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頂き物の小説
第11話「荒魂(あらみたま) と 和魂(にぎみたま)」



「オォォォォォッ!」







 咆哮し、龍神が斬りかかってくる――が、遅い!







「甘いで!
 はぁっ!」







 オレの身体にゴッドオンしているいぶきはあっさりとさばいてカウンター。龍神の振り下ろしてきた刃をオメガで受け流すとその流れで身をひるがえし、水平に振るったオメガで龍神に一撃を叩き込む。







「ぐぅ…………っ!
 なめるなぁっ!」







 吹っ飛ばしはしたがそこは龍神。すぐに立て直してきた。オレ達に向け、エネルギーの――おそらくは霊力か妖力の光弾をばらまいてくる。



 光弾はオレ達の周囲を飛び回り、包囲する。ここはオレに代わって、ハウンドシューターで――







「ううん、大丈夫や、まーくん!
 この身体やったら、たぶんなんとかなる!」







 交代しようとしたオレをいぶきが止める。オメガを逆手に持ち直し、切っ先を地面に向ける形で目の前に掲げ、







「いくで! 灘杜流退魔剣術――起震!」







 それを大地に突き立てた。オレの身体で増幅され、オメガを通じて地面に流し込まれたいぶきの霊力が大地を伝うように広範囲に放たれ、衝撃波となって龍神の光弾を薙ぎ払う。



 そのまま、距離を取り続けている龍神に向けて順手に戻したオメガを振りかぶり、







「続けていくで!
 激流閃!」







 放ったのはオレ達で言うところの砲撃魔法。力任せに解き放たれた霊力が龍神に襲いかかり、その名の通り激流の如く押し流す。







「ば、バカな……っ!
 龍神たる我が、この程度の者達に!」







 よほどオレに……というかいぶきにいいようにやられているのが腹に据えかねたらしい。見るからに怒りに燃えて、龍神がこちらに突っ込んでくる。







 防御しようとオメガをかまえるいぶきだが――







《代われ、いぶき!」



「まーくん!?》







 ここはオレの出番だ。ムリヤリいぶきと交代して龍神と対峙して――





















 龍神の刃を、防御もせずにその身で受けた。





















「ちょっ、マスターコンボイ!?」







 戦いを見守っていた恭文が声を上げる。まぁ、一度ヤツにぶった斬られているからな、再現を予感してしまう気持ちはわかるが――











「安心しろ。
 先の一撃のリベンジは……無事達成だ!」











 恭文に告げるオレの装甲で、龍神の刃は止められていた。



 防御すらも必要とせず、ただその装甲の強度だけで。







 そう。これがこのフォーム、“ガーディアンフォーム”の真骨頂。



 “guardian”転じて“guard”――すなわち“防御”。突撃戦に耐えうるべく防御力“にも”ソースを割り振ったウィンドフォームやストームソースとは違う。完全に防御力“のみ”に重点を置いた、防御特化フォームなのだ。



 戦いは二の次。まず何よりも“護る”ことを第一に……まったく、実にいぶきらしいフォームだな。







「どうした? 龍神。
 ご自慢の刃は、その程度の斬れ味か!」







 まぁ、いつまでも防御力自慢をしていてもしょうがない。龍神に向けて言い放ち、オメガで思い切り斬りつける。



 さらに、バインドをかけて龍神の動きを封じる。いつもならバインドなぞ使わんが――







「決めろ、いぶき!》



《ありがとな、まーくん!」







 フィニッシュを任せたいぶきに、ここ一番を外されてはたまらんからな!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「《フォースチップ、イグニッション!》」







 ウチとまーくんの咆哮が交錯して――ウチら二人のもとにミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、まーくんの背中のチップスロットに飛び込んでいく。

 それに伴って、ウチが宿るまーくんの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。



《Full drive mode, set up》



 ウチらに告げるんはまーくんのボディであるトランステクターのメイン制御OS――同時に、イグニッションしたフォースチップのエネルギーがウチらの全身を駆け巡ったんがわかった。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出し始める。



《Charge up.
 Final break Stand by Ready》




 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中で、制御OSが告げる――右半身を大きく引き、かまえためーちゃんの刃にフォースチップのエネルギーが集中していく。

 そして、ウチは思い切り地面を蹴った。空中で身をひるがえして、まーくんの魔法で動きを封じられた龍神さんへと跳んで――



「灘杜流退魔剣術――奥義!」





「《龍鳴斬!》」





 小細工も何もなし――まーくんの魔力、ウチの霊力、フォースチップのエネルギー、全部を込めためーちゃんで、龍神さんの宿る龍神皇を思い切りぶった斬った。











『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説



とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記



第11話「荒魂あらみたま と 和魂にぎみたま






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 マスターコンボイといぶきの手によって、龍神皇は真っ二つ。



 その機体から放り出されて、龍神は自分の宿る龍宮小夜の肉体ごと地面に倒れ込んだ。



「くっ……まさか、これほどの力を秘めていたとは」

「ここまでや、龍神さん。
 悪いけど、鎮まってくれへんかな」



 そんな龍神の前で、いぶき達はゴッドオンを解除。いぶきが龍神に勝利宣言を叩きつけるけど――



「そうは、いかん……!」



 そんないぶきの降伏勧告を、龍神は真っ向からはねのけた。

 そのまま、僕らから距離を取るように一旦離脱する――アイツ、まだ動けるのか!?



 僕らから距離をとった龍神は、僕らをギロリとにらみつける。

 まだまだやる気みたいだけど、その視線は“僕ら”を見ていると言うより――って、まさか!?







「ヤバイわ、いぶき! アンタが狙いよ!」







 今回ずっと戦意喪失状態で後ろに控えていたおかげで気づけたんだろう。僕よりも早く、なずながいぶきに向けて叫ぶのが聞こえた。







「え……」







 だが、それよりも龍神の方が早かった。一気に間合いを詰めた龍神の、長く伸びた爪がいぶきを斬り裂こうと振り上げられる。







「コレでも喰らえ……!」



「ぅわっ……!?」



「いぶき!?」







 いぶきはとっさに武器で防御しようとする。マスターコンボイも、そして僕らもフォローに動く。



 けど、誰も間に合わないのがハッキリとわかる。そのくらい、タイミング的には絶望的だった。







 僕らの誰の手も届かないまま、龍神の爪がいぶきに向けて振り下ろされて――











「何っ!?」

「え…………?」











 止められた。



 いぶきを狙った龍神の爪は、いぶきに届く寸前で見えない障壁に阻まれていた。



 と言っても――いぶきが何かしたワケじゃない。むしろ、本人が一番戸惑っている。







「くぅっ……何故だ! なぜ、我の攻撃が通じない!?」







 龍神がうめいた、その時――いぶきの懐から、ひとつの折鶴が地面に落ちた。



 ……って…………







「あー、アルト、僕の目の錯覚かな?
 なんかあの折鶴が、ピカピカ光ってるように見えるだけど」

《錯覚ではありませんよ。
 私にもそう見えます。実際にピカピカ光ってますよ、アレ》







 そうかそうか。僕の見間違いじゃなかったか……で、何アレ!?







「原因はこれか……!?」









 ワケがわからない僕らをよそに、何か気づいた龍神が、折鶴を拾って急いで後退する。



「ど、どういうこと!?」

「これこそ、龍宮小夜の和魂にぎみたま……貴様達を殺しきれなかった理由よ!」



 いぶきに答えて、忌々しげに龍神は、手の中の折鶴を見た。

 つか、和魂って……



《神様の穏やかな側面……転じて良心的な部分ですね》



 そう、それそれ。

 でも、その和魂が、なんであんな折鶴に……?



「……そうか」



 首をかしげる僕らをよそに、なずなは真っ先に気づいたようだった。



「え、何、なっちゃん?」

「3年前の氷室山事件で、龍宮小夜は守るべきモノを守りきれず、失意の中で命を落とした。
 そして怒りの中で龍神と契約した……それが、荒ぶる龍宮小夜の荒魂あらみたま。目の前の彼女なのよ」



 なずなの言葉を引き継ぐように、龍神も口を開く。



「だが、怒れる龍宮小夜の中にも、目的のために人を犠牲にすることを躊躇ちゅうちょする心もわずかに残っていた……
 そのわずかな和魂が、この折鶴……」

「……要は、アンタを止めてほしいって願う、もうひとりの小夜さんみたいなモンか」

「そうなるな」



 いぶきの言葉に、龍神が答える――そうか。そういうことか。



 前に常世で龍宮小夜から聞いた話……あの時に感じた違和感、その正体がわかった。



 あの時、龍宮小夜の語った内容からは、それまでは善妖を護って懸命に戦っていた彼女が、蘇生したとたんに復讐を楽しむ残虐性をあらわにしたように感じた……けど、今の話で納得した。

 何しろ、龍神と契約して蘇生したのは、荒魂だけ。良心である和魂はどういうワケか龍宮小夜から弾き出されてしまっていたんだ。それまで彼女の行動指針となっていた良心が抜け落ちてしまったんじゃ、人が変わって当然だ。



「そういうことだ。
 道理でこの肉体と完全に同調できなかったはずだ。和魂の分、契約が不完全だったようだ。
 だが……っ」



 納得する僕らの前で、龍神はその手の中で折鶴を握りつぶした。



「これで、この肉体は我の完全なにえとなった……我の勝ちだ、人間ども!」



 龍神の勝ち誇ったような笑みと共に、大地が激しく揺れ始める。

 龍宮小夜の肉体が限界を迎えたのだろう。龍神は笑いながらその場に倒れ伏した。



「や、やばっ……これまでで、一番大きいぞ」



 うめいて、ジュンイチさんがその場に踏ん張って――そんな僕らをよそに、いきなりいぶきが駆け出した。



 その先には、倒れた小夜の身体が――って、何するつもりなのさ!?



「決まっとるやん! 小夜さんの身体を回収するんよ!
 このままみっちゃん、小夜さんにぜんぜん会われへんまま、生き別れになんかできへんやろ!」

「ムチャ言わないでよ!」



 そんないぶきを止めたのはなずなだった。いぶきの腰にしがみついて、いぶきの動きが鈍る。



「足場がどんどん悪くなってきてるのよ!? 死ぬ気なの!?」

「せ、せやかて……!」

「アンタまで死んだら、アタシが説明に困るのよ! 言うこと聞きなさい!」



 なずなの言う通りだ。地震はなおも続き、地面のあちこちに亀裂が走り始めている。

 裂け目に落ちたら、ケガではすまないだろう。そんなところに、いぶきを行かせられるワケがない。



「でも、小夜さんが!」

「あぁ、もうっ! わかったから!」



 なので――



「なずな! いぶきをお願い!」

「って、恭文!?」



 いぶきの代わりに僕が行く。いぶきをなずなに任せて、僕は駆け出した。

 そのまま飛行魔法で地面スレスレを飛んで、龍宮小夜の肉体に向かう――走っていくのはもうムリだけど、飛べばまだ、なんとかなるかも……っ!



《マスター!》

「ぅわっと!?」



 甘かった。割れた大地が跳ね上がって、僕の行く手を阻む。アルトが教えてくれなかったら、今ごろ正面から激突してた。



 そして――ここで動きを止めたのが致命的だった。地面の崩壊はいよいよ絶望的になって、龍宮小夜の肉体はそまま地割れに呑み込まれていってしまった。



「間に合わなかった……っ!」

《マスター、悔やむのは後で。
 今は……》

「うん」



 アルトの言葉に、すぐに意識を切り換える。



 そうだ。龍宮小夜の肉体を回収できなかった以上、もうこの場に長居は無用。さっさと撤収しなきゃ、飛べないメンバーが危ない。



「ジュンイチさん、イクトさん、ジンとなずなをお願い!
 マスターコンボイはいぶきを!」

「任せろ!」



 マスターコンボイが答えて、いぶきを抱えて上空に飛び立つ。一方でジュンイチさんもなずなの、イクトさんもジンの手をとって飛び立つ。



 来る時にも苦労したけど、相変わらず上空は妖気が渦巻いて乱気流がひどい。けど、あのまま地上で地面に揺さぶられているよりは――







「――あかん! 間に合わへん!」







 ――いぶき!?







「何がだ!?」

「まーくん! 上昇して!」

「正気か!?
 上に行くほど気流の乱れがひどいんだぞ! 吹き飛ばされたいか!?」

「それでもえぇから!
 真下から来る!」



 真下……!?



「だから何がだ!?」



 尋ねるマスターコンボイに対して、いぶきは答えた。



「せやから――」





















「龍神の本体の復活や!」





















 その瞬間――地の底から、巨大な“何か”が噴き上がった。



 突風のようなそれはうねりを上げて凝縮して、気体が一気に固体へと変質する。







 やがて長い蛇状になったそれは山頂に巻きつくようにして、とぐろを巻いた。



 そう――











「あれが……龍神の、本体……っ!」











 思わずうめく僕に向けて、さらにものすごい突風が叩きつけられた。



 龍神の本体が出てきたことで、上空の乱気流がますますひどくなってきてる。ここまで飛んできた時の風がそよ風に思えてくるくらいに。



 これ以上空中にいたら危ない――かろうじて山の岩肌に着地できたけど、問題はここからだ。



 何しろ――まるで霊山を自分のイスみたいにしてとぐろを巻いている龍神を、これからどうにかしなきゃならないワケで。



「やれやれ。またデカブツの相手か……
 ユニクロンなんかを相手にした経験があると、どうしてもアレよりマシに思えてしまうが……」

「現有戦力でどうにかできる相手じゃないって意味では、ユニクロンと大差ないぞ、アレは……っ!」



 マスターコンボイとイクトさんが、龍神を見上げてうめく――確かに、僕もアレを相手にどうやってブッ飛ばすのかって聞かれたら……



《マスターにはムリでしょうね》

「ハッキリ言うねお前もっ!」

《グランドマスターでも、まともにやって勝つのは難しいでしょう。
 もっとも、まともにやらずに勝つでしょうけど》

「正攻法では勝てない、ってことか……」



 問題は、どう“まともじゃなく戦う”か、ってことか……



「お約束で言うなら、弱点、っつーかコアをブッ飛ばして片づけるところなんだけどな。ミッドでユニクロンをみんなで倒した時みたいに」

「で……コア、どこ?」

「わかんないよねー……」



 ジュンイチさんとジンも、龍神を前に乾いた笑いを浮かべてる――そしてそれはいぶきやなずなもだ。



「……ど、どうしろっていうのよ、こんなバケモノ」

「いや、震えるんはえぇんやけど、それよりもなっちゃん……」

「ふ、震えてなんかないわよ!? 何言ってるのよ!」



 言い返してくるなずなを、いぶきはスルーした。

 というか……答えてられないって感じだ。どうしたのさ?



「あのな、やっちゃん……」











「……龍神さん、ウチら見てへん?」











「………………えっと」



 言われて、目の前の龍神に視線を戻してみる。



 ………………

 …………

 ……



「見てる……ね」

「やっぱり?」

「そりゃ……いぶきとマスターコンボイ、贄である龍宮小夜の肉体と一緒に、龍神も一回やっちゃってるし」

「恨んでて、当然?」

「そういうこと」



 いぶきと、半ば現実逃避気味にしゃべり合えたのもそこまでだった。







「ガァァァァァァァァァァッ!」







 地響きまで起こすすまじい咆哮を上げると、龍神は大きな口を開き、僕らを食べにかかる……って、ちょっと待て!



「にしても、ちょっと大人げないと思わへん!?」

「こんなの勝てるワケないじゃない!」

「ジュンイチさん、作戦提案! 戦略的撤退!」

「異議なしっ!」



 迫る大口に、いぶきとなずな、そして僕とジュンイチさんが叫び、全員で山を駆け下る。

 しかし龍神の巨体が相手では、僕らの走る速度は蟻の行進も同然。龍神の開いた口が徐々に迫ってくる。



「くそっ、やっぱ飛べないのが痛いっ!
 地上を走る速度って意味じゃ、こっちはとっくに全速力なんだけどねぇっ!」

「いや、あきらめるのはまだ早い!」



 いぶき!?



「何か方法が!?」

「今考える!」

「今から!? 目の前に牙が迫ってるんだけど!?」

「やっぱあかんかーっ!?」



 騒ぐ僕といぶきをよそに、龍神がいよいよ僕らを喰らおうと口を開いて――











 ………………え?











 突然、後ろから響いていた咆哮が止まった。



 振り向いてみると――え?



「龍神……止まってる?」



 そう。なずなのつぶやいた通り、僕らに向けて大口を開けたまま、龍神が動きを止めていた。



 そして――











 僕らの間で、ねじれ曲がった折鶴の残骸が浮いていた。











「……ちょっといぶき、いつの間にそれ拾ってたのよ?」

「い、いや、ウチちょっと覚えないんやけど」



 尋ねるなずなの言葉に、いぶきが答える――じゃあ、マスターコンボイとか?



ロボットモードのオレの手で、そんな小さなものを拾うことができると思うか?」



 ……ムリだよね。



 首をかしげる僕らにかまわず、いぶきは宙に浮いていた折鶴それを手に取っていた。



 っていうか……



「それ、どんどん光強まってない!?」



 もはやまぶしくて目も開けていられない。



 僕らの正面の視界は、ほぼ真っ白に染まっていた。



「それもあるけど、龍神さん、口だけやのうて全身の動きがまるで縫いつけられたみたいに止まっとるんよ。
 まさか、小夜さんの和魂が残ってたん!?」

「知るか、そんなの!」



 いぶきに答えて、マスターコンボイが彼女の手を取って走り出す。



「またヤツが動き出す前に距離を取るぞ!
 この場をしのぎはしたが、今の戦力ではヤツに太刀打ちできないことを忘れるな!」

「せ、せやなっ!」



 いぶきやマスターコンボイに続いて、僕らも全速力で撤退を開始した。

 もし今、龍神に襲われたらひとたまりもないけど……その時はその時だ。



「……けど、どないなっとるん?」



 マスターコンボイに手を引かれながら、いぶきは、もう一方の手に握る折鶴の残骸を胸元にしまおうとして――





















「どうやらまにあったようですねっ」





















 元気のいい声が聞こえた。



「なぁ……まーくん、今何か言うた?」

「今ムダ口叩く余裕なんてあると思うかっ!?」



 いぶきに答えるマスターコンボイだけど……うん、僕にも聞こえた。







「のこった力をぜんぶふりしぼって、龍神りゅーじんをこの地にくぎづけにしましたから、しばらくは大丈夫でしょう、うんっ!」







 ………………うん。



「……やけに具体的な空耳が聞こえる」











「そらみみじゃありませんよ?」











 声が僕に答えると同時――ひょこっといぶきの胸元から、小さな何かが現れた。



『なぁっ!?』



 驚く僕らの前に現れたのは――







「どうも、はじめまして。龍宮小夜、のにぎみたまです。
 みなせのところまで連れてってくださいな」







 龍宮小夜そっくりの、“何か”だった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 オレ達は別に、この郷で生まれ育ったワケではない。

 だが……今は、ようやく長い道程を経て故郷に帰ってこられたような安堵感があった。



「……や、やっと戻ってこれたなぁ……」

「……そうね。
 でも、いぶき、神社に戻るまでが遠足……じゃない、探索よ」



 いや……雷道。そのたとえはどうかと思うぞ。



 それに、そういう貴様自身、もういつぶっ倒れてもおかしくないほどフラフラじゃないか。







 もっとも……オレ達も余力はほとんど残っていないがな……蒼凪やフレイホークはもちろん、体力の塊のような柾木やマスターコンボイもヘトヘトだ。



 まさか、今さら“逃げる”ためにここまで必死になるようなことになるとはな……まだまだ、上には上がいるということか。







「とにかく……神社に戻ろうぜ。何をするにしても、まずはそこだ」



 フラフラになりながら、柾木が神社に向かおうとすると、正面から龍宮が駆けてきた。



「みんな!」

「あ、みっちゃんただいまー」



 力なく、手をヒラヒラ振る嵐山。



「疲れたわ……今回は本当に疲れた……でも、報告しないと……」

「う、うん。
 でも、こんなところで立ち話もなんだし、一旦神社で話を聞こう」



 雷道に答え、龍宮がオレ達を神社にいざなおうとするが……嵐山。



「あ、せやね。
 あー、みっちゃんに紹介せなあかん人……ヒト?」



 嵐山が止まった気持ちはわかる。オレも、あれを人と分類していいのかどうか、正直迷う。



「人かどうかは微妙やけど、とにかく会わせなあかんヒトがおんのよ」

「え? 誰?」

「待ってな、今出すから」



 そう言って、嵐山は胸元をゴソゴソとし始める――ので、オレはあわてて視線をそらす。



「……だ、『出す』?」

「うん。
 ほな、よろしゅう」



 嵐山は、胸元から小さな龍宮小夜を出した。



「みなせ、ひさしぶりですね」



 ふわふわと宙に浮き、や、と龍宮小夜(小)は手を挙げた。



「……え」

「あら、わたしのかお、わすれちゃいました?」

「ね、姉様!?」



 絶句しながらも、龍宮は声をふりしぼった。



「はい。あなたのあねですよ」



 頭痛をこらえるように、手で額を抑える龍宮。

 その気持ちはわかる。よーくわかる。



「いや、ちょっと待って。
 その、いろいろツッコみたいことはあるんだけど……」







「なんで、そんなに縮んじゃってるの!?」







 あぁ、まずそこだよなぁ……



「まぁ、その話もしなくちゃだめですよね」



 龍宮小夜(小)がひとり納得し、そうつぶやいた、その時だった。





















「………………ヤスフミ、イクトさん」





















 ………………あー、蒼凪?



「うん、イクトさん。僕らそうとう疲れてるみたいだね。
 なんか、ここで聞くはずのない声が聞こえた気がするけど、うん、気のせいだよね?」



 そうだよな。気のせいだy












「気のせいじゃないよ」











 ――テスタロッサ!?



「フェイト!?」

「私もいるわよ」

「オイラもーっ!」

「クイントさん!? ブイリュウまで!?」



 オレ達だけではない。柾木からも驚きの声が上がる――バカな、テスタロッサにクイント・ナカジマ、ブイリュウだと!?



 なぜ、この3人がここに現れる!?



「ユーノが教えてくれたの。
 ジュンイチさん達が知らない子と一緒に調査に来た。何か事件に巻き込まれてるかもしれない……って」



 ……あ、あれかぁぁぁぁぁっ!



「あ、あの影薄フェレット……作者に出番がもらえない腹いせに、オレ達を吊るし上げ展開に売りやがった!?」



 同じくとなりで頭を抱える柾木だったが――







「ふーん……そうなんだ」

「つまり、オイラ達に吊るし上げられるような心当たりがあるってことだよね?」

「………………あ」



 あ、柾木が捕まった。







 とりあえず、ここは柾木を生け贄にして、オレと蒼凪は……







「ヤスフミ、イクトさん」







 オレ達、は……











「説明……して、くれますよね?」











 ………………はい。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 拝殿に戻って、小一時間。



 経験したことをみなせに報告し終えたところで、そのままいぶきとなずな、それからジンとマスターコンボイがブッ倒れた。



 数時間ほどして、みんなが回復し、みんなそろった時点で、会議が再開された。







 …………はい? 僕達?







 僕とイクトさんはフェイトに、ジュンイチさんはクイントさんとブイリュウに、今までのことを洗いざらい吐かされておりましたが、何か?







「…………妖怪に、龍神……」

「さっきの地震は、そういうことだったのね……」

「事情を話せなかった理由は、今話した通りだよ」

「敵の一派の狙いは女性から抽出した精気。野良妖怪にとっては、女性は精気を奪うだけでなくさらに子孫を残すための母体にされる。
 女所帯の機動六課に報告するのをためらった気持ちは、察してもらいたいものだな」



 つぶやくフェイトやクイントさんに、僕とイクトさんが告げる……うん。どうしてもためらわれたの。



 だって、女の敵な連中だもの。絶対怒るもの。ヘタしたらそろって乱入してきそうな気がしたのよ、うん。



「そ、そんなことないよ!?
 私達だって、管理外世界の事件にそんなことできないことくらいわかってるよ!」

「柾木とギンガの大ゲンカや八神とアコースの一件であれだけブチキレておいて、信用してもらえるとでも?」

「……ごめんなさい」



 イクトさんにツッコまれて、フェイトが縮こまる……とりあえず、そういうことで、みんなに話さないのが一番波風を立てないですむな、ってことになったの。わかってくれるとうれしいな。



「それで……とりあえず、その“女の敵”どうこう、って状況は、もうなんとかなってるんだよね?」

「あぁ。
 敵の精気集めも終わったし、野良妖怪の方も龍神一派を恐れておとなしいもんだ」



 尋ねるブイリュウにはジュンイチさんが答える。ただし渋い顔で……まぁ、何ひとつ安心できる状況じゃないからなぁ。



「問題は……」

「完全復活した龍神、だよね……」



 ジュンイチさんの言葉にフェイトが考え込む……確かに、一番の元凶であるアレをどうにかしないと事件は解決しない。

 ただ……どうすりゃいいのさ、あれ?



 考え込む僕らの前で、フェイトとクイントさんは何やら視線を交わして……あの、まさか。



「うん。
 ヤスフミ……私達も手伝うよ」

「龍神をなんとかしないと、この町が大変なことになるのよね?
 管理局員である以前に、人として放っておけないわ」



 …………やっぱり。











 そんなワケで、この場にはフェイト達もいる。一気に大所帯になった拝殿の対策本部で、みなせがせき払いする。



「それじゃあ……フェイトさん達への説明も済んだところで、姉様、説明してもらえる?」

「もちろん。
 そのために大きな胸にはさまれて、ここまで運んでもらったんですから」



 言ってチビ小夜さんが見るのはもちろんいぶきだ。



「えへへ。乗り心地はいかがでした?」

「なかなか快適でした」

「……どうせ、アタシの胸じゃ挟めないわよ」



 まだ疲れが残っているのか、なずなまでボケ始めた。



「いや、そんな話は割とどうでもいいから」

「どうでもいい!? アタシは真剣よっ!
 フェイトさんとかクイントさんとかも大きいしっ! 龍宮小夜だって大きかったわよね!? なんでアタシとみなせだけ取り残されてるのよっ!?」



 ツッコむジンになずながかみついてる――いや、気にしてることはわかったから、話題そのものがズレてることに気づいてくれないかな? あと、巻き込まれたみなせも自分の胸元見てため息つかないで。



「あー、話を戻して。
 姉様、龍神の方の話を」

「あぁ、はいはい。そうでしたね。
 だいたいのところはさっき、いっちゃんなっちゃん達が説明してくれたように、龍神がのっとっていた大きい方のわたしが、あらみたまです」



 そのチビ小夜さんの言葉に、なずなは疲れたように口元を引きつらせた。



「……その、いっちゃんなっちゃんっての、やめてくれない?」
 芸人じゃないんだから」

「いいとおもいますけど?」

「ウチもえぇと思うで?」

『ねぇ?』



 あー、なずな。あきらめようか。

 いぶきひとりですら止められなかったモノを、二人に増えられた状態で止められると思う?



「……それでもやめて。
 それで話を戻すと、アンタは龍宮小夜の和魂だと」

「はい。
 まぁ、氷室山事件の時のてんまつですけど、かすみのもりの人達のきもちもわからないでもないでしたし。
 かすみのもりの巫女さん達は、そのおおくが事件のひがいしゃなんです。妖怪にたいして、きびしくあたるのはムリもないんですよ。ね、なっちゃん」

「……アンタにまで、なっちゃん呼ばわりされたくないんですけど」

「こまかいことはなしにしましょう」



 なずなを笑顔で一蹴すると、チビ小夜さんは難しい顔でため息をついた。



「と言っても、りかいはしてても、なっとくはいきませんでしたよ、もちろん。
 なにしろ、そうした事情はりかいしてても、たすけようとしてたようかいはぶち殺されるは、わたし自身もぞうもつまき散らして、がけからつきおとされましたからねー」



 自分を殺した彼女達の妖怪殲滅せんめつ派としての立場は理解できる。

 けど、他人事ならともかく、彼女自身殺された当事者なんだ。

 それに無害な善妖達を守れなかった無念もある――理解できても納得いかない、とチビ小夜さんが言っているのは、たぶんそういうことだろう。



「怒るなって方がムリでしょ? おかげで力の大半はあらみたまに持っていかれてたんですよ」



 それでも、理解の部分は残った。怒りに燃える魂の中でわずかに残る理性の欠片、それが今の龍宮小夜、チビ小夜さんなんだ。



「幸い、みなせがこの土地にきてくれたこともあり、折鶴にやどることもできました。
 まぁ、できたことといえば常世とこよまでみちびいたり、みなさんを龍神からまもったり、ていどですけど」

「あ…………」



 チビ小夜さんの言葉に、思い出す。



 初めて荒魂の方の龍宮小夜と出会った時、彼女が言っていた。







『そう……その折鶴が、あなた達をここまで導いたのですね』







 あの時から、チビ小夜さんはさりげなく僕らを誘導してくれていたのか……



 じゃあ……



「……ほんなら、常世から逃がしてくれたのも」

「それも、わたしです。すごいでしょう」



 いぶきの言葉にチビ小夜さんが胸を張る……やっぱり、そういうことか。



「それはそれは、ありがとうございます」

「どういたしまして」



 いぶきに続く形で、僕らもお礼を述べる。

 フェイト達も、僕らを助けてくれたってことでお礼を言って……さて、なずな。



「わ、わかってるわよ。
 ……まぁ、礼だけは言っておくわ。ありがと」

「ツンデレですね」

「うっさいわよ!
 っていうかイメージ狂うわね! いぶきやみなせの話聞いてる限りじゃ、もう少しマジメな人じゃなかったの!?」



 あー、なんだかいぶきがもうひとり増えたような気がする。

 そういえば、いぶきは小夜これに憧れて巫女になったって話だよね? ひょっとしたら、知らず知らずの内に性格まで似てしまったのかも。



 で……そのチビ小夜さんは真剣な表情で、みなせを見ていた。何を言うかと思ったら……



「みなせ、わたしのせんたくものを、ぜんぶ、みなせが洗ってたことはいっちゃダメですよ。イメージがくずれます」

「……何かいろんなモノが台無しだわ」



 ……ホントにね。



 僕としても、できればこれ以上、ボケ役は増えてほしくないんだけど。



 ただ……まだ、疑問は残ってる。



「でも、だったらもっと早く教えてくれればよかったのに」

「せや。
 そしたらやりようもあったんちゃう?」



 そう。

 今の話からすると、チビ小夜さんはみなせがこの郷に来た時から活動していたはずだ。

 それなのに……どうして今の今まで僕らの前に姿を現さなかったのか。



 事件のほぼ全容を知っていたチビ小夜さんがいたなら、そして最初から忠告してくれていたなら、事件はもっと早く解決していたかもしれない。

 いぶきとみなせが言いたいのは、そういうことだ。



「そうしたかったのは山々ですけど、わたしのことをおしえると、あらみたまと龍神が真っ先に封じようとしちゃうじゃないですか」

「あ……そういえば。
 龍神は言っていたな。『和魂の分だけ、契約が不完全だった』と。
 その和魂がここにいるとわかったら……」



 マスターコンボイがポンと手を叩いて納得する……なるほど。そうなったら、荒魂の龍宮小夜は精気集めを放棄してでも、まずこの郷を襲っていただろう。

 僕らはともかく、まだここに来たばかりの頃の、まったくの新人だったいぶき達やみなせでは、荒魂の龍宮小夜に抗う術はなかったはずだ。



「だから、わたしはかぎりなく存在をうすくして、いっちゃん達のこうどうにかけていたのです」



 「まぁ、“たられば”を語ればキリがない」とも付け加えるチビ小夜さんだった。



「……ごめんな、期待に応えられへんで」

「いえいえ、いっちゃんもよくやってくれたと思いますよ。なっちゃんも、他のみなさんも」

「……もう、なっちゃんでいいわ。あきらめた」



 あ、なずなが白旗揚げた。



「ともあれ、現状はさいあくですけど、まだ絶望的ではありません。
 龍神は、まだかんぜんには復活しきれてません……だいしょうとして、わたしの少ないれいりょくの大半を使用しちゃいましたけど」



 つまり……龍神の動きを阻んでいるチビ小夜さんの霊力が尽きれば、その時点でアウトとなる。



「消えたりせぇへんよね、小夜さん?」



 不安になったいぶきは、チビ小夜さんを見た。

 龍神を止めるのに、本当に最後まで霊力を全部注げば、チビ小夜さんは消えてしまう。そう心配しているんだろう。



「ごしんぱいなく。その辺のかげんは、こころえてます。
 なんといっても、年の功ですねっ」



 動けるギリギリまで絞り込んだのが、今の自分の姿なのです、えへん、とチビ小夜さんは微笑んだ。



「……その姿で言っても、ぜんぜん説得力ないわよ」

「む。しつれいな。
 これでも巫女としてのキャリアは、二人の倍以上あるつもりですっ」

「んん、まぁ、そうだね……その姿だと、確かに威厳とかまるでないけど」



 なずなに続いてみなせにまでツッコまれて、チビ小夜さんはがっくりと肩を落とした。



「本体が山にのみこまれたのはざんねんです……
 あのナイスバディが、たぶんもう、すぷらったじょうたいのはずです」



 うへあ、と思わず僕は顔をしかめた。

 何せ、穴に落ちていくのを最後まで見たのは僕だ。あれではまず、肉体は取り戻せないだろう。

 チビ小夜さん本人が明るいのが、せめてもの救いだ。



「ゴメン……身体、回収できなくて」

「いえいえ。
 それでケガしたりしなくて幸いでした。
 わたしの身体のためにケガなんてされたら、それこそ気にしちゃいますよ」



 それでも、チビ小夜さんに謝っておく……答えて、チビ小夜さんは僕の頭の上に舞い降りた。



「むしろ、ありがとうございます、ですよ。
 あなたにはあらみたまの私がめーわくしかかけてなかったのに、わたしの身体のためにがんばってくれたんですから。
 そんなやっちゃんがおねーさんはだいすきです♪」



 言って、僕の頭をなでてくる……いや、そう言ってもらえるのはうれしいですけど、なんか子供扱い……



「あ、そうそう、みなせ。新しい鶴を折っておいてください。
 それで多少はれいりょくもかいふくします」

「せや。ボロボロなったもんなぁ」

「わ、わかったよ、姉様。ちょっと待っててね」



 チビ小夜さんや彼女の言葉に納得するいぶきに答えて、みなせはさっそく立ち上がった。











「ふぅ……」



 折鶴を依代すみかにして、チビ小夜さんはようやく落ち着いたようだった。



「うん、大分楽になりました。
 やっぱりみなせの作ってくれる折鶴が一番です。霊力の波長が近いせいか住み心地抜群です」



 本当に楽になったみたいだ。さっきまで舌足らずだった口調もまともになってるし……



「では、会議を続けましょうか」



 ……って、僕の頭の上に戻ってくるんかいっ!



「そういえば、フリードもヤスフミの頭の上がお気に入りだったよね。
 座り心地いいのかもね……私も、なでてると気持ちいいし」

「僕としてはかんべんしてほしいんですけど?」



 笑いながらそんなことを言うフェイトを軽くにらんでおく。



「それで……龍宮小夜。
 龍神はしばらくは動けない……ということでいいのか?」



 それはともかく、と気を取り直して尋ねるイクトさんに対して、チビ小夜さんは、フルフルと首を振った。



「とんでもない。いつ自力で封印を解いてしまうか、わかったモノではありません。
 一刻も早く、再封印が必要です」



 つまり、最悪ではないけれど、楽観視などもってのほか、ってことか……



「って言っても、あんなデカイの、どうすりゃいいのよ?」



 なずなは霊山のある方角を指さしてそんなことを言う。



 まぁ、普通に戦ってどうにかなりそうな相手じゃ、ないよね……



「まーくん、今までに2回、ユニクロン倒してるんよね?
 そん時はどないしたん?」

「2度とも、基本は中枢への直接攻撃だな。
 むしろ、それ以外の攻撃はほとんど効果がなかったくらいだ」



 尋ねるいぶきにマスターコンボイが答える。







 そう、一度目……10年前には当時マスターコンボイが持っていた“デストロンのマトリクス”で内側から。



 二度目、数ヶ月前の“JS事件”の時はみんなの魔力を集めた特大のスターライトで外側から。



 それぞれ方法は違ったけれど、“コアを攻撃、破壊する”という手段は共通していた。







 龍神を倒すとしたら、やっぱり同じ方法になるんだろうけど……



《問題は、龍神の中枢にどう攻撃するか、ですね》

《そもそもどこに中枢があるのか、って問題もあるぜ、お姉様》



 アルトやオメガが作戦の問題点を指摘する……そう。龍神の中枢、たぶん荒魂だろうけど、それがどこにあるのか、それが問題だ。



「みなせ、現状巷はどうなっていますか」

「うん、みんなが戻る前にある程度情報は集めてみたけれど、日本全体の龍脈が大きく乱れちゃったんで、それを鎮めるために全国の神社もいそがしいって……」

「となると、援軍はないって考えた方がよさそうですね」

「……うん、期待はしない方がよさそうかな」



 来られたとしても、その時にはもう手遅れだろう、というのが、みなせとチビ小夜さんの話を聞いた、この場にいる全員の共通認識だった。



「その割には、妙に平穏やなぁ。地震も減ってきてるみたいやし」

「嵐の前の静けさかもね」

「なっちゃん……そういう不安になるようなこと言わんといてぇな」

「日本各地の神社が全力で、荒れようとしている龍脈を鎮守のお祈りで抑えてくれてますからね」



 いぶきやなずなのやり取りに対して、チビ小夜さんが安心させるように説明する。



「それと、この郷がまだ残っているのは、もうひとり踏ん張ってくれている方がいるおかげでしょうか」

「もうひとり?」



 そういえば、誰か足りないような……あ。



「あ……道理で静かだと思ったら、アイツミシャグジがいないんだわ」



 あー、そうだそうだ。アイツがいないんだ。



 なずなの言葉に納得して……そのとたん、当の本人がひょこっと現れた。



「この郷を守ると約束したからな。
 やれやれ、相手は私の親みたいなモノなのだぞ。面倒くさい」



 やっぱり、この土地で揺れがないのは、ミシャグジのおかげだったらしい。



「ミシャグジ様、お疲れー」

「礼なら、一夜の契りでよいぞ」

「ごめんなー。それはかんべんやわー」

「むぅ、もう少し、今風の口説き方を学ぶべきかのう」



 いぶきに即答されて、「コンビニでその手の本でも探してくるか」と悩む、ますます世俗に染まってきているミシャグジだった。



「ミシャグジ様、龍宮小夜と申します。
 妙な言い方になりますが、何だか私が迷惑をかけたようで、申しわけございません」

「よいよい、気にするな」

「今後は私も支援に入りますから、多少は楽になると思いますよ」

「うむ。
 時に小夜とか言ったか娘。私と一夜の契りを」



 手の平サイズの相手でもおかまいなしのミシャグジ。ホントにコイツはブレないなー。



「謹んで辞退させていただきます」

「むうぅ……」



 いぶき、チビ小夜さんと断られ、チラッとなずなを見るミシャグジだけど、



「……言っておくけど、聞くだけムダだから」



 当然、なずなもそれを一蹴した。



「……えっと、この人は……?」

「あぁ、ミシャグジっていう蛇の半神半妖。
 今の姿は人間に変化した姿でね。土地に干渉する能力を敵に利用されてたところをオレ達に合流、そのまま協力してくれてるんだよ」



 そういえば、すっかり忘れてたおかげでミシャグジについては話してなかった。尋ねるクイントさんにジュンイチさんが説明する。



「そうなんですか。
 ジュンイチくん達がお世話になったみたいで」

「いやいや、この程度大したことではない。
 時に娘。私と一夜の契りでも」

「ごめんなさいね、夫がいますから」



 わお、まさに瞬殺。



「むぅ……
 ではそちらの金髪が美しい娘よ、私と……」







 ………………ミシャグジ?







「い、いや、なんでもないっ! うんっ!」



 僕の“説得”が効いたのか、うんうんとうなずいてミシャグジが引き下がる。

 やっぱり、人間も妖怪も素直が一番……って、いぶきもなずなもみなせもどうしたの? なんかドン引きしてるように見えるんだけど。



「あー、いや、なんでもあらへんよ」

「え、えぇ……なんでもないわ」

「そうだね。
 フェイトさんが絡むと人間変わるんだなー、とか思ってないから、うん」



 若干一名、余計なことを口走ってる気がするけど……まぁいい。



「………………?
 ヤスフミ、どうかしたの?」



 うん、フェイトは気にしなくていいよ、気にしなくて。



「そ、それで姉様。
 あの龍神を封じるにはどうしたらいいのかな?」

「そうですねぇ。
 まずはそもそも、ムリヤリ荒魂を封じたのが間違いの始まりです」



 そういえば、と思い出す。

 この土地は水害が酷かったのを、術者がどうこうしたのが、今、山でとぐろを巻いている龍神の元だったはずだ。

 封じた相手は、封じた時間が長いほど、その怒りは募る。だからこそ、鎮めが大事になってくるんだ。



「正しく龍神のことを郷に伝え、おそまつるのが第一……これはみなせと私の仕事ですね。
 ただ、今の龍神はとても聞く耳を持ちません。頭に血が上った状態の人と同じです」

「説得が効かへん相手か」



 まぁ、せっかく自由になったんだしね。

 怒り狂った龍神は、チビ小夜さんの霊力が尽きればすぐにでも仕返しがしたいはずだ。



「そこで、みなさん前線メンバーの仕事です」



 チビ小夜さんに指名され、僕らは一斉にうなずく……



「龍神の中に直接潜り込み、その荒魂自身をまず抑えます」



 ……んだけど、またずいぶんとダイナミックな作戦が飛び出した。



 要は、さっき再三話題になった「相手の核をブッ飛ばす」って話と、言ってる事は同じなんだけど……



「……なんか、急にきな臭くなったわね。
 そもそも、龍神の身体って、入れるの?」



 なずなの言いたい事はもっともだ。

 そもそもからして惑星型トランスフォーマーであり、滅んだ後も“ゆりかご”を取り込んで復活しようとしたユニクロンと違って、龍神はどう見ても生き物だ。その中に入るって、まるで一寸法師のような話じゃないのさ。



「今の龍神は、半分霊体みたいなモノですから侵入は可能です。
 そうですね、ちょうど山頂辺りから」



 チビ小夜さんの話だと、完全に受肉すればムリだけど、今の半実体な状態なら胴体から潜れるらしい。



 けど――「ただし」とチビ小夜さんは付け加えた。



「中にある荒魂は当然荒れ狂っているでしょうから、注意しながら無力化してください」

「……つまり、頭に血ィ上ってる人を引っぱたいて、冷静にしてこいっちゅーことかな?」

「はい。そんな感じです」



 いぶきの問いにチビ小夜さんがうなずく。

 あー、要するにあの龍神の核である荒魂と“OHANASHI”してこい、と。



 ここでも高町流交渉術の出番か……ホント、もっと穏便な解決ってないものですかね、ジュンイチさん?



「まぁ、気持ちはわからないでもないけどな。
 ……あ、そうそう。ちなみにその作戦だけど……」







「オレ行かないから」







 ………………は?



 ジュンイチさん。まさかとは思いますけど……



「この期に及んで、まだ『妖怪が出そうな空気が怖いから行かない』なんて言うつもりじゃないでしょうね?」

「うるさいな! 怖いものは怖いんだよっ!
 ……って、そうじゃなくて! ちゃんと別件で残るって言ってるのっ!」

「別件……?」

「そ、別件」



 ジンに答えて、ジュンイチさんが見たのはチビ小夜さん。



「小夜さん。正直に答えてもらおうか。
 恭文達が突入して……荒魂を抑えるまで、アンタがかました龍神の拘束は持ちこたえられると思うか?」

「そ、それは……」

「……やっぱりね。
 “だから”残るって言ってるんだよ」



 え? 『龍神の拘束が持ちそうにないから残る』って……ジュンイチさん、それってまさか……



「恭文の考え、たぶん正解。
 間違いなく、恭文達が荒魂を抑える前に龍神は自由になる……だから、外に残って、その龍神の相手をする」

「む、ムチャやでじゅんさん!」

「そうよ!
 あの龍神と真っ向から戦っても勝ち目はないから、こんな作戦をとってるんでしょ!?」



 あっさりと答えるジュンイチさんにいぶきやなずなが声を上げるけど――



「あー、小夜さん。
 ジュンイチさんが龍神をブッ飛ばすことが可能だと仮定して……ブッ飛ばした場合、中の僕らは大丈夫なんですか?」

「やっちゃん!?」

「アンタまで何言い出すのよ!?」

「え? えっとですね……」



 二人にかまわず尋ねる僕の問いに、チビ小夜さんは僕の頭の上で考え込む。



「龍神を倒せるっていう仮定の話ですよね? その場合でも、ブッ飛ばし方次第では大丈夫だと思いますよ。
 龍神の体内は、現在空間が外界とは霊的に隔絶されているはずです……ちょうど、常世と似たような感じですね。
 ですから、龍神をそれこそ木っ端みじんにするような攻撃でもない限り、突入したみなさんがどうこう、という事態にはならないと思いますよ?」



 ……だそうですけど、ジュンイチさん。



「勝算、あるんですよね?」

「勝てるかどうかは、ちょっと断言できないな……悔しいけど。
 けど、“そういう心配”をしなきゃならないような攻撃をかませる自信はある」



 僕に答えて、ジュンイチはチラリと視線を“そちら”に動かして、



「確かに、“今までの”オレの戦力じゃそんなことはムリだったろうけどな。
 けど……“今の”オレには、ブイリュウがいるからな」

「え? オイラ?」



 ジュンイチさんに呼ばれてあわてて振り向くのは、話についてこれず、退屈そうに拝殿の中を見て回っていたブイリュウだ。



 えっと……ジュンイチさん、まさか……



「そう。そのまさか。
 お前はまだ“実物”見たことないんだっけ」



 僕の予想をジュンイチさんはあっさり肯定……そうですか。そういうことですか。



「あぁ、そういうことさ。
 あのバカ神に思い知らせてやるよ……“どっちが龍神として格上か”ね」



 ジュンイチさんは不敵な笑みを浮かべてそう答える……この様子なら、外は任せても大丈夫かも。



「大丈夫だよ、ヤスフミ。
 私も行く……よりによって最後の戦いが初陣になっちゃったけど、私だって戦えるもの」



 一方でやる気になっている人がひとり。フェイトが軽くガッツポーズを見せてそう言ってくれるけど――



「あー、フェイトと、それからクイントさんも居残り組ねー」



 ジュンイチさんがあっさりとそのフェイトのやる気をぶち壊した。



「ど、どうしてですか!?
 私達が負けたら妖怪に辱められることになるからですか!? そんなこと言い出したら、いぶきさんやなずなさんは……」

「いや、そういうことじゃなくてだな」



 声を荒らげるフェイトに対して、ジュンイチさんはため息をついて、



「お前やクイントさんには、別で頼みたいことがある」

「え…………?
 ジュンイチさん、それは……」

「万一の場合に備えての、この町の守り……ね?」

「クイントさん正解。
 龍神が復活したことでちょーしこいてる妖怪どもが郷に下りてくるかもしれない……今まではミシャグジが防いでくれていたワケだけど、今は龍神が起こす地震から郷を守る仕事もある。守りに“もれ”が出るかもしれないから、それに対する対応を頼みたい」



 ピッ、と人さし指を立てたジュンイチさんがクイントさんに答えて――続けて中指を立ててVサイン、いや、カウントの『2』を示す。



「そしてもうひとつ……一応巻き込まないように戦うつもりだけど、オレと龍神の戦いの余波が郷に及ぶ懸念もある。
 相手が相手だ。結界で被害を防ぐってワケにもいかない。その時は、素直に郷の人達をこの神社に避難させてほしい。
 この辺の仕事は、オレ達よりも正規の局員であるクイントさんや嘱託のフェイトが一番経験がある。だから二人を残すんだ」

「……ま、まぁ、そういう理由でしたら……」



 しぶしぶといった様子でジュンイチさんに従うフェイト。まだいつぞやの対抗意識が残ってるのかな?



「話はまとまりましたか?
 じゃあ、役割の分担は完了ですね」



 そんな二人の様子に、会議を締めくくるのはチビ小夜さんだ。



「では作戦を開始しましょう。
 これが最後です。気合を入れていきましょう。おーっ!」

『おーっ!』







(第12話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!



小夜(和魂)「ふぅ、やっぱり小さい身体では何かと不便ですねぇ。ふすまを開けるのも一苦労です」

小夜(荒魂)「まったく、情けない姿になってしまったものですね」

小夜(和魂)「元はといえば、あなたと龍神が身体を持っていっちゃったせいじゃないですか。
 こんな身体じゃ、やっちゃんとらぶらぶできませんよ」

フェイト「…………ヤスフミ?」

恭文「い、いや、覚えないからっ!
 小夜さん相手にフラグ立てた覚えなんかないからっ!」

小夜(和魂)「私の本体を助けるためにがんばってくれたじゃないですか。
 私のために命をかけてくれたやっちゃんに、おねーさんのハートはドキドキです♪」

小夜(荒魂)「恭文さん。和魂の私を、末永くよろしくおねがいします」

恭文「いやいやいやいや、ムリだからっ! 僕はフェイト一筋だからぁーっ!」





第12話「龍神 対 龍神」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「オレといぶきの大暴れはそこそこに、決戦前の最後の謎解きがメインとなった第11話だ」

オメガ《いやー、実に冒頭だけの晴れ舞台でしたね、ボスとミス・いぶきのゴッドオン》

Mコンボイ「やかましいわ。
 それはそうと、龍神と龍宮小夜にまつわるいろいろなことが明らかになった話なんだが……」

オメガ《その語り部となったのが、ミス・小夜の和魂。通称“チビ小夜”。
 彼女が登場して、ようやくキーパーソンがそろい踏みですね》

Mコンボイ「フェイト・T・高町達も合流したしな……決戦での出番はなさそうだが」

オメガ《ミスタ・恭文の恋愛事情においてはメインヒロインのミス・フェイトですが、今期については完全に脇役ポジションですからね、メインで活躍できないのはしょうがないですよ。
 彼女の活躍については来期以降に期待しましょうか》

Mコンボイ「だが、次は確か『電王』クロス編の予定だろう?
 確か本家の『電王』クロスではヤツは……最終戦までほぼベンチウォーマーだったと記憶しているんだが」

オメガ《………………まぁ、ウチの作者のことですから話数も増えると思いますし、活躍の場もあるでしょう、はい。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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