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頂き物の小説
第29話「断罪の時間だ」:1



 右よーし。左よーし。

 ……うん、誰もいないね。



 誰もいないのを確認して、ろーかをこっそり歩いていく。

 ……ん? 『どうしてこっそり行くのか』って?

 だって……見つかったら、きっと「部屋にいなきゃダメ」って怒られちゃうから。



 でも……行かなきゃ。

 やすーみおにーちゃんに頼まれたんだもん……『フェイトお姉ちゃん達を頼む』って。

 だから……行く。



 フェイトお姉ちゃんやなのはお姉ちゃんのために……







 二人が退屈しないように、何かおもしろそうなことを見つけて帰るんだ!











「……なんか、派手に戦ってるみたいだな、みんな」











 あわわっ! 誰か来たっ!

 聞こえてきた声に、あわてて隠れる。

 見れば、制服を着た、ここで働くおにーちゃん達……おもしろそうなのを探してて、いつの間にかみんなが働いてるところに来ちゃってたみたいだ。



「苦戦してるみたいだけど……大丈夫なのか……?」

「そこは心配いらないんじゃないか?
 なんたって、勝たなきゃフェイト隊長達が……」

「あぁ……そうだな……」



 …………え……?

 フェイトおねーちゃんが……何……?

 まさか……やすーみおにーちゃん達が悪い人達をやっつけに行ったのって……



『僕らが戻ってくるまで、フェイトのこと、お願いね』



 やすーみおにーちゃん、言ってた……フェイトおねーちゃんのことを頼む、って……

 フェイトおねーちゃんのこと……頼まれたんだ……

 だったら……







 ぼくが……がんばらないと……っ!











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第29話「断罪の時間だ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ジュンイチさんが……仮面ライダーになった。



 戦う僕らの前にいきなり乱入してきたのは、僕らの知ってるあの人よりも若い、別の時間のジュンイチさん。

 そのジュンイチさんが、仮面ライダーに変身したんだ――その名も、仮面ライダーディケイド。

 見れば、シャドームーンやジャーク将軍なんかは明らかに警戒度を上げてきてる――僕とマスターコンボイの二人がかりでも攻め切れなかったあの二人ですら、今のジュンイチさん(若)は脅威だってことか。



 というか……



「………………ジュンイチさん」

「ん? どーしtどわぁぁぁぁぁっ!?」



 答えかけたジュンイチさん(若)の言葉は途中から悲鳴に化けた――まぁ、僕がアルトで斬りかかったからなんだけど。



「いきなり何すんの、お前!?」

「『何する』? それはこっちのセリフだよっ!」



 白刃取りでアルトを受け止めて、抗議してくるジュンイチさん(若)に言い返す。

 そう。『何をする』なんて、そんなのはこっちのセリフだ。

 ジュンイチさん(若)は、それだけのことをしたのだから。



 何しろ――



「ナニ僕を差し置いてちゃっかり仮面ライダーに変身してるのさ!?
 こっちは再三に渡ってスバル達にチャンスを持っていかれて、未だに電王に変身できてないってのにっ!」

「知るかぁぁぁぁぁっ!」



 あ、白刃取りのまま押し返してきた。このパワー、やっぱり若くてもジュンイチさんはジュンイチさんってことか。



「そんなこと言われたって、自分の意志でなったワケじゃねぇんだっ! どーしよーもあるかっ!
 自分達の意志でライダーになった翔太郎や弦太朗達と一緒にすんなーっ!」

「はぁ!? 誰ですかその二人っ! まさか僕らのまだ知らないライダーの二人ですか!?
 何ちゃっかり『この先の展開知ってるんだぞどーだうらやましーか』アピールしてるんですかっ!」

「そんなんじゃねぇっつーのっ!
 つかなんでそっちに食いつくんだよっ!? どう反論しても揚げ足取る気かテメェっ!?」

「当然だよっ! そのくらいやらないと気がすまないね、こっちわっ!
 『将来は仮面ライダーになりたい』という夢を持ちながら厳しい現実の前に枕を涙でぬらしてる全次元世界の子供達に今すぐ焼き土下座で誤れーっ!」

《マスター、落ち着いてください。『アヤマレ』の字が違います。
 あと、この人熱エネルギー使いなんですから焼き土下座したって冷やされて普通の土下座に終わりますよ?》

「そっちのデバイスもツッコむところはそこじゃねぇぇぇぇぇっ!」

「てめぇら、何ふざけてやがるっ!?」



 そんな僕らに、ローズイマジンが突っ込んでくる。僕らのやり取りを見て「ふざけてる」と思ったらしいけど――







「別に――ふざけてなどいないさ!」







 残念。ひとり忘れてたね――と、いうワケで、ローズイマジンの懐に飛び込んだマスターコンボイがオメガを一閃、ブッ飛ばす。

 その間に、ジュンイチさん(若)が白刃取りから脱出して(チッ)、改めてシャドームーンやジャーク将軍へと向き直る。



「部下への情報提供がなってないな。
 オレ相手に、ふざけた態度だからって突っ込んでくるのは死亡フラグだろうに。そのくらい教えておいてやっても、バチは当たらないと思うけど?」

「教えてどうなる?
 突っ込むのが危険だからと、貴様がふざけている間中ずっと見物していろとでも言うのか? それこそないだろう」

「だが……手はある。
 突っ込んでいっても返り討ちにあうというのなら……返り討ちにあわないだけの実力の持ち主が相手をすればいい」



 ジュンイチさん(若)に答えて、シャドームーンとジャーク将軍がそれぞれの得物をかまえて――って……



「……Yha-ha……」

「ジュンイチさん……?」



 対するジュンイチさん(若)は……笑っていた。

 仮面で表情は見えないけど、空気でわかる。僕らの知るジュンイチさんもよくやる、某アメフト漫画の悪魔の頭脳的なあの笑いだ――まさか、この流れ、最初から計算通り?

 最初からあの二人の相手をするつもりで……あの二人が自分に狙いをしぼるように……僕らとのやり取りを利用してローズイマジンを挑発して、展開や会話を誘導した……?



「ま、その辺は想像にお任せするよ。
 それよりも、だ……お前ら、今の内に少しでも休んどけ」

「なんだと……?
 ふざけるなよ。オレ達がもう限界だとでも言うつもりか?」

「そうは言わねぇけど、体力も魔力も、少しでも温存しとかなきゃならんのは確かでしょ?」



 反論したマスターコンボイに、ジュンイチさん(若)はあっさりと答えた。



「せっかくオレひとりに狙いが集中してるんだ。しばらくの間引きつけといてやる。
 その間に、お前らは魔力と体力の回復に専念して、次に備えとけ」



 言って、ジュンイチさん(若)は改めてシャドームーン達へと向き直る。



「まぁ、状況が状況だ。その意気込みはわからないでもないけどさ……もーちっと、周りのヤツらに見せ場を譲ってあげてもいいんじゃねぇの?
 “降魔点”の方にもオレの身内が参戦してるワケだし……」







「“こっちの時間”の援軍も、そろそろお出ましのようだぜ?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ど……どーなっとんの、あれ……?」

「ジュンイチさんが出てきて……しかも、仮面ライダーに……?」



 ウチも、なっちゃんも、つぶやく声はかすれてる……けど、それもムリないわ、あんなん見てもうたら。

 バラのイマジンに子供の頃にまで“戻され”て、元に戻れるかどうかわからない、なんて状態になってたはずのじゅんさんが、いきなりウチらと同じくらいの年頃の姿で出てきたんやから。

 しかも、そこからいきなり仮面ライダーに変身……なんつー説明無視な展開。途中経過をすっ飛ばすにも程っちゅうもんがあるやろ。

 まーくん達は何か納得しとるみたいやけど、この距離じゃ会話なんて聞こえへんから、まーくんややっちゃんがどんな説明をされたんかもサッパリわからへん。



 もっとも……



「まぁ、詳しい話を聞くいうても……」

「こいつらをどうにかしないと、それもままならないんだけどね……っ!」



 そう。まずは目の前の怪人さん達を何とかせぇへんと、どういうことなのかを知ることもできへん。






「なっちゃん、援護よろしくっ!」

「えぇ!」







 数の上ではこっちが不利。下手に分断されたら一気に数で押しつぶされて終わる――迷わず連携を選択。なっちゃんも同意見なのか素直に応じてくれた。

 具体的にはウチが前衛で突っ込んで、なっちゃんが援護。刀を振るって斬り込んだウチに怪人さん達の意識が向いたところに、なっちゃんが呪符で遠距離攻撃。動揺が広がったところに槍をかまえて突き崩しにかかる。

 もちろんウチかて斬り込んだだけじゃ終わらへん。斬り込んだ先で大立ち回り。正面にいたカメレオンイマジンを叩き斬る。

 あちらさんもウチとなっちゃんの波状攻撃で、どっちに集中するワケにもいかずに動きが鈍い。立て直される前に、一気に数を減らす!

 怪人さん達の集団めがけて突撃。先頭にいたジャガーロードを斬り捨てる。

 アンノウンの超能力バリア? そんなん、剣に宿る霊力で一緒にぶった斬らせてもろた。元々妖怪相手に殺り合ってるんやもん。そのための武器がただの剣なワケないやん。

 さて、次はどいつを……







「いぶき!」







 聞こえた声に、すぐに意識をそちらに向ける――さっきウチからも一撃もらってたカメレオンイマジンが、なっちゃんの槍でブッ飛ばされてこっちに向けて飛んでくる。よしっ!







「はぁぁぁぁぁっ!」







 気合一閃。ウチの振るった刀は狙い違わずカメレオンイマジンの胴を薙ぐ――胴を境に上半身と下半身に分かれたカメレオンイマジンが地面に落下して、爆発。

 よっしゃ! このまま次も――











「グォオォォォォォッ!」











 ブッ飛……ばしたろう…………か……

 響いた獣の咆哮に、問題発生を悟る――あかん。やってもーた。

 考えナシにぶった斬った自分に対して頭ン中で文句を垂れ流しながら、振り向いて、対峙する――











 ウチに斬り捨てられたカメレオンイマジンが暴走した、ギガンデスヘルと。











「グォオォォォォォッ!」







 吼えながら襲いかかってくるギガンデスヘルが振り下ろした前足をかわす――砕かれたアスファルトが飛び散って、一瞬視界が悪くなる。まぁ、相手がデカすぎるおかげで、それで見失ったりはせぇへんけど。







「こん、のぉっ!」







 そして、振り下ろされた前足に反撃の一太刀……うん。斬れたね、一応は。

 けど、巨大なギガンデス相手じゃ大したダメージにはならへんかった。それどころか、ジャマだとばかりに振り上げられた前足に引っかけられて、軽く2メートルは吹っ飛ばされる。







「ったぁ……やってくれるやないの」







 まぁ、この体格差で真っ向からやり合って、簡単にダメージ与えられるとか思うんがそもそも間違ってるんやけど。気分はまさにリアルモンハンって感じ。

 さっさと獣帝神にゴッドオンしたいところやけど、あちらさんがそんなん許してくれるとも思えへんし……







「いぶき!
 こんのぉっ!」







 その一方で、ウチが危ないと踏んで、なっちゃんが助けに来てくれた……って、あかんっ!

 ウチが警告するよりも早く、なっちゃんがギガンデスヘルの前足に槍を突き立てて――







「……ウソ、抜けない!?」







 あぁ、予想通りの展開……ギガンデスヘルの筋肉に締められて、なっちゃんの槍が抜けへんようになってもうた。

 素直に槍を放せばよかったんやろうけど、それも一瞬遅かったっぽい。槍を放すよう忠告しようと口を開いた時には、ギガンデスヘルの振り上げられた前足、そこに突き立てられた槍に引っぱられたなっちゃんが宙を舞ってた。







「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」







 ウチが助けに行くには遠すぎる。空中に放り出されたなっちゃんが、頭から地面に落下して――





















「…………間一髪、かな?」





















 結論。

 なっちゃんは地面に激突せぇへんかった。



 だって……そうなる前に、キャッチしてもらえたから。



 そう――











 「これぞヒーロー!」ってタイミングで飛び込んできてくれたジンくんに。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「大丈夫か? なずな」

「…………ジン……?」



 かけられた声に、地面との激突を覚悟して半ば手放していた意識が再始動する。

 そんなアタシの顔をのぞき込んでいるのは、アタシとは入れ違いに六課から離れていたジンで……というか、あれ? なんか近くない?

 普通に対面しているにしてはちょっと近い距離感に違和感を覚えて……気づいた。今のアタシの体勢に。

 抱きかかえられてるんだ。ジンに……その……いわゆる、“お姫様だっこ”って感じで。



 ……って、“お姫様だっこ”!?



「ぅひゃあっ!?」

「がふっ!?」



 一瞬、思考が飛んだ――そして気づいた時には、アタシのショートアッパーがジンのアゴを的確に打ち上げていた。

 で、そんなことになれば当然――



「っ、たぁっ!?」



 ジンに抱きかかえられていたアタシも地面に放り出されるワケで。おかげで思いっきり尻餅。うぅっ、地味に痛い……



「お、お前なぁ……再会するなり、ずいぶんじゃないか」

「ご、ごめん。つい……」



 さすがに今のはアタシが悪い。アゴを押さえて、苦情を申し立ててくるジンに謝る――本当にごめん。







 けど……うん、来てくれたんだ……

 何て言えばいいんだろう。たったそれだけのことなのに、ささくれ立っていた気持ちが落ち着いていくのがわかる。



「それでもって……ありがと」



 だから、お礼を言っておく――助けてくれたことのお礼に、この気持ちのお礼を隠して。







「グォオォォォォォッ!」







 ――って、ギガンデスのこと忘れてたっ!



「ジン! アイツ!」

「あぁ、わかってる――ギガンデスだろう?」



 いや、わかってるなら対応しなさいよっ! 生身じゃ生半可な反撃でどうにかなる相手じゃないわよ!?



「必要ないよ。
 だって――











「すぐ“つぶされる”から」











 その言葉と、同時だった。

 ギガンデスの巨体が、轟音と共に地面に叩きつけられたのは。

 ……いや、違う。あれは……“押しつぶされた”……?

 そう。まさにそんな感じ。見えない何かに押しつぶされるかのようだった。一瞬にして、ギガンデスの身体が地面と“何か”のサンドイッチになるように押しつぶされて、爆発と共に消滅する。

 今のは、いったい……?



「あの人だよ」

「え………………?」



 ジンに促されて、アイツの見た方向、上空を見上げて……って、えぇっ!?



「ジュンイチさんが……もうひとり!?」



 ちょっ、ウソでしょ!? つい今さっき、仮面ライダーに変身したジュンイチさんを見たばっかりなのよ!?

 そこに来てさらにもうひとりとか、どうなってるワケ!?



「いや、なずな、よく見て」

「え?」

「服装」



 ジンに言われて、ようやく気づいた……服の色が違う。

 ジュンイチさんの服装は基本的に黒の道着姿……だけど、あたし達の目の前にいる“もうひとりのジュンイチさん”の道着は――白。

 アンダーシャツも、アタシの知るジュンイチさんのそれが青色なのに対して赤色で……そう、ちょうどジュンイチさんの道着の色、その反転色がそのまま採用されている感じだ。



「まぁ、そりゃある意味当然だな……なんたって、“生まれからしてジュンイチさんと対なんだから”」



 え………………?

 『生まれからして』『ジュンイチさんと対』……そんな、ジュンイチさんのそっくりさん。

 それって、つまり……



「……双子……?」

「そういうこと」



 思考が声にもれ出たアタシに答えたのは、“もうひとりのジュンイチさん”本人だった。重力をまるで感じさせない浮遊感あふれる機動で、アタシ達の前に舞い降りてくる。



「お前が雷道なずなか。
 ウチの弟が、世話になったみたいだな」



 あぁ、じゃあやっぱり……



「そ。
 アイツの双子の兄キの、柾木鷲悟だ――よろしくな」



 そうあいさつすると、握手を求めてきた。とりあえず拒む理由はないので応じて、その手を握り返して――



「よっしゃあっ! 友達またひとり確保ぉっ!」



 え!? ちょっ!? 何よいきなりっ!?

 握手した瞬間テンション跳ね上がったんだけど!?



「あー、気にしなくていいよ。
 この人、いろいろあって“ぼっち歴”が長かったもんでさ――おかげで誰かと知り合い=友達になれるってことがうれしくてしょうがないんだと。
 まったく、ぼっちが解消されてもう10年以上になるってのに、未だにこれなんだもんなぁ……」



 何ソレ。



「ほほぉ、じゅんさんのおにーさんですか」



 あ、いぶき。



「ウチはいぶき。嵐山いぶきいいます。
 えっと、『鷲悟』やから……しゅーさんって呼んでえぇですか?」

「おー! いいともいいともっ!
 あだ名! いいじゃないか! なんか友達っぽいっ!」



 相変わらず初対面だってのに馴れ馴れしいいぶきだけど、鷲悟さんにとっては好感触っぽいわね。

 まぁ、人とのつながりに飢えてるっていうことなら、いぶきみたいな人懐っこいタイプは大歓迎か。



 けど……



「鷲悟さん。
 友達作りはそのくらいで」

「はいはい」



 そう。ジンの言う通り、そのくらいにしてもらわないと困る――だって、現在進行形でネガショッカーの怪人達がこっちを包囲し続けてるワケだし。



「そんじゃ、こっからはマジメに雑魚どもを踏みつぶしてやるとしましょうかね」



 言って、鷲悟さんが地面に右手を押し当てて――触れた場所、その周りのアスファルトが消滅した。

 ――いや、違う。“分解された”んだ。分解されたアスファルトが変質したと思われる光の粒子が、鷲悟さんの右手の周りで渦を巻いているのがわかる。

 そして、それは鷲悟さんの右手に集束、形を成していく――物質化して、出来上がったそれは一振りのでっかい槍……いや、げきだ。



「……重天戟じゅうてんげき



 おそらくその戟の銘だろう。名をつぶやきながら、鷲悟さんは戟を一振りして、



「さて……」











「踏みつぶすか」











 一言――たった一言。それだけで、鷲悟さんのまとう空気が一変したのがわかった。

 ジュンイチさんと同じだ――つい今の今までのほほんとしていたのが、一瞬で戦闘モードに思考を切り替えたんだ。本当、よくここまで落差の大きい意識の切り替えができるもんだわ。



「じゃあ、オレもいこうか。
 ……“バルゴラ”」

《了解だ》



 そして、アタシのとなりのジンが呼ぶ聞き慣れない名前……ちゃんと返事が返ってきた。

 出所は、いつの間にかジンの手の中に握られた黒い十字架型の装飾品……あぁ、なるほど。



「それが、大賀じゃ不在だったアンタのデバイスってワケね」

「あぁ。
 ようやくの……そして、パワーアップバージョンのお披露目だ!」



 言って、ジンが装飾品を頭上に放り投げる――そして、叫ぶ。











「セットアップ!」











 瞬間、ジンの姿が光に包まれて――弾ける。

 そして姿を現した時、ジンの身体を包んでいたのは、軍用の戦闘服――アーミールックっていうんだっけ? それをモチーフにしてるとすぐにわかるデザインの、黒い……いや、違うわね。ダークブルーか。とにかく、ほとんど黒に近いほどに濃い青色のコスチューム。

 一方で、上空に放り投げた装飾品は光を放ったまま滞空してる――ちょうど、その光が上下左右に、十字架状に放たれるような感じで。

 けど、その光もジンの変身と同時に弾け飛ぶ。そして現れたのは――



「…………箱?」



 思わず、そんなつぶやきがもれた。

 けど、それはしょうがない。実際そんな見た目なんだもの。

 箱と言っても別に四角じゃない。強いて言うなら厚みのない円柱。

 内側はくり抜かれていて、中心を貫くように一本の棒が通ってる……棒じゃないわね。あれが握りってことか。

 目の前に落ちて――否、降りてきたそれを、ジンが右手でつかむ。そこでようやく、握りが円柱状の外殻を貫いてるのに気づいた。

 確か、英語だかギリシャ語だかにそんな感じの記号がなかったっけ? えっと……



「『φファイ』だよ。
 デザインした上での元ネタ……そのモチーフのデザインにその字が採用されてた関係でね」



 あぁ、なるほど。



「けど、それのどこが武器よ?
 せいぜい、それ使ってぶん殴るくらいしか攻撃方法が思いつかないんだけど」

《冗談ではない。
 いくら以前の反省からより強固に作られていると言っても、だからと言って鈍器扱いは不本意極まる。最初から鈍器として作られているグラーフアイゼンと一緒にしないでくれ》



 あ、返事だけかと思ったらちゃんとこっちの会話に乗ってきた……って、あぁ、そういえばコイツもアルトアイゼン達と同じインテリジェントデバイスって言ってたっけ。それも“よくしゃべる部類”の。



《そういうことだ。
 バルゴラという――雷道なずなだったか。私の不在の間、私のマスターが世話になったようで、まずは礼を言わせてくれ》

「いや、それを言うなら、むしろアタシが助けられたくらいで……」

《それでも、だ。
 そして、これからも……どうか我がマスターを見捨てないで支えてくれると助かる》

「おいこら、バルゴラ。『見捨てる』って何だ、『見捨てる』って」



 バルゴラに好き放題言われて、ジンがこめかみを引きつらせてる……あぁ、コイツらも恭文&アルトアイゼンと似たような力関係なワケね。



《失礼な。私はただパートナーデバイスとしてしっかりマスターを導いているだけだ。アルトアイゼンのように自分のマスターを面白半分に振り回しているのとはワケが違う。
 とにかく、そういうワケだからこれからもマスターのことをよろしく頼む》

「えぇ、そのくらいなら別にいいわよ」

《そうか。
 いや、実に話が早い。さすがはマスターの彼女だ》







 ………………

 …………

 ……







 ………………って、ちょっと待ったぁぁぁぁぁっ!



「はぁっ!? 『彼女』!?
 誰が!? 誰の!?」

《何? 違うのか?
 アルトアイゼンから『大賀でマスターに彼女ができた』と聞いていたのだが》



 あ、あの性悪デバイスーっ! 今度あの本体の宝石に油性マジックで落書きしてやろうかしらっ!



「やめといた方がいいぞ。間違いなくその後10倍どころじゃない仕返しが待ってるから。
 それより……今はアイツらの方が先決だろう?」



 ……そうね。

 ジンの言葉に、意識を切り替える――そうだ。ジンと鷲悟さんの乱入で向こうも警戒を強めてるみたいで、戦いは仕切り直しの雰囲気。だけど、終わったワケじゃない。まだまだ暴れてやんなきゃね。



「そういうこと。
 と、いうワケで……ここからはオレ達のターンだ」



 言いながら、ジンが取り出したのは……カード?

 そう、カードだ――銀色の、金属製のカード。数は二枚。

 それを、バルゴラの側面に備えられたスリットに通す……あぁ、あのスリット、カードリーダーなのか。



《BLADE!》

《BUST!》




 読み込んだカードの内容だろう、バルゴラの声で、けどバルゴラのセリフとは思えない無感情な口調でコールされる――その声に伴って、バルゴラの前後にそれが作り出された。

 一方には巨大な刃、反対側には同じく巨大な刀の握り――それがバルゴラ本体をはさむように合体して、一振りの大剣を形作る。

 具体的にはバルゴラ本体が形作ってる『φ』の字、その上下の棒線が飛び出してる部分が各パーツの接合部分に差し込まれる感じ……あぁ、あの上下の棒はコネクタも兼ねてるんだ。







《COMBO――“ZANBER”!》







 ザンバー……斬馬刀ってワケね。改めてコールするバルゴラを軽く振るって、ジンはその切っ先をネガショッカーの怪人達に向ける。



「もう大賀で一暴れした後だけど……一応、ミッドチルダでは復帰第一戦になるんだ。
 せいぜいハデに暴れてやろうぜ、バルゴラ。いや――」











「バルゴラ・グローリー!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でぇりゃあぁぁぁぁぁっ!」







 気合と共に振り抜いたグラーフアイゼンが、グロンギのサイ野郎をブッ飛ばして、







「オォォォォォッ!」







 こっちも気合は十分。ビーストモードのメカライオンに変形トランスフォームしたビクトリーレオが、カニのイマジン――クラストイマジンの暴走したギガンデスハデスにかみついて、振り回し、何度も地面に叩きつける。



 ……うん。ギガンデスがいる。ちなみにあたしが暴走させた。ゴメンナサイ。



 そして――







ひほひひよりひはひみなみ!」

「ものをかじったまま――」

「人の名前呼ばないでほしいっスね!」







 そんな、ブン回されるギガンデスハデスにはゴッドオンしたみなみとひよりが追い討ち。蹴りと拳のサンドイッチに、ギガンデスハデスが苦悶の声を上げる。







「おぉ、あの二人もやるやないか!」

「当然、だっ!」

《なんたって、ボクらと一緒に“JS事件”を戦い抜いた仲間なんだからっ!》







 そんな対巨大目標戦を繰り広げてる三人の姿に感嘆の声を上げるのはキンタロス。対してロードナックル兄弟は仲間がほめられてうれしそう……まぁ、あたしも悪い気はしねぇけどさ。







「これは、ボクらも負けてられないね!
 サニー、ミシオねーちゃん! ゴエモンにーちゃん! 気合入れていくよ!」

「うんっ!」

「というか……」

「とっくに、気合はフル充填だっつーのっ!」

《ゴーゴーなのじゃーっ!》







 そしてこいつらも、今回はちゃんと働いてる……メープルが万蟲姫について変身した仮面ライダースティングを筆頭に、サニー、ミシオ、そしてゴエモン……蝿蜘苑ようちえんのイマジンズもネガショッカーを相手に大立ち回り。



 メープルのセリフじゃねぇが、あたしらだって負けてらんねぇ。いくぜっ!

 元々入ってた気合をさらに入れる。ネガショッカーの怪人どもに向かって突げk――











『ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?』











 ……あたしが突っ込む前に、前方で惨劇――やたらと派手な大規模爆撃がヤツらに向けて降り注いだんだ。

 エネルギーの雨が、“氷の砲弾が”、雨アラレと降り注いで、描かれるのは悲鳴が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図……さすがにこれは同情する。そのくらいの爆撃。

 こんな容赦のない爆撃、ぶちかますのはジュンイチくらいか……いや、アイツぁガキの頃にまで“戻され”ちまったままのはず。

 それにアイツの攻撃なら、氷じゃなくて炎での攻撃でくるだろう。炎そのものじゃなく熱エネルギー、つまり温度を操るアイツなら氷での攻撃もできないワケじゃないけれど、そんな手間をかけるくらいなら素直に炎をブッ放した方がはるかに楽で早い。



 つまり、こんなアイツらしいえげつない爆撃はアイツの手によるものじゃなくて……だけど、



「あぁ、そうか……
 アイツの知り合いの“お前ら”なら、あり得る話か……“朱に交われば赤くなる。柾木ジュンイチに交われば黒くなる”……だっけか」

「アイツと一緒にしないでくれるか?」

「ただ最大規模でぶちかましただけで、えらい言われようだな」



 そうあたしに答えて、舞い降りてきたのは……付き合いは浅いけど、知らない顔じゃなかった。

 ひとりは、“ジュンイチ達のそれとよく似た”半全身鎧セミ・アーマータイプのプロテクターに身を包んだ男……だよな? なんか女でも通用しそうな顔してっけど。



「ほっとけ! れっきとした男だよオレわっ!」



 禁句だったらしい。モノローグに対して半泣きで抗議された。

 で、もうひとりが……“あたしらが出会った頃のはやてのそっくりさん”

 あぁ、そうだな……お前らも来る気マンマンだったっけか。



「ユニクロンをブッ飛ばした時以来だな。
 相変わらずオイシイところで出てくるよな――崇徳、ディアーチェ」



 そう。この二人だ――ジュンイチの地元でのかつての仲間、“影”のブレイカー、橋本崇徳と“闇の書”の遺したマテリアルズのひとり、“闇統べる王”ことロード・ディアーチェ。



「ヤミと呼べ、ヤミとっ!」



 ……はいはい。

 そーいやコイツ、そう呼ばないと怒るんだっけか……いや、コイツだけじゃなくてマテリアルズ全員か。



 最初こいつらは、プログラム起動時のトラブルのせいで記憶をなくして、自分の称号と役目くらいしか覚えてない状態で活動を開始していたらしい。

 で、そこをジュンイチにボコられて、その時にそれぞれの称号にちなんで名づけられた名前が……コイツの場合、ヤミ。“闇統べる王”だから、ヤミ。

 で、その一件を通じてジュンイチに助けられて、最終的にアイツに懐いたコイツらはその名前をいたく気に入ったみたいで、本来の名前を思い出した今でもジュンイチのつけてくれた名前にこだわってる。今みたいに本名で呼ばれたらノータイムで文句を垂れるくらいに。



「はいはい、わかったよ、ヤミ。
 ちゃんとそう呼んでやるから……」

「ならばよい。
 そしてそこから先は『皆まで言うな』というヤツだ」



 小生意気にもあたしのセリフに被せてくると、ヤミのヤツは自分のデバイス、エルシニアクロイツをかまえる。

 つか……はやてと同じ顔でそんなデカイ態度取られると余計ムカつくな。これが終わったらどっちが目上かきっちり教えてやる。今代での稼動歴的にはアタシの方が先輩なんだぞ?



「フンッ、上等だ。
 では、そのためにも……」

「あぁ。さっさとコイツらには退場してもらおうじゃねぇか」



 ヤミと並び立って、あたしもグラーフアイゼンをかまえる……ビクトリーレオ達に戦わせてばっかりじゃ悪いし、そろそろ戦線復帰しないとな。



「おいおい、オレも忘れるなよ」



 で、橋本も自分の得物である大鎌をかまえる……悪い。ガチでお前のこと忘れてた。



ミッドこっちじゃどんだけ扱い軽いんだよ、オレ!?」



 そんなの、いつもこういう大一番でしか出てこないからだろ。青木ですら前々作(『とまコン』)で何度か顔出してるってのに。



「へぇへぇ、そうですね。
 どーせ“JS事件”の時も最後のユニクロン戦でしか戦ってませんよーだ」



 ……拗ねるなよ。



「ま、その辺はここでの活躍で挽回してやるからいいんだけどさ」



 是非そうしてくれ。その方があたしも楽になるし。



「そんじゃ、ヤミちゃん、やりますかっ!」

「ふんっ、やらいでか!」



 気を取り直して、改めて橋本とヤミの参戦表明――もちろん、あたしだって二人に任せてのんびりするつもりなんてない。



「あたしもいくぜ!
 “鉄槌の騎士”ヴィータと“鉄の伯爵”グラーフアイゼン! いっくぜぇぇぇぇぇっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いっ、けぇぇぇぇっ!」

《らけーてん、ばれっと!》







 あたしの掛け声と同時、ロンギヌスが十八番の発動――全身を一振りの突撃槍ランスと変えて、あたし達は目の前のギガンデスや魔化魍、巨大戦闘態持ちのオルフェノクがひしめく敵の真っ只中を駆け抜けていく。

 とはいえ、相手は巨大目標ばかり。あたし程度が全身でぶつかったって大したダメージにはなりゃしない――増してや通り抜けがけに引っかけた程度じゃなおさらだ。

 すぐに、敵は駆け抜けたあたし達に反撃しようとこっちへ振り向いて――悪いね、“それが狙いだよ”っ!







「ハウリング、パルサー!」

「レンジャー、ビッグバン!」

「スナイピング、ボルト!」







 ライナーズ古参三人娘の攻撃が降り注ぐ――あたしに向けて振り向いたせいでかがみ達に背を向けた形になった敵さん達は反応すら許されずに全弾きれいにくらってくれた。







「まだまだっ!」

「オォォォォォンッ!」







 さらにそこにシグナルランサーとヴェル改めワイルドファイアが突撃――華麗な槍裁きで立ち回るシグナルランサーとパワーに物を言わせて相手を吹っ飛ばすヴェル、二人してイイ感じに敵陣を引っ掻き回している。

 そんな中、敵集団から離れた個体を発見。たまらず距離を取りに来たか。

 けど――







「ジェットガンナー!」

〈了解〉







 通信越しの声があたしに答える――とっくに気づいてたか。

 同時、上空からの射撃が離れた個体、強力態のエレファントオルフェノクの足元を叩いて離脱の足を止める――上空でギガンデスヘブンやイッタンモメンとやり合っていたジェットガンナーのフォローだ。

 そして、足を止めたエレファントオルフェノクは背中からヴェルの体当たりを食らってブッ飛ばされる――あ、腰を押さえてのた打ち回ってる。腰骨でもずれたかな?



 ま、どうせブッ倒すヤツらだし、気にする必要もない。このまま蹴散らして――











「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」











 悲鳴が上がったのは、あたしが再度突撃をかけようとした、まさにその時だった。

 けど……その悲鳴はあたし達の誰が上げたものでもなかった。

 悲鳴の主は――敵側だ。たぶん……オルフェノクの誰か。

 というか……実際その悲鳴と共に一名、“あたし達の誰もいないはずのポイントで”豪快に宙を舞ってる。



 えっと……何? どしたの?

 確かめようと、サーチャーを飛ばして――なんか、今度は“青白い雷光がほとばしってる”んだけど。

 とにかく、サーチャーが現場の映像を拾ってきて――







〈オラオラ! どうしたどうした!
 次々かかって来いってんだ!〉

〈フフンッ、このボクに恐れをなしたかっ!
 ま、ボクが強いのはとーぜんだけどねっ!〉







 …………なんでアンタらがいるの。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――いたっ!」



 アリシアさんから指示を受けて、敵陣のド真ん中で大暴れしている“二人”との合流に動く――幸い、敵がみんな二人の参戦に気を取られていたおかげで、突破するのに大した苦労はいらなかった。

 とりあえず、必要はないと思ったけど……二人のうち一方に襲いかかろうとしていたギガンデスヘルの後頭部にライトショットのエネルギー弾を叩き込んでおく。



「お、かがみ、サンキュー! ナイスフォローだ!」

「フォローが必要だとは思えませんでしたけどね。
 あのままほっといても、しっかり気づいて対応できてたでしょ?――」











「青木さん」











「んー、かもしれないけどさ。
 それでも、楽させてくれたのは確かなワケだしな」



 そう答えて、豪快に笑うのは水隠……もとい、旧姓“青木”啓二さん……結婚して姓も変わってるんだけど、ブレイカーとして活動する際は旧姓の方で名乗ってるんだとか。



「あーっ! かがみ!
 久しぶりーっ! 元気してた?」



 で……こっちもこっちで相変わらずテンション高いわねー。



「あー、はいはい。元気元k」

「ホント大丈夫? また太ったりしてない?」

「やかましいわっ!」



 あー、もうっ! 相変わらず無駄に悪気なく心の傷をえぐってくれるわねっ!

 私がその辺気にしてることを知って以来、心配してくれてるのはわかるけど……いちいちストレートに聞いてくんじゃないわよっ! あと、質問の答えについてはノーコメントっ!



 ま、とにかく……



「誰から今回のことを聞いたのかは、とりあえず聞かないでおくわ。
 とりあえず……まぁ、来てくれて助かったわ、ライ」



 そう。もうひとりの参戦者、それは子供の頃のフェイトさんそっくりな、水色の髪の女の子……“雷刃の襲撃者”、レヴィ・ザ・スラッシャーことライ。



「ふふん、ボクが来たからには百人力だよっ!
 さー、どいつもこいつも、命が惜しかったらかかってこーいっ!」

「それ言うなら、『命が惜しくなかったら』じゃないか……?」



 私に答える形で、自信タップリに敵の怪物達へと宣戦布告するライに、青木さんが苦笑まじりにツッコんで……って!?



「青木さん!」

「後ろ後ろーっ!」



 ライと二人で声を上げる――青木さんの背後から、でっかい蟹の魔化魍まかもう、バケガニが迫ってきてたから。

 そのまま、バケガニが青木さんへと右手のハサミを振り下ろして――







「誰が、危ないって?」







 ウソ……生身のまま、“ただの打撃で”殴り飛ばした!?

 そう。攻撃が通ったのは、バケガニではなくて青木さんの方――バケガニのハサミをかわして、逆にカウンターのアッパーカット。しかも、その一撃でバケガニの巨体を豪快に宙に舞わせてみせたのだ。

 あのジュンイチさんですら、大技付きでないとブッ飛ばせそうにないくらいの重量差を、あんな簡単に……



「百獣憑依……灰色熊グリズリー、in右腕ライトアーム



 あ、能力発動済みでしたか。

 青木さんは動物にまつわる“獣”の属性を持つブレイカーで、その能力のひとつが“百獣憑依”――身体の任意の場所に、任意の動物の能力を反映させる能力。

 今のケースで言うと、グリズリーの豪腕を右手に宿した――もちろん、そうして生み出される剛力も、しっかりブレイカーの基本能力による身体能力強化で増幅される。

 そしてそのパワーをもって、思い切りバケガニをブッ飛ばしてくれたワケだ。

 さすが、ジュンイチさんの古株の仲間の中では接近戦最強とうたわれるだけのことはあるわね……



「よーし! ボクだって負けないぞぉーっ!」



 って、ライ!?



「ちょっ、待ちなさい、ライ!」



 私が止める声も届かない。青木さんの豪快な一発に触発されたのか、ライが上空から迫ってくるギガンデスヘブンに向かって飛んでいく。







「ぅりゃあぁぁぁぁぁっ!」







 そのまま手にしたバルディッシュのそっくりさんなデバイス、バルニフィカスが生み出す光刃で斬りかかって――











 ガキンッ。











「………………あり?」



 言わんこっちゃない……強化もしてない通常出力の魔力刃で、ギガンデスの生体装甲を抜けるワケないでしょ!

 しかも、ギガンデスヘブンだって斬りかかられて黙って帰すワケがない。咆哮と共にライから距離を取って、尻尾から撃ち出してくる無数の針型の弾丸で攻撃してくる!







「ひゃあぁぁぁぁぁっ!?」

「何しに出てきたのよ、あなたわぁーっ!」







 逃げ惑うライにプチ説教しながら、逃げてくる彼女とすれ違うようにギガンデスへブンの前に飛び出す。

 イグニッションしてる時間はない。代わりに距離を詰めて威力を補う!







「これでも、くらいなさいっ!」







 左のライトショットをギガンデスへブンの口(?)の中に突っ込んで零距離発射!

 さすがにこれにはたまらずギガンデスへブンの体勢が崩れて――







「フォースチップ、イグニッション!」







 今度こそイグニッション。体内に流れ込んでくるフォースチップのエネルギーを右のライトショットに集めて、











「ハウリング、パルサー!」











 必殺の砲撃で、ギガンデスへブンの身体を撃ち抜く!



「大丈夫、ライ?」

「ふ、ふんっ、だ! 別に助けてもらわなくても大丈夫だったんだからっ!」



 ウソつけ。



「これにこりて、ムリに一撃必殺を狙わないようにね。
 さぁ、気を取り直して、改めてアイツらを叩くわよっ!」

「うんっ!
 どいつもこいつもかかってこいっ! ボクらにかかれば一撃必殺だぁーっ!」



 ふ、不安だ……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」

「おぉぉぉぉぉっ!」







 二人で咆哮、同時に踏み込む――私のレヴァンティンが目の前の怪人を、スターセイバーのスターブレードが陸戦型のギガンデスを叩き斬る。







「秘儀――荒波崩しっ!」

「消えてろ、雑魚がっ!」







 シャープエッジとピータロスもがんばっている。それぞれの相手を一撃のもとに叩き伏せて――







「オラオラぁっ! かかってこいってヴァ!」

「みさちゃん、前に出すぎだよーっ!」







 …………誰かあの猪を止めてくれ。



 えぇいっ、日下部め! 何度「突出するな」と連れ戻してもすぐに飛び出していくっ!

 「不用意な突出は分断を招くからやめろ」と何度言っても聞きやしない。まったく、アイツは……っ!



「もういっそ、好きにやらせてみるのも手かもしれんぞ?
 あぁいう手合いは下手に動きを制限する方がかえって力を削いでしまうことが多い――実際、柾木や蒼凪、泉がそうだろう」

「まぁ、確かにそうだが……」



 スターセイバーは好意的に受け止めているが、彼女達のことを任されている身としては、始終ハラハラし通しで精神衛生上非常に良くないんだが。



「……もういっそ、何もかも放り出して私自身が前線に飛び込んで大暴れしてやりたいんだが」



 思わず、そんな偽らざる本音が口をついて出てきて――











 斬り裂かれた。







 そして、撃ち抜かれた。











 突如、私達の目の前で、戦場が――“飛来した巨大な光刃と砲撃によって”蹴散らされたのだ。

 まともにくらった者達はもちろん、引っかけられた程度の怪人達もその衝撃だけで成す術なく吹っ飛ばされている――って!?







「日下部!?」







 そうだ――戦場のド真ん中をあんな一撃が駆け抜けたら、突出していた日下部は――







〈シグナムさん、峰岸です!
 みさちゃんなら無事です、安心してください!〉

〈きゅぅ〜……〉







 一瞬背筋が凍りついた私だったが、幸いにも直後に入った峰岸からの通信が日下部の無事を報せてくれた。

 目を回している辺り、少なくとも巻き込まれはしたようだが――まったく、アレに巻き込まれてその程度で済んだとは、運のいいヤツだ。



 しかし、あの一撃は……



 とりあえず、心当たりはある。あるのだが……







「……スターセイバー」

「何だ?」

「よその支援に行ってきていいか?」

「ダメだ」







 むぅ……



「貴様がいなくなったら、いったい誰が止めるんだ?――“アイツら”を」



 告げるスターセイバーの視線の先を見て――そこに予想通りの“二人”の姿を発見する。

 すなわち――











「足りねぇなぁ……あぁ、ぜんっぜん足りねぇよ!
 もっとつえぇヤツぁいねぇのか!? かかってきやがれ、オラぁっ!」

「すみません。こんな一発程度で私の気が晴れると思われるのは心外です。
 まだまだ撃ちますので……あきらめてください」











「戦闘狂のブレードは言わずもがな……普段は一番静かなクセにキレるとあの三人マテリアルズの中で一番手がつけられなくなるセイカまでいるんだぞ。
 とりあえず……オレには止められん。シグナムがなんとかしてくれ」



 ブレードに加えて、“星光の殲滅者”、シュテル・ザ・デストラクターことセイカまでここに乱入してくるか……

 まったく……まったく……っ!







「どうして、私のところにばかりこうも……暴走特急ばかり集まってくるんだぁぁぁぁぁっ!?」











「……類が友を呼んだんだろ」











 スターセイバー……何か言ったか?



「いや、何も」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて……そんじゃ、こっちもそろそろ戦闘再開といこうか」



 どうやら、他の戦場にも、僕らの時間からの援軍が続々到着してるらしい――つか、僕らのところにも鷲悟さんやジンがきた……よし、終わったら今のジンの“お姫様抱っこ”をからからってやる。

 ともあれ、そんな状況を把握すべく、敵味方そろってちょっと日和見状態だった僕らだけど、ディケイドなジュンイチさんの提案でいい感じにお互いの空気が引き締まる。



「フンッ、余裕だな、ディケイド。
 オレ達に先手を許すと、後々苦労するんじゃないか?」



 そう、『お互いの』だ。向こうも戦闘態勢に突入――シャドームーンが真っ赤な愛刀、シャドーサーベルをかまえて軽口を返すけど、その態度からは油断がみじんも感じられない。

 むしろ警戒感バリバリで、本人が言うところの『(ディケイドの)余裕』を怪しんでるのは明らかだ。



「おやおや、ずいぶんと警戒してくれちゃって。
 天下のクライシス帝国の二枚看板が、えらく臆病風に吹かれてるじゃないのさ」

「挑発には乗らんぞ、ディケイド。
 貴様はカードを使用してその力を引き出し、戦うタイプのライダーだ――そのシステム上、行動を起こす際には“カードを使用する”という余分なアクションが追加され、どうしても初動に遅れが生じることになる。
 逆に言えば、相手に先手を許せば、カードを使う余裕もなくなり不利になる――つまり先手を取るのが戦略上必須事項と言える。そんなお前が悠長にかまえている時点で、ワナの可能性を疑うのは当然の発想だ」

「ふむふむ……理想的な回答だね。これがテストなら満点を上げたいところだよ」



 長ゼリフで解説してくれたジャーク将軍の言葉に、ジュンイチさんは大して動揺する様子もなくそう答えて――



「まぁ、タネをバラしちまうと、別にワナとかそんな大仰なものじゃないんだけどね。
 単に……“もうカードの用意ができてるだけで”」



 ――――――っ!?



 ジュンイチさんの言葉に、シャドームーン達だけじゃない、僕らですらもようやく気づいた。

 腰のベルトが、カードを読み込ませる前の展開状態だ――しかも、そのスリットにはすでにカードが一枚半差しの状態。

 今のやり取りの間に、僕らにも気取らせずに準備してた!? さすが、別の時間の存在だろうとジュンイチさんはジュンイチさん。手癖が悪いのも共通かいっ!



「それ、ほめ言葉と受け取っておくよっ!」

「ちぃっ!」



 僕ら同様に気づいたシャドームーン達が動く――けど、もう遅い。







《ATTACK-RIDE!
 “BLAST”!》








 ジュンイチさんがカードを完全に差し込んで、読み込ませる――同時に腰のバインダー状のツールが銃に変形、それを手にとって銃撃っ!







「その程度っ!」







 とはいえ、そこはさすがシャドームーン。襲いかかる銃撃をものともしないで、ジュンイチさんへと襲いかかる――けど、







《ATTACK-RIDE!
 “ILLUSION”!》








 対して、ジュンイチさんが再びカードを使用――瞬間、ディケイドが分身した。

 数は三――散開して、突然の分身に驚いて攻撃の鈍ったシャドームーンの剣をかわす。

 なるほど……『龍騎』に出てきたトリックベントと同じ、分身系のカードか。







「さぁて、これで三対三だ」

「っつーワケだから、ジャーク将軍もそっちのザコイマジンも、まとめてかかってきな!」

「ま、オレ達が怖いっつーなら無理強いはしないけどな」

「なめおって……っ!」

「誰が、貴様らなんぞ怖がるかっ!」







 分身も含めた三体それぞれに言うジュンイチさんに言い返して、ジャーク将軍やローズイマジンも参加。シャドームーンと一緒になってジュンイチさんを狙って――







「ほっ!」







 シャドームーンが狙ったひとり目はサイドステップでその剣をかわして、







「あらよっとっ!」







 ジャーク将軍の横薙ぎの斬撃を、二人目のジュンイチさんはリンボーダンスもかくやというぐらいにのけぞってマトリックス避け。そして――











『どっせぇいっ!』











 三人目のところへ結集。三人がかりでローズイマジンをブッ飛ばした。







「な…………っ!?」

「貴様、最初からローズイマジンを集中攻撃するつもりで……!?」

「だから何だってのさ?」







 カードの効果時間切れか、分身が消滅して、ジュンイチさんは元通りひとりに――でもって、うめくシャドームーンやジャーク将軍に対していけしゃーしゃーとそう答えた。







「オレは『三対三』とは言ったけど、『一対一×3』だなんて言った覚えはねぇんだけどな?
 つか、集中攻撃で速攻仕留めて、敵の数を減らす……なんて、集団戦におけるまっとうな選択肢のひとつだろうが」

「あぁ……そうだな……っ!」







 あっさりと言ってのけるジュンイチさんに答えたのはしっかり生きてたローズイマジン……まぁ、あの程度で仕留められる程度の相手なら、とうに僕らに殺られてるところだけど。







「だけどな……それはてめぇにも言えることだろうが!」







 で、ローズイマジンの反撃――なのはのディバインバスターでジュンイチさんを狙う。

 もちろん、ジュンイチさんもあっさり回避――けど、そこにはシャドームーンとジャーク将軍が待ちかまえていた。ジャーク将軍の剣はなんとかかわしたものの、シャドームーンのライダーキックもどきをくらってブッ飛ばされる。







「貴様お得意のおふざけ展開には持ち込ませんぞ。
 このまま一気に叩いてくれる!」

「……そーやって決着急ぐのも、オレとの戦いにおける死亡フラグのひとつなんだけどねー。忘れちまったのかい?」







 シャドームーンに答えて、ジュンイチさんが立ち上がる――その手には、一枚のカード。







「まぁ、せっかくだ。
 お前らにとっても馴染みの深い、コイツで相手をしてやるぜ!」







 言って、ジュンイチさんが腰のベルトにカードを読み込ませて――











《KAMEN-RIDE!
 “RX”!》












 瞬間――その姿が変わった。

 ディケイドとしてのライダーの姿から――







 仮面ライダーBlack、RXへと。







 ――って、えぇぇぇぇぇっ!?







「《RXになった!?》」

「なれますよー、RXにっ!」







 驚く僕やアルトに律儀に答えると、ジュンイチさんはさらに斬りかかってきたシャドームーンの攻撃をバック転の要領で回避。そのままバック転の繰り返しで距離を離して、











《ATTACK-RIDE!
 “RIDLON”!》












 再びカードを使う――あ、ベルトの部分だけはディケイドのベルトのままなんだ。まぁ、ベルトまで変身しちゃうとその間カード使えないし、当然と言えば当然なんだけど。

 とにかく、ジュンイチさんがカードを使うのと同時、それを合図にしたかのように地面が揺れた。

 そして、何事かと確認する間もなく地面を砕いて現れたのは、真っ赤な、独特のデザインの車。

 ライダー史上全体から見ても極めてレアな四輪車装備――RXの専用車、ライドロン。つか、あのカードはライダーマシンも呼べるんかいっ!







「そーゆーことっ!
 いけぇっ、ライドロン!」







 ジュンイチさんの言葉に答えて、ライドロンがジュンイチさんを乗せることなく走り出す――あぁ、そういえば原作でも自立行動可能だったっけか。

 そのまま、ライドロンはシャドームーンやジャーク将軍、ローズイマジンへと突っ込んでいって――







「やったれ、ライドロンっ!
 本家RXも重宝した、必殺の……」











き逃げアターック!」











 いた。

 シャドームーンとジャーク将軍が回避して、ひとり残されたローズイマジンを――真っ向から。

 宙を舞ったローズイマジンが頭から“車田落ち”して――







「……うし、命中」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!」







 グッ、と拳を握りしめるジュンイチさんに、ローズイマジンががばっ!と身を起こして抗議の声を上げた。







「『き逃げアタック』って、仮にも正義の仮面ライダーがき逃げとかしていいと思ってんのか!?」

「何言ってんだ!
 ライドロンは戦闘用車両だぞ! 攻撃手段として体当たりかまして何が悪いっ!」

「だとしてもその技名はいろいろとアウトだろうがぁぁぁぁぁっ!」







 なんか論点がズレてるような気がするけど――そこはいい。ちょうどいいので、僕としてもふと気になった、割とどーでもいいことを質問してみる。







「あのー……」

「ん、何?」

「別にそのネーミングにどうこう言うつもりはないですけど……その手の体当たり攻撃って、みんなバイク系マシンでも普通にやってますよね?」

「チッチッチッ、甘いなー、恭文きゅん」







 右の人差し指を左右に振りながら、ジュンイチさんが答える……『きゅん』とか言うな。







「バイクでやったって、ただひっかけてるだけじゃんか。
 き逃げってのはな……四輪で殺ってこそ意義があるっ!」

「いや、なくていいんだよ、そんな意義」







 拳を握りしめて力説するジュンイチさんに、となりのマスターコンボイが冷静にツッコんだ――まぁ、良い子のみんなが将来マネしても困るしね。







「ま、それはともかく……お次はコイツだ!」







《ATTACK-RIDE!》







 ともあれ、これ以上き逃げアタックの話題を引きずるつもりはないらしい。言って、ジュンイチさんがまたもやカードをセットして、











《“RIVOLKAIN”!》











 読み込ませる――と、腰のベルトのバックルに剣の柄が“生えた”。それを引き抜くと、RXの必殺武器、剣状のスティック、リボルケインになる。

 ブォンッ、と音を立て、リボルケインの打突部が光に包まれ、光の剣と化す――さらに、さっき銃に変形していたブック型ツールが今度は剣に変形。リボルケインとの二刀流でローズイマジンに突撃。僕らの知る“こっち”のジュンイチさんに優るとも劣らない剣さばきで圧倒する。

 二刀流で立て続けに攻められたらいくら反応速度が速かろうと関係ない。僕らの攻撃には余裕で対応していたローズイマジンも、さすがにこれには防戦一方……







「――ぐおっ!?」







 ……訂正。防ぎきれなかった。怒涛の連続攻撃でガードを破られて一撃を許して、そこから一気に斬撃の嵐を叩き込まれる。







「ローズイマジン!」

「ちぃっ!」







 もちろん、シャドームーンやジャーク将軍だって黙ってない。ローズイマジンを援護しようとジュンイチさんに向かっていくけど、いち早く気づいていたジュンイチさんはムリに相手することなく後退。カードの効果切れなのか、その姿がRXから元のディケイドに戻る。







「フンッ、RXの物まねはおしまいか?」

「んー、別に、もっかいやってあげてもいいんだけどね」







 ……って、あの、ジュンイチさん……?

 シャドームーンに答えながらこっち見て……僕らが、何か……?







「いや、何……
 せっかくだし、お前らの知らないライダー達のお披露目でもしてやろうかと思ってね♪」







 言って、ジュンイチさんが新たにカードを取り出して、腰のベルトに装填。







「いくぜ! スーパーライダータイムだ!
 変身!」











《KAMEN-RIDE!
 “DOUBLE”!》












《“CYCLONE”! “JOKER”!》







 その瞬間、ジュンイチさんの姿が変わる――僕らの、見たこともない仮面ライダーへと。

 その印象を一言で言うなら――“半分こ”。

 正中線をぶった斬るように走るラインを境目に、左半身が黒、右半身が緑一色に染め抜かれている。

 最低限の装飾部分を除く、左右の半身のほぼ全体が単一色。もうこれでもかってぐらいに左右それぞれの色を強調したデザイン。まさしく……“Double”。







「仮面ライダー……ダブル。
 さぁ、お前の罪を数えろ」

「あぁ、数えてやろうじゃないか。
 ただし……貴様を倒した後でな!」







 左手で相手を指さして、決めゼリフ……そんなジュンイチさんに答えて、シャドームーンがサタンサーベルをかまえて襲いかかる。

 素早い突撃からの怒涛の斬撃の嵐――だけど、ジュンイチさんには当たらない。自分に迫る斬撃、その内フェイントを正確に見切って無視。残る直撃コースだけを的確にさばいていく……この人、16歳時点でもすでにここまでできたんかい。







「せいっ!」







 あ、カウンター入った。身をひるがえして斬撃をかわしながら、そのままの流れで裏拳。シャドームーンのこめかみを痛打する。

 たたらを踏んでよろめくシャドームーンに対して、ジュンイチさんはさらにカードをセット。







《FORM-RIDE!
 “DOUBLE”――“HEAT”“METAL”!》

《“HEAT”! “METAL”!》








 ベルトからの発声と共に、ジュンイチさんの変身したライダー、ダブルの色が変わる――黒かった左半身が銀色に、緑色だった右半身が赤色に……フォームチェンジだ。

 変わったのは色だけじゃない。背中にバトンくらいの長さの金属棒が現れてる――それを手に取ると、両端が伸びて一振りのロッドになる。







「そらよっ! 劇場版第一弾の再現だっ!」







 そして、ロッドを思いっきり一閃。まともにくらったシャドームーンが吹っ飛ばされて、その先の廃ビルに豪快に叩き込まれる!







「シャドームーン!
 おのれぇっ!」







 今度はジャーク将軍だ。斬りかかってきたその攻撃を、ジュンイチさんはロッドを使った棒高跳びの要領でかわして、







「次々いくぜっ!」











《KAMEN-RIDE!
 “OOO”!》












《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ・タ・ト・バ!》







 再び、ジュンイチさんがカードの力で姿を変える――って、また容姿の説明しづらい姿になったね。

 真っ先に印象に残るのが配色――左右が両極端なくらい単一色に塗られていたダブルと違って、ベルトが“オーズ”とコールしたそれは上下三段にプロテクターの配色が分かれてる。

 腰から下は緑。胸と、それから両腕は黄色。そして頭部、鳥の翼を思わせる仮面の装飾は赤色。

 胸にはトラの顔がデカデカと描かれて……あ、上下にも別のがある。さっきのベルトのコール音声を信じるなら……たぶん、赤いきつね緑のはやてたぬき……もとい、赤いタカと緑のバッタ。







「てめぇの相手は、仮面ライダーオーズでしてやらぁっ!」







 そして――両足が変化した。ヒザから下がまるでバッタの後ろ足のように変化すると、軽快にジャンプ。まるでトランポリンの上で飛び跳ねているみたいな動きで斬りかかってくるジャーク将軍の周りを飛び回って、翻弄する。

 その流れで後ろに回り込むと、両足を元の人間仕様に戻して着地。気づいて、振り向こうとするジャーク将軍に向けて両手で一撃!

 火花を散らしてジャーク将軍が吹っ飛ばされて――あ、いつの間にかジュンイチさんの両腕に鉤爪が装備されてる。今の一撃の火花の原因はアレか。

 地面を転がるジャーク将軍に向けて、ジュンイチさんが追い討ち狙いで駆け出して――







「調子に乗るなっ!」







 ――っ! ローズイマジン!

 フェイトのソニックムーブで回り込んで、エネルギーの塊で再現されたザンバーで一閃――だけど、







「そりゃ、乗るに決まってるでしょ」







 残念。ジュンイチさんはすでにアイツの頭上――さっきも見せたバッタの足による大ジャンプで、ローズイマジンの攻撃をかわしていたんだ。







「こうも簡単に、お前らをコケにできちゃうとさっ!」







 そのまま、ローズイマジンから距離を取って着地……って、あれ、何か持ってる……?

 いつの間にか手に持っていたそれを、ジュンイチさんは軽く指で弾いて、跳ね上がったそれを改めてキャッチ……コイン……いや、メダル……?







「もののついでだ。
 調子に乗るついで、メダル使いのオーズに変身したついでに……てめぇにゃこいつをくれてやるっ!」

「ざけんなっ!」







 ジュンイチさんに言い返して、ローズイマジンが目の前に桃色の魔力スフィアを生み出す――ディバインバスター!

 けど、対するジュンイチさんも落ち着いた様子でカードをベルトに読み込ませて……







《ASSIST-RIDE!
 “RALEGUN ”!》








 ……あの、ちょっと待って。

 今、『レールガン』って言わなかった?

 そんでもって、なんかジュンイチさんの……ディケイドの身体がバリバリと電気を帯びてきてるような……

 レールガン。電気。そして……手にしたメダル。

 まさか……まさかっ!?







「くたばれぇっ!」







 そんなジュンイチさんに向けて、ローズイマジンがディバインバスターをブッ放す――対するジュンイチさんは、冷静に目の前にメダルをかざした。

 指で弾いたメダルが真上に跳ね上がり、落ちてきて――







「てめぇがな」







 撃ち出された。

 メダルが跳ね上がり、落ちてくるまでの間に、ジュンイチさんの身体に帯びた電気の規模が一気にふくれ上がった。それがメダルを弾いた右手の先端に集まって、落ちてきたメダルを一直線に、真っ正面に弾き飛ばしたんだ。

 というか……まんま『とある』の超電磁砲レールガンじゃんっ! ライダー以外の技もOKとか、どんだけデタラメなのさ、ディケイドってのは!

 強烈に磁化され、衝撃波を巻き起こすほどの速度で弾き飛ばされたメダルはまるで砲弾……いや、弾丸か。とにかく、圧倒的な魔力量に物を言わせて押し流す、単なる魔力の渦にすぎないディバインバスターでどうにかできるシロモノじゃない。真っ正面からぶつかり合うと、一瞬にして吹き飛ばして、ローズイマジンを直撃、ブッ飛ばす!

 まともにくらって吹っ飛んだローズイマジンが、放物線を描いて地面に突っ込む……さすがにアレは効いたかな?







「いや……ダメだな」







 けど、僕の予感は他ならぬジュンイチさんが否定した――そして、その言葉を裏づけるように、ローズイマジンはすぐにまた立ち上がってくる。

 つか、アレをくらって立つとか、どういう…………あ、なるほど。

 ディバインバスターを相殺した時に、威力の大半が削られたんだ。たかが魔力の渦。されど魔力の渦……ってところか。







「そうそう、そうこなくっちゃね。
 まだまだ手持ちが残ってんのに、こんなに早く脱落されたんじゃ、こっちも不完全燃焼だっつーの」







 とはいえ、ジュンイチさんだって負けてない。言いながら、またまた新しいカードを取り出した。親指と中指でつまんだそれの縁を、間の人さし指でトントンと叩いてみせる。











《KAMEN-RIDE!
 “FORZE”!》












 そしてまたまたジュンイチさんが、ディケイドが姿を変える――今度は全身真っ白で、少しブカブカ……いや、宇宙服っぽい感じのスーツの、正面から見ると三角形っぽい見た目のマスクの仮面ライダーになる。







「宇宙、キタ――――ッ!」







 力を貯めるように身を縮めて、そしてそれを解放するように全身で大きく伸び。なんかノリの軽い決めゼリフだなぁ……って!?

 白くて、三角形のマスク……まさか前に報告にあった、“おにぎり頭の仮面ライダー”!? あれもジュンイチさんだったワケ!?







「そういうこと!
 仮面ライダーフォーゼ! タイマン張らせてもらうぜ!」

《ATTACK-RIDE!
 “ROCKET”!》

《ロケット・ON!》








 驚く僕らは完全に置いてきぼりで、またまたカードを――これだけコールを聞いていれば種類はわかる。アタックライド……攻撃用のカードだ。

 そのコールを受けて、真っ白なライダー、フォーゼ……でいいのかな? それに変身したジュンイチさんの腕になんかミサイルっぽいものが……いや、コールの通りならロケットか。オレンジ色のそれが装着される。







「ライダーロケットパァーンチっ!」







 ロケットの噴射、そして背中のバックパックっぽいものからの噴射でフォーゼが飛ぶ。ロケットの推進をそのままパンチの勢いに転化して、ローズイマジンに思い切り一撃を叩き込む!







《ATTACK-RIDE!
 “MAGIC HAND”!》

《マジックハンド・ON!》








 そしてまた別のアタックライド――今度は右腕に工場で見かけるロボットアームのようなものが装着された。それでローズイマジンをつかまえて、持ち上げて――







「ライダースイングバァーイ(攻撃)っ!」







 投げ飛ばした。

 ジャイアントスイングのようにグルグル大回転した上での投げ飛ばしでローズイマジンが吹っ飛ぶ様はまさにスイングバイ……『(攻撃)』って何だ。

 ぼてっ、と投げ飛ばされたローズイマジンがシャドームーンやジャーク将軍の目の前に落下。対するジュンイチさんはフォーゼへの変身が解けて、元のディケイドの姿に戻る。







「んじゃ、そろそろライダーオンパレードも締めといこうか!
 トリは魔法の世界に相応しく、こいつだっ!」











《KAMEN-RIDE!
 “WIZARD”!》












 そして、カードを使って、宣言通りならひとまず締めの変身。コートを着込んだようなスーツの、まるで宝石のようなデザインのマスクの仮面ライダーへと変身する。

 ウィザード……直訳すると「魔法使い(男性)」か。なるほど、魔法の世界ミッドチルダにはお似合いのライダーだわ。







《ATTACK-RIDE!
 “COPY”!》

《“コピー”、プリーズ!》








 そして、今までの流れと同じようにアタックライドを使って……ウソ、増えた!?

 まるでその姿が写し取られたみたいに、もうひとりジュンイチさんが出現。しかも――







《《ATTACK-RIDE!
 “COPY”!》》

《《“コピー”、プリーズ!》》








 その二人のジュンイチさんが、まったく同じ動作で同じカードを使用。それぞれがまた同じように分身する。

 まさか、アレ……まったく同じ動きをする分身を、倍々ゲームで増やしていけるの!?







「そしてフィニッシュは出欠……じゃない、出血特別大サービスだ!」

《FINAL-ATTACK-RIDE!》











《“SO《“SO《“SO《“SON-GOKU”!》











 ………………ちょっと待て。

 今、ものすごいコールを聞いた気がする……うん。さっきのレールガンのインパクトが吹っ飛ぶくらいの。

 『SON-GOKU』? それって……つか、それで“ファイナル”アタックライドって……まさかっ!?







「いくぜ。
 世の男の子達が憧れてやまない、夢の必殺技っ!」







 言って、四人のジュンイチさんがシャドームーン達に向けてかまえた。目の前で両手を、てのひらを連中の方に見せるようにして、手首の内側をぶつけ合わせるように、力強く……やっぱり“アレ”ですかいっ!







「か……」







 ジュンイチさんの声が、なんかエコーがかかって聞こえる――四人のジュンイチさんが同時にしゃべってるから、じゃない。声そのものにエコーがかかってる感じだ。







「め……」







 かまえた両手を腰だめに引く。両足を前後に大きく開いていることもあって、右半身を完全に後ろに引いた形だ。







「は……」







 両手の、てのひらの間に光が生まれる……魔力じゃない。ジュンイチさんの精霊力でもない。







「め……」







 前に修行で発現させたことがあるからわかる。あれは100%“気”オンリーのエネルギーだ。四人のジュンイチさん、それぞれの手の中で増幅されて、強い輝きを放って――











「波ァ――――――ッ!」











 解き放たれた。四つの青白い閃光がひとつにまとまって、シャドームーン達を直撃、押し流す!

 強烈な破壊の渦が廃棄都市を駆け抜け、そして……







「…………ま、オレの“気”のキャパシティじゃ、この程度の威力が限界なんだけどね」







 分身を解除、元のひとりに戻って……ついでにウィザードからディケイドにも戻ったジュンイチさんが言う……んだけど。

 あの、ジュンイチさん。それ……











 ×4とはいえ、ビル街薙ぎ倒して言うセリフじゃないと思います。









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あきゅろす。
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