頂き物の小説 第28話「オレはオレだ!」:01 「……始まりましたね」 ここは六課のデバイスルーム……いくつものウィンドウに、各地の戦いの様子が映し出されてます。 そのひとつ……恭文さん達の戦いの現場の様子を映し出したウィンドウを見て、思わず声がもれました。 別の映像では良太郎さん達もネガタロスを相手に戦闘開始。それに各“降魔点”に向かったスバルさん達も。というか…… 「ネガタロスも本気みたいですね……」 “降魔点”に配置されていたネガショッカーの怪人達……その顔ぶれを見ただけでも、ネガタロスの本気ぶりは明らかでした。 「リイン曹長、そんなにあっちは出し惜しみなしで来てるんですか?」 「はいです」 どのくらいかというと……シャーリーからの質問にも、迷うことなくうなずけるくらいに。 リインも、恭文さんと一緒にいろいろ映像ディスク見てました。良太郎さん達が来てからも、スバル達が『ネガショッカー対策のために』って映像ディスクを見始めたのに付き合って何度も復習してました。 だから、相手の配置してきた怪人達についても誰が誰だか、ちゃんとわかります。 そして……だからこそ、ネガタロスがどれだけ強力な怪人達を配置してきたのか、その危険度までバッチリわかっちゃいました。 「スバルのところにはダグバと同じン種のグロンギ。こなたさんのところにはジョーカー。クイントさんのところにはエルロード、しかもそれが三体同時投入…… どの“降魔点”にも、今までの平成ライダーに登場してきた最強怪人や最終怪人ばかりを投入してます。 明らかに、私達が“降魔点”の破壊に戦力を割くことを見越して、確実につぶしに来てるです」 最初から数で負けている私達には、“降魔点”の破壊にそれほど人数を割けず、スバル達にそれぞれ単独突入してもらうしかなかったですけど……正直、相手が悪すぎです。 恭文さんが“そんな”戦いばかりを強いられてきたのを教訓に、ジュンイチさんを中心に格上相手の戦いをみっちり教え込んでますから、スバル達にも勝ち目がないワケじゃありませんけど……だからと言って楽観視などもってのほか、なくらいの戦力差です。 恭文さんとマスターコンボイも、予想通りのところに配置されていたローズイマジンを相手に戦いを始めてますけど……相手もただものじゃなさそうです。 本当なら、リインもすぐに出らればよかったんですが……というか、リインはダメダメです。 恭文さんのこと……大好きな人のこと……ちゃんと守れてないです。“JS事件”の時も、今も。 やっぱり、アルトアイゼンみたいに側にいないと、守れないのでしょうか。なら、私は…… ……いえ、そこは後ですよね。私は何ですか? “祝福の風”であり、“古き鉄”……恭文さんの一部、リインフォースUです。 迷っちゃいけませんっ! 私は今やるべき事を、しっかりとやっていくだけなんですからっ! 「…………シャーリー、リュウタロスさん、急ぎましょう」 「はい。あともう少しですしね」 「うん、ボクもがんばるっ!」 本当に……あとちょっとです。だから、がんばります。そして、アルトアイゼンと……恭文さんと一緒に戦うです。 恭文さん、アルトアイゼン。待っててくださいです。 恭文さんとアルトアイゼンとリイン、そしてマスターコンボイの新しい力……七つの剣と天秤の盾、もうすぐ打ち上がりますから。 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か―― 『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達 第28話「オレはオレだ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「けっ、何が『本物の“悪”』だ。 悪は悪でも、小悪党だろうがよ、てめぇは」 変身を遂げ、モモタロスの『俺、参上!』のように決めゼリフを放ったネガタロス――ヤツにそう返しつつ、モモタロスは腰のデンガッシャーを取り外し、組み立て始める。 「小悪党かどうかは、すぐにわかるさ」 同様にネガタロスもだ。自分のデンガッシャーを組み始める――モモタロスと同じ組み方だ。ソードモードにするつもりか。 本当ならジャマしてやりたいところだが……難しいな。 まるでこちらを牽制するように、死神イマジンが前回の戦いでも使っていた“原作”のそれよりも大型の大鎌をかまえてにらみを利かせている……バルディッシュのサイズフォームを想起させるその刃の大きさに、正直イラッとくる。 「侑斗!」 と、こちらも戦闘準備か。桜井侑斗の変身したゼロノス――“まるで赤錆のような色のゼロノス”に向け、デネブが駆けてくる。 「オレも戦うぞ!」 そして、告げると同時、デネブがその姿を変える――光に包まれ、ゼロノスの手に収まったその姿は、さながら小ぶりのガトリングガン。 なお、ベガフォーム同様、あの姿になってもデネブ本来の顔は健在だ。 なるほど、あれがあの色のゼロノス――ゼロノス・ゼロフォーム用の武装、デネビックバスターか。 「最初に言っておく! 今日のオレは、かーなーりっ! やる気だっ!」 《ついでに言っておくっ! オレもかーなーりっ! やる気だっ!》 「……いいだろう。 今日、ゼロノスが死ぬ」 そんな、戦闘準備を整えたゼロノスとデネブに告げ、死神イマジンが彼らの前に進み出てくる。 「こっちは“やる気”。そっちは“殺る気”……ってか? 一応忠告しておくけどな……同じこと言ったお前の同種、結局オレ達や野上達にやられてるんだぜ?」 「同じと思うな」 「それはこっちのセリフだぜ。 今度は、オレ達だけで片づけてやる!」 返してくる死神イマジンに告げると、ゼロノス組はヤツと共にこの場を離れる――場所を変えて戦うつもりか。 「よっしゃ、そんじゃ、オレ達もいくぜ!」 「おぅ」 となれば、次はオレ達だ。モモタロスに答え、オレもネガタロスに向けて一歩を踏み出し―― 「――――――っ!? 待て、下がれっ!」 「ぐぇっ!?」 とっさにモモタロスの、電王ソードフォームの襟首をつかみ、後方に跳ぶ――つぶれた悲鳴が聞こえたが、いかんせん緊急回避だ。文句を言うな。 だが、その甲斐あって相手の攻撃は無事回避。一瞬前までオレ達のいたところに、“突然炎が巻き起こる!” オレや柾木のような、放った炎を叩きつける炎撃じゃない。これは―― 「“念動発火能力”……っ!」 こんな攻撃をしてくるライダー怪人と言えば……っ! 心当たりはあった――柾木秘蔵の関連書籍を読破しておいて正解だったな。 そんなオレの仕入れたにわか知識からの予測は見事的中――オレが脳内で挙げた最有力候補ご本人が、オレやモモタロスの前に立ちふさがる。 『クウガ』の最後の敵にして、グロンギの最強怪人――ン・ダグバ・ゼバ。 「チッ、無視できるレベルの相手じゃない、か…… 野上、モモタロス……悪いがネガタロスはお前らだけで叩いてくれ」 「ケッ、バカ言うな。オレ達だけで十分だっつーの」 頼もしい返事と共に、モモタロスは改めてネガタロスに向かう――さて。 「アイゼンアンカー、ウラタロス。 すまんが、オレ達がそれぞれの相手を片づけるまで、お前達だけで雑魚の掃除を頼む」 「やれやれ、ボクらはあぶれ組ってワケ? こんな釣り甲斐のない連中を押しつけられてもねぇ」 「めんどくさいことこの上ないよね。 さっさと片づけて、合流してきてくださいよね」 「わかっている」 二人にそう返すと、オレは改めてダグバと対峙する。 「さて、待たせたな。 こっちの役割分担は完了だ――そろそろ始めようか」 「そう……キミがボクの相手なんだ」 オレの宣戦布告に対し、ダグバはどこか楽しそうに答える……口調もそうだが、資料の記述の通り子供っぽい性格のようだな。まるでリュウタロスのようだ。 もっとも……凶悪さはリュウタロスの比ではないが。 「じゃあ……がんばってね。 ボクを、楽しませてくれるくらいに!」 告げると同時、ダグバがオレに向けて手をかざす。同時、巻き起こった炎がオレを包み込み―― 「安心しろ」 “かまわず放ったオレの炎が、ダグバの全身に叩きつけられた”。 オレの炎を受けた衝撃でダグバが吹っ飛び、ヤツの干渉が断たれた炎が消える――その中から姿を現したオレの服には、焦げ目ひとつついていない。 まぁ、当然だ。ヤツの力による発火と同時、“それ以上の熱量を持つオレの炎で相殺してやった”のだから。 対し、ダグバもすぐに身を起こす――あいさつ代わりの一撃とはいえ、ほぼノーダメージか。ボス級怪人の肩書は伊達ではないということか。 まぁ、それはともかく―― 「貴様の期待には、そえられそうだぞ?」 先ほどの一言、その続きを告げながら、ダグバに向けて一歩を踏み出す。 「どうして、誰よりも叩きのめしてやりたいネガタロスよりも貴様の相手を優先したか、教えてやろう。 他のヤツと違って、オレには貴様の炎を防ぐ手立てがあるからだ」 そう。まさに今やってみせた通りに――だ。 超能力によるものであろうが炎は炎。熱量の塊である点は自然界の炎と変わらない。そしてわずかながら描写されていた原作での発火シーンを見る限り、ヤツの炎は自然界の炎が発揮し得る温度域を超えるほどの熱量は持っていない。 なら、それ以上の熱量をもってあたれば防ぐこと、耐えることは可能なのではないか?――この場で即興で考えた対抗策だったが、どうやら図に当たっていたようだ。 「オレを殺したければその拳をもってかかってこい。 “炎”の瘴魔神将、“炎滅のイクト”――その名にかけて、全力を持って貴様を倒す!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「このぉっ!」 相手の目の前でほとんど直角にターン。こっちの姿を見失っているスキに再度突撃して、斬りかかる――けど、一瞬間に合わなかった。ギリギリで感づかれて、その手に握る、メチャクチャに枝分かれした剣に受け止められる。 奇襲は失敗。なので仕切り直そうと後退――しようとするけど、 「逃がさねぇよっ!」 相手も追ってきた。 ただし相対速度はほぼ同じ。両者の距離は変わらず―― 《Hound Shooter》 「――――――っ!?」 響いた声に気づいたローズイマジンが立ち止まって、その眼前を紫色の魔力弾が駆け抜ける――援護ありがと、マスターコンボイ。 「礼なら後だ……見ろ」 言われるけど、見るまでもない。 直後に響いた甲高い音が、マスターコンボイの魔力弾が一発残らず打ち砕かれたことを報せてくれたから。 僕の後退速度と同じぐらいのスピードなら、ガチの速さはこっちが上……簡単にいくかと思ってたけど、どうやらそう簡単な話じゃなかったみたいだ。 実際、さっきの不意打ちにも反応されたし、当てるつもりだったはずのマスターコンボイの援護射撃にも気づかれた。 こいつ……速さはそれほどでもないクセして、反応はむしろ僕らより速い……? 《そのようですね。 まぁ……正直『だからどうした』って話なんですけど》 だね。 アルトの言葉に全面同意。なので――迷うことなく突撃。 当然、相手も反応。手にした剣を横薙ぎに一閃、僕に向けてカウンターを狙う――なので、急停止してやりすごす。 もちろん、ただかわしただけじゃない。立ち止まった、相手の一撃をやりすごしたその間に、反撃の準備は万端っ! 放つ魔法は―― 「クレイモア!」 切り札のひとつ、クレイモア――もちろん非殺傷バージョンなんかじゃない。設定オフった、思いっきり殺傷力バツグンのヤツ。 相手の剣の間合いのギリギリ外側、至近距離からぶちかました魔力製ベアリング弾の嵐は全弾命中。相手の姿が一時的に爆煙の中に消える。 少なくとも無事では済んでいないはず。倒せていれば上等。でなくてもかなりのダメージを叩き込めたはず………………なっ!? 「……それで終わりか?」 結論から言えば……甘かった。 相手のダメージはほぼ皆無……しっかりと防がれた。 けど、僕が驚いた理由はそこじゃない。 ヤツが……ローズイマジンが、僕のクレイモアを“どうやって防いだのか”だ。 一言で言えばシールド。目の前に展開したそれで、僕のクレイモアを防いだんだ。 ただ、問題はそのシールドが“何なのか”。 “桃色に輝く、円形の魔法陣型のシールド”。これは…… 「なのはの……ラウンドシールド!?」 「うろたえるな、恭文!」 マスターコンボイ!? 「サリエル・エグザの言っていた可能性を思い出せ! ヤツが奪った連中の時間を“見る”ことができたとしたら……その仮定が事実だったなら、なのはのラウンドシールドを知っていてもおかしくない!」 あ、そっか。 「そんなこけおどしの猿真似で、オレ達を動揺させられると思うな!」 言いながら、僕に代わってマスターコンボイが突っ込む。一気に懐に飛び込んで、オメガを一閃。 けど、アイツの展開したラウンドシールドに防がれる――猿真似だったとしても、防御力はそれなりってことか…… 「フッ…… 本当に、猿真似だと思うのかよ?」 「何だt マスターコンボイの反論は最後まで続かなかった。 なぜなら、僕の目の前で―― “一瞬で背後に回り込んだローズイマジンにブッ飛ばされたから”。 そして――僕は見逃さなかった。 アイツが高速移動を見せた後、一瞬だけアイツのいた場所で弾けた――“電気変換された、金色の魔力の残滓を”。 つまりあれは――フェイトのソニックムーブ!? なのはのラウンドシールドだけじゃない。フェイトのソニックムーブまでアイツは再現してみせた。 けど……それだけなら、さっきマスターコンボイが言ったように『ただの猿真似』で片づけられただろう。 問題なのは……ラウンドシールドとソニックムーブの残滓で、“魔力光の色が違ったこと”。 どちらも、なのはの、フェイトの色、そのままだった。まさか…… 「お前……っ!」 「あぁ、そうさ」 イヤな予感が胸の中でふくれ上がる。うめく僕にローズイマジンが答えて――消えた! またソニックムーブか! 「――そっち!」 けど、使えると知っていれば話は別。アイツの動きを捉えて、振り向いて―― 「オレがただ、時間を奪えるだけだとでも思っていたのか?」 そこに、“桃色に輝く魔力砲のチャージを終えた”ローズイマジンがいた。 つか、マズイ。アレは―― 「ディバインバスター!?」 瞬間――魔力が荒れ狂った。解き放たれた魔力の渦が僕とマスターコンボイを飲み込む! とっさに展開したシールドもあっけなく崩壊、全身に直撃を受けた痛みを感じながら、一瞬自分の位置がわからなくなる。 目に映る世界がものすごい勢いで流れていくのを見て、吹っ飛ばされているのだけはなんとか理解できて――衝撃。数回繰り返された後ゴロゴロと転がる。あー、何度かバウンドしたのか。 《マスター!?》 「大丈夫……なんとかね」 アルトに答えて、身を起こす――けど、マズイ。 悔しいことにあの横馬には何度も煮え湯を飲まされてる。模擬戦やって、あの凶悪な砲撃で撃墜されたことも一度や二度じゃない――その経験が教えてくれる。 猿真似なんてものじゃない。今の砲撃の痛みは――“なのはのディバインバスターそのものだったと”。 そして、それは残念ながら、撃たれる前に感じた“イヤな予感”が当たっていたことの、何よりの証明。 つまり―― 「お前……フェイトやなのはの時間を!?」 「あぁ、そうさ」 あっさりと、ローズイマジンが答える。 「オレは奪ったヤツの時間を自分の時間に“重ねて”、自分の時間として使うことができる。 で……今お前らが味わった通り、今はあの娘っ子二人の時間を“重ねさせて”もらってるっつーワケだ」 「何だと……!?」 《マジかよ……!?》 「別に、そんなヤバイ話じゃねぇだろ。 お前らのよく知ってる相手の時間だぜ? アイツらを相手にしてるようなものだと思えばいいだけの話だぜ?」 驚いてるマスターコンボイやオメガにローズイマジンが答えてるけど……冗談じゃない。 アイツ、わかって言ってやがる……アイツの言う通りの簡単な話なんかじゃないって。 フェイトとなのはは二人。それをアイツはひとりでこなしてる……この違いは大きい。それもとんでもなく。 つまり…… フェイトばりのスピードで飛び回る相手が、なのはばりの砲撃ぶちかましてくるってことでしょうがっ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「やぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 気合一発、全力で突撃っ! マッハキャリバーがうなりを上げて、あたしは一気に距離を詰める――相手の迎撃はなし。難なく飛び込んで拳を繰り出す。 けど――ダメ。ファングもガミオも、あっさりとかわしてあたしの頭上に跳ぶ。 そう。“飛ぶ”じゃなくて“跳ぶ”――周りの廃ビルを利用して、三角跳びの要領で上空に逃れたんだ。 さっきからこの繰り返し。あたしの拳は一発も当たらない――だけど、何度も繰り返されればこっちだって慣れてくるんだからっ! 「逃がさないよ!」 《Wing Road》 あたしに代わってマッハキャリバーがウィングロードを展開。その上を走って、上空に逃げたガミオを追いかける! 当然、ただ跳んだだけのガミオよりもあたしの方が断然速い。一気に追いついて、リボルバーナックルで一げk――って、えぇっ!? 消えた!? ウソ、どこn 「きゃあっ!?」 瞬間、背中に衝撃と激痛――勢いよく近くの廃ビルの中に叩き込まれた。 後ろから、殴られた……!? けど、どうやって回り込んだの!? 「わかってねぇな!」 ――――――っ!? 聞こえた声に、とっさに跳ぶ――次の瞬間天井が崩れて、一瞬前まであたしのいた場所がガレキに押しつぶされる。 そして―― 「ガミオの旦那はガチで狼のグロンギなんだぜ」 そう言いながら、天井の穴から降りてきたのはファングだ。 「狼は主に山野で狩りをする――高低差のある場での動きってモンはオレやてめぇ以上にわかってんだよ! わかるか!? 空間を活かした立体的陸戦じゃ、てめぇに勝ち目はねぇんだよ!」 つまり……今の攻防、あたしは“純粋に体術で上回られた”……!? 映像ディスクで見た限り、仮面ライダーの怪人って能力頼み、力押しの印象が強かったけど……さすがはボス怪人。そんな単純にはいかないってことか。 …………けどっ! 「それならっ!」 だからってあきらめるつもりなんかない。ウィングロードでビルの中から飛び出すと、再び目の前に環状魔法陣を展開。スフィアを生み出して―― 「これなら、どうだぁぁぁぁぁっ!」 ファングや、彼と合流したガミオに向けてもう一発、ディバインバスターをお見舞いする――ただし、今度は直接は狙わない。わざと狙いをしぼらず、広範囲に魔力の渦をぶちまける。 ディバインバスター、広域バージョン! これで、ひとまず足を止める! 荒れ狂う魔力が、二人を飲み込んで―― 「だから、わかってねぇって言ってんだろ!」 ウソ!? かまわず突破してきた!? 驚きながらも身体は動く。とっさにガードを固めて――その上から叩きつけられたファングの蹴りが、あたしを思いっきり後退させる。 「く…………っ!」 すごい威力だ。受けた両腕がしびれてる……っ! 一瞬シールドで受けた方が良かったかも、って後悔するけど……こんな威力じゃ、きっとシールド張っても蹴り割られてた。むしろ魔力の無駄遣いにならなくてよかったかも。 それよりも……今のディバインバスターを突破してくるなんて…… 「残念だったな、あてが外れてよぉ。 オレはオオカミウオをベースにした瘴魔獣将だぜ」 対して、ファングの方はそれほどダメージを受けた様子はない。余裕の態度でそんなことを言ってくる。 「オオカミウオってなぁ、一応名前に“オオカミ”ってついてるが、実際にはそれほど獰猛な魚じゃねぇ。 けどな、その分類は硬骨魚網に属する――硬い骨格に支えられたその歯で、貝を殻ごとバリバリ食っちまうし、下手すりゃ人間の指だって食いちぎれるんだ。 その頑丈さが反映されたこのオレ様の防御力をもってすれば、拡散モードで威力の散ったてめぇの主砲なんざヘでもねぇんだよ!」 そして、ファングがもう一度突っ込んでくる――もちろんガミオも。 だけど……あたしだって負けられるワケないっ! あなた達を倒して、“降魔点”をぶっ壊して……お兄ちゃん達を絶対助けるんだっ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「くらえ!」 言いながら、ケンザンが身体を丸めて……ぅわ、転がってきた!? しかも、全身のトゲを逆立たせて。地面に刺さっても何のその……というか、地面をえぐりながらこっちに向かって突っ込んでくる。 けど…… 「だから、そんなの当たらなきゃどうってことないんだって……ヴァ!」 日下部さんのマネをしながら、アイギスを一閃。 ただし、攻撃のためじゃない。軌道をそらせるための一撃だ。狙い通り、転がってきたケンザンはコースを変えて―― 「ぶぎゃっ!?」 よし、ジョーカーにストラーイクっ! ケンザンはジョーカーを轢きつぶして、そのまま駆け抜けていった。ジョーカーは…… 「く……っ、そ、が……っ!」 あ、生きてた。まぁ、アンデッドだしね。 ……もっとも、アンデッドなおかげで仕留めるのは絶望的なんだけど。 パスボルやケンザンも普通に強いし。今のところは何とかなってるけど、元々数からして不利なんだ。 時間をかけたら絶対にマズイ。速攻で叩くべきなんだけど……っ! 「オラぁっ!」 そんな余裕ないしっ! 身体を風船みたいにふくらませて、ボディプレスをしかけてきたパスボルの巨体を回避して―― 「そこだっ!」 パスボルはオトリ。私の回避先に回り込んでいたジョーカーの爪、あちらさんの本命の一撃を、身を沈めてかわす。 「逃がしゃしねぇぜっ!」 でぇっ!? またケンザンの回転攻撃キタ――ッ! ――なんて驚いてみせたけど、実際には対応できるんだけどね。あっさりと回避っ! ケンザンは私の後ろに駆け抜けていった。今の内にジョーカーに一撃入れて、眠ってもらうっ! 狙いをジョーカーにしぼって、地を蹴って―― 「きゃあっ!?」 “背後から、全身を引っかかれた”。 「わぁぁぁぁぁっ!」 強烈な衝撃が、私を大地に叩きつける――ゴロゴロと転がって、ようやく停止。 うー、後ろ半身全体がズキズキする……たぶん、ケンザンの体当たりなんだろうけど、かわしたばかりの攻撃が後ろからくるなんて…… Uターンしたにしては返ってくるのが速すぎる。まるで“何かに跳ね返されてきたみたいに”…… 「………………あぁっ!」 気づいた。ガバッ!と身体を起こして振り向いてみれば、推理通り背後――ケンザンが最初転がっていった先には、さっきボディプレスを外したパスボルがいた。 つまりケンザンはふくらんだままのパスボルの身体をトランポリン代わりにして、自分の体当たりを跳ね返させた――けど、あの場にパスボルがいたのは私へのボディプレスを外したから。 パスボルがボディプレスをかわされたを見て思いついたとっさの連携か、それとも最初から狙って私を誘導していたのか……どっちにしても、能力頼みのバカじゃない。頭の方もそうとう回る相手だってことだ。 うー、ますますヤバイよ、これ……今みたいな連携を、しかも狙ってかましてこられるんじゃ、この先どんな変幻自在な攻め方をされるかわかったものじゃない。 となると…… 「とりあえず……真っ先に叩かなきゃいけない相手は決まったかな?」 とりあえず倒しても死なないジョーカーは論外。一撃入れて気絶しててもらおうかと思ったけど、この際後回しだ。 それよりも連携の要、パスボルを急いで叩かないと絶対にマズイ……振り回されて、手に負えなくなるその前に。 とはいえ、どうするか……アイギスの斬れ味、けっこう自慢なんだけど、それでもアイツの柔らかい身体を斬ることはできなかった。 あぁいう相手を倒すには…… 「……やっぱり、これだよね」 つぶやきながら、アイギスを水平にかまえて、その切っ先をパスボルに向ける――そう、刺突だ。 『るろ剣』の参號夷腕坊しかり、『YAIBA』のゴールドさんしかり……この手の相手を倒すための常套手段。ありきたりだけど、これで……っ! 「…………いくよっ! マグナムキャリバー!」 《Absorb Grip.》 叫ぶと同時に、マグナムキャリバーが大地をしっかりと踏みしめる――タイヤがうなりを上げて、一気に加速した私はパスボルに向けてツッコんで……じゃない、突っ込んでいく。 「へっ、オレの身体をぶち抜こうってか!? 上等だ! やれるものならやってみろ!」 「それじゃ……お言葉に甘えてっ!」 そんな私の狙いに気づいて、プライドが刺激されたらしい――受けて立ってくれるらしいパスボルに応えて、私は一直線に突撃。そして―― 「とぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」 地を蹴った。突撃の勢いそのままに、パスボルの腹に飛び込む! 刃を突き立てて、そのまま全身がパスボルの腹に飲み込まれるみたいに突っ込む――距離にして数メートルは突っ込んだと思うけど、それでもパスボルの身体は貫けない。伸びに伸びて、私を包み込むような感じで後ろに向けて突出してる。 この勢いでもダメか……このままじゃすぐに失速して、正反対の方向にブッ飛ばされる。 そう……“このままじゃ”。 「ブレイズ、ロォォォォォドッ!」 だからこうする――ブレイズロードを“座標を固定せずに”展開っ! 空中に固定されず、ただ生み出されただけのブレイズロードは、マグナムキャリバーのタイヤに“送り出されて”後方へ流されていく。 その先端はあっという間にパスボルの身体から飛び出して、向かいのビルの外壁に激突して停止。となれば当然―― ――――ぐんっ! こうなる。ビルに突き刺さって止まってもなお生み出されて、伸び続けているブレイズロードは、私の身体を支えるつっかえ棒……ううん、むしろ私を前方に押し出す押し棒となって、私を、私が支えるアイギスの刃をさらにパスボルの身体に押し込んでいく! 「ぐ……ぉおっ!?」 当然、パスボルの身体はますます後ろに伸びていく。よせばいいのに意地を張ってその場に留まり続けているパスボルの声にうめきが混じってきたのが、ヤツのお腹を通じて伝わってくる。 あと……少しっ! 「いぃぃぃっ、けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 気合一発。ブレイズロードを支えに、私がさらに踏み込んで―― アイギスの切っ先に感じていた手応えがなくなった。 ばづんっ!と何かが破れるような音と同時に、私の突進を止めていた抵抗が消えた。同時に視界が開けて、私達の戦っていた廃棄都市の光景が見える。 つまり―― 「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」 ぶち抜いたんだ――パスボルの、風船のような、ゴムのような身体を。 けど、私にはパスボルがどうなったか、確認する余裕はない――だって、勢い余ってぶっ飛んでる真っ最中だし。 パスボルの身体っていう抵抗がなくなって、一気に飛び出した私は失速しきれず前方のビルのショーウィンドウに突っ込んだ。店内に置き去りにされていたマネキンを薙ぎ倒して奥の壁に激突、ようやく止まった。 ……つか、いったぁいっ! 痛いよホント! バリアジャケットなかったら全身粉砕骨折間違いなしだよっ! 「いたた……」 《痛がるのは後にして、相手の確認を》 「わかってるよぉ。 けど、少しはムチャしたマスターを労わってくれてもいいじゃない」 《何言ってるんですか。 基本ギャグキャラ体質のあなたがあの程度でケガするはずないじゃないですか》 「……鉄壁にして不本意極まる信頼をアリガトウ」 そっか……私ギャグキャラ体質なのか…… マグナムキャリバーの毒舌にため息をつきながら、店の外へ。私がぶち抜いたパスボルの様子を確認する。 ……私がぶち抜く、もっと言うと突撃かますまで立っていたその場に留まったままだ。私にぶち抜かれた身体の大穴をささらしたまま、じっとその場に立ち尽くしている。 大穴の断面からはバチバチと火花が散ってる。やっぱり前の瘴魔獣将と同じで戦闘機人ベースか――なんて納得してると、パスボルの身体が前のめりに倒れて――爆発。 これでひとり撃破。あと……二人っ! 「さぁ……次はそっちの二人の番だよ!」 言って、アイギスの切っ先をジョーカーやケンザンに向ける……んだけど…… …………笑ってる? 仲間がやられたっていうのに、アイツら、ぜんぜん動揺してる様子が見られない。それどころか、余裕の笑顔まで見せてくれている。 「……へぇ、悪役らしく、薄情なところを見せてくれるね。 仲間がやられたっていうのにその態度? 特にケンザン。パスボルは双子の兄弟なんじゃなかったっけ?」 「フンッ、笑いたくもなるさ」 声をかける私に答えて、ジョーカーはニヤリと笑って―― 「こうも“作戦通りに事が運んでしまうと”な」 ……“作戦通り”? つまり、アイツらにとって、パスボルがやられるのは作戦の内……何かの目的で、捨て駒にした? もちろん、それが単なるハッタリの可能性もある。けど、それを確かめる方法はないし、本当だとしたら、その目的はいったい……? なんか、うかつに飛び込むのは危ないっぽい。アイギスの切っ先を相手に向けて牽制したまま、注意深くあちらさんの様子をうかがって…… 視界がかたむいた。 「………………っ!?」 理由は簡単。“私がふらついた”んだ――とっさに踏んばって、とりあえず転倒はしないで済んだ。 けど、どうしていきなり……? 「……フンッ。 どうやら、“効いてきた”みたいだな」 「ケンザン……私に何したの!?」 「オレ達じゃないさ。 やったのはパスボルであり……お前だ、泉こなた」 え………………? パスボルはわかるとして……私が? 「わからないか? パスボルのベースになったフグの持つ特性は、威嚇のために膨らむ身体と、もうひとつ――」 ………………っ! 「フグ毒……っ!」 「そういうことだ」 やられた……っ! アイツらが言ってた通り、アイツら、最初からこれを狙ってたんだ……っ! 私にパスボルを真っ先に叩かせることで、パスボルの体内のフグ毒の成分を周りにばらまいたんだ――そして、私はそれに気づかず、フグ毒をまともに浴びてしまった……っ! けど、そんな毒物、バリアジャケットの魔力障壁で防げそうなものなのに……っ! 《マスター、大気中の毒物の検出に成功しました。 魔力粒子よりもさらに小さい微細なものです。これなら魔力障壁の魔力流の隙間を抜けてマスターに達するのは不可能ではありません。 また、これほど小さな物質では通常のサーチでも捉えられません。明らかに対魔導師戦を意識した毒です。 毒の構造も未知のもので現状での即時解毒は困難。すぐに解析にかかります》 「お願い」 「『解析』か…… そんな余裕があればいいがなっ!」 ――――来たっ! 突っ込んでくるジョーカーに向けてアイギスをかまえ――ようとするけど両腕がうまく動かせない。防御が間に合わなくて、まともにお腹に蹴りをもらう。 強烈な衝撃に今朝の朝ごはんをリバースしそうになる――直後、背中への衝撃で自分が吹っ飛ばされてたんだと、後ろのビルの壁に叩きつけられたんだとわかった。 ……起き上がれない。全身がしびれたように動かない。そーいや、テトロドトキシンって神経毒だったっけ……っ! 倒れたままの私に向かって、ジョーカーやケンザンが悠々と歩いてくる…… えっと……これ、もしかして詰んだ? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ く………………っ! 次々に自分を狙う相手の爪をかわして、後退する――もちろん、ストラーダを振るっての牽制も忘れない。 さっきからこの繰り返し。ボクの槍は、まだ一度も相手を捉えられていない。 というのも―― 「防衛線が……厚い……っ!」 そう。原因は目の前を阻んでる、“大量のモンスターによる”防衛線。 モンスターの身体は青くて細長い金属質。翼は昆虫独特の透明な四枚羽根……要するに昆虫型。 ハイドラグーン。『仮面ライダー龍騎』終盤で大量発生した、現実世界でも長時間活動できる群体型ミラーモンスター……だったっけ。それが群れを成して、ボクの行く手を阻んでる。 そして―― 「どうしました、エリオ・モンディアル? まだ一度たりとも、あなたの槍はこの私を、その間合いにすら捉えておりませんが」 その分厚い防衛線の向こうには瘴魔獣将。まるで法衣のようなローブの上から、あちこちに楕円形のシールドプレートを取りつけたデザインのプロテクターを装着したそのいでたちは積極的に動き回るタイプには見えない。 たぶん、キャロと同じようなフルバック……後方支援型の瘴魔獣将なんだと思う。 「その程度とは拍子抜けですね。 この私――“マンボウ”のファミリアを、ただの一歩すら動かすことができないとは」 「こんなたくさんのミラーモンスターに自分を守らせておいて、よく言いますね」 余裕の態度の瘴魔獣将――ファミリアに軽口を返す……ぅわ、鼻で笑われた。 「それは当然ですよ。 私は、他の瘴魔獣将と比べて直接の戦闘能力については少々劣っていますから。そこを補うための戦力を用意するのは妥当な選択でしょう?」 言って、ファミリアは周りを飛び回るそれ……ハイドラグーンじゃない。小さなマンボウのような“空飛ぶ魚”を見回した。 どうも、アレがハイドラグーン達に指示を下してる、指揮中継端末のようなものらしい。 「私は指揮管制型の瘴魔獣将――眷属たる我が使い魔を媒介に、集団を指揮することに長けているのですよ。 ルールに守られたフェアなスポーツではないのです。自分の武器を最大限に発揮して相手を叩くことに、いったい何の不条理がありますか?」 「別にないですし、言ってることだってもっともなんですけど……それで苦労してる身としては、文句のひとつも言いたいんですよっ!」 言いながら、突撃――立ちふさがるハイドラグーンを一体、ストラーダの一突きで粉砕する。 と、視界に別のハイドラグーン。バックステップでその突撃をかわして、狙いを外したハイドラグーンは歩道沿いの消火栓を薙ぎ倒して墜落する。 消火栓はまだ機能が生きていたらしい。水が勢いよく噴き出して降り注ぐ――そんな中、ボクは改めてファミリアに向けてストラーダをかまえて…… 「私の勝ちですね」 ………………え? いきなり、ファミリアの口から勝利宣言……えっと、どうして……? 「お忘れですか? このハイドラグーン達はミラーモンスターです。そして――」 「ミラーモンスターは、“景色が映り込むものであれば、何であろうとミラーワールドとのゲートに利用できるということを”」 ――――――っ!? 言われて――気づく。 ボクの足元にある――“たくさんの水たまりに”。 「しまっ――」 その一言を最後まで言い切る前に―― 衝撃と共に、ボクは宙を舞っていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「フリード!」 「ガァッ!」 わたしの声に短く答えて、動く――わたしを乗せた、召喚状態のフリードが急上昇。そして――ブラストレイ! 狙い通り、全弾命中。標的が爆発の中に消えて―― 「――――――っ! 危ない、逃げてっ!」 間一髪。わたしの声にフリードが身体をひるがえして、煙の中から撃ち出された、魔力やスパークとは違うエネルギーの弾丸をかわす。 同時に、その射撃で標的を包み込んでいた煙が吹き散らされる――そして姿を現した、全身真っ白な怪人はまったくの無傷。 みんなで見た“原作”の通りだ……アークオルフェノク。『仮面ライダー555』に登場した怪人種族、オルフェノクの“王”。 “原作”では仮面ライダーの人達の総攻撃にもビクともしなかった。あの防御力は、決して話の上での演出なんかじゃなかったらしい。 話の中じゃオルフェノクを不死にしたり捕食したりと生殺与奪の権利を完全に握ってたけど、それ以外には特に特別な能力は登場していなかった。おかげで『対同族に特化した能力の持ち主』みたいな印象があったんだけど……それを抜きにしても、やっぱり最後の敵だけあって、強い……っ! それに―― 《Caution!》 ――――――またっ!? ケリュケイオンが警告してくれる。回避は間に合わない――展開したシールドで、後ろから飛来した弾丸を防ぐ。 そう――“真っ向からにらみ合ってるアークオルフェノクとは別方向から”。さっきから、アークオルフェノクとは別に、わたし達を狙ってきている狙撃手がいる。 ずっとサーチをかけてるけど、射撃のエネルギーを感知できるだけで、相手の姿は影も形も捉えられない。姿が見えないだけじゃない、ケリュケイオンのサーチまでごまかせるくらいの高度なステルスを施しているみたいだ。 目に見える位置から撃ってくるアークオルフェノクの光弾はフリードに回避を任せて、わたしは見えない狙撃手からの狙撃をシールドで防ぐ。またまた飛んできた光弾に向けてシールドを展開して―― 光弾が“曲がった”。 「え――――――?」 誘導弾――っ!? いきなり軌道を変えられて、光弾を見失った。どこに―― 「きゃあっ!?」 突然の衝撃――次に状況を認識した時には、わたしはフリードの背中から空中に放り出されていた。 「オォォォォォッ!」 もちろん、フリードがすぐに対応してくれた。落ちていくわたしに追いついて、その背中で受け止めてくれる。 落下感がなくなって、ようやく今の衝撃……被弾の痛みが具体的になってきた。左手が痛みでしびれてる。バリアジャケットの魔力障壁のおかげで直撃こそしてないけど、それでもかなりの衝撃だったみたいだ。 腕全体がしびれていて、しばらく動かせそうにない。これじゃ左側の防御が―― 「――――フリード!」 イヤな予感がして、フリードに警戒してもらおうと声を上げる――けど、遅かった。 相手もそれは承知の上――というか、最初から狙ってたんだと思う。見えない相手からの狙撃が、今までとは一転してたくさん飛んできた。そのすべてがさっきみたいに軌道を変えて、わたし達の左側から一斉に襲いかかってくる! とっさに右手でシールドを展開。左側からの攻撃を受け止めて―― 「きゃあっ!」 「ガァッ!?」 今度は右側から――狙撃じゃない。アークオルフェノク! 挟み撃ちにされた! 両側から攻められたら、右手一本でしか防御できない今のわたしじゃ対処できない。召喚状態のフリードの大きな身体じゃかわしきれない――右側にもらった攻撃で防御を崩されて、一気に攻め込まれた。 立て続けの攻撃がわたし達を捉える――もうどっちからの攻撃かもわからない。衝撃で直撃したとわかるだけ。 さらにそこに落下感までプラス――フリードが墜落してるんだとわかるけど、どうしようもない。 「きゃあぁぁぁぁぁっ!」 そして――大きな衝撃。フリードの背中から放り出されて、地面を転がる。 「いたた……っ! フリード、大丈夫!?」 「グルゥ……ッ!」 わたしの問いかけに、フリードの力強いうなり声が応えてくれる……よかった、大丈夫みたいだ。 『…………よくしのぐじゃないか』 ………………っ! それは、この戦いが始まったから初めての、言葉による相手からの呼びかけ――念話じゃない。周り全体に響いてる。 アークオルフェノクからの発言でもなさそう。たぶん、狙撃手の声……っ! 『だが……ムダだ。お前はもう、逃げられはしない。 このオレ……“テッポウウオ”のスナイプ様からはな!』 あぁ……納得。元々水鉄砲で獲物を獲るテッポウウオがベースだから、狙撃タイプなんだ…… 思わず場違いにそんなことを考えて……今の言葉が戦闘再開の合図だったんだろう。スナイプからの攻撃だと思う、たくさんの光弾がわたし達に向けて飛んできて―― ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「あらよっと!」 はーい。こちらホクト。現在“降魔点”のひとつで戦ってまーす♪ ……なんてふざける場合じゃない。ものすごい速さでこっちを狙ってくる、槍の連続攻撃をパパから教わったステップでよけていく。 「よく逃げるじゃないかっ! だがな――この“ミノカサゴ”のピアスの槍から、いつまで逃げられる!?」 「ずっと逃げるに決まってるよっ!」 攻撃してくる相手――ピアスっていうらしい。その人に言い返して、後ろに跳んで距離を取る。 さっきから一方的に攻められっぱなしだ。こういう時は一度離れて……ぅわ、追いかけてきた! 離れられない! 「仕切り直しなど許すものかっ!」 「許してよっ!」 ピアスに言い返して、相手の槍をわたしのデバイス、大鎌のニーズヘグUで弾く。 けど、またすぐに次の攻撃が飛んできて、わたしもそれをまた弾く――ぅわーんっ! さっきからずっとこんなだよっ! 一応、攻められっぱなしな理由はわかってる……振り回して攻撃するわたしのにーくんよりも、引いて、突き出すだけの向こうの槍の方が連続攻撃のスピードが速いんだ。 向こうもそれをわかってるのか、攻めの手を緩めるつもりはないみたいだし…… 「…………だったらっ!」 両手に着けてるリボルバーナックル、そのナックルスピナーがぎゅんぎゅん回転。そしてわたしは――“にーくんを放した”。 「何っ!?」 まさかにーくんを放すなんて思ってなかったんだと思う。ピアスの動きが一瞬だけ止まって――その一瞬で、わたしは思いっきりピアスを殴り飛ばす! 「にーくんっ!」 《All right.》 わたしの呼びかけににーくんが応えて――“戻ってきた”。 わたしをサポートするために作られたにーくんは、元々飛行魔法の応用である程度は自分で動けるように作られている。 普段は攻撃の加速や、わたしが気づかなかった攻撃を防ぐために勝手に動く時とかに使われるんだけど……その機能を使って、自分をプロペラみたいに回転させて飛んできたんだ。 そんなにーくんをキャッチして、プロペラ回転の勢いを殺さないように振り回す。そのまま、ピアスに突っ込んで一げk 「きゃあっ!?」 いきなり、ブッ飛ばされた――気がついた時には、地面に激突して、ゴロゴロと転がってた。 「な、何……っ!?」 あちこち痛くて、うまく動けない――とりあえず顔だけ上げて周りを見るけど、ピアスはわたしの一撃で落とした槍を拾いに行ってる最中だ。 あの様子じゃ、たぶん今のはピアスの攻撃じゃない。じゃあ、ピアス以外にも敵がいる……? そう思って……気づいた。 何か……いる。 位置はわからない。わからないけど……何かがいる。それだけはわかった。 気配の位置がメチャクチャだ。右にいたかと思ったら左、今度は正面……まるで高速であちこち走り回ってるみたいだ。 …………ん? ……“高速で走り回ってる”? まさか…… 「クロック、アップ……?」 「ほぉ……知ってるのか、オレ達の能力を」 思わずつぶやいた声に答えが返ってきた――そしたら、目の前にそいつがいきなり現れた。 見覚えがある……『カブト』は全部見てたから、そこに出てきたヤツだと思う。えっと…… …………えっと…… ……えっと…… 「………………なんとかワーム!」 「それだと全部のワームが当てはまるよなっ!?」 ワームの人から怒られた。 《マスター、あれはグリラスワームです。 TVシリーズの最後に出てきた、最強のワームです》 ありがと、にーくん。 とりあえず、なんとか立てたから、にーくんをかまえて、パパから教わった悪口でもひとつ。 「でも、ずいぶん出てくるのが遅かったね。 おねしょしたお布団でも隠してたのかな?」 《そんな、昨日のマスターじゃあるまいし。 しかも結局バレて母上様に怒られましたし》 「わーんっ! にーくん、バラしちゃだめーっ!」 「……やれやれ、見た目通りのガキというワケか」 ほら! にーくんのせいでピアスにもバカにされちゃったしっ! 「だが、実力はあなどれん。 ここからは貴様がガキだということは忘れて、我ら二人で、本気でやらせてもらうぞ」 「負けないんだからっ! 勝つのはわたしだよ、ピアス! それに……えっと……グラスワーム!……あれ、グリスワームだったかな?」 「“グリラス”ワームだ。 断じて芝でもなければ対磨耗油でもない」 ……丁寧に教えてもらっちゃった。 「と、とにかくっ! 戦いはこれからだよっ!」 なんかこのまま話し続けてるとどんどんバカだと思われていっちゃうそうだから、そこまでにして突っ込む。 わたしはバカなんかじゃないもんっ! お前達をやっつけて、そのことをしょーめいしてやるんだからっ! 「さて……できるかな?」 そんなふうに答えて、グリラスワームが消えて―― 「ふぎゃっ!?」 いきなり頭の後ろに痛みが―― 「ごふっ!?」 今度はお腹!? すぐに次。右手、左足、背中――身体のあちこちに、ほとんど同時と言ってもいい勢いで痛みが走る。 たぶん、グ……リラスワームの攻撃だと思うけど……何されてるのか、ぜんぜんわかんない。 これが、クロックアップ……速すぎるっ! どこにいるかもぜんぜんわかんないよっ! 何もできないまま、背中にもらって、ふらついて―― 「そらよ――オレもいるんだぜ!」 そんなわたしに、今度は槍をかまえたピアスが突っ込んできて―― ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「くっ……ウィングロード!」 《Wing Road.》 私の叫びにブリッツキャリバーが呼応して、蒼色の帯状魔法陣が空を走る――その上を一気に駆け上がり、振り下ろされた刃をかわす。 そのまま、一撃をかわした相手に向けて蹴りを―― 「させるかっ!」 瞬間、衝撃と共に吹っ飛ばされる――すぐに体勢を立て直して、ウィングロードの上に着地。 けど、そこに銀色の刃が飛び込んできた。リボルバーナックルでさばいて、受け流す。 刃の主に蹴りを入れて、その反動で距離を取る。そこで一度仕切り直し……に見せかけて、再度突撃! 完全に虚を突いた。これなら―― 「甘いんだよ!」 「――――くっ!」 またしても横槍が入った。空を飛び……いや、滑空して飛び込んできたもうひとりの体当たりを身を沈めてかわすと、その間に立て直した標的からも槍が繰り出されてくる。 奇襲失敗は明らかだ。この場に留まる理由はない――槍をバックステップでかわして、その着地際を狙ってきたもうひとりの足払いも直前のステップでバック転に切り替えてやり過ごす。 無事相手の間合いから脱出。距離を取ると今度こそ仕切り直し。 ……というか……まずい。 こっちの攻め手が、ことごとくしのがれてる……やっぱり二対一じゃ思うように攻められない。しかも相手の一方がこっちの攻撃つぶしに専念しているような状態じゃなおさらだ。 ウィングロードも使って立体的に攻めてるのに、しっかり対応されてる……まぁ、空中戦については向こうの方が能力が特化してるんだし、納得できる部分はあるんだけど。 「やるじゃないか、ギンガ・ナカジマ。 この“トビウオ”のグライドを相手に、空中でそこまで戦えれば上出来だ」 「それは、どうも……っ!」 そう――攻撃つぶしを担当してる、相手の瘴魔獣将がトビウオベースなんだ。滑空による一時的なものとはいえ空を飛ぶ能力を持つトビウオの能力が反映されているだけあって、鎧の背中に備わったトビウオのヒレ状の翼による空戦機動はなかなかあなどれない。 そんなふうにグライドの能力を改めて分析しながら、もうひとりに視線を向ける。 全身に銀色の鎧をまとった、身の丈ほどの槍を手にした武人風の怪人――データによると『仮面ライダー響鬼』の劇場版に登場した、ヒトツミっていう怪人らしい。 実際立ち合った感想としては……エリオくんには悪いけど、槍の腕前は彼より上だ。テクニックだけなら、サリエルさんとも互角に戦えるくらいのレベルだと感じた。 それと……まだ使ってきてないけど、“原作”では幻覚や毒霧も使っていたらしい。そっちも気をつけておかないと……とはいえ、 「……いきますっ!」 使われる前に叩いてしまえば関係ない。地を蹴って、ヒトツミに向けて突っ込む。 当然、グライドもこちらの突撃をつぶそうと側面から私を狙ってくるけど―― 「ブリッツキャリバー!」 《All right.》 ここでブリッツキャリバーが加速。タイミングをずらしてグライドの体当たりをかわすと、そのままヒトツミに向けて思い切り左拳を繰り出して―― 背中に、焼けつくような痛みが走った。 「あぅ……っ!?」 突然の激痛に、姿勢が崩れる――直後、また衝撃を受けて吹っ飛ばされた。 吹っ飛ばされながら、ヒトツミが槍を振り抜いた姿を見る――二度目の衝撃は彼の仕業らしい。だとしたら、一度目の背中への攻撃は……!? 地面に突っ込んで、衝撃で一瞬思考が止まる。さらに地面を転がって、ようやく吹っ飛ばされた私の身体も動きを止めた。 衝撃から解放されたことで、背中の痛みが具体的に感じられてくる――打撃じゃない。この焼けるような痛み、その発生源が細く、一直線に走っている感じは……斬撃だ。 正面にいたヒトツミや、体当たりをかわされたばかりのグライドじゃない……新手……? そう思って見回してみると……いた。ヒトツミやグライドに合流する、赤い鎧の怪人が。 その手には、新鮮な血のしたたる剣が一振り……誰の血かなんて、考えるまでもない。 アイツに関するデータは……あった。 火焔大将……ヒトツミと同じ、『響鬼』の映画に出てきたヤツだ。 三対一。しかも背中には不意打ちによる重傷……状況は最悪だ。 普通なら一度退いて立て直すべきところなんだろうけど…… 《マスター》 「……退かないよ」 《わかっています》 そんなつもりはない。即答する私の言葉は予想の範囲内だったのか、ブリッツキャリバーが応急処置用の簡易治癒魔法で痛みを抑えてくれる……ありがとう。 そうだ……退くつもりなんかない。 コイツらのせいで、ジュンイチさん達が……そして、コイツらを何とかしないと、なぎくん達がジュンイチさんを助ける手助けにはならないんだ。 だから……退けない。退けるワケがない。 「……いくよ、ブリッツキャリバー!」 《All right.》 ブリッツキャリバーの答え同時、地を蹴る……絶対に、勝つんだ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ぬがっ!?」 ………………よし。 あたしの放った魔力弾は、狙い通りガラ空きのアイツの後頭部にヒット。 「くそっ、後ろか!」 けど、相手もさるもの。すぐに後ろに向けて反撃。振るった剣から放たれた瘴魔力による衝撃波が、行く手のガレキを薙ぎ払って――“幻の”あたしを吹き飛ばした。 当のあたしはまったくの別方向に退避済み。というワケで―― 「がふっ!?」 もう一発。今度は地面スレスレに低空飛行させていた一発をアイツの足元で急上昇。真下からアゴを“撃ち”上げてやる。 「ぐ……っ、またハズレかよっ!? どこに逃げやがった!? この“カジキマグロ”のバラクーダ様に恐れをなしやがって!」 なんか向こうはわめいてるけど……誰がアンタにあわせて戦ってやるかっての! とりあえずは順調。細かい一発を確実に当てていって、アイツを撹乱、さらに怒らせて冷静な判断を奪う。 アイツみたいにバカみたいな挑発なんていらない。あぁいう短絡なヤツは、自分の思い通りにいかないとすぐにイライラして勝手にキレてくれる。 このまま怒らせていけば、いずれ決定的なスキを見せるだろう。その時を逃さず……ん? 何……? あの、バラクーダのそばに飛んできた小さいヤツは……あ、バラクーダがこっち見て―― 「……“そこか”」 ――――――っ!? 忍ばせていたサーチャーが拾った声に、アイツの言葉に背筋が凍る――とっさにその場を離れたあたしの背後で、アイツの放った衝撃波が荒れ狂う。 明らかに、さっきまであたしがいた場所を狙ってた……見つかった!? けど、なんで……!? いや、考えるのは後だ。もう一度身を隠して、アイツを狙う。 攻撃が当たったか確認するつもりなんだろう。アイツが衝撃波で薙ぎ払われた跡地に向かう。その姿を後ろから狙い撃ちに―― 「……そっちか!」 ――って、また見つかった!? またしても、アイツの衝撃波があたしを狙う――今度は回避が遅れた。なんと直撃は避けたけど、少しばかり巻き込まれて地面を転がる。 間違いない。まぐれなんかじゃない――アイツはいきなり、正確にあたしの位置を捉え始めた。 けど、どうして……――――っ!? 「そこっ!」 不意に背後で何かが動いたのを感じた。誘導弾で狙撃――回避して、逃げ出そうとしたソイツの後を追って、叩き落とす。 一発で仕留めた。地面にボトリと落下したのは…… 「コウモリ……?」 そう。地球にも普通にいる、コウモリだ……まったく、驚かせてくれて…… ――――――っ!? 瞬間、背筋に悪寒が走る――とっさに跳んだ直後、一瞬前まであたしがいた場所を“拳が撃ち抜いた”。 跳びのいたその勢いのまま、さらに距離を取る――振り向いて、相手の姿を確認。 少なくとも瘴魔獣や瘴魔獣将のような感じじゃない。たぶんライダー関係の怪人――まるで血を頭からかぶったみたいな、おぞましい赤色が印象的。そして“コウモリの翼の”装飾で全身各所を飾ってる。 そう。コウモリの怪人……だとしたら、さっきのコウモリはコイツが……!? 「追い詰めたぜ、小娘が」 ――って、バラクーダまで!? 「てめぇも不幸だな。 よりにもよって、コウモリの能力を持つファンガイアのキング――バットファンガイアの旦那と当たっちまうなんてな」 「コウモリは超音波によるレーダー器官を持っている。 たとえ幻術で姿をくらませても、そこに物理的に存在している以上、コウモリ達はお前の居場所を探り出す。 オレが出てきた以上、貴様のチャチな幻術はもはや通用しないってことだ」 「言ってくれるじゃない……っ! 幻術を封じた程度で、あたしを倒せると思わないでよ」 わざわざ新手を紹介してくれるバラクーダや余裕の態度で能力をバラしてくるバッドファンガイアに答えて、仕掛けるスキを探る。 そう。幻術だけがあたしの武器じゃない。この程度で…… 「そうは言うが、貴様こそ……」 「オレのコウモリが、探知しかできないとでも思っていないか?」 その言葉に――ようやく気づいた。 いつの間にか、コウモリの数が異様に増えていることに。 そのどれもが、血走った目をあたしに向けている。まさか…… 「さぁ……コウモリ達よ! その小娘の血、一滴残らず吸い尽くしてやれ!」 やっぱり……吸血コウモリ!? バッドファンガイアの言葉と同時、コウモリ達が一斉にあたしに向けて殺到して―― ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……まだやるか?」 尋ねるが――柾木あずさからの回答はない。 オレの一撃によってビルの壁に背中から叩きつけられ、崩れ落ちたその姿勢のまま、苦しげに肩を上下させている。 ヤツらの防護服、バリアジャケットはあちこちがズタズタに引き裂かれている。鎧のデバイスも身に着けていない状態で、オレの爪や杖を何度もその身に受けたのだから、当たり前ではあるのだが。 当然、その下の身体はもはやボロボロだ。もう動けない、か……? ……いや、動いた。口の中に溜まっていたらしい血を吐き出すと、口元の血をぬぐいながら、戦斧――確かレッコウといったか。それを手にして立ち上がる。 レッコウを杖にせず、自分の足で立ち上がるか……まだ余力はあるようだな。 だが…… 「――――――せいっ!」 「ぬるいっ!」 それでオレと戦えるかどうかは別問題だ。横薙ぎに振るわれた柾木あずさの刃を我が戦杖で受け止め、受け流す。 「何度やっても、オレには勝てん!」 そして、攻撃をさばかれ、スキだらけになった柾木あずさの腹を蹴り飛ばす――吹っ飛ばされ、彼女の身体が近くのガレキの山に突っ込んだ。 「よく持ちこたえたものだ。 だが……もう限界が近いようだな」 そう。本当にコイツはよく持ちこたえた。 ライオンをモチーフにし、その獰猛さを体現しているこのオレを相手に、ライダーでもない、他の六課フォワードのように才能に恵まれたワケでもないその身で、ここまで戦ったのだから。 機動性を重視し、使うデバイスはレッコウのみ――その判断も悪くはなかった。 しかし、それでもオレには勝てなかった。彼女の力では、オレに対して善戦するのが精一杯だった。 そして――それも、もう終わる。 「貴様への敬意を表し、苦しませるようなことはしない。 一瞬で……終わらせてやる」 彼女の胸倉をつかみ上げ、告げる。彼女に向けて、杖をかまえて―― 「…………“ありがとう”」 「……何?」 今、コイツは何と言った……? 『ありがとう』……? この状況で、礼を言うようなことなど―― 「ぐぅっ!?」 瞬間――彼女をつかんでいた左腕に痛みが走った。 彼女の魔法だ。電撃でオレの腕を弾き、その手から逃れると距離を取る。 だが――レッコウはかまえない。どこかスッキリしたような物腰で、前髪をかき上げながらオレに向けて告げてくる。 「おかげさまで……目が覚めたよ」 「何……?」 「今まではさ……ちょっと前のめりになりすぎてたみたい。 初めて会えた、『負けたくない』って思える相手……それに、お兄ちゃん達のこと……いろいろ重なって、気持ちばっかり先走ってた。 けど、あなたにやられたおかげで、それもどうにかなった。 血を流してくれたおかげで、頭に上ってた血が少しばかり抜けた。しこたまぶん殴ってくれたおかげで、喝を入れてもらえた。 おかげさまで……ここからは、ちょっとは“らしく”戦えそうかな?」 フンッ、オレに叩きのめされて、根性が叩き直されたというワケか。 だが、その代償は大きかったな。そんなボロボロにされた後では、今さら冷静になったところで…… 「だからさ。 『一瞬で』だなんて……そんなもったいないこと言わないでよ。 こっちはようやく……“あなたの動きに慣れてきたっていうのに”」 ――――――ピシッ。 ――――――っ!? 柾木あずさの言葉と同時――耳障りな音がした。 発生源は、オレの鎧――その右肩。見れば、右肩の鎧にハッキリと亀裂が走っている。 亀裂はより深いラインが一直線に走り、そこから広がる感じ……考えるまでもない。刃による斬撃跡だ。そしておそらく――レッコウによる一撃の跡。 こいつ……先ほどオレの手から逃れた際に、オレに認識できないほどの速度で、一撃を見舞っていたというのか……!? 「レオイマジン……あなたは確かに強いよ。純粋な身体能力で言えば、うちのエース達にも負けないくらい。 けど、それでもやっぱり、なのはちゃん達や、仮面ライダーのみんなには遠く及ばない――それを今から証明してあげる!」 言いながら、柾木あずさが鎧型のデバイスを、さらに腕に装着する弓型、背中に装着する翼型のデバイスを起動させる。 柾木あずさの持つ残り三つのデバイス――先ほどから使っているレッコウを加えたデバイス群の総動員だ。 打撃力特化の戦斧――アームドデバイス、“白虎のレッコウ”。 防御力特化の鎧――パワードデバイス、“玄武のイスルギ”。 火力特化の腕装弓――インテリジェントデバイス、“青龍のイカヅチ”。 そして背中の翼――前述の三つのデバイス達のシステムを統合、それぞれの力を増幅までした上で制御するブーストデバイス、“朱雀のゴウカ”。 電王のデンライナーにその名をあやかり、さらに四聖獣をも象徴とした、柾木あずさの四基のデバイス――統合型デバイスシステム“四神”の、真の姿のお披露目というワケか。 「ここからが本番よ。 人間なめんじゃないわよ……レオイマジン!」 上等だ……その力、見せてもらおうか! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そぉらよっ!」 余裕綽々って感じで正直ムカつく掛け声と共に、砲撃が飛んでくる――もちろん、僕らは左右に散ってかわす。 「行って!」 「応っ!」 《Accel Dash. Double.》 すかさず反撃。僕が魔力弾で援護して、マスターコンボイがアクセルダッシュ(二倍)で加速、突撃―― 「効かねぇなっ!」 ……ダメだ。展開されたシールドに阻まれて、マスターコンボイの刃は届かない――小柄な体格でウェイトに難のあるヒューマンフォームとはいえ、傍目に見ても間違いなく全力だったはずの、マスターコンボイの斬撃でも、だ。 お返しとばかりに、マスターコンボイに向けて金色に輝く魔力刃が振り下ろされる。とっさにバックステップでかわすマスターコンボイだけど―― 「のろいぜっ!」 「どっちがっ!」 野郎、桃色の魔力弾の嵐で追撃を狙ってやがった――なので、僕が斬り込んでそれを阻止。 僕の斬撃も防がれたけど、とりあえず反撃の流れは断ち切った。このまま攻め込――――――っ! 《マスター!》 アルトの言葉よりも一瞬早く背筋が凍りつく――直感に逆らうことなく後退。直後、僕のいた場所に真上からの魔力弾の雨が降り注ぐ。 同時、視界のすみでローズイマジンの姿がかき消えて――そっち! 気配は右に。高速移動に入ったローズイマジンに向けてアルトを水平に振る――ぬがっ!? 「恭文っ!?」 左のこめかみに衝撃――マスターコンボイの声がやけにクリアに聞こえる中、蹴りの勢いで一回転した僕の身体が地面に叩きつけられる。 野郎……僕の斬撃を身体をひねってかわして、しかもその動きから連動してこめかみに蹴り入れてきやがった……っ! ソニックムーブの超加速の中でできる動きじゃない。なのはのフラッシュムーブか……っ! 初速、加速度、最高速度、どれもが一級品だけど、逆にそのスピードが災いして動きがどうしても直線的になるソニックムーブと違って、フラッシュムーブには速度で劣る代わりになめらかな機動や発動中の体さばきの自由度が高いという利点がある。元々素早く飛び回るのが苦手だった初心者時代のなのはをフォローするために編み出された魔法だから、当然と言えば当然だ。 二人とやり合う時は、フェイトがソニックムーブだけ、なのはがフラッシュムーブだけだったから、まだ割り切って戦えたけど……ひとりの相手がその二つを使い分けてくるのがここまでやりにくいなんて思わなかったぞ、くそ……っ! まぁ……攻略法がないワケじゃないんだけど。 「それなら……逃げ場もないほど薙ぎ払ってやる! フルパワーのぉっ!」 《Energy Vortex.》 そう。逃げられるなら、逃げられないほど広範囲に攻撃をぶちまければいい。僕と同じ結論に達したらしいマスターコンボイが、ローズイマジンに向けて魔力の渦をぶちかます! そしてさらに―― 「クレイモア!」 僕もだ。荒れ狂うマスターコンボイの魔力の渦越しに、クレイモアをお見舞いする。 さて、当てることはできたとは思うけど…… 「…………ムダだって言ってんのが、わかんねぇかな?」 くそっ、ダメか……防がれた。 ヤツの展開したラウンドシールドに、僕らの攻撃はしっかりと防がれていた。ちょっぴり煤けているから、完全に通らなかったワケではないみたいだけど、ダメージを与えるには至っていない。 ……そう。ダメージを与えられていない。 “今の攻撃では”。 「今度はこっちの番だじゃぎゃっ!?」 直後、僕らに向けて反撃に転じようとしたローズイマジンの声が悲鳴に変わる――“上空から降ってきたガレキの雨の下敷きになって”。 「カモフラージュ、感謝するぞ、恭文。 おかげで気づかれずに仕掛けられた」 「いやいや、気にしなくていいよ」 礼を言ってくるマスターコンボイにそう答える――そう。あのガレキの雨はマスターコンボイの仕業だ。 そしてガレキを舞い上げたのはさっきのエナジーボルテクス。あれは“逃げ場のないほどの広域攻撃”を狙ったものじゃない。そう見せかけて、ガレキを吹き飛ばし、上空に舞い上げて、アイツに向けて降らせてやるために放ったものだったんだ。 で、僕がダメ押しで撃ったクレイモアは、そんなマスターコンボイの狙いを隠すためのもの。エナジーボルテクスを撃った“表向きの狙い”に同調することで、ガレキによる攻撃という本来の攻撃を隠すカモフラージュの役割を担ったんだ。 ともあれ、これでアイツはガレキの下敷き。効いた・効いてないは別に、すぐには動けない。なので―― 「さて、それじゃ……」 「本命、いくかっ!」 本命というかダメ押しと言うか……このままフルパワーで砲撃叩き込んで、完璧に仕留めるっ! 本音を言えばこの手でガッツリぶった斬って終わりたかったけど、そんな贅沢を言える相手じゃない。ジガンでカートリッジをロード。同じくカートリッジをロードしたマスターコンボイと二人で砲撃体勢に入って―― ブッ飛ばされた。 そう。『ブッ飛ば“した”』じゃない。『ブッ飛ば“された”』――突然背後に殺気の塊が出現。反応するよりも早く、それぞれに一撃をもらった僕らは宙を舞っていた。 強烈な衝撃で受け身もできないまま、まともに地面に叩きつけられる。衝撃で一瞬だけ意識が飛ぶけど、何とか気絶だけは免れたらしい。 ともかく、すぐに今の一撃の主を確認する。つい数秒前まで僕らのいた場所へと視線を向けて―― ………………なっ!? その姿に、思わず言葉を失う……どころじゃない。冗談抜きで一瞬思考が停止した。 そのくらい……予想外の、驚くべき相手がそこにいた。 ……いや、『予想外』じゃないか。ネガショッカーが“どういう組織か”を考えれば、ヤツらがいる可能性は十分にあった。ただ、僕らがそこまで予想できていなかった、それだけの話だ。 …………まぁ、どっちにしても、とんでもなく厄介な相手であることは間違いないんだけど。 新手は二人。一方は全身銀色。そしてもう一方は全身金色。 銀色の方は真紅の細剣を手にして、金色の方はゴツイ大剣を振るって、身に着けているマントをひるがえす。 ……つか、銀色の方の見た目がどう見ても仮面ライダーだよ、仮面ライダー。 というワケで、もう誰が乱入してきたか、懸命な読者の皆様はわかったと思う。 そう…… シャドームーンに、ジャーク将軍! 「まさか、アイツらまでネガショッカーに加わっていたなんて……っ!」 「ヤバイ相手なのか?」 《少なくとも……ここでの参戦に『最悪』とコメントできるくらいには》 聞き返してくるマスターコンボイにアルトが答える――そう。『最悪』だ。 ファンとして、ひとりの魔導師として言うなら、対決できることはこの上なく光栄なことではあるけど……この状況で敵として出てこられると、ぶっちゃけ脅威以外の何物でもない。 こっちは一秒でも早くそこのムカつくバラ野郎をぶった斬ってやりたいっつーのに……なんでよりによって、こんなタイミングで出てきてくれるかなっ!? 「別に、貴様らの都合に合わせてやる理由はあるまい」 「我々は我々の、ネガショッカーのために戦い、勝利する。それだけの話だ」 「そいつぁごもっとも」 それぞれに答えてくるシャドームーンとジャーク将軍に答えて、立ち上がる――そうだ。アイツらと同じだ。僕らだってやることは変わらない。 こいつらをブッ飛ばして……フェイト達を助ける。ついでにネガタロスもブッ飛ばして、ネガショッカーも叩きつぶす。 「…………だな。 相手が増えようが強かろうが関係ない。まとめてブッ飛ばすだけだ」 僕に同意して、マスターコンボイも立ち上がる……さて、それじゃあ新手の乱入の衝撃も収まったところで、 「いくよ、マスターコンボイ!」 「おぅよっ!」 マスターコンボイと二人で地を蹴り、突撃――悪いね、シャドームーンにジャーク将軍。 恨みはないけど、ネガショッカーに加わったのが運の尽き。思いっきり……ブッ飛ばさせてもらうよっ! 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