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頂き物の小説
第21話「ばっく・とぅ・ざ・りべんじゃあ」:1



『こんにちはーっ!』

「なのじゃーっ!」



 ……あのさ、キミ達。

 いい加減、自分達が六課に敵対姿勢をとってる組織の人間だって自覚を持った方がいいと思うんだ。アバンタイトル早々に遊びに来やがって。



「組織の主義主張と個人の交友関係は別物であろう?」



 あっさり言い切ってくれるし。

 ……と、そんなワケで今日も今日とて、バカ姫どもが来たワケだけど、今日はいったい何の騒ぎ?



「ごあいさつだの。
 せっかく、先日騒がせたお詫びにホーネットが作ったワサビ漬けを持ってきてやったというのに」



 ワサビ漬けとは、またえらく所帯じみたお詫びの品だことで。

 でも、見た感じそんなの持ってる気配ないよね、キミ達。



「ここは人数が多いからの。大量に持ってきたのじゃ。
 リアカーに積んで駐車場に停めてあるんじゃが、どこに持っていったらいいかの?」

「それなら、直接厨房に持っていった方がいいだろ。
 オレが持ってってやるよ――チビイマジンズのどっちか、リアカーまで案内しろやコラ」

「じゃあボクが行くーっ!」



 名乗りを上げたジュンイチさんに子犬イマジンが応えて、二人が退場――さて、バカ姫や。



「どうしたのじゃ、恭文?
 ……ハッ!? まさか、ついにわらわにプロポーズを!? こんな人目のあるところではさすがに恥ずかしいのじゃが……」

「それは一生涯ないから。未来永劫ないから。ないから身体クネクネくねらせるのやめろ。
 そうじゃなくて……あの子犬イマジン、結局名前は決まったの?」

「それがまだなのじゃ。
 まったく、困ったものじゃな」

「それはココアちゃんが『絶対パトラッシュがいい!』って言って譲らないせいだと思う……」



 傍らからメープルがツッコんでくる……まだあきらめてないんかい。



「ネコイマジンもあれから姿を見せぬし……あやつの名前も考えてあげなくてはならんのに……」

「うん、それは絶対嫌がると思うな」



 ネコイマジン本人としては、あくまで万蟲姫の“敵”であろうとしてるワケだしね……まったく、暗殺に失敗したってのに、マジメなことで。



「へっ、そん時ゃブッ飛ばしてやりゃあいいじゃねぇか。
 ブッ飛ばして、ふんじばって、逃げられなくしてからゆっくり名づけてやんな」



 「ざまぁみやがれ」とばかりに笑いながらそんなことを言い出すのはモモタロスさん……なんだけど、あの……



「ん? どうしたよ、青坊主?」

「いや、そんなのんびりしてていいのかなー、と。
 だって……」







「ただいまーっ!」







「……って具合に、ジュンイチさんの案内を終えた子犬イマジンが戻ってくる頃合だったので」

「でぇぇぇぇぇっ!?」



 僕の指摘と時を同じくして戻ってきた子犬イマジンに、犬が苦手なモモタロスさんは大あわて。ものすごい勢いで後退して……あ、コケた。



「……ボク、嫌われてるの?」

「大丈夫だよ! モモタロスさん、犬が苦手なだけだから!
 ちゃんとお話すれば、きっと仲良くなれるから!」



 耳と尻尾をシュンと垂れさせて凹んでる子犬イマジンにフォローを入れるのは、同じような感じでモモタロスさんに引かれていた経験を持つスバル。

 つか、仲いいよね。やっぱり子犬キャラ同士気が合うのかな?



「恭文ひどいよ! あたし犬じゃないもんっ!
 イマジンくんとは……うん、そう! ただ精神年齢が近いから気が合うだけでっ!」

「いや、それはそれで問題だと思いなさいよ、アンタは……」

「あ、あれー?」



 ティアナにツッコまれて、スバルがしきりに首をかしげてる。まったく、コイツは……

 にしても、モモタロスさんの犬嫌いがまたしてもクローズアップされるとは。

 スバルみたいに始終顔を合わせてるワケじゃないけれど、万蟲姫達もネガショッカーとケンカしてる以上、現場でハチ合わせする可能性はゼロじゃない。そんな時にコレが出たら、スバルの時みたいにまた戦いの足を引っぱることにもなりかねない。



 良太郎さん、なんとかなりませんかね?



「……って、アレ?」



 探してみて――気づく。

 そもそもこちらの話題に加わってすらいなかった良太郎さんは、僕らに気づくことなく、向こうの席でケータロスをいじってる……指の運びからして、たぶんメール。

 でも、普通の携帯電話じゃなくてわざわざケータロスでメールしてるし、なんだか楽しそう。

 相手はお姉さんの愛理さんかな? それとも……別の誰かとか?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……よし、と」



 何度もチェックして、誤字脱字がないのを確認。メールを送信する。

 ケータロスを閉じてポケットにしまって――



「誰とメールしてたの?」

「ぅわぁっ!?」



 び、ビックリしたーっ!? いきなり声をかけてくるんだもの。



「もう、失礼しちゃうなー。
 そんなに驚かなくてもいいじゃないのさ。それとも、『小さくて見えなかった』とか言わないよね?」

「ご、ごめん、こなたちゃん……」

「……ウチもおるんやけど」

「…………ごめん」



 ぷぅと頬をふくらませるこなたちゃんといぶきちゃんに思わず謝る。



「まぁ、それだけメールに夢中やったってことにしといたるわ。
 で? そんな夢中になるようなメールを、誰に送ったん? 愛理さんとか?」

「え、えっと……姉さんじゃなくて、その……と、友達にね」

『え゛…………?』



 答えるボクの言葉に、どうしてなのか二人が固まった。



「良さんって……」

「良太郎くんって……」



『友達いたの(いたん)!?』



 あれ!? 今ボク、何かいろいろと否定された!?



「い、いやー……ホラ、私達、テレビの中の良太郎さん達しか見てなかったワケだし……」

「侑さんと、ウルフイマジンの回に出てきた女の子と……後は三浦さんと尾崎さん?
 そのくらいしか、良さんの交友関係って描かれへんかったし……」

「あぁ、そうなんだ……」



 うん、そういうことなら、しょうがないよね。

 でも、今のメールの相手は今挙がった中の誰でもない。もちろん、実は最初に否定した姉さんだった……ってこともない。

 えっと、なんて説明したらいいか……



「良太郎の“彼女”だよ――今のメールの相手」

『えぇぇぇぇぇっ!?』

「ちょっ、ウラタロス!?」



 いきなりなんてこと言い出すの!?



「あれ? 違った?
 あんなに仲いいんだし、てっきりもう“そういう関係”だと思ってたんだけど?」

「違うから!
 そりゃ、いろいろお世話になったし、お店にもよく来てくれてたし……」

「確かに、香港での初対面以来、お世話になりっぱなしだよね」



 ……うん。ホント、お世話になりっぱなし。

 ボクの方が年上で、しっかりしなくちゃいけないのに、むしろ助けてもらってばっかりだ。



 何か恩返ししなきゃいけないとは思ってるんだけど、なかなか……ね。



「え、ちょっ、ホントに誰の話!?」

「ウチらにはさっぱりわからんのですけど!?」

「だから、良太郎のかのじ」

「違うってばーっ!」

「……じゃあ、彼女“候補”ってことで」

「そういうことでもないからっ!」

「そう?
 脈アリだと思うんだけどなー。ライダー大戦の時、時空の歪みのせいで縮んだ良太郎を見てもまんざらでもない感じだったし」



 いや……ウラタロス。そこはちょっと方向性が違うと思う。



「と、に、か、く。
 女の子の心を釣り上げることに関しては、ボクの方が専門なんだからさ。
 そのボクが『脈アリ』って言ってるんだから、今回のことが片づいて帰ったら、思い切ってデートにでも誘ってみたら?」



 でっ!? ででで、デート!?

 いや、でも、そんな……



「おー、良さん、顔真っ赤や」

「案外、良太郎さんの方が脈アリ?」

「い、いぶきちゃん! こなたちゃん!」



 からかってくる二人を軽く叱る――うん、ホントにそういう関係じゃないからーっ!











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第21話「ばっく・とぅ・ざ・りべんじゃあ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……ってな感じで朝から平和(?)な六課だったけど、事件は突然起きるもの。

 と、いうワケで、主要メンバーがいきなり呼び出されてミーティングルームに集合。



 なぜか万蟲姫もいたりするけど……「イマジンの意見も聞きたい」って呼ばれたのはメープルと子犬イマジンだけでしょうに。


「二人の主たるわらわがいなくてどーするのじゃっ!?」



 ……さいですか。



「みんな、いきなりの呼び出し、かんにんな」



 と、そこへ現れたのは、我らが六課の部隊長、八神たぬk……もとい、八神はやて。



「恭文がなんて呼びかけたかはまた後で追求するとして……まぁ、呼び出された時点で察しがついとるやろうけど、事件発生や」

「それも、イマジンがらみの……か」



 言って、イクトさんが見るのは、もちろんメープル達“蝿蜘苑ようちえん”のイマジンズ。ま、名指しで呼ばれてるワケだしね。



「で? コイツらに聞きたいことというのは何なんだ?」

「ん。それなんやけどな……
 まずは、これを見てほしい……今朝発見された、今回の事件の被害者写真や」



 マスターコンボイの問いに答えて、はやてがミーティングルームのメインモニターに映し出したのは、二人の人間の写真。

 写真じゃ生死は今ひとつわからないけど、全身を何発も撃たれてる。



「二人とも意識不明の重態で、ICUで治療中や」



 とりあえず死んではいないらしいので、そこだけは安心しておく。



「――――っ」

「ひどい……」



 とはいえ、ひどい有様であることは変わらない。こういうのに耐性のないっぽいつかさや高良さんが渋い顔してるけど……あのさ、はやて。



「何や、恭文?」

「これ……イマジンの仕業なのかな?」

「ヤスフミ……?」



 はやてに尋ねる僕の言葉にフェイトが不思議そうな顔をしてるけど……うん。だっておかしいもの。



 これがイマジンの起こした事件の被害者……イマジンにやられた人の写真だとしたら、“決定的におかしなところがある”んだから。



「……これ、イマジンの攻撃による傷じゃないんだよ」



 と、僕に代わってジュンイチさんが答える……やっはりこの人は気づいたか。



「ごくごく普通の銃創だ……この写真だけじゃハッキリとは判別できないけど、たぶん9ミリか10ミリ口径。
 イマジンの生体銃器による傷じゃない……そこら辺で普通に裏取引されてる、一般的な拳銃による傷だ」



 質量兵器として拳銃の流通を禁止しているミッドチルダだけど、決して完全にその存在をシャットアウトできているワケじゃない。

 魔導師としての資質を持たない人間にとっては、貴重な“力”だ。どうしても需要は生まれるし……そこに付け込んで、裏ルートで流して金もうけをしようと考えるバカはやっぱり出てくる。

 この人達を撃ったのも、そうして裏取引された拳銃のひとつである可能性はきわめて高いけど……



「ってことは……この人達がイマジンにやられたんだとしたら、イマジンはわざわざ人間用の拳銃を使って襲ったことになるよね。
 それっておかしくない? そんな回りくどいことしなくても、人ひとりくらい簡単に殺せる連中なのに」

「せやなー。イマジンのこと知っとったら、普通はそう考えるよな。
 私もそこが引っかかって……それで、モモタロスさん達だけやなくてメープル達にも話が聞きたくて、来てもらったんよ。
 契約内容にもよるんやろうけど……わざわざそんなめんどくさいマネ、イマジンがやったりするかなぁ?」

「んー……少なくとも、わたしはやらないよ」

「だよねー。
 人間用の銃なんて、どこで買えばいいかなんてわかんないし」

「うんうん。
 そんなの使うくらいなら自分の使うよねー♪」



 メープルや子犬イマジンにリュウタが答える……けど、こんなところで自分の銃リュウリボルバー振り回さないでくれるかな?



「しかし、主はやて。そうなると、撃ったのがイマジンだという線が消えることになる――この者達を撃ったのは、イマジンではなく人間、ということになりませんか?」

「私もシグナムに同感です。
 メープル達の言う通り、イマジンがわざわざ人間用の銃で人間を襲う理由はない……そもそも、何を根拠に人間用の拳銃で撃たれたこの者達を、イマジン事件の被害者と判断したのですか?
 二人とも、意識は戻っていないのでしょう?」

「ん。それなんやけどな……」



 シグナムさんやスターセイバーの問いに、はやては息をついて、



「実はな。聞き込みの結果、この人達、撃たれた状態で発見される前……一昨日と三日前に白昼堂々、公衆の面前で相次いで連れ去られてることがわかったんよ。
 その、連れ去った犯人っちゅうのが……」



 イマジン、か……



《どういうことでしょうか?
 拳銃の件もそうですけど、わざわざ連れ去って、その先で撃っているというのは……》

「うん……確かにおかしいよね」



 身体があったら絶対に首をひねってるだろうアルトの疑問に同意する。



 仮に、撃った理由が殺害目的だとして……でも、ただあの二人を殺すのなら、その場で殴り倒せば事足りる。

 それをわざわざ連れ去った上、人間用の拳銃で撃ってる……?



「モモタロスさん達はどう思います?
 今まで戦ったイマジン達に、こんなことするヤツ、いましたか?」

「いや、いねぇって、そんなめんどくせぇヤツ」

「だよねぇ。
 たいていのイマジンって、先輩以上にバカだからね。こんなムダだらけなマネなんかしないよ」



 話を振るはやてだけど、モモタロスさんはもちろん、ウラタロスさんも不思議そうに首をかしげてる。

 けどムリもない。本気でワケがわからないもの。



「そうそう……って、どういう意味だ、カメ公!
 それだと『オレもバカだが、イマジンどもはそれ以上にバカ』って言ってるように聞こえるんだがなぁ!?」

「あ、わかった?
 おっかしいなぁ、先輩なら気づかずスルーすると思ったんだけど、バカだから」

「てんめぇっ!」



 いつものようにケンカを始めるモモタロスさんとウラタロスさんを尻目に考える。



 こんなことをする意味があるのか? わざわざ連れ去る意味。わざわざ人間用の拳銃で銃撃する意味……







 …………“人間用”







 待てよ。そうだとしたら、一応のつじつまは合うけど……



「ヤスフミ……何か気づいたの?」

「ん。気づいた」



 フェイトに答えて、顔を上げる。



「ねぇ……やっぱり、その人達を撃ったのって、人間じゃないかな?」

「え?
 でも、連れ去ったのはイマジンだって……」

「だからって、“撃ったのもイマジンだとは限らない”」



 首をかしげる豆芝にそう答える。



「その人達を連れ去ったのはイマジン。だから撃ったのもイマジンに違いない――そう考えるからややこしくなるんだよ。
 けど、連れ去ったのと撃ったのとが別人だとしたら、話は変わってくる。そう考えると、わざわざイマジンが被害者を連れ去ったことも納得できる」

「そうか……
 イマジンが被害者を連れ去ったのは、拳銃の持ち主のところへ連れていくため……
 拳銃の持ち主が契約者だとしたら……」

「何発も撃ってるところから考えて、動機は怨恨、か……
 そう仮定すると、契約内容はたぶん“ソイツらをこの手でブッ殺したいから、オレのところまで連れてこい”ってところじゃねぇかな……?
 はやて。この被害者二人に、共通点は? 同じ犯人に狙われたんだとすると、何かあると思うんだけど」

「あー、一応、わかっとるんやけど……」



 イクトさんに乗っかる形で話を振ってくるジュンイチさんに、はやてはなぜか渋い顔。いったい何だってのさ?



「その“共通点”なんやけどな、この二人……」







「強盗殺人事件の、犯人なんよ」







「強盗……」

「殺人……!?」



 はやてのその言葉に、僕らの間にざわめきが走る――エリオやキャロのかすれた声が、一番みんなの心情を表してると思う。



「今から12年前、クラナガン市内の銀行に武装した三人組が侵入し、現金を強奪。
 そして……その時に、女子行員がひとり、犠牲になっとる……
 犯人はすぐに逮捕。三人の犯人の内、今回撃たれた二人は6年前に出所。共犯者で女子行員を射殺したロッド・グラントも、2年前に出所しとる」

「ってことは、その殺された女子行員の家族による復讐って線が濃厚だな。
 女子行員の身元は?」

「えっと……あぁ、これやな」



 ビクトリーレオに答えて、はやてがメインモニターに問題の女子行員のデータを表示する。



 ……って、これ……!?



「メイ・ビッグファースト。
 当時、18歳やったそうや……」

「18って……!?」



 きっと僕と同じことを考えたんだろう。フェイトの声も強張ってる。



「…………?
 何だ? 18歳がどうかしたのか?」

「桜井侑斗……お前達も知っての通り、このミッドチルダは就労年齢が全体的に低く、能力さえあれば、エリオやキャロくらいの年頃の子供でも社会に出て働くことが可能だ」



 首をかしげる侑斗さんにはイクトさんが説明してくれる。



「だが……それはあくまで“全体的に”という話だ。
 専門的な知識や技術、能力を必要とする職業の場合、それらを学ぶ時間が必要とされるため、就労年齢はどうしても平均よりも高くなる。
 銀行員もそのひとつだ。専門的な会計知識を得てから就職してもらうため、就職にはハイスクールの卒業資格が必要とされ、最低就労年齢も組合規則によって定められている。
 その年齢というのが……18歳だ」

「じゃあ、この子……」

「学校を出て、働き始めたばかりだったのね……」



 イクトさんの説明に、こなたやかがみも渋い顔。



「ご家族は?」

「父親の、エグゼ・ビッグファーストさん、おひとりだけや」

「父ひとり子ひとりってヤツだったのか……」



 なのはに答えるはやての言葉に息をつくのはジュンイチさん……あ、もしかして……



「なぁ、はやて……」

「わかってます。行きたいんですよね。
 エグゼ・ビッグファーストのところ、行ってもえぇですよ……どうせ、止めたって行くでしょうし」



 ジュンイチさんに答えると、はやては僕らを見回して、



「フェイトちゃんと恭文、イクトさんとジャックプライムはジュンイチさんと一緒にエグゼ・ビッグファーストから話を聞いてきてな。
 で……この一件がホントに12年前の事件の復讐やとしたら、残りのひとり、ロッド・グラントも当然狙われるはずや。犯人がエグゼ・ビッグファーストか否かに関わらず、な。
 なのはちゃん、フォワード陣と良太郎さん達連れて、ロッド・グラントと接触してきて。
 カイザーズのみんなはヴィータの指揮下に入って、拳銃の出所を追跡。
 クレアちゃんはライラやメイルと一緒に病院に行って、撃たれた被害者の警護を頼めるかな? 生きてると知ったらまた狙ってくるかもしれへんし。移動にはガスケットとアームバレットを使ってえぇから。
 いぶきやなずな、残りのみんなはシグナムの指揮下で交代要員、兼他にネガショッカーや野良イマジンが事件を起こした時に備えて待機や」

「わらわは!? わらわ達の仕事は!?」

「あるワケねーだろ」



 手を挙げるバカ姫に師匠がツッコむ――うん、あるワケないよね。一応部外者てきだし。



「お前らは、はやてが話を聞きたいからって呼んだだけじゃんか。
 あー、でも、その“話”でも大して役立つこと言ってないよなー」

「むきーっ!」



 師匠のイヤミにバカ姫がますますヒートアップ……あの、師匠。ひょっとして、前にホーネットにブッ飛ばされたの、根に持ってません?



「はいはい、バカやってないで、さっさと働けー」

「ほーい」

「待つのじゃーっ! 話はまだ終わってないのじゃーっ!」



 パンパンと手を叩いて促すジュンイチさんに師匠がうなずいて、みんなが動き出す――バカ姫は当然無視する方向で、



 けど…………うん。



 また、ややこしい事件になりそうな予感がするんだけど……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……気に入らないのじゃ」



 うん……気に入らない。



「『意見を聞きたい』と言うから会議に顔を出してやったというのに、用が済んだら即放置か。
 最近、恭文のわらわへの扱いに愛を感じないのじゃ」

「うんうん! そうだよね、ひどいよね!」



 おぉっ! メープル、お前はわかってくれるか!



「やはり、ここは一発、恭文がわらわのことを見直すような大きな手柄を立てて見せるべき……そうは思わぬかえ?」

「そうだね。
 恭文くんの役に立てば、きっとココアちゃんのこと見直してくれるよ!」

「よし、そうと決まれば『膳は急げ』じゃ!
 今回の事件、恭文達よりも先にわらわ達の手で解決させてやるのじゃ!」

「おーっ!」

「……それはいいんだけどさぁ……」



 ん? 何じゃ、パトラッシュ(仮)?



「早く食べないと……『会議に出てくれたお礼に』ってはやてちゃんが作ってくれたホットケーキが冷めちゃうよ?」



 おっと、いかんいかん。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「時空管理局、機動六課――フェイト・T・高町です」

「柾木ジュンイチです」

「……エグゼ・ビッグファーストです」



 ジュンイチさんと二人で名乗る私に応える、落ち着いた様子のこの人が、エグゼ・ビッグファーストさん。

 大学病院の教授で、今いるのも彼のオフィス……ヤスフミとイクトさん、それからジャックプライムには、この病院や大学の方で彼についての評判とかを聞き込みに行ってもらってる。



「……あの事件の犯人が二人も撃たれたとニュースで聞いて、いらっしゃるだろうと思ってました」

「なるほど。
 いきなり押しかけたってのに、妙に落ち着いてるのはそれが原因ですか」



 そうか……人の目に触れる形で事件が発覚している手前、事件そのものは(イマジンのことは伏せる形で)報道されてる。それで私達が話を聞きに来るって予感してたんだ……



「私のことを、疑ってらっしゃるんでしょう?」

「そ、そんなことは……」

「あぁ、そうスね」

「って、ジュンイチさん!」

「かまいませんよ。
 事件が事件だ。私に疑いがかかるのは、当然のことです」



 ストレートな物言いのジュンイチさんだけど、エグゼさんはもう疑われるのは覚悟していたみたいで、むしろ笑顔すら見せている。



「じゃあ、ド直球に聞かせてもらいますね。
 犯人達のこと……恨んでますよね?」

「……妻に先立たれて、私の家族は娘だけでした。
 その娘を殺されて……恨まないはず、ありませんよ。
 この手で殺してやりたいとも、何度も思った……しかしできなかった。
 私が自分のために人生を棒に振ることなど、娘が喜びはしないだろうからね……」



 ジュンイチさんに応えると、エグゼさんは不意に自分の脇腹に手をあてて……ん?



「どこか……お悪いんですか?」

「あぁ、胃をやられていてね……
 痛みはないんだが、時折気になって、つい、ね……」



 そう、ですか……



「話、戻すぞー。
 エグゼさん――事件のあった晩、どこで、何してましたか?」

「言ったでしょう?
 妻に先立たれて、娘も失った……『一昨日も、三日前も夜は家にいた』。そう言うのは簡単ですが、そんなアリバイを、独りぼっちの私がどうやって証明しろと言うんですか?」

「そうですか……
 では、失礼ですけど、少し調べさせていただくことになりますが……
 確か、お住まいの方は西地区から北地区のニュータウンに移られたんですよね?」

「えぇ。
 元の家には、娘との思い出が多すぎてね……」



 私に答えて、エグゼさんは窓の外を見る。

 きっと、亡くなった娘さんのことを思い出してるんだろう。遠い空の果てを見つめるその横顔に、私は声をかけられなくて――







「……エグゼさん、これ」







 って、ジュンイチさん……?

 エグゼさんに、いきなり一枚のメモ用紙を手渡して……それは?



「オレの携帯のアドレス。
 アンタの気持ち……わかるつもりだからさ。話し相手くらいには、なれると思う」

「ありがとうございます……」



 お礼を言うエグゼさんとジュンイチさんが握手を交わして――私達は彼のオフィスを後にした。





















「あぁ、フェイト、ジュンイチさん」



 病院棟を出て、併設されている医科大学のキャンパスを歩いていく――私達を待っていたんだろう、ヤスフミがイクトさんやジャックプライムと一緒にやってきた。



やっこさんの評判は悪くないね。
 『人のいい立派なお医者さん』って意見ばっかり。悪く言う人なんてひとりもいなかった」

「そっちはどうだった?」

「うん……
 “時の砂”がもれてる様子は、見た限りでは確認できなかった……イマジンがついてるかどうか、ちょっと判断つかないね……
 モモタロスさんかリュウタロスさん、どっちかについてきてもらえばよかったよ……」



 ヤスフミやジャックプライムにそう答えて――



「んにゃ、たぶんヤツだよ」



 ジュンイチさん……?



「あの人、言ってたからな。
 『「一昨日も、三日前も夜は家にいた」。そう言うのは簡単……』ってな。
 けど……ニュースでは二人が意識不明の重態で発見されたことしか報道されていないはずだ。連れ去られた件についてはイマジンのことに話が及ぶから、記者発表でも伏せられたはずだ。
 けど、あの人は二人が連れ去られた日……たぶん、二人が撃たれたであろう日をピタリと言い当てた……」

「なるほど……
 今のところ、銃撃の推定タイミングが一昨日と三日前っていうのは、捜査関係者と犯人しか知らないはずだから……」

「つまり……やはりヤツが娘の復讐のため、かつての事件の犯人をイマジンに拉致させ、殺害を目論んだというのか?
 だが……」



 ジャックプライムのとなりでイクトさんが眉をひそめる気持ちはわかる。

 だって……ジュンイチさんの推理の通り彼が犯人だとしても、ひとつわからないところがあるから。



「待ってよ、ジュンイチさん。
 エグゼ・ビッグファーストが犯人だとして……“どうして今なのさ”?」

「そうですよ。
 すでに襲われた二人は6年も前に、残るひとりのロッド・グラントだって、2年も前に出所してるんですよ。
 復讐するつもりだったなら、普通は出所した時点で狙うんじゃないですか?」

「だな。
 オレも、その辺が引っかかってたんだけど……」



 ヤスフミや私の問いに、ジュンイチさんはそう答えて息をついて、



「でも……だ。
 もし、ヤツが復讐を決意したのが、つい最近のことだとしたら?」

『え…………?』

「言ってたんだよ。『自分のために人生を棒に振ることなど、娘が喜びはしないだろうから』って……
 そうやって、自分の中で抑え込んでいた復讐心。そのタガが外れる……そんな出来事が、つい最近あったとしたら?」

「つまり……イマジンにつかれ、契約という形で復讐を果たせる力を得たことで、復讐を決意した……ということか?」

「それも考えられない話じゃないけど……オレが考えてる“きっかけ”はもっと別」



 イクトさんに答えて、ジュンイチさんはジャックプライムへと向き直って、



「ほら、ボサッとすんな。トランスフォーム」

「え……?」

「移動するから足になれって言ってんの。
 さっさとしろ。病院行くぞ」

「え? 病院って……」

「ここ、病院……」

「エグゼは胃をやられてるそうだ。
 たぶん、身内びいきを避けるためにこことは別の病院で受診してるはずだ。そこに行く」



 話についていけないヤスフミ達に、ジュンイチさんはあっさりとそう答える。







 でも……エグゼさんの病気、そんなに深刻そうな様子には見えなかったんだけど……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ありがとうございましたー」



 店員に見送られて、コンビニを出る。

 少し歩きながらタイミングを見計らい、人目につかないよう路地裏にすべり込む――そこで、オレは“身体を脱ぎ捨てた”

 ついていた人間から出て、実体化――人間の身体を通じて持っていたビニール袋を手に奥に進む。

 腰を下ろせそうな手頃なスペースを見つけると、そこに座って買ってきたフライドチキンを取り出して――







「……ここにいたか、ネコイマジン」







 おやおや、レオの旦那かい。



「まったく、探したぞ。
 いつもいつも、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと……」

「悪いな。ネコってのは気まぐれな生き物なんだよ」



 旦那に答えて、オレは改めてフライドチキンにかぶりつく。



「……やはり、任務を果たすまでは戻るつもりはないか」

「狙った獲物は逃さない主義でね」

「つい今しがた『気まぐれ』と自らを評したイマジンのセリフには聞こえないな」



 あーあー、聞こえない聞こえなーい。



「……まぁいい。そこまで言うなら好きにするがいい。
 だが……戻らないというのなら、身の周りには十分気をつけておくことだ」

「あん…………?」

「非常に危険な野良イマジンがうろついている。
 我らネガショッカーに引き入れようと使者に出したモールイマジンの三人チームスリーマンセルが、すでに三チームつぶされている」



 おいおい、そいつぁおだやかじゃねぇな。



「好戦的……ってことか?」

「違う。
 契約遂行に忠実すぎる……我らの誘いも“契約遂行の障害”としか見ていない。だからつぶしにかかる。
 任務を果たすまでは戻らないと駄々をこねている誰かさんが、さらに凶暴になったものと思えばいい」



 サラリとイヤミを混ぜてくれやがるな。



「出くわしたとしても関わらないことを勧めるぞ。
 じゃあな、確かに伝えたぞ」

「おぅ」



 オレが適当に答えると、レオの旦那は光球化してどっかに飛んでっちまった……







 ………………あ。







「気をつけようにも……何がモチーフのイマジンか聞いてねぇじゃねぇか」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……甘かった。

 エグゼ・ビッグファーストの主治医の先生から話を聞いて、本気でそう思った。



「……末期の、胃ガンです。
 余命は……もって、あと半年……」



 そう僕らに語る先生の表情は真剣そのもの――その表情が、言っていることが紛れもない事実であると教えてくれる。



「エグゼさんは、そのことを……?」

「それは――」

「知ってるさ」



 フェイトに答えたのは先生じゃなくてジュンイチさん……って、



「ジュンイチさん、気づいて……あ」



 そうだ……そもそもここに来ようって言い出したのはジュンイチさんだ。気づいていたからこその提案だったってことか……



〈でも、どうして気づいたの?〉

「エグゼのオッサン、言ってたろ。『胃をやられてる』『痛みはない』って」



 今度は、待機している駐車場から通信で参加しているジャックプライムの質問に答える。



「腹を下すとか、そんなレベルの話じゃねぇんだ。胃をやられて、痛みがないノンペインなんてありえねぇ。
 そこがちょっと引っかかってな……さっきオレのアドレスを渡した後の握手で、オッサンの手のツボを押してみたんだ。思いっきりな」

「って、ジュンイチさんの握力でそんなことしたら……あれ?」



 その場に立ち会っていたはずのフェイトがツッコみかけてふと止まる……え、どうしたの?

 僕らはその時一緒にいなかったから、ちょっとわからないんだけど。



「うん……
 エグゼさん……その握手の時、ちっとも痛がってるふうじゃなかった……」



 はいっ!?

 ジュンイチさん、ガチでスイカを握力だけでえぐり抜ける人なんだよ!? その握力で握られた上にツボまで押されて、痛がらないなんて……

 そんな僕の考えは正解だったらしい。うなずいて、ジュンイチさんは続ける。



「痛みに気づいていなかったんだよ。
 胃の話だけじゃない。手も……たぶん、全身の痛みを感じないはずだ」

〈それと胃ガンと、どう結びつくのさ?〉



 と、そんなジャックプライムの質問に、ジュンイチさんは先生に尋ねる。



「先生。
 エグゼのオッサンに……“コールドトミー”、施したろ?」

「…………はい」

「ちょっと待て。コールドトミーだと?」



 ジュンイチさんと先生のやり取りに、イクトさんも何か気づいたっぽい……んだけど、



「あの、コールドトミーって……何?」

「簡単に言うと、痛覚を“破壊する”手術だ」

「痛覚を……破壊?」



 僕の質問に対する答えに今度はフェイトが聞き返して、それに答える形でイクトさんが続ける。



「痛覚神経を電気刺激によって破壊する術式……成功すれば、他の身体機能を一切損なうことなく、痛覚だけを取り除くことが可能になる」

「けど……だ。
 痛みってのは身体の異常を知らせる重要なサインだ。それを生涯除去しちまうコールドトミーは、痛い思いをせずにすむっていうメリットに対し、デメリットがあまりにも大きすぎる」



 「だからオレの身体もちゃんと痛覚が残ってるんだしな」と付け加えて、ジュンイチさんが説明役を交代する。



「だから、コールドトミーは基本的に禁止医療。“あるひとつの目的”のために施術される場合に限ってのみ、許可されている」



 “あるひとつの目的”……今までの話から推測することは簡単だった。







〈末期ガン患者の、最期の苦痛を取り除いてあげるため……〉







 つぶやくように告げるジャックプライムに、ジュンイチさんがうなずく。



 なるほど、痛みを感じないエグゼさんの身体と『胃をやられている』って発言……この二つからジュンイチさんはコールドトミーと胃ガンのことを見抜いたのか……







 でも……これで、エグゼさんが犯人だってジュンイチさんが断言した理由はわかった。

 もう余命が残りわずかだと知らされて……覚悟が決まったんだ。

 どうせ死ぬなら、娘の命を奪ったヤツらも道連れにしてやる……そんな、覚悟が。

 自分が死ぬのに、娘を殺した連中は今ものうのうと生きている。そんなの認められるか、って……腹が決まってしまったんだ。

 一味全員の出所から2年も経った今になって復讐に走ったことも、これで説明がつく。



 そして……そんなエグゼさんの心の闇に、イマジンが付け込んだ、か……





















「とにかく、大学に戻ってエグゼ・ビッグファーストに張りつくぞ。
 ヤツが犯人なら、いずれイマジンも現れる」

「はい」



 病院を出て、ビークルモードにトランスフォームしたジャックプライムに乗り込んだイクトさんにフェイトが答える。

 続いて僕も乗り込んで……って、ジュンイチさん? 乗らないんですか?



「あー、オレはちょいと野暮用済ませていくから、先行っててくれ」

「野暮用……?」



 聞き返して……気づいた。



 そういえば、この辺ってジュンイチさんの今の家(当人曰く『アジトのひとつ』)の近くだっけ。



「家の方に何か用事?」

「あぁ。
 ここからなら、アジトから六課を経由して病院に戻れるからな――ヴィヴィオのために、メディアディスクを持ってってやらんと」



 ヴィヴィオのため……?



「ほら、良太郎達が来て、ヴィヴィオのヤツ、大はしゃぎだろ?
 で、他のライダー達の話も見てみたいって言い出して……手始めに『カブト』を見せてやろうと思ってな」



 『カブト』って……また(いい意味で)“濃い”のから入ったね。



「単に『電王』から一作さかのぼっただけだよ。
 平成ライダーの一発目ってことで『クウガ』にしてもよかったんだけど、『クウガは』平成ライダーの入門編にするには見る人間選ぶしな――具体的にはグロンギの残虐ファイトとか」



 …………確かに。



「とにかく、オレはヴィヴィオにディスク届けてから行くから、先行っててくれ。じゃあな♪」



 言って、ジュンイチさんは手を振りながら歩いていく……うん。



「かまってないように見えて、ちゃんとヴィヴィオの相手してあげてるんだよねー、あの人」

「何だかんだ言っても、ちゃんと“パパ”、やってるんだ……」



 僕の言葉にジャックプライムが同意して――



「それだけに、今回の事件については複雑な心境だろうな」



 …………あ。



 イクトさんのつぶやき――その意味するところはすぐにわかった。



「そうか……ジュンイチさんも、エグゼさんと同じ“親”なんですよね……
 私も、エリオやキャロが誰かに殺されたらと思うと……」



 フェイトの言ってることもそうだけど……それだけじゃない。



 ジュンイチさんは、フェイトの言う通りヴィヴィオの、そしてホクトの“親”だけど……同時に元“復讐者”でもある。

 娘を殺されて、“親”として“復讐者”となったエグゼさん……その心に一番共感しているのは、間違いなくジュンイチさんだ。



「守りたい者のいる者には、たまらん事件だな、今回は……」



 そんなイクトさんの言葉は……今の僕らの空気の中では、少しばかり重すぎた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ここだね」



 なのはさんが見上げたのは、首都の郊外、住宅街の近くにあるコンビニ。

 ここで働いてるのは、今回の事件のターゲットと思われている中で唯一まだ銃撃されていないロッド・グラントさん……の、奥さん。

 ロッドさん本人の今の勤め先が記録に残ってなかったものだから、奥さんから話を聞こうと思ってここに来たんだけど……



「コンビニか……
 なんか、お腹すいてきちゃったなぁ……」

「なんだ、犬っ子、お前もか?
 オレも腹ペコだぜ……おい、プリン買ってきてくれよ。オレ達着ぐるみ姿こんなカッコだからサイフ出せねぇしよ」

「あのねぇ……
 スバル、あたし達は仕事で来てんのよ……バカ鬼、あんたもよ」

「まぁまぁ、ティア。
 買い物もいいけど、まずは用事を済ませてからね」

「モモタロスも、買い物するならボクの身体使っていいから」



 やった! さすがなのはさんに良太郎さん! やっさしー!



 ともかく、あまり大勢で押しかけるのもアレなので、なのはさんとあたしとティア。それからヒューマンフォームのマスターコンボイさんにイマジンが出てきた時用(とプリンを買うため)に良太郎さんについたモモタロスさん。この面々で店内に入る。



「あの、すみません。
 時空管理局の者ですけど、グラントさんというのは……」

「あぁ、少々お待ちください。
 グラントさーん」



 なのはさんに声をかけられて、店長さんがグラントさんを呼びに行ってくれて……やってきたのは少し気が弱そうな女の人。



「えっと……ジェシカ・グラントさんですね?
 ご主人……ロッド・グラントさんにお会いしたいんですけど、どちらへ行けば……?」



 ……あれ?



 なんか、なのはさんが話を切り出したとたんに顔色が曇ったような……?



「あ、あの人……今仕事で、地方へ長期出張中なんです……」

「じゃあ、クラナガンにはいないんですね?」

「よかった……なら、すぐにでも襲われるってことはなさそうですね」



 ジェシカさんの答えに、なのはさんとティアが胸をなで下ろして……あれ?



 今、お店の外を通っていった人……

 少し、お店の中をのぞき込んで、ジェシカさんに手を振っていたあの人……まさか!?



「いたぁぁぁぁぁっ!」

「スバル!?」

「い、いいい、いました!
 ロッド・グラントさん! 今、お店の前を通り過ぎて!」

「何だと!?」

「ウソじゃねぇか!」



 なのはさんに答えたあたしの言葉に、マスターコンボイさんやモモタロスさんが駆け出して――



「待ってください!」



 って、ジェシカさん!?



「あの人に会わないで!
 あの人……あの人、昔のあの人じゃないんです!」

「何をバカなことを――」











「記憶がないんです!」











 ………………え?







 ジェシカさんの言葉に、あたし達が思わず止まる。



 えっと、それって……







「あの人……過去を一切忘れてるんです……何も覚えてないんです!」







 ……えぇぇぇぇぇっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「記憶喪失!?」

「ロッド・グラントが!?」



〈う、うん……〉



 思わずビッグコンボイと二人で声を上げる――対して、ウィンドウに映るなのはちゃんは鎮痛な面持ちでうなずいた。



〈『せっかく忘れてる辛い過去を思い出せないでくれ』って奥さんが言うもんだから、まだ本人には会ってないんだけど……〉

「わかった。
 なら、本人への直接の接触はちょう待ってもらうとして……今の職場は聞いてるんよね?」

〈うん。
 小さな工場で……今その前にいる。本人の姿も確認したよ〉

「うん。そのまま監視を続けとって。これからのことは追って指示するから」



 なのはちゃんがうなずいて、通信を切る――記憶喪失、か……



「道理で、彼のパーソナルデータに、現在の勤め先が登録されていなかったはずだ」

「うん……登録しようと照会すれば、前歴で強盗事件のことがわかってまう……
 記憶が戻らんようにするためにも、届出をするワケにはいかんかったんやね……」



 ビッグコンボイにうなずいて……ん? 今度はフェイトちゃんから通信?







〈はやて、ごめん!
 エグゼ・ビッグファーストが姿を消した!〉







 何やて!?



〈一手先を行かれた……張りつこうとしたとたんにこれだよ!
 私達はこのまま足取りを追ってみる!〉

「わかった!
 すぐになのはちゃん達に報せる――」

「待て、はやて。
 先に緊急配備だ」



 ビッグコンボイ……?



「姿を消してからさほど経っていないはずだ。オレ達に感づかれたことで行動を急いだとしても、まだ移動中である可能性が高い。
 上手くすれば、潜伏前に押さえられるかもしれない」

「よっしゃ、了解や!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジェシカさん」



 グラント夫妻の住んでるアパート――帰宅したジェシカさんがまた外に出てきたのを見計らって声をかける。



「昼間の……
 ここへは来ないでって言ったじゃ――」

「聞いてください。状況が変わりました。
 ……エグゼ・ビッグファーストさんが姿を消したんです」

「えぇっ!?」



 なのはさんの言葉に、ジェシカさんの顔色が変わる――とりあえずアパートの裏に回って、待っていたみんなで説得開始。



「お願いです、ジェシカさん」

「ご主人に会わせてはもらえないだろうか」

「イヤです」



 ティアとジェットガンナーがさっそく一蹴された。



「でも、今こうしている間にも、ロッドさんはエグゼさんに……エグゼさんに協力しているらしい怪物にも狙われているんです。
 そばにいて、守ってあげなくちゃ……」

「お願いです。主人には会わないでください」



 良太郎さんが説得するけど、やっぱりダメで――



「お願いですから……」







「私達の幸せを、壊さないで……!」







 …………え?

 あたし達が……幸せを……!?



「幸せを……壊す……!?」



 あたしと同じように動揺している良太郎さんに、ジェシカさんがうなずいた。



「あんな事件こそ起こしてしまいましたけど、あの人、根は本当にマジメな人なんです。
 だから私、あの人が刑期を終えて出てくまでの10年間、ずっと信じて待ってました。
 出てきてからあの人、言ってくれたんです。『また一からやり直そう』って……
 それからすぐ、記憶を失って……でも私、よかったと思った……」



 よ、よかったって……



「だって、事件のことを覚えていなければ、本当にまた一からやり直せる……」



「それ……本当に『やり直してる』って言えるんですか?」



 良太郎さん……?



「忘れちゃったのをいいことに、『何もなかった』ってウソついて……
 それで幸せになったって、そんなの、ウソの幸せなんじゃ……」







「ウソでもいいじゃないですか! 幸せなら!」







 良太郎さんの説得に、ジェシカさんが声を上げる。



 その目に……涙を浮かべて。



「裕福じゃなくてもいい。どこにでもある、普通の暮らし……それが昔からの私の夢だったんです。
 その夢を……今の私達の暮らしを……どうか、壊さないでください。
 お願いです。壊さないでください。お願いです……」

「で、でも……」

「壊さないでください。お願いです。壊さないでください……」



 なのはさんが声をかけようとしても、ジェシカさんは何度も何度も、泣きながら頭を下げるばかりで……











 結局、あたし達はそれ以上何も言えなかった。





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