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頂き物の小説
最終章T「ラスト数話は急展開がお約束」



「あぁ、恭文!」

「こなた!?」



 まだ朝も早い機動六課。僕の姿を見つけるなり、あわてた様子で駆け寄ってくるのはこなただ。



 見ると、かがみやつかさ、高良さんもいる……あ、メンツ増えてる。



「そだね。
 あー、前に話した、六課の新顔さんでなのはさん達の友達の……」

「あぁ、この子が。
 泉先輩から聞いてます。蒼凪……恭文さん、ですよね?
 私、田村ひよりっていいます!」

「あー……こっちもこなたから聞いてる。
 同人誌読んだよー」



 自己紹介した、黒のロングヘアーな眼鏡っ子さんと握手する――けど、同人誌の話をしたとたんに顔が真っ赤に。


 えっと……あ、もしかして。



「あー、大丈夫。
 僕が読んだのは全年齢のヤツだから」

「セーフっ!」



 僕の言葉に、心底安心した様子のひより……そこまで安心されると、どんなの描いてるのかむしろ気になるんだけど。



 まぁ、それについてはまた今度でいいや。で、そっちの子は……



「……岩崎みなみです」



 こっちはていねいにおじぎしてくれた……うん。礼儀正しい子みたいだね。



 にしても……こなた。



「ん? 何?」

「最近よく来るけど、学校はいいの?」

「いや、それどころじゃないでしょ。なのはさんが大変なんでしょ?」







 そう。



 現在六課は上へ下への大騒ぎ――我らが魔王、高町なのはが、昨夜いきなり襲われた上に連れ去られたからだ。



 いち早く気づいたジュンイチさんが駆けつけた時には、もうなのはも襲撃者も姿はなし。はやてとヴェロッサさんの一件で家族会議をしていた八神家御一同を先頭に一晩中探したけれど手がかりなし。とりあえず捜索を仕切り直そうとみんなを呼び戻したところ……っていうのが現在の状況。



 ……って、何でこなたが知ってるのさ?



「いや、スバルが半泣きで連絡してきてさ」



 ………………いや、スバル。仮にも局員なんだからさ、協力者とはいえ民間人に泣きつくんじゃないよ。



「とにかく、そんなワケだから急いでかがみん達を呼び集めて駆けつけてきたワケですよ。
 で……状況はどうなの?」

「さっぱり」



 そう答えるしかなかった。



「とりあえず、犯人はわかってる。ジュンイチさんが、一瞬だけ……たぶん犯人がなのはに攻撃した時だと思うけど、その瞬間に“力”を感じ取ってる。
 ただ……その後の行方が一切手がかりナシなもんだから……」







「兄さん、ちゃんと休まないとダメだよっ!」

「心配するな! 休んだ!」

「ちゃんと休んでないよね!? ほんの30分仮眠を取っただけだよね!?」

「きゅく〜っ!」







「あまりにも成果がないから、焦れたマスターコンボイがまた飛び出そうとしてキャロやエリオを引きずってるワケですよ」



 僕の言葉に、こなた達が苦笑する……まぁ、気持ちはわかる。



「で、犯人ってのは誰なのよ?」



 今度はかがみが聞いてくる……うん、とりあえず手伝ってくれるみたいだし、教えてもいいかな?



「あー、みんなとは面識ない相手だと思うんだけどね、僕やジュンイチさんにとってはけっこう因縁の相手。なのはが襲われたのもたぶんそれ関係。
 なのはを襲ったのは……」












「クロスフォーマーのひとり……ブルーバッカスだよ」











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



最終章T「ラスト数話は急展開がお約束」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「えっと……クロスフォーマーっていうのは、一年前、ミッドとは別のヴェートルって世界で恭文やジュンイチが少し……『少し』?
 ……とにかく、向こうでアイツらが暴れた時に、相手側に雇われてたフリーの傭兵。
 メンバーは二人。ブルーバッカスと、ブラックシャドー」



 現在、ライオコンボイ達にクロスフォーマーの二人について説明中。



 なお、『少し』の部分で言いよどんだ理由については察してほしい。当人達からはそう聞いてるけど、『少し』なんてレベルで済んだとはとてもじゃないけど思えないし。



「詳しい経緯は省くけど、ジュンイチにノされたあげくにフェイト達に逮捕された。罪状は大規模騒乱の幇助ほうじょ
 で、おとなしく服役しててくれればよかったものの……」

「脱獄して、リベンジのために動き出した……ですか」



 確認するのはガイア・サイバトロン組のトランスフォーマーでも紅一点、ハヤブサのエアラザー。



「あの……ライカさん」



 でもって、手を挙げたのはジンくんと一緒に最近こっちに合流したひとり、クレア・ランスロット……で、何?



「えっと……今の話からすると、その人達って、自分達を倒したジュンイチさんや、逮捕したフェイトさんが狙いなんですよね?」

「んー、ジュンイチは正解だけど、フェイトについては二の次状態ね。
 アイツらが真っ先に狙ってるのは、最終的に自分達を倒したジュンイチと、それまでの過程でさんざんジャマしてくれた恭文の二人。
 フェイトも一度狙われてるけど……ジュンイチが乱入したらあっさりそっちに狙いを切り換えた。優先度は低いと思っていいわね」

「それなのになのはさんをさらっていった……やっぱり、人質とかですか?」

「でしょうね。
 二人を自分達のところに引きずり出すため……そう考えるのが自然だわ」



 ただ……だとしても疑問は残る。クレアも本当に気になっているのはそこだろう。



「でも……その割には、相手から何も連絡がないですよね?」



 そう。なのはをさらったっきり、クロスフォーマーからは何のアクションも見られない。



 なのはをさらったのがジュンイチ達に対抗するためなら、二人に出てきてもらわないことには始まらないのに。







 ただ……あたしはとりあえず、その理由に心当たりがある。







「アイツらはまず真っ先にジュンイチと恭文の打倒を狙ってる。他の連中はむしろジャマ。
 だから六課には知らせてこない。ここに知らせたら、ジュンイチ達二人だけじゃなくてあたし達までセットでついてくるから」

「つまり……ヤスフミなりジュンイチさんなり、どっちかに直接、オレ達には伝わらないような方法で伝えてくる……と?」

「たぶんね」



 ジンくんの言葉にうなずく――そう。アイツらはなのはをさらってこっちが動かざるを得ない状況を作り出した。



 あとは二人を引きずり出すだけ……だけど、ヘタにこっちに連絡を入れれば、あたし達まで一緒に引きずり出すことになる。



 そうなれば、さすがのアイツらも勝ち目はない……アイツらが勝つには、ターゲットであるジュンイチ達だけを直接呼び出す必要がある。



 それも、二人に、あたし達へ知らせることを許さない、そんな形で……







「いや……ライカさん?
 シリアスに考えてるところ悪いけど、『オレ達に知らさせない』ってことについては、アイツらにとって何の心配もいらないんじゃないっスか?」



 ………………確かに。



 ジンくんの言う通り、恭文はともかく、ジュンイチはこういう話ではまず間違いなく先走るからなー。







 実際、みんなに一度戻れって指示が出てもガン無視だし……情報入ったらまずひとりで動くわね。こっちが知ったとしても、あたし達が止めて聞くワケないし。







「………………あたし、打ち合わせ終わったらジュンイチ探してくるわ」

「探さなければならない人間が増えたな」







 お願い、ライオコンボイ、ツッコまないで。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






《申しわけありません。
 マスターを守ることができませんでした》

《うーっ、なの姉……》



 とにかく、恭文と一緒にみんなのいるオフィスに……うん。凹みに凹んでるデバイスがいた。



「レイジングハート!?」

「プリムラ!?」

「なのはさんと一緒じゃなかったの!?」



 かがみんやつかさ、みゆきさんは驚いてるけど……まぁ、当然のことだと思う。



 だって……



「いや、レイジングハート達まで一緒に連れてったら、先生よりも先になのはさんにぶちのめされるよ? そのクロスフォーマーって人達」



『あー……』



 一発でかがみ達は納得した……うん。みんなもなのはさんのことをよくわかってるね。



「こなた! 来てくれたんだ!」

「そりゃ、映像の向こうであんな泣きそうな顔されたらねー……」



 そんな私達にパタパタと駆けてくるのは、ご存知私の妹弟子にして今回朝一番で六課に来る原因になったスバル。



「えー? 私そんなひどい顔してなかったよ!」

「いやいや、してたしてた。
 ちゃんと写メに残してあるから見せようか?」

「わーっ! なんでそんなの残してるのーっ!?」



 フッ、そんなの、スバルをいぢるために決まってるじゃないのさっ!



「はいはい。
 じゃ、その写メについては後でみんなで鑑賞会するとして」

「ティアがひどいっ!?」

「どうでもいいって話をしてるのよ。
 今はなのはさんの問題でしょ」



 スバルに答えるティアにゃんの言葉に、場の空気が一気に引き締まる――ま、ここからはマジメにお話しようか。



 と、いうワケで、思いついた限りのことをティアにゃん……いや、シリアスだしちゃんとティアナって呼ぼう。とにかくティアナにその辺を確認。



「とりあえず……レイジングハートもプリムラもここってことは、なのはさん自身にがんばってもらうっていうのはあきらめるしかないよね?
 それに、デバイスのシグナルで追いかけるのもムリ」

「まぁね。そもそもシグナル追いかけようとしたらレイジングハートが中庭に転がってるのを見つけたワケだし」

「“力”で追っかけるのは?
 先生はもちろん、ライカさんやイクトさんもできるでしょ? あと、感度にぜいたく言わなかったらスバルやマスターコンボイも」

「ジャミングでもかけられてるんでしょうね。誰も捉えられてない。
 というか……こなた」

「ん?」

「もしそれで見つかってたら、ジュンイチさんの手でアジトはとっくに火の海だとは思わない?」

「………………納得。
 で……その火種の先生は?」

「行方不明。
 真っ先になのはさんを探しに出たっきり音沙汰ナシ。一度仕切り直すからって帰隊命令が出たのに帰ってこないどころか返事もないわ」

「ジュンイチさん自身は、サーチャーに引っかからないんですか?」



 みゆきさんが尋ねるけど……ティアナは首を左右に振る。つまりダメってことか。



「まったく……あの人もあの人で何してるのさ?
 自分が連中の最終的なターゲットだって自覚あるのかね?」

「あるから単独行動してるんだと思うよ、うん」



 恭文にツッコんでため息をひとつ。



 とはいえ、居場所くらいは教えてほしいよね、ホント。



 いくら強いって言っても、こういう状況で目に見えるところにいてくれないと、どうしても気になっちゃうんだからさ。







 ………………ま、あの人のことだから、意外性バツグンの、“灯台下暗し”的なところにいるんだろうけどね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「ぶぇっくしょんっ!」



 うー、なんだろ。誰かウワサでもしてるのか?



《その場合対象者はかなりの数にのぼり特定は不可能と思われます》

「そうか?」

《相手の最終ターゲットでありながら帰隊命令を無視して単独捜査を続けていれば、誰がマスターのウワサをしていてもおかしくないかと。
 いえ、むしろ味方と呼ぶことができ、今回の件を知っているすべての人間が対象者かと》



 蜃気楼、的確な説明をありがとう。



「っつっても、しゃーねぇだろ。
 こんなの、六課の端末からはできないんだからさ――やったらどうなるか、答えてみろ」

《まず、万どころか億、兆にひとつもありませんが、アシがついた場合、六課の端末からのアクセスだとわかると迷惑がかかることになります。
 管理局の施設でハッキングという違法行為に出るのは避けるのが賢明でしょう》

「マスターの実力への信頼は絶大だね」

《それからもうひとつ》

「ん?」

《マスターの全力の“情報体侵入能力データ・インベイション”の端末として使用するには、六課の端末ではマシンパワーが不足しています。
 もしマスターが全力でアクセスした場合、過負荷で端末が5機は廃棄処分になると思われます》

「…………一応、ミッドの最新機器なんだけどな」

《ここにあるお父上の特製端末よりは劣ります》

「言い切りやがったよ」



 ……アルトアイゼンとは別のベクトルでキツイよな、お前。



《原因は間違いなくマスターです》



 ……ホントにキツイよな、お前。



《事実です。
 私のAIはマスターに作られたものですから》



 ………………その通りだけどね。



《それよりもマスター。
 今は高町なのは嬢の居場所を特定するのが先決です》

「はいはい。
 そんじゃ、お前のお墨付きももらったこの端末のお世話になるとしましょうかね」



 説明が遅れたけど、オレがいるのはいつも住居に使ってるのとは別のアジトの端末室。ちなみに立地の地価はいつものアジトより上。どうでもいいけど。



 そして――ここの端末とオレの能力、“情報体侵入能力データ・インベイション”を使って、ネットワークにアクセス、なのはを探そう……っていうのが、当面のプラン。



 アクセス自体は六課やいつものアジトの端末からでもできるけど……今回はまったく行き先の手がかりのない相手を見つけなくちゃならない。あらゆる可能性を探らなきゃならないし、時間的な関係からそれを同時にやらなきゃならない。

 それだけの同時多重ハッキングをやろうと思ったら、ここに持ち込んだ親父特製のスペシャル端末くらいでないと扱う大量の情報の受け皿になりきれず、過負荷で吹っ飛ぶことになる。蜃気楼が警告した、まさにその通りに。



「そんじゃ……いきますか!」



 気合を言葉に表して、すでに立ち上げを済ませてあるすべての端末、そのひとつに手を触れる――そして、一言。











接続アクセス











 その宣言と同時、自分の中から流れ出ていくもの、流れ込んでいくものの存在を感じる――オレの意識がオレの手を、端末を介してネットワークに流れ込み、逆にネットワークの情報がオレの中に流れ込んでくる。



 さて……ここからが本番だ。



 気合を入れ直し、処理能力を最大まで引き上げる――規則も何も関係なく、激流の如く流れる情報の奔流の中から、必要な情報だけを拾い上げ、読める形に直していく。



 監視カメラ、エネルギーライン、ライフライン管理、通信網――それらの情報の中から、少しでも手がかりになりそうなものを見逃さず、拾い集めていかなければならない。







 恭文達には話してないけど……きっとこれが、ブルーバッカスがノーヒントでなのはを連れ去った理由だろう。



 こんな探し方、オレにしかできない……逆に言えば、オレしかこんな探し方はしない。



 オレだけにわかるようになのはの居場所のヒントを隠すには、ネットの中はもってこいというワケだ。



 逆に言えば、どこかに……たぶん、捜査線上にはとてもじゃないけど浮かんでこない、そんな完璧に無関係なところにヒントを挙げているはず……







「………………あった」







 ヒントが書き込まれていたのは、事件とは本当に縁もゆかりもない食品メーカーの顧客データベース――データ形式もぶっちぎりで無視して、なのはの名前とさらわれた時間、そして地図のデータが書き込まれている。



 なるほど。こうやってデータ形式を無視してぶち込んでおけば、メーカーが仕事の中で偶然問題のデータにアクセスするようなことになっても、形式が違うから屑データにしか見えないってか。考えてるねー。







《行きますか?》

「逆に聞きたいね。
 『行かない』なんて選択肢、ある?」



 蜃気楼に答えて、オレは愛用の霊木刀“紅夜叉丸”を手に立ち上がる……もちろん端末は全部落として。電気代、バカにならないしね。



《では、六課に連絡を――》

「いらねぇよ。
 どうせアイツらもオレの行方を追ってるはずだ。オレが動き出せば、勝手に気づいてカッ飛んでくるさ」



 そう。アイツらならオレが気配遮断をやめればすぐに見つけ出す。そしてすぐにやってくる。



 もっとも、それまで戦いが続いてる保証はどこにもないけど――そんなことを考えながらアジトの屋上に出ると大空へと飛び立つ。



 目指すのは、廃棄都市区画――まぁ、身を隠すには定番だよね。







 とにかく、だ……オレ達を狙うためになのはを巻き込んだこと、死んだ方がマシだと思うくらいに後悔させてやるっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジュンイチさんが見つかったって!?」

「えぇ! 捕捉したっ!
 つか、捕捉しろとばかりに気配も隠さずカッ飛んでるわよ!」



 情報も何もなく、できることといったら地道な聞き込みを続けることくらい……一晩中探し回ったことを考えると絶望的なまでに実入りのない報告会が終了。さて次はどこを探そうかというところで、急にはやての周りが騒がしくなった。



 なんでも、ずっとジュンイチさんの気配を追っていたライカさんがついに捕捉したらしい――というか、むしろジュンイチさんの方から姿を現したらしい。



 ということは……



「なのはの居場所を見つけたってことだね……」

「だろうね。
 でもって、ジュンイチさんことだからぶっちぎりに違法な手段で見つけたと見た」

「柾木なら十分にありえることだ」



 フェイトやイクトさんと話しながら、とにかくはやてやライカさんに確認を取る。



「それで……ジュンイチさんはどこに?」

「今の段階じゃ、そこまでは捕捉できないわよ。
 とりあえず、旧市街の方に向かってるみたいだけど……」

「それだけわかれば十分です!」



 元気に声を上げたのは、なのはが見つかるかもしれないとわかって復活したスバルだ。



「いくよ、シロくん、クロくん!
 なのはさんを助けに行かなくちゃ!」

「うんっ!」

《おぅともよ!》

「ちょっと、待ちなさいよ、スバル!」

「我々も行く――置き去りはかんべんしてもらいたいのだが」



 で、元気になったら今度は猪突猛進。ティアナやジェットガンナーが止めるのも聞かないでロードナックルと一緒に飛び出して――



「ティアナの言う通りだぞ、スバル」



 そう言って現れたのはライオコンボイ以下ガイア・サイバトロンのみなさん……あ、ジンと一緒に来た戦闘要員のみんなもいる。



「僕らもなのはの救出に参加させてくれ」

「そーそー。同じ釜のメシを食った者同士、ここで声かけないのは水臭いじゃん」

「せやけど、みなさんは本来客分としてこの六課にいるワケですし、頼るワケには……」

「細かいことは言いっこなしだよ」

「ダーリンの友達のそのまた友達なんでしょ? 何かあったら、巡り巡ってダーリンまで凹んじゃいそうだもの。
 お手伝いするわよ、機動六課のみなさん♪」

「ま、そういうことだ」



 ライオコンボイやチータスにとまどうはやてだけど、今度は人間組からクレアさんやレヴィアタン、でもってきれいなエメラルドグリーンの髪が印象深いハルピュイアがそう答える。



「ま、オレもレオーしかないから全開ってワケにはいかないけど、それでもある程度は戦えるしな」

「いざとなったら私もいますしね〜♪」

「いや、お前に身体貸すのは正直勘弁してもらいたいんだけど」



 あ、ジンも来てくれるんだ……となりのヴェルヌスについてはツッコまない。

 いいじゃないのさ。身体貸すくらい。ちょっとした電王気分だと思ってさ。







「ほんなら……お願いします。
 現場にはジュンイチさんが向かってる……あの人のことやから、怒り心頭で大暴れのはずや。
 一応、いくら怒っててもそんなヘマをする人やないとは思うけど……みんな、流れ弾とかには十分に注意してな」



 はやての言葉にうなずいて、みんなで出動――さぁて、ジュンイチさんに見せ場持っていかれないように、がんばるとしましょうか!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 廃棄都市区画の中でも海沿いのエリア。そこに建つ天井開閉型のドームスタジアム――そこが、隠しメッセージに記された場所。



 半開きの天井から内部に進入。グラウンドの真ん中に降り立つ。



 もちろん、ワナが仕掛けられている可能性は考えてるけど……今のところその気配はない。



 さて、連中はどこにいるか……こんな真っ向から堂々と入ってきたんだ。オレの登場に気づいてるのは間違いないんだけど。











「思ったよりも遅かったじゃないか」











 ………………お約束な登場の仕方をありがとう、ブラックシャドーさんや。



 まさにこの手の悪役の定番。バックスクリーンのど真ん中にブラックシャドー登場。そして――







「ジュンイチさん!」







 なのはもいる。クリスタルケージの中に閉じ込められて、ブラックシャドーのとなりにぷかぷか浮いてる。



 とりあえず、無事のようなので――言うべきことは言っておく。







「あっさり捕まってんじゃねぇぞ、バカタレが。
 無事帰ったらオシオキフルコース覚悟しとけやコラ」

「捕まってる仲間に対してなんて追い討ち!?」



 やかましい。お前が捕まらなかったらこんなことにはなってねぇんだ。それでも魔王かコノヤロウ。



「魔王じゃないもんっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……動きが止まった!」

「なのはちゃんを見つけたの!?」

「だと思うけど……今のところ、なのはさんの魔力は感じない……」



 現在、みんなでビークルモードのマスターコンボイに乗り込んで現場に急行中……僕やフェイト達なら飛んでいってもいいけど、向こうで戦闘の可能性がある以上、隊舎から飛んでいって魔力を消耗するのはとりあえず避けたい。



 で、行き先を特定するためにも、スバルにジュンイチさんの気配を追ってもらってたんだけど……あずささんの質問には首を左右に振った。つまりなのははまだジャミングの効果範囲内ってことか……



「…………ねぇねぇ、それってちょっとおかしくないかな?」



 いきなりそう口をはさんできたのはつかさだ……で、何?



「えっとね……なのはさんってすっごく魔力が大きいよね?
 で、クロスフォーマーの人達は、そんななのはさんのおっきな魔力を隠してる……それって、そのくらい強力なジャミングってことだよね?」

「でしょうね」



 ティアナがうなずくけど、つかさは納得してないみたい。何がそんなに気になるのさ?



「けど、それっておかしいよね?
 それだけ強力なジャミングなのに……」











「どうして、なのはさんのそばまで行ったかもしれないジュンイチさんに影響がないの?」











 ………………え?



「動きが止まったのは、別の理由からだって言うの?」



 そんなつかさにかがみが聞き返すけど……もし、なのはと接触したのにジュンイチさんの“力”の気配がジャミングの影響を受けていないんだとしたら……かなりマズイ。



「ヤスフミ、どういうこと?」

「確かにかがみが言ったように、なのはを見つけたんじゃなくて別の理由で動きを止めたっていうなら、まぁ問題はないよ。
 問題なのは……“なのはを見つけたのに、ジュンイチさんの気配が隠されていない場合”」



 フェイトに答える形で、僕自身頭の中で仮説をまとめていく。



「つまりそれって、ジュンイチさんの気配については隠す気なし、ってこと……けど、そんなことをすれば、僕らがすぐに駆けつけるってことぐらい、向こうもわかってるはず……
 ってことは、つまり……」











「僕らが出てくることも、連中の計画の内ってこと」











 その瞬間――爆音と同時にマスターコンボイの車体が揺れた。攻撃!?



「マスターコンボイ!」

「全員出ろ! お客さんのお出ましだ!」



 マスターコンボイがティアナに答えて、とりあえず全員外に出る。そこに待っていたのは――



「シャークトロン!?」

「ウソでしょ……なんでコイツらが!?」



 ずんぐりむっくりなガタイの魚に手足が生えたような、魚人型のトランスフォーマーがいっぱい……記録で見たことがある。名前はシャークトロン。



 ただ……こなたやかがみが驚いたのには理由がある。



 だってコイツら……あのユニクロンの生み出した眷族なんだから。

 ユニクロンが倒れた今、コイツらが存在していられるはずがない……んだけど。



「あー、そういえばこなた達には言ってなかったっけ」

「何が?」

「確かにユニクロンは倒れたけど……アイツらを使って、いろいろと悪さをしてる連中はいるのよ」



 そう……シャークトロンは、今やそいつらの戦力として使われている。



 ただ、僕らが直接ぶつかることがなかった、それだけの話で。



 ……そうだよね、ジン。



「あぁ……
 コイツらの黒幕の相手は、もっぱらオレ達がしてたからな……」

「じゃあ、フレイホークさんはこのシャークトロンが誰が差し向けたものなのかご存知なんですか?」

「えぇ。
 よく知ってますよ、コイツらのことは……なんでこんなタイミングで出てきたかはわかりませんけど」



 みゆきさんに答えて、ジンは面倒くさそうにため息。



「コイツらの“ご主人様”達には、惑星ガイアでずいぶんとお世話になったからな。
 軍団名は……」











「プレダコンズっすよ!」











 その言葉と同時に再度の一斉攻撃――回避っ!



 みんなで散開して、攻撃をかわす――みんな、無事!?



「大丈夫! 全員無事っ!」



 すぐにティアナからの返事が返ってくる……頼りになるフォワードリーダーで助かるよ、ホント。



 けど、今の声……聞き覚えないんだけど、何者?



 そんな、首をかしげる僕のとなりで、ジンが声を上げる。



「やっぱりお前か……タランス!」

「そうっすよ。
 原作『ビーストウォーズ』に燦然と輝く大スター! タランスとはあたちのことっすよーっ!」

「……『リターンズ』には影も形も出てこないクセに」

「それ言っちゃダメっすーっ!」



 ジンにあっさりツッコまれて悲鳴を上げる――うん。とりあえずお笑いキャラってことはわかった。



「で? そのお笑いプレダコンズが、なんでこんなところで出てくるのさ?」

「フフンッ、別に隠す理由もないから教えてあげるっすよ。ストーリー展開に優しい配慮っすねー♪
 実は、クロスフォーマーのやろうとしてることにうちのボスが興味を持ったらしいんすよ。
 で、成功してもらいたいからって、あたちらをこうして派遣してきた、と、そういうワケっス」

「へぇ……じゃあ、お前はクロスフォーマーが何をしようとしてるか、知ってるワケだ」

「もちろんっすよ。
 ただ……そこから先は、今後の展開をお楽しみってヤツっす!」



 相手のおバカキャラに便乗して情報を引き出そうとはしてみたけど、肝心なところははぐらかされたか……タランスの合図でシャークトロンの群れが一斉に戦闘モードに移る。こりゃ、言葉のキャッチボールはここまでかな?



「そういうことっすね。
 ここからは……攻撃のキャッチボールっすよ!」



 そのタランスの言葉が合図になって、シャークトロン達が一斉に攻撃開始。あぁ、もうっ! こんなところで足止めされてる場合じゃないってのに!



 こうなったら空からやりすごすか――そう思って見上げた僕が見たのは、上の方でも飛び交う戦いの光。

 上空からジュンイチさんを追いかけてたシグナムさんやスターセイバー、師匠とビクトリーレオがワシ型のユニクロンの眷属とやり合ってるんだ。



 あれじゃ空からっていうのもアウト……こりゃ、やるしかないか!



《最初からやる気だったでしょう?》

「そりゃそうだけどね!」



 と、いうワケで……っ!



「いくよ、みんな!
 カイザー、ジェット!」

「ライトライナー!」

「レンジャーライナー!」

「ロードライナー!」

「アームライナー!」

「ニトロライナー!」



 そう叫ぶのはこなた達――そして駆けつけてくるのはジェット機型ビークルが1機にみんな種類の違う列車型ビークルが5機……なるほど。あれがこなた達のトランステクターか。



 となると、次は当然――



『ハイパー、ゴッド、オン!』



「ライトフット!」

「レインジャー!」

「ロードキング!」

「ブレイクアーム!」

「ニトロスクリュー!」



『トランスフォーム!』



 トランステクターと一体化。まずはかがみ達列車ビークル組がロボットモードにトランスフォーム。



 その後に続くのはこなただ。カイザージェットに拾ってもらって上昇して、



「トランスフォーム!」



 こなたの合図で、カイザージェットがこなたを宿さないままロボットモードへとトランスフォーム。



「ハイパー、ゴッド、オン!」



 その上でこなたがゴッドオン。背中の翼が上へとはね上がり、名乗りを上げる。



「熱き勇気と絆の力!
 翼に宿して悪を討つ!
 カイザーコンボイ――Stand by Ready!」




 カッコよく決めてくれたこなたが先頭に立つ形で、カイザーズの面々ゴッドオンが完了。そして――



「ティア! エリオ! キャロ!
 あたし達もいくよ!」

『おぅっ!』



 今度は同じくゴッドマスターであるスバル達の番。スバルの音頭にティアナ達もうなずいて、



『ハイパー、ゴッドオン!』



 こっちも最初からハイパーゴッドオン。スバルがマスターコンボイと、そしてティアナ達もジェットガンナーやシャープエッジ、アイゼンアンカーと一体化する。



 …………そう。ティアナ達はジェットガンナー達とだ。元々GLXナンバーのみんなはトランステクターにAIを乗せた面々。なので、パートナーであるティアナ達とゴッドオンできるんだ。いろいろあってノーマルのゴッドオンはできないんだけど。



「双つの絆をひとつに重ね!」
「限界超えて、みんなを守る!」
『マスターコンボイ――Stand by Ready!』




 スバルとマスターコンボイもノリノリでポーズを決めて名乗りを上げる。となると、僕らも負けてられないよね!



「いくよ、アルト!」

《いつでも!》



 と、いうワケで――



「変身っ!」

《Riese Form》



 身にまとうのは、前々回お披露目となった新しい騎士甲冑。

 なお、今回サウンドベルトはなしです……こんなザコ相手にもったいないしね。







 それに……一曲分も時間かけるつもりもないし。







 何か、イヤな予感がする。



 今までは、ターゲットをおびき出して、孤立させて各個撃破するような戦法を得意としていたクロスフォーマーが、むざむざ僕らがジュンイチさんを追跡できるような状況を放置してること。

 それでいて、タランス達をここに配置して足止めさせてる……それがどうにも引っかかる。



 何企んでるかは知らないけど、それが形になる前にここを突っ切る! いっくぞぉっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まぁ、いずれにせよ安心したぞ。
 貴様にしか、オレ達の隠したメッセージは見つけられなかったろうからな……正直、お前がメッセージを見落としたらどうしようかと思っていた」

「あー、そりゃそうだろうな。
 ありゃ、オレが能力を駆使しなきゃ、お前らの考えそうなことを読まなきゃ、とてもじゃないけど見つけられなかったろうからな」



 ブラックシャドーの軽口にこちらも軽口で返す――もちろん、いつでも飛びかかれるように臨戦態勢で。



「そう身がまえるな。
 まだ始めるつもりはないさ」

「なのはをさらってオレを引きずり出しておいてよく言うぜ」

「それだ」



 返すオレの言葉にニヤリと笑みをもらす――発言のつながりがおかしい気がするんだけど、どういうことだよ?



「だから、先に高町なのはを返してやると言ってるんだ。
 貴様を引きずり出すことに成功した今、コイツに用はない。むしろジャマだ」

「良かったなー、なのは。ジャマだってよ、ジャマだって」

「うぅっ、言い回しがぜんぜんありがたくない……」



 まぁ、たとえ相手が敵だろうと「手元に置いておいてもジャマ」なんて言われれば複雑か。



「そういうワケで返してやる。
 安心しろ。今さら彼女に手を出すつもりはない――そんなことをしても、貴様の怒りを買ってただ勝率を落とすだけだ」

「わかってるじゃないの。
 ――――だからっ!」



 言うと同時、右に向けて全力の炎一閃。巻き起こった灼熱の渦が客席の一角を爆砕――その中からブルーバッカスが飛び出してきた。やっぱり不意討ち狙ってやがったか。



「オレを怒らせたまま戦うのはリスクが大きい。だからなのははおびき寄せるエサとしての利用に留めて不意討ち狙い、か……
 オレの性格を考慮したのが伺える攻め口だけど……まだ甘い。オレがあの程度のステルスを見抜けないはずがないだろう」

「そうみたいだな。確かに読み違えた。
 ブルーバッカスの一撃で仕留められれば最良だったんだがな」

「そもそもお前ひとりで出てきた時点で怪しいだろうが。警戒するに決まってるだろ」



 そう答えるけど……ツッコみどころはそれだけじゃない。







 二人組の敵がひとりだけで出てこれば、当然もうひとりを警戒する……そんなことは常識だ。アイツらが気づかないはずがない。



 なのにあえてバレバレの不意討ち……仕留めるつもりがなかったのは明らかだ。







 なら、どうしてそんなマネをした……?



 考えられる可能性の中で一番ありそうなのは……オトリ。



 あえて見え透いた不意討ちをしかけ、失敗することで自分達に対する認識の下方修正と、ワナを破ったという自覚からくる油断を狙った……?



 もしくは、本命の攻撃から目をそらすため――だとするとっ!







 気づくと同時、背後に気配――反撃は間に合わない。とっさに横に跳んだオレのいた場所に、チェーンソー状のブレードが叩きつけられる!



 攻撃してきたのは――







「………………誰?」







 別にボケをかましたワケじゃない。本気で面識がない。



 けど、どっかで見た覚えがあるんだよなー。えっと……







「そーいや、アンタとは初対面だったっけな」







 そんなオレに対して、襲撃してきたそいつはチェーンソーブレードを人型の右腕に“トランスフォームさせる”。



 そう。襲撃者はトランスフォーマー。全身に炎のプリントがしてある、ちょっとガラの悪そうな……きっとビークルモードはヤン車系に違いない。



「ほぉ、よくわかったな」



 ホントなんかい。







「まぁ、改めて自己紹介だ。
 オレの名はロックダウン。賞金稼ぎだ――夜露死苦っ!」







 ………………思い出した。







 恭文が初めてマスターコンボイとゴッドオンした時の、ディセプティコンとの戦い――あの時、マスターギガトロンに雇われて恭文達と戦った賞金稼ぎ。それが目の前にいるロックダウンだ。



「今回の雇い主はクロスフォーマーってワケか……狙いはオレの首か?」

「その通りだ。
 正解者への賞品は……地獄行きの格安航空券だ!」



 言うと同時、ロックダウンが腕の鉤爪をこっちに向けて打ち出してくる――ワイヤーアンカーか!



「しゃらくせぇっ!」



 あの手の攻撃は攻撃+拘束と相場が決まってる。ヘタに受けず、サイドステップでかわして――



「逃がさねぇ!」



 って、こいつ、速いっ!?



 こっちがアンカーをかわした、その一瞬で間合いを詰められた――ヤンキー系のネタキャラじゃねぇってことか!



 ――けどっ!







「っ、らぁっ!」







 気合いの入った声と共に、ロックダウンが蹴りを放つ――その蹴り足に手を添えて、蹴りの勢いに乗って身体を回転。受け流すと共に相手の懐に身体を放り込む。



「な――――っ!?」

「デカイくせして速いじゃねぇか。ちょっとビックリした。
 ――けど、オレと戦うやるにはまだ足りねぇっ!」



 とっさに間合いを離そうとするロックダウンだけど、それよりもオレの攻撃の方が速い。零距離からぶちかました拳が、ロックダウンの腹に突き刺さる。



 衝撃は思い切り内部に突き抜けたはずだ。拳を打ち込まれた辺りを抱えて後ずさるロックダウンとの距離を再度詰めて――



「時間をかけるつもりはねぇ。
 とりあえずぶっ飛んで――」







「そのまま失せろ!」







 火力最大の炎を、面でぶちかます。一点集中ではなく全身に炎を叩きつけられた勢いで吹っ飛ばされたロックダウンは、そのまま観客席までぶっ飛んだ。



 轟音と共に観客席のイスが飛び散る。もうもうと立ち込める煙が晴れたその後には――きれいに意識を飛ばされたロックダウンが観客席にめり込んでいた。うし、K.O.。



「賞金稼ぎまで雇って、ご苦労なこった。
 もっとも――もっと強いのを雇うべきだったな」

「そこまでこだわる必要はなかったさ。
 これで殺れれば御の字、くらいの保険としか思っていなかったからな」

「つまりロックダウンは捨て駒かよ。
 ヤダねー、自分だって傭兵としてそういう使い方される側の気持ちはわかるだろうに」

「わかるが、戦いは常に勝利することが求められる。そのために必要なら捨てる側に回ることも厭わんさ」

「オレも傭兵経験者だけど、そうはなりたくないもんだねー」



 オレとブラックシャドー、二人の間で軽口が飛び交う――そうしている間も、仕掛けるスキの探り合いだけど。



 そんなことをしている内――先に緊張を解いたのはブラックシャドーの方だった。



「………………まぁ、腹の探り合いはこのくらいでいいだろう。
 まずは最初に言った通り高町なのはを返すことにしよう」

「そうしてくれると助かるな」



 ブラックシャドーの言葉にオレが答えると、なのはを閉じ込めたクリスタルゲージが動き始めた。そのままフヨフヨとなのはをこっちに運んでくる。



 そして、オレの目の前まで来たところでシャボン玉が弾けるような感じで消滅、解放されたなのはが地面に降り立つ。



「ふぅっ、やっと自由になれた……
 ジュンイチさん、助けに来てくれてありがにゃっ!?」



 お礼を言いかけたなのはの額をつつく――ただし、ちょっと強めに、勢いよく。



「なっ、何するんですかっ!?」

「るせぇ。
 礼なんぞいるか。むしろいらん騒ぎの種になったことへの謝罪がほしいくらいだよ、オレは」



 あぁ、ホントにそうだよ。お前がむざむざ捕まらなきゃこういう事態にはなってないんだよ。



 まったく、ここ最近情けない部分ばっかりさらしてるんだからさ、少しは汚名返上のためにがんばってみようとか思わないもんかね。むしろ汚名を挽回してるだろ、お前。



「うぅっ、それを言われると、確かに最近黒星ばっかりだから反論できませんけど……」

「それに、だ」



 肩を落とすなのはの頭をぽんぽんっ、と叩いて、付け加える。







「お前を助けるのに理由なんかいるか。
 やって当然のことをしただけだ。礼を言われるような要素なんかねぇよ」







「え………………?
 それって……私を助けるのは当たり前ってことですか……?」

「当然だろ?
 お前に何かあったらヴィヴィオが泣くだろ」

「………………ですよねー」



 ………………?



 なんか、喜びかけたと思ったらまた凹んだ……何か変なこと言ったか? オレ。



「とにかく、お前はさっさと下がれ。
 レイジングハートもプリムラもいない丸腰で、なんとかなるような相手じゃないだろ」

「そうですね……」

「未だにデバイスなしで飛ぼうとするとペットボトルロケット状態なんだからさ」

「………………そうですね……っ!」



 そこで凹むくらいならちゃんと魔力制御の訓練しやがれ。最近また自主トレとかサボってるだろ、お前。



「とりあえず、恭文達が外でドンパチしてるから、そっちと合流しろ。
 アイツらのことだ。レイジングハート達も連れてきてるだろ」

「ジュンイチさんは……?」

「ご希望通り、アイツらのお相手をしてやるさ」



 なのはに答えて、クロスフォーマーの二人へと向き直る……さて、そろそろ戦闘モードに戻りましょうかね。



「心配すんな。
 アイツらの攻撃……一発たりともお前の方には飛ばさせない」

「はい。
 ……あ、それと……」

「ん?」

「気をつけてくださいね」

「お前こそ気をつけろよ――コケないように」

「うぅっ、否定できないのがまた悔しい……」



 またまた肩を落とすなのはだけど……オレが戦闘モードに入ってるのに気づいてるのか本気で落胆した感じではない。改めてオレに「気をつけて」と言い残してグラウンドの出入り口に向けて駆けていく……と、いうワケで。



「じゃあ、始めようか」

「高町なのはが完全に離脱するまで、待たなくていいのか?」

「いらねぇよ。
 てめぇらがなのはを狙ったとしても、軽く防いでやるさ」



 ブラックシャドーに答えて、一歩を踏み出す――けど、何がおかしい?



「いや、何。
 確かに、貴様ならオレ達が高町なのはを狙ったとしてもことごとく防いでみせるだろうと思ってな。
 ………………しかし、だ……」





















「あの女が、自ら死地に踏み込む分には、さすがの貴様もどうしようもあるまい?」





















 ――――――っ!?



 ブラックシャドーのその言葉に、オレの思考が一瞬停止する。



 まさか――コイツっ!











「なのは! 止まれ!」



「え………………?」







 オレの声が届いて、なのはがこちらに振り向いて――





















 なのはの姿が、巻き起こった爆発の中に消えた。





















 爆発はなのはの足元から――まさか、地雷!?







「なのは!」







 他にも仕掛けられている可能性を、オレの中の戦士としての部分が指摘する――けど、そんなことは関係ない。全力で地を蹴り、なのはのもとへと向かう。



 晴れていく煙の中、なのはの姿が見えてくる――











 血と火傷まみれになって、地面に倒れ伏すその姿が。











「なのは!」

「………………ジュンイチ、さん……」











 助け起こすと、弱々しいものの返事が返ってきた。



 まだ息はある……けど、かなりの深手だ。命にかかわるかかかわらないか、その瀬戸際といったところか。







 つまり……手当てが間に合えば助かる。間に合わなければ……くらいの傷。







「………………ホント、気を、つけてなかったら……これですよ……
 先輩の、言うことは……聞いておく、ものですね……」

「しゃべるな……っ!」







 痛みをこらえているのが丸わかりだというのに、なのはは笑顔を見せる――オレに心配させまいとして。



 それがむしろ痛々しくて……なのはの身体を抱きしめる。



 なのはの顔を直視できなかったのもあるけど……なのはと触れ合う面を少しでも多くして、接触面全体からなのはに“気”を流し込む。これで少しは楽になってくれれば……







 ――――どろりっ。







 なのはを抱きしめた手に、暖かいものが垂れてくる。



 それが何なのか、すぐにわかった……見たくなかった……けれど、見てしまった。











 オレの手を真っ赤に染めた――なのはの身体から流れ出たばかりの血を。





















 ……………………………………………………あの時と、同じだ。





















 血で真っ赤に染まった手が、オレの中に眠る“あの日”の記憶を呼び覚ます。











 燃え盛る建物。







 辺りに無数に散らばる、真っ赤な液体の中に浮かぶ、かつて人だったものの欠片。







 その中心で、オレを優しく抱きしめてくれる……オレがあの時、誰よりも大切に思っていた人………………レム。







 とてもきれいで、大好きだった深紅の髪……ポニーテールにまとめていたその髪はリボンもほどけて垂れている。







 腕の中のオレを優しく微笑みながら見下ろしてくれる……その口元から一筋、真っ赤なナニカを流しながら。











 少しずつ、力が抜けていく、冷たくなっていくレムの身体……そんな彼女の身体を抱きしめ返すこともできたはずのオレの腕。その右腕は……





















 彼女の背中から、生えていた。





















 生気を失っていくレムのあの笑顔と、目の前のなのはの笑顔が重なって……





















 オレの中で、ずっと抑えていた“モノ”が弾けた。





















「ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」























 もう………………何も考えラれナイ。























 ただ、目のまエのスベてヲ





















 コ     ロ     シ     テ     ヤ     ル





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「せーっ!」

「のっ!」



 僕とスバルの声が重なって――シャークトロンが2体、同時にブッ飛ばされた。爆発して、完全に機能を停止する。



 残り2体――僕らから少し離れたところにいるそいつに向き直るけど、



「オラオラ、いっくぜぇっ!」

「だなぁっ!」



 その2体をブッ飛ばしたのは、ちゃんとついてきてたけど今までセリフなしだった暴走コンビ。ガスケットのエグゾーストショットで撃ち抜かれて、アームバレットのアームバズーカで吹き飛ばされる。



 ………………つか……



「ウソ、あの二人がちゃんと活躍してる」

「うっせぇぞ、恭文!」

「オイラ達だって、ちゃんと戦えば強いんだな!」



 叱られた。けど仕方ないじゃん。今までまともに戦いで活躍したところなんて見たことなかったし。むしろ最近出番も……



「わーわーわーっ!」

「それは言っちゃダメなんだなっ!」



 うん、二人ともうるさい。



 それはともかく、上空の戦いも師匠達やこっちから合流していったフェイト達の大暴れで見事圧勝。というワケで――



「さて……後は貴様だけだな」

「ま、マヂっすか!?
 少しの間足止めするだけでいいとは言われてたっすけど……むしろ少し足止めするだけで精いっぱいじゃないっすか!」



 二つに分かれて両腕に合体したオメガ、右腕のそれを突き付けるマスターコンボイの言葉にタランスは大あわて……ほほぅ。



「つまり……お前はここで僕達を抑えておく、それが役目だったワケだ。
 しかも、『少しの間だけ』ってことは、最終的には通してよし、と」

「そ、そうっすね!
 もう十分っすね! どうぞどうぞ、お通りくださいっす!」



 僕と同じことに気づいたジンの言葉に、タランスはあわてて道をあける……勝ち目なしと見たとたんに低姿勢になったな、コイツ。



 まぁ、そういうことなら通してもらおうかな。







 ………………けど。







「はい?」

「それで無事逃げられると思うな、こらぁぁぁぁぁっ!」

「みぎゃぁぁぁぁぁぁっ!
 ファンレター待ってまぁぁぁぁぁすっ!」







 抜き打ちで一閃。豪快にブッ飛ばされたタランスは天高く放物線を描いて――通りの向こうに落下した。なんか余裕を感じさせる断末魔を残して。







「あー、アイツはマジにブッ飛ばしてもあぁだから、気にしない方がいいぞ」





 まぁ、ジンがそう言うならいいけど――





















 ――――――





















『――――――っ!?』



 な、何!? この感じ!?



 突然、僕の身体を突き抜けた悪寒――しかも、僕だけじゃないみたい。ジンやスバル達、それに上空のフェイト達も驚きと緊張が入り混じった感じで周りを見回している。



 と、いうか、今の感じ……



 身に覚えがないワケじゃない。これは……殺気だ。







 ただ……僕に向けられたものじゃない。というか、誰にも向けられている感じがしない。







 ただ無造作に、周りに殺意を振りまいているような、そんな感じ……何、コレ。







「アルト」

《マスター達が感じたモノの主かどうかはわかりませんが……この先のスタジアムに巨大な生命反応が確認できます》







 それって……ジュンイチさんの向かった先……? 向こうで、何が……







「イクトさん、何か感じて……」





 言いながら上を見上げて……気づいた。







 イクトさんの様子がおかしい……いや、ライカさんもだ。



 二人とも、強張った表情でじっとスタジアムの方を見つめてる……ただ、僕らみたいにいきなりの殺気に警戒してるって感じじゃない。もっと深刻そうな……







「イクト……さん……?」



「この感じ……覚えがある……っ!」







 尋ねるフェイトに答える声も、緊張で震えてる……そこまでの事態が、あそこで起こってるってことか……







「とにかく、行ってみようぜ!」

「そうだな。
 あそこに高町と柾木がいるのは間違いない」

「ま、待て! お前達!」







 師匠やシグナムさんがスタジアムに向かおうとすることすら、イクトさんは止めようとする……けど、その制止を振り切って師匠達はスタジアムに向かう。







「恭文、オレ達も行くぞ」

「りょーかい」







 何か、イクトさん達ですら警戒するようなとんでもない事態が起きてるのは確かだけど……もうみんなスタジアムに向かう流れだ。どの道行かなきゃ何が起きてるかわからないしね。



 と、いうワケで、マスターコンボイに答えて僕らもスタジアムに向かおうとして――その時、スタジアムの天井が轟音と共に吹き飛ぶ!



「な、何!?」

「フェイト、気をつけて! 何かマズイ!」



 驚くフェイトに警告しながら、僕も空に上がってスタジアムの様子をうかがう。



 そして、立ち込める煙が晴れていき――





















 “ナニカ”がいた。





















 そう。“ナニカ”……そうとしか表現しようがないものがそこにいた。







 体格はゆうに2mを超えていて、全身が頑強そうな生体装甲で覆われている。



 背中には無数のトゲと巨大な翼。その翼の縁も生体装甲が覆っていて、しかも鋭く研ぎ澄まされている。なんていうか、あの翼で相手をぶった斬れそうな感じに。



 両肩はまるで肉でできた樽を担いでるような感じに大きく盛り上がっていて……その盛り上がりの前面には、まるで口があるみたいに水平のスリットが入ってる。



 顔立ちはトカゲのようにも見えて、額には鋭い角が2本。背中の翼や尾なども相まってドラゴンのような印象を受けるけど――単純に“ドラゴン”と定義するには、あまりにも禍々しい雰囲気を周囲に撒き散らしている。







 そんな、見たこともない奇怪な生き物が、グラウンドのすみに佇んでいた。







 クロスフォーマーは……いた。バックスクリーンの辺りで、ちょうどグラウンドをはさむ形で例の生き物と対峙してる。







 なのはとジュンイチさんの姿は見えない……まだあちこちから煙が立ち上ってるから、その中に紛れてるのかも……











「………………ううん。ジュンイチはいるわ」











 そう答えたのはライカさんだけど……え? どこに?



 グラウンドにいるのは、クロスフォーマーの二人と例の生き物くらい……





















 ………………待て。





















 頭の中にある可能性が浮かぶ……いやいや、いくらなんでもそれはない。



 というより、さすがに考えたくない。アレが……







「………………ライカさん」







 そんな僕とは別に、遅れて飛んできて、同じようにスタジアムの中の様子に呆然としていたフェイトが口を開いた。







「まさかとは思いますけど……」





















「………………あの生き物が、ジュンイチさんだって言うんですか?」





















「………………そうよ」



 うなずいてほしくなかった……けど、ライカさんはハッキリとうなずいた。



「そうか……お前達も初めて見るのか。
 もっとも、オレ達が以前見た時と比べても、ずいぶんと進化しているようだがな……」



 そう答えるイクトさんも、緊張に身を震わせている。



 いや、むしろ……











 …………恐怖?











「…………かも、しれんな。
 何しろ……10年前、アイツひとりにブレイカーズが皆殺し寸前まで追い込まれて、オレも墜とされずにその場をしのぐだけで精いっぱいだったんだからな」







 ちょっと待って。







 ライカさん達が……っていうのもそうだけど、あのジュンイチさんが一度たりとも「自分より強い」っていう評価を崩したことのないイクトさんですら、勝てなかったって……







「そうだ。
 アレが……」





















「柾木ジュンイチの、暴走態だ」





















(最終章Uへ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

スバル「そんな……アレが、お兄ちゃんだっていうの……!?」

マスターコンボイ「にわかには信じがたいが……
 だが……もし仮に、本当に柾木ジュンイチなんだとしたら、問題だぞ……」

スバル「そうだよね……
 ………………だって、今お兄ちゃん、素っ裸ってことだもんね!」

マスターコンボイ「あぁ。
 どう見ても服を着ているようには見えないぞ、アレは」

恭文「いやいや、そこの二人、いい加減空気読もうよ! もうクライマックスなんだからさ!」





最終章U「とある暴君の誰も手がつけられない大暴走」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《ついにクライマックス編、最終章に突入……と、いきなりとんでもない事態になった最終章1話目です》

Mコンボイ「まさかここで柾木ジュンイチが暴走するとは……」

オメガ《クロスフォーマーの目的はここにあったようですね。
 ミス・なのはを傷つけることでミスタ・ジュンイチのトラウマを抉り、暴走させる……》

Mコンボイ「ヤツの暴走はヤツ自身にとっても禁忌のようだからな……その暴走を引き起こすことで、ヤツを精神的に追い詰めるつもりか」

オメガ《まぁ、相手は暴走してるワケですし、そう思惑通りにいくかどうか、という問題はありますけどね。
 ともあれ、次回はその暴走したミスタ・ジュンイチが大暴れです》

Mコンボイ「間違いなく、オレ達も巻き込まれるんだろうな……
 10年前の話とはいえ、炎皇寺往人ですらどうにもならなかった相手をどうしろというんだ?」

オメガ《もはや脅威度では完全にクロスフォーマーが置いてきぼりになってますよねー。
 もう間違いなく前座ですよ、前座。ラスボス、ミスタ・ジュンイチで決定ですって》

Mコンボイ「前作『MS』に続き今回もラスボスか……
 ………………違和感、ないな……今回は事情が事情だが」

オメガ《もともと悪役サイドが似合うキャラですから、そこは仕方ないかと。
 だって作者のコンセプトからして“極悪非道な正義の味方”ですからね》

Mコンボイ「………………このままラスボスレギュラー化しないだろうな?
 今後暴走が定番化とかごめんだぞ、オレは」

オメガ《さすがにそれはないでしょうけど……とりあえず、次回以降を生き残ることを考えましょうか。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)







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あきゅろす。
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