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頂き物の小説
第23話「パニックホラーは突然に」



「ちわーっす」

「え………………?」



 どうも、ギンガです。

 今、私達のいるマックスフリゲートにある意味で意外な来客が来ました。



「えっと……どうしたんですか、ジュンイチさん?」



 そう。ジュンイチさんだ。

 私や母さん、ホクトだっているんだし、ナンバーズのみんなとも親しいジュンイチさんだ。むしろ顔を出して当然の人ではあるんだけど……最近デンライナー署の方にかかりきりだったから、当分は来れないだろうと思ってた。『意外』っていうのはそういう意味。



「別に、特別な用事があったワケじゃねぇさ。
 近くを通ったから、お節介に寄ってみただけだよ」



 「一応、ここの家主だし」と付け加えて、ジュンイチさんは軽く肩をすくめてみせて――







「じゅ〜〜ん〜〜い〜〜」







 あ、来た。







「ちぃぃぃぃぃ〜〜っ!」







 ウェンディだ。そろそろ気づいて飛んでくるだろうなー、と思ってた子が予想通り登場。

 全速力で駆けてきて、ジュンイチさんに飛びついて――











「ふんっ!」











 ……やっぱり。

 飛びついてきたウェンディを抱きかかえる形で受け止めて……って流れは大体予想してた。だってジュンイチさんだし。

 けど……



 バックドロップとか、抱きついてきた女の子相手に使う技じゃないと思うんだけどなー。



「そっか?
 前にもやったことあるんだけど」



 あるんですか。

 それと、きれいなブリッジを維持したまま答えないでください。もっと言うならウェンディを放してあげて。意識飛んでるみたいだから。



「でもさ、普通いきなり飛びついてきたらカウンターいかない? 戦いに生きる人間の本能的な反応で」

「その前にひとりの人間として自制する段階をはさんでください。
 あと、そうだとしてもバックドロップっていう選択は明らかに間違ってると思います。
 何より、今のがホクトやヴィヴィオだったとしたらそんなことしないですよね?」

「体格差的な意味でバックドロップ難しいしなー、アイツらの場合」



 そんな理由でバックドロップされずにいるって知ったら、泣……かないか、あの子達最近ますます精神的な意味でタフになってきてるし。主に目の前のこの人のせいで。







「……予想はしていたが……またコメントに困る光景だな」







 あ、チンク。



「柾木……人の妹に芸術的なバックドロップをかまさないでくれるか?」

「不用意に飛びついてきたコイツが悪い。
 最近修行つけてやってないし、“油断大敵”って言葉を頭に刻み込んでやろうかと」

「普通、身内に抱きつこうとしたらバックドロップかまされるなんて、油断してなくても思わないだろ……」

「えー? 戦国時代の日本じゃ、身内に出し抜かれるなんて日常茶飯事だぜ?」

「現代のミッドチルダに中世日本の常識を持ち込むなっ!」



 ツッコんで、チンクは頭を抱える……気持ちはよくわかる。まったく、あぁ言えばこう言う人なんだから……











「身内に出し抜かれていいなら」











 …………え?







「私が貴様を殴ってもかまわんな!?」







 ――――――ッ!?







 パパパパパァンッ!







 ……本当に、一瞬の出来事だった。

 ほとんど同時に鳴ったとしか思えないタイミングで音が重なる――私達が気がついた時には、もうトーレはジュンイチさんから間合いを取って地面に降り立っていた。




「…………相変わらず、憎らしいほどの反応速度だな」

「安心しろ。かけっこしたらお前が勝つから」



 トーレに答えて、ジュンイチさんがかまえを解く……えっと、トーレが不意打ちを仕掛けて、ジュンイチさんがそれをさばいた……で、いいのかな?

 正直、更生プログラム中のトーレがやっていいことじゃないけれど……残念ながら、この二人の間じゃ当たり前のやり取りだったりするから困る。お願いだから単なるあいさつでそんな高度な攻防しないで。



「……まぁ、それはいいか。
 柾木、今日はいったいどうしたんだ? 今日来るという話は聞いてないが」

「何だよ、アポ取ってなきゃ来ちゃいけないっての?」

「いや、そういうつもりではないが……」

「単に、近くを通ったから、バカ弟子達の様子を見に寄っただけだよ」

「誰がバカ弟子だ、誰が」



 あ、ノーヴェ。

 見れば、ホクトや母さん、他のナンバーズのみんなも次々にやってくる……まぁ、ウェンディにチンク、トーレと次々にこっちに来てるワケだし、みんなも来るよね、当然。



「パパ、今日はこっちなの!?」

「いや、ちょっと寄っただけだから、一日中とかはさすがにムリだ。ごめんな」



 抱きついてきたのを受け止めて――やっぱりバックドロップはしない――ホクトの頭をなでてやりながら、ジュンイチさんが答えていると、



「ちょっと寄っただけ、ね……」

「え…………?」



 スカリエッティ……?

 いつの間にか、スカリエッティがとなりにいた。ホクトをうらやましがったウェンディがもう一度ジュンイチさんに飛びついて、カウンターの脳天チョップをもらっている光景を見ながら、なんだか楽しそうにつぶやいてる。

 えっと……何がそんなに楽しそうなんですか? あなたの娘が現在進行形で床に顔面うずめてるんですけど。



「気がつかないのかい?
 『近くを通ったから寄ってみた』なんて、あの男にしては珍しく無計画じゃないか」

「……そういえば……」

「近くを通っただけで、無意識の内にここに立ち寄りたくなる……そんな何かが彼の身にあった。
 彼にそう思わせるような何か……実に興味深い」



 うーん……そうは言うけど、ジュンイチさんって、ムチャクチャやってるように見えてけっこう精神的にはもろいところありますよ?

 だからこそ、トラウマをえぐられたら暴走態なんてものが出てくるワケで……



 ………………あ。



「……トラウマだ……」

「何か気づいたのかい?」



 尋ねるスカリエッティにうなずく――確かに、思い当たる節がある。



「つい最近、六課の扱った事件で、犯人が復讐に走って……っていうのがあったんです」



 そう……復讐事件があった。元復讐鬼という経歴の持ち主であるジュンイチさんだ。その事件に対して何か思うところがあったとしてもおかしくない。



「なるほど。
 自分のかつての罪に対して、周りが思っている以上に背負い込んでいる男だからねぇ、彼は」



 ……スカリエッティにまで言われるなんて、そうとうだなぁ。



 けど……確かにその通りだ。ジュンイチさんは、自分の過去の罪に対しては必要以上に罪悪感を抱える傾向がある。

 普段は自分がどれだけムチャをやらかしても笑って済ませるクセに、その手の話題だけは同じように対応しているように見えてもどこか悲壮感をにじませることが多い。



 今回もそうだとしたら……あぁ見えて、けっこう精神的にはキテるのかもしれない。



 だったら……



「支えるあげるのが、“私の”役目ですよね、うん」

「……自分だけ名乗りを上げる辺り、キミもたいがい独占欲が強いことで」



 ほっといてください。

 そのくらいでないとあの人のとなりにはいられませんから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やれやれ、相変わらず彼の周りの人間関係には退屈しないね。

 ……いや、それはあの“古き鉄”も一緒か。以前ここに来て以来、うちの娘達もすっかりお気に入りのようだし。



 …………まぁ、それはともかく、問題は柾木ジュンイチ、彼の方だ。

 最近の六課の活動については小耳に挟む程度だが聞いている。なんでも、電王とかいう連中に協力して、イマジンとかいう輩とやり合ってるとか。

 さらに、瘴魔を操る何者かの暗躍もあるという。復讐事件もその中のひとつとなると……少し気になる。



 瘴魔と言えば彼らブレイカーと相対する者だ。もし、彼らがブレイカーを要注意戦力として見ているとしたら……



 もし、柾木ジュンイチを排除することを、作戦の中に前提条件として組み込んでいるとしたら……







 意図的に彼のトラウマに触れる事件を起こし、彼の精神的な憔悴を狙っているということも、十分に考えられるんじゃないだろうか……?











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第23話「パニックホラーは突然に」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ジュンイチさんがそんなことしてるなんて露知らず、六課は今日も平常運転。

 そんな中、いきなり放送で呼び出されて、はやてのところにやってきたワケだけど……



「ビデオメッセージ? 先生あてに?」

「うん……」



 思わず聞き返す僕に、はやては戸惑いまじりにそううなずいた。

 僕だけじゃなくてヒロさん、サリさんまで呼び出すもんだから、何があったのかと思ったら、なるほど、先生絡みか。



 けど……



「せやけど、知っての通り、あの人今大絶賛行方不明中やろ?
 それで、どこ持ってったらえぇもんかと扱いに困った本局の郵便担当が、個人的なパイプのあるクロノくんに丸投げして……」

「オレ達のところへ、か……」



 はやての説明に納得してうなずくのはサリさん……うん、とりあえず事情はわかった。



 ちなみに、すでに受け取る前からビデオメッセージだってわかってる理由は明快。

 まぁ、要するに……俗に言う検閲ってヤツだ。

 いくら“JS事件”みたいな事件を起こしても、そのせいで支持率が急落していても、それでも管理局が“次元世界の平和を守るために軍事力を行使する組織”であることに変わりはない。

 当然、機密事項はあるしその漏洩には神経を使う――外部と連絡を取り合う郵便の内容がチェックされるのはむしろ必然。

 そんなワケで、問題の先生あての郵便も中身をチェックされて……中身が映像メディアであることが確認されたワケだ。

 もちろん内容もチェックされているはずだ。その上で問題ないと判断されて……その持って行く先に困って、たらい回しになった挙句僕らのところにやってきた、と。



「それで……内容は?
 検閲を通ったってことは、中身確認してるんでしょう?」

「あー、それなんですけどねー……」



 ヒロさんの質問に、はやてはなぜか浮かない顔……何か変なメッセージでも?



「んー、変なメッセージ、っちゅーか、そもそもメッセージなのかどうか……」



 ………………?



 まぁ、そんなものは見ればわかるか。はやての席の端末を使わせてもらって、さっそく確認してみることにする。

 郵便の中身の映像メディアディスクをセットして、再生、っと……

 すぐに目の前にウィンドウが展開される。そこに撮影者の地元と思われる、のどかな村の様子が映し出されて……



 ……映し出さされて……



 …………映し、出されて……



 ………………







 ………………終わった。







『って、これだけかいっ!』

「そう……これだけなんよ」



 思わず声をそろえてツッコんだ僕らに、はやてがため息まじりに答えた。

 何なんだ、コレ。セリフも何もなく、ただ村の風景が延々と撮影されているだけ……



「正直、ワケがわからんやろ?
 送り主は、これでヘイハチさんに何を伝えたかったんやろ……」



 肩をすくめて、はやてが言うけれど……



「……『ここに来て』……じゃないかな?」



 なんとなく、そんな気がした。



「延々と同じ景色を映すだけ……逆に言えば、その風景を強調してる。
 なら、何のためにこの景色を強調してるのか……そう考えたら……ね」

「なるほどなー……」



 僕の説明に納得して、サリさんがはやてを見る――何が言いたいかわかったんだろう。はやてもうなずいて、すぐに答える。



「一応、この風景の場所は調べたるよ。
 ミッドチルダの、とある田舎の集落や――そして、このビデオメッセージの送り主の住所も、この集落になっとる」

「自分トコの風景、か……ますます“ご招待”の可能性が高まったわね」



 ヒロさんも僕の仮説に異論はないらしい――まぁ、正しいにせよ間違ってるにせよ、状況的にそれを確かめるには実際に行ってみるしかないっぽいんだけどね。



「ほな、恭文達にこの件は任せてもえぇかな?」

「まぁ、先生宛のメッセージだったワケだしね」



 はやてに対してそう答える――まぁ、押しつけられた気がしないでもないけど、あの人の弟子である限り、こういう展開は半ば宿命みたいなものだし、そこはいい。



「ただ、な……」



 はやて……?

 いきなり渋い顔して、他にもまだ心配事?



「うん。ネガショッカーのことも頭に入れとかんと……と思ってな。
 自分達が目の仇にしとる六課からいきなり誰かお出かけ、となれば、向こうもその動向は気になるはずや」

「僕らを追いかけてくる可能性がある……ってこと?」

《あり得る話ですね。
 実際、“JS事件”中、“レリック”関係とは別件で六課メンバーが出かけた際、それを“レリック”回収任務と誤解したディセプティコンに追跡を受けた例がありますし》



 はやてに聞き返した僕にはアルトが付け加える――いや、いくらなんでもその発想はこじつけがすぎない? 実際やらかしたディセプティコンは元々そういうバカをやりそうな連中だからしょうがないとしても、ネガショッカーまでそんな……



 そんな……



 ………………



「…………ありえるね」

《でしょう?
 確かにディセプティコンよりも悪知恵は働きますけど、ネガショッカーもおバカをやらかす上での方向性はディセプティコンと似たり寄ったりなワケですし》



 となると、一応イマジン以下ライダー怪人系の敵が出ることも考慮しといた方がいいのか。

 でも、デンライナー署総出でついてきてもらうワケにはいかない。モモタロスさんの鼻やリュウタの感知能力はイマジン探しの切り札みたいなものだ。できれば事件解決まではクラナガンから連れ出したくはない。



 となると……





















「で、オレ達か……」

「すみません、侑斗さん。
 ネガショッカー相手ってことを考えたら、どうしても良太郎さん達か侑斗さん達かの二択になっちゃいますし……」



 話を聞いて納得する侑斗さんにはフェイトが頭を下げる――そう。同行は侑斗さんとデネブさんにお願いすることになりました。すでに現在ゼロライナーで現地に向かって移動中。

 一応は六課による捜査ってことになるから、六課の捜査主任であるフェイトが同行。僕とフェイトが動くってことで、当然のようにイクトさんもついてきた。迷子にならないか今から心配だ。

 ジャックプライムは居残り。シグナムさん&スターセイバーが交代部隊と一緒に出払ってるから、ライトニングの分隊長代理として残らざるを得なくなった。「また出番が……」ってボヤいてたけど、仕事なんだからあきらめてもらおうか、うん。



「ま、いいけどな。
 ゼロライナーなら、“時の砂漠”を経由して一直線に現地まで行けるし、いざとなればそこらの扉から“時の砂漠”に退避だってできる。
 どうせなら、直接村に出られるように降ろした方がいいか?」

「あー、いや、村の手前で降ろしてくれた方がありがたいかな」



 確認する侑斗さんを止めたのはヒロさん。

 もちろん僕もそれに賛成だ。なぜなら――



「こういう村って、よそから来たヤツはとにかく浮いて見えるものだからね。
 ただでさえそういう前提があるんだ。村の人達に怪しまれる可能性は少しでも減らしたい――いきなり村の中に現れるんじゃなくて、堂々と正面から村に入っていきたいんだ」



 ……とまぁ、そういうこと。



「なるほどな。わかった」



 侑斗さんが言うと、ゼロライナーの窓の外の景色が変わる。

 “時の砂漠”独特の、ちょっと赤みがかかった空から僕らのよく知る青空に。通常空間に出た証拠だ。



「村に続く林道にお前らを降ろす。
 村のヤツらに見られないように、と思ったら近くに降ろすのもマズイからな……だいたい1キロくらいは歩きになるけど、大丈夫か?」

「そのくらいでへたばるようなヤワな鍛え方はしてないって」



 侑斗さんにそう答えるサリさんだけど……



「うぅっ、足太くなっちゃうかな……?」



 はい、フェイトはそこで拗ねない……いや、僕だってフェイトの足が大根足なんてイヤだけどさ。

 そんな、同意した方がいいのかしない方がいいのか、な感じで僕がため息をついた、その時――











 ゼロライナーが“跳ねた”。











 ……って、ちょっと待って。

 ゼロライナー、通常空間に出たばっかりだよね!? まだ空中にいるよね!?

 そのゼロライナーが、一体どうやって跳ねるようなことになるのさ!?



「何やってんだ、デネブ!?」

「わからない! いきなり走行システムに異常が!」

「イクトさん!?」

「お、オレはどこにも触ってないぞ!?」



 侑斗さんとデネブさんの会話――その中の『システムに異常』というフレーズに、僕が真っ先に疑ったのはイクトさん。

 だけど、あの様子じゃ本当に違うっぽい。元々誤ってインターホンとか触っちゃったりしないように端末類から一番遠い席を選んで座ってたし。



「とにかく地上に降ろせ!
 システムの異常じゃ自動走行はあてにならない――お前が手動で降ろすんだ!」

「わ、わかった!」



 侑斗さんに言われて、デネブさんが出ていく――ゼロライナーの運転席に向かったんだろう。

 と、すぐにゼロライナーが高度を下げ始めた。まだ時々何かに突き上げられるように跳ねながら、それでもなんとか、地上にすべり込むように着陸に成功した。

 でも、いったい何が起きたってのさ……?





















「ぅわ、ひでぇな、こりゃ……」



 とりあえずゼロライナーの外に出て、サリさんのもらしたつぶやきがそれだった。

 でも、実際ひどい。ゼロライナーの下、駆動部のある辺りからもくもくと白煙が上がってる。それもすごい勢いで。



「デネブ、直せそうか?」

「わからない。詳しく見てみないと……」



 尋ねる侑斗さんだけど、デネブさんは肩を落として、申し訳なさそうにそう答える……ふむ。



「ヒロさん、サリさん」



 僕が声をかけるけど――すでに二人は動き出してた。煙の出所をのぞき込んでいる侑斗さんに声をかける。



「あー、ちょっといいかい?」

「あん?」

「オレ達なら、なんとかできるかも……」



 そう。時の列車も突き詰めれば乗り物だ。二人の普段の仕事を考えれば、十分に手出しできる余地があるんじゃなかろうか。



「時間の中を走る機能の方は専門外だし保証はできないけど、少なくとも走れるようにはできると思う」

「んー……」



 ヒロさんの提案に、侑斗さんはちょっと深刻そうに考え込む。

 まぁ、そこはしょうがないか。無条件に相手を信じることのできる良太郎さんと違って、侑斗さんはもうちょっとドライに、現実的に状況を見るところがある。管理局の暗部についても、良太郎さんよりも真剣に受け止めていることだろう。

 考えているのは、その管理局に勤めているヒロさん達に修理を委ねてもいいのかどうか、ってところだろう――と言っても、二人を信じていないワケじゃない。

 個人的にはヒロさん達のことは信用してるだろうけど、時の列車を手がけることで二人に局から何か手が伸びるんじゃないか――その辺を心配してるんだと思う。

 侑斗さんも何だかんだで優しいもんね。さすがはモモタロスさんと並ぶ『電王』のツンデレ要員。



「…………おい。
 今何か失礼な評価を受けた気がするんだが」

「いえいえ、気のせいですよ」



 正当な評価ならしましたけど。



「……まぁ、走れるようにしてもらえるくらいならいいか。
 頼めるか?」

「はいよ」

「安心して任せてくれよ。
 じゃ、さっそく始めるか。工具はどこにある?」

「あぁ、こっちだ」



 サリさんに答えて、侑斗さんがサリさんを車内に案内する……さて。



「じゃあ、村の調査は僕らだけで、ってことだね」



 具体的には僕、フェイト、イクトさん、侑斗さん。

 デネブさんは……目立つのを避けたい今回の調査では例の着ぐるみもアウトなので、今回は留守番をお願いしよう。



「そ、そうか……」

「とりあえず、デネブは修理の二人を手伝ってやれ。
 いいか、ぜってぇに余計なことすんじゃねぇぞ!」



 ついて来れないと知って肩を落とすデネブさんに言って――ついでにしっかり釘を刺すのは戻ってきた侑斗さん。



「わかってる!
 ジャマにならないように、侑斗の友達になってくれるように頼むのは修理が終わってからにするから!」

「それをやめろっつってんだオレわぁぁぁぁぁっ!」



 もしもーし、侑斗さーん?

 デネブさんにダイビングラリアットかましてないで、行きますよー?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『こんにちはー』



 …………ん?

 マックスフリゲートで久々にのんびりさせてもらってると、そんな声がオレ以外の来客の到来を告げた。

 ……っつか、ものごっつい聞き覚えのある声なんだが。

 と、ゆーワケで……なぜにここに現れる? なのは、スバル。



「……ジュンイチさん、あたしもいるんだけど」

「……同じく」



 あ、ティアナとマスターコンボイもいた。



「別に、用ってほどのことじゃないんですけど。
 ほら、ジェットガンナーとシロくんクロくん、メンテナンスドック入りの予定が入ってたじゃないですか」

「あー……」



 思い出した。

 確かに自分の意志で動けるし仲間として接しちゃいる。コールサインだって独自のものが割り当てられている……んだけど、あいつらGLXナンバーはあくまでもトランス“デバイス”。書類の上では“局のメンバー”ではなく“スバル達の装備品”ということになってる。

 ロードナックルが六課と108を自由に行き来してスバルとギンガ両方の手伝いができているのだって、アイツが“二人の共有装備”という扱いになっているからこそ、だったりするしな。

 で、装備品であるからには当然そのメンテナンスは安全上の義務である……というワケで、今日はスターズ所属の2体がチェックのためにドック入りする予定になってたんだ。



「それで、二人を送ってきたんですけど、帰りにこの近くを通りかかったから……」



 フラっと寄ってみた……と。途中から完全にオレと行動がかぶってるじゃねぇか。



「というか……ジュンイチさんも今日はこの近くを警邏けいらするって言ってたから、ひょっとしたら立ち寄ってるかなー? とも思って……」

「オレがいるかもしれないから寄ったって?
 何さ、昼メシでもおごれって?」

「そ、そういうワケじゃ……」

「おごってくれるの!?」

「おごってくれるっスか!?」

「………………」



 食いついてくんなスバル。混ざるなウェンディ。そしてチンクは物欲しそうな目でこっち見んな。



 というか……



「珍しいな、マスターコンボイ。
 ここ最近はずっと恭文とつるんでたのに、今日はスバル達と一緒か」

「いつもそうだと勝手に決めつけられても困る。
 今日は恭文の方に用事だ。どうもヘイハチ一門絡みで何かあったらしい」

「じっちゃん関係で?」



 それで出かけた、って……何だよ、アイツらも水臭いなぁ。

 ヘイハチのじっちゃん絡みならオレだって無関係じゃないんだ。声くらいかけてくれてもよかったのに……



「んー……まぁいいや。
 オレに声かけなかったってことは、そんなに大した話じゃなかったんだろ」

「相変わらず、そういうところは達観してますね」

「アイツらなら、何が起きても大丈夫だってわかってるしねー」



 苦笑するなのはにそう答えておく。

 そう……何の心配もしていない。

 どんな用件かは知らないけど、恭文だけでも十分信頼して任せられるし、その上ヒロ姉にサリ兄までついていったんだ。これで不安になる要素なんてあるワケがない。



「だからオレは心配しない。アイツらから連絡が来ない限りは好きにさせるさ。
 そんなワケで、お兄さんはこれからとりあえず昼メシを作ろうと思います。リクエストがあるなら受けつけるよー」

「……結局お昼おごってくれるんじゃないですか……」

「素直じゃないな、貴様も」



 ……うん、ティアナにマスターコンボイ。お前らにだけは言われたくないから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………あー、えっと……



「……ゴーストタウン?」

《まさにそんな感じですよね》



 僕とアルトのつぶやきが、その場の全員の心の声の代弁だと思ってもらっていいと思う。

 だって……本当にそんな感じなんだもの。

 時間的にはすでに真っ昼間だっていうのに、人っ子ひとりいやしない。村に入ったというのに、見える範囲に出歩いている人の姿はまったくない。



「廃村……というワケじゃないですよね?」

「あぁ。
 建物の中に“力”を感じる……人がいるのは間違いない」



 フェイトのつぶやきにイクトさんが答える――うん。人はいる。けど通りには人っ子ひとりいやしない。



「見たところ農村みたいだな……冬の終わりのこの時期じゃまだ畑仕事もないし、人通りが少ないってことはあるんだろうが……」

「桜井、準備期間を忘れているぞ。
 この地方の農耕の開始時期はおおよそ4月前後……もう畑の手入れを始めていなければ間に合わん。むしろ畑に向かう住人で人通りが多くなければおかしいくらいだ」



 侑斗さんの仮説もイクトさんに否定された……考えれば考えるほど、この状況は不自然だ。



「とにかく、人がいるなら話を聞いてみようよ」



 言って、フェイトが向かったのは近くの……商店かな? シャッターが片っぽ下りてて、「やってませんよ」って全力アピールしてるけど。



「すみません、時空管理局の者ですけど……」



 試しにフェイトが呼びかけてみる……反応ゼロ。



「すみませーん」



 今度は僕……やっぱりダメ。



「……人、いる……んだよね?」

「あぁ、それは間違いない。
 どういうつもりかは知らんが、居留守を決め込んでいるようだ」



 イクトさんの答えに、フェイトがもう一度声をかけようと息を吸って――って!?



「ひゃあっ!?」



 気づいて、フェイトが身をそらす――店の奥から、何かが投げつけられてきたからだ。

 それは後ろで地面に落ちて砕け散る……茶碗……? っていうかっ!



「ちょっと! フェイトに何すんのさ!」

「うるさい!」



 苦情を申し立てる僕に対して、ようやく言葉での反応が返ってきた。



「出て行け、よそ者!」

「そ、そんな……
 私達は管理局の……」

「そんなの信用できるもんか!
 油断して殺人鬼に殺されるなんてまっぴらだ! 出てけ!」



 フェイトが釈明しようとするけど、それも聞く耳持たず、って感じ。

 というか……フェイトからの呼びかけにモノ投げつけただけじゃ飽き足らず暴言まで吐くかっ! 殺人鬼って何だよ、殺人鬼って!



「落ち着け、蒼凪」

「えぇい、止めるなイクトさんっ!
 どこのドイツか知らないが、礼儀ってヤツを教えてやる!」

「だから落ち着けと言っている。
 『礼儀を教えてやる』などと何を甘いことを言っている? テスタロッサに物を投げつけた上に殺人鬼呼ばわりなど万死に値する。
 ここは同情の余地なく建物ごと一切ことごとくを灰燼に……」

「お前もだよ、落ち着くのはっ!」



 ……二人して侑斗さんに怒られた。



「お前ら、あの異様な拒絶反応をおかしいと思わないのか!?」

「いや、それは確かにそう思うが……」

「フェイトが受けた仕打ちを考えると、ぶっちゃけ後回しでもいいかなー、と」



 うん。とりあえずフェイトをいじめた報いを受けされるのが最優先。事情を聞くのはその後でもできるしね。



「ったく……モモタロス達から聞いちゃいたが、本当にこの姉さんが中心なんだな、お前ら」

「当然ですよ」



 僕が即答すると侑斗さんは頭を抱える……何か変なことでもありましたっけ、イクトさん?



「……少なくとも、“この村の調査”という本来の目的を後回しにする点はマイナスだと思うぞ。
 まぁ、オレは自覚した上でやっているからまだマシだが」

「『まだマシ』どころかむしろタチわりぃよ、そっちの方がっ!」



 イクトさんが侑斗さんにツッコまれた……うんうん。イクトさんもいい感じにジュンイチさんに染まってきてるね。



「あー、くそっ、いい加減話を戻すぞ。
 とにかく、さっきのヤツの反応を見ただろ。拒絶反応が半端じゃねぇぞ。」

「確かに、問答無用でしたよね……」



 ため息まじりにそう言う侑斗さんに、茶碗を投げつけられた張本人であるフェイトが同意する。

 確かに、あの反応は過剰もいいところだ。フェイトの弁明もまったく聞こうとしてなかったし。



 ただ、拒絶……というより、あれは……



「……何かに怯えてる……って感じだったよね……」

「ヤスフミもそう感じた?」



 反応してくるフェイトにうなずく。

 そう。怯えていた……だから余裕がなかった。だからフェイトの弁明も届かなかった。

 あれはたぶん、“聞こうとしなかった”んじゃない。“聞いてるどころじゃなかった”んだ。怖かったから、恐れていたから、見知らぬ存在……つまり正体の確証を持てない僕らを一刻も早く遠ざけたかった。



「となると、問題はいったい何に怯えているのか、だな……
 あの反応の後改めて考えれば、この村のこの閑散とした様子もその“恐怖”が原因とも思えてくるしな……」

「それだけ誰彼かまわず怯えさせるような“何か”が、この村に……?」



 イクトさんの言葉に侑斗さんが眉をひそめて――











「むきーっ! 何なのじゃ、この村はっ!
 誰も彼も、わらわの話を聞こうともせんっ!」

「まぁまぁ、落ち着いて。
 頭に血が上ったままじゃ、まとまる考えもまとまらないわ」

「うー、お腹すいたぁ……」

「がまんしろ。食堂どころか商店ですら拒絶されたんだ、どうしようもあるか。
 ……あ、姫。姫には冷めてしまっていますがホットケーキを用意してありますので」

「あーっ! ずるーいっ! ボクらにもちょうだいよーっ!」











 ………………うん。



「あー、フェイト。僕の聞き間違いかな?
 何か、ものすごく聞き覚えのある、それでいてあんまり顔を合わせたくない連中の声がしたんだけど」

「え、えーっと……」



 “残念ながら”フェイトにも聞こえ“てしまった”らしい。浮かべた苦笑がその証。

 そうこうしている内に、声の主が向こうの曲がり角から姿を現して――







「…………あぁぁぁぁぁっ! 恭文なのじゃーっ!」







 ……なんで万蟲姫&イマジンズ+ホーネットがいるのさ……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………このくらいでいいか?」

「あぁ、十分だよ」



 スコップ片手に尋ねるデネブに、ヒロが答える……そう、スコップ。

 ゼロライナーの修理を任されたオレ達だけど、異常があったのは車体の下。当然そこまで潜らなきゃならない。

 それもただ潜れればいいってワケじゃない。修理箇所を修理するためにある程度の空間は必要だ。

 と、いうワケで、オレとデネブとで着地したゼロライナーの下にせっせと作業用の穴を掘っていたワケだ。

 ちなみにその間、ヒロはゼロライナーの駆動部の図面とにらめっこ。故障箇所を見つける上で必要な駆動部の構造に関する知識をきっちり頭に叩き込んでもらっていた。



「さて、それじゃパパッとチェックさせてもらおうかね」



 言って、そのヒロが持ち出してきたのは扇風機――工場とかで作業カスを吹き飛ばすのに使う作業用のサーキュレーターだ。

 未だ煙を吹いていてよく見えない故障箇所に向けて風を送り出して、煙を吹き飛ばして――



『………………』



 で、オレと二人してため息をついた。

 理由は簡単。今さら点検するまでもなく故障の原因がわかったから。



 いや、故障っつーか……



「…………狙撃、だな……」

「うん……高出力の光弾による破損だよ、これ。
 大きさから考えて、狙撃犯はトランスフォーマーじゃないね。もっと小さい……人間か、人間サイズの怪人だね」



 そう。動力部に、何発もの狙撃痕……これがゼロライナーに起きた異常の原因と見て間違いないだろう。

 そういえば、あの時衝撃は真下から突き上げるように襲ってきていた……あれも、地上からゼロライナーの底に向けて何発も狙撃していたからだと考えれば辻褄は合う。



《……瘴魔力反応あり。
 撃ってきたのは瘴魔関係者と見て間違いないな》

「瘴魔関係者……万蟲姫ちゃん達、ってのはないね」



 ヒロのつぶやきには全面的に賛成。もうあの子達のコミュニティとの敵対関係はほぼ“口だけ”。消滅したも同然の状態だからなぁ。

 となると……



「最近ちょっかい出してきてる、正体不明の瘴魔集団……か」



 心当たりに思い至り、オレがつぶやいた、その時だった。



「ふ、二人とも!」



 ん? どうした、デネブ……って……

 ゼロライナーの下から顔を出しただけで、デネブの動揺の原因がわかった。



 だって……そこら中にいるし。



 どこか虚ろな表情でくわやらすきやら、とにかく殺傷能力バリバリの農具を手にした一般市民のみなさんが。



 なんとなく“そんな予感”がして通信と念話をそれぞれ試してみる……案の定、ジャミング済みだった。



「…………なんか、一気に話がきな臭くなってきたね……」



 サリのつぶやきに全面的に同意。

 というか、オレ達でコレってことは……やっさん達、大丈夫なんだろうな……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「この村に……瘴魔の気配が?」

「まさか……今回の事件、瘴魔が絡んでるっての?」

「あぁ」



 とりあえず、事情を聞いてみたんだけど、なんかきな臭い情報が飛び出してきた――聞き返すフェイトや僕に、ホーネットがうなずく。



「各地に情報収集のために放っていた下級瘴魔の一匹が、この集落の付近に瘴魔力の反応を捉えたのだ。
 力の大きさは瘴魔獣クラス――もちろん、我が“蝿蜘苑ようちえん”に属する個体ではない」

「うーん……」



 ホーネットの話が本当なら、こいつら以外の瘴魔がこの集落に来てるってことになる。

 考えられるのは、どこにも所属していない野良瘴魔がうろついてるのか、もしくは……



「万蟲姫達とは別のヤツらの仕業、か……」

《例の新興勢力が暗躍してる……と?》



 アルトが僕の考えを補足してくれた……うん、その可能性が考えられるワケだ。



「イクトさん、瘴魔力とか感じないですか?」

「いや、今のところは……」



 フェイトの質問にイクトさんが答える……あれ、でも瘴魔獣って瘴魔力のカタマリなワケでしょ? 隠すとかできるんですか?



「モチーフの生き物次第だ。
 擬態できる動物……たとえばカメレオンやコノハチョウなどがそれだが、そういった“隠れる”能力のある生き物がモチーフの場合は高い隠蔽能力を得る場合が少なくない。
 そういった瘴魔獣は瘴魔力まで隠されるからな、ブレイカーや瘴魔神将と言えど活動を開始されるまではその動向をつかみにくいのが実情だ」

「擬態できる動物……
 例の第三勢力だとすると、水系の瘴魔獣ですよね……?」



 イクトさんの説明にフェイトはしばし考えて……



「…………ヒラメ?」

「どうして数ある海の擬態生物の中で行き着くところがそこなんだよ!?」



 侑斗さんにツッコまれた。



「というか、ミッドチルダでヒラメは手に入るのか……?」

《あ、局の許可を得た業者が地球に入って輸入してますよ》



 一方こちらはどこかツッコみどころのずれているイクトさんにはアルトが答える――実際、こないだスーパーで見つけたしね。



「まぁ、そんなムダ話はともかくとして、だ……
 とにかく、我々以外の瘴魔の痕跡を見つけたために、こうして調査に赴いたワケだ」



 言って、ホーネットは息をつき、



「…………姫様とイマジンどもは完全に物見遊山だが」



 うん。そうみたいだね。

 万蟲姫もサニーもメープルもボールにフリスビーその他もろもろアウトドア遊具フル装備。ミシオもデジカメ(完全防水)持参と完全に行楽モード全開だものね。

 ただ、その虫取り網とカゴは季節的にも所属組織的にもアウトだと思うんだ、うん。



「でも……さっきの様子を見た限り、遊ぶどころじゃなかったみたいだね」

「あぁ。
 村中どこに行っても、人っ子ひとり出歩いていない。
 それどころか、店に顔を出してもものすごい敵意で追い返される始末だ」



 僕に答えて、ため息をつくホーネットだけど……



「ただね……気になることを言ってた住人がいたわ」



 口を挟んでくるのはミシオ……って、『気になること』?



「『お前達、ウワサの殺人鬼なんじゃないか』って……」

「ひっどいよねー。
 こんな身なりだからって、ボクらが殺人鬼だなんて」

「それって……」



 ミシオやメープルの言葉に、フェイトと顔を見合わせる。

 だって……僕らも似たようなことを言われたばっかりだから。



「どういうことだ……?
 オレ達だけでなく、万蟲姫達まで殺人鬼呼ばわり……」

「『ウワサの』って言ってたんだよな?
 そういうウワサがある、ってことか? 『殺人鬼がうろついてる』みたいな」



 イクトさんのとなりで侑斗さんがつぶやく……僕も、たぶんその通りだと思う。

 もっと言うなら……よそ者を警戒していたことから考えて、『よそから逃げ込んできてる』的な感じのウワサなんじゃないかな?



 なるほど。そういうウワサがあったから、みんな不安になってピリピリしていて……同時によそ者である僕らに対して過剰なくらい拒絶反応を見せた、か……

 でも、そうだとしても……単なるウワサにしては、反応がやたらと過剰だったのが気になるけど……



「ところで恭文達はこんな野山を走り回って遊ぶくらいしか名物がなさそうな村にどんな用件で?」

「うん。とりあえずここの住人の敵意に油どころかTNT火薬をぶち込むその口を閉じろ」



 話に割り込んでくる万蟲姫を黙らせる。まったく、このバカ姫は……



「それで、改めて聞くけど、みんなはどうしてこの村に?」

「うーん……事件の捜査じゃないし……話してもいいのかな……?」



 改めて尋ねるミシオにフェイトが首をかしげて――











「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」











 ――――って、悲鳴!?

 それとほぼ同時、背筋を走るイヤな感じ――これって!?



「瘴魔獣!」

「くそっ、イヤな予感は大当たりか!」



 いち早く動き出したあたりはさすが本職。万蟲姫の上げた声を合図にホーネットが走り出す。



「フェイト、僕らも!」

「うん!」



 そして僕らも。僕とフェイトはもちろん、イクトさんや侑斗さんも悲鳴のした方向へと走り出す。

 悲鳴はけっこう先の路地裏から。全速力でその路地裏に飛び出して――







 びしゃり、と音を立てて、僕の右足が赤く染まった。







 言うまでもなく、血――思わず見下ろした視線を上げて、出所を確認する。



 すぐ目の前に、先行したホーネット。身がまえてはいるけど、傷を負った様子はない……少なくとも、ここまで血が飛んでくるような傷は。







 そして、そのさらに先に……











 いつぞやのタコイマジンさながらに触手ウネウネな怪人と、その触手に脳天粉砕されたらしい、そこから上がなくなった首から景気よく鮮血の噴水をぶち上げてる誰かさんがいた。











 ぅわ、なんつースプラッタ。お食事中のみなさんごめんなさい。



「……タコをモチーフにした水系瘴魔獣か……
 “JS事件”で確認されたジェライドと同じ、新型だな」



 そんな中で、イクトさんは冷静に相手を分析してる……相変わらずこーゆーには耐性強いね。フェイトなんか首なし死体(大量出血中)を直視できずに思いっきり視線そらしてるのに。



「過大評価だな。十分に気分を害しているさ。
 ただ……その“害した気分”が、ヤツへの戦闘意欲に転化されているというだけの話だ」



 言って、イクトさんが拳をゴキゴキと鳴らして――







「……オレが行く」







 って、侑斗さん……?



「胸クソの悪くなるような殺し方しやがって……ホント迷惑」



 本当にイライラしてるんだろうな。そんなことを言いながら、カードを取り出しながらベルトを装着。







「変身」

《Altair Form》







 淡々と宣言しながら、カードをベルトに装填。一瞬にしてその姿を緑色の仮面ライダー、仮面ライダーゼロノスに変える。







「最初に言っておく!
 お前……ちょっとやり口がグロすぎるぜ!」







 出たーっ! 侑斗さんとデネブさんの真骨頂、『最初に言っておく』!

 おなじみの決めゼリフと共に、ゼロガッシャーをかまえて瘴魔獣に斬りかかる。

 受け止めようとした瘴魔獣だけど、防御のためにかまえた触手は一撃で叩き斬られる。



 …………って、え……?



「イクトさん……今……」

「あぁ……」

「おりょ……?」



 僕の感じた違和感は、決して間違いではなかったらしい。僕に声をかけられたイクトさん、さらに追いついてきた万蟲姫までもが眉をひそめて、侑斗さんが“瘴魔獣を難なく滅多斬りにする”光景を見守っている。







「でぇりゃあっ!」







 そんな中で侑斗さんがとびきりの一撃。斬り上げたゼロガッシャーの刃がタコ瘴魔獣を吹っ飛ばす。







「とどめだ!」











《Full Charge》











 言って、侑斗さんがベルトに挿入されたままのゼロノスカードにフルチャージ。カードを引き抜いて、サーベルモードのゼロガッシャーのスリットに差し込んだ。

 そのまま、突っ込んでくるタコ瘴魔獣を迎え撃つ形でゼロガッシャーを振り下ろして――











「でぇりゃあっ!」











 ゼロノス必殺の、スプレンデッドエンドが炸裂!

 思い切り斬りつけられたタコ瘴魔獣の身体に、フリーエネルギーで描かれた「A」の字が刻まれて――爆発。タコ瘴魔獣は木っ端微塵に砕け散った。

 復活する様子は……“予想通り”なし。



 そう……“予想通り”。大事なことなので二回言いました。



「思った通りだな……」

「イクトさん……?」

「テスタロッサ……お前はおかしいと思わなかったか?
 今の戦い、“ゼロノスの剣は一度たりとも力場に受け止められることはなかった”んだぞ」

「あ………………」



 返すイクトさんの言葉に、フェイトもようやく気づいたみたいだ。

 そう……今の戦い、侑斗さんの攻撃はそのすべてが瘴魔獣に直接叩き込まれていた。

 ジュンイチさん達ブレイカーや瘴魔が持つ生命エネルギーのフィールド“力場”による加護をまったく受けないまま、ヤツは攻撃を受け続けて……倒された。



「おい、何の話だ?」

「つまり、さっきのヤツは最初から、本気で侑斗さんの攻撃を防ぐつもりはなかった、ってことです」



 聞きつけて、変身を解きながら話に加わってくる侑斗さんには僕が説明する。



「侑斗さんが負けるはずがないのは当然ですけど、それにしたって一方的すぎたし……
 力場の展開もせず、ただ侑斗さんにやられるままに殺られた……もう、わざとやられたとしか思えないですよ、これ」

「わざと、だって……?
 何のために、あのタコはそんなことしたんだよ?」



 侑斗さんの質問の答えは僕だって知りたいところ。

 どういうつもりだ? あの瘴魔獣、どうして侑斗さんにわざと倒された……?



「それ以前に、力場による干渉がなかったこと自体がいきなり不自然だ。
 我々神将やブレイカーと違い、身体そのものが瘴魔力でできている瘴魔獣は任意での力場の解除を行えない……それは自我を持つほどに高い知能を持った個体でも変わらない。
 つまり、ヤツが瘴魔獣であったからには力場は必ず展開されていたはず。破れない、ということはないにしても、ゼロノスの刃が鈍るくらいの防御効果はあって然るべきだ」

「しかし、実際には力場は存在自体しなかった……?」



 ホーネットの言葉に万蟲姫も首をひねってる……あー、くそっ、わからないことが多すぎる。

 あの瘴魔獣が人を殺したのは、殺した相手の恐怖を自分の糧にするためだとは思うんだけど……いや、そもそもどうしてここに瘴魔が現れたのか、だ。

 こんな人里離れた郊外の集落で人を殺して回るより、都会で大暴れした方が手っ取り早くみんなを怖がらせてエネルギー供給を確保できるはずなのに……



「……待て、蒼凪。
 『人里離れた集落』……?」



 ……イクトさん?

 いきなり人のモノローグを拾って、何か気づいたんですか?



「いや……前に一度、“瘴魔大戦”の中で似たような状況があったんだ」

「え……?」



 イクトさんのその言葉に、僕の頭の中でも引っかかるものがあった。



 人里離れた集落……

 水系の瘴魔獣……

 殺人鬼のウワサ……



 それらの情報が、ひとつの記憶を引っ張り出してくる。

 と言っても、僕の記憶からじゃない――かつてジュンイチさんが暴走した時に垣間見た、ジュンイチさんの記憶からだ。



 ……おいおい、ちょっと待て。

 もし、僕やイクトさんが感じてる予感がビンゴだとしたら……っ!



「……アルト。
 六課とか……ヒロさん達と連絡つけられる?」

《…………ムリですね。
 ジャミングがかかってます。通信はもちろん、念話も通じません》



 ……イヤな情報、ひとつ追加。



「ヤスフミ、いったいどういうことなの?」

「自分達だけで納得してないで、ちゃんと説明してよーっ!」

「あー、ゴメン」



 声をかけてくるフェイトやメープルからの苦情に我に返る。

 そうだ。この予感がビンゴなら、一刻も早く止めないと……











「きゃあぁぁぁぁぁっ!」











 と、そんな僕の思考を突然の悲鳴がさえぎった。

 聞こえてきた振り向くと、そこには僕らを……いや、地面に転がる死体を見て悲鳴を上げる女性の姿があった。

 っていうか……この状況って……







「いやぁぁぁぁぁっ! 人殺しぃっ!」







 やっぱりっ! 死体と僕らを見て、僕らが殺したとカン違いしてくれたよっ!



「待ってください!
 この人を殺したのは、私達じゃありません!」



 あわてて弁明するフェイトだけど、相手は完全にカン違いしたまま。怯えた様子で後ずさりして……



「何だ何だ!?」

「今の悲鳴は!?」

「ぅわっ、何だ、あんたら!?」



 げげっ!? 今の悲鳴で他の住民まで集まってきた!?



「あの人達が、人を、人を……っ!」



 しかも、最初に悲鳴を上げた女の人が僕らと死体を指さすものだから……うん。確実にカン違いされたね。



「お前達、さっきからうろついてるよそ者か……っ!」

「お前らが、その人を……!」

「やっぱり、お前らがウワサの殺人鬼か……!」



 口々に言いながら、それぞれが武器として持ってきていた農具をかまえる。完全に戦闘態勢。



「待ってください! 私達は……」

「フェイト、ストップ」



 そんな彼らに向けて歩き出そうとしたフェイトを止める。



「ヤスフミ、どうして止めるの!?
 あの人達にちゃんと事情を説明して……」

「その『説明』、ちゃんと聞いてくれるようなら止めないんだけどね」



 フェイトに答えて、村人達を見る……その顔に一様に浮かぶのは僕らに対する恐怖と拒絶の色。

 いかにも『あなた達の言うことなんか聞きたくありません』的な反応だ。その上武器になり得るものまで持ってきているとなれば、話しかけるだけでも危険が大きすぎる。



「相手は殺人鬼だ! 気を許せば殺される!」

「捕まえろ! 牢屋にぶち込んでやれ!」

「いや、ダメだ!
 殺人鬼だぞ! 動けないようにしておいたって、どんな手で殺しに来るかわかったもじゃない!」

「そうだ! その通りだ!
 殺人鬼なんてこの村にいさせちゃいけない!」

「追い出せっていうのか!?
 そんなことしたって、またどこからか入ってくるぞ! オレ達を殺しに!」



 もう完全に僕らが殺人鬼だっていう前提で、村人達のやり取りがどんどんヒートアップしていく……それもかなり物騒な方向へ。

 僕がイヤな予感を覚えるのと、ほとんど同時だった――ぎんっ!と村人達の血走った目が、一斉に僕らに向けられる。



 そして――







『殺せぇぇぇぇぇっ!』







 来たぁぁぁぁぁっ!



 完全な誤解と狂気に支配され、村人達が一斉に農具を振り上げて僕らに向けて押し寄せてくる。僕らにとって危険極まりない目的を掲げながら。



「待ってください!
 だから、私達は……」

「言ってる場合か! 逃げるぞ!」



 説得を試みようとするフェイトの手を取って侑斗さんが走り出す――当然僕らも。ホーネットも、万蟲姫の手を引いてイマジンズと一緒についてくる。

 あんな暴徒、この戦力なら蹴散らすのはたやすいけど、もちろんそんなことをするワケにはいかない。かと言ってこのままここに残っても、待っているのは殺害を前提とした袋叩きだ。



 説得もできない、抵抗もできない……逃げるしかないのは当然の選択だ。

 幸いというか、相手は所詮民間人。僕らのスピードなら余裕で逃げられる。そう思った、その時――











 轟音と共に、大地が揺れた。





















 突然の地震(?)で村人達が戸惑っている間に一気に逃走。無事逃げ切ったところでヒロさん達の待つゼロライナーに戻ろうという僕の意見には誰も反対しなかった。

 けど――事態はそれが許されるような甘いものじゃなかった。



「………………ウソ……でしょ……!?」



 目の前の光景にメープルがうめく――うん、その気持ちはよくわかる。

 だって……行く手の道が、完全になくなっているんだから。

 地面がごっそりと削り取られて、はるか眼下の谷底へすべり落ちている……大規模な地すべりだ。さっきの地響きの正体はこれか。

 地すべりの結果目の前にできた新たな谷、対岸への距離はだいたい20メートルってところか。ずいぶん派手に削れたもんだね。

 僕らは飛行魔法があるから、こんなものは楽々飛び越えられるけど、村人のみなさんはどうがんばっても越えられないだろう。



 つまり、空を飛んでこの対岸に渡ってしまえばもう村人に襲われる心配はないってことになるんだけど……



「とにかく行こう。
 万蟲姫達は私達につかまって……」

《Wait sir,Please》



 さっそく飛んで対岸に渡ろうとしたフェイトだけど、そんなフェイトをバルディッシュが止める。



「バルディッシュ……?」

「テスタロッサ、これを見ろ」



 その理由は、イクトさんが実際に見せてくれた。足元の木の枝を拾い上げて、対岸に向けて放り投げて――











 バチィッ!と火花を散らして、木の枝は一瞬にして消し炭と化した。











「な………………っ!?」

「やはり、攻撃性結界が張られていたか」



 絶句するフェイトをよそにイクトさんがつぶやく――そう。この結界に気づいたから、バルディッシュはフェイトを止めたんだ。知らずに突っ込んでいたら、フェイトがこんがり黒こげになってたところだ。



「おそらく、この集落全体がこの結界で覆われている。
 そして、この集落に続くすべての道もここと同じようにつぶされているはずだ」

「それは、つまり……」

「脱出、不可能ってこと……!?」



 イクトさんの言葉に、万蟲姫が、サニーがつぶやく……うん。脱出不可能。この結界を何とかしない限りはね。

 外部への連絡が妨害されているとわかった時点で、この集落が結界で隔離されている可能性は思いついていたけど……攻撃性バリバリの結界とは、この状況を仕込んだ誰かさんもずいぶんと本気モードじゃないのさ。



「でも……結界で集落を包むなら、どうしてわざわざ道をこんな風につぶしたの?
 結界で出られないようにするなら、わざわざ道をすべて使えなくする必要は……」

「簡単な話だよ。
 その方が、村人のみなさんに『出られない』という事実をよりハッキリと突きつけられる」



 首をかしげるミシオだけど、その疑問には僕が答えて――



「……ヤスフミ、イクトさん……」

「お主ら、やけにこの状況に対して理解がないかえ?」



 案の定、カンのいい面々には怪しまれるワケで……フェイトと万蟲姫が食いついてきた。



「さっきも何か気づいてたみたいだし……
 ひょっとして……何が起きてるのかわかってるの?」

「『わかってる』というか……“知ってる”」



 同じく食いついてきたサニーにそう答える。



 そう……知ってる。

 さっきもイクトさんとちょこっと話した通り、この状況……覚えがある。

 僕の記憶じゃなく、かつて見たジュンイチさんの記憶の中に。



 そして――そのことにある意味一番詳しいイクトさんが、フェイト達に告げる。



「陸の孤島と化した集落。
 殺人鬼のウワサで緊張感がピークに達した村人達。
 そして……そんな中、緊張感を爆発させかねない殺人事件の勃発。
 おそらく間違いない。これは……」











「“降魔陣”だ」







(第24話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「もし、これと同じことがクラナガンで起きたら……っ!」



「たった一発の銃弾で、村がひとつ地上から消えることだってあるんだ」



「運がなかったな。
 今日のオレは、すこぶる機嫌が悪いんだ」



「シュミが悪いのよ、あなた達!」





第24話「お姉様とお呼びっ!」





「オレが……アイツらと……!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「久しぶりの……本当に久しぶりの更新となった第23話だ」

オメガ《冗談抜きで久しぶりですね……》

Mコンボイ「よせばいいのに、作者のバカがいろいろと新作に手を出してしまっていたからな」

オメガ《作者のサイトの方で二作も新作始めたんですよね》

Mコンボイ「まったく、誘惑に駆られたら一直線な男だからなぁ……」

オメガ《がまんってものを知らないですからねぇ。困ったものです》

Mコンボイ「しかも、再開したらしたで、また大事になりそうな予感がする展開だしな」

オメガ《ボス達は完全にカヤの外ですがね》

Mコンボイ「貴様もな」

オメガ《まったくですよ。
 やれやれ、どうしてこんな出番を自ら放棄してしまうようなトランスフォーマーをマスターに選んでしまったのか……》

Mコンボイ「ちょっと待て!
 今回見せ場がなさそうなのはオレのせいなのか!?」

オメガ《だってそうでしょ?
 ボスがムリヤリにでもミスタ・恭文達に同行していればまだ出番に恵まれたものを》

Mコンボイ「いや、そういうワケにもいかんだろ。
 事は恭文の仲間内の問題から始まったのだから……」

オメガ《そんなことを言っているから出番を逃すんですよ。もっとしっかりしてくださいよ。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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