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頂き物の小説
第2話「ミッド・デンライナー署、始動っ!」



「そこまでよ!」



 ベンチが宙を舞い、ゴミ場の中のゴミがぶちまけられる――暴れ回る男を前に、アタシ、雷道なずなは愛用の槍をかまえた。

 男は見た感じ30代。どこにでもいるサラリーマンって感じなんだけど……そんな“どこにでもいるサラリーマン”が、いきなり真っ昼間の公園のド真ん中で大暴れしてくれたのが現在の状況。

 まだ避難していない一般市民が多数いるけど……知ったことじゃない。



 ……いや、見捨てるって意味じゃないわよ? 警察に任せてるから、アタシが救出に向かう理由はないってこと。

 すでにその辺は霞ノ杜神社の権限でお願い済み。すぐに動いてくれるはず……こういう連携は、現場よりもむしろ上のお仕事だ。アタシが気にすることじゃない。




 アタシの役目は目の前で暴れているこの男の鎮圧。市民を襲われる前に――







「ぴぃっ!?」

「ポチ!?」







 いきなり、アタシの装束の胸元から飛び出してきたのはこの間まで大賀温泉郷で関わっていた事件で保護したカマイタチ、ポチだ。



 ……ネーミングが安直とか言わないで。自分でもわかってるの。他のにしたかったけど、他に思いついたのが『タマ』だけだったの。これがギリギリの妥協点だったのよ。



 それはともかく、ポチは目の前の男を警戒している。いったいどうしたっ……って!?







「がぁっ!」







 いきなり、男がアタシに向けて手をかざし――何かを撃ってきた。

 紫色の、霊力でも魔力でも、トランスフォーマーのスパークエネルギーでもない“力”の弾丸。もちろんかわす。

 男も、かわした先を狙ってまた撃ってくるけど――



「ぴぃっ!」



 ポチの放った真空波が、弾丸を撃ち砕いてくれる。ナイスアシスト!

 援護を確信していたアタシはすでに突っ込んでいる。弾丸を撃ち砕いてくれた後を駆け抜けて、槍を振るう。

 横薙ぎに一撃――あ、もちろん刃は返して峰打ちよ? 腹を打ち据えられてひるんだ男の顔に、石突を思い切り叩き込む。

 額に一撃を受けた男が吹っ飛び、地面を転がる……普通の男が相手ならこれでK.O.。終わるはずだ。

 けど、さっきの攻撃を考えれば、男が“普通”でないのは明白だ。今のうちに拘束しておこうと踏み出した、その時だった。



「ぴっ!?」

「……砂……?」



 男の身体から、砂のような何かが吹き出してきた。

 しかも、それをポチが警戒している……この子が真に警戒してたのって、男じゃなくてこっち!?

 身がまえるアタシの前で、男から吹き出した砂は自ら盛り上がり――







「……よくもやってくれたな」







 それは、人型の……虫のような、まるでクモを連想させる怪人の姿を形作った。



 ……何よ、コイツ……!?











 ――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――











『とある魔導師と古き鉄と時の電車の彼らの時間』・『とまコン』バージョン



とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達



第2話「ミッド・デンライナー署、始動っ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とにかく、六課前線メンバーと良太郎さん達で緊急会議と相成った……その前に、ちょっと混乱が起きたけどね。



「もう一度聞くわね。
 ……マジ?」

「マジだよ。
 良太郎さん……というより、電王だね。そして、モモタロスさん達。
 みんな、地球でやっていた『仮面ライダー電王』っていう作品の登場人物なの。
 最近ミッドでも人気なんだけど、CMとか見てない?」

《もちろん、私達が戦ったイマジン達もです》



 確認したティアナにそう答える。

 まず、どうして僕らが良太郎さん達のことを知ってるのかを聞かれたので、そこを説明。

 うん。みんなパニクってるね。



「えっと……どうもそうらしくて」

「良太郎、『そうらしい』じゃなくて、『そう』なんだよ。
 ボク達、一応ヒーローってヤツなんだから」



 ……良太郎さん、自覚なかったんですね。



「ま、自覚なんぞあるワケないわな。
 『時の運行を守るのは人助けじゃない』って言われたところに、『やりたいと思ったことをやるだけ』なんて返したくらいだしな」

「は、ははは……そのことも知ってるんだ……じゃない、知ってるんですね……」



 ………………?



「まー、みんな落ちついて。
 気持ちはわかるけど、現実に良太郎くんもモモタンもいるんだから」

「ヒロリスさんの言う通りだよ。
 私も……うれしいけど、戸惑ってる」



 そうだよね。やっぱり……うれしいよね!



「でも、まずはそこを認めるところからだよ……ね?」



 ヒロさんとなのはがそう言うと、場がどうにか落ち着いた……いや、例外がひとり。



「も、モモタンっ!?
 おい、おばちゃんっ! オレをそんなカワイらしい名前で呼ぶんじゃ――」







「あ゛?」







「すみませんっ! モモタンでかまいませんお姉様っ!」



 モモタロスさん……ヒロさん相手にその発言はアウトですから。



《……姉御の殺気って、イマジンにも通じるんだな》

「やっさんの“戦慄”が通じたくらいだしな。ヒロのが通じたって不思議じゃないだろ。
 アイツらの殺気は、悲しいことにノーボーダーなんだよ」

《主、それは次元世界にとって不幸ですね》



 どーゆー意味ですかそれ。



 ……とにかく話を進め……進め……はて、何から話せばいいのやら。



「野上殿、まずは電王……ひいてはイマジンというものについて説明をしていただけないか?」



 口火を切ったのはシグナムさんだった。そして、それに続くのがティアナとスバル。



「そうですね。
 アイツやアルトアイゼン、ジュンイチさんになのはさん、アリシアさん……他にも何人かは知ってるみたいですけど……」

「ティアとか他のメンバーはさっぱりみたいだし……アタシからもお願いします」

「……わかりました。
 なら、まずはそこから」



 そうして、良太郎さん達の話は始まった。



「……まず、イマジンというのは……未来から来た精神体なんです」

「精神体……あぁ、だからさっき、あずささんが『肉体がない』って……」

「はい、そうです。
 それで……」



 納得するティアナに答えて、良太郎さんは続ける。

 イマジンは、憑依した人間の頭の中にある“物語”のイメージによって形を得る。



 たとえば……モモタロスさんは『桃太郎』の赤鬼。

 ウラタロスさんは『浦島太郎』の亀。

 キンタロスさんは『金太郎』の熊。

 リュウタロスさんは竜……元になったお話は、原作でも不明なんだよね。

 ……『日本むかし話』のオープニングだったりしないですよね? アレ印象バカみたいに強いし。



 さっき戦った連中にしてもそうだ。オクトパスイマジンは『海底2万里』の大ダコが元になってるし、ジュンイチさんの倒したアントホッパーイマジンは『アリとキリギリス』のアリとキリギリス(=バッタ)を両方持ってきている。



 イメージによって姿を形作る……ゆえに“イマジン”。

 “イメージの魔人”……だから“イマジン”。



 けど、それだけじゃ姿形が決まるだけ。実体化に必要になるのが……“契約”だ。



「とりついた人間……契約者の願いを、ひとつだけ叶えるんです」

「……あの、それってもしかして」

「少年正解。
 ここ数日の不可解な事件はすべて、願いをムリヤリ叶えようとしたイマジンが原因。
 つまり……暴れた加害者達は全員、イマジンにとりつかれた被害者だった、ってことだよ」



 つぶやくエリオにウラタロスさんが答える……うん、似てるとは思ってたけど、まさかモノホンだとは思わなかったけどね。



「それで……良太郎さん。イマジンは、そうやって願いを叶えて、いったい何がしたいんですか?
 それだけ聞くと、なんだかいい人っぽい感じなんですけど……」



 キャロの意見は、ある意味正しい。

 でも……間違いでもある。



 具体的に言うと……願いを叶えた、その対価。



「まず……『願いを叶えてくれる』とは言うけど、連中はまともに叶えてくれるつもりなんかないんです」



 そう。連中にとって重要なのは“願いを叶えた”という事実だけ。だから、本人が本当に望んでいる形でなくても、ムリヤリ願いの内容に即した状況を作り出そうとする。

 たとえば、「金が欲しい」と望んだ契約者に対して、ほうぼうで強盗を働いてお金を奪ってくる、なんていうのはまだ序の口。



 「公園で騒いでいる若者グループを何とかしてほしい」と願えば公園中の人間を外に叩き出した上、バリケードまで作って誰も入れないようにする。



 「高校時代の思い出にひたりたい」と願えば、その高校に通ってる生徒達から学校関係の品を片っ端から奪い取ってくる。



 ひどいヤツになってくると、「どこに埋めたかわからなくなったタイムカプセルを掘り出したい」と願った契約者をまったく関係ないタイムカプセルの埋まる場所に連れていき、「違う」と主張する契約者を痛めつけてでも掘り出させ、「掘り出した」という事実を作ろうとしたヤツもいた。



 とにかく、ヤツらは願いの“叶え方”に節操がない。たいていはまずここでけっこうな被害が出る。

 さらに――本当に問題なのがその後だ。



「契約が完了すると、イマジンはその契約者の記憶に一番強く残っている日に“跳ぶ”ことができるんです」

『え?』

「えっと……過去にタイムスリップする、って言えば……わかりますか?」

『えぇぇぇぇぇっ!?』

「と、と言っても、契約者の中に強く残るその日にしか行けないし、行ったら戻ってくることもできなくなっちゃうんですけど……」



 いい感じに驚いてくれるみんなに、良太郎さんがあわてて補足する……そういえば、テレビの中でも過去でターゲットを取り逃がして用済みにされたウルフイマジンが「現代に戻れない」って憤慨してたっけ。

 そう考えると、“過去に行ける”ってこと以外はけっこう不便なんだね、イマジン単独の時間移動って。



「……それで野上。イマジンは過去に跳んで、そこで何をするというんだ?」



 いち早く驚きモードから復帰したイクトさんが尋ねる――そして、良太郎さんが答える。







「時間を……消します」







 そう。ヤツらは時間を消す。

 過去で破壊活動を行うことで、現在いまを……壊す。

 過去で壊されたものや、亡くなった人は、現在では存在しないことになるから。

 そうして、人が住む時間を壊して、自分達に住みよい時間に変えてしまう……そのための手段とか、細かいところを話し出すとキリがないけど、とにかく連中の最終目的はそこ。

 それを企んだ大物の悪役にそそのかされる形で、大量のイマジン達が現代へとやってきた。



 ……けど……



「でも、良太郎。
 その辺って、“もう解決してる”んだよな?」

「あ、はい。
 ジュンイチく……さんが今言ったように、そのあたりはなんとか」



 そう。そもそもイマジンによる時間の改変を企んだ張本人は、もう倒されているはず。

 ……まぁ、ストーリー上の話ではあるんだけど、良太郎さん達も肯定したし、そこは確定か。



「ただ……それでイマジンがいなくなったワケじゃないですから」

「もうみんなわかってると思うけど、ボク達もイマジン。
 で、ボク達と同じように、そういうのとは関係なしに、ただ便乗してこっちに来たってだけの、フリーのヤツらもいたりする」

現在いまを壊すことに興味はない。けれど、いつまでも精神体のままではいたくない。
 だから、契約のシステムを利用して過去に跳んで、過去から契約者の時間を乗っ取ってしまおう……そういうイマジンもいます。
 他にも、何かしらの目的で過去に飛ぼうとするイマジンとかも……」



 つまり、今日出てきたのや今までのは、そういうイマジン達の仕業。



「じゃあ、良太郎さんやみなさんは、そいつらを追ってミッドへ……」

「そういうことや。
 ま、イマジン相手はオレらの領分やしな」



 なのはに答えて、キンタロスさんが胸をドンと叩く……って、ジュンイチさん、そんな驚いた顔してどうしたの?



「気づいてねぇのか、恭文?」

「だから何が?」

「キンタロスが……」







「この手の説明話に、居眠りしないで参加してやがる……っ!?」







『《…………そういえばっ!?》』

「え!? そこは驚くところなのか!?」



 むしろ僕らのリアクションの方に驚いているスターセイバーだけど……しょうがないのよ。キンタロスさんといえば居眠りか力みすぎての失敗が持ちネタなんだもの。

 いや、考えるのはキンタロスさんの担当じゃないし、それが持ち味なのはわかってるからいいんですけど。



 まぁ、ボケ倒しても始まらないので話を進めることにする。



《けどよ、よく来れたよな。
 デンライナーに次元航行能力があるとは思わなかったぜ》







「そんなものはありませんよ」







 答えた声は、良太郎さん達のものではなかった。



「ミッドチルダにも、みなさんの地球にも、時の路線はあります。
 今回は、それを使っただけです」



 その声は、会議室の出入り口から。

 そちらを見ると……黒服タキシードでオールバックな男の人がいた。



「時の流れに、世界は関係ありません。
 ただ、流れていくだけですから」



 こ、この人……まさかっ!?



『デカ長っ!』



「はい。
 ……機動六課のみなさん、初めまして」



 この人は、時の列車、デンライナーのオーナー。ただし今回は……



「デカ長です」

「刑事だから……ですね」

「正解です。
 さて、恭文くん、アルトアイゼンくん、初めまして。
 ふむ、話通り……小さいですね」

「誰が小さ……」



 ………………あれ?



「あの……デカ長さん」



 僕と同じコトを考えたのか、フェイトがデカ長に尋ねる。



「はい」

「ヤスフミやアルトアイゼンのこと……ご存知なんですか?」

「えぇ。
 それだけではなく、あなたと……」



 デカ長はそのまま、フェイトからリインに視線を向けた。



「そちら可愛らしいお嬢さんのことも、うかがっていますよ。
 “古き鉄”にとって、重要な存在だと、ね」



 はいっ!?

 フェイトやリインのことも……って、どういうことっ!?



「……キミ、そうとうがんばってたらしいね、8年ほど。
 いや、それだけ糸が引くまで待てるなら、立派な釣り師だよ。それに彼女、そうとうな大物みたいだし」



 …………へ?



「なんかよ、あの金髪ねーちゃんにスルーされまくってたんだろ? 告っても気づいてもらえないとか」



 え!?



「……お前は、小さくても漢やな。よう……耐えた」

「恭文、すごいよね。
 ボク達、おじいちゃんからお話聞いて、たくさん泣いちゃったもん」

「まぁアレだ。今度プリンおごってやるよ。遠慮なく……食え!」



 いや、あの……涙ぐむのはやめてっ!

 というか……どういうことですかコレっ!? いや、プリンはいただきますけどっ!



「あ、えっと……
 ボク達、恭文さんとアルトアイゼンのこと、元々聞いてたんです」

『えぇっ!?』

「そういえば、さっきの戦闘の時にも、そこの……ウラタロスとハナだったか。そこの二人が恭文の知っているようなことを言っていたな」



 驚く僕らをよそにマスターコンボイが納得していると、



「ヘイハチのじっちゃん……だろ?」



 そう口を開いたのはジュンイチさんだった。



「さっき、リュウタロスが言ってたろ。『おじいちゃんからお話聞いて』って。
 じっちゃんのフリーダムっぷりを考えれば、デンライナーに乗り込んでいてもおかしくねぇよ」

「え、えぇ、まぁ……
 あ、ちゃんと説明しますね。実は……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………困ったね」

「困りましたね」

「でも、早くしないと……」



 ライダー大戦関係のゴタゴタから、それほど日をおかずに、ボクは再びデンライナーに乗り込んでいた。

 原因は、大ショッカーやスーパーショッカーがいなくなって、はぐれイマジン達の活動がまた活発になったから……っていうだけなら、まだよかったんだけどなぁ……



「でも、本当なんですか?
 その……異世界にイマジンが出てきているのって」

「確かじゃ。
 どうも、向こうでそれっぽい事件が起きとるらしい」



 そう口にするのは、身長150センチ前後のおじいちゃん。

 名前は……ヘイハチ・トウゴウ。

 ライダー大戦で僕らがデンライナーを離れている間に、フラッとチケットを持ってデンライナーに乗り込んできたらしい。



「でも……ちょっと信じられないです。
 異世界とかその辺は……まぁ、それ関係で先日戦っていましたからわかりますけど、その上トランスフォーマーなんて……」

「なんじゃ、時の電車やアナザーライダーワールド.なんてもんを経験しとるのに、頭固いのぅ」

「それを言われると、なんとも……」



 いや、まぁ、信じるしかないっていうのはわかるんだけど……



「つーかよ、そんなゴチャゴチャ言わずにその……ミトナットウか? そこに行って、いつも通り暴れればいいじゃねぇか」

「先輩、“水戸納豆”じゃなくて“ミッドチルダ”ね。
 というか、『ミ』しか合ってないし」

「うっせぇっ! 細かいことは気にすんな!」



 もちろん、そうするつもりではある。けど……問題がある。



「その……時空管理局か? なんちゅーか、じいさんの話を聞くに、胡散うさん臭いニオイがプンプンするで」

「それに、その組織……最近トップの不正が原因で、大規模テロなんて起こったんでしょ?
 そんなところにデンライナーやボクらがノコノコ出ていったら……ヤバイよ」

「亀ちゃん、どうヤバイの?」

「デンライナー、取られちゃうかもしれない、ってこと。
 今度はジャックとかじゃなくて、完全に取られちゃうかも」

「オレらも危ないなぁ。
 オレら、強いからなぁ。自分達の手下にしたいと思うヤツらがおっても不思議やない」



 向こうは公権力だからね。公式に接収命令なんて出されたら、向こうの言い分が正しいことになってしまう。

 時をさかのぼれる電車もないらしいし……ウラタロスやキンタロスが言っているような人達以外にも、純粋にボク達のことを危険視する人達だって出てくるかもしれない。

 人は誰だって未知の存在は怖いから……ボクだって、初めてモモタロスと出逢った時、怖くなかったって言ったらウソになる。

 わかり合えたから、こうして一緒にいられるだけで……最初はやっぱり怖かったから。



 それに……そういうことを抜きにしても、このまま行くのはマズイと思うし。

 だって、ボク達だけでそんな知らない世界を動き回っても、絶対に行き詰まるもの。うーん……



「つか、お前さん達、全員行くこと前提かい」

「はい」

「しかも即答かい」



 まぁ……姉さんにも心配かけちゃうけど、このままは……ね。



「……仕方ないのう。
 アイツらに渡りをつけるか」

「アイツら?」

「お前さん達の危惧は、管理局の手でデンライナーが接収されるようなこと……じゃろう?
 もっと言えば、管理局が敵になり、正常な時の運行の妨げになる」

「そうですね。
 あなたが元いた組織のことをこう言うのは失礼ですが……信用できません。
 デンライナーのことを知れば、私利私欲のために使おうという輩は出てくるでしょう」



 オーナー、さすがにそれは言いすぎじゃ……



「あー、気にせんでえぇぞ。ワシも同意見じゃからな。
 じゃから……管理局以外の組織を経由してお前さん達を紹介する」



 え…………?



「別の、管理局につながりのある組織の中でも、そうとう偉くて、信用できるヤツを通じて、局の方の、同じく偉くて、信用できるヤツに紹介する。
 提携してる組織からの紹介、という形をとっておけば、万一バレても管理局は強くは出られん。
 手を出したら最後、提携相手の顔をつぶすことになるからの」

「高度な政治的判断……というヤツですね」

「そういうことじゃ。
 それに、お偉いさんに頼むのは向こうで便宜を図ってもらう、という面でもプラスになる。お前さん達の情報保護なんかも含めての」

「あ、ありがとうございます……」

「……ただし。
 そこから先はお前さん達次第じゃ。これはお前さん達の戦い。お膳立てくらいならともかく、横から手まで出すのは好かん」

「それで十分です……ありがとうございます」





















〈……事情はわかった。
 まったく、柾木といい貴様といい、連絡を取ってくる時は厄介事しか持ってこないな。私は何でも屋じゃないんだぞ〉



 言って、通信の向こうでため息をつくのは人間じゃない。かといってモモタロス達のようなイマジンでもない。

 ロボットだ。赤い、トラックの運転席のような身体に手や頭がついている感じ。

 そして、身体の、トラックのフロントガラスにあたる部分の縁は、上と、真ん中を仕切る縦ラインが金色に飾られている――まるで星のように。



 けど……彼らはボクらと同じ、命を持った生命体なんだそうだ。

 ロボット生命体トランスフォーマー。その起源となる星、セイバートロン星のリーダー、超星司令官スタースクリーム。それが彼。

 ……なるほど、“スター”スクリームだから、あの胸の星の飾りなのか。



〈……確かに、他人事ではないな。
 そしてその対処に専門家が動いてくれるというのなら、これほど心強いことはない〉

「じゃあ……協力してくれるんですか?」

〈だが、疑問は残る〉



 ボクに答えると、スタースクリームさんはこちらに視線を向けて、



〈野上良太郎……だったか。
 貴様は、なぜミッドチルダまで行ってイマジンと戦う?〉

「え…………?」

〈……すまない。質問がストレートすぎたか。
 オレは『仮面ライダー電王』という物語の存在は知っているが、その内容までは知らん。
 だが……今の話を聞く限り、貴様は物語の内容通りに戦いを終え、一般人に戻っている……そうだな?〉

「まぁ、一応……」



 ……正直、そこに自信はない。

 だって、それからもいろいろ戦うハメになってるから。



 刑事になって捜査したり、電王のニセモノと戦ったり。

 ライダー大戦から続いた大ショッカー、スーパーショッカーとの戦いも大変だった。何しろ身体が縮んじゃった上、一度は“ディケイド”に負けてカードに封印されちゃったし。



〈……貴様、もしかしなくても運が悪くないか?〉

「天文学的と言われます」

〈そ、そうか……
 だが、ともかく。今現在は特に巻き込まれているワケでもない。少なくとも、首を突っ込むか否か、選べる立ち位置にいる。
 にも関わらず、今度は見たこともない聞いたこともなかった世界のために、再び戦おうとしている……なぜだ?
 いったい何が、貴様にそこまでさせている?〉



 なぜ……か。

 そんなの決まってる……あの時から、ずっと変わらない。



「ボクがやらなきゃいけないと思うからです」

〈別の世界で起きていることでも……か?
 別の世界のことは、その世界の者達が解決するべき問題……そうは思わんのか?〉



 確かに、それはある意味正しいことかもしれない。

 その世界は、その世界の人が守るべき……そういう主張も、わからないでもない。



 けど……



「それでも、です」



 ボクの心は決まってる……だから、まっすぐに見返す。そして……伝える。



「……『弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは何もやらないことの言い訳にはならない』。
 ボクのよく知っている人が、そう言ってました」



 電王になった時と同じだ。別の世界とか、一般人とか、そんなの関係ない。



 知らないままだったら、向こうに行く方法がないとかだったら、戦わないという選択もできたかもしれない。

 けど……今起きていることを知ってしまった。行くこともできる。なら、ボクはこのまま見過ごすなんてしたくない。



 ボクはミッドチルダへ行く。そして戦う。

 だって、その世界の人達にだって、記憶と時間がある――きっと、それはボク達と変わらない。すごく大事で、大切なもののはず。

 別の世界の人達でも、ボクのこの手で守ることができるのなら、ボクはその人達を守る。



 守るのは“世界”じゃない。守るのは“人”、世界を守るのはそのため。

 “ディケイド”として戦う彼や別の世界の仮面ライダー達と出逢って、ライダー大戦を通じて……ボクはそう学んだ。



「……ま、そーゆーこった。
 悪いがにーちゃん。コイツの強情は筋金入りでよ。そんな緩い説得じゃ、止まんねーぜ」

「モモタロス……」

「つーか、細かいことなんざどうだっていいんだよっ!
 ガタガタぬかさずにオレも暴れさせろ!」

〈……それは、お前達も野上良太郎と想いは同じ……という決意表明と見てもいいのか?〉



 スタースクリームさんが、いつの間にかボクの周りに集まっていたモモタロス達に向けて尋ねる。



「まぁ、どこに行こうと、ボク達のやることは変わらないよ。
 異世界だろうと、海の底だろうとね」

「オレは良太郎がやるなら付き合うだけや。場所なんて関係あらへん」

「ボクもボクもっ! おじいちゃんの生まれたところを見てみたいし、魔導師っておもしろそうだしっ!」



 みんな……

 そうだよね。ひとりじゃない……だから、きっと大丈夫。



〈…………フッ。
 まぁ、上々の答えか〉



 みんなの答えに、スタースクリームさんは笑った……のかな? 口元がマスクになってるからよくわからないけど。



〈お前達なら、確かに大丈夫そうだ。
 試すような物言いをしたことをわびよう〉

「あ、いえ……」

〈気に入った。お前達を信用しよう。セイバートロン星のリーダー代行として、だけではなく、オレ個人としてもな。
 管理局にはオレから話を通そう。リンディ・ハラオウンが今は本局を離れて柾木のところにいる。彼女に直接話を通せば、必要以上に知られることもあるまい〉

「ありがとうございますっ!」



 よくはわからないけど、うまくいったみたい。これで……



「っつーワケでスタースクリームよ。恭文とアルトにも協力させてやってくれ」



 ……やすふみ? あると?



「えっと……それって確か」

「そうじゃ。ワシの弟子と元相棒じゃ。
 アイツらなら、必ずお前さん達の力になるじゃろ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「先生……デンライナーに乗ってたなんて」

《というか、あの人どこへ行くつもりですか》



 アルト、それは僕が聞きたい。



「いや、なんつーかすみません。
 うちの師匠、きっとご迷惑をかけてますよね?」

「いえいえ、チケットはありますし、車内ではいたって普通にすごしておられますから、問題はありませんよ」

「マヂで?
 あのじっちゃんがおとなしくしてる図なんて、ちょっと想像つかないんだけど」



 言わないで、ジュンイチさん……思わずうなずいちゃったじゃないのさ。



「ヘイハチ先生……そうならそうで私にも教えとけよっ!
 ナニ勝手にデンライナーに乗り込んでるっ!? 私よりも先にモモタンとコンタクトっておかしいでしょうがっ!」



 ……ヒロさんの怒りのベクトルはそこですか。



「いやいやいやいや! アンタもジュンイチさんもヒロリスさん達も、それで納得できるんですかっ!?
 時の電車とか、ムチャクチャすぎでしょっ!」

「……ティア、残念だけど、ヘイハチさんってそういう人なの」

《ブロンドガールの言う通りだ。いろんな意味でブッ飛んでるのさ》

「……恭文やヒロリスさん達のお師匠様って、すごいんだね」

「そうだね……」

「とにかく、それで恭文達のことを知ってたんですね」



 エリオやキャロのとなりでつぶやくスバルに、良太郎さんがうなずく。



「恭文さん達は絶対に協力してくれるから、って自信満々に言ってた」

「理由を聞いたら、彼やその周りの人達、みんなボクらのファンだからってさ。それで」

「そんなの当たり前じゃないですかっ!
 電王と一緒に戦えるのに、何もしないなんてありえないでしょっ!」

《約束しましょう。私達は協力しますっ! えぇ、絶対にっ!》

「オレもだ! ブレイカー代表として全面的に協力してやらぁっ!」



 そうだ。絶対だ。やっぱおもしろくなってきたっ!



「……おじいさんの言う通り、即答ってどういうことだろ。
 あとこれ、キミ達だけじゃどうしようもないとも言ってたね」

「確かにその通りです。
 イマジンに過去に飛ばれてしまったら最後……」

「我々では手を出せないからな。
 ミッドチルダの標準的な技術では過去へは行けない。追跡するためにもデンライナーの力は必須だ」



 良太郎さんの言葉に、ライラやカオスプライムが渋い顔で同意する。



 つか、現に飛ばれてるっぽい……あれ?



「良太郎さん、質問です」

「はい?」

「……ここ数日ミッドにイマジン出てるんですけど……それも良太郎さんが対処したんですか?」

「ううん、それはあの二人が先に来てくれてたから……」

「あぁ、納得しました」



 あの二人もいるのか。ま、電王やデンライナーがいる以上、当然か。



「で、あの人達は今どこに?」

「彼らなら、我々とは別にイマジン対策に動いてますよ」



 ジュンイチさんに答えたのはオーナーだった。



「このミッドチルダは、恭文くんやジュンイチくんのそれぞれの地球ともつながっています。
 ミッドチルダでイマジンを野放しにしておくことは、それらの地球にもイマジンの流入を招くことにもつながります」

『う゛…………』



 オーナーの言葉に、ジュンイチさんとイクトさんが視線をそらす――ま、二人の世界の存在である瘴魔がミッドに流入してきてるしねぇ。



「あー、バカ弟子に乗っかっちまうが、ひとついいか?」



 でも、疑問があるのは僕だけじゃない。師匠もだった。

 そして、師匠が口にした疑問は……当然のものだった。



「こういう言い方するとアレだけどよ……アンタら、なんでいるんだ?
 いや、創作物の中のキャラクターなワケだしよ」

「確かに、疑問に思うのは当然ですね。
 話せば長くなりますが、あれは……」

『あれは?』



 みんながデカ長の言葉を待つ。というか、凝視する。



 そして……











「秘密です」











 右の人さし指をピンと立て、口を当てながらデカ長の放った言葉に、全員が一斉にコケた。

 つーか待てマテ! ここまで溜めておいて『秘密』ってナニっ!? ありえないでしょうが!



「見事な溜めとひっくり返し……勉強になるな」



 そしてジュンイチさんは勉強しないで。これ以上ボケのレベル上げられても困るから。



「ちょっと待て!
 どこが長くなるんだっ!? たったの四文字五音で終わりだろうがっ!」

「いいじゃないですか。
 世の中に、わからないことがひとつや二つあっても。それはきっと、人生を色鮮やかにしてくれますよ」



 思わずツッコむビクトリーレオだけど、その巨体に迫られてもデカ長は落ち着いたもの。まぁ、この程度で動じるような人じゃないしね。



「念のために言っておくと、あなた達の言う“古代遺物ロストロギア”や、そういった類のもので実体化しているワケではありませんので」



 あの、デカ長? さっきからずっとカメラ目線ですよね? 文字媒体でやられても困るんですけど。



「私も良太郎くんもモモタロスくんも、ちゃんと以前から実在していましたよ。
 ただ……今回、あなた方と、私達の時の線路が重なった。ただ、それだけの話ですよ」

「……納得です」



 うん。きっとそれでいい。

 みんなは微妙な顔をしてるけど、僕は納得した。



「まぁ、管理局だってすべての次元世界を把握してるワケじゃない。
 オレ達にとっては物語のひとつでしかない電王が実在してる、そんな次元世界がないとも言い切れんわな」



 一方、別の形で納得しているのがジュンイチさん……けど、その言葉にデカ長はいきなニヤリと笑って、



「その通りです。
 私達が物語の中にしか存在しない時間もあれば、逆にあなた達が、そしてここにいる全員が物語の中にしか存在しない時間もあることでしょう」



 デカ長が言うと、良太郎さんは僕らに向けて頭を下げて、



「……あの、いきなりで戸惑ってるのはわかります。
 でも、ボク達だけでもダメなんです。それでよく知らないこの世界で動いても、絶対に行き詰まります。
 お願いします。みなさんの力……貸してください」

「あぁ、良太郎さん。そないに頭を下げんでも、大丈夫ですから。
 ……とにかくや」



 今まで、ビッグコンボイと二人で出番を捨てて……もとい、沈黙を守っていたはやてが、ゆっくりと口を開く。



「今回の事態、決して見過ごすワケにはいかん。
 恭文だけやない。機動六課は、良太郎さん達に全面協力。総力を挙げてイマジン対策に乗り出す。
 ただ……」

「近隣の部隊はもちろん、局の関係者にはデンライナーや電王のことは伏せる。各員徹底するように」



 うん。そこは絶対だ。時の運行を守る意味でも、知られちゃいけない。



「…………ジン」

「わかってる。
 ライラ、メイル。オレ達も協力するぞ」

「当然!」

「兄さんがそう言うのでしたら」

「ダーリンがやるなら私もー♪」



 カオスプライムに応える形でジンもメイルやライラを先導、レヴィアタンも乗っかる……けどさ、ジン。



「バルゴラないのに?」

「…………言うな。
 まさか、オレ達が帰ってくるのと入れ違いで大賀の方に届いてたなんて……」



 とりあえず大賀の方には連絡入れたんでしょ? 後はみなせのフォローに期待しようか。



「……ありがとうございます」

「いえいえ。私らにとっても他人事やないですから。
 ……あと恭文、ヘイハチさんなんやけどな」

「わかってる、もういないんでしょ?
 『後は僕達に任せた』とか言ってさ」

「…………正解や」



 うん、予想はしてた。

 これは、僕や良太郎さん達の戦い。先生が、そこに首を突っ込むとは思えないもん。



「あ、それで……ヘイハチさんから預かってるんだ。
 …………はい」



 良太郎さんがそう言って僕に手渡してきたのは……これ、デンライナーのチケット!? しかも無期限!?



「今回、可愛い弟子に押しつける形になっちゃったから、そのおわび……だって」



 先生……何ですかコレ。うれしくて泣きそうですよ。



「あぁ、タダではありませんよ」

「…………へ?」

「あの、デカ長、それってどういう……?」

「良太郎くんには話していませんでしたね。
 チケット代は、恭文くんからいただくことで話がついているんです」







 ………………え?







「手持ちのお金がなかったそうです。
 まぁ、キミなら買えない額ではないから問題ないか、と笑っていましたけど」

「いや、問題あるだろ!
 結局代金恭文持ちって、それ何のおわびにもなってねぇっ!」

「あ、あの人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」











 ……結局。

 チケットはかなり高額だったけど、貯金の三分の一を崩すことで購入できた。

 そして事件の間はこのチケットを六課のメンバーで共有することで話がついた。つまり、みんなも出入り自由。

 まぁ、即決で購入を決めたのには、みんな呆れてたけど……いいのよっ! だって無期限だしっ!

 あぁ、これ……絶対に家宝にしようっ!



 なお、「『共有する』と言っても、チケットの現物は複数あった方がいいだろう」ということで、ジュンイチさんとマスターコンボイ、そしてジンもチケットを購入。

 ちなみに、ジンは僕と同じような感じだったけど、ジュンイチさんとマスターコンボイは金額的にも余裕でした。この株成金どもめ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……それで、良太郎さん」

「あ、はい」



 会議が終わって、ジュンイチさんも含めた三人で隊舎内を歩きながら、お話だ。

 マスターコンボイはスバル達もろともモモタロスさん達に「隊舎を案内しろ!」と捕まり、ジン達はライオコンボイ達にも協力を頼めないか、ライラ達と一緒に打診しに行ってる。



 イクトさんは……いつの間にかいなかった。またはぐれたな、あの人。



 それはともかく、時の運行のこととか、電王やデンライナーのこと……僕やジュンイチさんの知識と差異がないかどうか確認してた。

 結果……僕らが知っている分についてはほぼ差異ゼロ。あ、『ほぼ』なのは画面に出てなかった舞台裏の分ね?



 あと、僕らの知らない分……きっとテレビや映画ではこれから描かれる予定(であってほしい)と思われる事件の話もチラホラ。

 これもある意味ネタバレになるのかな? 大ショッカーとかライダー大戦とか、すごく気になるんですけど。



 ま、そこはともかく……さっきから気になってたんですけど。



「僕のことは、呼び捨てでいいですよ? 敬語もなしで」

「…………いいの?」

「だから、どうしてちょっと怯え気味なんですか」

《初対面がアレだったからでしょう》



 細かいことは気にしてはいけない。人生はいろいろあるのだ。



「じゃあ、恭文くん……で、いいかな?」

「はい」



 あ、僕は敬語のままで。だって……尊敬する人なワケだし〜。



「つか、オレは逆にタメで話しそうになったところをあわてて敬語に直してないか?
 話しづらいなら、タメ口のままでいいぞ?」

「いや、ジュンイチさんは年上ですし……」

「だったらなんでタメ口がデフォになってんだよ?」

「そ、それは……」



 ………………?



「……ま、いっか。
 それで、良太郎達はデンライナーに常駐?」

「あ、いえ……せっかくだから、ここのお世話になろうかと」



 ……モモタロスさん達、大丈夫かな?

 瘴魔とかザコイマジンとかと誤解されなきゃいいんだけど。



「さすがに外はそのままというワケにはいかないけれど、この中なら……」

《まぁ、そこはその通りですね》



 部隊ぐるみで一緒にやってくワケだしね。



 でも……なんか、まだ信じられない。電王が実在していたなんて……



「それはボク達もだよ」

「察するに、魔法やら魔導師やらトランスフォーマーやら……ですね」

「う、うん……
 ロボットだけど生きてる、って言われても、すぐには……ね」



 う〜む、互いに自分達の常識外なワケだしね……うん、決めた。



「良太郎さん。
 そのあたりも含めて、僕達にはコミュニケーションが必要だと思うんですよ」

「……そうだね。
 これから一緒にやっていくのに、これじゃあダメかも」

「と、いうワケで、さっそくご飯を食べに行きません? お話しながら食事。
 ここの食道、なかなかなんですよ」

「一応、オレも手伝いでたまにシフトに入ってるしな。
 正規スタッフもオレやはやての味付け、そこそこ盗んでるから味は保証するぜ」



 僕とジュンイチさんが言うと、良太郎さんの表情が少し困ったようなものになる。

 えっと……どうしたんですか?



《安心していいですよ。
 こちらの世界の食文化は、地球と大差ないですから》

「ホントに? よかった……」

「……そこが心配だったんですね」



 そういえば、僕も最初は同じ心配したっけ。次元世界で異世界だから、味覚が違うのかな……ってさ。



 とにかく、僕達は食堂へと足を進めた。そうしながら……少し、考える。



 うん、絶対に守ろう。

 イマジンが相手だろうと、僕のやることは変わらない。



 自分が守りたい“今”を守り、壊したいと思う理不尽を壊すために、戦うんだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「きゃあっ!」



 振り回されて、地面に叩きつけられる――クモの怪人の糸に絡め取られて、アタシは地面に突っ込んだ。

 ポチの援護は期待できない。全身をクモの糸でからめ取られて、向こうの壁にはりつけにされている。



「フンッ、威勢よく出てきた割には、大したことなかったな」



 言って、怪人はアタシの胸倉をつかんで持ち上げる。



「ハッ、アタシにボコボコにされてたクセによく言うわよ。
 逃げ遅れてた民間人を楯にしなきゃ、そのまま滅ぼしてやったのに……っ!」



 気丈に言い返すけど、その視界に赤いものが……ヤバ、血だ。今の投げ落としで頭のどこかを切ったみたいだ。

 まぁ、頭の傷のことがなくてもピンチなんだけど。クモの糸に全身しばられて身動き取れないし、槍だって落としてしまって手元にはない。



「ハッ、戦いなんて、結局最後に勝ったモンの勝ちなんだよ。
 ま、所詮人間がイマジンに勝とうっていうのが間違いなんだけどな」



 イマジン……コイツらのこと……!?

 新たにひとつ情報を得られたけど、それも誰かに伝えられなければ意味はない。しばられたまま歯がみするアタシに向けて、怪人が――イマジンが空いている手の爪をかまえる。



「さぁ、おしまい――」





















「――にはさせないぞっ!」





















 いきなり聞こえてきた声は初めて聞くもの――次の瞬間、イマジンの体表が弾けた。

 いや、飛んできた銃弾がイマジンに命中、炸裂したんだ。

 大したダメージではなかったみたいだけど、ひるんだイマジンはアタシを放り出して――



「おっと!」



 受け止められた。

 すぐさま、アタシを受け止めた誰かはイマジンから距離をとる。助けてくれた……?



「大丈夫か?」

「え、えぇ……」



 ソイツに答えて、アタシは顔を上げ――って!?







「ぅひゃあっ!?」







 思わず声を上げる――だって、ソイツもどう見ても人間じゃなかったから。

 いかつい体躯に山伏を思わせる黒い頭巾と装束。顔を覆うのは鳥のくちばしを思わせる形状の黄色くて固い表皮。

 コイツも妖怪じゃない……まさか、イマジン!?



「ちょっ、待っ、暴れないで!」

「暴れるに決まってるでしょうがっ!
 アンタもあのイマジンってヤツと同類でしょ!?
 敵に捕まって、落ち着いていられるワケが――」







「デネブを、あんなヤツと一緒にするな」







 …………え?

 新たな声が割り込んできた。アタシ達に背を向け、クモイマジンの前に立ちはだかったのはひとりの男の子……まぁ、『男の子』と言っても、年はあたしより上っぽいけど。



「デネブは確かにイマジンだが……オレの仲間だ」



 言って、ソイツはどこからともなくそれを取り出した。

 黒地に緑と黄色で塗り分けられた、いかついデザインのバックルを有するベルト――それを、勢いよく腰に巻きつける。



「こっちの地球でも、オレ達の話がテレビでやっててくれるのは助かるな。
 ……おかげで、オレ達を知ってる人間に不自由しない」



 言って、男の子は一枚のカードを取り出した。

 黒地に、片面に緑の、反対の面に黄色のラインが走っている。

 一方でベルトのバックル、そこに備えられたレバーをスライドさせて、ベルトから何かのメロディが流れる……まるで、駅のホームで電車が入ってくるのを知らせる時に流れるアレのように。

 そして、男の子は手にしたカードを、緑のラインが表になるよう、バックルの側面のスリットに右側から差し込む。







「変身」

《Altair Form》







 男の子の声にベルトから発せられた声が重なる――と、彼の全身が黒と緑のスキンスーツに包まれた。

 さらに、空中にいきなり現れた緑色の鎧が上半身を覆う。そして、マスクを飾る、両目の辺りを通るように走る、線路のような装飾に添って、牛の頭の飾りが後頭部から顔の方へと回り込んでいく。

 牛の装飾はマスクの両目の位置で停止。マスクに固定される――内側の角でつながる形で、ひとつのゴーグルになったんだ。



「お、お前……ゼロノスか!」



 それを見てうろたえたのがクモのイマジン……男の子の、変身した後の姿の方を知っている……?

 けど、ゼロノスと呼ばれた男の子は動じない。腰の左右に留めていた二つのパーツを組み合わせて、完成した大剣を軽々と振り回す。











「最初に言っておくっ!」











 そして、怪人を指さして一言。











「こっちの世界でも、オレはかーなーりっ、強いっ!」











「く……っ! こうなりゃヤケだぁっ!」







 言い返して、敵イマジンがその手からアタシを捕まえるのにも使った糸を放ってくる。



 けど、ゼロノスは次々に飛んでくるそれを、手にした大剣で片っ端から斬り落としていく。



 そのまま距離を詰めてめった斬り。唐竹から左右の横薙ぎ、袈裟斬り、逆袈裟……大剣の中ほどのところにある握りに手を添える形で、小回りを利かせての連続攻撃。



 たまらず、イマジンが吹っ飛ぶ――んだけど、今のも致命傷には遠そうだ。ヨロヨロと、けど確かに立ち上がってくる。







「……前に戦ったことのあるヤツよりはタフだな。
 まぁ、いいや。だったらパワーで押し切る!」







 言って、ゼロノスが振り向いた。アタシ――ではなく、アタシを助けてくれた黒いイマジンに向けて。



「デネブ! 来い!」

「えぇっ!?
 でも、この子の手当てを……」

「そんなの、コイツを倒してからゆっくりやればいいだろ!」

「わ、わかった……
 ゴメン、少し待っててね」



 デネブと呼ばれたイマジンはそう言うと、アタシを地面に横たえてゼロノスの後ろへ。

 そして、ゼロノスはさっきベルトに差し込んだカードをバックルの左側から引き抜いた。今度は金色のラインが走ってる面を表にして再び差し込む。











《Vega Form》











 ベルトが再び声を発すると、ゼロノスの顔のゴーグルが吹き飛び、新たに現れた黒い鎧が身体に装着される。

 と、デネブがゼロノスの両肩に手を、まるで子供の電車ごっこのように置いて――ウソ、ゼロノスの中に入っていった!?

 まるで幽霊がとりつくかのように、デネブの身体がゼロノスの身体に重なった。肩に乗せた両手を残して、デネブは完全にゼロノスとひとつになる。

 と、身体に装着された黒い鎧の胸の部分が開き、奥からデネブの顔が現れる――まるで、ゼロノスの中にデネブがいることを示すかのように。



 さっきの牛の飾りのように、マスクの上のレールを新たな飾りが走る。それは顔の正面でひとつに合わさり、ドリルのような飾りになると実際に回転。その上で三つに割れ、角のようなかぶと飾りとゴーグルを形成する。

 新たな姿となり、背中にデネブの装束を思わせる真っ黒なマントが出現。ゼロノスが改めて大剣を一閃――その衝撃だけで、周りに“力”が吹き荒れるのがわかった。

 そして、人さし指をピッと立て、一言。











「最初に言っておくっ!」











「って、また!?」



 思わずツッコんで――気づいた。

 声が違う。

 ゼロノスに変身したあの男の子の声じゃない――デネブの声だ。

 そしてクモのイマジンに放った一言は――











「もうお前に見せ場はあげられない! 謝る!」











 ……謝ったぁぁぁぁぁっ!?







「バカにするなぁぁぁぁぁぁっ!」







 一方、当然そんなアホな宣言をかまされた側が怒らないはずがない。クモのイマジンが糸を放って――







「ぐわぁっ!?」







 上がった悲鳴はイマジンの方のものだった。ゼロノスの両肩のデネブの両手――その十指から放たれた弾丸の嵐が糸を蹴散らし、イマジンに命中したのだ。

 そして、ゼロノスが手にした大剣をまた二つのパーツに分解、握りの方のパーツを前後逆に付け替える。

 刃側のパーツの基部を手前にスライドさせると、それに連動して刃の根元が左右に開く。そうして出来上がったのは小型の弓――いや、違う。あれはボウガンだ。











《Full Charge》











 ベルトのバックル、その上にあるボタンを押し込む――ベルトからの声にあわせて、ものすごい“力”がベルトの一点、わずかにのぞいているカードに注ぎ込まれていくのがわかる。

 そして、ゼロノスは“力”の注ぎ込まれたそのカードを引き抜くと、今組み上げたばかりのボウガン、その握りのところに備えられたスリットに差し込む。カードに注ぎ込まれた“力”を受け取ったんだろう。ボウガンの先端に雷光が走る。

 イマジンへと狙いをつけ、引き金を引き――“力”が解き放たれた。撃ち出されたVの字の閃光が宙を駆け、イマジンへと打ち込まれる。

 “力”が駆け抜けた跡だろうか。イマジンの身体にVの字の傷が刻まれ――倒れたイマジンは爆発、四散して消滅した。



「……よし、あとは彼女の手当てだな」



 言って、ゼロノスはいつの間にかバックルの中に戻っていたカードを改めて引き抜き――カードはチリとなって消滅した。

 消えたカードにかまわずベルトを外すと、アーマーが飛び散るように消えた。デネブも姿を現し、あの男の子が再び姿を現した。



 コイツら、いったい何者……?

 アタシ達の味方みたいだけど、デネブはイマジンのお仲間みたいだし、なんかしゃべるベルトで変身するし……







「…………“しゃべるベルト”?」







 瞬間――アタシの頭の中に浮上してきた連中がいた。

 大賀温泉郷の事件で一緒に戦ったヤツら……アイツらの持っていた、しゃべる武器……



「まさか……デバイス?
 アンタ達、魔導師なの?」

「…………へぇ」



 アタシのその問いに、男の子は笑みを浮かべた。



「こっちにも魔法のことを知ってるヤツがいるとは聞いてたけど……まさか、いきなり出会うとは思わなかったな」

「え……?」

「けど残念だったな。
 オレ達は魔導師とは違う」



 戸惑うアタシにかまわず、男の子は改めてアタシの問いを否定した。



「じゃあ、アンタは何だってのよ?」

「あわてるな。魔法のことを知ってるなら、お前には話してもよさそうだ。説明してやるよ。
 とりあえずは自己紹介だ。オレは……」











「桜井、侑斗だ」







(第3話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、とコ電っ!



「ねぇ、恭文。
 あたし、あの人達に嫌われてるのかな?」

「はぁ?」



「イマジンが過去で暴れてるんだよ」

《こうやって、時間を消していくんです。
 人も、過去も、現在も、未来も》



「先輩……スバルちゃんが怖いんでしょ」

『えぇっ!?』



「イマジンが!?」

「分かれた!?」



第3話「ライドオン・デンライナー」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「新シリーズ第2話、ということで、今回は野上良太郎達がミッドに来ることになった背景が描かれた話だ」

オメガ《バトルは別行動中のゼロノス組とミス・なずなが担当してくださいましたか》

Mコンボイ「雷道なずなが地球に現れたイマジンと交戦。その場にゼロノスが乱入、か……
 六課に来ようとしているいぶきに続き、彼女も合流の流れがこれで成立したワケか」

オメガ《彼女の性格ですから、このままイマジンの事件に関わり続けそうですしね。
 この分だと、ゼロノス組と行動を共にすることになるんじゃないでしょうか》

Mコンボイ「ということは、ゼロノス組と共に合流、か……?」

オメガ《まぁ、彼女だけミッドチルダに送り届けられて……という手段もありますがね。
 確かなのは、ミス・なずなもイマジン退治には参戦してくる、ということで……》

Mコンボイ「となると、次はいぶきか。
 こちらに来るつもりでいるようだが、どうやって来るつもりなのか……」

オメガ《……気になりますよねー。
 ミス・いぶきが来れば修羅場確定ですし》

Mコンボイ「そういうことは期待していないっ!」

オメガ《大丈夫です。読者は絶対期待してますから。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました。
 新シリーズも、応援よろしくお願いします》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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