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頂き物の小説
第11話「オレの強さにお前が惚れた」



「……はぁっ、はぁっ……!」







 息を切らせて、スバルは力の入らないヒザをぴしゃりと叩き、喝を入れて立ち上がる。







「……くっ……!」







 ギンガさんもそれは同じ。もう限界も近いだろうに、それでも気丈に立ち上がる。







「――いくよ、ギン姉!」

「えぇっ!」







 そして、二人が言葉を交わして、地を蹴る。自慢の爆発的な加速で、一気に間合いを詰めていく。







「たぁぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁぁっ!」







 咆哮と共に、二人がまったく同じタイミングで拳を繰り出して――





















「えいやぁ」





















 すぱぱーんっ、と。











 “二人の相手をしているジュンイチさんの”カウンターが、スバルとギンガさんのおでこをひっぱたいた。











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第11話「オレの強さにお前が惚れた」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――って、ちょっと待って、恭文くん!」

「何ですか? 良太郎さん」

「いや、何なの、今の地の文!
 どう読んでもスバルちゃんVSギンガちゃんの構図だったんだけど!?」



 はっはっはっ、何を言い出すかと思ったら。



「読者の皆様へのミスリード狙いですが何か?」

「あぁ、そうなんだ。
 だからジュンイチ……さんを徹底して省いた描写だったんだねー……」

「マンガとかでも、ジュンイチさんを意図的に死角に置き続ければ描写可能ですよ?」

「そのくらいにしておけ、お前達。
 地の文に対する談義はいろいろとイタイぞ」

「はーい」

「は、はい……」



 イクトさんに突っ込まれたので、話を切り上げて目の前の組み手に視線を戻す。

 現在、スバル達フォワードチームの個別訓練中――で、ジュンイチさんがスバルとギンガさんの相手をしてるところ。



 あ、今回僕はツッコミ役……もとい、指導者側。僕なりに見ていて思ったことをスバル達に指摘するのがお仕事です。

 でもって、良太郎さん達がその見学に来てるワケなんだけど……



「けどよぉ、ジュンイチのヤツ、なんだって目隠しなんかしてやがるんだ?」

「あぁ、ジュンイチさんにとっても修行になるようにですよ」



 首をかしげるモモタロスさんにそう答える――うん。ジュンイチさん、目隠ししたままスバル達の相手してるの。

 どうしてかというと、今答えた通りジュンイチさん自身の修行のためで――



「ジュンイチさんがやってるのは、“気配察知だけで打ち込むカウンター”の練習。
 で、スバルとギンガさんは“突撃時における対カウンター”の練習」

「なるほど。
 ジュンイチは突っ込んでくるスバルちゃん達にカウンターを決めるのが課題で、スバルちゃん達はそんなジュンイチのカウンターをしのいで一撃入れるのが課題、と。
 お互いの課題を組み合わせてるワケだね」

「まぁ、さっきからジュンイチさんの全勝状態ですけど」



 納得するウラタロスさんに答えて、苦笑する。



「でもでも、ぜんぜん見えないのによく攻撃が来るのがわかるよねー」

「当然だ。それをできるようにするための、あの訓練なんだからな」



 感心するリュウタにはイクトさんが答える。



「柾木が自身に課している訓練は基本的に能力の向上よりも技術面に重きを置いている。腕力を上げるよりも、今持っている力を“使いこなす”ことに重点を置いているんだ。
 使いこなす方法を見出すために知識を身につけ、知恵を磨き、それを実現するための技術を磨く。
 そしてそれらを自らに刻み込むため実践をくり返し、経験を積む――馬力パワーで劣るあの男がオレや六課隊長陣の上を行っていられるのも、今挙げた要素でこちらを完全に上回っているからだ。
 試しに、誰かアイツと腕相撲してみろ。お前達の腕力なら、全勝を保証しよう」

「なんだ、そんなに腕力ないのかよ、アイツ」

「身体能力に増幅ブーストをかけなければ常人並みだからな。
 増幅ブーストなしのルールだと、オレ達とも……特にスバルやギンガとは絶対にやりたがらんぞ。勝てないから。
 もっとも――すべての枷を外して、本当の意味で“全力”を出したなら、また話は違ってくるんだがな……」



 あー、暴走態のことか。



「柾木の変身は、トランスフォーマーがヒューマンフォームへの変身を行うのとはワケが違う。
 重量変化によるパワーの変化こそあれど戦闘能力にさほど変化のないヒューマンフォームへの変身と違い、アイツは変身によって戦闘能力が大きく激変する……」



 言いかけて――イクトさんが止まった。

 あ、ひょっとして気づいた?



「そういえば……蒼凪、マスターコンボイはどうした?
 アイツがこの手の訓練に顔を出さないのはいつものことだが……」



「んー、いぶきとデート」







 ――ざわっ……







 あっさり答える僕の言葉に場がざわめく――って、あぶなっ!?



 飛んできたオレンジ色の魔力弾をかわす。いきなり何すんのさ、ティアナ!?



「あー、ごめん。
 なんか手がすべって……」



 ま、気持ちはわからないでもないけど。ティアナにとっては聞き捨てならない話だろうから。



「大丈夫。デートってのは冗談だから。
 一緒に出かけたのは事実だけど、目的は聞き込みだし、真のエスコート役は同行してるかがみだし。
 何より、いぶきの目当てはその“行き先”の方だから」

『行き先……?』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ん〜♪
 さすがはやっちゃんオススメなだけあって格別やわ〜♪」

「でしょう?」

「私達もお気に入りのお店なのよね、ここ」



 満面の笑みでシュークリームを頬張るいぶきに、柊かがみが答える――いぶきめ、オレのおごりだからと遠慮がないな。もう十五個目だぞ。

 オレ達がいるのは翠屋クラナガン店。最初はオレひとりで訪れるつもりだったのがいぶきに見つかり、さらに行き先を知ったかがみが同行を申し出て――現在に至る。

 そして、どうしてここに来たのかといえば――



「そうか……それらしいウワサはなし、か」

「あぁ」

「ここなら、それなりに情報があると踏んで期待していたんだが……」

「すまないな、力になれなくて」



 つぶやくオレに高町恭也が答える――まぁ、今のつぶやきの通り、ここならイマジンについての情報が何かしら入っているのではないかと期待していたワケだ。

 ここは高町恭也の剣士としての側面ゆえか、それなりに物騒な業界の人間も少なからず出入りしている。そういった連中なら、本人達がそうとは知らずとも、イマジンについて何かしらのウワサに接しているのでは……ということだ。



「まぁ、何か情報が入ったら知らせる」

「それで十分だ。頼む」



 とりあえずは『現時点では有力な情報は入っていない』とわかったこと、そして高町恭也の情報提供の協力を取りつけられただけでも収穫と思っておくことにしよう。



「それはそうと……マスターコンボイ」

「ん?」

「シグナム……最近どうだ?
 忙しいらしくて、あまりうちに帰ってないんだ……帰ってきてもずいぶんと疲れている様子で、オレも知佳も心配でな……」



 ふむ……確かに、ヤツはライトニングの副隊長としてだけでなく、交代部隊の指揮官も兼任している。

 結果、ヤツやスターセイバーの職務の多さは八神はやて達部隊長コンビに次ぐ勢いだ。確かに疲れもたまるか。



「わかった。
 八神はやてに、少しは休ませるように進言しておいてやる」

「すまないな」

「何、情報提供の礼だ。
 オレとしても、ヤツの剣士としての腕は買っている――ヤツとの勝負はいい訓練になる。倒れられてはオレ自身も困るんだ」



 オレがそう答えると、高町恭也は不意に動きを止める――どうした?



「あぁ、いや……
 今の……怪人か? それと関係あるかどうかは、事件の毛色が少々違うから判断がつかないが……少し気になる話があったんだ。今の『剣士』というフレーズでふと思い出した」

「ほぉ……聞かせろ」



 正直、どんな願いにイマジンがどう対応するかまったく読めん。一見関係なさそうな話でもヤツらが絡んでいないとは言い切れまい。

 そう考え、オレは高町恭也の話に耳を傾け――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『辻斬り?』

「という表現が適切かどうかは……まぁ、判断に困るところだがな」



 特に狙ったワケでもなく、それでも声をハモらせる僕らに、マスターコンボイはため息まじりにそう答えた。



「犯人はいずれの場合も、自らの素性を隠してこそいるが、自ら相手に声をかけ、戦いを挑んでいる。
 得物は剣。しかも相当の使い手のようだ――声をかける相手も、ベルカの騎士を中心にそれ相応に名前の売れている者に限定されている」



 そして勝負して、負ければぶった斬られる、と……



「なるほど。
 確かに辻斬りとはちょっと違うね。どっちかって言うと……腕試し目的の、決闘?」

「だが……そういうことなら、もっと話が広まっていてもいいような気もするが……
 そういった手練てだれの剣士を次々に打ち破るようなヤツがうろついている、なんて話になれば……」

「あ、炎皇寺往人、それは少し違う」



 僕に応えかけたイクトさんの言葉をマスターコンボイが否定する……どこが違うってのさ?



「いや、負け知らずというワケではなくてな、それなりに負けているんだ。
 多少裏付けを取りに動いてみたが、話を聞く限りは“腕試し”というよりは“武者修行”といった印象を受けた」

「なんだ、その段階かよ。
 その手の話じゃ、犯人はすんげぇ強くて、自分の腕を試したくてウズウズしてる、ってのがお決まりのパターンなのにさ」



 少しつまらなさそうにそんなことをのたまってくれるのはジュンイチさん。そして――



「つーかよ、それのどこがイマジン絡みだってんだよ?
 ぜんぜん関係してねぇじゃねぇか」

「それについては、これから話す部分が重要だ」



 今にも興味をなくしそうになっているモモタロスさんに答えて、マスターコンボイは続けた。



「言ったな? 『多少裏付けを取りに動いてみた』と。
 ヤツらに負けた者、返り討ちにした者、それぞれから話を聞いてきた。
 少なくとも、相手が怪人系であることは間違いない――それが瘴魔かイマジンか、まではしぼり切れなかったが、問題は各案件の、戦闘終了後の対応だ。
 まず、負けた者については言うまでもない。そのまま放置だ……まぁ、何件かは匿名で医者を呼んでいるようだが、呼んでいないケースもある。その辺りは気まぐれだな。
 そして返り討ちにした方なんだが、そいつは勝者の目の前で――」











「砂となって崩れ落ちたそうだ」











 ――――――っ!?



「な? イマジン絡みに思えてこないか?」



 顔を見合わせる僕らにマスターコンボイが言う。けど……



「良太郎さん……これって……」

「うん……」



 同じことを考えてたんだろう。声をかける僕に、良太郎さんはすぐにうなずいた。



「キンタロスの時と、同じパターンだ……」

「キンタロスさんの……?」



 聞き返すフェイトの言葉に、僕らの視線が集中する――現在絶賛爆睡中のキンタロスさんに。



「あの……キンタロスは、元々ボクじゃなくて、別の人と契約してたんです」



 そう。キンタロスさんは初めから良太郎さんについてたワケじゃない。

 あの姿の元になった『金太郎』の熊のイメージも、その“前の契約者”のものだしね。



「つまり……バカ鳥と同じで、途中から良太郎さんに乗り換えたってこと?」



 ティアナが言って、今度はジークさんに注目が集まる――まったく気にせずオ○ナミンCなんぞ飲んでらっしゃるけど。



「それで……その契約者は空手をやってたのに、病気で引退しちゃって……“もう一度空手がやりたい”っていうのが、契約内容でした」

「その契約を果たすために、自分が契約者の身体を使って代わりに戦ってあげようと考えたキンタロスさんは、契約者の身体で道場破りをくり返して、空手を勉強しようとしたの」



 まぁ、その結果何をどう間違えたのか、相撲のつっぱりを覚えちゃったのは……うん、イメージ元に引っ張られたせいだと思っておこう。



「つまり……今回のイマジンも、それと同じような感じ……?」

「契約者の願いに関係する形で、剣士……というか、戦士としての実力を磨こうと……?」

「ま、そんなところだろうな。
 願いの曲解がお家芸のイマジンにしちゃ、真っ当な叶え方の部類だな」



 つぶやくなのはやジャックプライムの言葉にジュンイチさんが答える――まぁ、確かに契約の内容はわからないけど、それを果たすために努力してるのは認めるよ。

 認めるけどさ……



「それでケンカをふっかけられる方はたまったものじゃないんですけど」

「ま、そりゃそーだ」



 僕のツッコミにケタケタと笑って、ジュンイチさんはその上で続けた。



「けど……おかげで見えてきたじゃないのさ。
 そのイマジンをおびき出して、しばき倒す方法が」

「……オトリ、だね」

「正解」



 あっさり言い当てたウラタロスさんに、ジュンイチさんもあっさりうなずく。



「問題のイマジンが食いつきそうな強いヤツに独りで歩き回ってもらって、襲ってきてもらう。
 で。出てきたところを……」

「僕らでつぶす」

「できれば捕まえるのが理想かな? 連中の裏に誰かいるのかいないのか、いるとしたら誰なのか……いい加減情報のひとつも欲しいところだし」



 僕に答えて、ジュンイチさんは座り続けてこった身体をほぐすように大きく背伸びして――



「フッ、そういうことならオレの出番か。
 オレの実力なら、そいつの目に止まる可能性は十分に――」

「ねぇよ。
 お前、オレと違って目立たないようにしてるだろ。名前売れてねぇからボツ」



 イクトさんにあっさりダメ出しした。



「じゃあ、お兄ちゃんが行く?」

「オレ的にも、それでOKなら大歓迎だけどさ……オレの場合大規模破壊的な意味で名前が売れてるからなー。今回の敵さんのターゲットの選定基準を考えると、引っかかるかどうか微妙なんだよなー。
 出たいけど……ほんっとーに、出たいけど……残、念っ! ながらっ! オレもボツだ」



 あずささんの問いにもそう答える……ジュンイチさん、そんなに出たかったんですか。



「なら、恭文くんとか……」

「適任だけどさ……作戦上、奇襲班に組み込みたいんだよなー、恭文は」

「うしっ、そんならオレの出番だろ!」

「もしもし、そこのモモさんや――そもそも自分達の存在が知れ渡るとマズイから六課ウチを頼ってきたのを忘れてないか?
 そんな経緯でここにいるのに、名前売れてるワケねぇだろが」



 なのはやモモタロスさんにも答えて、ジュンイチさんはニヤリと笑って、



「もっと適任者がいるだろうが。
 そこそこ有名で、ぶった斬り専門で、むしろ相手の方に共感できそうで、出番の少なさ的な意味でも救済できそうな人が」



 言って、ジュンイチさんが“そっち”を見て――







「…………くー……」







 あ、シグナムさん舟こいでた。





















〈こちら作戦本部。
 シグナム、準備はえぇか?〉

〈はい〉



 無線の向こうで、はやてとシグナムさんが話してる――なお、僕らは少し距離をおいて尾行中。

 ちなみに普通の尾行よりも距離をとってる。敵イマジンも剣士っぽいことを考えると、いつもの距離で尾行すると向こうにバレる危険性があるから。

〈とりあえず、私は人気のなさそうなところを中心に警邏けいらすればいいんですね?〉

〈せや。
 移動の際に人ごみに入ってまうのは仕方ないけど、それやと敵さんも襲ってこれへんからな。そういう時間はなるべく短く頼むわ〉

〈わかっています。
 堂々と警邏の形をとっていますから、路地裏に入っても見回りとして怪しまれることはないでしょう〉



 だよね。

 ジュンイチさんのことだから、そういうことも見越してシグナムさんをキャスティングしたんだろうけど。



 もちろん、それはそれで、後をついていく僕らも尾行しづらくなるんだけど……



〈あー、安心しろ、シグナム。
 万一、地上の護衛びこう組のフォローが利かないところで襲われても、オレら上空待機組がバッチリ助けてやるからさ〉

〈お、お前の助けはいらんっ!
 ……だが、まぁ……その心遣いは、感謝しておくぞ、柾木〉

〈おぅ♪〉



 ………………



「あのさ、アルト」

《はい?》

「シグナムさん……間違いなく、振り切れてないよね?」

《ですね。
 完全にジュンイチさんを意識してますよ、アレ》



 だよねー……恭也さん達が納得ずくじゃなかったら、翠屋ミッドチルダ店は毎晩家族会議だったところだよ、アレは。



〈では、これより警邏に入ります〉

〈ん。気ぃつけてな〉



 っと、いけないいけない。

 気持ちを切り替えてシグナムさんの後についていく――お仕事だもんね、しっかりやりましょ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 一時間経過――







「……こないね」

《まぁまぁ、まだ一時間ですし》







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 二時間経過――







〈あーうー……〉

〈お腹すいた……〉

〈ったく、スバルもいぶきもガマンしなさいよ。仕事中よ〉

〈えー? ヒドイよ、ティア〜〉

〈張り込みにはあんぱんと牛乳が定番やで〜〉



 あ、スバル達の緊張の糸が切れた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 三時間経過――







〈よっしゃ! レイア狩った〜っ!〉

〈ちょっ、こなた!?
 アンタ尾行中に何やってるのよ!?〉

〈そこらのゲーム好きな女子高生のフリ♪
 ……おぉっ! 逆鱗キターッ!〉

〈ホントにフリなの、それ!?〉



 うん、かがみ、それ間違いなくガチでやってるから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 四時間経過――







「……こないね」

「今夜は出ないのかな……?
 あ、ヤスフミ、ホットコーヒーでよかったよね?」

「うん、ありがと」



 フェイトにお礼を言って、買ってきてもらった缶コーヒーと中華まんを受け取る。



「いろいろ買ってきちゃった。
 何まんを取ったかは、食べてみてからのお楽しみだよ――」

「テスタロッサ……包みに“ピザまん”と書いてあるが」

「はぅっ!?」



 ……何やってるんだろ、僕ら――











〈――みんな!〉











 ギンガさん……?



〈辻斬りが出た!
 一般市民が襲われてケガを!〉







 ………………







『えぇぇぇぇぇっ!?』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……結局、オトリ作戦は失敗か……」

「引っかかるどころか、よそで事件起こされちゃね……」



 翌朝。

 隊舎に戻って、朝食を摂りながら個人的に反省会。ため息をつくジャックプライムに僕が答える。



「ただいま」

「あぁ、フェイト」



 はやてのところに詳しい話を聞きに行ってたフェイトが戻ってきた。



「今回襲われたのは街の剣道道場の師範。
 強いことで有名だったらしいよ」

「やはり、腕の立つ者が狙われたか……」



 フェイトの言葉にイクトさんが納得して――











「この私が……無視されるなんて……っ!」











 向こうではシグナムさんが凹みに凹んでる。

 まぁ、ムリないよね。知名度の高さを見込まれてオトリ役に抜擢されたっていうのに、ガン無視されたワケだからねー。



「とにかく、だ。
 イマジンが強くて名前の売れているヤツとの対戦を熱望していらっしゃるのは、これでハッキリしたワケだ」

「やれやれ、どんな契約をどう解釈したらそんなことになるのやら」



 話をまとめるジュンイチさんにそう苦笑を返すのはウラタロスさん。



「ま、そんなのはイマジンをとっ捕まえればわかることだ。今気にしても始まらねぇよ」



 一方でやる気なのがモモタロスさん。さっきから見るからにウズウズしてるしね。



「へっ、まぁな。
 おい、ジュンイチ! 今回はオレも出るぜ!
 確実にオレ達をイマジンにぶつけたいっつーお前の言い分はわかるけどよ、おかげで昨夜は一晩デンライナーの中で待ちぼうけだったんだ!」

「わかったよ。
 オトリ作戦も失敗したからな。ちょうどオレも人海戦術に切り替えようと思ってたところだ」



 モモタロスさんに答えて、ジュンイチさんは“紅夜叉丸”を手にとって、



「っつーワケで、引き続き人手としてあてにしてんだから、早く戻ってこーい」



 いぢけっぱなしのシグナムさんの頭をぽこぽこと叩いて現実に呼び戻すジュンイチさんでしたとさ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁ……ダーリンもいないっていうのに、なんで私こんなことやらされてるのかしら……?」

「それを言うなら、どうして私はお前のグチを延々と聞かされなければならないんだろうな?」



 今夜もイマジン探しで街に出ることに。口をとがらせて文句を言っているレヴィアタンにハルピュイアがため息――まぁ、いつもはレヴィアタンの相手をしてくれているジンくんが、今度こそバルゴラを受け取るためにカオスプライムと一緒に大賀に行ってるからね。



「クレアも行きたかったんじゃないのか?
 そーすりゃ、ジンと一緒に温泉旅行だったのに」

「ふ、フィー!? いきなり何言い出すの!?」



 べ、別に、ジンくんとはそういう仲じゃないし……あ、でも、地球の温泉は行ってみたかったかも……



「で、ジンとさらに仲良くなろうといろいろ画策して……」

「フィー!」



 あくまでもボクとジンくんとの仲をからかうイリアスフィーを叩き落とす――もう、知らないっ!







「……今の内に消しておくべきかしら、あの子」

「愛しの“ダーリン”に嫌われたくなければやめておけ」







 ……ん? レヴィアタンとハルピュイア、こっち見てどうしたの?



『いや(ううん)、別に』



 ………………?







「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」







 ――――っ!

 今の悲鳴は!?



「イマジンか!?」

「行ってみよう!」



 ハルピュイアに答えて走り出す――今度こそ捕まえてやる!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」



 ――悲鳴!?



「ギンガお姉ちゃん!」

「えぇ!」



 ロードナックル(シロくん)に答えて、走り出す――今の悲鳴、すぐ近くだ!

 すぐ先の曲がり角を、悲鳴の聞こえた方へと曲がって――いた!

 そこには、地面に倒れた、剣を握った男の人を見下ろしている怪人――やっぱり、辻斬りの犯人はイマジン!



 見るからにパワータイプのイマジンだ。光沢のある薄茶色の、それでいてゴツゴツした皮膚のあちこちに牙のような装飾がついてる。

 右手にはシャープエッジの剣のような、両側にギザギザのエッジを持つ剣を持ち、左手にはフック状の鉤爪。

 ……あれ? 腰に時計ぶら下げてる……? 何か意味があるんだろうか。



 ともあれ、全身を見渡した印象としては――



「…………ワニ?」



 うん。そんな感じ。なんとなくワニが頭に浮かんだの。



「見られたか……
 まぁ、だからと言ってどうということはないがな。困るワケでもなし」



 言って、イマジンは私にかまわずその場を立ち去ろうと背を向けて――



「止まりなさい!
 時空管理局です! あなたを障害の現行犯で拘束します!」



 当然、私はそれを止める。呼びかけて、バリアジャケットを装着しながらイマジンに向けて走って――っ!?







「――――っと!?」







 次の瞬間、私の顔面を狙った蹴りがすでに放たれていた――とっさに身をひるがえして、かわす。

 あ、危なかった……ジュンイチさんから対カウンターの訓練を受けてなかったら、今の一撃で終わってた……っ!



「ほぉ……今の一撃をかわしたか。
 相応の力はあるようだな」



 対して、イマジンの方はまだまだ余裕だ。私に向けてゆっくりとその手の剣をかまえる。



「では、その力、見せてもらうぞ。
 失望させてくれるなよ――娘!」



 言うなり、イマジンが地を蹴る――間合いを詰め、袈裟斬りに振り下ろしてきたその剣を、身を沈めてかわす。

 けど、それで終わりじゃない。振り抜いた姿勢から刃だけを返して、今の斬撃の起動を逆になぞるように二撃目。

 かろうじてシールドで受け止めて――ウソ、シールドごと打ち上げられた!?

 斬り上げるように放たれた二撃目は、シールドごしに私の身体を宙に浮き上がらせた。なんてパワー!?

 そのまま空中の私に切りつけてくる――ブリッツキャリバーが展開してくれたウィングロードの上を走り、刃から逃れる。

 少し離れたところに降り立って、立て直す――アイツ、すごく強い。

 パワーもすごいし、剣の腕だって……







「ギンガお姉ちゃんに、何すんだ!」

「ジャマだてするな! 人形ふぜいが!」







 一方で突っ込んでいくシロくんだけど、イマジンは振り下ろされた拳をかわしてシロくんの足のすぐ脇を駆け抜けて――ウソ、それだけでシロくんを崩した!?

 たぶん、人間で言うけんにあたる部分をやられたんだろう。足に太刀傷を刻まれたシロくんが踏ん張れなくなってその場に倒れ込む。



 そのままイマジンは私に向けて突っ込んできて――











「むんっ!」



「ぐぅっ!?」











 弾き返された。

 突然割って入ってきた――







 キンタロスさんの斧で、剣を弾き返されて。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんとか、間にうたな!」



 モモの字がイマジンの臭いを感じ取って、向かってみればギンの字がイマジンと戦っとった。

 とりあえず愛用の斧、キンタロスアックスでイマジンの攻撃、弾いたったけど……



「ま、待ってよ、キンタロス……」



 と、ようやく良太郎が追いついてくる――相変わらず体力ないな。息上がりまくりやないか。

 心の強さでは誰にも負けんのに、身体の方は今でもこれやからなぁ。

 しゃあない。ここはオレがついてっ!



「いくで、良太郎!」

「う、うんっ!」



 良太郎の許しが出て、オレは良太郎の“中”に入る。

 そして、良太郎の身体を使ってパスを取り出して、ベルトを腰に巻く。



 ほな、いくで!











「変身」



《Ax Form》











 パスをベルトにかざして変身――イマジンに向けて、告げる。







「オレの強さに、お前が泣いた!」







「勝ち名乗りにはまだ早いぞ、電王!」







 言い返し、イマジンが斬りかかってくる。いつものようにかわさず受けて――ぐぅっ!?

 アーマーは耐えたが、オレ自身は予想以上のパワーに思わずのけぞる。やってくれるな!

 再び斬りかかってきたのを、今度は気合を入れて受ける――ぅし、耐えた!







「何っ!?」







 耐えられると思ってなかったようで、驚くイマジンを掌底でブッ飛ばす。







「今度は、こっちの番やな!」







 デンガッシャーをアックスモードに組み上げ、イマジンに向けて歩き出す。

 向こうも斬りかかってくるけど……ムダや。お前のパワーは覚えた!







「むんっ!」







 向こうの攻撃には耐えて、逆にデンガッシャーを叩きつける。

 よし……アーマーは耐えとる。後はオレが吹っ飛ばされんように踏ん張れば、いける!







「くっ、おのれぇっ!」







 イマジンもあきらめずに斬りかかってくる――けど、ムダや。その度に耐えて、その度に斬り返す。







「ぐわぁっ!」







 吹っ飛ばされたイマジンが地面を転がる……ほんなら、そろそろ決めよか!







「ぐぅ……っ!
 さすがは電王。大した強さだ……っ!」

「あぁ、そうや。オレ達は強い」











《Full Charge》











 イマジンに答えて、デンガッシャーをフルチャージ。真上に放り投げる。

 そして全身のバネを全部使っての大ジャンプ。空中でデンガッシャーをキャッチして、イマジンに向けて体重を乗せた一撃を――





















「――――頼むっ!」





















 ――――――っ!?



 オレのダイナミックチョップを前にして、イマジンはいきなり土下座しよった。思わず、振り下ろそうとしていたデンガッシャーを止める。







「様々なヤツの強さを見てきたが、やはりお前達しかいない!
 頼むっ! オレの契約者のため、お前の力を貸してくれ!」

〔どういうこと……?〕







 少なくとも……これだけは言えるで、良太郎。



「コイツは、たぶんそれほど悪いヤツやない。
 オレの強さを知って、その上で助けてほしいと頭を下げた。
 相手が自分より強いと素直に認めるのも、誰かのために力を借りようと土下座までするのも、大の男がそう簡単にできることやない」



 それをしたこの男……本気と見た。



 なら……



「…………わかった」

〔キンタロス!?〕

「刃と刃、拳と拳を交えたもんとして、オレはコイツを信じる!
 オレの強さにお前が惚れた! わかった! 力貸したる!」

「すまない……
 では、さっそく契約者のもとに案内するから……」











「契約者と、戦ってやってくれ」











「〔………………は?〕」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……あー、確認するね。
 契約者の願いっていうのは、『強い相手と戦いたい』ってこと。
 で、それに基づいて、お前は強いヤツを見つけるため、そして見つからなかった時は自分が戦うつもりで、それに備えて強くなるため……二重の意味で辻斬り……というか、ストリートファイトを
くり返してた……と」

「うむ」



 あっさりとうなずいてくれましたよ、このイマジンさんは。

 結局、キンタロスさんはこのワニなイマジンを信用して僕らのところへ連れてきた。で、イマジンの案内のもと、車で契約者のところへ向かってるところ……何この状況。



 正直、話ができすぎてる気がしないでもない。

 ワナなんじゃないか、とも思ったりするんだけど……



「大丈夫や! こいつが悪いイマジンヤツやないのはオレが保証したるっ!」



 ……キンタロスさんが、この調子なんだよなぁ……



「まぁ、いいんじゃねぇの?
 ワナがあるならあるで、ワナごと叩きつぶしてやりゃいいんだし」

「いや、それができるのはチート・オブ・チートなジュンイチさんくらいのものですから」



 あっさりとのたまうジュンイチさんにツッコむ――この人、たまに自分の規格外っぷりを忘れてモノを言うからなぁ……



 というか……あの、気のせい?

 なんか、すごく見慣れた道をずっと走ってるんだけど。



「ねぇ……ホントにこの先に契約者がいるの?」

「あぁ。
 オレと契約者とのつながりがそう教えてくれる――契約者は今現在、この先にいる」



 フェイトの問いにも、ワニイマジンはそう答える。



 けど、この先って……





















「……とうとう、ここまで来ちゃったよ……」



 つぶやいて、僕は目の前の建物を見上げる――







 機動六課、本部庁舎を。







 何度も何度も確認したけど、ワニイマジンは『ここに契約者がいる』って言って譲らない。

 まさか、出入りの業者の人とか……?



「で? 契約者はどこにいるの?」

「んー……もうすぐ近くにいるはずだ」



 改めて尋ねるギンガさんに答えて、ワニイマジンは周りを見回して――



「ん? お前達、どうした?」

「あぁ、シグナムさん、お疲れさまです」



 通りかかったのはシグナムさん。良太郎さんがぺこりとおじぎすると、そのとなりでワニイマジンがシグナムさんを指さして、











「彼女だ」











 …………へ?







 あの……もう一回、言ってくれる?







「だから……彼女が、私の契約者だ」



 僕に答えて、ワニイマジンはキョトンとしているシグナムさんをもう一度指さす。



 …………せーのっ。





















『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』







(第12話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「くら待て、シグナム!
 コイツぁいったいどーゆーことだっ!?」



「まさか……別の辻斬りがいる……!?」



「オレはこういうのが一番嫌いなんや」



「あなたに協力するのは“私”じゃない」





第12話「ワニワニ・リベンジパニック」





「オレらの強さにっ!」

〔あなたが泣いたっ!〕





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あとがき



Mコンボイ「最後の最後でどんでん返しが待っていた第11話だな」

オメガ《意外は意外ですが、わかってしまえばむしろ納得というか》

Mコンボイ「確かに、シグナム・高町なら願いそうな契約内容だが……」

オメガ《しかし、彼女もイマジンについて知っているはずなのに、どうして契約してしまったのか……それについては、次回改めて語るとして。
 今回のイマジンについても、最後の最後にどんでん返しが待っていましたね》

Mコンボイ「事件はあのワニイマジンの仕業かと思いきや、最後の最後にもう一体、か……」

オメガ《これは単なる偶然か。それとも彼も事件に関わっているのか……
 そして遭遇し、襲われてしまったミス・クレア達はどうなるのか……作者によれば、意外な人物が意外な介入をしてくれるそうなので、楽しみにお待ちください。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)







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「きゃあっ!?」







 防御の上から吹っ飛ばされて、驚く間もなく地面を転がる。いったぁ……っ!







「大丈夫か?」

「う、うん……
 踏ん張れなかっただけで、防御を抜かれたワケじゃないから……」







 駆け寄ってきてくれたハルピュイアに答えて、身を起こす――追撃、来たっ!

 とっさに左右に跳んで、振り下ろされた一撃をかわす。







「フンッ、すばしっこいヤツだ……」







 言って、やたらとゴツイその怪人は、改めてボクらの方へと向き直る。







「えっと……イマジン、だよね……アレ」

「でしょうね」

「ほぅ……オレ達を知っているのか。
 まさか電王の関係者か……?」







 ボクとレヴィアタンのやり取りに、向こうから肯定してくれた。







「だとしたら見過ごせんな。
 電王に知られたら面倒だ。ここで消えてもらおうか!」







 言って突っ込んでくるイマジンの拳をかわして距離をとる。すごいパワーだし、真っ正面から攻撃を受け止めてなんかいられないよ。

 “大地の守り手”を名乗ってるからって、何でもかんでも受け止めればいい、ってワケじゃないんだよ、うん。







「なかなかうまくかわすじゃないか!
 まぁ、ワニをモチーフにしたオレのパワーに、太刀打ちできるはずもないしな!」







 そう言って、イマジンはボクらに向けて地を蹴って――





(今度こそおしまい)





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あきゅろす。
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