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頂き物の小説
第12話「龍神 対 龍神」



「……ここが龍神さんの中かぁ」



 森を、沼を、洞窟を経て霊山の山頂へ――行く手をさえぎる妖怪どもを薙ぎ払って、山頂から龍神の体内に突入して、いぶきが物珍しそうに周りを見回した。



 …………ところで、さ。











 龍神の体内に突入したはずの僕らは、どうして“石畳の上に”立ってるんだろうね?











「いや……違うぞ、恭文」

「マスターコンボイ?」

「こいつは石畳じゃない……岩が寄り集まって押し固められてる」

「そのようだな。
 その結果、足元が石畳のように見えているにすぎない……おそらく、龍神が顕現した時、山頂が崩れた際にこぼれ落ちた岩が体内に取り込まれ、それが異物としてひとまとめにされた結果、こうした足場となったのだろう」



 僕に答えて、マスターコンボイは足元の地面に触れてその感触を確かめ、イクトさんも爪先で軽く地面を蹴る。



「何よコレ……
 もしかして迷宮になってるんじゃない?」

「みたい、だな……
 空間が隔絶されてるのが、おかしな形で影響してるのかもな」



 なずなやジンの感想が、一番状況を的確に表してるように思う――パッと見、あちこちに浮かぶ足場とそれをつなぐ橋が複雑に入り組んでいるような感じ。



「あはは、大変やなぁ。
 けど、荒魂まで辿り着かな、えらいことになるからなぁ」

「……アタシ達、消化されたりしないでしょうね?」



 苦笑するいぶきになずなが不安そうにつぶやくけど……二人とも、それ以上に心配しなきゃならないことがあるってわかってる?



「ほえ?」

「何があるってのよ?」

「二人とも忘れた?
 外で“誰が待機しているのか”」



 そう。外には“あの人”がいるのだ。



 今は動きを止めている、この龍神が動き出した時に備えて。



「今はいいよ、龍神が動いてないから。
 けど、もし龍神が動き出して、龍神とぶつかったら……」

「そういえば……なんや勝算あり、みたいなこと言っとったなぁ」

「っていうか、あの人、そんなすごい切り札持ってたワケ?
 だったらさっさと使ってほしかったんだけど」



 思い出したいぶきのとなりでなずながむくれてるけど……まぁ、しょうがないのよ。



「えっと……いぶきもなずなもさっきあいさつすませたよね?
 ジュンイチさんのパートナーの……」

「ブイリュウくんのこと?
 じゅんさんのパートナーなんやってね?」

「アタシ、『式神みたいなもんか』って聞いたら足蹴っ飛ばされたんだけど」

「それはなずなが悪いよ。
 ブイリュウって、『自分はプラネルであって使い魔じゃない』って部分にけっこうこだわりあるみたいだし」



 まぁ、実際使い魔とか式神とかとは存在の概念違うしね。



「それはともかく、ジュンイチさんがこれから切ろうとしてる“切り札”は、ブイリュウがいて初めて切れるものなんだよ。だから今まで使わなかったの。
 でもって、ジュンイチさんがその“切り札”を切ったら……」











「龍神の体内にいるとはいえ、空間が切り離されてるはずの僕らも、巻き込まれる覚悟のひとつや二つは必要になると思う」











『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説



とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記



第12話「龍神 対 龍神」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 恭文達、そろそろ龍神の体内に突入したかな……?



「そうですね〜。みなさんの、道中の迷宮の突破時間によっては多少前後すると思いますけど、そろそろですね〜」



 小夜さんも同意見、と……オレはともかく小夜さんの見立てなら間違いないか。



「恭文達、大丈夫かなー?」

「まぁ、大丈夫だろ。アイツらなら」



 首をかしげるブイリュウにそう答える――同じ相手にそうそう何度も遅れを取るようなヤツらじゃないからな。相手が龍神だろうが、アイツらが負ける気は正直しない。苦戦はするかもだけど。



「ま、それはともかく、今オレ達がすべきなのは……」

「だね」

「です」



 まぁ、オレ達はオレ達の役目を果たすだけだ。ブイリュウ、小夜さんと視線を交わして――











『杏ちゃん、あんみつおかわりっ!』



「は、はいっ!」



「それこそやってる場合なんですかっ!?」











 フェイトに怒られた。







 現在、オレ達は杏ちゃんの実家の茶店にいる――先行した恭文と違って出番まで時間があったから、とりあえず腹ごしらえの真っ最中というワケだ。



 探索の際のお弁当をお願いしているだけあって、お店で出してくれるスイーツもなかなか。小夜さんもブイリュウも一発で気に入ってくれたようで何よりだけど……



「フェイトは何が不満なんだよ?
 ちゃんとお前の分もおごりで頼んでやったっていうのに手ェつけてないし……あ、今夜の体重計が怖いとか!?」

「怒ってるのはそこじゃありませんっ! 怖いのは確かですけどっ!」



 あ、本音が出た。



「うぅっ、この郷、どこも料理おいしすぎるんですよ。旅館のご飯もおいしかったし、さっきお土産屋さんで試食させてもらった温泉まんじゅうも……って、そうじゃなくてですねっ!」



 ……チッ、話題転換失敗。



「恭文達がもう戦ってるっていうのに、こんなところでのん気に――」

「あ、あの……おかわりです……」

「待ってました〜♪」

「聞・い・て・く・だ・さ・いっ!」



 今のオレにはお前のご機嫌取りよりもあんみつの方が大事なんだよ。



「これから決戦だっていうのにそんな緊張感もなく……」

「あ、杏ちゃん、カマイタチ元気にしてる? 連れてきてくれればよかったのに」

「い、いえ、一応飲食店ですから……」

「だぁかぁらぁっ!」



 フェイトのボルテージが上がってるけど気にしない。恭文もいないし、お前がいくら怒ろうがオレにデメリットはねぇんだよ。



「この戦いに全部かかってるんてせすから、もっとマジメにやってくださいよ!」







「ヤだよ、めんどくせぇ」







 ピシリ、とフェイトが固まった音がした。



 いやー、久しぶりだねー、この空気。フェイト遊ぶの、いつぶりだろ。



「まぁまぁ、フェイトさんも落ち着いて」

「クイントさん! けど……」

「こうして自然体でいた方が、ジュンイチくんは実力を発揮してくれるんだから、ね?」



 いやー、わかってくれてるようで何よりだよ。

 と、いうワケでクイントさんも団子どう?



「あ、いいの? もらうわ」

「うぅっ、なんだか私だけ悪者みたいな……」

「安心しろ。そいつぁ単なる疎外感だ」

「ちっとも安心できませんよ、それ!?」



 ……うん、まぁ、それはともかく。



「フェイト」

「今度はなんで……きゃっ!?」



 投げやり気味に返してきたフェイトが、いきなりオレに“それ”をパスされて驚いてる……で、“それ”が何なのかに気づいてまた目をパチクリ。



「財布……?」

「ん。
 オレもう行くから、オレの代わりにお会計よろしく」



 フェイトに答えて、準備運動がてら軽くストレッチ……うし、行くか。



「龍神でしたら、まだ止めていられますよ〜?」

「だからって、限界までがんばる必要もないでしょ。
 恭文達は無事龍神の体内に突入したみたいだし、もう龍神に止まっててもらう必要もないさ」



 かわいらしく、かわいらしく首をかしげる小夜さんにそう答える。

 そう。どの道恭文達が龍神を止めるまで本体を抑え込んでいられないのはわかってるんだ――だったら、今解放したって大した違いはない。ただ、オレが龍神をぼてくり回す時間が長いか短いか、それだけの違いだ。

 そして、それなら小夜さんに限界まで止めていてもらうこともない……と、まぁ、そういうこと。



「だからさ、オレ達が出たら、小夜さんは龍神抑えるのやめてもらってかまわないぜ。
 ほら、いくぞ、ブイリュウ」

「ち、ちょっと待って! もうちょっとで食べ終わるから!」



 オレに答えて、ブイリュウがあんみつをかっこむ……あ、のどにつまらせた。



「んーっ! んーっ!」

「あ〜、はいはい。お茶ですよ〜」



 小夜さんからお茶をもらって一気飲み……ようやくブイリュウは落ち着いたらしい。まったく、人騒がせな。



「ジュンイチが急かしたのがそもそもの原因だと思う……」



 気にしない気にしない。さー、いくぞー♪






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………む?」



 …………?



 マスターコンボイ……いきなり足止めて、どうしたの?



 というか……マスターコンボイが気配察知で案内してくれないとこの迷宮進めないんだけど。同じ察知ができてもイクトさんには案内頼めないし。



「…………悪かったな。
 だが……今マスターコンボイが何に気づいたのかはわかるぞ」



 僕に答えて、イクトさんは周囲を見回して、



「周囲に満ちていた龍宮小夜の霊力が消えた……すぐに、龍神が自由に動き出すぞ」

「そんな!?
 小夜さんの見立てやと、もうちょい持つって!?」

「それより、龍神を抑えてた霊力が消えた、って……小夜さんは大丈夫なの!?」



 イクトさんの言葉に大あわてのいっちゃんなっちゃん(byチビ小夜さん)だけど……大丈夫だよ、二人とも。



「たぶん……それ、ジュンイチさんの方から龍神抑えるのやめさせたんじゃないかな?」

『え…………?』

「僕らさえ突入しちゃえば、龍神自身は荒魂が僕らと対面するまで手出しはできないからね。
 こうして僕らが突入した今、もう龍神を抑えておく必要はない。なら、小夜さんがガス欠になる前に……ってことだと思う」

「あー、なるほど……」

「ってことは、外では龍神が動き出す……ジュンイチといよいよ激突ってワケね……」



 納得するいぶきのとなりで、なずははあくまで渋い顔……まぁ、気持ちはわかるけどね。



「まだ信じられない?
 ジュンイチさんとブイリュウがそろえば、龍神に対抗できるって」

「当然でしょ。こんなバケモノ相手に、どんな切り札切ったら対抗できるってのよ?
 アンタ達が太鼓判押すからにはホントに心配ないんだろうけど……」

「うん、心配ないね。
 少なくとも負けはないね。負けは」

「本当なん? やっちゃん」

《本当ですよ、いぶきさん。
 彼らが“切り札”を切ったなら、少なくとも負けはないでしょう。そのくらいの成果は期待できます》



 そうそう。アルトの言う通り。ただし……



《まぁ……あなたにとっては、いいことかどうかわかりませんけど》

「どういうことなん?」

《あー、なんと言いますか……》

「そのジュンイチさんの“切り札”っていうのがね……」







「《とってもいぶき(さん)好みのはずだから》」







 いぶきのことだから、実物見られなくて残念がりそう、とか思っちゃうワケだよ、うん。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 オレが“装重甲メタル・ブレスト”を装着。ブイリュウを背負って相変わらず妖気の渦が生み出す乱気流のひどい空へと飛び立ってから少しして、龍神を縛る小夜さんの霊力が断たれたのがわかった。



 沈黙はほんの数秒――瞳に輝きが蘇ったと思った次の瞬間、再び動き始めた龍神は、動きを止める前に取っていた行動をそのまま続けた。







 要するに……ヤツが小夜さんに止められたあの瞬間にオレ達のいた場所、山の中腹の辺りの地面をばっくり喰らいやがった。







 あの時小夜さんが止めてくれなかったらあぁなってたワケか……さすがにゾッとするね。



 とはいえ……もちろん龍神は土くれを食べたくて山にかじりついたワケじゃない。口の中に獲物のなれの果てがないことにすぐに気づいて周囲を見回し――







《むっ》

「ひっ!?」

「よっ」







 オレ達と目が合った。ブイリュウが背中で怯えるけど、オレ自身は特に気にすることもなくあいさつを返す。







「ようやくお目覚めか、このネボスケ野郎」

《貴様……
 …………ふむ、どうやら何者かに封じられていたようだな。
 おそらくは……龍宮小夜の和魂にぎみたま

「お、さすが、腐っても龍神。聡明だねぇ」







 オレの返しに、龍神の瞳の奥で燃え盛る怒りの炎が勢いを増すのがハッキリとわかった。







《ぬかせ、人間。
 我に対して『腐っても』だと……? ちっぽけな人間の分際でほざきおる》

「てめぇにゃ言われたくねぇんだよ。
 たかだかン百年縛られてたくらいでヘソ曲げてブチキレやがって。ガキのかんしゃくに付き合うつもりはねぇんだよ、こっちは」







 おーおー、怒ってらっしゃる怒ってらっしゃる。怒気がどんどんふくれ上がっとるわ。







「じ、ジュンイチ! 挑発してどーすんのさ!?」

「挑発しなくてどーすんのさ。
 オレ達はアイツの相手がお仕事だぞ。無視して暴れ出されたら、それこそ始末に負えねぇぞ」



 背中のブイリュウに答えると、改めて龍神の挑発に戻る。



「悪いけど、オレの役目はお前に生かさず殺さずの生き地獄を堪能していただくことでな。
 懇切丁寧てってーてきにぶちのめしてやるから、とりあえず歯ァ食いしばれやコラ」

《なめるな! 人間ごときが!》







 とうとう龍神がブチキレた。咆哮が大気をビリビリと震わせ、吐息が衝撃波となってオレ達に叩きつけられる……











「ぅわ、口臭ひでぇ」

《やかましいわぁぁぁぁぁっ!》











 そんな中でも挑発は忘れない。軽口を叩くオレに向けて、怒りに燃える龍神が大口を開けて突っ込んできて――







「ブイリュウ」

「はいはいっ!
 オープン、ザ、ゲート!」







 オレの指示でブイリュウが叫んで――











 止められた。











 オレ達を噛み砕かんとしていた龍神の大口が











 オレ達の背後に展開された巨大な空間の穴――そこから姿を現した、ドラゴン型の機動兵器によって。











《むぅっ!?》

《ガァアァァァァァァァァァァッ!》







 下あごを踏みつけ、両腕で上あごを受け止め、オレ達を噛み砕こうとした龍神を止める。そのまま、そいつは力任せに龍神を押し返し、オレ達のすぐ後ろで高らかに咆哮する。







 ゴッドドラゴン――それがコイツの名前。



 オレ達の世界で太古の昔に存在した、精霊文明の遺産。オレ達ひとりひとりに対となって存在する、ブレイカーの最大戦力“ブレイカービースト”の一体……まぁ、昔の戦いで仲間内のブレイカービーストはことごとく再起不能になってるから、当時のメンバーの中では唯一の現存機体なんだけどね。



 そして……オレが龍神を相手に「対抗できる」と言い切った最大の根拠。







 オレ達のすぐ脇にその顔を寄せると、頭部のコックピットハッチを開く――オレ達をその中に招き入れると、ゴッドドラゴンはあらためて龍神と対峙する。







 そんじゃ……いきますかっ!







「さぁて、ゴッドドラゴン。
 久しぶりの出番だ……思う存分暴れてやろうぜ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「エヴォリューション、ブレイク!
 ゴッド、ブレイカー!」




 高らかに叫んだオレの宣言を受け、ゴッドドラゴンが翼を広げて急上昇。上空で変形を開始する。

 まず、両足がまっすぐに正され、つま先の2本の爪が真ん中のアームに導かれる形で分離。アームはスネの中ほどを支点にヒザ側へと倒れ、自然と爪もヒザへと移動。そのままヒザに固定されてニーガードとなる。

 続いて、上腕部をガードするように倒れていた肩のパーツが跳ね上がり水平よりも少し上で固定され、内部にたたまれていた爪状の飾りが展開されて新たな姿の肩アーマーとなる。

 両手の爪がヒジの方へとたたまれると、続いて腕の中から拳が飛び出し、力強く握りしめる。

 頭部が分離すると胸に合体し直し胸アーマーになり、首部分は背中側へと倒れ、姿勢制御用のスタビライザーとなる。

 分離した尾が腰の後ろにマウントされ、ボディ内からロボットの頭部がせり出してくると、人のそれをかたどった口がフェイスカバーで覆われる。

 最後に額のアンテナホーンが展開、その中央のくぼみにはまるように奥からせり出してくるのは、このボディの力の源、精霊力増幅・制御サーキット“Bブレイン”。



「ゴッド、ユナイト!」



 変形が完了し、叫ぶオレの声に伴い、オレの身体が粒子へと変わり、機体と融合、恭文達がゴッドオンするように、オレ自身が機体そのものとなる。

 システムが起動し、カメラアイと額のBブレインが点灯。オレが改めて名乗りを上げる。



 ゴッドドラゴンとひとつになった、新しいオレの姿。すなわち――











「龍神、合身! ゴォォォッド! ブレイカァァァァァッ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ゴッドドラゴンと合身。ゴッドブレイカーとなって、オレは改めて龍神と対峙する。



《“龍神”、合身だと……っ!?》

「あぁ……そうさ!」



 で、龍神が律義に驚いてくれるので、オレもそれに応えてやる。







「龍の力をその身に借りて、神の名の元悪を討つ!
 龍神合身ゴッドブレイカー、絶対無敵に只今見参!」








 ポーズをビシッと決め、見得を切る――この見得切りまで含めて、合身シーンフルバージョン、ということで。







《貴様が龍神だと……!?
 ……ふざけるなぁぁぁぁぁっ!》







 一方、オレが自分と同じ“龍神”を名乗ったのが気に入らないらしい。怒りの咆哮と共に大口を開けて襲いかかってきた龍神の牙を、オレは真っ向から受け止める。



 さっきゴッドドラゴンがやったように、下あごを両足で、上あごを両腕で受け止め、全身をつっかえ棒にするようにして龍神の噛みつきを受け止める。







《貴様ごときが龍神を名乗るとは……身の程を知れぇいっ!》







 オレに口を止められた状態でどうやってしゃべってるのか……とかツッコんじゃダメなんだろうなー。オレに向けて言い放ち、龍神はそのままオレを、ゴッドブレイカーを噛み砕こうとするけど――







「そいつぁ……」











「こっちのセリフ、だぁぁぁぁぁぁっ!」











 この程度でオレが殺れると思ってんなら片腹痛い。両手でそれぞれ受け止めていた、龍神のひときわ大きな上あごの牙……人間で言う犬歯にあたるそれを、力任せにへし折ってやる!







 歯をへし折られた激痛で思わずあごの力を緩める龍神の口の中から脱出、その鼻っ柱を回し蹴りで思い切り蹴り飛ばす。







「小夜さんから、お前を八つ裂きにしたり消し飛ばしたりさえしなきゃ、中の恭文達は大丈夫って聞かされてるからな……
 遠慮なくぶちのめしてやんぞコラぁっ!」



《調子に乗るなよ、人間!》







 オレに言い返し、龍神が咆哮。するとにわかに空が雲に覆われて……なるほど、そう来ますか。



 けど――甘いっ!







「ゴッド、プロテクト!」







 オレの叫びに答え、ゴッドブレイカーの肩アーマー、その前面が開く。



 そこに姿を見せたのは、力場とは別のバリアシステム。ゴッドブレイカー全体を包み込むように発生させたバリアを、オレはかざした左手に集め、左手を中心としたシールドへと集束させる。



 シールドの完成と同時、龍神の頭上の雲から放たれた落雷がオレに向けて降ってくる――けど、







《バカなっ!?》







 龍神の驚く声が聞こえる――まぁ、当然だろう。



 龍神皇や小夜さんの本体を介して放っていたものとはレベルが違う――“本物の雷を、真っ向から受け止めてみせたのだから”







「そーいや、言ってなかったっけな」







 そんな龍神にオレが告げ――シールド全体に叩きつけられた落雷のエネルギーが一点に集中していく。







「オレはエネルギー制御に特化した能力者。
 そして……」







 そう。シールドの中心、左手に――落雷のエネルギーを完全にまとめ上げ、オレは龍神に向けて降りかぶり、











「能力の産物だろうが、モノホンだろうが……雷だって、エネルギーだろうが!」











 力いっぱい、龍神に向けて投げつけた。直撃を受け、龍神の全身が強烈な電撃に打ち据えられる。





 エネルギー偏向バリア“ゴッドプロテクト”。デフォルトでは撃ち込まれた方向にそのまま跳ね返す、某一方通行さんの能力みたいな仕様だけど、オレ自身が干渉することでこうして集束させて、狙ったところにぶち込むこともできるんだ。







「今度はこっちの反撃だ!」







 さらにオレのターンは続く。右腕を頭上高く掲げ――握りしめた拳から、ゴッドブレイカーによって増幅され、高められたオレの精霊力があふれ出した。



 それは右腕に内蔵された専用の制御システムによって導かれ、右腕、ヒジから先を包み込むように渦を巻く。



 そう。それはまるで右腕に生まれた光のドリル。龍神に向けて、今度は右腕を思い切り振りかぶり、











「クラッシャー、ナッ、クル!」











 ロケットパンチ(エネルギードリル付)炸裂。右腕から先が撃ち出され、龍神のドテッ腹に叩きつけられる。







 龍神の頑強なウロコに止められるけど――内部に通じる傷を負わせるのはこちらとしてもマズイのでむしろ都合がいい。というか、







「素直に撃ち抜かれた方が、まだマシだったかもな!」







 撃ち貫かれはしなくても、その勢いまでは止められなかった。勢いに押され、大地に叩きつけられた龍神の腹で、クラッシャーナックルはなおもその身体を貫こうと光の螺旋を龍神の腹にえぐり込もうとする……ぅわ、マヂ痛そ。







 やがて、攻性エネルギーを使い果たしたクラッシャーナックルが自動制御で戻ってくる。右腕にドッキングさせるオレに対し、龍神は怒りの咆哮と共に再度噛みつかんと大口を開けて――











「ゴッドブラスト!」











 その大口に、胸のゴッドドラゴンの口から放った火球を思い切り叩き込む!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ジュンイチさん、ハデにやってるみたいだな」

「そ、そうね……」



 ジンのつぶやきに、なずなが不安そうに周囲を見回す。

 マスターコンボイの先導で龍神の体内の迷宮を進む僕達だけど、進んでいくうちに最初の浮島とそれをつなぐ橋、といった感じから洞窟のようなトンネル状にその趣を変えていた迷宮は、時折地震でも起きてるように震動を伝えてくる。



 その正体が何かはだいたい見当がつく――ジュンイチさんが、外で龍神とハデにやり合っている、その衝撃が伝わってきてるんだ。



 ……龍神の体内とはいえ、空間的には隔絶されているはずのこの迷宮にまで衝撃が伝わってくるほどの勢いで。



「じゅんさん……ウチらのこと忘れてへんやろうね?」



 思わずつぶやくいぶきだけど……まぁ、そこは大丈夫だと思う、うん。



《大丈夫ですよ、いぶきさん。
 あの人が本気で私達のことを忘れていたら、今ごろ龍神もろとも丸焼きですよ》

「……それ、あんま判断基準にならんのとちゃう?」



 まぁ、「忘れられてる」と気づいた時には黒こげ、だからね……







「……雑談はそのくらいにしておけ」







 …………イクトさん?



「もう終点に到着……ということだ」



 答えたのはイクトさんじゃなくて、先頭を歩くマスターコンボイだった。見れば、すぐ先で通路が一気に開けている。



 この先、か……



「敵の気配に動きはない。
 こちらに気づいていないのか、それとも……」

「迎撃準備しとるか、やね……」



 警戒するマスターコンボイにいぶきが答える。とりあえず通路の出口に身をひそめて、中の様子をうかがう。



 そこにいた……いや、“あった”のは――







「………………玉、か?」







 眉をひそめたイクトさんがつぶやく――そう。中はマスターコンボイがロボットモードでも大立ち回りができそうなくらいの広さのドーム。

 その中央には、僕らの身の丈くらいの大きさの玉がぷかぷかと浮かんでいる。



 とりあえず、迎撃を警戒しながら中に入り、玉を観察してみる……近づいて見てみると、表面が流動的に動いているのがわかる。

 かすかに脈打ってるし、ひょっとして……



「これが、龍神の荒魂で間違いなさそうやね」

「えぇ。
 中で妖気が渦巻いてるのがわかるわ」



 いぶきの言葉になずながうなずく……まぁ、その辺の感覚のない僕ですら、こいつの感じる生物的な何かは感じてるワケだしね。今さら確かめるまでもない……って感じ。



「で……どうする?
 おとなしくさせてこい、という話だが……」

「もう、おとなしいですよね……」



 イクトさんとジンが対応を話し合っているけど……アルト、どう思う?



《ひょっとしたら、私達に気づいてないのかもしれませんね。
 龍神自身は現在進行形でジュンイチさんと戦っているワケですし》

「まぁ、それはそれで好都合だろう」



 アルトの言葉に答えたのはマスターコンボイだ。荒魂に向けてオメガをかまえ、



「こちらに気づいていないのなら、今の内に叩きのめして無力化してやればいい!」



 言うなり、一気に荒魂に向けて地を蹴った。距離を詰めてオメガを叩きつけ――







「何っ!?」







 ――られなかった。



 わずかに浮き上がっていた玉がいきなり地面に落下。そのまま転がってマスターコンボイの一撃をかわしたのだ。



 さらに、そのまま反転してこっちに転がってくる――みんな!



「わかっとる!」



 いぶきが答えて、散開して龍神の荒魂の体当たりをかわす。



「あんなナリでもやる気まんまんってワケね……
 いくよ、みんな! さっさとブッ飛ばして、ジュンイチさんが龍神の本体ぶった斬る前に脱出するよ!」

「イヤなタイムリミットだな、それはっ!」



 マスターコンボイが答えて荒魂の後を追い、僕もアルトを手にその行く手に回り込もうと走り出す――これが最後だ! 気合入れていくぞっ!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



《オォォォォォッ!》







 龍神が尻尾を振るい、そこから飛ばされたウロコが手裏剣のようにこちらを狙う。



 コイツ、こんな武器まで持ってやがったか……けどっ!







「ゴッドキャノン!」







 ゴッドドラゴンの尻尾が変形したハンドキャノンで迎撃。連射したビームでウロコの手裏剣を蹴散らして、







「ゴッドブラスト!」







 龍神自身にゴッドブラストをお見舞いする。



 さらに、炎によって龍神がこちらを見失っているうちに、一気に距離を詰めて顔面に拳をお見舞いして――







《なめるなぁっ!》







 動けなくなった。



 龍神の尻尾が巻きついてきた……ヤツの巨体からすれば先っぽの部分だけだけど、ゴッドブレイカーの両手足をガッシリとホールドして動きを封じ込める。



 くそっ、お約束パターンの攻撃をっ! 体格に差がありすぎるからやってこないだろうと思ってたのに、やっぱりやってきやがったか!







《油断したら、人間風情が。
 このままひねりつぶしてくれるわ! それとも、頭からかみ砕いてやろうか!》







 勝ち誇った龍神が咆哮する……けど、







「………………あのさぁ」







 そんな龍神に、オレは締め上げられるのに抵抗しながら声をかけた。







「これで……オレを止めたとでも思ってるの?」

《何…………?》







 その言葉に、勝ち誇っていた龍神が首をかしげる――かまわず、オレは四肢に力を込める。







「この、程度で……っ!」







 オレの動きを封じている尻尾の、締めつけようとするその動きが止まる。







「この、オレを……っ!」







 締めつけるのをやめたワケじゃない。オレの、脱出しようと四肢に込めた力と拮抗しているんだ。







「捕まえられたと……っ!」







 それどころか、龍神の尻尾の力にオレの、ゴッドブレイカーの馬力が上回り、力ずくで龍神の尻尾を押し広げていく。







《バカな……っ!?
 ……おのれぇっ!》







 脱出されることを確信したんだろう。龍神がその前にオレをかみ砕こうと襲いかかってくるけど――











「……思ってんのかぁっ!」











 全身から炎を放った。龍神の尻尾を、その衝撃で一気に振りほどき、自由になったオレは襲いかかってきた龍神の顔面にカウンターの炎を叩き込む!







 さらに、振りほどかれ、オレから離れていこうとする尻尾を捕まえた。逃がさないように両手でしっかりとつかみ、







「ぅおぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」







 ゴッドブレイカーのパワーで思い切り振り回した。龍神の巨体が遠心力で勢いよくブン回されて、











「室伏師匠、あなたにこの一投を捧ぐっ!」











 ハンマー投げの要領でブン投げた。勢いよくカッ飛んだ龍神だけど、空中で体勢を立て直す……まぁ、恭文達が中にいるし、お空の星になられても困るんだけど。







《バカな……っ!
 たかが人間を相手に、完全復活した我が……っ!?》



「うぬぼれてんじゃねぇぞ、このバカ神が!」







 うめく龍神に言い返し、その巨体の下に回り込む――炎をまとった拳で、龍神のあごを思い切り打ち上げる。







「こちとら、精霊の力を受け継ぐブレイカーだぜ!
 精霊の力は自然の力……龍脈の力だって使える。てめぇと条件は一緒なんだよ!」







 すぐに立て直した龍神が噛みついてくるけど、あっさりかわして炎を一発。







「条件が同じなら、後はノリだ!
 ムダにうぬぼれてるてめぇが、全開でブッ飛ばしてるオレに勝てるワケねぇだろうが!」







 そのまま一気に距離を詰めて、頭上で重ねた両拳を、渾身の力で龍神の額に叩きつける!



 轟音と共に、龍神の巨体が霊山の麓に叩きつけられる――見下ろす形になり、ビシッと指さしたオレが告げる。











「人間なめんな、神様ごときが」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「こん、のぉっ!」



 ホールの中を駆け巡る龍神の荒魂の軌道に割り込んで、ジンがレオーのサポートを受けた蹴りを放つ――けど、かわされた。荒魂は素早く軌道を変えてジンの蹴りを回避する。



「このっ!」

「ちょこまかせんでや!」



 いぶきやなずなも次々に斬りかかるけど、ことごとくかわされて、



「下がれ、二人とも!」



 イクトさんが広範囲に炎をぶちまける。これなら――



《あー、ダメだ、ありゃ》

「何っ!?」



 オメガの言葉にマスターコンボイが声を上げると、荒魂が突然その場でスピン。その勢いで周りの炎を吹き飛ばす……って、ンなのアリかいっ!



「くそっ、何なんだ、あの機動性!?」

「この地面に対するグリップ力がハンパじゃない……
 おそらく、霊的な何かで地面に自らを吸いつけているんだ。スバルのマッハキャリバーが使う、アブソーブグリップのようにな」



 うめくジンにイクトさんが答える。それはまた厄介な……



「あの動きをなんとかしないと、攻撃なんかまともに当てられないわよ!?」

「まーくん、なんかアイデアあれへんの!?」

「そんなポンポン対策など思いつくかっ! 柾木ジュンイチじゃあるまいしっ!」



 なずなやいぶきの声にマスターコンボイが答える……まぁ、確かにあの人だったらあっさりなんとかできそうだけどさ。



《あの人、なんでもできますからねー。
 “炎”属性のクセに凍結攻撃とか平気でかましてきますし》

「いや、それはあの人の本質が熱エネルギー使いだからでしょ。
 熱を上げて炎を燃やしてるみたいに、熱を下げて凍らせるから……」



 アルトの言葉に答えて……ふと止まる。







 …………“凍らせる”……







「……それだっ!」



 思いついたら即行動。すぐにアルトをかまえて、魔法を放つ。







《Icicle Cannon》







 そう。アイシクルキャノン。龍神の荒魂……じゃなくて、その行く手の地面に着弾。周囲一帯を凍結させる。



 その凍ったエリアに荒魂が突入――思った通り、突入するなりバランスを崩した。進路変更もままならず、僕らに向けて突っ込んでくる。



「いくよ、アルト!」

《はいっ!》



 ジガンを通じてカートリッジをロード。アルトのまとう魔力の刃が見る見るうちに研ぎ澄まされていく。







「鉄輝――」







 スリップして突っ込んでくる荒魂に向けて――アルトを叩き込むっ!











「一閃っ!」











 ……結果だけ言わせてもらえば、荒魂を見事ホームラン、とはいかなかった。







 だって、打ち返せるワケがない。







 荒魂は……僕らの一撃で真っ二つになって、僕の両脇を駆け抜けていったんだから。







「…………ふぅっ」

「やっちゃん、ナイスや!」







 息をつき、顔を上げる僕にいぶきが拍手喝采かっさい……だけど、







「や、やった……!?」



『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』







 なずなのつぶやきに全員が声を上げる――ちょっ、なずな、そのセリフダメぇぇぇぇぇっ!



「ちょっ、なっちゃん、そのセリフはあかん!」

「何がよ!?」




 いぶきも声を上げ、ワケがわからないなずなが聞き返した、その時だった。







《……よくもやってくれたな》







 ホール内に、龍神の声がこだました……あああああ、やっぱりぃ……



「ほらな……生存フラグ立ててもうた」

「あ、アタシのせい?」

「いや、単なるゲン担ぎやから、偶然やけど……」



 まぁ、いぶきの言う通り単なる“お約束”だし、なずなの発言のせいであの荒魂が生存したってワケじゃないよね、うん……



《あなたの運の悪さが作用したとか?》

「はい、アルトもそういうこと言わないっ!
 そんなこと言われたら否定しきれないじゃないのさっ!」



 うん。違うから。僕の運が悪いから生存したとか、そういうことはないから……たぶん。



「ともあれ、危機自体は去ってない、ちゅうことには変わりはあれへんよね」

「……あぁ。
 どうやら、そのようだな」



 気を取り直して、いぶきとマスターコンボイがかまえる……確かに、龍神の怒りは鎮まっていないみたいだ。



《一応、マスターに真っ二つにされたらセリフが出てきましたからね。
 それなりの効果は出てると思いますけど》

「この調子でさらにブッ飛ばしていけば、頭に上った血も下りてくるだろう、って?」



 アルトとそんなことを話していると、龍神が再び口を開いた。

 ただし……







《そして、倒した我をまた封じるのか……霞ノ杜の巫女よ》







 ぶった斬った僕らじゃなくて、なぜかなずなだった。神社の名を名指しで呼ばれて、なずなが動揺する。



「…………っ!?
 ど、どうして……!?」

《我が何を喰らい甦ったか忘れたか? 龍宮小夜の肉体だけではない、心も我が糧となっておる。
 また、貴様達は同じ過ちを繰り返そうというのか》



 『同じ過ち』……龍神が言っているのは、きっと氷室山事件のことだろう。

 霞ノ杜神社が自分達の正当性を主張して、そのために善妖だけでなく小夜さんまで殺害した、あの一件のこと。

 自分達が水害から逃れるために龍神をこの土地に封じ込めたことと重ねて、龍神は言っているんだ……『また、人間は“自分達の都合”のために他者を踏みつけるのか』と。

 そして、龍神の意識が今度はいぶきに向いた。



《そして灘杜の巫女。
 非があるのは我か、人間か? 我はただ在るがまま生きていたに過ぎぬ。それを縛ったのは人間の都合に過ぎぬはず!》

「まぁ、龍神様が悪神やないのはわかっとるよ」

《ならば……!》

「けどね」



 いぶきに代わり、僕が龍神の言葉をさえぎった。



 出発前、ジュンイチさんから忠告されていたからだ。



 曰く――『龍神と話せるようになったとしても、その時言いたい放題をさせないように』って。



 ジュンイチさんが言い、小夜さんが補足してくれたところによると、“言霊”という言葉がある通り、言葉には力が宿るんだとか。

 だから、龍神に語らせ続けると力が増すばかり。交渉を有利に進めるためにも、言いたい放題はさせるな、と。



 まぁ……別にそこはいいんだけどね。

 今回戦いに来たのはあくまで“手段”としてだし。言い負かせてそれで終われるならそれでよし、だ。相手に言いたいことを言わせないのは交渉のテクニックのひとつとしてアリだ。



「けど、こっちの言い分も聞いてほしいかな。
 怒るのはムリもないけど、そこで『ムカつくから世界丸ごと滅ぼす』じゃ、話にならないんだよ」

「だいたい、ならばも何も、放っといたら、ウチらも人間やし、死ぬやん。抵抗せざるを得んやろ?」



 そんな僕のとなりで、肩をすくめていぶきも言う。そしてさらになずなも加わってくる。



「そうよ。
 アタシも、アンタを滅ぼしに来たワケじゃないわ」

《ならば、何をしに来た!
 外の人間は全力で我を攻撃している! 我を滅ぼすつもりではないか!?》

「決まってるじゃない」











「止めに来たのよ」











 迷うことなく、なずなは言い切った。



「約束するわ。ここでアンタを倒しても、殺しはしない」

「……なっちゃん?」



 なずなのその言葉に、いぶきは少し驚いたみたいだった。



 …………いや、僕らもなんだけど。相手が妖怪となれば、相手があのカマイタチであっても問答無用で攻撃しようとしていたなずなから、「妖怪を殺さない」って一言が、しかも迷わず飛び出してきたんだから。



 そんななずなは、龍神から目を放さないまま、今度はいぶきに向けて言う。



「別にアンタ達に感化されたワケじゃないわよ。
 ただ、正しいと思って行なったことが必ずしも良くなるとは限らないこともあるんだってことを知っただけ」



 氷室山事件は、霞ノ杜神社の立場から見れば“正しいこと”だ。

 妖怪を滅ぼし、さらにそれをかばった半妖さよさんを倒した……それが彼らから見た事件の顛末だから。



 けど、結果として氷室山に向かった5人の巫女は全滅。荒魂となった“龍宮小夜”が今回の事件を起こし、封じられた龍神の復活まで引き起こした。



 まさに、『正しいと思って行なったこと』が最悪の事態を引き起こした典型例。なずなが言っているのはそういうことだろう。



「っていうかね、龍神。
 今のアンタ、霞ノ杜ウチとよく似てるし」

《我を愚弄するか、娘……》

「人の話を聞かないあたり、ホントよく似てるって言ってるのよ!」



 うめく龍神を、なずなは一喝した。



「とにかく落ち着いて、話を聞きなさい!」

《今さら、貴様らの戯れ言を聞けと言うのか! この我に!》



 なずなの言葉に、甦った荒魂はより一層の猛りを増した。



 僕の“鉄輝一閃”で真っ二つになった球状の荒魂が霧散。僕らの前に集束して……







《外の人間といい……調子に乗るな!》







 ミニサイズの……だけど、僕らよりもはるかに大きな龍神として僕らの前にその姿を現した。



「あー、えっと……」

「ねぇ、ジン。
 アタシ、失敗したと思う?」



 特に反省もしていないふうで尋ねるなずなに、話を振られたジンは首を振った。



「いや、よく言ったと思うぞ。
 むしろ、オレ達の言いたいこと全部言われた、ってくらい」

「オレ達が、口をはめなかったほどだしな」



 イクトさんも同意して……うんうんとうなずくのはいぶきだ。



「せやね。ホンマなっちゃんはよう言うた。
 人の話を聞こう思う姿勢の人間ひとが霞ノ杜にひとりできただけでも今回の任務しごと、十分な収穫や」

「ちょっと……まるでアタシがどこまでも強情みたいじゃない」

「少なくとも、出逢った当初はそうだったな」

「あたしだって学習するわよっ!」



 ツッコむマスターコンボイに言い返して、なずなは龍神へと視線を戻していぶきに告げる。



「それに、『収穫』って言うのはまだ早いわよ。
 コイツをまず、なんとかしなきゃ」

「せやね。
 けど、頭に血ぃ上った荒魂にはやっぱ言葉は届かへんみたいやね……」

「まぁ、そこはいいだろう。
 オレ達は話し合いのためにコイツを取り押さえろと言われているだけだからな。
 話し合いは、郷で待っている話し合い要員に任せればいい」

《話し合いだと……?
 そんな余地が、あると思うてかっ!》



 マスターコンボイに言い返し、龍神が空気を振るわせる勢いで咆哮する。



《もうたくさんだ!
 貴様達を倒し、思う存分に我は自由を謳歌する! 人間がどうなろうと知ったことか!》



 高ぶりきった龍神が、僕らに向けて尻尾を叩きつけてくる――散開っ!



「やれやれ、結局こうなるか!」

「たまには、普通に話し合いで完結ってないもんかね!」



 イクトさんに答えて、視線を周囲に走らせる。



 龍神のガタイは全長でだいたい20mってところ。とぐろを巻いて、頭をもたげた状態で全高6mくらい……かな?



 そのくらいのサイズだと、マスターコンボイのロボットモードの出番だ。僕なりジンなりいぶきなり、誰かとゴッドオンして……







「悪いな、恭文!
 今回は、お前らとのゴッドオンはなしだ!」







 って、マスターコンボイ!?



 僕に答えて、マスターコンボイはヒューマンフォームのまま龍神の尻尾をかいくぐり、目的の相手と合流する。



 その相手っていうのは……







「いくぞ、雷道なずな!」

「あ、あたし!?」







 なずな!?







「あ、あたしゴッドマスターじゃないんだけど!?」

「未覚醒なだけかもしれないだろう!
 いぶきができたんだ! とりあえずやってみろ!」



 もっともな反論を返すなずなだけど、マスターコンボイはなんかムチャクチャ言いながらロボットモードに戻って、



「というか、できなくたって意地でもやれ!
 この戦い、幕を引くべきは霞ノ杜の巫女である貴様だろうが!」

「………………っ」



 …………そうか。

 マスターコンボイの考えてることが、なんとなくわかった。



「……そうね。
 先輩達の“不始末”は……あたしがケリをつけなくちゃね!」



 僕と同じことを感じたらしい。なずなも気を取り直して槍をかまえる。



「えっと……やっちゃん、どういうこと?」

「つまり、マスターコンボイはなずなに今回のケリをつけさせてやりたいんだよ」



 龍神の注意は、ロボットモードとなったマスターコンボイに向いてる――合流して尋ねるいぶきに、僕が答える。



「今回の一件は、氷室山の事件が引き金になったようなものだからね」

《霞ノ杜と龍杜、双方の巫女がぶつかったこと自体は方針の違いですから、仕方のない部分はあります。
 しかし、その後“やりすぎた”のは明らかに霞ノ杜の落ち度です。結果、龍宮小夜は龍神と契約し、その復活のために暗躍することになり、今回の事態につながった……
 霞ノ杜によって起こされた一連の事態に、マスターコンボイは霞ノ杜の手で決着をつけさせようとしている――そういうことです》



 そして、マスターコンボイはなずなとゴッドオンすることでそのための“力”になろうとしてる……



「安心しなさい、マスターコンボイ!
 たとえゴッドオンできなかったって、下がって見てたりしないから!
 霞ノ杜の引き起こした事態は、霞ノ杜が始末をつけるわよ!」

「よく言った、雷道なずな!」



 僕らの見ている前で、言葉を交わすマスターコンボイとなずなに“力”がみなぎって――






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やらなくちゃいけない。



 ただ純粋に……そう思った。



 先輩達が小夜さんを殺したことで、小夜さんは龍神と契約して今回の一連の事態を引き起こした……今回の事件の発端がアタシ達霞ノ杜神社にあると知った時、決着はアタシがつけるべきだと思った。

 先輩達と同じ、霞ノ杜神社の巫女であるアタシが……



 ただ……あきらめるしかないとも、思っていた。



 アタシの力じゃ、龍神には太刀打ちできない。龍神を止めるには、みんなと力を合わせなきゃ絶対にムリ。



 “霞ノ杜が決着をつける”ことにこだわっちゃいけない。アタシ達は郷を守るのが最優先。そのためにみんなで龍神を止める……そう決めて、この最後の戦いに赴いた。







 けど……マスターコンボイは、『アタシの手で決着をつけろ』と言ってくれた。



 そのための力になってくれるって、言ってくれた。







 だから……絶対に、やってみせる!









『ゴッド――オン!』









 その瞬間――アタシの身体が光に包まれた。強く輝くその光は、アタシの身体からあふれ出すとアタシの姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで大きくなって、その身体に重なり、溶け込んでいく。

 同時、マスターコンボイの意識がその身体の奥底へともぐり込んだのがわかる――代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したアタシの意識だ。



《Punisher form》



 この身体のメインシステムが告げ、マスターコンボイのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように銀色に。

 そして、ひとつとなったアタシとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。







《双つの絆をひとつに重ね!》

「討つべき敵は逃がさない!」



「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」







(最終話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!



恭文「いやー、いよいよ最終決戦だねー。
 マスターコンボイとのゴッドオンを譲ったんだから、なずなにはがんばってもらわないと」

アルト《そうですね。
 なずなさんにはぜひがんばってもらわないとダメですね。
 何しろ、マスターが最終決戦の主役の座を譲ってあげたんですから》

恭文「………………あ。
 そうだよ! これがラストだっていうのに、何場の空気に流されて最大の見せ場譲ってるのさ、僕!?
 なずなぁーっ! かむばぁっくっ!」

アルト《いいじゃないですか。最終戦に“いるだけ主人公”というのもたまには》

恭文「いや、良くないよねっ!?
 誰だよ、このシリーズの主人公は!?」





最終話「神楽 舞う 巫女」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「……と、いうワケで、作者が『1クールでまとめられるだろうか』と戦々恐々としながらもなんとか1クールで片づくことができそうな『とま休』も次回で最終話だ」

オメガ《……の割には、未だイメージ主題歌の投稿がされていない気がしますが》



(ブースの外で誰かが倒れる音)



Mコンボイ「あ、作者が血反吐吐いて倒れた」

オメガ《忘れてたならともかく、あの人毎週それで凹んでましたからねー。
 『あー! 今週もイメージ主題歌できなかったーっ!』って》

Mコンボイ「また難儀な……
 しかし、次回で『とま休』が終わりということは、次回でいぶきや雷道なずな達は離脱か?」

オメガ《少なくとも、大賀温泉郷に在住のみなさんは再びこの地が舞台にならない限り出番は難しいでしょうね。
 それぞれの場所に帰っていくメンバーはまた再登場の可能性はありますね。というか……》

Mコンボイ「何だ?」

オメガ《作者、次の『電王』クロス編でいきなりミス・いぶきとミス・なずなの再登場の口実を考えてたりしますよ》

Mコンボイ「はぁ!?
 アイツら、地球が縄張りだろう!? ミッドが舞台の『電王』クロス編でどうやって出てくるって言うんだ!?」

オメガ《気になりますよねー。
 地球からどうやって『電王』クロス編の事件に巻き込まれることになるのか。
 そしてミス・いぶきやミス・なずなが六課に来たら、ボスやミスタ・ジンを巡りどんな修羅場が繰り広げられるのか》

Mコンボイ「いや、最後のひとつはいらんからな!?」

オメガ《読者は楽しみにしていると思いますけどねー。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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