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頂き物の小説
第14話「その名は獣帝神」



 自ら鈍く輝いている半実体の刃を、こちらの刃で弾く――レッケージの振るうブレードを、オレの身体を操る恭文がオメガの一閃で弾く。

 くっ、相変わらず、下っ端のクセにいい刃のキレをしているな!







「ほめ言葉と、受け取っておこうか!」

《苦情だ! やりづらくてしょうがない!》







 言い返して、刃を打ち合わせる――パワー勝ちしてレッケージをレッケージを弾き飛ばすことに成功するが、







「まだまだっ!」

「ぅわっと!?」







 向こうも向こうで負けていない。腹部の大型砲で反撃。恭文がそれを紙一重でかわす。







「いくぜいくぜいくぜぇっ!」

「来るなっ!」







 バリケードとは野上良太郎達が交戦。モモタロスがつき、ソードフォームとなった電王のデンガッシャーとバリケードの拳がぶつかり合い――モモタロスの方が押し負けた。







「くそっ、バカ力がっ!」

「モモの字、代われ!
 力比べなら、オレの出番や!」

「チッ、しょうがねぇな!」







 言って、モモタロスが外に出て、代わりにキンタロスが野上良太郎の中に入る。

 そして――











《Ax Form》











 ベルトの金色のボタンを押し、パスをセタッチ。アーマーが組み替わり、モモタロスの電仮面が消えた後にキンタロスの電仮面が装着される。







「オレの強さに、お前が泣いた!」

「そのセリフ、そっくり返すぞ!
 泣くのはお前だ! このオレの、強さでな!」







 バリケードがキンタロスに言い返し、両者の拳がぶつかり合い――







「よそ見している余裕があるのか!?」

「そっちこそ、そこを狙ってくるなんて余裕ないんじゃない!?」







 恭文が言い返し――レッケージの刃を打ち返す!











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第14話「その名は獣帝神」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……よし、と」



 ディセプティコンに襲われて、追い回されていた闇取引の犯人さん達は全員確保。ボクとフィーの能力で作った大地の檻に閉じ込めた。

 と――



「クレア、追加だ!」

「殺さないだけ、ありがたいと思いなさいよね!」



 ハルピュイアとレヴィアタンが、さらに数人捕まえて戻ってきた。檻の格子を少しだけ広げて、その中に放り込んでもらう。



「さて、あらかた片づいたことだし、私達も……」

「ダメだ。
 レヴィアタン、我々に割り振られた役割を忘れたか?」

「まさか。
 『捕まえた密輸犯達をディセプティコンの攻撃から守ること』……でしょ?」

「それがわかっていて、どうして出ていこうとするんだ、お前は……」

「だってぇ、退屈なんですもの。
 ヴェルヌスを見なさいよ。向こうで顔の毛づくろいしてるわよ」

「明日は雨か……」



 ハルピュイア……いくら最近ヴェルヌスが猫娘キャラを通り越して猫キャラ化してきてるからって、それはないと思う……



「クレア……本当にそう思うか?」







 …………ごめん、ヴェルヌス。

 ボクもちょっとだけ、納得した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あれは……!?」



 シグナム組やビクトリーレオと一緒に現場に駆けつけてみて早々、度肝を抜かれた。



 ワニイマジンのヤツがいぶきについた……これはいい。

 でもって、パスを使って変身した……これもだ。



 問題は、それによってアイツらが変身した姿……



「仮面ライダー……ガオウ」

「ガオウ……?
 ヴィータ、あれは電王ではないのか?」



 スターセイバーが聞いてくる……そう。アレは電王じゃない。

 物語の方の『電王』、その最初の劇場版における、ラスボスにして最強の相手。

 時の列車専門の強盗、牙王が変身した姿。それがあの姿……仮面ライダーガオウ。

 そして、仮面ライダーヒビキの記録を塗り替えた、演じる俳優の最年長記録保持者……いや、そこはいいか。中身はいぶきであって牙王=渡辺裕之さんじゃないんだ。

 まぁ、あれが別固体だっていうのは考えるまでもないけどな。所詮はシステム。ワニがモチーフってことで共通してる両者を、電王系のライダーシステムが同じ結果に結びつけたとしてもおかしな話じゃない。

 けど、まさか電王だけじゃなくてガオウまで見られるとは……つか、まさか良太郎さんが存在を明言してたゼロノスよりも先にガオウにお目にかかることになるなんてな……



「フンッ、ガオウだかハオウだか知らないが!」



 と、ここでディセプティコン側が動いた。大きく跳んだジェノスクリームが、ガオウとなったいぶきとワニイマジンを踏みつぶそうと真上から――







〔それが――〕

「どうしたぁっ!?」







 ――って、なぁっ!?

 あの二人――真上から迫った、トン単位の重量があるジェノスクリームの足を、思い切り殴り飛ばしやがった!?



 さすがに跳ね返すまではいかなかったけど、ヤツの姿勢を崩すには十分すぎた。バランスを崩して、ジェノスクリームが仰向けにひっくり返る。



 そして、ワニイマジンは腰に下げられたデンガッシャーと同系統の武器、ガオウガッシャーをソードモードに組み上げ、ノコギリ状の刃を生み出しながら、身体を起こすジェノスクリームに斬りつける。







「アイツ……っ!」







 そんなワニイマジンを、ブラックアウトが上空から腹部のプラズマ砲で狙って――







「させないっつーのっ!」







 飛翔、飛び蹴りを叩き込んだこなたが阻む――よっしゃ、よくやった!

 っつーワケであたしらも……







「そこまでだ、ジェノスクリーム!」

「ここからは我々が通さんっ!」

「なら、ヴィータ、オレ達は……」

「ジェノスクリームだな! わかった!」







 シグナムとスターセイバーがジェノスクリームと、あたしとビクトリーレオがジェノスラッシャーとにらみ合う。







「チッ、 貴様らが相手となると、こちらも出し惜しみはしていられんか!
 ジェノスラッシャー!」

「あぁ!」







 舌打ちしたジェノスクリームにジェノスラッシャーが応じる……アイツら、まさかっ!?

 けど、それならこっちだって!







「シグナム!」

「わかっている!
 スターセイバー! ビクトリーレオ!」

『おぅっ!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジェノスクリーム!」

「ジェノスラッシャー!」




『リンク、アップ!』








 宣言と同時――機動六課の隊長達の前で、オレとジェノスラッシャーがひとつとなった。

 オレがビーストモードのまま、前かがみになっていた背筋を正すかのように直立、背中の2連装キャノンが分離し、そこへビーストモードのボディを左右に展開、両腕に変形させたジェノスラッシャーが合体。二体で尻尾を持つ人型のボディを形成する。

 オレのビーストモードの頭部が胸部に移動、空いたボディ上部のスペースに、ロボットモード時の頭部がせり出してきた。そこへビーストモードのジェノスラッシャーの頭部がヘルメットとして被せられ、翼竜の頭部をかたどった新たな頭部が完成する。

 本体の合体シークエンスを完了し、システムが起動――カメラアイの輝きがよみがえり、左肩にジェノスクリームの2連装キャノンが合体。高らかに名乗りを上げる。











『虐殺参謀――グラン、ジェノサイダー!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『スターセイバー!』







 シグナムと私の叫びが響き、私は両腕を背中側に折りたたみ、肩口に新たなジョイントを露出させ、







『ビクトリーレオ!』







 次いでヴィータとビクトリーレオが叫び、ビクトリーレオの身体が上半身と下半身に分離。下半身は左右に分かれて折りたたまれ、上半身はさらにバックユニットが分離。頭部を基点にボディが展開され、ボディ全体が両腕に変形する。

 そして、ビクトリーレオの下半身が私の両足に合体し――







『リンク、アップ!』







 私達四人の叫びと共に、ビクトリーレオの上半身が私の胸部に合体。両腕部が私の両肩に露出したジョイントに合体する!

 最後にビクトリーレオのバックユニットが私の背中に装着され、私達が高らかに名乗りを上げる。











『ビクトリー、セイバー!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ハウリング、パルサー!」







 咆哮して、トリガーを引く――私が作り上げた特大の魔力弾が放たれるけど、







「フンッ、ムダだ!」







 ショックフリートには当たらない。その姿が幻のように揺らめいたかと思ったら、私の撃った魔力弾はアイツの姿をすり抜ける。

 ショックフリートの特殊能力“空間潜行”。空間に“潜る”という概念の元、空間に溶け込むことでその場にいながらにして通常空間から離脱する能力。

 こっちの攻撃が届かない代わり、向こうからの攻撃も届かないけど……発動時の離脱と解除時の復帰がメチャクチャ速い。おかげで“実体化⇒攻撃⇒また潜行”といったヒット・アンド・アウェイもできる、すごく厄介な能力。



 有効なのは、空間そのものを攻撃する空間作用系の広域攻撃……なんだけど、あたし達の誰もこの手の攻撃できないからなぁ……



 それに、周りのドールも忘れちゃいけない。ヘタにどちらか一方に気を取られたら、もう一方からズドンッ、だ。







「……チッ。
 やはり、このザコどもをどうにかしなければ始まらんか」







 と、そうこぼしたのは、シグナムさん達に幹部級の相手を任せた後、ドールとの戦いにシフトしていたワニイマジン……が、いぶきに取りついて変身した電王モドキ。







「こうなったら……一気に終わらせるか」

〔やったれ、ピーちゃん!〕

「その呼び方はやめろ!」











《Full Charge》











 いぶきとのボケツッコミを繰り広げながらフルチャージ――と、それを見て上がる焦りの声。







「ヤベぇっ!?」

「みんな、気をつけて! ハデなのくるよ!」







 ヴィータさん、こなたまで!?

 どういうことか、問いただそうとした私の目の前で、ワニイマジンの手にしたデンガッシャーっぽい剣から刃が撃ち出される。

 なんだ、モモタロスの“俺の必殺技”と同じじゃ……って!?







「ちょっ、待っ!?
 な、何よ、あのエネルギー量!?」







 撃ち出された刃から観測されるエネルギーがハンパじゃない。あんなの叩きつけられたら、斬られる前に爆発を起こして吹っ飛ばされる――まさか、そういう技なワケ!?







「ま、待ちなさい!
 せめて私達が離れるまで――」

「そんなに待っていたら逃げられるだろうが!」







 待ったをかける私の声に答えて、ワニイマジンは手元に残ったデンガッシャーもどきの本体を振り上げて、







「くらえぇぇぇぇぇっ!」







 横薙ぎに振るった。その動きに導かれて、刃も円を描くように、そして“触れるものすべてを爆発させながら”飛んで――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あてて……ひどい目にあったぜ。

 大丈夫か? アームバレット。



「問題ないんだな……」



 くそっ、いきなり不意討ちで吹っ飛ばすたぁ、やってくれるじゃねぇか!



「……ガスケット」



 けど、二度目はねぇぞ! オレ達の強さを見せつけて……



「ガスケット!」

「って、何だよ、人がやる気に……なっ、て……」



 えっと……何アレ。



 何か、爆発の嵐が起きてんだけど。



 つか、こっちに……着てないか?







 ……いや、間違いなく来てるって! 逃げないとヤベぎゃあぁぁぁぁぁっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……なんて破壊力だ……!?

 あの茶色の電王の放った一撃は、技の軌道上にいたドールの群れをたったの一撃で薙ぎ払った。

 あんなものをまともに喰らっていたらと思うとゾッとする――もっとも、グランジェノサイダーもブラックアウトも難なくかわしているし、オレも“潜行”していて無事。

 カイザーズや機動六課のヤツらも今の攻撃を避けるために後退したようだし……仕掛けるなら今か。

 このまま“潜行”したまま近づき、至近で攻撃をくらわせてやる――ん?



 何だ? いきなり周囲が暗く――







「がはっ!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ショックフリート!?」







 突如発生した漆黒の魔力の渦が、ショックフリートを飲み込み、“潜行”中だったはずのヤツを叩き墜とした。その光景に、場を仕切り直し、我々と対峙しているグランジェノサイダーが声を上げる。

 というか、今の“魔法は”……







「……デアボリック、エミッション」







 やはり、主はやて!







「無粋な乱入、堪忍な。
 せやけど、こない隊舎のすぐ目の前でドンパチやられて、落ち着いて指揮なんかできるワケないやろ!
 ビッグコンボイ!」

「おぅっ!
 フォースチップ、イグニッション!」







 主はやてだけではない。ビッグコンボイも一緒だ――肩に担いだビッグキャノンにセイバートロン星のフォースチップをイグニッションして、







「ビッグキャノン――GO!」







 放たれた閃光が、とっさにガードを固めたグランジェノサイダーを直撃する!







「ぐぅっ…………!これ以上はムリか……っ!
 ブラックアウト! 」

「あぁ!」







 主はやて達の介入で、ヤツらも自分達の不利を悟ったようだ。グランジェノサイダーから指示を受けたブラックアウトがショックフリートを回収――逃がすものかっ!







「させんっ!」

「おとなしく捕まれ!」







 ビクトリーセイバーと共に斬りかかるが――ダメだ。一瞬早くヤツらの姿が消えた。

 おそらくは転送魔法だろう。ヤツらの首魁、マスターギガトロンが我らの魔法を研究、独自に編み出した“ディセプティコン式魔法”は、その誕生の経緯上“対ミッド・ベルカ用魔法”という側面を持つ。

 おかげで、転送ひとつとっても妨害すらできず、こうして取り逃がしてしまう――まったく、腹立たしい限りだ。



「確かに、こう何度も逃げられとると、なー。冗談抜きで厄介やわ。
 せやけど……」

「はい。
 逃げに入られると止められないというのなら……逃げに入る前に斬るまでです」



 主はやての言葉にそう答える。

 そうだ……次こそヤツらを倒し、捕まえてみせる!



「その意気やで、シグナム。
 ……にしても……」

「はい」



 主はやてに同意して、そちらを見る――



「また、ハデにやってくれたもんやね……」



 そうつぶやく主はやての視線の先で――











 ワニイマジンの変身した電王(?)は、自らの技が作り出した火の海の中、悠然と佇んでいた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くたばれ!」

「だが断るっ!」







 ギガトロンの放ったエネルギーの渦を防壁で受け止め――その間に距離を詰めてきたヤツの拳をかわす。

 クソッ、あんにゃろ……オレにエネルギー形の攻撃が効かないのわかってても、開き直って目くらましでガンガン撃ってきやがるからなぁ。

 いくらオレが目ェ見えなくても相手を認識できるって言っても、やっぱり見えるのと見えないのとでは反応に大きな差が生まれる。それをわかっているからこその攻撃だ――通じないけど。





「チッ、やはりこの程度の小手先では通じんか……」

「わかってんならあきらめて帰るか捕まるかしやがれコノヤロウ」

「そうはいかん」







 ちょっぴり期待してたけど……やっぱり帰ってくれないか。







「あぁ。
 まだ、全開での戦いを試してもいないのに、あきらめるのは早計だろう」







 言って、ギガトロンが一振りの剣を召喚する――なるほど、デバイスできますか。



 そう。あの剣はギガトロンのデバイス――しかし、シグナムのレヴァンティンと同じ剣型のアームドデバイスと思ってもらっちゃ困る。

 アレは、まだ待機状態――要するに、レイジングハートやアルトアイゼンの宝石形態と同じ段階だってことだ。

 待機状態とは、その名の通りデバイスを待機させておく状態のこと――それが果たせるなら、オレ達がやってるようにアクセサリ状の形態を取る必然性はない……と、まぁ、そういうことだ。



 つまり、アレはあそこからさらに起動させることで“真の姿”を現す――と、いうワケでこっちも負けじとっ!







「いくぜ、蜃気楼!」

《了解いたしました》







 オレの言葉に蜃気楼が答え、オレはすぐに待機状態のコイツ、なのはのレイジングハートや恭文のアルトアイゼンよろしく首から下げた漆黒の宝石を胸元から取り出す。











「揺らめけ――」



「悲願を果たせ――」





















「“レリック”取ったどーっ!」





















 ……って、なぁっ!?

 上がった声に振り向けば、そこには頭上高く見覚えがありまくるケースを掲げたバリケード。

 クソッ、今回何しに現れたのか聞きそびれてたけど、やっぱり“レリック”かっ!







「恭文! キンタロス!
 アレどうにかしろ、アレ!」

「うん!」

「何や知らんが、アレをどうにかすればえぇんやな!?」







 オレの声に、倉庫内で戦っている恭文やキンタロスが答える――とはいえ、恭文達はレッケージとガシガシやり合ってるし、実際どうにかしてもらうのは、元々バリケードとやり合っていたキンタロスや、モモタロス達になりそうだ。

 まぁ、アイツらの実力なら、特に問題はないだろ。ガタイの差のせいで攻めあぐねていたみたいだけど、基本的な戦闘能力はそう変わるものじゃない――











「その箱、渡さへんで!」











《Full Charge》











 ………………へ?

 あの……キンタロスさん? 何をいきなりフルチャージなどなさっているのでしょうか……?







「心配すんなっ!
 アレを渡したらあかんのやろ!? 一撃でぶち砕いたる!」











 ………………ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!











 あんにゃろ、まさか『アレバリケードをどうにかしろ』って指示を『アレ“レリック”をどうにかしろ』って意味だと解釈しやがったのか!?

 オレのバカ! なんで固有名詞で指示しなかった!? あーっ、くそっ、“レリック”の仕様をよくわかってないヤツらがいるのを忘れてたーっ!







「待て、キンタロス!
 “レリック”にデカイ攻撃はマズイ!」

「ふんっ!」







 くそっ、聞いちゃいねぇっ! キンタロスのヤツ、大きくジャンプして――







「おぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」







 ダイナミックチョップ、キタァ――――――ッ!?



 ヤバイマズイヤバイ! バリケード、逃げて――っ!











「バカめ!
 “レリック”に当たってもいいのか!?」











 このおバカぁぁぁぁぁっ! “レリック”楯にしたって意味ねぇんだよっ! ソイツは今まさにソレをぶち砕こうとしてるんだよっ! 前後の会話でそれくらい察してーっ!



 もう止めたくても止められない。キンタロスの振り下ろした一撃が“レリック”のケースに叩きつけられて――





















 …………えっと。







 とりあえず……結論。“レリック”の暴発はなかった……で、いい?



 キンタロスの放った一撃は、叩き込んだフリーエネルギーの爆発こそ起こしたものの、バリケードのかまえた“レリック”のケースに受け止められていた。



 ……さ、サンキュー、マグナ! “レリック”のケースを頑丈に作ってくれてアリガトウ! 愛してるーっ!







「……ふぅっ、助かった……か。
 柾木ジュンイチ! 貴様、新入りに何を教えている!? “レリック”が危険物だということくらい教えておけっ!」

「責任は認めるがあえて言おうっ!
 やかましいわボケっ! 部下に“レリック”楯にするようなでんじゃらすなマネさせてんじゃねぇよっ!」







 オレと同じく“レリック”の暴発を予見、身がまえていたギガトロンからの抗議に言い返して――





















 ――ぴしりっ。





















『…………「ぴしり」?』







 確かに聞こえた音に、オレ達は思わず動きを止めた。







 ぴしっ。ぴしぴしっ。







 また聞こえた――具体的には、バリケードの手の中から。



 まさか……まさかっ!?





















 ぱきぃぃぃぃぃんっ!





















 ……その『まさか』だった。

 バリケードの手の中で、“レリック”のケースは真っ二つ。その中から赤い結晶体、つまり“レリック”の本体が転がり出てきて――







『ぅだぁぁぁぁぁっ!?』







 倉庫の中、及び上空――とにかくこの光景が見える位置で戦っていた全員が各々物陰に逃げ込む。もし本当に“レリック”が暴発したら、この程度の避難なんて気休めにもならないけど、せめて――







 ………………



 …………



 ……







「……大、丈……夫……?」



 オレの逃げ込んだのとは別のガレキの影から恭文の声がする。

 とりあえず……“レリック”は無事っぽい。無造作に、落ちたその場に転がってる。



 …………よし。



「ギガトロン」

「何だ?」

「喜べ、その“レリック”はくれてやる。さっさと拾ってさっさと帰れ」

「拾えるかぁぁぁぁぁっ!
 お前、オレ達が封印魔法使えないのわかって言ってるだろ! あんな抜き身の“レリック”を持ち歩こうものなら、暴発確定で軽く死ねるわっ!」

「まさに『そうしろ』っつってんだよっ!
 アレ見ろ! 鈍く光ってるだろ! さっきのダイナミックチョップのエネルギーを少なからず吸って臨界状態に達している証拠だ!
 あんな危険物にウチの封印担当キャロやつかさを向かわせられるかっ! さっさと持ち帰って、人のいないところで消し飛びやがれ!」

「ますます引き受けかねるわっ!
 そもそも貴様の指示ミスが原因だろうが! どうせ死ねない身体なんだ! 責任とってその“レリック”を持ち去って成層圏ででもどこででも独りで果てろっ!」

「何バカぬかしてやがるっ!
 『死ねない』んじゃねぇよ! 『死んでも生き返る』んだよっ! 生還の前にちゃんと死ぬんだよっ!
 しかも痛覚普通にあるんだぞっ! ホントに死ぬほど痛いんだよ! 誰がやるかっ!」



 チッ、議論は平行線か……ならばっ!



「……確かに、議論ばかりではらちがあかんか」



 向こうも同じ結論に達したらしい。ギガトロンもガレキの中から出てきて、オレに向けてかまえる。

 そう、つまり――







「お前をぶちのめして……」

「貴様を叩きのめして……」











『あの“レリック”を押しつけるっ!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……何か、話がおかしな方向に転がり始めた気がするんだけど。



《間違いなく、転がり始めてますね》

《一瞬“レリック”の奪い合いになるかと思いきや、その逆に押し付け合いになっているものな》

「だよねー……」



 返してくるアルトやマスターコンボイの言葉にうなずく――やっぱり二人もそう思うよね?



 しょうがない――







「どこを見ている!」

「“レリック”とジュンイチさん達!」







 戦闘再開とばかりに斬りかかってきたレッケージを、オメガの連撃で逆に弾き返す。

 とりあえず、今すべきなのは……







「コイツをブッ飛ばす……だよね」

《そういうことです》

《全力をもって……叩きつぶしてやるっ!》







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……キンタロス。



「あー、何や、あの箱、壊したらあかんかったんか」

〔うん、そうらしいね〕



 中身がこぼれたとたんに、奪い合っていたのが押し付け合いになっちゃうくらいだし。



「…………よし」

〔何する気?〕

「あの箱、直せんか試してみよか。
 ごはんつぶでくっつくかも……」

「くっつくか、このバカ熊!」



 モモタロスにツッコまれた。



「ったく、途中でジュンイチがストップかけてたろうがっ!
 何やってんだ、お前はよぉっ!」

「そないなこと言われてもなぁ……」











「……まったくだ」











『〔――――っ!?〕』



 いきなり会話に割り込まれて、あわてて身がまえる――さっきまでボクらと戦ってた、バリケードっていうトランスフォーマーと。



「“レリック”を確保して、手柄を立てたと思ったらコレだ。
 よくもやってくれたにな、お前ら!」

「って、キミだってあの箱を楯にしようとしたじゃないのさ。
 普通にキンちゃん達と同罪だと思うよ?」

「そうだそうだーっ!」

「う、うるさいっ!」







 ウラタロスとリュウタロスにツッコまれて、バリケードはそれを取り出した。

 拳の絵が描かれた銀色のカード……







「こうなったら、せめてお前らを叩きつぶして、代わりの手柄にしてやる!」







「殴り尽くせ――“ヘカトンケイル”!」







 瞬間――カードが光を放った。

 そして、それが消えると、バリケードの両腕には彼の拳よりもさらに大きなナックルが装着されて、周りには腕の形をした何かが、数え切れないくらいたくさん浮かんでる。

 追加武装……まさか、それもデバイス!?







「そういうことだ!
 オレの自慢のヘカトンケイルで、ミンチになりやがれ!」







 バリケードの言葉と共に、周りに浮いていた腕が一斉に飛んできた。空飛ぶ拳の雨がボクに向かって飛んできて――











「オラぁっ!」



「フンッ!」



「このぉっ!」











 モモタロス!? ウラタロス!? リュウタロスも!?

 三人がいきなりボクとキンタロスの前に飛び出して、空飛ぶ拳を次々に叩き落としたんだ。







「そう簡単にいくと思うなよ。
 屁がドンだか何だか知らねぇが、ブッつぶすのはオレ達の方で、ブッつぶされるのはお前らの方だ!」

「先輩、『屁がドン』じゃなくて『ヘカトンケイル』ね。
 神話に出てくる、手と目が百ずつある巨人のこと」

「そんなのどうでもいいよっ!
 アイツ、倒すけどいいよね! 答えは聞いてないっ!」

「いいワケあるか、ハナタレ小僧っ! アイツはオレの獲物だ!」

〔まぁまぁ、モモタロス……〕







 リュウタロスにつっかかるモモタロスをなだめる。みんなで戦ってるんだから、みんなで倒せばいいでしょ、ね?







「フッ、何人で来ようと同じことだ。
 オレのヘカトンケイルは、元々対多人数戦用だ!」







 ――――――っ! 来るっ!







〔キンタロス!〕

「任せときっ!」







 ボクに応えて、キンタロスがデンガッシャーをかまえて――





















 薙ぎ払われた。





















 バリケードのコントロールで、今にもボクらに襲いかかろうとしていた空飛ぶ拳の群れが、いきなり飛んできた何かに蹴散らされたんだ。







〔何、今の……!?〕











「やれやれ。珍妙な割にもろい装備だな」











 って、この声……







「あのワニ野郎か!?」

「え!? ワニさん!?」







 モモタロスやリュウタロスが言いながら、僕らは声のした方へと振り向いて――











 …………え?











 鈍く光る茶色のアーマー。

 そのアーマーのあちこちを飾る、牙を思わせるデザインの装飾。

 手にしたデンガッシャーはソードモード……だけど、そのオーラソードはモモタロスが作るものよりも大きくて、そしてノコギリの刃のようにギザギザ。











 あれは、まさか……











「牙王か!?」

「まさか……確かに先輩が倒したはずだよね!?」

「ウソウソ、ユーレイ!?」







 モモタロス達も憶えてた。口々に声を上げて驚いているけど……







「そんなに、この姿は似ているのか? その牙王ってヤツに」







 …………え?

 この声……ワニイマジン!?







「待って待ってーっ!
 みんな、落ち着いて! そいつの中身は牙王じゃないから!」







 戸惑う僕らの前に、鎧のようなプロテクターをまとったこなたちゃんが舞い下りてきた。







「そいつの中身、いぶきについたワニイマジンだよ!
 ワニつながりなせいか、それとも変身に使ったのがデカ長から借りたマスターパスなせいか、変身したらあぁなっちゃって……」







 そうなんだ……







「まぁ、そういうことだ。
 ここに来ようとしたのを、コイツらの仲間とやらにジャマされてな……変身して、蹴散らさせてもらったワケだ」







 改めてワニイマジンの変身したガオウがそう説明して……











「――っ、ツ――――っ!?」

「どわぁっ!?」











 奇妙な悲鳴と共に、大柄なトランスフォーマーが空から降ってきた。ボクらと戦っていた、バリケードを下敷きにして。











「ぐわぁっ!?」











 今度は恭文くん達と戦っていたトランスフォーマー……えっと、レッケージだっけ。彼が吹っ飛ばされてきた。バリケード達のさらに上に積み重なって、







「なるほどねー。
 まさか、電王やゼロノスだけじゃなくて、ガオウまで出てくるとはね!」

「コイツぁ、お兄さんもビックリだ」







 合流してきた、マスターコンボイの“中”にいる恭文くんや、上から舞い下りてきたジュンイチくんが次々に言う。







「……新手か。
 泉こなたに……また新しい電王か」

「いやいや、そいつ電王じゃないから。同類だけどフォームチェンジ系統別だから」

「似たようなものだろうが」







 手をパタパタと振って否定する恭文くんにマスターギガトロンが答える――まぁ、確かに似たようなものだけど。







「けど……確かにアイツ自身がガオウに変身できるなら、良太郎について変身してもガオウになるよね? きっと。
 そうすると、電王がガオウになるワケで……」

仮面ライダー電王、ガオウフォーム……ってか?
 冗談じゃねぇ。これ以上増えられてたまるかってんだ」







 一方で別の方向性で考察するのがウラタロスで、それにむくれるのがモモタロス。確かに、ウラタロスの言う通りなら、ボクはガオウにもなれるワケで……







「別にいいだろう、そんなことは。
 どうせこれからやることは変わらない」







 と、ワニイマジンが自分達の登場で脱線しかけた話を元のラインに引き戻す――確かに、やることはさっきまでとは変わらない。

 つまり……ディセプティコンを撃退する。それだけだ。







「フンッ、いいだろう。
 ならば、今度こそお前達をこっぱみじんにしてやるぞ!」

「フンッ、やれるものならやってみんかいっ!」

「バリケードにレッケージ、ラグナッツは撃沈、外でスバル達と戦ってるはずのボーンクラッシャーにブロウルも、まぁ、時間の問題だろうな。
 たったひとりでオレ達とやろうってか? 言っとくけど、お前の単独戦最大の強みである“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”はオレにつぶされてんだぜ」

「バカが……いつまでも“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”頼みだと思ったか!」







 ワニイマジンの発言でみんな一斉に戦闘思考に復帰したみたい。キンタロスやジュンイチくんとマスターギガトロンが互いに挑発し合って――





















《緊急システム、作動》





















 …………え?



 いきなりの声が、僕らの間に割って入ってくる――いったい、どこから……?







《トランステクター、システム、起動》

《メインシステム、欠損。サブシステム作動。
 トランステクター、システム、起動》








「良太郎、アレや。
 オレが真っ二つにしたケース」



 キンタロスに言われて気づく。確かに、声は二つに割れたあのケース、それぞれから聞こえてくる。



「まさか……あんなになっても、まだ動くの!?」



 今起きているのが何を意味しているのか、こなたちゃんはわかっているらしい……本当に「信じられない」って感じで驚いてる。



「おい、説明しろ!
 ありゃ一体何なんだ!?」

「マスターコンボイの今の身体……ゴッドマスターが一体化できる“トランステクター”だっていうのは、知ってるよね?」



 僕の疑問を代弁してくれるモモタロスに、こなたちゃんが答える。



「そして、そのトランステクターの休眠状態が、あの“レリック”のケースなの」

〔えぇっ!?〕



 あのケースが、マスターコンボイのボディみたいになるっていうの!?



「“レリック”とケースは、元々両方そろってひとつのシステムなの。
 “聖王のゆりかご”と呼ばれる、超巨大母艦の防衛システムのひとつ――緊急時、周囲の乗り物や生き物の情報を取り込んでボディを作り上げ、“レリック”をコアとして自立稼働する疑似トランスフォーマー。
 それが、“レリック”とトランステクターの本当の使い方」

「つまり、僕らゴッドマスターの方がイレギュラーだってこと。
 “レリック”は疑似的に作られた“命”の力――だから、それに近い形の“命”を持ってる人は、トランステクターとの一体化ができる……ってワケ」



 えっと……じゃあ……



〔今、あの割れたケースは、“ケースが割られるほどの戦い”を緊急事態と判断して、トランステクターになろうとしている……?〕

「良太郎さん、正解です」



 確認する僕に恭文くんがうなずく……なるほど。だからみんな驚いてるんだね。

 真っ二つになったんだもの。ふつうなら壊れていてもおかしくない。ううん、“壊れている方が普通”なはずなのに、それが動き出したものだから。



「正しく動いてる保証もないけどな。
 正直、何が起きるか想像もつかないぞ……!」

「シャレにもならない事になったら責任取れよ、柾木ジュンイチ……!」



 敵も味方も、“レリック”について詳しく知っている人の反応がすごく慎重だ。うめくジュンイチくんやマスターギガトロンもおとなしく見守る中、二つに割れたケースが宙に浮き上がる。

 そして、中身の“レリック”も浮き上がって……って!?



「“レリック”が……チリになっていく……!?」

「その分、ケースの欠けている部分が埋まって……
 まさか、どっちのケースも“レリック”のエネルギーを使って自分を直してる!?」



 えっと……どうなってるの?



「真っ二つにしたヒトデがその内五体満足な二匹のヒトデになるのと同じだよ。
 あのケースの残骸、どっちも欠けた部分を『失われた』『もう存在しない』と判断して、それぞれが“レリック”のエネルギーを使って自己修復を始めたんだ」



 説明してくれたのはジュンイチくん……つまり。元々ひとつだったケースが、二つになるってこと?



「そういうことだな。
 その上、さっきダイナミックチョップのエネルギーを受けて臨界寸前だった“レリック”のエネルギーも、それぞれのケースの修復のために使用されている……暴発の危機も回避ってワケだ。
 なんて至れり尽くせりな超展開! ご都合主義万歳っ!」



 ハハハ……なんて都合のいい展開だろう。これがジュンイチくんの言う“ご都合主義”ってヤツか。

 ……ん? でもそうすると、今の“レリック”は安全ってことで……







「フンッ、まさかこういうことになってくれるとはな。
 こうなれば、安全になった“レリック”も起動するトランステクターも、両方いただくとしようか!」

「あーあー、やっぱりそう来たか!
 “レリック”が安全だとわかったとたんにソレかよ! 調子のいいヤツだな!
 お前のようなヤツには、“レリック”は渡さないぜ!」







 やっぱりマスターギガトロンが“レリック”確保に動いた。割って入って宣言するジュンイチくんだけど……あの、その理屈で言うとジュンイチくんも確保する権利失うんだけど。











《適合情報、スキャニング》











 ……とかやってたら、“レリック”のケースの修復が終わったみたい――って、まぶしいっ!?



 いきなり“レリック”のケース、二つに増えた両方から光が放たれた。まるで灯台のように周りを一通り照らすと、今度はケースそのものが光に包まれる。







 そして――











「ガァアァァァァァッ!」



「オォオォォォォォンッ!」











 光が消えた時、そこには3メートルくらいの大きさの――ライオンとゴリラを象ったロボットの姿があった。



《ビーストタイプのトランステクターだと!?》

「システム的にはあり得ない話じゃないよ。チンクのブラッドバッドとかホクトのギルティドラゴンとか……
 でも、シチュ的にはありえないよ!? ライオンとかゴリラとか、どこからモチーフ持ってきたワケ!?」



 マスターコンボイやこなたちゃんが驚いてるけど……あ、もしかして……



「良太郎殿……?」

〔今、港湾区の方に移動動物園が来てイベントやってる……リュウタロスがチラシ見つけて、『行きたい』って言ってた。
 ひょっとしたらモチーフの出所ってそこかも〕

「あー、あり得るわ。
 距離考えたら十分スキャニングの範囲内だ」



 ワニイマジンに答えるボクの言葉に、ジュンイチくんが納得する。



 でも……ボクはボクで、別の疑問。

 あの二体がトランステクターだとして……



〔誰が使うの……?〕



 そう。二体のトランステクターは今のところ動きを見せない。こなたちゃんが言ってた“自立稼働”が働いてないんだ。



 となると、誰かゴッドマスターが使うことで初めて動くんだろうけど……



「使い手も定まらないまま、緊急事態に際しトランステクターの構築のみを行った……といったところか。
 ますます好都合だ! もらうぞ、その機体!」

「だから、やらねぇって言ってんだろ!」



 ジュンイチくんがマスターギガトロンに言い返して――











「もらったっツーっ!」











 ディセプティコンのひとり――ラグナッツ。撃墜されていた彼が復活して、トランステクターに飛びついた。ゴリラ型の方にしがみついて、その動きを封じ込める。



「よくやったぞ、ラグナッツ!
 そのまま抑えていろ!」

「って、させるワケないでしょうがっ!」



 マスターギガトロンに言い返した恭文くんが動く、当然僕達も――







「…………グ……」







 …………ん?











「……グァアァァァァァッ!」











「っツーっ!?」







 ぅわ、いきなりゴリラ型が暴れ始めた!?

 不意を突かれたラグナッツはあっさり腕を振りほどかれ、殴り飛ばされる。



 しかも、ライオン型も同時に動き出した。倒れるラグナッツの足にかみつくと、思い切り振り回して、投げ飛ばす!







「ラグナッツ!
 おのれ!」







 今度はレッケージが立ち向かう――けど、斬りかかった彼も、ゴリラ型にあっけなく殴り飛ばされる。

 ……って、あれ?







〔キンタロス……〕

「何や?」

〔あの二体……こっち見てない?〕

「見とるなぁ」







 まさか……次はボクらを狙ってる!?







「ガァアァァァァァッ!」

「オォオォォォォォンッ!」







 その予感が当たってたのか――力強く吠えた二体が、同時にボクらに向けて走り出す!







「ち、ちょっと待って! なんでボク達!?」

「てめぇがうまそうに見えるんじゃねぇのか、カメ!」







 モモタロスもウラタロスも、そんなこと言ってる場合じゃ――











「心配するな!」











 ――――!? マスターギガトロン!?



 気づいたら、マスターギガトロンがすぐ後ろに――あの二体に気を取られてるスキに、回り込まれた!?







「ヤツらよりも先に……このオレの手で殺してやる!」







 言って、マスターギガトロンが手にした剣を、ボクらに向けて振り下して――





















「ぐわぁっ!?」





















 吹っ飛んだ。

 ボクらじゃなくて、マスターギガトロンの方が――







 二体の新しいトランステクターの体当たりで。







 まさか、この子達、ボクらを狙ったんじゃなくて……



〔ボクらを……守った……!?〕

「んにゃ、“オレ達”じゃ、なさそうだぞ」



 あっさり否定したのはジュンイチくん……すぐに何を言いたいのかはわかった。

 二体が見ているのはボクらじゃない。もっとピンポイントに……



「…………オレか?」

〔それか……ウチ?〕



 そう。いぶきちゃんにワニイマジンがついて変身している、ガオウだ。



〔確かめてみよか。
 ピーちゃん、ちょう離れてみて〕

「だから、その呼び方はやめろと言うに」



 いぶきちゃんに返しながら、ワニイマジンはベルトを外す――変身が解除されて、いぶきちゃんとワニイマジンとに分かれる。

 そして、ワニイマジンがいぶきちゃんから離れる……二体とも、反応しないね。

 今度はいぶきちゃんが離れる……あ、目で追いかけた。



 つまり……トランステクターは、いぶきちゃんに反応している……?



「たぶんそうだよ。
 僕自身、トランステクターの機動に立ち会ったのはこれが初めてだからどうとも言えないけど、あぁもいぶきに反応したってことは……」

「この子達が……ウチのトランステクター?」



 ボクと同じ仮説に至ったらしい恭文くんのつぶやきに、いぶきちゃんは二体のトランステクターの片方、ライオン型の方に軽く触れる。



「…………うん、きっとそうや!
 わかる……この子達の名前も、使い方も!」



 言って、いぶきちゃんはマスターギガトロンの方へと向き直って、



「ほな、反撃開始といこか!
 いくで! ジュウライオン! ジュウゴリラ!」



 いぶきちゃんの言葉に、二体のトランステクターが雄たけびを上げてそれに答えて――







「…………良太郎と同レベルのネーミングセンスやな」






 キンタロス。それはどういう意味かな……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「トランス、フォーム!」







 ウチの言葉に従って、ジュウライオンとジュウゴリラが全速力で走り始める。



 と、ジュウゴリラが背中のブースターの力を借りて大ジャンプして――その身体が“割れた”。背中を基盤として支えにする形で、そこから支えられる頭部をその場に残して左右にスライド。左右の半身と頭部に囲まれる形で、真ん中にぽっかりと空間を作り出す。

 ジュウライオンの方は四肢を全部たたむと身体が縦に三分割。ケツの方を支点に左右の身体が後ろに回転。180度正反対を向いたところで固定されて、スライドして伸びるとつま先が出てきた。ライオンの頭部が胸側に倒れて、ボディの中央部と下半身がこれで完成。

 合体形態への変形が終わったジュウゴリラとジュウライオンが近づいて――







「獣王、合体!」







 ウチの叫びを合図に、ジュウゴリラが左右の半身で、ジュウライオンの身体を背中側からはさみ込むように合体する!

 ジュウゴリラの両拳が分離、その内側からロボットモードとしての拳が現れ、分離した方の拳は両肩に合体して肩アーマーとなる。

 ジュウゴリラの頭部、てっぺんの部分が中華料理屋のターンテーブルのように180度回転。後ろに突き出るようになっとったトサカが前面を向く――その動きに連動して、顔も頭ン中で回転。入れ替わって、ビーストモードとしてのそれに代わってロボットモードとしての顔が現れる。







「ゴッド、オン!」







 ここでようやくウチのゴッドオン。まーくんとひとつになる時みたいに、光となって完成した身体に溶け込んで、ウチ自身がこの機体そのものになる。

 すべてのシステムが連動して、全身に力がみなぎるんがわかる――額のトサカが左右に開いて兜飾りになる中、拳をグッと握りしめて、ウチが力いっぱい名乗りを上げる。











「獣ぅぅぅぅぅ帝っ! 神――――っ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 合体した。

 いぶきがマスターとなったトランステクター二体が、いぶきとのゴッドオンによって。

 いぶきひとりにトランステクターが二体。どう運用するのかと思ったらそう来たかー。



「まぁ……考えてみたら、二つに分かれたって言っても元々はひとつの“レリック”のケースなんだ。元通りひとつになる方向でシステムが構築されたとしても、何の不思議もないんだよなー」

「あ、そっか」



 ジュンイチさんのつぶやきに思わず納得する。

 しかし……アレだね。



「空気を読むなら、もう後はいぶきにお任せ?」

「だな。
 もう“新戦力登場⇒逆転勝利”の流れに乗ったし」

「やかましいぞ、そこの外野っ!」



 僕やジュンイチさんに言い返すと、マスターギガトロンはいぶきの前に立ちはだかる。







「たとえ同じ負けるにしても……そんな理由で負けてたまるかぁっ!」







 言って、マスターギガトロンがいぶきに斬りかかる――あー、ダメだな、ありゃ。

 だって……







「そういう発言自体が……すでに負けフラグやっ!」







 まぁ……そういうこと。

 いぶきがゴッドオンした獣帝神に殴り返され、マスターギガトロンがたたらを踏む。







「一気にいくでっ!
 獣帝剣!」







 続けていぶきが叫んで、獣帝神の右足から剣の握りの部分が射出される。いぶきがそれをつかむと、柄から噴き出した光が実体化、刃を構築。

 完成した剣――獣帝剣をかまえ、いぶきがマスターギガトロンに斬りかかる。

 待機状態、ソードモードのネメシスで相手をするギガトロンだけど、剣の腕はいぶきの方が上だ。あっさりとさばかれ、カウンターをもらい、



「灘杜流退魔剣術――激流閃!」



 さらに霊力砲撃までもらい、吹っ飛ばされる。



 よーし、いぶき!

 主人公の僕が許す! そのままトドメまで、いっけぇーっ!



「りょーかいや、やっちゃん!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フォースチップ、イグニッション!」



 ウチの叫びに応えて、飛んできたんは青色の、地球のフォースチップ。背中のチップスロットに勢いよく飛び込んできて、



《Force-tip, Ignition!
 Full drive mode, set up!》




 獣帝神がフルドライブモードへと移行。あちこちに姿を現した放熱システムが、勢いよく熱風を噴出する。



《Charge up!
 Final break Stand by Ready!》




 全身にみなぎるフォースチップのエネルギーが一点に集中していく――獣帝剣の刀身にエネルギーを集中させて、ウチはマスターギガトロンに向けて地を蹴る。



「させるかぁっ!」



 カウンターを狙って、マスターギガトロンが剣を横薙ぎに振う――それをかわして真上に跳躍。

 そして――







「灘杜流退魔剣術、奥義・龍鳴斬改め――」











「轟火、獣王斬り!」











 落下の勢いも加えた一閃を、マスターギガトロンに叩きつける!

 一撃に乗せて、獣帝剣に込めてたエネルギーが残らず叩き込まれる。すぐにウチが後退して――







「ぐわぁぁぁぁぁっ!」







 叩き込んだエネルギーが爆発、マスターギガトロンを吹っ飛ばした。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぐおぉっ!?」



 顔面、尻、後頭部、背中――メチャクチャに回転して、全身を思いきり打ち据えながら、マスターギガトロンが地面を転がる。



「マスターギガトロン様!?」

「大丈夫ですか!?」



 そんなマスターギガトロンに、さっきジュウライオンとジュウゴリラにしばき倒されたレッケージやバリケードが駆け寄って……



「でぇぇぇぇぇっ!?」

「どわぁっ!?」



 倉庫の壁が吹っ飛んだ。壁をぶち破るくらいの勢いで、ブロウルとボーンクラッシャーがブッ飛ばされてきたんだ。

 ってことは――



「ヤスフミ、大丈夫!?」

「ん。まーね。
 今回、オイシイところは全部いぶきに持って行かれちゃったし」



 やっぱりフェイト達だ。駆け込んできたフェイトの問いに、マスターコンボイにゴッドオンしたまま軽く手を振って答える。



「さて、どうするよ、ギガトロン?
 これ以上意地張ってもバカ見るだけだぜ」

「……そうだな。
 この場は、退かせてもらうことにしよう」

「そんなこと――させないっ!」



 ジュンイチさんに答えるマスターギガトロンに対し、フェイトが突っ込む――けど、逃げられた。一瞬早く、向こうの転送魔法が間に合ったのだ。



「相変わらず、発動から転送までが恐ろしく速いな……
 どういう術式の組み立て方してるんだか」

「って、何をのん気に!」



 対するジュンイチさんはのん気に感心してる……そんなにジュンイチさんに、案の定フェイトが食ってかかる。



「何言ってるんですか!? あんな、逃げることを容認するようなことを!」

「まさに容認したんだよ。
 ただでさえイマジン相手にゴチャゴチャしてたんだ。この上アイツらの相手までしてられるか」



 フェイトの抗議を軽くあしらって、面倒くさそうに頭をかく。



「お前だってわかってるだろ。アイツらと対峙するってことが、普通の事件と大きくあり方が異なる、ってことくらい」

「………………? どういうことだよ?」

「他のいくつかの敵対勢力にも言えることだけど……アイツらは基本“逃げてない”。
 普通の犯罪者みたいに、“捕まりたくないから逃げて抵抗する”じゃない。それどころか、こっちをつぶす気マンマンで攻撃までしかけてくる。
 引き上げたのだって“撤退”であって“逃亡”じゃない――アイツらとの戦いはむしろ“戦争”に近い。
 そういう意味では、向こうが逃げ、こっちが追いかけるイマジンとのアレコレの方が、まだ“事件”してるってもんだ」



 聞き返すモモタロスさんにジュンイチさんが説明する――なるほど、言われてみれば確かに。



「となれば、こっちの対応も“戦争”としてのそれに準じるべきだ。
 今はイマジンの方に集中したい。そのためにも、ディセプティコンには打撃を与えて逃げ帰ってもらって、ダメージが癒えるまでおとなしくしていてもらうのも、ひとつの選択肢としてアリだ。
 まぁ、もっとも……ディセプティコンが一般市民を巻き込まないでくれるからこそ取れる戦略だけどな。逃がすことで市民が危険にさらされるって言うなら、お前の主張の通りさっさと捕まえるのが最善だと思うぜ、オレだってな」



 そう語るジュンイチさんだけど、それでもフェイトは不満そう。

 まぁ、これでフェイトも負けず嫌いなところがあるしなー。毎回毎回、あと一歩のところで逃げられてるし、それなりに悔しいんだとは思うけど……



「そう心配せんでも大丈夫やで、フェイトさん」



 ムッとしたままのフェイトにそう答えたのはいぶきだ。



「こうして専用機をゲットしたし、これからはウチも思う存分戦える!
 また出てきたって返り討ちや!」



 そう言って、獣帝神の胸をドンと叩くいぶきだけど、うーん……



《恭文……?》

「んー、今のいぶきの発言が、ちょっと気になった」



 ゴッドオンしっぱなしなせいで、僕に身体を預けっぱなしになっているマスターコンボイにそう答える。



「確かに、獣帝神っていう新戦力は、僕らにとっては大きなプラスだよ。
 イマジンに集中するために、ディセプティコンをあえて見逃したジュンイチさんの考えも、少なくとも間違ってはいない。
 けど……当然、獣帝神の登場は他の勢力にとってはマイナスだし、ディセプティコンの敗退って事実までつけば、さらに危機感をあおる材料になるワケで……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やれやれ、ひどい目にあったな。

 なんとか転送魔法で離脱したが……獣帝神、か。

 六課にまた強力な戦力が加わったということか……

 今回の“レリック”は、獣帝神の元となったケースの修復にほぼ費やされ、残りカスも六課が回収。

 収穫がなかった上に敵の強化を許してしまうとは……











「手ひどくやられたようだな、マスターギガトロン」











 ――――何者だっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《何が言いたい?》

「つまり、さ……今まではそういうことがなかったけど、これからもないとは言えない。
 覚悟は、しといた方がいいかな、って」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オレ達が何者か……そんなことはどうでもいい。
 大事なのは、お前達への“用件”……違うか?」

「どういうことだ?」

「単刀直入に言うと、だ……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「僕らとケンカしてる連中が……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「手を組むつもりはないか?
 我々……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「対六課のために同盟を結ぶようなこともあり得るんじゃないか……ってさ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「………………“悪の組織”とな」







(第15話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「どう思う? 開発者として」

「うーん……」



『(雷道)なずな!?』

「え…………?
 って、アンタ達!?」



「星……好きなの?」



「こうして“エサ”を持ち出せば、絶対食いついてくると思ったよ」





第15話「ゼロと北斗と今、再びのネガい」





「オレ達が“レリック”を狙った理由――それが“ソイツ”だ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「えー、新年、あけましておめでとう……と。
 2012年一発目の『とコ電』は、いぶきがついに専用機、獣帝神を手に入れた第14話をお送りした」

オメガ《まったく、作者め、こんな肝心な話で掲載を一週遅らせるとは……焦らし戦術ですか?》

Mコンボイ「まぁ、仕方あるまい。投稿時期が年末年始では……」

オメガ《本気で忙しかったらしいですからね……
 とりあえず、新年一本目に2クール目一話目を持ってきた……ということで納得しておきますか》

Mコンボイ「さて、それはそれとして、今回の話だが……」

オメガ《ガオウの活躍と獣帝神の登場、もうこれに尽きますね。
 ……ガオウの出番はすぐに終わってしまいましたが》

Mコンボイ「作者も頭を抱えたらしいぞ。
 ガオウといえば相当に『強い』イメージがあるらしくて、どうしても圧勝で終わってしまう、と」

オメガ《劇場版のラスボスは伊達ではない、ということですか……》

Mコンボイ「むしろ、長引かせる方がガオウらしくない、ということで、本編の通り、少し暴れただけで即必殺技……というスピード決着となったワケだ」

オメガ《そして後半の獣帝神登場に物語は進む、と》

Mコンボイ「とりあえず、本編を見ての通りの仕様となったワケだが……」

オメガ《いろいろと例外的なものが重なっているようですねぇ。
 それについての説明は次回ですか?》

Mコンボイ「一応、そういうことにはなっているが……さて、どこまで語ってくれるのか……」

オメガ《一通り語ってくれるんじゃないんですか? 今回はイレギュラー尽くしですから、現時点でラストに関わるような伏線もないでしょうし。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました。
 本年も『とコ電』をよろしくお願いいたします》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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