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頂き物の小説
第10話「王子のサムライスピリッツ」



「良太郎さん!?」

「ジーク!?」



 イマジンとの戦いの最中、いきなり起こった爆発。

 飛ばされ、降ってきた乗用車に下半身を押さえ込まれる形になった電王・ウィングフォーム――良太郎さんとジークさんの姿を見て、僕とマスターコンボイが声を上げる。

 イマジンは……



「……運はオレに味方したらしいな!」



 いた! ジークさん達の真上っ!



「死ね、電王!」



 叫んで、イマジンがジークさんに向けて突っ込んで――







《Protection》

「くぅっ!?」







 ――って、キャロ!?











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第10話「王子のサムライスピリッツ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くぅ…………っ!」



 動けなくなった野上良太郎とジークに向けて突撃したハゲタカのイマジン――その体当たりを受け止めたのはキャロ・ル・ルシエのプロテクションだった。

 だが……あのバカ、ムチャがすぎるぞ! 防壁はもつだろうが、あの勢いが相手では……っ!







「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」







 言わんこっちゃない。アイツ自身が踏んばりきれずに吹っ飛んだっ!







「余計なジャマを!
 今度こそ電王を! その次はあの小娘だっ!」







 言って、イマジンは再び上昇。またもや野上良太郎達を狙う。

 くそっ、そうはさせr――











「させぬっ!」











 またもや、オレ達よりも先にカバーが入った。自らを狙ったその刃をかわして、イマジンは突撃に失敗して上空に舞い戻る。

 というか……



「シャープエッジ……?」

「アイツが、ジークを助けた……?」



 カバーに入ったのはジークとは水と油状態だったはずのシャープエッジ。オレやアイゼンアンカーが驚くのもムリはないだろう。



「別に、個人的にはこ奴がどうなろうが知ったことではないでござるがな……
 だが、しかし! 姫が守ろうとした者に、危害は加えさせぬ!」

「くそっ、次から次に……っ!」



 宣言するシャープエッジにイマジンがうめいて――あ、逃げた。

 こちらに対して背を向けて、飛び去っていく。あれは今から追ってもムリだな、あれは。

 それよりも――



「キャロ、しっかりして、キャロ!」



 エリオ・モンディアルに介抱されているキャロ・ル・ルシエの方を、何とかしなければな……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とりあえず、キャロの手当てをするため六課に戻った。デンライナーに運び込む方がてっとり早かったんだろうけど、停車時間までまだちょっとあったから。



「……大丈夫。
 ただの……って、気を失うほどの状態でこういう言い方もおかしいかもしれないけど、とにかく単なる打ち身。
 ショックで気を失ってるだけだから、じきに目を覚ますわ」

「そう、ですか……」



 我らがシャマル先生の診断に少しは安心したらしい……けど、それでも心配そうに、フェイトはベッドに横になって眠っているキャロに視線を向ける。



「じゃ、ボクは外で待ってるはずのシャープエッジに知らせてこようかな。
 エリオ、行くよ――ここにいてもやることなくてめんどくさいだけだし」

「う、うん……」



 そして、アイゼンアンカーがエリオと一緒に、キャロを心配“しすぎて”大騒ぎした結果医務室ここから追い出されたシャープエッジのところに向かう……やることないのがめんどくさいって、何かおかしくない?



「それよりも、オレ達的にはあっちの方が問題だぜ」



 僕に答えて、モモタロスさんが見るのは医務室のすみで凹んでる……



「……ジークさんが?」

「元々読めねぇヤツだけどよ……あんなふうに凹んでるのは初めて見るぜ。
 それにアイツ、偉そうなクセして恩を返すことにはムチャクチャ律儀だろ」



 あー、そういえば。

 牙王と戦った時、前に助けられた恩を返すために合流して……ホントに恩を返すためにしか行動しなかったもんなぁ……



 …………あぁ、なるほど。

 今回、キャロはジークさんをかばってブッ飛ばされた。それで、ジークさんの“恩返しモード”が発動するかも……って、モモタロスさんはそこを気にしてるのか。



「まぁな。
 初めて見せた凹みっぷりに恩返し……マジで何すっかわかんねぇぞ、アイツ」

「……ですね。
 とりあえず、誰かにさりげなく見ててもらうようにします」



 とはいえ、イマジンの方も片づいてないしなぁ。



 あー、もう。アイゼンアンカーのセリフじゃないけど、ホントめんどくさいよ、この状況。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「キャロ、大丈夫だってさ」

「そうでござるか……」



 少しは落ちついたらしい。声をかけるボクに対して、シャープエッジはウミとカイの相手をしてやりながらそう答える。

 ……って、落ちついたのを通りすぎてテンション低すぎない?



「姫をあのような目に合わせてしまうなど……
 姫に仕える侍として、拙者は取り返しのつかない失態をしてしまったでござる……」



 あ、そーゆーことね。



「元気出してよ、シャープエッジ。
 そんなんじゃ、キャロが目を覚ました時にまた心配かけちゃうよ?」

「きゅくー」

「それは、わかっているでござるが……」



 エリオやフリードが声をかけるけど、シャープエッジは空元気すら出てくる様子はない……こりゃそうとう重症だね。



「姫を守り、姫と共に戦場いくさばに立つのが拙者の役目……しかし、拙者はそれを忘れ、姫を危険にさらしてしまった……」

「って、今回のキャロの負傷は、別にシャープエッジが悪いワケじゃ……」

「いや、拙者の失態でござる」



 ボクが言うけど、それでもシャープエッジはキッパリと言い切る。



「姫は心優しいお方でござる……そんな姫が、あの状況のジーク殿を見捨てるはずがない。
 本来ならそこで拙者が姫に害が及ばぬようにフォローへ入るのが定石――しかし、ジーク殿と対立していた拙者は、姫もジーク殿を守るはずがないと勝手に決めつけていた。
 結果、そのためにジーク殿を救うために飛び込んだ姫のフォローが遅れ、姫を……」



 あー、なるほどね。



 めんどくさいから要点だけを言っちゃうと、たとえ自分が嫌っていようが、キャロがジークを守ろうとする以上、自分がキャロに代わってジークのフォローに入らなきゃいけなかった。

 けど、ジークへの悪感情を優先してしまったことでキャロの行動を読み違えた。その結果フォローに回れずにキャロちゃんを傷つけた……シャープエッジはそう言っているワケだ。



「拙者は……姫の従者失格でござる……」



 はぁ……こっちもこっちでめんどくさいね、まったく……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……手がかりはなし、か……」



 キャロをブッ飛ばして姿を消したイマジンを探して、エリオの証言にあったイマジンの飛んでった先を調べてみたけど……見事に空振り。

 向こうもバカじゃないか……おとなしく契約者のところまでまっすぐ戻っちゃくれないらしい。



 せめて、契約者だけでもわかれば……具体的な契約内容さえわかれば、まだ先回りのしようもあるんだけど……



〈……あー、ジュンイチさん〉



 ん? 恭文から通信……?



「何だよ、恭文」

〈心配してるだろうから。
 キャロ、気を失ってるだけだった〉

「おぅ、教えてくれてサンキュ」



 軽く応えて探索に戻――ろうとするけど、



〈ただ……ジークさんとシャープエッジが凹みまくってる〉

「だろうな」



 予想通りの話が飛び出してきたので、あっさりと返す。

 そりゃ凹むに決まってるだろ。シャープエッジはキャロがやられたから当然として、ジークもジークで、カッコよく出てったクセに不覚をとって、小さな女の子に守られた上にその子はダウン、となっちゃねー。



〈モモタロスさん以下デンライナー署のみなさん、それでジークさんが思いつめて何かしでかさないか心配してる。
 どうにかできませんかね? いつもの裏ワザで〉

「しでかさせろ」



 迷うことなく即答した。



〈し、しでかさせろ、って……
 それでジークさんが何かやらかしたら……〉

「もちろん、そうならないためのフォローはつけとく必要はある。
 けど、『何かしでかす前に』っていうのは、このケースでは考えない方がいいと思う」

〈どうしてですか?〉

「むしろ、どうしてそんなことを聞き返すのかを聞きたいんだけど?」



 すぐそばにいたのか、恭文を押しのけて乱入してくるフェイトにそう返す。



「この手の感情は押さえつけない方がいいんだよ。
 そうやって押さえつけ続けた果て、限界超えて爆発した時にどれだけ恐ろしい事態になるかは、お前らも身をもって味わってると思うけど?」

<<う゛っ…………>>



 オレのツッコミに、恭文とフェイトが同時にうめく――そうだよね、お前らは味わってるよねー……オレの手によって



「そんなワケで、さっさとガス抜きさせたいのよ、オレは。
 さっさとブチキレてもらった方が、溜め込んでない分被害は少ない――当然の理屈だろ?」

〈で、でも……〉

「そーゆー話を抜きにしても、今回できることなんかほとんどねぇよ」



 食い下がろうとしたフェイトを、先手を打って押し留める。



「周りが何言ったって、どんなフォローを入れたって、本人が納得しなきゃ意味はない。
 アイツら自身が自分達のヘマにケリをつけるのを待つしかねぇよ――フェイト、その点お前はちょいとばかり過保護すぎだ」

〈う゛……〉

「そーやって世話焼きまくった結果、恭文とイクトの二人に惚れられて二股状態に陥ってることを自覚しやがれ」

〈そ、そこは関係ないじゃないですか!
 というか、その辺の話をジュンイチさんに言われたくありません!〉

「は? なんで?
 オレ、二股どころか相手もいないのに」

〈……もういいです〉



 ………………?



「ま、いいや。
 とにかく、アイツらについては原則静観。何かやらかしても、それがマズイことじゃない限り好きにさせとけ――」



 ――――ん?



〈ジュンイチさん……?〉

「お前ら……今すぐオレの反応追いかけてこい」



 フェイトに答えて腰を上げる。

 ブレーキ音に衝撃音。でもって“力”の気配……



「出やがったな、イマジン!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい、手羽野郎!」



 なんかジュンイチのヤツは『手を出すな』とかぬかしやがったらしいが、オレはそんなのごめんだ。

 今の鳥野郎を見てるとムカつくんだよ、ウジウジしやがって!

 っつーワケで……イマジンの臭いをかぎつけて、みんなで出て行く前に医務室ここへ来た。



「行くぞ。イマジンが出やがった」

「……好きにすればいい」



 ……マジにヘタレてやがるな、おい。



「私は……行かぬ。
 プリンスたる私が、このような醜態をさらすとは……情けなくて皆に顔向けできぬ」

「それがどうしたってんだよ!?」



 聞いててさらにムカついてきた。ジークの野郎の胸倉をつかんでムリヤリ立ち上がらせる。



「てめぇ、悔しくねぇのかよ、やられたままでよ!
 あのイマジンに一泡吹かせてやる気はねぇのか!?」

「………………」



 あー、くそっ、めんどくせぇっ!



「てめぇっ、そこの桃娘に助けられたんだろ! あのサメ野郎に守られたんだろ!?
 お得意の恩返しはどうした!?」

「………………っ!」



 反応しやがった! あと一押し!



「てめぇが行かねぇってぇなら、オレ達であのイマジン倒しちまうぞ!
 そしたらてめぇ、どうやって恩返しするつもりだ!?」

「……私は……」

「わかってんなら、とっとと行くぞっ!
 ……ついでにっ!」

「ぅおっ!?」



 オマケだ。ジークのヤツを桃娘の寝てるベッドに突き飛ばす。ジークが桃娘に向けて突っ込んで――







「……いきなり何をする! 無礼であろうっ!」







 うし、成功っ!

 いつもの調子に戻った鳥野郎が、桃娘の身体で起き上がった。



「……って、娘の身体に入ってしまっているではないか。
 本当に何のつもりだ?」

「借りを返させてやれよ、そいつにもな」



 ベッドから降りて文句を言ってくれやがる鳥野郎に答える。



「そいつにだって、あのイマジンには借りがあるんだ。
 そのまま戦うやるかどうかはてめぇの好きにしな。けど、リベンジの現場には連れてってやれよ――それもある意味“恩返し”なんじゃねぇか?」

「むぅ……」



 お、考えてる考えてる。

 牙王の時もそうだったけど、偉ぶってるオレ様野郎のクセに、こういうところは義理堅いっつーか何つーか。



「オラ! そうと決まればとっとと行くぞっ!」

「う、うむっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……こっちか!」



 相手は飛行タイプのイマジン。ヘタに近づいても気づかれて逃げられるだけ――仕方がないので陸路、それも路上からその後を追跡する。

 長い付き合いにあるMyワンオフバイク“ゲイル”で街を疾走。悠々と引き上げていくイマジンの後を追いかける。



 と――



「ジュンイチさん!」



 お、恭文達が追いついてきたか。



「イマジンは!?」

「上!」



 トゥデイを運転する恭文に即答して――



「うむ、追跡ご苦労っ!」

「あぁ、復活したのか、ジー……クぅっ!?」



 途中から思いっきり声が裏返った。



 いや、だって、ねぇ……?



「あ、あのさ、ジーク……
 なんで……キャロについてんだ? お前」

「決まっている。
 助けてもらった恩を返すためだ!」



 はぁ? 何それ?

 恭文、通訳ぷりーず。



「要するに、キャロにもやられた借りを返せてやりたいんだってさ」



 あぁ、それで『恩返し』。

 つか、キャロの性格上、それで恩返しになるのか、いささか疑問なんだけど……











 ………………待て。







 キャロがこの状態ってことは、ひょっとして……



「待つでござるよ、ジーク!
 姫の身体を返すでござる!」

「ちょっ、シャープエッジ! 暴れないでよ、めんどくさいっ!」



 やっぱり出たぁ――っ!?

 アイゼンアンカーの大型ボディの半身になるクレーン車型ビークル、“ブルーアンカー”の上で、シャープエッジがジーク(inキャロ)に向けて大騒ぎ。運転コントロールしてるアイゼンアンカーもかわいそうに。



「――って、シャープエッジ! 少し声のトーン落とせ!
 でないと――」



 このままシャープエッジに騒がせておくのはマズイ。あわてて黙らせようとするけど――



「あ! 気づかれた!」



 恭文が声を上げて、こちらを一瞬だけ見たイマジンがあからさまに加速する――やっぱそうなるよな、こんちくしょうっ!



「そこのトリとサメ! 帰ったらフライドチキンとフカヒレのフルコースにしてやるからなっ!」



 そう言い捨ててゲイルを加速させる――くそっ、逃がしてたまるかっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 くそっ、ここまで来てまた電王どもに見つかるとはな……ついてない。

 ……いや、もう十分すぎるほどにトラックはつぶした。これで契約者も過去につながるだろう。

 住宅街の小さな一軒家に舞い降り、中に入る――そこにそいつはいた。

 リビングのテーブルについている無気力なオバサン。コイツがオレの契約者。



「さぁ……お望み通り、お前の大嫌いなトラックをかたっぱしからブッつぶしてやったぜ。
 さっさと思い出せ――お前の過去を!」



 その瞬間、オバサンの中で“道”ができたのがわかった。過去につながった!



「契約……完了だ!」



 もうこの女に用はない。オレはコイツの中に飛び込んで――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「大丈夫ですか!?」



 部屋に突入してみれば、そこには気を失って倒れている女の人。

 ここに入ったはずのイマジンはいないか……跳ばれたな、こりゃ。

 女の人に駆け寄るフェイトに続いて、空のチケットを女の人にあてる。



 浮かんだのは……3年前の、6月22日。



「えっと……この日に何があったか、教えてもらえますか?」



 なんとなく想像つくから、聞き辛いんだけど……それでも、必要なことだから、聞く。



「……あの子と買い物に出ていて……
 そうしたら、トラックが私達の方に……
 私は助かったのに、あの子は……」



 ……やっぱり。



「私はただ、あの子さえいてくれればよかったのに……
 それなのに、どうして……!
 なんで、あのトラックは私でなくあの子を……っ!」



 そこで限界が来て、泣き崩れる女の人をフェイトに任せて、僕らは女の人から離れる。



「とにかく行こう。
 今回は事が事だから契約者のお悩み解決、とはいかないけど……」

「だからってイマジンはほっとけないよな」



 ジュンイチさんの言葉にうなずく。



「良太郎さん、デンライナーを」

「うん」



 言って、良太郎さんは家の中庭に出るとパスをかまえて、腰にいつものベルトが巻かれる。

 そして――



「変身」



 パスをセタッチ。電王の基本形態、プラットフォームに変身する。

 とたんに響くおなじみの汽笛――現れたデンライナーで僕らは過去へ向かう。



 3年前の、6月22日へ――





















 到着してみると、現代のミッドでも大人気のアーケード街――けどそこは、今は阿鼻叫喚の地獄絵図。

 契約者の女の人が言ってた『突っ込んできたトラック』っていうのが、よりにもよって先の戦いでジークさんのジャマをしてくれたのと同じ燃料を満載しているタンクローリー。

 事故を起こして横転していたそれをイマジンが吹き飛ばしてくれたのが、この火の海の原因。

 そこへ僕らを乗せたデンライナーが到着。うし、いくか!



「いーや、お前はオレと一緒に消火の方なー」



 って、ジュンイチさん!?



「今回オレ達は外野だ。
 忘れんなよ。今回の主役は……アイツらだ」



 言って、ジュンイチさんが視線で示したその先で――



「そこまでだ、それなる下郎よ!」



 キャロについたままのジークさんが、イマジンの前に立ちはだかった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これ、娘。
 起きぬか、出番であるぞ」

〔…………ん……?〕



 私が呼びかけ、ようやくこの身体の持ち主であるあの娘が目を覚ました――もっとも、私がついたままだが。



〔あ、あれ? 身体が……?
 どうなってるんですか、これ!?〕



「あわてるでない。
 私がお前から身体の支配権を持っていったままだからだ」



 きっと身体が使えたら両手をバタバタさせて驚いていたであろうな。そんなことを考えながら娘に答える。



「それより、だ……
 娘、イマジンだぞ」

〔え…………?〕



 私の言葉に、娘はようやく状況を把握したらしい。その意識がイマジンに向けられたのがわかった。



「私はヤツから受けた屈辱を晴らす。
 お前もその手でヤツに借りを返したいのであれば、今すぐ離れてやるが……さて、どうする?」

〔……気にしないでください〕



 尋ねる私に、娘はそう答えた。



〔このまま一緒に、アイツを倒しちゃいましょう!
 みんなの時間を守らなきゃ!〕



 ふむ……なかなか根性の据わった娘だ。



 ……よし。



「娘よ。名は何と言う?」

〔キャロです。キャロ・ル・ルシエ〕

「キャロか。
 では……ゆくぞ、キャロ!」

〔はい!〕



 そして、私とキャロはイマジンへと向か――う前にクルリと振り向き、



「と、いうワケで茶坊主よ」

〔パス貸してください!〕

「……うん、まずはそこだよね」



 私達の言葉になぜか苦笑して、茶坊主はライダーパスを渡してくる。

 それを受け取った私の――私の宿るキャロの身体に、私に相応しい美しきベルトが巻かれる。

 そのベルトに私がパスをかざして――











「変身」



《Wing Form》











 我らの身が今の茶坊主が着ているものと同種のスキンスーツに包まれる。続けて私のように汚れなき純白の鎧が装着される。

 最後に、私自身の変化した白鳥のオブジェが顔面に配される。電仮面にリ・バースし、マスクに装着。私が再びキャロに宿る。

 これで変身に伴う一連の流れは完了。仕上げに――告げる。











「〔降臨! 満を持して……っ!〕」











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……キャロが、電王になった。

 うん、スバル、ティアナ、エリオときて……まぁ、こうなるのは予想してた。

 けど……前回、エリオが変身したのを見た時から、もしかしたらと思ってたけど……



「変身したら……背、伸びてる……っ!」



 うん、エリオもキャロも、電王に変身したら、良太郎さんと――公式の電王と同じくらいの体格になってる……っ! これが東映補正というヤツか!

 う、うらやましいっ! 電王に変身できるのも、背が伸びてるのもっ!



「お前にとっての最重要ポイントはそこか」



 フンッ、元の姿ロボットモードに戻ればむしろ6メートル級のガタイのマスターコンボイにはわからない悩みだよ。

 だから、電王に変身したら背が伸びるかもしれないっていうのは、僕にとっては何よりも希望で……



「……背が伸びてられるの、変身してる間だけだぞ」



 うん、ジュンイチさん、うっさい。



「それに、変身しても身長変わらなかったミニ電王の例を忘れてないかー?」



 うっさいって言ってるでしょっ!



「うし! 良太郎、オレ達もいくぞっ!」

「うんっ!」



 それはともかく、ジークさんとキャロからパスを返してもらった良太郎さんもモモタロスさんについてもらって、











「変身っ!」



《Sword Form》



「俺、参上っ!」











 ソードフォームに変身して参上。イマジンはあの二人に任せておけば大丈夫かな。

 じゃ、僕はこのまま消火に専念して……



「フンッ、電王が二人か。
 こんなところまでご苦労なことだ」

「おあいにくだったな。
 お前らのいるところどこまでも……ってヤツだ」

「フンッ、まぁいいがな。
 ただ単に……」







「あんな、何年も前に亡くした子供のことでいつまでもウジウジしているようなバカな母親のために、まったくよくやるものだと呆れただけだ」







 ………………あ。



「……今、何と言った?」



 あー、今のイマジンの一言で、ジークさんの身にまとう空気に殺気がこもって……



「アイツ……タブー中のタブーに触れやがった」



 ……ジュンイチさんも、そう思います?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 こ奴……今何と言った?

 イマジンの放った一言、それを聞いた瞬間、私の頭が一瞬にして沸騰したのが自分でも理解できた。



〔……ジークさん〕



 キャロの方も気分を害したようだ。声に剣呑な雰囲気が混じったのがわかる。



「貴様……その発言を私の前でするとは、覚悟はいいか?」

「ん? 何の覚悟dぶっ!?」



 皆まで言わせるつもりはない。距離を詰め、その顔面に手刀を打ち込む。



「もちろん、私に討たれる覚悟だ」



 打たれた鼻を押さえ、後ずさりするイマジンに告げる。







「子を想う母の愛を、その下賎げせんな手でけがした罪は重いぞ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



〔ジーク……〕



 おーおー、鳥野郎、オレの知る限り一番の怒りっぷりじゃねぇか。



〔仕方ないよ。
 ジークにとって、“家族”は特別だから……〕



 あー、そうだな。

 未来から今の時代に来てから、妊婦についてたアイツは生まれたガキと一緒にこの時代に生まれた

 だからアイツには、この時代にもいるんだ……母ちゃんと、弟が。



 そんなアイツの前で母ちゃんという存在がコケにされたんだ、そりゃ怒るわな。他人の母ちゃんのことだとしても、そんなの関係ねぇだろ。



〔そういうモモタロスも、怒ってるよね?〕

「お、オレは別に、単にアイツみてぇなヤツが嫌いなだけだよ。母ちゃんがどうとかは関係ねぇよ」



 つか、むしろ良太郎、お前の方が怒ってるだろ。声のトーン、ムチャクチャ低いぞ。



〔うん……あぁいう考え方は許せない。
 モモタロス〕

「へっ、わかってるって」



 んじゃ、気を取り直して……



「あの鳥野郎のサポートってのは気に入らねぇが、どうせならハデに盛り上げて華持たせてやろうじゃねぇか!
 いくぜいくぜいくぜぇっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁっ!」







 殴りかかってくるイマジンの拳をかわし、手刀を一発。

 背中に一撃を受け、イマジンがよろめいて――







「オラぁっ!」







 お供その1が乱入。ソードモードのデンガッシャーで真っ向から斬りつける。

 そのままお供その1がイマジンの相手をしている間に私はデンガッシャーを組み上げ、







「フンッ!」

「ぐわっ!?」







 イマジンの背後に回り込み、その背にデンガッシャーの一撃を見舞う。

 たまらずイマジンは吹っ飛び――む、上空に逃れたか。







「調子に乗るな、電王!」







 などとのたまいながら、イマジンはこちらへ突っ込んでくる――狙いは我らか。

 ならば――



〔大丈夫ですよ、ジークさん〕



 キャロ?

 その意図を問いただそうとした瞬間、イマジンが真横に吹っ飛んだ。

 一撃を放ったのは――







「大丈夫でござるか?」







 新たなお供のひとり――私に再三突っかかってきていた、侍のようなしゃべりの者だ。



「あのイマジンに対するお主の怒り、拙者の胸を奮わせたでござる!
 その身体が姫の身体ということもある――拙者も助太刀いたす!」

「うむ、御苦労。感謝するぞ」



 私が素直に礼を言うと、侍はなぜか驚いた顔をする――何なのだ、一体?



「い、いや……
 お主の口からすんなり礼の言葉が出るとは、思っていなかったでござるゆえ……」

「失礼なヤツだ。
 君主たる者、仕える者の苦労を労い、感謝の心を表すのは当然のことだぞ」



 もっとも……その『当然のこと』も、デンライナーに乗って初めて学んだことだがな。



「……まぁ、いいか。
 足を引っぱるでないぞ、侍!」

「お主こそ、姫の身体を傷つけたら承知しないでござるよ!」



 気を取り直し、我らは先の侍の一撃から立ち直り、身を起こすイマジンをにらみつける。



「くっ、なめるなぁっ!」



 そんな我らに向け、イマジンが舞い上がり、急降下。体当たりを仕掛けてきて――







「って、オレを忘れてんじゃねぇっ!」







 迎え撃ったのはお供その1。跳躍しての一撃がイマジンを捉える。

 その時にはすでに私も動いている。イマジンの墜落先に回り込むとヤツの身体を真上に打ち上げ、







「ナイスでござるよ、ジーク殿!」







 目の前に跳ね上がったイマジンの身体を、侍が自らの刀で打ち据える。

 地面に叩き落とされ、イマジンが地面を転がる……ふむ、そろそろ仕留め時か。



「で、ござるな……
 頼むでござるよ、ジーク殿!」

「フッ、誰に対して言っている?」











《Full Charge》











 侍に応え、ベルトにパスをかざしてフルチャージ。両手のデンガッシャーに“力”が宿る。







「ハァッ!」







 そして、両手のデンガッシャーをイマジンに向けて投げつける。回転しながらまっすぐ飛んだショートアックスがイマジンに刃を突き立て、弧を描いて飛ぶブーメランがイマジンを背後から打ち据える。

 そこへ一気に距離を詰める。ブーメランをキャッチしながらショートアックスに手をかけ、さらに傷口を広げるように振り抜いた。その衝撃を引き金に、デンガッシャーからヤツの身体に流し込まれたエネルギーが炸裂する!



 そして――







「ジーク殿、うまくよけるでござるよ!」







 “力”を刃に蓄えた侍が、跳びのく私に代わりイマジンとの距離を詰め、







「秘剣、荒波崩し!」







 その刃で、イマジンの身体を縦一文字に叩き斬る!







「王子と侍!」

「気高きコラボの前にひれ伏せ!」





 地に倒れ伏すイマジンに侍と共に言い放ち――イマジンの身体は爆発、四散した。



「やったでござるな」

「フンッ、この私が本気になったのだ。当然の勝利だな」



 侍に答えて、私は変身を解いてキャロから離れる。

 さて、それでは帰るとするか――







「……ひとつ、言っていいか?」







 ん? 何だ? 新お供その2。



「誰がお供だっ!? そして新って何だ!? その1は誰だっ!?」

「落ち着くでござるよ、マスターコンボイ!
 それで……何でござるか?」

「主に言いたいのは貴様だ、シャープエッジ」



 侍に答え、新お供その2マスターコンボイはため息をつき、



「今回から参戦のジークは当然今までの戦いを知らないから仕方ない。キャロ・ル・ルシエも身体の主導権を持っていかれていたのではどうしようもなかっただろう。
 だが、貴様なら止められたはずだ……」







「今までのパターンから考えるとこの後ギガンデス戦だろうがっ! 電王への変身を解かせるなっ!」







 その言葉と同時、倒したイマジンの残骸が海戦型のギガンデスへと変貌へんぼうを遂げる。



 …………ふむ。



「では、後は任せたぞ、お前達」

「って、ジークさん!?」

「私は他の者達と違って専用のデンライナーを持たぬからな。この先の局面に出る幕はない。
 だから後は任せる。しっかり働け」

「ったく、相変わらず物を頼むのも偉そうなヤツだな、お前はっ!」



 おぉ、ちょうどいい。お前はまだ変身を解いていなかったのか、お供その1。



「だからその呼び方やめろっつってんだろうが!
 とにかく、あのギガンデスをブッ飛ばせばいいんだな!?
 おい、桃娘! お前もハナクソ女2号やカミナリ小僧みたいにやれるんだろ!?」

「はいっ!
 いくよ、兄さん! シャープエッジ!」

「心得申した!」

「フンッ、いいだろう」

「きゅくーっ!」

「うん、フリードも一緒に戦うよ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 





『ゴッド――オン!』



 その瞬間――わたしの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてわたしの姿を形作り、そのまま兄さんと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。

 同時、兄さんの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、兄さんの身体に溶け込み、一体化したわたしの意識だ。



《Water form!》



 トランステクターのメインシステムが告げ、兄さんのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように桃色に変化していく。

 と、兄さんの手の中で、オメガが握りを長く伸ばし、ランサーモードへとその形を変えるとさらに変形、両刃の刃が峰を境に二つに分かれると、刃を内側に向けるようにそれぞれの刃が回転、ワンドモードへと変形する。

 そして――



 ――蒼穹を走る白き閃光
    
我が翼となり天を駆けよ!



「来よ、我が竜フリードリヒ!
 竜魂召喚!」



「グギュルァアァァァァァッ!」



 わたしの召喚魔法が、フリードの本当の力を解放する――小さな竜の姿だったフリードが、兄さんとさほど違わない巨体へとその姿を変える。

 大剣から魔杖へと姿を変えたオメガをかまえ、そして白銀の飛竜となったフリードを従えて、ひとつとなったわたしと兄さん、二人が高らかに名乗りを挙げる。



《双つの絆をひとつに重ね!》

「みんなを守る優しき水面みなも!」





「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「《マスター、コンボイ!》」



 わたしと兄さんの叫びが響き、大きく跳躍したその背中のバックパックが起き上がると、折りたたんだ左腕を空いたスペースに折り込ませて、



「シャープエッジ!」



 シャープエッジも叫んで、ビーストモードへとトランスフォーム。喉元にあたる部分に合体用のジョイントを露出させる。

 そして、わたし達とシャープエッジ、それぞれが交錯して――



『《ゴッド、リンク》!』



 三人の叫びと共に、折りたたまれた兄さんの左腕に代わってシャープエッジが合体する!

 右手にワンドモードのオメガを握りしめ、合体したシャープエッジの尾びれを刃とした左腕をかまえて、わたし達三人が高らかに名乗りを上げる。



『《シャープ、コンボイ!》』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「っしゃあっ! いくぜ!」



 桃娘が合体してる間に、オレもデンライナーに乗り込む。さぁて、久々のすっぴんでのデンライナー戦だ! かかってこいオラぁっ!







「ギシャアァァァァァッ!」

「って、おいっ!?」







 ギガンデスのヤツ、オレを無視して桃娘達の方へ向かいやがった!?

 オレ達なんか眼中にねぇってワケか……なめやがって!



〔単に、ボクらよりもキャロちゃん達の方が近かっただけだと思う……〕

「だとしても、ガン無視たぁいい度胸じゃねぇか!」



 良太郎に答えて、運転席になってるバイク、デンバードのボタンを押し込む。ゴウカノン、ドギーランチャー、バードミサイル、そんでもってモンキーボマー、全展開っ!







「ぶちかませっ!」

〔お、落ち着いて! まだキャロちゃん達が近くにいるからぁっ!〕







 良太郎が叫ぶが、かまいやしねぇ。遠慮なくデンライナーの全門斉射をお見舞いする。

 それに気づいた桃娘達がバックステップで離れて、ギガンデスに向けてデンライナーの攻撃が降り注ぐ。

 でもって――







「たぁっ!」







 桃娘の気合の入った声が響く――こっちの攻撃が一瞬途切れたスキをついて突っ込んで、ギガンデスに一撃入れやがった。

 ハッ! 後ろからサポートするのが仕事って言ってた割には、ガチでもいい動きするじゃねぇか、桃娘!







「兄さんやシャープエッジが、サポートしてくれるおかげですっ!」







 オレに答えた桃娘がギガンデスから離れて――







「ガァアァァァァァッ!」







 桃娘の魔法ででっかくなったチビ竜が突撃。体当たりでブッ飛ばした上、口から吐いた火の玉で攻撃。そこへオレもデンライナーで一斉射撃をぶちかます。







「よぅし、だったら心配いらねぇな!
 桃娘! ビシッと決めちまえ!」

「はいっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『《フォースチップ、イグニッション!》』



 兄さんとわたし、そしてシャープエッジの叫びが交錯して――セイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、兄さんのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。

 それに伴って、兄さんの両足と右肩、そして左腕に合体したシャープエッジの装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。



《Full drive mode, set up!》



 そう告げるのは兄さんのボディのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。



《Charge up!
 Final break Stand by Ready!》




 再び制御OSが告げる中、わたしはワンドモードのオメガをかまえ、



「いっけぇっ!」



 ギガンデスの頭上に投げつけた。と、オメガは上空で制止して、頭上からフォースチップによって強化された魔力を放つとギガンデスの周りに巨大な水竜巻が発生、その動きを封じ込める。

 そして、わたしは空いた右腕でシャープコンボイの左手首――テールカッターの根元をつかんで、



「シャープセイバー、抜刀!」



 シャープエッジの言葉と同時、テールカッターからシャープエッジの背骨にあたるフレーム、そして鼻先のノコギリまでが一気に引き抜かれた。それ自体が巨大な一振りの刃とな
って。

 抜き放ったシャープセイバーをかまえて、わたしは動きを封じられたギガンデスへと突っ込んで――



「氷結――」

《破砕!》



「アイスバーグ、スラッシュ!」



 真横に振るった刃を、拘束していた水竜巻ごとギガンデスに向けて叩きつけた――同時、刃に込められていた“水”属性の魔力が凍結効果を発動。水竜巻もろともギガンデスを氷づけにしてしまう!

 そして、わたしは氷づけになったギガンデスへとシャープセイバーを軽く振るい、



『《成、敗》』



 静かに告げ、軽く叩いただけで氷塊は粉々に砕け散って――それに伴い、完全に凍結していたギガンデスもまた、粉々に砕け散ってしまった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぴぃっ!」

「ぴぴぃっ!」

「みーっ!」

「はいはい。ウミもカイもあわてないで」

「肉はたっぷりあるでござる故にな」

「はーい、ヴェルもご飯だよ〜」



 事件も解決して、現代に戻ったら、キャロはつかさと一緒にさっそくアニマルズにご飯。

 いやはや、のびのびしてていいことだね……



「ほら、ジークさんも!」

「う、うむ……」



 ……あの人が輪に加わってなかったら、ここ数日ですっかり見慣れた光景だったんだけどね。



「いや、なんでジークさんがあそこに?」

「キャロちゃんから誘われてたよ。
 ジークは渋ってたけど、あの通り……」



 ん、まぁ、キャラ的にジークは負けるよね。

 どっかの誰かの影響か、着々と二代目魔王への道を歩んでいるキャロに、そう簡単に勝てるはずがない。

 良太郎さんの答えで、とりあえず向こうの状況は把握した……で、こっち。



「マスターコンボイは、どうしてそんな後ろで身がまえてるのさ?」

「安心しろ。
 貴様には関わりのない話だ」



 いや、それでもそうもあからさまに警戒されれば誰だって気になりますから。



「あー、そっか。
 恭文、マスターコンボイが“被害”にあうところを見たことないんだよな。見る前にウミ達が聖王教会に行っちまったから」



 そんな僕らのそばで納得してるのはジュンイチさん……状況わかったんなら説明ぷりーず。



「別に大したことじゃねぇよ。
 マスターコンボイのヤツ、アイツらが遊びで走り回るのに巻き込まれる度、毎回のようにかれてたからな。
 いやもう、それは見事な全戦全ぴゃっ!?」

「いらんことは話さんでいいっ!」



 ジュンイチさんがマスターコンボイにしばき倒された。



「フンッ、オレとていつまでもやられっぱなしではないっ!
 その気になれば、今さらあんなガキどもに遅れを取る道理などないっ!」

「ふーん、へー、ほー」

「って、何だ、柾木ジュンイチ! さては信じていないな!?」



 明らかに返事が適当なジュンイチさんにマスターコンボイがくってかかって――



「ぴぃっ!」

「ぴぴぃっ!」

「みーっ!」

「あ、こらっ!」

「ウミ、カイ!」

「ヴェル!?」



 向こうで動きがあったらしい。食事が退屈になってきたのか、ウミやカイ、ヴェルまでもが次々に脱走して――え、こっちに来る!?

 まさか、これがジュンイチさんの言ってた!?



「フン、ちょうどいい!
 こいつらなどオレの敵ではないことを証明してくれるっ!」

「わかっていると思うが、傷つけるなよ」

「言われるまでもない!」



 釘を刺すイクトさんに答えて、マスターコンボイはこっちに向かってくるウミ達の前に立ちはだかり、



「ぴぃーっ!」

「ぴぴぃっっ!」

「ふんっ! なんのっ!」



 ウミとカイの突進を難なく回避。



「みみ――――ッ!」

「くらうかぁっ!」



 時間差で、まるで飛びかからんばかりに飛びついてきたヴェルをかわす――って、アレは!?

 あ、あの、上半身どころかヒザから上、全体を仰向けに寝かせるようにしてかわす、あの動きは――



「マトリックス避けか!?」

「オレにかかれば、このくらいは造作もないっ!」



 声を上げるジュンイチさんに答えて、マスターコンボイは元の姿勢に戻ろうとする……けど、バランスがとれずになかなか身体を起こせない。

 よし、がんばれ! 身体さえ起こしてしまえばこちらのものだっ!



「ぬぐぐぐぐ……っ!」



 僕らが見守る中、マスターコンボイの上体が少しずつ起き上がってきて――







「こらーっ! ウミ! カイ!」

「食事はまだ途中でござるよ!」

「ヴェルも戻ってきてーっ!」



「ぴぃっ!」

「ぴぴぃっ!」

「みーっ!」

「ぐわっ!?」







 あ、キャロ達に呼ばれて戻ってきたウミ達に蹴散らされた。



「……大丈夫?」

「ウミやカイも……十分戦力になるんじゃないのか……?……ガクッ」

「わーっ!? マスターコンボイーっ!?」



 目を回すマスターコンボイの姿に、助け起こした良太郎さん達は大あわて。



 まぁ……何にしても、だ。



「今日も平和で、何よりだねー」

「いや、オレ的にはちっとも平和じゃないんだがっ!?」



 ……元気じゃないのさ、マスターコンボイ。







(第11話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



『辻斬り?』



「おかげで見えてきたじゃないのさ。
 そのイマジンをおびき出して、しばき倒す方法が」

「……オトリ、だね」



「この私が……無視されるなんて……っ!」



「では、その力、見せてもらうぞ。
 失望させてくれるなよ――娘!」







第11話「オレの強さにお前が惚れた」







「オレの契約者のため、お前の力を貸してくれ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「作者が『とにかくジークらしさを出すのに難儀した』ともらしていた第10話だ」

オメガ《キャラが立ちすぎて、逆に扱いにくかったそうですよ。
 まぁ……それでも“恩返しキャラ”なところが上手く働いて事件を解決してくれましたが》

Mコンボイ「シャープエッジとも和解したようだし、まずまずの結末だな……」

オメガ《ボスも最後にウミ達にブッ飛ばされましたし》

Mコンボイ「またあのパターンが復活するのか……!」

オメガ《『MS』でさんざんブッ飛ばされてましたからね、ボスは。
 さて、次回もまたボスがブッ飛ばされるのかどうか……もそうですけど、いよいよ次回はミスタ・キンタロスのエピソードです》

Mコンボイ「しかし、すでにフォワード四人は相方が確定しているしな……六課側は誰が絡んでくるんだ?」

オメガ《いや、ちょっと考えればわかるでしょう?
 フォワードの四人は確かにみんなメインを張りましたが、トランスデバイスの方はひとり残ってるでしょう》

Mコンボイ「あぁ……“アイツ”か。
 というと……」

オメガ《はい。“彼女”の出番ですね。
 どうがんばってくれるか、期待して次回を待たせてもらいましょうか。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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