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頂き物の小説
第20話「さぁ、貫くよ!」



 やっとだ……やっと幸運が巡ってきた……っ!

 運転する車の後部座席で眠るココアをミラー越しに見ながら、私は内心ほくそ笑んだ。

 コイツさえ……コイツえ引き渡せば、私は……!




 元々、我がワッフル家は聖王教会に仕え、奉仕してきた。

 当然、私達もだ。聖王様の導きを信じて、聖王様のために働いてきた。

 人を超え、神となられた聖王様の導きを信じて……







 それなのに、コイツが生まれた。



 他者の“力”をリスクなしに高めることができる……それがコイツの能力。

 だが……人をより高みへと導くなど、そんなことは神のみに……神たる聖王様だけに許された奇跡の御業だ。

 人の身で持つことが許される力ではない。それなのに……コイツは何の間違いか、その力を持って生まれてきてしまった。








 そう……間違いなんだ。人として許されない力を持ったコイツは人として許されない存在。間違った存在だ。








 事実、コイツは我がワッフル家に数限りない災いをもたらした。

 どこからかもれ伝わったコイツの能力の話を聞き、その力を狙った様々な組織が暗躍を始めたのだ。

 侵入、襲撃、果ては同時に動いてかち合った組織同士の抗争――あっという間に、ワッフル家の屋敷は荒れ果てた。



 すべてはコイツのせい。コイツがいたから……



 そうだ。コイツは災厄を呼ぶ者。聖王様に仕える者に仇なす、悪魔の子だ。

 だから殺そうと、その魂を解放し、聖王様のもとへと返そうとした――直前で気づかれ、姿をくらまされてしまったが。







 そんな時だった。



 コイツの力を、人々の役に立たせる研究がしたい。そのためにコイツを引き取りたいという者達が現れたのは。

 引き取った暁には、我がワッフル家の、聖王教会の一員としての布教、活動に多額の支援をしてもらえるという。もちろん、あわてて探したとも。



 そうしたら、コイツは帰ってきた。

 これはもう、聖王様のお導きに違いない。コイツはその力を人々の役に立たせる研究に使われ、我々は多額の援助を受け、聖王教会のための布教に務める……すべてがうまく回るじゃないか。



「……っと、ここか……」



 さぁ……取引を始めようか。











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第20話「さぁ、貫くよ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文くん」



 ミラーモンスターもどうにかしなくちゃならない僕らを残して、良太郎さん達がデンライナーで過去へ――とりあえず待機するしかない状態の僕らのところへ、その人はやってきた。



「リンディさん!?」



 突然の来訪に横馬が驚いてる――そう。現れたのは僕の保護者にして現在ジュンイチさんちで絶賛居座り強盗状態のリンディ・ハラオウンその人。



「久しぶりの出番なのにそういう紹介はないんじゃない!?」



 いや、だって実際そうなワケですし。あと出番の話は始めるとキリがないので自重してください。

 そもそも、なんで未だにジュンイチさんちにいるんですか。休暇だってとっくに使い果たしてるだろうに。



「あら、問題ないわ。
 ちゃんとあの家から出勤してるから」

「そこまで完璧に居座っておいて、“居座り強盗”呼ばわりを否定できるとでも?」

「……それはそうと、聞いたわよ、万蟲姫のこと」



 ………………ごまかした。まぁ、とりあえずそっちの話の方が重要だからノってあげますけど。



「ひょっとして、リンディさん……万蟲姫のことを心配して?」

「あら、立場はどうあれ、一時は同じ釜の飯を食べた相手を心配しちゃいけないかしら?」



 尋ねるあずささんにリンディさんが答える……ホント、フェイトといいこの人といい、こういうところ丸くなったよなぁ。

 良い傾向ではあるんだけど、ジュンイチさんの影響だと考えると余計なモノまで付随しそうでちょっと不安。『朱に交わると赤くなる・柾木ジュンイチに交わると黒くなる』って言うし。



「それで……彼女は?」

「今は、ついていたイマジン達が(敵味方両方)過去に跳んだショックで気を失ってます。
 医務室でシャマル先生とホーネットが看ていてくれてますから、大丈夫かと」



 イマジンについて、すなわち事件についての話なので、お仕事モードでリンディさんに答える。



「それで、過去には良太郎さん達とピータロス……元から電王がらみのみなさんで行ってもらいました。
 迅速な行動が求められる分、慣れてる面々だけの方がいいと思って……」



 ジークさん? 食堂車に居座ってるから必然的に連行ですけど何か?……どうせ役に立たないだろうけど。

 と――そんな僕の答えに、リンディさんは意外そうに目を丸くした。



「……って、え? ジュンイチくん、動いてないの?
 珍しいわね、今回みたいな件であの子が先陣切らずにおとなしくしてるなんて」

「ジュンイチさんは偶然外に出てたんで……さっき連絡を取ったんで、事情は把握してると思いますけど」

「あぁ、それならすぐにでも飛んで帰ってくるわね。
 あの子が“万蟲姫みたいな身の上の子”がこんなことになって、黙っていられるとは思えないし」



 『万蟲姫みたいな“身の上”』……?

 何か気になって、質問しようと口を開きかけた、その時だった。



「残念だが、柾木の帰還は遅れそうだ」



 そう口を開いたのはイクトさんだった……何ごとですか?



「つい今しがた、プッツリと気配が途絶えた。
 何があったかは知らんが、結界を展開したか気配を殺したか……いずれにせよ、オレ達に見つからないよう潜伏状態に入ったと見ていい」



 はぁ!?

 こんな時に一体何やってるの、あの人!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さぁ……まずは小手調べだ!」



 目の前にはジャッカルロードにガルドサンダー、カッシスワーム。そしてオレ達の時間で只今放映中の『仮面ライダーキバ』で大暴れしてくれたライオンファンガイア……良太郎達の時間ではもうとっくに“過去の人”らしいけど。

 とにかく、オレのお気に入り怪人四人衆が敵として立ちはだかってるワケで――宣言と同時、周囲に大量の火炎弾を生み出す。







炎弾丸フレア・ブリッド――散弾パレット!」







 大量に同時生成した火炎弾を一気にぶちまける、“炎弾丸フレア・ブリッド”のバリエーション。遠慮なく相手に向けてブッ放して――“予定通り”、連中の対応はものの見事にバラバラに分かれた。



 まず、ガルドサンダーは近くに停められた車のガラスに映り込んだ街の光景からミラーワールドに退避……元々現実空間では活動時間に制限があるしね。

 カッシスワームは高速機動で回避……なるほど、アレがクロックアップか。

 ライオンファンガイア……ぅわ、防御力任せでノーガードで耐えやがった。様子見の一発とはいえなんか屈辱。

 そしてジャッカルロード。コイツもお得意のスピードでかわすかと思ったら、右手をこちらの攻撃に向けてかざして――生み出した不可視の壁で火炎弾を止めた。防いだんじゃなく、火炎弾の動きそのものを止める……そんな感じで。



 ……ふむ。なるほど。



「フンッ、小手調べだとしても、ずいぶんとお粗末な攻撃だな」

「……あー、そーいやお前、しゃべれたっけな。
 お前自身は、『カブト』のTVシリーズで乃木怜治を名乗ってた個体とは別人なんだろうけどさ」



 こちらをあざ笑うカッシスワームに返しながら、策を練り上げる。

 とりあえず――二人については突破口、見えた!



「そんじゃ、次は本命、いってみようか!」



 言って、再び火炎弾を大量生成。オレと怪人達との間に配置する。



「フンッ、バカのひとつ覚えか!」

「おやおや、失礼しちゃうねー」



 ライオンファンガイアの嘲笑を鼻で笑い飛ばす。



「さっきと同じ手だと思ったら大間違い。
 何しろコイツぁ――」











「ただの目隠しブラインドだ♪」











 そう告げた時には、オレはすでにジャッカルロードの背後に回り込んでいた。相手の反応よりも早くその頭を両手で抱えて――







「えいっ」







 へし折った。

 てこの原理も使って、こう……べきっ、と。



 一気にジャッカルロードの身体から生命の気配が消え失せる――力の抜けたその身体を、無造作にその場に転がす。



「さすがの自称“神の御使い”も、首へし折られたらただの死体か」

『な…………っ!?』



 オレの言葉にようやく状況を認識したカッシスワームとライオンファンガイアがうめく――二人とも、あわててオレから距離を取る。



「バカな……!?
 オレ達ほどではないにしろ、ジャッカルロードもアンノウンの中ではかなりの上位種……」

「それを、いとも簡単に……!?」

「まー、タネを明かせばどうってことはないんだけどね」



 なんか、人語を話せる二人が驚いているので、説明してやることにする。



「さっきの“炎弾丸フレア・ブリッド”一発目……アレでだいたいアイツらアンノウンの防御の手の内は知れたんでね。
 その弱点をつけば、攻略はそれほど難しい話じゃなかったさ」

「弱点……!?」



 不思議そうにカッシスワームが聞き返してくる――そう、弱点だ。



 あの“炎弾丸フレア・ブリッド”一発目を、ジャッカルロードは右手をかざし、展開した防壁で受け止めた。それで確信したんだ。

 アイツらの防壁は“任意展開型”だ――って。



 オレの力場みたいな“常時展開型”なら、あんな発動の動作は必要ない。常に展開されっぱなしなんだから。

 だけど、アイツは防御に予備動作を要した――それはつまり、自分の意思で防壁を展開したってことだ。



 テレビの中の『アギト』ではやってるヤツとやってないヤツがいたから、映像だけでは防壁を貫かれて攻撃が通ってるのか防御できずに攻撃をくらってるのか、今ひとつ判断がつかなかったんだけど、実際目にしてよくわかった。

 かざした右手に“力”が集中、放出されて壁上に広がるのを感じた。これもまた、アイツが任意で防壁を展開したことを示す証拠になる。



「だから、任意展開であるが故の弱点をつかせてもらった。
 任意展開、すなわち本人の意志でオン・オフを切り替えているってことは、“本人が防御しようと思わなければ防壁は展開されない”ってことだ。
 そこまでわかれば攻略は簡単だ。再度の“炎弾丸フレア・ブリッド”に注意を向けさせて、そのスキに背後に回り込む。
 後は気づかれる前に仕留めるだけ――“無音暗殺サイレントキリング”の基本だぜ」



 悪いけど、元復讐鬼として、“無音暗殺サイレントキリング”を始め暗殺技術はガチバトルのスキルよりもみっちり修行してたんでね。

 暗殺の必要がなくなったからって、戦闘技能のひとつである以上腕をさびつかせた覚えはないのよ。



「さて、これで一体撃破だ。
 悪いけど、さっさとかかってきてくれない? 今回の話も長くなりそうだし、サクサク進めないと貴重なページがもったいねぇや。
 作者が下書きに使ってるC罫ルーズリーフ、売ってる店探すの大変なんだぞ(実話)」

「フンッ、メタな話題でこちらをけむに巻こうとしたって!」



 言い返して、今にも走り出そうと腰を落とすカッシスワームだけど――



「あー、うん、ゴメン」

「って、何をいきなり謝っている!?」



 いや、だってねぇ……



「カッシスワーム……少なくともお前については“もう詰んでるから”

「はぁ!?」

「オプティックハイド……“解除”



 答える代わりに、“すでに発動していた”魔法を解除して――







 カッシスワームを閉じ込めた、炎の弾丸がすき間なく敷き詰められた完全包囲網が姿を現すワケですよ。







「な――――っ!?」

「今の説明、ただ親切心から説明してやってるとでも思ったのかよ?
 お前らが聞き入っている間に、きっちり“仕込み”をさせてもらってたんだよ」



 今の声、驚きの声って言うよりは実質悲鳴だよなー……そんなことを考えながら、カッシスワームに答える。



「ワームの特色はクロックアップと擬態能力――それと次点に昆虫ベースならではの防御力の高さ。
 それらの脅威度がパネェから怖いワケだけどさ……逆に言えば、“そのくらいしか自慢できるものがない”ってことでもあるんだよね。
 なら、こっちはそれらに狙いを絞って対策を立てるまでさ。
 で、オレが用意したのが、“それ”だ」



 すなわち――“かわしきれないほどの高密度”で、“さばききれないほどに大量”で、“耐え切れないほどの大火力”を叩き込めばいい。

 一発一発は大したことのない“炎弾丸フレア・ブリッド”でも、この数を同時に叩き込めばどうなるか――それはすでに実証済みっ!



「特徴的“過ぎる”――それがお前らの弱点だ。
 特色がハッキリしすぎているから、その正反対のところに弱点を見出し、つけ入るのも容易いってワケだ」



 言って、オレは右手を頭上へとかざして――



「まっ、待てっ!」



 んー、何? 命乞い?



「お前、本当に撃つつもりか!?」

「当たり前だろ」

「本当にそれでいいのか!?
 ここにいるのが――」











「私でもですか!?」











 その声に、改めて見る――と、そこにいたのはカッシスワームじゃなかった。



 ギンガだ。

 カッシスワームがいたはずの場所に、アイツじゃなくてギンガがいる。



 なので――







見様みよう見真似みまね……」











魔空まくう包囲弾」











「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」







 我が心の師匠、ピッコロさんの必殺技を叩き込んだ。



 巻き起こった爆炎が少しずつ晴れていき――



「ば、バカ、な……!?」



 そこにいた、黒こげのギンガの像がぼやけて――カッシスワームになった。

 うん、やっぱりコイツの擬態だったか。



「バカはてめぇだ。
 オレぁてめぇの擬態能力のことを知ってるんだぞ――その状況で、お前が消えて、代わりにギンガが現れた。
 どー考えても、そのギンガはお前の化けたニセモノだろうが」

「だ、だとしても、ためらいなく撃つか、普通……!?」



 うめくように傍らからツッコんでくるライオンファイガイアだけど……フッ、それこそ『バカな』だ。



「常日頃から修行でこんがり焼いてんのに、今さらためらう理由がどこにあるっ!?」

「日頃から、“コレ”なのか……!?」



 うめいて、地に倒れ――カッシスワーム爆散。はい、二人目撃破〜。



「さて……ガルドサンダーは鏡ン中に引っ込んだままだし、次はお前か? ライオンファンガイアさんよ」

「どうやらそうなりそうだな。
 ガルドサンダー。ここはもういい。お前はお前の仕事をしろ」



 オレに答えたライオンファンガイアの言葉に、場に立ち込めていた殺気がひとつ消えた……ガルドサンダーのヤツ、ホントに離脱しやがった。

 つまり――



「ここ最近の、ミラーモンスターの仕業と思われる事件は、みんなアイツの仕業ってワケか」

「まぁな。
 アイツには、仲間のミラーモンスターの食糧確保という役目があるからな」

「ぅわ、ガルドサンダーに糧食係やらせてんの? もったいねー。
 ンな雑用、ゲルニュートとかガゼール系とかレイドラグーンとかにやらせとけよ。アイツら数だけはいるんだからさ」

「それで貴様らに片っ端から撃破されては意味がなかろう」



 なるほど、それはごもっとも。

 だから、そこそこ実力のあるガルドサンダーを抜擢したワケか。



 となると――



「アイツを倒せば、一時的にせよお前らのトコのミラーモンスターどもは飢えに苦しむワケか」

「そういうことだ。
 もっとも――そのためには、まずはこのオレを倒す必要があるんだがな」



 言って、改めてライオンファンガイアは身がまえて、



「さぁ、どっからでもかかってこい!
 オレに、カッシスワームのような攻略の糸口があると言うのならな!」



 ふむ……『どっからでも』ねぇ。



「うい、りょーかい」



 言って、オレはライオンファンガイアへと一歩を踏み出して――











「それでは」



 瞬時に踏み込んで、腹に向けて拳を一発。



「が……!?」



 反応すらできず、ライオンファンガイアの身体が「く」の字に折れ曲がって――











「お言葉に」



 その身体が舞い踊る――いや、オレのラッシュを全弾クリーンでもらってるだけなんだけど。







 そして――











「甘えてっ!」



 真上に蹴り上げて――瞬時に追いつき、オーバーヘッドキックの要領で蹴り落とすっ!











 轟音と共にライオンファンガイアが地面に墜落――いや、激突する。後を追って着地すると、“装重甲メタル・ブレスト”を着装する。



「『カッシスワームのような攻略の糸口があるなら』か……
 あぁ、そうだ。お前の言う通りだよ」



 身を起こすライオンファンガイアに言いながら、“力”を高める。



「ぶっちゃけ、『キバ』の映像だけじゃ、お前の弱点らしい弱点、見つからなかったんだよね」



 まぁ、せいぜい――さっきジャッカルロードを仕留めた時にオレの動きについてこれないってわかったくらいかな。







「だから――」







 と、ゆーワケで――高めた“力”を解放しながら突撃。ブッ放した“龍翼の轟炎ウィング・ギガフレア”がライオンファンガイアを直撃して、







「お前は」







 直撃を受けてのけぞるライオンファンガイアとの距離が零に詰まる――間髪入れずに“號拳龍炎ストライク・ギガフレア”!



 そして――











死ぬまで殺すオーバーキル、いきます!











 最後の仕上げ――“螺旋龍炎スパイラル・ギガフレア”!



「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」



 悲鳴と共にライオンファンガイアが地面を転がる――さすがにタフだな。オレの“ギガフレア三連”をまともにくらって、まだ生きてやがる。

 ただ、ヤツの固い表皮にヒビが入ったのが手応えでわかった。次の一撃で……仕留められる。



「ま、待て!」



 ヤツ自身もそのことを悟ったんだろう。尻餅をついたそのままで、歩いて距離を詰めていくオレを呼び止める。



「じ、情報が欲しいんじゃないのか、オレ達の!?
 何なら、話してやってもいいんだぞ!?」



 ふむ、情報ねえ……



「……そいつぁ魅力的だな」

「フッ、交渉成立か?」



 オレのつぶやきを聞き、ライオンファンガイアが安堵の息と共に右手を差し出してくる。



 助け起こせってか……ため息をついて、オレも右手を差し出して――



「さすが、ネガタロスが『自分達に近い』と評するだけのことはある。
 話がわか……る、ぜ……」



 ライオンファンガイアの言葉はかすれて消えた。



 当然だ。オレの右手はアイツの手を取らず――そのままスルーして、ヤツの眼前に突きつけられたんだから。



「誰が、『その話に乗る』っつった?」



 目の前の手のひら、そしてオレの言葉が持つ“意味”に気づいたんだろう。ライオンファンガイアが青ざめて――











 オレの放った炎の奔流が、ライオンファンガイアを飲み込み、焼き尽くした。











「敵が自分の命かわいさに売り渡してくるような苦し紛れの情報に、どれだけの価値があるっていうんだ?」



 ライオンファンガイアの“いた”場所に向けてそう吐き捨てる。



「それに、お前らを鉄砲玉に仕立て上げてオレの手の内を探ろうとしたバカへの仕置きもあるからな。情報聞いてるヒマなんぞありゃしねぇよ」



 オレの言葉が“届いた”んだろう。そいつは頭上からゆっくりとオレに向けて降下してきた。



 なので――オレも改めて告げる。







「なぁ、そう思うだろ?――」











「“Xカイ”」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……よく来てくれましたね。待っていましたよ」



 待ち合わせの場所にはすでに先方が待っていた。

 フードを被ったお供を何人も連れたひとりの男――“彼”が、ココアの力を必要として、援助を申し出てくれた取引の相手だ。



 後はもう、ココアを引き渡すだけ――妻と二人で、“彼”と改めて対面する。



「彼女は?」

「車の中だ。
 今は眠っているが……まぁ、あと一時間もすれば目を覚ますだろう」

「そうですか……それはよかった」



 答える私の言葉に、“彼”はニッコリと笑って……



「おかげで……」







「楽に、あなた達“だけ”を殺せます」







 ――――なっ!?

 疑問を口にするヒマもなかった。“彼”が右手を挙げた瞬間――私のとなりで真っ赤な何かが吹き上がった。







 そう――妻の首から、真っ赤な何かが。







 力を失い、妻の身体が崩れ落ちる――その向こうに、“彼”のお供、フードをかぶった人物のひとりが立っていた。まさか、彼が……!?



「これは……どういうことですか!?」

「どうもこうも……最初から“こういう予定”だった、ということですよ」



 声を上げる私に、“彼”は笑いながら答える。



「なぜこの私が、実の娘を売り渡すような下衆と取引などしなければならないんですか?
 あなた達への謝礼など、地獄への片道切符で十分です」



 今になってようやく悟る――『だまされた』と。



「あぁ、安心してください。あなた達の死は“事故死”という形にさせていただきますので。
 今はまだ、私達の存在が世に知られるワケにはいきませんからね――特に、あの憎き機動六課にはね」



 “彼”が何か話しているが、聞くつもりなどなかった。きびすを返して走り出s







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……話の途中で、逃げ出さないでもらえますか?」



 まったく……おかげで“うっかり”頭を撃ち抜いてしまったじゃないですか。

 しかし、やはりだまされたと知った時の人の絶望感というものはたまらないですね……と、悦に浸るのはここまでにしましょうか。



「お前達、死体を持ってきなさい。
 彼らの車に乗せて、どこか適当な建物の壁にでもぶつけて事故を装うんです。
 あぁ、思い切り叩きつけなければダメですよ。殺した傷がわからなくなるくらい、死体をグチャグチャにしなければならないんですから」



 言って、私は彼らの車へと向かう。

 さて、ココアとかいう小娘は……あぁ、いましたね。

 後部座席でスヤスヤとお休み中……これから自分がどうなるかも知らないで。

 苦笑しながら、私は小娘に向けて手を伸ばして……ん?



 何でしょう? 彼女の身体から、砂が……?



 砂はすぐさま集まり、人の形を作り上げ――











「おいおい、何の騒ぎだ? コイツぁ」











 ほほぉ……これは興味深い。

 砂が、ネコの怪人となりましたか。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 いや……マジで何の騒ぎだ、コレ?

 六課の連中をやりすごして、なんとか過去に跳んだはいいが……何か、ややこしいタイミングで出てきちまったみたいだな。

 娘っ子の両親は殺されてるし、何か変なヤツらはいるし……



「何者ですか、あなたは?」



 連中のリーダー格らしい男がそう聞いてくる――何だろう。ていねいな物言いのクセに、何かカンに障りやがる。



「気にすんな。
 通りすがりの、ただのイマジンだよ」

「イマジン……?」



 相手が顔をしかめてるが、かまうコトぁねぇ。オレはオレの役目を果たすまでだ――と、いうワケで、グースカ寝てやがる娘っ子を見る。



「わかんねぇなら気にするな。
 オレはコイツを殺しに来ただけ――」







「そうはいきませんね」







 …………あん?



「彼女の“力”は我々のもとで有効に使わせていただく予定なんですから。
 渡してもらいましょうか」

「ハッ、冗談じゃねぇ。
 何が悲しくて、殺しに来た獲物を『はい、どうぞ』なんてくれてやらなけりゃならねぇんだ?」

「そうですか……
 ならば、あなたもここで死ぬしかありませんね」

「上等。
 殺れるものなら殺ってみやがれ」



 互いに宣戦布告、オレと男、そしてその取り巻きの間でイイ感じに殺意がふくれ上がって――





















「ちょおっと待ったぁっ!」





















 ――――っ!?



 いきなりの声に、全員の注目が集まる――娘っ子の身体から砂が吹き出して、







「ココアちゃんに手を出すなぁっ!」

「なんでボクまでぇっ!?」







 未来で娘っ子についてやがったイマジンども……追いかけてきやがったか!



 だがな――



「――って、アレ?」



 あー、やっぱり状況わかってねぇか。オレはともかく、男どもの方を見て、ハチっ子が不思議そうに首をかしげてやがる。



「やれやれ、また出てきましたか」



 それを見て、男がため息まじりにかぶりを振る――あー、コレ、間違いなくオレの仲間だと思われてんだろうなぁ。



「もう面倒です。
 三人とも……死になさい」



 男の言葉に、取り巻きのマント野郎どもの殺気がふくれ上がる――やっぱりオレ達十把じっぱ一絡ひとからげかよっ!?



「え? 何ナニ?」

「敵だよ!」



 混乱してワタワタしてやがる子犬ヤローに答える。



「コイツら、娘っ子の能力に目ェつけて、利用するためにさらおうとしてんだよ!」

『えぇっ!?』



 簡単に説明してやったオレの言葉に、ガキどもが声を上げる。



 まぁ、コイツらにとっちゃ、娘っ子を殺そうっていうオレも、さらって利用しようっていうコイツらも、どっちも敵ってことだからn――



「ってことは……」











「ネコさんが、ココアちゃんを助けてくれたの!?」











「………………は?」



 ハチっ子の言葉に目がテンになる……今何つった、コイツ?



「あぁ、そうか!
 ココアちゃんをアイツらに渡さないように、そのために過去に来たんだね!?」

「ハァ!?」



 今度は子犬ヤローまでアホぬかし始めた。



「お前ら、何バカなこと言い出してやがる!?
 オレはコイツを殺すためにだなぁ――」

「殺そうとしてる子を守る子なんていないでしょ?」

「ぐ……っ!」



 あっさり答えるハチっ子の言葉に納得……できるかボケっ!

 そんなの時と場合によるだろうがっ! 殺すつもりの相手が、自分の手の届かないところに連れて行かれようとしていたら、とりあえず守るに決まってるだろ! 行方不明にでもなられたら、どーやって殺せって言うんだよ!?



「だいたいなぁ、オレは未来でお前らをブッ飛ばした上でこっちの時間に……」

「あーっ! そうか!
 アレってもしかして、わたし達を巻き込まないために、ひとりで戦おうとして、そのためにわざと!?」

「え? 何?」

「だから、敵のフリして、わたし達から離れて……そうやって、わたし達のいないところで、ひとりでココアちゃんを守ろうとしてくれたんだよ!
 もー、ネコさんってば、そんなことしないで、素直にわたし達を頼ってくれればよかったのに」



 ぎゃあぁぁぁぁぁっ! もはや明確に示した敵対行動すら好意的に受けとめられてるーっ!?



 あー、くそっ、いったいどう言えばコイツらは納得するんだ!?



 オレはお前らと馴れ合うつもりなんかないんだよ! オレは娘っ子を殺したいんだ――











「……この私を無視して、いい度胸ですね……」











 あ、正体不明のオッサン達のこと忘れてた。



「フンッ、だ! お前なんか相手にしててもしょうがないもん! 無視するに決まってるでしょ!
 お前達なんかに、ココアちゃんは渡さないんだから!」



 言って、ハチっ子は娘っ子を肩を貸すように支え起こして――





















「戦略的てったぁ〜〜〜〜いっ!」





















 って、逃げんのかよ!? あんだけ勇ましいコト言っといて!



「ほら、ネコさんも何してんの!? 行くよ!」



 え? あ、おいっ!? 首根っこつかむなぁぁぁぁぁっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……逃がしませんよ」



 突如現れた乱入者はターゲットと共に逃走――そうはいきませんよ。

 その後を追おうと、私達が踏み出し――







 そんな私達の前を、駆け抜けた者がいた。







 勢いを殺しきれず、地をすべりながらもなんとか停止。彼はゆっくりと立ち上がる。



「……姫が心配になって来てみれば……」







「何をしている? 貴様ら」







 ほほぅ、あの“蝿蜘苑ようちえん”とかいうグループを率いている、“貫撃”のホーネットですか。



「質問に答えろ!
 あそこに倒れているのは、姫のご両親だな!?
 貴様……姫に何をした!?」

「何もしていませんよ。
 する前に、逃げられてしまいましたから」



 答えて、肩をすくめる。



「今からなら、追いつけるんじゃないですか?
 まぁ、ここで私達の相手をするというなら、話は別ですが」

「くっ…………!」



 私の言葉に歯がみして、ホーネットは現れた時とは打って変わって音もなく姿を消す――さて。



「イマジン、とかいいましたか……
 少し、調べてみましょうか」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なるほどな。
 これが、あのチビスケの身に何が起きたか、その真相ってワケだ」



 うん……

 モモタロスの言葉にうなずく――まさか、事故死だと思われていたココアちゃんのご両親が殺されていたなんて……



 デンライナーで過去に来てみれば、何だかものすごく厄介な空気。物陰に隠れて様子を見ていたら……

 ちなみに、今回過去に跳んだのはボクとモモタロス達――要するに、元祖デンライナー署のメンバーだ。恭文くん達は『いつ、どこに現れるかわからないミラーモンスターに対抗するにはとにかく人手がいるから』ってことで現代に残ってる。



「良太郎……大丈夫か?」

「う、うん……」



 キンタロスの問いにうなずいて――自分が拳を強く握りしめていたことにようやく気づいた。

 今までイマジンが起こしてきた事件でも人は何人も死んでるけど、その現場に居合わせたことなんてほとんどなかったし……うん、緊張してたみたいだ。

 あっという間の出来事だったから、何もできなかったけど……正直、あの二人がもっと追い詰められるような流れになっていたら、助けに飛び出していたと思う。ここが過去の時間だとわかっていたとしても。



 きっとデカ長には怒られたと思うけど……こればっかりはどうしても、ね。



「でもさ……おかしくない?
 ハチさん達、みんなこの時間につながってたんでしょ?
 なのに、ココアちゃん、ずっと寝たままだよ? なのにどうして、イマジンが三人も同じ時間につながるほど強い印象になってるの?
 ホーネットが秘密にしてるってことは、何があったか知らないはずだし……」

「違うよ、リュウタ。
 “何があったか知らないからこそ”、印象に残ってたんじゃないかな……いったい何があったのか、ってね」



 首をかしげるリュウタロスにウラタロスが答える……なるほど。ココアちゃんの中の、「何があったのか知りたい」って想いが、メープル達みんなをこの時間に導いたのか……



 それにしても……どうしよう、コレ?



「せやな。
 何か、思った以上にややこしいことになっとるみたいやしなぁ」



 キンタロスがうんうんとうなずきながら言う――おかげで、成り行きとはいえあのネコのイマジンまでがココアちゃんを守るハメになっちゃってるしね。



「とにかく、メープル達を探そうか。
 あのネコイマジンのことはその時考えるとして、とにかく今はあの子達の先行でゴチャゴチャしちゃってるボクらの体制を整えることを考えようよ」



 うん、そうだね……とりあえず、ウラタロスの言う通りメープル達と合流しようか。

 あ……その前に一度デンライナーに戻って、恭文くん達へも連絡しとかないと……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



〈……と、いうワケで……〉



 ……まぢですか。

 デンライナー越しに入った良太郎さんからの連絡――その内容に思わず頭を抱える。

 まさか、あのネコイマジンを追いかけていった先の過去が、そんなゴチャゴチャしたことになっていたとは。



 けど……うん、ひとつ納得した。

 どうして、ホーネットがあぁも頑なに過去でのことを万蟲姫に黙っているように念押ししたのか。



「万蟲姫が眠ったままなのが幸いしたな。
 こんな話、彼女の前で軽々しくできるものじゃない」



 そう……イクトさんの言う通りだ。

 事故死だと言われていたはずの両親が実は殺されていた。それだけでも大事なのに、さらにそれが彼女を売り渡そうとしたその末の出来事だった……なんて、どんな顔して伝えればいいのさ?



「笑えばいいと思うよ……なんて、ネタかませる話題じゃないもんねぇ……」



 ちっとも笑えないジョークと共にアリシアもため息。ホント、ヤな話題だよね。



「実の娘を売り渡してお金をもらおうだなんて……」

「まったく、とんでもない親もいたもんね」



 信じられない、といった様子のスバルに吐き捨てるティアナ――他のみんなも、一様に渋い顔してる。

 まぁ、ウチはただでさえ家族について何かしら重たい事情を抱えてる子ばっかりだしなぁ。そういう僕も……



《それで良太郎さん。メープル達はいったいどちらへ?》



 ……っと、いけないいけない。

 アルトの言葉に、思考を目の前の現状に引き戻す。

 そうだ、今は目の前の事件に集中しなくちゃ。



〈うん、大丈夫。
 モモタロスの鼻に引っかかって、今デンライナーでそっちに向かってる〉



 デンライナーで、ですか……また大掛かりな。



〈この連絡のために一度戻ってきたからね。
 だったら、話してる間にも追いかけていればいい……ってことで〉



 あぁ、なるほど。



「とにかく、十分に気をつけてくださいね。
 万蟲姫の両親を殺した犯人が、追いかけてこないとも限りませんし」



 そうしめくくって、通信を終える……さて、僕らはミラーモンスター対策で引き続き待機、と……







「……何なんですか、これ……」







 フェイト……?



「なんで、こんなことになっちゃってるんですか……
 どうして、万蟲姫ばかりがこんな目に!?」



 強くフェイトが声を荒らげる……万蟲姫の両親の死の真相に、よほど腹に据えかねたものがあったらしい。



「実の両親に殺されかけて、家を出るハメになって……また向き合おうと決めたのに、帰ったとたんにコレですか!?」

「ちょっ、フェイト、落ちついて……」

「その上、両親は殺されてしまって、もう二度と向き合うことはできない……なんで、彼女だけがこんな目にあわなきゃならないんですか!?
 こんなの……万蟲姫がかわいそうすぎるじゃないですか!」



 僕が止めるのも振り切って、フェイトがそう叫んで――











「……どういうことじゃ?」











 ………………え?



「わらわの両親は、事故死だったのでは……?」



 ま、万蟲姫!? 気がついたの!?

 あわてて振り向いた先には、今まさにやってきたところなんだろう、シャマル先生とホーネットに付き添われた万蟲姫がいた。

 つか……い、今の、聞かれた!?



「わらわの両親が……殺された……!?」



 ふ、フェイト〜っ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――――いた!」



 デンライナーを降りて、先頭を走るモモタロスが声を上げる――うん、ボクも見つけた。



 メープルと子犬イマジン、それから……ネコのイマジンだ。公園のベンチに、眠ったままのココアちゃんを寝かせてる。



「見つけたぜ、お前ら!」

「あ、電王のお兄ちゃん達!」

「げっ……」



 モモタロスの上げた声にメープルがこっちに気づいて、ネコのイマジンは渋い顔――まぁ、本人的にはまだまだ万蟲姫のことを殺すつもりのはずだしね。



「へっ、残念だったな。虫チビのことを殺せなくてよぉ」



 当然、そのことを知っているボクらはネコのイマジンに対して臨戦態勢。モモタロスが言い放つけど、







『ダメ――っ!』







 あー、やっぱりメープルと子犬イマジンに止められた。



「大丈夫だよ! ネコさんもいいイマジンなんだから!」

「敵のフリして過去に跳んで、ココアちゃんを守ってくれたんだよ!」



 …………ねぇ。



「言うな……っ!
 もう何言っても聞いてくれねぇんだよ、コイツら……っ!」



 答えるネコイマジンは涙目。よっぽどがんばって説得したんだろうなぁ……



 でも……うん。



「みんな。
 ボクも……悪いイマジンじゃないと思う」

「良太郎!?」

「いきなり何言い出すの!?」



 リュウタロスやウラタロスが驚くけど……でも、ちょっと考えてみて。



「単にココアちゃんを殺すだけなら、今のままでも十分なんじゃないかな?――最初みたいに味方のフリをしておいて、スキを突いて襲えばいいんだから」

「あー、そういえば、せやな」

「でも、カン違いしてるメープル達の誤解をちゃんと解いて、その上で殺そうとしてる……
 確かにココアちゃんを殺そうとしてるし、言うことやること乱暴だけど……根っこのところはすごくマジメなんだよ。
 悪いヤツだからとか、そういうことじゃなくて、ネガショッカーの一員として、自分の役目を忠実に果たそうとしてるだけ……“敵”かもしれないけど、“悪いイマジン”ってワケじゃ、ないと思うんだ」

「電王、お前……?」



 どういうつもりだ――って、言いたいんだろうな……疑わしげな視線を向けてくるネコイマジンだけど、でも、本当にそう思うし。



「へっ、ますます残念だったな。
 良太郎はこうなったら退かねぇからな。ワリぃがお前の“いいヤツ”扱いはこれで確定だぜ?」

「やれやれ、同情するよ。
 ボクの時も似たようなものだったからね……ボクのウソを、ムダに好意的に解釈されてさ」



 えっと……モモタロスもウラタロスも、そんなに変なコト言ってるかな、ボク?



「いや、それでえぇ。
 良太郎はそれでえぇんや」

「だからボクら、ここにいるんだもんね〜♪」



 キンタロス、リュウタロス……うん、改めてそう言われると、何か照れくさい。



「とにかく、今はデンライナーに戻ろう。
 ココアちゃんは後から来るホーネットさんに任せておけばいいし……」











「残念ながら、そうはいきませんよ」











 ――――――っ!?

 その声に振り向くと、ココアちゃんの両親を殺した一団――追いつかれた!?



「当然ですよ。
 私達の狙いは、そちらのお嬢さんなのですから」



 言って、リーダー格の男が指さしたのはもちろんココアちゃん。

 やるしか、ない……? いや、でも……



「おい……良太郎。
 どーすんだよ? ここは“過去”なんだぜ?」

「うん……」



 モモタロスの言葉にうなずく――そう。それが一番の問題。

 いつもみたいに、跳んできたイマジンと戦うのとはワケが違う。相手はこの時間の人達。もし、ボクらが戦って、この人達がどうにかなって……そのせいで、時の運行に支障が出たら……



 ひとまず取り出すだけ取り出したライダーパスを握りしめる。どうしたら……







「そんなこと、させないんだから!」







 って、メープル!?

 突然、ボクの手の中からライダーパスが消えた。一瞬遅れて、メープルがボクの手から取り上げたんだと気づく。



「おい、何のつもりだ!?」

「電王のお兄ちゃん達が戦わないなら、わたしが戦うもんっ!」



 モモタロスに答えて、メープルは光球になって、眠っているココアちゃんに――ついた。

 すぐにココアちゃん……についたメープルががばっ!と跳ね起きる。ライダーパスをかまえて――腰にベルトが巻かれる。

 黄色の――ボクらの変身で言えばキンタロスと変身する時に押すボタンを押し込んで、











「変身っ!」



 パスを、ベルトにセタッチする。











《Sting Form》



 ベルトが告げて、ココアちゃんの姿が変わる――ボクが変身した時には黒色の部分が紫色になってるプラットフォームに変身する。なお、変身したら背が伸びていたエリオくんやキャロちゃんと違って、体格は万蟲姫のまま。

 その上にアックスフォームのアーマーが装着される。ここまではボクとキンタロスがアックスフォームになる時と同じ――だけど、ここからが違った。



 ついてるイマジンが違ってくれば、当然電仮面も違ってくるから――ハチの上体を象ったオブジェが顔面に回り込んでくると、組み変わって電仮面に。ハチの羽を耳飾りにしたような仮面が固定される。



「電王の……新しいフォーム……!?」



 思わず、そんなつぶやきをもらす……けど、







「違うよ」







 って、メープル……?

 変身を遂げたメープルがそんなことを言い出した。電王に変身したのに、電王とは『違う』って……?



「ココアちゃんが大好きな恭文くん。その恭文くんが尊敬してる電王……そんなスゴイ人の名前なんて、もったいなくて名乗れないよ。
 だから、“電王・スティングフォーム”じゃなくて……ただの“スティング”」



 言って、メープルはその場でクルリと一回転ターン。男達を指さして、











「仮面ライダースティング……さぁ、貫くよ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「通報があったのって、この辺だよね!?」

「そのはずだけど……
 つかさ、そっちは!?」

〈それらしい人は……
 サーチにも引っかからないし……〉



 私と一緒のかがみんに通信の向こうのつかさが答える。ホントに、急がないと……



 万蟲姫のことは気になったけど、だからってミラーモンスターの方も放っておけない。交代でパトロールに出ていて――私達カイザーズの番の時にそれっぽい通報があった。

 急いで通報のあった場所に集合したのがたった今……だけど、状況はかなり悪い。



 通報は屋外から……つまり、通報してきた人は、逃げ回りながら通報してきたんだと思う。

 けど、それじゃあ相手の居場所なんてそう簡単にはわからないし、ミラーモンスターが出入りできるような場所だってそこら中にある。



 最悪、通報してきた人はもう……











「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」











 ――――って!?



〈泉さん!〉

「うん、聞こえた!」



 みゆきさんに答えて、かがみと二人で走り出す。

 悲鳴は――こっちから! 割と近く!



「この向こうよ!」



 かがみが言いながら、角を曲がって……そこに、いた。



 通報者らしい、怯えた男性。

 ミラーモンスターの……ガルドサンダーだね、アレは。



 そして――











 ガルドサンダーの前に立ちふさがる、ひとりの仮面ライダー。











 ――――――って、アレは!?

 漆黒のボディスーツ、西洋の鎧をイメージさせるアーマーにサーベル状の剣……間違いない。



「仮面ライダー……ナイト!?」

「また新しいライダー!?」



 驚く私にかがみも声を上げる――うん。また新しいライダー。

 っていうか……クウガ、イクサときて、今度はナイト!? どうなってるの!? つか何、この統一性のなさ!?



 一方、そのナイトの方はといえば、私達にはおかまいなし。手にした剣――ダークバイザーを振りかざしてガルドサンダーに斬りかかる。



 対して、ガルドサンダーは触手にもなる尾羽で応戦。振り回してナイトの足を止めると近くのカーブミラーからミラーワールドへと逃げ込んでいった。



「逃がすもんか!」



 そしてナイトもその後を追ってミラーワールドへ。かくて私達だけがその場に取り残されて……あれ?



「えっと……どうしよう?」

「どうしよう、って言われても……」



 遅れて合流してきたつかさへの答えに困る――ミラーワールドは関係者以外完全お断りの絶対不可侵エリア。『龍騎』のライダーへの変身に必要なカードデッキがなきゃ、ライダーか否かに関わらず見ることすらできない。

 で、私達の手元にそのカードデッキはないワケで……







「……襲われた人を保護して……帰ろっか?」







 うん、本気でそのくらいしかできないんだよね、今の私達って。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ふぅ、危ない危ない。

 “この世界の六課”の人達に出くわしちゃった時は焦ったけど、なんとかミラーワールドの中に戦いの場を移せた。



 ここならあの人達に正体がバレる心配もない。思い切り戦って……倒せる!







《SWORD VENT》







 ベルトのバックル部分に収まってるカードデッキからカードを引き抜くと、ダークバイザーの唾飾りにもなっているカードリーダーにセット。

 カードが読み込まれると、ナイトの専用武器のひとつ、ウィングランサーが飛んできた。

 それをキャッチして、突撃――ウィングランサーとダークバイザーの二刀流で、ガルドサンダーを相手に突き、払い、斬る。

 対して、ガルドサンダーもよく防ぐ……それならっ!







《TRICK VENT》







 また別のカードを使う。と――こっちは三人に分身。それぞれが独自の動きでガルドサンダーに襲いかかる。

 さすがに三対一では防ぎきれなかった。ガルドサンダーは打ちのめされて、地面を転がる。

 それじゃあ、こっちもひとりに戻って――とどめ、いきます!











《FINAL VENT》











 最強技の発動を示すカードを使う。と、そこに飛来するのはナイトの身の丈くらい大きなコウモリ。

 ナイトと契約しているミラーモンスター、ダークウィング。背中に張りつくとガルドサンダーの頭上へと運んでくれる。

 錐もみ回転を始めた全身をダークウィングの翼が包み込んで、まるでドリルのようにガルドサンダーへと突っ込んでいく。



 これがナイトのファイナルベント――











「飛翔斬!」











 咆哮と共に直撃。一撃でガルドサンダーはこっぱみじんに吹き飛んだ。

 よし……撃破。

 じゃあ、これ以上六課のみんなに出くわさない内に早く帰らなくちゃ。

 みんな、なんだかんだでけっこう鋭いからなぁ、変身を解かなくても、問い詰められたら正体を見抜かれかねないし……

 ……あ、でも、蒼凪恭文って人には会ってみたいかも。



 だって……











 “この時間のフェイトさん”の恋人候補だっていう話だしね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ま、万蟲姫……」



 マズイ……バレた。



「浮気が?」

「違うっ!」



 いらんボケをかましたいぶきの頭を引っぱたく。



 まぁ、いぶきも何がバレたのかはわかってるはず。その上で場が重くならないようにボケてくれたんだろうけど……うん、ゴメン。完全に不発だわ、それ。

 何しろ、問題は万蟲姫のご両親が事故死じゃなく、実は殺されていたこと、それを当人にはひた隠しにしていたという事実――ちょっとやそっとのボケで和める話じゃない。



「……テスタロッサ……」

「え、えっとね、その、これは……」



 特に、大声で暴露してしまったフェイトにとっては大問題。万蟲姫に付き添っていたホーネットの冷たい視線を浴びて、ワタワタしながらなんとかごまかそうとしてるけど、残念ながら望み薄――











「もうよい」











 って、万蟲姫……?



「薄々……気づいておったわ。
 あの晩、わらわの記憶は父様達と食事して……その途中からホーネットに保護されたところまでがぷっつりと途切れておるからの。
 結局、父様達がわらわに何かしようとして、ホーネットに助けられた……その程度には、状況は察しておったわ」



 そう僕に返して、万蟲姫は息をつく。



「あー、えっと、万蟲姫……?」

「大丈夫じゃ。
 何じゃ、わらわが本当のことを知って凹むとでも思っておったのかえ?」



 恐る恐る声をかけるスバルだけど、万蟲姫はあっけらかんとそう答えた。



「心配無用じゃ!
 父様達がおらずとも、わらわには“蝿蜘苑”の皆がおる!
 それに……柾木ジュンイチのもとに身を寄せて、わらわは知った……
 家族とは、血のつながりだけではないと。
 たとえ血がつながっていなくとも、心がつながっていれば“家族”なんだと……
 そしてわらわには、その心でつながった“家族”がいる。だからぜんぜんへっちゃらなのじゃ」



 あくまで元気に、胸を張って言う万蟲姫だけど――







「そんなことは、ないでしょう?」







 やんわりと、それでいて鋭く切り込んできたのは――リンディさん?



「どんな関係だったにせよ、あなたとご両親も“家族”だったんだから。
 その“家族”が亡くなって……悲しくない人なんて、いないわよ」



 言って、リンディさんが万蟲姫を優しく抱きしめる。



「仲間や、他の大切な人の存在だって、悲しみを“癒す”ことはできても“消す”ことはできないのよ。
 だから、悲しんだっていい。泣いたっていい……もし、あなたが“蝿蜘苑”の長としてその悲しみを、涙をこらえているんだとしたら、その方がよほど悲しいことよ」



 そんなリンディさんの言葉に、万蟲姫の身体が震え始めたのがわかった。そして――



「万蟲姫……うぅん、ココアちゃん。
 あなたは、泣いたっていいのよ」



 その一言が……トドメだった。
「…………ふぇ……」











「……ぅわぁぁぁぁぁんっ!」











 万蟲姫の目から涙があふれ出た。リンディさんの胸に顔を埋めて、大声で泣き崩れる。



「……私は、間違っていたようだな……」



 って、ホーネット……?



「私は、姫が悲しまないよう、悲しんでも、それが最小で済むよう……そう考えて、事の真相を姫に伝えずにいた。
 姫が、“蝿蜘苑”の長としていつも毅然としていられるように……
 だが……それは間違いだったようだな」

「…………だね」



 軽く同意して、万蟲姫に視線を向ける。



 いくら器が大きくても、万蟲姫だって10歳の女の子なんだ。家族が死ねば悲しいし、そのことに対してワンワン泣いたっていいんだ。それが許されないのは、リンディさんの言う通りすごく悲しいことだと思う。







 ……『家族が死ねば悲しい』か……



 なら、僕は……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「仮面ライダー、ですか……
 まさか、本気でそう名乗る相手と戦うことになるとは、思いませんでしたね」



 ココアちゃんの両親を殺した一団――そのリーダー格らしい男の人が、メープルが(ココアちゃんについて)変身した電王・スティングフォーム……ううん、仮面ライダースティングを前に苦笑する。



「まぁ、いいでしょう。
 いずれにせよ、私達のすることは変わりません」



 男の人が言うと、後ろに控えていたマント姿の部下がひとり、僕らの前に進み出る。

 ものすごく大柄な人……だけど、なんだろう。筋肉質なんだとしても、すごくボコボコあちこちが盛り上がっている感じ。



「私の狙いはあなたの借りているその身体です――渡してもらいますよ」



 その言葉と同時――マントの人物が地を蹴った。ドスドスと足音を立ててメープルへと突っ込んでいく。



「ハチ娘!
 良太郎、オレ達も変身だ!」

「ムリだよ、先輩。
 良太郎のパスはあの子が持っていっちゃったんだから」



 モモタロスが飛び出そうとするけど……うん、ウラタロスの言う通りだ。メープルがパスを持っていっちゃったものだから、ボクらは変身できない――



「いらないよ、手助けなんて!」



 メープル……?



「わたしひとりで、こんなヤツらやっつけちゃうんだから!」



 言いながら、メープルは小柄な体格を活かして相手の攻撃をかわしていく。

 同時に腰のデンガッシャーを、モモタロス達と違って放り投げたりせず、ひとつひとつ手に持って組み合わせていって――







「たぁっ!」







 ソードモードに組み上げると、相手に向けて突き込んだ。その一撃は体格差をものともしないで相手を吹っ飛ばす。

 そして、メープルがデンガッシャーをかまえ直す――あ、オーラソードが槍のような細長い円錐状になってる。

 なるほど、“刺すスティング”って名前の通り、細剣レイピアになってるんだ……



 一方、吹っ飛ばされたマントの人物は、今の一撃で破れたマントを脱ぎ捨てる――同時に、やけに凸凹していた体格の謎が解けた。

 だって、そもそも人ですらなかったから――大きな甲羅を背負ったカメの怪人だ。

 イマジンとも、他のネガショッカーの怪人とも違うみたいだけど……とにかく、自分を吹っ飛ばしたメープルへと再び突っ込んでいくけど、







「えいっ! やぁっ! とぉっ!」







 メープルの連続突きに阻まれて、近づくことができない。

 と言っても――『近づくことができない』だけ。固い甲羅に阻まれて、メープルの突きも相手にダメージを与えられていない感じだ。







「うぅ……ホントに固いなぁ。手、しびれてきたよ……
 ……しょうがない。こうなったらフルチャージで!」







 そんな感じの戦いに焦れてきたのか、メープルは大技での勝負に出るみたいだ。パスを取り出してベルトにセタッチ。











《Full Charge》



「さぁ……貫くよ!」











 ベルトとメープルの宣言に伴って、ベルトからデンガッシャーにエネルギーが流れていく。

 そこへ、カメ怪人が突っ込んでいって――







「たぁ!」







 メープルの突きが、カウンターの形でカメ怪人の腹に突き刺さる。







「はぁぁぁぁぁっ!」







 そこへメープルが気合を入れると、デンガッシャーのオーラソードが強く輝く――あれ、まさかドリルみたいに回転してる!?



 そして――







「はぁっ!」







 仕上げとばかりにメープルが吼えると、オーラソードが撃ち出された。カメ怪人の甲羅を貫いて、その衝撃でカメ怪人が吹っ飛ぶ。



 地面を転がったカメ怪人が爆発、四散する――やった、倒した!



「さぁ、次!
 …………って……」



 振り向いたメープルが動きを止めて――そこでようやく、ボクらは気づいた。



「あれ……?
 悪者のみんな、どこ行ったの……?」

「逃げたんか……?」



 リュウタロスやキンタロスが不思議そうに見回す――そう。あの黒マントの集団が、影も形も見当たらない。

 いつの間に逃げたんだろう……もうこの場に残ってるのは、僕らと、コソコソ逃げ出そうとしているネコイマジンくらい……



 ………………って!?



『こらぁぁぁぁぁっ!』



「あぁっ!? くそっ、気づかれたっ!」



 ボクらの叫びに、ネコイマジンは舌打ち混じりにジャンプ。公園の木の上に飛び乗って、



「悪いが、オレはこれで失礼するぜ!
 お前らと馴れ合うつもりはないし、あくまでオレの目的はその小娘だ!」



 こうなってもまだ万蟲姫を狙うつもりらしい。ボクらに向けて宣言するネコイマジンだけど――



「うんうん。わかってる!
 ココアちゃんを守るのが目的なんだよね!? だから単独行動で外から見張ってくれるんだね!?」

「ちっがぁぁぁぁぁうっ!」



 メープルの言葉に頭を抱えた。



「何度も言わせるな!
 オレはお前らの敵なの! 敵っ! Enemy! わかるか!?」

「もちろんっ!
 敵のフリをして相手をまどわす作戦なんだよね!?」

「ちぃぃぃぃぃがぁぁぁぁぁうぅぅぅぅぅっ!」



 メープルだけじゃない。完全にネコイマジンを味方だと信じきってるのは子犬イマジンも同じだ。



「あーっ、くそっ! もう知らんっ! 付き合ってられるかっ!
 お前ら、次会った時は今度こそそのガキの命はもらったからなっ!」



 あ、とうとう説得をあきらめた。言い放って、木々の向こうに消えていく――



「……良太郎」



 ん? 何、モモタロス?



「なんつーかよ……今後のアイツの立ち位置、決まったな」

「先輩にしては鋭いね。
 今後延々とメープル達にいぢられる流れだよ、アレ」



 …………言わないであげようよ、うん。











 それにしても……ココアちゃんの両親と取り引きして、二人を殺したあの一団、何者だったんだろう……?

 あのカメ怪人、イマジンとも、大ショッカーの中にいた他の種族の怪人とも違う感じがしたけど……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ただいまー……」

「おかえりなのじゃーっ!」



 良太郎さん達が戻ってきた頃には、万蟲姫はすっかり泣き止んでいつもの調子に戻ってた。



「ココアちゃん、ただいまーっ!」

「ただいまーっ!」



 もちろんメープルや子犬イマジンも一緒……って、なんでメープルはこれ見よがしにライダーパスを持ってる?



「えへへ……デカ長さんにもらっちゃった♪」



 はぁっ!?



「いや……デカ長が、予備のライダーパスをね……
 ネガタロス達や変なヤツらに狙われてる以上、この子達も変身できるなら持ってた方がいいって」



 良太郎さんがそう説明してくれるけど……え、ちょっと待って。

 『変身できるなら』って……まさか、過去でメープルが変身したの!?



「えっへんっ!」



 なんかドヤ顔で胸を張られた……なんかムカつく。



「えっと……ココアちゃん」



 …………? 良太郎さん……?



「ごめん……お父さんとお母さん、助けられなかった」



 頭を下げた――万蟲姫に対して。



 たとえ過去で起きた、変えちゃいけない出来事だったとしても……見過ごす形になったことには違いないから、か。良太郎さんらしいね。



「気にするでない。
 電王と時の運行については聞いた――そんなことを言うが、立場上助けたらマズかったのであろう?」



 そしてコイツは相変わらずムダに器デカイよね。あっさりこんなこと言っちゃうし。



「むしろお主達の方が心配じゃ。
 過去で一戦交えてきたのじゃろう? それで過去を変えてしまったりはせんのかえ?」

「うん……
 デカ長に確認したら、本来の時間の流れでは、あの怪人はあの時間のホーネットが倒すはずだったから……倒す人間が変わっただけで、時間の流れには影響がないって」



 それどころか良太郎さんの方を心配してるし。思いっきり泣いて、吹っ切れたかな?



「そうか。それはよかった。
 となると、後気にするべきは……お主じゃな」



 言って、万蟲姫が見たのは――



「えっと……ボク?」



 子犬イマジン……えっと、この子がどうかしたの?



「いや何、メープルのように名前をつけてやらねばな、とな」

「あぁ、そういうこと。
 うん……必要だよね、名前で呼んであげるのは」



 答える万蟲姫には横馬がうんうんとうなずいてる……この名前呼びマニアめ。



「何そのマニア!? 私そんなんじゃないよ!?」

「でもなのはってそういうことあるよね。名前で呼び合うことにすごくこだわるところとか」

「アリシアちゃんまでそういうこと言うーっ!」



 横馬がアリシアに遊ばれているけど、とりあえずそっちはほっとく。



「で? 何か名前のアイデアはあるんか?」

「うむっ!
 やはり犬ベースじゃからの……となると、これしかあるまい!」



 いぶきに答えて、万蟲姫は自信タップリに、



「今日からお主の名前は……」











「パトラッシュに決定じゃ!」

『却下』











 全員が満場一致で却下した。



「なんでじゃーっ!? 犬の名前といったらこれであろうがっ!」



 バカ姫は不満みたいだけど……うん、当然だよ。バカ姫自身の身の上を考えるとシャレになってなさすぎる。



「だったらどんな名前にしろというのじゃ!?
 反対するからには、何か案があるのであろうな!?」



 む……そう言われると、確かにないけどさ……



「まぁ、そこは今後じっくり考えればいいとして……」



 って、マスターコンボイ……?



「野上良太郎。
 今回の“敵”……結局正体はわからなかったのか?」

「う、うん……
 以前の、大ショッカーとの戦いで見たような怪人じゃなかったし、そもそも、雰囲気が大ショッカーの怪人とは違った。
 一応、ケータロスで写真は撮ってきたけど……」



 言って、良太郎さんが赤い携帯電話を差し出してくる。すぐそばの面々がのぞき込んで――



『な…………っ!?』



 何人かが固まった。

 フェイトにイクトさん、それになのはや、アリシア……マスターコンボイも。



 スバル達も、携帯を受け取ったイクトさんが画面を見せると表情が強張る――要するに、六課の中でも古参の面々がみんなして驚いてるワケだ。



「ウソ……でしょ……!?」

「なんで、このタイミングで“コイツ”が出てくる……!?」

「え、何? コイツが何なのか知ってるワケ?」

「うん……よく知ってるよ」



 アリシアやイクトさんに尋ねるウラタロスさんに、なのはが答える。

 そして――イクトさんが、改めて画面を見ながら口を開いた。



「コイツは……」





















「カメ種瘴魔獣……ビルボネックだ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「『……死にましたか?」』



 尋ねるけど……返事はない。



 目の前には、あの柾木ジュンイチ――ただし、“全身ズタズタの血まみれで、壁に背を預けて崩れ落ちている”

 がっくりとうなだれてるから、表情までは読み取れないけれど……



「『まぁ、さすがに28回も致命傷を受ければ死にますか」』



 これだけやれば、ボクだって死ぬ。そのくらい殺したんだし、当然といえば当然か。



「『やれやれ。いかに“オリジナル”と言っても、今やお古の旧型モデル……ボクの敵じゃありませんでしたか」』



 ひとりで動いていたようだから、この間の続きと思って出てきてみれば……期待して出てきたのに、これじゃあ不完全燃焼だ。

 仕方ない。ネガタロスがマークしてた犯罪シンジケートを二、三つぶして帰るか。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………げほっ、げほっ!」



 意識が戻ると同時にせき込む。

 あぅ、血の味だ。ノドの奥にたまった血を吐き出したんだから当然だけど。



「いてて……
 あんにゃろ、ちょーしこいて殺しまくりやがって……オレじゃなかったら死んでたぞ。いや、オレもつい今の今まで死んでたけど」



 軽くセルフツッコミを交えて愚痴りながら、周囲の気配を探る……“Xカイ”のヤツはホントに帰ったらしい。



 しかし……ガチで強いじゃねぇか、アイツ。

 レヴィアタンやハルピュイア、それにヴェルヌスの話じゃ、オレの細胞をベースに作られた人造生命体って話だったけど……最初の頃のホクトみたくスペック頼みってワケじゃねぇ。最近の、オレがきっちり修行をつけてやった後のホクトみたく、オレの細胞がもたらす恩恵、ちゃんと自分の血肉にしてやがる。



 けど……



「誰もいなかったのが幸いだったな……念のための“仕込み”ができた。
 何の準備もないまま本気でぶつかってたらと思うとゾッとするぜ」



 オレだって、負けるつもりはない。

 アイツのおかげで“種”がまけた――後はそれが芽吹くのを待つだけだ。



「オレを甘く見るなよ、クソガキが……」











「最後に勝つのは、このオレだ」







(第21話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「これ……イマジンの仕業なのかな?」



「幸せを……壊す……!?」



「『忘れたままでいいはずない』……か」

「うん……
 その思いは……今も変わらないんだけどね……」



〔何なのじゃ、こやつは……!?〕

「倒しても倒しても……どうなってるの!?」





第21話「ばっく・とぅ・ざ・りべんじゃあ」





「アンタの気持ち……わかるつもりだからさ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「万蟲姫の過去を中心に、いろいろ出てきた第20話だ」

オメガ《ホントに『いろいろ』ですね。
 過去の事件の真相はもとより、新ライダーに怪しい敵の気配……》

Mコンボイ「怪しい敵、か……
 イマジンのことを知らなかったようだからネガショッカーとも思えない。それでいて、瘴魔獣を率いている、か……」

オメガ《お笑い担当の“蝿蜘苑”に対するシリアス担当ということでしょうかね?》

Mコンボイ「否定できんな……どっちが、とは言わないが」

オメガ《ですよねー。
 また厄介なことになってきたものですね。舞台裏ではミスタ・ジュンイチもボロ負けしましたし》

Mコンボイ「そこは心配いらないだろう。ちゃんと今回の話の内に生き返ってるんだからな」

オメガ《生き返ることが前提で話が進んでる時点で会話がおかしい気もしますけどね……どこのドラゴンボールですか。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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あきゅろす。
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