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頂き物の小説
第18話「バカとゲームと勝ち名乗り」:1



「…………ふぅっ」



 クラナガン市内のオープンカフェ――昼食後の一時、ホットココア(ぬるめ)を一口すすり、ため息をつく。



「さて……どうしたもんかねー……」



 ため息の原因は、手元に置かれた一冊の本。

 何でコイツがため息を招いているのかというと……





















はい、回想スタート。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「っ、らぁっ!」







 オレの繰り出した拳は、何も殴らず、虚空を貫いた。

 ……まぁ、かわされたんだから当然か。相手はすぐさま距離を詰めてきて、両手の爪で連続攻撃。

 こっちもそれをさばき、反撃――またかわされた。オレの蹴りから逃れて、今度はヒット・アンド・アウェイに切り替えてくる。でぇいっ、うっとうしいっ!



 “ヤツ”らが動きを見せたのに気づいて、現場に来てみたところ、“目的”を果たして出てきたコイツと鉢合わせ。

 むせ返るような血の臭い――それ以前にコイツの同族を見たことがある。予備知識から、コイツが今何をやってきたのかは容易に想像がついた。



 と、ゆーワケで……これ以上はやらせねぇぞコラっ!







「そんなに“速さ”が自慢かよ……
 上等だ! 上には上がいるってことを教えちゃるっ!」







 さっきからチョロチョロうるさいヒョウ素体の女怪人に対し、取り出したカードをかまえる。







《KAMEN-RIDE!》







 カードをベルトのバックルに挿入。両サイドのガイドバーを押し込む動きに連動したバックルが90度回転、カードを読み込む。







《“OOO”!》



《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ・タ・ト・バ!》







 瞬間、オレの姿が変わる――下半身が緑、胸と両腕が黄色、そして頭部が赤く飾られたライダーへと。







「そんでもって!」



《FORM-RIDE!》







 さらにもう一枚。今度は別のカードを使って、







《“OOO”――“LATORARTAR”!》



《ライオン! トラ! チーター! ラタ・ラター! ラトラーター!》







 緑色の下半身と赤色の頭部が変化。別デザインの、黄色のそれに変わる。

 オレの立て続けの変身に、相手は警戒を強めたらしい。背中を向けて――って、逃がすかコラ!







「おん、ゆあ、まーく……」







 脚を前後に大きく開き、身をかがめて両手をつく。







「れでぃ……」







 陸上競技のクラウチングスタートの体勢だ。逃げていく相手に狙いを定めて……











「GO!」











 地を蹴って――爆発的な加速と共に、一気に相手に追いつき、抜き去る。







「たかだかヒョウが……チーターにかけっこで勝てると思ったか!」







 追い抜いた先で急停止。振り向きざまの回し蹴りがヒョウ女の腹にカウンターで決まる。







「トドメだ!」



《FINAL-ATTACK-RIDE!》







 ぶっ飛ぶヒョウ女に向けて、腰のベルトに必殺技発動のカードを挿し込み――







「――――っ!?」







 気づき、後退――さっきまでオレのいたところの地面を銃弾らしきものが叩いた。



 ヒョウ怪人じゃない……新手……!?







 とっさに周囲に視線を走らせる――けど、それがいけなかった。気がついた時には、ヒョウ女は姿を消していた。



「……やれやれ、逃がしたか」



 ため息まじりにベルトを外して変身解除……ん? 何だ、アレ?

 地面に落ちていた本を手に取る――戦いの前には落ちてなかったはず。まさかあのヒョウが……?



「……そーいや、ヤツらの上級クラスにはこーゆーの読みそうなのもいたっけ」



 苦笑しながら、目を通す――ミッドの、とある全盲のピアニストを追ったノンフィクションだ。



 タイトルは――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……と、いうことが昨夜あったんだよ。



 で、拾った本なんだけど……どうしようか、コレ?



「コイツが、“ゲーム”に関係してるのは、間違いないんだよなぁ……」



 つぶやき、改めてココアを一口……ん? 携帯に着信?




「……何だよ?」

〈『何だよ?』じゃないですよ。
 ご飯の買い物に出かけておいて、どこ行ってるんですか?〉

「あぁ、悪かったな。
 じゃ、すぐ戻るから」



 言って、オレは手早く通話を終えて――











「…………コイツを、届けてからな」



 くだんの本へと視線を向けて、付け加えた。











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第18話「バカとゲームと勝ち名乗り」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おー! 恭文じゃ恭文じゃ!
 会いたかったのじゃーっ!」



 状況、わかってるんだろうか、この姫は……



 ここは、ジュンイチさんに炎をかまされてメチャクチャになったファミレスの店内。

 そこで、自分が攻撃されたことも忘れてぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるのは、お久しぶりのバカ姫万蟲姫。



「柾木ジュンイチ――貴様、姫に向けてなんて炎を放ってくれる。
 姫に万一のことがあったらどうしてくれる?」



 そしてこの人もいる。新生瘴魔軍“蝿蜘苑ようちえん”の主力。瘴魔神将“貫撃”のホーネット。



 でもって……



「あわわ……で、出たぁっ!」



 大あわてのイマジンがひとり――さっきジュンイチさんに思い切りしばかれた、ミツバチのイマジンだ。



「って、おいコラ!
 ナニ人のツラ見るなりおばけでも見たようなリアクションしてやがる。
 誰がおばけだっつーんだ。なぁ、良太郎?」

「う、うん……」



 あ、良太郎さん苦笑い。

 まぁ、初対面時と牙王の一件で記憶をなくした時。二度に渡ってモモタロスさんをおばけ扱いしてるしなぁ。



「って、そんな話をしてたんじゃないよ」



 そう。本題はもっと別――言って、万蟲姫に声をかける。



「万蟲姫、一応聞いとくけど……そのちっこいハチっぽい子はどちらさん?」

「ん? メープルはメープルなのじゃっ!」



 ……名前がつけられていた。



「……聞き方を変えよう。
 ソイツが“どういう存在”か、知ってる?」

「さぁ?
 とりあえず、出会った時には“いまじん”と名乗っておったな」



 ふむふむ。その程度の知識か。じゃあ……



「ソイツ……何か願いを叶えてくれるとか言ってなかった?」

「うむ!
 『どんな願いも叶えてあげる』と言っておったからのぉ……」











「『恭文に会いたい』とお願いしたのじゃ!」











「そしたら、結果は見ての通りじゃ。
 本人が連れてくることは失敗したが、こうして恭文達が会いにきてくれるとはのぉ」



 言って、バカ姫は満足げにうんうんとうなずく……ほぅほぅ、そういうこと。

 つまり……



「……黒幕はおのれかぁぁぁぁぁっ!」

「ふみ゛ゃあぁぁぁぁぁっ!?
 や、恭文! グリグリの刑は、グリグリの刑はぁぁぁぁぁっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とりあえず、クラナガン市内のナイトクラブにはすべて営業を自粛してもらった。
 敵の狙いがナイトクラブなら、これでこれ以上の犯行は抑えられるはずだけど……」

「そう願いたいなぁ。
 今んトコ、私らがわかってる事件の共通点はそう多くあらへんし」



 報告するフェイトにはやてがうなずく――うん。本当にこれで防げてほしい。

 ボクも見てきたけど……本当に悲惨だったもの。

 あんまりスプラッタなものだから、遅れて合流してきたフォワード陣には見せるの控えようとしたくらい……なお、「執務官志望として見ておきたい」と言い出したスバルとティアナは現場入り後30秒でトイレに駆け込んだ。

 しかも、その動きを外から察して、よせばいいのにあわてて介抱に飛び込んできた他のみんなも次々トイレに駆け込むし……エリオやつかさに至っては失神した。

 そんな中、唯一平気だったのが最年少キャロだったっていうのが、また何とも……



 それにしても……アリシア。



「ん? 何、ジャックプライム?」

「その……本当なの?
 この事件が、イマジンの仕業じゃないって」

「たぶんね」



 『たぶん』とか言いながら、その返事に迷いはなかった。



「この事件の犯人はイマジンじゃない……」











グロンギだよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて……これからどうしたものかね……」



 愛車、マシンディケイダーを停め、軽くため息をついてつぶやく。

 現在地――六課の敷地のすぐ外側。フェンス一枚ブチ破ればもうそこは六課の縄張りだ。



 こんなところで、オレが何してるかっつーと……



「どう届けたもんかなぁ、この本……」



 昨夜の戦いの時、ヒョウのグロンギが落としていった本だ。

 堂々と届けに行くワケにもいかないし……それに、ちゃんと事件の手がかりだってわかる届け方をしなくちゃいけない。



 この二つの条件をクリアする届け方、となると……



「…………しょうがない。
 この手でいくか」



 とりあえず、本がばらけないように新聞紙で包んで保護。



 包み終わった本を手に、ピッチャー振りかぶって第一球……











「ハマの大魔神よ! 我に力をぉぉぉぉぉっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「グロンギ……?
 アリシアちゃん、それっていったい……?」

「電王とは別のライダー、クウガの戦っていた相手だよ」



 尋ねるなのはちゃんに、アリシアちゃんがそう答えた。



 で、それをあたし、柾木あずさと現場検証に同行したいぶきちゃん、なずなちゃんとで見守っている配置だ。

 うん。話をするのはアリシアちゃんにお任せだ。だって……久々に回ってきたアリシアちゃんの出番を削りたくないし。



「彼らは人間と極めて良く似た存在……その闘争・攻撃本能の高さと獣化能力を除けばね。
 最強の存在であるン・ダグバ・ゼバを頂点に、彼らは“ゲゲル”と呼ばれる殺人ゲームを繰り広げた……」

「ち、ちょっと待て!」



 アリシアちゃんの話を、ヴィータちゃんの後ろに控えていたビクトリーレオがあわてて止めた。



「殺人……ゲームだと!?
 じゃあ、今回のこれも……こんなひどい殺人が……ゲームだっていうのか!? コレが!?」

「うん。そう」



 あっさりとアリシアちゃんはうなずいた。



「彼らグロンギにとって、人間の命はまさにゲームのスコアそのものなんだよ。
 ルールと目標人数を最初に定めて、そのルールに則り、目標の人数を殺害。
 そうしてゲームをクリアすることでより上の階級へと上がり、より難度の高い“ゲーム”に挑む……」



 そこで、アリシアちゃんは一息ついて、また続ける。



「人の進化を警戒して、その兆しを見せた超能力者を狙い撃ちにしたアンノウン
 自らの生存圏の確保のため、人間社会の裏で暗躍したオルフェノクワーム
 人間そっちのけで、自分達の種をこの地上に君臨させるためのバトルロイヤルを繰り広げていたアンデッド
 ただ純粋に“食糧”として人を襲うミラーモンスターに魔化魍まかもうファンガイア
 そして……イマジン
 “平成ライダー”と呼ばれる良太郎さん達の世代のライダー達は、それぞれ独立した物語の中でいろいろな敵と戦ってきた……その“敵”の中でも、グロンギはこと残虐性において群を抜いてる」

「そんなヤツらが、ミッドにいる……!?」



 つぶやくフェイトちゃんの声が震えてる……ムリもない。平成ライダー史上最“狂”の連中が相手なんだもの。



「とにかく、今はグロンギの“ゲーム”――ゲゲルを止めるのが先決やっちゅうことやね。
 これ以上の犠牲者が出る前に、そのグロンギを止めへんと。たかだかゲームで人を殺してるとなったらなおさらや」



 はやてちゃんの言葉に、全員がうなずく――そうだ。これ以上はやらせるワケにはいかない。

 単なるゲームで、この街の人達を殺させるワケにはいかないんだから。



「なら、具体的な対策に移るけど……今の話だと、殺害にはゲームとしてのルールが絡んでくる。
 となると、ナイトクラブでの殺害というのも、その“ルール”によるものと思っていいんだよね?」



 フェイトちゃんの問いに、アリシアちゃんと二人でうなずく――ただ、それだけだとも思えないんだけど。



 『クウガ』の物語の中では、殺害に特定の条件が加えられるようになってからはその“ルール”を読み解くのにみんな四苦八苦していた。

 たとえば……車や電車、エレベータのような“動く箱”に乗っている人間を殺す、というもの。それだけかと思ってたら、その“動く箱”の色にまで条件が加わっていた。

 他には、特定の楽曲の楽譜になぞらえたルールも複雑だった。その楽譜の音符の順番と同じ音符の連続数。たとえば“ド”の音が三つ続くとしたら、“ド”が頭文字につく水泳施設で三人殺す。次に“レ”の音が二つなら、次の殺人は“レ”が頭文字につく水泳施設で二人……なんて感じで。



 これもそうした段階のゲゲルだとしたら、単に“ナイトクラブにいた人間”というだけが条件だとは思えない。

 他に何か条件がわかればいいんだけど。でも、襲われたナイトクラブには共通点も連続性も認められないし……ん? 何アレ?

 何かが、窓の外からこっちに向かって飛んできて……危ないっ!



「はやてちゃん、伏せて!」

「え――?」

「主はやて!」



 あたしの言葉に呆けたはやてちゃん本人より、シグナムちゃんの動きの方が速かった。素早くはやてちゃんをその場に伏せさせて――窓ガラスを突き破って、それは室内に飛び込んできた。



「……何や? コレ」



 床に転がるそれをいぶきちゃんが手に取る――古新聞で包まれた四角い何か。



「くっ、何者だっ!」



 そんないぶきちゃんをガン無視して窓に駆け寄って投てき犯を探すのはシグナムちゃん。

 あたしもその後に続いて窓に駆け寄る。怪しいヤツは……いたっ!

 敷地を囲うフェンス、そのすぐ外側の道路を今まさにバイクで発進していく人影……いや、待て待て。ホントにアレ?

 もしアレが犯人だとしたら、駐車場を挟んだ500メートル以上の距離を投げて寄越したことになるんですけど。どういう腕力?







「みんな、これ見て!」







 と、上がった声はなのはちゃん――いぶきちゃんが拾った包みを見て、驚いた顔をしてる。



「どうしたの?
 包みの新聞紙に欲しかったDVD-BOXの特売広告でも載ってた?」

「そんな、アリシアちゃんじゃあるまいし……じゃなくて、これ!」



 アリシアちゃんに答えて、なのはちゃんが見せた包みの古新聞には――







『…………日本語?』







 そう。新聞紙の包みには、マジックで――ミッド語じゃなく、日本語で一文そえられていた。

 曰く――











『グロンギの所持品、お届けでーす♪』











 またなんともカルい……いやいや、論点そこじゃなくて。



「これを寄越したヤツは、あたしらがグロンギの事件を追ってることを知ってる……!?」

「というか、これがグロンギの持ち物って……」



 ヴィータちゃんやフェイトちゃんが口々につぶやいて、あたし達みんなの視線が、ゆっくりと包みを持ついぶきちゃんに集中する――『開けてみろ』というメッセージを込めて。



「……はいはい。開けてみればえぇんやね」



 その意図を汲み取ってくれたいぶきちゃんが包みを開けてくれて……



「…………本?」

「ごく普通の……ノンフィクション本ですよね?」



 のぞき込んだシグナムちゃんやなずなちゃんが首をかしげる――なので、あたしものぞき込んでみる。

 タイトルは……



「……『暗闇の底に音楽という光を』……?」



 タイトルをジャックプライムが読み上げる。



 内容は、全盲の音楽家を追ったもの……待って。これをグロンギが持っていたっていうの? なんか、すごく似合わないんだけど。



「どういうこと? アリシアちゃん」

「あたしにも、何が何だか……」



 なのはちゃんや、アリシアちゃんも首をかしげてる……うん。本当にどういうことだろ?

 少なくとも、これがイタズラっていう線はないと思う。イタズラにしては、あまりにも状況に即しすぎてる。



 つまり、これを寄越した人間は、少なくとも状況をある程度把握していることになる……

 うーん、お兄ちゃんや恭文くんの意見も聞いてみたいところだけど……



「そういえば……フェイトちゃん。恭文くんやお兄ちゃんは?
 現場に呼んだんじゃなかったっけ?」

「あぁ、うん。
 実は、ヤスフミ達は現場に来る途中でイマジンと接触して……」



 って、イマジンと!?

 あぁ、もうっ。グロンギだけでも厄介だっていうのに、その上イマジンまで……



「それで……その対処の方に行った、と?」

「うん。良太郎さん達とも一緒だったしね。
 ただ……」



 え? なんでそこで眉をひそめるの?

 まさか他にも問題が?



「えっと、そのイマジンの契約者なんだけど……」











「どうも、あの万蟲姫らしいの」











 …………はい?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ところでさぁ」

『………………?』



 万蟲姫に対するグリグリの刑オシオキ執行も済ませて、「よくも万蟲姫を!」といきり立つホーネットやミツバチのイマジンメープルをなだめて……そんなことをしていると、不意にジュンイチさんが口を開いた。



 ちなみに、現場はあのファミレスのまま。ボクが万蟲姫にオシオキしてる間にジュンイチさんが散らかしたものを片づけて、テーブルについて会談です。



「そもそも、万蟲姫。お前確か、実家に帰ったんじゃなかったのか?
 なのになんでホーネットと一緒なんだ? なんで瘴魔に戻ってるんだよ、お前?」

「あー、そ、それは……」



 ………………?



「ま、まぁ、なんだかんだで、ホーネット達を放ってはおけなかったしの!
 わらわはこの“蝿蜘苑ようちえん”の首領であるワケだしの。責任を持って務め上げなければな!」



 今……あからさまにごまかしたよね?

 まぁ……何かあったんだろうけど、ムリには聞かない方がいいかも。



 そもそも、万蟲姫が最初に家から逃げ出した理由っていうのが、“万蟲姫の能力のせいで起きた数々のトラブルを迷惑がった家族から締め出し”なんだもの。

 しかもそのために万蟲姫を殺そうとまでしたらしいし。万蟲姫が歩み寄る決意を固めたって、向こうにその気がないんじゃまとまる話もまとまらないだろう。



 そんな話をうかつに蒸し返しても傷つけるだけだろうし、これについてはホーネットにお任せしよう。ケアよろしねー。



「なら……オレからもひとついいかよ?」



 と、今度はモモタロスさん……こっちはこっちで、珍しい人が手を挙げたもんだね。

 ともあれ、モモタロスさんは万蟲姫……じゃなくて、そのとなりのメープルに尋ねる。



「お前……こんなところで何してんだよ?」

「何、って……ココアちゃんと契約して」



 ………………?

 『ココアちゃん』って……誰?



「わらわの本名じゃ!」



 そう言い出したのは万蟲姫……あぁ、そうか。コイツだって何も生まれた時から“万の蟲の姫”なんて名づけられたワケでもないだろうし、本名くらいあっても当然か。



「そういうことじゃ!
 我が名はココア・ワッフル! しかとその心に刻むがよいっ!」



 はいはい。刻ませてもらいますよ――「コイツ名前からして甘党か」的な意味で。
道理で、リンディさんと最終的にウマがあったはずだよ。



「いや、そうじゃなくてよ。
 お前、コイツの『青坊主に会いたい』って願いで契約したんだろ?
 なら、もうその願い、叶ってるじゃねぇか――過去へ跳ばねぇのか?」

「え? 過去に?」









「何で?」







 ……ごく当たり前のように聞き返してくれましたよこのお子様。



「だってだって! 過去に飛んじゃったら、完全に契約が切れてココアちゃんとお別れなんだよ! そんなのヤだもん!」

「メープル……そんなにもわらわのことを……っ!
 大丈夫じゃ! たとえ契約を完了して一緒にいる理由がなくなったとしても、わらわ達はいつまでだって友達じゃ!」

「ココアちゃん!」

「メープル!」

『ひしっ!』



 効果音を口にして、二人がしっかりと抱き合う――はいはい、三文芝居はそのくらいにしてねー。







「うんうん、よかったねー、ハチさん……っ!
 ボクも良太郎とずっと一緒にいたいもん。気持ち、すごくよくわかるよ……っ!」







 …………あー、こっちにいもいたか。このノリにこれでもかってぐらい感情移入できる子が。



「……こんなバカどもに足止めされていたのか、オレ達は……」

「バカとは何じゃ!
 ……って、何じゃ? どこかへ行く途中だったのかえ?」



 ピータロスに反論した万蟲姫が首をかしげる――まぁ、イマジンと契約しちゃった以上、度合いの大小はどうあれこの子も“関係者”か。



「その……メープル、だっけ? その子や他のイマジン達をミッドに引っ張り込んでくれたヤツが、さらに事件を起こしまくってくれてんの。
 しかも、今回は今までとはさらに少し毛色の違うヤツをね」

「……それって……」











「ネガタロスのことかえ?」











 ………………

 …………

 ……





『…………はぁっ!?』



 思わずみんなで声を上げる――なんでこのバカ姫がネガタロスのこと知ってんの!?



「なんでも何も……ウチに来たからの」

「『来た』って……アイツが、“蝿蜘苑ココ”へか!?」

「うむ!」



 聞き返すマスターコンボイにも、万蟲姫は力いっぱいうなずいてみせる。



 えっと……ホーネット、どういうこと?



「簡単な話だ。
 『仲間にならないか』との勧誘だ――つまり、向こうがこちらの力を欲した、ということだ」

《まぁ、“蝿蜘苑ようちえん”だって曲がりなりにも“悪の組織”ですからね……曲がりなりにも》

「待つのじゃ、アルトアイゼン!
 なぜに二回言った!? 『曲がりなりにも』って、二回!」

《大事なことだからです》

「どこがじゃっ!?
 お主、わらわ達のことを何だと思っておるのじゃ!」

《バカでしょう?》

「ムキーッ!
 ホーネット! お前からも言ってやるのじゃっ!」



「……『毛色が違う』とはどういうことだ?」
 いかんせん、イマジンについてはそう詳しくないから、よくわからないのだが……」

「あぁ、それはね……」



「……無視が一番こたえるのじゃ……」



 はい、バカ姫、うっさい。



 とはいえ、コイツら相手に口で説明するのもめんどくさいよなぁ……

 あ、ジュンイチさん。さっきメールで六課から最新情報もらってましたよね?



「あぁ。
 そっか、今起きてる事件についてはアレ見せた方が早いか」



 僕の言いたいことを察して、ジュンイチさんがデータを表示する。

 ついでに僕らも見せてもらって……ちょっと待て。



 おいおい、グロンギって……またタチの悪いのが出てきたね。

 あんまり残酷に殺しすぎたもんだから、翌年バトンタッチしたアンノウンさん達が殺し方を自重せざるを得なくなったとまで言われた、平成ライダーの敵の中でも残虐性トップクラスの連中じゃないの。



 まぁ、最初にフェイトから聞いた“すごく残酷な殺し方”ってヤツを実際にやらかしそうな連中といったら、アイツらしかいないんだけどさ……



《しかし、『電王』に登場していないグロンギが、どうして……?》

「まぁ、良太郎さん達が実在したんだし、いてもおかしくない、という話ではあるんだけど……」



 でも、それがどうしてミッドに現れた?

 ネガタロスの仕業、ってのが一番あり得る話だけど……それはそれで、ネガタロスはどうやってグロンギと接触した?







「……ねぇ、良太郎」

「うん……」







 ………………?

 ウラタロスさんも、良太郎さんも、顔を見合わせて――え、まさか、心あたりあり?



「う、うん……
 恭文くん達には、簡単にしか話してなかったよね? “ライダー大戦”のこと」

「あ、はい」



 確か、世界の消滅、その行く末を賭けた“ディケイド”っていうライダーとみなさんとの戦い……でしたよね?

 でもそれって無事解決して、ディケイドとも和解したんじゃ……



「そうなんだけどね……
 実は、その時戦っていた相手は、“ディケイド”だけじゃない。
 “ライダー大戦”っていう名前のせいで隠れちゃってるけど……いたんだ。ネガタロスの言うところの“悪の組織”が」



 それって……







「敵の出自などどうでもいい」







「マスターコンボイ……?」

「今は今回の敵の“今”の情報だ。
 ソイツの行動を阻止できなければ、また次の犠牲者を許すことになるんだぞ」

「って言われてもねぇ……情報少なすぎでしょ、コレ」



 ジュンイチさんに答えるマスターコンボイに、ウラタロスさんがため息まじりに指摘する。

 確かに現状わかってることなんてたかが知れてるけどさ。わかってるのは予想される殺害方法や体格、あと……所持品。



「中でもわからないのがこの本だ。
 一晩で三つも血の池を作った怪人が、ノンフィクションだと?」

「たぶん、ヤツらの“ゲーム”のルールに関係してるんだろうな」



 直前とは逆。ジュンイチさんの方がマスターコンボイに答える。

 そして僕も同意見。上位のグロンギ、インテリとか音楽家肌とかシグナムさんと同類バトルジャンキーとか、一芸特化タイプばっかりだったからなぁ。

 今回もそのテのグロンギだとしたら、この本の中の何かをキーワードに殺人を行っている可能性が非常に高い。



「せやけどなぁ、“どう関係しとるか”がわからへんことには、ここからは何も読み取れへんで」



 う゛……キンタロスさんの言う通りだ。

 いずれにせよ、情報が少なすぎる。もう少し、決め手になりそうな……











〈てぇへんだ、てぇへんだっ!〉











 って、何だ……?



「ガスケット……?」



 突然の通信の主に気づいたのは、前回からつきっぱなしだったピータロスからようやく解放されたイクトさん……って、ガスケット?

 言われてみれば、ウィンドウに映し出されたのは暴走コンビの片割れ、ガスケット……のビークルモード。



 つか、コレ開放回線だ。僕らにだけじゃない。六課のみんな、全員に向けての同時通信だ。いったい何が――











〈見つけたぜ! 血みどろ殺人の犯人!〉











 ………………はぁ!?



「み、見つけた、って……!?」

〈そのまんまの意味だよ、恭文!
 ビルから出てきた怪しさ大爆発の女怪人を発見、追跡中!
 しかもやっこさん全身血まみれだ! ヤツの出てきたビルにはヒラ局員向かわせたけど、外からの簡易サーチでも血液反応バリバリ! 間違いなくまたやられたぞ!〉

〈ち、ちょう待ちぃ!
 アイツの狙いはナイトクラブのはず――営業自粛のお願いはしたし、そもそもこんな真っ昼間からやってへんやろ!〉

〈そっから間違ってたんじゃねぇの!?
 住所から検索かけたけど、ヤツが“やらかした”ビル、ナイトクラブなんか入ってねぇぞ!〉



 割り込んできたはやてにも、ガスケットはそう答える――待て待て。そこから読みが外れてたっていうの!?

 だとしたら最悪だ。犯人の動きを先読みする上での一番の手がかりがまったくあてにならなくなったんだから。



 で、どこがやられたのさ?



〈血液反応があったのは二ヶ所!
 入ってたテナントはレコーディングスタジオに……〉





















「カラオケボックスではないかえ?」





















 ………………え?



 声の主を見る――今のやり取りについてこれていなかったはずの万蟲姫を。



「違うかえ?」

〈い、いや……その通りだけど……〉



 え、マヂで……?



「何か気づいたの?」

「本のタイトルじゃ」



 尋ねる良太郎さんに答えて、万蟲姫はウィンドウに映る、グロンギの持ち物とされた本を指さした。



「『暗闇の底に音楽という光を』……暗闇、音楽……そしてナイトクラブ。これでピンと来たのじゃ。
 ナイトクラブもレコーディングスタジオもカラオケボックスも、皆密閉空間……光の射さぬ環境で音楽をかける場所ではないか」



 あ……



「つまり、ヤツが“ゲーム”の舞台に選んだのは……」

「音楽をかける、密閉された場所……!?」



 良太郎さんと顔を見合わせる。だとしたら……



「はやて! すぐにガスケットの現在位置から、周辺でその条件を満たしてる場所を検索して人を向かわせろ!」



 真っ先に動いたのはジュンイチさんだ。さっき万蟲姫をブッ飛ばした時にも壊さなかった目の前の窓を遠慮なく飛び蹴りでブチ破って外に飛び出す――ぅわ、ガラスのカケラこっちにも来たっ!?



「最初の“プレイ”の時、ヤツはたて続けに何軒も襲ってる……今回も次があるぞ!
 ガスケット! 絶対に見失うんじゃねぇぞ!」

〈わかってる! 見失うワケねぇだろ!
 …………あれ? いないぞ?〉



 ぅおぉいっ!?



〈……いや、違う!
 回り込まれ――でぇっ!?〉



 ――って、ガスケット!?

 まさか――相手が反撃に出た!?



「マズイよ、ジュンイチさん!
 ガスケットがブッ飛ばされるまでもう時間がない!」

「あぁ!
 すぐにでもブッ飛ばされて星になるぞ!」

〈お前ら二人、オレがすぐにやられる前提で話すのやめてくんねぇか!?〉



 いや、だってガスケットってそういうポジションでしょ。



「とにかく、オレ達も追いかけるぞ。
 マスターコンボイ! ビークルモードだ!」

「あぁ!」



 そんな僕らをよそに、マスターコンボイがイクトさんに答えて――







「おっと、そうはいかないな」







 ――――――っ!?



 この、声……!?



「ジャマされるのも困るし……それに、オレとしてもそっちの瘴魔に用がある」



『ネガタロス!?』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でぇっ!?」



 とっさにその場から飛びのいて――オレのいた場所に、相手の一撃が叩きつけられる。

 単なる爪の一撃――のクセして、アスファルトの地面が簡単にブチ砕かれた。まるでアルクェイドの嬢ちゃんだなぁ、オイ!

 こういう時はアームバレットを楯にしたいところだけど――くそっ、手分けしてパトロールしてたのが裏目に出たか!



 けどな……オレだって“JS事件”でジュンイチに鍛えられて、戦い抜いてきたんだ! そう簡単にはやられねぇぞ!







「フォースチップ、イグニッション!
 エグゾースト、ショット!」








 フォースチップを使っての、エグゾーストショットのチャージショット――くそっ、あっりとかわしてくれるぜ。



 着地して、オレの前にそいつが改めて姿をさらす――ライオンとかトラとか、その手の猛獣をモチーフにしてるっぽい女型の怪人……柄からしてヒョウか? コイツ。

 なかなかすばしっこいヤツだけど……悪いな、スピードで負けてちゃ、スピーディアの暴走コンビと恐れられたオレの立場がないんだよ!



「悪いが逃がしゃしねぇよ!
 お前を逃がしたら、ジュンイチのヤツに何をされるかわかったもんじゃねぇからな!」



 …………本気で何されるかわからないからなっ! 大事なことなので二度言いましたっ!



「と、いうワケで今回はそう簡単にはブッ飛ばされないぜ!
 覚悟しやがr











「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」











 突然オレのセリフをさえぎった咆哮――同時に何かがオレのとなりを駆け抜けた。

 それはヒョウ怪人に体当たり、もろとも近くの店に突っ込んだ。



 ――――って、ちょっと!



「待てよ! 『見失うワケにはいかない』って言ったのにっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………なんとか、あのトランスフォーマーの見えないところにコイツを連れ込めたか……



 体当たりでブッ飛ばして、飛び込んだ先はブティックだった。地面を転がるグロンギに対し、警戒しながらかまえる。



「悪いな。コソコソしてるのは性に合わないんだけど、こっちにもいろいろあってさ。
 あのトランスフォーマーが入ってくる前に、さっさと変身させてもらうぜ」



 言って、両手を腹――ヘソのすぐ下あたりに添える。

 同時、そこに現れる銀色のベルト――中央にはまってる宝石“アマダム”は赤色。



 右腕を腰だめにかまえ、左手を右前方に突き出す――左手を水平に動かし、自分を戦士に変える言葉を放つ。











「変身っ!」











 瞬間、姿が変わる――人としての姿から、真っ赤な戦士へ。



 そう――







 仮面ライダー、クウガに。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ネガタロス、てめぇ……!」

「まぁ待て。
 今回、お前らの相手は二の次だ」



 うめいて、飛び出そうとするモモタロスさんにネガタロスが言い放つ――そして視線を向けるのは、僕達じゃなくて……



「“蝿蜘苑ようちえん”の首領、万蟲姫。
 以前の約束通り、また来たぞ」



 そう。バカ姫だ――って、『約束』……?



「以前保留にした返事、聞かせてもらうぞ。
 オレ達の“悪の組織”に、協力するか否か」



 あ………………



 そういえば……さっき言ってたっけ。『仲間にならないか誘われた』って。



「お前達が加われば、オレ達の“悪の組織”はさらに磐石になる。
 今のうち、こっちについておいた方が得策だぞ……実際、“コイツら”はそう考えてオレについた」



 “コイツら”……!?



 眉をひそめる僕らの前で、ネガタロスの背後から姿を現す人影二つ――って!?



「アークオルフェノク……!?」

「パラドキサアンデッド……ハートのカテゴリーキング!?」



 そう……オルフェノクの“王”とアンデッド最強カテゴリー、キングの一角――それが、ネガタロスと共に現れた。



 オルフェノクと、アンデッドが……ネガタロスについた……!?



「……単純に、二つの敵がアイツらについた、ってだけなら、まだいいんだけどね……」



 ウラタロスさん……?

 その意味を問いただそうとするよりも早く、モモタロスさんがアイツらに向けて叫んだ。



「お前ら……」







「まさか大ショッカーの!?」







 『大ショッカー』……?



《ショッカーって、確か最初の仮面ライダー、1号の敵の……?》

「うん。でも、『大』って……?」



「そのままの意味さ」



 眉をひそめる僕やアルトに、ネガタロスが答えた。



「かつてのショッカーが、さまざまな悪の組織を吸収、ひとつにまとめ上げて誕生した、より強大なショッカー、それが大ショッカーだ。
 まぁ、結局は今までの悪の組織同様、“ライダー大戦”の果てにライダー達につぶされたんだがな」



 ――――――っ!

 さっき良太郎さんが言ってた、『“ライダー大戦”で戦ったもうひとつの相手』って……コイツら!?



「そういうこと――そして今は見ての通りだ。
 ライダー達に敗れて、散り散りになった大ショッカーの残党達は、オレ様の“悪の組織”のもと再びひとつになった。
 そう。コイツらはもはや大ショッカーではない。
 オレの下に集った、オレのショッカー……」











「ネガショッカーだ!」



「名前がまんますぎるわっ!」











 例によってジュンイチさんのツッコミが炸裂した。







「そんなオレのネガショッカーに、お前ら“蝿蜘苑ようちえん”は名を連ねることができるんだ。光栄なことだとは思わないか?」



 …………あ、流した。



「さぁ……改めて返答を聞こうか。
 ネガショッカーに加わるか……それともここでつぶされるか」

「フンッ、結論など、とうに出ておるわ!
 お前達の味方など、してたまるものか!」



 あくまで話を自分ペースで進めるネガタロスに対して、万蟲姫もキッパリと言い返す。



 まぁ、見た感じネガタロスのノリは万蟲姫とは相性悪そうだし、ここは断るに決まってるよね……











「本当に、それでいいのか?」











 …………って、ネガタロス……?



 言ってることはお約束の勧誘の流れだけど……なんか異様に余裕っぽいんですけど。



「お前ら自信がわかっているだろう? “お前ら瘴魔の生態は”
 ……“今のままで、お前達は生きていけるのか”?」

「――――――っ!
 アイツ……っ!」



 ジュンイチさん……?



「ネガタロスのヤツ……痛いところをついてきやがった……っ!
 人間である瘴魔神将はともかく……“普通の瘴魔は、人間と敵対せずには生きられない”……っ!」



 ………………あぁっ!



 改めて視線をネガタロスに戻す……あの余裕はそういうことか!



「瘴魔の生きる糧は人間の負の思念。
 恨みや怒り、悲しみや恐怖……それらがなければ生きられない種族が、平和な世の中で生きていけるのか?」



 万蟲姫達の個人感情とは別に……瘴魔全体のことを考えたら、万蟲姫達は僕らと敵対せざるを得なくなる。

 理由は簡単。“そうしなければ瘴魔は生きていけないんだから”



 瘴魔が生きていくためには、ネガタロスの言う通り人間達が負の思念を抱かなければならない。

 瘴魔が人間を襲うのはそもそもそのためなんだから。人間達を傷つけることで悲しませ、自分達を恐れさせ、憎ませる、そのために……



 でも、そんなことすれば人間側からすれば敵対対象になるのは当然のことで……

 瘴魔神将とか関係なしに(そもそもイクトさんによれば瘴魔神将かどうかも怪しいらしいし)瘴魔のためにがんばってる万蟲姫が、その問題を放置できるはずがない。



「さぁ、どうする、瘴魔の首領殿?
 瘴魔はその存在自体が人類の敵対者――瘴魔という種を重んじるなら、こちら側につくのが当然の選択だと思うがな」

「わらわ達瘴魔は、人類の敵……っ!」



 万蟲姫……っ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……いた! あそこ!」

「ガスケット!」



 現場のあまり凄惨さにダウンしてしまったけど、いつまでも倒れてなんかいられない――ロングアーチから連絡を受けて、犯人の現れたっていう現場に駆けつけて……そこにガスケットがいた。



 …………って、え?



「ガスケットが……まだブッ飛ばされずに残ってる!?」

『……そういえば!』

「待て、スバルも他の連中も。
 お前らオレのことをどう思ってる?」

『吹っ飛び担当』

「全員で即答かよ! いや、自覚あるけどさ!」

「で、そんなことより」

「話振っといて『そんなこと』で終わらすなよ!」



 いや、それよりも気になることがあるから。



「ガスケット……例の怪人見つけたんじゃないの?
 なのに、なんでこんなところにボケッと突っ立ってるの?」

「そうよ!
 まさか逃がしたんじゃないでしょうね!?」

「いや、それがさ……」



 あたしやティアに答えて、ガスケットが指さしたのは、戦闘の巻き添えで壊されたらしいブティック。



 ただ……そこからなんかすごい音が響いてくる。



 まるで、誰かがそこで戦ってるような……



「まさか、あそこに問題の怪人が……?
 でも、誰かと戦ってるみたいな……誰なんですか?」

「いや、オレも戦ってるのが誰だか……」



 ガスケットがエリオに答えた、ちょうどその時――轟音と共に人影がブッ飛ばされてきた。



「出やがった!
 お前ら、囲め! こいつが犯人だ!」

「言われなくたって!」



 ティアがガスケットに答えて、全員で怪人を囲んで――











「でやぁぁぁぁぁっ!」



「きゃあっ!?」











 その囲みは、“外から”破られた。



 怪人を追ってきたんだろう。ブティックから飛び出してきた人影が、驚くキャロの頭上を飛び越えて怪人に殴りかかったんだ。



 上半身を赤いプロテクターに包んだ、どっちかっていうと電王とかゼロノスに近い感じの……











「あぁぁぁぁぁっ!?」











 ――って、こなた!?



 見ると、こなたを筆頭にカイザーズのみんなが駆けてきて――で、こなたは何そんなに驚いてるの?



「い、いや、だって……」











「どうして、クウガがここにいるの!?」











 って、クウガ……?



「そうだよ!
 仮面ライダークウガ! 電王の先輩さん、平成ライダー第一号!
 それがどうしてここにいるの!?」

「い、いや、あたしも何がなんだか……」



 こなたに答えて、あたしはガスケットへと視線を向ける――どういうこと?



「オレだってわかんねぇよ。
 いきなり飛び込んできて、体当たりでアイツとブティックに飛び込んで、そこからオレの見えないところでガチファイト……な流れでさ」



 そんな話をしている間も警戒は怠らない――クウガってライダーの方が怪人を圧倒してて、手出しする必要ない感じだけど、それでも一応……ね。







「ガァアッ!」







 怪人の爪をかわして、クウガがエリオの方に転がって――











「エリオ! 槍貸せ!」











 え…………?



「いいから出せ! ストラーダ!」

「え? あ、はいっ!?」



 いきなりクウガに声をかけられて、エリオは思わず、って感じでストラーダを差し出して――迷わずクウガはそれを手にして、








「超変身!」







 その言葉と共に――クウガの色が変わった。



 プロテクターが、そして瞳やベルトのバックルに収まっている宝石の色が赤から青へ。



 さらにストラーダも。全体が変化して、シンプルなロッドに――って!?







「あぁぁぁぁぁっ!
 す、ストラーダがぁっ!?」

「心配すんな! 後で元に戻る!」







 自分のデバイスが変化して悲鳴を上げるエリオに答えて、クウガは怪人をロッドで打ち据える……え? あれ? どういうこと?







 ――なんでクウガは、エリオの名前を知ってたの?



 それにストラーダの名前も……そんなことを考えている間に、怪人はクウガから距離を取る。



 あたし達がうかつに手を出せず、それでいてクウガのロッドの間合いの外、そんな微妙な距離を保ちながら、こっちに意識を向けているのがわかる。スキを見て逃げ出すつもりだろうけど……







「ティアナ! クロスミラージュ!」







 って、今度はティアとクロスミラージュ!?







「な、なんであたしの名前まで!?」



「いいからよこせ!」







 戸惑いっぱなしなのはあたしだけじゃない。動揺してるティアの手からクロスミラージュを奪い取って、







「超変身!」







 また姿が変わった。今度は緑に――そんなクウガの手の中でロッドがストラーダに戻って、同時にクロスミラージュが縦に弓が取り付けられた形のボウガンに変わる。







「くらえっ!」







 怪人を狙って、引き金を引く――不可視の弾丸が怪人を襲う。



 それをかわして、怪人がクウガに迫って――







「させないよ!」







 今のクウガが射撃用のフォームなのは見ればわかる。近接戦に持ち込もうとした怪人の狙いを先読みしたあたしがフォローに入って、マッハキャリバーで蹴りを一発。







「ナイスフォローだ、スバル!」







 あたしの名前まで……っ!?



 あたしの蹴りで倒れ込む怪人に向けて、クウガは元の赤い姿に戻って突撃。元に戻ったクロスミラージュをティアに投げ返しながら、怪人に殴りかかる。



 左右のコンビネーションから、連続しての回し蹴り……ん?







「…………スバル?」



「いや……なんか、アイツの動きに見覚えがあるような気が……」







 首をかしげているあたしに気づいたかがみに素直に答える――怪人はクウガのラッシュに圧倒されて地面に倒れ込んで、対するクウガはより重心を落としてかまえる。







「オォォォォォッ!」







 クウガが思い切り気合を入れて――右足にエネルギーが集中していくのが見た目にもわかる。



 身を起こす怪人に向けて跳躍、空中で宙返りの要領で体勢を整えて――











「でぇえりゃあぁぁぁぁぁっ!」











 “力”が集中した右足で、怪人に向けて渾身の飛び蹴り!



 あたし達の目の前で、一撃を受けた怪人が地面に転がる――蹴り込まれた場所には、何かの紋章のようなものが刻まれている。



 その紋章から、何かがベルトに流れ込んで行くのが見えて――







「ガァアァァァァァッ!?」







 断末魔の悲鳴と共に、怪人は木っ端みじんに吹っ飛んだ。







「うしっ! 終わった!」







 それを見て、クウガはガッツポーズ……で、当然気づく。



 あたし達が、そのクウガを取り囲んでいることに。







「……まぁ、当然こうなるわな」



「えぇ、当然よね。
 ソイツを倒してくれたからには、こっちと敵対する気はないみたいだけど……悪いけど、正体もわからないヤツを信用する気はないのよ」







 ため息まじりにつぶやくクウガにティアが答える。

 うん。あたしとしては信用してあげていいと思うんだけど、何か知ってるんなら教えてほしい。なので、あたしもティアに賛成して包囲に参加してる。







「敵じゃないから信用してくれ……は、ムリか」

「わかってるみたいだから多くは言わないけど……こっちの要望どおりには、してくれないみたいね」

「残念ながら、な」







 クウガが答えて、あたし達との間に緊張が走って――











「――――――っ!?
 みんな、散って!」











 気づいたあたしの声に、みんなが散開――直後、包囲の一角、あたしがいたあたりの地面を銃弾が叩く。



 そして――







「クウガ!」







 バイクに乗って突っ込んでくる、真っ白なアーマーの……



「ちょっ!?
 クウガに続いて、今度はイクサ!?」



 またまたこなたから上がる驚きの声……って、また新しいライダー!?



 そんなあたし達のスキをついて、クウガは新しいライダーのバイクに乗って走り去ってしまった……あぁっ! 逃げられた!



「ガスケット! 追いかけなさい!」

「あいあいさーっ!
 トランスフォーぶっ!?」



 かがみに答えてトランスフォームしようとしたガスケットの顔面に銃撃――バイクの後ろにまたがるクウガが緑色に変身、銃撃したんだ。



「…………どうしようか、ティア……」

「どうもこうもないわよ。
 事件を起こした怪人は新しく乱入したライダーに倒されました。けどそのライダーから話は聞けず、取り逃がしました……そう報告するしかないわよ」

「組織人は大変だねー」



 あたしに答えて、ティアは深々とため息。こなたの小ボケもあんまり気休めにはならない感じ。



 あー、もう。クウガにイクサ……だっけ? いっぺんにライダーが二人も出てくるなんて……



 それに、あたし達はまだ出会ってないけど、この事件への介入が確認されてる、ディケイドとディエンドっていう二人のライダー……



「まるでスーパーサイy……じゃない。仮面ライダーのバーゲンセールだな……」



 こなた……それ、また何かのネタ発言?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さぁ……答えを聞かせてもらおうか」



 沈黙した万蟲姫に対して、ネガタロスがさらに言葉を重ねる。



 対する万蟲姫は黙り込んだまま……さぁ、どう出る……?



「ねぇねぇ、恭文。
 あの子達、どうなっちゃうの……?」



 そう訊いてくるリュウタだけど……うん、答えなんか決まってる。



《簡単な話です。
 彼女達がネガタロスの誘いを受ければ、すなわち私達の敵に回るということです》

「えぇっ!?
 ヤだヤだ! ハチさんやあの子、いい子だもん! 戦いたくなんかないよ!」



 リュウタの気持ちもわかるけど、こればっかりは……







「さぁ、選べ。
 オレ達と機動六課、どちらを敵に回すかをな」







 沈黙したままの万蟲姫に対して、さらに続けるネガタロス。万蟲姫に選択の余裕を与えないつもりか……











「………………わかった」











 ………………っ! 万蟲姫……!?







 僕らの目の前で、万蟲姫はゆっくりと歩き出して、ネガタロス達のもとへと向かう……まさか!?



「そうだ。それでいい。
 お前達瘴魔は人類の敵……オレ達と共にあるべきなんだよ」



 言って、ネガタロスが万蟲姫に向けて手を伸ばす。



 僕らの目の前で握手でもするつもり? まったく、イヤミにも程ってモノが――







「………………なぁ、ネガタロス」







 ……って、万蟲姫……?



「何事も、盲点というのは案外簡単に見つかるものだとは思わぬかえ?」

「何………………?」

「こう言っておるのじゃ。『お前の主張には決定的な穴がある』とな――」











「――――ホーネット!」











 まさに一瞬の出来事だった。



 万蟲姫の言葉に地を蹴ったホーネットが――





















 ネガタロスに一撃を加えたのは。





















「ぐぅ…………っ!?」



 惜しい。防御された――衝撃で数メートル押し戻されながらも、クロスアームブロックでホーネットの手刀を受け止めたネガタロスはなんとか踏みとどまる。



「何のつもりだ……!?」

「フンッ、バカめが。まだ気づかぬかえ?」



 うめくネガタロスを、万蟲姫は鼻で笑う――バカに『バカ』って言われたら、ネガタロスも屈辱だろうなぁ……



「大きなお世話じゃ、恭文!
 ……さて、ネガタロスよ。お主は言うたな? 『人と瘴魔は共に歩めぬ』と」



 僕へのツッコミは忘れず、それでも毅然とした態度でネガタロスに告げる――いつも思うけど、この子ホントに10歳? シリアスモードのはやてばりに貫禄あるんですけど。



「しかし……忘れておるじゃろ。
 確かにお主の言う通りじゃがの……」











「……だからと言って、お主の組織に加わらなければならない理由にはならぬ!」











 …………うん。まぁ、そうだよね。



 瘴魔は確かに“人類の敵対種”だけど、それとネガタロスのネガショッカーに加わらなければならない理由はイコールじゃない。



「たとえ人間と共に歩めなくとも、お主達と共にゆくつもりもないわっ!
 わらわ達“蝿蜘苑ようちえん”は、貴様らの参加には加わらず独自の道をゆくまで」



 ホーネットとメープルを傍らに控えさせ、万蟲姫がネガタロスをさらに突き放す。



「それにのぉ、ネガタロス。
 確かに、わらわ達は人類の敵かもしれん。
 じゃがの……」





















「わらわ個人は、恭文の味方じゃ!」





















 万蟲姫の宣言に、全員の視線が僕に向く――いやあの、僕にどうしろと。



「ンなの、言わなくてもわかるだろ。
 お前がハッキリ断らないから、アイツはいつまで経ってもお前のことをあきらめないんだぞ」

「何度も断ってるんですけど!? そもそもの最初から一貫してっ!
 それなのに“これ”なのをいったいどうしろと!? つか、本命すら定まらずにフラフラしてるジュンイチさんには言われたくないわっ!」



 ジュンイチさんに力いっぱい言い返す――うん。本気で僕にどうしろと?







「……つまり、交渉は決裂、か……」







 一方、、そんな僕らに対して、ネガタロスはため息をついて――











「じゃあ、死ぬしかないなぁ!」











 その言葉と同時――現れた。







 ビルや建物というガイドレールに導かれるように大通りを闊歩して、身長ン十メートルはあろうかという巨体が、僕らの前に。







 コイツは……











「驚いたか?
 まさか、ダイダラボッチが出てくるとは思わなかっただろ!」



「ダイダラボッチ……
 妖怪の名前そのままってことは……魔化魍まかもうか!?」



「まさか……コイツも例の“大ショッカー”とかいう組織にいたヤツか!?」



 思わず声を上げる僕にイクトさんが驚く――うん。たぶんその「まさか」。



 魔化魍まかもうというのは、平成仮面ライダーのひとり、響鬼が戦っていた妖怪がモチーフの怪物群。

 人型もいればこういうデカブツもいる……ダイダラボッチはテレビでは見てないタイプだけど、イマジンにだって僕らが『物語』の中で見たことのないヤツもいた。その類でしょ。

 とにかく……大ショッカーとやらがライダーの敵組織をまとめ上げて作られた組織だとしたら、魔化魍まかもうがいたって何の不思議もないんだ。



 と、僕らに向けて、ダイダラボッチが右足を振り上げる――僕らが散開したその後に、僕らを踏みつぶそうとしたダイダラボッチの右足が叩きつけられる。



「上等だ! デカブツを連れてこれば勝てるワケではないと教えてやる!
 恭文! ゴッドオンだ!」

「うん!」



 こちらに声をかけてくるマスターコンボイにうなずいて――



「おっと、そうはさせないぜ!」



 ネガタロスの言葉と同時、マスターコンボイの足元の地面が砕け散る。



 その下から飛び出してきたのは――







「ツチグモ!?」







 ダイダラボッチと同じ、魔化魍まかもうのツチグモだ――最初からそのつもりでいたんだろう。こっちが対応に動くよりも早く糸を吐いて、マスターコンボイを絡め取ってしまう。



 オマケに、再度地面が砕け散り、飛び出してくる三体目の魔化魍まかもう――バケガニまで!



「くそっ! 伏兵とはやってくれるじゃねぇか!
 良太郎! デンライナーでいくぞ!」

「う、うん!」



 モモタロスさんの言葉に良太郎さんがうなずいて――







「あー、いらんいらん」







 あっさりと答えるのはジュンイチさん――今度は何やった、この策謀好きが。



「策謀好きとは失礼だなぁ。
 ただ単に……」



 言いながら、ジュンイチさんはそれを取り出して――











「お前らがデンライナー持ち出すより、オレが呼んだ援軍の方が早いってだけの話だよ」











 メール送信完了を示す携帯電話を見せるジュンイチさんの背後で、











「せぇいっ!」

「はぁっ!」











 バケガニとツチグモが獣帝神いぶき竜王神なずなにしばき倒された。











「な………………っ!?」







 頭上を、ブッ飛ばされたバケガニとツチグモが飛び越えていく――さすがにこれは予想外だったのか、ネガタロスは思わず声を上げた。



「いい気になってんじゃねぇぞ。
 トランスフォーマー戦力持ってる連中相手にするのに、備えないワケねぇだろうが。バカかてめぇ」



 そんなネガタロスを、ジュンイチさんが情け容赦なく罵倒する……いやでも、何でこの二人?



 いくらなずなが前回ワルトロンを圧倒してるとは言っても、いぶきもなずなもトランステクター戦はド素人だよ?

 萌えと燃えだけでなくちゃんと実利も計算して策をめぐらせるジュンイチさんのことだから、意味があってのメンバー選出なんだろうけど……



「ん?
 単に、『ネガタロスのヤツが魔化魍まかもう出してくるだろうから、こっちも妖怪退治の専門家かなー?』ってだけだけど?」



 ………………はぁ!?



「バカな……!?
 お前、オレが魔化魍まかもうを差し向けてくるだろうと読んでいたっていうのか!?」

「まぁな。
 大ショッカー改めネガショッカーの話題が出た時点で、割とあっさり」



 うめくネガタロスに対して、ジュンイチさんが答える。



「再三言ってるだろ――自己顕示欲が強すぎるんだよ、お前は。
 だから、手に入れた戦力はお披露目せずにはいられない――大方、今巷でゲーム中のグロンギもその辺がらみで差し向けてきたんじゃねぇの?
 となりゃ、後はどこのどちらさんを仕向けてくるか、だけど……前回お披露目しているアクトロン&ワルトロン、それから“カイ”とかいうヤツは除外だ」

「え? なんでそんなことがわかるの?」

「大ショッカーとやらを参加に加えたんだろ? そいつらがお前らの言ってた通りの連中なんだとしたら、古今東西ほうぼうのライダー悪役軍団を取り込んだってことだ。
 そしてアイツの自慢好き……お披露目したいヤツがそこら中に控えてる状態で、すでにお披露目済みのヤツをまた出してくるようなヒマはねぇ」



 聞き返す良太郎さんに、ジュンイチさんはあっさりと答える。



「で、他の連中の中でどいつを出してくるか。
 すでに活動中のグロンギと、お前自身が連れてきたオルフェノクにアンデッドはないとして、ハデにお披露目できて、且つ、このメンバーに対抗できる戦力……となれば、候補は自然と絞られる。
 そう――生身のザコ怪人出してきてもオレ達に速攻つぶされるだけ。それよりも即時展開できる巨大戦力がマスターコンボイしかいないこの状況で魔化魍まかもうをぶつけた方が、お披露目しながらでも十分に勝ちの目を狙える……
 ……とまぁ、そんな感じで先読みして、こっちはいぶきとなずなを呼んだワケだ。
 推理説明の長ゼリフ、ご清聴ありがとうございました、と♪」



 そう締めくくると、ジュンイチさんはいぶきとなずなへと声をかける。



「まぁ、いきなり呼び出されて状況とかわかんないだろうけど、そのクモとカニは遠慮なく殺っちまっていいからなー」

「言われなくても!」

「どう見ても悪モンやしな! 手加減なんかせぇへんわ!」



 答えて、いぶきがツチグモに、なずながバケガニへと突撃する――あっちはあっちで、任せておいても大丈夫だね、うん。



「で……あの一番でっかいダイダラボッチはどうするの?」



「それについても心配無用♪」



 あっさりと僕に答えて、ジュンイチさんが足元に術式陣――僕らで言うところの魔法陣、そのブレイカー版を展開する。



「お前らにとっては手を焼くサイズでも、オレにとっちゃ適性サイズだ!」







「――かもんっ、ブイリュウっ!」







「はいはーいっ!
 呼ばれて飛び出てぱんぱかぱ〜んっ!」



 ジュンイチさんの目の前に光の玉が生まれ、弾ける――ノリの軽い声と共に現れたのは、“プラネル”と呼ばれるジュンイチさん達ブレイカーの相棒、ブイリュウだ。

 ……なるほど。



「そういうことですか。
 じゃあ、ダイダラボッチはお任せしてもよし、ということで」

「おぅ、任せろ。
 代わりにネガタロスの相手、頼むぜ――たぶんあっちも今回はもう観戦モードだと思うけど」



 僕に答えて、ジュンイチさんは改めてブイリュウに告げる。



「そんじゃ、いくぜ、ブイリュウ!」

「あいあいさーっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ブレイカーゲート、オープンっ!」



 ブイリュウが叫び、自らの身体を構成している精霊力の一部を解き放つ――それは空間を歪め、穿ち、彼方へと通じる“門”となる。



「ゴッド、ドラゴォォォォォンッ!」



 その“門”の向こうに向け、オレがその名を叫ぶ――と、“門”から炎があふれ、その中からそれは姿を現す。

 炎の真紅と対照的な青い装甲に身を固めた、人型に近い体格のドラゴン型機動メカ――ブレイカービースト、ゴッドドラゴンだ。



「エヴォリューション、ブレイク!
 ゴッド、ブレイカー!」




 続けて響くオレのコール――合身命令を受け、ゴッドドラゴンが翼を広げて急上昇。上空で変形を開始する。



 と、その両足がまっすぐに正され、つま先の2本の爪が真ん中のアームに導かれる形でつま先から離れた。

 アームはスネの中ほどを視点にヒザ側へと倒れ、自然と爪もヒザへと移動。そのままヒザに固定されてニーガードとなる。



 続いて、上腕部をガードするように倒れていた肩のパーツが跳ね上がり水平よりも少し上で固定され、内部にたたまれていた爪状のパーツが展開されて肩アーマーとなる。



 両手の爪がヒジの方へとたたまれると、続いて腕の中から拳が飛び出し、力強く握りしめる。



 頭部が分離、ボディ正面に合体し直して胸を飾り、首部分は背中側へと倒れ、姿勢制御用のスタビライザーとなる。

 分離した尾が腰の後ろにマウントされ、ボディ内からロボットの頭部が飛び出すと人のそれをかたどった口がフェイスカバーで包まれる。



 最後にアンテナホーンが展開、その中央のくぼみにはまるように奥からせり出してくるのは、このボディの力の源、精霊力増幅・制御サーキット“Bブレイン”。



「ゴッド、ユナイト!」



 そして、宣言と共にオレの身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。



 オレの意志と連動したすべてのシステムが起動し、カメラアイと額のBブレインが輝く。



 改めて拳を握りしめ、機体の調子を確かめながら軽く演武。ゴッドドラゴンとひとつとなった、この姿の名を名乗る。



 その名も――











「龍神合身! ゴォォォッド! ブレイカァァァァァッ!」






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