頂き物の小説 第15話「ゼロと北斗と今、再びのネガい」 「……と、ゆーワケで。 厳正なる課内投票の結果……ワニイマジンの新しい名前が決まりました」 まさにお約束。何が『と、ゆーワケで』なのかよくわからない出だしと共に、はやては集まった僕らに対してそう切り出した。 そのとなりにはビッグコンボイが控え、そのまたとなりで……ワニイマジンが頭を抱えてる。 まぁ、納得ではあるんだけど。だってどういう名前に決まったかだいたい想像つくから。それがワニイマジンにとって心底不服なのも知ってるから。 「ワニイマジンさんや。 今日からあなたの名前は……」 「ピータロスに決定や!」 「あぁぁぁぁぁっ!」 はやての言葉がトドメになって、ワニイマジン改めピータロスが天井を仰いで絶叫する。 「まぁ、観念しぃ。 今さら改めて論じようにも、もう完全にみんなの中で定着してまったし」 「ここから新しい名前を考える方が手間というもの。誰もがこの名前に投票するのも当然だ」 「そもそもみんなの投票で決めるって形からしておかしくないか!? 当事者の選ぶ権利はどこ行った!?」 なぐさめるどころか「あきらめろ」と追い討ちをかますはやてとビッグコンボイにピータロスが抗議の声を上げる――もちろんはやて達も僕らも聞く気はないけれど。 「ぷくく……よ、よろしくな。ピータロス……っ!」 「先輩、笑っちゃかわいそうだって……ククク……っ!」 「わーい、よかった、ボクさっさと決めてさっさと名乗って」 「泣けるでっ!」 「ふむ、よいのか悪いのかはわからんが、私の気高い名前には及ばない事は確かだな」 モモタロスさん達、イマジンズにもおおむね好評な様子。でもって…… 「ピータロス……?」 「そうだぞー、ヴィヴィオ。 もうみんなから呼ばれまくってたけど、今日からアイツは正式にピータロスだ」 一番タチが悪いのがこの人。ジュンイチさん、ヴィヴィオに『ピータロス』の名前をすり込んで反論を封じ込めにかかってる。 「よし、改めてあいさつしてこい、ヴィヴィオ!」 「うん! よろしくお願いします! ピータロスさん!」 「うぐ……っ!」 元気に頭を下げるヴィヴィオに、ピータロスはそれ以上何も言えなくて―― 「あっはっはーっ。ピーちゃん、人気者やなー♪」 「そもそも貴様のその呼び方が定着の原因だろうがっ!」 笑ういぶきに、ピータロスがドロップキックをぶちかました。 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か―― 『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達 第15話「ゼロと北斗と今、再びのネガい」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「トランス、フォーム!」 ウチの言葉に従って、ジュウライオンとジュウゴリラが全速力で走り始める。 と、ジュウゴリラが背中のブースターの力を借りて大ジャンプして――その身体が“割れた”。背中を基盤として支えにする形で、そこから支えられる頭部をその場に残して左右にスライド。左右の半身と頭部に囲まれる形で、真ん中にぽっかりと空間を作り出す。 ジュウライオンの方は四肢を全部たたむと身体が縦に三分割。ケツの方を支点に左右の身体が後ろに回転。180度正反対を向いたところで固定されて、スライドして伸びるとつま先が出てきた。ライオンの頭部が胸側に倒れて、ボディの中央部と下半身がこれで完成。 合体形態への変形が終わったジュウゴリラとジュウライオンが近づいて―― 「獣王、合体!」 ウチの叫びを合図に、ジュウゴリラが左右の半身で、ジュウライオンの身体を背中側からはさみ込むように合体する! ジュウゴリラの両拳が分離、その内側からロボットモードとしての拳が現れ、分離した方の拳は両肩に合体して肩アーマーとなる。 ジュウゴリラの頭部、てっぺんの部分が中華料理屋のターンテーブルのように180度回転。後ろに突き出るようになっとったトサカが前面を向く――その動きに連動して、顔も頭ン中で回転。入れ替わって、ビーストモードとしてのそれに代わってロボットモードとしての顔が現れる。 「ゴッド、オン!」 ここでようやくウチのゴッドオン。まーくんとひとつになる時みたいに、光となって完成した身体に溶け込んで、ウチ自身がこの機体そのものになる。 すべてのシステムが連動して、全身に力がみなぎるんがわかる――額のトサカが左右に開いて兜飾りになる中、拳をグッと握りしめて、ウチが力いっぱい名乗りを上げる。 「獣ぅぅぅぅぅ帝っ! 神――――っ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ふむふむ、なるほどねー」 一通り僕らの説明を聞いて、実際にいぶきに獣帝神への合体を目の前で実践してもらって――うんうんとうなずいているのは、お久しぶりのマグナさん。 先日のディセプティコンとの戦いで、二つに割れた“レリック”のケースはそれぞれが欠けたところを補うように自己修復。 それだけじゃなくて、それぞれがいぶきをマスターとする形でトランステクターに変化、さらに合体までしてみせた。 トランステクター同士の合体、それ自体は前例がないワケじゃない。 かがみ達のトランステクターがその“合体できるクチ”だっていう話だし、ジェットガンナー達トランスデバイス、GLXナンバー達がマスターコンボイとゴッドリンクできるのだって、彼らのボディにトランステクターが流用されているおかげだって言うし。 けど……ひとつの“レリック”のケースから複数のトランステクターが……なんてケースは聞いたことがない。 そこで、ぜひとも意見を聞いてみよう、ということで、さっそくマグナさんに来てもらったんだ。 で、どうしてマグナさんが呼ばれたかというと…… 「どう思う? 開発者として」 「うーん…… こうして実物を見ても、当時の状況が証言だけでしかわからないんじゃ、ねぇ……」 ジュンイチさんの問いに、マグナさんはそう答えてため息――うん、まぁ、そういうこと。 永い時をコールドスリープで休眠していた、古代ベルカ人のマグナさん。実は彼女こそが、“レリック”系技術の生みの親だったりするのだ。 元々、古代ベルカ時代には聖王家と懇意にしていたマグナさんの龍王家。その両家の王様同士の友好の証……そんなテーマを隠れみのに、友達として聖王サマを守ろうとしたマグナさんの個人的感情によって、“レリックシステム”は作られた。 そして、母艦“聖王のゆりかご”もろとも聖王家に託されて……巡り巡って“ゆりかご”事件なんて起きちゃったんだから、世の中どこで何がどう絡み合うか、わかったものじゃないよね、ホント。 「まぁ、推測の域を出なくてもいいなら、私なりの仮説を話せるけど?」 「それでかまいません。 正直、私らには皆目見当もつきませんので……」 「ん。わかったわ」 答えるはやてにうなずいて、マグナさんは語り始めた。 「と言っても、仮説はいたって単純よ。 キンタロスくんの必殺技……ダイナミックチョップで真っ二つにされたケースだけど、たぶん、メインシステムもサブシステムもダメージを受けなかったんだと思うの」 そう言うと、マグナさんはウィンドウを展開。描き出したシンプルな四角形の中に二つ、小さな四角形を描き足した。 「大きな四角形を“レリック”のケース。小さな四角をメインシステムとサブシステムだと思って。 “レリック”のケースは、こうしてメインシステムとサブシステムがある程度距離をおいて配置された構造になっているわ」 「戦闘での被弾を考えた場合、同じ場所にシステムをまとめていると一緒に破壊されてしまう可能性があるから……ですね?」 「正解」 口をはさむシャーリーにマグナさんがうなずく。 「そして、キンタロスくんのダイナミックチョップは、その二つのシステムの間を断ち切るように叩き込まれた…… 結果、二つに割れたケースにはそれぞれメインシステムとサブシステムが残された。 メインシステムの残った方のケースはそのまま稼動。もう一方のケースもメインシステムと断線したことでサブシステムが起動して……」 それぞれが自分の破損を修復、さらにトランステクターとして起動して、どちらもいぶきをマスターとして選んだ……か。 「本当に偶然なのよ。 メインとサブ、両方のシステムが無事残されていたからこそ、この合体が成り立った――もしどちらかのシステムが死んでいたら、生き残った方が普通のトランステクターとして起動していたでしょうね」 そう締めくくるマグナさんだけど……まだ、疑問はすべて解消されたワケじゃない。 「けど……元々ひとつのシステムだったとはいえ、叩き割られて二つに分かれた時点でケースはそれぞれが独自に稼動し始めた……つまり、再生したケースは、本質的には別個体ですよね? ジュンイチさんはそれをヒトデに例えてましたけど。 別々に動く二つの“レリック”のケースが、同時に起動したとはいえ同じマスターを選ぶようなことがあるんですか?」 「うん、いい質問ね。 さすがは恭文くん。目の付け所が違うわ」 それはどうも。 「まぁ、単純に考えれば、一番の可能性として挙がるのは、今恭文くんが否定的な見解を示した、“元々ひとつのシステムだったから”。 元々ひとつだったから、別々に稼動し始めた今でも基本的なフォーマットは同一……適合するゴッドマスターの条件が同じだったとしても、おかしな話ではないわ」 「双子の兄弟の好みが似てるのと、同じようなもんかい」 「……まぁ、そんなところね」 あ、キンタロスさんのたとえ話にマグナさんが苦笑い。 「中途半端に的を射ているからコメントに困るわ…… あと、もうひとつの可能性は、シチュエーション的な問題ね。 話によると、その場にいた、専用のトランステクターを持たないフリーのゴッドマスターはいぶきちゃんと恭文くんの二人だけ。 そして、恭文くんはマスターコンボイにゴッドオンして、曲がりなりにも“トランステクターを使っている状態”にあった……」 「えっと……トランステクターは起動後“レリック”が収められなかった場合、代替エネルギー源としてゴッドマスターを探す。 その場にフリーのゴッドマスターがいれば即座に登録され、いなければ探索を続行したまま保留、フリーのゴッドマスターとの接触時に改めて登録される仕組みだ。 それを踏まえて状況を整理すると、あの場で起動したトランステクターは二機。そしてフリーだったゴッドマスターはいぶきただひとり……」 「だから、ジュウゴリラもジュウライオンも、いぶきちゃんをマスターとして登録して、さらに同時運用を想定して、ロボットモードはお互いの合体形態をとる形になった……」 マグナさんやジュンイチさんの説明に、なのはが納得してつぶやく……なるほど、そういう仕組みだったワケね。 「考えられるのはこの二通りのパターンだけど……今となっては、これ以上の検証は難しいわね」 「ですね。 あの時の状況を再現しようにも、“レリック”のケースを自ら割るなんてできませんし」 肩をすくめるマグナさんにはやてが答える……まぁ、それもそうだよね。 あの時は運よくシステムの制御部が二つとも壊れずに割れたけど、今度試しに割ってみたところで、今回もシステムを傷つけずに割れるかとなったら話は別だ。 それにメインシステムが壊れなかったとしても、他にもあの状況を再現する上で壊れたらマズイ部位は絶対にある。そこも壊さずに割るとなると…… 「んー、何もケースを割るところから始めなくてもいいんじゃないのか?」 って、ジュンイチさん……? 「要するに、ゴッドマスターひとりに対して、トランステクターが同時に二つ起動する……そういう状況を作ればいいんだろ? だったら……フリーのゴッドマスターをひとり用意して、その周りでトランステクターを複数、同時に起動させる。 そうすれば、同時にひとりのマスターを選ぶのかどうか、そこについては確認が可能だろう?」 「確かに、それはそうですけど……」 「それには、“まだ専用機を持っていないゴッドマスター”と“まだトランステクターになっていない“レリック”のケース二個”が必要なんですよ。 ゴッドマスターの方は恭文くんが専用機を持っていないからなんとかなりますけど、“レリック”のケースの方はどうするんですか?」 「心配無用。ちゃんとあてはあるよ」 眉をひそめるはやてのとなりで尋ねるなのはだけど、その問いに対してもジュンイチさんはあっさりと答える。 「お前ら、忘れてない? “JS事件”中――」 「オレ、独自にトランステクター用意してたんだぜ?」 そんなやり取りの後、ジュンイチさんが僕らを連れてきたのは、クラナガンの“裏”とも言うべきアウトロー街。 さすがに全員で押しかけるワケにもいかないので、ジュンイチさんに同行する人数は絞られる。僕とフェイトにイクトさん、マスターコンボイにマグナさん。そしてデンライナーから良太郎さん……って感じ。 つか、この先って…… 「ジュンイチさんジュンイチさん。 ひょっとして、ジュンイチさんが“レリック”預けたのって……ギガントボムのところだったりする?」 「恭文正解♪」 うし、ニューヨーク行きはもらったぁっ!……じゃなくて。 「ジュンイチさん、まだギガントボムに“レリック”預けてたんですか?」 「言っとくけど、今預けてる分はちゃんとはやてから許可もらってるからな。 マグナのおかげで“レリック”そのものの解析は必要なくなったけど、ゴッドマスターのことについてはマグナにとってもイレギュラーなんだからな……ちゃんと調査はしておかないと。 …………だから、そうオレをにらまれても困るんだがなぁ、フェイトさんや」 「だからってなんでギガントボムのところなんですか。 研究なら局の研究所にお願いすれば十分じゃないですか」 「ンなの、局の研究者達よりもよほど優秀だからに決まってるだろ」 スッパリと言い切ってくださいましたよ、このお方。 「局の施設、イコール優秀とは限らない。局に入ってなくても優秀なヤツはゴマンといる――スカリエッティがいい例だろ。 局の技術者よりもデキるヤツを知ってるなら、そっちに仕事持ってくに決まってるだろ。何が悲しくて、わざわざよりデキない方に任せなくちゃならないのさ?」 ジュンイチさんがフェイトに答える内に、周りは薄汚れた古ビル街から機械部品の山々に変わってる――ギガントボムの工房の敷地内に入った証拠だ。 やがて見えてくるでっかいガレージ。アレが目的のギガントボムの工房……なんだけど…… 「あー、フェイトにイクトさん、ジュンイチさんにマスターコンボイ。 なんだかすっごく見覚えのある人影を、工房の前に見つけちゃったんだけど」 「う、うん、私も……」 「あー、すごく見覚えがあるな」 「ミッドじゃ、巫女服のまま出歩くようなヤツはそうそういないしなー」 「その上、あの金髪、とくればな……」 声をかけた順に答えが返ってきた。見間違いじゃなかったのか。 それじゃあ……せーのっ! 『(雷道)なずな!?』 「え…………? って、アンタ達!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「んふふー♪ おっ昼♪ おっ昼♪ ギン姉ちゃんとお昼ごは〜ん♪」 「こら、ホクト。そんなに走らないの」 喜び勇んで今にも駆け出しそうな……ううん、今まさに駆け出す一歩を踏み出した一番下の妹を止める。まったく、こうと決めたら一直線なのはスバルの影響ね。 「間違いなく、ギン姉ちゃんにも似たと思う……」 …………こういうツッコみどころのセンスはジュンイチさんよね、うん。 私、ギンガ・ナカジマは現在、ホクトと二人で街を歩いてる。 と言っても、仕事というワケでも、たまのオフに妹とお出かけ……というワケでもない。マリーさんのところでの身体の検査だ。 私達戦闘機人は、日頃のメンテナンス的な意味でこういう検査が不可欠だ。スバルも、スケジュール上一緒には来れなかったけど明日には行く予定だし、ナンバーズのみんなもお互いにチェックし合う形で行っている。 とにかく、私達はその検査も終わって、ちょうどいい時間になったから帰りがてらお昼ごはんにしよう、ってことになったんだけど…… 「ホクト、何食べたい?」 「んーとね……」 もう勝手に走り出さないようにと手をつないだホクトが考え込む。これは長くなりそうね。 そう思いながら顔を上げると、あるものが……ううん、ある人が目についた。 茶色の髪に黒い革ジャンにジーンズを身につけた十代後半の男性。 どうして目についたかというと――その人が見ている建物だ。 腕組みした彼が真剣な眼差しを向けているのは、プラネタリウム……私達にとっても馴染みの場所。うん、名前が名前だから、小さい頃は星とか大好きで、父さんや母さんによく連れてきてもらってた。 で、彼はそのプラネタリウムに入るべきかどうか、悩んでる感じ……あれ? 彼の後ろに別の男の人が通りかかる……けど、妙に近い。通りに人なんてまばらなのに。 と、後ろポケットに入れていた財布へと手が伸び……って、スリっ!? 「……お前、何してやがる」 ……けど、私達が動こうとした時には、もう終わっていた。 素早く身をひるがえしたあの人が、スリの男の手をつかんでひねり上げたからだ。 「痛ぇ痛ぇっ! くそ、放せっ!」 「オレの質問に答えたらな。 ……で、何してた?」 「何もして」 「スリ……ですよね」 言いながら歩み寄る私に、注目が集まる……あれ? あの人の方が私を見て驚いてる? まぁ、それはともかく―― 「時空管理局の者です。しっかり見せていただきましたよ。 スリの現行犯で逮捕しま――」 「ちょいなぁぁぁぁぁっ!」 「ぐぼはぁっ!?」 私が言い切る前に蹴りが炸裂。顔面にもらったスリの男がブッ飛んだ。 そして―― 「えへへ〜、ギン姉ちゃん! 悪い人やっつけたよ! ほめてほめて〜♪」 ……ホクト。やりすぎ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……マズイ。 いや、財布が無事だったのはいい。でも、よりにもよってギンガと出くわすなんてな…… もちろん、簡単にボロを出すつもりはないけど、だからと言ってわざわざリスクを冒す必要もない。なんとかごまかしてさっさと逃げるか…… 「……すごいね、お兄ちゃん! あのスリの人、ぜんぜんそういう気配させてなかったのに」 「ま、まぁな……」 …………ちびっ子の方に捕まった。 「何か武道でもやってるの? 強い? 強いの? わたしのパパより強いかな?」 「こら、そんなこと言って困らせないの。 それに、ジュンイチさんと比べたら失礼よ。あの人何でもアリなんだから」 「むー……」 ギンガにたしなめられたちびっ子が口を尖らせる……待て待て。こいつら、今なんて話をしてた? ちびっ子の言う『パパ』って、まさか…… アイツが父親!? マジで何やってんだ、アイツ!? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……じゃあ、なずなはなずなで、イマジンを追って?」 「えぇ。 アタシが追ってた事件が、地球に流れてきていたイマジン達の仕業だったのよ」 意外なところで意外な人物とエンカウント……なので、とりあえず話を聞いてみた。 「で、イマジンと出くわして戦いになって……」 「侑斗に、会った……」 付け加える良太郎さんに、なずながうなずく。 「で、ミッドではギガントボムのところに厄介になっていたワケだ」 「まぁ、そういうことだ」 納得するジュンイチさんに答えるのは、やたらとガタイのいいトランスフォーマー。 彼こそがギガントボム。ステルス爆撃機をスキャンしたトランスフォーマーで、こんなナリでも一応フリーで凄腕のエンジニアだったりする。 「けど、誰からギガントボムを紹介してもらったんだよ?」 「スカイクェイク……アンタ達も知ってるでしょ? あの人が、イマジン関係の話を聞いたとかで、侑斗に接触してきたのよ」 ジュンイチさんの問いになずなが答える――あー、なるほど。そういうルートか。 いぶきをこっちに送ってきた時に、スカイクェイクはイマジン関係の事件が起きていることを知った。だから、地球でイマジン退治をしていた侑斗さんに接触した……ってことか。 「で、ミッドに来て、ボクらとは別にイマジンと戦ってたのか…… それで……侑斗は?」 「デネブに身体使われて、どっかに買い物に出かけたわよ」 ……まず間違いなく、晩ご飯の買い出しと見た。 「…………ふむ」 「って、ジュンイチさん……?」 今度は何企んでるんですか? 何か思いついたっぽいですけど。 「オレが何か思いついたらイコール“悪巧み”かよ…… いや、そうじゃなくてさ……」 ため息まじりに答えると、ジュンイチさんはなずなを見て、 「いぶきが獣帝神をゲットしたのになずなが何もなし、ってのも、不公平かなー、と」 「あー、そういうことか」 「え? 何? 何なの?」 ジュンイチさんと僕のやり取りについていけないでいるなずなだけど……大丈夫。すぐに“わかる”から。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ …………何だろう。 スリの逮捕に協力してくれたこの人だけど……なんだか妙によそよそしい。 と言っても、悪い感じじゃない。単に気まずいだけ、って感じなんだけど……だからこそ不思議。 初対面のはずなのに、なんでこんなに気まずそうにしてるんだろう? 「……あの」 「何だよ?」 「どうしたんですか? なんだかソワソワしてますけど」 「…………別に」 ぷいっ、とそっぽを向かれてしまった。 けど、大丈夫。それならこちらもカードを切る。 「あ、もしかしてさっきのホクトの態度が気に障りましたか? すみません。この子ってば、まだまだ元気な盛りで……」 「えー? ギン姉ちゃん、わたしが悪いの?」 ゴメンね、ホクト。ちょっとだけ悪者になっててね。 心の中で謝る私だけど……その甲斐はあったみたい。彼がピクリと反応したのがわかった。 「……ホクト、っていうのか? ソイツ」 「はい。 ……あぁ、私はギンガっていいます」 「……『北斗』に、『銀河』か……」 よしよし、つかみは悪くない。ここでたたみかける。 「星……好きなんですか?」 「はぁ? 何だよ、いきなり」 「私達の名前にそうやって反応したのと……それにさっき、プラネタリウムの前で」 私の指摘に、彼の顔が真っ赤になる。 「べっ、別に、お前には関係ないだろ!」 「関係、ありますよ。 私達、名前が名前ですから……私達も、星が好きなんです。あのプラネタリウムも、何度か」 「……そうか」 少し落ち着いたらしい彼に向けて、ニッコリと笑って右手を差し出す。 「改めて……初めまして。ギンガ・ナカジマです」 「ホクト・ナカジマですっ! お兄ちゃんのお名前は?」 「……これ、名乗らないとダメな流れだよな…… …………仕方ない。オレは……」 その時だった。子どもの叫び声……というか、悲鳴が聞こえてきた。 しかも、その声がした方から、たくさんの人がこっちに向けて逃げてくる。 ……もしかして、イマジンっ!? 「すみません、私……行かないとっ!」 「おいっ!」 「あなたはすぐにここから離れてくださいっ! いいですねっ!?」 彼にそう言い置いて、悲鳴の聞こえてきた方へと駆け出して―― 「いくよ、にーくんっ!」 「ホクト!?」 動いたのは私だけじゃなかった。ホクトも私の後に続く――愛用の大鎌型アームドデバイス“ニーズヘグU”を手に、道沿いの商店の軒先の上に飛び乗るとその上を現場に向けて走る。 「ホクト、ムリしないで! あなたの身体は……」 そうだ。ホクトは戦闘機人としての基本スペックは私達姉妹の中でも最高レベル……なんたって、ジュンイチさんの細胞や“生体核”が埋め込まれてるんだから。 けど、そのパワーにホクト自身の身体がついて来れていない。全開戦闘には時間制限があるのに、この子は……っ! 「でも、泣いてる子がいるのに黙ってなんかいられないよっ!」 ……心配、することもなかったみたい。 そうだよね、身体のことを理由に下がってなんかいられない。私も、ホクトと同じような状態だったとしても黙ってられないと思う。 何だかんだで、この子もナカジマ家の子で、あのジュンイチさんの血を引いてる子ってことか…… 「ムリはしちゃダメだよ、ホクト!」 「りょーかいっ! ホクト・ナカジマ、とっかぁ〜〜んっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ と、いうワケで―― 「うし、準備完了」 「何が『準備完了』よっ!」 サラリという僕に、なずなが力いっぱい返してくる。 まぁ、気持ちはわかるよ……そりゃ、いきなり有無を言わさず丸太にしばりつけられれば、ねぇ。 ちなみになずなのペットと化しているカマイタチのポチはジュンイチさんに捕まって彼の腕の中。脱出しようともがいてるけど、ジュンイチさんはものともしてない……というか小動物大好きなジュンイチさんのことだから意地でも放さないに違いない。 「い、いいのかなぁ……?」 つぶやく良太郎さんの頬が引きつってるけど、気にしない気にしない〜♪ 「いや、そこは気にしなさいよっ! そもそもいったい何なワケ!? 説明しなさいよ、説明っ!」 「やれやれ、しょうがないわね。 実は……」 と、ここでようやくマグナさんから事情説明……要するに、僕を相手に複数のトランステクターの起動・マスター登録の実験をしようとしてたけど、なずながいたからなずなでやってみよう、というワケで…… 「なんでアタシがいたからっていきなり実験対象がアタシに切り替わるのかがイマイチわからないけど……とにかく事情はわかったわ。 ったく、最初からそう説明してくれれば、協力するのもやぶさかじゃなかったのに」 あれ、意外に協力的? なずなの性格上実験台とか渋りそうだったから強制執行に出たっていうのに。 「アタシどれだけ話聞かない子だと思われてるワケ!? あのねぇ、アタシだって、ゴッドオンの戦力としての有効性について否定してるワケじゃないんだから。 妖怪だって、トランステクターがあった方が助かるような大型の相手はいるし、何より今起きてるイマジンの事件よ。 イマジンの暴走態……ギガンデス、だっけ? アレと戦う上で、巨大戦用の戦力はどうしたって必要よ」 うんうん。理解があるようで何よりだ。 じゃ、問題ないね。ジュンイチさん、ギガントボム。実験始めるから“レリック”のケース持ってきてー。 「その前にお前はマスターコンボイとゴッドオンしとけー。 今のまま始めちまうと、お前となずなの二人が登録の対象になっちまうからなー」 「あ、はーい」 「って、協力するって言ってるんだから、コレほどきなさいよっ!」 あ、ゴメン、忘れてた。 文句を言ってくるなずなを解放しようと、丸太の後ろに回ってロープを…… 〈ジュンイチさん、みんな!〉 って、なのはからの通信……? 〈大変、イマジンが出たの!〉 あー、また出たのか。 それで、どこに出たの? 〈そ、それが……〉 〈あちこち〉 ………………へ? 〈だから、あちこちなんだって! モールイマジンとかレオソルジャーとか……とにかくテレビでも数をそろえて出てきた種類のイマジン達が、クラナガンのあちこちに現れて、幼稚園バスを襲ったり貯水池に毒を投げ込もうとしたり街を破壊したり……〉 聞き間違いじゃなかったらしい。なのはの言葉に、ジュンイチさん、良太郎さんと視線を交わす。 「ちょっとちょっと、イマジンのみなさん、何考えてるのさ? ザコの大量投入って、ライダーじゃ思いっきりクライマックスなんだけど?」 「つか、幼稚園バスとか貯水池とか……どこの一世代前の悪の組織だよ?」 僕のつぶやきにジュンイチさんがため息をついて―― ………………“悪の組織”? その一言が引っかかった。 見れば、ジュンイチさんも気づいたのか、ため息をついた姿勢のまま静止してる。そして…… 「恭文…… お前の貸してくれている『電王』のディスクに、こういうことをしでかしそうなヤツが出ていたんだが」 あ、マスターコンボイ、もうそこまで見たんだ。 「モモ達がクライマックス刑事仕様で出てきたと思ったら、敵もクライマックス刑事仕様ってワケか……? まぁ、逆に納得だけどな……“アイツ”なら、陽動作戦とかそういう知恵が回っても少しもおかしくない。 アイツの思考パターンは、どっちかっつーとライダー系列よりもスーパー戦隊系列の悪の組織の幹部のそれに近い」 「ですね」 ジュンイチさんの言葉に納得する。となると…… 「この大規模攻撃も、何かしらの陽動って可能性がありますね……」 「この期に及んで、まだ目的は別にある、ということか……?」 僕の言葉にイクトさんがうめく――警戒は、しておくべきだと思う。 「考えろ……っ! オレがアイツだとして……これだけの騒ぎを隠れみのに、何を狙う……!?」 「ち、ちょっと待って!」 待ったをかけたのは良太郎さんだった。 「みんなが言ってるのって、ひょっとして…… でも、アイツはボクらが……」 「良太郎。 古今東西、倒したと思った敵が実は……ってのは、強固に守られ続けてきた“お約束”のひとつなんだぜ」 ジュンイチさんの言う通りだ。 もし“アイツ”がそのお約束の通りに前の戦いを生き延びていたとしたら…… 「だとしたら、マズイな…… 恭文。急いでモモタロス達と合流した方がいいかもしれない」 「だね」 マスターコンボイの言葉に同意する。 ここに来ることに対してはさほど興味を示さなかったモモタロスさん達は、僕らがこうして“検証”に来ている間にも聞き込みに出てたはず。 もし、この事件の後ろにいるのが“アイツ”だとしたら、この状況でどう動くか…… 「“前回”を教訓に、まず最大の障害である電王を真っ先につぶす……そのくらいは考えかねない。 大規模攻撃もそのためかもしれん。現場が広域にわたれば、それだけこちらも戦力を分断されることになる」 こっちを分断して、各個撃破を狙ってくるってこと……? 「ち、ちょっと待って、ヤスフミ!」 「お前達、敵の正体に心あたりがあるのか!?」 一方、ちょっぴり話についてこれないでいるフェイトやイクトさんだけど…… 「心配すんな。 これが、敵さんの本格的な行動開始を意味してるんだとしたら、主力は絶対ここに来る」 ジュンイチさん……? 「“検証”のために保管庫から持ち出されてきた二つの“レリック”。 電王の中心である、特異点の良太郎。 でもって……現状、連中にとって一番のジャマ者である機動六課、その前線の中心に立つオレ達…… 手に入れたいもの、叩いておきたいものが、ここにはそれなりに集結している」 「柾木ジュンイチ……貴様、まさか……」 「こういう事態になる可能性も見越して……?」 「こうして“エサ”を持ち出せば、絶対食いついてくると思ったよ。 もっとも――ここまでハデに動かれるとは、さすがに思ってなかったけどね」 マスターコンボイとイクトさんに答えると、ジュンイチさんは息をついて、 「そういうワケだ。 “もうバレてんだから”、とっとと出てこいよ」 ――――――っ!? ジュンイチさんの言葉に、僕らが身がまえる――まさか、もう敵は来てる!? 気配はまるで感じない。ジュンイチさんの今の言葉がただのハッタリで実は誰もいない、なんてオチならいいけど…… ――もし、僕らを相手にしても気配を消せるくらいのレベルの相手だとしたら? そう考えた、まさにその瞬間――それは現れた。 チラリと視線を向けたフェイトの向こう側、フェイトの背後にぬっと現れるイマジンの姿――フェイト! 声を上げようとした僕よりも早く、金属音が響く――金属音? 「……危ないな。 恭文とイクトの嫁に何すんだ」 ジュンイチさんだ。さすが、唯一気づいていただけあって、余裕の対応でフェイトを狙った一撃を爆天剣で受け止める。 不意討ちに失敗して、イマジンは僕らから距離を取るとその手の小振りの鎌をかまえ直す。 ――って、コイツ!? 「ジュンイチさん……」 「狙いバッチリ。 大物がかかりやがった――上級イマジンだ」 TVシリーズ最強のイマジン――死神モチーフの、デスイマジン! 「………………」 警戒を強める僕らの前で、デスイマジンは無言で鎌をかまえる。 「死刑宣告はしないのかよ? 『今日、誰それが死ぬ』ってさ」 対して、こちらからはジュンイチさんが前に出た。爆天剣を軽く振るい、声をかける。 「アレはカイにくっついてた個体特有のシュミかい? それとも――オレが相手じゃ、殺せる自信なんか持てねぇか?」 無言を貫くデスイマジンに対して、ジュンイチさんがさらに挑発して―― 「今日殺す必要はないからだ」 その答えは、デスイマジンから放たれたものじゃなかった。 声と共にデスイマジンがかまえを解いて、軽く横にどく――そして、ヤツの背後からソイツは現れた。 冬真っ盛りのはずなのに、地面から陽炎が立ち昇っているように見える――そんな禍々しいオーラと共に僕らの前に現れたのは――鬼のイマジン。 と言っても、モモタロスさんとは明らかに違う。身体の模様なんかはよく似てるけど、その全身は真っ黒で、角は左右に伸びている。 愛嬌なんかカケラも感じない顔で『お前を殺す』とか言い出しそうな声で先のセリフを放ったソイツを見て、良太郎さんがその名をつぶやく。 「……ネガ、タロス……!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「むんっ!」 「っ、とぉっ!?」 オレを狙ってきた一撃を、仰向けに倒れたオレはとっさに転がってかわす。あっぶねーっ!? 「ちょこまかと、素早いヤツだ……」 地面に突き刺さった爪を引き抜いて、オレの方へと向き直るのは、カイのヤツのところにも何体かいやがったライオンのイマジンだ。 「先輩、大丈夫!?」 「ぅわ〜、情けな〜い」 「うっせぇっ! これから反撃するところだったんだよっ!」 駆け寄ってくるカメ公やリュウタに答えて立ち上がる。 犬っ子達とつるんで街中に出てきていた時に、いきなりのイマジンどもの大量発生。当然オレ達がヤツらを相手に大立ち回り……ってところでコイツが出てきやがった。 しっかし、前に出てきたヤツらもそうだったけど、やっぱこのライオンのイマジンってのは手強くていいねぇ。 「はぁ? 相手が強いのがいいって……先輩、とうとう脳みそまでプリンになっちゃった?」 「オレ達の強さの引き立て役にゃ、もってこいだろうが!」 カメ公に言い返して、オレの剣、モモタロスォードをかまえる……って! 「おいコラ、カメ! 誰の頭がプリンだって!?」 「先輩、反応遅いって……」 「ツッコミはタイミングを外すと、きっついでぇ」 う、うるせぇっ! 「余裕だな、お前ら!」 「あぁ、余裕だよっ!」 突っ込んできたライオンのイマジンが振り下ろしてきた杖を、モモタロスォードで弾く。話のジャマすんじゃねぇっ! 「お前を倒すことなんざいつでもできるんだよ!」 「では、やってみせてもらおうか!」 オレに答えて、ライオンのイマジンが杖をかまえて突っ込んでくる。 こっちも、返り討ちにしてやろうと身がまえて―― 「あ〜〜〜ちゃ〜〜〜んっ、ホームランっ!」 「がはぁっ!?」 ブッ飛んだ。 こっちに突っ込んできていたライオンのイマジンが――オレ達にブッ飛ばされる前に。 「…………フッ。 待っていたよ、この時をっ!」 そして、ブッ飛ばした張本人は、そんなことを言いながらでっかい斧を肩に担ぐ。 「思えば、“デンライナー各車両の名前を冠したデバイスを持っている”ってだけで十分絡める余地はあったのに、彼らとのコンビネタをスバル達に奪われ続けて早1クール…… 今ハッキリと確信したよっ! あの雌伏の日々は、今この時のためにあったんだとっ!」 いろいろとアウトな発言と共にオレ達の前に進み出て、ライオンのイマジンと向き合うソイツは―― 「レオイマジン撃破の大役は、このあたしが引き受けたーっ!」 ――――あずき女!? 「あずさです! 柾木あずさ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「久しぶりだな、電王。 そして、電王に力を貸している、この世界の治安維持組織の諸君。お前達とは“初めまして”だな」 やれやれ……予想通り、厄介極まりないのが出てきたね、どーも。 「ネガ、タロス……」 「ヤスフミ……?」 「知っているイマジンか?」 「『知っている』どころの騒ぎじゃない」 フェイトやイクトさんに答えるのはマスターコンボイ。 「ピータロスがいぶきについて変身したガオウ……ヤツが元々原作の劇場版第一作目のラスボスであったことは知っているな? ヤツもそれと同じ……劇場版第二作目のラスボスだ」 「『ラスボス』か…… いいなぁ、その響き。悪の組織の大ボスであるオレにピッタリだ」 マスターコンボイの説明に満足げにうなずく様子に――確信する。 良太郎さんに『久しぶり』とのたまったこと。そしてこのノリ……間違いない。 「今まで戦ってきたイマジンのような、“同種の別個体”じゃない…… 『クライマックス刑事』の事件を生き抜いた、オリジナル……」 「お前達の感覚だと、そういうことになるらしいな、オレは」 自分との世界の関係もわかっているらしい。僕のつぶやきにもあっさりと答える。 「なるほどね。おかげでいろいろわかってきたよ。 つまり、一連のイマジン事件はすべてお前が仕組んでた、ってことか。 どうやってミッドチルダにやってきたのかはわからないけど、ここに電王がいないことを知って、こっちで再び悪の組織を立ち上げようと他のイマジン達を呼び寄せた……」 「正解だ。 大した推理力だな、人間」 「フフンッ、調子に乗るぞ? もう少し推理させてもらうなら、恭文達の地球にもイマジンが流入したのもお前達の仕業だな? 具体的には……ゼロノス組をミッドから引き離す、陽動のために」 「…………フム」 語り続けるジュンイチさんの言葉に、ネガタロスの声のトーンが少しだけ下がった。 「そして……お前らを追ってミッドチルダにやってきた良太郎達にも、手下のイマジン達に契約させ、過去に跳ばせることで陽動を展開。 “レリック”にも手下を張りつかせていたみたいだな――その目的まではさすがにわかっちゃいないが、少なくとも、お前が“レリック”のことを知ったのは、良太郎が六課を頼ってきたから改めてオレ達について調べて、そこでようやく……だろうな。 そういう流れなら、ピータロスの言ってた『お前らを観察してるうちに“少しずつ”わかってきた』っていう証言とも符合する。途中から手下を張りつかせ始めていた……すぐに張りつかせていたワケじゃなかったから、ピータロスもすぐには気づかなかっ――」 ジュンイチさんの長セリフが途絶えた。 ネガタロスの目配せを受けて飛び込んできたデスイマジンの鎌を、ジュンイチさんがかわしたからだ。 「やれやれ、いきなりずいぶんと攻撃的だね。 それに、お前らしくもない――まさか、今話したの全部図星?」 余裕で攻撃をかわしたジュンイチさんが尋ねるけど、ネガタロスは答えない。 「……図星と受け取らせてもらうぜ。 その上で、デスイマジンに不意討ちさせてまでオレを仕留めようとした……どうやら、オレ達に知られちゃ都合の悪い情報も、何かしらあるっぽいね。 そして、オレならその情報にたどり着きかねない。ヘタしたらたどり着いてるかもしれない――だから消す。そんなところかな?」 「……単に、お前の長い語りに飽きただけ、という可能性は――」 「ねぇな、お前に限って」 ジュンイチさんはキッパリと否定した。 「自分から“悪の組織”なんて名乗っちまうくらいなんだ。お前の自己顕示欲は相当だ。 そんなお前が、相手が自分の完璧(仮)な計画について語る場面に自分から水差すとは思えねぇ。 水を差す理由があるとすれば、それは“語られたら都合が悪いことがあるから”……違うか?」 「……なるほど。 さすが、世界を相手に対等にケンカをしただけのことはある」 「その評価は光栄ではあるけど、ほめてくれてもいいことないよ。 首一本折られるだ……けっと!?」 応えたジュンイチさんがとっさに身をそらして、自分の首を刈る勢いで振るわれたデスイマジンの鎌をかわす。 「やれやれ……本格的にオレの口をふさぎたいらしいね」 「あぁ、そうだな。 ここまで来たら素直に認めよう。貴様の存在は、オレ達にとってかなりのジャマになりそうだ」 ジュンイチさんの言葉に、ネガタロスが答える――ほぅほぅ。 「……だそうだ。 言われてるぜぇ、お前ら」 「ですね」 「オレ達は大した脅威ではない――そう言いたげだな」 「甘く見られたものだな」 ジュンイチさんに答えて、マスターコンボイやイクトさんと一緒に前に出る。 まったく、さっきから聞いていれば、こっちを眼中ナシ扱いするにもほどってものがあるでしょうが。 ……まぁ、比較対象がジュンイチさんってことで、いろいろと複雑なモノはあるけどさ。「チート」って言葉が服着て歩いてるようなジュンイチさんと対等に見られるのも何かアレだ。 「恭文くん、ボクも……」 「野上良太郎、貴様は下がっていろ」 と、僕らに続こうとした良太郎さんをマスターコンボイが止める。 「モモタロス達が合流していない以上、貴様の変身できるフォームは限られる。 敵戦力がアレで打ち止めとは思えんしな……イレギュラーに弱いお前は、敵戦力が一通り出そろってから悠々と重役出勤でもしてくればいい」 「フェイト、良太郎さんをお願い」 「うん」 フェイトがうなずいたのを確認して、ジュンイチさんと並び立つ。 「じゃあ、いい加減始めようか」 「数で不利だからといって、容赦はせんぞ。 それとも、モールイマジンどもを呼び寄せて、“質より量”で攻めてくるか?」 「フンッ、数、か……」 僕と一緒に言い放つイクトさんの言葉に、ネガタロスは不敵に笑うと傍らのデスイマジンと顔を見合わせて、 「安心しろ。 数については“すぐに気にならなくなる”」 その言葉と同時、僕らが散開――同時、僕らのいた場所に、それは轟音と共に着地した。 巻き起こった土煙が視界を覆う中、ネガタロスの声がする。 「ひとつ、別に知られても困らない情報を提供してやろう。 オレ達が“レリック”を狙った理由――それが“ソイツ”だ」 “コイツ”が、ネガタロス達が“レリック”を狙っていた理由……!? じゃあ、まさか、“コイツ”…… 「グォオォォォォォッ!」 “ソイツ”がネガタロスの言葉に応えるように力強く雄叫びを上げる――尻尾で土煙を振り払って現れたのは、T-REX型のトランスフォーマー……いや、コイツは―― 「まさか……トランステクターかよ!?」 上空に逃れていたジュンイチさんが声を上げて――そのジュンイチさん目がけて、上空から何かが襲いかかってくる。 もちろん、ジュンイチさんは気づいて回避――襲いかかってきた、翼竜型のトランステクターが、T-REX型の真上で滞空する。 「トランステクターが、二機……!?」 「“レリック”を狙っていたのは、トランステクターが狙いだったのか…… だが、だとすると、連中に協力するゴッドマスターが……!?」 後方でフェイトが、そしてイクトさんも声を上げるけど…… 「フンッ、オレ達についてよく知っている割には、連想が足りないな」 そんな二人に、ネガタロスが小馬鹿にしたような笑い……待てコラ。フェイトをバカにすんな―― 「忘れたのか? オレ達イマジンは――“他者に取りつく存在だということを”」 ――って、まさか!? その答えを問い返す間もなかった。ネガタロスとイマジンが光球に姿を変えると、アイツらイマジンが人間に取りつく時のように“二体のトランステクターの中に入っていく”。 そして―― 『トランス、フォーム!』 咆哮と共に、二体のトランステクターが獣型から人型へと姿を変える。 より一層禍々しさを増したオーラを身にまとい、イマジンからトランスフォーマーへとその在り方を変えたネガタロスとデスイマジン。二人が僕らに対して名乗りを上げて―― 「アクトロン!」 「ワルトロン!」 「名付け親出てこいっ!」 ジュンイチさんのツッコミが炸裂した。 (第16話に続く) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 次回、とコ電っ! 「てめぇ、いったい……!?」 「『ようやく会えましたね。 待ち焦がれましたよ、この時を!」』 「これは……事故だっ!」 「変身っ!」 《Vega Form》 「あぁ、もうっ! やってやるわよ! やればいいんでしょ!?」 第16話「その名は竜王神」 「竜帝合体!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あとがき Mコンボイ「ついに敵の黒幕が姿を現した第15話だ」 オメガ《いよいよ物語が本格的に動き始めましたね》 Mコンボイ「本家の『電王』クロスではここから一気に最終決戦になだれ込んでいったワケだが……こちらではまだまだのようだな」 オメガ《ですね。 また前後編エピソードをしばらくやって、決戦はその後だと》 Mコンボイ「こういう流れでの決戦では、それなりに話数を使うからな、うちの作者は。その辺りの話数の調整もあるんだろうな」 オメガ《単純計算で、主要対戦カードひとつにつき一話は使いますからねぇ》 Mコンボイ「それに、ゲスト的な扱いで他にも出したいキャラはいるんだとか。 そんなワケで、話は六課VSネガタロス一派の構図に形を変えてまだしばらく続く、と」 オメガ《前話のラストでディセプティコンの前に現れたのはもうネガタロスで決まりでしょうが、彼の誘いがどうなったのかも今回は明かされずじまいですしね》 Mコンボイ「まだまだ、話がややこしくなる余地はあるということか」 オメガ《まぁ、じっくり描いていただいている、ということで納得しておきましょうか。 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》 Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」 (おしまい) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「――って、ちょっと待ちなさいよっ!」 ソイツらのあんまりと言えばあんまりな名前にツッコみたい気持ちはわかる。よーくわかるわ。 けど、こっちはそれ以上にこの扱いについて文句言いたいんだけどっ!? 「アタシはいつまでしばられていればいいのよっ!?」 もしかしてアレ? このまま次回までほったらかし? 読者の時間で一週間しばられたまま放置!? じょーだんじゃないわよっ! なんでアタシがこんな目にあわなきゃならないの!? どーしてアタシがオチ担当にならなくちゃいけないのよっ!? 放せっ! ほどけっ! だぁれぇかぁっ! (無視して終われ) [*前へ][次へ#] [戻る] |