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頂き物の小説
第21話「ばっく・とぅ・ざ・りべんじゃあ」:2




「記憶喪失……ロッド・グラントが!?」



 はやてから話を聞いて、思わずそう聞き返す――

 結局、今日のところはエグゼ・ビッグファーストは見つけられず。シグナムさん指揮下の交代部隊に後は任せて、とりあえず六課に戻ってきて――そこで、僕らはようやく事態がかなりややこしくなってることを知らされた。



「それで、奥さん、ガードは頼むけど、せっかく忘れてる過去を思い出させないでくれ、って……」

「何を勝手なことを……」



 説明するなのはに、イクトさんは渋い顔……まぁ、気持ちはわかるけど。



「いくら記憶をなくしていても、ヤツがビッグファーストの娘の命を奪ったことには変わりがないだろうに」

「でも、10年間の服役で罪を償ってるのも事実だよ?」

「この事件の裁判記録を見ていないのか?
 ヤツは懲役10年という判決が軽すぎるとして、最高裁まで控訴し続けているんだぞ」



 答えるジャックプライムにも、イクトさんはすかさずそう返す。



「罪を償ったからと言って、それで解決する話ばかりではないということだ。
 たとえ判決を受け、刑によって罪を償ったとしても、それが本当に溜飲の下がるものでなければ、当然そこに不満は残る。
 実際、納得できなかったからこそ、ビッグファーストはこの12年間、胃に穴が開くほどの苦しみにずっと耐えなければならなかったんだろう?」



 イクトさんの言葉に、ジャックプライムが黙り込む――けど、とりあえず状況はわかった。



「にしても、『思い出させないでくれ』ね……
 なるほど、それで良太郎さん、渋い顔して考え込んでるんだ」

「う、うん……
 ボクは、やっぱり思い出した方がいいと思うんだけど……」

「『忘れたままでいいはずない』……か。
 愛理さんが桜井さんのことを忘れてた頃に、良太郎さん自身が言ってたことですもんね」

「うん……
 その思いは……今も変わらないんだけどね……」

「グラント夫妻を見て、揺らいじゃいましたか?」



 泣いて、何度も頭を下げられたらしいしね。



「人の記憶こそが時間、なんだよ……
 その記憶を、それまでの時間をなくしたまま、それで幸せになったって……」

「それでOK、って話じゃねぇ――そういうことだろ」



 ジュンイチさん……?



「ジュンイチさんは……忘れたままでいいと思うんですか?」

「思ってねぇさ。
 どんなに辛い記憶でも……それが今の自分を作ってるのなら、忘れるべきじゃないと思う。
 その辛い記憶も全部受け入れて、その上で新しい自分を始めるべきだ」



 僕に答えると、ジュンイチさんは良太郎さんの方を見て、



「でもな、良太郎……それは“オレ達の考え”であって、“あの夫婦の考え”じゃない。
 あの夫婦が、以前の記憶より今の記憶を選んでいる以上、オレ達の勝手で思い出させるべきじゃないし、思い出すリスクを冒すべきでもない」

「じゃあ、どうするんですか?」

「とりあえずは説得継続だろ。
 オレが明日会いに行ってみる。それで考え変えてくれるなら良し。ムリなら……ご要望通り、直接接触することなく守るしかないだろうな」



 はやてに答えて、ジュンイチさんがため息……確かに、良太郎さんですら説得できなかったんだ。“ジュンイチ節”でもどうにもならなかったら、そうするしかないよね……



 でも、“接触せずに守る”か……

 要するに、本人に気づかれないように、隠れてガードする、ってことなんだろうけど……またハードな話になりそうだなぁ……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オラオラ! 待ちやがれぇっ!」



 人ごみの中を駆け抜けながら、少し先を逃げるチンピラを追いかける。



「待ってくださぁい!」



 となりを走ってんのはカイザーズの高良。スバル達と違って本格的な訓練なんてそんなにやってねぇのに、よくついて来やがる。



 ……走ってくる間中、身体の特定部分がブルンブルン揺れてやがる件については気にしねぇ。気にしねぇったらしねぇんだ。別にうらやましくなんかねぇんだからな!



 それよりも今は逃げていくチンピラの方だ。そろそろだと思うんだが……



「そこまでよ!」

「逃がすもんか!」



 っしゃ! こなたとかがみの先回り成功! これではさみ撃ちだ!



「くそっ!」



 あ、向こうもしぶとい。路地に逃げ込みやがったか。







 ……“あたしらの予想通りに”







「ぶべっ!?」



 あ、終わったみたいだな。

 チンピラのつぶれた悲鳴が聞こえたことからそう判断して、あたしは改めて路地をのぞき込んで、



「おつかれさん――つかさ」



 致命的にスタミナがないので待ち伏せ担当。自分の結界に激突して目を回したチンピラを前にオロオロしてやがるつかさに声をかける。



 さて、と……

 気を取り直して、目を回しているチンピラの懐を探って……



「……あった」



 拳銃、みーっけ。





















〈ほな、やっぱりビッグファーストが?〉

「あぁ。
 拳銃一丁と、弾丸一箱を買っていったそうだぜ」



 チンピラ改め、拳銃の売人を締め上げて、得られた情報をはやてに報告。



〈なら、次はビッグファーストの追跡に合流してもらうことになるけど……その前に一旦戻ってき。少し休んでえぇから〉

「いや、休憩ならこのままどっかでメシ食いながらするよ。
 先に追跡組に合流してるビクトリーレオとも早く合流してぇし」

〈そっか。
 じゃあ、頼むな〉



 はやてにうなずいて、通信終了――で、もれるため息。

 あー、やっぱりエグゼ・ビッグファーストが犯人で確定か……



「まぁ、姿消した上に拳銃まで買っていったとなるとねぇ……」

「だよなぁ……」



 同意してくるこなたの言葉に、またため息。



 とりあえず、あたしらはビッグファーストを追うとして……問題は、狙われてるロッド・グラントの方。

 カミさんが何かややこしい注文つけてるらしいけど……ジュンイチのヤツ、ちゃんと説得できるんだろうな……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なぁ……今の暮らしを壊されたくないって気持ちはわからなくもないけど、ビッグファーストの気持ちも考えてやってくれよ。
 あの人にこれ以上罪を重ねてほしくねぇんだ。アンタの旦那さんを撃たせるワケにはいかねぇんだ。
 だからさぁ、会わせてくれよ、旦那さんに」

「その話は、お断りしたはずです」



 ジェシカさんのコンビニでの仕事が終わるのを待って、近所の公園に来てもらって説得してみる。

 けど……こりゃ難敵だわ。良太郎が退けられただけのことはあるわな。



 ちなみに、ついてきてるのはその良太郎と恭文、それからマスターコンボイ――オレが実力行使に出ようとしたら止めるように、フェイトから言われたらしい。

 まったく、アイツはオレを何だと思ってるんだ。そんなことしないっての……なのはじゃあるまいし。



「あんただって、昨日来た連中から聞いてるだろ。ビッグファーストは、復讐のためにイマジンってヤツとも契約してるんだ。
 幸い先に襲われた二人も死んじゃいないけど、あちらさんはガチで殺しに来てるんだぞ」

「ビッグファーストさんには、本当に申し訳ないことをしたと思っています……」



 いや、そんな言葉で済む状況じゃなくなってるって話をだね……







「だからあの人服役中に心からのお詫びの手紙を書いたって……」



 ――――――え?







 ちょっと待ったのしばし待てい。初耳だぞ、そんなの。

 ビッグファーストはそんなこと一言も……姿を消した後、ヤツの自宅やオフィスには一通り家宅捜査かましたけど、そんな手紙が見つかったって話も聞いてねぇし……



「届かなかったんです。
 何度出しても、転居先不明で戻ってきたって……」



 あ…………

 そっか……事件の後、ビッグファースト、引っ越したから……



「だからあの人、刑期を終えて出てきてから、ビッグファーストさんの転居先を探し始めました。
 そうこうしている内に、北地区で事故にあって、記憶をなくして……」



 ――ちょっと待ったのしばし待ていっ! りたーんずっ!

 北地区だって!? それって――まさか!?



「北地区って……
 ジェシカさん。旦那さんが事故にあったのって、北地区なの!?」

「恭文くん……?」

「エグゼ・ビッグファーストの転居先は……北地区のニュータウンだ」



 後ろで同行人ズが情報のやり取りをしてるけど……今は三人の相手よりも確認だ。



「ジェシカさん。今地図を見せられて、旦那さんが事故にあった正確な場所ってわかりますか!?」

「あ、は、はい……」



 ウィンドウに北地区の地図を表示。ジェシカさんに事故のあった場所を教えてもらう。



 …………やっぱり。



「あんたらの家から、ビッグファーストの今の家に向かう、通り道……」

「ビッグファーストの住居を探している過程……ではないな。
 北地区の役所からも離れている――自分の足に物を言わせて探し歩くようなバカをしていたワケでもあるまいし、エグゼ・ビッグファーストの転居先を探す上でこの地点を歩く理由がない」



 マスターコンボイの推理がダメ押し――それは、とんでもない運命の皮肉を示していた。



「……ビッグファーストさんに、謝りに行く途中だったんだ……」

「あぁ……
 良太郎や恭文の日頃の不幸がかわいく思えてくるぐらいの、とびきりタチの悪い不運だぜ……っ!」



 良太郎に答える声は、自分でもわかるくらい震えていた。



「何だよ、これ……何なんだよ……っ!
 手紙さえ届いていれば……無事謝りにいけていれば……っ!
 ビッグファーストに謝罪の言葉が届いていれば、少なくともヤツが復讐なんて考えることはなかったかもしれないのに……っ!」



 ホント、何なんだよ、これ……っ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「今日一日、こっそり影から見守っていたけど……やっぱり、こんな守り方じゃ限界があるよ」



 結局、ジュンイチさんの説得も失敗……で、ロッド・グラントの護衛の方も芳しくないらしい。僕らより少し遅れて報告に戻ってきたあずささんの感想がそれだった。



「私もそう思う。
 やっぱり、そばにぴったり張りついて守らないと、いざ襲われても対応しきれない」

「そうだよ、はやて。
 イマジンとの関係はまだハッキリしてないにしても、エグゼ・ビッグファーストがクロだってのはハッキリしたんだ。捜査方針、変えるべきだって」



 フェイトや師匠の言いたいこともわかる。わかるけど……



「ボクは……今のままでいくべきだと思う」

「良太郎さん!?」



 意外な人の意外な意見が飛び出した。

 あの……昨日、思い出した方がいいって言ってませんでしたっけ?



「うん……
 忘れたままでいいはずがない……その考えを変えるつもりはないよ。
 フェイトちゃんやヴィータちゃん、あずさちゃんの言う通り、そばにピッタリくっついて守ってあげた方がいいっていうのも……わかる。
 でも、だからって、あの二人の幸せな暮らしをかき回していい理由にはならない――ジュンイチくん、昨日言いたかったのは、そういうことでしょう?」

「良太郎さん、だけどですね……」

「撃たせねぇ」



 ……あー、やっぱりこの人はこう動くか。

 なのはの言葉をさえぎって、立ち上がるジュンイチさん――こういう時のこの人って、たいてい腹を括っちゃった後なんだよね。



「絶対、ビッグファーストに撃たせねぇし、イマジンにも手は出させねぇ」

「どこから狙ってくるかもわからないんですよ!?」

「狙ってくる前に見つけてとっ捕まえればすむ話だろうが!」



 反論したフェイトが一蹴された。



「でもジュンイチくん、イマジンは……?」

「そのイマジンが未だに出てこないの、引っかからないか?」



 …………え?

 良太郎さんに答えたジュンイチさんの言葉にふと気づく。そういえば……



「彼は、イマジンと契約していない……?」

「いや、違うと思う。たぶん……契約はしてる……
 たぶん、それどころじゃなくなってるんだ――そんな理由があるとすれば、おそらくそれはビッグファーストの病状の悪化……コールドトミーで痛みは消せても、身体機能への影響はどうしようもないからな」

「つまり、ビッグファーストは身動きもままならない状況にある……と?」

「たぶんな」



 フェイトに、そしてビッグコンボイにジュンイチさんが答える。



「契約完了前にビッグファーストに死なれたら、イマジンも一緒にお陀仏だからな。
 そうならないためにも、ビッグファーストが落ち着くまではイマジンも動くに動けないんだろう。
 要するに、今ビッグファーストを発見できればイマジンも一緒にいる可能性が高い。うまくすれば両方とも一度に押さえられる」



 言って、ジュンイチさんは師匠へと向き直って、



「ヴィータ、お前の捕まえた売人、どこでビッグファーストに銃を売ったって?」

「え…………?」

「銃の密売なんてやったんだ。人気のないところでやったに決まってるだろ。
 ひょっとしたら、そのままそこを潜伏場所にしてるかもしれないだろうが。
 で、どこだ?」

「え、えっと……」

「……もういい。自分で聞き出す」



 答えに困ってる師匠を放り出して、ジュンイチさんが出て行く……



 ……って、やばっ!?



「なのは、ついてって!
 今のジュンイチさんの勢いじゃ、聞き出すために拷問だってやりかねないよ!」

「う、うん!」



 あわててなのはがジュンイチさんを追いかける……とりあえずあっちはこれでよし、と。



「……『撃たれる前に捕まえる』か……
 グラントを撃たせたくない……その思いは同じはずなのに、どうしてこうも食い違っちゃうんだろ……」

「どちらの考えも間違ってはいない。ただ、どこに重きを置いているかの違い……
 だからこそ、難しいんだ」



 ため息をつくフェイトに答えるビッグコンボイに全面的に同意。



 フェイトは王道、ジュンイチさんは邪道……違いなんてそのくらい。フェイト自身が感じてる通り、ビッグファーストにグラントを撃たせたくないってところは二人とも同じなんだ、



 ……にしても……



《マスター?》

「いや……おかしいと思わない?
 ジュンイチさんも言ってたでしょ……『契約完了前に契約者が死んだらイマジンも一緒にお陀仏だ』って。
 そんな先行き不安な契約者を、どうしてそのイマジンは選んだのかな……?」

《そういえば……変ですね。
 願いがハッキリしているから、叶えやすいと言えば叶えやすいですが……それ以上にリスキーすぎますね》

「だよね……」



 あー、もうっ。ホントにややこしい事件だよ、今回はさ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……どうじゃ?」

「クンクン……こっちの方だと思うんだけど……」



 わらわの問いに答えるのは、鼻をクンクンと鳴らしているパトラッシュ(仮)。

 はやて殿に捜査会議に呼ばれてから早二日。埒の明かないイマジン探しに、ようやく光明が見えてきたところじゃ。



「でも、いくら犬のイマジンだからって、そう簡単に他のイマジンの臭いなんか追えないと思ってたけど、案外わかるもんなんだねー」

「ボクもビックリだよ。
 モモ兄ちゃんみたいなことがボクにもできるなんて……」



 何言ってるのじゃ。活動していないイマジンの臭いも追いかけられる分、あの赤鬼よりも上じゃろうて。

 フッフッフッ……これで恭文にばっかりいい格好はさせないのじゃ!



「…………ん?」

「どうしたのじゃ? パトラッシュ(仮)」

「その『(仮)』っていちいちつけるのやめてくれない!?」

「だってまだ正式決定ではあるまい」

「いや、その通りなんだけどね!?
 って、そうじゃなくて……何か、他のイマジンの臭いも……」



 パトラッシュ(仮)が答えた、その時じゃった。







『………………あ』







 茂みから出てきたモールイマジン三人組のバッタリ出くわしたのは。

 ………………って!?



『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

「げげっ!? お前ら、瘴魔の!?」

「なんでここに!?」



 わらわ達を知ってる……ということは、ネガショッカー!?

 まさか、今回のイマジン事件はネガショッカーが犯人をそそのかした、とか!?



「そんなの、後でいいでしょ!」



 メープル!?



「変身するよ、ココアちゃん!」

「うぬ!」



 わらわがうなずくと、メープルが光球となってわらわの胸に飛び込んできて――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……よしっ!



「いくよっ!」



 ココアちゃんについて準備万端。ライダーパスを取り出して、腰にベルトを巻く。











「変身っ!」

《Sting Form》











 ベルトにパスをセタッチ。仮面ライダースティングにへ〜んしんっ!







「さぁ、貫くよ!」







 決めゼリフをビシッと決めて、モールイマジンへと突撃。レイピアモードのデンガッシャーでグサグサグサグサ突きまくる。







「一気に決めるよ!」











《Full Charge》











 なんか弱っちいし、さっさと終わらせちゃっても問題なさそう。ベルトにパスをセタッチしてフルチャージ。







「いくよっ!
 名づけて……ペネトレイト、スティンガー!」











 叫んで、踏み込んで――モールイマジンのひとり、そのお腹にデンガッシャーのオーラソードを突き立てる!







「はぁぁぁぁぁっ! はぁっ!」







 気合を入れて、オーラソードを撃ち出す。目の前のモールイマジンの身体を貫いたオーラソードは、そのまま次のモールイマジンの身体もめった刺しにする。

 クルリと背を向けて、かまえたデンガッシャーにオーラソードが戻ってきて――倒れたモールイマジン二人が爆発。よし、勝った。







〔……さて、と。
 メープル〕

「うん、わかってる。
 それじゃあ、キミにはいろいろ聞かせてもらおうかな?」

「ぐ…………っ!」







 残ったひとりのモールイマジンにデンガッシャーの切っ先を向ける。

 コイツにはどうしてこんなところにいたのかを教えてもらわないと。もし、今回の事件に関わってるなら……







「メープル! ココアちゃん!」

「〔――――っ!?〕」







 イヌイマジン(ココアちゃん曰く「パトラッシュ(仮)」)の言葉にとっさに跳んで――







「ぐわっ!?」







 後ろから突っ込んできたヤツの拳は、モールイマジンを一撃でやっつけていた。







「狙いはわたしだった……まだ敵がいた!?」







 着地したわたしの目の前で、新しい敵はゆっくりとこっちに向き直る。



 見るからにイマジンじゃないっぽい。モチーフは虫っぽいけど……







〔とりあえず……やっつけておくかの〕

「言葉通じなさそうだし……ねっ!」







 ココアちゃんに答えながら、突っ込んできた誰かさんの拳をかわす。







「まったく……次から次にっ!
 おかげでさっきのモグラさんから話聞けなかったじゃない!」







 すぐに相手に近づいて、オーラソードを突き立てて――











《Full Charge》











「さっさと……やっつけちゃうんだから!」







 ペネトレイトスティンガー、本日二発目。撃ち込んで――誰かさんの身体を貫くっ!

 オーラソードを回収。誰かさんの身体は仰向けに倒れて――







 ――むくり。







 …………へ?







〔た、立ち上がった!?〕







 そう……立ち上がった。

 ペネトレイトスティンガーは確かに貫いたはずなのに……それでも、ぜんぜん平気そうに。







「そ、それなら、もう一回っ!」



《Full Charge》






 もう一回フルチャージして、誰かさんにデンガッシャーを突き刺して、











「ペネトレイト、スティンガー!」











 改めて誰かさんを貫いた。今度こそ、誰かさんは倒れて――







 ――むくり。







「また!?」







 イヌイマジンが驚いてる――二ヶ所も身体に穴開けられて、それでも立つなんて!?







「あー、もうっ!
 こうなったらとことんやってやるーっ!」











《Full Charge》



「ペネトレイト、スティンガー!」



 ――むくり。











《Full Charge》



「ペネトレイト、スティンガー!」



 ――むくり。











《Full Charge》



「ペネトレイト、スティンガー!」



 ――むくり。











《Full Charge》



「ペネトレイト、スティンガー!」



 ――むくり。











《Full Charge》



「ペネトレイト、スティンガー!」



 ――むくり。











 あぁ〜、もうっ!







〔何なのじゃ、こやつは……!?〕



「倒しても倒しても……どうなってるの!?」







 ワケがわからないわたし達に、誰かさんが突っ込んできて――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………ここか……」



 拳銃の売人を締め上げて、聞き出した密売現場に到着。

 港湾部の外れ……個人所有船舶の停泊所だ。確かにここなら夜間は人通りもないし、裏取引には最適か。



「ここで、ビッグファーストに銃を……」

「近くにいてくれればいいけど……」



 言って、ジュンイチさんや良太郎さんもビークルモードのマスターコンボイから降りてくる。で、マスターコンボイもロボットモードに。



「とにかく探すぞ。
 病気で弱っているような人間の気配など、弱くて柾木ジュンイチの気配察知にも引っかかるまい」

「結局、最後に物を言うのは自分の足ってことか……」

《えぇ、そうですよ。
 この中でマスターのが一番短い、その足ですよ》

「うっさいよっ!」



 アルトとバカをやりながら探索開始。本人、とまではいかなくても、手がかりとか見つかればいいんだけど……







 ――ちゃっちゃかちゃかちゃか、ちゃっちゃっ、ぴっ♪――







 ん? この『笑点』のテーマの着メロは……



「あぁ、オレだよ。
 もしもし?」



 ジュンイチさんの携帯だった。取り出して応答するけど……あれ? 黙り込んじゃって、どうしたんですか?



“いや……なんか無言でさ”



 応答中の本人からは念話で答えが返ってきた。



「無言電話ってヤツ? こんな時に?」

《まぁ、ほうぼうから恨み買ってますからね。その手の嫌がらせも普通にあるでしょう》

“やかましい。大きなお世話だ。
 それに……たぶんそうじゃねぇ。コイツぁ……”







「……エグゼさんだな?」







 ――――っ!?



 ジュンイチさんの言葉に、思い出す――そういえばこの人、ビッグファーストにアドレス教えたって言ってたっけ。

 一方、ジュンイチさんは携帯をスピーカーモードに切り替えたらしい。僕らにも聞こえる音量で反応があった。



〈……キミは、私の気持ちがわかると言ったな。
 ウソだ――わかるなら、どうして復讐のジャマをする? “私を探す”?〉



 え…………?



 僕らが自分を探しに来たことを把握してる……? まさか!?

 同じく気づいたらしい。良太郎さんやジュンイチさん、マスターコンボイも周囲を見回して――いたっ!

 少し離れた、海沿いの道――こっちを見ながら携帯を使ってるコートの男!



「気持ちがわかるから、止めるんだよ。
 オレも復讐に狂ったことがある――そのためにこの手を血に染めもした。だからわかるんだ。
 復讐を果たしたって、何もスッキリなんかしやしない。自分の心の、それまで復讐心が占めてた部分にポッカリ穴が開いて、虚しくなるだけだ。
 アンタがそうなることなんか、誰も望んじゃいないんだよ――『こんなことしたって、娘は喜びはしない』ってアンタ言ってただろ!」

〈今となっては、もうどうでもいいことだ……〉

「待て! 切るな! 電話切るなよ!」



 ジュンイチさんが説得しようとするけど、ビッグファーストには通じていないっぽい。



 くそっ、どうする……!?

 ジュンイチさんが説得している間に突っ込むか――ダメだ。向こうからは僕ら全員丸見えだ。ヘタに動けばその時点で逃げられる。



 念話でフェイトに知らせて、この周辺に緊急配備を――







「黙って聞いていれば、グチグチと……」







 って、マスターコンボイ!?



「意味のない復讐などになぜこだわる?
 復讐は、相手に自分のしたことを後悔させるからこそ意味があるのだろうが――“自分のしたことも覚えていない人間に復讐しても意味はなかろう”



 バ――ッ!?



〈覚えていない……?〉

「あ、あぁ! そうだよ!
 ロッド・グラントは以前の記憶がない――事故にあって、記憶喪失になっちゃってるんだよ!」



 余計なことを言ってくれたマスターコンボイに文句のひとつも言いたいところだけど、今はそれどころじゃない。ジュンイチさんの手の携帯電話に向けてあわててフォローを入れる。



「そのせいで、事件のことも覚えてないんだ!
 そんなヤツのことを撃ってもしょうがないでしょうが! だから――」

〈……娘を殺したことも忘れて、あの男はこの先ものうのうと生きていくということか……〉



 ぎゃーっ! やっぱり恨みが暴走してるーっ!



〈これっぽっちの後悔も引きずらず、あの男は……っ!〉

「そうじゃない! 違うんだ!
 グラントは、記憶を失う前――」

〈そんなことさせるか!〉



 ブッ。



 大事なことを伝えようとしたジュンイチさんの声は届かない――届く前に電話が切られた。



 ……マスターコンボイ!



「な、何だ……?
 オレはただ、今ロッド・グラントを撃ったところで意味はないと……」

「言ってる場合か! 追いかけるぞ!」



 僕らに言って、ジュンイチさんが走り出す――そうだ。今はマスターコンボイを怒ってる場合じゃない。

 こちらに背を向けて逃げ出したビッグファーストを止めないと――



「待て! 止まれ、青坊主!」



 ――――え?



 突然、良太郎さんに手を引かれて――目の前を何かが駆け抜けた。

 ――って、何、今の!?



「イマジンだよ!」



 そう答えた良太郎さんは――あ、モモタロスさんがついてる。デンライナーから直接ついたのか。

 そんな僕らの前で、飛び出してきた影――イマジンが立ち上がる。



 …………って!?



「おいおい、マヂですか」

《女性型……ですね》



 そう。スマートでメリハリの利いた体格は明らかに女性型。

 なめらかな体表、黒と白のカラーリング、ロングヘアーみたいに後ろに流した、尾びれっぽい装飾――たぶん、モチーフはシャチ。



 ……なぜだろう。女性型でシャチ。これだけで何か妙な親近感がわくのは。



「悪いけど、私の契約者に手出しはさせないわよ」



 ……なぜだろう。ゆかなさんボイスじゃなかったことに落胆を禁じえないのは。



 そんなことを考えながら――気を引きしめる。

 理由は簡単。見ただけでわかるから――ガチで強いって。



「…………恭文」



 ジュンイチさん……?



「ビッグファーストを追え。
 こん中で一番足が速いのはお前だ」

「了解」

「させないって――言ってるでしょ!」



 言って、シャチイマジンが突っ込んできて――って、速っ!?







「こっちのセリフじゃボケぇっ!」







 けど、ジュンイチさんが対応。真っ向からシャチイマジンの拳を受け止める。



「行け、恭文!」

「うん!」



 じゃ、後よろしくっ!







“恭文”







 ん? 念話……マスターコンボイ?



“すまん、オレのミスの後始末を押しつけることになった”

“後で何かおごってよ”

“了解”



 そんじゃ――いきますか!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「じゃ、オレ達はイマジン退治といきますか!」

「おぅ」

「ケッ、女相手かよ。やり辛ぇな」



 恭文を送り出して、残り三人でイマジンの前に立ちはだかる――若干一名、不満そうな赤鬼さんがいるけど。



「あらあら、女ひとりを相手に三人がかり?
 ずいぶんと大人気ないのね」

「ンな『頭からガップリ食っちゃうぞ』的なオーラをガンガン放っておいて、よく言うぜ」



 オレ達を相手にしてもあくまで余裕のシャチイマジンにそう返す。



「悪いが、こっちも容赦はしねぇぜ。
 相手が女だろうが、戦うからには全開でいかせてもらうぞ――よく言うだろ? “主婦は1パック98円・おひとり様限定の玉子を手に入れるために死力を尽くす”って」

「……微妙に論点が違う気がする上にムダに長いな」



 気のせいだよ、マスターコンボイ。



「ただ……始める前にひとつ、聞かせてもらえないかな?」

「何?
 契約者の隠れ処と私の体重や3サイズは教えられないわよ?」

「契約者の命運をかけた情報とお前さんの個人情報が同列扱いな点については大いにツッコみたいところだけど、そうじゃないから安心しろ。
 お前……」







「なんでビッグファーストと契約した?」







 ピクリ――と、シャチイマジンが反応したのがわかった。



「あの人はもう半年の命――この一連のムチャで、さらに余命は削られてるはずだ。たぶん、もういつ倒れてもおかしくないくらいに。
 お前らは、契約完了までは契約者と一蓮托生。契約者が死ねばお前らも一緒に死んじまう。
 そんなリスクを取ってまで、どうしてあの人と契約した? それも……復讐なんて、お前らイマジンにしてみればくっだらねぇことこの上ない願いのために」

「……確かに、復讐なんてくだらないわね。そこはそこは否定しないわ。
 でもね……」



 意外とすんなり答えは返ってきた。



「人がひとり、自らの命まで懸けて願ったことよ。
 その願い、善悪やリスクを超えて叶える価値がある――そう考えたまでよ」

「……了解だ。
 OK。聞きたいことはそれだけだ」

「あら、そう?
 本当に体重や3サイズは聞きたくないの?」

「……なぜそこに食い下がる……」



 むしろ言いたいのか? 自慢したいのか?



「まぁいいや。
 そんじゃ、いよいよ開戦といきますか」



 言って、オレはシャチイマジンへとかまえ、



「いくぜ、マスターコンボイ、モモタロス!
 ブレイク、アァップ!」



「オメガ!」

《Yes, My Boss》



「変身!」

《SWORD FORM》







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――見つけた!」



 前方に逃げるビッグファーストの姿を確認。このまま捕まえる!

 走る速度を上げる。グングン前との距離が縮まって――







《――マスター!》

「――――――っ!?」







 アルトの警告と同時に跳んでかわす――







 ――“水でできた弾丸を”







「ほぅ……よくかわしましたね」



 誰だ――って!?

 目の前に突然水の渦が発生。それが内側から弾けて、そいつは姿を現した。



「――っ、コイツ……!?」



 面識はない――けど、見覚えはあった。



「おや……? まるで私のことを知っているような反応ですね。
 あなたとは初対面のはずですし、こうしてマントで素顔も隠しているというのに」



 そのマント姿に覚えがあるんだよ。

 コイツ、過去で良太郎さんと出くわした――











 万蟲姫の両親を殺した、あのマント男!







(第21話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「説得は、ムリだったか……」



「復讐、大いにけっこうじゃないですか。
 実に私好みの展開ですよ」



「あの人達のジャマしちゃ……ダメぇっ!」



「お前の想いも、あの者の想いも……わらわが全部背負ってやる!」





第22話「ターゲット、ロックオン!」





「お前……本当は止めてほしかったのであろう?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「久々の投稿だというのに、いろいろと重たい話になった第21話だ」

オメガ《イマジンと契約してまで殺された娘の復讐に走った父親と、罪の意識にさいなまれながらも記憶喪失によってその後悔を忘れてしまった元犯人、ですか……》

Mコンボイ「元犯人の男が、まったく反省してない小悪党なら、まだ話は簡単だったんだろうが、な……」

オメガ《こちらにも重い現実がのしかかってるだけに、また厄介なことになってしまってるワケですか……
 挙句の果てに、ラストにはかつて万蟲姫の両親を殺した謎の男が出現。
 また話をかき回してくれそうですねぇ》

Mコンボイ「イマジンの方も、今回はなかなかの強敵のようだし、万蟲姫は倒しても死なない敵に大苦戦……問題は山積みだな」

オメガ《これ、次回ちゃんと収拾つけられるんですよね……?
 なんか、毎回こんな心配してる気がするんですけど。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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あきゅろす。
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