頂き物の小説 第10話「反撃 の 霊山」 「……って、地上? ……何で?」 僕ら、確か常世で龍宮小夜の身体に宿った龍神と戦ってて―― 「んぅ……」 うめき声が聞こえ、そっちに目を向けるといぶきが倒れていた。 「いぶき――ちょっと、いぶき!」 「ん……あれ……?」 軽く肩を揺すっただけで目を覚ました。状況がわかってないのか、しきりに周りを見回している。 「いったいどないなったん? ウチら、確か龍神と戦って……て……」 つぶやくいぶきの動きが唐突に止まる――うん、何を思い出したのかはだいたいわかる。 だって……僕はとうに気づいてるから。いぶきを介抱しながら、ずっと横目で探してたから。 「せや! まーくん! まーくん、ウチをかばって……!」 「あー、わかってる。わかってるから。 えっと……」 いぶきを落ち着かせながら、本格的に周りを見回す。 ――――いた。 僕から見てちょうど真後ろ。気がついてから一貫して死角になっていたところに、うつ伏せに倒れていた。いぶきから見ても、僕の身体がブラインドになって見えなかったってワケだ。 その身体はピクリとも動かない。大丈夫なのか、アウトなのか……クソッ、見た感じじゃわからない。イクトさんならわかるだろうけど、そのイクトさんはどこに…… 「……む……く……っ!?」 ――――――上!? 見上げると、そこにイクトさんがいた――木の枝に引っかかり、宙吊りになった状態で意識を取り戻したところだ。 「蒼凪……どうなったんだ? オレ達は常世で……」 「それはいいから、下りてきて! マスターコンボイが!」 「何…………?」 僕の言葉に、状況を思い出したらしい。イクトさんは木の枝の中から脱出して、マスターコンボイへと視線を向ける。 「…………“力”は感じる。死んではいないな。 だが、かなりのダメージだ。早く休ませるべきだが……」 「ロボットモードのままやと、ウチらじゃ運べへんよ。 人間の姿に戻ってくれへんと……」 「オメガは見当たらないな……どこか別のところに落ちたか? ヤツがいれば、マスターコンボイの意識がなくても変身できるんだが……」 マスターコンボイをなんとかして運ばないといけないって、いぶきとイクトさんが話してるけど……あのさ。 「方法、あるよ。 イクトさん、ちょっと来て」 「蒼凪……?」 首をかしげながらも、イクトさんはマスターコンボイのもとに向かう僕についてきてくれた。その手を取って、マスターコンボイに触れさせて―― ピーッ! 〈システムエラー。システムエラー。 機能維持のため、低消費モードへ自動移行〉 マスターコンボイの身体を制御している、トランステクターのシステムがエラーを起こした。安全装置が働いて、マスターコンボイの身体はより負担の少ない姿――子供の姿であるヒューマンフォームに自動で変身する。 「よし、問題解決」 《イクトさんの機械音痴も、こういう時は便利ですねー》 「…………納得いかない……!」 なんかイクトさんがふてくされてるけど、気にしない気にしない。 さーて、とりあえずマスターコンボイを連れて帰って休ませないと―― 「や、やっちゃん! イクトさん!」 いきなりいぶきの声が上がった。いったいどうしたって―― 「あ、あれ!」 いぶきの指さした先を見たとたん、すべてを理解した。 「……う、わ……」 彼方の霊山から、霧のようなモノが発生していた。 それはゆっくりと揺らめいているだけ――のように見えるけど、僕らにはその形が何かを作り始めているのがわかった。 あれは…… 「龍神が、復活した……!」 龍神だ。 『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説 とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記 第10話「反撃 の 霊山」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「…………なるほどな。 オレ達の調査は、一足違いだったワケか」 「うん……」 つぶやくオレの言葉に、恭文は少しばかり不機嫌そうにそううなずく。 ……いや、表に出してないだけで、こりゃそうとう頭に来てるな。何しろ、マスターコンボイがなぁ…… 無限書庫の調査を終えて戻ってきたオレ達を待っていたのは、オレ達の予想を超えて悪化した現状だった。 龍神が龍宮小夜の身体を借りて復活。機動兵器まで持ち出してきて、マスターコンボイを一刀両断。 しかも、オレ達が調べてきた内容はご丁寧に龍宮小夜がご説明済み、と……何これ、オレ達が無限書庫に行った意味すらなくなってんじゃん。 何? オレ達がしたことって、単に戦力分散させてマスターコンボイがぶった斬られる遠因作っただけ? 「で……マスターコンボイは?」 《あの後見つけたオメガにチェックをお願いしたところ、すでに自己修復モードは働いていると。 何ぶんスッパリとぶった斬られましたからね。切り口がキレイだったおかげで、修復もすんなり進みそうだとか。 ですから、ボディの修復自体は、数時間もすれば。問題があるとすれば……》 「それだけのダメージを受けた、マスターコンボイのスパークの方か……」 答えるアルトアイゼンの言葉に、軽くため息をつく。 つか、マスターコンボイのボディすらキレイに叩き斬るか……なかなかに厄介な相手みたいだな。 龍神が龍宮小夜の身体を借りているだけなら……まぁ、なんとかならないこともなかった。 中身は自然災害級でも、器の方はちょいと特別なだけの人間。身体のバケモノっぷりならオレの方が上。龍神自体をどうにかすることはムリでも、その身体を抑え込むことなら不可能じゃなかった。 ただ……機動兵器まで持ち出してくるとなるりと話は別だ。抑え込もうにも、戦力的な意味ではともかく、物理的な意味でムリだ。 そんな状態でマスターコンボイにダウンされたら正直厳しい。その上…… 「……そう。間違いないんだ」 「……えぇ、残念なことにね……」 龍杜と霞ノ杜のお二人まで、事情を確認し合いながらダウナー入りまくってるんだよ。ジンがなんとか元気づけようと周りをウロチョロしてるけど、何て言葉をかけたら……って感じっぽいし。 いぶきはいぶきで、今ごろ旅館で休んでいるはずのマスターコンボイにつきっきりみたいだし…… 「お前達は落ち込まないのか?」 「悪い意味での自慢にしかならないけど、絶望には慣れっこなんでな。 この程度で凹んでられないっての」 「いや、この場でそんな理由で踏ん張ってるのはジュンイチさんだけだから。 まぁ……落ち込めるもんなら落ち込みたいけどさ、それで事態が解決するワケでもないし……」 ミシャグジの問いに対して答えるオレに対して、フォローするどころかツッコんできやがったのは恭文だ。落ち込むみなせとなずなに視線を向けて、 「この事件に関する専門家3人、まとめて凹んじゃってるからねー。 こうなったら、誰かムリヤリにでも踏ん張ってないと」 「ふむ、なるほどな」 「みなせは、自分のお姉さんがこんなことになっちゃったワケだし……」 「問題は、雷道の方だな…… 彼女の神社の方針的には、間違ってはいないのだろうが……結果として、一方的に私刑に走った挙げ句、そのリンチの相手に返り討ちにあったのだから」 恭文の言葉にイクトが同意する――まぁ、自分達の正当性を押し通そうとした結果なんだし、自業自得と言えないこともないんだけど……いや、だからこそか。自分達の主張を通した結果皆殺しにされてるワケだし。 それはそうと……疑問がひとつ。 「それで結局、どうして助かったのだ、お前達?」 「んー……」 その“疑問”を口にしたのはミシャグジ……そう。恭文達が常世から脱出できた、そこのところの状況が、さっきの恭文の事情説明じゃさっぱりわからない。 その恭文は、ミシャグジにツッコまれて再度思い出そうとしてるけど…… 「うーん……僕にも何が何だか。 あの状況で、龍神が僕らを見逃す理由もないと思うんだよね……」 《私もさっぱりです。あの時得られたデータからは何がどうなって森に放り出されたのか……まぁ、龍神の霊力が大きすぎて、サーチャーの感度もメチャクチャになってました、何か残っていても信憑性は薄かったと思いますけど。 一応映像記録も撮ってましたけど、光がキツくて……》 ……だそうで。 「……ま、わからないのをいつまでもグチグチ話し合っててもしょうがないし、そこはいいよ。 とりあえず、龍神と龍宮小夜をブッ飛ばすチャンスができたと思えば」 《まぁ、そういうことですね。 どうせ説明されたところでこの人の頭で理解できるワケないんですし》 「ちょっと、アルトさんや!?」 ……なんか主従漫才してるけど、まぁ、恭文の言うとおりだ。 今はそんなことを話してる時じゃない。龍神をブッ飛ばして、今起きている事件を解決する方法を考える時だ。 「なぁ、ミシャグジ。 龍神の復活は、まだ完全なモノじゃないんだよな?」 そう。龍神の復活は完全なものじゃないはず――この郷が未だ無事なのがその証拠だ。 この土地は龍神を封じることで平穏を手に入れた――もちろん、ムリヤリ封印された龍神にとって本意なワケがない。むしろ自分の不幸と引き換えに平和に暮らしてくれやがった憎き敵。 そんな龍神が復活したとなれば、まず真っ先にこの郷が攻撃対象になるのは間違いない――完全に復活していたら、今頃こんな郷、存在していられるかどうかも怪しいものだ。 「うむ。 刻一刻と力を増してきてはいるが、完全ではない。何せモノがでかすぎるからな」 「となると、今のうちなら、まだしばき倒す余地は残ってる…… おそらく居場所は、あの山だな」 龍を象ったオーラが立ち上っていたあの霊山――おそらく、あそこが真に龍神が封印されている地だろう。 そこに乗り込んで、龍神が宿った龍宮小夜をしばき倒す。 「それで龍神の復活を止められるのか?」 「完全復活される前に、ヤツのところまで行ければ……たぶん」 眉をひそめるイクトにそう答える――そう。たぶんそれで、止められる。 「龍宮小夜は言ってたんだろ? 『あとは龍神自身がやる』って。 ってことは、その時点では龍神の復活のために“龍宮小夜ができること”が終わっただけ。龍神がやらなければならないことは残っていた。 そして……龍神が完全復活していない以上、それはまだ終わっていない」 だから――復活のために必要なことをすべて終わらせる前にヤツをブッ飛ばせば、龍神の完全復活は止められる。 また封じられたまま悶々と過ごすことになる龍神には悪いけど、こっちだって復活を許して郷をメチャクチャにされるワケにはいかないんだ。 「留守は任せておけ。 私も龍神……というか小夜という娘に常世に誘われたが、私は義理と人情を重んじるのでな」 郷の守りはこう言ってくれるミシャグジに任せておけばいいし…… ――――――って、ちょっと待ったのしばし待ていっ! 「誘われたって、いつの間に!?」 「時期的には、昨晩の一際大きな地震があった時……お前の話と照らし合わせると、小夜という娘が龍神に取り込まれたあたりか」 オレと同様に驚く恭文にミシャグジが答える……けど、あぁ、考えてみたら納得だわ。 龍神と龍宮小夜の目的はすべての妖怪達の常世への避難と隔離だもんなぁ。そりゃ、妖怪連中に伝える方法は考えてるだろう。 そして、ミシャグジだってその龍神の眷属、蛇神とはいえ種族的には妖怪の範疇だ。十分に常世へ誘う対象だったってことだ。 「どうやら精神波の類のようだぞ。普通の人間には知覚できん」 そんなミシャグジの言葉に恭文とイクトがオレに視線を向ける……いや、ンな目で見られてもオレは知覚してないから。 「だって、普通の人間じゃ知覚できないんでしょ? それならジュンイチさんだって」 やかましい。人外にだってできることとできないことがあるわい。 「とにかく、まずは龍神をブッ飛ばす。これは絶対だ」 「そうだね。 おーい、ジン。なずなはどう?」 「わかってるって! おい、なずな。しっかりしろって」 「わかってる…… 話も聞いてた。龍神を、止めるのよね……」 恭文に声をかけられたジンに促され、なずなが立ち上がる――んだけど、さぁ…… 「…………連れてくつもりか? メンタル的な意味で、役に立たなさそうなんだけど……」 「そう言うな。 彼女には悪いが、立ち直るのを待っている余裕はない。ここはムリヤリにでも連れて行き、向こうで立ち直ってもらうのを期待するしかあるまい」 「まぁ……そりゃそうなんだけどね」 とりあえず、龍神のところまではオレ達でガードしていけばなんとかなると思うけど…… 「ミシャグジ。龍宮にも何か仕事をくれてやってくれ。 ここで手をこまねいているよりは、気も紛れるだろう」 「わかった。 では、さっそく私と契りを交わす役割を……」 『それはいらん』 満場一致で却下した。 「じゃあ、いぶきはどうする? 連れてくのか?」 「いや、彼女にはマスターコンボイのそばに残ってもらうことにしようか」 確認するオレに、イクトはニヤリと笑ってそう答える……なるほど。 「マスターコンボイにお任せするつもりか」 「まぁ、そういうことだ。 六課のフォワードをまとめ上げた手腕に期待するとしよう」 イクト、悪どーい。 「……アンタが言うな」 うん、恭文、うっさい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ …………まーくん…… 旅館の、やっちゃん達の部屋……人間の姿になったまーくんは、そこに敷かれた布団に横になっていた。 運び込まれてからこっち、ずっと様子を見守っとるんやけど…… 今のところ、神社の方から連絡はあれへん……さすがに、龍神が相手やと対策会議もすんなりとはいかへんのかな……? 「…………いや……そういうワケでもなさそうだぞ……」 「まーくん!?」 いきなりの声に見下ろすと、まーくんがウチをまっすぐに見返してて……もう、大丈夫なん? ちゅーか……『そういうワケでもない』って……? 「霊山の方に、恭文達の“力”が向かっている…… ヤツら、オレや貴様を置き去りに出撃したようだな」 「なんやて!?」 どうしてみんな、ウチらを置いて……! 「そんなもの、いらん気を遣ったからに決まっているだろうが。 オレは龍神に斬られ、貴様はその原因を作った……身体に傷を負ったオレと誇りに傷を負った貴様、お人好しのアイツらに気を遣われるには十分すぎる理由だ」 「…………そう、やね……」 まーくんの言う通りや。ウチ、自分のせいでまーくんがこんなことになってもうて……もう、頭ン中グチャグチャで…… なんか、目ェ合わせられんくて、まーくんの手の辺りまで視線を落とす。そんな、ウチが見ている手に力を入れて、まーくんはヨロヨロと立ち上がって……って!? 「あ、あかんて、まーくん! トランスフォーマーのケガのことはよぅわからんけど、まだ動ける状態やないんちゃうの!?」 「起き上がれる。剣を握れる。それだけできれば十分だ……!」 「って、起き上がれたいうてもフラフラやん! そんなんで戦えるワケあらへんやん!」 立ち上がったはいいけど、すぐにふらついて、ヒザをつく――そんなまーくんを、あわてて脇に寄り添って支える。 「めーちゃんも黙ってへんで止めてぇな! マスターがムチャしようとしとるんやで!?」 《待て! その『めーちゃん』って私のことか!? オメガの『メ』か!? ……つか、止めたってムダだぜ。そうなったボスは、誰の言うことだって聞きゃしねぇ》 「せやかて……」 めーちゃんにサジ投げられて、どうしたもんかと考えるウチの脳裏をよぎるんは、あの龍神との戦いで気づいたまーくんの“正体”…… 「……まーくん…… まーくんがそないがんばるんは……やっぱり、昔やらかした“GBH戦役”のことがあるからなん?」 「………………っ」 ウチのその言葉に、まーくんの動きが初めて止まった。 「あの時、宇宙を滅ぼしかけた償いがしたい……せやから、まーくんは命かけるん? 自分が滅ぼそうとした宇宙を守って、あの時の失敗を帳消しにしたいん?」 「…………あの過ちが帳消しになるなど、甘いことは考えてはいないさ」 「せやったら、なんで!」 「あの時……オレはひとりの女によって変わった」 「………………え?」 その言葉に……今度はウチが止まる番やった。 「カン違いするなよ。別に好いた惚れたと、そういう話じゃない。 ヤツは……デストロンの破壊大帝だった、戦うことしか知らなかったオレと、“絆”を結ぼうとしていた…… 敵でしかなかったオレとすら、手を取り合おうとしていた……それが、理解できなかった。 理解できず……それでも、ヤツのそんなあり方が好ましく思えている自分もいて……」 めんどくさそうにそう話すまーくんやけど……せやけど、どこか楽しそうにも見えて…… なんでやろ。 そんなまーくんを見るんが、すごく辛い…… 「まったく、あの時は本当にワケがわからなかったぞ。 ヤツのことを敵だと突き放そうとする自分と、ヤツと手を取り合おうとする自分……二つの“自分”がせめぎ合ったオレの心に、ユニクロンが付け込んできた。 ヤツらに利用させられ、感情を抑えきれなくなったオレは、ヤツと敵同士としてしか存在できないこの宇宙を、ヤツと手を取り合えないこの宇宙を、壊そうとした……」 「それが……あのグランドブラックホールの暴走につながった……」 ウチの言葉に、まーくんは静かにうなずいた。 「オレがあの時のことにこだわっているんだとしたら、それは罪の意識などではない。 アイツが教えてくれたこと……オレでも、誰かと手を取り合える。わかり合い、共に歩むことができる。それを、ウソにしたくない。 だからオレは守るんだ。アイツが、オレを……オレの“心”を、守ってくれたように」 それが……まーくんが、誰かを守る理由…… 「何を他人事のように言っている。 貴様も、他人に“守る”ことを教えられたクチだろうが」 ………………え? 「龍宮小夜に教えられたんだろう? 誰かを守るために戦う、退魔巫女という生き方を」 たぶん、今のウチはすっごくバカみたいな顔をしとるんやろう。そんなウチに笑いかけながら、まーくんは改めて立ち上がる。 「歩んできた道は大きく違うがな……似てるんだよ、オレとお前は。 誰かに“守る”ということを教えられ、その想いを受け継ぐことを決めた…… そんなお前が、龍宮小夜に裏切られて苦しむ姿を見るのは、他人事とは思えなくてな……悪いが、黙って見ていることはできそうにない」 「まーくん……」 「傷が深かろうが相手が強かろうが知ったことか。 オレは龍宮小夜を止める。ヤツにこれ以上、オレ達の“今”を否定されてたまるか」 これは……止められへんわ。 ウチのために……小夜さんのために戦ってくれる言うてるまーくんを、ウチには止めることなんてできへん。 せやけど…… 「…………わかった。止めへんわ。 せやけど……ウチも行く」 まーくんの言う通りや。ウチは、小夜さんに、あの、力のない人や妖怪のためにがんばる小夜さんに近づきたくて今の道を選んだんや。 せやからこそ……今の小夜さんを認めるなんて、できへん! 「行こう、まーくん! ウチらで、小夜さん止めるんや!」 「おぅっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……おかしい」 霊山の山頂――我は人間の身体に宿ったまま、ひとり自問していた。 「あの時、なぜ殺せなかった……?」 あの人間どもやガラクタ人形との戦い……後一歩でトドメが刺せた。 だが……その一歩を、何かが阻んだ。 あれは……何だったのだ……? 「この身体が原因か……いや、それはないはず」 この身体は我が完璧に支配している。阻んだのは、この身体ではない…… となると…… 「あの娘、何かを隠しているようだな……」 「へぇ、それは興味深い話だね」 「………………ほぉ、助っ人を連れてきたか」 ウワサをすれば何とやら、というヤツか。ちょうど今考えていた人間どもが、空から舞い降りて来た。 我の初めて見る顔もいる……翼を有する鎧を身にまとった男がもうひとりの初見の男を抱え、その抱えられている男が金色の髪の巫女をさらに抱えて舞い降りてくる。 「久しぶり、といった所か。 空を飛んで、麓をたむろす妖怪達をまとめて無視したか……空は妖力の渦で飛ぶこともままならぬだろうに、思い切った手に出たな」 「神様が相手なんだ。それで少しでも楽できるんなら、賭けてみる価値はあるってことさ。 そんなワケで……悪いけど、アンタの完全復活は阻止させてもらうよ」 「そのために、悪いが貴様を倒させてもらう。 どうやら、貴様が龍神の核のようだからな」 「くくく……おもしろい」 前回も相手をした小さき男ともうひとりの言葉に、知らず知らずのうちに口元に笑みが浮かぶ。 こやつら……前回叩きのめされて、まだこりていないか…… ならば、かかってこい! 今度こそ、貴様らの身の程というものを思い知らせてくれるわ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……始まったようだな」 「えぇ……」 こうなってしまうと、ボクらはここから見守ることしかできない……わかっていることだけど、時々、それがたまらなくもどかしい。 特に、今回はみんな、ボクの姉様と……姉様に宿る龍神と戦ってる。 姉様の強さを知っているからこそ……不安になる。 みんなは、姉様と龍神の力がひとつになった、そんな相手に勝てるんだろうか…… 「勝てると信じているから送り出したのだろう? ならば、ただ信じるのみ。信じて、疑わず、凱旋を待てばよい」 「……そう、ですね」 ミシャグジ様の言葉に、ボクは苦笑しながら立ち上がる。 「普段からそういうしっかりしたことをおっしゃっていれば、もう少しモテると思いますよ?」 「むぅ、そういうものかのう? それはそうと……どこへ行く?」 「旅館の方へ、電話を借りに。 万一に備えて、各地の神社と連絡を……」 言いながら、拝殿の扉を開いた、その時だった。 「きゃあっ!?」 いきなり開いて驚いたんだろう。扉の向こうで、奥田さんが尻もちをついていた。 「お、奥田さん? すみません。大丈夫でしたか?」 「あ、はい……」 声をかけるボクに答えて、奥田さんは着物についた誇りを払いながら立ち上がり、 「あの……恭文くん達は……?」 「え…………? 蒼凪さん達は探索に……旅館の方で、マスターコンボイが休んでいるはずですけど……?」 「いえ、真知子さんに聞いたら、マスターコンボイくん達も出発したって……それでこっちへ……」 「えぇっ!?」 そんな……オメガやアルトアイゼンの診立てじゃかなりのダメージだったって…… 「あ、あの……」 「あぁ、すみません。 それで、蒼凪さん達にどんなご用で……?」 「あ、いえ、私じゃなくて……」 ………………? 「実は……蒼凪さん達のお知り合いという方達を、旅館の方に案内したんですけど……」 お知り合い……? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 龍神が腕を振るい、巻き起こった突風が僕の動きを押さえつける。 そのスキに、龍神は一気に距離を詰めて僕に一撃を叩き込もうとするけど―― 「させるか!」 「こいつっ!」 残念ながら、そう来ることを先読みして散開してたんだ。僕から距離をとって、僕を狙ったトップから逃れていたイクトさんとジンが両側から挟撃。それに気づいた龍神が上空に逃れる。 「バカめ! 嵐だけが、我が武器ではないぞ!」 咆哮して、龍神が上空で右手を天にかざすと、空がにわかに暗雲に包まれる――まさか!? 「雷に打たれて、黒焦げになるがい――」 「ところがどっこい、残念無念っ!」 轟音と共に降り注ぐ雷――だけど、それが僕らに届くことはない。 ジュンイチさんが僕らの周りに力場を展開。龍神の雷を防いでみせたから。 「バカな!? たかが人間が雷を止めただと!?」 「悪いね。オレの力場は、エネルギーと名のつくものをかたっぱしから無効化できるんだよ!」 龍神に答えて、ジュンイチさんは爆天剣をかまえて、 「いくら大自然の猛威だろうが――雷だってエネルギーだろうがっ!」 そこから放った炎の刃が龍神に向けて飛翔。見事命中、爆発を巻き起こす。 「むぅ……っ!」 その爆発の中から脱出する龍神だけど――遅いっ! 「なまじ肉体を得たのが災いしたな!」 「動きが、物理法則にしばられてるんだよな!」 イクトさんの拳が追撃。ひるんだところにジンがレオーのサポートを受けた蹴りでブッ飛ばす! それでもしのいでみせる龍神だけど――残念、その逃げ先には僕がいる! 「なめるな! いくら当てても、この身体には通らん!」 さすがの龍神も防御を選んだ。両腕のウロコで防ごうとするけど……なめてるのはそっちだろうが! 確かに今まで、そのウロコでこっちの攻撃さんざん防いでくれちゃってるけど……その硬さ、もう覚えた! 「ひとつ、教えてあげるよ」 アルトをかまえ、意識を集中する。 「僕ら“古き鉄”の刃はね……」 みなせに「ゴメン」って心の中で謝りながら、魔力の刃を研ぎ澄ませる。 そして―― 「そこに存在してるなら……斬れないものなんかないんだよ!」 水平にアルトを一閃――瞬間、龍神の両腕から鮮血がほとばしった。 もちろん、僕らの一撃だ――アルトの一撃はウロコを斬り裂き、その肉を深々と斬り裂いていた。 …………腕、斬り落とすつもりで行ったんだけどな。 《というか、いけたはずですけどねぇ。 マスター、みなせさんのお姉さんだからと手加減しました?》 「いや……そんなつもりは、なかったんだけどな……」 少なくとも、自覚はない……無意識にブレーキかかったかな? 「ま、それでも攻撃は通った。 これからだよ、アルト」 《もちろんです。 私達のクライマックスはこれからだということを教えてあげましょう》 「これから、だと……?」 僕らのやり取りに対して口をはさんできたのは、両腕を斬られた龍神だった。 「それはこちらのセリフだ。 人間相手だからと、生身で相手をしてやれば調子に乗りおって……」 告げる龍神の背後に、前回の戦いでも姿を見せたドラゴン型の機動兵器が姿を見せる――そのまま龍神と一体化、ロボットモードとなって僕らの前に降り立つ。 あー、みなさん。お出ましになったんですけど。 「フンッ、知ったことか。 こっちをなめてかかって手を抜いていたバカがようやく本気になられてもな」 「同じ条件じゃオレ達に勝てないって、自分から証明したようなもんじゃないのさ」 「同じクライマックスでも、アイツのクライマックスは『もうおしまい』って意味のクライマックスだって教えてやろうじゃないか」 「バカにしおって……」 イクトさん、ジュンイチさん、ジンもすっかりいつものノリだ。龍神は気に入らないみたいだけど……悪いね、前回はいろんなことがわかって、ちょっといつもりノリに乗り切れてなかったもんで、本調子じゃなかったんだよ! 「言ってくれるな! では、身の程というものを、今度こそ思い知らせてくれるわ!」 僕らに言い返し、龍神の宿る機動兵器“龍神皇”が僕らに向けて襲いかかり―― 「そう急くな、馬鹿神が」 突然の一撃が、龍神を真横からブッ飛ばした。 きりもみ回転して、龍神が墜落。そして――あぁ、なんだ、もう来ちゃったの? 「すまんな、恭文。 せっかく本来の調子に戻ったところを申し訳ないが……譲ってもらうぞ」 言って、ロボットモードのマスターコンボイが僕らの前に立ちふさがる……もちろん、龍神をぶちのめすために。 「マスターコンボイ、いぶきは?」 〈ちゃんとおるでー!〉 僕に答えるその声は、マスターコンボイの機体に備えられたスピーカーから……あぁ、マスターコンボイの搭乗スペースにいるのか。 「…………フンッ、また我に斬られに来たか」 「悪いが、もう斬られてやるワケにはいかないな」 龍神に答えて、マスターコンボイがオメガを起動。姿を現した大剣を龍神に向ける。 「今のオレはひとりじゃない。 オレが斬られるとこいつも一緒にバッサリだ――“護る者”として、それを認めるワケにはいかない」 〈まぁ、自分楯にしてるみたいでいい気分せぇへんけどな…… それでまーくんが力出せるんやったら、いくらでも生贄になったろうやないの!〉 なるほどね。 いぶきが一緒にいることで、マスターコンボイはいぶきを守ろうと全力で戦えるってことか…… いぶきが力を引き出し、その力でマスターコンボイが戦う……ちょっと変則的だけど、二人で一緒に戦うつもりなんだ。 「龍神……貴様の復讐の是非を問うつもりはない。 こっちにも、復讐鬼経験者がいることだしな」 マスターコンボイの言葉に、ジュンイチさんが渋い顔をする……まぁ、耳が痛いよね。 「だが……貴様に身体を貸している龍宮小夜を認めるワケにはいかない。 ソイツのしていることで、ソイツに憧れ、同じ道を志したヤツが泣いてるんだ」 〈べ、別に泣いてへんわーっ!〉 「そんなやり方を認めるワケにはいかん。 悪いがつぶすぞ、貴様らの企み」 〈いや、ちょう、聞いてーな、まーくんっ!〉 「…………夫婦漫才はそこまでだ」 〈め、夫婦て! 夫婦て!〉 うめくように告げる龍神に、いぶきの声が上がる――あー、今頃ライドスペースで真っ赤になってるんだろうなー…… 「貴様らの都合など知ったことか! 我が怒りを晴らすため、我は完全復活を成し遂げる!」 「やれるものならやってみろ!」 咆哮し、龍神がマスターコンボイ達に襲いかかる――龍神皇が剣を生み出して斬りつけてきたのを、マスターコンボイはオメガで受け止める。 そのまま、両者はつばぜり合いの体勢に――けど、明らかにパワー負けして押されている。 「マスターコンボイ!」 「オレか恭文とゴッドオンを――」 「いらん!」 手助けしようと走る僕とジンを、マスターコンボイが押しとどめる。 「悪いが、お前達は手助け無用で頼む。 コイツは……」 「オレといぶきの戦いだ!」 『〈え………………?〉』 その一言に、僕らだけじゃなくていぶきも間の抜けた声を上げていた。 〈まーくん……今、ウチのこと名前で……〉 そう――マスターコンボイは今、いぶきのことをフルネームではなく『いぶき』って……名前で呼んだ。 マスターコンボイは、本当に認めた相手だけは名前で呼ぶ。なのは、僕、スバル……照れから普段はフルネーム呼びだけどティアナも。 つまり、名前で呼ばれたいぶきは―― 「マスターコンボイが……」 「いぶきを、認めた……?」 イクトさんやジンがつぶやく中、マスターコンボイは龍神の刃を押し返す。 「いくぞ、いぶき! オレ達の力……ヤツに見せつけてやる!」 〈まーくん…… ……うん! やったろうやないの!〉 いぶきが答え、マスターコンボイの身体に“力”がみなぎる――あれ? あれって…… 《マスター?》 「いや、今のマスターコンボイといぶきって……」 「初めてゴッドオンした時の僕らと、似てない?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ なんとなく、やけど……確信があった。 なんでかわからんけど……きっとできるって。 せやから……ウチは叫ぶ。まーくんと二人で。 『ゴッド――オン!』 その瞬間――ウチの身体が光に包まれた。強く輝くその光は、まーくんの身体からあふれ出すとウチの姿を形作り、そのまままーくんと同等の大きさまで大きくなって、まーくんの身体に重なり、溶け込んでいく。 同時、まーくんの意識がその身体の奥底へともぐり込んだのがわかる――代わりに全身へ意思を伝えるんは、まーくんの身体に溶け込み、一体化したウチの意識だ。 《Guardian form》 この身体のメインシステムが告げ、まーくんのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように真っ白に。 そして、ひとつとなったウチら二人が高らかに名乗りを挙げる。 《双つの絆をひとつに重ね!》 「信じる“道”を突っ走る!」 「《マスターコンボイ――Stand by Ready(や)!》」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ちょっ、何アレ!?」 驚きの声を上げたのは、連れてきたのはいいけど未だ吹っ切れずに傍観に徹していたなずな……いや、言いたいことはよーくわかる。 だって……今までゴッドマスターの『ゴ』の字の気配も見せなかったいぶきが、いきなりマスターコンボイとのゴッドオンを果たしたんだから。 《マスターの初ゴッドオンの時も、そんな感じじゃありませんでしたっけ?》 ………………そうでした。 「フンッ、何をしたか知らないが……」 驚く僕らとは対照的に、龍神はまだまだやる気十分。マスターコンボイといぶきに向けて突撃して―― 「我にかなうと、思ったか!」 「悪いな、龍神様…… バリバリに、勝てる思っとるわ!」 咆哮が交錯して、衝撃――吹っ飛んだのは龍神の方だった。 いぶきがマスターコンボイの身体を操って、振るったオメガの一撃が、龍神の一撃を受け止めるどころか一方的にブッ飛ばしたんだ。 「バカな…… 龍神たる我の一撃が……」 「残念やったな、龍神様。 龍神様本人が相手やったら、ウチらなんてホンマ勝ち目あらへんかったんやろうけどな」 《今の貴様は龍宮小夜の肉体に宿った身。そしてその龍神皇に宿る身……その二つは、実体を持ってこの世界に存在し、そして実体を持っているからこそ、そこには物質としての限界がある》 うめく龍神に対し、いぶきとマスターコンボイがそう答えてオメガをかまえる。 《あのユニクロンですら、身体を打ち崩されては成すすべなく滅び去るしかなかったんだ。 復活を焦り、敵の目の前で安易に実体を持ったのが貴様の敗因だ!》 「悪いけど、ぶった斬らせてもらうで。 そんでもって、小夜さんは返してもらう!」 「返すも、何もない…… かの者は進んで我と契約し、その身を差し出したのだからな」 「龍神様には聞いてへん! アンタから取り返して、もう一度小夜さん本人に聞くんや! ホンマに、これで満足なんかって!」 《そういうことだ……とっとと、その身体から叩き出させてもらうぞ!》 「灘杜神社が退魔巫女、嵐山いぶき!」 《時空管理局、機動六課! 教導司令官、マスターコンボイ!》 「《いざ……参る!》」 (第11話に続く) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 次回予告っ! いぶき「やったー! ウチのまーくんとゴッドオンや!」 マスターコンボイ《見たか龍神! これがオレ達の全力――》 ジュンイチ「旋回だ!」 イクト「違うぞ柾木。満開だろ」 ジュンイチ「あ、そうか、悪い。 えっと……限界だったか?」 マスターコンボイ《全開だっ!》 ジュンイチ「どっちでもいいじゃねぇか。 マスターコンボイの全力限界ってことで」 いぶき「よっしゃ、やったるで! パワー限界やぁっ! いっけぇっ!」 マスターコンボイ《あぁ、そうかいっ!》 なずな「……もう漫才だわ」 第11話「荒魂 と 和魂」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あとがき Mコンボイ「……作者め、いろいろとやってくれたな、と小言をくれてやりたい気分の第10話だ」 オメガ《まぁ、ボスにとっては大変ですよねー。 何しろ、またまたゴッドオン相手が増えてしまったワケで》 Mコンボイ「あー、一応、オレってスバルの正パートナーなんだがな? 今期の基本設定上アイツの登場が難しいのはわかっているつもりなんだが……恭文はともかく、なんでさらに増えるかな……?」 オメガ《読者の要望と作者の陰謀?》 Mコンボイ「ちょっと待て! 特に後者!」 オメガ《まぁ、ミスタ・ジンについては当然の流れですよ。むしろ彼の生みの親のDarkMoonNightさんから直々のご要望があったワケですから。 そしてミス・いぶきに関しては……ボスとのカップリングを狙う作者の欲望が》 Mコンボイ「待て待て待て待て! それにしたってちょっと待て! カップリングって……オレといぶきがか!?」 オメガ《えぇ、そうですね。 より正確には、ミス・ティアナやら他のヒロイン候補やらとボスをめぐって火花を散らしていただこうかな、と。 もっと言うと……レッツ修羅場?》 Mコンボイ「誰が行くかっ!」 オメガ《いや、だって、ねぇ……? ミスタ・恭文もミスタ・ジュンイチも、ヒロイン候補は数いれど、そのヒロイン同士が二人をめぐって火花を散らすような状況にはならないじゃないですか。ミスタ・ジュンイチの周りに至ってはむしろ“万年スルー被害者の会”な感じですし。 もはや、ボスとミスタ・ジンは修羅場ネタをやるための最期の砦なんですよ》 Mコンボイ「『さいご』の文字がおかしくないか!? ヤだぞ、オレは! 修羅場を展開した挙句女に刺されて終わるとか!」 オメガ《むしろ私はみんなからしぼり取られたあげく、枯れ果てて死ぬ末路の方がありえそうかなー、と》 Mコンボイ「それはそれで危ない……っ!」 オメガ《まぁ、そこは作者の欲望にお任せするとして。 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》 Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |