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頂き物の小説
第6話「被害者 救出 完了」



 ふむ……龍脈を使っての道造りも、この辺の深さが限界ですか。

 できれば、もう少し潜ってからにしたかったのですけど……まぁ、この程度でも問題はないでしょう。



「それではみなさん、準備をお願いします」



 私が指示を下し、周りに従えていた妖怪達は一斉に散っていった。

 今まで集めた、精気の袋を私の指示通りに配置するために。



「私の霊力と、これまでに貯めた大量の精気。
 そして土地に染み込んだ妖力。
 これらがあれば……」



 すべての準備は整った。私が印を結ぶと、地面に陣が描き出される。

 陣を描く霊力の線の交点には精気の袋。私の霊力に導かれ、陣の中に満ちていく。



 これで準備は万端。後は発動のみ――











「いざ、開かれん、常世とこよの門!」











 私の声を合図に、目の前の空間が歪むのがわかる――“こことは違うどこか”につなげたその空間の歪みの中から、二頭の巨大な妖怪が現れた。



 なるほど。彼らが……







「……なんだおめぇ」

「ここは人間が立ち入っていい場所じゃねぇぞ……?」



「『人間』と言っても、それは“ただの人間”の話ですよね?」



 口々に告げる妖怪達に、静かにそう答える――と、向こうも気づいたみたいだ。



 私が――“ただの人間”ではないことに。



「おい、馬頭めず。コイツ、ただ者じゃねぇぞ。
 そもそも、現世うつしよから直接来るなんて、ずいぶんと非常識なヤツだ」

「おぅ、我にもわかるぞ、牛頭ごず……
 だが、我達も常世の門番。そう簡単にここを通すワケにはいかねぇ」

「通りたければ、実力で通ってもらおうか」

「もし負けたら我達の慰みものになってもらう」



 ……いいでしょう。




「わかりました。
 では……」







「私も、全力でお相手いたします」











『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説



とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記



第6話「被害者 救出 完了」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……恭文……裏切ったのか……!?」

「甘いんだよ、マスターコンボイ。
 所詮、僕らのパートナー関係なんてその程度だったってことだよ」



 信じたくない――そんな想いを込めて投げかけるオレの言葉は無残に打ち砕かれた。



「気づいていなかったのはお前ひとりさ」

「勝手に信じて、無様に踊ってる貴様を見るのは楽しかったぞ」



 ジン・フレイホーク、炎皇寺往人……貴様らもか……っ!



「ごめんなー、まーくん。
 ほら、長いものには巻かれろっちゅうし」

「ぐ………………っ!」



 いぶきまでもが敵に回った。歯がみして、この状況を作った張本人をにらみつける。



「柾木ジュンイチ……やってくれたな……!」

「誤解してもらっちゃ困るな。
 みんなは“正しく”理解しただけさ……誰を切り捨てるのが一番なのか、ね」

「いけしゃあしゃあと……!」



 味方はいない。孤立無援……だが、ここであきらめるワケにはいかない。



 最後の最後まであがいてやる……いざ、勝負!



「いくぞ……っ!」





















「ドロツー!」

「はい、ドロツー」

「オレもドロツー」

「ドロフォー、緑だ」

「ドロフォー、赤や」

「ドロフォー、青。
 はい、直撃もらっとけー」

「のあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 起死回生のドロツーは一周してマスターコンボイへと戻っていった。

 えっと、引かされるのは……18枚か。



「あははー、まーくん、ウノ弱いなー」

「貴様ら……初心者相手に……っ!」

「勝負の世界は非情なんだよー」



 大笑いのいぶきにうめくマスターコンボイに僕が答える……いや、まぁ、だって……ねぇ?



「ドベのヤツが杏ちゃんトコで全員におごり、なんてなったら、初心者のお前が集中砲火喰らうに決まってるだろ」

「というか、初心者がいるのにそんな賭けを持ち込むか……?」

「わかってないなー、マスターコンボイ。
 初心者がいるからこそ持ち込むカモにするんじゃないか」

「柾木ジュンイチ! 貴様最初からっ!?」



 ……とまぁ、そういうこと。

 負け残ったらおごらされるとなれば、そりゃ確実にドベを回避する方法を選ぶに決まってるじゃないのさ。



《さすがマスター。容赦ない!》

「フッ、勝負の世界は非情なんだよ」

《それに引き換え、ボスは情けねぇなぁ》

「やかましいっ!」



「……何やってんのよ……」



 あれ、ひとりだけ参加せずに風呂に行ってた空気の読めないなずなじゃないのさ。



「うっさいわねっ!
 悪いけどやったことないのよ! 初心者なんてその手のゲームは絶好のカモじゃないのよ!」

《…………だそうだぜ、ボス》

「何が言いたいっ!?」











 ………………って、アレ?











「………………?
 どうした? ヤスフミ」

「いや、なんか……」



 漠然と感じた違和感――ジンに答えた、その時だった。

 旅館が……いや、











 地面がグラリと揺れたのは。











「地震、か……?」

「割と大きいなぁ」



 周囲を見回すジンのとなりでいぶきがつぶやく――とはいえ、家屋がつぶれるほどではなさそうだ。

 建物がきしみでもすれば、さすがに冷や汗のひとつもかいていたとは思うけど、これぐらいなら問題なさそうだ。



 もっとも……







「ち、ちょっと何落ち着いてるのよ!?
 こういう時は……そう、へそ! へそを隠すのよ!」

「落ち着けなずなー。それは雷様だー」







 若干一名、すっごくあわてている人間がいたりするんだけど。ジンがツッコんでるけど、落ち着きそうにはちょっと見えない。



「旅館のテーブルは低すぎて、隠れにくいわ!? 外に出るのよ!」

「待てい」



 駆け出そうとするなずなだけど――瞬間的になずなの背後に追いついたジュンイチさんがその頭をむんずとつかんで引き止める。



「まぁまぁ、なっちゃん、落ち着きぃな」

「な、何落ち着いてるのよ、アンタ達は!?」



 いぶきもなだめるけど、なずなはバタバタと大あわて――そうこうしている内に、揺れは次第に弱まっていく。

 さらにしばらくすると、完全に揺れはなくなった。



「ほら、鎮まった」

「……た、助かったの?」

「大げさやなぁ、なっちゃんは」



 いぶきがニヤニヤする気持ちはよくわかる。ジュンイチさんの手から解放されて、キョロキョロと周りを見回すなずなからはいつもの強気さはまるで見られないもの。



「けど、大きかったんは確かやし、ちょっと様子見よか」

「そ、そうね……
 ……コホンッ、ちょっと取り乱しちゃったわ」



 なずなは咳払いをして、気を取り直そうとして――







「お前、地震苦手だったんだなぁ」

「スルーしようとしてるんだから、蒸し返さないでよ!」



 ジンのツッコミに、なずなは顔を真っ赤にして反論してきた。







 ともあれ、外の様子を見に行こうとするいぶきとなずなに僕らも続いて……って……



「…………どうしたの? マスターコンボイ」



 なんか、冷や汗ダラダラなんだけど……あ、もしかして。



「マスターコンボイも地震苦手だったとか?」

「違う」



 即答だった。

 ただ……僕に対してさらにどうこう言うワケでもなく、マスターコンボイが視線を向けたのはジュンイチさんとイクトさん。



「柾木ジュンイチ。炎皇寺往人……
 貴様らは、“わかった”な?」

「まぁ……な」

「あぁ」



 え? ごめん。

 みなさんだけで納得してないでどういうことか教えてくれない?



 いつもならさらに追加のツッコミが来るところでシリアスやられると、なんかイヤな予感しかしないんだけど。



「あぁ、すまない。
 実はな、今の地震の直前……バカデカイ“力”が膨れ上がったのを感じたんだ」



 あぁ、毎度おなじみの電波受信?



「電波とか言うなっ!
 ……まぁいい。とにかく、地震の直前、巨大な“力”の解放があった……それは間違いない」

「マスターコンボイは漠然と“力”としか感じちゃいないけど……ありゃたぶん、霊力だな」



 マスターコンボイの言葉にジュンイチさんが補足する……って、それ……



「巨大な霊力の発現があり、その直後に地震、か……
 偶然とは思えんな」

「しかも、解放されたのが霊力って……」



 イクトさんやジンも同じ結論に達したらしい。

 地震との関連はともかく、解放された“力”が霊力ってことは……



「ミシャグジの言っていた“巫女”の仕業かもしれないな……
 嵐山、雷道、お前達はどう思……」



 言いながら、イクトさんが顔を上げて……って、あれ? いぶきとなずなは?







「いくわよ、いぶき!
 神社が崩れてないか確かめに行かないと!」

「ちょっ、なっちゃん、待ってぇな!
 そんなあわてんでもえぇから!」







 外から聞こえてきた声に顔を出してみると、旅館を飛び出して全力疾走のなずなをあわてていぶきが追いかけているのが見えた。



 ………………えっと……







「なずなの弱点が、ひとつわかったな」

「うん……」







 ありゃそうとうダメっぽいなぁ、と、ジンの言葉にうなずく――とりあえず、この場でそれ以上この件については追求しないでおくことにする。



 どうしてかって? そんなの決まってる。



 だって……







「ほほぉ……アイツ地震苦手なのか……
 ………………使えるあそべるな」







 ものすっごく邪悪な笑顔を浮かべている暴君様がとなりにいるからだよ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 郷の若い人達が駆け回る中を、僕らもなずな(といぶき)を追いかけて神社に向かうことにした。



 というのも……詳しい話を聞けるかもと思ってみなせの部屋に行ってみたら、そのみなせがいなかったから。もしかしたら神社の様子を見に行ったのかも。明さんが帰ってきたって言っても、工務店の人達、神社の修繕はまだやってないはずだし。







 で……







「おーい、いぶきー」

「あぁ、やっちゃん。それにまーくん達も」



 先を歩いていたいぶきに追いついた――いぶきは急がないの?



「あー、なっちゃんがあわてすぎなだけやしね。
 今さらあわててもどうにもならんしなー。神社が今の地震でつぶれるとしたら、もうとっくに……な時間やし」

「あー、確かに。
 その場にいたらマスターコンボイがロボットモードで支えるとかできただろうけどねー……ひとりで」

「そこでオレひとりに振るか!?」



 なんかマスターコンボイが悲鳴を上げてるけど、相手をするよりも早く神社に到着……とりあえず、つぶれてはいなかったので一安心。



 さて、なずなは……なんて、探すまでもなかった。



 だって、僕らのすぐ目の前、境内のド真ん中で神社を見上げてるから。



「なっちゃん、どないー?」

「……大丈夫だったわ。
 けどあんた達、対策本部の一大事によく落ち着いていられるわね」

「ウチらが走っても、壊れるもんは壊れるよ。
 それに、あかんかったら建て直してもらうだけやん」

「いざとなったらマスターコンボイが」

「恭文……そのネタはもういい」

「うぅ……アンタ見てると、何かひとりあわててるアタシがバカみたいに思えてくるわ」

「んー、いつものなっちゃんやったら、もうちょっと冷静やと思うよ。
 たぶん地震のせいで、動揺してるんよ」

「う……そうかも」



 あ、すんなり認めた。

 どうやら、いぶきの意見に珍しく賛成らしい。



「ここは一旦、旅館に戻って、テレビ速報でも見るべきやと思うなぁ……」

「んー、そのことなんだけど……」



 いぶきの言葉に、さっきマスターコンボイやジュンイチさん達が感じた霊力のことを話そうとした、その時だった。











「ただの地震ではなかったな」











 ………………誰?



 いきなり僕らの話に乱入してきたのは、ジュンイチさん以上に髪を逆立たせた浴衣姿の男――ちなみに初対面のはず。



「わっ! あ、アンタ誰よ!?」



 当然、そんなヤツがいきなり現れてきたもんだから、驚いたなずなが後ずさり……あれ?



「ジュンイチさん……?
 それに、イクトさんもマスターコンボイも……あんまり驚いてないですね?」

「んー、まぁ」



 そう。いきなりの男の登場に平然としてるのが約3名――それも、いつもなら怪しい人間には真っ先に警戒しそうな3人が。

 尋ねるジンにもジュンイチさんはあっさりとしたものだし……えっと、誰?



「なんだ、気でわからんのか。ほれ」



 不意に霧のような何かが噴き上がったかと思うと、次の瞬間男の姿が変わる――って!?







『ミシャグジ!?』







 そう。男は一瞬にしてあのエロ妖怪、ミシャグジへと変身していた。

 ……あー、いや。正確には『戻った』か。こっちがホントの姿なんだし。



 けど……これでイクトさん達が警戒してなかった理由がわかった。

 “力”で相手を識別できるこの3人は、すぐにあの男がミシャグジだってわかったんだ。



「あ、ミシャグジ様、こんばんわ」



 で……ジュンイチさんとは別の意味で動じてないのがここにひとり。あっさりと現状を受け入れてあいさつするいぶきに、ミシャグジは尻尾をパタパタと振ることで応えて――



「な、なな……」



 対するなずなは驚きまくり。言葉にもならない声を上げながら口をパクパクするばっかりだ。



「ふふふ、惚れたか」

「ほ、惚れるワケないでしょ!?」



 それでも、ニヤリと笑うミシャグジの言葉にようやく再起動。ホント今日は余裕ないねー。いや、あの地震のせいだっていうのはわかるんだけど。



「そもそもなんで人間に化けてるのよ!?」

「そんなん、本来の姿で出たら大騒ぎになるからちゃうん?」

「うむ。それ以外に理由があるか?」



 それ以外の理由……ねぇ。

 そんなの、ひとつしか思いつかない。せーのっ。







『ナンパ』

「むむっ、それは否定できん……!」

「そこは否定しなさいよ!」







 ……否定できないらしい。僕ら男性陣に声をそろえてツッコまれ、うめくミシャグジになずながかみつく。



「まぁ、ともあれ、この程度の変化、私にとってはどうということもない。
 元々この土地は霊力も豊富ではあるし……欲を言えば、精気をもうちょっと充実させたいがなぁ……」

「……ツッコまないわよ。えぇ、ツッコまない」

「そ、そういうのんは、勝負に勝ったらなー」



 ミシャグジの視線の意味は考えるまでもない。それぞれキッパリ拒絶するいぶきとなずなだった。



「うむぅ……
 あぁ、一応人間の世界では、御坂と名乗ることにした。この姿の時は、その名で呼ぶように」

「御坂……ねぇ?
 超電磁砲レールガンとか撃ったりしないよな?」

「れーるがん?
 なんだ? それは」

「……いや、いい。
 ネタの通じんヤツ相手にボケ続けてもしょうがないし」



 せっかく振ったネタは珍しく肩すかし。あっさり引き下がるジュンイチさんに代わって、今度はなずなが尋ねる。



「そ、それで……ただの地震じゃないって、どういうことよ?」

「あぁ、それなんだけどさ……」

「いや、待て」



 改めてさっきの僕らの間でのやり取りを話そうとする僕を、またまたミシャグジ改め御坂が止めた。



「……なんで止めるのさ?」

「どうやらお前達も気づいているようだが……どうせ話すなら、まとめた方がよい」

「まとめてって……」



 ミシャグジの言いたいことはすぐにわかった。



「あぁ、みんなやっぱりここにいた。探したんだよ」



 言って――みなせが息を切らせて境内にやってきたからだ。

 あちこち駆け回ってきたらしい。少し息が切れている……って、あれ? まだこっち来てなかったの?

 僕ら、みなせが部屋にいなかったから、てっきりこっちに来てるもんだと……



「みなせ、アンタどこにいたのよ?」

「どこにいたも何も、みんなと同じ旅館だよ。
 地震の情報をテレビで確認していたら、いきなり明さんに連れてかれて、そのまま青年団に組み込まれた」



 同じように気になったなずなの問いにみなせが答える……っていうか、青年団?



「そんなん、この郷にあったん?」

「主に工務店の若い衆が中心になっている集まりらしくてね。団長も明さんだし」



 あー、いかにもっぽいなぁ。



 納得すると同時にちょっと安心。良かったー、僕らは引っ張られなくて。



「ボクを引き込んでちょうど必要人数が足りたらしくて。
 それで、あちこちの家の見回りが終わって、ようやく解放されたってワケだよ」

「こんな夜中にお疲れさんやなぁ、みっちゃん」

「本当にね……」



 どうやらよほどこき使われたらしい。本気で組み込まれなくてよかったー。







「珍しい……恭文の不幸が発動しなかった」

「いやいや、甘いよ、ジュンイチさん。
 きっとこの後にでっかい不幸が来る前フリとか」








 あー、そこでコソコソ話してるジュンイチさんとジン。二人はちょっと後で『OHANASHI』しようか?



「それはともかく……テレビでは、何て?」

「うん、やっぱりそうとう大きい地震だったみたいで、こんな深夜なのにどこも速報やってた。
 しかも、震源地はこの辺りなんだって」

「一番揺れが大きかったんや」

「みたいだね」



 尋ねるなずなに対するみなせに、いぶきが納得する……まぁ、マスターコンボイ達の話が本当なら、そりゃ震源はこの辺なんだろうけど……



「その件について、私から少し話があるのだが」

「あ、みっちゃん。この人ミシャグジ様な。泥棒さんちゃうよ」

「うん。もう会ってるから」



 どうやら、僕らが境内ここで話している間に、二人もすでに出会っていたらしい。



「あ、そうだ。何か言ってたわね。ただの地震じゃないとか。
 恭文達も、それ絡みで何か言いかけてたし……」

「うむ……とはいえ、ここで立ち話も何だ。まずは旅館に戻ろうではないか」



 「この姿ならお前達の旅館にいても大丈夫だしな」なんてミシャグジは言ってるけど……



「一応言っておくけど、こんな時間だしナンパはできないよ?」

「恭文……お前、私がナンパしか能がないと思ってないか?」



 思ってますけど何か?






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 情報交換の場に選ばれたのは僕らの滞在する部屋――どっこいせ、と床に腰を下ろしたミシャグジを中心に、僕らも同様に座布団の上に腰を下ろす。



「さて、先刻の地震だが、さっきも言ったとおり、あれはただの地震ではない。
 何者かが強大な霊力を用いた結果、生じたモノのようだ」

「どうしてそんなことが、アンタに……あ、そっか。アンタ、蛇の妖怪だから」



 なずなはすぐに理由に気づいたらしい……ちなみに僕もすでに気づいてる。

 というのも、ミシャグジと出会ったあの沼の探索から帰ってきた後、ジュンイチさんやイクトさんからミシャグジに絡んだ伝承について詳しく聞いてたせいで、それなりに予備知識があったから――それによると、蛇の妖怪は、時に水の精霊や土の精霊として崇められることがあるんだとか。



「うむ。水と土は私の領分。故に、この程度のことならば、判別ができる。
 で、私のわかる範囲だが、原因はやはりくだんの洞窟だ。あそこで、巨大な霊的反応があった」



 腕組みをしながら、ミシャグジは僕らへと視線を向けて、



「お前達も、少なからず気づいていたようだな?」

「あぁ、そっちは……」

「オレ達が、霊力の爆発的な解放を感知したんだ」



 僕に代わって、ジュンイチさんが“感じた”組を代表してそう答える。



「ふむ、なるほどな……昼間の説明の通りなら、お前達は“力”の扱いに長けた能力者だということ。その感覚が、霊力の反応を感知したか……」

「そういうことだ。
 因果関係を考えて、お前を封じた巫女の一派の仕業だとオレ達はにらんでる」

「そう考えるのが妥当だろうな」

「具体的には、どういうことしたん?」

「すんげぇ攻撃的な解放の仕方だったな。
 けど、その解放の結果があの地震だったとしたら……何かしら、誰かしらへの攻撃の余波だったとは考えにくいな。それにしちゃデカすぎた。
 たぶん、解放した霊力が直接岩盤を直撃してる……相手を狙った攻撃が着弾したか、直接狙ったか、まではわからないけどな

「あぁ……そんな感じだ。
 うまく言えんが、“いめぇじ”的には、でっかい霊力でできた拳で岩盤を叩き割ったような、そんな業だな。
 ジュンイチの言う通り、確実に霊力は直接岩盤を捉えた――だからこその、あの揺れだ」



 でっかい拳で地面を……



「……地球割り?」



 僕の頭に浮かんだのは、そんな感じだった。なんて鳥山明ちっくな。



「よぅわからんが、まぁ、そんなもんだ。土地の深い部分を叩き割った、という意味では間違ってはいない」

「そんなことをしてどんな意味が……
 あの、ミシャグジ様……失礼、御坂様。もう少し詳しい事はわからないんですか?」

「すまんな。
 私の力も敵に封じられていて、その程度しかわからん」



 尋ねるみなせだけど、ミシャグジもそれ以上のことはわからないらしい――僕ら側の“感じられる”組の中でも特に感知に優れるジュンイチさんの方を見るけど、ジュンイチさんも肩をすくめて首を振るだけ。



「とりあえず、今回の地震はさっきの一回で終わり。それは確実だ。あんな膨大な霊力の放出、何回も行なえるモンではない。
 だから安心していいと、郷の皆に伝えてやるがよい」

「わかりました」



 それはみなせの仕事だ。若旦那や明さん辺りに伝えれば、あっという間に郷中に広まるだろう。



「……けど、敵の狙いが何かは、まだわからないんですよね」

「それを調べるのはほれ、そこの連中だろう?」



 ミシャグジがアゴでしゃくったのはもちろん僕らだ。



「やね」

「……洞窟に入ってる時に地震が起こったら、たまらないわね」

「生き埋めはたまらんなぁ」

「……やめてよ。考えないようにしてるんだから」



 ホント、そうなったらたまらないよね……







「……さっき恭文が青年団に巻き込まれなかった不運の不発、発動するならここだな」

「でしょうね……」

「警戒はしておくべきだろうな」








 ………………はい。『OHANASHI』相手にイクトさん追加ー。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、いうワケで、やってきました、洞窟の入り口ー」



 明けて翌日――毎度の如く恭文達に首根っこをつかまれて探索に連行……はい、ごめんなさい。さすがに迷惑かけてる自覚はあるんだよ。



 けど……しょうがないじゃないかっ! 怖いものは怖いんだからっ!

 妖怪そのものは平気だけど、あの「何か出そうで出てこない。けどやっぱり出てきそう」って空気がホントにダメなんだよっ! おかげでホラー映画もオカルト系限定でアウトだよっ!



 ……うん。モンスター系は平気なの。エクソシストはダメでジェイソンはOKなの。フレディはグレーゾーン。モグワイかわいいよモグワイ……あれ? 『グレムリン』ってホラージャンルだっけ?







 …………話を戻そう。



 で……妖怪が実際目の前に出てきてくれれば大丈夫なのもいつも通り。妖怪どもを薙ぎ払い、ついでに森も薙ぎ払い、ちょっぴり火事も起こしたけれど、気にすることなく現場に到着――







「……気にしてくださいね?」



 ……いぶきにまで怒られた。







 とにかく、そんな感じで妖怪どもをブッ飛ばしながら、ミシャグジの証言にもあった洞窟の入り口に到着したところ。

 んじゃ、いざ調べに……







「………………」

「……?
 ジュンイチさん、どうかした?」



 立ち止まったオレの後ろで、恭文がオレにぶつかりそうになったけど……すまん。答える余裕、ちょっとない。



 なんか、こう、背筋の辺りがゾワゾワするんだよね。



 この感覚……経験的には、けっこうヤバイ。



 と言っても、相手がとんでもなく強いって感じじゃない。



 ただ……何かがヤバイ。そんな確信だけがポツンとある……うまく説明できてないのはわかるけど、とにかくそんな感じ。



「誰かおる……!」

「お前もわかるのか?」



 前方から視線をそらずに尋ねるオレの問いに、いぶきも周囲を警戒しながらそう答える。



 何だかんだでコイツの野生のカンはバカにできない。どうやら、“当たり”っぽいね……







「…………ジュンイチさん、アレ」

《前方に誰かいます》







 オレ達の警戒の意味を読み取り、周りを探ってくれていた恭文とアルトアイゼンが声をかけてくる――よく目をこらしてみると、確かに前方に人影がある。



 というか……こっちに来る?







「おそらくアレが、ミシャグジの言っていた巫女ね。
 そこで何をしているのよ!?」

「様子を見に上がってみれば……」



 声をかけるなずなに対し、相手は洞窟の奥に満ちる暗闇の中から姿を現した。







 それは、ひとりの巫女だった。



 ミシャグジの証言通り、歳はいぶき達や恭文達よりちょっと上……恭文達とオレ達の間、くらい。

 腰の下まで届く銀髪を後ろに流し、整った顔立ちをしたその巫女は、鋭い視線をオレ達に向けるけど――



「そう……」











「その折鶴が、あなた達をここまで導いたのですね」





















 ――――――――――っ!?





















 その言葉と同時――オレの背筋をこの郷に来て以来最大級の悪寒が駆け抜けた。



 オレの意志とは無関係に警戒レベルが最大に跳ね上がり、全身の細胞が戦闘モードに切り替わったのがハッキリとわかる。







 コイツ……“違う”。







 “強い”“弱い”の話じゃない。コイツの力は――あえて表現するなら、“異質”だった。



 感じられる“力”の大小で言うなら、それほど脅威と言える感じじゃない。せいぜい、オレやイクトと同等程度……いや、ブレイカーや瘴魔神将であり、人一倍出力の大きなオレ達と互角って時点で十分異常なことなんだけど、それでも「オレ達より強い」ってワケじゃない。



 ただ……“違う”んだ。何て言えばいいのか……その“力”のあり方、成り立ちが、根本からまるで違うっていうか……

 「“10Kgの鉄の塊”と“100ルクスの光線”、“どっちがおいしい”?」って聞かれてるようなものだ。そもそも比べるべき基準がメチャクチャで、測りようがない……そんな感じ。







 コイツ……一体何者だ?







 相手の正体を測りかねているオレだけど――その答えは意外なところからもたらされた。



「アンタ……」





















「龍宮小夜ね……!」





















 ………………え?



 なずなの言葉に、一瞬だけ思考が停止する。



 今……コイツ、何て言った?







 “タツミヤサヨ”って……それって、まさか……







「え……小夜さん!?」



 オレと同じ考えに至ったのか、いぶきも声を上げる――けど、かまわずなずなは巫女に向けて続ける。



「“3年前の氷室山”について、心当たりはないかしら?」

「氷室山、ですか……
 すると、あなたは霞ノ杜神社の関係者ですか?」



 その答えに、なずなの視線に殺気がこもったのがハッキリとわかった。



「やっぱり……先輩達を“殺した”のは、あなたなのね」

「そうなりますね」

「えっ、な、何それ!?
 ちょっとなっちゃん……」

「答えなさい! どうして先輩達を殺したのよ!」

「ふっ……」



 なずなの言葉に小さく笑って――巫女は、消えた。



「消えた……!?」

「………………」



 相手が去ってもなお、なずなは彼女の消えた空間をにらみつけていた。



「なっちゃん、どういうこと!?」

「何がよ?」

「アレが、小夜さんなん?」



 その言葉に、なずなはようやくいぶきの方を向いた。



「……ちょっと待って。
 そもそもアンタと龍宮小夜はどういう関係なのよ?」



 あー、そういえば、なずなはいぶきの恩人がみなせのお姉さん、龍宮小夜であることを知らないんだっけ。



「あぁ、それはな」



 そして――いぶきがなずなに説明する。



 昔、妖怪に襲われたところを助けてもらった恩人であること。

 またそれがこの道に進むきっかけになったことも話した。



「ふぅん、つまりアンタにとってはアレが命の恩人なワケね」

「せや」

「それがなんで、顔見てわからないのよ」



 あー、そこにツッコむか。



 だいたいその辺の事情に想像のついたオレをよそに、いぶきがなずなに答える。



「ウチがいくつの時に、小夜さんに助けられたと思ってんの?」



 そう……本人の証言によれば、いぶきが助けられたのは10年も前の話。それだけ時間が経てば、顔の記憶だってあいまいになってる方が普通だ。

 増してや、いぶきは当時小学校に上がるか上がらないか、って頃のはず。そんな幼い頃の記憶ともなればさらにおぼろげなものだったはず。成長した彼女を見て、すぐに気づかなかったとしてもムリはない。



「……なるほど。そりゃムリもないか。納得したわ」

「で? なずなの方はどういうことなんだ?
 なんか、“殺した”とか物騒な言葉が飛び出してきてたけど」

「そのままよ」



 尋ねるジンに対し、なずなはあっさりとそう答えた。



「彼女は、いぶきにとっては命の恩人かもしれないけど、アタシにとっては先輩達の仇なの。
 3年ほど前、任務遂行中だった霞ノ杜神社の巫女達が5人、氷室山っていうところで殺されたのよ……いぶき、知らない?」

「ううん、ぜんぜん」

「そう……
 この業界じゃ、割と有名な事件のはずなんだけど」

「甘いぞ、雷道なずな。
 このバカが、そんな業界のニュースなぞ気にするものか」

「ちょっ!? まーくんひどいっ!?」

「気にするのか?」

「気にせぇへんです、ごめんなさいっ!」

「あー、アイツらへのツッコミはまた後で、ってことにして……だ。
 で……その事件の犯人が、龍宮小夜ってことか?」



 ジンの問いに、なずなは深く息を吐き出した。

 思い出すように、遠い目をして語り始める。



「未解決の事件よ。状況は限りなくクロだけど、確証がなかったってところね。
 先輩達は霞ノ杜神社の腕利きの巫女で、そう簡単にやられる人達じゃなかった。
 けど……その時期に、龍杜神社の方でも龍宮小夜の失踪っていう事件があってね。
 彼女は、全国でもトップクラスの退魔巫女よ。彼女の実力がウワサ通りなら……不可能じゃない」

「で、でもそれだけで……」

「龍宮小夜が最後に担当した事件も、氷室山の近くの村だったのよ。
 だから最初に言ったでしょ。『確証はなかった』って」



 反論しようとしたいぶきに、なずなはさらに根拠となり得る情報をぶつけてきた。



 あー、状況を整理してみようか。

 つまり……わかっているのは、氷室山ってところで起きた妖怪事件に龍宮小夜が関わっていたこと。

 で、同じ事件に関わっていたのかどうかはともかく、近くになずなの先輩にあたる霞ノ杜神社の退魔巫女が5人いた……それだけ。



 けど、なずなの言うところの“腕利きの”霞ノ杜神社の巫女5人を殺害する、なんてことができそうだと判断“できる”。それだけの実力を龍宮小夜が持っていること。

 そして、事件のあった時期に前後して、龍宮小夜が姿を消していること……



 なるほど、犯人だと疑うには十分すぎるくらいの状況証拠だわな。



 それに……仮にそれが杞憂、彼女が犯人じゃなかったとしても、近くにいた以上、彼女が何か知っている可能性は高い。事件を追っている人間がその行方を追いかけるのはむしろ当然の流れだ。オレだってその事件に関わっていたなら龍宮小夜の行方を追うだろう。



「アタシも個人的に調べてみたけど、証拠が何もなかったのよ。
 疑わしいと思ってても、本人が行方不明だったし、あの山で何が起こったのかわからないの。
 だから、怪しいとは思ってたけど、そこで止まってたわ……“さっきまでは”」

「せやけど、あの人は自分からなっちゃんに『霞ノ杜神社の関係者か』って聞いた……」

「えぇ。
 オマケに、自分が殺したとも言ったわ」

「むぅ……」



 そうなると、どう考えてもあの“龍宮小夜”が霞ノ杜の巫女殺しの犯人であることは、疑いようがない。



「悪いわね、いぶき。
 アンタには悪いけど、あの人は殺人者なのよ」

「んー……」



 結論づけるなずなだけど、一方のいぶきはまだうなっていた。



「否定する気?」

「いや、それはあれへん。
 ハッキリしてない以上、そこは議論しててもしゃあないやろ」



 思いの他あっさりと、いぶきはなずなの問いにそう返した。



 まぁ……なずなが殺る気マンマンな理由はわかる。本人が「殺っちゃった」って言ってるし、いくらでも疑える状況だしなぁ。



 とはいえ、それが事実だっていう保証もない。誰か、真犯人は別にいて、ソイツをかばっているっていう可能性もあるし、単にこっちの動揺を誘うブラフの可能性もあるんだ。

 いずれにせよ、現段階では否定も肯定もできない。議論していてもしょうがないっていういぶきの判断は間違ってない。







 けど……だとしたら、どうしていぶきはそんなにうなってる?







「じゃあ、何よ。
 自分の中で、それが飲み込めないでいる?」

「それもあるけど、一番困ってんのは……」











「これ、どないみっちゃんに説明するかやねん」













 ………………あ。

 いぶきにツッコまれて、思い出す――オレ達の中で、龍宮小夜の一番の関係者は、先輩を殺されたなずなでも、彼女に憧れて退魔巫女になったいぶきでもない。



 彼女の肉親である……みなせだ。



「困るやろ?」

「そ、そうね……確かに」



 確かに、みなせにこの話はしづらい。しづらいし……問題はまだある。




「それに、みっちゃんはどこまで知ってたか……って部分もあるしね」

「どこまで……とは?」

「失踪した理由とか、霞ノ杜神社なっちゃんトコの巫女さんが殺された事件が同時期、ほぼ同じ地域で起こった、なんてこと、知っててもおかしないと思うんよ」



 聞き返すマスターコンボイにも、いぶきはまたまたあっさりと返してくる。



 みなせは元々バックアップの方に実力を発揮するタイプ。そして……“バックアップ”の中には、情報収集も含まれる。

 なずなが自分の神社の事件を自力で調べ上げたというなら、みなせならなおさらこれらの事実を知っていてもおかしくないんだ。



 ………………つか……







「…………いぶき、そんなに頭よかったっけ?」

「じゅんさん……今ボケるトコやないと思うんですけど」

「いや、本気で疑問なんだけど」

「ちょっ!?」

「当然だろうが。
 普段からボケすぎなんだ、お前は」



 マスターコンボイにまでツッコまれて凹むいぶきは、まぁ、置いといて……



「どっちにしても、今ここでこれ以上話してもしょうがないだろ。
 いぶきの言う通り、あの龍宮小夜の言葉を肯定するにも否定するにも、現状じゃ根拠が足りなさ過ぎる」

「……アンタも、あの女が無実だって言いたいの?」

「今回ばかりはいぶきが正解。状況証拠と当事者の証言だけじゃ、結論を出すには早い……そう言ってんだよ。
 そもそも、アイツが龍宮小夜だってことも怪しいさ。いぶきは顔も覚えてないし、なずなだって実際に顔を合わせたのは今回が初めてだろう?
 アイツがそれを利用して、あっさり認めることで龍宮小夜をかたってる……そういう可能性だってゼロじゃない。ミシャグジが御坂に変化したように、外見だって変身系の術でいくらでもごまかせるんだからな。
 そして何より……彼女は自分がなずなの先輩達を殺したことは認めたけど、“自分が龍宮小夜であることは否定も肯定もしていない”」

「あ………………」



 さすがにそこまでは気づいていなかったらしい。改めて納得したかのように、いぶきがポンと手を叩く。



「まぁ、とりあえず顔は覚えた。帰ってからみなせに面通しすれば、少なくとも外見が龍宮小夜かどうかはハッキリするだろ。
 それに……」



 なおもこちらをにらみつけてくるなずなは適当に流して、洞窟の奥をにらみつける。



「とりあえず、第一目標は変わらない。
 あの巫女――仮想・龍宮小夜の確保と」

「残るひとりの神隠し被害者、旅館の女将さんの救出……でしょ?」



 恭文にうなずいて、オレが先頭に立って洞窟に足を踏み入れる。



 さて、鬼が出るか蛇が出るか……











 ………………とりあえず、モンスター的なものじゃなくてホラー的なモノが出てくるのは、勘弁願いたいなー……






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………ん?」



 とりあえず気配察知に優れるジュンイチさんを先頭に、洞窟を進むことしばし……不意にジュンイチさんが足を止めた。



 まさか……またさっきの龍宮小夜(仮)が?



「いや……違う。
 デカイ妖怪の“力”……増大し続けてる!? 精気吸ってるぞ、コレ!」



 精気を吸ってる……って、まさか!?



「あぁ! そこに女将さんがいる可能性大!
 ジン!」

「はい!?」

マスターコンボイ一番ちっこいナビ連れて先行しろ!
 こういう閉鎖空間じゃ、レオーで走れるお前が一番速い!」

「了解っ!」

「ちょっと待て! 今オレの名前になんてルビ振ったっ!?」



 マスターコンボイが抗議の声を上げるけど、ジュンイチさんが答えるよりも早くジンがその首根っこを捕まえた。足に着けたレオーのジャッキが勢いよく地面を叩き、前方に跳んだジンの姿が瞬く間に洞窟の奥へと消えていく。



「よし、オレ達も急ぐぞ!」

「もちろんっ!」



 ジュンイチさんの言葉にうなずいて……って!?







「イクトさん、そっちじゃないです! こっちこっち!」

「てめぇっ! こんなところで遭難されても責任持てねぇからなっ!」

「っと、すまん」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ジュンイチさんに言われて、マスターコンボイの誘導で洞窟の中を進むことしばし――いきなり広い空間に出た。



「ここは……?」

「地底湖のようだが……」



 確かに、開けた空間は大半が水没。湖のような状態になってる。



 天井もかなり高い。ここなら、ヤスフミ達も存分に空中戦ができそうだ。







 それはともかく、このどこかに、女将さんが……?







「………………ジン・フレイホーク」







 って、マスターコンボイ、いきなりオメガをかまえてどうしたのさ?



「いいからかまえろ。
 ………………来るぞっ!」

「――――――っ!?」



 マスターコンボイの叫びとほとんど同時だった。オレがかまえるのと――ちょうどオレ達の目の前に、強烈な空気の塊が叩きつけられたのは。



「ほぉ……こんなところまでたどり着く人間がいるとはな」

「人語を解する……高位妖怪か」



 そして、オレ達の目の前に“敵”が舞い降りてきた。マスターコンボイのつぶやきにオレもそいつを見て……



「………………おいおい」



 自分の頬が引きつるのがハッキリとわかった。







 体格はだいたいロボットモードのマスターコンボイと同じくらいの……巨人。そう、人型だ。

 昔の、この国の修行僧……えっと、山伏だったか。それにそっくりな衣装。

 背中でバサバサと羽ばたいてる、カラスのそれを思わせる漆黒の翼。

 そして……真っ赤で、鼻が極端に高い顔。



 おいおい……天狗かよ!?

 ミッド生まれのオレでも知ってる、メジャー妖怪の代表格じゃないかっ! なんでそんな大物をオレ達二人だけの時に引き当てちまうかなっ!?



「落ち着け、ジン・フレイホーク。
 相手の名が売れているからといって、それがすなわち強いとは限るまい」

「いや、そうだけど……」

「舐めるなよ、小僧が。
 私の羽はただの飾りではないぞ? この翼は風を操り空を舞うためにある。
 貴様ら若造に、勝ち目があるかな?」

「そんなこと……やってみなければわかるまいっ!」



 言って、マスターコンボイが地を蹴る――瞬間、ロボットモードへと変身。変身に合わせて巨大化したオメガを、思い切り天狗に向けて振り下ろす!







「おっと」

「何――がぁっ!?」







 けど――当たらない。天狗は素早い身のこなしでヒラリとかわすと、マスターコンボイの背中にさっきの空気の塊を叩きつける!



「ったく、言わんこっちゃない!」



 うめいて、オレは十字架の装飾が施されたリボルバーと、これまた十字が刻まれたダガーナイフを取り出す。



 バルゴラの代わりにってアリス姉から預かったストレージデバイス、“レイ・ターレット”と“レイ・カーバー”だ。



 レイ・ターレットから放つ魔力弾の連射で天狗を牽制。その間にレオーのサポートで跳躍。空中の天狗との距離を詰めてレイ・カーバーに生み出した魔力刃で一撃――どわぁっ!?







 瞬間、天狗の姿を見失うのと同時、全身に衝撃――気がつけば、地面に背中から叩きつけられていた。



 どうやられたのかはわからないけど……回り込まれて一撃かまされたんだろうな、きっと。







「くっそ……やっぱ、空戦のプロフェッショナルは違うわ」

「フンッ、飛べるのはアイツだけじゃない!
 ジン・フレイホーク! 援護し――だぁっ!?」

「早いよっ!?」







 先日覚えた気功での飛行術で飛び立とうとしたマスターコンボイがあっけなく撃墜された。ホントに早いよっ!







「くそっ、我が物顔で飛び回りおって……!
 せめて、同じ高さまで飛び上がることができれば、まだまともに戦えるものを……」

「けど、その身体でまた飛べるようになってから、そんなに日は経ってないだろ?
 まだ慣れてないのにそれを実現しようと思ったら、もうアイツの反応以上スピードで一気に飛び上がる、くらいしか……」

「オレのスピードではムリ、か……
 せめて、貴様のレオーのようなものがオレにあれば……」



 言いかけて……マスターコンボイの動きが止まった。



 ……あー、まさかとは思うけど……



「ジン・フレイホーク……
 考えてみれば、貴様もゴッドマスターだったんだよな……」







 ………………やっぱり。



 確かに、ゴッドマスターであれば誰とでもゴッドオンできるマスターコンボイなら、オレともゴッドオンできる……オレとゴッドオンして、レオーのシステムを自分のボディで再現しようってことか。







「けど、いけるのか? ぶっつけ本番になるぞ?」

「いつものことだ。かまうものか。
 多少のリスクを冒してでも……アイツにデカイ顔をされるのはまっぴらだ!」



 止めても止まらないな、コレ……



 はぁ……しょぅがない。それじゃ……いくか!











『ゴッドオンッ!』











 その瞬間――オレの身体が光に包まれた。強く輝くその光は、やがてオレの姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、彼の身体に重なり、溶け込んでいく。

 同時、マスターコンボイの意識がその身体の奥にもぐり込んだのがわかる――代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したオレの意識だ。



《Leap form》



 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターコンボイのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように太陽の如き橙色に変化していく。

 それに伴い、オメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、二振りの刀となるとグリップ部分が消滅。両足の外側、足首を起点に切っ先が上を向き、両足に添うような形で合体する。

 そして、ひとつとなったオレ達二人が高らかに名乗りを上げる。







《双つの絆をひとつに重ね!》

「混沌を越える流星となる!」



「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」











「バカな……二人がひとつとなっただと……!?
 なんと面妖な!」

「妖怪のお前に……」

《言われたくないわっ!》







 驚く天狗に言い返して、オレ達二人が地面を蹴る――瞬間、オメガが足首の合体ジョイントを中心に勢いよく回転。豪快に地面を叩いて、オレ達の身体を上空に打ち上げる!







「何ぃっ!?」

「《っ、らぁっ!》」







 驚く天狗との距離を一気に詰めて、身をひるがえして蹴り落とす――墜落した天狗を追って着地。再び上空に逃げようとするその足をつかんで地面……というか湖面に叩きつける。



 翼の羽毛が水を吸ったのか、重そうに身を起こす天狗に向けてさらに蹴りを一発――ついでにさっきのジャンプの時のように、勢いよく回転したオメガが天狗の顔面を痛打、ブッ飛ばす!



「……なるほど。
 確かに、レオーのジャッキアクションが基本になってるな……」

《まぁ、当然だな。
 貴様のメインデバイス……バルゴラだったか? それが手元にない以上、メインで使っているレオーが最優先でシステムに繁栄されるのは当然だろう》



 ……つまり、バルゴラを持ってた時にゴッドオンしていれば、もっと違った形になってたってことか……



「まぁ、その辺はまた後で話すとして……とりあえず」

《今は、オレ達を舐めてくれたアイツだな》



 言って、オレ達はヨロヨロと身を起こす天狗へと向き直る。



 そんじゃ……言葉そのままの意味で、天狗の鼻をへし折ってやるとするか!







「《フォースチップ、イグニッション!》」







 オレとマスターコンボイの咆哮が交錯し――オレ達二人のもとにミッドチルダのフォースチップが飛来した。そのまま、背中のチップスロットに飛び込んでいく。

 それに伴って、オレが宿るマスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。



《Full drive mode, set up》



 オレ達に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡ったのがわかった。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出し始める。



《Charge up.
 Final break Stand by Ready》




 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――右半身を大きく引き、かまえたオレ達の両足で、オメガにフォースチップのエネルギーが集中していく。

 そして、オレ達は地を蹴った。空中で身をひるがえして、背中を向けた形でヨロヨロと身を起こす天狗へと跳んで――





「《グランツァー、グローリー!》」





 振り向くように大きく身体をひねって右の跳び回し蹴り。オメガも蹴りに合わせて回転、天狗に一撃を加えて――着地と同時、今蹴りを叩き込んだ右足を軸足として左足でも後ろ回し蹴りを叩き込む!



 もちろん左足の蹴りでもオメガが一撃。二連蹴りを喰らった天狗が宙を舞い――同時、蹴りに合わせて叩き込まれたフォースチップのエネルギーが炸裂した。余波で周囲に飛び散っていた余分なエネルギーにも引火。大爆発となって、天狗は大きく放物線を描いて吹っ飛んで大地に叩きつけられる。



 それでも、なんとか立ち上がる天狗が、力尽きて再びその場に崩れ落ちる――断末魔とばかりにその身体が爆発し、天狗の身体は完全に四散した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………出番、取られた。



「取られたなー」

「取られてもうた……」

「って、オレ達の到着を待たせていたら先行させた意味がないだろうが」



 ジュンイチさん、いぶき共々イクトさんにツッコまれるけど……いや、なんか今回、暴れてないなー、と。



《というか、前回も暴れてないですよね》

「あー、そうだねー……」



 アルトの言葉に軽く相槌を打ちながら、なずなが着物姿の女性の様子を診ている方に視線を向ける。



 そう。旅館の女将さんだ――発見したマスターコンボイによれば、今までの被害者と同じく、妖力の膜に包まれた状態で地底湖の底に沈められていたらしい。



 膜のおかげで窒息はしてなかったみたいだけど、またすごいところに沈めてたもんだなぁ……



「あー、たぶん、湖に女将さんの精気を染み出させてたんちゃうかなー」

「だが……それは、今までの被害者と手口が違わないか?」



 思いついた仮説を口にするいぶきにマスターコンボイが口を挟む――確かに、奥田さん達、今までの被害者のみんなは妖力の膜から直接精気を吸われていたらしい。

 けど、今回はわざわざ地底湖に放り込まれて……いぶきの話の通りなら、湖全体に精気を染み出させていた。今さら考えるまでもなく、精気を取り出す手口が違いすぎる。



「彼女は何か……別の目的でさらわれていたのかもな」

「別の……?
 どういうことですか? イクトさん」

「彼女から取り出した精気は、他の被害者から得られた精気とは別の用途に使われるはずだったんじゃないのか……そういうことだ」



 聞き返すジンにイクトさんが答える――ふむ、別の用途、か……



「それを話し合うのはいいけど、まずは女将さんを連れて郷に戻るわよ」



 と、女将さんの診断を終えたらしいなずなが口を挟んでくる……ってことは、女将さんは大丈夫みたいだね。



「そんじゃ、いつものように運搬役を決めるかね。
 フフフ、これが最後だし、某キング・オブ・ハートのごとく全勝で勝ち抜いちゃる」

「前回は不覚を取ったが、今回は負けんぞ。
 ……というか今回まで背負わされたら出血多量で死ねるわ」

「あー、前回負けて明さん背負った時、鼻血ダクダクでしたからねー、イクトさん」



 ジュンイチさん、イクトさん、ジンが口々に言いながらじゃんけんの体勢に。僕とマスターコンボイもその輪に加わり――ふと考えるのはいぶきとなずな……そして龍宮小夜のこと。



 ほら、いぶきは憧れの人が敵に回って、なずなは先輩の仇……どっちにとっても、厄介ごとのフラグがバリバリに立ってるじゃないのさ。







 とりあえず……郷に帰ってからの報告会で、ちょっと念入りに話をしてみた方がいいかも――











『じゃーんけーん、ほいっ!』

「――って、ほ、ほいっ!?……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」







 …………初回に引き続き、女将さんの運搬役は僕に決まったらしい。



 教訓。真剣勝負の場で他のことを考えるべきじゃないね、うん。







(第7話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!



牛頭「通りたければ、実力で通ってもらおうか」

馬頭「もし負けたら我達の慰みものになってもらう」

小夜「わかりました。
 では……私も、全力でお相手いたします。







 ……私のターン! ドロー!」

恭文「なんか作風変わったーっ!?」





第7話「首なし馬 の 怪」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「敵の首魁らしき人物と対面し、物語が転機を迎えた第6話だ」

オメガ《また意外な人物が出てきたものですね……》

Mコンボイ「龍宮小夜、か……
 また厄介な人物が敵に回ったものだな。本物だとすれば、嵐山いぶきは役に立たんだろうし、全国屈指の実力者だと言うし……」

オメガ《そもそも、ミス・なずなが殺る気マンマンというのが、ねぇ……》

Mコンボイ「これもこれで、厄介ごとにつながりそうな予感がするな……」

オメガ《それはさておき、ミスタ・ジンがついにボスとゴッドオンしましたね》

Mコンボイ「あー、そうだな」

オメガ《実はコレ、ミスタ・ジンの生みの親、DarkMoonNight様からいただいたネタがベースになってます。
 いくつかアイデアをいただいていたのですが、その中にあった『とりあえずレオーを活かそう』というコンセプトのネタをベースにしつつ、且つ“バルゴラが手元にない”という現状を考慮してむしろ“レオーしか活かさない”という、作中のような仕様となりました。
 “リープフォーム”という名前も氏の発案。“跳躍”という意味だそうです》

Mコンボイ「本編でもツッコんでいるが……やはりバルゴラがヤツの手元にあった場合、やはりその使用を前提とした形になっていたのか?」

オメガ《でしょうね。
 ですが、現時点でのミスタ・ジンはレオーがメインのデバイスです。レイ・ターレットなどは借り物ですし。
 なので、レオーを主軸として運用するスタイルとしてリープフォームが設定された……と。
 もうこうなってはリープフォームがミスタ・ジンのゴッドオンのデフォルトフォームですから、バルゴラが手元に戻ってきてもこのままですね、はい》

Mコンボイ「ゴッドオンで活かされないバルゴラを不憫と見るべきか、その不満をバルゴラからぶつけられることになるジン・フレイホークを不憫と見るべきか……」

オメガ《とりあえず、ミスタ・ジンを見捨ててバルゴラの顔を立てておけば不幸にはならずにすむかと》

Mコンボイ「何気にジン・フレイホークを見捨てたな、貴様っ!?」

オメガ《気にしてはいけませんよ、ボス……実際見捨ててますから(ボソッ)。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)


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