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頂き物の小説
最終話「神楽 舞う 巫女」



「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」



 急上昇して真上に回り込み、そこから一転、急降下――ジュンイチさんの駆るゴッドブレイカーの右腕、ヒジから先が螺旋状の精霊力の渦に包まれる。

 ヤスフミ曰く「ドリルもどきロケットパンチ」、クラッシャーナックルのかまえだ――けど、撃たない。そのまま龍神との距離を詰めて、







「クラッシャー、ストライク!」







 本来は撃ち出すクラッシャーナックルで、そのまま龍神を殴り飛ばした。真上から脳天に一撃をもらい、龍神の巨体が顔面から地面に突っ込んだ。



 すごい地響きが私達のいる湯杜神社まで伝わってくる……はず。本来なら。



 けど、そんなことはない。なぜなら……







「……大丈夫ですか? ミシャグジさん」

「な、なんのこれしき……
 クイント殿さえヒザ枕してくれれば、いくらでもがんばって……」

「それはないから」

「むぐ……っ」







 息を切らしながらもセクハラ発言は欠かさないミシャグジが、地響きについては遮断してくれているから。なんでも、地脈に干渉できる能力の応用らしい。

 もっとも……彼が防げるのは地面を伝わってくる衝撃だけらしいから、ジュンイチさんや龍神の攻撃が流れ弾として飛んできたらどうしようもないらしいけど。



「すごいですね……
 巨大ロボに乗ってるとはいえ、ジュンイチさん、龍神様を相手に互角以上に戦ってますよ」



 そんな中、ジュンイチさんの暴れぶりをみて感嘆の声を上げているのはみなせくん……みなせさん? どっちなんだろう、両方“ある”って話だけど。



「龍神様、本気になるのが少し遅すぎましたね〜」

「どういうこと? 姉様」

「戦いの主導権を、ジュンイチさんに持っていかれたから……ですね?」



 みなせくんに答えたのは小夜さん。みなせくんがまだわかってないようなので、私が小夜さんに確認する。



「最初、龍神はジュンイチさんを『たかが人間』となめてかかった。
 その結果、自分と同じく龍脈の力を取り込んで自分の力に変えられるジュンイチさんにあっさり主導権を許した。
 そのまま、ジュンイチさんが徹底的に攻め立てる戦いが続いてる……龍神としては本気になって逆転したいんだけど、ジュンイチさんがそんなスキを与えてくれない……そういうことですよね、小夜さん?」

「フェイトちゃん正解です♪
 じゅんちゃんだって本来なら自分の方が不利だってことも、逆襲を許したらそのまま自分がつぶされることもちゃんとわかってますから。だから相手に逆襲のスキを与えないよう、徹底的に攻め続けているんです」



 要するに……見た感じ、圧倒的有利に見える戦いだけど、その実ジュンイチさんも必死ってことだ。



「あとは内側に突入したみなさんですね。
 もう荒魂と接触している頃合です。うまく止められるといいんですけど……」

「はい……」



 大丈夫だって、信じてる……ヤスフミだけじゃない。イクトさんだって、マスターコンボイやみんなもいる。



 だけど、その様子を見られないのは、少しだけもどかしい。









 ヤスフミ……がんばってね……!











『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説



とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記



最終話「神楽 舞う 巫女」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いや、残念ながらがんばるのは僕じゃなくてなずなだから」

「やっちゃん?」

《気にしないでください。いつもの電波ネタですから》







 首をかしげるいぶきに答えて、龍神のまき散らした雷撃を回避する。



 そして、アルトをかまえて――







《Stinger Snipe》







 魔力弾を放つ――けど、これは龍神が周囲に張り巡らせた雷撃に薙ぎ払われる。



 けど、かまわない。僕らの役目はあくまでサポート。本命は――







「はぁぁぁぁぁっ!」

《おぉぉぉぉぉっ!》







 マスターコンボイにゴッドオンしたなずなだ。地を蹴り、一気に龍神に向けて突撃する。







「マスターコンボイ! 槍とかないの!?」

《オメガに言え!》

《任せろっ!》







 なずな達のやり取りを経て、オメガが自らの柄を長く伸ばす――エリオとのゴッドオン時にも見せる、オメガのランサーモードだ。



 いぶきの時もそうだったけど、なずながゴッドオンしてもオメガはゴッドオンに合わせてのモードチェンジをしなかった。デバイスを持ってない影響かな……?







《なめるなっ!》



「それはこちらのセリフだ!」







 一方、なずなとマスターコンボイを迎撃しようとする龍神にはイクトさんが動いた。龍神が吐き放った炎に自分の炎を真横からぶつけて軌道を逸らし、なずなの突入ルートを確保する。







「よっしゃ! ウチもいくで!」







 その後に続くのはいぶきだ。龍神に向けて刀をかまえ、







「灘杜流退魔剣術――激流閃!」












 ぷすんっ。











「わわっ、不発!? なんでーっ!?」



「生身のアンタの霊力じゃ発動には足りないんでしょ!?」







 技が空振ってあわてるいぶきに答えながら、なずなは龍神の懐に飛び込み、







「ま、マスターコンボイのおかげで大技撃てるってのは、アタシも同じだけどね!」







 連続突きで龍神に先制攻撃。たじろぐ龍神にかまわずオメガの刃に霊力を集めて、







「霞ノ杜流退魔槍術――疾風!」







 思い切り振るった。刃は届かないけど、そこから巻き起こった霊力が衝撃波となって龍神に叩きつけられる。







《ぬぅっ!?
 ならばっ!》







 対し、龍神もすかさず反撃。尻尾で足場を叩き割り、破片をこちらに飛ばしてくるけど、







「散華!」







 なずなも別の技で対抗。身をひるがえしながらオメガを一閃。今度は衝撃波を広範囲に放って龍神の攻撃を迎撃する。







「す、すごい……
 ゴッドオンすると、ここまで霊力上がるワケ……!?」



 自分でもこの威力は予想していなかったらしい。呆然とつぶやくなずなだけど、それにはマスターコンボイが補足した。



《どうもそれだけじゃないらしい》

「どういうことよ?」

《他の形態と比較できない貴様に言ってもしょうがないが、技のエネルギー効率が他の形態とは段違いにいい。
 貴様の器用さが、うまいことシステムに反映されているようだな。おかげで大技をガンガン撃てる》



 えっと……つまり、なずなとのゴッドオンは、燃費の良さを武器にガンガン攻めていける攻撃系の形態……と?







《おのれぇっ!》







 そんななずなを前にして、離れていてもらちが明かないと思ったんだろう。龍神がなずな達目がけて突っ込んで――







「僕らだって」



「いるんだよっ!」







 僕とジンがその眼前に飛び込んだ。僕とアルトの一撃が龍神の顔面を叩き、







「ジン!」



「おぅっ!」







 のけぞった龍神に向け、ジンがさらに一歩踏み込む。そしてとぐろをまいた龍神が抱える荒魂本体に、思い切り蹴りを叩き込む。



 同時、レオーのアンカージャッキが叩きつけられる――まともにくらった荒魂、その球体に亀裂が走ったのが見えた。







「なずな――決めろ!」



「えぇっ!」







 ジンの合図でなずなが突っ込む――本命、いっけぇぇぇぇぇっ!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「《フォースチップ、イグニッション!》」







 アタシとマスターコンボイの咆哮が交錯して――アタシ達二人のもとに青色の、ジンが言うところの地球のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイの背中のチップスロットに飛び込んでいく。

 それに伴って、アタシが宿るマスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。



《Full drive mode, set up》



 アタシ達に告げるのはマスターコンボイのボディであるトランステクターのメイン制御OS――同時に、イグニッションしたフォースチップのエネルギーがアタシ達の全身を駆け巡ったのがわかった。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出し始める。



《Charge up.
 Final break Stand by Ready》




 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中で、制御OSが告げる――右半身を大きく引き、振りかぶるようにかまえたオメガの刃にフォースチップのエネルギーが集中していく。



 そして――







「霞ノ杜流退魔槍術――奥義!」







「《気力、大疾走!》」







 思い切り、オメガを振り下ろした。マスターコンボイの魔力、アタシの霊力、フォースチップのエネルギー、全部がひとつになった“力”の塊が、龍神に向けて叩きつけられる!



 けど――まだこの技は終わりじゃない。







「《ハァァァァァッ!》」







 そう。大本命はあたし達。力いっぱい地を蹴り、その技の名の通り最大速力で疾走、龍神へと突っ込んで――







「《ハァッ!》」







 オメガを一閃。龍神の荒魂を、龍の身体もろとも一刀両断に叩き斬る!



 そして、先ほど叩きつけた“力”が切断面から龍神の内側に流れ込んでいき――











《グァアァァァァァァァァァァッ!》











 断末魔の叫びと共に、龍神は内側から木っ端みじんに吹き飛んだのだった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《オォォォォォッ!》



 くそっ、しぶといっ!



 オレにその牙を突き立てようと襲いくる龍神をかわし、上空へ――追ってくる龍神と共に、上空に立ち込める暗雲の上の青空へと飛び出す。



 元々地力は向こうが上。長丁場は覚悟してたけど……それにしたって、こうまでド突き回されたら、普通少しは慎重にならない!?







《バカめが……っ!
 我は龍神ぞっ! 貴様ごときが何度攻撃を入れようが、勝てるはずはないっ!》







 あー、そうですかっ! プライドが根性を下支えしてるってワケか! これだからムダにプライドの高いヤツはっ!



 噛みついてきた龍神の顎門あぎとをかわし、ガチンとかみ合わされたそのアゴを思い切り蹴り上げる。さらに拳と蹴りのラッシュをお見舞いし、仕上げとばかりにもう一度蹴り上げる。







炎弾丸フレア・ブリッド!」







 同時に“力”を解放――ゴッドブレイカーの武装じゃない。オレ自身の精霊術で生み出した無数の火球を周囲に配置する。



 ゴッドブレイカーの照準システムでそのすべての狙いを龍神に――ただ狙うだけじゃない。すべて龍神の肉体の急所と思しき場所に狙いを定める。







「百火爆砕!
 ビックバン、デストロイヤー!」








 そして、解き放つ――それぞれに飛翔した炎の弾丸が、龍神の急所に次々と炸裂する。







《おのれぇっ!》







 だぁぁぁぁぁっ! ホントにリカバリ早いなコイツっ!



 迫る龍神に対して、迎撃しようと両手に炎を生み出し――











《――ぐぅっ!?》











 突然上がるうめき声――そして、龍神はオレの前で動きを止めた。



 小夜さんが止めた時とは違う。一瞬苦しんだかと思うと、自ら動きを止めてその場に滞空する――







 ――まさか、恭文達がやったのか!?






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 なずなの一撃で荒魂が砕け、パラパラと散っていく……えっと、終わった?



「そう思いたいけどなぁ……」

「ここまで粉々にされて、まだ復活できたらそれこそお手上げよ」



 僕やいぶきのやり取りに答えて、なずなはマスターコンボイとのゴッドオンを解除する……んだけど、



「そういえば、前に見た映画でいたな。
 液体窒素で凍りついたところをこっぱみじんにされてもなお再生した液体金属サイボーグ」

「え!? そんな前例あるんじゃまだ油断できないじゃないの!
 マスターコンボイ、もう一回ゴッドオンよ! ゴッドオン!」

「落ちつけ雷道なずな。映画の話だ」



 ジンのつぶやきに一転、大あわて。マスターコンボイになだめられてる……意外なところで浮世離れしてるよね、なずなって。



「うっさいっ!」



 ……それはともかく、なずなもなんとか落ち着いたところで、僕らは周りに飛び散った龍神、その荒魂の欠片を見渡す。



「この荒魂の欠片って、拾っておいた方がいいのかしら」

「うん、ちょっと拾っとこ」



 尋ねるなずなにいぶきが答える――まぁ、どんな役に立つのかはわからないけど、専門家の言うことだ。素直に僕らも破片を拾い集めていく。

 その時だった。



《き、貴様ら……》



 僕らに向けて、龍神の声が響いたのは。



「龍神!?」

「まだ生きていたのか!?」

「いや……ジンくんもイクトさんも。ウチら別に龍神様殺しにきたワケやないんやから」

「バラバラになったとはいえ、荒魂はこうして存在してるのよ。弱体化こそすれ、まだ滅びちゃいないわよ」



 ジンやイクトさんにいぶきと共にツッコんで、なずなが自分の手の中の荒魂の欠片を見せる――と、いうことは……



「こんな状態でも、荒魂としての機能は健在、と……」

《どうやら、砕かれたことで弱体化したのと同時、その分だけ怒りも弱まったようですね》



 アルトの言う通り、今かけられた龍神の声は、さっきまでよりは幾分勢いが弱かった。

 少なくとも、“龍神をおとなしくさせて話し合いができるようにする”っていう僕らの役目は、とりあえず果たせたみたいだ。



《我を滅ぼすか、霞ノ杜》



 ……あちらさんは、まだ話し合い云々って考えにはなってないみたいだけど。


 ともかく、話を振られたなずなにみんなの視線が集まる――けど、なずなは失礼な、とばかりに唇をとがらせた。



「だから、しないって。
 また何百年かしてアンタが復活した時、暴れられても子孫が困るわ。
 こういうのは、交渉が得意な共存派の仕事」



 言って、なずなはいぶきをアゴでしゃくった。



「それと、『霞ノ杜』なんて一括りにしないでくれる?
 アタシの名前は『雷道なずな』よ」

「いずれ霞ノ杜神社を中から変える女や」

「ちょっと、変な付け足ししないでよ!
 妖怪退治が生業なりわいなこと自体は、変わりないんだから!」

《雷道なずなか……憶えておこう》

「いや、いぶきが言った事は憶えなくていいからね!?」



 龍神にまでいぶきの茶々に乗っかられて、いぶきがあわてて声を上げる。完全に流れが話し合いの方向に向いて、緊張感切れたなぁ……



「そうだな。
 とりあえず、龍神の荒魂も確保した。さっさと戻って、後は龍宮達に任せて……」



 イクトさんがそう答えた、その時だった。



 突然、龍神の中が揺れ始めたのは。



「な、何? この揺れ……」

「ジュンイチさんが、オレ達の方がケリついたのに気づいてなくて、まだ攻撃してるとか!?」



 僕同様に揺れに気づいて、なずなやジンがあわててるけど……



「……もしかして」

《マスターも、気づきましたか?》

「な、何よ!? 思いついたことがあるのなら言いなさい!」

「いや……」



 いいの? なずな。あまりいい知らせじゃないんだけど。



 まぁ、当たってたらそうとうヤバイから教えるけど。つまり……



「荒魂が鎮まってきて……ちょっとずつ、この身体、崩壊してきてるんじゃないかな?」

《当然だ。
 貴様達が我の本体を砕き、力が弱まってきているのだからな……この肉体の維持も、難しくなってきた……》

「ってコトは……?」



 よりによって、龍神本人が僕の仮説を肯定してくれた。なずなは、引きつった表情をこっちに向けてくる。



「この足場、もうじき消えるんじゃないかと……」



 だから……僕も、似たような表情でそう答えた。



『………………』



 僕の答えを合図に、僕らはそれぞれの手元にある砕けた荒魂に視線を落とした。

 そんな僕らに、龍神はあっさりと答えた。











《正解だ、人間ども》













 ここでちょっと思い出してほしい。



 僕らは山の頂上から、龍神の体内をけっこうな高さまで登ってきた。



 そして龍神自身は、ジュンイチさんと大立ち回り。







 つまり、僕らの現在位置は――







「逃げるわよ、いぶき!
 このままじゃアタシ達、山の中腹辺りに墜落死しちゃうわ!」

「う、うん、脱出や脱出! 逃げるが勝ちや!」







 まぁ、そういうことだ。なずなの言葉にいぶきがあわててるけど……







「あー、マスターコンボイ。
 ロボットモードでも飛べるよね?」

「当然だ。
 昔の、ボディの飛行システムに頼っていた頃ならともかく、今のオレは“技”で飛んでるんだぞ。
 バランスの取りづらいビークルモードならともかく、オレの舞空術もどきで飛ぶなりお前がゴッドオンして飛ぶなりすればいいだけだ」







 と、いうことなので……







「やるか」

「やらいでか」



『ゴッドオンッ!』






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 と、いうワケで。



 さっさと僕とマスターコンボイでゴッドオン。いぶきとなずな、それからジンをマスターコンボイの搭乗ライドスペースに放り込むと、元々飛べるイクトさんと共に崩壊を始めた龍神の体内から脱出。



 崩壊の影響でもろくなっていた肉体を内側から突き破って出てみれば、そこは現在進行形で雲の中。ジュンイチさん、こんな高度で戦ってたんかい。







「マスターコンボイ! イクト!」







 声がしたので振り向いてみれば、ウワサをすればなんとやら。ジュンイチさんのゴッドブレイカーが姿を見せた。



「え!? アレじゅんさんなん!?
 やっちゃん、何やの、アレ!?」

「僕も生で見るのは初めてなんだけどね……
 ゴッドブレイカー。ジュンイチさんの専用機だよ」



 瞳をキラキラさせながら聞いてくるいぶきに答える……やっぱりツボだったか。



「そのカラーリング……恭文がゴッドオンしてるのか。
 飛べないメンツは中か?」

「うん。全員無事。
 龍神の荒魂も確保した。これで全部終わったよ」



 尋ねるジュンイチさんにそう答えて――











「ううん、まだ!」











 そんな、お疲れさまムードをぶち壊したのは、ゴッドブレイカーに乗り込んでいるブイリュウだった。



 えっと……どうしたの?



「龍神の身体の崩壊に、時間がかかりすぎてる!
 このままじゃ、龍神の身体が完全にチリになる前に、あのでっかい身体は地面に墜落しちゃうよ!」



『《………………え゛》』



 その意味するところはすぐにわかった。



「ま、待ってぇな!
 あんなでっかい龍神様の身体が落下したら……」

「直撃を受けることになる霊山は間違いなく崩壊する……!
 そんなことになったら、ふもとにある大賀温泉郷は……!」



 いぶきも、なずなもその先は口にできない。



 けど……予想はつく。龍神の墜落で崩壊した山の破片は土砂崩れとなってふもとの森へ、そして大賀温泉郷に襲いかかることになる。



 直撃を受ければもちろん壊滅。森の段階で止められたとしても、森はあの郷で使われる資源の多くが手に入る産業の根幹だ。その森が壊滅すれば、最終的に郷の生活に大きなダメージになる。



「やっちゃん! なんとかならへんの!?」

「ムチャ言わないでよ!
 僕の火力じゃ、ゴッドオンしてたってあんなデカブツ……!」



 いぶきに答えた通りだ。僕の手持ちの魔法じゃ、いくらゴッドオンで強化されたとしてもあんなの……







《方法ならある》







 って、マスターコンボイ?



《そうだな? 柾木ジュンイチ》

「まーな」



 話を振られて、ジュンイチさんがあっさりとうなずく――え? 本気であのデカブツをなんとかできるの?



「まさか……柾木、貴様また“ヴァニッシャー”を……」

「いや、アレはオレの“力”が相手の“力”を上回って初めて効果を発揮する術だ。
 あんな“力”の塊相手じゃ効かないよ」



 何か気づいたらしいイクトさんだけど、その読みは外れていたらしい。



「正直、オレだけじゃどうにもならなかったと思う。
 けど、マスターコンボイがいるなら……」



 いや、だからどういうことなのか説明してくれると……







「いくぜ、マスターコンボイ!」



《おぅっ!》







 だぁかぁらぁっ!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「マスターコンボイ!」

「ゴッドブレイカー!」



『爆裂武装!』



 マスターコンボイとオレの咆哮が響き、それぞれが落下する龍神の下に回り込むように飛翔――マスターコンボイの前方へと先行したオレの駆るゴッドブレイカーが、オレが一体化ユナイトしたままゴッドドラゴンへと変形する。

 そして、ゴッドドラゴンの下半身が180度回転。前後逆になるとリアスカートが左右に展開。空いた空間を通す形で両足がゴッドドラゴンの胸側に折りたたまれる。

 そして、その後方に追いついてくるマスターコンボイ――ゴッドドラゴンの後部、折りたたまれた大腿部の内部からせり出してきたトリガーグリップを握り、システムをリンクさせる。

 その名も――







『爆裂武装! ドラゴニックバスター!』






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……す、すごい……」

「じゅんさんのゴッドブレイカーが、大砲に……!?」



 なずなやいぶきが驚くのもわかる。僕もデータでしか見たことがなかったから。



 “爆裂武装”――ゴッドブレイカー以下ブレイカーロボに存在する、仲間の機体の武器に変形するシステム。



 そのシステムによって変形したゴッドドラゴンの武装形態。それがこのドラゴニックバスターだ。



 まぁ、説明していてもしょうがない。竜の上半身を模した砲台となったゴッドブレイカージュンイチさんを僕
らがかまえて、







『《フォースチップ、イグニッション!》』







 僕とマスターコンボイ、ジュンイチさんの叫びに呼応して、ミッドチルダのフォースチップが飛来した。マスターコンボイのチップスロットにセットされ、僕らの手を通じてドラゴニックバスターへとその“力”が流れ込んでいく。

 そのエネルギーはゴッドドラゴンの頭部に集中。口腔内に生み出された“力”の塊が見る見るうちにそのサイズを増していく。



 エネルギーチャージが完了。マスターコンボイとドラゴニックバスター、それぞれの照準システムがリンク。こちらに向けて落下してくる龍神の身体へと狙いを合わせ――












『《ドラゴニックバスター、グランドフィニッシュ!》』












 トリガーを引いた。解き放たれた閃光が天空を貫き、龍神の身体に殺到――そのど真ん中に突き刺さる。



 龍神の身体が形を保っていられたのはそこまでだった。撃ち込まれたエネルギーが内部にまで浸透。内側から龍神の身体のすみずみにまで行き渡り――











 龍神の巨体は、今度こそ木っ端みじんに爆散。そのすべての破片が焼滅していった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 龍神の身体の消滅を確認して、僕らはようやく郷へと帰還した。妖気の乱れも収まり、乱気流の消えた森の上空を飛び、そのまま湯杜神社に直行する。



 郷では初披露となるマスターコンボイのロボットモードや、ジュンイチさんのゴッドブレイカーの巨体に郷のみんなはずいぶん驚いたらしいけど(フェイト曰く)。







「お疲れさま、みんな」

「こちらも何とかなりそうです」







 ジュンイチさんが機体から降りると、ゴッドブレイカーはゴッドドラゴンに変形、飛び去っていく――それを見送っていた僕らを、みなせや小夜さんが出迎えてくれた。



「ヤスフミ……イクトさんも、お疲れさま」

「うん……ただいま」

「なんとか、片づけてきたぞ」

「ジュンイチくん……は、心配する必要ないわね」

「うげ、クイントさん、それちょっと厳しくない?」



 もちろん、フェイトやクイントさんもいる。フェイトに出迎えてもらえて幸せいっぱいの僕らと違ってジュンイチさんは渋い顔。

 まぁ、信頼されてるから、と思っておこうよ、うん。



「あ、そうそう……これお土産」



 そして、いぶきは回収していた龍神の荒魂を小夜さんに渡した。



「これは……荒魂の欠片ですね。
 これで御神体を作りましょうか」

「うん」



 小夜さんの提案に、みなせがうなずいて――







《……我は、まだ貴様達を許したワケではないぞ》







 脳に直接、響いてきた声は龍神のモノだった。



「ぅわっ……!?」

「この感じ……念話?」



 驚くみなせのとなりでフェイトがつぶやく――すぐに、声の元が荒魂の欠片から響いてきているとわかった。



 そんな荒魂に向けて、小夜さんがぺこりとおじぎして、







「龍神様、お久しぶりです」

《小夜か……》







 ……あれ、ちょっとおとなしくなった?



「たぶん、龍神様の中に残っている姉様の荒魂が、和魂にぎみたまと反応しているんだと思います」



 みなせが解説してくれる中、龍神は小夜さんに向けて、忌々しげに語りかけた。



《厄介な女が交渉役で出てきたか……》

「ここから先は、私達龍杜の巫女がお相手させていただきます」

「よろしくお願いします。
 まずは砕けたお身体の方を、整えさせていただきます」



 小夜さんとみなせは、手に持った欠片に一礼する。



「姉様、鏡とか、どうでしょう」

「悪くないですね。
 鍛冶屋さんで加工してもらいましょう」

「ウチらの仕事は、もう終わり?」



 その一方で手持ち無沙汰になったのが僕らだ。いぶきが代表して、みなせと小夜さんに問いかけた。



「それなら、宿で休ませてもらうけど……さすがにもう、ヘトヘトよ」



 ながなも疲れた様子でそう告げる――けど、みなせは済まなさそうな顔で僕ら、と言うより、いぶきとなずなを見た。







「ごめん、もう一働きありそう」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 数時間後、湯杜神社の拝殿には、龍神奉納の舞を行ういぶきとなずなの姿があった。

 拍子木や笛の音が鳴り響き、二人の舞を杏や明といった郷の人間が眺めてる……その中にはフェイトやクイントさん、ブイリュウ、マスターコンボイにジンもいる。



 なお、拍子木や笛の担当は僕やイクトさん、ジュンイチさんに任された……つか、立候補した。音楽の心得があるから手伝えると思ったし、なんか二人に先駆けて休むのも気がひけたからね。







「……これ、割と重労働じゃない?」







 うんざりとなずながつぶやくのが聞こえてくる。まぁ、気持ちはわかるけど。



 とはいえ、戦いが終わって、ロクに休憩も取らずに踊らされてるのに、それでも動きに疲労を感じさせないあたりはさすがだ。



「まぁまぁ、最後のお勤めやし、もう一踏んばりやて」



 いぶきも口調だけは明るいけど、そう言う彼女も疲労はピークに達しているはずだ。何しろ始まる直前までぐで〜っ、とだれていたくらいだから。



 なんていうか、“たれぱ○だ”ならぬ“たれいぶき”って感じで。「衣装が乱れる」ってマスターコンボイに怒られてたけど。



「まぁ、心底龍神に鎮まってほしいと思ってる二人が踊ってるから、効果はあるかもしれないわね」

「確かになぁ。
 もう一回やるのは、心底勘弁してもらいたいよ」



 もう一度つぶやくなずなに、拍子木を手にそう答える……ちゃんと聞こえたらしい。かすかにうなずいてみせた。



「いぶきも災難だったわね。最初の仕事がこんなので」

「うん、もう、次から何が来ても驚かへんですみそうやわ」



 もちろん、舞は止めないままでのやり取りだ。手と足を休めないままなずなが言い、それにいぶきがうなずく。



「そうね。
 アタシの方は、戻ってからちょっと面倒なことになりそうね……
 氷室山事件の報告もしなくちゃならないし、小夜さんの弁護もしなきゃならないかも」

「弁護?」



 いぶきの怪訝な表情に、なずなは少し遠い目をした。



「……ウチの神社の性質上、また小夜さんに危害が加わる可能性もゼロじゃないでしょ。さすがにそれはちょっとね。
 元を正せば、今回の事件の一因は霞ノ杜ウチにあるようなモノだし」

「霞ノ杜神社も、なっちゃんみたいに話がわかる人ばっかりやったら楽やのにねー」

「なっ! だ、誰が話がわかるっていうのよ!」



 なずなの手刀が、いぶきに迫る。

 それをさりげなく避けるいぶき。



「わわっ! ほめたつもりやのに、何でー!?」



 舞の動きのほんの延長。観客席の一般市民のみなさんには特に違和感を覚えられなかったと思うけど、僕らには二人がもめているのは丸わかりだった。



「ちょ、ちょっと二人とも、ちゃんと舞ってよーっ」



 笛を手にみなせが二人をたしなめて――まぁ、何はともあれ、こうして龍神の怒りはゆっくりと鎮まり、事件は本当の意味で解決したのだった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 数日後。



 森や沼にも、妖怪の気配はほとんど感じられなくなった。



 いなくなったワケではない。

 ただ、人前に現れなくなっただけだ。



 人を襲う妖怪も龍神が鎮まると共に少しずつ減り、もう安全と龍宮小夜が太鼓判を押していた。



 それでも、妖怪は確かに存在しているワケで――







「ほんなら、ミシャグジ様にもお世話になりました」







 オレと二人で見送りに訪れた沼のほとりで、いぶきは人間の姿をしたミシャグジに頭を下げた。



 事件も無事解決して、郷を妖怪から守るために常駐していたミシャグジも晴れてお役御免。自らの棲み処すみかである沼に戻ることになったのだ。



「何の。私が恋しければいつでも来るといい」

「うーん、その時が来たらな」



 即答するいぶきだが……待て。なんでオレの後ろに隠れる?



「えー? まーくん、守ってぇな」

「こんなアホなやり取りでまで守ってやる理由はない」



 オレの答えに何やら頬をふくらませていたいぶきだったが、気を取り直してミシャグジに声をかけた。



「ミシャグジ様は、ずっとこの沼に棲み続けるん?」

「うむ。
 時々、村の方にも寄るが、ここが私の寝床だ。離れるつもりはない」

「もうちょっと人が通えばえぇのになぁ」



 あたりを見回していぶきがつぶやく――まぁ、女たらしという最大の悪癖(雷道なずな談)さえ抜きにして考えれば、コイツも決して悪党ではないしな。いぶきの甘い性格なら心配もするか。



「何、事件は解決したし、沼にもたまに人が訪れる。
 ウワサをすれば……そら」



 そう言うと、ミシャグジはアゴをしゃくった。

 見れば、森の方から工務店の棟梁、日立明が姿を現した。



「あれ? 3人とも、こんなところで何してるのさ?」

「うむ、いぶきと別れの抱擁をな」



 抱きつこうとするミシャグジを、



「せぇへんよ」



 いぶきは華麗にスルーして……だからオレの後ろに来るな。



「……冷たいのう」

「それより明さんこそ、こんなトコまでわざわざどないしたん?」

「あぁ、この沼に主が棲むって話があるんだけどさ、知ってる?」

「……あぁ、まぁな」



 ここで「目の前にいる」と教えられたらどれだけ楽か……とチラリと考える。



「ふふ、ずいぶんと男前の主がいるという話ではないか」

「あはは、男前かどうかは知らないけど、今回みたいな件がまたあっても困るからね。
 ちょっとほこらでも建てておこうかと思ってさ」

「ほう、それは感心。
 供え物は女体盛りとかわかめ酒とかが喜ばれるぞ」

「ははっ、ちょっと罰当たりだよ、御坂さん」

「……本当のことなんだがな」



 日立明はカラカラと笑っているが……いぶき。



「何? まーくん」

「“にょたいもり”だの“わかめざけ”だの……一体何の話だ?」

「え゛…………?
 ……あー……じ、自分で調べてみたらえぇんちゃう?」



 ………………?

 何を赤くなっている?



「まぁいい。
 そういうことなら、村の方にも多少の御利益があるかもしれんぞ」

「いやいや、別にそんなの期待してないよ。単に気持ちの問題なんだから」



 ミシャグジにそう答えると、日立明は祠を建てるための測量を始める――







 後に、沼の片隅に小さいながらも立派な祠が建てられる。

 すると不思議と温泉の効果が増し、いつの間にか拓かれた広い道を送迎バスが走るようになり、それがやがて大賀温泉郷の繁盛につながるのだが、それはまた別の話。











 そして。



 六課に帰った後、わからなかった二つの単語の意味を調べ……オレはいぶきにたいそうなムチャぶりをしたのだと気づいて頭を抱えることになるのだが、それもまた別の話である。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ここまででいいわよ」

「そっか」



 森の中、ジンに言って、アタシはアイツの手から荷物を受け取った。



 ミシャグジが去って数日が経って、アタシも郷を去ることにしたのだ。



 ジン達ももうちょっと滞在していくって言ってたから、それに付き合うのも悪くなかったけど……元々仕事で来てたワケだし、あまりのんびりしているのも気が引けたから。



「またどっかで……な、なずな」

「期待しない方がいいわよ。
 現役でいるうちは、アタシと会うってことはそこはすなわち怪異の現場。そういうことだから」

「それはそれで、手伝うだけさ。
 その頃には、バルゴラも直ってるだろうし」

「アンタのデバイス……だっけ?
 アルトアイゼンやオメガ見てると、会いたいような会いたくないような……」

「……あー……まぁ、アイツらが特殊例ってことで」



 ちなみに、他のみんなが見送ってくれたのは郷の入口まで。そこからは荷物持ちってことでジンだけがついてきた。



 ………………余計な気を回すんじゃないわよ。アタシは別に、コイツのことなんか……



「……なずな?」

「な、なんでもないわよ、なんでも!」



 気にしてないんだから! えぇ、そうよ。気にしてないったら気にしてないのよっ!























 ジンとも別れて、ひとりで山道を歩くことしばし……アタシはようやくアンテナの立った携帯電話で、霞ノ杜神社に連絡を取っていた。

 よほどの緊急でない限り、旅館の黒電話など公衆の電話を使うことは、霞ノ杜神社では許可されていないから。



「……以上で、今回の事件の報告を終わります」

〈お疲れさまでした、なずな。
 今日のところはゆっくり休んでください〉



 スピーカーの向こうにいる上司は、労いの言葉と共に、数日の休息をアタシに許可した。

 けど……



「いえ……次の任務をお願いします」



 大賀温泉郷での事件を終えて数日は、ほとんど湯治と変わらなかった。







 ………………いぶきはもちろん、フェイトさんやクイントさんとの“戦力差”に絶望したりもしてたけど。

 何食べたらあんなに“育つ”のよ。牛乳だったらアタシだって毎日飲んでるのに……







 とにかく、だ。休息なら大賀温泉郷で十分取ったワケだし、それなら働くのは当たり前だ。



〈くすっ……わかりました。
 それよりも一点、気になったことがあるのですが〉



 電話の向こうで上司は笑い、それから話を変えてきた。

 気になる点があるって、それって……



「何でしょう?」

〈龍宮小夜は本当にいなくなったのですか?〉



 上司の問いは、単純だった。

 龍宮小夜は、本当にいなくなったのか、というモノだ。



「はい」



 顔色も変えずに即答する。この程度、軽くできないようでは、霞ノ杜神社の巫女は務まらない。



 だいたい、荒魂の小夜は龍神に食べられたんだしね。肉体の方は霊山奥深くに落ちたし、少なくともウソはついてない。



 けど、上司はさらにさらっと追及してきた。



〈和魂の方も〉



 …………来た。



 あらかじめ予想していた質問に、アタシが迷ったのはほんの一瞬だった。



「はい。
 龍神の消滅と同時に、和魂の方も消えました」

〈本当ですか?〉

「報告書にあった通りです」



 平然とウソをつきながら、アタシは心の中でべーっ、と小さく舌を出した。



〈……まぁ、いいでしょう。
 この件はここまでにしておきます〉



 ……しばらくすると、どうやら上司もあきらめたようだ。

 それ以上の追求はしてこなくなった。ここまでにします、とこの話題を打ち切った。



「……はい」



 正直、向こうの考えが手に取るようにわかったので、アタシは苦笑せずにはいられない。



 これ以上事件を掘り下げると、必然的に霞ノ杜神社ウチの巫女達が動く。

 そうすると、大賀温泉郷にいる小夜さんも動かざるを得なくなって……結果、先輩達が小夜さんを殺害したこと、そしてそれがきっかけで今回の龍神事件につながったことも明るみになる。

 当然、霞ノ杜神社は正当性を主張するだろうけど、「共存派の巫女を殺害した」という事実は消えない。今後、他の神社、特に共存派の協力は取りつけにくくなってしまう。



 だから、“ここまで”にしたのだ。組織の悪しき体質ってヤツね。











 そして……アタシには新しい仕事が割り当てられた。



「次は都市部の仕事か……
 何なのよ? “何の能力もない一般市民が、いきなり能力者顔負けな力で暴れ出す”って……
 しかもその間の記憶がない……憑依系の妖怪の仕業かしら?」



 その内容に思わず渋い顔をする。



「どうも、都会って苦手なのよね……単純な妖怪退治の方が楽だわ。
 こういうのこそ、あの子いぶき向きなのに……」



 思わずもれたつぶやきに、アタシはあわてて頭を振った。



「あー、いけないいけない。切り替えが大事よ、雷道なずな。
 アンタは本来クールなんだから」



 ジンはともかく、いぶきとはよほどのことがない限り、もう会わないと思うしね。



 また灘杜神社と合同任務になるとしても、いぶき以外にも巫女はいるんだ。またあの子とかち合うなんてこともないでしょ。







 まぁ、仕事は仕事だ。

 苦手とは言っても、それ以上の不満はない。

 与えられた仕事を、いつも通りにこなすだけ……現地に着くまでに、気合、しっかり入れ直さなくちゃね。











「ぴぃ」











 懐から、鳴き声がした。



「あ、そういえばアンタもいたわね」



 胸元から飛び出たのは、温泉郷での依頼で出会ったカマイタチだ。

 奥田さんも実家の方に帰るという話だったので、結局、アタシが引き取ることにしたんだ。



 ……ついでに言えば、これが霞ノ杜神社に帰らなかった理由のひとつでもあるんだけどね。妖怪を見たら即抹殺、なんてところに連れて帰れるワケがない。



「ぴぃ!」

「『自分に任せろ』って?
 張り切るのはいいけど、離れちゃダメよ。都会で妖怪が迷子なんて、シャレにならないんだから」

「ぴぃ」



 ……あと、ね……







「アタシの胸は誰かさんみたいに豊かじゃないんだから、もぐり込むな!」

「ぴぃ……」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 なずなが去って数日後、同じように帰り支度を終えた僕らは湯杜神社の拝殿を訪れていた。



「そういえば、小夜さん」



 この地を去る前に、気になっていたことを小夜さんに尋ねてみたかったのだ。



「何ですか?」

「結局、常世の門を開いて、妖怪達の避難と隔離って、どれだけできたのさ?」

「3年間の間に荒魂の私が全国を巡って、あちこちの妖怪達に伝えてましたから、何割かはできているはずですよ」



 僕に答えて、小夜さんは霊山の方角に視線を向けた。



「とはいえ、ミシャグジ様のように、自分の意志で残るという者だっていますから、全部がいなくなるなんてことはまずないでしょうね」



 まぁ……それは、ね。

 ミシャグジの証言からして、常世への“避難”と言っても、強制的なものではなかったらしいし。残りたいってヤツは残るでしょ。



「そもそも生まれたままの妖怪ならともかく、人や物から妖怪になる者だっているじゃないですか。
 鬼や付喪神つくもがみなんて、どれだけ減らそうとしたって、想いがある限り存在し続けます」

「じゃあ、小夜さんが常世の門を開いたのは、いったい何だったん?」



 けど……脇から口をはさんでくるいぶきの気持ちもわからないでもない。

 僕だって思うもの。それじゃあ、あまりに意味がなかったんじゃないか……って。

 人を襲い、精気を喰らい、自分まで捧げたのに、そこまでした成果が「何割か」では、あまりにも割に合わない気がする。



 けど……小夜さんは微笑むだけだった。



「あれはあれで、自分が救える限りの妖怪達を救うという、考え方のひとつとしてありですよ。
 避難したくないなら、それはそれでよし」



 小夜さんは苦笑し、肩をすくめた。



「つまるところ、荒魂の私はとにかく怒ってたんですよ」

「人間に……ですか?」

「いろんなモノに、ですね」



 聞き返すフェイトに柔らかく微笑み、小夜さんは答えた。



「きっと、自分にもわからなかったと思いますよ。
 だから、頭に浮かんだのはたったひとつ、単純に『妖怪がいなくなれば問題解決なんでしょうが』ってことだけなんです。
 その目的のためにとにかく手段を選ばなかったのは、八つ当たりみたいな面もあったんじゃないでしょうか」



 つまり、常世で接した荒魂の龍宮小夜は、表面こそ穏やかだったものの、内心は癇癪かんしゃくを起こした子供と同じだったということになる。

 しかもその怒りは何年も続き、なまじ霊力が高かったばかりにさまざまな人に迷惑をかけた。



「……とりあえず、あなたが怒らせてはならない類のヒトだということはわかった」

「別に私に限ったことではありませんよ」



 ため息をつくイクトさんに、小夜さんはクスリとほほ笑んだ。



「神様だってヒトだって妖怪だって、誰でもこんな二面性を持ってます。
 だからこそ千年以上も前から“一霊四魂”なんて思想が伝わってるんじゃないですか」

『あー…………』



 その小夜さんの言葉に僕らの視線が集中したのは――



「……言いたいことはよぉ〜っくわかる。
 わかるから、そんな重い視線向けるのやめてくんない?」



 いや、アンタ、こないだブチキレた末にどれだけ派手に大暴れしたと思ってんですか。

 そんなことしてれば、こういう話題だとどうしても連想しちゃうんですよ、ジュンイチさん。



「じゃあ、これからもウチらの仕事もなくならない、と……」

「そうですね」



 いぶきに答えて――それまで笑っていた小夜さんが、ふと何かを思い出したような顔をした。



「あ、そうです、忘れてました」

「え? 何が?」



 聞き返すブイリュウに、小夜さんは答えた。



「そういえば……」





















「常世の門、開いたままです」





















『………………え?』



 そんな話、聞いた覚えがない。

 何しろ、常世では荒魂の龍宮小夜に襲われて、その後問答無用で地上までブッ飛ばされたんだから。



 ただ……確かに『門を閉じた』って話も聞いていない。



「だってほら、常世での事件の後、荒魂の私は地上に出て、龍神様の完全な顕現けんげんのためにがんばってたじゃないですか」

「な、なんでその時、閉じてなかったんですか!?」

「その時閉じちゃったら、妖怪が避難できないじゃないですか」



 ジンに答えた小夜さんの言葉に、全員が思わず納得する。



 確かにその通りだ。

 荒魂の龍宮小夜の目的はまさしくそれなので、閉じる理由がない。



 じゃあ目の前の小夜さんは何をしていたかというと、僕らを逃がすので必死だったワケで。



 で……龍神からも龍宮小夜からも小夜さんからも、そのままスポーンと忘れられていたらしい。



「……じゃ、じゃあ、その門が開きっぱなしだったとして……何が起こるの?」

「まぁまぁ、それほどあわてることはないですよ。実害はあまりありませんし。
 せいぜい……常世が“避難・隔離先”からただの“避難先”にランク落ちするくらいで」

「十分大問題だろうがっ!
 つまり常世に避難した妖怪も普通に戻ってこれるってことだろ!? それこそ常世の門開いた意味なくなるってわからんかな!?」



 クイントさんに答える小夜さんに、ジュンイチさんが力いっぱいツッコミを入れる。



「あぁ……せっかく郷に帰れる思たのに、また洞窟に逆戻りなん?」

「……の、ようだな……」



 思わず肩を落とすいぶきとマスターコンボイだけど、そこに小夜さんがさらなる爆弾投下。



「ちなみに門が開いてる影響からか、洞窟の中はまだ龍脈に若干の狂いが生じてますね」

「……つまりまだ、迷宮が残ってるってこと?」

「はい」



 僕の問いにあっさりうなずく――ついでに妖怪も、と付け加えた上で。



「だ、大丈夫だよ、ヤスフミ!
 今回はただ行って、その常世を封印して、帰ってくるだけなんでしょ? それなら私もついて行けるし……」

「そうね。
 さっさと終わらせちゃいましょうか」

「……はぁ……そうだね。そうだよね。行くしかないよねー……」



 フェイトやクイントさんに励まされて、腹を決める……と、いうワケで、



「じゃ、みんながんばってねー♪」



『逃げるなぁぁぁぁぁっ!』



 最後の最後まで逃亡を図るジュンイチさんを、僕ら全員の抜き打ちの一閃がブッ飛ばした。





















 ……そんなワケで、帰還が数日遅れることになったけど、僕らの温泉旅行はこうして終わりを告げた。







 いろいろあったけど、まぁ、新しい仲間もできたワケだし、「終わりよければすべてよし」と思えば、まずまずな旅行だったと言える……言えるったら言えるんだよっ!







 妖怪事件も片づいたし、これなら、はやてが考えている“惑星ガイアからのお客さんのご招待”もうまくいくだろう……よし、東旅館、口利きしとこ。











 そして、僕らの物語は再び六課に戻る。







 そこでまた、時にドタバタ、時にシリアス、なんて日々が始まるワケだけど……











 それはまた、別の話である。







(とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記:おしまい)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ:ぴこーんっ。彼女に参戦フラグが立ちました。







「……行ってもうたなー……」

「行っちゃいましたねー……」



 小夜さんと二人で、ちょぉたそがれる。



 常世の門を改めて閉じて、やっちゃん達は帰っていった。



 つまり……まーくんともお別れや。



 結局、まーくんとのゴッドオン、一回しかできへんかったな……



「やっちゃんともお別れです……」

「まぁ、そう言うウチも、いつまでもここにおれるワケやないけどな」



 肩を落とす小夜さんに答える……事件が終わったし、仕方ない言えば仕方ないんやけど。



 せやけど、やっぱり寂しいもんがあるなー……











「あのー……」











 あれ、杏ちゃん?



「どないしたん?
 もう実家に帰る支度済んだん?」

「あ、はい……
 それで、ごあいさつに来たんですけど……あと、東さんから、これ……」



 言って、杏ちゃんが取りだしたんは、手のひらサイズ……より少し大きめの段ボール箱。



「宅配で、さっき届いたらしくて……」

「旅館に?」



 とりあえず受け取って、宛名を確認……って、これ……



「ジンくん宛てやないの。
 “精密機械在中”て……」

「どうしましょう……
 ジンさん達、もう帰っちゃったんですよね……?」



 杏ちゃんはどうしたものかと困り果ててるけど……フッフッフッ、これはこれは。



「いっちゃん……?」

「小夜さん……これ、チャンスやと思わへん?」



 一瞬、意味がわからん様子やった小夜さんやけど、すぐにその顔が笑顔になる。



「そうですね! チャンスです!
 いっちゃん、ナイスアイデアですよ!」

「あっはっはーっ」

「え、えっと……?」

「任せとき、杏ちゃん!
 この荷物、ウチがジンくんに届けたる!」



 話についてこれない杏ちゃんに答えて立ち上がる。



 せやね……まーくん達はミッドチルダいう異世界に帰ってった。普通に送り返しても、宅配業者にはお手上げや。



 せやったらどうすればえぇか。答えは簡単。ウチら、事情を知っとる子で届けてあげればえぇ。



 幸い、地球での知り合いの連絡先は聞いてる……「何かあったらまずこっちに連絡して」って感じで。



 その伝手を頼っていけば、うまくすればまーくん達に会いに行けるかもしれへん。







 うっふっふーっ! 待っとってな、まーくん!


 まーくんの新パートナー! このいっちゃんが今行くでーっ!







(おまけ:おしまい)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「さて、本家『とまと』で言うところのファーストシーズンから『電王』クロス編の間にあたる『とま休』、ついに完結だな」

オメガ《1クールという作者にしてはやたらと短期で終わった今回のシリーズ。
 まぁ、あくまでインターミッション編、という解釈なら短いのも納得ですけど》

Mコンボイ「結果的には、いぶき達の顔見せ用のエピソード、という意味合いの強いシリーズになったな」

オメガ《そして物語は『電王』クロス編へ、ですか……
 すでに参戦フラグの立った子もいますし、おもしろくなりそうですね》

Mコンボイ「他にも、ゲスト参戦のキャラクターの登場も考えているそうだぞ」

オメガ《ゲスト参戦……ですか?》

Mコンボイ「あぁ。
 とりあえず『電王』クロス編への出演は確定。ただしそれ以後のシリーズに参戦してくるかどうかは現状未定、という感じらしい。
 『出し続けるといろいろとややこしい連中だし』とも言っていたが、一体誰を出してくるつもりか……」

オメガ《まぁ、気にすることもないんじゃないですか?
 今さら誰が出てきたって、いろんな意味で『今さら』じゃないですか》

Mコンボイ「まぁな……そこは否定できん」

オメガ《作者もオリジナル展開を入れたがっている『電王』クロス編、どうぞ楽しみにお待ちください。
 ではみなさん、また新シリーズでお会いいたしましょう》

Mコンボイ「新シリーズも必ず読むがいい」





(おしまい)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「がはぁっ!?」



 豪快にブッ飛ばされて、そいつが地面に叩きつけられる。



「ったく、手間取らせやがって……」



 そして……そいつに向けて、オレは一歩を踏み出した。



「こんなライダーもいない世界でうろつきやがって。
 おかげで旅の途中で足止めだ」



 相手もしぶとい。よろめきながらも、それでも立ち上がってこちらと対峙する……生身じゃ、ここまでが限界か。



「……まぁ、いい。
 やることは決まってる」



 そう……決まってる。



 旅を足止めされている件についても、コイツへの対応についても。



「なんたってオレは……」







〈KAMEN-RIDE!〉







「破壊者、だからな」







〈“DECADE”!〉







(本当に、おしまい)





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