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頂き物の小説
第28話「オレはオレだ!」:02



 …………っ、く……っ!

 震えるヒザに喝を入れて、立ち上がる……立ち上がって、今まさに戦っている相手をにらみつける。

 そう……ン・ガミオ・ゼダと、瘴魔獣将・“オオカミウオウルフフィッシュ”のファングの二人を。



「へっ、手こずらせやがって……」

「よくがんばったが……ここまでだ」

「まだ……だ……っ!」



 もう向こうは完全に勝ち戦ムードだ……まぁ、それだけあたしが一方的にやられてるからなんだけど。

 けど、アイツらがそうやってうぬぼれたくなるのもわかるくらい、実際アイツらは強かった。

 二人がかりとはいえ、完全にあたしが負けてる……お兄ちゃんから複数の相手と戦う時のノウハウだってきっちり教わってたのに、そういう工夫を全部力押しでぶち破られた。

 つまり……あたしの工夫を全部ムリヤリひっくり返せるぐらいの力の差があるってことだ。



 ………………だからって、負けるつもりなんかさらさらないけど。

 この程度のピンチなんて、なんでもない……何しろ、今の状況なんかとは比べ物にならないくらいに絶望的なところまで追い込まれたことだってあるんだから。



 あの“JS事件”の、地上本部攻防戦の時――同時に襲われた六課隊舎を守るために戻ったあたし達は、スカリエッティ達の最強トランステクター、マグマトロンへとゴッドオンしたディードにさんざんに打ちのめされた。

 マスターコンボイさんは機能停止、あたしも両足をマッハキャリバーごと踏みつぶされて、根性なんかじゃどうしようもない、物理的な意味での戦闘不能にまで追い込まれた。



 あの時に比べたら……この程度のピンチはかわいいものだ。

 だから……



「この程度で、あたしが降参するなんて思わないでよ……っ!
 そっちだって、あたしを仕留めきれてないの、忘れないでよ……っ!」

「あん……?」



 あたしの言葉に、ファングはキョトンとして……







「あははははっ!」







 いきなり大爆笑。何がそんなにおかしいの……?



「いやいや、まさかお前が“そう”思ってるなんて思わなくてな。
 悪いな……今まで“手抜きしちまってた”せいで、余計な希望を持たせちまったみたいだ」

「え………………?」



 『手抜き』……? 今、ファングは……『手抜き』って言った?

 まさか……今の今まで、本気で戦ってなかったの……?



「いや、オレ達は本気だったんだけどよ……」











「“オレ達は”」











 ――――――っ!



 ファングの言葉と同時――現れた。

 姿は見えない。けど――周囲に散らばって、こっちを完全に包囲している気配の群れ。これって……



「ガミオの旦那は狼のグロンギだ。
 そしてオレも、名前だけとはいえ一応“オオカミ”を冠してる」



 そう、ファングが改めて告げて――



「狼ってのは……」











「群れで借りをする生き物だろう?」











 ウルフオルフェノク、ウルフアンデッド、ウルフイマジン……狼系の怪人達が、一斉にその姿を現した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 くっ…………ぁあっ!



 かわしきれなかった。ローズイマジンの砲撃を、とっさのシールドで受け止める――けど、そのまま押し流されて、地面に叩き込まれる。

 マスターコンボイも苦戦中。まるで嵐のように立て続けに斬撃を繰り出すけど、ジャーク将軍には片っ端からかわされ、しのがれ……あ、カウンターもらった。

 ジャーク将軍から一撃をもらって、マスターコンボイが僕のところまで転がってくる。そして――







《マスター、きます!》







 ――――――っ!



 アルトの言葉にシールド展開。僕らを狙ったシャドームーンの雷撃を防ぐ。

 つか……くそっ、また押し返されたか……



 さっきから似たような流れの繰り返しだ。何度も積極的に攻めに転じてるのに、その都度押し返されてる。

 ローズイマジンだけでも厄介なのに、その上シャドームーン達にまで参戦されて、完全に流れを持ってかれてる。クライシス帝国の二枚看板は伊達じゃないってことか……







「オレ達を前に考え事たぁ……」







 ――――――っ! 上っ!







「余裕だなっ!」







 シールドを消して、アルトを一閃。頭上から飛び込んできたローズイマジンのザンバーを受け止め――否、打ち返す。







《Struggle Bind.》







 そこから素早くバインド。間髪入れないこっちの反撃に驚いたシャドームーンやジャーク将軍も一瞬動きを止めて――バインドに捕まったローズイマジンを連中のところまで蹴り飛ばす。







《Bind Cage.》







 さらにマスターコンボイによるダメ押しバインド。バインドの鎖がローズイマジンだけじゃない、シャドームーンやジャーク将軍も含めた三人の周囲を駆け巡り、檻となって閉じ込める。

 そして――







《Energy Vortex.》

《Icicle Cannon.》








 合流したマスターコンボイと二人で、同時砲撃っ!

 防御魔法を使えるローズイマジンは僕のバインドで拘束済み。直撃は避けられなかったはず……







《マスターっ!》







 アルトがそう言った瞬間、背筋を走ったのは凍りつくような寒気。それと同時に、後ろに殺気。

 振り返ると、振り上げるように下から迫る金色の刃が視界に入った。そして……右の脇腹から左上へと斬り上げられて、吹き飛ばされた。







「恭文!?」







 マスターコンボイの悲鳴が聞こえて――衝撃。地面に落下、叩きつけられたんだと数瞬の間をおいて理解する。







「ぐわっ!?」







 あ、マスターコンボイもだ――ジャーク将軍にブッ飛ばされて、僕のすぐそばに落下、地面に叩きつけられる。

 つか、僕に一撃入れた金色の刃……考えるまでもなくザンバー、ローズイマジンの仕業だ。多重バインドをかまされたあの状況で僕らのダブル砲撃を耐えるとか、どんだけデタラメなのさ……!?







「安心しろ。無事じゃないからよぉ。
 お前らの砲撃がお前らのバインドをぶち砕いた瞬間、“攻撃をくらいながら”離脱したってだけさ」







 ……ご説明、どーも。

 けど……マヂめにヤバイ。あの連携でも仕留めきれないとか……







「フンッ、万策尽きたか?」

「尽きてなくてもそろそろ終わらせようぜ、めんどくせぇ」

「奇遇だね。
 僕も似たようなこと考えてたよ」







 シャドームーンの問いかけに乗っかってきたローズイマジンに答えて、立ち上がる。

 少なくとも、絶望的な差じゃない。ひっくり返せる自信はある……だけど、それは“今この時の時点では”という条件付きだ。

 逆転する自信があると言っても、基本戦力において向こうが上という事実は変わらない。時間をかければ、先にボロが出るのは間違いなくこっちだ。

 そうなる前に、一気に決めなくちゃ……短期決戦というのは望むところだ。

 立ち上がって、アルトをかまえる――マスターコンボイもだ。



 向こうもかまえて、にらみ合うこと数秒――







「…………フンッ」







 ……って、あれ? ジャーク将軍……いきなりかまえを解いて……



「読めているぞ、お前らの考え。
 これ以上消耗する前に、一気に逆転決着を狙うつもりだろう?」



 ………………っ!



「読まれたのが意外か?
 だがな、お前達はここでオレ達に勝利したとしても、その後ネガタロス様との戦いも控えている。そのくらいは我々にもわかる――ここで消耗するワケにはいかないのは戦略的にも道理。読めないはずがないだろう」



 動揺が顔に出たらしい。僕に対して、ジャーク将軍は余裕綽々といった感じで答える。

 そして……



「だから……こちらとしては、それに“付き合わない”のが戦略的に正解だ」



 その言葉と同時に……出てきた。



 ジャーク将軍達の古巣、クライシス帝国の戦闘員達がわらわらと出てきて、僕らを包囲する。

 さらにモールイマジンやサナギワームも混じって……あ、サイコローグ見っけ。



「ちょっ、やっちゃん!?
 なんかいろいろ出てきたんやけど!?」

「何よ、こいつら!?」



 いぶきやなずなの方にも出たらしい――ザコどもの人垣に隠れて見えないけど。

 そんな大量のザコ達をいきなり投入してきた、その狙いは明白だ。



「貴様……っ!」

「そいつらの相手でもしているがいい。弱ったところを相手してやる」



 すなわち、こっちに対しての消耗戦――気づいたマスターコンボイにジャーク将軍が答える。

 僕も文句を言ってやりたいけど――それは中断。

 理由は簡単。ジャーク将軍の言葉と同時に、ザコ軍団が一斉に襲いかかってきたからっ!







「あー、もうっ、またヤな手に出てくれたもんだねっ!」







 とはいえ、完全に包囲された状況じゃ先にコイツらをブッ飛ばすしかない。アルトをかまえて迎え討――





















「……それをさらに読まれているとは、考えないのかね?」





















 その言葉と同時――“炎の嵐が巻き起こった”。



 僕らの周囲で燃え上がり、僕らを包み込むように渦を巻いたそれはザコ軍団の初撃を防ぐどころか焼き尽くした。直後、外側に向けて弾けて、連中を一気に吹き飛ばす!



 …………って、ちょっと待って。

 今聞こえた声、すごく聞き覚えがあるんですけど。

 それに、炎の制御。このコントロールの細かさは……











「いやー、やっぱ“滅び”に瀕してない世界はいいもんだね。
 おかげでオレの“炎”も絶好調♪」











 ………………っ!

 また、この声……







「久々だな、シャドームーン……いや、人間態の月影って呼ぼうか?
 ジャーク将軍も相変わらずいい感じに卑怯だね。変わってなくて安心したよ」







 言いながら、悠々と僕らの間に割って入ってくるその声の主は――







「しっかし、こっちもこっちで、さすがはこの時間のオレが友達と見込んだ子だ。
 シャドームーン達を相手に、ずいぶんとハデにやってるじゃないのさ」







「ジュンイチ……さん……!?」







 そう。

 現れたのは、本来ならここにいるはずのない――ジュンイチさんだった。



 元に、戻っ……いや、違う。

 戻ったにしては、“戻り具合が半端だ”……目の前のジュンイチさんは僕らの知ってる“26歳のジュンイチさん”よりも明らかに年下……スバル達と同じぐらい、15、6歳くらいに見える。



 そして、今の発言……



《マスター。
 今……“あのジュンイチさん”、何て言いました?
 ちょっと、疑問の答えになりそうで、それでいてにわかには受け入れがたい事実が告げられたような気がするんですけど》

「うん…………」



 アルトも聞き逃してなかったか。

 そう……“あのジュンイチさん”は確かに言っていた。







 『さすがは“この時間のオレ”が〜……』って。







 つまり……“あのジュンイチさん”は……



「別の時間軸の、ジュンイチさん!?」

「大正解♪」



 あっさりと答えて、こちらに向けて振り向いてくる――その笑顔は、少し若いけど確かに僕らの知っているジュンイチさんそのものだった。



「にしても、本当に大したもんだわ、お前ら。
 あのジャーク将軍と月影を相手に、オマケまでいる状態でここまで戦えるなんて、すげぇことだぞ」

《月影……あのシャドームーンのことですか?》

「あぁ。
 アイツは、かつてRXと戦ったシャドームーンじゃない。
 かつての大ショッカー、そこの幹部だった月影の変身した別個体、二代目シャドームーン……強さも悪知恵も、ついでに悪党っぷりも初代とは段違いの相手さ」

「まぢですか……」



 僕らの知ってるシャドームーンよりもさらに強いって……そんな化け物と僕らは今の今までドンパチやってたのか。

 つか、これを部下にするネガタロスって……いや、今はいい。



「……久しぶりだな」



 と、そんな僕らのやり取りに割って入ってくるのはシャドームーンだ。僕ら……というよりジュンイチさんを見て、



「こっちに来ているのは電王だけかと思っていたが……まさか、貴様まで来ているとは思わなかったぞ」

「まぁね。
 お前らがおとなしくこいつらにブッ飛ばされてくれていれば……というか、そもそもネガタロスのところで復活しないでくれていれば、こんなことしなくてもよかったんだけど」



 詳しく知っていただけあって、やっぱり既知の間柄だったらしい。ジュンイチさんもあっさりとそう返す。



「貴様がいるということは……仲間達も一緒か」

「まぁね。
 今頃はそれぞれに参戦してることだろうさ」



 ……“仲間”……?



「いやー、苦労したぜ。アイツらを“本人同士でかち合わないように”配置するのはよォ。
 リアルタイムで“こっちのアイツら”の居場所をサーチして、アイツらに指示出して……
 けど、そのおかげで……」











「“降魔点”の方は、なんとかなりそうだ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………っ、く……っ!」







 一斉に襲いかかってきたコウモリ達をかわして、反撃――散開してかわされるけど、誘導弾だ。追尾して何匹か撃ち落とす。

 そのまま連射。コウモリ達を操っているバットファンガイアを狙うけど、さすがに高望みだったか、あたしの魔力弾はひとつ残らず叩き壊された。







「っらぁっ!」







 ――バラクーダっ!

 頭上から飛び込んできたバラクーダの斬撃を、バックステップでかわす――同時、脇腹に鋭い痛み。

 バラクーダの一撃で砕けたガレキ、その中に紛れていたガラスの破片が掠めたらしい……って、ちょっとヤバイかも。

 単なるガラス片でコレって……バリアジャケットの、防御に回せる魔力がほとんどなくなってるってことじゃない。

 それはつまり、ガス欠が近いってこと……向こうの攻撃はしのがなきゃならないわ、あのコウモリどもの対処のせいでムダ撃ちさせられてるわ、だもの。そりゃ消耗も早いか。



 こりゃ、これ以上時間かけられないわね……かと言って力押しで倒せる相手でもない。どうする……?







「どうしたよ、嬢ちゃん?
 口数が少なくなったな……いよいよあきらめたか!?」

「誰がっ!」







 言うと同時、突っ込んでくるバラクーダに言い返す――って、コウモリに退路を断たれた!? ここはしっかり防ぐっ!

 クロスミラージュをダガーモードに切り替えて、バラクーダの斬撃を弾き、受け流す。

 そのまま、アイツのこめかみに向けて一撃――







「おぉぉぉぉぉっ!」







 ――って、バッドファンガイアも来てた!? つか、バラクーダの攻撃はオトリ!?

 今の今までバラクーダを狙っていたあたしには対応できない。自分に迫るバッドファンガイアの拳を、ただ見ていることしかできなくて――





















「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぐはぁっ!?」





















 吹っ飛んだ。

 ただし……“あたしが”じゃない。“バットファンガイアが”だ。







「何だ――ぐえっ!?」







 次いで、振り向いたバラクーダの頭が打ち上がる――位置関係的に、たぶんアゴにヒザ蹴り、でしょうね。

 そんな、一撃もらってひるんでるバラクーダを改めて蹴り飛ばして、あたしの窮地を救ってくれたのは――







「大丈夫、ティア!?」

「スバル!?」







 そう、スバルだ――別の“降魔点”に向かったはずのスバルがそこにいた。

 自分の担当を片づけて駆けつけてきたにしては早すぎる――まさか、放り出してきた!?



「アンタ、自分の持ち場はどうしたのよ!?」

「だいじょーぶっ!
 そっちは、“こっちの時間のあたし”がちゃんとやってるはずだからっ!」



 ……って、“こっちの時間の”……?

 それって、まさか……



「まぁ、その辺の説明は後。
 今はコイツを倒さないと」

「…………そうね」



 そうだ。今は目の前の相手に集中しないと……スバルの言葉に同意して、バラクーダとバッドファンガイアをにらみつける。



「……っていうか、そんな大口叩くくらいだし、打つ手のひとつくらいあるんでしょうね?」

「通用するかは、わかんないけど」

「あるならいいわ。無策で出てこられるよりずっといい」

「さすがティア。話がわかるね。
 それじゃあ……」



 言って、スバルは“それ”を腰に巻いた。

 ベルトだ。ただ、バックル部分は不自然に一部分だけが突出したような作りになってる。

 まるで、“バックルの一部分のパーツが欠落しているみたいな”……



「……いくよっ!」



 スバルが次に取り出したのはナックル状の何かのツールだ。たとえるなら、“メーター部分の欠落した握力計”か、“殴る部分が異様に分厚いメリケンサック”か……そんな感じの、ベルトのそれに通じるようなデザインの装飾が施されたもの。

 ……まさか、それをベルトに!?



《レ・ディ・ー》



 あたしの疑問に答えることなく、スバルがそのツールの、ナックル部分を反対の手で押し込んだ。ツールからの発声がシステムの起動を告げる中、それを掲げて――











「変身!」











 掛け声一発。予想通りツールをベルトのバックルの欠落部分に真上からはめ込んで――







《イ・ク・サ、フィ・ス・ト・オ・ン!》







 瞬間――スバルが“変わった”。

 あたしのよく知るバリアジャケット姿から、白銀のカラーリングのまぶしい“仮面ライダーに”。



 ………………って、あぁっ!



「その姿……前にクウガを逃がした仮面ライダー!
 あれ、アンタだったの!? どういうつもりよ!?」

「ちょっ、待っ、ティア! 敵! 敵!」



 ……くっ、ごまかしたわね。

 まぁいいわ。『後で説明する』的な言質はとってるし、後でしっかり聞かせてもらうわよ。

 未来の執務官の尋問テクニック、じっくり味わってもらうわよ。フフフ……



「……こっちのティアが黒い……」



 うっさいっ!



「ま、いいや。
 あたしが戦ってる内に、ティアは魔力回復しといて……ガス欠寸前でしょ?」

「……わかったわよ」



 まだいろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえずこの場の戦いはスバルに任せるしかない。素直にスバルに譲って、あたしは回復に専念させてもらうわ。



「なら、ここは任せるわよ、スバル」

「任されました♪」



 たぶん、仮面の下はあたしもよく知ってる笑顔なんだろうな……とにかく、あたしに答えるとスバルはバットファンガイアやバラクーダへと向き直る。







「じゃあ、いくよっ!
 仮面ライダーイクサ……その命、神に還そうかっ!」







 スバル……その名乗り、たぶん本家のマネなんだろうけど、『神』とかアンタのキャラに合わないからやめなさい。



「えー?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そらそらそらっ!」







 ぅわわわっ! 来た!

 ピアスの槍から、“力”の弾丸が撃ち出されてくる――バックステップでかわしていくけど、







「こっちだ!」







 別の声と同時に、吹っ飛ばされる――ワーム!?(←名前で呼ぶのあきらめました)

 吹っ飛ばされて、地面を転がる――だけどっ!







「にーくんっ!」

《All right.》







 にーくんの単独飛行魔法を利用、引っぱってもらうことで受け身を省いて空中に逃げる。

 ピアスもワームも空は飛べないみたい。一旦空に逃げて体勢を立て直s







「逃がすかっ!」







 って、目の前!?

 向こうの手が届かないところまで逃げる、その前にワームに追いつかれた。思いっきり地面に向けて叩き落とされる。







「悪あがきなんかさせるか!」

「このまま、一気につぶす!」







 ピアスとワームが挟み撃ちな感じで突っ込んでくる。逃げようとするけど――あぁ、ダメだこれ、逃げられないや。

 足がしびれて逃げるどころか立つのもムリ。どうすることもできなくて――





















 相手が消えた。





















 …………ううん、違う。

 わたしがあそこから動いたんだ――“誰かに抱えられて、運ばれて”。

 えっと……もしかして、誰か助けてくれた?



「キミ……大丈夫?」



 ……って、この声……

 顔を上げて、助けてくれた“誰かさん”を確認して――



「よかった……大丈夫みたいね」



 ギンガ……お姉ちゃん……?



「すぐ手当てしてあげたいところだけど……ちょっと待っててね。
 先に、アイツらをなんとかするから」



 言って、ギンガお姉ちゃんはわたしを地面に下ろして、ピアスやワームの方を見る。

 それから、“腰にベルトを巻いて”……って、ちょっと待って!

 そのベルトって、『カブト』の……







「来なさい! ガタックゼクター!」







 って、ギンガお姉ちゃんが叫んで……それが飛んできた。

 青色の、クワガタムシの形をしたメカ――ガタックゼクター。

 それをかまえて、ギンガお姉ちゃんが叫ぶ――











「変身!」

《HEN-SHIN!》











 言いながら、クワガタムシを腰のベルトにセットする――そしたら、ベルトから出てきたたくさんの六角形のパネルみたいなものがギンガお姉ちゃんを包んでいく。

 と、今度は、それがまるではがれ落ちるみたいに消えていく。そして中から現れたのは、青色の重そうな鎧を着けたギンガお姉ちゃん。

 そう。あの姿は――







 仮面ライダーガタック、マスクドフォーム!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 くぅ…………っ!

 頬を、脇腹を刃がかすめる――そのまま身を翻して、私を狙った剣を、槍をかわす。

 追撃を警戒して、一度仕切り直そうと距離を取って――







「させるかよ!」







 グライド!?

 バックステップの瞬間、滑空するグライドが突っ込んできた。全身を弾丸と化した体当たりをまともにくらって、背後に転がるガレキに背中を叩きつけ――痛っ!

 同時、背中により激しく走る痛み――背中の傷に響いたか……っ!







「覚悟っ!」







 そんな私のスキを見逃してくれるような相手じゃない。ヒトツミの槍が、動きの鈍った私を狙って一直線に迫ってくる。

 逃げるのはムリだ――迎撃するしかないっ!

 ヒトツミを迎え撃とうと、拳を握りしめて――





















「ちょおっと待ったぁっ!」





















 ――――――っ!?







 響いた声はグライドのものでもヒトツミのものでも、火焔大将のものでもなかった――まったくの第三者の声に、ヒトツミは突撃を強制中断。強靭な足でムリヤリブレーキをかけると、バックステップで私から距離を取る。

 というか、今の声……







「もうお前らの好き勝手にはさせないぜ!
 ここからは、あたしが相手だ!」

「ノーヴェ!?」







 そう。その声はマックスフリゲートに残してきたはずのノーヴェだ――オフロード車をベースにしたカスタムバイクに乗って、私達の間に割って入ってくる。



「ノーヴェ……なんで来たの!?
 あなたは更生プログラムの最中なのよ!? なのに……」

「あぁ、心配いらないぜ」



 声を上げる私に対して、ノーヴェはあっさりと答えて――







「“あたしの時間じゃ、とっくに終わってる”」







「………………え?」



 その言葉に、思わず動きを止める。

 『あたしの時間』……わざわざそんな言い方をするってことは……



「そんなワケだからさ、気にしなくていいよ。
 でもって……さっき言った通り、ここからはあたしが引き受けてやる!」



 思わず考え込んでいた私だけど、ノーヴェのその言葉に現実に戻ってくる――そんな私の前で、ノーヴェは自分の腰に両手を添えた。

 と、彼女の腰にベルトが現れる――まるで、服とかも透過して“体内から現れたみたいに”。

 そして、右腕を腰だめにかまえ、左手を右前方に突き出す――左手を水平に動かし、言葉を放つ。











「変身!」











 宣言と同時、左手を右手に添え、かまえる――その動きに連動するように、ノーヴェの姿が変わる。

 まるで炎のような真紅の体躯が印象的な、金色の角を持った――



「仮面……ライダー……?」

「そういうこと」



 私に答えると、ノーヴェはグライド達へと向き直って、



「ノーヴェ・ナカジマ……仮面ライダークウガ!
 諸事情で出てこれない“こっちの時間のあたし”の代わりに、てめぇらまとめてブッ飛ばしてやるぜ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「が……はぁっ……!」







 お腹にいいのをもらって、吹っ飛ばされる――けど、私にはそれに耐えることも、受け身を取ることもできない。

 さっきくらった神経毒が、ますますひどくなってるからだ。指一本動かせないまま、頭から地面に突っ込む――「車田落ちだーっ!」なんてネタに走る余裕もない。だって口もしびれてしゃべれないし。



「パスボルの毒が効きすぎたみたいだな。
 まったく、人間というのはつくづく不便なものだな」



 そりゃ、あんたはアンデッドなんだからハナから毒なんて効かないでしょ……私の胸倉をつかんで持ち上げたジョーカーに心の中でツッコむ。



「とはいえ……殺せるような毒でも、ずっと続くような毒でもない。
 復活されると面倒だ。今のうち……殺されてもらうぞ」



 あ、時間経てば復活できるんだ、この毒これ……まぁ、その前に向こうは殺す気満々みたいだけど。

 本当にどうすることもできない私に向けて、ジョーカーが爪をかまえて――





















 弾かれた。





















 突然飛んできた“オレンジ色の魔力弾”によって――私の胸倉をつかんでいた、ジョーカーの腕が。

 当然、私は放されて、空中に放り出される――けど、そんな私の身体が何かに受け止められて、そのまま、アイツらから距離を取られる。



 相変わらず姿は見えなくて、きっとジョーカー達の目からは私の身体が宙に浮いてるように見えてるんだろう。

 だけど……オレンジ色の魔力弾。そして、私を抱きかかえた今もなお姿を消したままの“魔法による光学迷彩”。情報は十分だ。

 ほんのちょっとだけ、口元のしびれが取れてきた……なんとかお礼の言葉を口にする。



「あり……がと。て…………ティア……にゃん……」

「お礼を言うには早すぎない?
 あと、『ティアにゃん』って何よ?」



 そう言って、姿を現したのは予想通り――別の“降魔点”で戦っていたはずのティアにゃんだ。

 もう自分のところを片づけて、手伝いに……いや、違うな。

 だって……今ティアにゃんは言ったもの。







 『「ティアにゃん」って何よ?』……って。







 いつもならむしろそう呼ばれたことに腹を立てるところなのに、怒るどころかその呼ばれ方に疑問符を返してきた。

 つまり……“この”ティアにゃんはそう呼ばれたことがない。

 そこから導き出される結論は……



「……なる、ほど……
 “別の時間”の……ティアにゃんか……」

「すぐわかってくれてありがたいわ。説明の手間が省けるもの。
 あと、その『ティアにゃん』はやめて」



 あはは……時間は違っても、やっぱりティアにゃんはティアにゃんだ。



「ま、とにかく……アンタは毒が抜けるまでじっとしてなさい。
 その間は……あたしがアイツらの相手を引き受けるから」



 あ、そろそろ戦闘再開の空気か。私を地面に寝かせると、ティアにゃんは改めてケンザンやジョーカーに向き直る。

 そして、やたらゴツイ、ボックス状のバックルを腰に押し当てる――前面のパネル、その側面に備えられたスリットにカードを一枚差し込むと、バックルの側面からトランプのカードがつながったかのようなデザインのベルトが伸びてティアにゃんの腰に巻かれて、バックルを腰に固定する。



 あぁ……あれ、よく知ってるわ。

 あれは……











「変身!」

《Turn up》











 告げると同時、ティアにゃんが左手でバックル横のレバーを引く。

 その操作と連動して、バックル前面のプレートが反転。トランプのダイヤをあしらったレリーフが姿を現す――と、そこから板状に凝縮されたエネルギー体が発生。そのサイズを拡大すると、人ひとりが通り抜けられそうな大きさのスクリーンとなる。

 ティアにゃんが駆け出して、そのスクリーンを抜ける――その一瞬で、ティアにゃんの身体に触れたスクリーンのエネルギーが物質化。ティアにゃんは赤を基本カラーとした仮面の戦士へとその姿を変えていた。



 うん、そうだよね。ティアにゃんってガンナーだもんね。“その系統”で銃って言ったらソレだもんね。



 そんなワケで……







「さぁ……いくわよっ!」







 やったんなさいっ! ティアにゃん改め……仮面ライダーギャレン!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「グゥウゥ……」

「フリード!」







 がんばってくれたけど、もう限界だった――わたしの楯になってくれたフリードが、力尽きてその場に倒れ込む。







「フリード! しっかりして、フリード!」







 呼びかけるけど、弱々しいうなり声が帰ってくるだけ。

 いけない。かなり危険な状態だ。すぐに召喚状態を解除して休ませないと――











「…………ここまでのようだな」











 ――――っ!?



 今までのエコーのかかった声じゃない。ハッキリとした肉声――同時、後頭部に硬い、細い筒っぽいものが押し当てられた。

 これ……ひょっとしなくても、銃口?



「残念だったな、お嬢ちゃん。
 けど、オレから言わせればよくがんばった方だぜ――ご褒美に、直接撃って殺してやるよ」



 後ろにいるおかげで姿までは確認できないけど……間違いない、きっとこの人がスナイプだ。



 これがなぎさんだったら、わざわざ攻撃できる位置に来てくれたスナイパーさんに一撃入れるところなんだろうけど……正直わたしじゃ難しい。

 それに、仮にここでスナイプに一撃入れられたとしてもアークオルフェノクだっている。そっちにも対応しなきゃならない……なので、なんとか不意打ちを狙ってみる。

 スナイプの射撃を防ぐため、防御魔法を準備……けど、まだ発動はしない。

 ギリギリで射撃を防いで、スナイプやアークオルフェノクが驚いたところに逆転を狙う……正直、かなりの博打だ。

 まるでなぎさんみたいだ……なぎさんみたいに、うまくやれればいいけど……



「それじゃ……あばよ」



 あぁ……ドラマとかだとここで引き金に指をかけてるところだな……頭の後ろでチャキリと音がしたのを聞きながら、どこか現実逃避気味にそんなことを考えて――





















「たぁぁぁぁぁっ!」





















 ――――――っ!?



 聞こえた声に驚くのと同時に、わたしの後頭部に押しつけられていた金属の感触が消える――そして、後ろで聞こえた、ブンッ!っていう、何かを振り下ろす風切り音。



 それよりも、今の声って……







「キャロ、大丈夫!?」

「エリオくん!?」







 そう。エリオくんだ。驚くわたしにかまわずに、今度は倒れたフリードの具合を診てくれる。



「……うん、大丈夫だ。
 取り返しのつかなくなる前に来れてよかった」



 安心した様子でエリオくんがつぶやく……けど、どうしてエリオくんがここに……?



「それはもちろん……アイツらを倒すためだよ」



 答えて、エリオくんがスナイプやアークオルフェノクをにらみつけて……って……

 エリオくん……その、懐から取り出した黒いケースって、もしかして……



「……いくよっ!」



 そんなわたしの疑問に答えず、エリオくんが動く――近くのビルに駆け寄ると、そこに残ってたガラス、その中に映る自分に向けて黒いケースをかざす。

 そしたら、ガラスの中のエリオくんの腰にベルトが現れて――ベルトの像だけが飛び出してきた。反転して、現実のエリオくんの腰にも同じものが巻かれる。



 やっぱり、アレは……『龍騎』に出てきたカードデッキ!? なんでエリオくんが持ってるの!?



「その話は後で。
 今は……アイツらを倒すのが先だからっ!」



 言って、エリオくんは大きく身体をひねってかまえて、











「変身!」











 叫んで――ベルトの側面からスライドさせるようにカードデッキを差し込んだ。同時に、エリオくんの周りに現れたいくつもの虚像がエリオくん自身に重なって、その姿を変える。

 真っ黒なスーツの上に、エリオくんらしい“騎士”を思わせるプロテクターを装着した……仮面ライダーだ。







「エリオ・モンディアル――仮面ライダーナイト!
 ここから先は、ボクが相手だ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なかなか、手こずらせてくれましたね」







 ファミリアの声が、どこか遠く聞こえる……あぁ、意識がハッキリしない。けっこうイイのをもらっちゃったみたいだ。

 結局、あそこから一気に崩された……周りのガラスだけじゃない、足元にも“出入り口”を作られて、あまりにも難易度の高い“もぐら叩き”を強いられたボクは、どうすることもできずに一方的にやられた。



「ですが、それももうおしまいです。
 さぁ……お前達、トドメを刺してあげなさい!」



 ファミリアの言葉に、ハイドラグーン達が一斉に動き出す……あぁ、仕留めに来るつもりだ。

 反撃しなきゃ……頭ではそう思うけど、身体がついてこない。ストラーダを握る腕は、いくら力を入れてもビクともしない。

 そんな、どうすることもできないボクに向けて、ハイドラグーン達が突っ込んできた。先頭の一体がボクにかみつくつもりなのかその口を開けて――





















 “突き”落とされた。





















 そう、突き落とされた――飛び込んできた何かが全身でハイドラグーンに向けて体当たり。そのまま地面へと突き飛ばすように叩き落としたんだ。

 地面に思い切り叩きつけられて、動きを止めたハイドラグーンには目もくれず、体当たりをお見舞いしたソイツはボクの方へと這うようにやってくる。

 そして、鎌首をもたげてハイドラグーン達を威嚇するのは――



「…………コブラ……?」



 コブラ……もっと言うなら、“コブラ型のモンスター”だ。

 見覚えがある……ハイドラグーン達と同じ、『龍騎』に登場したモンスター。

 確か名前は……











「ベノスネーカー、だよ」











 そうそう、ベノスネーカー……って、この声……!?



「キャロ……!?」



 意外な声に、思わず顔を上げる――そこにいたのは、確かにキャロだった。フリードもいる。



「それに……ベノスネーカーだけじゃないよ」



 どうしてキャロがここにいるのか――聞きたいボクだけど、キャロにとってはそこはどうでもいいみたいだ。説明してくれることもなく続けると、すぐそばの水溜りからまた何かが出てくる。

 人型の、サイがベースになったモンスターと、こちらはモチーフそのままな見た目のエイ型モンスター。確か……メタルゲラスに、エビルダイバー。

 ベノスネーカーを含めて、新しく現れた三体のモンスター達は、みんなハイドラグーン達を威嚇するようににらみつけてる。まるでボクを……ううん、“キャロを守ろうとしているみたいに”。

 だんだんと頭の回転が戻ってきて……あ。



 キャロの握ってるそれ……手の平サイズの、真っ黒なカードケース。



 まさか、それって……



「うん。そうだよ。
 まぁ、見てて、エリオくん」


 ボクに答えて、キャロが水溜りにそれをかざす――すると、水溜りに映るキャロの腰にベルトが重なった。

 そして、現実のキャロの腰に水溜りから飛び出してきたベルトの像が重なって、実体化する。まるで像のそれが現実のキャロに複写されるみたいに……

 ベルトを身に着けると、キャロは改めてハイドラグーンを、そしてファミリアへと向き直った。手にしたそれを……カードケースを手にポーズを決めて、











「……変身っ!」











 腰のベルト、ぽっかりと中央部が足りていないそこにカードケースをセットした。同時、キャロの周りに現れたいくつもの虚像がキャロに重なって、その姿を変える。

 ベノスネーカーのデザインがそのまま取り込まれたみたいな姿。

 手にしている、コブラの頭を模した杖……杖型の召喚器、ベノバイザー。



 あの姿は……あの仮面ライダーは……



「仮面ライダー……王蛇……!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぐ……ぁ……っ!」







 お腹にイイのをもらって、吹っ飛ばされる――地面を何度もバウンドして、ゴロゴロと転がって、ようやく止まる。

 マズイ……もう、ほとんど身体が動かない……っ!

 瘴魔獣将にエルロードが三体……ハッキリ言って、戦力に差がありすぎた。むしろここまでがんばった自分をほめてあげたいくらいだけど……



「もはや限界のようだな。
 いいかげん、あきらめて楽になれ」

「冗談じゃ……ないわよ……っ!」



 だからって、あきらめるワケにはいかない――シザーに答えて、痛む身体に鞭打って立ち上がる。



 だって、負けられないもの……何しろ、この戦いにかかっているのはクラナガンの、ミッドの平和だけじゃない。

 ジュンイチくんの……そして、なのはちゃんやフェイトちゃんの時間もかかってるんだから。



 だから……止まらない。止まれるワケがない。



「そうか……
 ならば仕方ない……死ね」



 そんな私にシザーが告げて――それを合図に、三体のエルロードが動いた。

 地のエルの拳が私をガードの上から吹っ飛ばして――真上に打ち上げられた。水のエルが放った水流による一撃だと、一瞬遅れて理解する。

 そして――打ち上げられた先、上空には風のエル。



 胸の前に合わせたその手の中に空気の塊が生まれるのが見えた。それは一気にサイズを増して、私に向けて解き放たれて――





















 弾かれた。





















 突然私の周りに“青色の炎が”巻き起こった――それが防壁となって、風のエルの暴風攻撃を防いだんだ。

 というか……“青い炎”って……











「クイント・ナカジマ……だな?」











 その声と同時――自由落下し始めていた私の身体が、誰かに抱きとめられた。

 そのまま、声の主は私を支えて地面に降り立つ……って……



「貴様のことを頼まれた。
 ここから先はオレに任せてもらおう」

「イクトくん!?」



 そう。私を支えているのはイクトくん……でも、何かおかしい。

 まず、私の知ってるイクトくんよりも確実に若い……それに、さっき私の名前を確認した。

 私の知ってるイクトくんはとっくの昔に知り合いなんだ。今さら私のことを確認する必要もないはず。だとしたら……



「貴様……炎皇寺往人!?」



 ……とりあえず、イクトくんの参戦が向こうにとっても予想外だってことはわかった。驚いているシザーの声に反応するように、イクトくんは私を放すと彼の方へと向き直る。



「バカな……なぜ貴様が!?
 貴様は確か、ザイン様の本隊との交戦中のはず……」

「……なるほど、貴様らにとって、あくまで“主人はネガタロスではなくザイン”ということか。
 確認する手間が省けた。情報感謝するぞ」



 一方のイクトくんはまともに相手をしてあげる必要はないみたいだ。むしろシザーの言葉から情報を拾って、不敵な笑みを浮かべている。



「まぁ、改めて貴様の問いに答えてやるとするなら……“こういうこと”だ」



 ……訂正。相手をしてあげるつもりはあったみたいだ。懐から取り出して、シザーに向けて突きつけたのは……銃? イクトくんが、銃!?



「き、貴様……っ!?」

「理解したようだな。
 なら、遠慮なくいかせてもらうぞ」



 そう告げると、イクトくんは手にした銃、その銃身を引き伸ばした。そして、銃と同じように懐から取り出した一枚のカードを銃の側面に差し込む。











《KAMEN-RIDE!》

「変身!」

《“DIEND”!》












 銃が何かのコールを放つ中、宣言と同時に真上に向けて引き金を引く――と、放たれた銃弾が弾けて、飛び出してきたのは人の姿の虚像。

 それらが次々にイクトくんの姿に重なって、実体化する――次いで、どこからともなく飛んできた四角形のプレートが、イクトくんの頭を覆った仮面に差し込まれるように一体化していく。

 そして姿を現したのは、黒と青の二色に塗り分けられたスキンスーツに、四角いプレートが並べて配置されたような、奇妙なデザインのプロテクターをまとった仮面ライダー……って、仮面ライダー!?



「イクトくん……キミ、仮面ライダーだったの!?」

「“オレの時間”では……な。
 貴様のよく知る、“この時間の”オレは、別に仮面ライダーでも何でもないようだがな」



 驚く私に、イクトくんが答える……ってことは、やっぱりキミは良太郎くんと同じような、別の時間の存在? 別の時間に生きる、もうひとりのイクトくん?



「まぁ、そんなところだ。
 じゃあ、クイント・ナカジマも理解してくれたところで……」



 言って、イクトくんは改めてシザー達へと向き直って……







「仮面ライダーディエンド、炎皇寺往人!
 通りすがりの仮面ライダーだ――覚えておけ!」







 言い放つと同時に、引き金を引いた。放たれた銃弾が一斉にシザー達に向けて飛び――











 当たらなかった。











 銃弾はすべて、シザー達の周りを駆け抜けていった。威嚇射撃……?



「フンッ、脅しのつもりか?
 そんなもので、オレ達がビビるとでも思っているのか?」

「大きな口を叩けるのも……今のうちだ!」



 シザーに言い返して、イクトくんが再び銃撃……外れた。また威嚇……?



「脅しは効かんと何度言えば!」

「やかましいっ!」



 幾分苛立ちが混じった様子で言い返して、三射目……外れ。また威嚇……じゃないわね。



 ひょっとして……



「イクトくん……
 やっぱり、キミ“も”射撃は下手?」

「う、うるさいっ!」



 あー……図星なんだ。



「だったらっ!」

《ATTACK-RIDE!
 “BLAST”!》




 しびれを切らして、イクトくんが変身の時と同じように銃にカードを装填、引き金を引く。

 放たれた銃弾はまたまたあさっての方向に飛んでいって――弧を描いてシザー達の元へと戻ってきて、全弾命中。あぁ、誘導弾か。



「これで文句はないだろ!」

「……それ、射撃下手を克服したことにはならないってわかってる?」

「………………」



 あ、黙った。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なるほど。
 仲間達は“降魔点”に向かわせたか……人数を考えるに、ディエンド達も向かわせたな?」

「そーゆーこと。
 察しが良くて助かるよ」



 いろいろと察したらしいシャドームーンの言葉に、ジュンイチさん(若)が答える……とりあえず、わかったことがひとつ。



「……“この”ジュンイチさんも、暗躍好きか……」

《ですね》

「あー……やっぱ“こっちの時間”のオレもそーゆー認識なワケね」



 どうやら、ジュンイチさん(若)も自覚はあったらしい。軽くこっちを振り向いて苦笑い。



「まぁ、そのおかげでお前らの仲間な方のスバル達は助かるんだし、良しとしとこうか、うん」



 そして、気を取り直したジュンイチさん(若)は改めてシャドームーンやジャーク将軍、そしてローズイマジンを見回す。



「他の戦場にも、こっちの時間の援軍が向かってきてるみたいだし、逆転は時間の問題ってところだろ。
 そういうワケだから……ここもさっさと逆転しちゃおうか?」

「相変わらずふざけた態度だな。
 しかも、それでいて決して油断できないからなおさらタチが悪い」



 その言葉通り、ふざけたジュンイチさん(若)を前にしてもジャーク将軍の様子に油断はない――剣をかまえて、ジュンイチさん(若)の動きを警戒してる。



「おいおい……どういうことだよ?」



 一方で、うめいているのはローズイマジン……あのジュンイチさん(若)のことを知らないみたいだ。

 そういえば、シャドームーンはさっき「(ジュンイチさん(若)が)来てるとは思わなかった」的なことを言ってた。邪魔されないとタカを括って、教えてなかったのか……?



「オレは確かに、お前の……柾木ジュンイチの時間を奪った! その時間は今もオレの“中”にある!
 なのに……なんでお前がここにいる!?
 お前……何者だ!?」

「何者もクソもねぇよ……」



 そうローズイマジンに答えると、ジュンイチさん(若)が腰にそれを着けた。

 良太郎さん達のデンオウベルトみたいな、だけどデザインの趣が異なる、特徴的な分厚いバックルが目を引くベルトを。

 その腰、片側にはまるでファイルかバインダーか、な感じの何かがぶら下がってる――その中から、ジュンイチさん(若)は一枚のカードを取り出した。







「オレはオレだ!」

《KAMEN-RIDE!》







 そのカードを、ベルトのバックル、その上側に口を開けたスロットから装填。そして――











「変身!」











 まるで両手を腰の前で交差させるように、バックルを両側から押し込んだ。その動きに連動してバックル中央部分、カードを装填した部分も90度回転。完全にセットされる。







《“DECADE”!》







 カードを読み込んだのか、ベルトから音声がコールされる――同時、ジュンイチさん(若)の周囲にいくつもの、人の形をした何かの虚像が浮かび上がった。

 数は九。一斉にジュンイチさんの身体に重なって、マゼンダと黒の二色に塗られた、プロテクター付きのスキンスーツとなって実体化する。

 そして、どこからともなく飛んできた四角いプレートが、まるでマスクに差し込まれるかのように一体化。複眼が緑色に輝く。

 間違いない……仮面ライダーだ。ただし、『僕らの知らない』がつくけど。



「その姿……仮面ライダーか!?」

「そゆこと。“ディケイド”っつーんだ。
 まぁ、お前らは知らなくても当然だわ――世に出た順番的には、お前らの知ってる最新ライダー、『キバ』のさらに後になるからな」



 マスターコンボイの上げた驚きの声に、“ディケイド”……仮面ライダーディケイドへと変身したジュンイチさん(若)が答える。

 キバの次ってことは、10番目の平成ライダー、か……なるほど、『十年期ディケイド』とはよく言ったもんだね。

 よく見れば、マスクを飾るプレートも10枚だし、肩アーマーまで届く形でブレストプレートに描かれた“十”字の模様……『10』がデザインにしっかり盛り込まれてるってことか。



「……それじゃあ、始めようか」



 そして、ジュンイチさん(若)がローズイマジン達へと向き直る――警戒する三人をびしっ!と指さして、告げる。



「っつーワケで――」











「誰にケンカを売ったか、教えてやるぜ!」







(第29話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「さて……踏みつぶすか」



「変身!」
《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》



「楽しいかよ?
 そんなよってたかって、女の子ひとりを袋叩きにしてさ」



「覚悟を決めろ……」





第29話「断罪の時間だ」





「悪を殺すのは……それ以上の、悪だ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「さんざん待たせてしまったが、ようやく第28話のお届けだ」

オメガ《まったくです。
 その上我々の活躍が少ないとか、どんだけですか》

Mコンボイ「そこはあきらめろ。
 すでに前回の時点で『今回は苦戦回』と公式にアナウンスしていたワケだしな」

オメガ《まぁ、そういうことにしておきましょう。
 さて、それはともかく、今回は驚きの援軍の登場ですね》

Mコンボイ「まさか、スバル達がもうひとりずつ、しかも仮面ライダーとして参戦とはな。
 今までチラホラ出てきていたライダー達はヤツらだったワケか」

オメガ《『アイツらいったい何なんじゃ!?』という方々に補足いたしますと、彼らはモリビトが自サイトにて連載している『ディケイド』クロス、『仮面ライダーディケイドDouble』に登場するミスタ・ジュンイチ達です。
 今回は“別の時間軸の彼ら”という形でゲスト参戦です》

Mコンボイ「別の時間軸……パラレルワールドのアイツらということか」

オメガ《そういう概念でだいたい正解ですね。
 『ディケイドDouble』の世界は仮面ライダーの世界同士だけではなく、仮面ライダーの世界の融合に巻き込まれる形でもっと多くの世界が融合を始めている多元世界が舞台となっています。
 例としては、『ディケイド』と『ブレイカー』の世界が、『クウガ』と『なのは』の世界が融合してしまっています。
 ミスタ・ジュンイチがディケイドに、ミス・ノーヴェがクウガに変身するのはその影響です。ミスタ・ジュンイチが門矢士と、ミス・ノーヴェが五大雄介と同一の存在となってしまっているんです》

Mコンボイ「スバル達はどうなんだ?」

オメガ《彼女達は旅の中で出会うライダー達からライダーシステムを受け継ぐ形式で順次変身できるようになっていっています。
 響鬼系列のような身体を直接変化させるタイプのライダーがいないのはそのせいですね。手渡しできるタイプのライダーシステムでないと受け継げませんから》

Mコンボイ「なるほど……ヤツらについてのことは理解した。
 そんなヤツらが、今回大ピンチのスバル達やオレ達の前に現れたワケだが……」

オメガ《もちろん、援軍は彼らだけではありません。
 前回参戦フラグ立てまくってますし、今回の話でもミスタ・ジュンイチが彼らが向かってきていることに気づいてますからね。
 次回あたりから、援軍ラッシュになるんでしょうね、きっと》

Mコンボイ「というか……次回から、ネガショッカーどもの虐殺タイムが始まるんじゃないか?
 こっちの援軍候補の一部、明らかに殺気だっていたワケだし……ある意味、ディケイド一行の方がまだ穏やかなくらいだぞ」

オメガ《いいんじゃないですか? どーせ同情の余地のない連中ばかりなんですから。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)









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