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頂き物の小説
第26話「ゲーム、スタート」:01


「くぅ…………っ!」







 一撃を受けて、弾き飛ばされる――もちろんすぐに体勢を立て直し、何事もなく着地する。







「イクトさん!?」

「大丈夫なん!?」

「大丈夫だ。
 ガードが“かろうじて間に合った”」







 声を上げるテスタロッサや嵐山に答え、目の前の相手をにらみつける。

 甲虫を思わせる、ゴツゴツした生体装甲に身を包んだ怪人。

 瘴魔獣ではない……ネガショッカーの怪人だ。嵐山によればワームとかいう種族らしい――







 それはつい10分ほど前のこと。

 テスタロッサとオレが偶然オフィスを訪れると、嵐山が報告書と格闘、雷道がそれを手伝っていた。

 アレに苦労させられる気持ちはよくわかるので、手伝おうとしたのだが「それじゃいぶきさん達のためにならないでしょう?」とテスタロッサに止められて……そんなことをしていたところに、ネガショッカー出現の報せが入った。なんでも、蒼凪達を連れて仕事(六課の任務ではなく個人の依頼)に出かけた柾木が待ち伏せを受けたらしい。

 当然、ジャックプライムに運んでもらう形で現場に急行したオレ達だったが、そこにコイツが襲撃をしかけてきて――というのが現在の状況だ。



 状況から考えて、ネガショッカーの手の者だということはわかるが、たったひとり。オレ達にかかればどうということのない相手――のはずだった。

 しかし、現実にはオレ達は思いのほか苦戦を強いられている。

 というのも――







「…………来るで!」







 ――来た!

 嵐山の言葉に現状把握からワームへと意識を切り替える――瞬間、ワームの姿がオレ達の視界から消え去り、







「きゃあっ!?」







 上がった悲鳴は雷道のもの――死角から一撃をもらい、吹っ飛ばされたのだ。







「テスタロッサ!」

「わかってます!」

《Sonic Move》







 対し、オレの指示で動くのはテスタロッサだ。加速魔法ソニックムーブで一気に最高速度へ。雷道に一撃を見舞ったワームへとバルディッシュで斬りかかり――







「――そんな!?」







 空を薙いだ。



 たやすく――本当にたやすく、今の一閃を“かわされたのだ”。

 リミッター越しとはいえ、“現状における最大戦速のテスタロッサの一閃を”。



 そう。これがオレ達が苦戦している最大の理由――ワームが持っているという特殊能力、名を“クロックアップ”というらしい。

 嵐山によれば、自らに流れる時間を“加速させる”ことにより、超高速で動き回ることが可能となるらしいが……問題はそんな原理の話よりもその加速度にある。

 何しろ、このメンバー中で最速を誇るテスタロッサですら、完全に速度負けしているのだから。ロボットモードの巨体に物を言わせて取り押さえようとしたジャックプライムなど、ヤツの速度に完全に振り回され、すでに一撃をもらってリタイアだ。



 テスタロッサのリミッターを外し、真ソニックを発動させれば……と思わないでもないが、残念ながらオレの見立てではそれでも五分の速さまでもっていくのが精一杯だろう。

 であれば、テスタロッサの不利は覆らない。それどころかますます危なくなるだけ――真ソニックはその速度の代償として、彼女の防御力を著しく削ぎ落としてしまうからだ。

 「相手が攻撃を当てられないほどの速さ」という前提があるからこそできた選択なのだが、クロックアップによる超加速能力を持つワームが相手ではその前提が最初から破綻している。速度という武器が死んでしまうのでは、真ソニックになる意味がない。わざわざ身を守る鎧を脱いで裸一貫で挑んでいくようなものだ。どこぞの龍星座ドラゴン聖闘士セイントじゃあるまいし、テスタロッサにそんな危ない橋を渡らせられるか。







「あ、イクトさん『聖闘士セイント星矢セイヤ』読んどるんやね」

「蒼凪の薦めでな。
 80〜90年代のジャンプの看板バトル漫画は一通り網羅済みだ」







 嵐山の軽口に適当に付き合いながら、クロックアップを終え、動きを止めたワームをにらみつける。

 
どうやらクロックアップは一度の発動ごとに維持限界時間があるらしいな。無限に発動していられるワケではないというのはありがたいが、手出しできない状況に変わりはない。

 さて、どう攻略したものか……



 正直、あまり時間はかけたくない。こうしている間にも、蒼凪達は……っ!











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第26話「ゲーム、スタート」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フンッ!」







 ――来たっ!

 合図はいらない。あたし達は同時に散開。その場を離れて――あたし達がいた場所に、羽が降り注ぐ。

 もちろんただの羽じゃない。根元が鋭く研ぎ澄まさされた羽手裏剣――言うまでもなく、あたし達への攻撃として放たれたものだ。当たればタダじゃすまないはず。







「クロスファイア……」







 そしてこっちも反撃。撃つのはティア……あたし達フロント組じゃ、速攻での反撃はちょっとムリだから。

 だって……







「シュート!」







 相手は空。しかも頭の上を抑えられちゃってるから――と、いうワケで、ガンナーのティアの出番だ。放たれた多数の魔力弾が上空の怪人に向けて飛んでいく。

 さらに、そのまた上空に回り込んでいたジェットガンナーも爆撃気味の勢いで撃ちまくる……ダメだ。全部羽手裏剣で迎撃された。

 もちろんティアも、そしてジェットガンナーも弾体誘導をかけていた……けど、コントロールされた弾の軌道を読まれたんだ。それも、上下からの挟み撃ちに対して、一発残らず、正確に。

 それだけで、相手がただの怪人じゃないのがわかる……うん、“あたしの知ってる通りに”。



 背中から下半身を覆うコートも含めて、全身真っ黒な身体。

 左手の鉤爪に、火炎弾とか波動とかを発射できる、今は剣を握っている右手。

 そして肩からはモチーフであるクジャクを象徴する羽根……ティア達の攻撃を相殺した羽根手裏剣の出所はここだ。



 そう。あたしは相手のことを知ってる……良太郎さん達のこと、ネガショッカーのことを知って、改めて再勉強のつもりで手当たり次第に映像ディスク見まくって、お兄ちゃんに怪人トリビア聞きまくってたのがここにきて活きてきてる。



「さすが……上級アンデッドくらいの相手になると、ちょっと大変だね」



 敵だとわかっていても、“原作”通りの強さに思わず感心する……『ブレイド』に出てきたそのままの強さを見せつける、ピーコックアンデッドを見上げて。

 けど……







「――キャロ!」

「フリード! ブラストレイ!」







 こっちだって感心するばっかじゃ終わらない。ティアの合図と同時――“何もない空間から飛び出してきた火球が”、ピーコックアンデッドを直撃!

 そして、火球の現れた辺りにキャロとフリードが姿を現す。ティアがオプティックハイドを解除したんだ。



「姫! 見事でござる!」

「これで終わってよねー。続くなんてめんどくさくてしょうがないよ」



 絶賛するシャープエッジのとなりで、アイゼンアンカーは相変わらず……まぁ、アイゼンアンカーじゃないけど、対空戦って苦手だし、ちょっと同感。

 「ウィングロードがあるじゃん」ってツッコミが来そうだけど、“空で戦える手段がある”っていうのと“空中戦が得意”っていうのとはイコールじゃない。増してや頭の上を抑えられてちゃ、ウィングロード頼みのあたしの空中機動力じゃちょっと厳しい。

 とにかく今は相手に与えた損害の確認。あたし達の誰も(アイゼンアンカーも含めて)警戒を解かないまま、爆発の煙が晴れるのを待って……







「…………なかなか、やってくれるじゃないか」







 少し煤けてはいるけど、まだまだ元気そうなピーコックアンデッドがそこにいた。



「よし、ダメージ通ってる!」

「ダメージは……ね」

「う…………っ」



 手応えを確信するエリオだけど、ティアがそこに一言……で、その意味を理解したエリオの顔から歓喜の色が消えた。

 そう……ダメージは通ってる。けど……“それだけ”。

 今までの戦いでわかった。相手は強い。苦戦は絶対にする……けど、絶対に負けてしまうような相手でもない。

 なのはさん達の訓練とか、“JS事件”とか、その後のいろいろな事件とか……その中であたし達が身に着けてきたものを精一杯出し切れば、少なくとも負けることはない。



 …………負けない、“だけ”だけど。



 問題は相手の強さじゃない。“相手がアンデッドだということ”

 “不死人アンデッド”なんて種族名で呼ばれるだけあって、物理的な方法じゃ倒せない――実際、万蟲姫達が一度アンデッドと戦ってるんだけど、フルチャージ技を何度叩き込んでも死ななかったそうだ。

 その時は、突然現れたギャレンが封印してくれたそうなんだけど……今回も現れてくれるという保証はない。

 となると、あたし達のできる対処法は……



「予定変更なし。当初のプラン通りにいくわよ。
 動けなくなるほどブッ飛ばして、弱ったところを捕獲!」

『了解っ!』



 ティアの指示に、エリオやキャロから元気な返事が返ってくる。

 そう。倒せないとしても、弱らせることはきっとできる……弱らせて、捕まえて、良太郎さん達に引き渡す。

 ギャレンや他のライダー達とも知り合いらしいから、良太郎さんにギャレンを呼んでもらって、そこで改めて封印してもらえばいい。

 と、いうワケで……







「いくわy

「今度はこっちの番だっ!」







 ぅわわわわっ!

 ティアのセリフにかぶせて、ピーコックアンデッドが空中から羽手裏剣の雨アラレ。

 頭上を抑えられちゃウィングロードで空中にも出られない……あー、もうっ! そんなところにいないで降りてきてよーっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「クリムゾン……ブレイク!」







 技名を叫びながら、炎となって燃える魔力と共にライダーキック。

 だけど、私の一撃は見事にハズレ。標的に当たることなく地面に突き刺さって、アスファルトで舗装された地面を爆砕する。

 そしてターゲットは……



「あーもうっ! また鏡の中にっ!」



 イライラしっぱなしのかがみの声が、相手に逃げられたことを教えてくれる。

 そう、逃げられた――“鏡の中に”。

 読者の皆さんはもうみんな察しがついたと思うけど……はい。ミラーモンスターに襲われてます。

 なのはさん達が先生の仕事先でネガショッカーの待ち伏せを受けたらしいと聞いて、パトロールに出ていた私達もすぐさま急行……と思ってたけど、その矢先にコイツの足止めを受けている。

 ……ううん、違うね。『コイツ』じゃない。







「つかささん、危ない!」

「ぅわぁっ!?」







 みゆきさんの声に、つかがあわてて“別の一体の”攻撃をかわす――そう。正確には『コイツ“ら”』。複数形……相手は一匹じゃないの。同系統、全員タイプ違いで全四体。

 ディスパイダー、ソロスパイダー、ミスパイダー、レスパイダー……スパイダー系ミラーモンスターが総出で立ちふさがってるんだ。

 うー、クモ系怪人なんて仮面ライダーじゃ前座もいいトコ、真っ向から戦えればぜんぜん大したことない相手のはずなのに……ムカつくくらいにヒット・アンド・アウェイに徹してくれているおかげでちっとも攻められない。



 というか……明らかに殺る気が見えない。

 どう見ても足止め狙いです本当にありがとうございました……なんて軽口は口にしない。今のイラついてるかがみの前で言おうものならゲンコツ確定だもん。

 というか……私も少しイラっときてるし。やられる側からするとけっこう“クる”よね、これ。



 だから……



「いい加減、まともにかかってきてほしいよ……ねっ!」



 私の背後……ビルのガラス窓から飛び出してきたレスパイダーにカウンターの回し蹴り……ダメだ。浅い。それどころか蹴りの勢いまで利用されて、あっさりミラーワールドに飛び込まれた

 あー、もうっ! 本気で焦れったいっ! 面倒くさいことこの上ないよコレっ!

 前に出てきたナイトみたいに私達もミラーワールドに入れればいいのにっ!



 神様仏様ナイト様っ! お願いだからさっさと出てきてーっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しっかりするのじゃ!
 こんなところで死んだらダメなのじゃ!」



 万蟲姫が必死に呼びかけるけど、仰向けに倒れたネコイマジンから反応はない。

 というか……動揺してるのはわかるけど、そんなガクガク揺さぶるのはやめてあげようか。それこそトドメになりかねないから。傷口から時の砂どんどんこぼれてるから。

 場を和ませるジョークでも何でもなく、マジメにネコイマジンへのトドメになりかねない勢いだ。さすがに止めた方がいいと思うんだけど……うん、正直それどころじゃない。

 だって……目の前にいる相手の存在も、ネコイマジンのピンチと負けず劣らずの危険要素だから。



「やれやれ、言ってくれますねぇ。
 こちらとしては、ようやく正体を明かせて、いろいろ晴れ晴れとした気持ちだというのに」

「るせぇ。
 こっちは気分最悪なんだよ。何でこの期に及んでまたお前の相手しなくちゃならないんだよ?」



 ネガタロスのとなりでため息をつくソイツに、ジュンイチさんも敵意全開だ。不機嫌ぶりを隠そうともしないでそう答える。

 ジュンイチさんがこうもあからさまに毛嫌いしているアイツの名前はザイン。イクトさんの元同僚……つまり、10年前にジュンイチさんやイクトさん達の世界の地球で活動していた瘴魔軍の、当時の瘴魔神将のひとりだ。

 10年前に作戦の行き過ぎを責められてイクトさんに“粛清”されて……“JS事件”の中で、黒幕だったミッド地上本部・最高評議会の手によって蘇生。彼らとお互いに利用し合う形で暗躍していた。

 けど……



「何より、どうしてここにいるのかが僕は不思議なんだけどね。
 おたく、確かブレードさんにぶった斬られて死んだんじゃなかったっけ?」



 一番の疑問をザインにぶつける――そう。ザインは“JS事件”で、あの“ゆりかご”を巡る最終決戦で死んだはずなんだ。

 それがまた、こうして僕らと対峙してる。両足があるから幽霊ってワケでもなさそう。

 まさか、また誰かに蘇生させられた……? ひょっとして、ネガタロスの仕業とか?



「ふむ……あの時、実際にはブレードに斬られた後、別の理由で死んでいるんですが……まぁ、その時みなさんはその場にいませんでしたし、アレで終わったと誤解していても仕方がありませんか。
 それに……いずれにせよ死んだことに変わりはありませんし、こうして無事復活した今となっては大した問題じゃありませんか」



 さっきの僕の質問に対して、ザインは何やらひとりで納得してる……いろいろと気になる発言があったけど、アイツの言う通りそこはどうでもいい。



「さて、あなた達が一番知りたがっている、私がこうして、生きてここに立っている理由ですが……何、簡単な話ですよ」

「簡単、ねぇ……
 悪いけど、語ってくれるつもりがあるなら語ってくれよ――正直、お前のことで頭使うのも腹立たしいんだよ、オレは」

「やれやれ、嫌われたものですね」



 ジュンイチさんのイヤミも大して気にしていないっぽい。ザインは軽く肩をすくめて、答えた。



「あなた達も知っているでしょう?
 スカリエッティが“JS事件”でしていたことは」



 スカリエッティが……?



「彼は自分の生み出した12人の戦闘機人達に、自らのコピーの“もと”を仕込んでいた――自分に何かあった時、彼女達を母体に復活するためのバックアップとしてね」



 ……その辺の話はフェイトやアリシアから聞いてる。

 ただ、スカリエッティの場合、単なるブラフ、ハッタリだったらしいけど――あとでマリーさんが調べたところ、ナンバーズのみんなに仕込まれたスカリエッティの“素”は、オリジナルのスカリエッティとのリンクを張られていなかった。ただ仕込まれただけの、異物でしかなかった、とのこと。

 たぶん、そうして『復活の手段を用意してあるぞ』と強調することで、“娘であるナンバーズすら手駒に利用しようとした狂気の科学者”を演出する意図だったんだろう。元々事件の黒幕として裁かれる覚悟はしていたみたいだし、そのために徹底的に悪役を演じようとしていたってワケだね。



 ただし。



 話に信憑性を持たせるためだったのか、そうして仕込んであったバックアップ技術はハリボテなんかじゃなく、実際に稼動させられるレベルのものだったそうだ。

 つまり、“リンクさえ張っていれば、本当にスカリエッティ復活のためのバックアップとして機能させられていた”ということで……



「……お前は、その技術を盗用して用意されていた“バックアップ”の産物ってワケだ」

「そういうことです。
 あぁ、安心してください。彼のように人間の女性に“バックアップ”を仕込んだワケではありませんから。
 ただ復活さえできればよかったんですからね――専用の培養槽でのクローン再生によって、誰も犠牲にすることなく復活させていただきましたよ」



 あぁ、それなら安心……できるワケない。



「なるほどねぇ……とりあえず、お前が復活した理由については理解できた」



 僕のとなりで、ジュンイチさんがとりあえず納得して応える――そう。“とりあえず”。

 だって、まだ解決していない疑問があるから。



「なら次の質問だ。
 お前……どうしてネガショッカーにいるんだよ?
 こんな“悪の組織”の“美学”に酔ってる連中の吹き溜まりなんぞ、お前の目指すものの方向性とはぜんぜん似ても似つかないだろうに」

「まぁ……確かに、方向性の違いは否定しませんが」



 しないのか。



「ですが……まぁ、しょうがない部分もあるんですよね。
 利害の一致、ということもありますが、それ以上に……」







「“別の時間の私の”古巣が、ネガショッカーの母体なんですから」







 ………………何ですと?

 “別の時間の自分”? ソイツの古巣が、ネガショッカーの母体?

 ネガショッカーの母体って言ったら、確か……



「大ショッカー……
 てめぇ、あそこにいたっていうのか?」

「えぇ。
 もっとも……今も言った通り、私ではなく“別の時間の私”が、ですけど」



 モモタロスさんの問いにも、ザインは余裕で答える――けど、“別の時間の自分”って……?



《マスター、思い出してください。
 良太郎さん達と初めて出会った時――電王がどうして実在云々の話になった時、デカ長やジュンイチさんが何て言ってたか》



 ………………あ。



『私も良太郎くんもモモタロスくんも、ちゃんと以前から実在していましたよ。
 ただ……今回、あなた方と、私達の時の線路が重なった。ただ、それだけの話ですよ』

『まぁ、管理局だってすべての次元世界を把握してるワケじゃない。
 オレ達にとっては物語のひとつでしかない電王が実在してる、そんな次元世界がないとも言い切れんわな』

『私達が物語の中にしか存在しない時間もあれば、逆にあなた達が、そしてここにいる全員が物語の中にしか存在しない時間もあることでしょう』 




 そうだ……確かに二人は指摘していた。

 僕らが、僕らとは“別の在り方”をしている世界が存在する可能性を。

 つまり……ザインが言っている“別の時間の自分”というのはその仮説の証明。別の時間、パラレルワールドみたいな世界にいた別のザイン。

 そしてその“もうひとりのザイン”は、かつて大ショッカーに所属していた……目の前にいる、僕らの時間のザインがかつての瘴魔軍や最高評議会の傘下にいたように。



「そういうことです。
 彼は大ショッカーの壊滅後、その残党をまとめ、新たな首領となる者を、そして新たな活動の拠点を探していました。
 そしてその結果、ネガタロスを新たな首領として迎え……新しい活動の場として、私のいたこの時間、すなわちこの時間のミッドチルダへとやってきたのです」

「同じザイン同士、引き合ったってワケか……」

「この世界にやってきたこと、それ自体の理由は別にあるのですが……私達が出会ったことに関して言えば、おそらくはそうなのでしょうね」



 苦虫をかみつぶした、なんて表現がピッタリ当てはまりそうな顔でうめくジュンイチさんにザインは答えて――



「何しろ、そうして出会った私達はこうして、“それぞれの存在が重なり、ひとつになったのですから”」



 ――――っ!

 そうか、だからさっき……っ!

 さっき、コイツがなのはの砲撃を易々と止めていたのを思い出す。

 イクトさんに以前聞いた話だと、“JS事件”でみんなと戦ったザインは最高評議会に身体を改造、強化されて、ティアナ達の攻撃を真っ向からはね返すほどの力場を展開していたらしいけど……それも、ブレードさんにはあっさりぶった斬られたとか。

 つまり、アイツの力場は強力ではあるけどエース、ストライカー級なら難なくぶち抜ける……その程度のシロモノでしかないってことだ。

 そんなコイツが、怒り任せにブッ放したなのはの砲撃――規模的な意味での“破壊力”ならブレードさんのそれをはるかに上回る一発を真っ向から止められるほどの力場を展開できた……それだけの出力を発揮できたのは、別の時間の自分とひとつになって、その分の出力が上乗せされていたから……っ!



「まぁ……大ショッカー壊滅の際、“あちらの私”が従えていた瘴魔獣は軒並み壊滅させられていましたからね。戦力を整えるのに時間を取られたせいで、私自身の参戦はこうしてずいぶんと遅れてしまいましたがね。
 “こちらの私”が従えていた分もそれほど数に余裕があったワケではありませんでしたし……“あちらの私”と出会うまでは戦力になりそうな人材を求めていろいろな方面に手を出させていただきましたよ。
 そちらの、現瘴魔軍のお姫様の力をあてにしたのも、その一環というワケです」



 ザインの説明の中に自分達の話が出て、万蟲姫がビクリと身体をすくませる……あ、ジュンイチさんがさりげなくかばった。さすが元居候先の家主。



「なるほどね……それで万蟲姫を狙って、こいつの両親ブチ殺してくれたワケか。
 つまりあの一件は、お前がもうひとりのお前とひとつになる前の話。お前が大ショッカーと合流して、もうひとりのお前とひとつになったのはその後、ってことか……
 OK。だいたいの時系列は把握した」



 けど、ジュンイチさんの表情は怒り心頭100%。僕の知る限り、暴走せずにいられる範囲内では最高潮の怒りようだ……まぁ、因縁バリバリの相手だし、しかもネコイマジンを瀕死にされたワケだし。

 そして、そんなジュンイチさんが視線を向けたのは……



「おい……ネガタロス」

「あん……?」

「ひとつ忠告だ。
 別に、お前が誰と組もうが、基本的にオレは口出しするつもりはなかったよ……誰と組もうが、一緒にブッ飛ばしちまえばいいだけだからな。
 けど、ソイツだけは話は別だ……ザインと組むのだけはやめとけ」

「フンッ、何を言い出すかと思ったら……
 何か? 『コイツと組まれると勝ち目がなくなるからやめてくれ』とでも言うつもりか?」

「もちろんちげぇよ。
 ただ……都合が悪いっていうのは、お前の指摘の通りさ」



 軽口を返してくるネガタロスに対して、ジュンイチさんはとなりのザインを見て、



「ザインとなんか組まれたら……“オレ達がお前をブッ飛ばせなくなっちまう”」



 ……あー、“そういうこと”か。

 ジュンイチさんの言いたいことを察して、軽くため息。

 つまりザインは“そういうヤツ”なワケね。話に聞いてた限りでも、正体隠された状態で対面してきた限りでも、なかなか腐った性格してるとは思ってたけど……

 まぁ……ジュンイチさんと違って、僕は口には出さないけど、わざわざ相手の“不協和音の種”を教えてやるほど、僕はお人よしじゃないから。



「何を心配しているのかは知らないが……悪いな。敵の言うことを素直に聞くようじゃ、“悪の組織”失格だろう?」



 と、いうワケで、当然と言うべきかネガタロスは僕らの言いたいことをまるで察することができずに忠告を無視……理由が少々アレな気がするけど、『ネガタロスっぽい理由』という意味ではむしろ非常に“らしい”のでツッコまない。



「とにかく、だ。
 もうコイツがどうしてネガショッカーウチにいるのか、理解できただろう?
 だったら、懐かしい再会はそのくらいにして、“本題”に入ろうか」

「…………だね」



 気を取り直して告げるネガタロスには僕が同意……で、僕らはそれぞれに得物をかまえる。

 ネガタロスの言うところの“本題”……戦いのために。

 あぁ、それから……



「なのは」

「わかってる。
 万蟲姫ちゃんのフォローでしょう?」



 さすが、付き合いが長いだけあって僕の言いたいことを的確に把握してくれる――声をかけた僕に答えながら、なのはは万蟲姫と、彼女が呼びかけ続けているネコイマジンをまとめて守れる位置につく。



 今さら考えるまでもなく、今の万蟲姫に『戦え』なんて言えるワケがない。必然的に戦力外とするしかないけど、こんな状況じゃ避難させることもできずにモロに巻き込むことになる。

 “蝿蜘苑ようちえん”サイドのイマジン達にガードを任せたいところだけど、子供丸出しの猪突猛進なメープルとサニーに防衛戦なんて期待できるワケがない。ミシオひとりじゃ万蟲姫とネコイマジン両方を守るには手数的にちと厳しい――結局、僕らの中からガード要員を割く必要が出てくるワケだ。

 今の僕らの中でそれを任せられる人間……と、いうワケで、一番守りの硬いなのはの出番だ。

 どの道、後方に下がっててもらうつもりだったしね。さっきみたいな怒り任せの砲撃をこんな室内でバカスカ撃たれたらたまったものじゃないから。魔王になるなら外でなってよね。



「じゃ、アイツらの相手は……」

「オレ達、というワケか」

「そういうこった。
 さっきまでの会話にまったく割り込めなかった脳筋ども。いよいよ出番だ。しっかり働けー」



 マスターコンボイやモモタロスさんもやる気十分……ジュンイチさんが軽口叩くもんだから殺る気が若干そっちに向いたけど。



「ネコイマジンの容態を考えると、あまり時間はかけられない。
 みんな、速攻で片づけるよ!」

『おぅっ!』



 何だかんだで、万蟲姫ももう知らない仲じゃないしね。

 だから、これ以上は泣かせない……きっちり助けて、ネガタロス達もきっちりブッ飛ばす!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「このぉっ!」







 振るったアイギスの刃が、ソロスパイダーをブッ飛ばす……けど、またまた逃げられた。ソロスパイダーはそのまま吹っ飛んだ先のビルのガラス窓に飛び込んでミラーワールドに退避。

 あー、もう、これじゃキリがない……



「ったく……こうまであからさまに足止めに徹されると、ムチャクチャ頭に来るわね……っ!」

「お、お姉ちゃん、落ち着いて……」



 後ろではイライラが頂点に達しつつあるかがみをつかさがなだめてる……限界近いっぽいし、そっちの意味でも早く何とかしたいんだけど……

 だからって、焦ってもスキを生むだけだ。警戒しながら相手の出方をうかがって……







 ………………

 …………

 ……







 ………………うかがって……







 ………………

 …………

 ……







 ………………あれ?



「急に……静かになったね?」

「えぇ……」



 つぶやく私にはみゆきさんが答える……うん、急にスパイダー達が出てこなくなった。

 いったい、何が……







「ガガァッ!?」







「ぅわぁっ!?」



 異変は突然に――いきなり、ディスパイダーが目の前のショーウィンドーのガラスから“悲鳴を上げて叩き出されてきた”。

 続けてソロスパイダー、ミスパイダーにレスパイダーも……え、ちょっと、ホントに何がどうなって……







《FINAL VENT》







 聞こえた声は、スパイダー達が叩き出されてきた鏡の中から。そして飛び出してきたのは――



「王蛇!?」



 そう、前に助けてくれたナイトと同じ、『龍騎』に登場した仮面ライダーのひとり、王蛇だ。

 そして、後に続くのは王蛇の契約モンスター、コブラ型のベノスネーカー。そして――







「ベノクラッシュ!」







 王蛇が跳んだ。ベノスネーカーの頭部の高さまで跳び上がって――ベノスネーカーが毒液を吐き放った。その流れに乗って、王者がソロスパイダー目がけて突っ込んでいき、右、左と二段蹴り!

 勢いの十分に乗った蹴りを立て続けにくらって、オマケにベノスネーカーの毒液まで頭からかぶったソロスパイダーが放物線を描いて吹っ飛ばされる。地面を転がって……あっけなく爆死。

 というか、今の王蛇の声……



「……女の、子……?」



 思わず思考が言葉に乗る……そう。オリジナルの王蛇との違いは必殺技っぽくファイナルベントの技名をコールしただけじゃない。

 あの王蛇の声、どう考えても女の子の声だった。それも、どっか聞き覚えがあるような……

 そんなことを考えている間に、王蛇が次に狙ったのはミスパイダー。ベルトのバックル、そこに収められたカードデッキから引き抜いたカードを手にした杖型の召喚器、ベノバイザーにセット。







《FINAL VENT》

「ヘビープレッシャー!」







 今度はベノクラッシュとは別のファイナルベント。姿を現したサイの怪人型ミラーモンスター、メタルゲラスの上に王蛇が飛び乗る。

 その手にはメタルゲラスの頭を模した近接武器メタルホーン。それをかまえて、まるで自身をミサイルか槍に見立てたみたいに全身をピンと伸ばした王蛇をメタルゲラスが押し込むように、ミスパイダーへと突撃して――直撃。

 ヘビープレッシャーをまともにくらって、ミスパイダーが爆散。そして――







《FINAL VENT》

「ハイドベノン!」







 今度はレスパイダーへと三発目のファイナルベント。エイ型ミラーモンスター、エビルダイバーの背に飛び乗って、某バーチャロンのサーフィンラムみたく突撃、一発で粉砕する。

 これで残るはディスパイダーだけ。三体のミラーモンスターを従えて、王蛇が取り出したカードは……







《UNITE VENT》







 だよねー。

 ベノスネーカー、メタルゲラス、エビルダイバーと続けて出してきたからには、最後に控えるのは当然コイツ――王蛇が使ったユナイトベントの効果で、三体のミラーモンスターが“合体する”。

 ベノスネーカーがメタルゲラスの背に重なって、さらにその上からヒレをXの字に展開したエビルダイバーが重なる。

 メタルゲラスの頭部がベノスネーカーの頭部にかぶせられて合体完了――ひとつとなった合体ミラーモンスター、その名は獣帝ジェノサイダー! いぶきの獣帝神と称号が被ってるけどこっちが先発だから無問題っ!

 ジェノサイダーの威容にプレッシャーを感じたんだろう、ディスパイダーが糸を吐きつけてくる――けど、そんなもので止められるジェノサイダーじゃない。あっさりと自分に巻きついた糸を引きちぎると、逆にその糸をつかんでディスパイダーを振り回す……って、こっち来たぁっ!







『ぅひゃあっ!?』

「あっ!? ご、ごめんなさーいっ!」







 吹っ飛んできたディスパイダーをあわててかわす私達に気づいて、王蛇があわてて頭を下げる――オリジナルの王蛇と違って、こっちの中身の子はいい子みたいだね。

 ともあれ、ジェノサイダーに振り回されたディスパイダーはビルの壁に激突して動きを止める――決めちゃえ!







「はいっ!」







《FINAL VENT》







 私に答えて、王蛇が放つのはもちろん、ジェノサイダーのファイナルベント――ベノバイザーからのコールを受けて、ジェノサイダーは自分のお腹の生体装甲にかみついて、引きはがす。

 そこにはぽっかりと大穴が開いていて――いきなり、その穴が周囲のものを飲み込み始める。穴の奥にマイクロブラックホールが発生してるんだ。

 もちろん、一番吸い込みたいのはディスパイダー。吸い込まれまいと懸命にその場に踏みとどまっているけど、







「はぁぁぁぁぁっ!」







 そこへ王蛇が反対側から突っ込んだ。跳躍、吸引される勢いに乗って加速して――







「ドゥームズ、デイ!」







 ベノクラッシュの要領でディスパイダーを蹴り飛ばして、ジェノサイダーのお腹の穴へと叩き込む!

 哀れ、ディスパイダーはジェノサイダーの腹のブラックホールに飲まれて消滅――獲物を飲み込んで、役目を終えたマイクロブラックホールがジェノサイダーによって打ち消され、吸引が止む。

 あっという間……本当にあっという間に、私達を手こずらせていたミラーモンスター達は王蛇によって一掃されてしまった。さすが、ミラーモンスター退治の本職ともなると手際が違うね。



「もう大丈夫ですよ。
 さっきはすみません……ケガとか、してないですか?」

「あぁ、大丈夫大丈夫。全員無事だよ」



 さっきディスパイダーにスイングかました時のことを言ってるんだろう。心配そうに駆け寄ってくる王蛇に笑いながらそう答える。

 それで……



「あー……一応聞いておくけど、正体とか、教えてくれないんだよね?」

「……すみません」



 やっぱり。



「ま、私達も六課のみんなにいろいろ話せなかった時期があったからねー。気持ちはわかるから、ムリに聞くようなことはしないから安心して。
 じゃあ、もう行ってもいいよ――ナイトの子とかによろしくねー」

「はい。
 それじゃ」



 あっさり行かせてあげる私に、王蛇の子が仮面の内側で微笑んだのがなんとなくわかった――改めて頭を下げると、鏡の中に消えていく。



「……ホントに良かったの? 何も聞かなくて」

「言ったでしょ? 『私達も似たような状態だった時期がある』って。
 そんな私達が自分のこと棚に上げて根掘り葉掘り聞けないでしょ」

「いつもさんざん棚に上げてるクセに」



 かがみがツッコんでくるけど、気にしない気にしない〜♪



「それに聞いてるヒマもないしね。
 ほらほら、早く先生や恭文達の援護に行かなきゃ」

「そ、そうですね。
 みなさん、急ぎましょう」

「う、うん!」



 みゆきさんにつかさがうなずいて、気を取り直してレッツゴー!

 むしろ本命はここからなんだ。急いで行くよ――恭文達に見せ場全部持っていかれちゃう前にっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」

「でやぁぁぁぁぁっ!」







 ウィングロードを張り巡らせて、何とか頭上をとった――飛び込んだあたしとエリオが同時にしかけるけど、ピーコックアンデッドはあたしの蹴りも、エリオの槍もあっさりかわす。

 けど、おかげであたし達から後退、つまり地面に向けて降下する形になって……







「待っていたでござるよっ!」

「めんどくさいんだから、さっさと墜ちろっ!」







 そこにはシャープエッジとアイゼンアンカーが待機済み。二人の得物にブッ飛ばされる形で、ついにピーコックアンデッドが地面に叩きつけられる。

 叩きつけられるけど……







「……ナメたマネを……」







 ぅわ、普通に立ってきた。もうけっこうな数打ち込んでるのに。



「…………ティア」

「何?」

「アイツ……弱ってるように見える?」

「聞くんじゃないわよ、バカ」



 …………見えないよね。

 さすがに少しは息を切らせてきてるけど、与えたダメージを考えると明らかに消耗が軽い。あたし達の攻撃、あんまり効いてない……?



「どうした? もう終わりか?
 さっきまでの勢いは、どこへ消えた!?」



 ――――来るっ!

 あたし達に向けて、ピーコックアンデッドが突っ込んできた。地を蹴って、その勢いのままに宙へ飛び立って――





















「はい、そこまで」





















 叩き落とされた。



 飛び込んできた影に、脳天への一撃をもらって……本当に、あっさりと。

 角度もタイミングも、申し分のないくらいの一撃。これでもかというくらいに理想的なカウンター。

 まともにくらったピーコックアンデッドは頭から地面に突っ込んだ……ううん、『突っ込んだ』なんて生易しいものじゃない。上半身全体が地面に“打ち込まれて”、地面から下半身の生えたオブジェみたいになってる。



 そして……一番肝心なこと。

 その一撃は、あたし達の誰が放ったものでもない。



「ったく……ちょっとお前、調子乗りすぎ」



 そう言いながら立ち上がる、ひとりの……仮面ライダーの仕業だ。

 赤色……いや、紫?……あぁ、そうそう、マゼンダだ。マゼンダと黒のスキンスーツに、白と黒のプロテクター……胸から肩のプロテクターにかけて、大きく十字が描かれている。

 そして仮面には、まるで仮面そのものをかち割るように、差し込まれるような感じで七枚のプレートが飾られている。

 ……見覚えがない。少なくともあたしが見ていた範囲……『クウガ』から『キバ』までの範囲には出てこなかったライダーだ。



「だ、誰……?」

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」



 思わずつぶやいたエリオに、ライダーが答えてくれる……って、あんまり答えになってないよ!? 仮面ライダーなのは見ればわかるからっ!



「……き、貴様、“ディケイド”……!?」



 と、そんな中、がんばって上半身を地中から引き抜いたピーコックアンデッドがライダーを見て驚く……そうか、あれが、“ディケイド”……

 良太郎さんが話してくれたことを思い出す……仮面ライダーディケイド。“ライダー大戦”で良太郎さん達と敵対して、自分以外のすべてのライダーを一度は倒したっていう仮面ライダー。

 そして、今良太郎さん達とは別にネガショッカーとの戦いに介入しているライダー達のリーダー格。



「やれやれ、アンデッド相手じゃ手こずってるだろうと思って来てみれば、まさにビンゴだったワケか。
 お前らは下がってろ。コイツらはオレが片づける」

「そうはいかないわよ。
 あたし達もまだまだやれる……後からしゃしゃり出てきたアンタに、持っていかれる覚えはn

「そりゃ、トドメまで刺せるなら任せるけどさ」

「………………っ」



 痛いところを突かれて、ティアが反論をつぶされた。



「それに、こっちとしてもコイツを逃がすワケにはいかなくてな。
 コイツのラウズカードはダイヤのJ……うちのメンツの戦力になるんだよ」



 あ、そっか……

 ダイヤスートのラウズカードは、ギャレンの……それにJってことは……



「どっちにしろ、お前らだってコイツ捕まえて、良太郎経由でギャレンを呼ぶつもりだったんだろう?
 その手間を一足飛びに飛ばしてやるって言ってんだ――ここは素直に甘えとけ」



 ピーコックアンデッドの出方をうかがいながら“ディケイド”が言う……んだけど……

 ……何だろう、この感じ……

 マスクのせいで声がくもって、その声はクリアに聞こえない……けど、確かに聞き覚えがあるように思う。

 それに話し方も……この言い回しは、まるで……







「……来ます!」







 あたしの考えはキャロの声で中断された――そう、ピーコックアンデッド。“ディケイド”に一発お見舞いされたのが頭にきたのか、地面から少しだけ浮き上がって、ホバリング同然の低空飛行でこっちに、と言うより“ディケイド”に向けて突っ込んでくる。



「正面突撃か……
 お前の能力の高さを考えれば、当然の選択だな」



 対して、ディケイドは腰のファイルのようなツールからカードを一枚取り出した。

 そっか……龍騎やブレイドみたいに、カードを使って戦うタイプのライダーなんだ……って、えぇっ!?



「良太郎達のいる所じゃややこしくて使えないからな……今のうち、お披露目しとくか」







《KAMEN-RIDE!
 “DEN-O”!》








 腰のベルト、そのバックルにカードを挿入して、読み込ませて……次の瞬間、姿が変わった。

 だけど、そうやって変身したのは……電王!?

 間違いない。モモタロスさんのソードフォーム……あ、ベルトがデンオウベルトじゃない。“ディケイド”のベルトのままだ。







「俺、参上っ!……ってね!
 そぉらよっと!」







 それに、武器もデンガッシャーじゃない……さっきカードを取り出したファイル型ツールが剣に変形。ピーコックアンデッドの突進を紙一重でかわして、斬りつける。

 大した一撃じゃない。回避のついでの一撃……けど、それでいい。







「こっからが本番だ!」







 あくまで今のは本命のための、きっかけの一撃だから――バランスを崩して墜落、地面に突っ込んだピーコックアンデッドに襲いかかって、剣での連続攻撃。

 やっぱり、モモタロスさんのとは違う。けど同じくらい荒々しくて、自由奔放な剣……



「次いくぜ!」







《KAMEN-RIDE!
 “FAIZ”!》








 そして再びカードを使って姿を変える……今度はファイズ!?

 まさか……“ディケイド”って……







「他のライダーに変身する、ライダー……!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 おーおー、驚いてる驚いてる。

 オレが電王に続いてファイズに変身したことで、スバル達、度肝を抜かれて目ん玉ひんむいてやがる。

 オレが“ディケイド”として旅を始めたばっかりのことを思い出すなー。“アイツら”も、最初“ディケイド”が他のライダーに変身できると知った時は驚いてたっけ。

 ま、それはさておき……







「突っ走るぜ……ついて来れるか!?」







《FORM-RIDE!
 “FAIZ”――“ACCEL”!》








 カメンライドじゃなく、フォームライドのカードを腰のベルト、ディケイドライバーにセットして、発動――ファイズからさらにファイズ・アクセルフォームに変身。腕のファイズアクセルを作動させ、一気に自身を加速させる。

 こっちのクロックアップもどきにあわてるピーコックアンデッドだけど……遅い遅いっ! 今のオレに追いつきたければ、第三部のディオ様か承太郎の兄貴か、黄金聖闘士ゴールドセイントでも呼んでこいっ!







「そらよ、後ろだっ!」







 背後に回り込んで一撃。後ろに注意を向けたアイツの正面に回ってもう一撃。ジャンプして、飛び越しざまに脳天に一撃……加速状態が解ける前に、オマケでもう二発おみまいしてやった。







《KAMEN-RIDE!
 “RYUUKI”!》








 加速が終了すると同時に再びカメンライド――今度は龍騎だ。







《ATTACK-RIDE!
 “ADVENT”!》








 龍騎の特色と言えば何と言ってもコレ――龍騎の契約ミラーモンスター、ドラグレッダーを召喚。オレと一緒に、周囲のガラス窓やら車のフロントガラスやらを駆使してミラーワールドからのヒット・アンド・アウェイ!

 一方的にボコボコにされて、ピーコックアンデッドが地面を転がる……さて、そろそろ決めますか。







《KAMEN-RIDE!
 “BLADE”!》








 今回はただ倒せばいいってワケじゃない。封印しなきゃ……と、いうワケでブレイドにカメンライド。そして――







《FINAL-ATTACK-RIDE!
 “B《“B《“B《“BLADE”!》








 必殺技ファイナルアタックライド、発動っ! オレの周囲に三枚のラウズカードのエネルギー体が浮かび上がる。

 オリジナルのブレイド達がラウズカードを使った時と同じエフェクトだ――カードの内訳は《キック》、《サンダー》、《マッハ》。

 この三枚から放つのは、ブレイド・ノーマルフォーム最強の必殺技――







「ライトニング、ソニック!」







 《キック》で脚力を強化、《サンダー》で雷撃を上乗せして放つ技“ライトニングブラスト”を《マッハ》でさらに加速――そうして繰り出した渾身の一撃が、ピーコックアンデッドを直撃する!

 まともにくらって、ピーコックアンデッドが地面を転がる……致命的(死なないけど)ダメージを受けた証拠に、ベルトのバックルのロックが外れて、内側に記されたスートとカテゴリの表示――“ダイヤ”“J”があらわになる。

 仕上げだ。ブランクのラウズカードを投げつけ、ピーコックアンデッドがその中に吸い込まれていく――そして、カードはオレの手元に戻ってきた。

 表示は確かに“ダイヤのJ”……確かに頂戴いたしましたよ、っと……



「うし、みっしょんこんぷりーと。
 じゃ、オレはもう行くから、お前らもさっさと帰って……」

「行かせると思ってる?」

「……デスヨネー」



 後頭部にティアナが銃口を突きつけてきた。

 まぁ、向こうにしてみればオレは正体不明の仮面ライダーなんだ。当然の反応だからとやかく言うつもりはない。

 なので――







《ATTACK-RIDE!
 “INVISIBLE”!》








「な……っ!?」

「消えた……っ!?」



 あらかじめディケイドライバーにセットしてあったインビジブルのカードを発動。突然姿を消したオレに、ティアナやキャロが驚いてる。

 このスキに離脱させてもらう。早々にティアナから離れ、ビルの上に飛び上がる。



「残念無念、また来週ってな!
 ま、心配すんな――どうせ追っかけてるものは同じなんだ。その内、また会う機会もあらぁな」



 オレのかけた声にスバル達はようやくこっちの位置を把握するけど、もう遅い――向こうが追いかけてくるよりも早くビルの反対側に飛び降り、気配を断つ。

 どうせ、ティアナあたりはオレにあっさり逃げられてご立腹だろうが……ま、勘弁しろや。

 大ショッカー……いや、今はネガショッカーか。アイツらの正面はお前らに任せて、こっちは連中の脇腹をチクチクいぢめさせてもらう。

 そうすれば、連中はこっちにも意識を割かざるを得なくなって、お前らへのマークも緩くなる……そういうことで納得しとけ。



 つか、納得できるだろ。何しろ……







 ……““JS事件”で“こっちのオレ”が使った手の、二番煎じなんだからさ”。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ちぃっ!」







 別に時間を止められているワケではないんだ。先読みさえできれば、反応くらいはまだ何とか……クロックアップによって超加速したワームの手刀を、かろうじて急所を外してその身で受ける。







「イクトさん!」







 テスタロッサの声が上がる――が、正直答えを返す時間も惜しい。後退すべくオレの身体から引き抜こうとしたワームの腕を逃さずつかみ、ショートアッパーに乗せて炎を叩き込む!







「大丈夫ですか!?」

「急所は外した。大したダメージではない。
 それより……」



 互いの距離が開いたことで状況は仕切り直し――駆け寄ってくるテスタロッサに答えて、吹っ飛ばしたワームへと視線を向ける。

 ……くそっ、立ったか。それなりにダメージはあったようだが、あの硬い生体装甲を抜くには至らなかったようだ。



「ぅわ、タフやなー、アイツ」

「肉を切らせて骨を断つなら、きっちり決めなさいよ。何度も使える手じゃないんだから」

「耳が痛いな……」



 嵐山や雷道に答え、改めてワームへとかまえる。

 今受けた傷……攻撃をもらう前提でそれなりに防御は固めていたが、それでもかなりの深さだ。相手も今の攻防でそれなりに警戒してくるだろうし、確かに雷道の言う通り何度も同じ手は使えそうにない。

 さて、どうやってコイツを叩き伏せてやろうか……って、来る!?

 オレ達の目の前で、ワームがわずかに腰を落とす――クロックアップの予備動作。

 そのまま、ヤツはオレ達の前から姿を消s











《ガァッ!?》











 ――瞬間、悲鳴が響いた。

 ヤツが加速しようとしたその瞬間、突然の“銃弾が”ヤツの全身を叩き、クロックアップを阻止したのだ。

 不意打ちの一撃をもらい、ワームが後ろにひっくり返る。だが、今の一撃は誰が……!?











「大丈夫ですか!?」











 事態を把握しようとしていたオレ達に対し、声がかけられる――振り向いたその先にいたのは、青色の、重厚な装甲に身を包んだ戦士の姿。

 そして銃撃の正体は、その肩に装備された連装機関砲によるものだろう。わずかに硝煙が銃口から立ち上っている。

 今まで出会ってきた者達とは明らかに方向性の異なるデザインだが、その意匠は確かに――



「仮面……ライダー……!?」



 テスタロッサがポツリ、とつぶやく――そう。そいつは、確かに“仮面ライダー”と呼ぶに相応しい姿をしていた。

 先ほど挙げた重装甲が今までのライダーと大きく異なるくらいで、それ以外は――あえて表現するなら、“重装甲型仮面ライダー”、といったところか。

 あー……嵐山。知っているライダーか?



「あ、うん……一応。
 『カブト』に出てきた、ガタックや」



 案の定、ヒーロー好きの嵐山はこのライダーのことを知っていた……ふむ。仮面ライダーガタックか。

 以前から、『電王』以外の作品に登場した仮面ライダー達がこの戦いに介入していることは報告に上がっていたが……ついにオレ達の前にも現れた、ということか。

 ならまずはどうすべきか……考えるまでもない。とりあえずはコンタクトを試みてみるとしよう。



「貴様……ガタックとか言ったな。
 助けてくれて礼を言う」

「え? えっと……その……
 と、当然ですよ! 何たって、私達は通りすがりの仮面ライダーですから!」



 ………………?

 オレに声をかけられ、そのライダーはなぜかあわてた様子を見せた。明らかに間に合わせな勢いでごまかしてくるが……そもそもなぜあわてる必要がある?

 声は……マスク越しのせいか、どこかくぐもって聞こえるが、女の声だとわかる。だが、その声にもどこか違和感を感じる。

 ……いや、違和感というより既視感……この場合は既聴感か? とにかく、どこかで聞いたような声だ。

 まさかコイツ……



「貴様……オレの知っているヤツか?」

「そ、そんなことはないですよ!
 “こっちのあなた”とは初対面で……あ」



 ふむふむ。なるほど……



「どうやら、いろいろとこちらの疑問を解消してくれる答えを持っていそうだな。
 少し、話を聞かせてもらおうか」

「あ、いや、その……
 ……そ、それより、今はワームですよ、ワーム!」



 あからさまにごまかしてくれたな……まぁ、貴様の言う通りだから、この場は乗ってやるか。

 今のガタックの銃撃でも、やはりワームは倒されていない……もっとも、あの程度で倒れるなら先のオレの炎ですでにケリはついているか。

 とにかくだ。ガタックの乱入で流れはこちらに傾いた。このまま一気に……



「……いえ。
 アイツは、私が倒します」



 って、ガタック……?



「ちょっと待ちなさいよ。
 アンタひとりでアイツを倒すつもり? アタシ達が総出でも追い込めないっていうのに……」

「大丈夫です」



 雷道が口をはさむが、ガタックはキッパリと答える……先ほどオレに対してあれだけ動揺していたのがウソのような、自信に満ちた声で。



「みなさんが苦労していた原因はクロックアップでしょう?
 逆に言えば、それさえ通用しなくなれば、そう怖い相手じゃない……だったら大丈夫です。
 “クロックアップができるのは、アイツだけじゃありませんから”」



 ………………何?

 オレが疑問の声を発するよりも早く、ガタックがベルトのバックルに手をかけた。

 見ると、そのバックルはまるで、青色のクワガタムシが横向きに張りついているような見た目をしていて――



「――やばっ!
 みんな、伏せてっ! “立っとったら危ないで”!」



 あわてて警告を発し、嵐山が地に伏せる。いったい何を――











「キャストオフ!」

《Cast Off!》











 告げて、ガタックがベルトのクワガタムシ、その角を開くように反対側へと回し――衝撃と共に、オレは嵐山の言葉の意味を理解した。

 そう――







 ガタックの身体から弾け飛んだ、その身体を包んでいた鎧の一部を顔面にくらって。







《Change Stag Beetle!》



 ベルトからの発声と共に、ガタックが鎧の下に隠していた本当の姿を現す――よりスリムな装甲に身を包んだ、オレ達もよく知るスマートなデザインの、クワガタムシをモチーフとした青い仮面ライダーだ。

 というか……



「嵐山……警告はもっと早く発しろ」

「いや、今のはウチらにかまわずキャストオフしたガタックが悪いと思うんやけど……」



 鎧の直撃を顔面にまともにくらって、まだ目がチカチカする――思わず苦言を呈するが、確かに悪いのはガタックか。



「――いきます!」



 そのガタックは、オレがそんな目にあったということにすら気づいていないようだ。平然とワームに立ち向かっていく。

 当然、ワームとて黙ってそれを受け入れはしない。瞬時に加速、姿を消す――クロックアップか!



「逃がすものですか!」



 だが、ガタックにあわてた様子はない。ベルトの側面にあるベルト止めのようなパーツを叩き――







《Clock Up!》







 ベルトの発声と同時、ガタックもまた姿を消した。

 いや――違う。空気の流れが、周囲でものすごい速さで何かが動き回っているのを教えてくれる。

 まさか――ヤツもクロックアップを!? 超加速状態で、ワームと戦っているのか!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」







 今、私達の周囲は世界が静止したかのようにすべてのものがその動きを止めている。

 ……ううん、違う。

 正確には“静止したように見えるほど動きがゆっくりになっている”んだ。

 これがクロックアップ……自分達の時間を加速させた結果、周りの時間が取り残されている状態。

 そんな中で、私はワーム……エビの特徴を持つキャマラスワームとの距離を詰め、殴りかかる。

 もちろん、キャマラスワームだって黙って殴られてくれない。ガードして、反撃してくる――大振りに繰り出された、右手と一体化しているハンマー状の鉤爪を、身を沈めてかわす。

 相手のお腹に手加減なしのワンツー。ひるんだところで少しだけ距離を取って、顔面に回し蹴りを叩き込む。

 まともにくらってたたらを踏んだ結果、キャマラスワームがこちらに背を向ける――すかさず飛びかかって、背中を思い切り殴りつける。







《Clock Over!》







 そこでクロックアップの限界時間――世界が元通りの速さで動き出して、キャマラスワームもクロックアップが解けたのか、加速状態から解放されて地面を転がる。

 時間はかけない――このまま一気に決める!







《One, Two, Three!》







 腰のベルト――ガタックゼクターのボタンをテンポよく三度押し込む――ゼクターの角を閉じると、ゼクターがエネルギーをチャージ。発生した強力なエネルギーが、私の右足に流れ込んでいくのがわかる。

 そのまま、私は立ち上がったキャマラスワームへと跳んで――











「ライダーキック!」

《Rider Kick!》











 ゼクターの角を開いた。チャージされたエネルギーが完全に解放され、私はそれを飛び蹴りに乗せ、キャマラスワームに思い切り叩き込む!

 ……手応え、あり。完全に入った。

 私のライダーキックで打ち込まれたエネルギーが、キャマラスワームの中で暴れ回っているのが外から見てもわかる。苦しげに、キャマラスワームが仰向けに倒れて――爆散。

 よし、撃破。あとは……



「じゃあ、私はこれで……」

「待て」



 ……やっぱり、呼び止めてきますよね、イクトさん。



「助けてくれたことには礼を言う。
 だが……改めて聞く。貴様は何者だ? この事件に介入している他のライダー達の仲間か?
 そして……だとしたら聞きたい。なぜ貴様らは、電王と合流しない?」

「え、えっと……」



 ……うん、マズイ。

 うかつなことは答えられない……答えの内容だけの問題じゃない。イクトさんのことだ。それ以外にも、“私の声からも私の正体に気づきかねない”。

 となると、方法は……ひとつ。



「……ごめんなさい!」



《Clock Up!》



 すなわち――逃げるが勝ち、だ。クロックアップで超加速。全速力でその場から離脱する。

 本当にごめんなさいっ! できれば正体明かさないで済ませたいんです!

 だって……











 ““こっちの私達”と対面したら、絶対ややこしいことになりますから”っ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 最高速で間合いを詰めて、斬りかかる――けど、相手もさすが。ネガタロスも僕の動きに追いついてきた。手にした剣で、アルトを弾く。

 けど――僕はオトリ。マスターコンボイがヤツの後ろに回り込み済みっ!

 相手が振り向くのも待たずにオメガを一閃――って、止められたっ!?

 ネガタロスはとっくにマスターコンボイに気づいてたみたい。だって、振り向きもしないまま剣を背後に回して、マスターコンボイの一閃を受け止めたから。

 改めて振り向いて、力任せの一撃でマスターコンボイを弾き飛ばす――けどっ!







「ぅおぉりゃあっ!」







 まだまだいきます、モモタロスさんがっ!

 飛びかかるように斬りつけたモモタロスさんのデンガッシャー。さすがにこれは対応が間に合わなかったか、ネガタロスが一歩後退して回避。

 逃がすかっ! そのまま追撃っ!

 モモタロスさんを追い越すように僕が突撃。アルトで水平に薙ぎ払い――止められた。

 お互いの刃が弾かれ合い、僕らは距離を取って仕切り直し。

 ホント、(いろんな意味での)センスの善し悪しを除けば強敵だわ。ネガ電王に変身しなくてもここまで戦えるのか……

 チラリ、と視線だけをそちらに向ける――隣で繰り広げられているもうひとつの戦いへと。

 そう。“ジュンイチさんVSデスイマジン&その他大勢”だ。

 さすがはジュンイチさん、と言うべきか……デスイマジンと斬り結びながら、僕らやなのは達の方へと向かおうとしているザコのみなさんをきっちり牽制してる。







「とはいえ、けっこう厳しいんだけどねっ!
 早くそっち済ませて、楽させてくれると嬉しいんだけどっ!?」

「地の文に対して愚痴らないでください。
 ……まぁ、了解ですけど」

「言ってくれるじゃないか。
 オレ達相手に、速攻で決めるだと?」

「悪いね。
 僕としてはおたくみたいな強いのとやり合うのは嫌いじゃないんだけどね」



 断っておくと、決してバトルジャンキー的な意味じゃないからね。修行になるから的な意味だからね。



「けど、今回はあまり時間はかけたくないのよ。
 そんなワケで、さっさと帰ってもらいたいワケだよ」



 言いながら、今度は気配だけで後ろ様子を探る。

 なのはとミシオに守られてる万蟲姫――そして、彼女やメープル、サニーに囲まれ、三人をオロオロさせている危篤状態のネコイマジン。

 ネコイマジンの気配が明らかに小さくなってる……いくら“実体化した思念体”であるイマジンと言っても、これ以上の放置はマヂで命に関わりかねない。『さらば電王』で幽汽に斬られたモモタロスさんのように。

 それに……ザインが後ろに下がって動きを見せないのが何よりも気になる。

 記録だけ見ていてもそうとうえげつないことばっかりやってるヤツだもの。しかも最高評議会に蘇生された時に瘴魔獣と合成されて自身が戦う能力も十分。その上、別の時間軸の自分とも一体化してそれがさらにパワーアップしていると本人が証言してる。

 そんなヤツが、『今回は単なる顔見せ。後はヨロシク』なんてほざくとも思えない。後ろに下がっているのには絶対何かある……



《仮に何も裏がなかったとしても、それを確かめる術のない私達はどの道彼に対する警戒を解くことはできませんしね。
 やれやれ、単に後ろに下がられた、ただそれだけのことで、見事にネガタロスに集中させてもらえなくなってますね。ヤな手を使ってくれますよ》



 まったくだよ。



《ですが……それならそれで、手はひとつ》

「だね」



 アルトに答えて、その刃をネガタロスに向ける。

 そうだ……手はひとつ。

 ザインが何かしてこようが関係ない……このままネガタロスも、ザインの策もぶった斬る!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しっかりするのじゃ!
 大丈夫じゃ! きっと助かる!」

「ネコさん、がんばってよ!」

「いぢめられたの、もう怒ってないから! だから元気になってよ!」



 わらわが、メープルが、サニーが呼びかけるが、ネコイマジンはどんどん弱っていく……胸の傷からこぼれた時の砂は、すでに彼の身体を半分ほど埋めている。人間で言うならとうに失血死している量じゃ。



「デンライナーの停車時刻はまだかえ!?」

「えっと、今1時20分だから、次は2時2分か14時14分……ダメ、まだ30分以上あるよ!」



 メープルの答えに頭を抱える……ダメじゃ。どう考えてももちそうにない。

 せめてこの銀行の外に連れ出せれば、デンライナーの方から来てもらうこともできるのじゃが……出口の方にはネガショッカーのイマジンや他の種の怪人が特に集中しておる。わらわ達を出す気がないのは明らかじゃ。

 こうなったら……



「なのは殿! 砲撃で一気に外まで道を作れぬかえ!?」

「そうしてあげたいけど……あぁもうっ!」



 わらわに答えようとするなのは殿じゃが、襲いかかってきたイマジンの攻撃を受け止め、速射型の砲撃を撃ち込む。

 じゃが……耐えられた。発射を急いで十分な威力を溜められなかったせいで、相手の頑強な装甲を貫けなかったのじゃろう。

 アルマジロイマジン……その威圧感は明らかに他のイマジン達とは一線を画している。間違いなく、デスイマジン達のような上級イマジンじゃ。

 先ほどから、なのは殿はこやつから執拗に攻撃を受けている。おかげで砲撃のチャージもままならず、大きな威力の攻撃ができずにいる。

 こやつを何とかしない限り、なのは殿に突破口を開いてもらうのはムリそうじゃ。

 ミシオは……ダメじゃ。ミシオの火力ではそこまでの威力はない。

 わらわがサニーと変身すれば……いや、しかし、今のネコイマジンを放ってわらわまでもがここを離れては……











「……放って、いけばいいだろうが……」











 ――ネコイマジン!? 意識が戻ったのかえ!?

 じゃが、『放っておけ』など……そんなこと、できるワケがないのじゃっ!



「ちょっと、いきなり何言い出すのさ!?」

「てめぇらこそ、何寝ぼけてやがる……」



 わらわと同意見のサニーが反論するが、ネコイマジンも応じてくる。



「オレは、そこの……チビ姫の、命を……狙ってた、んだぞ……
 つまり……敵だ……死のうが、生きようが……知ったことじゃ、ねぇ、だろ……」

「そんなことないっ!
 知ったことじゃないなんて……絶対そんなことないっ!」

「そうじゃ!
 お主は、わらわ達を何度も助けてくれた……さっきだって!」

「……ただ、単に……てめぇを、殺す役を……譲りたくなかった……だけ、だっつーの……」



 メープルと共に呼びかけるが、ネコイマジンは自分の意見を覆さない。



「ここで……オレが、死ねば……自分の命を、狙うヤツ……が、ひとり、減るだけだろ……
 だから……ほっとけって、言ってんだ……」



 もう、頭を動かす力もないのか……力なく天井を見上げながら、ネコイマジンが言う。



「どの道……助かる、傷じゃねぇ……
 ただ、死ぬのが早いか遅いか……それだけだ……」











「そうかい」











「――――――っ!?」



 突然の声に見上げると、そこには真っ白なトラの怪人……真っ白……オルフェノク!?

 けど、なのは殿とミシオがわらわ達を守って……って!?

 見れば二人とも、一方から攻めてくる敵に対応して、同じ方向に集まって防戦中――引きつけられた!?

 なんとなく“そんな気”がして、敵陣の奥へと視線を向ける――ニヤリとザインが笑うのが見えた。ヤツの策か!



「だったら……望み通り今すぐ殺してやらぁっ!」

「――――――っ!」



 トラのオルフェノク――タイガーオルフェノクの爪が振り上げられる。とっさにネコイマジンの上に覆いかぶさって――











《ATTACK-RIDE!
 “BLAST”!》












 瞬間――タイガーオルフェノクが吹き飛ばされた。

 なのは殿やミシオ……そして恭文達の位置からでもない、“まったく別方向からの銃撃によって”。







「ってぇっ!?
 くそっ、いきなり何しやがる!? つか誰だっ!?」







 吹っ飛ばされた先でタイガーオルフェノクが立ち上がり、周囲を見回して――











「誰だ、だと……?
 そんなもの、答えはひとつしかあるまい」











 そんな言葉と同時、戦場の一角の空間が揺らいだ。

 そして姿を現すのは……黒と青のスキンスーツに、四角いプレートが並べて配置されたような奇妙なデザインのプロテクターをまとった、見たことのない仮面ライダー。

 今のは、空間転移……いや、姿を消していた!? ティアナ殿の魔法のように!?



「そう、答えはひとつ……
 通りすがりの仮面ライダーだ」

「貴様……“ディエンド”か!?」



 “ディエンド”……!?

 タイガーオルフェノクの言葉に、思い出した――思わずモモタロスに身体を貸している良太郎殿へと、電王へと視線を向ける。

 前に良太郎殿から教えてもらった。この戦いに介入しているライダーのひとり……それが、ディエンド。



「フンッ、ザインめ。見え透いた手を使う……
 まぁ、ヤツの手口にしてはまだ真っ当な方か」



 言いながら、ディエンドは手にした銃を引き伸ばすと、その側面に腰のポーチから取り出したカードを一枚差し込む。







《ATTACK-RIDE!
 “BLAST”!》








 そして銃身を元通り押し込むと、先ほど聞こえた声が銃から聞こえる――ディエンドが銃撃し、放たれた銃弾がタイガーオルフェノクに殺到、全弾命中し、吹っ飛ばす。







「お次はこいつだ」



《KAMEN-RIDE!
 “IBUKI”!》


《KAMEN-RIDE!
 “DRAKE”!》


《KAMEN-RIDE!
 “ZOLDA”!》








 さらに、ディエンドは先ほどと同じ流れで、三枚のカードを次々にセット。その上で銃撃――って、えぇっ!?

 ディエンドの放った銃弾はその目の前で変化。“三人の仮面ライダーとなって”その場に降り立つ。

 えっと……『龍騎』に出てきたゾルダと『カブト』に出てきたドレイク……それに、『響鬼』に出てきた威吹鬼かえ!?







《ATTACK-RIDE!
 “BLAST”!》








 そしてディエンドがまた銃撃のカード――呼び出した三人のライダーとの一斉銃撃で、タイガーオルフェノクを周りのネガショッカー怪人もろとも吹っ飛ばす!

 まさかあやつ……他のライダーを召喚する能力があるのかえ!?



「何を呆けている?」



 ――――――っ!?

 突然かけられた声に、我に返る――見れば、ディエンドがこちらを向いている。

 独特なデザインの仮面のせいで視線が読みづらいが……きっと、わらわを見てる。



「そいつを助けるんじゃないのか?
 それとも、もうあきらめることにしたか?」

「………………っ! そ、そんなことないのじゃ!」



 ディエンドが言ってるのがネコイマジンのことじゃとすぐにわかった――そうじゃ。見捨てるつもりなんかあるワケないのじゃっ!



「だったらさっさと助けろ。
 貴様も瘴魔の姫なら、自分の守る者くらい最後まで面倒を見てみせろ」

「言われるまでもないのじゃ!」



 ディエンドの乱入で、ネガショッカーの怪人達は明らかに動揺している……今なら、ネコイマジンを外に連れ出せるかも……



「しっかりするのじゃ!
 すぐにデンライナーまで連れてってやるのじゃ! ミシオ!」

「はいはい」



 わらわの言葉に、ネコイマジンと体格の近いミシオが肩を貸してやって……



「だから……ほっとけって、言ってん……だろ……」



 ネコイマジン……まだそんなことをっ!

 このまま放っておいたら、お主、本当に死んでしまうんじゃぞ!?



「いいから……もう、かまうな……
 ……てめぇを、殺す役目に、こだわって……その結果が、これだ……
 オレの……まいた、種だ……これで死のうが……オレの、自業、自、得……」



 ………………っ!







「バカなことを……言うなっ!」







 気づけば、わらわはネコイマジンの胸倉を乱暴につかんでいた。



「自業自得!? お主のか!? ふざけたことを言うでないわっ!
 お主は自分の仕事を貫こうとしたんじゃろう!? 自分の手で、自分に任された役目を果たそうとしたんじゃろう!? それのどこが悪いっ!?
 わらわは、そんなこともわからぬバカなイマジンの主になった覚えはないぞえ!?」

「……主……!?
 てめぇが……オレの……!?」

「そうじゃっ!」



 そうじゃ。わらわはこやつの主じゃ。なぜなら……



「お前はわらわの願いを聞いて、わらわとの契約を果たして実体化した!
 つまり、わらわがお前をこの世界に産み落としたも同然っ!
 そのお前を……どうして見捨てるなんてできるのじゃっ!」



 そうじゃ……見捨てるなんてできるワケがない。



「お前が『役目をちゃんと果たしていればこんなことにはならなかった』と言うのであれば、そもそもそれ以前に、わらわがお前と契約して、お前を実体化させなければこんなことにはならなかったのじゃ!
 お前がこうして傷ついている一番最初の原因はわらわにある! ならば、責任を取るべきはわらわじゃっ!」



 じゃから……絶対見捨てない。



「だから、わらわが責任を取り、貴様を助ける!
 お前の命……もう一度わらわが預かる!
 ミシオ!」

「……あぁ、なるほど」



 わらわの言いたいことに、ミシオはすぐに気づいてくれた。自分が肩を貸していたネコイマジンの背後に回って――







「えいっ」

「どわぁっ!?」



 ネコイマジンを突き飛ばし――わらわの“中”に叩き込んだ。







〔ってぇ、何しやがr〕

「再契約じゃっ!」



 反論しかけたネコイマジンにその先は言わせない。間髪入れずに告げる。



「契約内容は――」





















「わらわと共に、ネガショッカーと戦うのじゃっ!」





















 それは、まさに一瞬のこと。



 わらわの身体から光の玉が飛び出す――そしてそれはすぐに自らの形を作り、わらわの目の前に降り立つ。



 そう――







 完全に傷の癒えたネコイマジンとなって。







「よし、成功じゃ!」

「って、『成功じゃ!』じゃねぇっ!」



 ん? 何か不満かえ?



「あーあー、不満だらけですともっ!
 何勝手に再契約なんてしてやがるっ! おかげでせっかく自由の身だったってのに、またてめぇに縛られちまったじゃねぇか!」



 んー、そんなこと言われても……



「こうでもせんとお前を助けられなかったし、契約してしまえばお前はわらわから離れられなくなるしの」

「あー……くそっ、やられた……」



 わらわの答えに、ネコイマジンはその場に崩れ落ちる……フッ、勝った。



「ほらほら、律儀なところを見せるチャンスじゃ。
 契約の内容通り、ネガショッカーをブッ飛ばすのじゃっ!」

「あー、はいはい。わかりましたよ。
 やればいいんだろ、ったく……」



 わらわに促されて、ようやく腹が決まったようじゃの……ネコイマジンは、わらわの前に立ち、ネガショッカーの怪人達の前に立ちふさがる。



「何だ、結局そっちにつくのか」

「まぁね。
 旦那に殺されかけたおかげで、もうそっちに立てる義理もなくなりましたんでね」



 ネガタロスの言葉に答えて、ネコイマジンが拳をゴキゴキと鳴らす……あ、そうじゃ。



「そういえば、お前にも名前を考えてやらぬとな」

「断固断る!」



 むぅ、そこまで拒絶反応しなくても……



「そこの犬コロの名前で紆余曲折あったことを知ってれば拒絶もするわっ!
 とにかく、自分で考えるから余計なアイデア出すなよっ!」

「はいはい、わかったのじゃ。
 では……」

「あぁ……いくぜっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あぁ……いくぜっ!」



 いろいろあったが、まぁ、結局こうなっちまったワケで……だったら、今この場でオレがやることはひとつしかない。

 と、いうワケで、オレはさっさと、強引にオレの契約主の座に返り咲いた小娘……ココアの“中”に入る。

 ココアから身体の主導権をもらうと、取り出すのはもちろんライダーパス。

 同時、ココアの身体、その腰にデンオウベルトが巻かれる。その青色のボタンを押し込んで――











「変身!」

《Climb Form》











 パスをベルトにセタッチ。全身がスキンスーツに覆われ、その上に見るからに頑強なアーマーが装着された。

 そして、マスクのレールに現れるのはオレ自身が変化した、猫をモチーフにしたオブジェ。バラバラに組み変わり、仮面となってマスクの正面に装着される。

 さて……さっきコイツのベルトは“クライムフォーム”とか名乗ってたけど、他の連中にならうならオレも独自の名前をつけるべきか。うーん……

 ……“クライム”か…………よし、決めた。



「オレは盗賊シーフ……仮面ライダーシーフだ――」











「ゲーム、スタート」











 ま、『泥棒猫』なんて言葉もあるしな。“犯罪クライム”なんて名前でもあるし、こんなもんでいいだろ。





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あきゅろす。
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