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頂き物の小説
第3話「謎めく 沼の 攻防戦」



「さて……救出は一歩遅れたけど、ここから挽回ね……」







 戦いの中、バカやって捕まった挙句に盾にされたいぶきを助けたのは、これが初対面になる金髪の退魔巫女。

 ため息まじりに言いながら、雷道なずなは手にした槍を後ろに向けて一閃――直後、まとめて叩き斬られた蔓がボトボトと音を立てて落下する。背後からなずなを狙っていたヤツだ。







「遅いわ……」







 そのつぶやきに、蔓とその本体、人面樹がわずかにひるむ……へぇ、言うだけあってけっこうやるみたいだね。







「アンタ達も下がってなさい。
 見たところ退魔師でもなさそうなのに、素人がこんなところに首突っ込んでくるんじゃないわよ」







 ……ただ、この上から目線はムカつくけど。



「仕方あるまい。
 向こうはこちらの力を知らないのだからな……だからアルトアイゼンをかまえるな。ジガンスクードにカートリッジを装填するな」



 ハッハッハッ、何を心配しているのかな、イクトさん?



 僕はただ、あの人面樹をブッ飛ばすためにだね……



「その人面樹ごとあの退魔巫女をブッ飛ばしそうだから言っているんだ」











 ………………チッ、バレたか。











 そうしている間にも、なずなは人面樹と交戦中。振るった槍の一撃で、蔓とまとめて、人面樹も幹を半分ほど抉られる。



「アタシはこいつらみたいに甘くないわよ。
 チリひとつ残さず滅ぼしてあげるわ。覚悟なさい!」



「な、何の……ま、まだ溜めた力で……」



 幹への直接攻撃で、ただでさえジュンイチさんの炎で受けていたダメージにさらなるダメ押しを加えたみたいだ。うめいて、弱った人面樹がなずなとは別の方向に蔓を伸ばす。



 その先には無造作に置かれた袋の山。パッと見ではそれが何かはわからない――だけど、







「何するつもりさ?」







 アイツが逆転のあてにするあたりからして、どうせロクなモノじゃないだろう――と、いうワケで、その先に回り込ませてもらった。アルトで一閃、人面樹が伸ばした蔓をまとめて叩き斬る。



 そうしている間に、なずなによって本体である幹が両断された。







「お、おお……この我が……む、無念……」







 呪詛の声をもらしながら、今度こそ人面樹は消滅した。







「………………終わったみたいね」







 いぶきと違って、ちゃんと人面樹が滅びたことを確認した上でなずなが槍を引く――いぶきと違ってちゃんと人面樹が滅びたことを確認した上で。



「うぅっ、耳が痛い……」



 いぶきがなんか嘆いてるけど、自業自得なので放っておく。



「で? アンタ達は何なのよ?」

「まぁ、成り行きで首を突っ込んだ、通りすがりの特殊能力者……ってなところかな?」



 と、なんかなずながこっちに訝しげな視線を向けてきたので、とりあえずジュンイチさんがそう答えてくれる。



「…………はぁ、まぁ、いいわ。
 とにかく、被害者をひとまず宿に連れて帰るわよ。そのくらい手伝いなさいよね」

「後からしゃしゃり出てきて偉そうに……」



 マスターコンボイが毒づくけど、奥田さんを連れて帰らなきゃならないっていうのは彼女の言うとおりだ。



 と、いうワケで――











『じゃーんけーん、ほいっ!』











 男衆全員参加の“第一回・被害者運搬役選抜じゃんけん大会”が開幕した。











『とまコンシリーズ』×『神楽道中記』 クロス小説



とある魔導師と守護者のちょっと一休みな道中記



第3話「謎めく 沼の 攻防戦」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ただいまー』

「お、おかえりなさい、みなさん!
 ……あ、なずなさんと合流できたんですね」



 とりあえず……本日負け残ったのは僕だった。奥田さんを背負ってみんなと一緒に神社まで帰還。気づいたみなせがさっそく出迎えてきてくれた。



 ちなみに、人面樹に締め上げられて動けないほどに疲弊したいぶきも運ばれる側になった。こちらは僕と最下位決定戦を戦ったマスターコンボイが背負ってる……そういえば、最初にいぶきを“運搬”したのもマスターコンボイだったよね。



「せやなー。
 うんうん、まーくんとは運命感じきゃわっ!?」

「感じるな、そんなもの」



 バカを言い始めたいぶきを、マスターコンボイが乱暴に床に放り出す。ま、こっちは心配ないでしょ。

 問題は……







「みなせ……どう?」

「………………うん、奥田さんから妖怪の陰の気は感じない。
 妖怪の子種は植えつけられていないよ」







 尋ねるなずなに、奥田さんの診察をしていたみなせが答える……そっか。奥田さんは大丈夫か。

 胸くそ悪い結果にならずにすんだのは幸いかな?







「あー、それから、コレ」







 そんなみなせ達に口をはさんで、ジュンイチさんが下ろしたのは、人面樹が持っていた何かの袋。



「それは……?」

「森にいたデカブツg

「大物が抱えていたモノよ。いくつもあったけど、とりあえず調べるだけならひとつでも十分でしょ?」



 セリフをかぶせられて、ジュンイチさんが渋い顔をしてるけど、かぶせたなずなはどこ吹く風って感じだ。



「……ま、そういうことだ。
 けっこうな“力”が込められてる……調べといてくれるか?」

「あ、はい……」

「アタシの方は、旅館の方で少し休むわ。
 明日の朝一で、また探索に向かうつもりよ。後は任せたわ」



 改めて口を開くジュンイチとみなせのやり取りにあっさりとそう言うと、なずなは拝殿を出ていった。



「…………何というか、オレ達のことなんか眼中なし、って感じだな」

「す、すみません……」

「貴様が謝る理由はあるまい。
 こちらを見下しているのは貴様ではなく雷道なずなだろうに」



 ジンの言葉に謝るみなせに答えるのはマスターコンボイだ。



「とりあえずオレ達も宿に戻るぞ。龍宮みなせも含めて、全員今日はもう休んだ方がよかろう。
 奥田杏も、ここよりは向こうで休ませた方がいいだろうしな」

「あぁ、そうですね」

「マスターコンボイ。ビークルモードで運べない?」

「ムリだ。この村の道幅もオレのビークルモードにはせますぎる」



 尋ねる僕にマスターコンボイが答える……んだけど、さ。



「何だ、恭文?」

「……六課でも最近影薄くなってきてたけど、こっちに来てからますますビークルモードの存在価値が薄くなってるよねー」

「………………言うな」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ご飯の匂いがする……」



 翌朝。



 目が覚めて、みなせと夕べ打ち合わせした時間に退魔巫女組の部屋に行ってみると、いぶきだけがまだ高いびき。

 けど……味噌汁の匂いが漂ってきたとたん、上のセリフと共にいぶきも目を覚ました。



「……おはよう、いぶき」



 とりあえず、声をかけてみると――







「いただきます」

「まだ前にも置いてないのに、手を合わせない!」







 僕らへの朝のあいさつすらもすっ飛ばして手を合わせたいぶきにみなせがツッコんだ。







 と――







「あの……ごはん、お持ちしました……」

「あ、杏さん」







 奥田さんがお膳を運んできた……まだ食べてない僕らの分もあるから、配膳用のワゴンを動員して持ってきてる。







「あ、杏ちゃんももう動けるようになったんや」







 いぶきの言葉にはとりあえず同意……少なくとも、表面上だけは、回復したように見える。



 けど……妖怪にさらわれて、ヘタしたらシャレにならないことになっていた可能性を考えると、けっこうなショックだったはずだ。彼女なりに、いつも通りに行動することで立ち直ろうとしてる、ってところか……







「は、はい。おかげさまで……助けていただいて、ありがとうございました」

「いやいや、結局最後はウチやのうて……」



 さっそく食べ始める……かと思ったら、いぶきは不意に視線を脇に向けた。もう食べ終わっていたなずなへと視線を向けて、



「それで、そちらの小さく可愛らしい方が、雷道なずなさん……でえぇんやよね?」

「……朝っぱらから失礼ね」

「え?」



 こめかみを引きつらせたなずなの言葉に、いぶきが首をかしげてる……わかる。その気持ち、よくわかるよ、なずなっ!



 とりあえず、一緒にいぶきをしばき倒して……と思っていたら、みなせがなずなの前に割って入ってきて止める。



「……ほ、ほめ言葉ほめ言葉。怒らないでください」

「……わかったわ。ガマンする」



 みなせに言われてなずなはしぶしぶ引き下がる――よし、じゃあ僕が代わりにいぶきをしばき倒して……







「お前もやめんか」







 ………………イクトさんに止められた。チッ。







「それとアンタ。人に名前を尋ねる時には、まず自分から名乗るべきじゃない?」







 一応はみなせに止められたものの、それでもなずなはいぶきをにらみつけてそんなことを言う……あぁ、そういえばお互い仕事の上の情報として名前は知ってるけど、きちんと自己紹介し合ってなかったっけ。



「あ、せやね。
 ウチは嵐山いぶき。見ての通りの神社勤めです。よろしゅうな」

「……表向きの名乗りね。
 アタシの名前は雷道なずな。霞ノ杜神社の退魔巫女よ」



 名乗るいぶきになずなも応じて――そこで、いぶきは何かを思い出したみたいにポンと手を叩いて、



「あー、それと」

「ん?」

「森でウチを助けてくれたお礼もまだやったね。ホンマにありがとう!」



 言うなり、なずなに駆け寄ったいぶきは彼女の手を握った。その手をぶんぶんと上下に振るけど、なずなはと言えばとまどい100%。ま、自分がずっとケンカ腰で話しかけてたのにいきなりシェイクハンドされれば、そりゃね……



「ん? 洋式の感謝の印は今ひとつ? ほなおじぎの方がえぇんかな」

「こ、これは地毛よ! クォーターなの!」

「あぁ、四分の一やね、知ってる」

「へぇ……」

「ピザよく注文するもん」



 なずなの身体が、ぷるぷると細かく震え出す。



「………………ねぇ、みなせ。もう怒っていいよね、アタシ」

「ま、まぁまぁ、落ち着いてください」







 ……何だろう、この頭の悪そうな会話。







「けど、ホンマ助かったわ。ありがとな、なっちゃん」

「な、なっちゃん!?
 重ね重ね失礼なヤツね!?」

「え? 『“な”ずな』やから“なっちゃん”。呼びやすいやろ?
 ウチのことも“いっちゃん”って呼んでくれてえぇよ」

「あ、あいにく他の神社の子と馴れ合う気はさらさらないの。
 呼ぶのは勝手だけど、アタシはお断りよ」



 いぶきの言葉に、なずなはちょっとだけ顔を赤くしてそっぽをむく……フレンドリーに接されて照れてるみたいだ。ツンデレの気があると見た。



「ないわよ、そんなのっ!」



 はいはい。ツンデレの人はみんなそう言うんだよ。



「っていうか!
 アンタ達は何なのよ? 昨日『通りすがり』って言ってた割には、ごく当たり前にここにいるけど!」



 あー、そういえば結局名乗ってなかったっけ。



「えっと……僕は蒼凪恭文。
 それでこっちが……」

《アルトアイゼンといいます》

「ウソ、宝石がしゃべった!?」

「あー、それについてはとりあえず気にするな。
 オレは炎皇寺往人だ」

「ジン・フレイホークだ。よろしく」

「柾木ジュンイチだ。
 でもって……」

《蜃気楼といいます。
 アルトアイゼンと同じく、この場では“そういうもの”として認識しておいていただければけっこうです》



 アルトを見て驚くなずなに答える形で、イクトさん、ジン、ジュンイチさんと蜃気楼が名乗る。そして――



「……マスターコンボイだ。
 こんなナリだが、一応6m級のトランスフォーマーだ」

「ウソ!? トランスフォーマーなの!?
 なんでそんな格好してんのよ!?」

《まぁ、いろいろあるんだよ。
 あたしはオメガだ。よろしくな!》



 アルトの時と同じく驚くなずなにオメガが答えて――



「ちなみに呼び方はやっちゃん、イクトさん、ジンくん、じゅんさん、まーくんやで♪」

『その呼び方は認めてないっ!』



 僕とマスターコンボイが全力で止めた。



「えー。不評やなぁ。
 何であかんのかなー」



 一方で、いぶきは自分のあだ名が不評なのが気になるらしい……いや、僕らのほぼ全員からダメ出しもらってるんだから、あまりいいセンスじゃないって気づこうよ。



 ただ……そんないぶきの言葉にイラついてるのは僕だけじゃなかった。いぶきをビッ!と指さして、なずなが言い放つ。







「あのねぇ、アンタ状況わかってるの?
 アンタ、今回の一件で思いっきり足引っ張ってんのよ!」







 なずなの言葉に、いぶきはマジメに落ち込んでしまう。



「……ごめん、反省してる。
 やっちゃん達も、ごめんな」



 僕らに頭を下げてから、いぶきは奥田さんの方を向く――って、確かいぶきって奥田さんのこと……






「奥さんも大丈夫やった?」

「お、奥さん!?」







 ………………やらかしやがった、このおバカ。







 いぶきの『奥さん』という呼び方を、事情を知らないなずなは当然ながら額面通り受け止めるワケで――そのなずなににらみつけられたみなせは完全にとばっちり。ご愁傷さま。



「ち、違うよ! そうじゃなくて、杏さん……つまり、奥田さんのこと! 奥さんっていぶきが勝手に呼んでるだけ!
 変な方向にカン違いしないで!」







 弁明するみなせが助けを求めるように奥田さんを見るけど、



「………………」

「ち、ちょっと! なんで杏さんまで赤くなってるの!?」



 当の奥田さんは真っ赤になってうつむくだけだった。



 ……あー、なるほど。あのリアクションからして、奥田さんって……







「な、なんて紛らわしい……」



 頭痛をこらえるように眉をしかめながら、なずながうめく……いぶきのこのノリに慣れるのは大変だろうけど、まぁ、がんばって。



「正直、慣れたくないわ……」

「ぜいたく言うなよ。今回の件が片づくまでイヤでも組まなきゃならないんだろう?」

「……馴れ合いはごめんよ」



 うめくなずなに口をはさむジンだけど、当のなずなはぷいとそっぽを向いてしまう。



「そ、それに、ボクの事はいいんだ。
 とにかく、杏さんも、みんなも何とか戻ってこられてよかったよ」

「うん。ウチは最後にポカしてもうたけどね」



 自分と奥田さんのことをこれ以上ツッコまれたらたまらないとでも思ったんだろう。ロコツに話題を変えてくるみなせに対して、いぶきは苦笑まじりに肩をすくめる。



「ともあれ、やっとひとり救出かぁ。
 やっぱりみんな、あぁやって妖怪に捕らわれてるんかなぁ」

「そう考えるのが妥当ね。
 みなせ、例の袋のこと、わかった?」

「袋……?
 あぁ、あの人面樹が持っとった?」

「そう。それ」



 いぶきに答えるジュンイチさんが持って帰ってきた例の袋は、昨夜みなせに預けておいた……あれを調べた結果が出たってことか……



「それについては、杏さんからお願いします」

「あ、は、はい」

「そういえば杏ちゃん、どうやってさらわれたか、憶えてるん?」

「はい、おぼろげながら……」



 みなせに話を振られて、うなずいたのは奥田さん。いぶきの問いに、記憶をたぐり寄せているのか、目を閉じた。



「あれは、お弁当を作って湯杜神社に向かう途中でした。
 あの時、私は間違いなく、郷にいたはずなんです。なのに、曲がり角を曲がったとたん、不意に視界がぼやけて……気がつくと森に立っていたんです」

「……これだけだと、催眠系かなとも思うんだけどね」

「せやけど、それやとウチらと一本道で遭遇せぇへんかった、説明がつかへんよね?」

「そうなんだよなぁ……」



 みなせといぶきの言う通りだ。単に“気がついたら森にいた”というだけなら、みなせの言うように催眠関係の干渉を受けたということで説明がつく。

 ただ……問題は奥田さんのいた場所だ。奥田さんの証言だと森に迷い込む直前、奥田さんは郷の中、しかも旅館から神社へと通じる一本道の途上にいたという。

 ただ催眠にかかっただけなら、そこから森の入り口で待っていた僕らとも後から来ていたはずのみなせとも会わないというのは、ちょっと説明がつかない。



「それについては、ボクの方で調べてみるけど。
 杏さん、続きをお願いします」

「はい。
 それで、どこからともなく現れた蔓に捕らえられたんですけど……あのしゃべる木が誰かに言っていたんです。
 『さらって女と溜めた袋は沼へ……残りの袋は置いていけ』って……それから先は……その……」



 辛そうな顔を見せる。奥田さんを、みなせはそっと制した。



「うん、それ以上はもういい。
 ありがとう、杏さん」

「いえ……こんなことが、助けになるのでしたら……」



 旅館の手伝いしてきますね、と。奥田さんは客間から出ていった。



「そっか……“女”と“袋”ね……」

「ジュンイチさんが持って帰ってきてくれた袋を調べてみたけど、どうやらそれが人間から吸い取った精気を溜めた袋みたい。これで妖怪達は力をつけていたみたいだね。
 精気は妖怪の力の源になるからね。その精気を吸収するために、若い女性を次々とさらっていったんだと思う」

「なるほど、な……」



 みなせの言葉に、ジュンイチさんが何やら納得してうんうんとうなずいてる――えっと、どうしたの?



「杏ちゃんが人面樹に捕まっただけで、暴行されていなかった理由だよ。
 杏ちゃん……そして、たぶん神隠しにあった人達も、さらわれたのは妖怪が繁殖するための苗床にされるためじゃない。
 あの袋に精気を集めるため……言わば“生きた燃料プラント”として、彼女達はさらわれたんだ。
 精気を奪うんだ。むしろ性的な意味で“喰っちまった”方が早いんだろうけど……それをしなかったのは、たぶん自分達の気が袋に入れる精気に混じるのを避けたかったんだろう。
 もちろん、精気を蓄えるっていう役目を果たした後はヤられるだろうけど……最初の事件発生からの経過時間から考えて、まだみんなその域には達していないはずだ」

「えぇ……
 ……イヤな言い方になるけど、そう考えると、消えた人々が死ぬことはそう簡単にはないと思います」

「生かさず殺さずっちゅーヤツやね」



 ジュンイチさんに答えるみなせに、いぶきが付け加える。



「つまり、残りの被害者は沼に運ばれて……?」

「それに、あの人面樹が持っていた以外にも、沼に運ばれていた精気袋がある……」



 つぶやく僕にイクトさんが続き、そのまま思考を続行する。

 となると……



「……なんか、あの人面樹も、下っ端だったっぽい?」

「うん。
 奥にさらに大物がいると見てよそうだね」



 思わず尋ねる僕に、みなせは深刻そうな表情でうなずいてみせる。



 うーん……なんとなく予感はあったけど、やっぱり厄介なことになってきた。



 こうなると、やっぱり最後まで首突っ込むしかないかなぁ? 人面樹との戦いでいぶきがポカをやらかしてることもあるし、これでいぶき達に任せる、っていうのはちょっと不安だ。



「そうだな……
 被害者の中で唯一オレ達と接点のあった奥田はすでに救出した。果たすべき義理は果たしたが……このまま放り出すのも気分が悪いな」



 イクトさんも同感みたい。ため息まじりにそう言うけど……そんな僕らをよそになずなは立ち上がった。



「アタシは十分休憩をとれたから、もう出るわ。
 妖気は森の奥、沼の方が濃くなっていたからそっちを探索してみる」

「え、なっちゃん、ちょっと待ってーな」

「何よ?」

「ひとりより二人、二人よりみんなの方がはかどるよ。一緒に行こ」



 どうせ三社合同の任務なんやし……そう付け加えるいぶきに対し、なずなは――ぅわ、ロコツにため息つきやがった。



「……それは、アンタの都合でしょ。
 アタシは足手まといはいらないの。どこの馬の骨とも知らないお節介焼きもね。
 もうちょっと腕を上げたら考えてあげてもいいわ。じゃあね」



 ……ホント、言ってくれるよね。

 やっぱり、ここできっちりブッ飛ばしてこっちの実力を教えてやるべきか……



「やめとけ。
 ここでモメたっていいことないぜ。探索の人手が減るだけだ」

「ジュンイチさん、何言ってんの。
 いつもならこういうこと言われたら、むしろ僕よりも先にブッ飛ばしに行く人が」

「お前こそ何言ってんのさ」



 反論する僕にも、ジュンイチさんはあっさりと答えた。不敵な笑みを浮かべて、なずなの方を見ながら続ける。



「自分の身の丈もわきまえられないような身の程知らずだろうが、被害者を探す頭数くらいにはなるんだ。ここで戦線離脱せるようなことするなよ」

「言ってくれるじゃない。退魔師でもない部外者が」

「ぬかせ、ド新人ルーキー



 さすがにジュンイチさんのこの挑発にはなずなの方も食いついてきた。こめかみを引きつらせながらにらみ返してくるけど、さんざん言いたい放題言われてる分ジュンイチさんも引き下がるつもりはないらしい。



「専門か否かは、この際問題じゃないさ。
 ただ、事実として……オレ達の全員が、お前より強い。それだけだ」

「大した自信ね……」



 にらみつけるなずなと不敵な視線を返すジュンイチさん、両者はしばしにらみ合って――











「ちょっ、二人ともやめろって!」

「こんなところでケンカなんかせんといてや!」











 割って入ったのはジンといぶきだった。



「ジュンイチさん、自分で言ってたじゃないですか! ここでモメてもいいことないって!」

「せやで。
 それに、せっかくみんなでお仕事するんやから、そんなケンカ腰はあかんって!」

「心配するな。
 別に、オレはこっちから手を出すつもりはありませんよー。開戦するかしないか……その辺はそちらさんのリアクション次第ってヤツ?」

「………………フンッ!」



 ジンやいぶきに怒られても、ジュンイチさんはどこ吹く風――対するなずなも、完全にヘソを曲げてしまい、そのままそっぽを向いてしまう。



「なぁ……なっちゃんも意地張らんと。
 ウチら、仲良うなれる思うで」

「あ、アタシは、その、仲良しチームを作るつもりはないのっ!
 それじゃアタシはもう行くから! アンタも休んだら、また仕事に戻りないよ!」



 ビシッといぶきを指さしてから、なずなも客間を出ていった。



 ただし……顔を少し赤くして。本心隠せてないね。まさにツンデレの王道パターンだよ。



「うんうん。せやねー。
 やっぱり、えぇ娘やなぁ、なっちゃん」

「そ、そういうものなの……?」

「せやん。
 怒らせたんはあくまでじゅんさんやし、そうやって怒ってても、ちゃんとウチのこと心配してくれたやん。
 神社の方針がアレなだけで、ホンマは優しい子なんやと思うよ?……あとツンデレ」

「そこは……譲らないんだ……」



 ……譲らないけど、何か?



「……ま、まぁ、とにかくいぶきはしばらくは身体を休めておいた方がいい」

「せやね……
 回復したら、また探索に戻るわ」

「……そういうことなら、こっちも動いておくべきかな?」



 納得したいぶきの言葉に、ジュンイチさんがそんなことを言い出した……で、何する気?



「なずなだよ、なずな。
 いくらこっちとソリが合わないからって、ひとりで行かせるのはリスクがデカイだろうが」

「ソリを合わなくしたのはジュンイチさんな気が……」

「ンなコトぁどーでもいい」



 みなせが一蹴された。



「とにかく、こっちからも人を出しておいた方がいいだろう。手間的な意味でもな。
 とりあえず……ジン、それからマスターコンボイ、お前ら二人、なずなを追っかけてくれないか?」

「お、オレ達が!?」

「当然だろう?
 アイツに真っ向からケンカふっかけたオレと、いぶきと一緒になってなずなをツンデレ認定した恭文は揉め事の種を抱えてるからアイツと共同作戦は難しい。
 イクトはイクトで、絶対道に迷うだろうから少人数の時の投入は避けたい。
 アイツの中に悪印象がなくて、且つ遭難せずにアイツを追える……この条件に当てはまるのは、お前ら二人だけだ」

「まぁ……一応、理にはかなっているか……」

「そういうこと」



 ジンやマスターコンボイに答えると、ジュンイチさんはにぱーっ、と笑って、



「そんなワケだから、お前ら二人でがんばって。
 オレはいぶきが回復した後、改めて恭文達と一緒に送り出すから」

「貴様も来いっ! 貴様もぉっ!」

「そもそもアイツと険悪になった張本人なんだから、さっさと関係修復しろぉっ!」

「いぃやぁぁぁぁぁっ!
 妖怪のいるトコなんか行きたくないぃぃぃぃぃっ!」



 マスターコンボイとジンによって、哀れジュンイチさんは引きずられていった。なんかドナドナが頭の中で再生されたけど気にしない。気にしないったら気にしない。







 ……つか……







「……まぁた、ジュンイチさんの悪いクセが出たね」

「間違いなくな」

『………………?』



 僕とイクトさんのやり取りに首をかしげるのはいぶきとみなせだ。



「えっと……やっちゃん、何の話?
 『また出た』って、じゅんさんの怖がりは今に始まったことやないんと違う?」

「あー、いや、そっちではない。
 オレ達が言ってるは……柾木が、雷道にケンカを売ったことの方だ」



 これだけじゃ意味が伝わらないと思うので、補足して説明することにする。



「ジュンイチさん……別になずなのことが嫌いだから、いろいろ言われたのがムカついたからケンカを売ったワケじゃないんだよ」

「そうなん?
 どう見てもケンカ腰やったけど……」

「まぁ、そこはしょうがない。
 なずなに“嫌ってもらう”のが、ジュンイチさんの狙いだから」

「『嫌って“もらう”
 どういう、ことですか……?」

「アイツは、自分に反発する人間を確保しておきたいんだ」



 聞き返すみなせにはイクトさんが答える。



「柾木は、オレ達の中ではもっとも頭が回る――しかし、本当の意味でアイツが賢いのは、それでも自分の判断が絶対のものではないとわかっている点にある。
 だからアイツは智略の上で対立する者を用意する。自分の意見に反対する者、自分とは違う目で見る者の声に耳を傾けることで、自分の智略に見落としがないか、正すべき誤りがないかを見出す糧とする……」

「そのお眼鏡に、なっちゃんはかなったっちゅうワケか……」



 そう……ジュンイチさんにはそういう一面がある。

 実際、六課でもフェイトがそんな感じでケンカを売られてさんざんな目にあった……まぁ、フェイトとしてもアレで目が覚めた部分があるって言ってたし、結果オーライではあるんだけど。



「なんだかんだで、アイツの実力の高さは知れ渡ってしまっているからな……行動を共にする仲間に意見を求めても、その相手が柾木の実力を買うあまりイエスマンになってしまっては意見を求める意味がない。
 だから、あぁやって自分から嫌われることで自分の意見に反する相手を確保しておこうとするんだよ、アイツは」

「うーん……よぅわからんけど、強いっちゅーのも大変やってことやね」



 わかっているのかいないのか……とりあえずいぶきはうなずいてくれた。



「まぁ、何にしても、僕らはいぶきの回復待ちだね」

「はい。
 恭文さん達もゆっくり休んでください……もちろん、いぶきもね」

「はーい……デザートは桃缶な?」

「はいはい。
 奥田さんに言ってくるよ」



 いぶきに答えて、みなせがその場に立ち上がって……







「…………っと、そうや」







 まだ何かあるらしい。いぶきがいきなり手を叩いて声を上げた。



「みっちゃん、折り紙ある?」

「え?
 あ、うん、持ってるけど」



 答えて、みなせは懐から色鮮やかな紙の束を取り出した……言うまでもなく、折り紙。



「それでこれ、どうするの、いぶき?」

「んー……ちょっと待ってな」



 みなせに答えて、いぶきは手馴れた様子で折り紙を折っていって――あっという間に折鶴ができ上がった。

 最後の作業に、いぶきは右の人さし指をにらみつけるように何かを念じる。



 ちょうど、僕らが魔力を集中させるみたいな感じで――ってことは、あれはきっと、いぶきの霊力を指先に集めてるんだろう。で、その指で鶴の胴体を軽く叩く。



「で、霊力込めて……ほい、できた。
 杏ちゃんトコに行くなら、コレも渡しといて。お守りや」



 そして、霊力の込められた折鶴を、みなせに手渡した。



「いぶき、そんなこともできるんだ」

「昔、世話になった人のマネやねんけどな。
 ……こんなことなら、事件起こる前に渡しとけばよかったなぁ」



 いぶきは照れくさそうに笑って――あの、みなせ?



「はい?」

「いや、『はい?』やのうて……
 何でみっちゃんは、そっちでそんな微妙な顔してるん?」



 僕だけじゃなく、いぶきも不思議そうに尋ねる――そう。みなせは腕組みをしながら、何とも言えない表情をしていた。



「……いや、いぶきにちょっと聞きたいんだけど、その、昔世話になった人って、どういう世話? それと名前って、憶えてる?」

「んー、ウチの村を大妖から守ってくれた巫女さんなんやけど、ウチ小さかったからなぁ……下の名前だけなら憶えてるけど。サヨさん」



 その名前に、みなせはいよいよ眉をしかめた。

 難しい顔でうなって天井を仰いでいたかと思うと、最後には力なく笑っていぶきを指さした。



「はは……ボクの姉様だ、それ。龍宮小夜さよ

「えーーーーーっ!?」

「霊力込めた折鶴、退魔巫女で、その名前。まぁほぼ間違いないと思う」



 うん、とみなせは自分を納得させるようにうなずいた。



「……と、いうことは……嵐山は以前に、龍宮の姉と出会っている……?」

「まぁ、そういうことになりますね」

「あ……もしかして、みなせが折り紙持ってたのって、そのお姉さんの影響?」

「うん。
 ボクが昔病弱だった時に、よくこれで遊んでもらっててね」



 みなせが僕達に答えていると、いぶきがいきなり正座して――



「お、お姉様には昔、大変お世話になりました!」

「い、いぶき!?」



 思いっきり、みなせに向けて土下座した。



「い、いやいや、ボクに頭を下げられても。あと、普通のしゃべり方でいいから」



 そんないぶきの頭を、みなせはあわてて上げさせる――まぁ、イメージ的にいぶきがこういうことするのはちょっと意外だしね。



「あー、やっちゃん、ひどいなー。
 命助けられたんやで? いくら感謝してもし足りないくらいや」

「命を……って、さっき話してた、村が襲われたって時に?」

「せや」



 僕に答えて、いぶきは簡単に、だけど話してくれた。



 昔、突然村が大妖に襲われた時、その大妖に殺されそうになった自分を助けてくれたのが、みなせのお姉さん、小夜さんだったんだとか。

 そして……そんな小夜さんに憧れて、いぶきは退魔巫女になろうって思ったんだとか。



 ついでに言えば、いぶきが刀を使うのも、小夜さんが刀を使っていた影響なんだそうだ。



「なるほど……
 おもしろい因果ではあるかな。これも何かのお導きなのかもね」

「せやね」



 言って、いぶきとみなせが笑い合う。







 ……けど、いぶきは突然ため息。えっと……どうしたの?



「ちょっとは、小夜さんに近づけたかなぁ、ウチ……?」

「いぶきは、姉様が目標なの?」

「うん。
 まー、まだまだやと思うけどね。あの人の強さ、ハンパなかったし」

「そうなの?」

「せやね。
 ウチが助けられた時の小夜さん、ちょうど今のウチらと同じくらいの年頃やったと思うけど……正直今のウチじゃ足元にも及ばんのやないかな?」



 へぇ……



「……やっちゃん、顔にやけてるで?」

「っと、いけないいけない」

「あ、もしかして小夜さんと戦ってみたい〜、とか考えたん?
 やっちゃんも刀使うもんな」

「んー、まぁ」



 いぶきが美化してる部分がない、とは、直接の面識がない僕には言い切れないけど……まぁ、それでも強い人の話を聞けばそれなりにワクワクしてくるのは、避けられないことだと思わない?



「その辺どう思います? イクトさん」

「………………ノーコメントだ」

「あ、そのリアクション、イクトさんもちょっと思った?
 二人とも、男の子やもんねー♪」



 いぶきに言われて、イクトさんが渋い顔……まぁ、三十路直前で『男“の子”』って言われれば、マジメなイクトさんにしてみれば複雑か。



「せやけど、やっちゃんやイクトさんでも、そう簡単にはいかないんちゃうかなー?
 小夜さん、ホンマに強かったんやから」

「だねぇ……
 でも、いぶきだって姉様と同じ事はできたんじゃない? 人助け」



 みなせにそう言われて、いぶきは頬を緩ませた。

 小夜さんと同じことができたって言われて、本当にうれしかったみたいだ。本当に尊敬してるみたいだ。







 ………………どっちかの豆芝が脳裏をよぎった気がするけど、うん、気のせいだ。







「せやね。
 けど、まだや。事件は解決するまでが遠足や」

「……その表現は意味不明だけど。
 まぁ、そうだね。笑うのは、全部終わらせてからだね」



 いぶきやみなせの言うとおりだ。



 救出待ちの被害者はまだ残ってる。その人達を全員助けない内は、まだまだ安心なんてできやしない。



「なっちゃんの話やと、森から沼に通じる道があるって話やんね」

「うん。そっちの方が怪しいみたい」

「わかった。
 森もまだ探索しきってない部分あるけど、ほんなら回復したらウチも、そっち行くわ」

「うん。よろしくね、いぶき」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁ……はぁ……」



 森を抜けた先にある沼……そこで、アタシは妖怪を相手に戦っていた。



 出てきたのは大したことのない妖怪ばかり。森から引き続き出てくる古狸に大蜘蛛、化け蛇……そして今は、沼の中から出てきた河童の群れと交戦中。







 だけど……おかしい。









「数が一向に減らないわ……どういうことなの」



 そう。いくら倒しても河童は次々に襲ってくる。いったいどうなって……!?







 ………………っ! 向こうの沼から現れてる……根本を絶たなきゃ、ダメってこと!?







 すぐに河童がわいて出てきている沼に向かおうとするけど、周りの河童の群れがそれを阻んでくる。



 あぁ、もぅっ! これじゃ敵が増える一方じゃないの!







「……って、きゃあっ!?」



 沼に気を取られた一瞬のスキをつかれた。倒して、消滅しつつある河童の身体につまずいて転んでしまう。



 マズイ、このままじゃ河童に捕まる!







 こんなところで捕まったら、アタシも……







 女として最悪の展開が脳裏をよぎる。そんなアタシに向かって、河童の一匹が飛びかかってきて――











「――――――っ、のぉっ!」











 その河童が、思い切りブッ飛ばされた。



 横から飛び込んできた何かが、河童を蹴り飛ばしたんだ。そのまま、それはアタシの目の前に降り立つ――







「大丈夫か? なずな」







 アンタ、確かあのおせっかい軍団の……







「ジン!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とりあえず、間に合ったか……



 なずなの後を追って森に入って、襲ってくる妖怪を蹴散らしながら森の中を快進撃。一気に沼までやってきた。







 …………はい。妖怪の出現でビビりモードから一転、戦闘モードに突入したジュンイチさんを先頭に突き進ませてもらいました。







 なずなも来ているはず。どこにいるかと探してみたら、今にも河童にやられそうになっていた。とりあえず飛び込んで助けたんだけど……







「礼は、言わないわよ……
 っていうか、言ってる余裕ないし!」

「正しい判断だ!」







 だぁぁぁぁぁっ! 何体いるんだ、コイツらっ!



 カッコよく飛びこんだまでは良かったけど、ひっきりなしに河童が襲ってくる。あまりの数にさばききれずに、体勢を立て直したなずなとたまらず後退する。







「どうするつもりよ!?
 あれだけキメて登場してきたんだから、何か手はあるんでしょうね!?」

「オレにはないっ!」

「はぁっ!? 考えなしに飛び込んできたっての!?」

「仕方ないだろ! 考えてたらやられてたんだぞ、お前っ!」



 まぁ……安心しろ。



 言ったろ? “オレには”手はないってさ。



「なずな、こっちだっ!」

「え――きゃあっ!?」



 説明している時間はない。なずなを引き寄せ、レオーを使ってのジャンプでその場を離れて――







「エナジー、ヴォルテクス!」

「ゼロブラック――Fire!」







 オレ達を狙って集まってきた河童なんて、マップ兵器の格好の的でしかない。マスターコンボイとジュンイチさんの同時砲撃で、あっという間に薙ぎ払われた。



「よくやった、ジン!
 オトリをやらせたら世界一!」

「ンな実績ないですからね!?」



 マスターコンボイと二人でやってきたジュンイチさんにとりあえずツッコんで――







「もう大丈夫だから、離れなさいよっ!」

「ぶっ!?」







 なずなに殴られた。しかもアゴを思いっきり。



 脳を揺らされて崩れ落ちるオレに対して、なずなは自分の身体を抱くような格好で離れる。オレに抱きかかえられるの、そんなにイヤだったのか……って!?







「み、みんな! 向こう向こう!」







 倒れた拍子に、向こうの沼からまた河童の群れが上陸してくるのが見えた。くそっ、なずなが苦戦してたのはあの数か!







「まぁね。
 たぶん、あの中に霊脈が露出してるところがあるのよ……そこが妖怪に汚染されて」

「あの河童が“発生”している、か……
 どうする? 柾木ジュンイチ」

「ここでオレに振る?
 普通専門職のなずなに振らない?」

「ブレイカーである貴様の方がベテランだろう?」

「ま、そうだけどね」



 マスターコンボイに答えて、ジュンイチさんが前に出る――もう何か考えついたんですか?



「要するに、霊脈が妖怪に汚染されているのが原因なんだろう?
 だったら答えは簡単だ。霊脈をさっさと浄化して、妖怪の発生源を断つ」

「それができれば苦労はないわよ。
 その前にあの大量の河童を突破しなきゃならないのよ? どうしろっていうのよ!?」



 答えるジュンイチさんになずなが食ってかかるけど……



「あー、なずな。少し下がってて」

「ちょっ、アンタまで何言って……」

「いいから」



 説明するよりも実際見せた方が早そうだ。反論しかけたなずなの手を引いて、ジュンイチさんの後ろに下がる。



「あー、ジュンイチさん。さっととやっちゃって。
 なずなを納得させるには、そっちの方が早そうだ」

「うぃ、りょーかい」



 言って、ジュンイチさんは息をついて――身にまとう“装重甲メタル・ブレスト”の翼、ゴッドウィングを広げた。



 そこから発生した炎は、あっという間にジュンイチさんの周りを覆い尽くして、やがて炎の竜を形作る。



「ちょっ、何よ、あの火力!?
 あんな“力”を、人間が扱えるものなの!?」

「驚くのはいいけど、伏せといた方がいいぞ!」



 驚いているなずなの頭を押さえて、ムリヤリ伏せさせる――その一方で、ジュンイチさんは竜の口へと飛び込んだ。

 直後、その竜の口からジュンイチさんの身体が撃ち出された。竜を形作っていた炎を導きながら、一気に問題の沼へと突っ込んで――











「ブレイジング、スマッシュ!」











 大爆発が巻き起こった。



 沼に飛び込んだジュンイチさんの蹴りが、導いていた炎を残さず沼に叩き込む――沼の水は一瞬にして蒸発。巻き起こった熱波の嵐が周りの河童の群れまで巻き込んでいく。



 オレ達のところまで届いた熱風から身を守り、衝撃が過ぎ去った後に顔を上げてみれば――















 沼が、なくなっていた。











 沼の水は完全に干上がって、他の沼とつながっている水路からの水が改めて流れ込み始めてる――そして、干上がった沼の底、その中心にジュンイチさんが立っている。



 その足元には、キラキラと光を放つ“何か”……ひょっとして、アレが……?







「そう。霊脈よ。
 でも……まさか、沼を干上がらせた上に霊脈を浄化させちゃうくらいの力を、たった一撃で一気に叩き込むなんて……」







 説明してくれるなずなだけど、冷や汗まじりな上に声も震えてる……専門職のなずなから見ても、ジュンイチさんの攻撃力は半端なし、ってことか。いつも見てると、感覚マヒしてくるよなぁ……







「とりあえず、霊脈の方はこれでよし、として……」







 言って、ジュンイチさんはゴッドウィングを広げて浮き上がった。オレ達のところに戻ってきて……







「………………ん?」



 浮き上がったジュンイチさんを見上げた拍子に、その向こう側、少し高いところから沼に水を注いでいる滝、その向こうに光が見えた。



「あれって……」



 沼をはさんだ反対側だったけど、オレならひとっ飛びだ。レオーを使って一気に沼を飛び越えて、流れ落ちる水の向こう側に顔を突っ込んでみると、







「…………見つけちゃったよ、被害者……」







 そこには、セーラー服を着た女の子が気を失って横たわっていた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジンさんが見つけたのは甲斐谷美鈴さん。郷の鍛冶屋さんの娘さんだよ。
 やっぱり、奥田さんと同じく精気を吸われていたけど、暴行を受けた形跡はなかったよ」







 沼から戻ってきたジン達は、なずなだけじゃなくてひとりの女の子を連れていた――ちなみに、運んできたのはジン。第2回じゃんけん大会の敗者はジンだったらしい。

 とにかく、彼女を宿の一室に寝かせて、診察もすませて戻ってきたみなせが、僕らに対して説明する。







「それで……妖怪の方はジュンイチさんが?」

「ま、一掃したのはあくまであの場にいた分だけ、だけどね……
 とりあえずあそこにあった霊脈は浄化したから、妖怪が出てくる勢いも少しは下がるだろ。今後沼を攻めるつもりなら少しはマシになると思うぜ」

「見せたかったぜー。ジュンイチさん、一撃で沼を吹っ飛ばしちまったんだからさ」

「ホンマなん!?
 ジュンイチさん、すごいなー」



 みなせに答えるジュンイチさん――そこに付け加えるジンの言葉にいぶきが目をキラキラさせてる。



 あー、何かジュンイチさんの武勇伝にヒーロー的なものを感じてるんだろうけど、この人、基本ダークヒーロー系だからね? 桃太郎侍よりも必殺仕事人な人だからね?







 けど、今はそれよりもむしろ……







「……で、大口叩いて出ていった誰かさんは、ひとりじゃどうしようもなくてジュンイチさん達に助けてもらった、と……」

「う、うるさいわね!」



 僕にツッコまれて、なずなが顔を真っ赤にして反論してくる……ま、自信タップリに出ていった上でコレじゃね。



「なぁ……なっちゃん。やっぱりこっから先、協力せぇへん?
 やっぱり、こっから先はひとりより二人やて。
 手分けしてどうにかなるもんやないよ。実際、今回危なかったんやろ?」

「あ、あんなの、あたしひとりで……」



 いぶきに対してお決まりの反論をしかけたなずなの動きが止まった。深くため息をついて、



「まぁ……実際手数で圧倒れちゃったワケだしね。ダメだった、って結果が出てる以上、意地張る方がバカらしいか。
 けど……最初に言った通り、足を引っ張るようなら見捨てるからね」

「それでも十分やって。ありがとな、なっちゃん」



 言って、いぶきは南無南無、と手を合わせる……どうでもいいけどそれ、宗派違うんだけど。



「あと、協力するにあたって……もうひとつ」

「何やの?」

「コイツらよ」



 なずなが指さしたのは僕ら……というか、ジュンイチさん。



「本気で何者なのよ? コイツら。
 妖怪相手にものともしないわ、沼を一撃で干上がらせるわ……ハッキリ言って異常よ、異常」



 まぁ、ジュンイチさんの火力を見た後なら、僕らが何者か本気で気になり始めるのもしょうがないよね。



「………………わかった。
 僕らだけ自分達のことを話さずにおくのも、なしだよね」



 もう、首を突っ込むのは確定なんだ。見せられるだけの手札は、見せておくべきだろう。



「なら、その辺りの話は明日にしよう。
 今日はもう時間も遅いしね」







 そのみなせの言葉で、僕らはとりあえず解散。今日沼に向かったなずなやジュンイチさん達はこれから晩ご飯になる。



 ………………けどさ、アルト。







《はい?》

「僕ら……休みに来てるんだよね?」

《いつものことじゃないですか》



 いやまぁ、そりゃそうなんだけどね。











 ホント、世界はいつだって『こんなはずじゃなかった』ことばっかりだよね……











 毎度毎度、こんな形で実感したくないんだけど。







(第4話に続く)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!



なずな「あ、今日は魚料理なんだ……」

ジン「なんか、魚が大量に確保できたらしくてさ」

ジュンイチ「まぁ、そりゃそうだろうな」

ジン「………………?
 ジュンイチさん、何か知ってるんですか?」

ジュンイチ「知ってるも何も……この魚、オレが干上がらせた沼に打ち上げられてたのを持ち帰ってきたヤツだし」

ジン&なずな『ぶふぅーーーーーっ!?』





第4話「カワイイ 妖怪は 好きですか?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



Mコンボイ「……いつもよりも、日数的に大幅に遅れての投稿となってしまった第3話だ。
 期待して週末に待っていた読者諸君には悪いことをした」

オメガ《とりあえず、作者は私達の方でしばき倒しておきましたので》

Mコンボイ「……さて、内容だが……雷道なずなが意地を張ってから折れるまでを一気にやった感じだな」

オメガ《おかげでずいぶんと展開をはしょってしまっていますけどね。
 とりあえず、一応協力体制を敷くことには納得してくれたようなので良しとしておきましょうか》

Mコンボイ「そして次回はオレ達についての説明と……」

オメガ《原作ゲームにおけるサブイベントがメインなお話になる予定です。
 原作『道中記』で何気に人気のキャラが登場予定ですので、期待してお待ちください》

Mコンボイ「作者のヤツ、今回の話での遅れを取り戻せればいいんだが……」

オメガ《まぁ、いざとなれば血反吐を吐いてがんばってもらうことにしましょうか。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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