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頂き物の小説
第22話「ターゲット、ロックオン!」:2




「何をモタモタしてるんだ!
 早くロッド・グラントを連れて来い! お前らのところにいるんだろ!?」

「待て! 落ちつけ! 人質を放しなさい!」

「ぅわぁ……」



 報せを受けて駆けつけてみれば、そこにはまるで刑事ドラマの一コマが切り貼りされたようなテンプレな光景が広がっていた。

 工場の従業員を人質にとって立てこもる犯人に、人質の解放を呼びかける局員。まさかこんな“まんま”な光景に出くわす日が来ようとは……うん、ちょっと感動――



「してる場合かっ!」

「感動よりも心配しようよっ!」



 ……イクトさんとフェイトに怒られた。

 と言っても、これはねぇ……うかつに手なんか出せないし。できることといったら包囲網に加わることくらいかな?

 もちろん言うもでもなく、グラントさんをここに連れてくるってのは論外だし。



「そうだね。
 もうすでに面識のある私達が交渉に出れば、少しは安心するかもしれないけど……」

「逆に、面識があるからこそ危ない可能性もある。『知り合いの局員を出して説得させる気か』とな。
 あまりにも博打だ。オレ達が出るのはやめた方がいいだろう」



 フェイトやイクトさんも口々につぶやいて、みんなで考え込む。

 ヴァイスさんに狙撃してもらう。ティアナに幻術で姿を消して突入してもらう……うーん、人質の安全を確実に確保、と考えると、どっちもイマイチ安心感に欠けるなぁ。



「そうだね。
 狙撃は、所轄の人によると目視で狙える位置にいないそうだから。『サーチャーの補正だけでの狙撃じゃ、どんな凄腕のスナイパーでも誤射の危険があるから許可できない』って言ってた。
 特に、ヴァイス陸曹は実際に誤射したことがあるし……あの時のトラウマの克服はあずささんが保証してくれてるけど、そんな経歴がある以上絶対に反対されるよ」

「ランスターに潜入してもらうのもな……
 潜入して、その後どうするのか……という問題になる。結局のところヤツをどうこうしなければならない点は変わらないんだ。下手を打てば、取り押さえようとした拍子に人質を……という事態になりかねない」



 僕が却下した理由をフェイトとイクトさんが補足してくれる……さて、ダメ出しも終わったところで、どうしようか?

 捕まってるのが身内だったら楽だったのになぁ……遠慮なく犯人ごと狙えるのに。



「いや、狙っちゃダメでしょ……」



 大丈夫ですよ、良太郎さん。いつものことですかr











「パラリラパラリラ〜♪」

「どいたどいたぁっ!」











『………………っ!?』



 突然の声は背後から。振り向くと、こちらに向けて走ってくるガスケットにアームバレット……って、おい!?



『トランスフォーム!』



 突然の登場に驚く僕らにかまわず、二人はロボットモードになって僕らの前に。そして――







「エグゼさんっ!」







 ――って、グラント!?



「エグゼさん、エグゼさん!」

「ち、ちょっとちょっと! ストップ!」



 そう。アームバレットのライドスペースから降りてきたのはグラントだった。僕ら局員の包囲網を抜けて、工場に向けて走っていこうとするのをあわてて止める。



 けど、何か様子がおかしい。保護する前とは別の意味で精神的に追い詰められてるし、何度もビッグファーストの名前を連呼して……まさか!?



「グラントさん……ひょっとして、記憶が!?」

「放してくれ! 私は……私は、彼に謝らなければならないんだ!」



 良太郎さんの問いにかまわず、グラントは僕の手を振り払おうともがく……つか、ガスケットもアームバレットも、どうしてこの人連れてきちゃったのさ!?



「え? ダメだったのか?」

「『どうしても行きたい』って言うから、連れてきたんだな」

「どうしてこの人が六課に保護されたのかを思い出せぇぇぇぇぇっ!」



 ちっともわかってない二人に力いっぱいツッコんで……それがいけなかった。その拍子に腕の力がゆるんじゃったか、グラントに振り払われる!



「しまった!
 グラントさん!」

「待ってください!」



 あわててフェイトと二人で止めようと駆け出して――







「恭文、上だ!」







 ――――っ!?

 マスターコンボイの言葉に、とっさにフェイトのえり首を捕まえて急ブレーキ――決して女の子が上げちゃいけないようなつぶれた悲鳴が聞こえた気がするけど、フェイトの名誉のためにツッコまないでおく。僕の半分は(対フェイト限定の)優しさでできてるのですよ。



 ……さて、ボケるのはこのくらいにして、思考をシリアスに戻そうか。でないとしないで済むケガしちゃいそうだもの。

 何しろ――僕らが止まった直後、僕らの目の前の地面が突然薙ぎ払われたんだから。

 頭上、工場の屋根の上から放たれたムチによる一撃――シャチイマジンか!



「悪いわね。
 あなた達を、あの場に突入させるワケにはいかないのよ」



 言って、シャチイマジンが僕らの前に降り立つ――やっぱり出てきたか。



「そこをどいて!
 ビッグファーストに、彼を撃たせるワケにはいかない!」



 当然僕らは戦闘態勢。すかさずセットアップしたフェイトがバルディッシュをかまえて――











「はい、すとーっぷ」











 ――って、ジュンイチさん!?



 突然、ごくごく自然に、平然と割り込んできたジュンイチさんが待ったをかけてきた。

 しかも――



「恭文、待つのじゃ!」

「ここでケンカしたって、何にもならないんだから!」

「あの人達のジャマしちゃ……ダメぇっ!」



 万蟲姫やメープル、イヌイマジンまで――ちょっと、みんなしていきなり何止めてくれてんのさ!?

 早くなんとかしないと、ビッグファーストがグラントさんを――



「そんなことにはならないから、安心して」



 ……って、リンディさんまで!?



「それどころか……“みんながシャチイマジンのジャマをする方が、よほどグラントさんが危ない”の」



 ……はい?



「どういう……ことですか?」

「オレ達全員、こいつにしっかりだまされてた…………いや、こいつのすべてを見ていたワケじゃなかった。そういうことさ」



 聞き返すフェイトに、ジュンイチさんはあっさりとそう答える。



「そうだろ? シャチイマジン。
 お前は確かにエグゼ・ビッグファーストの心意気に感銘を受けた。そして協力を惜しまなかった。そういう部分は、確かにオレ達に語った通り。オレ達に行動で示した通りだ。
 ただし……オレ達の見ていないところでの動きもあった。お前は……」







「あのオッサンが人を殺すのだけは、ずっと阻止し続けてきたんだよな?」







 ………………え?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「エグゼさん!」



 ――――来た!

 工員を人質にして立てこもって、ロッド・グラントを連れてくるように要求して……この男は本当に来た。

 むしろ止めようとした局員の少年達を振り切って、工場の中へ、私の前へと駆け込んでくる。



「……もうお前に用はない。消えろ!」

「ひ、ひぃっ!」



 ヤツが現れたのなら、関係のない人質なんかもう用はない。さっさと解放する……人質だった工員が腰の抜けたままはいずって逃げていくがもう興味はない。すぐさまロッド・グラントに銃口を向けて……





















「すまない!」





















 ………………え?



 突然の行動に、思わず動きが止まる――そんな私の前で、ロッド・グラントは地べたにヒザをつき、土下座していた。



「すまない……本当に、申し訳ないことをした!
 12年前、私は、あなたの娘を……っ!」



 …………こいつっ!



「今さら謝って命乞いか!
 仲間の二人がやられて、怖気づいたってもう遅いんだよ! 今さら謝られたって、娘は戻ってこないんだよ!」

「わかってる……わかってる!
 だけど……私にはこうして、頭を下げるしかないんだ!」



 今さら謝ったって許さない……命乞いをする姿に頭にきたが、そんな私に対してロッド・グラントは何度も何度も頭を下げて――



「だから……」











「撃ってくれ」











 …………な……何……?



「私には……そうすることでしか、償うことができないから……っ!」



 答えて、グラントはもう一度頭を下げる――今度は頭を上げず、ずっと土下座したまま。

 ……何なんだ……何なんだ、これはっ!

 命乞いじゃなかったのか……? こいつは、娘を殺したことを自分の命で償うために、ここに来たのか!?



「……ふざけるな……っ!」



 ふざけるなよ……何を今さらっ!



「そんな、口ばっかりで謝られたって……
 命を差し出すフリをされたって……っ!」

「フリじゃない!
 私のせいだ……私があなたの娘を殺してしまわなければ、あなたがこんなことをすることはなかった!
 私がもっと早く謝れていたら、あの二人も撃たれずに済んだ! だからっ!」

「あぁ、そうだ……そうだよ! お前のせいだ!
 お前が撃たなきゃ……お前がもっと早くそうしていれば、私は二人も殺さずに済んだんだ!」



 言って、改めてグラントに向けて銃口を突きつけて……







「待ってください!」







 ――――っ!?

 私達の間に飛び込んできたのは、今朝襲った際に誤って撃ってしまった、グラントの奥さん……どうしてここに!?



「お願いです、この人を撃たないで!」

「ジェシカ! 下がってるんだ!
 この人は……この人は、私を撃つ権利があるんだ!」

「お願いです。お願いですから……主人を撃たないで!」



 グラントが下がらせようとするが、彼女は必死にその場に、グラントをかばうように踏みとどまる。



「この人……ずっと後悔していたんです!
 あなたの娘さんを殺してしまったこと……ずっと!
 だから……」











「一生懸命、あなたに謝ろうとしていたんです!」











 ………………な、に……!?

 どういう……ことだ……!?

 ロッド・グラントは、私に謝ろうとしていた……!?

 じゃあ、なんで今まで謝りに来なかっt――――あ。



『ロッド・グラントは以前の記憶がない――事故にあって、記憶喪失になっちゃってるんだよ!』




 先日、自分を追ってきていた管理局の少年が電話越しに言っていたことを思い出した。

 じゃあ……ロッド・グラントは娘を殺したことを後悔していなかったワケでも、事件のことを忘れてのうのうと生きていたワケでもなくて……!?



「だから……お願いです、この人を撃たないで……っ!」



 何なんだ……なんで今さら、そんなことがわかってしまうんだ……っ!



 なんでもっと早く、彼らの言葉に耳をかたむけなかったんだ……っ!



 ちゃんと彼らの言葉を聞いていたら、気づいていたはずなのに……っ!



 もっと早く気づけていたら、こんなことには……っ!







 だが……もう遅い。遅いんだ。







「もう……遅いんだ……っ!
 もう、私はあの事件の犯人達を二人も殺してしまってるんだ! 今さらやめたら、私が殺してしまった二人の死はいったいどうなr











「いーや、残念ながらアンタはひとりも殺しちゃいないよ」











 ………………え?

 突然の声に、思考が止まる。

 私が……誰も殺してない……?



 声のした方を見ると、管理局の、事件捜査で私に接触してきた人達がいた。

 その先頭に立つのは、私にアドレスを渡してきた……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「やっぱり、襲撃済みの二人が死んだと思ってたか」



 つぶやいて、ジュンイチさんはポリポリと頭をかく……えっと、これ、どういう状況?



 とりあえず、ジェシカさんをここへ連れてきたのがジュンイチさんの仕業だっていうのは、なんとなく想像がつく。

 この人のことだ。ジェシカさんにグラントさんをかばわせて、ビッグファーストを説得させよう……くらいのことは平然と考えそうだもの。



 そして、ビッグファーストとグラントさんの話がかみ合ってなかった理由もわかる。

 ビッグファーストは、グラントさんが記憶をなくす前、謝りに行こうとしていたことを知らなかったんだから。



 けど……今のビッグファーストやジュンイチさんの口ぶりだと、彼は先に襲った二人が自分の銃撃で死んだと思ってたっぽい。

 確かに報道じゃ銃撃されたところまでしか情報公開されてなかった。生死について言及されてなかったけど……それだと普通、生きてる可能性を考えない?



「そりゃしょうがないよ、恭文。
 何しろビッグファーストは銃弾をしっかり急所に叩き込んだ……いや、“叩き込んだはずだった”んだから。死んだはずだと誤解してもしょうがない」



 え? え?……え?

 ワケがわからない。説明してくれない?



「安心しな。
 役者もそろったことだし、今から説明会の始まりだ」



 そう答えると、ジュンイチさんはニヤリと笑って説明を始めた。



「前の二件の事件現場を改めて調べてきた。
 そしてそこで……“それぞれの事件で被害者が受けた銃弾と同じ数の”圧縮水弾の着弾痕を見つけた。
 シャチイマジン……お前の仕業だな?」

「…………えぇ」

「で……次にこれを見てくれ」



 言って、ジュンイチさんは空中に3D映像を投影した。

 場面は二つ。それぞれポリゴンの人形が二体ずつ、周囲の地形付きで配置。

 ポリゴン人形は一方が立っていて一方が寝てるんだけど、立ってる方はいくつもの像が重なっていて、まるでブレてるみたいになってる。



「これは……?」

「発見された弾丸の落ちていた場所。
 被害者の身体に刻まれた銃創の角度。
 被害者の発見された時の体勢と、血痕の状況から推測される被害者のもがき苦しんだ過程。その他いろいろの痕跡……
 それらから割り出した、被害者とビッグファーストの銃撃時の位置関係さ」



 首をかしげる良太郎さんにジュンイチさんが答える……こんなこともできたんですね、あなた。



京都ちきゅうの科捜研まで出向いて科学捜査の研修を受けた経験は伊達じゃねぇんだよ。
 分析に必要な機材とシミュレーション用のスパコンさえあれば、このくらいはな」

「でも、立ってる方……たぶん、こっちがビッグファーストさんですよね?
 こっちが妙にブレてるのは、どうして?」

「そう……そこが問題だ。
 同じ位置関係で撃ったにしちゃ、銃創の角度の不一致ぶり……ズレが大きすぎるんだ。撃った際の衝撃や痛みによる身じろぎを考慮したとしても、な。
 そのせいで、銃撃側の立ち位置がシミュレート上でハッキリ定まらねぇんだ。
 ……いや、『定まらなかった』と言うべきか」



 エリオに答えて、ジュンイチさんがニヤリと笑う……あ、なんとなくわかった。



「そこで、さっきのシャチイマジンの水弾の話になるんですね?」

「恭文正解。
 ここに、同じように割り出したシャチイマジンの立ち位置と圧縮水弾の射線のデータを加えて、“それに基づいてビッグファーストの射撃の射線を修正する”と……」



 それぞれの3Dモデルにポリゴン人形が新たにひとつずつ出現。その人形から反対側の壁に向けて点線が引かれる……言うまでもなく、新しいポリゴン人形はシャチイマジン。点線は水弾の射線だろう。

 と、今度は倒れているポリゴン人形から赤い点線が伸びる。たぶんこれが、被害者の銃創の角度から割り出したっていう射線。

 赤い射線は先の点線に接触。角度を変えて同一方向に伸びていき――ビッグファースト役のポリゴン人形に到達。いくつも重なっていた像がひとつに統一されてハッキリした。



「……とまぁ、こういうこと。
 この女イマジンが、エグゼのオッサンのブッ放した銃弾を、常人じゃ視認できないほどの速度の水弾で軌道をずらして、微妙に急所から外していたんだ。
 その結果、すべて急所にぶち込んだように見えて、すべて急所を外していた……おかげで撃たれた二人は重傷ながらどちらも生存。ICU送りに留まった……と」

「でも、どうしてそんなことを?」

「ビッグファーストさんの、“ある行動”に目を向けてみればわかるよ」



 そうキャロに答えたのは……イヌイマジン?



「ビッグファーストさんは、一度自分達を探しにやってきた恭文達に電話をしてる。
 でもさ……それっておかしくないかな?
 なんで、ビッグファーストさんはそんなことしたの?」

「え?
 何で、って……」

「言われてみれば、そうよね……
 自分を追いかけてきている連中にわざわざに電話して、しかも姿をさらした……そんなことをすれば、捕まるリスクが高まるだけなのに」



 首をかしげるスバルのとなりで、ティアナがつぶやく……言われてみれば確かにおかしい。

 ただでさえ、ティアナの言う通り捕まるリスクが高まるような行動な上に、ビッグファーストの場合は身体の問題もある。

 僕らに対して姿をさらして、逃げてる途中に病状が悪化して倒れた……なんてことになったら、その時点で彼の復讐はジ・エンドだ。



 そんなことをする意味があるとしたら……







 ………………あ。







「……恭文は、気づいたみたいだの。
 さすがはわらわの嫁じゃ!」



 …………何だろう。このバカ姫のドヤ顔見てると、両のほっぺたを思いっきり引っぱってやりたくなるのは。



「そ、それは勘弁なのじゃ!
 と、とにかくっ! そういう行動をとった理由は……」



 ほっぺたを押さえながら、万蟲姫はあわてて僕から距離をとる……で、気を取り直してビッグファーストへと向き直って、



「お前……本当は止めてほしかったのであろう?
 彼らのことが許せずに、復讐に走って……それでも、心のどこかに残っていた良心が、自分自身を止めてほしくて、お前に恭文達の前へと姿をさらさせたのじゃよ」

「要するに、自殺を考えるほど追い詰められた人が家族に電話するのと一緒だよ。
 そういう人達は、本気で自殺なんかできやしない……自殺を考えたけど実行する勇気が伴わなかったから。
 だから身内に対して『これから自殺する』って電話するんだ。止めてほしくて、助けてほしくて。
 ビッグファーストさんの場合もそれと同じ。わざと恭文達の前に姿をさらして、捕まえてもらおうとした……」



 万蟲姫に続くのはイヌイマジンだ。今度はシャチイマジンの方を見て、



「シャチさんは……気づいてたんでしょ?
 だから、最初の二件、被害者を連れ去る時、真っ昼間の、人目につくところで実行に移した……みんなの目の前で被害者をさらって、目撃者を増やしたんだ。
 イマジンがらみの事件だってみんなに教えて、恭文達機動六課、もっと言うなら、良太郎さん達――電王に動いてもらうために。
 そうすることで、復讐っていう、契約にもなったビッグファーストさんの願いと一緒に、それを止めてほしいっていう、ビッグファーストさんのもうひとつの願いも叶えようとした」



 ……なんつーか、意外。



 イヌイマジン、子供っぽい仕草とは裏腹にすごい推理力だ。それに『身内に電話する自殺志願者』云々うんぬんの話を知ってたり、意外と博識だ。

 契約者である万蟲姫も気づくトコは気づく子だけど、その上を行ってる。まるでどこぞの“身体は子供、頭脳は大人な名探偵”みたいだ。



「でも、問題は残ってるよ。
 復讐を手伝いながらも、結局のところそれをジャマしてる……それじゃ、契約は最終的には果たされない。
 契約完了できなきゃ、シャチイマジンはいずれガンで倒れてしまうエグゼさんの道連れ……まさか、最初から一緒に死ぬつもりだったとでも言うの?」

「その疑問の答えなら、実に簡単なものだったよ」



 尋ねるジャックプライムに対し、ジュンイチさんは意地悪そうにニヤリと笑って、



「契約を完了するためにオッサンに協力してるならともかく、コイツは自分で望んでオッサンに力を貸していた……そういう前提なら、すんげー単純な抜け道がある。
 よーするに……」











「先に、契約を完了しておけばいいんだから」











 ………………あ。

 なるほど、そういうことか。



「どういうこと、ヤスフミ?」

「ピータロスの時と同じだよ。
 契約完了して過去へ跳んで、そこから現代までおとなしく潜伏。
 現代、前の自分が過去へ飛んだ後改めてビッグファーストに合流して、残りの復讐に協力し続けた……」

「そう。
 今回のシャチイマジンの目論見の中で一番厄介なのは、最初から乱入を前提にしていたオレ達じゃない。ビッグファースト自身の“時間制限”の方だ。
 何しろ復讐する側のメンバーはビッグファーストと自分しかいないからな。その二人が一蓮托生とあっちゃ、ビッグファーストが倒れた時点で自分もバタンキュー。“復讐とその阻止の両立”という大前提が成り立たなくなっちまう。
 それを避けるためには、復讐の途中でなんとしても契約を完了。過去へ跳んでビッグファーストとのつながりを事前に断ち切っておく必要があった」

「でも、どうやって契約を完了したのよ?
 だって、望み自体がグラントさん達への復讐なワケでしょ? それが終わってない内から契約完了なんて……」

「ノンノン、かがみん。それは違うよー」



 眉をひそめるかがみにはこなたが答える……つーワケで説明任せた。



「うん、任されたー。
 あのね、かがみ。イマジンの契約っていうのは、あくまで契約を遂行する上で契約者の過去とつながること……目的じゃなくて手段に過ぎないんだよ。
 だから、過去につながりさえすれば、契約はそこで完了。やってたことが途中だって、あんまり関係ないんだよ」

「……と、こなたが前提条件を語ってくれたところで、いよいよこの問題の要点。
 みんなも思い出してみてよ。勉強でもスポーツでも、ゲームでも訓練でもいい。
 何かを継続的に続けていく上で、一番達成感が強かったのって、最後までやり遂げた時ともうひとつ……」







「最初の難関をクリアした時も、そりゃもうたいそうな達成感だったりしなかった?」







『………………あ』



 こなたの後に続いた僕の説明に、全員がようやく納得した顔になる。



 そう……きっと契約完了のタイミングは最初のひとり目を撃った後。

 その時……ビッグファーストは思ったはずだ。『ようやくひとり目に復讐できた』って……



 ずっと念願だった、けど良心によって押さえつけられていた復讐心……解放されたそれをようやく、ひとまずとはいえ満たすことができた。



 その瞬間、彼の過去につながっていたとしたら……その時点で、シャチイマジンは過去に跳ぶことができていたはずだ。



「そうやって過去にさえ跳んでしまえばこちらのもの。
 もうエグゼのオッサンが倒れるのに巻き込まれるリスクはない。心置きなく協力できるってものだ。
 そしてその結果……お前はエグゼのオッサンに誰ひとり殺させることなく、オレ達をここまで動かすことに成功した。
 オレ達の推理は以上だ。訂正はあるか?」

「誰も……死んでいない……?
 私は……誰も、殺していない……!?」



 シャチイマジンに尋ねる形で締めくくるジュンイチさんの言葉に、ビッグファーストは呆然とつぶやく。



「それじゃあ、私のやってきたことは何だったんだ……!?
 娘を殺された無念を、どうしても忘れることができなかった……
 娘を殺された私がもう余命わずかで、それなのに、娘を殺したヤツらがこの先も生きていくのが許せなかった……
 娘を殺したことも忘れて、ヤツらがこれからも安穏と生きていくのがガマンできなかった……
 だから復讐を決意した……それなのに、何だ、これは!?
 誰も殺せていなかった!? 実は娘を殺したことをずっと謝りたかった!?
 これじゃあ……私はただの道化じゃないか!」



 その場に崩れ落ちてビッグファーストは悔しそうに地面を何度も叩き、叫ぶ。

 彼の気持ちがわかる、なんてとても言えない……けど、そう叫びたくなるのもムリはない、とは思う。

 何しろ、自分の命すら対価にして復讐に走ったっていうのに、本当は止めてほしかったとか、そもそもの動機もすれ違いの結果生じた誤解にすぎなかったとか知らされれば――







「……よいではないか、道化だったとしても」







 ――って、万蟲姫……?

 気づけば、あのバカ姫、崩れ落ちたビッグファーストの前にしゃがみ込んでいた。拳銃を握る彼の右手にそっと手をそえて、



「たとえ道化だったとしても……あなたの本気は、命を捨ててもぶつけたかった無念は、十分に伝わったのじゃ。
 大丈夫……あなたのしたことは、決して無駄じゃなかったのじゃ」

「…………エグゼさん」



 グラントさん……?

 ビッグファーストの前に進み出たのはバカ姫だけじゃない。グラントさんもだ。彼の前にひざまずき、改めて土下座する。



「本当に、すみませんでした……
 私が、謝罪に来るのがこんなにも遅くなってしまったばっかりに、あなたに、こんなことをさせてしまった……っ!」

「……私は……私は……っ!」



 きっと、今彼の頭の中はいろんな想いが交錯してるんだろう。ビッグファーストの目に涙が浮かんでるのが見える。

 ぬぐうのも忘れられた涙をボロボロと流しながら嗚咽を漏らして……あれ、止まった?







 ――って、ヤバっ!?











「がふっ!?」











 やっぱりだ! 緊張の糸が切れたせいで、気力でもってた身体が限界超えやがった! 思いっきり吐血したよヲイ!



「び、ビッグファースト殿!?」

「ダメ! 動かさないで!」



 あわててビッグファーストの身体を起こそうとするバカ姫をリンディさんが止める……けど、これ、かなりヤバイよ!

 何しろ痛みを感じない身体だ。自分の状態も省みずにそうとうムチャしてたはず。その上で限界を超えたんだ。そうとう危険な状態と見た!



「誰でもいいから救急車! 救急車呼んで!」

「救急車ぁっ!」

「誰がそんな原始的な呼び方しろっつった!? どこの夜兎族だお前はっ!?」

「そうだよ、マスターコンボイ!
 こういう時は117……あれ、177だっけ!?」

「もしかしてフェイトは119番って言いたいのかな!?
 だけどそれ、地球っつか日本の場合だよっ!」



 えぇい、マスターコンボイもフェイトも少し落ちつけっ!

 特にフェイト! なりたてとはいえ執務官がそんなんでいいんかいっ!



 あぁ、もうっ! アルト!



《大丈夫です。たった今通報を終えたところです》



 よし、後は救急車が到着するまでもってくれれば……っ!







「……本当、なのか……!?」







 ……って、ビッグファースト……?

 もれたつぶやきは、吐いた血がノドをふさがないよう、上体だけ起こした体勢で介抱されているビッグファーストから……何の話?



「彼が……謝ろうと、していたのは……」

「あぁ……本当だ」



 ビッグファーストが見ているのは、奥さんと二人で心配そうにしているグラントさん……対して、ジュンイチさんが静かにうなずいた。



「それも、獄中から手紙で、何度もな。
 転居先不明で届かなかったんだとさ。転居届、郵便局に出さなかったろ?
 それさえなきゃ、すんなり謝罪の手紙はアンタのところに届いてたんだ。あの人が謝りそこなったのは、自分のせいでもあるんだって自覚しとけ」

「…………そうか……」



 ジュンイチさんに説教半分で諭されるビッグファーストの顔は、つきものが落ちたみたいにスッキリしていた。

 最後の最後で、救われてくれた、かな……?





















“困るんですよ、救われてもらっては”





















 ――――――っ!?



 突然の念話と同時に巻き起こる殺意――ヤバイ!?



 振り向いた時には、すでにヤツはグラントさんの後ろに出現していた――メガロヴァイター! あのマント男の仕業かっ!



 アルトをセットアップしながら地を蹴るけど、間に合うタイミングじゃない。最悪の光景が脳裏をよぎる。



 絶望的な状況で、メガロヴァイターの腕がグラントさんに向けて振り下ろされて――





















「ダメぇっ!」





















 そんな声と同時、その腕に飛びついた影があった。



「グラントさんを殺しちゃ、ダメぇっ!」



 イヌイマジンだ。驚いて振り払おうとするメガロヴァイターの腕にしっかりしがみつくけど、







「ガァッ!」

「ぅわぁっ!?」







 振りほどかれた。力任せに吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられる。



 もう一度メガロヴァイターは右腕を振り上げるけど、イヌイマジンのおかげで僕が間に合った。グラントさんの前に飛び出して、アルトでその一撃を受け止め――って、重っ!?

 思った以上の衝撃で、たまらず足が止まる。追撃の左――来るっ!







「させないわよっ!」







 けど、その左拳が僕を捉えることはなかった。

 突然飛んできた、嵐の如く荒れ狂うムチの連打が、メガロヴァイターを打ち据えて後退させる。

 ムチ、ということで、今さら確認するまでもない――シャチイマジンだ。



「何ナニ!? どうしてこのタイミングで瘴魔獣が!?」

「復讐をやめられたら困るからだよ」



 一方で疑問の声を上げるスバルにはジュンイチさんが答える……なるほど、そういうことね。



 あのマント男の口ぶりや瘴魔の生態から考えて、さっきまでのビッグファーストのような強烈な復讐心の塊がいてくれることはかなりありがたい状況だもの。

 逆に言えば、そんなビッグファーストの復讐心が晴らされてしまうのはとってもありがたくない状況だってことでもある。



 だから、代わりにメガロヴァイターにグラントさんを仕留めさせて、事態のカオス化を狙った、ってところか……うまくいけばジェシカさんの復讐鬼化も狙えるし。



「まったく、イヤなことしてくれるねぇ、アイツ」

「えぇ、まったくよ」



 軽くボヤく僕に同意したのはシャチイマジンだ。



「せっかく、私の(元)契約者が復讐から解放されるってところなのに、余計な横槍は迷惑でしかないのよ。
 悪いけど、さっさとかみ砕かせてもらうわよ」



 言って、シャチイマジンが地面をムチでぴしゃりと叩いて――



「お前は下がっているのじゃ!」



 そんなシャチイマジンの前に出たのはバカ姫だ。



「お前の立場的には、今すべきなのはこやつをブッ飛ばすことよりもビッグファーストを守ることじゃろうが」

「ま、立ち位置的にはそうだよねー。
 コイツをブッ飛ばすのは、手の空いてる僕らでやればいいワケだし」

《ここ最近戦闘面で目立てていないし、いい加減見せ場のほしいところですしね》



 はい、アルトは少し黙ろうか。



「よぅし、いくよ、ココアちゃん!」



 一方、万蟲姫が参戦ってことで当然のように張り切るのがひとり。メープルがさっそく取りつこうとして――



「ううん、ボクがいく!」

「ふみゃっ!?」



 それよりも早くバカ姫の身体に飛び込んだのは――イヌイマジン!?



「せっかくあの二人が仲直りしたのに、ジャマしようなんて許せないよ!
 あんなヤツ、ボクがやっつけてやるんだからっ!」

〔仕方ないの。
 なら、やってやるのじゃ、パトラッシュ(仮)!〕

「だからその『(仮)』はやめてっ!」



 中のバカ姫とおバカなやり取りをしながら、イヌイマジンがパスをかまえる。

 そして、腰に巻かれたデンオウベルトの赤色のボタンを押して――











「変身っ!」



《Hunter Form》











 パスをベルトにセタッチ。それに応えたベルトの発声に伴って、モモタロスさんのソードフォームと同じアーマーが装着される。

 でもって、犬の顔を模したオブジェが顔面に。形が形だけにそのまま犬面でいてもいい気はするけど、やっぱり電化面にリ・バースして装着される。



 えっと、ベルトの発声の通りなら……ハンターフォーム? けど、メープルの時と同じ名乗りパターンだとすると……



「やっぱり、仮面ライダーハンターとか名乗るつもりか?」

「でもいいけど、うーん……なんか、『ライダー粒子反応あり!』とか『破壊! 破壊!』とか叫ばなきゃいけないような気がするからやめとく」



 僕の思考を先取りしてくれたジュンイチさんの言葉に、イヌイマジンが答える……じゃあ、どうするのさ?



「うーん……
 本来は“ハンター”フォームなんだよね? で、ボクが犬のイマジンだから……」



 少し考えて……決まったらしい。イヌイマジンはこちらを警戒するメガロヴァイターを指さして、











「仮面ライダーハウンド……ターゲット、ロックオン!」











 なるほど。“ハンター”+“犬”=“猟犬”ってワケね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いくよ!」







 カッコよく名乗りもキメて、いよいよ戦いの始まり。勢いよく地面を蹴って、瘴魔獣……メガロヴァイター、だっけ? アイツに突っ込む。

 届く距離になると同時に両手で何度も殴りつける……って、あれ?

 なんか、攻撃が届かない。アイツ目の前で、何か見えないクッションみたいなもので受け止められちゃってる。







「このバカイヌ! いいから離れて!」

「ぅわぁっ!?」







 そんなボクに言うのは恭文だ。あわててどいたボクの目の前で、手にしたアルトアイゼンで思いっきり斬りつける。

 けど……やっぱり届かない。見えない壁に止められて――むしろ、相手の方がその弾力を利用してバックステップ。







「くそっ、思ったより硬いね、あの力場……」

《一応、対ノーマル瘴魔獣の場合よりも魔力を研ぎ澄ませて斬ったんですけどね》







 え、何? 恭文達、アレが何なのか知ってるの?







「僕らの魔力障壁みたいなもんだよ。
 ただ、そこに使ってる瘴魔力は、魔力とそれ以外の生命エネルギーを一緒くたにまとめたシロモノだからね。当然、それだけエネルギーがデカくてその分硬い」

《アレを抜くには、高町教導官のようにそれ以上のバカ魔力で押し流すか、マスターのように一点集中で叩き込むか……いずれにせよ何らかの形で力ずくで突破するしかないんです。
 何しろ私達は、ジュンイチさんやイクトさん達のようにあの力場を中和する手段を持っていませんから》







 ふむふむ。要するに、硬いバリアだけど、力ずくで破ることはできる、ってことか……







「……よぅし、それなら!」







 思いついたことがひとつ。さっそく試してみようかな。

 と、いうワケで、腰のデンガッシャーのパーツを手にとって、手早くガンモードに組み上げる。

 けど、ただ組んだだけじゃリュウタくんと一緒。ボクの場合はもう一工程――銃身部分を形成するパーツが倍くらいの長さに伸びる。ちょうど、ウラさんのロッドモードが組み上がった後ちょっと伸びるのや、キンさんのアックスモードが少し刃が大きくなるのと同じように。

 リュウタくんのが拳銃ガンなら、ボクのはライフルかはたまたショットガンってところかな?

 完成したデンガッシャーを手に、突っ込んでくるメガロヴァイターの振り回した腕をバックステップでかわす。で、攻撃を空振りした相手に向けて銃弾を――ぶち込むっ!

 ものすごい音と同時、放たれた大きな光弾が敵のバリアを直撃――って、かまわず突っ込んでくる!? 効いてない!?







「よっ、はっ、ほっ!」







 両手による、フルスイングの連打――とりあえず全部かわして、もう一回、撃つ!

 今度は一発じゃない。ドンッ! ドンッ! って連続で叩き込む。

 そのおかげで――今度は見えた。

 ボクの攻撃、効いてないワケじゃない――ボクの攻撃、アイツのバリアにけっこうめり込んでる。ふくらんだ風船に、指を強めに押し込んだみたいに。







「あー、惜しい。
 もうちょっとパワーがあれば抜けただろうに」

「うん……そうだよね」







 となりの恭文に答えて、改めてデンガッシャーの銃口をメガロヴァイターに向ける。

 それじゃあ……







「次からは、“もうちょっと強く”撃ち込ませてもらおうかな?」







 言うと同時、デンガッシャーに“力”を送る――さっきよりも、強めに。

 そして、突っ込んでくるメガロヴァイターに向けて……発砲。



 ドンッ!



 ものすごい音がする――ただし、直撃した音じゃない。

 ボクのデンガッシャーから、エネルギー弾が発射された音だ。

 撃ち出すだけでこの轟音。直撃したらどうなるか……







 ズドォンッ!







「ガァッ!?」







 こうなる。エネルギー弾は相手のバリアに命中。爆発でバリアを消し飛ばして、ついでにメガロヴァイターも吹っ飛ばす!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 うわ……何アレ。



《見ての通り、接触炸裂性のエネルギー弾ですよ……ただし、とんでもなく強力な》



 あー、まさに見ての通りのシロモノか。

 まったく、なんつー火力だよ。まるで電王ガンフォームリュウタのフルチャージ技、ワイルドショットじゃないのさ。

 そりゃ、元々デンガッシャーのガンモードの火力はけっこうなものだった……リュウタの乱射の被害、TVシリーズで描かれた限りでもそうとうだったし。

 けど、それを一撃必殺とばかりにチャージすると、通常弾でもあの威力ってワケですか。



《ですね。
 もっとも、あれだけの威力を出そうとしたら逆に連射が利かなくなるでしょうけど。
 手数で圧倒して、弱ったところに大火力を叩き込むガンフォームに対して、最初から大火力の一撃必殺を狙うのが、ハンターフォーム……ハウンドの攻撃特性のようですね》



 うーん、なんか“猟犬ハウンド”のイメージとは合わないような……



《でもないですよ。
 じっくりスキをうかがい、一撃に賭ける……獣の狩りと何ら変わるものじゃないでしょうに》



 ふむふむ、なるほど。



《それより、マスター、いいんですか?
 このままでは、また今回も見せ場のないまま終わりますよ?》



 おっと、そうだそうだ。

 いつまでもバカ姫軍団に目立たせたままでいられるか。主役は僕なんだって教えてやるっ!



《その意気です。
 がんばって私が主役だと声高に主張しようじゃありませんか》

「いや、主役は僕だからね!?」



 アルトとバカをやりながら、ツッコむ……いや、突っ込む。メガロヴァイターがカウンターを狙ってきた右拳の一撃を紙一重で外側へとすり抜け、振り抜かれたその右手をブラインドにして相手の視界から抜け出す。

 もちろん、後ろに回り込むためだ。でもって――







「上にっ!」

《参りまぁすっ!》







 思い切りかち上げる。背中に渾身の打ち上げ――もちろん、さっき防がれたのを考慮して本気での一撃。当然のように力場を抜いて本体に直撃して、頭上に跳ね上げる。







「バカイヌさん、どうぞ!」

「『バカイヌ』ってボクのことかな!?」







 文句を言いながらもしっかり合わせてくれた。イヌイマジンの狙撃が宙を舞うメガロヴァイターを直撃、吹っ飛ばして――







「下へ参りまぁす♪」







 真上から急降下してきたジュンイチさんが思い切り踏みつけた。そのまま地面に突っ込んで、地面とジュンイチさんの足の裏とのサンドイッチ。







「イクト!」

「わかっている!」







 でもって、次はイクトさんの番。飛びのくジュンイチさんに答えながら突撃して、







「悪く思うなよ。
 同じ瘴魔として……貴様らを放ってはおけんのだっ!」







 立ち上がろうとしたメガロヴァイターを、地面スレスレの低空飛行から蹴り飛ばす!

 何度もブッ飛ばされて、メガロヴァイターが地面を転がって……



「おい、犬小僧」



 相手が起き上がるのを待ちながら、イヌイマジンに声をかけるのはマスターコンボイ。

 かまえたオメガに魔力を注ぎ込んで――



「考えなしに『ハウンド』とか名乗らないでくれるか?
 とっくに……オレがその名を使ってるんでなっ!」

《Hound Shooter》



 放たれた魔力弾の嵐がメガロヴァイターの力場を次々に撃ち抜いて、吹っ飛ばす……あー、“ハウンド”の名を冠する技の使い手だもんね。対抗意識燃やしちゃったか。



「だが……今回は貴様の初陣だ。見せ場は譲ってやる。
 さっさと決めてしまえ!」

「はーいっ!」



 で、その一方で先輩としての器を見せつける、と……マスターコンボイに許しをもらって、イヌイマジンはパスを取り出す。











《Full Charge》



「ターゲット、ロックオン!」











 パスをベルトにセタッチ。ベルトから発生したエネルギーがデンガッシャーに注ぎ込まれていく。

 でもって、イヌイマジンがデンガッシャーをメガロヴァイターに向けて――











「ハンティング、パーティー!」











 引き金を引いた。特大のエネルギー弾がメガロヴァイターに向けて撃ち出されて――弾けた。大量の小粒のエネルギー弾になって、誘導弾のように弧を描いてメガロヴァイターに襲いかかる。

 その光景は、まるでなのはが大量のシューターで全方位攻撃を仕掛けるが如し……要するに、前後左右さらに頭上まで完全包囲の上、全方位からブッ飛ばしたワケですよ。

 しかも時間差で絶え間なく。最初の数発の直撃で宙に浮かされたメガロヴァイターは、さらに追撃の直撃によって見る見るうちに頭上へと跳ね上げられていく。

 けど、エネルギー弾の数には限りがある。当然、その攻撃の嵐にも終わりがくるワケで――







「はい……おしまいっ!」







 イヌイマジンの宣告と同時――すべてのエネルギー弾を残さず撃ち込まれたメガロヴァイターが頭から落下。いわゆる“車田落ち”の末、木っ端微塵に爆散した。



 …………復活の気配、なし。



「……うん、終わったね。
 フェイト、もういいよ――現場の封鎖、解いちゃって」

「あ、うん」



 僕の呼びかけを聞いて、フェイトから返事が返ってくる。

 そう。戦いの間、他のみんなが何してたか――ビッグファーストの起こした立てこもり事件のために集まっていた所轄の部隊の人達がこの戦いを目撃しないように封鎖してくれていたワケだ。

 あまり言及されないから忘れそうになるけど、一応電王がらみのことは他の部隊には秘密ってことになってるしね。決して戦いをサボって見物していたワケではないんですよ、うん。



「それより……ビッグファーストは?」

「無事、病院に搬送されたわ。
 グラント夫妻も、それに付き添っていったわ」



 尋ねる僕に答えたのは……シャチイマジン? ビッグファーストについていなくていいの?



「もう、私が彼に付き添う必要はないわよ。
 彼の願いは、ついさっき、本当の意味で果たされたんだから……」



 そう答えて、シャチイマジンは軽く肩をすくめて……







「ならば、わらわ達のところへ来るとよいのじゃ」







 って、万蟲姫……?



「契約完了して自由の身となったはいいが、行くあてはなかろう?
 どうせ、うちにはメープルやパトラッシュ(仮)もいるのじゃ。今さらイマジンがひとりや二人増えたところで、大した違いはないのじゃ!」

「いいの……?
 私がいいヤツを演じてるだけで、本当は悪いイマジンだったら、どうするつもり?」

「本当の意味でビッグファースト殿のために奔走したお前が、悪いイマジンなワケがないのじゃ!
 大丈夫! わらわの人を見る目は確かなのじゃ!」



 まるで試すような物言いで返すシャチイマジンだけど……うん、このバカ姫がそんなので止まるワケないよねー。



 ただし……



「ダメだよ、万蟲姫。
 彼女の身柄は六課で預からせてもらうよ」



 そんな万蟲姫の対抗馬に名乗りを上げるのはフェイトだ。



「彼女はビッグファーストの復讐に加担した……犯罪を犯したことには違いないんだから」



 ……まぁ、局員としての立場からは、そういうことになるよね。



「そうはいかないのじゃ!
 たとえ悪いことをしたとしても、誰かを助けるためにしたことならいいではないか!」



 ただ、瘴魔という法の外のコミュニティにいる万蟲姫に、そんな理屈が通じるはずもないワケで……



「こんないいイマジンを逮捕なんてさせないのじゃ! こやつは我が“蝿蜘苑ようちえん”で預かるのじゃ!」

「それを決めるのは私達じゃないよ!
 まずはちゃんと法の下に裁いて、その上で……」



 あー、フェイト、それに万蟲姫も。



『何っ、恭文ヤスフミ!?』

「…………とりあえず、帰らない?
 その辺の議論は、六課でもできるワケだしさ」



 うん、とりあえずは帰って休もう? 落ち着いてからなら、冷静に議論もできるだろうしさ。





















 結論から言うと、議論は再開されることなく決着した。







「なら、シャチイマジンのことは頼むな、万蟲姫」

「心得たのじゃ!」



 なんていう、はやてとバカ姫のやり取りによって。



「はやて!」

「あー、うん。罪を犯したんやから、ちゃんと逮捕して裁くべきっていう、フェイトちゃんの言い分はわかるよ」



 当然フェイトはそれに反対。詰め寄るけど……うん、フェイト。ひとつ肝心なことを忘れてる。



「けどな、フェイトちゃん。
 相手はイマジンなんよ? 逮捕して裁くっちゅうことは、その存在を公式の場で扱うことになる……電王関係のことは秘密にしとかなあかんのに、そんなワケにはいかへんやろ」

「う゛………………」



 まぁ、そういうことだ。

 フェイトの言いたいことはわかる。しでかしたことにはきちんと始末をつけなくちゃならない。そこに反対するつもりはない。

 けど、「逮捕して……」っていう方法は、今回は使えない。逮捕せず、他の方法でその辺をフォローするしかないんだよ。



「他の方法で……“蝿蜘苑”行き?」

「正直、僕だって不安がないワケじゃないよ?
 ……たぶん、フェイトの懸念とは別の意味で」



 具体的には「シャチイマジンまでコイツらに感化されてバカ化しないか」とか、「僕を“嫁”にしようとするバカ姫に協力し始めたりしないか」とか。



「けどさ、六課うちに置いといても何ができるってワケじゃないでしょ。
 それに、バカ姫達だってネガショッカーとは対立してる。今回の事件でも刺客が乱入してきたらしいし……どうせうちで持て余すなら、万蟲姫のところに送って、対ネガショッカーのためにがんばってもらうのも、アリなんじゃない?」

「そう……かな?」

「大丈夫なのじゃ!
 わらわに任せておけいっ! 悪事などさせはしないから安心するのじゃ!」



 あと一息で陥落、といった様子のフェイトに、万蟲姫が宣言する……なんと言うか、瘴魔のあり方に真っ向から背を向けた宣言な気がしないでもないけど、せっかく話がまとまりそうなのでツッコまない。



「となると、また名前を考えてやらなければならないの」



 まだ何か言いたげなフェイトに対して、はやてからもGOサインをもらってすっかりノリノリな万蟲姫……なんだけど、あのさ。



「何じゃ? 恭文」

「いや、名前って……その前に、イヌイマジンの名前が先だと思うんだけど」



 いい加減、『パトラッシュ(仮)』はやめてあげようよ。特に『(仮)』。見てるこっちがいたたまれないんだけど。



「それなら、みんなが素直に“パトラッシュ”でGOサインをくれれば」

『だからそれはダメ』



 満場一致で却下。だから、おのれの身の上を考えるとシャレになってないんだって何度言えば……



「はいはーい!
 ここはリインにお任せです!」



 ……って、リイン?

 いきなり両手を振りながら名乗りを上げて……何か案が?



「えっと……ずっと考えてたんですけど……
 イヌイマジンさんの名前……“サニー”って、どうですか?」

「……“サニー”?」

「はいです。
 すっごく明るくて、まるで太陽みたいに心をホカポカにしてくれる……っていう」



 僕に答えて、リインはニッコリ笑う。

 あぁ……なるほど。確かにイヌイマジンの性格的にはそういうイメージかも。



「なんだ。
 太陽サンサン熱血パワー、からじゃないのか」

「そっちはいろんな意味でアウトです」



 うん。リインの言う通りだからジュンイチさんは少し黙れ。



「サニー、か……
 うん。いい感じ」



 一方、イヌイマジンの方もリインの命名に好感触の様子。これは……決まりかな?



「うん! それがいい!
 ココアちゃん! ボクの名前、サニーでいいよね!?」

「パトラッシュ……」



 えぇい、このバカ姫が。未だにそっちの名前に未練タラタラかい。



「はいはい。ココアちゃん。本人がそっちがいいって言ってるんだからあきらめなさい。
 代わりに、私の名前を考えてくれないかしら?」

「何!? 代わりにお前がパトラッシュを名乗ってくれるのかえ!?」

「じゃなくて、一から考えてちょうだいって言ってるんだけど」



 ぅわ、この人シャチイマジン、万蟲姫のボケをあっさり流して軌道修正。コイツも意外と器デカイぞ。



「ふむ。一から、か……
 やはりシャチのイマジンだからのぉ……海にちなんだ名前がいいのぉ」



 言って、万蟲姫が考え込む……その間に、フェイトやイクトさん、マスターコンボイと視線で打ち合わせる――変な名前を挙げてきたら即座に却下しよう、と。



 ついでに、ジュンイチさんが便乗して名づけようとしてきたら力ずくでも阻止しよう、と。

 この人のネーミングセンスも負けず劣らずアレだからなぁ。相手が女の子だろうと平然と『タイタニック』とか言い出しかねないもの。



「………………チッ」



 考えとったんかい。舌打ち聞こえたぞオイ。



「ふーん……海……海……
 波……渦……渦潮……海流……
 ……シャケ……サンマ……マグロ……最近食べてないのぉ……」



 おーい。脱線してる脱線してる。

 あー、やっぱり不安だ。ちゃんとした名前つくんだろうね? ホント……







「……ミシオ……」







 ……って、はい?



「えっと……“海”に“潮”で、“海潮みしお”。
 こんなのはどうじゃ?」



 ………………超意外。一発目でマトモなのが来た。

 絶対最初のいくつかはアレなネタネームが来ると思ってたのに。



「ひどいのじゃ、恭文!
 わらわはそんな人の名前で遊んだりしないのじゃ!」

「うん、自分の境遇も忘れてイヌイマジンにパトラッシュなんて名づけようとしたヤツの言うセリフじゃないな」



 ……僕の言わんとしてることはまさにその通りだけど……ジュンイチさん、アンタが言うな。



「えっと……どうじゃ?」

「うん、悪くないわね。
 名前、ありがとうね、ココアちゃん」



 一方、当人には万蟲姫の案は好評の模様。礼を言って、万蟲姫の頭をなでてやる……うん。あの二人の関係が今この瞬間定まった気がする。具体的には姉キャラ、妹キャラってことで。







 ……Prrrrrrrrr……







 ん? はやてのデスクに外線電話?



「あー、はいはい。
 はい、こちら機動六課……あぁ、はい、うちです。
 ……はい、はい……」



 すぐに応答して、軽く会話……すぐに話は終わって、はやては受話器を下ろす。



「……ビッグファースト、容態が安定したって。
 先の二件の事件で撃たれた二人も峠を越えて、明日か明後日には一般病棟に移せるそうや」

「そう……よかった」

「一時はどうなることかと思ったけど……結局ひとりも死者を出さずに終われて、本当によかったよ」

「うん、せやね」



 朗報に胸をなで下ろすのはフェイトとなのは。そんな二人にうなずいて、はやては僕ら一同を見回して、



「今回の事件……みんながみんな、難しい判断を迫られたと思う。私達だけやない、万蟲姫達もな。
 けど、私はそのどれもが間違ってはいなかったと思う。
 捜査に決まったやり方なんかない。それぞれの事件で、それぞれの状況で、それぞれが最善の方法を考えなあかん……そのことは、みんな肝に銘じておいてな」

『はいっ!』



 部隊長らしく締めてくれたはやての言葉に、みんなが元気にうなずく。

 やれやれ、これで正真正銘、今回の事件も解決か……



「それじゃ、さっそく晩御飯にするのじゃ!
 メープル、サニー、ミシオ、食堂にGoなのじゃ! ぷっくりころころ、ホットケーキ〜♪」

『ホットケーキ〜♪』

「まったく、しょうがないわね」



 …………いや、帰れよお前らは。







(第23話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「ビデオメッセージ? 先生あてに?」



「何やってんだ、デネブ!?」

「わからない! いきなり走行システムに異常が!」



「まさか……今回の事件、瘴魔が絡んでるっての?」



「待ってください!
 この人を殺したのは、私達じゃありません!」





第23話「パニックホラーは突然に」





「脱出、不可能ってこと……!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「実に一月ぶりとなる『とコ電』第22話だな」

オメガ《復讐を題材にした前後編の後編。
 そして、イヌイマジンことパトラッシュ(仮)改めサニー初陣の話ですね》

Mコンボイ「いろいろと盛りだくさんな話だったな……すさまじく長いし」

オメガ《冒頭からして三ヶ所同時進行ですしね……内二ヶ所はのっけから戦闘シーンですし》

Mコンボイ「柾木の無双ぶりは……まぁ、いつものこととして、万蟲姫達の方にはまた新たなライダーが現れたな」

オメガ《えぇ、『剣』から、仮面ライダーギャレンが登場です。
 しかし……前回メープルが何度フルチャージを叩き込んでも倒れなかったことから、彼女達の相手がアンデッドであることはバレバレでしたしね。今回『剣』のライダーが登場することを予想できていた読者様は割と多いんじゃないですかね》

Mコンボイ「ふむ、なるほど……
 しかし、また次々と出てくるものだな」

オメガ《そこはまぁ、ディケイドが絡んでますしね。
 公式でクロスオーバーに制限のない彼らが関わっている状況下では、むしろ仮面ライダー系に限定されているのはおとなしい方とすら言えるんですけどね》

Mコンボイ「あー、原作ですでに『シンケンジャー』とクロスしているし、先日スーパー戦隊全体とも改めてクロスしているんだったな。
 ……まさか、今後は戦隊側からも出てくるとかないよな?」

オメガ《あー、作者情報によると、少なくとも『とコ電』やってる間は戦隊の本格参戦はないらしいですよ》

Mコンボイ「つまり、今シリーズの後のシリーズには出てくる可能性がある、と……」

オメガ《まぁ、それはその時に考えるとして、今は目の前の戦いに集中しましょう》

Mコンボイ「そうだな。
 ネガショッカーのこともあるし、例のマント男も正体不明のままだからな」

オメガ《そういうことです。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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