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頂き物の小説
第13話「すべて喰らってやる」



 鋭く、ただ鋭く一閃――巻き起こった空気の流れが、中庭に立ち込めた朝もやを一瞬にして斬り裂く。

 間髪入れずに即納刀。キンッ、と刀が音を立てて、静寂が戻ってくる。







 ………………うん。







「やっぱ性に合わんなー、居合は」



 居合は基本“待ち”やからなー。こっちから突っ込んでってかますやり方もないワケやないけど、力を抜いて、一瞬の刹那にすべてを爆発させる、その大原則は変わらへん。

 変わらへんのやけど……あの脱力っちゅうのが性に合わん。モモっちやないけど、最初から最後まで全力で突っ走る方がウチには向いとる。



「……その割には、キレイに決めたじゃない。今の居合」

「修行時代、みっちり仕込まれたからなー。
 修行終わって間もないから、まだ身体が覚えとるんよ」



 かけられた声にあっさり答える……で、ティアっちは何しに来たん?



「もちろん朝の自主トレ……って、それを聞きたいのはこっちよ?
 六課に来て以来ずっと、朝ご飯の時間まで爆睡かましてたアンタが、こんなところで何やってんのよ?」



 んー、耳が痛いなー。

 とはいえ……一応、気合を入れ直すに至った理由もあったりするワケで。



「あんな……今まで、ウチって自分の『ヒーローになる』っちゅう目標と、電王りょーちゃんへのリスペクトだけでこの件に首突っ込んどったワケやん?」

「えぇ、そうね。
 まぁ、そこは否定しないわよ。戦う理由なんて人それぞれじゃない」

「あんがとな。
 せやけど……この先も関わってくんなら、もっと気合入れて、ちゃんとこの世界のみんなのために、って気持ち切り替えてかなあかんと思ったんよ」

「ひょっとして……昨日の話で?」



 ティアっちの質問に、うなずく。



 昨日、ワニイマジンから受けた情報提供――なんでも、イマジン達は“レリック”とかいうアイテムを狙ってるらしい。

 ウチは詳しいことは知らへんけど、その“レリック”を巡って、つい最近大きな事件も起きたらしい。

 そんなものが狙われてるとなると……今までみたいな遊び半分なノリで、やっていける戦いやなくなってくると思う。



「それで……気合の入れ直し?」

「ま、そんなトコやね。
 いくらまーくんとゴッドオンできる言うても、生身の戦いでは剣だけやしなー。置いてきぼりくらわんようにせぇへんとな」



 まーくんかてみんなとゴッドオンできるんやから、いつでもウチとゴッドオン、っちゅーワケにもいかんしな。







 あー、ウチ専用のトランステクターでもあれば、ウチももっとバリバリ戦えるんやろうけどなー。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ついさっき、最後のひとつの所在が確認できた。
 現状、局の方で確保している“レリック”は全部無事」

「スカのアジトの方は?
 アイツが集めてた分、あそこに置きっぱなしだろ? 『局の保管庫よりよほど安全だから』って」

「はい、大丈夫です。スカリエッティが確認してくれました」



 尋ねるジュンイチさんにフェイトが答える――あー、そうだよね。ヴェロッサさんの“猟犬”を見つけた上にきっちりつぶすほどのシロモノだものね。







 ……と、いうワケで、ワニイマジンからの「“レリック”が狙われている」って情報を元に、僕らは取り急ぎ局が確保してるっていう“レリック”の所在を確認。

 その結果は「全部無事」。どうやらイマジンのみなさん、まだ監視だけで実際に奪いには動いてないみたいだね。



「とはいえ、安心できるワケでもないがな……」



 つぶやくイクトさんに同感。

 無事が確認できたのは、あくまで局で回収済み、もしくは所在を把握しているものだけ――当然といえば当然だけど、局が把握してない分に関してはまったくのノーマークなんだから。



「そうだな。
 イマジンがミッドで騒ぎを起こしている理由がこちらへの陽動、という情報も気になる。
 ヤツらのザコ戦力……レオソルジャーとモールイマジン、だったか? ヤツらが“レリック”の動きを監視している……というのも、そういった陽動の一環かもしれない」

「局保有の“レリック”を狙っていると見せかけて、本命の狙いは別……ってこと?」



 聞き返すなのはにマスターコンボイがうなずく――まぁ、ともかく、だ。



「その辺まで気にし始めたら、それこそキリないでしょ。
 とりあえず僕らは局が保有している分の“レリック”を全力で守る。
 で、連中の狙いが別にあるとしたらそれも止める……それでいいんじゃない?」

「……そうだな。
 あまり気合いを入れすぎても逆効果か」



 ジュンイチさんが納得したことで、場の空気がいい感じにゆるむ。

 気を抜かず、でも張りつめすぎず……そんな、ほどよい感じの緊張感。

 そうそう。やっぱり僕らはこのくらいでないと。



「そうだね。
 ……あ、そろそろ食堂開いてるね。朝ご飯、食べに行こうか」

「うん」



 フェイトの提案に同意する……いや、いつぶりだろうね、徹夜なんてさ。



「超特急で“レリック”の所在を確認してたものね。
 うぅ、お腹すいた〜」



 なのはのキャラに似合わない食いしん坊発言をスルーしつつ、僕らは食堂へやってきて――











『うーん……』











 …………あの。

 デンライナー署のみなさん、そろって難しい顔して……何かあったんですか?











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第13話「すべて喰らってやる」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『…………名前?』

「うん、彼の……」



 言って、良太郎さんが見るのは、ひとり別のテーブルで朝食セットをつついているワニイマジン……あぁ、なるほど。



「ボクらに協力してくれるんだし、いつまでも敵と同じ感じの呼び方は……ねぇ。
 だから、モモタロス達みたいな名前、何か考えてあげよう、ってことになって……」

「で、いいのが浮かばなくて悩んでる、と」



 イクトさんの問いに良太郎さんがうなずく……とりあえず状況はわかった。



「ワニのイマジンなんだし、そこにちなんで名づければいいんじやないですか?」

「そう思ってるんだけど、なかなか……ね。
 一応、ワニだから“ワニタロス”って考えてみたんだけど、なぜか不評で……」

「そうなんですか?
 けっこういいと思うんですけどねぇ」

『いや、どこが?』



 全員からツッコまれた。まったくもって失礼な。

 じゃあ……



「アリゲーターからとって、“ゲータロス”なんてどうですか?」

「うーん……ケータロスと紛らわしくない?」



 あ、そっか。



「だいたい、アリゲーターは前回倒したイマジンの方だろう。
 だからコイツはクロコダイルからとって、“クロタロス”なんてどうだ?」

「クロノにロードナックル・クロ。さらにもうひとり『クロ』つながりの名前を増やすつもりか?」



 イクトさんがジュンイチさんに撃墜された。



 じゃあ、ジュンイチさんはどんな名前にするんですか?



「オレか? うーん……
 クロコダイルがダメ、アリゲーターがダメとなると……
 …………カイマンから……“マンタロス”?」

「なんかワニよりエイっぽくなったような……」



 フェイトからツッコミが入った。



「まぁ、僕としてもそれは却下の方向かな?」

「えー? いいと思うんだけどなぁ」



 理由? 某超人レスラー二世を思い出すからだよ。



「フンッ、お前ら……ひとつ忘れていないか?」



 マスターコンボイ……?



「モモタロスは『桃太郎』。
 ウラタロスは『浦島太郎』。
 キンタロスは『金太郎』。
 リュウタロスはともかくとして、今挙げた三人は皆、モチーフからではなく、そのモチーフが登場した物語のタイトルから名づけられているだろうが」



 あー、そういえば。



 となると、ワニイマジンのモチーフって……あ。



「そうだ。
 『ピーターパン』にあやかり、コイツの名前は“ピータロス”に――」

「やめんか! そんな自主規制のかかったような名前っ!」



 本人から全力で却下された。



「というか、なぜに『〜タロス』限定だっ!?
 もっと他にあるんじゃないのか!?」

『ないけど?』

「即答か貴様らっ!」



 即答ですとも。

 ジークさんみたいに登場時点でもう名前がついていた、とかならともかく、どうして自分達で名づけられるところでわざわざパターン外さなきゃならないのさ?



「そういう問題なの……?」



 そーゆー問題なんだよ、フェイト。

 と、いうワケで再び円陣っ!



「やっぱりゲータロスだって」

「もうクロタロスでいいんじゃないのか?」

「マンタロスにしようぜ、マンタロスマンタロス」

「ピータロスはそんなにイヤか……?」



「……アイツら……本気なんだよな……?」

「う、うん……たぶん」



 ゲータロス(仮)もフェイトも、その微妙な表情はどういう意味かな?

 とはいえ、このままじゃらちがあかないなぁ……



「……しょうがない」

「ジュンイチさん……?」

「もうこうなったら、オレ達でバトロワやって、生き残ったひとりのアイデアを採用するってことでいいだろ」

「いいワケあるかっ! それだとお前がひとり勝ちするだろうがっ!
 それならクジ引きの方がまだ……」

「イクトさんも何言ってんの!?
 運の勝負じゃ僕らに勝ち目ないじゃないのさ!?
 ねぇ、良太郎さん!?」

「う、うん……」



 良太郎さんが若干引き気味なは気のせいだ……うん、気のせいなんだ。

 けど、このままじゃ議論は平行線か……さて、どうしたものか――







〈――フェイトさん!〉







 ――って、シャーリー?



〈今、機動三課から八神部隊長に応援の要請がありました。
 それによると、今夜“古代遺物ロストロギア”密輸シンジケートの取引があるとの内部告発があったとか。
 それで、“レリック”があるかもしれないという話で……〉



 あー、六課の本業の方か。

 そうだよね。六課って一応本局の遺失物管理課の一部署だものね。管轄内で“古代遺物ロストロギア”の事件が起きれば対処しないワケにはいかないし、応援要請があれば出なきゃならない。“レリック”があるかもしれない、なんて話になってきたらなおさらだ。



「ん。わかった。
 すぐそっちに行く――ヤスフミ、イクトさん。こっちは“ほどほどに”、ね」



 言って、フェイトが僕らの輪から離れる――あの、なんか『ほどほどに』を強調された気がするんだけど



《クギ刺しとかないと、ほんとに命名権賭けてバトロワ始めかねないとでも思われたんですかね?》

「失礼な。言い出したの僕じゃないじゃないのさ」



 アルトのツッコミにそう返して――ん?



「あの……モモタロスさんにみなさんも。
 なんでそんなにワクワクしていらっしゃるのでしょうか……?」

「だってよ、今の、マジモンの捜査の話だろ?」



 思わずいつも以上にていねいな口調で尋ねる僕に答えるのはモモタロスさん。



「デンライナー署って言っても、やってることはいつものイマジン退治と大差ないしね」



 ウラタロスさんも?



「たまには、普通の刑事っちゅうんも、わるないな」

「刑事だもんね、ボクら!」



 キンタロスさんに、リュウタも……えっと……つまり……



「みんな、まさか……」

「あぁ。
 おい、青坊主! オレ達もその捜査に一枚かませろ!」



 ……やっぱりですか。



「むっ、何だよ、その反応。
 まさかオレ達に普通の事件は手に負えねぇとでも思ってんじゃねぇだろうな?」

「そうは言いませんけど……」



 正直、これは本当。手に負えないとは思ってない。

 ただ……話がムダに大きくなりそうな予感はすごくするんだよね。

 なんて言うか……僕らがやってるのが“TVドラマの”刑事なら、モモタロスさん達は“映画の”刑事……って感じ。

 しかもアクション映画の。話が進むごとにやることも起きることもどんどんスケールアップしていくような。



「いいじゃねぇか。どうせならハデな方がよ!」



 しまった。余計に火がついたか。



「どうします? ジュンイチさん」

「別にいいじゃん、連れてけば?」



 ……またあっさり言いますね。



「さっきのシャーリーの話の通りなら、たぶん取引現場に踏み込むことになる。そうなりゃ後は間違いなく荒事だ。
 これが殺人事件の捜査とかなら、やれ証拠探しだ、やれアリバイ確認だで退屈して放り出しそうなものだけど、こういうことならその心配もない」



 ……んー、まぁ。



「それに、素直に戦力としてあてにできるしな。
 こう考えると、連れていかない理由がないだろ」

「さっすがジュンイチ! 話がわかるぜ!」

「ただし」



 笑いながら肩をバシバシ叩いてくるモモタロスさんに対して、ジュンイチさんは一転、重めの口調で言う。



「突入までは原則隠密行動だ。当然、静かにしていてもらう必要がある。
 突入までの間は、黙っていてもらう――もし騒ぐようなら、そいつには突入まで“落ちて”いてもらうからな」

『………………』



 あ、黙った。



「わかればよろしい。
 ……っつーワケだ。恭文、悪いけどフェイトに話通しておいてくれや」

「って、そこで僕に丸投げ!?
 自分で行ってくださいよ、自分でっ!」

「オレが行くと、もれなくフェイトと悶着になるがかまわんか?」



 ……僕が行ってきます。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……む、どうした?



「例の件、機動六課も感づいたようです」

「…………ほぅ」

「どうやら、組織の中の者が、足を洗おうと管理局に司法取引を持ちかけたようです。
 結果、“レリック”があることを懸念した担当課が六課に話を……」



 まぁ……当然か。連中は元々“レリック”専門の機動課として部隊を設立しているのだからな。



「いかがいたしましょぅか?」

「決まっている。
 ヤツらが出てくるからと言って、こちらが手を引く理由にはなるまい――予定通り出るぞ」



 ここのところは小競り合いばかりだったからな……正面衝突は久しぶりか。



 とりあえず、確かなことは……



「巻き込まれるシンジケートのザコどもにとっては、とんだとばっちりだろうがな……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 見張りを一瞬で打ち倒し、念のため無線を回収――迅速に残りの歩哨も叩きつぶすと、オレは無言でモモタロス達を招きよせる。



“こちら天井班、スタンバイ完了”

“わかりました。突入まで待機していてください”

“りょーかい。
 ……つか、フェイト。なんでオレがモモタロス達の面倒見させられてるんだ?”

“同行を認めた言い出しっぺなんですから、ジュンイチさんが責任を持って引率すべきだと思いますから”



 ……覚えてろ。帰ったら恭文からの差し入れと称してわさびシュー食わせてやる。







 とりあえず、現状をざっと説明すると、現在地はタレコミのあった闇取引の現場倉庫――の、屋根の上。

 モモタロスの「ハデに突入したい」という要望を聞く形で上から攻めることになったオレ達は、これからここで突入まで待機することになる。

 なお、モモタロス達はオレとの「静かに待機すること」という約束を守るべく全員“口をガムテープでふさいで”沈黙中。

 別にオレがやらせたワケじゃなくて、全員が自発的にやってる……そんなにオレに“落とされる”のがイヤかお前ら。



“ジュンイチさん。
 わかってると思いますけど……”

“あぁ。
 突入はヤツらの現行犯の確認――つまり、金と“商品”の交換が終わってから……だろ?”

“はい。お願いします”



 言って、フェイトは念話を切って……ん? モモタロス達、どうした?

 首をかしげるオレに対して、モモタロスはここに来る前に打ち合わせしておいたハンドサインで告げる。



 バババババッ。

『そのねんどだかねんざだか、すげぇな。
 口ふさいでても話ができるなんてよ』



 なので――オレもハンドサインで応じる。



 バババババッ。

『お前らもやり方さえ覚えれば使えると思うんだけどなー』



 バババババッ。

『ホント!?
 やりたいやりたい! 教えて教えて!』



 バババババッ。

『って、なんでお前が出てくるんだよ、リュウタロス』



 バババババッ。

『だっておもしろそうだもん!
 だから教えて! 答えは聞いてないっ!』



 バババババッ。

『お前は遊び目的で使いそうだからダメー』



 バババババッ。

『えーっ!? なんでさ!?
 ジュンイチのケチ! 子供みたいなワガママ言わないでよっ!』



 バババババッ。

『野菜も食えねぇガキに言われたくねぇんだよ!
 刻んで炒め物にして出しても、正確に避けて肉だけ食いやがってっ!』



 ババッ。

『あのさ……』



 ん? 何? ウラタロスも参戦?



 ババッ。バババババッ。

『いや、そうじゃなくて……
 ……ハンドサインで口ゲンカしないでくれる? 手とか振り回されてすっごく危ないから』



 ババッ。

『『はーい』』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……来た。

 こちら、潜入・撹乱かくらん班の蒼凪恭文。現在、マスターコンボイと二人で倉庫の中に潜入して待機中でーす。

 フェイト達の突入に合わせて照明を落として、相手を混乱させるのがお仕事。こういうのはジュンイチさんの方が得意だけど、今はモモタロスさん達の引率をしているから、代わりに僕らがやることになった。







 …………はい。単純にサイズで選ばれましたが何かっ!?







 それはともかく……今、ちょうど“売り手”の方が姿を現したところ。
 “買い手”の方はまだみたいだけど……







〈――――みんな! 気をつけろ!〉







 いきなり、ジュンイチさんが無線越しにそう告げて――











 轟音と共に、倉庫の壁の一部が吹っ飛んだ。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「な、何!?」



 外で待機していたところに突然の爆発。それが、今まさに“古代遺物ロストロギア”密輸取引が行われていた倉庫の一角を吹き飛ばした。

 というか、アレ……爆発は爆発でも……



「攻撃!?」

「フェイトさん、アレ!」



 ティアナに言われて、彼女の指さした方を見る――そこにいたのは、倉庫に主砲を向けた重戦車。

 あれは――ディセプティコンのブロウル!?



「ディセプティコンまで出てきたの!?」



 スバルが声を上げて――



「そういうことだっ!」



 その声と同時、突っ込んでくるのは地雷除去車。地雷を掘り出すためのクローアームを振り回して襲いかかってきたのを散開してかわすと、素早くフォトンランサーを叩き込む。



「くっ!
 ボーンクラッシャー、トランスフォーム!」



 咆哮して、地雷除去車――ボーンクラッシャーがロボットモードにトランスフォームする。







 けど、ブロウルやボーンクラッシャーが出てきたってことは……!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オラオラ、マッポのお出ましだっ!
 バリケード、トランスフォーム!」



 今時『マッポ』なんて誰も言わねぇよ――自分達の足の下、倉庫の中で犯罪者どもを追い回すバリケードにツッコんでやりたいけど、



「レッケージ、トランスフォーム!」



 こっちにも来た。駆け上がってきた装甲車が段差を足場にジャンプ。ロボットモードにトランスフォームしてオレ達の前に着地…………あ。







「どわぁぁぁぁぁっ!?」







 着地地点が悪かった。天窓を踏み抜いて倉庫の中に落下していって……あ、恭文達と接敵した。



 バババッ。

『おい、ジュンイチ……
 アイツ……もしかしてバカか?』

「バカはお前だっ! もうハンドサインはいいんだよっ!」



 モモタロスに言いながら、眼下の様子を確認する。

 犯罪者どもを追い回していたバリケードは、フェイトの指示だろう、突入してきたスバルやティアナ、ジェットガンナーと交戦。レッケージはさっき接敵したそのままの流れで恭文やマスターコンボイと戦闘開始。



 オレ達も中に突入しようとするけど、



「ディセプティコン、万歳っ!
 ラグナッツ、トランスフォームっツ!」



 新たなバカ、襲来――ビークルモードの爆撃機からロボットモードにトランスフォームしたラグナッツが、こちらに向けてビームを放つ。



「にゃろうっ!」



 もちろん、オレには通じない。自分の力場でビームを無効化すると、モモタロス達に告げる。



「おい、ここはいいから地上に降りろ!
 良太郎と合流! 誰でもいいから電王になって地上のヤツらをブッ飛ばせ!」



 飛べないコイツらにラグナッツの相手は荷が重い。何度も飛べるイマジンを倒してるし、勝てないワケじゃないだろうけど、それよりオレが戦う方がよほど手間がないってもんだ。



「わかった。頼むぜ!」

「頼まれたっ!」



 地上に跳び下りていくモモタロスに答えて、オレは改めてラグナッツを見上げた。




「っつーワケだ。
 マスターギガトロンすらしばき倒したオレが、直々にブッ飛ばしてやる――秒殺してやるから覚悟しな!」

「フンッ! お前なんかに負けないっツ!」











「いや……譲ってもらうぞ、ラグナッツ」











 響いた声が、こっちに突撃しようとしていたラグナッツを制止する――あー、やっぱりね。



「ナーイスタイミング。
 演出的に、そろそろ出てくる頃だと思ったぜ」

「……一応、ほめ言葉だと受け取っておこうか」

「るせー。
 今回お前らお呼びじゃねぇんだ。さっさと帰れ」

「そう言うな。
 久しぶりの真っ向対決なんだ」



 オレに答えて、ヤツはゆっくりと頭上から降下してくる。



「そろそろ、“JS事件”中に貴様にノされた借りも返しておきたいところだしな。
 そういうワケだ――沈んでもらうぞ、柾木ジュンイチ!」

「じゃかぁしぃっ!
 まぢジャマなんだ――とっとと墜ちろ、マスターギガトロンっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「マスターギガトロンまで出てきたか!」

「久々の“レリック”争奪戦だ! あの方も張り切っておられるのさ!」







 オレに答えて、レッケージが蹴りを放つ――もちろんかわすが。

 しかし、やはり“レリック”は持ち込まれていたか……だがっ!







「こっちとしては、張り切ってほしくないんだがなっ!」

《Human Form,Mode release.》







 言い返し、ヒューマンフォームへの変身を解除。ロボットモードに戻ると、それに併せて大きくなったオメガを一閃。レッケージを弾き飛ばす。







「恭文!」

「OK!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ゴッド――オン!』







 その瞬間――僕の身体が光に包まれた。強く輝くその光は、やがて僕の姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、彼の身体に重なり、溶け込んでいく。

 同時、マスターコンボイの意識がその身体の奥底へともぐり込んだのがわかる――代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化した僕の意識だ。







《Saber form》







 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターコンボイのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように青色に変化していく。

 それに伴い、オメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、二振りの刀となって両腰に留められる。

 そして、ひとつとなった僕ら二人が高らかに名乗りを挙げる。











《双つの絆をひとつに重ね!》

「ふざけた今を覆す!」











「《マスターコンボイ・セイバーフォーム――僕(オレ)達、参上!》」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 んー、まーくん達、大丈夫かなー?



「ついて行きたかったですねー、いっちゃん?」

「せやかて、同じ助っ人でも、りょーちゃん達と違ってただ押しかけてきただけのウチらには、ミッドチルダこっちで捜査に参加する権限ないしなー」



 頭の上でぷかぷか浮かんでる小夜さんにそう答える。



 そう。まーくんややっちゃん達が向かったガサ入れに、ウチは参加できずにお留守番。玄関の外でボンヤリとみんなの帰りを待たせてもらってる。

 今言った通り、実質ただ押しかけてきてイマジン事件に首突っ込んでるだけのウチらには六課の“本業”である今回のガサ入れには参加する権限がない、っちゅうんがその理由。

 対するりょーちゃん達は、一応セイバートロン星のリーダーさんからのお墨付きをもらっとるからその辺は問題あれへんらしい……くぅ、うらやましい。



 そんなワケで、同じく正規に協力してるワケやないこなちゃん達カイザーズのみんなと一緒に隊舎でお留守番なんやけど……うん、ヒマや。



「そう言うな。
 隊舎の防衛も大事な任務だ」



 そうウチに答えるんは、ウチらよりちょう背が高い、くらいの大きさの、白い槍を持ったトランスフォーマー、シグナルランサー。



「以前、この部隊は総力を挙げて出動したスキをつかれて、ここを襲われてさんざんな目にあったからな。
 その教訓もあるんだよ」



 なるほどなー。そういうことがあったんなら、守りに対して神経質になるんも、わからん話やないか……ん?



「どうした?」

「いや、隊舎ん中があわただしくなってきたなー、と……」



 シグナルランサーに答えて、隊舎ん中の様子をうかがっていると、



「オラオラ、出番だ、出番!」

「出動なんだな!」



 飛び出してきたんは、えっと……せや、カスケットアームハレット



「なんでそんなパチモンくさい呼び間違い!? 『゛』だけピンポイントで外すなよっ!
 ガスケットだ、ガスケット!」

「おいらはアームバレットなんだなっ!」



 あー、ごめんごめん。



「それで……どないしたん?」

「恭文達の出動先に、ディセプティコンが出たんだって!」



 ガスケット達に聞き返すウチに、後からみんなと一緒に出てきたこなちゃんが答える。



「それで、私達に応援に行くよう声がかかって……」



 その時やった。











『どわぁぁぁぁぁっ!?』











 先走って出動しようとしたガスケットとアームバレットが、いきなりの爆発で吹っ飛ばされたんは。











「なんでオレ達だけ!」

「こぉなるのぉぉぉぉぉぉっ!?」







 捨て台詞を残して、二人はお空のお星様に。

 でもって、爆発の後に現れたんは……



「……どう見ても、トランスフォーマーやね、あの人達」



 だって、恐竜型のビースト戦士が二人もおるし。

 そこにいたんは、T-REX型と翼竜型のビースト戦士し、軍用ヘリに……空飛ぶ船?



「ジェノスクリーム!」

「ジェノスラッシャー!」

「ブラックアウト!」

「ショックフリート!」



『トランスフォーム!』



 そして、それぞれが一斉にロボットモードへとトランスフォームする。



「アイツらもディセプティコンなん?」

「うん……
 しかも、全員幹部クラスよ」



 ウチの問いにはかがみんが答える……まぢですかい。



「フフンッ、前から進歩がないよー。
 みんなが任務で出払ったスキに、また六課の隊舎を攻め落とそうって?」

「『進歩がない』とは心外だな。
 こちらにも、前回そこまでやろうと欲張ってさんざんな目に合った教訓がある」



 こなちゃんのツッコミに、T-REXからトランスフォームしたジェノクリームが……



「ジェノ“ス”クリームだ」



 っと、失礼、ジェノスクリームが答える。



「オレ達の役割はお前達の足止めだ!
 マスターギガトロン様のジャマはさせんぞ、カイザーズ!」



 ジェノクリ……ジェノスクリームのその言葉と同時に、四人のディセプティコン幹部が一斉に突っ込んでくる――みんな!



「大丈夫JOBじょぶっ! 任せなさいって!
 アイギス!」



 ウチに答えて、こなちゃんが叫ぶ――瞬間、こなちゃんの身体が光に包まれた。

 その光が弾け飛ぶと、こなちゃんはプロテクター付きのバリアジャケット姿に変身、左手には楯と剣が一体になった専用デバイス“アイギス”を装備する。



「よぅし、このまま一気にゴッドオンまで……」

「そうはさせるか!」



 さらに動きを見せようとするこなちゃんやけど……それはショックフリートが許さへんかった。言い返すあちらさんの背後に魔法陣が描かれて……ぅわ、なんかいっぱい出てきた!

 戦車に武装ホバークラフト、ジェット戦闘機……ただしちっこいけど。だいたいウチらの体格と同じくらいの大きさの、ミニサイズのビークルが大量に姿を現す。



「何やの、あれ!?」

「アイツらの戦闘員要員、“ドール”シリーズだよ!
 弱いクセして数だけはいるから、面倒なんだよね!」



 ウチに答えて、こなちゃんがさっそく突っ込んできたジェット機型を叩き斬る。



 つまり……



「ほな、全部ぶった斬ってまってえぇんやね!?」



 敵とわかれば遠慮はいらん。叫んで、ウチは刀をかまえて向かってくる戦車型ドールを迎え撃つ。

 刀に霊力をしっかり込めて、振るう――バッターのフルスイングよろしく振った一閃が、戦車型をすれ違いざまに上下真っ二つ――いったぁっ!



 思った以上に手に衝撃が返ってきた。うぅっ、手ぇすごくしびれた……



 けっこう本気で霊力込めたんやけどなぁ……それでこれって、硬さだけならイマジン以上かもしれへんなぁ……







「いぶき、ボサッとしないっ!」

「ぅわっ!?」







 かがみんの言葉に我に返って、ホバークラフト型の体当たりをかわす。

 反撃しようにも、手のしびれがまだ……っ!







「ふみゃあっ!?」







 別のホバークラフト型に引っかけられた。フラついたウチに向けて、戦車型が突っ込んできて――











「むんっ!」



 こっぱみじんに砕け散った。











 乱入してきた子の、力任せの一撃で。








 …………って。







「ピーちゃん!?」

「何だ、そのかわいらしい呼び方はっ!?
 ピータロスか!? あれからとってそれか!? お前もアレを支持するのか!?」



 ウチの叫びに、ワニイマジンピーちゃんが肩をコケさせてツッコんでくる。

 そういえば……姿を見ぃへんとは思っとったけど、りょーちゃん達と行かへんかったん?



「デンライナーに身を寄せる形にはなったが、別にアイツらの仲間に加わった覚えもない」



 いや、まぁ、そうなんやけどね。



「とはいえ、この数は少々めんどうか……
 やはり、これを借りてきて正解だったな」



 言って、ピーちゃんが取り出したんは……それって!?

 一見すると、りょーちゃん達も持っとるライダーパス……せやけど、色は黒やのうて金一色。



 まさか、それ……







「マスターパスやないの!?」

「予備のライダーパスで十分だったのだが、あいにくデンライナーが備品チェック中でな、借りられなかった。
 そこでデカ長に相談したところ、これを貸してくれた」

「あー、一応聞くけど、それで何するつもりなん?」



 ウチの問いに、ピーちゃんはニヤリと笑って、



「安心しろ。
 その“答え”がわかるように、意識は残しておいてやる」



 え!? ちょっ!? まさかウチに来る!? あ――っ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……ビックリした。



 いや、だって……あのワニイマジンが、いぶきの中に入ってっちゃったんだもの。

 そして、かがみんもうらやましがってたいぶきのキレイな黒髪には茶色のメッシュが入って、瞳も茶色に染まる。







 ……って、ちょっと待って。

 そういう変化の仕方をしたってことは……ワニイマジンのシンボルカラーって、茶色?



 茶色。



 ワニ。



 そして……マスターパス。







 まさか……まさかっ!?







「さて……往くか」



 そんな私をよそに、いぶきについたワニイマジンはマスターパスを取り出して……いぶきの腰にベルトが巻かれた。

 けど、アレは……



「何アレ……?」

「良太郎さんのベルトと、違う……!?」



 つかさやみゆきさんからも戸惑いの声が上がる……そう。あのベルト、デンオウベルトじゃない。

 フォームチェンジのためのボタンがなくて、全体的にシンプル。ウィングフォームのベルトみたいな羽の装飾もあれへん。



 あれは……あのベルトは……











「変、身」







 言って、ワニイマジンがベルトにパスをかざして――







《GAOH Form》











 変身した。



 ジークの時と同じ。ベルトとカラーリング、それから細々としたところが違う、独特のプラットフォームに変身すると、マスターパスがバラバラになってベルトのバックルを飾り、さらにその身体にワニの口を思わせるデザインのアーマーが装着されていく。

 そして、顔にはワニの頭のオブジェが……複雑に組み替わって、電仮面となってマスクに固定される。



「お、おいっ!?」



 と、突然頭上で上がる戸惑いの声……あ、ヴィータちゃん、シグナムさんもいるし……応援に来てくれたん?



「ンなことぁどーでもいいっ!
 なんでアイツが、ここにいるんだ!?」



 んー、まぁ、途中の経緯を見ずにいきなりアレを見たら驚くよねー。



「アレも……電王なのか……!?」



 逆に、シグナムさんなんかはそんなことをこぼしてるけど……違う。







 あれは……“電王”じゃない。







 あれは……あの姿は……











「さぁ……」





















「すべて喰らってやる」





















 仮面ライダー……ガオウ!?







(第14話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 



次回、とコ電っ!



「フンッ、ガオウだかハオウだか知らないが!」



「“レリック”取ったどーっ!」



「仮面ライダー電王、ガオウフォーム……ってか?」



「わかる……この子達の名前も、使い方も!」





第14話「その名は獣帝神」





「獣王、合体!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「久々にディセプティコンと真っ向からぶつかった第14話だ」

オメガ《まぁ、ぶつかっただけですけどね。
 印象としては、むしろ最後に登場しただけのあのお方の方が、よほど読者の皆さんにはつよく残ったんじゃないですかね?》

Mコンボイ「もったいつけて最後にドドンッ、と登場したからな。確かに印象は強そうだ。
 これ、マンガとかだと絶対1ページぶち抜きの大コマだぞ」

オメガ《つまり、印象は強いけど、見開きで描くほどのレベルではない、と?》

Mコンボイ「いや、絵にした場合横幅はいらんだろ、このシーン」

オメガ《あー、そういう理由ですか》

Mコンボイ「ともあれバトルは次回に持ち越しだが……むぅ、サブタイトルがすごく気になるんだが」

オメガ《このシリーズを読まれている読者の皆さんなら、サブタイトルの元ネタは一発バレでしょうからね》

Mコンボイ「今回のバトルに幕を引くのはコイツになりそうだな……
 だが、今のところ影もカタチも見えないコイツが、どう登場してくることになるのか……」

オメガ《すべては次回。こうご期待! ってヤツですね。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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