に、ウルフアンデッドが吹っ飛ぶ。あたし達の前で、地面に崩れ落ちて――また、爆発の嵐がその体内で巻き起こるのがわかる。

 とはいえ……正直、ちょっとやりすぎかな、と思わなくもない。死なない相手に向けて、死ぬまで苦しめ続ける攻撃を撃つなんて……何そのエンドレス地獄。

 というか、“地獄の炎”がどうとか言ってたし……それ以前に最初の方の、ウルフアンデッドの頭を割れるまで踏んづけていたのもそうだけど、あれじゃ仮面ライダーじゃなくて、まるで悪魔か何かだよ……



「……スバルちゃん、今『悪魔みたい』って思いました?」

「え?」



 ブレスさんからツッコまれた……え、ひょっとして声に出してた?



「声じゃなくて、顔に」

「あ、いや、その……ごめんなさい。
 助けに来てくれたのに、『悪魔みたい』とか思っちゃって……」



 失礼なことを思っちゃったことを、素直に謝る……んだけど、あの、ブレスさん?

 なんか苦笑しちゃって、どうかしたんですか?



「ううん、何でもないですから、気にしないで。
 うん、本当に気にしなくてもいいんですよ――だって、スバルちゃんはギルティの本質を“正しく見極めた”んですから」



 ………………え?

 あたしの見極めが正しい? 『悪魔みたい』なんて思ったのに?



「はい。
 だって、ギルティの力は……」











「“本当に悪魔の力なんですから”」











 ………………

 …………

 ……



 ………………え?



「このミッドチルダで生まれ育ったスバルちゃんには馴染みのない名前でしょうけど……アスモデウスも、ルシフェルも、地球ではその手の書物に名前が挙がらないなんてあり得ないほど有名な大悪魔なんです。
 そして……ギルティの力の源でもある」



 それって、つまり……



「はい。
 スバルちゃんの考えた通りです」



 つまり、ギルティは……










 悪魔の力で戦う、仮面ライダー……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「もう一度聞く。
 次はどいつだ?」



 改めて怪人どもに尋ねるけど、返事はない……オレの後ろで現在進行形で“死に続けてる”ウルフアンデッドの姿に全員ドン引きでソレどころじゃないらしい。



 …………うん。めんどくせぇ。



「……全員殺るか」



 ポツリ、ともらしたオレの言葉はしっかり聞こえてたらしい。怪人どもがビクリと肩をすくませて、こっちに視線を向ける――まぁ、こっちはかまうことなくモードチェンジさせてもらうけど。







《ベルゼバブ!》







 アスモセイバーを地面に突き立てて、腰のドライバー、アルターテーブルに戻していたコマンダーにセットしてあるデモンズタリスマンを緑色のそれに交換して――











《ヴェエェェェェェルゼッ! ヴァアァァァァァァァァァァゥブッ!》











 またもや、ギルティドライバーがやかましくコール――ルシフェル、アスモデウスに続く三番目のモードのお披露目だ。

 緑色のスーツ、風をイメージした、後ろに流れていく感じの流線型のプロテクター。

 “疾風の蠅の王”ベルゼバブの力を宿したモード、モード・ベルゼバブ。そして――







《ヴェエェェェェェルゼッ! ヴァアァストァアァァァァァァァァァァッ!》







 ギルティドライバーのアームズスイッチを押し下げて、拳銃型デモンアームズ“ベルゼバスター”を二丁召喚、両手に握る。







「さぁ……狩りを始めようか」







 怪人どもがオレのモードチェンジに動揺してる……けど、相手するつもりはない。言い放って、かまえたベルゼバスターの引き金を引く。

 とたん、まき散らされる銃弾の雨アラレ――けど、それは決して適当にばらまかれたものじゃない。

 感覚を鋭敏に研ぎ澄ませたモード・ベルゼバブの能力特性によって、このモードでオレの時間感覚は、集中の度合いによって1秒が一分にも、10分にも感じられる――その“延長された時間”の中でじっくり狙いをつけた、正確極まる精密射撃だ。

 結果――顔面を、腹を、弁慶の泣き所を、銃弾で正確に叩かれた怪人どもの悲鳴が上がる。中にはたまらず逃げ出そうとするヤツもいるけど……あめぇよ。モード・ベルゼバブの目から逃れられるワケがねぇだろうが。

 そういうヤツには後頭部に五、六発くらいワンホールショット――倒せねぇまでも脳ミソはまともに揺さぶられたはず。逃げ出そうとした怪人どもはその場に倒れて動かなくなる。







「馬鹿が……このオレから逃げられると思ったのかよ?
 ひとり残らずぶち殺してやるから、おとなしく殺されてろ、てめぇら」

「ち、ちょっと待て!
 それは正義のヒーロー、仮面ライダーとしていろいろ間違った発言じゃないか!?」







 オレの言葉に、怪人どもの中からなんか“的外れな”ツッコミの声が上がる――あぁ、本当に何言ってんだ、アイツら。







「『正義のヒーロー』だぁ?
 てめぇら……いつ、誰がオレのことを『“正義”だ』っつったよ?」

『………………え?』







 あぁ……こいつら、本当にわかってねぇよ。







「正義なんて、クソくらえだ……っ!」







 逃げられないとわかって腹が据わったのか、ウルフオルフェノクが襲いかかってくる――その顔面に右のベルゼバスターの銃口を押しつけて、零距離射撃でヤツの右目を撃ちつぶす。







「正義は……人を救わねぇ……っ!」







 逆にそれでも見苦しく逃げ出そうとしてるウルフイマジンの右足に左のベルゼバスターで射撃。ヒザを後ろから撃ち抜かれて、右足をつぶされたウルフイマジンがもんどりうってその場に倒れ込む。







「『正しい』ってことに縛られて、動けなくなって……結局、弱者は救われねぇ……っ!」







 逃げても地獄、かかってきても地獄……怪人どもはまさに阿鼻叫喚って感じにパニクってやがる。知ったこっちゃねぇけど。







「くっそぉぉぉぉぉぉっ!」







 そんなオレの耳に聞こえる、一際大きな咆哮――あ、大将自らお出ましか。

 ファングとか名乗ってた連中の親玉の片割れが、オレに向かって突っ込んできて――







「覚えとけ。
 悪を殺すのは正義じゃねぇ」







 ヤツの繰り出した拳を、右手のベルゼバスターを放り出し、残る一丁を両手でかまえて受け止める。

 両手撃ちの体勢でかまえたベルゼバスターで、真正面から――ちょうど、突きつけた銃口でヤツの拳を受け止めた形だ。







「悪を殺すのは……」







 アスモスラッシュの時と同じだ。右手でギルティドライバーからギルティコマンダーを外して、ベルゼバスターのグリップ、その先端に備えられたコネクタに接続。







《ベルゼバブ!》

《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》








「……それ以上の、悪だ」







 そう告げて、引き金を引く――ベルゼバスターの必殺技ギルティブレイクであるフルパワー発射“ベルゼバニッシュ”を零距離からくらって、ファングの右拳、どころじゃない。右腕全体から右肩、胸の右半分に至るまでがきれいサッパリ吹き飛んだ。







「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
 ば、バカな……!? オレ様の腕を、まるごと……!?
 オレ様の骨格は、シザーの甲羅と並ぶ瘴魔獣将の中でも最高硬度……それが、こうもたやすく……っ!?」







 悲鳴を上げて、激痛にのた打ち回るファングがうめいてる。なんか、頑丈さが取り柄だったみたいだけど……悪いな。ベルゼバニッシュに限らず、ギルティブレイクには物理防御効かねぇんだわ。

 ギルティの力が悪魔の力ってところを忘れちゃいけない。物理法則なんか関係なく、そのエネルギーに触れた物質は問答無用で“殺され”ちまうんだよ。

 しかもその後それぞれの属性の追い討ち付き。燃やされ、吹き飛ばされ、つぶされ、凍りつかされる……どれをかまされるにせよ、待っているのは確実な“死”だ。







「喰われるだけの正義に“堕ちる”くらいなら……オレは、悪を喰らう、悪になる」







 聞いているかどうか……つか、聞く余裕があるかどうかの段階からはなはだ疑問だけど、一応ファングに対し、さっきの話をしめくくる。中途半端は気持ち悪いからな。







「く…………っ! そがぁぁぁぁぁっ!」







 どうやら聞こえていたらしい。痛みに対する苦悶から一転、オレでもわかるくらいにハッキリした怒りと共に、ファングが残る左手で殴りかかってくる……お約束のリアクションどーも。

 その強力ごうりきがふんだんに乗っているだろう拳が次々に振るわれる。その勢いはまるで台風――だけど、モード・ベルゼバブの超感覚の前じゃそよ風とさして変わらない。ちょっと集中しただけでスローモーション同然の鈍さ“に見えてくる”、振り下ろされた拳を半歩も動かずかわしていく。

 その内、一際大きく振りかぶった一撃が来た――ので、軽く足を払ってバランスを崩して転ばせる。

 もちろん、仰向けに倒れたヤツの腹にはベルゼバスターの射撃を雨アラレ――横隔膜の辺りに念入りに撃ち込ませてもらう。足元から上がる、(横隔膜をやられてるから)言葉どころか声にすらならない悲鳴はもちろん無視だ。







《ルシフェル!》

《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》








 ファングがもがいてる間に、コマンダーの中のタリスマンを入れ替えて、モード・ルシフェルに戻る――そろそろ“終わらせる”ために。







「ま、待て……っ!」







 ……とか思ってたらファングから待ったがかかった。何だよ?







「お前……『正義より悪になる』と言ったよな?
 だったらお前は、ライダーよりもむしろこちら側だと思うんだが?」

「……つまり、『仲間になれ』って?」

「お前にとっても、悪い話じゃないと思うぜ。
 正義なんてくそくらえ、なんだろう?」







 あぁ……うん。よくわかった。

 やっぱりコイツら、わかってねぇ。

 オレが“どうしててめぇらとケンカしてるのか”、その一番の根本を、何ひとつわかってねぇ。

 だから――











《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》











 態度をもって答える――コマンダーを外してドライバーの左側に備わっているコネクタに接続。ギルティブレイクを発動させるオレの行動に、ファングの顔から血の気が引いた。

 けど、そんなことは知ったことじゃない。強く地を蹴って、ファングに向けて大ジャンプ。両足に“力”を集中させて――











「コキュートス、ドロップ!」











 オレの渾身の両足蹴りが、ファングを直撃、ブッ飛ばす!

 吹っ飛んだファングが転がっていく先には、ディケイドのヤツが『壊してこい』って言ってた、連中の作ったエネルギーの塊――ファングがそこまで転がっていったところで、オレのコキュートスドロップのエネルギーが炸裂した。

 解放されたエネルギーが一瞬にして凍結して、出来上がるのはファングとエネルギーの塊を飲み込んだドデカイ氷柱。

 ここまでくれば仕上げは簡単。足元に転がってた石ころを適当に拾って、投げる――その小石がカツンと当たっただけで、氷柱は粉々に崩れ落ちた。

 もちろん――中身のファングとエネルギーの塊も一緒に、だ。

 絶対零度まで冷やされたんじゃ、ホントなら倒されたら爆発するはずの怪人の身体も凍りついて着火すらしない。そんなファング“だった”氷の粉末に対して、一言で締める。



「わかったかよ?――」











「踏みにじられる者の気持ちってヤツが」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――――カラッ……



 小さな――本当に小さな、音がした。

 ディケイドに変身したジュンイチさんが放った、四人分身からのかめはめ波――その破壊の渦が過ぎ去って、沈黙が周囲を支配した、その中で。

 そして僕らは、その音の発生源にすぐに気づく――“やっぱり生きてたか”。

 そう確信すると同時、前方のガレキの山が轟音とともに“内側から”吹き飛んだ。

 その中から姿を現すのは――



「……やってくれたな、貴様……っ!」



 仮面のおかげで表情はわからないけど、明らかに声に怒りの感情が宿ったシャドームーン。

 見れば、ジャーク将軍やローズイマジンも無事らしい……チッ、ローズイマジンは僕らが直々にブッ飛ばしてやりたかったからいいとしても、せめてシャドームーンかジャーク将軍、どっちかくらいは倒れてくれればよかったのに。



「……あー、そこの二人」



 とか考えてたら、ディケイドなジュンイチさんに呼ばれた……あぁ、“そろそろ”?



「ん、“そろそろ”。
 厄介なクライシス組二人は、このまま引き受けてやる。
 代わりにあのバラ野郎はお前らで何とかしてくれ。つーかしろ」



 16歳バージョンってことは年下だろうに、なんか偉そうな物言い。いつもならカチンとくるところだけど、今回は素直にうなずいておく。つか――



「カードの大盤振る舞いでなんとかごまかしてきたけど……さすがに、ザコ付きであの二人の相手をするのはそろそろ厳しくなってきた。
 あの二人はきっちり何とかしてやっから……オマケの方は任せる」



 僕らの知ってるジュンイチさんより若くて、あっちのチートっぷりにはまだまだ及ばないと言っても、その実力が超一級品なのは今の戦いを見てよくわかった。

 そんなディケイドなジュンイチさんが、“肩で息を切らせるくらい”がんばって僕らを休ませてくれたワケだしね。そろそろ働かないとバチが当たるってもんでしょ。



「じゃあ、そっちは任せるよ。
 けど……『引き受ける』って宣言したんだからね、後で『やっぱムリでした』とかはなしだよ?」

「たりめーだ。
 こちとら“世界の破壊者”ディケイド様だぜ――“こっちのオレ”とは別ベクトルでチートだってところを見せてやらぁ。
 そっちこそ、二人がかりなんだから、『なのはさん達の時間を使ってるヤツに勝てるか!』とかぬかすなよ」

「フッ、ほざけ」



 返してくるジュンイチさんにはマスターコンボイが答える――なるほど、ディケイドなジュンイチさんは横馬のこと「さん」付けで呼ぶんだ。違いに気づいてちょっと楽しい。

 これが終わったら、根掘り葉掘りいろいろ聞き出してみよう。間違い探しみたいでなんかおもしろそうだ。



《確かにおもしろそうですね。いろいろいぢるネタが出てきそうです》

《だけどボス、そのためには……》

「うん」

「あぁ」



 それぞれの相方に答えて、僕らはかまえる。

 もちろん狙いは、フェイト達の時間を奪ってくれた、そしてそれを好きなように使ってくれているくそったれなバラのイマジン。

 ディケイドなジュンイチさんのおかげできっちり回復できたしね……ここからは僕らのターンだっ! さっきやられた分はきっちり返してやる!





















「ついでに、ディケイドなジュンイチさんが持ってったインパクト全部ひっくり返してやる!
 あの人達ばっかりに目立たせてたまるかっ! 主役は僕だぁ――っ!」

《結局そこですか》







(第30話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「どうしたの?
 もっとボクを笑顔にしてよ」



「獲物の独り占めは感心しないな」



「とうとうなったか、本気に……」



「どうした?
 笑ってみろよ――“笑うことができるなら”」





第30話「贖罪の紅炎プロミネンス





「これがオレの……本当の“炎”だ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「ディケイドにオリジナルライダーであるギルティ、二大ライダーが大暴れした第29話、ようやくお届けだ」

オメガ《本当に『ようやく』ですよねぇ……前回からどれだけ経ちましたっけ?》

Mコンボイ「まぁ、そこは作者モリビトも気に病んでいるようだし、今後の改善に期待しよう。
 それより今回の話だが……」

オメガ《出しちゃいましたねぇ、完全オリジナルライダー……
 むしろ、今回カメンライドを大盤振る舞いしてくれたディケイド以上に見せ場を持っていっちゃったんじゃないですか?》

Mコンボイ「あー、とりあえず現時点で明かせる範囲内で情報を開示させてもらうと、ヤツはモリビトが展開予定のオリジナル仮面ライダー作品『仮面ライダーギルティ』の主役ライダー。
 ライダーの夏の劇場版を意識して、本編の発表前に『とコ電』にゲスト出演という形で先行登場させたかったらしいな」

オメガ《あぁ、最近次の新作ライダーの客演が定番化してましたからねぇ……最新人の鎧武さんはその辺シカトかましましたけど》

Mコンボイ「代わりに『ウィザード』TVシリーズの特別編でゲスト出演してるだろ。
 ともあれそんな感じで、『ギルティ』本編についてはモリビトの自サイトの方で展開予定。
 まぁ、全話きっちりやってる余裕もないので、2号ライダー登場やパワーアップ、人間関係的なターニングポイントなど、主要な話のみの公開という形になるらしい」

オメガ《つまり、その間の一話完結的な話は読者のみなさんが各自で妄想をふくらませろ、と》

Mコンボイ「これも公式ライダー……具体的には『ZX』から得た発案だそうだ。
 アレは雑誌での写真記事による連載とTVスペシャルでしか描かれていないからな、他の歴代ライダー作品と比べて極端に話数が少ない。
 事実上第一次ライダーブームの最後を飾る作品として、その相手がわずか数話で壊滅するような組織では格好がつかん。きっと描かれていない範囲でも戦っていたに違いない……と」

オメガ《なるほど。
 そこから、主要エピソードのみの公開という形を思いついた……と》

Mコンボイ「そういうことだ。
 その他には、今回のような“他作品へのゲスト出演”という形でも展開していくつもりのようだぞ」

オメガ《……今、この『とまコン』シリーズに頻繁に顔を出してくる絵が思い浮かんだんですが》

Mコンボイ「あー……たぶんソレ、実現するぞ。
 何しろ、知り合った相手には仲良くなろうとガンガン懐に踏み込んでいくスバルのところに参戦したんだからな。作者モリビトの意向なんてガン無視でヤツがスバルに追い掛け回されるのはほぼ確定だ」

オメガ《人間嫌いを匂わせていたのに、不憫な……
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)







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