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頂き物の小説
第8話「常世 の 巫女」



「ぅわぁ……」



 思わず彼女が呆けた声を上げた気持ちはよくわかる。オレも、初めて来た時はそんな感じだったから。



 そんなワケで、初めて訪れる時空管理局本局、その内側を上から下までぶち抜いている中央の吹き抜けから中を見渡したなずながいろいろと圧倒されているのを、オレは微笑ましく見守らせてもらってるワケで。



 とりあえず、オレとしてはさっさと目的地に向かいたいところなんだけど……







「…………ジュンイチさん、大丈夫?」

「もーちっと待って。うっぷ……」







 となりで転送酔いでダウンしてる人が復活しないことにはなぁ……











『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説



とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記



第8話「常世 の 巫女」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そろそろジン達、本局に着いた頃かなぁ……?



「そうだな。
 時間からして、本局に到着して……柾木ジュンイチが転送酔いでダウンしている頃だな」



 あ、マスターコンボイもそう思う?



「うーん、ウチも行ってみたかったかなー。すんごいSFちっくなんやろ?」

「んー、まぁね」



 興味津々といった様子で会話に加わってくるいぶきにそう答える。



 ちなみに、今日は「ジン達が抜けた現状の戦力でどこまで動けるか」を検証するため、このメンツで洞窟の中を軽く探索。

 そこそこ行けそうなので、明日は今回(人数が減った手前、迷われてもフォローできるか未知数だったから)不参加だったイクトさんも加えて本格的に探索を再開する予定だ。



 で、今はいぶき(となずな)の部屋に集まって晩ご飯を済ませて、食後のまったりタイム中。

 ……いや、女の子の部屋で何やってるんだとは思うけどね。最初にいぶきを運び込んだ時以来頻繁に出入りしてるから、いつの間にか僕らの部屋よりもこっちの部屋の方がたまり場みたいになってるんだよ。おかげでみんなで集まって食事をとろうって話になった時も、自然にこっちに集まって食べるってことで話がまとまったし。



「なーなー、やっちゃん。
 神隠し事件終わったら、ウチも見に行ってもえぇかな?」

「はいはい。終わったらねー。もう魔法のことも知ってるし、見学くらいならいいでしょ。
 けど、あくまで『終わったら』ね。今回なずなが行ったのだって、氷室山の事件について調べる上での情報源としてなんだから」



 そう――本局に行っているのはジンやジュンイチさんだけじゃない。

 なずなも、今回向こうで調べたい一件についての情報を握っているため、二人にくっついて本局に行っているのだ。



「えっと……無限書庫、でしたっけ」

「あぁ。
 すべての次元世界の情報が詰まってると言われる、巨大データベース……調べる手段さえあれば、あそこで知ることのできない情報はないとすら言われている」

「ま、向こうはジンとジュンイチさんに任せておけば安心でしょ。
 僕らは僕らで、現場の方をがんばるとしようじゃないのさ」

「そういうことだ」

「せやね」



 みなせに答えたマスターコンボイをよそに、イクトさんと一緒にいぶきが僕の言葉に同意して――







「お、みんなそろって……ないね。いないメンツはまだ出かけてるのかい?」







 不意に部屋をのぞき込んで声をかけてきたのは、工務店の棟梁の明さん……あれ、旅館に何か用事ですか?



「ん? その様子じゃ、ひょっとして今日はまだ風呂に入ってないのかい?」

「え? 風呂?」

「もうちょっと休んでから行こうと思ってましたけど……何かあったんですか?」

「あぁ。あったんだよ。
 昼間の内に、ちょいと風呂の改装をしてね……具合の方を、改めて見に来たのさ」



 あー、そうだそうだ、思い出した。

 今朝、若旦那がそんな話をしてたっけ。昼間の話じゃ探索に出てる僕らは関係ないから、すっかり忘れてたよ。

 けっこういいお湯なんだよねー、ここ。改装されたって言うなら、期待していいかな?



「せやね。
 ほんまえぇ湯やもん、ここ。もうちょっと宣伝すればえぇのに」

「ここは交通の便があまりよくないからねぇ」



 いぶきの言葉に、明さんが苦笑する――まぁ、それは僕らも来る時に味わいましたけど……ねぇ?



「………………すまん」



 いえいえ。別にイクトさんがいろいろボケてくれたせいだなんて言ってませんよー?



「とはいえ、そろそろ本気でなんとかしないと、霊験あらたかな湯を持つこの郷も寂れていく一方さ」

「霊験あらたか?」

「そういえば……龍宮みなせ。前にここの湯は霊力のこもった霊泉だとか言っていなかったか?」

「あ、はい……」

「なんだ、アンタら。ここに来て何日も経つのに、知らないのかい?」



 いぶきやマスターコンボイにみなせが答えるのを見て、明さんが苦笑してる……はい、残念ながら。



「それじゃあ、この郷の話をちょっとしてやろうかね」



 今日はもう浴場をチェックすれば仕事もしまいだしね、と付け加えて、明さんは僕らの輪の中に加わる形で腰を下ろした。



「昔、この大賀の郷は、川の氾濫や洪水が酷くて、貧しかったらしい。
 土地に問題があるのか、水はけが悪くてねぇ」



 あー、そういえば、僕らが探索した沼もけっこうな規模だしね。

 地脈が歪められているから、とも思ったけど、正常な状態を記したこの郷の地図を見ても、元々かなりの大きさの沼だったみたいだ。



「で、まぁ……そんな郷では長くはもたないと、時の村長むらおさが術者を雇ったのさ。
 それで荒れ狂う水の霊である龍神の荒魂あらみたまをこの土地に封じたらしい」

「はー、荒魂……」



 明さんの言葉にいぶきが不思議そうに目を丸くしてる。

 なんか、響きからしていぶき達の専門分野っぽい単語に聞こえるけど……



「……いぶき、まさかとは思うけど、知らないとか忘れたとか言わないよね?」

「いやいや、ちゃんと知っとるよ。
 なんぼなんでも、ウチかて巫女の端くれやもん」

「ホントに『端くれ』だけどねー」

「うー、やっちゃん冷たい……」

「へぇ、実はあたしゃ、よく知らないんだよ。『何か暴れん坊っぽうイメージがあるな』って程度でさ。
 ちょっと教えてくれないかい?」



 一方、明さんも聞いた話をそのまま覚えていただけらしい。解説を求める明さんに、いぶきは笑いながら話し始めた。



「んー、だいたいそんなんでうてるよ。
 神様には二面性があってな。荒々しい側面を荒魂、穏やかな側面を和魂にぎみたま言うねん。
 水神様で言うたら、さっき言うてた水害の類は荒魂やね。せやけど、土地を潤す和魂の側面もある」

「ふーん……
 つまり昔の人は、悪い神様を土地に封じたってことかい?」

「それはちゃうよ。
 和魂も荒魂も、単なる自然の性質やもん。それそのものには善悪あれへんよ。氾濫とか洪水で困るんは、人間の都合やん」



 自分なりに解釈する明さんだけど、その見解をいぶきがフォローする。



「荒魂のたとえに使った洪水の話にしても、その結果肥沃ひよくな泥を運んできてくれたりするし。そう考えたら、洪水そのものが荒魂と和魂、両方の側面を持っとるんよ。
 まぁ、せやけど“荒”ぶる“魂”言うだけあって、どうしても気性の激しいイメージあるし、人間の視点やと厄介な感じがするんよ」

「ふーん……」

「んで、和魂には幸魂さちみたま奇魂くしみたまっちゅう、また二つの性質があるんやけど……まぁ、今の明さんの話には関係あれへんね。
 興味があったら、“一霊四魂いちれいしこん”いう言葉を調べてみたらわかるよ」



 “いちれいしこん”ね……了解。そういうことなら後で個人的に勉強させてもらおうかな?



 で……イクトさん。



「何だ?」

「いや、どうかしたの? なんか難しい顔してるけど」

「むぅ……
 ……日立。ひとつ聞きたいんだが……さっきの話、荒魂を“封じて”しまったのか? “鎮めた”のではなく」

「へ? あぁ、そんな風に伝わってるけど?
 それがどうかしたのかい?」

「そうか……」



 明さんの言葉に、イクトさんはただうなずくだけで考え込んでしまう……あ、いぶきやみなせも渋い顔してる。



「オレ達の使わせてもらっている湯杜ゆのもり神社も、てっきりその龍神に感謝するためのものだと思ったのだが……そういうことなら話も違ってくるか……」

「どういうことだ? 炎皇寺往人。
 “封じる”と“鎮める”のとで、どう違う?」



 しびれを切らしたマスターコンボイが尋ねる……僕もなんかピンこないし、説明してくれる?



「それはボクが説明するよ。
 たとえば、マスターコンボイが荒魂だとする。気性の激しい神様だ」

「まーくんにはピッタリや」

「いぶきは黙ってて……否定しないけど」

「……本当に荒れてやろうか、貴様ら」

「あぁ、ゴメン。
 “封じる”っていうのはつまり、今のマスターコンボイを鎖でがんじがらめにするようなものなんだ。
 一方、“鎮める”っていうのは、ここにいるみんなで『どうかお怒りをお静めください』ってお願いするようなものなんだ」

「つまり……ムリヤリ黙らせるのが“封じる”。お願いしておとなしくしてもらうのが“鎮める”ってことかい?」

「そんな解釈であってます」



 明さんに答えるみなせの言葉に、なんとなく、どうしてイクトさんが渋い顔をしていたのかわかった。



 今の二つのたとえ――どっちが後々厄介か、なんて、考えるまでもない。

 “封じ”られた自分の鎖が解かれたら、より一層怒るに決まってる。「今までよくも縛り上げてくれたな」とか言って。



「なるほどねぇ……言い伝えだと、『封じる』ってなってたね。
 でも、神社を建てたのはウチのご先祖様だよ。それじゃダメなのかね」

「鎖でしばられたまま感謝されても、鎮まりようもないんじゃないのか?」

「それに……あなた方の先祖がそのあたりの事情を知っていたのかどうかも問題だ。
 自分がどんな扱いなのかもわかっていない連中に、『あなたがそこにしばりつけられているおかげで郷が潤いました。ありがとうございます』と感謝されても、イヤミにしか聞こえまい」

「あー……」

「重要視する問題かどうか、今の時点じゃわかりませんけど、正確な資料が欲しいですね。
 もしかしたら、やり方次第でもうちょっと郷を潤せるかもしれませんし」



 マスターコンボイとイクトさんにツッコまれる明さんにみなせが付け加える――ちょうどいいし、ジン達にその辺の資料も調べてもらう?



「可能なら、お願いしたいけど……負担になったりしないかな?」

「まぁ、大丈夫でしょ。
 ジュンイチさんもいるし、それほど手間にはならないと思うよ」

「まぁ、話まとめると、つまりその龍神さんの荒魂を封じて、湯が出るようにしたって話でえぇんかな?」

「そうそう。そういうこと。
 ……ってことは、やっぱりアレだよね。なるべく神社はちゃんと建て直した方がよさそうだね」

「そうですね。
 世話する人もいないようですし、これでは龍神様がお怒りになってもムリはないかと思います」

「わかった。考えとくよ」



 言って、明さんは本来の目的である改装した温泉の点検のため、部屋を出て行った――そういうことなら、ジャマにならないように僕らは少し時間をずらして入りに行こうか?



「せやね。
 ……せやけど、また意外なところから意外な情報が出てきたなー」

「また“龍”か……」



 いぶきのとなりで、イクトさんも腕組みしてつぶやく……まぁ、そうだね。



 “龍”脈をいじくられてダンジョンも同然になってしまっている山の各所に、この土地に封じられているという“龍”神……ただの言葉の一致と言われてしまえばそれまでだけど、無関係とは思えない。



「気になると言うのなら、やはり柾木ジュンイチ達に追加で調べてもらうよう頼んでおくべきだろうな。
 ……だが、実際に“神”とやり合ったオレ達がこんなところで神のあり方について講義を受けることになるとはな」



 付け加えるマスターコンボイの言葉に自虐的な響きが聞こえたのは、決して気のせいではないと思う。

 だって、マスターコンボイは元々……



「あー、せやね。
 まーくん達、ユニクロンと戦っとるんやっけ」

「まぁ、な……」



 気づいたいぶきに、マスターコンボイは渋い顔でうなずく――ツッコまれたくないところもあるだろうし、助け舟を出すことにする。



「10年前の“GBH戦役”でみんなが倒したと思っていたユニクロンが、ミッドチルダで復活しかけたんだよ。
 完全復活前に、六課のみんなが中心になってなんとか倒せたんだけど、完全復活してたら勝てたかどうか……」

「大変やったんやね……
 ウチも10年前の方は覚えとるよ……たくさんのトランスフォーマーのみんなが空を飛び回った時とか、グランドブラックホールの影響で世界中が大変なことになった時とか」



 “JS事件”の最後、復活しかけたユニクロンとの戦いの方に意識を持っていこうとするけど――いぶきはあっさり10年前の方に話を持っていってしまう。



「ウチの住んどった辺りはひどい嵐に襲われてなー。運良く大きな被害はなかったんやけど、土砂崩れとか起きるんやないかって大変やったんよ」

「………………そうか」



 笑いながら話すいぶきだけど――マスターコンボイは軽くうなずいて立ち上がり、



「……悪いが、オレはもう休むことにする」

「え? まーくん、お風呂は……?」

「日立明がチェックを終わるのを悠長に待つほど気の長い性格じゃないんでな。
 ここで待たされるくらいなら、さっさと休んで明日の朝にでも入ることにする」



 いぶきに答えて、マスターコンボイは部屋を出ていく…………逃げたな。



「…………ウチ、何か気に障るようなこと言ってもうたんやろか……」

「あー、いぶきは気にしなくてもいいよ、うん」



 首をかしげるいぶきには適当にごまかしておく――さて、どうしたものか……



 マスターコンボイ、“GBH戦役”の時にやらかした“アレコレ”、未だに気にしてるからなぁ……



 とはいえ、本人が話したがってないワケだし、僕からいぶきに説明するのも……



《マスター、最近こういうパターン多いですね》

「あー、僕が悪いワケじゃないよね? これ」



 あー、もう。ジュンイチさんといいマスターコンボイといい。二人よりマシとはいえイクトさんもそういうトコあるし。

 なんでこうも、僕の周りには自分の過去を気にしてる子ばっかり集まるのかね?






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぶぇっく……はぅ〜……」

「くしゃみしたいのか吐きたいのかどっちなんですか……」



 ジュンイチさんは相変わらずグロッキー。くしゃみをする余力もないらしい。



 それでも、歩けるくらいには回復したので、いよいよ無限書庫へと移動……ちなみになずなはおのぼりさんよろしくキョロキョロと周りを見回しながらついて来ている。







 で……到着しました、目的地。

 オレ達の目の前にあるのは、メカニカルな本局の内装には似つかわしくないシックな感じの木の扉……まぁ、魔力による強化(劣化防止的な意味の)処理はもちろんされてるんだけど。

 インターフォンを鳴らす……すぐに反応があった。



『はい、こちら無言書庫です』

「あぁ、どうも。
 ジン・フレイホークです」

『ジンくん……?
 “手伝い”の予定は、特に入ってなかったと思うんですけど』

「いや、そうじゃなくて、ちょっと個人的に調べものがあって、利用させてもらいたいんですけど……」



 言いながら、背後でまだ気持ち悪そうにしているジュンイチさんをにらみつける……「なんで事前にアポ取ってないんですか、言いだしっぺのクセに」という非難を込めた視線で。



「都合、大丈夫ですか?」

『あぁ、はい、かまいませんよ』

「じゃあ、失礼します」



 そして、扉が開く――ので、オレはなずなに向けて手を差し出した。



「な、何……?」

「つかまってた方がいい。
 最初の内は、なかなか慣れないだろうから」



 勝手知ったるオレの言葉。聞いておいた方がいいと考えたんだろう。なずなは素直にオレの手を取った。

 その手をちゃんと握って、オレはなずなを引っ張る形で踏み出す――扉の先の、無重力の世界に。



「わっ、わわっ!? 何これ!?」



 案の定あわてているなずなに苦笑する……まぁ、驚くよなぁ。

 だって……ただその場が無重力なだけじゃない。その無重力の空間を囲むように、グルリと本棚の列が輪を作ってる。しかもその本棚は、上にも下にも、見えなくなるほど先まで続いているんだから。



「ここが……」

「そう。ここが無限書庫。
 管理局が誇る超巨大データベース……次元世界の知識と歴史の総てが存在しているとも言われている場所だよ」



 目前の光景に圧倒されたまま、呆然とつぶやくなずなに説明してやる……こりゃしばらく手は放せそうにないな。こんなフラフラした状態のなずなを放したが最後、あっという間にトルネードスピンだ。



「け、けど、ここで先輩達や龍宮小夜の事件のことがわかるの?
 あの事件はわずか3年前……こんなところに資料が持ち込まれるとは……」

「それが、あったりするんだよ、これが」



 そうなずなに答えたのは、ようやく復活のジュンイチさん。



「ここは“書庫”だけど、本という形で情報が出力されているだけで、本質的にはデータベースに近い。
 ここには、それこそ本当にありとあらゆる情報が蓄積される。対象の古い新しい、管理世界、管理外世界を問わずな。極端な話、オレ達の昨日の晩飯の情報だってここで調べられるだろうな。
 どうしてそんなことが可能なのかはオレも知らんが、一説にはあらゆる世界の情報を自動で蓄積して、本という形に出力する“古代遺物ロストロギア”なんじゃないか……って話もある」



 そこまで説明して……ジュンイチさんはため息をついて、



「ただ……そんな側面もあるせいか、情報量は膨大でね……調べるのにもそれなりの手間がかかる。
 その上“あらゆる情報が集まる”っていう性質上、ここをあてにしている連中は山ほどいる。
 その結果が……ここの常駐職員、司書のみなさんの“あの状態”なワケだ」



 ジュンイチさんが視線で指した方を見て――言いたいことを察してくれたらしい。なずなが「ぅわ」と顔をしかめる。

 まぁ……ここの司書のみなさんが、ほとんどうつろな目で働きアリのごとくわらわらと動き回っていれば、そりゃね……



「ありゃ、体力的なところよりも精神的なところで“キテ”るな……
 おーいっ!」



 ジュンイチさんが声をかけて、ようやくオレ達に気づいたらしい。司書のみなさんの流れから離れて、オレ達の方に舞い降りてきたのはすっかりおなじみのこの人……司書長のユーノ・スクライア。

 ただ……なんだろう。追い詰められているふうなのは変わらないのに、なんか前より血色がいい。



 相変わらず追い詰められてるのに、コンディション的には回復してる……どうなってる?



「あぁ、ジュンイチさん、ジンくん……
 あと、そっちの子は……?」

「ンなことよりユーノ。何だよ、この有様。
 なんか、前来た時とは追い詰められ方が違うような……」

「あぁ、実は……」



 尋ねるジュンイチさんに、ユーノ先生は深く……それはもう深くため息をついて、



「レリスさんが、ここの作業環境を改善しようと、サポート用のデバイスを作ってくれたのは、前に話しましたよね?」

「あぁ。
 それで、むしろ作業効率が上がったのを幸いにいろんなトコからムチャ振りされるようになったって……」

「はい。
 それも、レリスさんがほうぼう回ってうちへの負担を減らすようかけ合ってくれたおかげで、最近では沈静化してきてるんですけど……」



 ………………どういうふうに“かけ合った”のかは、聞かない方がいいんだろうな。うん。



「じゃあ、作業環境の方はまともになってきてんだろ?
 だったら、なんでみんなして何かに追い立てられるように仕事してんだ?」

「あぁ、えっと……」







「今は大丈夫でも、いつ大口の依頼が来るかと不安で……そんな時に仕事が残っていたら大変だと思ったら、少しでも仕事が残ってると片づけずにはいられなくて」

「今すぐ休めこのワーカホリックども!」







 瞬時に間合いを詰めたジュンイチさんがツッコミのゲンコツを叩き落とした。



「今のお前らに必要なのはサポートデバイスでも改善交渉でもなく休養だ! それも身体じゃなくてメンタルのっ!
 六課でワーカホリックの代名詞になってる魔王なのはですらそこまでイッとらんぞっ!? あー、もう! レリスさんや美由希ちゃんは何やってんのさ!?」

「わ、わかってるんですけど……」

「いいから休め。今日はまぁしょうがないとしても、明日以降、一日でいいから完全休養をとれ」

「で、ですが……」







「や、す、め」







「………………はい」



 ジュンイチさんににらまれて、ユーノ先生はようやくうなずいた。

 たぶん、気づいたんだろう。このままゴネてると、今すぐ“休む”ことになると――ただし、医務部のベッドの上で。



「…………まぁ、それについてはいいや。わかってくれたみたいだし。
 で、こっちの用件なんだけど……」



 言って、ようやくジュンイチさんはオレ達に……というか、なずなに視線を向けた。



「なずな。
 コイツが、この無限書庫の司書長、ユーノ・スクライアだ」

「あ、えっと……
 は、初めまして。地球から来ました、霞ノ杜神社の退魔巫女、雷道なずなです」

「地球の退魔巫女……? ひょっとして、神咲さん達の同業の……?
 初めまして。無限書庫の司書長、ユーノ・スクライアです」



 ジュンイチさんの言葉に、さっきまでの有様に若干引き気味ながらも名乗るなずなに対して、ユーノ先生も名乗って握手をかわす。



「それで、コイツの仕事にからんで、ちょっとここで調べ物をさせてもらいたいんだ。
 かまわないかな?」

「あぁ、はい。大丈夫です」

「よしよし。
 なら、さっそく始めるぞ」



 ユーノ先生の許可も得たことだし、さっそく調査開始。もう一度「ちゃんと休むように」とユーノ先生に念を押して、ジュンイチさんが指示を出す。



「全員で殺到してもしょうがないからな、急ぎでもあるし、分担してやるぞ。
 検索はオレがやる。ジンとオレとじゃ、オレの方が処理能力は上だ。
 で、ここの勝手を知ってるジンが資料を回収。なずながそれを閲覧する」

「それはいいけど、アタシ、ここの文字読めないわよ」



 役割を分担するジュンイチさんになずなが口をはさむ……まぁ、ここに来るまで案内表示とか読めなかったみたいだし、そこはしょうがないか。

 けど……そのことなら心配ない。



「それなら大丈夫だ。
 言ったろ? 『ここは書庫の姿を借りたデータベースだ』って。
 すなわち、ここの本も純粋な紙媒体ではなく情報端末……ちゃんと読む人間に合わせて自動で翻訳がかかってくれる。安心して資料の山に埋もれるがいい」

「それはそれで安心できないような……」

「資料を引っ張り出し終わったらオレ達も一緒に調べてやるよ。
 とにかく始めるぞ」



 言って、ジュンイチさんが書架の一角に右手で触れた。



 同時――書架に触れたジュンイチさんの手に光が走った。走った光はジュンイチさんの手を通じて書架に流れ込み、書架全体に広がっていく。



 ジュンイチさんが“能力”を使ったんだ――意識体の一部をネットワークの中に流し込んで、データの検索やシステムへの干渉を行なうことのできる能力、その名も“情報体侵入能力データ・インベイション”。

 確かに、この能力を使えば、最初の資料が見つかるのも時間の問題だろう。

 じゃあ、オレはそれまでの間に……



「…………手、離して大丈夫か?」

「だ、大丈夫に決まっ……わわっ!?」



 なずなに、この無重力に慣れてもらうことにしようか。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「前に龍宮小夜が現れた時の事を考えると、ヤツはこっちから来たはずだが……」



 明さんと話をしてから一夜が明けて――今日も僕らは洞窟を探索中。先頭を進むマスターコンボイが、周囲を見回してつぶやく。



 ちなみに辺りを照らす光源は僕が作った魔力の光球。遠くまで届くよう強めの光にしてあるけど、それで逆に目を悪くしないように、自然光に近い光に調整してある。前にスレイヤーズを見て練習してたおかげで、なのは達が使う同様の魔法よりもいろいろ工夫してあるのよ。



 で、現状としては、この間龍宮小夜(仮)と出会ったところから、さらに奥に下りてきたところ……現時点では特に新しい手がかりはなし。道も今までのダンジョンみたいに枝分かれしていなくて、一直線に下の方に伸びている。

 道自体も広がっている……元々ロボットモードのマスターコンボイがなんとか通れそうなくらいだったのが、もうこの辺りはそのマスターコンボイが大立ち回りまでできそうなくらいの広さになっている。



「まぁ、大物を相手にすることになった際には助かるだろう。
 この広さなら、お前とゴッドオンしても思う存分戦える」



 答えるマスターコンボイだけど……うん。そう言いながら、ゴッドオンする気なくない? なんか僕らから距離を取ろうとでもしてるみたいに先に先にと進んじゃってさ。



「……やっぱ、ウチがまーくんに昨日何か悪いこと言ってまったせいやよね、これ……」

「んー、まぁ」



 なので……その原因に心当たりのあるいぶきも、渋い顔をしているワケだよ。



「うーん……」

「……待て、嵐山。
 貴様、まさかヤツに理由を問いただそうと考えていないか?」

「せやかて、このままなんは、どう考えてもあかんやん。
 ウチが悪いこと言ってまったんやったら、ちゃんと何が悪かったんか教えてもらって、謝らな」



 釘を刺そうとするイクトさんだけど……うーん、いぶきの言ってることも間違ってないからタチが悪い。



「あー、いぶき? そうするのはいいけど、郷に帰ってからにしようか?
 こんなところで問いただしても、ヘタしたら追い討ちにしかならないから」

「だからって、今のまーくんが、そのせいで何かヘマしてもうたら……」



 なおもいぶきが食い下がる――あー、くそっ、どうすりゃいいのさ、これ?







「………………む?」







 ……マスターコンボイ?



 不意に、先頭を歩いていたマスターコンボイが足を止めた……どうしたの?



「……何かいる」



 言って、マスターコンボイがオメガをかまえて――







「おい馬頭めず。また新しい人間が来たぞ」

「そうみたいだな、牛頭ごず







 そんな僕らの前に現れたのは人型の妖怪――それぞれ頭が牛と馬のそれになっている。

 しかも、どっちも武器らしいものを持ってる。牛の方が棍棒。馬の方が……スコップか? アレ……



 っていうか、今、コイツら……



「お前ら……今、『新しい人間が来た』と言ったな?
 つまり……前にも、それもつい最近、ここにオレ達以外の人間が現れたということか? そいつは何者だ?」

「何者か……それを聞きたいのは我らだ、人間」



 眉をひそめ、尋ねるマスターコンボイに牛の頭を持つ方の妖怪が答える。



「我はこの常世とこよの門番、牛頭」

「我はこの常世の門番、馬頭」

「お前達は何者だ、人間ども」

「トランスフォーマーと魔導師と退魔巫女と瘴魔神将だ。
 さぁ、貴様らの問いに答えてやったぞ。オレ達の前にやってきた人間について、教えてもらおうか」

「銀髪の巫女だ。
 我らを倒し、この先に進んでいった」



 銀髪の……龍宮小夜(仮)か!



「そうか……ヤツはこの先か。
 では、オレ達も通してもらおうか」

「そうはいかん」



 当然、マスターコンボイは彼女がいるというこの先に進もうとする……けど、当然2体の妖怪は僕らの前に立ちふさがる。まぁ、“門番”って言ってたしね。



「ここを通りたければ我らを倒していけ」

「もし勝てたら通ってよし。もし負ければ我らの供物になってもらうぞ」

「いい度胸だ。
 やれるものならやってみろ、妖怪ども!」

「ちょっ、マスターコンボイ!」



 あわてて待ったをかけようとするけど、マスターコンボイはかまわず妖怪達に突っ込んで――







「待て」







 けど、それを止めたのはイクトさんだった。



「今回はオレが行く」



 ……って、ちょっ、イクトさん!?

 マスターコンボイを止めてくれたと思ったら、今度はイクトさんが先走る気!?



「そう言うな。
 こっちとしても切実な理由がある」



 言って、イクトさんは僕らの前に進み出て、



「思えば、この郷に来て以来、ザコの掃除ばかりで目立った活躍がまったくない。
 すっかりコメディリリーフ担当でいいトコなしなんでな。ここらで復権を図らせてもらおうかとな」



 ………………見せ場がないの、気にしてたんですね。



「ずいぶんと見くびってくれるな、人間」

「我らは貴様のかませ犬だとでも言うつもりか?」

「あぁ」



 当然、イクトさんの言葉に牛頭と馬頭はご立腹。そんな2体にイクトさんがあっさりと答えて――その姿が消えた。

 正しくは高速移動だ。一瞬にしてその場から移動して――







「そのつもりだ」







 牛頭の頬に、背後から愛刀の刃をピタピタと当ててみせる。



「なっ…………!?」

「コイツ……!?」

「……『倒せば通って良し』とのことだったな」



 驚き、イクトさんに向けて身がまえる2体の妖怪に対して、イクトさんはそう言いながら息をつき、



「安心したぞ。
 ……命までは奪わなくてもいいということだから――――なっ!」



 自然体のかまえから、突然地を蹴った。一瞬にして距離を詰めると、牛頭のアゴを思い切り蹴り上げる!



「が…………っ!?
 こ、このぉっ!」



 不意討ち同然のその一撃に一瞬たじろぐものの、“門番”を名乗るだけあって、すぐに牛頭は持ち直した。イクトさんに向けて手にした棍棒を振り下ろして――







「ぬるい」







 一瞬にして、持ち手から先が消失した。イクトさんの剣、“凱竜剣”によって斬り飛ばされ、牛頭のはるか後ろの地面に棍棒の本体部分が乾いた音と共に転がる。



「牛頭!
 おのれぇっ!」



 一方、馬頭が牛頭の援護に動いた。地面に突き立てたスコップを思い切り持ち上げると、目の前の地面が持ち上がって――ウソ、岩盤丸ごと持ち上げやがった!?



 それを、イクトさんに向けて投げつける馬頭。岩盤はかわす間もなく命中、砕け散り――







「め、馬頭……っ!」







 まともにくらって、その場に崩れ落ちたのは牛頭だった。



 イクトさんが素早く牛頭の後ろに回り込んで、牛頭の巨体を楯にしたんだ。



 そして――







「味方が標的のすぐそばにいる時に、使う技じゃないな」







 イクトさんが馬頭との距離を詰めた。一閃のもとに馬頭のスコップを叩き斬る。



「くっ!」



 それでも、馬ならではの反撃というか、K1選手も真っ青のローリングソバットで反撃に出る馬頭だけど、イクトさんは元々前衛主体の近接戦タイプだ。あっさりと受け止めて――







「遅いっ!」







 馬頭の足をつかんで投げ飛ばした。馬頭の巨体が宙を舞い――空中でイクトさんがその身体を捕まえた。天地さかさまの状態に馬頭の身体を固定して、そのまま地面に叩きつける!



「…………もう動けまい。
 オレの勝ち……ということでいいな?」

「またしても、我らが人間に敗れるとは……」

「常世の門番たる我らが……無念……」



 淡々と尋ねるイクトさんに返ってきたのは、事実上のギブアップ宣言――大地に倒れたまま、牛頭と馬頭は姿を消した。



「逃げた!?」

「ヤツらは負けを認めた。追う必要はない」



 声を上げるマスターコンボイに答えて、イクトさんは凱竜剣を異空間に収納する――その時だった。











 僕らの周りが――変わったのは。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ここは……?」



 目の前の景色が、信じられへんかった。



 確か、ウチらは洞窟の底におったはず……なのに、今、ウチらは……











 一面の、花畑の中におった。











「何だ? これは……幻覚か?」

「いや……違うな」



 周囲を見回すイクトさんの言葉をまーくんが否定した。



「位置情報が完全に別の場所にいることを示している。
 おそらくは空間転移の類だろう」



 つまり……ウチらはあの洞窟の底から、別の場所に飛ばされたっちゅうこと?



 周りを見回すけど――特に悪意を持った存在がいるようには見えへん。



 たまに、ジュンイチさんがおったら大喜びで追いかけそうな小動物が足元を駆けていく――物騒な気配は、少なくとも今の時点ではこの場には存在せぇへん。



 どこかに飛ばされてきたとしても……その“どこか”であるここは、一体どこなんや……?





















「その疑問には……私が答えましょう」





















 ………………っ!?







「小夜さん!?」







 そう。



 声をかけられ、振り向いた先には小夜さんがおった。



 さっきまでは影も形もなかった……ウチらがここに来たみたいに、空間転移で現れた……?



「そんなことは些細なことでしょう?
 今のあなた達の疑問は、自分達がいるここがどこなのか……ということのはず」



 まぁ、それはそんなんやけd





















「龍宮、小夜ぉっ!」





















 静寂を破ったのは、小夜さんを鋭く呼ぶその声――次の瞬間、衝撃が巻き起こった。







「まーくん!?」







 一瞬にして小夜さんの目の前に飛び込んだ、人間モードのまーくんが、オメガの一撃を小夜さんに叩き込んだからや。





 小夜さんは何かの方法で防いだらしい。巻き起こった衝撃と同時、まーくんはこっちに弾き返されてくる――いきなりどないしたんよ!?







「ヤツが敵か味方かは二の次だ。
 あの柾木ジュンイチが最大級の警戒を見せた相手だ……先手を打って警戒させておかなければ、敵対された場合一瞬でつぶされるぞ!」



 牽制のつもりやったってこと?



 せやけど、それにしたっていきなりすぎや……まーくん、さっきから何をそんなに気ぃ張っとんの!?



「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。
 私には、あなた達と戦う理由はありませんから」



 まるでなっちゃんみたいに敵意むき出しのまーくんやけど、そんなまーくんを前にしても、小夜さんは落ち着いた様子でそう答える。



「ここは常世。死者の国とも、理想郷とも呼ばれている世界」



 とこよ……?



 そういえば、さっきイクトさんと戦った牛頭と馬頭が、『常世の門番』言うてたな……







 常世。



 ウチも、神社で少しは勉強してる。



 小夜さんの言葉がウソでないなら、時の流れから隔絶された、日本神話にも記されている異世界……っちゅう話や。



 仙人。稀人まれびと、不老長寿……そんな単語も頭を走る。







「その常世が、貴様の今までの行動とどうつながる?」







 そう尋ねるのは、まーくんを押さえてくれたイクトさん。







「貴様は妖怪達を率い、郷の女性をさらって精気を集めていた。
 そしておそらく、先日の地震……その原因となった、岩盤を巨大な霊力で叩き割ったという一撃も貴様の仕業だな?
 その二つを結びつければ、集めた精気というのが、その一撃のために必要とされたことはわかる。
 だが……その一撃を放った、そのそもそもの理由が見えてこない」

「いえ、見えていますよ?
 今現在……あなた達の目の前に」



 イクトさんの話に、小夜さんは落ち着いた様子でそう答えた。



「この常世の門を開くこと――そのために精気を集め、私の霊力を神域にまで高め、洞窟の底と常世の門をつなげたのです。
 そしてこれが私の目的であり……つまりもう、私のすべきことは終わっています」

「なるほどねぇ……」



 小夜さんの言葉に、今度はやっちゃんが前に出た。



「じゃあ……質問を変えようか。
 あんた……その計画を“いつから”始めた?」

「……というと?」

「なずなの話が本当なら、あんたは3年前、なずなの神社の先輩を5人殺した後、姿を消している。
 ひょっとして……その時には、もう今回の計画は始まっていたんじゃないの?」

「ちょっ、やっちゃん!?」



 いきなり何言い出すん!?



 それやったら、小夜さんは、まるでその計画のためになっちゃんの先輩達を殺したみたいな……



「そうですね。
 えっと、キミは……」

「蒼凪恭文。
 まぁ、通りすがりの魔法使いとでも覚えておいてよ」

「恭文くん、ですか。
 キミの言っていることは、少し間違っています」

「『少し』ね……
 つまり、“間違ってない部分もある”……と?」

「…………なるほど。
 その歳で、なかなかの観察眼を持っているみたいですね」



 やっちゃんの言葉に、小夜さんは笑顔でうなずく。



 ……つまり、やっちゃんの指摘は間違ってる部分もあるけど、正しい部分もある……それって、どこなん?



 なっちゃんの先輩達を殺したんが間違ってる? それとも殺したんは事実やけど、計画のためにってところが間違ってる?



“今回の計画のため”“私が彼女達を殺した”というのは誤りです。
 “3年前の事件の時には今回の事件はすでに始まっていた”というのも、誤りです。
 正しくは……」





















「3年前、“私が殺された”ことで“始まった”んですよ」





















 ………………え?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………まぁ、こんなところかな?」



 97管理外世界の地球、3年前、氷室山、えとせとらえとせとら……思いつく限りのキーワードで片っ端から検索をかけて、ジンにかき集めてもらって、なずながそれに目を通す――けっこうな量の資料を見つけたところで、オレはひとまず検索を打ち切った。



 とりあえず、今まで見つけた分の資料を一通りチェックしてみよう。それでも足りなきゃ再検索だ。



 そんなことを考えながら、ジンを手伝って見つけた資料を一通り引っ張り出して、一緒に一足先に資料をチェックしているなずなのところに戻ってみると――











「………………何よ、これ……」











 そこだけ重力が設定された閲覧スペース……周りにうず高く資料を積み上げたテーブルのド真ん中で、なずなが顔を真っ青にしていた。



「な、なずな!?
 どうしたんだよ!?」

「あぁ、ジン……」



 あわてて声をかけるジンに振り向くけど――明らかに青ざめてる。資料を調べた結果だとしたら、何を見た……?



「ジン……どうなってるのよ、これ……
 何で、こんな……こんな話になってるのよ!?」

「落ち着け! オレはお前が何を見たのかわからないんだからさ!
 まずはお前が見た資料について教えてくれよ!」

「そ、そうね……ごめんなさい」



 同様のあまり自分の胸倉をつかんでくるなずなを、ジンがなんとか落ち着かせる……元々イレギュラーには弱いタイプだったけど、それでも彼女がここまで揺らぐことは今までなかった。よっぽど予想外の結果が出たと見たけど……



「まず……ひとつ聞かせて。
 ここの資料の正確性は……信用してもいいのよね?」

「もしデタラメだったら、たったひとりであの妖怪だらけの森に突撃してやらぁ」



 ジンに確認をとるなずなに、迷わず断言してやる――そう宣言してもいいくらい、この無限書庫の資料の正確性は信用できる。

 オレのその宣言に、なずなはますます渋い顔を見せた。手元の資料にもう一度視線を落とす。



「だとしたら……アタシの敵討ちは、まったくの筋違いだったのかもしれない」

「どういうことだよ?」

「確かに、見つけてきてくれたのは氷室山の事件だった。
 龍宮小夜の名前も……先輩達の名前もあった。
 この資料によると、龍宮小夜と先輩達の受けた依頼がブッキングしていた……別々の依頼人から、同一の事件への対応を依頼されたってことらしい。
 そして、そのダブルブッキングの場で、先輩達は龍宮小夜と衝突している。
 そこまでは……アタシ達の認識は、間違ってなかった」



 聞き返すジンに、なずなは自分を落ち着かせるように、努めて淡々と語る。



「けど……そこからが違った。
 この資料が正しいとしたら……この両者の衝突によって出た死者は……」







「“1名”」







 ………………ちょっと待て。



 なずなの認識では、死者は5名……なずなの先輩達だったはずだ。







 けど、無限書庫の資料では1名。







 5名と、1名。この違いが意味することがあるとしたら……



「おい、なずな……
 それって、まさか……」

「えぇ……」



 オレと同じ結論に達したらしい。恐る恐る尋ねるジンに、なずなはうなずいてみせた。







「その時の争いで殺されたのは……」





















「龍宮小夜」







(第9話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!



小夜「ここは常世。死者の国とも、理想郷とも呼ばれている世界」

マスターコンボイ「理想郷、だと……!?」

恭文「つまり、理想的な世界……
 ってことは、ここなら僕の身長が伸びたりとか!?
 フラグとかもう立たせずにすませられるとか!? ちゃんと清算できるとか!?
 トラブルとか起きずに、巻き込まれずに平穏に暮らせるとか!?」

イクト「道に迷わず目的地に行けるとか!?
 機械を壊すことなく扱えるとか!?」

いぶき「や、やっちゃん? イクトさーん……?」

小夜「……苦労してるんですね、あなた達……」





第9話「常世に 墜ちる 守護者」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「オレ達と柾木ジュンイチ達、二つのチームに別れての展開となった第8話だ」

オメガ《相変わらず、ミスタ・ジュンイチは転送酔いに苦しんでましたね……ホント、今期は無双なんだかヘタレなんだかよくわかりませんね、彼は。
 一方で、ミス・小夜の目的も、その一端が明らかになりましたね》

Mコンボイ「オレ達がたどり着いたあの“常世”という世界へと通じる道を作ること……それがヤツの目的だったということだな」

オメガ《ですが、まだわからないこともありますよ。
 そもそも、どうして彼女はそんなことをしようとしたんですか?》

Mコンボイ「そういえばそうだな……
 それに、オレ達と柾木ジュンイチ達、それぞれの場所で判明した事実もある」

オメガ《3年前の氷室山で殺されたのが、ミス・小夜の方だった、ということですね……》

Mコンボイ「もしそれが本当だとしたら、今オレ達と対峙している龍宮小夜はいったい何者だ、ということになるな……」

オメガ《まぁ、そこは次回の話で明らかになるでしょう。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)


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あきゅろす。
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