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頂き物の小説
第27話「クラナガンまるごと超決戦」:1




「そんな……!?」

「なのはさん達が……」

「子供に……!?」



 知らされた驚きの事実に、正直驚きを隠せなかった……一緒にこっちに来た、みなみちゃんやゆたかちゃんも同じく、だ。

 あぁ、私達三人だけじゃなくて……



「柊……それ、マジかよ?」

「残念ながら本当よ。
 なのはさんにフェイトさん、そして……ジュンイチさん。
 三人とも、子供の姿になって……」

「私達のことも、全部忘れてしまっているみたいなんです……」

「そんな……」



 日下部先輩や峰岸先輩も一緒……柊先輩(かがみさんの方)や高良先輩の説明に驚いてる。



「今、シャマル先生やサリさんが本格的に診てくれてる。
 終わったら、詳しい話が聞けると思うけど……」



 今にも泣き出しそうな柊先輩(つかささんの方)の話を聞きながら、泉先輩の方をチラ見する。

 見た感じは、取り乱したりしてる様子はない……けど、きっとそれはガマンしてるだけだと思う。

 私達カイザーズの中じゃ、今回やられた三人……特にジュンイチさんと一番近いところにいるのは、間違いなく泉先輩なんだから……



「とにかく……今はシャマル先生達の診断が終わるのを待つしかないんだよね……?
 だったら、他のみんなのところに行こう? もっと詳しい話、聞きたいし……」



 峰岸先輩の提案に、反対の声はなかった。カイザーズ全員そろって、他のみんなが待機してるっていう、ミーティングルームに移動することに。

 うー、合流するのが遅れに遅れた結果、最悪のタイミングで合流することになっちゃったっすねー。



 これから、いったいどうなっちゃうんだろ……?











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第27話「クラナガンまるごと超決戦」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……それでサリ、シャマルさん」



 ……怪物が各所で大暴れ。で、それとやり合ってるのがうちら機動六課メンバーってのも、もうバレてる。

 いや、ギリで電王が実在してるってのも、バレそうな感じ?

 まぁ、そこはいい。カリムを含めた後見人のみんなは、これから情報の秘匿やら何やらがいろいろ大変だろうけど、もともと後見人ってのはそういうのが仕事なんだから、そこはいい。

 むしろ、問題は……もっと別のところで、もっとシャレにならないレベルで起こってるんだし。



「ジュンイチ達は、どうなのさ」

「……アウトだ」



 そのサリの一言で、室内の空気が一気に重くなる。



「身体が縮んじまっただけじゃない。
 オレ達のことはもちろん、今までのこと……きれいサッパリ忘れてる」

「もっと言うと……身体が子供の頃に戻った、その“戻った”時点から先、現在までの記憶が一切ないの。
 アイツらの言った通り、子供の頃から先の時間が、根こそぎなくなってる感じだわ。
 若返ったとか、そんなんじゃない……正真正銘、“戻ってる”……」

「そっか……」



 六課隊舎の会議室で、前線メンバーにチーム・デンライナー。そして合流が遅れてたメンバーがそろったカイザーズも全員集合……いや、正確には“ほぼ全員”か。とにかく、若干名を除いて集まってる。

 で、サリとシャマルさんによる、ジュンイチ、なのはちゃん、フェイトちゃんの診断結果を聞いてるってワケさ。



「それで……シャマル、エグザ。
 三人は、具体的に何年分の時間を“奪われて”いるんだ?」

「それぞれまちまち……だな。
 今の三人の年齢を下から言うと、ジュンイチが四歳、フェイトちゃんは六歳……一番上がなのはちゃんで、八歳……つか、九歳直前ってところだ」



 イクトの質問にサリが答える……はて、どういうことだ?

 サリの答えから逆算すると、単純計算でジュンイチが22年、フェイトちゃんが13年、なのはちゃんが10年近くの時間を奪われてることになる。

 ジュンイチとなのはちゃんなんか二倍以上の差がある……なんでこうもバラバラなのさ?

 話にあった、バラのイマジンのツタに拘束されていた時間に比例してるとか……いや、それはないか。だとしたらフェイトちゃんよりも長く捕まってたなのはちゃんの方が奪われた時間が少ないことの説明がつかない。



「……ヒロリス・クロスフォード。その答えなら明白だ」



 マスターコンボイ……?



「シャマル。サリエル・エグザ。
 他の二人はともかく……なのはは“魔法のことは一切覚えていないんだな”?」

「………………あぁ」

「そうね……
 フェイトちゃんも魔法の存在は知っていても具体的な知識はまるでないし、ジュンイチさんも、ブレイカーのことはもちろん、実家の柾木流のことですら、存在を知ってるだけで修行した覚えはまったくないって……」



 …………なるほど、そういうことか。

 つまり、あの三人は魔法やら武術やら、戦闘技能に関わることに触れ始める前まで“戻されて”いる……その手のことを学び始めてから今までの間の時間、戦いに触れていた間の時間を奪われて、知識も経験もまったくない、まっさらな状態にされちゃったワケだ。



「……三人の現状はわかった。
 それで……シャマル。三人を元に戻すことは、やはり……?」

「えぇ……
 単に身体が若返ったワケじゃない。記憶どころか身体の成長も、何もかもが昔の状態に“戻されて”る……ジュンイチさんの身体の、強化改造の件も含めて。
 情けないけど、手の施しようが……」

「……そうか」



 冷静に……冷静を装って、シグナムさんが尋ねる……けど、シャマルさんの答えは絶望的。

 まぁ、ムリないよ。こんな症例、前例なんかあるワケがない。

 なら、どうする? ジュンイチもフェイトちゃんもなのはちゃんも、ずっとこのままにしておくワケにはいかないしさ。

 唯一、ジュンイチが今までの人生で地獄を見ることになった原因である“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”化がなかったことになっているのが救いと言えば救いだけど……それだって、こんな形で救われていいはずがない。



「で、でもっ! 大丈夫ですよっ!」



 その声は、スバルちゃんだった。必死で、自分やみんなを奮い立たせようとするような声。



「きっと、そのイマジンを倒せば、こう……パーっとお兄ちゃんもなのはさんもフェイトさんも元に」

「……いや、そのイマジンを倒しても、元に戻るかわかんないぞ」



 そう言って、スバルちゃんの言葉を否定したのは、ゼロノス……桜井侑斗だ。

 ……つか、勇気があんだかKYなんだか。このメンツ相手にこの状況でそんな発言、普通する?



「ゆ、侑斗……」

「待ってよ侑斗、さすがに今はその話は……」



 デネブと良太郎くんが何やら焦ってるけど、もう遅い。うちの前線メンバー、思いっきり敵に回してるよ。



「……どういうことですか?」

「そうならない可能性だってある……ってことだよ」



 案の定、少し視線がキツくなったスバルちゃんに答えると、侑斗はイクトの方を見て、



「連中、『三人の時間を“奪った”』としか言わなかったんだよな?」

「あぁ……そうだ」



 イクトの答えに、侑斗は渋い顔をして、続ける。



「その話の通りなら、オレ達が今この時点でハッキリわかっているのは、アイツが三人の時間を“奪った”ということ、それだけだ。
 『元に戻したかったら自分達と全力で戦え』っていうネガタロスの言葉にしたって、『元に戻してやる』と言われたワケでも、『イマジンを倒したら時間が戻る』と言われたワケでもないし、そもそも敵の言葉だ。信用なんてできるもんか。
 つまり、アイツらが三人の時間を“戻せる”のかどうか……そして、イマジンを倒した時、そいつの影響から外れた三人の時間が、ちゃんと三人に“戻る”のか……オレ達には何の確証もない。
 “戻せない”、“戻らない”可能性は……ゼロじゃない」

「それって……イマジンを倒しても、お兄ちゃん達はあのままかもしれないってことですか?」

「そうなるな」

「『そうなるな』って……どうしてそんなに落ち着いていられるんですかっ!?」

「ちょっ、待ちなさいよ、スバル!」



 スバルちゃんが侑斗に詰め寄ろうとする。なので当然……ティアナちゃん達は止める。

 まったく、侑斗も侑斗だ。これでも態度崩さないって……そうとうだね。



「あー、スバルちゃん、落ち着け」

「サリエルさんっ! でも……!」

「いいから落ち着け」



 静かに言い放ったサリの一言で、全員の動きが止まる。

 それから、咳払いをして、サリが言葉を続ける。



「侑斗はただ、『“悪い方の可能性”も考えておかなきゃダメだ』って話をしてるだけだ。
 確かに、侑斗の言う通り“戻せない”、“戻らない”可能性はゼロじゃない……けど、逆に考えれば、“戻せる”、“戻る”可能性だってゼロじゃない。
 何もハッキリしてない今この段階で、スバルちゃんがキレる必要ないぞ」

「………………っ……
 ……すみません……」



 サリの説明にようやく頭が冷えたのか、スバルちゃんは深く深呼吸して、席に戻る。

 でも、サリの話は続く――そう、“悪い方の可能性”はそれだけじゃなかったんだ。



「それに……“戻せる”としても、それはそれでヤバイことになるかもしれない」

「どういうことですか?」

「“戻せる”っていうことは、ヤツは時間を奪えるだけじゃない……その奪った時間に、ある程度干渉できるってことだ」



 なずなちゃんの問いに、サリが答える……あ、それって……



「待って、サリ。
 それ、つまり……アイツら、奪った三人の時間を“見る”こともできるってことになるんじゃ……?」



 あたしの質問に、サリはうなずく……その言葉に、全員が理解したらしい。表情が引きつるのがハッキリとわかった。



 アイツらは三人の、子供の頃から今までの時間を根こそぎ奪っていった……それはつまり、“うちらと関わってきた時間もすべて奪われた”ってことだ。

 その時間を“見る”ことができるとしたら……あの三人が覚えてる、経験してきた、こっちの手の内のすべてを見ることができるってことだ。

 つまり……アイツらが奪った時間を“見る”ことができると仮定した場合、こっち手の内はすべて知られることになると思っていい。

 六課の警備体制がどうなってるとか、戦力とか技とか、各自の今後の課題、転じて今現在のウィークポイントとか……そういうのも全部。



「とにかく、何にしてもそのイマジンは急いで倒さなきゃいけない。
 アイツらの時間が戻るかどうか……その辺を一刻も早くハッキリさせなくちゃならないんでな」

「サリ、どういうことよ」

「……“時間”を奪われて、今危機に陥ってるのは、あの三人だけじゃないってことだよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「アルフが!?」

「うん。
 サリエルさんがもしやと思うて、美由希さんに地球の方を確認してもらったんよ。
 そしたら……アルフさん、突然倒れて、今、そうとう危ないらしい」

「……具体的には?」

「いきなり前触れなく衰弱しきって、昏睡状態や」



 ジャックプライムの問いに、はやてが鎮痛な面持ちで答える……気持ちはわかる。状況は最悪に近いからな。



「でも、どうしてアルフが……
 時間を奪われたのはフェイトであって、アルフは関係…………あ」

「気づいたか。
 そう……テスタロッサが現在から魔法を覚える前までの時間を奪われたということは……」

「フェイトがアルフを使い魔にした、その辺の時間も、一緒に奪われてる……!?」



 察したジャックプライムの声が震えている……これが人間の姿ヒューマンフォームなら、顔面蒼白といったところだな。

 ジャックプライムの気づいた通りだ。テスタロッサが魔法に関わっていた時間のすべてを奪われたことで、今のテスタロッサの側にはアルフとのつながりが存在していない……何しろ、今のテスタロッサはアルフを使い魔にする前の状態なのだから。

 その結果、アルフへの魔力供給が断たれた。彼女が倒れたのはそのせいだ。



「それで、アルフは……」

「うん、ユーノくんが忙しいんにいろいろ動いてくれてな。今、なんとかもたせてるところや。
 ただ……」

「あくまで応急措置にすぎない……
 一刻も早く魔力供給を復活させなきゃ、アルフは……」

「そや」

「何にしても、三人の時間を奪っていったそのバラのイマジンを早く倒す……というのが、今のところできる最善だ。
 少なくとも、それでいろいろとハッキリする――テスタロッサが元に戻ればアルフへの魔力供給も復活するだろうし、戻らなかったとしても、『戻らない』とわかることで本格的に他の方法へ移行できる」



 つまり、バラのイマジンを倒してもテスタロッサが戻らないようなら、彼女とアルフの絆を無視してでも別口の魔力供給ラインを確保してアルフを生かす。そして、そのための準備を今から整えておかなければならないということだ。



 テスタロッサとアルフの気持ちを考えると少し冷たい計算のようだが、必要な前提だ。

 テスタロッサが元に戻る希望にすがり、イマジンを倒しても戻らなかった時にどうすることもできなくなるよりは、元に戻らない前提で準備を進めておき、テスタロッサが元に戻って準備がムダに終わる方がいいに決まっている。



 何にせよ、イマジンを倒すことでテスタロッサが元に戻るかどうか――そこをハッキリさせなければ始まらない。すべてはそこからだ。



「……ビッグコンボイ」

「ダメだ」



 そこまで話が進んだ以上、コイツが何を言いたいかは容易に想像がつく……だから、釘を刺しておく。



「『あのイマジンは自分がやる』と言うつもりだったんだろう?
 そんなこと、許可できるワケがない」

「なんでさ!?」

「そんなこと、わかりきっているだろう」



 そう――わかりきっている。答えは簡単だ。



「貴様だけを特別扱いできるワケがない。
 何しろ――」











「あのイマジンをぶちのめしたくてウズウズしているヤツなど、オレを含めて六課中にいるんだからな」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しかし、別の時間のザインが、こちらのザインと一体化していたとはな……
 野上。桜井……貴様らから見て、“そちらのザイン”はどういうヤツだったんだ?」



 ザインの復活、その経緯をマスターコンボイから説明されて、因縁の深いイクトさんが渋い顔でうめく……で、良太郎さん達に尋ねる。

 けど……良太郎さんは首を左右に振った。



「すみません。ボクらは、アイツとは直接戦ってないんです」

「“ライダー大戦”で大ショッカーと戦った時は、お互いかなりの大所帯での乱戦だったからな。
 オレ達と顔を合わせる前に、他のライダーにノされて退場……そんなところだったんじゃないか?」

「そうか……
 まぁ、“こちらのザイン”と同じようなものと考えれば、だいたい想像はつくが……」

「逆に、聞かせてください。
 そのザインって、イクトさん達から見てどんなヤツだったんですか?」

「……率直に言えば、策略という概念をそのまま人間の姿に置き換えたような男だったな」

「どこが『率直に』だよ。ますますワケがわかんねーよ」



 良太郎さんへの答えにモモタロスが不満そうにツッコんでくるけど……まぁ、今のイクトさんの説明が一番的を射てる。

 つまり――



「根っからの策士、ということだ。
 ヤツにとって、重要なのは“自らの策によって瘴魔を勝利させること”……ただそれだけだ。そこに倫理も誇りも立ち入る余地はない。
 目的のために必要ならどんな外道もかまわず行う……作戦上優先順位こそ生じるが、仲間どころか、自分自身の命すら、策を成すための駒としか見ていない。
 そんなヤツだからこそ、“降魔陣”のような、町ひとつを丸ごと地獄に変えるような作戦も平気でできる……」

「“JS事件”の時の例をひとつ挙げてやろう。
 ヤツはオレ達機動六課を無力化するために、この星の全土を人質にとるようなマネに出た」

「この星全体を!?」



 マスターコンボイの補足に、良太郎さん達はみんなそろって目を丸くする……まぁ、当然よね。規模が規模だもの。



「衛星軌道上の廃棄ステーションと、その周囲のデブリ帯を掌握したんだ。
 そして、隕石の如くデブリを地上に落とすと世界規模で勧告し、中止と引き換えにオレ達機動六課を差し出すよう言ってきた。
 しかも、それすらヤツの策にとってはただのオトリ……その脅迫に抵抗しようとしたオレ達、そしてオレ達が瘴魔に差し出されることで連中の戦力が強化されることを危惧し、阻止に動いたディセプティコン以下他勢力……一同がそろったところにデブリの雨を降らせて、直下の地区一帯もろともにオレ達を一掃しようとした」

「む、ムチャクチャやるね、ソイツ……」

「……言っておくが、その策にはまだ続きがあるぞ」

「まだあるんかい!?」



 うめく青亀に答えたイクトさんにキンタロスが驚く……そう。まだ続きがあったんだ。



「さっき、デブリ帯と共に衛星軌道上のステーションも掌握したと言っただろう。
 デブリだけじゃない、そのステーションすらザインは落とした。
 柾木に、“本来切ってはいけない切り札”を切らせるために」



 そう……あの時、あたし達に小惑星くらいの大きさがある廃棄ステーションの落下を止める方法はなかった。

 そんな中……唯一、ジュンイチさんにはその方法があった。

 けど、それはあまりにも強大すぎる力で……



「条件こそ厳しいものがあるが、その条件さえ満たしてしまえば、たとえ小惑星規模の大きさの物体すら消し飛ばすことが可能となる、一個人が持つにはあまりにも大きすぎる力……その力を世界の目が集まる中で使わせた。
 その結果、その力に世界は恐怖し、管理局はその脅威の排除……すなわち、柾木の排斥に動くこととなった。
 オレ達の一掃を狙ったのはただの“ついで”。世界が脅しに屈してオレ達を差し出したなら、またはデブリの一斉落下でオレ達を一掃できればもうけもの……その程度。
 本命はあくまで柾木ひとり……あの男を排除するために、ザインは平気で世界を丸ごと巻き込んだ」

「そこまでやるんですか、その男は……」

「そこまでやるんだ、あの男はな。
 こんな言い方はアレだが、あの時に比べれば、今回のことなどまだかわいい方だとすら言えるだろう」



 デカ長に答えて、イクトさんはため息をつく……確かに、ジュンイチさんひとりのためにミッド地上が焦土にされかけたあの時に比べれば……



「おそらく、一応の盟主であるネガタロスに配慮したのだろう。
 今まで対峙した限りでの言動や蒼凪から借りた『クライマックス刑事デカ』の内容から考えるに、ネガタロスは確かに悪人ではあるが、その本質は侠人――本来の意味での“極道”に近い。
 民間人を狙いこそするが、それもあくまで作戦に必要な範囲内に限った話……標的だけを狙い、それ以外の者を巻き込むことを良しとしない、そんな“誇り高き悪”の矜持をネガタロスからは感じる」



 イクトさんの言葉に、思い出す。

 確かに、ネガタロスの言動からは“悪の組織らしさ”っていうものに対する異常なまでのこだわりを感じる……逆に言えば、同じ悪事であっても、無差別攻撃とかセコイ犯罪のような、悪の組織がやらないようなものについては見向きもしないところがある。

 “悪党”ではあっても“外道”ではない……目的のためなら外道な手段も辞さないザインとは対極のところにネガタロスはいる。



「お前達の話や今までに明らかになった様々な情報から時系列を整理すれば、ザインがネガタロスを盟主として迎え、大ショッカー残党がネガショッカーとして再編されてから、それほど時は経っていないと推測できる……となれば、ヤツの組織内での立場はまだ磐石とは言えないはずだ。
 ここでネガタロスの機嫌を損ね、組織内での立場を失うのはヤツにとって大きな痛手……故に無差別攻撃系の作戦は使えず、ネガタロスの好みである、オレ達やクラナガンに標的をしぼった策に出るしかなかったんだろう。
 すでに大量殺戮系に分類される“降魔陣”を使っている点については、『機動六課に本気を出させるため』とでも言い含めているのだろう。先日の集落でこちらの危機感をあおっておき、今回が本命……というワケだ」

「つまり……ネガショッカーの中での地位が万全になったら……」

「“降魔陣”がかわいく思えてくるようなとんでもない作戦も、平気で使ってくるようになる……」

「ううん。そうはならないよ」



 いぶきやなずな、そしてイクトさんにそう答えたのは……



「こなた……?」

「そうなる前に、私達で叩けばいい。
 ……あ、違うか」



 ……そう、ね。確かに違う。



「明日、あたし達が叩くから……よね?」

「そういうこと」

「いやいや、それだけじゃダメでしょ。
 アイツらを明日叩くのはもちろん賛成だよ。でも……その中でも特に、なのはさんやフェイトさんを襲ったイマジンが最優先。早々に釣り上げて倒さなきゃ。
 でなきゃ、危ないんだよね? その使い魔……の人が」

「……かなりな」



 サリエルさんの話だと、アルフさんは本当にヤバいらしい。解決策を考えようにも現状では情報が少なすぎてどうしたものかって状況だ。侑斗さんのあのKY発言の通り、三人の時間が戻らないとしても……最低限、問題のイマジンを倒すってのは絶対にやらなくちゃならない。

 けど……



「ま、そこはあたしらが思う限り心配はいらねーけどな」

「ですね。
 苦戦すらしないかも。ひょっとしたら……秒殺?」

「いやいや、瞬殺くらいいくんじゃない?」

「………………?
 ヴィータちゃんもティアナちゃんも……あずさちゃんも、ずいぶんと言い切るね?」

「また自信ありげだな、おい」



 青亀やモモタロスが不思議そうに首をかしげるけど……まぁ、当然だ。

 だって、アイツらは絶対に怒らせたらいけないヤツを……ううん、絶対に怒らせたらいけない“ヤツら”を、完全に怒らせたんだから。



「ヤツらは、我々を完全に怒らせました。
 特に、蒼凪に炎皇寺にマスターコンボイ……この三人です」



 シグナム副隊長の言葉に、全員の視線が今名前の挙がった三人のうちここにいる二人……つまりマスターコンボイとイクトさんに集まる。



「だな。
 アレは完全にキレてる――バカ弟子はもう連中を細切れにするまでは止まらねぇ。お前らだってそうだろう?」

「当然だ」

「このまま黙って引き下がるつもりなどかけらもない。
 全力をもって……叩き伏せてやる」



 ヴィータ副隊長にイクトさんが、それに続いてマスターコンボイが答える――そしてあたしも、全面的に同意だ

 ついでに言えば、怒っているのは名前の挙がった三人だけじゃない。三人は『特にキレているトップ3』というだけの話――正直あたしも、そうとう頭にきてる。

 他の子達も、今はなのはさん達があんなことになったショックの方が大きいだけで、それが落ち着けば次に来るのはきっと、アイツらへの怒りの爆発……そしてそれは六課だけじゃない。間違いなく、あたし達とつながりのあるコミュニティ全体に波及する。

 あたし達を本気にさせたくて、全力のあたし達を倒したくてやらかしたらしいけど……アイツらは、その方法を根本から間違ったんだ。

 これで連中の壊滅は決定的になった……正直同情したくなるくらい確実に、アイツらはあたし達に叩きつぶされることになるだろう。







 …………ううん、違う。



 叩きつぶす。

 あたし達が、明日……絶対に。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………やられた。



 フェイトの……そして、ジュンイチさんとなのはの時間が、ネガタロス達に奪われた。

 その結果、三人は僕らと……どころか、魔法に武道、ブレイカーの力……そんな、“戦う力”と出会う前まで戻された。“戦う力”を根こそぎ奪われた。

 そして何より……僕らと積み重ねてきた、いろいろなこと……そんな時間を、奪われた。

 もう、三人とも僕らのことを覚えていない……いや、知ってすらいない。



 そして、そんな三人を前にして、僕は……











「びえぇ〜〜〜んっ!」











 ………………耳をふさいでます。

 場所は医務室。シャマルさんとサリさんによる三人の診断が終わった後、アイナさんが部屋(なのはとフェイトの部屋を臨時で託児室的な感じにすることになった)を用意してくれるまで待機状態。

 ……なんだけど、約一名、豪快に大泣きしてくれてます。



 現在年齢四歳……一番年下にされてしまったジュンイチさんだ。



 ちなみに、次にフェイト、なのはの順に現在年齢が高くなってる……というか、サリさん達の質問になのはが答えているのを聞いてピンときた。

 なのはは八歳まで“戻って”る……もっと具体的には、九歳になる直前、学年的には小学校三年生に上がるか上がらないか、くらいのところ。

 そう……なのはが魔法と出会う、その少し前の時期だ。

 同じように、フェイトはミッド出身だけあって魔法の存在こそ知ってたけどまだ教わってないって話だし、ジュンイチさんもブレイカーとしての力が目覚めるどころか柾木流すら習う前の状態。

 三人とも、戦闘技能を学ぶ前の状態にまで“戻されて”いる……いや、戦闘技能を身に着け始めてから今までの時間を“奪われた”と言うべきかな。だから、奪われた時間の長さや現在の三人の年齢にばらつきが出てる。

 で、話を戻すと……四歳といえば地球で言えば幼稚園に通い始めたばかり、まだまだ親に甘えたい盛りの年頃だ。

 そんな時期にたったひとりで見知らぬ土地に、見知らぬ人達の真っ只中に放り込まれれば、不安で泣き出したくなるのもわからないでもない。







 ………………“現在のジュンイチさん”を知っている身としてはとてつもなく違和感がデカイんですけど。







「わぁ〜〜〜〜〜〜んっ!
 おと〜さぁんっ! おか〜さぁんっ!」



 何この泣き虫さん。これが22年も経つと“アレ”になるワケ?

 確かに、“このジュンイチさん”から見たところの“4年後”には性格一変させるほどの事件が待ってるワケだけど……正直、同一人物の子供の頃とは信じられない。



《マスター、私も同感です。奇跡を見ている気分ですよ。ぶっちゃけ、そっくりな別人の子供とすり替えられたと言われた方がまだ信じられますって。
 ですが……どうします?》

「うーん……」



 そう。一番の問題は“この状態をどうするか”――元に戻す云々じゃない。それ以前に、この大泣きしている泣き虫暴君をどうやってなだめるか、だ。

 もちろん今まで何もしていなかったワケじゃない。すでに僕らの考えた作戦はことごとく失敗してる。



 “お菓子作戦”……食い尽くされた上に食べ終わったら大泣き再開。

 “おもちゃ作戦”……渡したおもちゃが好みじゃなかったらしい。やっぱり提供元が女の子であるヴィヴィオでは趣味が合わなかったか。リュウタに頼めばよかったと今さらながら反省。

 ザフィーラさんに子犬フォームに変身してもらっての“わんこ作戦”……気づかれる前にかんしゃくに巻き込まれて、全身の毛をむしられた。ごめんなさい。



 けど……うん、マジメにどうしよう。

 この年頃の子供っていうのは、周りの感情に簡単に影響される。このままジュンイチさんが大泣きし続けたら、フェイトやなのはにまで波及しないとも限らない。







「うぅ……」







 って、言ってるそばからフェイトが涙ぐんできてるしっ!



「……もういっそ、意識飛ばすしかないかな……?」

《落ち着いてください、マスター。
 普段の26歳バージョンのジュンイチさんならともかく、四歳の子供にそれはアウトです。
 今のジュンイチさんは、何の能力もない、ただの小さな男の子でしかないんですから》



 だよね。わかってるよ。さすがにそこまではやらないから。

 けど、実際問題、そのくらいやらないとこのちび暴君は止まりそうにないんだけど……











「……大丈夫だよ」











 …………って、え……?

 最悪、幼児虐待的な手段で黙らせるしかないかもと覚悟を決めかけていた僕をよそに、大泣きするジュンイチさんの頭をなでてあげたのは……



「……なのは?」

「大丈夫だよ。
 キミは、ひとりぼっちじゃないから」



 そう。未来の魔王こと高町なのは(もーすぐ九歳)だ――そのなのはに頭をなでられて、ジュンイチさんもなのはに気づいて顔を上げる。



「でも……おとーさんも、おかーさんも……」

「大丈夫。きっとすぐ来てくれる。
 ……ですよね?」



 言って、こっちに話を振ってきたなのはにうなずく。

 実際、すでに連絡は入れてある。霞澄さんがこっちに向かってきてるはず……同様に、桃子さんやリニスさんも。



「それに……わたしもいるよ。
 お母さん達が来るまでは、わたしと一緒に遊ぼう。ね?」

「………………うん……」

「ほら、そっちの子も」

「わたしも……?」



 なのはが声をかけたのはジュンイチさんだけじゃなかった。ジュンイチさんの大泣きが伝染して泣きそうになってたフェイトもだ。呼ばれて、顔を上げたフェイトの頭も、なのはは優しくなでてあげる。



「ひとりより二人、二人より三人……みんなで遊んだ方が楽しいよ。
 だから……ね?」



 なのはに笑顔で誘われて、フェイトもうなずいた。フェイトの手を取って、なのはが泣き止んだジュンイチさんのところへフェイトを連れていく。

 とりあえず、後はなのはに任せておけばここは何とかなりそう……つか、大したもんだわ。

 なのはだっていきなりこんなところにひとりで放り出されて不安だろうに、それでもちゃんとジュンイチさんのフォローに回って……ホント、どうしてこんないい子が魔王になんてなっちゃったんだろ?



「じゃあ……まずはお名前教えて?」

「名前……?」

「ボクの……?」

「うん。
 知ってるかな? 名前で呼べば、誰でもすぐに友達になれるんだよ」



 ………………前言撤回。

 高町流コミュニケーション術、すでにこの頃から健在でしたか。



「私……なのは。
 高町、なのはだよ」

「高町……」

「なのは……?」

「そう。
 二人は、お名前何ていうの?」



 けど……まぁ、二人のことはホントになのはに任せておけば大丈夫そうだ。

 一番年上でちょっとお姉さんぶっているなのはにこの場は任せることにして、僕は医務室を後にした。





















 ……医務室を出て、ひとり……隊舎の廊下を歩く。

 そして、込み上げてくる。本当に……いろんなものが。



「……アルト」

《はい》

「負けたね」

《えぇ》



 もう、そこは変わらない。

 僕は負けた……守れなかった。

 フェイトだけじゃない。なのはも、ジュンイチさんも……



 大好きな人も、大切な友達も、守れなかった。



《……見せないでくださいよ》

「何をさ?」

《あなたがそんな顔をしていると、全員の士気に関わります。
 だから……絶対にスバルさん達には、見せないでください》



 ……どうやら僕は今、そうとうな顔をしているらしい。



「……誰がなんと言おうと、どう思おうと……いつものノリで、“らしく”いてください」



 声は後ろから、振り返ると……リインがいた。



「それが、恭文さんの強さですから。
 ……でも」

《私とリインさんの前では、それでいいですよ。今だけは……落ち込んだっていいです》

「……礼は言わないから」

「いりませんよ」



 ……うん、何にしても……だ。



 アイツら……







「……このままじゃすまさない。絶対に」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、いうワケだ」

〈…………マジっすか〉



 マジなんだよ、正直な話な。

 あの会議の後、オレとヒロは、イクトの旦那に頼まれてある人物に連絡をとっていた……無線すら扱いきれずに壊すとか、どんだけなんだよ、旦那の機械オンチはよ。

 で、通信の相手は……相棒であるデバイス、バルゴラを受け取りに大賀温泉まで出向いたっきりになっていたジン・フレイホーク。

 ……いや、別に何の連絡もなく帰ってこなくなってたワケじゃないぞ? 話に挙がらなかっただけで、ちゃんと許可をとって向こうに滞在していた。

 その理由は……



「それで……正直戦力はともかく頭数がほしい。
 貴様にも戻ってきてほしいんだが……そっちのゴタゴタは大丈夫か?」

〈あぁ。
 なんとか騒動そのものは片づいたし……それに便乗して調子づいてた妖怪達もおとなしくなった。
 もう大丈夫だって、みなせも太鼓判を押してくれてる〉



 …………とまぁ、そういうこと。

 何でも、“龍神事件”とは別口で、大賀温泉でまた妖怪騒ぎがあったらしい……で、偶然そんな時に大賀に出向いてしまったジンが、ものの見事に巻き込まれたんだ。

 ……なんか最近、やっさんの不幸体質が伝染してないか?



〈ホントにありそうだからそこにツッコまないでくれませんかね!
 ……で、とにかく……バルゴラも大丈夫だし、そっちに合流してもすぐ前線に出られます。
 ただ……〉



 ………………?

 『ただ』……何だよ?



〈もっかい確認しますよ。
 なのはさんと、フェイトさんと、ジュンイチさんの話……マジなんですよね?
 特に……ジュンイチさん〉

「本当だよ。
 つか……なんでジュンイチを強調すんのよ?」

〈いや……今、オレの後ろで話を聞いてた“三人”が極度の興奮状態に陥ってまして〉



 ヒロに答えたジンの言葉に、納得する……そーいや“あいつら”もそっちにいたんだっけか。

 そりゃ確かに、フェイトちゃんやなのはちゃんよりも『ジュンイチがやられた』って部分にキレるわな。ジュンイチのヤツに恩があるって話だし、そこを抜きにしても三人そろって懐いてるみたいだし。

 ……とか指摘するよりも早く、ジンの背後から問題の“三人”の声が聞こえてくる。



〈当然だ! 我が自慢の臣下を“そんな”にされて黙っていられるか!
 ネガショッカーとかいったか……この怒り、ぶつけずおくものか!
 もはや全滅では飽き足らんっ! 我が魔導の限りをもって殲滅せんめつしてくれるっ!〉

〈もちろんだよっ!
 絶対ジュンイチもフェイトも、ついでになのはも助けるよっ! 相手が白旗上げたって
ブッ飛ばしてやるっ!〉


〈その意気です、二人とも。
 明日は私とあなた達とでトリプル全力全壊ブレイカーです。今回ばかりは止めませんから、もう跡形もなく消し去っていいですよ〉



〈……とまぁ、こんな感じで。
 連れて行かないとこの場で爆発しかねませんから、連れてきますけど……ネガショッカーもかわいそうに。明日コイツらにどんな目にあわされるか〉

「そう言う貴様も、笑顔に反して目がまったく笑っていないな」

〈イクトさんだって人のこと言えるような顔してないじゃないですか〉

「そうか?」

〈そうですよ〉



「〈フッフッフッ……〉」



 …………おいおい、こえーよコイツら。オレもそうとう頭に来てるけど、その怒りがすっ飛ぶくらいにこえーよ。ヒロもヒロで、オレのとなりで同じくらい怖い笑顔を浮かべてるし。

 頼むから、敵と一緒に市街地まで薙ぎ払うようなマネはしないでくれよ。今のお前らを見てるとやりそうな気がしてしょうがないんだ、オレは。



〈じゃあ、オレ達もすぐそっちに向かいます。
 ただ、開戦までに合流できるかは……〉

「それでもかまわん。
 むしろ、開戦後に来てくれる方がありがたい……遊撃班扱いにしておくから、お前達の判断で救援がりそうなところに乱入してくればいい」

〈わかりました――じゃ〉



 そして、ジンとの通信は終了。とりあえずジン達についてはこれでよし……と。



「“Bネット”の方は連絡しなくていいの?」

「霞澄女史に連絡が行った時点で話が回っているはずだ。任せておいて問題はあるまい。
 ブレードに至っては、ネガショッカーの話をするだけで乱入してくるだろうしな」



 いや、問題ありそうな気がしてしょうがないんだがな。お前らの怖い笑顔を見てると、ブレードの旦那以外にも同等クラスのデストロイヤーが乱入してきそうで怖いんだよオレは。







「そっちは、連絡がついたようだな」







 あ、シグナムさん。

 そう。明日の戦いが(勝ち負けとは別のところで)心配になってきたオレに声をかけてきたのはシグナムさん。

 で、ヴィータちゃんと……リュウタロスもいる。シグナムさん達に頼んで、呼んできてもらったんだ。



「来てくれたか、リュウタ」

「……何なの? ボクに頼みたいことって」



 ……声のトーンが低い。リュウタも今回のことにはそうとう頭にきてるな。

 まぁ……それも当然か。やっさんやジュンイチ経由で、なのはちゃんやフェイトちゃんともすっかり仲良くなってたし。そんな二人やジュンイチが“あんな”にされて、リュウタの性格上黙っていられるはずがない。



「アイツらぶちのめしたくてウズウズしてるところに悪いな。
 けど……頼むわリュウタ。やっさんやマスターコンボイの……オレ達のバカに、付き合ってくれないか?
 フェイトやなのはちゃん……そして、ジュンイチのヤツを助けるためには、リュウタの力が必要なんだわ」



 ホントのところを言うと、時間さえあればオレ達だけでも問題はなかった……そう。“時間さえあれば”。

 けど、この状況はその時間的余裕を根こそぎ吹き飛ばしてくれた。明日は間違いなく激戦になる……だからこそ、明日のやっさんやマスターコンボイには“アレ”が必要になるはずだ。



「……ボク、何をすればいいの?」

「それは今から説明する。
 けど、その前に……リュウタ、ありがとな」

「いいよ、お礼なんて。
 恭文もマスターコンボイも……みんなの友達だもん。フェイトお姉ちゃんも、なのはお姉ちゃんも……ジュンイチだって、そうでしょ? だったら、絶対助けなきゃっ!」

「あー、リュウタ。それはちょい違うぞ」



 となりで黙って話を聞いていたヴィータちゃんが、ひとつだけ訂正を入れた。



「アタシらだけの話じゃねぇよ。
 お前も、もうバカ弟子達と友達だろ? もちろん、アタシ達ともだ」

「……うんっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………よし、と」



 うし、刀の手入れ完了。

 傍らに置いてあったサヤを手に取り、刀を納める――キンッ、と鳴った金属音が、いい感じに気持ちを引き締めてくれる。



「がんばりましょうね、いっちゃん」

「せやね」



 作業をずっと見てた小夜さんにうなずく――せや。明日の戦いは負けられへん。絶対に勝たんと。

 でないと、じゅんさんやフェイトさん、なのはさんの“時間”は取り戻せへん。

 …………ゆーくんは『取り戻せないかもしれない』的なこと言うとったけど、それはあくまで可能性の話。

 絶対に取り戻せる……ウチは、そう信じてる。



「そうね……
 なのはさんはともかく、フェイトさんやジュンイチには大賀での借りも返さなきゃならないし、絶対助けないとね」



 ウチと同じように武器の手入れ中……刃の手入れを済ませて、本体のチェックをしてるなっちゃんもやる気十分。

 というか……『なのはさんはともかく』って、ひょっとして、模擬戦で負けたん根に持ってる?



「そりゃ悔しいわよ。少しも近づけないまま弾幕と砲撃で黙らされたんだから……って、そこは今の状況とは関係ないわよっ!
 そうじゃなくて、なのはさんは“龍神事件”にはかかわってないでしょうが! ジュンイチ達と違ってあの人には借りを作った覚えはないのよっ!」











「……緊張感ないな、お前ら」











 あ、ぴーちゃん。



「…………今さら改名させろとは言わん。
 だがせめて、その『ぴーちゃん』はやめろ」

「言うだけムダよ、ピータロス。
 どれだけ言っても、コイツが呼び方改めたりするもんですか」



 むー、ぴーちゃんもなっちゃんも失礼やな。



「で? そう言うアンタはどうなのよ?
 まさか緊張でガチガチになってたりしないでしょうね?」

「フンッ、バカを言え。
 このオレが、あんな程度の低い連中と戦うのに緊張する必要があるはずがなかろう」



 なっちゃんの挑発にぴーちゃんも笑いながら受け流す……ぴーちゃんもいい感じにリラックスしとる。

 この分なら明日は大丈夫やろ……うん。絶対に勝つ。



 口実を見つけて、まーくん達に会いに来て……電王のみなさんと出会って、手伝うことにして……ぶっちゃけ言えば、ウチが今六課にいる理由はそれだけや。

 せやけど……それだけの理由でいただけのウチにとっても、ここはすごく居心地がよかった。

 そう……なくしたくない、守りたい。そう思えるくらいに、ウチはここが気に入った。

 この機動六課という場所も、まーくんとかやっちゃんとか、ここにいる人達みんなのことも。



 せやから……、守ってみせる。

 じゅんさん達の“時間”も、この機動六課という、まーくんやみんなの居場所も。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぷっくりころころ、ホットケーキ〜♪」



 いくら決戦前でも、フェイト殿達が大変なことになっていても、六課の食堂は平常運転。そんな時でもお腹はすくんじゃから当然じゃの。

 しかし、おかげでわらわはおいしいホットケーキが食べられるのじゃから、実にありがたい話じゃ。



「ホントだよねー」

「ここのご飯、おいしいもんねー」

「みんな、食べたいものがあったら言いなさい。すぐ獲ってくるから……ネコイマジンが」

「オレかよっ!? そして『“獲”ってくる』のかよ!?」



 メープル達もそれぞれにご飯を楽しんでおる……ネコイマジンは微妙じゃが。



 ……あぁ、そうそう、ネコイマジンで思い出した。



「そういえばネコイマジン……お主、名前は決まったのかえ?」

「……考えてるどころじゃねぇだろ。
 ま、どうしても取り急ぎ決めろっつーなら、今夜一晩時間くれや。それで何とかなるだろ」



 うむ、そうしてくれ。

 じゃがの……わらわ達が考えてやると言うたのを拒否ったのじゃから、それ相応にカッコイイ名前でなければ納得せんからな?







「……やっぱりここにいたか」







 おぉ、ティアナではないか。お主も食事かえ?



「まぁね。クロスミラージュの手入れしてたらこんな時間になっちゃって。
 ……つか、ちょっと拍子抜けね」

「ん? 何がじゃ?」

「アンタのことだから、『アイツに申し訳ない』とか言って凹んでるかと思ってた」



 ティアナの言う『アイツ』――すぐに思い当たった。



「失礼じゃの。
 確かに、何もできなかったのじゃ。恭文に対して申し訳ないとは思うがの……凹むどころか、フェイト殿やジュンイチ達を“あんな”にしてくれたネガタロス達に対して怒り心頭じゃが?」

「……の割には、怒り狂ってるようにも見えないけど」

「ここで怒っても疲れるだけじゃからの。
 だったら、今はガマンするのじゃ……明日までしっかり溜め込んで、明日ネガタロス達に向けて大爆発じゃ」



 答えて、ホットケーキを一口。そして……フリーになったフォークでそちらを指す。



「そちらの二人も、爆発するのは明日の本番までお預けにしていると見たが?」

「ま、オレらはな」

「というか……キミ、ホントに10歳? ものすごく将来有望そうなんだけど」



 ふふんっ、そんなこと言うと調子に乗るぞ。よいのかえ?

 まぁ、それはともかく……わらわが話を振ったのはウラタロス殿とキンタロス殿。二人ともナオミ殿のコーヒーを手に夕食後のまったりタイムの真っ只中。



「ま、先輩ならともかく、ボクは怒り狂って八つ当たり、なんてガラじゃないしね。
 ほら、ボクってクールで知的なキャラだしさ」

「見苦しく怒り狂うのは、男のすることやない。
 本物の男っちゅうもんは、本当に怒らなあかん時、本当に怒らなあかん相手に怒るもんや」

「……だそうじゃぞ、ティアナ?」

「……クマはともかく自分で『クールで知的』とか言っちゃう亀にツッコめばいいのか二人の心情をズバリ言い当てたアンタにツッコめばいいのかどっちなのよ……」



 それはもちろんウラタロス殿で。



「迷わずボクに振ったね……
 ホント、いろいろと将来有望な子だね。どう? 今度改めてお茶でもしながらじっくり話さない?」

「って、アンタは10歳児をナンパしないっ!」



 ティアナが絶妙な感じにウラタロス殿を蹴り倒す――うむ。ティアナもいい感じにリラックスしておるの。これなら明日は大丈夫そうじゃ。



 見ておれよ、ネガタロス、そしてザイン……

 こう見えてもわらわ、ムチャクチャ怒っておるのじゃからな……明日はわらわのマジギレ本邦初公開、覚悟しておれよ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 事あるごとに言っていることだが、いくらトランスフォーマーと言えどヒューマンフォームに変身すればその身体は人間のそれとさして変わらない……それは決して比喩ではない。身体機能、具体的には生体活動までもが限りなく人間のそれへと変換される。元々人間に“擬態”するために発展した技術なのだから、当然と言えば当然だ。

 今や再現できていないことと言えば生殖行動による“子作り”ぐらいのものだと聞いた――生殖行動と子作りを意図的に分けて解説された(さらに言えば生殖行為そのものについては『できない』と言われていない)点やそもそもその辺をわざわざオレを呼び止めて力説してきた点には多分にツッコみたいところだが、その話をしてきたのが柾木霞澄とメガーヌ・アルピーノとレヴィアタンいう時点でいろいろとあきらめた。

 あの六課コミュニティが誇るエロ三巨頭が全員そろって力説しているのだ。絶対確かめたぞアイツら。とりあえず犠牲者はジャックプライムと見た。南無。



 ……すまない、少し脱線した。

 つまり何が言いたいかというと――ヒューマンフォームとなったトランスフォーマーの身体は、身体の代謝においても人間の身体と変わりはない、ということだ。

 要するに、腹もすくし食事を摂ればクソもする……そして、汗もかくし、垢も身体にこびりつく。

 ロボットモードに戻れば変身に伴う身体の再構築の際にはがれ落ちる汚れだ。別に放置しても問題ないと言えばないのだが……ヒューマンフォームを維持し続けるつもりであれば、相応に洗浄の必要がある。

 と、いうワケで……オレは現在風呂にいる。

 エリオ・モンディアルも一緒だ――フェイト・T・高町があんなことになったショックがまだ抜けていないように見えたから、気分転換になればと思って連れてきた。

 ちなみに今いるのはサウナ――身体の汚れを落とすため、洗う前に汗をかいて汚れを浮かす。そのために、湯船を無視して真っ先にここへと直行。

 まぁ、いい感じに汗もかいてきた。そろそろ頃合かとエリオ・モンディアルを連れてサウナを出て……



「…………ん?
 なんだ、お前らもいたのかよ」

「モモタロス……?」



 意外な顔がそこにあった。



 ……いや、ちょっと待て。

 コイツがここにいるということは……



「風呂掃除か? 入浴時間はまだまだ先が長いが。
 というか今度は何をした?」

「どーして速攻で掃除当番に仕立て上げられてんだよ、オレはっ!? しかも罰掃除かよ!? 『また』って何だよ!?
 そうじゃなくて、オレも風呂に入りにきたに決まってるだろうが!」



 おや、そうなのか?



「それはすまなかったな。
 いつも通りの姿で入ってきていたから、入浴という可能性を頭から除外していた」

「あー、それはしかたねぇか。
 オレ達、別に服着ているワケじゃねぇしよ」



 ………………何?

 それはつまり……



「貴様……その普段の姿は全裸だというのか?
 さすが、イマジンはオレ達とは感性が違うな――常時ストリーキング全開とは恐れ入る」

「ちっがぁぁぁぁぁうっ!
 つか、それ言い出したらお前らのロボット状態だって同じだろうが!」

「なんと、言われてみればっ!?」



 これはうかつだった……今後、ロボットモード用の服の製作も検討しなければならんか……?











「…………モモタロスさん」











 ………………バカ話でエリオ・モンディアルの気を紛らわせようと思ったが、失敗だったようだ。



「フェイトさん……大丈夫なんですか?」

「バカ、当たり前だろ」

「……どうして、そんな簡単に言い切れるんですか」



 あっさりと答えたモモタロスの言葉を考えなしとでも受け止めたのか、エリオ・モンディアルの視線がキツくなった。



「簡単だよ」



 だが、モモタロスはそれでも落ち着いたものだ――そう。言い切れるだけのものを、こいつらはこいつらの戦いの中で経験している。



「こっちに来てからも何度だって言ってるだろ。
 人の記憶が、時間だってよ」

「でも……フェイトさん達は、その時間も、記憶も奪われて……」

「バカ。まだ残ってんだろ――ここにな」



 言って、モモタロスが指したのか――エリオ・モンディアルの胸だった。



「ここ……に……?」

「おぅ。
 確かに、誰にも覚えられてねぇ時間は、消えちまうしかねぇ……実際、そーゆーことが前にあった。
 けどな……オレ達は忘れてねぇ。金髪ねーちゃんのことも、ジュンイチのことも……砲撃ねーちゃんのことも」



 ………………コイツ、今、なのはのイメージ“砲撃”しか浮かばなかったな。否定できんが。



「大丈夫だ。
 アイツは確かに、ジュンイチ達の時間を持っていっちまった……アイツからは取り戻せねぇかもしれねぇ。
 けど、オレ達が覚えてる。オレ達の中に、アイツらとの時間が残ってんだ……だからよ」



 言って、モモタロスはエリオ・モンディアルの頭をなでてやる。



「あのクソッタレなイマジンさえブッ倒しちまえば、きっと何とかなる。
 だから、今はどっしりかまえてろ。明日、あのイマジン野郎を思いっきりブッ飛ばしてやるためにな」

「……はいっ!」



 ……どうやら、エリオ・モンディアルはもう大丈夫そうだな。



「すまんな。
 本当は兄代わりのオレがなんとかしてやるべきだったんだろうが……こういうのはどうも苦手でな」

「へっ、気にすんなよ。
 カタブツのてめぇにンな気の利いたことなんざ期待してねぇからよっ」



 ………………ほほぉ。



「オレがカタブツなら貴様はさしずめ軟体動物か? 赤鬼かと思っていたがまさかの赤タコか」

「おぅおぅ、言ってくれるじゃねぇか」

「ち、ちょっと、モモタロスさん、兄さんも……っ!
 こんな大変な時にケンカはやめてくださいよっ!」



 むぅ、エリオ・モンディアルがそう言うのなら……



「……いいだろう。この場はエリオ・モンディアルの顔を立てて退いてやる。
 明日ネガタロスどもを叩き伏せた後演習場に来いっ! そこで決着をつけてやるっ!」

「いいぜぇ、望むところだ!」

「いや、そういう問題じゃ……って、あれ?」



 なおもオレ達を止めかけたエリオ・モンディアルが止まる……やれやれ、気づくのが遅いな。



「何を呆けている?
 明日、オレもモモタロスも勝って凱旋するに決まっているんだ――帰って来れないかもしれない、なんて心配はする必要自体ない。戦いの後に約束を持ち越したところで何の問題もあるまい?」



 そう――明日はオレもモモタロスも、当然お前も生きて帰る。

 柾木ジュンイチや恭文などは『戦いの前に約束をするのは死亡フラグ』とか言い出しそうだが、そんなものは関係ない――というか、あんな雑魚どもを相手に殉職してこいとかどういう無茶振りだ。立たされるフラグの身にもなってみろ。

 オレ達の中の誰があのバラのイマジンを叩くことになるかはわからん。最有力候補は恭文だが、今八神はやて達が立てている作戦の内容次第では、ヤツでもない誰かになるかもしれない……だが、勝って帰ってくる、その結末だけは絶対に変わらん。

 絶対に勝って、帰ってきて……モモタロスと決着をつけて……







 あっさりやられて時間を奪われたバカ三名に、きっちり説教してやらねばならんからな。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのは!」

「おかーさんっ!」



 息を切らせて部屋に駆け込んできたのはなのはさんのお母さん、高町桃子さん――で、桃子さんの登場に、ちっちゃくなってるなのはさんの顔が輝いた。

 パタパタと駆けて、桃子さんの胸に飛び込む……ちっちゃくされた三人の中では一番年上で、しっかりしてなきゃと思ってたんだろうけど、やっぱり不安だったみたいだ。



「スバルさん」



 あ、キャロ。



「フェイトさん……大丈夫?」

「はい。
 リニスさんが来てくれて、安心したんだと思います……それで、さっき寝ちゃったところです」



 そっか……よかった。



「スバルさんこそ……ジュンイチさんの相手、大変じゃないですか?」

「ん。大丈夫。
 霞澄おばさん、すぐ戻ってくるって言ってたし……それに」

「……あぁ」



 ソファに座るあたしの手元を見て、キャロが納得する……今のキャロの話じゃないけど、フェイトさんと同じようにお母さんと合流できて安心したのか、お兄ちゃんはあたしのヒザ枕で夢の中。一番大泣きしてたもんね。疲れちゃったんだよ、きっと。



 で、霞澄おばさんはお兄ちゃんやフェイトさんが起きた時用に何か食べる物を作ってあげようってことで、リニスさんと二人でちょっと席を外してる。

 簡単なもので済ませるって言ってたし、料理しに向かった先が“向かった先”だ。すぐ戻ってくると思う……







「…………ただいまー……」







 あ、戻ってきた。

 ここはなのはさんとフェイトさん、そしてヴィヴィオ。三人の暮らす隊長格用の居室。トイレとかバスルームとかも、あたし達の部屋と違ってちゃんと完備されてる……幹部待遇ってすごいね。

 そして、そんな別室への扉のひとつ、“バスルールへの扉を開けて”、霞澄おばs



「………………スバル?」



 ……霞澄ちゃんが戻ってきた。

 そしてその後ろから続くのはリニスさん……料理しに行ってたせいか、使い魔の証、猫耳を隠してる帽子を被ったままだ。

 で、二人がどうしてバスルームから現れたかというと……



「ありがとうございます、デネブさん。
 ゼロライナーの厨房を貸してくれただけじゃなくて、料理も運んでもらっちゃって……」

「いえいえ。
 あ、リニスさん。これデネブキャンディです。フェイトさん達が起きたらどうぞ」



 …………とまぁ、こういうこと。

 わざわざ食堂の厨房に行ってたら往復だけで時間がかかっちゃう。その間にお兄ちゃんが起きちゃったらまたまた大泣きされかねない。そんなワケで、バスルームの扉からデネブさん経由で“時の砂漠”へ直行、ゼロライナーの厨房を借りてたんだ。

 そういう意味じゃ、デンライナーでも良かったんだけど……



「さすが、日頃から侑斗くんのために本格的に料理してるだけあるわ。
 キッチンも食材も万端で、いやー、デンライナーよりこっちあてにして正解だったわ」

「いえ。オレもしいたけ嫌いな子向けの料理のレシピ教えてもらったし……」



 …………さすが霞澄ちゃん。手伝ってくれたデネブさんへの報酬も抜かりないなぁ……ニーズ的な意味でも。



「あと……二人も侑斗をよろしくっ!
 侑斗も言葉にしないだけで、本当は二人とも友達になりたいと思っていr











「思ってねぇっ!」











 あ、侑斗さん。

 デネブさんを追いかけてきたのか、侑斗さん登場――バスルームの扉を開けて“時の砂漠”から飛び出してくるなり、デネブさんに向けてダイビングラリアット一発……あの、お兄ちゃん達寝てるんで、静かにしていただけると……



「う……わ、悪い……」

「そうだぞ、侑斗。
 今は大変な時なんだ。少し落ち着いてだな……」

「お前が言うな……っ!」



 デネブさんに向けてツッコんでる……けど、あたしの言うことをわかってくれたのか、デネブさんをにらみ返すその声は小声だ。



 ………………うん。



「それと……」

「あん?」

「さっきは、すみませんでした……
 お兄ちゃん達が戻らないかもしれないって話してた時、あたし、勝手にキレて、つかみかかりそうになって……
 いいことだけじゃない、悪いこともちゃんと想定しておかなきゃいけない……侑斗さんは、当たり前のことを言ってただけなのに……」

「わかればいいんだよ。
 今はとにかく、明日、アイツらをブッ飛ばすことだけを考えろ――余計なこと考えてる余裕、ハッキリ言ってねぇぞ?」

『はい』



 キャロと二人でうなずく――そうだ。まずはそこだ。

 今お兄ちゃん達が戻るかどうかを議論していても始まらない。すべては明日――そこで決まる。



 絶対に……助けるからね、お兄ちゃん。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………」



 いつもは朝が弱いあたしだけど、それはぶっちゃけ夜寝るのが遅いから。ちゃんと早めに寝れば、夜明け前に起きようが頭はスッキリだ。

 そんなワケで、まだ暗い自室でベッドから抜け出す――キャロちゃんはいない。ヴィヴィオと一緒にアイナさんのところにお泊りだ。キャロちゃんなりにヴィヴィオに気を遣ったんだろうね。

 今は静かな隊舎内だけど、状況が状況だ。みんなが起きてきたら一気にあわただしくなるはず……当然、こんな朝早くに起きたあたしものんびりしてるヒマはない。さっさと身支度を済ませて廊下に出る。



 いよいよ……今日だ。

 ネガタロスやザインが予告の通りに動くなら、今日アイツらはクラナガンへと侵攻する。

 そして……クラナガンで、“降魔陣”を発生させるつもりだ。

 もちろん、そんなことをさせるつもりは毛頭ない。元本家瘴魔軍ということで“降魔陣”について一番詳しいイクトさんを中心に、すでに反攻作戦は立案済み。

 まぁ、ザインだってあたし達が阻止に動くことぐらい読んでるだろうし……ここからはお互いの策の読み合いが戦いの行方を左右することになるのは想像に難くない。

 ……と言っても、その辺ははやてちゃん達ロングアーチの仕事になるんだろうけど。

 あたし達はあたし達で、自分達に割り当てられた役割をガッチリ果たす。

 あたしの場合はいつも通り“合流後の”現場でのスバル達の直接指揮。そして……その前に、レオイマジンの撃破。

 この間やり合って以来、現場でレオイマジンの姿は確認されていないらしい――けど、今回の戦いにはさすがに出てくると思う。

 お兄ちゃん達のこと、つまりバラのイマジン打倒については恭文くん達に任せておけば大丈夫だろうし……何より、前回倒しきれなくて、ちょっとプライド傷ついてるからね。あたしはアイツを狙わせてもらう。

 ちょっとだけワガママ言って、アイツが見つかったらあたしに優先して回してもらえることにしてもらったんだもん。絶対やっつけてやる。







「…………む? あずさか」







 あ、イクトさん。



「恭文くんかエリオくんの起床待ちですか?」

「………………悪かったな。引率なしで動けなくて」



 いえいえ。あたし達は気にしてませんよ……10年前から慣れてますし。



 それより……



「ホーネットから聞きましたよ。
 この間の集落でのこと」

「………………っ」



 気づいたみたいだ――あたしが“何を言いたいか”。



「“本気”、出したみたいですね」

「……バレているとは思っていたが、今このタイミングでつつくか」

「つつきますよー。大事な戦いの前だからこそ。
 イクトさんが“本気”になるのを嫌ってる気持ちは……まぁ、『わかる』なんて簡単に言える自信ないけど……それでも、嫌ってる“理由”の方は、理解してるつもりです。“効果が効果ですから”。
 けど……今回の戦い、イクトさんにとっても大事なものがかかってるんですから」



 そう……奪われた三人の時間。特にイクトさんにとっては、フェイトちゃんの時間が奪われたことは一番の大事だろう。



「別にテスタロッサだけが特別じゃない。
 高町や柾木の時間も等しく重要だ――必ず取り戻す」



 ……どっちにせよ全員助けるんだし、その中での好感度くらいは順位つけてもいいと思うけどなー。



 まぁ、それはともかく……だ。



「だからこそです。
 三人とも助けなきゃいけないんです……いくらイクトさんでも、力の出し惜しみなんて、やってる余裕はないですよ」

「……わかっている。
 いざという時は使うさ……“全力”でな」

「なら、いいですけど」



 とりあえず釘は刺した。後はイクトさん次第だろう。と、いうワケで――



「ほら、行きますよ」

「ん…………?」

「食堂でしょう? あたしが案内しますから行きますよ。
 戦いに備えて、ガッツリ燃料補給しておかないと!」



 言って、イクトさんの手をムリヤリ取って歩き出す。

 開戦まで、あと数時間――しっかり備えて、ガッツリつぶす。



 絶対に……あたし達は、負けない。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………よし」



 ブリッツキャリバーに異常なし……チェックを終えて、待機状態のそれを首から提げる。



「じゃあ……行ってきます」

「あぁ。
 こっちは任せておけ」



 返ってきたチンクの答えに、静かにうなずく。

 今回、ナンバーズのみんなはマックスフリゲートで待機――理由は、今のみんなの立場だ。

 いくら更生プログラムの受講が形だけのものでしかなくても、表向きそういうことになっている以上、連れ出すためには形だけでもいいから所定の手続きの上許可を取る必要がある。

 つまり、ナンバーズを連れ出せば『連れ出した』という記録が残る。けど、電王関係のことを公にできない以上、ほんのわずかな記録も残すワケにはいかない。そこから芋づる式に電王のことがバレないとも限らないから。

 だから、ナンバーズは今回動かせない。ここ、マックスフリゲートで戦いの推移を見守ることしかできない。

 こっちから割ける戦力は、プログラム受講者じゃなくて、且つ戦闘可能なコンディションの人……しかも、その中からさらにここの防衛要員にも人数を割く必要がある。連れ出せないのと同じ理由で、ここを襲われてもナンバーズのみんなに戦わせられないから。そしてザインがあっちにいる以上、そういう展開になる可能性はゼロじゃないから。

 そんな理由から、誰がネガタロス達と戦いに行くかで壮絶なジャンケン合戦を繰り広げた結果、前線には私とホクト。そして……母さん。この三人で向かうことになった。



「すまない。こんな大変な時に力になれなくて……」

「大丈夫。
 ジュンイチさん……そしてなのはさんやフェイトさん……三人は、絶対に助かるから」



 すでにネガタロス達への反撃のための作戦は練り上がっている――その中で、私は直接三人を助けられる位置にいない。

 けど、私達が役目を果たすことで、なぎくん達は安心して戦える……心置きなく、ジュンイチさん達を助けるために暴れられる。

 だから……私だって、思いっきり戦える。

 それがジュンイチさん達を助けるための方法だと信じて、全力で戦える。



「だが……ムリはするなよ」

「だから、心配ないってば。
 いくらやる気だからって、役目も忘れて突っ走ったりしないから」

「いや、お前の場合『忘れない』から不安なんだ。
 一度目的を定めたら、その目的のためだけに思いっきリ突っ走るからな……そういうところは、まさに柾木の妹で、スバル達の姉だと実感できる」



 …………そう見える?



「見える。
 もう一度念を押すが……本当に、ムリはするなよ。
 お前に何かあれば、せっかく元に戻っても柾木は凹むぞ」

「わかってる」



 気を取り直して、チンクに答える。



「ちゃんと無事に戻ってきて……決着、つけたいものね」

「決着……?」

「そう。
 なのはさんと、チンクと、ウェンディやすずかさん、リンディ提督……そして誰よりも、ジュンイチさんと」

「なるほど。“そういう意味”か」



 うん。“そういう意味”。



「…………言っておくが、負けるつもりはないからな?」

「私こそ。
 ……じゃあ、行ってきます」



 改めてあいさつ。そして歩き出す。



 目的地は、もちろん機動六課。そこに一度集まって、向かうことになる。

 そう……







 すべての決着をつける……その、戦いの地へ。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うにゅ……」



 お布団の中で、身体を反対側に向ける……お布団、ちょっと重い……



 …………あ……



「……おしっこ……」



 おしっこに行きたくなって、おかーさんの手とお布団の中から出て、ゆうべ教えてもらったおトイレでおしっこする。







 …………く〜〜……っ……







「…………おなかすいたな……」



 昨日、いろんな人が持ってきてくれたお菓子……全部食べちゃったっけ。

 おかーさんまだ寝てるし……











「………………ジュンイチさん?」











 ………………あ。

 声がして、そっちを向く……そこにいたのは、昨日も遊びに来てくれた……



「やすーみおにーちゃん……?」

「………………っ」

「………………?」

「あー、うん。何でもない。
 ホントに人間変われば変わるもんだなーって思っただけ」



 …………よくわかんない……



「それより……フェイトの様子見に来たんだけど」

「フェイトおねーちゃん?
 まだ寝てるよ? 起こす?」

「あぁ、そこまでしなくていいから」



 ぼくが言うと、やすーみおにーちゃん、お部屋に入ってきて……フェイトおねーちゃんをじっと見てる。



「…………やすーみおにーちゃん?」

「ん。もう大丈夫。
 やる気充電、完了だから」



 笑ってそう言うと、やすーみおにーちゃんは「ん〜」って背伸びする……やっぱりよくわかんない。



「気にしなくてもいいよ。“今日中にはまたわかるようになるから”。
 だから……」



 え? あれ? いきなりぼくの頭なでて……?



「僕らが戻ってくるまで、フェイトのこと、お願いね。
 ……あとついででいいからなのはのことも」

「ほえ?」

「一番年下かもしれないけど……三人の中で、男の子はジュンイチさんだけだからね。
 男の子は、女の子を守らなきゃいけないんだから……だよね?」

「………………うんっ!」

「うん、いい返事だ」



 答えたぼくにやすーみおにーちゃんが笑う……何だろ。

 なんか……すごく、がんばらなきゃって……思う。

 なのはおねーちゃんと、フェイトおねーちゃんを守らなきゃって、思ったら……すごく、がんばりたくなった……



「じゃ、僕は行くから」

「はーい」



 言って、やすーみおにーちゃんは出ていった。







「…………恭文くん、行った?」







 あ、おかーさん……起きてたの?



「当然。
 私が起きてるのがわかったら、気まずいだろうと思ったから寝たフリしてたの。
 ……ところで」



 ん?



「恭文くんのおかげかな?
 なんか……元気になったみたいね」

「うん!」



 おかーさんの言葉にうなずく。

 うん……よくわかんないけど、すごく元気。



 じっとしてられない……何かしたい。



 何だかよくわかんないけど……







 やらなきゃいけないことだけは、わかった気がするから……






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あきゅろす。
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