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頂き物の小説
第5話「ティアナ・刻(トキ)を越えて」




「ほな、まずは自己紹介やね。
 地球の灘杜神社で退魔巫女やってます、嵐山いぶきいいます」

「龍杜神社の元退魔巫女、龍宮小夜、の、和魂にぎみたまです」



 場所は六課フォワード陣のオフィス。集まったみんなを前に二人はぺこりと頭を下げる。



『………………』



 そんな二人のあいさつに、みんなの視線が僕に集まる――「説明しろ」的な意味で。



「あー、えっと……
 二人とも、大賀温泉郷で知り合ったんだよ。
 今二人が自分達で名乗ったように、退魔巫女……みんなにわかる言い方をすると、モンスター退治専門の教会騎士、かな? それを仕事にしてる」

「地球の聖堂教会の“代行者”のようなものか?」



 聞き返してくるスターセイバーの問いにうなずいてみせる。



 まぁ、薫さん達退魔師の対妖怪特化版、って言った方がしっくり来るんだけど、教会の方が先にイメージされるあたりはさすがは騎士、ってところかな?



「まー、“代行者”ほど見敵必殺サーチ・アンド・デストロイやないけどね。ウチも小夜さんも、所属してる神社は妖怪共存派やし」

「よ、妖怪……?」



 いぶきの補足に苦い顔をするのは、デンライナー署の代表として良太郎さんと二人で話を聞いているハナさん……そういえば、お化けの類とかダメだったっけね。そういう意味ではジュンイチさんと気が合いそう。

 なお、モモタロスさん達は向こうでさっそくいぶきをナンパしようとしたウラタロスさんを止めてます……というか口撃返されて乱闘寸前。ケンカするならよそでやってねー。



「ま、そんなワケで、大賀温泉郷の事件ではやっちゃん達にお世話になってな。それで仲ようなったんよ」

『…………事件?』



 いぶきの言葉に、みんなの視線が僕ら“大賀に行ってた組”に集まる――「聞いてないぞ」的な意味で。

 いや、だって話したら絶対みんな怒るし。女の敵な生態の妖怪に対しても、休暇で大賀に行ったのにちっとも休んでなかった僕らに対しても。

 だから、一応部隊長であるはやてに報告だけはしたけど、他のみんなに対しては黙秘権を行使させてもらってたんだけど……



「……話さなきゃ、ダメ?」

『うん』



 ……ですよねー……











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第5話「ティアナ・トキを越えて」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 結局、洗いざらい吐かされました。具体的には前シリーズ第11話の再現な感じで。

 もちろんジンやイクトさんも巻き込んだ。自分達だけ逃げられると思うなよっ!



「妖怪に、龍神……」

「恭文達、そんなのと戦ってたんだ……」



 キャロやエリオが感嘆の声を上げている――うん、そうだよ。そんなのと戦ってたんだよ。

 ついでに巨大ボス戦のお約束 “体内に潜って内側でのラストバトル”も経験済みだよ。



「アンタ、休暇で出かけてもそれなワケ……?」



 ため息まじりにつぶやくティアナだけど……六課に来て最初の休暇の最終日をつぶしに来たひとりに言われたくない。



「アンタ、まだアレ根に持ってるワケ!?」

「根に持ってはいないけどネタにはする」

「同じようなものじゃない!」



 まさか。ぜんぜん違うでしょ。

 根に持っている人はそれで相手を口撃する。僕はネタにすることで周りの笑いを取りに行く……ほら、ぜんぜん違うじゃないのさ。



「で、そんな感じで事件は解決して、いぶき達とはお別れになったワケだけど……そこのバカ大帝がご丁寧に連れてきてくれたワケだ」

「誰がバカ大帝だ。
 ギガストームやオーバーロードと一緒にするな」



 話をしめくくるジュンイチさんの言葉にうめくのは、地球デストロンのリーダー、恐怖大帝スカイクェイク。

 ジュンイチさんの、トランスフォーマーの中では一番の戦友オモチャにして、いぶきと小夜さんをここへ連れてきた張本人――



「……おい、蒼凪。
 お前、今『戦友』と書いて何て読んだ?」



 気にしない気にしない。



 あ、ちなみに。

 意外なことに、なのはの師匠のひとりでもあったりする。撃墜事件の後、なのはのリハビリから現場復帰のための再訓練までを一手に引き受けてくれたのが彼なんだとか。



 つまり、なのはの魔王化を阻止できなかったひとりでもあって……



「魔王じゃないもんっ!」



 はいはい。わかったからなのはは少し黙っていようか。

 それよりも、気になることがひとつ。



「えっと……小夜さん」

「はい?」

「現界してて大丈夫なんですか?」



 首をかしげる小夜さんに尋ねる――小夜さんは大賀温泉郷での“龍神事件”で肉体を失って、魂の一部(=和魂)だけの存在となった。失礼を承知で言うなら“生き霊”だ。

 今こうしてみんなの前に姿を現しているのは現界、つまり実体化しているから……けど、本来大賀温泉郷のような霊脈の力の強いところでしかそれは行なえないはずなのだ。

 ……あれ? ってことはここって霊脈の力が強いってこと? 世界違うけど大丈夫なの?



「それがですねぇ……この世界に来てから、普通に現界していられるんですよねぇ。
 わたしも、ちょっとビックリしてます」

「ミッドチルダは、地球よりも大気中の“力”も密度が濃いからな。
 言ってみれば、全域が地球で言うところの“霊脈の力が強いところ”と同じような状態なんだろう」



 答える小夜さんに説明してくれるのはスカイクェイク。だけど――



「ということは、こっちの世界ではいつでもどこでも現界していられるんですね。
 よかったです。これでいつでもやっちゃんとらぶらぶできますね♪」

『………………』



 笑顔で両手をぽんっ、と打ち合わせる小夜さんの言葉に、みんなの視線が僕に集まる――「またか。またなのか」的な意味で。



「ダメですーっ!
 恭文さんはリインとらぶらぶするですよっ!」



 当然、黙っていないがこの人。リインが飛び出してきて小夜さんに猛抗議。



「恭文さんのお相手は元祖ヒロインのこのリインが務めるですよっ!
 恭文さんとらぶらぶしたいなら、このリインに話を通してからにするですよっ! 絶対に許しませんけどっ!」

「いや、『お相手』とか言ってるけど、僕の本命はあくまでフェイトだからねっ!?
 お願いだから当事者無視して話を進めないでっ!」



 全力でツッコむけど……うん、聞いてないよね。なんかぽかぽかと叩き合い始めたし。



「あっはっはーっ、モテる男は辛いなー、やっちゃん」



 うっさい。いぶきは気楽でいいよねー。当事者じゃないんだし。



「つか、そもそも何しに来たのさ?
 まさか、ただ遊びに来ただけ、とか言わないよね?」

「んー、それもあるんやけど」

「帰れ」

「あーっ! 待って待って! ちゃんとした用事もあるからっ!
 ジンくーんっ!」

「え? オレ?」



 ジンに用事? いったい何の……あ。



「……まさかっ!?」

「せや」



 僕と同じく気づいたらしいジンに答えて、いぶきはゴソゴソと持っていたカバンをあさって、



「ほら、ジンくん、お届けもんや」



 取り出したのはひとつの小包。それをポンッ、とジンに手渡す。



「あぁ……ようやく帰ってきたか、我が相棒っ!
 待っていたぜ、この時をっ!」



 それはジンにとって待ちに待った相棒の帰還。喜び勇んで小包を開封して――











 ぼんっ!と小包から噴き出した火柱が、のぞき込んでいたジンの顔面を直撃した。











「ぅわちぃぃぃぃぃっ!?」



 哀れ、直撃をもらったジンは顔を抱えて転げ回り――ん? なんだアレ?

 ヒラヒラと舞い下りてきたカードを手に取る……メッセージカード?







『はっはっはっ! 油断大敵よ、ジン!
 これが敵から送られてきたトラップだったら、今頃ミンチよ? もっと精進しなさい。

 P.S.バルゴラについてはしかるべきところに預けてあるわ。このトラップの発動信号を確認したら再発送してもらう手はずになってるから、安心してね♪
 by,アリス・スノウレイド』








「…………だって」

「あ、あの人はぁぁぁぁぁっ!」



 メッセージカードを読み上げる僕の言葉に、ダメージから立ち直ったジンは思わず頭を抱える。

 まぁ……気持ちはわかる。わかるけど……逆らってもロクなことないし、あきらめよ?



「というか……『地球で預けてある』って……」

「間違いなく、グレアムさんちの三バカマテリアルだな。
 リーゼどもが嬉々として協力しそうだ」

「というか、これ……ウチらが開けてたらえらいことになってたんとちゃうやろか……」



 ジュンイチさんが僕に答える一方で、くだんの小包をここまで運んできたいぶきは顔が引きつってる。まぁ、一歩間違えば自分がくらっていたかもしれないと思ったら、そこは当然かもだけど……



「あー、そいつぁないから安心しろ」



 言って、ジュンイチさんは地面に転がった小包の箱を足に引っかけて放り上げ、目の前に跳ね上がったそれを手に取る。



「魔力認証式のトラップだ。
 ターゲットの魔力を検知するとトラップのスイッチが入る仕組みだ。他のヤツが開けても、仕掛けがバレるだけで爆発はしない」



 ジンだけを狙い撃ちってこと? アリスさんも徹底してるなぁ……

 けど、ジュンイチさんもよく箱を見ただけでわかりましたね?



「ま、オレが教えたトラップだし」

「一番の元凶はアンタかっ!」



 ジュンイチさんがジンに蹴り倒された。



「ったく、アリス姉もジュンイチさんも……」

「もう、いっそ自分で受け取りに行ったら? 再発送してもらうってことは、大賀で待ち伏せていれば届くでしょ」

「あはは……ジンくんも大変やね。
 ……それはそうと……やっちゃん」



 ん? いぶき……? いきなり神妙になって、どうしたのさ?



「いや、さっきからずーっと気になっとったんやけど」



 言って、いぶきは“そちら”へチラリと視線を向けて、



「あの、電王ご一行のそっくりさん達は、どこのどちらさん?」



 良太郎さん達を見ながら、小声でそう聞いてくる……あぁ、そういえばいぶきもそっち方面けっこうイケるクチだったよね。

 話さないワケには、いかないよなぁ……





















「ウチも手伝うっ!」



 ……こうなるだろうと思ったよっ!

 あきらめて事情を説明したところ、いぶきはご覧の通り即決で参戦表明。

 うん、そうだよね。僕らも“そう”だったんだし、こうなるよね。



「当然やん!
 みんなの憧れのヒーロー、仮面ライダーと一緒に戦えるんやで! このチャンス、逃すワケにはいかへんやろ?」

「うんうん、わかるよその気持ちっ!
 手伝わずにはいられないよねっ!? そうだよねっ!?」

「せやろ、せやろ!?」



 ……案の定、さっそくこなたと意気投合してるし……どうするのさ、はやて?



「まぁ……こなた達は言うに及ばず、いぶきさんも大賀で一緒に戦った仲なんやろ?
 恭文達の戦いについてこれるんやったら、実力的には問題あれへんよね」



 ゴッドマスターでもあるしね。



「何より、良太郎さん達デンライナー署のみなさんに詳しいのがありがたい。あのノリについてこれる人が増えてくれるんは、連携の上で大きなプラスになる」



 ……となると、選択肢なんてひとつしかない、か……

 はやては、こなたと、いぶき、そしてかがみ達を順に見て、口を開いた。



「ホントなら、もう民間人に戻っとるこなた達カイザーズや、退魔巫女としてのお仕事もあるいぶきさんを巻き込むべきやないと思う。
 せやけど……イマジンは、電王に詳しくない私らには未知の部分の多い相手や。対応する上で、味方はひとりでも多い方がえぇ。
 できるだけの便宜は約束する――力を、貸してくれへんかな?」

「あぁ、そんな頭下げなくてもいいって。
 どの道手伝うつもりだったんだし……ね、かがみ?」

「そうね。
 こなたみたいな理由はさておき、イマジンを放っておけないのは確かだもの」

「私達も、電王にはそれほど詳しくないけど……」

「私達にも、お手伝いさせてください」



 こなた達カイザーズはかがみ達も含めて全員承諾。そしていぶきも……



「当然や!
 みんなを守って戦うヒーロー……ウチが目指してるのはそこやもん。
 電王に協力するんは、ウチにとっても目標へのステップアップになる――全力で力を貸すで!」

「……ありがとうな。
 ほな、隊舎の方に部屋用意してもらうから、事件中はそこ使ってな」

『はいっ!』



 はやての言葉に、こなた達やいぶきは元気にうなずく――で、ジンは難しい顔してどうしたの?



「いや……
 六課の隊舎、どんどん非正規隊員の人口比率が増していってるよなー、と……」



 ……うん、そこツッコんじゃダメだと思う。

 一番その被害を受けてるの、仕事が増える寮母のアイナさんだと思うから。





















 ……とにかく、長い一日はようやく終わりを告げようとしていた。

 僕達は、隊舎の食堂でのんびり……



「……してていいのか?
 小夜さんとリイン、お前が常連で使ってる部屋の隣室、使う使わせないの攻防戦やってるけど。
 今日も泊まりだろ? 絶対小夜さんとか突撃してくるぜ」



 ……のんびりしてるったらしてるのっ!



「はい、コーヒーどうぞ」



 ジュンイチさんの言葉で机に突っ伏す僕に、そんな声と共に湯気の立つコーヒーカップが差し出された。

 持ってきてくれたのは白い袖なしの服の……え?







『《ナオミさんっ!?》』







「はいっ!
 ……柾木ジュンイチさんに、蒼凪恭文ちゃん、アルトアイゼンちゃん……で大丈夫ですよね」

《……『ちゃん』付けですか》



 いぶきの『やっちゃん』『あっちゃん』よりマシかと。



「ヘイハチさんから話は聞いてます。
 ナオミです。よろしくお願いします!」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「よろ〜」



 この人は、デンライナーの食堂車の従業員、ナオミさん。



 ……いや、それ以上に説明のしようがないの。うん、デカ長と同じでね、この人も謎が多いの。



 てか、この人もこっちに来たんだ……そういえばさっきデンライナーに乗った時にはもう食堂車にはいなかった。それ以前に、もうこっちに来てたんだ……って、



「あの、ナオミさん」

「はい?」

「こっちに来ちゃって、その……食堂車、ほっといていいんですか?」

「あぁ、大丈夫ですよ」



 尋ねる僕に、ナオミさんは笑顔で答えた。







「お客さんいませんから」







 ……そうでしたね。

 TVシリーズでも、最初の方にそこそこいたお客さんが、モモタロスさん達のケンカが日常になっていくにつれて寄りつかなくなっちゃったんでしたっけ。



 なんか気まずくなってコーヒーをすすって……気づく。



「あれ、普通のコーヒーだ」

「え? そういえば……」



 ナオミさんのコーヒーといえば、イマジン向けの味つけで、良太郎さん達は渋い顔してたのに……



「私達が淹れたんだ」

「えっと……どうですか、ジュンイチさん?」

「フェイト!?」

「ギンガ……?」



 現れたのはフェイトとギンガさん。食堂に着くなり姿を消したと思ったら……



「んー、もうちょっと冷めてから出してほしかった。
 味はいいんだけど、ちょっと熱くて飲みづらい」

「え? これでもけっこう冷ましたんですけど……」

《ジュンイチさんの猫舌も筋金入りですね》



 それはそうと……ナオミさん、もうひとつ。



「はい?」

「先生、ナオミさんに何か迷惑かけたりは……
 こう、何と言いましょうか……あれですよ」

「実は……最初の頃に、お尻を触られそうに……」

「すみませんでしたっ!」



 全力で頭を下げる。あ、あの人は本当に……っ!



「じっちゃん、どこ行っても変わらねぇなぁ……」

「まぁ、先生だし」

《逆に安心しましたけどね。元気そうで……》











「……ぅわぁ、本当にみんないるーっ!」











 …………ん?



「モモタロスーっ♪」



 正真正銘のナオミさん特製コーヒーを飲んでいたモモタロスさんのところへぱたぱたと駆けてきたのは、ひとりの女の子……って、



《ヴィヴィオさん、まだ起きてたんですか》



 そう、ヴィヴィオだった。



「あぁ? なんだこのチ――いや、お人形みたいに可愛らしいお子ちゃまわっ!?」



 なぜに言い直すんですか。



「お前とかマスターコンボイが反応すると思ったんだろ」

「ジュンイチさん、僕はそこまで危険人物じゃない」

「いや、昼間のアレは、そう思わせるには十分だから」



 ウラタロスさんがツッコむけど……うん、気にしない。

 とにかく、ヴィヴィオはさっそくデンライナー組のみなさんや、いぶきと仲良くなり始めている。

 なのはの話じゃ、最初は人見知り激しかったらしいのに……いやはや、人間変わるもんだね。



「ヴィヴィオ、すごいね。
 モモタロスさん達にも、物怖じしてない」

「まぁ、僕がディスク貸してたから」

「なのは共々ファンなんだよ。
 特にモモタロスとリュウタロスがお気に入りでな」

「……なるほど」



 何にしても、楽しくなるといいな……うん。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……いや、ここのメシも……なかなかうめぇなっ!」

「でしょっ!? ここの自慢のひとつなんですよ!」



 ドタバタしっぱなしだったミッド・デンライナー署のスタート初日はなんとか終わって……翌日。

 現在、ボクらは六課隊舎の食堂で朝食中。

 そして、口々に言いながらご飯を食べているのは、モモタロスとスバルちゃん。



 というか、一気に距離が縮んだね。何かいろいろすっ飛ばした感じで。



「モモタロス、自分がスバルちゃんのこと怖がってたの、忘れてるんじゃ……」

「スバルの方も、間違いなく怖がられていたことを忘れているな」

「良くも悪くも、似た者同士だったってことか……」



 ボクの言葉に答えたのは、となりで食事をしているマスターコンボイと恭文くん。



「ま、スバルの懐の深さは今に始まったことじゃないしな。
 一度宇宙を滅ぼしかけたマスターコンボイを、まだ今ほど丸くなる前から追いかけ回してたくらいだし」



 そんなボクらにジュンイチさんが朝ご飯を食べながら答えるけど……あの、ジュンイチさん?



「ん?」

「いや、えっと……朝からそんなに食べて大丈夫なの……?」

「燃費が悪いからな」



 って、燃費がどうのとか、そういう問題なの!? すでにとなりのテーブルが空の食器の山で埋め尽くされようとしてるんだけどっ!



 と――



「おー、まーくん、良太郎さん、やっちゃん、おはよーさん」



 あぁ、いぶきちゃん、おはよう。



「あー、お腹すいたっ! ご飯やご飯っ!」



 元気に言って、いぶきちゃんはカウンターで朝食を盛りつけて戻ってくる……んだけど、



「い、いぶきちゃんも、そんなに食べるの……?」

「当然やん。朝ご飯は一日のパワーの源やでっ!」



 いぶきちゃんもトレーに山盛りのご飯。しかも当然のように言い切るし……



「良太郎さんがむしろ食べなさすぎなんよ。
 しっかり食べて、体力つけんと、“最弱ライダー”の汚名を挽回できへんよ?」



 それ、ヒビキさんにも言われたよ……で、いぶきちゃん。



「何?」

「汚名は、挽回じゃなくて返上するものだよ?」

「…………アレ?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そんなこんなで、今日も元気にお仕事開始……なんだけど……



「さっそくですがアルトさん、質問です」

《何でしょう?》

「……僕達、何してたんだっけ?」

《良太郎さん達やいぶきさんの案内を兼ねて、クラナガンで聞き込みですよ、イマジン関係で》



 まぁ、そうだよね。聞き込みは刑事の基本だよね。

 そして、クラナガンで動き回る以上、良太郎さん達にもクラナガンの道を覚えてもらわないといけないから、道案内は一度はしておかなきゃ……これは前回の事件でジュンイチさんも言っていたことだ。



 で、次。



「そうしたら、イマジン出てきたんだよね?」

《出てきましたね。
 映像によれば、カメレオンにサソリにフクロウが》



 うん。僕らは直接エンゲージしてないけど。



《……で、現場に駆けつけてみると、どうしてか現場が……まみれだったんですよ》

「うん、ひどかったね」



 イマジンども……運搬トラックを強奪して、契約者さん達に向けて全部ぶちまけやがった。

 おかげで現場はものすごいことになってた。地獄だよ、地獄。いろんな意味で阿鼻叫喚。

 で、最後の質問ね。







「……何してんの、本当にっ!」

《自分の胸に聞いてください。
 心あたりがないとは、言わせませんよ?》







 あぁ、ごめんなさい。あります、すっごく……でも、コレはないからぁぁぁぁぁっ!



 と、ゆーワケで、回想スタート、逝ってみようっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……これ、誰が処理するの?」

「というか……もったいないですよ。
 食べ物を粗末にしちゃ、いけないのです」

「いろんな人達ががんばったのが台無しです」



 リインや小夜さんの意見には全面的に同意。

 だって……周辺一帯、納豆まみれなんだもの。ネバネバしてるし臭いはひどいし。

 うん、ホントにもったいないし、台無しだ。納豆菌だって、こんなことのためにがんばって大豆を腐らせてきたワケじゃないってのに。



「あぅ〜、デンライナー署に参加して最初の事件がこんなやなんてなぁ……」



 となりのいぶきも渋い顔。まぁ、自分のお腹に収まっていたかもしれない食べ物だしなぁ。



「あー、やっちゃん、ウチ納豆食べへんよ?」

「え、そうなの?」



 意外だ。好き嫌いなそうなイメージなのに。



「味的には平気なんやけどね」

「じゃあ、あの糸引いたネバネバ感がダメとかですか?」



 尋ねるリインの問いにも首を左右に振る。じゃあ何がダメなのさ?



「関西人の魂がけがれるから、好かん」

「え? そういうものなの?」



 そういえば、前にはやても似たようなこと言ってたけど……関西人の感性はたまによくわからない。



「…………恭文くん」

「あぁ、良太郎さん」



 ……って、なんでそんな疲れ果てた顔? まぁ、僕もそういう顔してるだろうけど。



「あのさ……嫌いなものを身体中にぶちまけられたり、口いっぱいに放り込まれたりしたら、普通はさらに嫌いになるよね?」

「…………はい?」



 いや、まぁ……食わず嫌いとかでもない限り、普通はそうでしょうけど……



「それがどないしたんですか?」

「あの契約者の……女の人の方」



 あぁ、あの納豆の中心で男と抱き合って呆けている人ですか。

 ちなみに相手の男も別イマジンの契約者。さらにもうひとりいて……向こうの納豆の山に埋まってたのをちょうど掘り出されたところ。



「納豆嫌いが原因で彼氏……あの抱き合ってる相手の方なんだけど、あの人と別れちゃったから、イマジンに『納豆嫌いを治してほしい』ってお願いしたんだって……」



 それでこれですか。

 こんなやり方で、よくそんな契約が成立したもんだ。



「で……残りの二人は?」

「彼氏さんの方が『彼女とよりを戻したい』で、もうひとりが彼氏さんの友達で、『二人の仲をなんとかしたい』ってお願いしたんだって」



 なるほど、こっちはなんとなくわかる。

 納豆をぶちまけられた彼女を守ろうと彼氏さんが抱きしめたことで、“抱き合った”という事実を“よりを戻した”と解釈して契約が完了したんだ。



「良太郎さん、リイン達は『電王』は見てないので、イマイチわからないんですけど……」

「イマジンって、毎回コレなんですか?」

「これ……だね。
 うん、かなり適当だよ。今回だって、飲み込んだから『食べられたから克服できた』って契約成立してるし」

「ホントに適当です……」

「契約というものをなめてますねぇ」



 良太郎さんの答えにリインや小夜さんがあきれてる……まぁ、要するにその人の“過去”とつながりさえすればいいんだしね。契約内容を忠実に果たす必要性はないんだ。

 前回なら「誰それをぶちのめしたい」っていう願いは曲解の余地がなかったからよかったけど、「ケンカする二人を止めたい」っていう方の願いはとにかく目の前のケンカを止めようと力ずくで止めに入ってた。それじゃ意味ないっていうのに。

 イマジンとの契約なんてそんなものだけど……これはないよね。

 もしこれが僕だったら……



「……恭文くん?」

「やっちゃん?」



 身体中にぶちまけられ……口いっぱいに放り込まれ……



「やっちゃん、大丈夫ですか?」

「顔色悪いですよ?」







 …………きゅう。







 バタンッ。







「恭文さん!?」

『やっちゃん!?』

「え、なんで!? というか……しっかりーっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 結局、恭文くんはダウン。そのままアルトアイゼンとリインちゃんに小夜さん、あとハナさんに付き添われて、うなされながら六課に帰っていった。

 そして、僕達は過去へと跳ぶ。今度の行き先は、6年前の、ミッド市街地……らしい。

 でも……恭文くん、生のトマトがあんなにダメなんだ。なんだかうなされてたし。



「うーん……最近、克服させようとがんばりすぎてたかも。
 やっぱりフェイクシルエットの偽装で別の食べ物に見せかけてだましたのはマズかったか」

「食べ終わるまで取調室にカンヅメとかもねー」

「いや、アレはむしろアリシアちゃんの仕掛けた吊り天井の方がマズかったと思うけどねー」



 移動中のデンライナーの食堂車で話しているのは、六課の魔導師の子達。ティアナちゃんにスバルちゃん、そしてジュンイチくんの妹のあずささん。

 というか、そんなことしてたのっ!? キミ達、彼に遠慮なさすぎじゃないかなっ!?



「でも、恭文ですし」

「てゆうかアイツ、あたし達の中ではそういうキャラが定着してるわよね?」

「お兄ちゃんと同じで、遠慮しなくても大丈夫だしねー」



 さ、三人そろってあっけらかんと言い切ったっ!? しかも笑顔でっ!?

 あと、あずささん。ジュンイチくんは比較対照としていろいろ間違ってると思う……



「あー、じゅんさんはなぁ。
 『規格外』って言葉が服着て歩いてるような人やし」

「確かに、あの人と同じっていうのは、ねぇ……」



 いぶきちゃんやかがみちゃんもそういう認識なんだ……



「ま、それはそうと……やっちゃんの生トマト嫌いも相変わらずかー。
 大賀温泉郷でも、旅館の若旦那にトマト出さへんようにお願いしとったし」

「そ、そうなんだ……」

「で、それを察したじゅんさんが若旦那にかけ合って、むしろやっちゃんのお膳だけ生トマト尽くしになるというオチが」

「逃げられなかったんだ!?」



 ホントにみんな何してるの!?



「一度タガが外れると、そろいもそろって暴走特急と化すからな、コイツらは。
 正直、恭文の力になりたいのか新たなトラウマを植えつけたいのか、時折わからなくなることがある」



 ため息まじりにマスターコンボイがこぼす……苦労してるんだね。



「まぁ、まーくんも基本的にいぢられる側やもんねー」

「うるさい」



 後ろからいぶきちゃんにのしかかられて、マスターコンボイがぷいとそっぽをむいて――











「…………ふんっ」











 …………って、な、何っ!?

 今、一瞬食堂車の気温が下がったような気が……っ!?



「良太郎、良太郎」



 ? ウラタロス……?



「あっち」



 ウラタロスが指さした先を見ると、そこには不機嫌そうにぷいとそっぽを向いている……



「…………ティアナちゃん?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……トマト……トマトの師団が……っ!」

「……あの、いったい何があったんですか?
 ここまでうなされるなんて、おかしいですよ」



 う……ハナちゃんの視線がちょっと痛い。

 う〜、最近、ちょっとがんばりすぎてたかも。



「……たぶん。
 恭文さん、そういうキャラなんでついつい……」

「だからって遠慮しなさすぎなんだよ、お前らは」



 うぅっ、ジュンイチさんにすら反論できない……

 でも、どうしよう。まさか想像しただけでダウンするなんて……

 トマト嫌い克服、解散までにはムリかも……







「……だ、か、らぁっ!
 そーやって期限決めてムリヤリ推し進めるから、強引な特訓で恭文にトラウマ刻んでるってわかんないかな!? えぇ、おいっ!?」



 ぐりぐりぐりぐりっ。







「いたたたたっ!」



 ごめんなさいごめんなさいっ! 私が悪かったのでウメボシの刑はぁぁぁぁぁっ!



「……ところで小夜さん」

「何ですか? リインちゃん」

「どうして、恭文さんの手をしっかりと握ってるですか?」



 ……え?

 リインの言葉に、解放されて、痛む頭を抱えていた私が見ると……小夜さんはヤスフミの手をしっかりと握っていた。



「うなされている子にはこれが一番ですから。
 誰かがそばにいるってわかって、安心するんですよ。ウチのみなせが風邪をひいた時なんかにも、よくやってあげたものです」

「そうですか。
 では私も」



 リインがヤスフミの右手を取り、その小さい身体で優しく抱きしめる――それだけで、うなされていたヤスフミの苦しそうな表情が、少し和らいだように見えた。



「……ホントです。効果ありますね」

「あるんですよー♪」



 ……いいなぁ、リインも小夜さんも……







「なぁ、反省してる? 反省してるのか? なぁ、おいっ!?」



 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりっ。







「ひあぁぁぁぁぁっ!?」



 う、ウメボシの刑は! ウメボシの刑はぁぁぁぁぁっ!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………え、何コレ。



 私の可愛い弟弟子が、おもしろおかしな……もとい、世にも情けない理由でダウンしたって聞いたから、思いっきり笑い飛ばしてやろうと……ゲフンゲフンッ、お見舞いにでもと思って医務室に来てみたら……



「ふふふふふ♪」

「クスクスクス♪」



「オシオキだべ〜っ!」

「ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!」



 ……そこはカオスでした。

 まぁ、ジュンイチとフェイトちゃんは想像つくわ。トマト嫌い克服特訓、ムリヤリやらせてたことに対するオシオキでしょ、あのグリグリの刑は。

 で……リインちゃんと小夜ちゃんは何故笑顔でプレッシャーかけ合ってる? なんか二人の発するオーラで周りの空間が歪んで見える……うん、私にはそう見えるの。



《いや、姉御。オレにもそう見えるぜ》

「そっか。やっぱりか。
 ……で、ブイリュウくんや。これは何?」

「あぁ、実は……」



 説明を受けて……うん、納得。



「とりあえず、このメンツは……」

「ジュンイチ以外は機能停止と見ていいでしょ。
 リインと小夜さんは恭文から離れないだろうし、フェイトもあれだけぐりぐりやられたら、向こう2時間くらいは恭文と枕を並べてバタンキューだよ」



 ……だよねー。



「まぁ、どっちみちイマジン過去に跳んじゃったでしょ?
 追いかけそこなったオイラ達にはメインの出番は回ってこないだろうし、別にいいんじゃない?」



 んー、そりゃそうなんだけどね。そうなると、今度は向こうが心配だ。

 こっちが“こんな”な分、どうしても気になってしまう。



「まぁ、向こうは良太郎達に任せておけば大丈夫ですよ」

「そうだね。スバル達も一緒なんだし」



 口を挟んできたハナちゃんにブイリュウが同意。だといいんだけど……



《そういや、イマジンのヤツ、“いつ”に跳んだんだ?》

「えっと……6年前の、この日付」

「彼氏と、納豆が原因でケンカしたそうです」



 そんな理由で、と言うことなかれ。

 『食べ物の恨みは怖い』って言うでしょ? 三大欲求に根ざしているだけあって、このテの恨みは形を問わず怖いのだ。



《……つかよ、姉御》

「何?」

《いや、過去に行った組、ちとヤバくねぇか?》



 え、何が?

 戦力的には十分だし、マスターコンボイが一緒ならギガンデスになられたって……



《オレンジガールも一緒なんだろ?
 6年前のこの日付って……それで首都ってマズくないか?》

「…………あぁっ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 電車から降りると、そこはクラナガンの一角。

 なんて言うかさ……まだ実感わかないわ。過去に来てる、なんてさ。

 でも……目の前にターゲットがいるのは、まぎれもない現実。

 カメレオンに、フクロウに……なんか刺々しいヤツ。良太郎さんによるとサソリのイマジンらしいけど。



「いくよ、キンタロス」

「よっしゃっ!」



 良太郎さんに答えて、そのとなりに並び立つのは熊のイマジンの……キンタロス。



 そして良太郎さんは例のベルトを腰に巻くと、黄色のボタンを押して、











「変身」



《Ax Form》











 良太郎さんが変身。全身を包むマスクとスキンスーツを身にまとうと、キンタロスが彼の中に入り、その上から金色のアーマーが装着される。

 そして顔のレールに乗って現れたのは……斧? とにかく、例によってマスクへと組み替わり、装着される。



「オレの強さに、お前が泣いたっ!」



 どっしりとかまえて、良太郎さんが……いや、良太郎さんの中のキンタロスさんが叫ぶ。



 じゃあ……あたし達もっ!



「ジェットガンナー!」

〈了解〉



 あたしの呼びかけに、答える声――同時、背後に停まるデンライナーの貨物車の上部ハッチが開く。

 その中から飛び出してきたのはあたしのパートナー、トランスデバイスのジェットガンナーだ。ロボットモードのまま、あたしの背後に降り立つ。



「いくわよ、かがみ、スバル!」

「えぇ!」

「うんっ!」



 あたしの声に、二人が強くうなずいて――







「よっしゃ、いくで、まーくんっ!」

「その名で呼ぶなっ!」

「断るなっ!」







 …………むっ。







「……ティア?」



 ――――っ。



 スバルに呼ばれて我に返る――いけないいけない。集中よ、集中。



「あたしとジェットガンナーはあの鳥型イマジンを叩くわ。
 地上はみんなに任せるわよ――ジェットガンナー!」

「あぁ!」



 そして、あたしは飛び立つ相棒の背に飛び乗り、上空に舞い上がったイマジンを追う。

 いつも通りの、あたしとジェットガンナーの空戦パターンのひとつ……うん、いつも通りにやるだけだ。

 相手が誰かとか、過去がどうとか関係ない。







「クロスファイア……シュート!」



「ジェットショット!」







 いつもと同じっ! あたし達は……あたし達だっ!



『よっしゃ、いくで、まーくんっ!』

『その名で呼ぶなっ!』



 ………………っ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジャマすんなよ……めんどくせぇなっ!」







 言って、サソリのイマジンが手に斧をもって襲いかかってくる……けどっ!







「そんなのっ!」







 シールドでしっかり防いで、逆にお腹に蹴りを一発。ひるんだところに飛び込んで、思いっきり右の拳を叩き込む。

 それでもすぐに立て直して斬りかかってるけど……攻撃はムチャクチャでスキだらけ。その辺は得意じゃないあたしでもカウンターが入れ放題なくらい。

 イマジンの斧を蹴りで弾いて――その足を軸足にして蹴りをもう一発。さらに突っ込んできたところを思い切り殴り返す。







「スの字! ちょっとどいとれ!」



「『スの字』ってあたしのことですかっ!?」







 ツッコみながら、言われた通りに後退――ひるんだイマジンの前に、キンタロスさんが良太郎さんの身体で変身した電王、えっと……アックスフォームが進み出てくる。







「まためんどくせぇヤツが出てきやがったなっ!」







 そんなキンタロスさんに向けてイマジンが攻撃……えぇっ!? まともにくらった!?

 イマジンの振り下ろした斧を、キンタロスさんは防御もしないでまともに受けた。あれじゃあ……って!?







「どうした! そんなもんか!?」







 ウソ……ぜんぜん効いてない!?

 キンタロスさん、ほとんど動じてない……イマジンが何度も斬りつけるけど、それでもかまわず前に出て、距離を詰めていく。







「このぉっ! めんどくせぇなっ!」







 まるでアイゼンアンカーみたいなことを言いながら、イマジンが大きく斧を振りかぶって――







「むんっ!」



「がはぁっ!?」







 一瞬のカウンター。イマジンの攻撃が大振りになった、その一瞬で、斧に組み替えたデンガッシャーで一撃を叩き込んだ。さらに掌底で思い切り突き飛ばす。

 そうか……あれが、キンタロスさんの戦い方なんだ……

 モモタロスさんががむしゃらに飛び込んでいく、ウラタロスさんが受け流してのカウンターで戦うのに対して、防御力にものを言わせて、肉を切らせて骨を断つ……

 ……勉強になるけど……これはちょっと、マネできないかも……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……カメレオンのイマジンが、口から炎を吐き出す。

 せやけど――遅い。余裕でかいくぐって、ウチはイマジンとの距離を詰めていく。

 息切れでもしたんか、一旦放射が止む。もう一度攻撃しようと、イマジンは大きく身をそらして――







「いぶきにばかり、気を取られすぎだっ!」







 反対側からまーくんが飛び込んだ。オメガめーちゃんの一振りがイマジンを狙って――あかん、かわされた。







「このぉっ!」







 反撃とばかりに、炎を今度は弾丸として撃ち出してくるけど、







「そんなものにっ!」



「当たってあげられへんな!」







 ウチらは二手に別れて回避。当然、狙いは粗くなって、ウチもまーくんも追撃をかわしやすくなる。



 さらに、







「私もいるのよ!」







 駆け回ってウチら地上組のサポートに徹してくれてるかがみんの援護射撃もある。ウチを狙った炎の弾丸が全部撃ち砕かれ、そのスキに距離を詰めたウチがイマジンに斬りつける。

 ……斬り裂けんまでも、イマジンの顔が苦痛に歪むんがわかる。うん、効いてるっ!

 それでも反撃してくるイマジンやけど、その爪を刀でしっかりと受け止める。



 大賀温泉郷での“龍神事件”の中で折られた刀は、美鈴っちんトコの鍛冶屋さんで打ち直してもろた。むしろ前より頑丈になって、イマジンの攻撃にもしっかり耐えとる。おっちゃん、いい仕事してくれたわっ!







 そんでもって、背後ガラ空きっ!







「まーくんっ!」



「おぅっ!」



「ぐわぁっ!?」







 ウチの合図でまーくんが強襲。背中にまーくんの斬撃を受けたイマジンを、足の裏で押すように蹴り飛ばすっ!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……何よ、いい動きしてるじゃない。

 上空で、フクロウのイマジンと戦いながらも、みんなの様子には気を配ってる……うん、あたしは六課フォワードのリーダーだもの。

 当然、カメレオンのイマジンと戦うマスターコンボイ達のことも――押せ押せムードで、今のところ援護の必要はなさそう。







 でも……うん、何かおもしろくない。







 マスターコンボイといぶきがコンビネーションを決める度、胸の中がざわつく。それが不快でたまらない。







「貴様、どこを見てい――」



「うっさいっ!」





 あたしを狙ってきたフクロウに魔力弾を撃ち込む。体勢の崩れたところに、ジェットガンナーが追い撃ちとばかりに射撃をお見舞いする。

 ジェットガンナーと一緒に空戦をするようになってよくわかった。空中戦は姿勢の維持が鉄則だ。

 地上と違ってその場で受け身、というワケにはいかない。一度体勢が崩れたら立て直すのは地上ほど素早くはいかない。

 あたしの周りの空戦組はその辺うまくやってるから気にならないけど、アイツの場合はそうもいかないみたい。

 つまり――その間アイツは格好の的っ!







「立て直させない――このまま一気に叩き墜とすっ!
 ジェットガンナー!」



「了解!」











『フォースチップ、イグニッションッ!』











 ジェットガンナーと声をそろえて叫ぶと、あたしは空中に身を躍らせる。



 同時、ジェットガンナーに向けて青色の、地球のフォースチップが飛来。ジェットガンナーのチップスロットに飛び込んでいく。







「排熱システムフル稼働。
 フルドライブモード、起動」







 言いながら、ジェットガンナーがあたしを拾う――同時、その両手足や翼の放熱システムがフル稼働。フォースチップのエネルギーが、ジェットガンナーだけでなくあたしのクロスミラージュにも供給されたのがわかる。

 ジェットガンナーのかまえた両手のジェットショット、そしてあたしのシングルモードのクロスミラージュ――それぞれの銃口が魔力スフィアを作り出し、フクロウのイマジンへと狙いを定めて――











「三点――」



「粉砕!」







『トライアングル、スパルタンッ!』











 引き金を引いた。放たれた三つの魔力スフィアが、イマジンへと飛んでいく。







「そんなものっ!」







 もちろん、イマジンもなんとか逃げようとするけど――







「ムダよっ!」



「弾けろ!」







 その言葉を合図にスフィアが弾ける。無数の魔力弾の雨となり、イマジンを包囲、一斉に襲いかかる!

 さすがに、この数の魔力弾に襲われたらひとたまりもない。そのすべてがイマジンを直撃して――











『……皆、中』



「ぐわぁぁぁぁぁっ!」











 あたしとジェットガンナーが告げると同時――イマジンは爆散、消滅した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何っ!?」







 上空で起こった、イマジンの最後を示す爆発――それに気づいたカメレオンイマジンが声を上げて――







「どこを」



「見とんのや!?」







 ウチとまーくんで連続して斬りつける!







「よっしゃ、決めるで、まーくんっ!」



「お前が仕切るな!」







 とか言いながら合わせてくれるまーくんは優しいなー♪

 とにかく、ヨロヨロと立ち上がるイマジンに向けて、もう一度まーくんと二人で斬りかかっ――え!?







「ほぇ!?」



「消えた!?」







 そう。目の前で、イマジンの姿が消えた。







「きゃあっ!?」



「ぅおっ!?」







 そして背後で声が上がる――見ると、スバっちとキンちゃんが、まるで誰かに突き飛ばされたみたいに倒れるところやった。







「スバっち!? キンちゃん!?」







 あわてて駆け寄ろうとしたウチやけど――そんなウチらめがけて、どこからともなく火球が飛んでくる。

 とっさにかわして、顔を上げると、その時にはスバっち達が相手しとったスコーピオンイマジンの姿もなくなっとった。







 …………ウソ。







「逃げられ……た?」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『……ごめんなさい』

「まったく、何やってるんだよ、お前らっ!
 クマ公もクマ公だっ! お前がついてて何やってんだ!」

「まぁまぁ、モモタロス……」



 謝るいぶきちゃんとスバルちゃんの前で当り散らすモモタロスをなんとかなだめる。

 けど、ボクもちょっと甘かった……カメレオンのイマジンなんだから、姿を消す能力があってもおかしくないって考えるべきだった。

 事前に気づいていれば、キンタロスじゃなくてモモタロスで出て、モモタロスの鼻で追跡……ってこともできたかもしれなかったのに……



「確かに、あのイマジンはモモの字向きやったな」

「そうそう。コソコソ逃げ出す小物臭がするところなんか特にね」

「そうそう、小物臭……って、おいカメ公! なんでそれでオレ向きなんだよ!?」

「と、とにかく、イマジン探そう?
 少なくとも、この時間にいるのは間違いないんだし……デカ長」

「……仕方ありませんね。
 しかし、あまり長居はしないでくださいね。前回も触れましたが、あなた方のこの時間の長期滞在は好ましくありません。
 では……ナオミくん」

「は〜い♪」



 って、ナオミさん、その手に持ったたくさんの服はいったい……?



「スバルちゃんとティアナちゃんのお着替えです♪」

「え? あたしとティアの……?」

「えっと……どういうことですか?」

「どういうもこういうも……あなた達、その格好でイマジンを探すつもりですか?」



 デカ長が言う“その格好”っていうのは、スバルちゃん達の着ている管理局の制服。



「あ、そっか。
 ここが6年前っちゅうことは、まだスバっち達、局員でも何でもないもんな。
 それで制服姿って、マズイかも」

「そうね……局に登録データもないはずだし、何かの弾みでこの時間の局員に見とがめられてID照合……とかになったらアウトよ」



 いぶきちゃんとかがみちゃんの言葉に、二人は納得してくれた。



「じゃあ、二人とも客室で着替えてきてね。
 そしたらイマジン探しに出かけよう」

『はいっ!』



 ボクに答えて、スバルちゃんとティアナちゃんが食堂を出て行く。さて、それじゃあ……



「と、いうワケで良太郎」

「ウラタロス……?」

「ちょっと、身体借りるよ」

「えぇぇぇぇぇっ!?」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、いうワケで、現代のクラナガンにて聞き込み開始です。
 うん、恭文んトコにいてももうやることないし。あそこ今カオスだし」



 ……カオスの発生源のひとつが自分だってわかってますか、ジュンイチさん?



「はっはっはっ、何を言っているんだ、なのはさんや。
 わかって言ってるに決まってるだろ」

「わかっているなら自重してくださいっ!」

「悪いがそいつは聞けないな。
 お前だってわかってんだろ? オレがフェイトに何を期待しているか」

「え、えぇ、まぁ……」



 そこはわかってる。



 ジュンイチさんは、フェイトちゃんに自分に対抗する存在であることを求めている――実力ではなく、立場において。

 フェイトちゃんに、あえて自分の意見に反対してもらうことで、自分の意見が絶対的なものとして扱われないように、自分の気づいていない観点に気づけるきっかけになるように。



 そこはわかってるんだけど……うん、納得できないの。

 そのせいでフェイトちゃんがジュンイチさんに振り回されているのもそうだし――ジュンイチさんがフェイトちゃんをかまうのが、なんだかおもしろくない。



 なんていうか、私よりフェイトちゃんを優先しているみたいで……



「あの、ジュンイチさん、なのはさん」

「ん?」

「みゆきちゃん……?」

「本当に……このメモにあるようなことを聞いていけばいいんですか?」



 そう聞きたくなる気持ちはわかるけど……うん。そういう情報が一番ありがたいの。



「特定のものがなくなっていくとか、特定の組織、あるいはクラブに入っている人が襲われるとか……それはまだいいですよ。
 けど、特定の何かを配っている怪人とか、他にもおかしな行動がたくさん……」

「残念ながら、イマジンってそういうヤツらなんだよ」

「途中の過程を飛ばして、とにかく契約内容に即した状況になればそれでよし、なの。
 だから……結果、行動がおかしなことになる」



 ジュンイチさんと二人で答えて、みゆきちゃんはつかさちゃんと顔を見合わせる。とりあえずは納得……してくれたのかな?

 うん……ワケわからないよね。でも……相手はそういう子達なの。

 だから……開き直って、がんばろう?






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……さて、あたし達はナオミさんの用意してくれた服に着替えて、もう一度6年前のクラナガンに繰り出した。

 なお、いぶきも着替えた。あの子の巫女服も十分に目立つから。



 ……軽く嫉妬という名の殺意を覚えたけど。えぇ、何に対して、とは言わないけど。







 ……だけど……







「いやぁ、大漁大漁」



 正直、目の前の状況に頭を抱えたかった。

 あのウラタロスとかいうナンパ亀が、良太郎さんの身体を借りてついてきた。そこはいい。

 問題は……



「けど、イマジンの目撃情報はあまりないねぇ」

「……ティア」

「言わないで。何も言わないで」

「いや、せやかてなー。
 ……なんであないにナンパしまくって、情報サクサク拾えてるんやろ」

「言わないでって言ってるでしょ!?」



 そう。

 あのバカ亀、ナンパついでに情報収集してんのよ。しかもそれでいてマジメに聞き込みしてるあたし達よりはかどってるしっ!



「いっそ、ウチらも逆ナンしながらやってみる?」

「絶対イヤ」



 いぶきの提案を全力で却下する。



「マスターコンボイ、アンタも黙って見てないで、何とかしなさいよ」

「なぜだ?
 情報収集はしているんだ。問題ないだろう」



 かがみの言葉に、マスターコンボイが即答する。

 そうよね、アンタはそういうヤツ……って、



「……ん? どうした?」

「あ、いや……どうしたのよ? 何か考え込んでるみたいだけど」



 そう。マスターコンボイは腕組みして、なにやら思案中……で、どうしたのよ?



「いや……恭文も気にしていたことだが……イマジンは、そもそもどうしてこの世界に来た?」

「え……?」

「今まで何人しくじろうが、しつこく野上良太郎の世界で活動していたイマジン達が、どうしてここへ来てミッドチルダへ渡ってきた?
 それに……」



 言って、マスターコンボイはナンパ亀へと向き直り、



「ウラタロス。
 お前達は、今回の件が起きるまで、ミッドチルダのことは知らなかったんだな?」

「まぁね。
 ……なんだ、気づいたんだ」

「あぁ」



 え、何の話……あ。



「……ティア?」



 そうだ……考えてみるとおかしい。

 ミッドに来た理由もそうだし……そもそも、どうしてヤツらはミッドのことを知った

 その世界のことを知らなきゃ、『来よう』なんて話が出るはずもない。当然の話だ。



「それって……こういうことやね?
 イマジンに、ミッドのことを教えた……こっちに来るよう、仕向けたヤツがおる」

「いぶきちゃん、正解♪
 フフ、賢い子は好みだな。どう? 今度お茶でも」

「ないから」

「あらら」



 ナンパ亀の言葉を、いぶきはあっさりと一蹴。さすがに、アイツのナンパも本性を知ってるあたし達には見込みはないわよね――











「キミ達」











 ………………え?







 背後からいきなり声がかけられた――そこはいい。







 でも、この声――







「ちょっと聞きたいんだけど……この近くで怪物が暴れているって通報があったんだ」







 イマジン達のことだ――頭の片隅で冷静にそう考えているのがわかる。



 けど……どうでもよかった。



 だって、この声……







「それで来てみたんだけど、もう怪物は逃げてしまった後みたいでね。
 キミ達、何か見てないかな?」

「えっと、ウチらは、その……」







 いぶきが答えるのを聞きながら、あたしはゆっくりと振り向いて――











 ……間違いない。





















「……兄、さん……!?」







(第6話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「名前はティーダ・ランスター。
 首都航空隊の若手エース……“でした”」



「ティアナを消したいのか、お前はっ!」



「何だと!? リュウタのヤツが!?」



「ジャマするんなら……怒るよ、いい?」

「答えは、聞かへんけどなっ!」



第6話「シュート・ウィズ・ドラゴン」



「お前に託すぞ、ティアナ……っ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「ティアナ・ランスターに試練の時が訪れた第5話だ」

オメガ《本家版ではミス・スバルが担っていた役どころですね》

Mコンボイ「まぁ……こっちのシリーズではクイント・ナカジマが健在だからな。スバルをメインに据えられず、別の人物にこの役目を任せることになるのは当然の流れだがな」

オメガ《その結果白羽の矢が立ったのがミス・ティアナですか……
 前回のミス・スバルに次いで、スターズ組に連続でスポットが当たりましたね》

Mコンボイ「モリビト的には『2エピソード連続でスターズにスポットを当てるのは……』とエリオ・モンディアルなりキャロ・ル・ルシエなりに主役を割り振った話を先にやる案もあったそうだがな」

オメガ《あぁ、それは聞いてます。
 今回のエピソードの主役をミス・ティアナに割り振ることになった手前、スターズ主役エピソード連発を受け入れざるを得なかったとか》

Mコンボイ「『電王』を語る上で外せないタイムパラドックスについて深く語られている話だからな。早めに描いておく必要があったワケだな」

オメガ《早めに描いておく必要があったのは前のミス・スバルとミスタ・モモタロスのエピソードも同じですけどね。
 『モモタロスがスバルにビビっている状態が長く続いても前シリーズのジュンイチの二番煎じになるから』と早めの決着を望んだそうです》

Mコンボイ「やれやれ、せわしないことだな」

オメガ《そこは別にいいんじゃないですか? むしろ『電王』にのんびりまったりムードなんて似合いませんし。ノリで突っ走ってこその彼らでしょう。
 ……っと。さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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