頂き物の小説 第9話「常世に 墜ちる 守護者」 「ど、どういうことだよ、それ!? なずなの先輩達と龍宮小夜……殺されたのが龍宮小夜って……」 「あ、アタシに言わないでよ! アタシだって、何が何やら……」 驚くジンに対するなずなも声が震えてる……まぁ、しょうがないわな。今までの流れで、ある意味一番の大前提だった部分が見事にひっくり返ったんだから。 今までは、「龍宮小夜“が”なずなの先輩達“を”殺した」という認識だった。 ところが、いざこの無限書庫で事件の真相を調べてみれば、出てきた事実はまるで逆。「龍宮小夜“を”なずなの先輩達“が”殺した」なんて言われちゃあ、ねぇ? とりあえず、なずなの見ていた資料に目を通す――なるほど。確かに資料は「龍宮小夜が霞ノ杜神社の退魔巫女5名に敗退して死亡」という形で締めくくられている。つまり、氷室山の事件はこれで終わりだったってことだ。 無限書庫の情報は正確無比。見つけ出すことさえできれば、それこそあらゆる“事実”を調べることができる。 その無限書庫の資料でそういう事実が出てきた以上は……そういうことなんだろう。 ………………ただし。 そう考えると、いくつか腑に落ちないことがある。 まず、今回の事件に関わっている“龍宮小夜(仮)”だ。すでに本物が殺されているとしたら、アイツはそもそも何者なのか。 そして…… 龍宮小夜が“殺された側”だとして……じゃあ、なずなの先輩達、霞ノ杜神社の退魔巫女5名を殺害したのは誰なのか。 少なくとも、龍宮小夜が彼女達に殺されていることは確かな事実だ。 と、いうことは、なずなの先輩達が殺されたのは彼女達が龍宮小夜を殺害した、その後ということになる。 龍宮小夜の殺害後“何か”があった。そしてその結果、彼女達は全員殺害された。 そして……龍宮小夜(仮)は、少なくともそのことを知っていた。知っていたから、先輩達の件を持ち出したなずなが霞ノ杜の巫女だって一発で見抜くことができた。 今調べた資料に、龍宮小夜(仮)と思われる存在については書かれていない。つまり……“氷室山の事件”に龍宮小夜(仮)は関わっていない。 同じ理由で、なずなの先輩達が殺されたのも、“氷室山の事件”とは無関係。関係していたらこの資料に載るはずだし、そのことを知る人物として龍宮小夜(仮)も登場してくる はずだ。 くそっ、“氷室山の事件”の中での出来事だと思ってたからなぁ……安易に検索条件をしぼったのは失敗だったな。 とりあえず、先輩達が殺された一件にしぼってもう一回ピンポイントで検索かけてみるか……あぁ、あと、龍宮小夜(仮)についても検索かけないと。 少なくともアイツが当時の氷室山にいたのは間違いないとして……別人だとしたらどうして龍宮小夜の姿を借りているのか。それに、その後何がどうなって今回の件に絡んできたのかも…… ………………待て。 瞬間――オレの中で何かが形を成したのがわかった。 氷室山の件と、今回の件……その“つながり”…… 「そうか……そういうことか」 「ジュンイチ……?」 「ジュンイチさん……?」 つぶやくオレを不思議に思ったか、なずなとジンが声を上げる……つか、なずな。その胡散臭いものを見るような目は何だ。 「氷室山の事件の真相――オレ達はそういう条件で資料を探した。 けど、それじゃダメだったんだ」 とにかく、今は時間が惜しい。説明しながら、書架に向かうため閲覧スペースから跳んで書庫内の無重力に身を任せる。 「氷室山の事件“だけ”を調べたから、肝心要のところが抜け落ちた。 オレ達は、もっと先まで、全体的に調べなきゃならなかったんだ」 そう――もっと先まで。すなわち―― 「氷室山の事件は龍宮小夜の死で終わった。 けど……」 「たぶん、それが今回の事件の始まりだったんだ」 『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説 とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記 第9話「常世に 墜ちる 守護者」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……ずいぶんと、突飛な話だな」 常世と呼ばれる異空間、そこで僕らの前に現れた龍宮小夜(仮)に対して、イクトさんは眉をひそめてそう答える。 けど……気持ちはわかる。何しろ、目の前のあの女は今回の事件が『自分が殺されたことで始まった』とのたまったのだから。 「『お前が殺されたのが始まり』だと……? ならば……今ここにいるお前はいったい何者だ?」 「『3年前に殺された』とも言っていたな……しかも、殺した相手は雷道なずなの先輩どもだとも。 ならばヤツらを殺したのは誰だ? 貴様でないのなら、なぜ以前問いただされた時に否定しなかった?」 イクトさんに並び立つ形で、マスターコンボイも龍宮小夜(仮)をにらみつける――さすがのマスターコンボイも、龍宮小夜(仮)の言葉は理解の外らしい。表情が目に見えて強張ってる。 「さ、小夜さん、一体、どないしてもうたん? なんでこんなワケのわからんことしてるん? 誰か、死んだ人に会いたいとか、そんなんなん?」 一方でいぶきもいぶきであからさまに動揺している……まぁ、憧れていた人がこんなワケのわからないことになっていたらムリもないけどさ。 「それらの質問の答え――答えてあげることは簡単ですけど、おそらく意味はないでしょう」 「なんでそない思うん?」 「私はあなた達の“敵”としてここにいる。その私が本当のことを話すという保証はどこにもないでしょう?」 「それは僕らが判断するよ」 いぶきに答える龍宮小夜(仮)には僕が答える。 「何しろ、こっちはまったくもって情報が足りてなくてね。 調べるために動いてるメンバーもいるけど、当事者の証言が聞けるんならそれに越したことはないしね。 と、いうワケで、話す気があるなら話してもらおうか?」 「いいでしょう。ではお話しましょう。 すべては、あなた達も結論を出している通り、3年前の氷室山までさかのぼります」 そう前置きして、龍宮小夜は話し始めた。 自分がどうして殺されたのか、その顛末を…… ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「えーっと……まずは氷室山の事件のおさらいから。 氷室山の近く、ツララ村という山村で事件は起こった。 具体的には妖怪が人をさらい、女性数人が行方不明になる事件だ」 ジュンイチさんはすぐに資料を見つけてきた。資料の山を挟んだ反対側から、オレ達に向けてそう切り出す。 「犯人は、妖怪を使役する霊能力を持った人間だった。 そして、この事件は、被害者の父親ひとりと、村長がそれぞれ伝手を頼って退魔の力を持つ神社に解決を依頼した」 「ダブルブッキング……ってことっすか?」 聞き返すオレにジュンイチさんはうなずいた……んだろう。資料の山が邪魔してよく見えないけど。 「事件に動いたのは、龍杜神社から龍宮小夜」 「……ツララ村から、霞ノ杜神社の5人」 ジュンイチさんに付け加えたのはもちろんなずなだ……まぁ、元々詳しい説明を聞くために引っ張ってきたんだしな。 「事件は龍宮小夜が先に到着し、解決した。龍杜神社の方が近かったからな」 「つまり……霞ノ杜神社の5人がその後に現れた。 ひょっとして、仕事を奪われた霞ノ杜の人達が腹を立てて……?」 「あのねぇ、ジン。アンタ人の先輩達を何だと思ってるのよ? その程度のことで相手を殺すような人達なワケないじゃない」 オレの言葉に、なずなは憮然とした様子で答える。 「そもそも、そういう事態に前例がないワケでもないしね。 たいていは先発が申し送りした後、互いの神社に報告することで、たいてい丸く収まるわ」 「けど、今回はそれで収まりはしなかった…… 理由は、霞ノ杜神社の巫女達だったから」 そして……ジュンイチさんはいよいよ、事件の核心部分に触れ始めた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そう……ここからが問題でした。 現れた霞ノ杜神社の5人は、首謀者である霊能力者だけでなく、操られていた妖怪達も裁こうとしていました」 ひとまず刃は下ろして――けれど決して警戒は解かない。そんな僕らを前に、龍宮小夜(仮)は話を続ける。 「さて、あなた達の中にも殲滅派の霞ノ杜神社の巫女がいましたね? 今はいないようですけど。 そして、共存派の灘杜神社の巫女もいる。 あなた達なら、どうしますか?」 「…………雷道ならば、討つだろうな。 殲滅派の理屈からすれば、たとえ操られていたとしても人に害を為した妖怪は、存在するだけで人に恐れを与える。滅ぼすのが一番、というワケだ」 答えるイクトさんの顔はどこか辛そうだ。『人に恐れを〜』ってところで、瘴魔のことを思い出したんだろうね、きっと。 ともあれ、なずなに関してはイクトさんの見解どおりだろう。というワケで僕らの視線がもう一方――共存派、灘杜神社の巫女であるいぶきに集まる。 「う、うーん……その妖怪達がどういう妖怪かわからんと、何とも」 「それが、雷道なずな達にはじれったく見えるんだろうな」 「そないなこと言うても、操られてたんやろ!? 本人の意志ちゃうやん! 血に飢えた悪妖なら、そらやっつけるけど!」 「しかしそれは初動の遅れを生む。 殲滅派が言いたいのはその“遅れ”の分だけ被害が出る……ということだ」 反論するいぶきにも、マスターコンボイはあっさりとそう答える――そんなマスターコンボイを、いぶきは悲しそうな顔で見つめた。 「まーくんは、なっちゃん寄りなん?」 「ヤツの味方をするつもりはない。 単に、ヤツらならそう言いそうだという言い分を予想してしゃべっているだけ……って、何だ? そんな不機嫌そうな顔をして」 「別に、なんでもあらへん」 いや、なんでもないワケないでしょ。そんなあからさまにマスターコンボイにそっぽ向いちゃってさ。 そんないぶきを見ながらクスリと笑みをもらして、龍宮小夜(仮)は続ける。 「……龍杜神社は、どちらかと言えば、共存派です。霊力を上げるため、龍脈の力に身体をさらすという性質上、これは当然です。 このあたりの話は、みなせから聞いていますか?」 「う、うん。一応……」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……そう。共存派と殲滅派。龍宮小夜と霞ノ杜神社の巫女達は当然方針の違いから対立した。 話し合いは決裂。龍宮小夜は数に押され、霞ノ杜側に拘束された。 そして、彼女達は山……氷室山の妖怪達を滅ぼすため、森に向かった」 「なずな……霞ノ杜神社って、そこまでするのか?」 ジンが、信じられないって感じでアタシを見る。 なんていうか、その責めるような視線にどうしてか心が苦しくなる。けど…… 「ウソ……と言いたいところだけど、良くも悪くも否定できないわ。 それに、ウチの神社の人間なら、大いにあり得る話だもの」 そう……先輩達ならやりかねない。 妖怪は悪。人に害を与える。今は与えていなくても、いずれ…… だから討たなければならない。これ以上人に害を与える前に。人に害を与えようとする前に。 それがアタシ達、霞ノ杜神社。 …………そう…… それが、アタシ達なんだ……っ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「私は拘束を解いて、森に向かいました。 そして、巫女達に襲われていた妖怪達をかばい、深手を負いました」 まぁ……そこは仕方ないだろう。 龍宮小夜にとって、あまりにも状況が悪すぎる。 そもそも話の通りなら、龍宮小夜は本来の事件の黒幕と戦った直後だ。その上霞ノ杜神社の巫女達との連戦、拘束から脱出する際の抵抗……消耗に消耗を重ねた状態だったはずだ。 そんな状態で、さらに逃げ惑う妖怪達を守りながらの戦い。対する相手は一騎当千の退魔巫女が無傷で5人。 むしろ、そんな状態でなお妖怪達を守って戦えた方が驚きだ。 そんなことをオレが考えていると、龍宮小夜(仮)は自分の巫女装束に手をかけ―― 胸元をはだけた。 「ぶっ!?」 突然の龍宮小夜(仮)の行動に、案の定炎皇寺往人が鼻血を吹きそうになりながら視線をそらす……相変わらず免疫がないな。 だが…… 「見ろ、炎皇寺往人」 「ま、待て、マスターコンボイ! 女性の胸をそんなジロジロと……」 「いいから見た方がいいよ、イクトさん。 そんな考えが吹っ飛ぶくらいのものがあるから」 オレだけでなく恭文にも促され、炎皇寺往人は龍宮小夜(仮)へと視線を戻し―― 「…………な……っ!?」 絶句した。 だが、それも当然だ。何しろ…… 「……あ、あの小夜さん。 心臓が実は右にありますとか、そういうことないですよね? 何か……」 「心臓モロに貫かれたような傷があるんですけど……?」 そう。 龍宮小夜(仮)の身体は傷痕だらけ……その多くが妖怪との戦いでつけられたものだろう。 だが、そんな中で一番目を引くのが、胸をハデにえぐった大きな傷痕だ。彼女が見せようとしたのもそれだ。 「残念ながら、臓器は普通の人間と同じ配置でした。 ですが、私には奥の手がありましたから、幸い生き残ることができたのです」 「奥の手?」 「これです。 もはや、ごく短時間しかできませんけど」 恭文に答え、龍宮小夜(仮)は服装を正し――霊力を解放した。 大賀温泉郷の女性達の精気を吸収し、神域にまで高められたと豪語するだけの事はある。その力はすさまじく、突風となってオレ達を襲う。 舞い散った花びらに一瞬視界を奪われ――それが晴れた後、龍宮小夜(仮)の姿は一変していた。 シルエットはあくまで龍宮小夜そのまま。 だが……その身体の各所、主に急所を守るような形で、青白いウロコが発生している。 人間と爬虫類……いや、人間と“龍”が混然一体となっている……そんな姿だった。 オレが退魔の世界のことを深く知るようになったのはこの郷に来てから。それまでは神咲の家の人間どもがそういう仕事をしている、くらいの認識しかなかった。 だが……そんな素人同然のオレでも、今の龍宮小夜(仮)の姿を適切に表現する言葉は思いついた。 そう。これはまさに―― 「妖怪化、だと……!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「龍杜神社の巫女達は、土地の龍脈の力を自分自身に取り込んだ、言わば強化人間だ。 共存派にある一部神社では、龍脈を媒介にして、契約した妖怪を召喚する術を使えるという話がある……なずな、知ってるか?」 「えぇ、知ってる。 他神社との交流会で、話程度には聞いたことあるわ」 なずながうなずいたのを見て、一方でわからない様子のジンに軽く説明してやる。 龍脈、または霊脈、地脈と呼ばれるそれは、つまるところ大地に流れる純粋な霊力だ。 扱い方さえ知っていれば、霊脈の溜まり場から友好的な妖怪を呼び出すことが可能となる。 一方で、悪妖によって穢されたそれからは、無尽蔵に悪妖が湧き出る巣となるケースも多い。以前沼で大量に河童が発生していた時のアレがまさにそれだ。 そして……龍杜神社が考えたのは、そうした霊脈の応用だ。 「霊力や妖力との融合には、前例がないワケじゃないわ。 家族を鬼に皆殺しにされた少年が、妖怪を喰らうことで自ら鬼になって、妖怪達に復讐したという話も、交流会で聞いたことがある」 オレの話にそう補足すると、なずなはオレに訝しげな視線を向けてくる……えっと、何? 「ずいぶんと詳しいのね。苦手なクセに」 「苦手だからこそ勉強したんだよ。 敵を知り己を知れば百戦危うからず……ってな」 なずなに答えて、話を本筋に戻す。 「とにかく、龍宮小夜は龍脈の力を媒介して、妖怪の力をその身に宿す能力者。 その妖怪というのは能力者によって千差万別。彼女の場合は……龍」 …………話してて、いい気分じゃないな。 要するに、龍杜神社の連中は人造の半妖だ。妖怪と戦うために、人としての身体を捨てた…… そう、まるでオレのように…… 「…………ジュンイチさん?」 「ん? あぁ、すまない」 ジンの言葉に我に返る――いかんいかん。また思考がダウナー入るところだった。 凹むのは後でもできる。今は話を続けよう。 「さて、なずなさんや……そんな龍宮小夜の姿を見た、お前の先輩達はどうしたと思う?」 まぁ、だいたい想像はつくだろうけど。 つまり―― 「……龍宮小夜を敵性妖怪と認定。その時点を以て殲滅に移った……?」 「だから、龍宮小夜は霞ノ杜の巫女達を返り討ちにした……それじゃ正当防衛じゃ…… ……あれ? でもそれじゃあ」 「そう。 そこで返り討ちにしていたら、氷室山の事件の結末である“龍宮小夜の死亡”につながらない。だって、この時点じゃ龍宮小夜は死んでないからな」 なずなのとなりで首をかしげているジンに答える……そう。“氷室山の事件”はあとちょっとだけ続く。 「妖怪化しても、龍宮小夜の不利は変わらなかった。元々の消耗が尾を引いていたんだ。 結果、彼女はフルボッコ。息も絶え絶えの彼女の目の前で、守ろうとしていた妖怪達も殲滅された」 その時の彼女の絶望は……オレにも覚えがある。 これでも素人状態から傭兵始めた身だ。仲間を守りきれず、何度チームを失ったかわかりゃしない。 それに、オレとチンクの“ファースト・エンカウント”……チンクと出逢った、あの“戦闘機人事件”。 あの時だって、オレはクイントさん達を守りきれずに…… 「ひどいな……」 「……もう一度言うわ。 人に害を為した妖怪は、滅ぼす。それが霞ノ杜神社の教え。 アタシ達は迷わない。そして迷わないからこそ、強いのよ」 ……迷ってないようには、見えないけどな。 ジンに答えるなずなの様子に、人知れず苦笑する。 「まぁ、霞ノ杜の方針の是非を論じるのはまた次の機会に。 とにかく、氷室山の妖怪達は殲滅された。残るは……」 「龍宮小夜、ただひとり…… ……トドメを、刺そうとしたのか」 「そうだ。 最終的に龍宮小夜はなずなの先輩達のひとりにトドメの一撃をくらい、崖から突き落とされた。 そして死亡。氷室山の事件はこれで終幕だ」 そう。氷室山の事件はそこで終わった。 当然だ。関係者は霞ノ杜神社の巫女5名を除き全員死亡。敵対する者がいなくなった以上、連中のひとり勝ちだ。 だが……終わったのは“氷室山の事件”だけ。“すべて”は、まだ終わってはいなかった。 そう…… そこから、“今回の事件”が始まったんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「“今回の事件”が……?」 「えぇ。 氷室山の戦いの最後、私は切り伏せられ、崖から突き落とされ……その転落途中で、私は完全に絶命しました。 ですが、川底深くに沈んでいく私を救ってくれたのが、氷室山に眠る龍脈……いえ、この土地に封じられていた龍神でした」 …………龍神? この土地に? その言葉に、閃くことがあった。思わずマスターコンボイと顔を見合わせる。 「マスターコンボイ……」 「あぁ……おそらく、そうだろう……」 「やっちゃんもまーくんも、何の話して…………あ。 も、もしかして、あれの事? 氾濫と洪水を起こしまくってたっていう、荒魂?」 いぶきも気づいたらしい。僕らのやり取りに乱入して声を上げる。 そう。僕らが思い出したのは工務店の棟梁、日立明さんが教えてくれた龍神伝説だ。 「だが、問題がある。 氷室山の場所はオレも調べた……ここからはかなり距離があるぞ?」 《距離は関係ありません。 龍脈は、木の根のように複雑に地球を覆っているんですから。この星のどこにでもつながってるんですよ》 マスターコンボイの疑問にはアルトが答える――そう。龍脈はその強弱さえ無視すれば、どこにでもつながってるといえる。 つまり……“ここと氷室山もつながっている”んだ。 だから、“龍”の力を宿しながら瀕死になって川に沈んだ龍宮小夜に、龍神が反応しても決しておかしな話じゃないんだ。 「なるほど。 そこで龍神と契約を結んだか……」 イクトさんの言葉に、同時に納得する――そうか。前にジュンイチさんが龍宮小夜(仮)から感じた異質な感じの正体はそれだったのか。 龍宮小夜は死亡。そして龍神の“力”で復活……その龍神の“力”をジュンイチさんは感じ取ったんだ。人間の力じゃないんだ。違和感があって当然だ。 「えぇ。 彼によって私の肉体は蘇生し、再び氷室山に戻りました……」 「霞ノ杜神社の巫女達を殺したのはこの時です」 ………………え? その龍宮小夜の言葉に、今までの話の流れを唐突にぶった斬られた気がした。 「ちょっ……えぇっ!?」 「何か?」 「だ、だって……氷室山の妖怪は、もうおらんようになってもうたんよね?」 「はい」 同じく違和感を感じたらしいいぶきの問いに、龍宮小夜(仮)はあっさりとうなずく。 「残ってたんは、なっちゃんの先輩だけやんね」 「そうですね」 再度の問いにも迷わず答える。 「……わざわざ、蘇生されて最初にやったことは、仕返し?」 そう……ここが引っかかる。 そりゃ、自分が殺されたんだ。頭にだってくるし、仕返しだってしたいだろう。 けど……ついさっきまでの話に登場していた龍宮小夜と、今の話の龍宮小夜(復活)がどうしてもつながらない。 最後の最後まで妖怪達を守ろうとしていた彼女が、仕返しのため“だけ”に戦うとはどうしても思えない。 仕返しをするにしても……そうした“優しさ”がどうしてもジャマになる。だから、そうした人間は、何かしら正当性を作って理論武装するものだ。復讐したい気持ちとそれを止めたい良心との狭間で、自分を納得させられるように。 なのに…… 「いぶきさん、でしたっけ。 たぶん、いぶきさんはカン違いしています。私にも感情はあるんです。聖人君子ではありません。 守ろうとしたモノを奪い、自分を殺した人達を許せるほど、私は寛大ではありませんよ。 ……まぁ、仕返しが気持ちよかったのは確かですけど」 目の前の、凶相とも言うべき笑みを浮かべる龍宮小夜(仮)には、それがない。 本人の言うように怒りに突き動かされたにしても、怒りによって狂人と化したにしても、あまりにも急に変わりすぎなんだ。 そういう意味では、彼女はあのフォン・レイメイすら超えていると言える。ヤツだって、あれだけの狂気を湛えるには一朝一夕では利かなかったはず。それを、一足飛びで…… あまりにも……何かがおかしすぎる。 まるで、蘇った際に“良心だけがスッポリと抜け落ちてしまったみたい”に…… 「なるほどな。 とりあえず、雷道なずなの先輩どもが殺された件のいきさつは理解した……貴様の心情がどうだったかを抜きにすれば、な」 そんな、違和感にしばられて思考のまとまらない僕らに代わって、マスターコンボイが龍宮小夜(仮)に告げる。 「だが……そこから先がわからない。 龍神の“力”で蘇り、自分自身の仇を討ち――その後の3年間、貴様は何をしていた? 氷室山の件が今回の件とつながる……そのオレ達の仮説は貴様自身が肯定した。となれば、姿を消していたのも今回の件に関わりがあってのことなんじゃないのか?」 「えぇ、そうですね」 マスターコンボイの言葉に、龍宮小夜(仮)はうなずいた。 「私の3年間の潜伏は、すべて今回の件……常世の門を開くことを目的としたものでした。 そしてこの門を開けた理由は……」 「現世の妖怪達を、この常世に導くためです」 「現世の妖怪を……」 「ここに……!?」 「えぇ」 いきなり話がスケールアップした気がした。呆然と聞き返すマスターコンボイといぶきに、龍宮小夜(仮)はうなずき、続ける。 「人間に追われる妖怪をかくまうこと。それがひとつ。 同時に、害意のある悪妖もこちらへ呼び込み、現世の人間への被害を減らします。 つまり……それが、私のすべきことです」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そしてそれこそが、龍神との契約だった。 蘇生の対価として龍宮小夜が龍神と交わした契約は、現世にいる妖怪達の、常世への非難と隔離。 極端な話、この世から妖怪がいなくなれば彼女と霞ノ杜神社のような事件はもう起こらないですむ」 ジュンイチの話に、なるほどと納得する。 龍宮小夜の肉体が蘇生されたのも、その契約の一環というワケね。龍神が動けないんだから、ある程度は彼女が自分で行動するしかなかったんだろう。 そして…… 「……本当に極端ね。 でも、間違ってもないわ。霞ノ杜の教えとも一致する」 そう……「妖怪さえいなくなれば妖怪による事件はなくなる」。それが、霞ノ杜神社を始めとする殲滅派の主張の根源だ。 それを、アタシ達は妖怪を一匹残らず倒すことで、龍宮小夜……いえ、龍神は妖怪達をすべてアタシ達の世界とは別の世界に隔離することで為そうとしている…… 方法はそれぞれ違うけど、その根源は同じ…… なのに、どうしてか、あたしは素直にうなずけなかった。 唐突に、頭の中をこの郷に来てから出逢った妖怪達の姿がよぎる。 奥田さんのところに引き取られたカマイタチ。 おしら様。 ………………オマケにミシャグジ。 ………………あぁ、そうか。 あたし……アイツら(1匹除く)と別れたくないんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「契約の代償は、土地に封じられた龍神の完全復活。 常世の門を開く準備と、龍神の復活方法の模索。この二つを行なうのに3年かかりました」 「そのために、神社を抜けたのか……」 「えぇ。妖怪退治は私でもできます。 私は私にしかできないことに、3年間集中しました」 イクトさんの言葉に小夜さんが答える――つまり小夜さんが姿消したんは、龍神様の復活の方法を探るため。 そして、その“方法”が見つかって、実行に移した……それが、今回の神隠し事件。 「それが、この結果につながったっちゅうワケ……?」 「はい。長かった仕事もようやく終わりです」 「待った」 …………? やっちゃん……? 「ひとつ聞いてもいいかな。 アンタの目的は“常世の門を開くこと”、“そこに妖怪達を隔離すること”……そして、“龍神の完全復活”。 そのひとつめは、もうすでに達成済み……こうして僕らがここにいることがその証拠。 二つ目は……まぁ、まだみたいだね。これから何かしらの方法で始めるんだろうけど。 じゃあさ……“龍神の完全復活”ってのも、まさかもう終わってるの?」 「いいえ」 あっさりと小夜さんは否定した……って、ちょっと待って。 まだ龍神様は復活してへん……せやけど小夜さん、さっき『ようやく終わり』て…… 「えぇ、そうです。 龍神の完全復活は未だ……ですが、私がこれ以上何かをする必要はありません。 なぜなら……ここから先は、龍神自身が行なうことになりますから」 え…………? 「忘れましたか? 私が何の半妖か」 小夜さんが、何の……って!? 「――――――っ!? いかん!」 気づいて、うちが動き出すよりも一瞬早く、イクトさんが小夜さんに向けて飛び出した。思いっきり炎をぶちかますけど―― 「遅いです!」 小夜さんの反応も間に合っていた。腕を振るって、そこから放った風がイクトさんの炎を押し戻してまう。 「イクトさん!?」 「ヤツを止めろ!」 押し戻された炎をかわして、イクトさんがやっちゃんに答える……せや。早う小夜さん止めへんと! 「どういうことだ!?」 「こういうこと……ですよ!」 声を上げるまーくんに答えたんは小夜さんやった。霊力がどんどん高まってるのがわかる……だって、そのおかげで周りの空気がビリビリ震えとるもん。こんなん、まーくん達みたいに“力”感じ取れへんくってもわかるわ! 「龍神の契約が完遂し、その代償として支払うのは私の肉体自身。 私は龍神の依代となり、龍神本体の封印を解き放ちます!」 小夜さんの霊力が高まるにつれて、空気の震えはものすごい嵐に変わった。ウチどころかやっちゃんやまーくん、イクトさんまで動けへん状況の中、振り上げられた小夜さんの右手に霊力が集まっていくのがわかった。 そして、小夜さんは…… その霊力を、地面に向けて叩きつけた。 瞬間、小夜さんの真下からものすごい霊力が間欠泉のように噴き上がって、小夜さんを包み込んだ。 状況からして、たぶん、真下の龍脈からの“力”。つまり…… 確信したウチの視線の先で、龍脈から噴き上がった力がひとつの生物の形を取り始める……やっぱり、アレは!? 「アレが……龍神の“力”か……っ!」 まーくんがうめく中、それ――龍の気が舞い上がる。そして、その中心から小夜さんがゆらりと現れた。 いや……もう、小夜さんやない。 顔つきは一変しとるし、身にまとう霊力も猛り、禍々しいモノへと変わってる。 アレは…… 「覚悟せよ人間ども! 永らく我を封じ続けた報いをくれてくれるわ!」 小夜さんに宿った、龍神や。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「あ、あれが龍神……!?」 「なんて霊力だ……っ! 龍脈の化身は、伊達ではないということか……!」 うめく僕とは別に、イクトさんもまた、龍宮小夜(仮)改め龍宮小夜(龍神)を前に、冷や汗をタラリと流している。 まぁ……そりゃそうだよね。僕だって、言いようのないくらいのプレッシャーを感じてるんだもの。相手の“力”を感じ取れるイクトさん達は、こんな僕よりも数段キツいプレッシャーを受けてるはずだ。 「やっちゃん、これマジやばい……! 絶対止めんと、えらいことになる!」 いぶき……!? えらいことって……今でも十分えらいことになってると思うんだけど!? まさかこの上があるって!? 「せやから、今龍神が言うた通りや! 大賀温泉郷に封じ込められた龍神が復活すんねん! ほしたらどうなるかぐらい、わかるやろ!?」 ………………あ。 いぶきの言いたいことはなんとなくわかった。 例の伝説によれば、龍神は荒魂、つまり川の氾濫や洪水を封じ込めたモノだ。 それが長年にわたる封印で溜まりに溜まった力を解放する。 するとどうなるか……答えは簡単。 「……崩壊?」 それがどのレベルまで酷くなるかはわからないが、最低でも郷ひとつ水没するのは、想像に難くない。 「冗談じゃない! 止めるぞ、恭文!」 「わかってる!」 ロボットモードに戻るマスターコンボイに答えて、アルトをかまえて先行! 龍神が振るった腕から巻き起こる突風をアルトで一閃。突破、距離を詰めて、一撃! 対する龍神は右腕のウロコで受け止める――けどっ! 「マスターコンボイ!」 「おぅっ!」 同サイズの僕の攻撃は止められても、トランスフォーマーのマスターコンボイの攻撃は止められないでしょ! 頭上に跳んだロボットモードのマスターコンボイが、龍神を踏みつけるように蹴り。僕はそれをギリギリまで引きつけて離だt―― 「ぐわぁっ!?」 マスターコンボイ!?――って、だぁっ!? 上がった悲鳴の正体を確かめようとした瞬間、腹部に蹴りを受けて吹っ飛ばされる――くそっ、龍神か。 「恭文!?」 「やっちゃん、まーくん、大丈夫!?」 地面に叩きつけられたマスターコンボイと、そのすぐそばに転がる僕――イクトさんやいぶきが駆け寄ってくる中、“ソレ”は龍神の後ろに控えるように舞い降りた。 「なんだ、アイツは……!?」 それは、言ってみれば1匹のドラゴン――って!? 「ウソ、小夜さんが……あのドラゴンの中に!?」 「乗り込んだ……いや、一体化か!? まさか、ゴッドオン!?」 そう――龍神は龍宮小夜の身体ごと、ドラゴンと一体化した。 ちょうど……マスターコンボイと僕らがゴッドオンするみたいに。 そして―― ドラゴンは言葉を発することなく、人型のロボットモードへと変形。その場に改めて降り立った。 「これぞ我が鎧“龍神皇”。 そこのガラクタと同じと思うていると、タダではすまんぞ」 「ガラクタとは……言ってくれるな!」 「ちょっ、マスターコンボイ!?」 龍神の言葉に、マスターコンボイが立ち上がると同時に突撃――って、ゴッドオンもなしじゃ! 「むんっ!」 「ぐわぁっ!?」 案の定、龍神の腕の一振りでブッ飛ばされる――ったく、言わんこっちゃない! しかも、その一撃で真上に跳ね上げられたマスターコンボイは龍神の背後、僕らから見て龍神をはさんだ反対側に落下する。こんなに離れちゃ、僕とゴッドオンすることだってできやしない! 「ガラクタと人間風情が我が力に敵うと思うてか!」 言うなり、龍神が霊力を解放する――ただそれだけで突風が巻き起こり、おかげでまともに動くこともできやしない。 「……ちょっ、つ、強すぎるて……何なん、この力……」 「そ、そりゃ、相手は自然災害だしね……」 相手は龍神の荒魂。自然災害の化身、そのものなんだ――言ってみれば、大洪水に生身で立ち向かうようなものだ。 「まともにやり合ってもどうにかなる相手じゃない。 突っ込めればなんとか斬れないこともないだろうけど……」 「この突風では、それもままならんか……!」 龍宮小夜に宿った状態ですら、僕らの動きを止めるのに十分すぎるような突風を巻き起こしていたんだ。それがゴッドオンまでされちゃ……! ………………ん? 「ねぇ……イクトさん」 「どうした?」 「アイツの風だけど……」 「なんか、ゴッドオン前と勢い変わらなくない?」 「何…………?」 僕の言葉に、すぐにこっちの言いたいことを悟ってくれたらしい。イクトさんは突風に向けて手をかざし、風の具合を確かめる。 「……確かに、変わっていない。 どういうことだ? ゴッドオンで、ヤツも力を増しているのではないのか?」 「うーん…… 龍神のアレ、ゴッドオンにそっくりだったから、僕らで勝手に『ゴッドオンだ』って決めてかかっていたけれど……ひょっとしたらアレ、似てるだけで別物なんじゃ……? アイツの言っている通り、アレはただの“鎧”……人の身に宿った状態でも大きな相手と戦うための、それだけのものでしかなくて、龍神のパワーを増幅する役目はないんだとしたら……」 まぁ、今さら増幅するまでもないっていうのもあるんだろうけど。自然災害そのものなんだしね。 「だとしたら……マスターコンボイ!」 「聞こえて、いる……っ!」 イクトさんの声に答えて、マスターコンボイが向こうで立ち上がる。 「この強風も、オレのロボットモードの重量なら飛ばされん……! コイツは、オレに任せろ!」 言って、マスターコンボイはオメガをかまえて突撃。龍神に向けて斬りかかる――けど、 「遅い!」 「何っ!?」 さすがに飛ばされないというだけで、強風で動きは鈍っていたみたいだ。マスターコンボイの斬撃を、龍神は背中の翼を広げ、舞い上がることで回避する。 「なめるな! 空くらい、オレだって飛べる!」 対し、マスターコンボイも自らの“力”を練り上げ、浮力に、推進力に変える――舞空術モドキで舞い上がり、龍神を追うけど、 「だが――空中戦は得意ではなさそうだな!」 「ぐわぁっ!?」 空中では龍神の方が機動性では圧倒的――目まぐるしく飛び回る龍神に立て続けに攻撃をもらい、ひるんだところへ上空からの体当たり。そのまま両者はマスターコンボイが叩きつけられる形で地面に突っ込む。 「マスターコンボイ!」 「蒼凪!」 「うん!」 《Icicle Cannon》 「くらえぇっ!」 イクトさんに答え、二人で援護。散開して、二方向から僕の砲撃とイクトさんの炎で龍神を狙う――けど、龍神も一瞬早く離脱。マスターコンボイから距離を取る。 「アイツ……っ!」 「待て、蒼凪! うかつに突っ込むな! オレ達ではヤツの突風に対処するのは厳しいんだぞ!」 追撃に入ろうとした僕をイクトさんが止める……くそっ、悔しいけどイクトさんの言うとおりだ。 魔導師といえど大自然には勝てない。あの強烈な風の中じゃ、僕らは飛ばされずに耐えるので精いっぱい。たぶん空中でも同じだろう。 僕らが突っ込んだところで、風で動きを止められたところに一撃をもらえば終わりだ……あぁ、もうっ! とっとと突っ込んでぶった斬ってやりたい! 「できる」っていうだけで、離れて戦うのは好きじゃないのに! 「オレだって同じだ! だが、うかつに突っ込めばやられるだけだ。嵐山。お前も近接型なんだから……」 言いかけて――イクトさんが止まった。僕も気づいた。 さっきから、いぶきが妙に静かなんだ。 あのバカ、今度は何考えてる!? つか、そもそもどこ行った!? 「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ……いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いつの間にか、龍神の着地点に回り込んでいた。龍神の背後に向けて飛んで、その刀で一撃入れて―― バキィンッ! 「って、折れたぁぁぁぁぁっ!?」 言わんこっちゃない! 相手の防御力もわからない内から考えなしに斬りかかるから、刀がボッキリ折れやがった! そんないぶきを、龍神が無造作に殴り飛ばした。地面をバウンドして、いぶきが地面を転がる。 「身の程知らずが……」 そんないぶきへと向き直って、龍神が向き直った。どこからともなく刀を取り出して――って、マズイ! 「いぶき! イクトさん!」 「あぁ!」 イクトさんと二人で救援に動く――けど、それよりも早く龍神がいぶきへと襲いかかる! ――間に合わないっ! 背筋が凍りつくのがハッキリとわかった。僕の目の前で、龍神がいぶきに向けて、彼女の身体に対してあまりにも巨大すぎる刃を振り下ろして―― マスターコンボイの身体を斬り裂いた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ………………え? 最初、目の前の光景が事実やって認識できんかった。 やっちゃん達の攻撃をかわした龍神が近くに着地したのを幸い思て、斬りかかって一撃当てたはいいけど、ダメージ与えるどころかウチの剣の方がオシャカになってもうて…… 驚いて動きを止めたんがあかんかった。一撃まともにもらって、動けんくなってもうた。 抵抗しようにも身体が動かんくって、そのまま龍神に斬られるかと思った瞬間、何かがウチの前に飛び込んできて―― まーくんが、ウチをかばって斬られたんや。 元々、ウチを頭から斬りつぶすつもりやったんやろう。深くまで踏み込んで振り下ろされた龍神の刃は、まーくんの身体を深々と斬り裂いた。 一撃を受けたまーくんの身体が、前のめりに崩れて―― 「むんっ!」 踏みとどまった。一歩踏み出して、倒れかけた身体を支える。 「まーくん!――ふぎゃっ!?」 「このダメージなら、気にするな……っ! コンボイとは、すなわち守護者……守ることこそが本分だ……っ!」 それを見て、ようやく金縛りにかかったみたいになってた身体が動いた。起き上がろうとし――たはえぇけど、激痛でまた崩れてもうたウチに、まーくんが答える……って、息も絶え絶えやないの! それのどこが大丈夫!? 「……倒れぬか」 「貴様の言うガラクタにも、意地があるんだよ……っ! 守らなければ、ならないんだ……命を賭けてでも」 それでも、まーくんの強がりは止まらへん。龍神に対しても、ひるむことなくそう答えて―― 「そのくらいでなければ……この宇宙を滅ぼしかけた償いには届かくてな!」 ………………え? まーくん、今なんて……!? 『この宇宙を滅ぼしかけた』って……さら、確かに最近、グランドブラックホールのせいで危なかったけど…… ………………あ。 思い出した――明さんから龍神の伝説について聞いた時、グランドブラックホールの話になった途端にまーくんの様子がおかしなった。 まさか……あの事件に関わってたん? けど、公表された関係者の名前にはまーくんの名前なんてなかった。 そら、いろいろ機密とかもあるやろうから、全員の名前は出てへんやろうけど、まーくんの言葉の通りやとそうとう中心に…… ………………待って。 まーくんの名前は「“マスター”コンボイ」。 そして、事件の中心に立ち、グランドブラックホールを暴走させたんは…… 「マスター……ガルバトロン……!?」 「………………気づいたか」 認めて……ほしくなかった。 せやけど……認めてまった。 呆然とつぶやくウチに、まーくんが認めた……つまり、まーくんの正体は…… 「いぶき!」 ――――――っ! やっちゃんの言葉に我に返る――せや、今はそんなこと詮索してる場合やない。 動け! 動いて、ウチの身体! せっかくまーくんが守ってくれたんに、ここで動けへんかったら……! 「その覚悟、本物か…… ならば、苦しまぬよう、一太刀で葬ってくれる」 ――――あかんっ! ウチの目の前で、龍神が刀をかまえる。このままやと、まーくんが……! 一歩を踏み出した龍神から霊力がほとばしる……あかん、プレッシャーで、意識遠のいて…… 「彼らに手出しはさせませんよっ!」 そんな声が聞こえた気がして……ウチの意識はそこで途切れた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 次回予告っ! いぶき「そんな……まーくんが……」 恭文「大丈夫だよ。 マスターコンボイがこの程度でくたばるワケないって」 イクト「それとも、ヤツの正体のことか? 気にするな。ヤツとてちゃんと受け入れて……」 いぶき「まーくんが……まーくんが…… ……自分から攻撃受けに行くドMさんやったなんて!」 マスターコンボイ「ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうっ!」 第10話「反撃 の 霊山」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あとがき Mコンボイ「あー、本編のオレがぶった斬られたんだが」 オメガ《そんな自分がどうして平然とこの場にいるのか、ですか? 気にすることありませんよ。次回予告とあとがきは、本編から切り離されたギャグ時空ですから》 Mコンボイ「またミもフタもないことを……」 オメガ《それはともかく、今回の話でついに事件の真相が明るみに。 ついでにラスボスも登場です》 Mコンボイ「龍神か……前回の話で龍神伝説について触れていたのは、今回の話の伏線だったワケか」 オメガ《そして、前回の話でボスが過去をほじくり返されたのも、今回ミス・いぶきをかばって斬られる伏線だった、と》 Mコンボイ「あぁ、斬られたなぁ、バッサリと」 オメガ《大丈夫ですよ。 定番中の定番、瀕死の状態から不死鳥の如くよみがえる燃え展開への振りなんですから》 Mコンボイ「だから、そういうミもフタもないことを……」 オメガ《むしろボスが気にすべきはミス・いぶきじゃないんですか? バレましたよ、ボスの恥ずかしい過去》 Mコンボイ「そういう言い方をするなっ!」 オメガ《まぁ、そちらもこれから克服するべき彼女の課題ということで。。 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》 Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」 (おしまい) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「さて……行くか」 「えぇ」 ジュンイチさんの言葉に、ジンくん達が荷物を手にうなずく……やれやれ、行っちゃうんですか。 「あぁ、用も済んだしな。 立て込んでなきゃ、もう一泊くらいして仕事を手伝ってやるところなんだけど」 「いえ。そこまでしてもらわなくても、今は仕事も大丈夫ですし……」 「けど休んでない」 う…………痛いところを。 「今度ちゃんと休めよ。身体より心を休める方向性で。 じゃあな」 言って、ジュンイチさんは無限書庫を後にした……さて。 「……あぁ、ボクだけど。 いや……開口一番それ? そりゃ、なのはと話したいけど……迷惑になったりしないかな? ……いや、別にヒマだって決めつけたワケじゃなくて……」 「とにかく……はやて。 ちょっと、フェイトに代わってもらえるかな?」 (今度こそおわり) [*前へ][次へ#] [戻る] |