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頂き物の小説
第48話「天国と地獄は実は思った以上に紙一重」



「おーい、なのはー」

「あ、ジュンイチさん」



 隊舎の中を探し回って、オフィスで残業していたなのはを発見……というか、



「やっぱりここにいたか」

「むむっ、なんだかお見通し、みたいで上から目線」

「実際予想通りの場所にいられちゃ、ねぇ……」



 ため息まじりに答えて、ちょっと乱れていた書類の山を整えてやる。



「確か、年末に恭文やヒロ姉ちゃんと協力して整理しなかったっけ?」

「そうなんですけど……新しく資料とか作成してたら、この有様で……」

「つまり、これ全部今年に入ってから作った資料かよ」



 またけっこうな量を……まぁ、ファイリングしてきれいに整えれば、もうちょっとカサは減るだろうけど……



「ところで、何か用だったんじゃ……」

「ん? あぁ……」











「戦技披露会のことで、ちょっとな」











 ………………待て。

 なのは、なんでいきなり固まった? しかも脂汗ダラダラと流して。



「………………なのは?」

「ハ――――ッ!?
 だ、ダメですよ、ジュンイチさん! 出場したい、なんて言い出しちゃ!」

「失礼な。
 オレだってそのくらいの分別はあるわい。ブレードと一緒にすんな」



 オレがそう答えて――「信じられない」って感じで目を丸くしやがった。ホントに失礼な。



「まぁ……見物くらいは行きたいかな。オレより強いかどうかは別にして、“オレにできない戦い方”とか“オレの知らない戦い方”とかするヤツけっこう見かけるから、割と手札増やす参考になるんだわ」

「……まだ増やす気ですか……?」

「使いこなせるんだからいいだろ」

「そんなのジュンイチさんだけですよ。
 この間の試験の時の技も初めて見ましたし……いや、物理的には見えなかったんですけど、目隠しされたから」

「あぁ、“暗闇くらやみ飯綱いずな”のことか?
 あんなの、飯綱落としを対飛行能力者用にアレンジしただけのお手軽仕様だぜ」

「その“お手軽仕様”に私は撃墜されたんですね……
 でも、どの辺が対飛行能力者用?」

「お前も言ってた、目隠しだよ」



 答えて、腰の帯を解いてなのはに見せる――これも立派にオレの戦力。丈夫に作ってあるから、これで相手の首を締めるもよし、命綱にしてもよし、今話した通り相手の目隠しに使ってもよしとけっこう使いどころがある。



 さすがに、某東の無敵なおじいさまのようにこれで相手をブチ貫いたりはできないけどね。目指せ習得。



「前に……“JS事件”中、クソメガn……クアットロが幻術を応用してヴィヴィオとルーテシアに暗示をかけた時に話したこと、覚えてるか?
 具体的には、人間が五感から得る情報量の割合」

「えっと……8割から9割の情報を、人間は視覚から得てるんでしたよね?」

「そう。
 そして……そうして目で見て得た情報によって維持されているものの中には、バランス感覚も含まれる。
 ほら、片足立ちする時、目を開けてするのと閉じてするのとじゃ違うだろ? アレがまさにいい例だ」

「あー……なるほど。
 だから目隠しして、私のバランス感覚を狂わせた……」

「ただの飯綱落としじゃ、飛行能力持ちには空を飛ばれて終わりだ。
 だから目隠ししてバランス感覚を奪い、ついでに状況認識も遅らせて、相手が立て直す前にイズナを決める……相手を“暗闇”に閉じ込めての“飯綱”落とし。故に、“暗闇飯綱”。
 元々が相手が立て直すまでの間に決める技だ。状況に気づいたレイジングハートやらプリムラやらがリカバリしようとしても、その前に落としちまえば関係ない、と」

「……ネタ技かと思ったら、意外に理屈はしっかりしてるんですね。
 しかも、それでいてシンプルで……」

「元からある技のアレンジだからな。その手の技はたいがいそういうもんさ。
 …………っと、話がそれたな。戦技披露会の話なんだけど」

「あぁ、見学したいんですよね?」

「だから、日程わかってるなら教えてもらいたいんだけど。その日には仕事入れないようにしなきゃならんから」

「ちょっと待ってくださいね。
 …………あー、まだ具体的な日にちは決まってないですね。だいたいの時期くらいしか」

「そっか……
 ま、わかったら教えてくれよ。仕事のジャマして悪かったな」



 言って、オレはなのはに背を向けて……



「あの……
 ジャマついでに、ちょっといいですか?」



 …………今度は、向こうがオレに用があるらしい。



「何さ?」

「はやてちゃんのことなんですけど……」







 じゅんいち は にげだした!







「なんで迷わず回れ右するんですかっ!」







 しかし まわりこまれてしまった!



 まおう からは にげられない!







「というかそのモノローグは何!?
 私魔王じゃないですからっ!」

「まぁ、軽いジョークはこのくらいにして」

「私にとっては超重量級ですっ!
 ……って、だからなんで逃げるんですかっ!?」

「関わり合いになりたくないからに決まってるだろっ!」



 なのはが話したい内容は予想がつく。



 ここしばらくテンションの上げ下げがおかしなことになっているはやてのことだ。



 何かしら祝うべきイベントがあれば……こないだの試験終了組の合格祝いようなことがあればそれなりに楽しんでるみたいだけど、それ以外の時はあからさまにダウナー入ってるからなー。







 そして……その理由をオレは知ってる。







 何しろ、その“理由”のせいでヴィヴィオ達とクリスマスを過ごせなかったんだ。忘れようがない。







 要するに……はやてがヴェロッサと……アレなことになった一件だ。



 本人は振り切ろうとしてるんだけど、結果はご覧の通りってワケだ。







 目の前のなのはだけじゃない。シグナム達も、もう何かあったということは気づいてる。



 なので、なんとかしようといろいろ探りを入れてるみたいだけど、問題が問題だ。はやても素直に話せないでいる……話したが最後、大騒ぎになった挙句にヴェロッサが血祭りに上げられるだろうし。







 そうならないためには、オレも話すワケにはいかない。なんとかだましだまし逃げるしかないんだよね。







「だから、はやてちゃんに何があったのか、ジュンイチさんは心当たり……って、聞いてますか!?」







 ………………あー、はやて。頼むから早く決着つけてくれー。





















 ………………とか、思ってたけど……甘かった。





















 オレの知らないところで、事態はごまかして済むレベルをとうの昔にぶっちぎっていたんだと……







 オレはこの時、まったく気づいていなかったんだ。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第48話「天国と地獄は実は思った以上に紙一重」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「……さて、どーしようかこれ」



 本当にどうする? いや、もうどうしようもないんだけどさ。



《とりあえず……でしょう》

「確かに、それが第一か」

「そうだね。フェイト」

「うん……」



 アルトやイクトさんに促される形で、僕はフェイトにゆっくりと右手を差し出した。で、ニッコリと笑ってから、思っていた言葉を届ける。

 あくまでも、優しく、柔らかく……だ。



「バルディッシュ、預かるから貸して?」

「ダメ」



 ……あくまでも、優しく、柔らかくだ。



「あのね、フェイト。じゃあ言い方を変えようか。
 その、右手でずっと握りしめているバルディッシュを、一旦放してほしいんだ」

「……どうして?」



 ……あくまでも、優しく柔らかく、刺激をしないようにだ。



「それはね、フェイトが今……すごく怖いオーラを出してるからだよ。うん、僕もはやても、イクトさんですらちょっと引いてるくらい。
 だからね……とりあえず、置いて」



 ……そこまで僕が言うと、フェイトはしぶしぶバルディッシュをテーブルの上に置いてくれた。

 あー、これで一安心だ。やっと話が進められる。



「……でさ、はやて。
 その……“ソレ”って確定情報?」

「……ううん、まだわからん。ちゃんと検査したワケちゃうし」

《なら、まずはそのことを、ヴェロッサさんに知らせることですよ……平和的に》

「そうだな。
 そして、事実かどうかしっかりと検査して確かめる……当事者以外には秘密裏に」



 うん、けっこう重要よそこ。現に、今ひとり鬼になりかけたしね。



「でも……」

「はやて、ヤスフミやイクトさんの言う通りだよ。まずはそこを確認しないと。
 ……怖いの、わか……るとは言えないよ。正直、自分に置き換えようとしても経験がないから実感がわかない。
 けど、ちゃんとしなきゃいけないってことは……わかる」



 検査もしていない現段階じゃ、カン違いの可能性もある。まずはそこ。で、あとひとつ……



“……フェイト、悪いんだけど、そっちは頼める? 僕は僕で、ちょいやることがあるから”

“それはいいけど……やること?”



 ……ヴェロッサさんだ。現状はともかく、はやてとどういうつもりで“そう”なって、今どう思っているのか、ちょっとつつこう。



“いきなりはやてから話しても……またゴタゴタしそうだしね。ワンクッションは必要でしょ”

“でも……ヤスフミだけで大丈夫?”

“オレも共に動いた方がいいか?”

“とりあえず、まず人生の先輩方に相談する。アテがないわけじゃないから。
 イクトさんも動いてくれるんなら、僕とは別に心当たりをあたってもらえないかな? イクトさん達の世界の方をあたれば、とりあえず僕と重なることはないと思うから”

“了解だ”











 ……とにかく、僕達は動くことになった。







 しかし……いきなり過ぎでしょ、これは。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……というワケで、フェイトにはやては任せることにして、僕は家に戻った。なので、さっそく……だ。



 僕は、ある人に通信をつなげた。







「……もしもし、クロノさん。今、仕事は大丈夫ですか?」

『あぁ、丁度一段落したところだ。
 ……どうした。深刻そうな顔だが』



 そう、クロノさんです。





















◆相談者その1:クロノ・ハラオウン



「……いえ、頼りになる人生の先輩のお知恵を借りたくて」

『ふむ……珍しいな。どういうことか、まず話してくれ』



 さすがクロノさん。話が早くて助かる。



「えっと……エイミィさんとの間に子供ができた時って、どんな感じでした?」

『……は?』

「えっと……ですね、僕の知り合いの相手が、まぁ……ご懐妊したんですよ。
 でも、どう伝えたらいいかよくわからなくて、悩んでいると、相談されまして……」



 ……現段階で、ヴェロッサさんの名前は出せない。うん、名前は伏せた上で相談して、ヴェロッサさんへの判断材料にさせてもらう。

 まず予想を立てておきたいのが……はやてのことを聞いた時のヴェロッサさんの反応。こういう場合、やっぱり聞くべきはクロノさんなのだ。



『なるほど、それでか。普通に言うのはダメなのか?』

「こう……反応が怖いらしいんですよ。結婚とかしてるワケじゃないんで、喜んでくれなかったらどうしようとか考えちゃうらしくて……」



 ……うむぅ、ここまで言うと状況は悪いよね。こう、辛いよ。



『……その危惧は正解かも知れないな』

「え?」

『実を言うとな、僕も良く分からなかった。
 子供ができて、自分が父親になるという事実を、エイミィから聞いた直後は認識できなかった』

「そうなんですか?」



 意外だ。クロノさん、しっかりしてるから、大丈夫だと思ってたのに。つーか、見ててそう思った。



『もちろん、頭ではわかっている。だが……それが頭だけのことだと、カレルとリエラが生まれるまでに、散々思い知ったよ。
 自分が父親になるんだと認識しきったのは、本当に生まれる直前のエイミィを見てからだな』

「じゃあ、こう……徐々に……ですか?」

『そうだな。大きくなっていくエイミィのお腹と、それを愛おしそうになでるエイミィを見て、少しずつ……だ。
 どうも、男は体内で抱えない分、認識が遅れるらしい。ジュンイチさんがすんなりヴィヴィオやホクトの“父親”になれたのは、二人が“娘”として確かな形で目の前にいたからだろう』

「ジュンイチさんの場合、認識しやすいような状況だった、と……?」

『そうだ。むしろ、彼の場合は養子縁組の方に分類されるケースだしな。
 だから、ジュンイチさんがそうだったからと言って、お前の知り合いとやらがいきなり父親モードになることは、ないと考えた方がいいかもしれん』



 そういうものなのか……



『それで一度、自分はおかしいのではないかと、母さんに相談したが……笑われたよ。父さんも同じくだったとな』

「アハハ……遺伝なんですかね」







 じゃあ、やっぱりいきなりアレコレ反応を求めるのは酷か。うん、はやてとフェイトには言い含めておこう。多少鈍くても、それは仕方ないんだ。



 ……しっかり言っておこう。じゃないと、どうなるかわかったもんじゃない。具体的にはザンバーとラグナロクが怖い。







「クロノさん、ありがとうございました」

『参考になったか?』

「かなり」











 ……重々にお礼を言ってから、通信を切る。さて、次だ。







 正直、話を持ちかけるのはとまどうけど……この状況で、一番信頼できるのは間違いない。

 口も固いし、このコミュニティから距離もあるし。なので、ピポパと……











『はーい♪』

「……失礼しました」

『あら、別に切らなくても大丈夫よ?』

「切りますからっ! まさかバスタオル一枚とは思わなかったんですっ!」

『……もう、そんなこと言わなくていいのよ。私とあなたの仲じゃない。あの時、私の胸に触れたあなたの手の暖かさに、どうしても運命を感じて』

「その話はやめてー! つか、運命なら他の所で感じてっ!」







 ……そう、頼れるシングルマザーで最近一番メールのやり取りをしているお姉さん。メガーヌ・アルピーノさんです。





















◆相談者その2:メガーヌ・アルピーノ



 ……とにかく、一旦通信を切って、着替え終わってから話を再開させた。というか、かけ直した。

 で、すべての事情を話したところ……











『……恭文くん』

「なんですか」

『私ね、試験の様子も見てたし、ヒロちゃんやフェイト執務官に、ゲンヤさんにギンガちゃんからも、いろいろ聞いていたの』



 何をですか何を。そして、そんな可哀想な物を見る目を僕に向けないで。



『キミ……本当に運がないというか、トラブル体質だよね』

「言わないでください……」



 僕の尊敬するあの人に比べれば、僕はまだマシな方ですよ。



『まぁ、そこはいいか。
 でも……けっこうこじれてるね』

「そうなんですよ」



 正直、放置してしまったことが悔やまれる。くそ、失敗だった。



『そこを言っても仕方ないよ。
 大人なんだし、本来なら二人で解決していくことなんだから。キミが気に病むことじゃない』

「……はい」

『それで、これからだけど……』



 そう、過ぎたことはどうにもならない。これからをどうするかだ。



『まずは事実確認からという判断は、正解だと思う。
 というかさ、この間隊舎にお邪魔した時に見た様子から思うに、六課の人達に現段階で情報公開したら、とんでもない事になるよ』

「やっぱりそう思います?」

『かなりね。
 現状だとアコース査察官が悪者なのは、間違いないし。だって、それっきりなんでしょ?』



 そう、一ヶ月近くそれっきりだ……うわ、これだけでも有罪に思えるよ。



『そこに加えてこれだよ?
 ……なので、私としては、まずはアコース査察官に面談。それで、みんなで検査に立ち会う……方がいいと思う』

「ヴェロッサさんも一緒に……ですか?」

『そうだよ』



 むむ、そうなのか。でも……なぜ?



『こういうのは、男の子も不安にさせなきゃ。検査結果を待ってる間はね、いろいろ考えるの。
 うん、私は考えた。まだ、前の旦那と仲良かったけど、それでも……かなりね。アレ、女の子ひとりは辛いよ?』



 どこか遠い目をして言うメガーヌさんを見て、少し申しわけなくなった。こう……イヤなものを思い出させたかなと。



『……大丈夫だよ。今は、恭文くんがいるから。私、もうキミのことしか考えてないんだ』



 ……神様、いるなら今すぐに答えてください。

 どーしたらこの優しい笑顔を浮かべた人を止められますか?

 いや、ムリっぽいですけどっ! あー、やっぱり勝てないよっ! どーしろというのよこれっ!?



「とにかく、ヴェロッサさんにもその待ち時間を堪能させておけと」

『さりげなく流したわね』

「気にしないでください。
 ……でも、どうすれば」

『八神部隊長に話をさせるしかないよ。
 場合によっては傷つく可能性もあるけど、それでも、結局は当人同士がどうにかするしかないんだから。
 二人だけで……が一番いいけど、キミやフェイト執務官が同席するにしても、あくまでも中立の立場として話すこと。キミ達は第三者なんだから』

「……はい」







 けっこう大変かも。でも、方針は決まってきた。うん、あとは冷静にいこう。







『そうね、冷静に。慎重に、だけど迅速に……だね』

「はい。
 ……あの、ありがとうございました」

『ううん、力になるって約束したもの。これくらいはね。
 ……で、その後はどう?』

「へ?」

『フェイトとのこと。その後、何か進展は?』



 そんなに興味がありますか。というか、身を乗り出さないで。谷間がパジャマから見えてるから。



『あ、もっと見たいなら……いいよ?』

「見たくないですからっ! つーかボタンに手をかけるのはやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………蒼凪は、いいアドバイスをもらえただろうか……







 そんなことを考えながら、オレは隊舎の屋上に人払いの結界の展開を完了した。



 防音の術式も加えておいたから、これで誰かに聞かれる心配はない。さて、と……







 準備を終え、いよいよ相談だ。



 正直、蒼凪のコミュニティと違ってこちらは既婚者はそれほど多くない。さらに子持ちとなったら柾木の両親しかいない……が、あのバカップルに話をするのはマズイ。



 参考にならないだけならまだいい方だ。ヘタをすればオレの周辺を徹底的に探られて明日中には八神とアコースのことが六課中に知れ渡るハメになる。“柾木の”両親だということを忘れてはいけない。







 ………………いきなり妥当な相談相手がいないというのはアレだが……妥協点で“アイツら”だろう。



 と、いうワケで……







『あれ、イクト。
 どうしたんだよ、こんな時間に』

「水隠夫妻……貴様らをオレ達の中で数少ない既婚者と見込んで相談がある」



 そう。



 結婚して苗字が変わったのに未だに仲間内からは旧姓で呼ばれている……それが不満ならブレイカーとして活動する際に旧姓で通すのはやめればいいと思わないでもない、水隠(旧姓:青木)啓二とその妻、水隠鈴香だ。





















◆相談者その3&その4:水隠啓二、鈴香夫妻



 こちらとの関わりが薄いからと言って、つながりがある以上油断はできない。当人達の名前は伏せてだいたいの事情を説明する。



「………………と、いうワケで、女の方はそうとうまいってる。
 勢いで“そういうこと”になってしまった上に、妊娠の可能性まで出てきてしまったことで、当人もどうしたらいいかわからなくなっているようだ」

『それは、また……』

『大変なことになってますね……』



 そう。大変なんだ。

 あの二人がこのままでいいはずがないし……ヘタに知れ渡れば六課が火の海にもなりかねん。



 あくまで穏便に済ませるためには、八神が納得のできる形で事態を収拾するしかないのだが……その八神が周りの不安を加速させてしまっているのが現状だ。



『いや、そういうことじゃなくて……』

「………………?」

『イクトさんがそういう相談をしてきたことの方ですよ。
 あの異性関係の話にまるで免疫のなかったイクトさんが……やっぱりフェイトさんとの関係の影響ですか?』

「今すぐ地球に戻って焼いてやろうか貴様ら」



 こいつら……渦中にいないからと余裕ぶってくれる。



 まぁ……確かに、テスタロッサや蒼凪と付き合う中で、“そういう”ことを考えるようになったことは確かだが……今はオレ達の話ではないだろうが。



『いや、そっちはそう難しい話じゃないから』

「………………何?」

『その子……後悔してるんですか? あ、女の子の方です』



 ………………オレの見立てでもよければ……後悔、していると思う。



 だが……それが何に対しての後悔なのか、そこが今ひとつハッキリしていない。そんな様子だった。







 アコースと行為に及んだことに対してなのか?

 それともその後「気にしない」と振り切ってしまったことに対してなのか?



 ……そもそも、その感情は本当に後悔なのか?







 その辺りを、八神は自分でもわかっていない様子だった。



『それって……彼と“そう”なって、うれしかった部分もあるんじゃないでしょうか?
 本当に好きでも何でもない相手と“そう”なったのなら、女の子ってもっと容赦ないですよ? 本気でイヤだったなら即裁判と慰謝料コース。女の子として“そういうこと”に対する憧れとかあったなら特に』

「つまり……“そう”なったことは、彼女にとって決して不本意なものじゃなかったと?
 だから、後悔の感情とうれしいという感情が彼女の中でぶつかり合っている、と……」

『はい。
 後悔してるんだとしたら……“その時”を勢い任せに迎えてしまったことに対して、なんじゃないでしょうか。
 けど、事が事ですから……その後悔が行為そのものに対する後悔とごっちゃになってしまって……』

「彼女を中で整理がつかなくなっている……
 確かに、自分の感情を持て余していたようにも見えたが……」

『自分の中でもハッキリした形になってないんですから、「気にしない」なんて言って吹っ切ろうとしても、吹っ切れないのは当然ですよ。
 自分がどう思ってるかわからない以上、どう吹っ切ればいいかわからないんですから』

『結局のところ、その二人がお互いをどう思ってるか、そこがまず第一だな。
 好き合ってるならそのままくっついてしまえばいいし、そうじゃないなら……まぁ、荒れるのは避けられないだろうが、それでもひとつの決着はつく。
 それで……どうなんだ? そのお嬢さんは、相手のことをどう思ってるんだ?』

「むぅ……」



 八神が、アコースのことをどう思っているか、か……



『まずはそこだ。
 そこをハッキリせずに妊娠云々の話に入ると、それこそ収拾がつかなくなる。最悪後悔だらけで別れることにもなりかねないだろうな』

『好き合ってるなら、きっとその後はすんなりいくと思いますよ?
 さっき言ったように好きでもない相手と“そう”なったのなら、女の子は厳しいですけど……好きな相手と“そう”なった女の子は、とっても強いですよ』

「そうか……
 すまなかったな。ずいぶんと参考になった。
 貴様らの言葉、オレとしても肝に銘じておくとしよう」

『フェイトさんと“そう”なった時のために、ですか?』







 ………………迷わず通信を切った。最後に余計なオチをつけおって。











 ………………テスタロッサと、か………………





















 ………………ハッ!?











 いかんいかん。そういうことを考えている場合ではない。



 とりあえず蒼凪やテスタロッサにこの話をして判断を仰ぐとしようか。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……とにかく、こうして行動は決まった。そして、僕がメガーヌさんに勝てないことも再認識した。











《……今さらですか?》

「うん、今さらね」










 ……まず、はやてとヴェロッサさんには、しっかりと話をさせる。



 つか、ここは絶対だ。もうこれ、二人だけの問題じゃないし。











《そして、その上で検査ですね。ただ……》

「ヴェロッサさんの反応がおかしかったり鈍くなっても、気にしない。
 そこは、後でしっかりと僕がフォローしていけばいいでしょ」

《……しかしマスター》

「何?」

《事件が起きているワケでもないのに、トラブル多いですね》

「……言わないで」











 とにかく、フェイトとはやて、それからイクトさんに連絡だ。あと、ヴェロッサさんのスケジュールも調べて……





















『……もしもし、ヤスフミ?』

「あ、フェイト。ちょうどよかった。今」

『……アコース査察官から、はやてに連絡が来た。
 明日、ちゃんと会って話したい……だって』

「はいっ!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……最近、うちの旦那様からよく通信が来る。







 あの一件以来、いろいろと思うことができたらしい。やはり、パパと呼ばれなかったショックは大きかったらしい。







 ま、ここはいいの。今日の問題は……











「……恭文くんから相談?」

『あぁ……かくかくしかじか……というものでな。
 なんというか、アイツもパパとは呼ばれているが、その辺りをよくはわかってるワケではないのだと、少し思ってしまった』



 ……いや、あの……なんて言うかさ、クロノくん。なぜかうれしそうにしてるとこ悪いけど、それ、ちょっとおかしくない?



『なぜだ?』

「いや、まずさ……あの子にそういう友達、いるの?」



 あ、固まった。うん、いないよね。というか……



「クロノくん、お母さんに相談する時、同じような手を使ったらしいね。友達がどうとかーってさ」

『……なぜ知っているっ!?』

「あー、お母さんが楽しそうに話してくれたよ? いやもう、聞いてて微笑ましかったよ」



 まー、つまりよ。友達の話なんて言ってるけど実は……



「……あり得ないか」

『あり得ないな』

「一晩一緒にいて、何にもないような二人だもんな。ないない」



 うん、きっとちょぉぉぉぉっと気になっただけだよね。うん、まさかね。

 私達がそう結論付けようとした瞬間、通信がかかった。



 ……あれ、なのはちゃんからだ。



「はい、もしもし?」

『あ、エイミィさんっ! あの……その……大変なんですっ!』











 ……なぜにキミはそんなにあわてているのかね? まー、落ち着いてお姉さんに話してみなさい。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……フェイトちゃんとはやてちゃんの様子がおかしい。一緒にご飯を食べて、帰ってきてからずっと。



 その上フェイトちゃんは、帰ってくるなりはやてちゃんと調べものとかで、オフィスに行った。



 事件が起こっているワケでもないのに、なんだか変だなと思いつつも、お茶とお菓子を差し入れをに持っていくと……誰もいない。



 トイレか何かかなと思い、とりあえず、明かりのついていた端末の横にそれらを置く。

 その時に、チラっと見えた画面。というか、私に反応したのかスリープモードが解けた。







 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………えっ!?







 そこに映っていたのは、局のデータベースとか、仕事関連の物じゃなかった。いわゆる検索エンジン。



 そして、それが弾き出していた検索内容は……











 首都にある産婦人科だった。





















「……というワケなんです。あの、でも……まさかですよね。恭文くんとフェイトちゃん、何もなかったんだし」

『……クロノくん』

『……間違いないかも、知れないな』



 期待していたのは、否定の言葉。だけど、それは返ってこなかった。



『あー、実はさっき、クロノが恭文から相談事をされてたんだよ』

「相談事?」

『あぁ。
 ……男が父親の自覚を持つのには時間がかかるものなのかということを聞かれた』



 えぇっ!? 恭文くんがだよねっ! どうしてっ!











「………………今の、本当?」











 ………………え?







 いきなりの声に振り向くと……そこにはライカさん。



 今の話聞いてたんですか? というか……なんか、すごく深刻そうなんですけど。







「深刻にもなるわよ。
 さっきね、鈴香から連絡があって……なんか、イクトから恋愛相談持ちかけられたらしいのよ」







 れ、恋愛相談!? イクトさんがですか!?







「うん……かくかくしかじか……って感じで。
 で、鈴香も興味持ったらしくて、そのカップルに心当たりないかってあたしに連絡してきたのよ」







 ど、どういうこと!? 恭文くんとイクトさんが、それぞれにそういう相談をしてるなんて……







「クロノくん、ライカさん、それっていつの話?」

『……大体、3時間程前だな』

「あたしもそのくらい」

「……それくらいの時間だと……恭文くんもイクトさんも、フェイトちゃんやはやてちゃんと、ご飯食べた後のはずだよっ!」

『えっと、つまり……どういうこと!?』



 冷静に……KOOLだ。KOOLになれ高町なのは。







 恭文くんがクロノくんに相談。



 イクトさんも相談をライカさんに。







 そして、フェイトちゃん達の調べていた産婦人科……







 ……わかったっ!



『つまり、恭文くん達3人は1ヶ月前のラトゥーアで……』

「そうなっちゃっていた……ですよね」

『一月以上経ち、変化……いや、兆候に気づいた? それをはやてに相談していた……
 男二人に女ひとりだもの。どっちがお相手か……って話にもなってくるし』



 ううん、もしかしたら、はやてちゃんの様子がおかしかったのも、元々恭文くん達から相談されていたからなのかも。



『クロノくんに変な質問をしたのは、自分の反応がおかしいんじゃないかと思って、そうとう遠回りに聞いた……とかかな?』

「じゃあ、イクトの方は……フェイトが自分のことをどう思ってるか不安で……ってこと?」

『多分、二人にバレないようにするためだよ。でも、まためんどくさい手を……』

『穴だらけなあたりが、実にアイツららしいがな』

「じゃあ、フェイトちゃん、お腹の中に……恭文くんかイクトさんとの赤ちゃんっ!?」











 え………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 というワケで、翌日……決戦の日はやってきた。







 舞台となるのはここ、あのトンデモ査察官との待ち合わせ場所。クラナガンにある某ファミリーレストラン・午後ス。







 その近くに、僕達は立っていた。おそらく、ヤツはもう中にいるはず。そう、決戦はもうすぐなのだ。







 なので……











『ハックシュンっ!』



 フェイトやイクトさんと一緒に、くしゃみなど出るのですよ。



「……3人とも、大丈夫か?」

「あ、うん。なんとか……」



 ……おかしい。なんで急に? というか、フェイト達も一緒に。



《そろって風邪ですか?》

「いや、そんなはずは……」

「体調管理、ちゃんとしているよね」

「炎使いが風邪とかシャレにならんしな」



 うーん、謎だ。



「でも、はやて。本当にひとりでいいの?」

「うん、大丈夫や。
 ……ちゃんと話す。気持ち、もう固まったから」



 いや、マジメに心配だよ。そう言ってまた気にするなとか言いそうだし。



「大丈夫やから。私があの時どう思っていたのか、ちゃんと話すから……言ったやろ?」







 そう、ここに来る道すがら、はやては話してくれた。どういうつもりで……そうなったのかを。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……私な、ずっと……考えてたんよ」



 歩きつつ、どこか遠い目をしながらそう言うのは……僕よりも小さな女の子。

 僕なんかより偉くて凄くて……そしてか弱い、ひとりの女の子。



「どうして、アコース査察官と……ってこと?」

「そうや。でもな……これがなかなかわからんよ。うん、今でも、わかってるワケやないかも」



 ……はやてにとっては、そうらしい。やっぱ、フェイトの言うようにとまどうらしいね。



 イクトさんは、「そこをハッキリさせてからヴェロッサさんと話をさせるべきだ」ってアドバイスされたらしいけど……うん、簡単じゃないか。



「……でもな、これだけは言えるんよ。
 私……後悔してないんよ。少なくとも、ロッサと……結ばれたことは。
 あの時の時間を、大事やとも思うてる」



 でも、そこに『他は後悔しまくりやけどな』……なんて付け加えるのが、はやてらしいけどね。



「……でも、こんなんでえぇんかな」

「自信、ないの?」

「そうやな、自信ないわ。
 不安なだけで、それを埋めたくて、そういう風に美化してるんやないかと思うと、ちとな……」

「……でも、大事な記憶になってるんでしょ? そう思えるなら、それでいいじゃないのさ」

「アンタ、また簡単に言うなぁ」

「簡単でいいんだよ」



 ……つか、アレだよアレ。



「……その人と一緒にいた記憶と時間がさ、どんなものでも、大事だと思えるなら、それは……その人が好きだって事だと思う。
 少なくとも、僕はそう。うん、その全部が大事で、大好き」







 フェイトといる時間。フェイトといた記憶。その全部が大切な宝物になってる。楽しく笑い合った時間も、ちょっとケンカした記憶も。

 そんな時間を刻む度に、それを大事だと、何があっても守り抜きたいと思う度に……感じる。



 僕は、この人のことが好きなんだと。



 そうして……好きって気持ちが更新されていく。うん、ずっと好きだったじゃないね。







 フェイトの事を好きに、なり続けているんだ。今、この瞬間も。







「そういうもの……なのか?」

「あくまでも『僕の場合は』って話だけどね。
 イクトさんはそういうトコないの?」

「テスタロッサに対して……か?
 むぅ………………」

《真っ赤になってフリーズしましたね。
 これは身に覚えアリ、ということでしょうか》

「……つーことらしいけど、フェイトちゃん、どうや?」

「あの……えっと……ヤ、ヤスフミっ! いくらなんでもいきなり過ぎだよっ!
 イクトさんもそれで顔赤くしないでーっ!」

「え、なんで怒られてるの僕っ!? 今、良いこと言ったよねっ!」

「空気読めてへんからやろ」



 こ、このタヌキは……!



「……でも、そんな単純で……えぇんかな?」



 ニヤニヤしていた表情を、真剣なものに変えて、聞いてきた我が悪友に……僕はいつもの調子で返す。



「いいに決まってるでしょ。つか、難しく考えるから、頭の中の迷路はごちゃごちゃになるの。
 答えは、いつだってシンプルなんだよ。好きで、大事。だから側にいたい……ってね」

《……8年頑張った人間は、言うことが違いますね。というより、重みが違いますよ》

「……そうやな。うち、思わず感心してもうたもん」

「……おのれらは」

「ヤスフミ、抑えて抑えて……」

「………………」(←イクトさんフリーズ継続中)











 ……でもさ……うん、きっと、それくらい単純で、簡単でいいんだよ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……わかった。じゃあ、私達は近くにいるから」

「うん。待っててな」











 そう言って、はやては店内に入っていった……さて、外から観察だ。











「ダメだよ。それでジャマしたらどうするの?」

「少なくとも八神はオレ達の存在に気づいているんだ。ヘタに存在をにおわせては言えるものも言えないだろう」

「……イクトさん。そう言うことを口にするなら、その手にした双眼鏡をしまいましょうか」

「むぅ……」

「フェイトも今すぐバルディッシュを放して。どーしてまた握りしめてるのさ」

「……だって、心配で」



 えーい、いちいち可愛い表情しおってからにっ! 悪いけど、それじゃだまされんぞっ!



《そんなこと思うのはあなただけですよ。
 というか……見てください》

『なに?』

《ヴェロッサさん、いきなり頭下げました》

『……えぇっ!?』











 ……あ、ホントだ。思いっきり頭下げてる。というか、はやてがとまどってるや。







 え、どういうつもりでアレっ!?











「とーぜんだろ。話すにしても、この場合まずは男が頭下げなきゃだめだしな」

《アコース査察官に非があるのは、明白ですしね》

『……サリさんっ!?』

《あなた達、いつの間に》

「それはこっちのセリフだ。どうもこそこそ動いてるなと思えば、こういうことか。
 ……つか、フェイトちゃん、とりあえずバルディッシュは放さないか? やっさんだけじゃなくて、オレも安心できない」

「……はい」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……結局、何もできずに事件発生から一月が経とうとしていた。八神部隊長は、見るからにどんどん悪化していく。





 うん、けっこうヤバイですよアレ。どうもあの人、溜め込むタイプみたいだし。





 このままはダメだろ。オレはジュンイチと示し合わせて……相談することにした。そう、あの人なら大丈夫だと思ったんで、アコース査察官と一緒に呼び出した。





















「……そりゃあ、お前さんが悪い」

「やっぱり……ですか」

「まー、アレだよ。どういうつもりでそうなったのか、八神部隊長には言ってないんでしょ? そりゃアンタが悪いよ。
 やっさんが言ってたよ? 『男は、惚れた女の子をとまどわせたり、泣かせちゃいけない』ってさ」

「そうですよね。というか僕は、恭文よりダメなんですよね……」



 居酒屋で、酒を飲み、焼き鳥をほうばりながらナカジマ三佐も交えて、そんな話をしていた。頼れて直に相談できる人間、これしかいなかった。

 クロノ提督? 最近、ヒマを見つけてはケーキ作りの練習してるらしい……焼きそばが糖分に負けたのが、よほど悔しかったようだ。



「……そんな落ち込まないでよ。今のやっさんと比べたら、誰だって下劣な奴に成り下がるから」



 ……結果的に、そうならなかった事で開かずの門をこじ開けたしな。うん、アレと比べたらダメだ。つか、普通はガマンできないって。



「それでジュンイチ、八神は……」



「恭文が相手してるんで、まだなんとか。
 ただ……それでもマズイ状態には変わりないね。周りもいろいろ探り始めてる」



 でも、それじゃあ応急処置にしかならない。やっぱ、ちゃんとした薬が必要なんだよ。でも、どんな名医だろうと、それは処方できない。

 それを処方できるのは……この兄さんだけだ。



「……まぁ、なんだ。アコース査察官。アンタは大人だからよ、そういうことがまったくないってのは、それはそれで問題かも知れねぇ」



 ……ナカジマ三佐、それをやっさん達のトライアングルにも言ってやってください。オレ、見ててたまにあの中学生日記には本気でイライラするんですよ。



「だがよ、八神のヤツはああ見えてまだ子供だ。お前さんの遊びに付き合わせるには」

「遊びじゃありませんっ!」

「じゃあ、本気だったとでも言うつもりか?」

「……そうです。僕は」



 アコース査察官が、酎ハイを一気に飲み干し、真っ赤な顔で……言い切った。



「本気でしたっ! 本気で……はやてと……やりましたっ!」

「ちょっ! アコース査察官、声でかいからっ!」

「だったらよ、なんでそれを八神に言わねぇんだ」

「……怖かったからですっ! 気にしないって言われた時、突き刺さりましたっ!」







 ……あー、オレもわかるわそれ。女の『気にしない』は、けっこうグサってくるからな。うん、そりゃ勇気出ないわ。

 ヘタレとは言うことなかれ。女の一言はね、男にとっては防御力無視の攻撃と同じ。それをわかってないのは、女だけだよ。



 てか、アコース査察官、声デカイから。みんな見てるからね?







「でも、僕は……」

「ちょ、それオレの生っ! てか、また……」



 一気に飲み干しやがった。うわ、緑と赤白でイタリアンカラーだよ。つか、目に悪いなこれ。



「チキンでしたっ! 男じゃありませんでしたっ! ただの弱虫野郎でしたっ!」

「そうだな、その通りだ。で、お前さんはこれからどうする?」

「……ヴェロッサ・アコース、ここに宣言しますっ! 僕は……八神はやてに……惚れた女に……ぶつかりますっ!」

「おし、よく言ったっ! ほら飲めっ! 今日はオレのおごりだっ!」

「はいっ!」











 ……金剛、今の記録してるな?











《当然でしょう》

「蜃気楼、お前は?」

《問題なく》

「よし。それをアコース査察官のプライベート端末に送っといてくれ。記憶飛んでても、そうすりゃあこの一件は片づく。
 蜃気楼は念のためのバックアップとしてその記録はとっておけ」

《御意》

《了解いたしました》







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……じゃあ、ヴェロッサさん」

《えぇ。決して遊びなどではなかったということです。八神御大将への想いは、本物でしょう》

「いや、あのイタリアンカラーの告白は見せてやりたかったよ。うん、アコース査察官は漢だ」



 なんだか、うれしそうに話すサリさんを見て、つい僕達も……



「……フェイト」

「うん、良かった。本当に……」



 頬を緩めて、笑顔になってしまう。でも、これなら、安心かな? 少なくとも最悪なシチュは避けられたし。



「………………ちょっと待て。
 確かにラトゥーアでの一件はそれで解決かもしれんが……アコース、八神の身体の事を知らないんじゃ……?」

「………………あ」

「イクトの旦那、それなら心配なさそうっスよ……ほら」



 サリさんが、店内を指さす。すると……うわ、アレ何?



「……はやてのお腹さすってるね」

「というか、空気……甘いみたいだよ?」

《あの人達、騒動の原因という自覚、ないですよね》



 ちょっとムカついてくるのは、なんでだろ……ま、いいんだけどさ。



「んじゃ、早々に済ませるか」

「え?」

「八神部隊長の検査だよ。ダチがやってる産婦人科があってな。頼めば、すぐに検査してくれる」

《女医の方で、腕も確かです。口も固いですから、守護騎士の方々に漏れる心配もありません。八神御大将とアコース査察官も、安心できるかと》



 お、それはいいかも。そこをどうするか、ちょっと悩んでたしね。



「……助かります。サリさん、ありがとうございます」

「いいっていいって。我らが御大将が元気じゃないと、やり辛いしな。そうだろ、金剛」

《その通りです。我らとて、すでに機動六課の一員。フェイト執務官、どうぞお気になさらずに》

「……うん。あ、それでも……言わせてほしいな。同じ部隊の仲間として、サリさんだけじゃなくて、金剛にもね」

《……いえ》



 ……金剛、ちょっと照れてる? いつもとちょっと違うし。



《マスター、ヤキモチですか?》

「違うわボケっ!」











 ……こうして、人知れずひとつの事件は終わりを迎えた。







 もう、この段階になれば、ここ1ヶ月のゴタゴタなど、すべて過去の遺産。なんの問題にもならない。







 だって、現在の二人は、あんなにも幸せそうなんだから……





















 ……そう思っていたのは、僕達だけだった。











 この瞬間にも隊舎では、あるとんでも事実で嵐に見舞われていた。











 そう、事件は……僕とイクトさん、そしてフェイトにとっては、ここからが本番だったのだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……は?」

「フェイトさんに……赤ちゃんっ!?」

「そうだよ。その可能性は高い」



 つか、待って待ってっ! アイツ、フェイトさんとはなんにもなかったって……



「ところがどっこい、やっさんも男だったってことだよ」

《オレ達にはああ言ってたけど、実は……ってことだな。つか、そう考えた方が、ここ最近のあの3人のまとまり具合が納得できるんだよ。
 やっぱ、いくら何でも3人そろって通じ過ぎるだろ?》

「確かに……そうだね。だから3人とも、同じ布団で寝たんだ……」

「もう、それくらいは平気だったんだね」



 アイツら、フェイトさんとそんなことしてたんだ。つかスバル、その言い方はやめなさい。



「あの、それで……」

「恭文、E○じゃなかったんだ。良かった〜」

「スバルさん、気にする所が違いますよっ!」



 まったくよ。



 ……でも、これどうするの? 糾弾……は、違うわよね。だって、今現在空気が微妙とかじゃない。

 ううん、むしろ3人仲良く幸せそうにしてるし……ってことは、アメイジアの言うように、気持ちが通じ合った上で進展してるんだから。



「そうだね。……だから」

「ここはひとつ、サプライズといかない?」

『サプライズ?』











 なのはさんとライカさんの提案に、私達は全員、首を縦に振った。





 まぁ、アレよね。大事な仲間が幸せになるんだもの。うん、しっかりいきましょ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……名前、どうしようか」

「ロッサ、ちょお気が早いんとちゃう? まだ確定やないんやし」

「でも、こういうのは時間がかかるものらしいし、今のうちに……」





















 ……今はサリさん付き添いの下、二人で検査結果聞いてるけど、それまではこんな会話をずっとしていた。つかあのバカップル、イラつくんですけど。







 つーか、いきなりベタベタし過ぎなんだよっ! どんだけ密度濃い時間過ごしてたのっ!? 何より何より、僕らがいること忘れてるでしょっ!











「まぁ……良いことだよ」

《ただ、サッカーチームが作れるくらい……なんて話はどうなんでしょ。いきなり結婚モードですし》



 まぁ、お腹に赤ちゃんがいることが確定すれば……の話だけどね。



「というか、フェイトもイクトさんも、どーしたの?」



 さっきから、二人して落ち着きなくキョロキョロしてる。うん、ちょっと目立ってるよ?



「あの、えっと……なんだか、慣れなくて」

「こういう空気はどうも居心地が悪くて……な」

「……あぁ、産婦人科来るの初めてなんだ」

「うん。
 ……ヤスフミは、なんだか慣れてるね」

「エイミィさんの付き添いでよく来てたから」







 ……あと、出産に立ち会ったりもしたからなぁ。うん、あんま緊張とかはないかな。海鳴もミッドも、あんま変わんない。

 こう、院内全体が、暖かい空気で満たされている。最初は慣れなかったけどね。



 でも、エイミィさんといろいろ話しているうちに……慣れた。こういうのも、悪くないなと、思うようになった。







「そう言えばそうだったね。
 ……うん、今はちょっと頼れるかも」

「……ちょっとだけなの?」

「ちょっとだけだよ」



 うーん、ちょっと手厳しい。



 もうちょい優しい方が、僕はうれしいんだけど。ま、いいか。







「……フェイト」

「何?」

「やっぱり、怖いんだよね」







 僕がそう言うとフェイトは……うなずいた。言いたい事、察してくれたらしい。うん、はやてを見てて感じた。

 なんの心の準備も無しにそうなって、子供を授かるのって……怖いことなんだ。今回は、大丈夫っぽいけど。



 もし、あの時ガマンできずに、フェイトを押し倒してたりしたら……後悔、してただろうな。それでもし……

 そこまで考えて、身震いがした。そして思う。ガマンしてよかったと。まだ成就するかなんてわからないけど……

 でも、となりにいられて、見ていてくれるから。うん、今はそれだけで充分。







「……ヤスフミ、イクトさん……
 やっぱり、その……そういうことしたい?」

「……うん」

「………………」



 正直に答える。まー、ウソついてもしゃあないしね。

 イクトさんも……とりあえずうなずいた。また真っ赤になってフリーズしたけど。



「こう……性欲と好きって気持ちが半々かな。うん、興味はあるし、実際……ね」

「……そっか」

「ただ、あの……フェイトがイヤとか、そんな風に思ってたら」

「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」



 ……ホントに?



「あの時だって、二人ともガマンしてくれた。私、ムチャ言ってたのに……うん、わかってる。
 ただ、私もそれに甘えるだけじゃなくて……その……」

「フェイト、僕達……言ってること、よくわかんないね」

「……そうだね」



 ……うーん、こういう話、絶対必要だけど、今の段階でする話じゃないよね。

 やっぱり……付き合うようになってからかな。



「そう……だね。ちょっと早かったのかも」

「そうだね……」

「……あのね、二人とも」

「うん?」

「………………ん? どうした?」

「私、ちゃんと……お母さんになれるらしいの」



 ……はい?



「私……生まれが普通とは違うでしょ? でも、それでも、お母さんになれるそうなの」



 そう、フェイトは……クローンとして生まれてきた。だから、その関係でアレコレ検査してたのは、知ってるけど。



「……でも」

「やっぱり、不安?」

「うん」



 そう……だよね。ならないはず、ないか。



 ……よし。



「……側にいるよ」



 となりに座っていたフェイトの手を、そっと握る。フェイトがちょっとビックリしてるけど、気にしない。



「大丈夫なんて……軽々しく言えないけど、側にいる。フェイトが不安で押しつぶされないように、側にいて、守るから。
 僕はフェイトの一番の味方で、騎士だもの……ううん、そういうの関係ないかもしれない。
 だって……ね」



 ……ちょっとだけ、がんばる。



「フェイトを……好きな女の子を守れないなんて、イヤだよ。
 ……僕、男の子ですから」

「『家族』と言うには、まだオレ達の距離は遠いかもしれん……だが、『仲間』と言える距離よりは、近くにいてやりたいと、オレはそう思う。
 今日までの八神と、ある意味オレは同じだ……お前達に対して抱いてる感情を、自分の中ではっきりした形にできていない。
 それでも……守りたいと、それだけはハッキリ感じている」

「ヤスフミ……イクトさん……」

「……って、フェイトの相手が僕で決定みたいに言うのもアレだよね」

「あの、大丈夫。うん……ありがと。じゃあ……あのね、もし……もしも、本当に私達がそうなれたら」







 フェイトが、頬を赤く染め、少しだけ恥ずかしそうに微笑みながら、言葉を続ける。



 ……そう、なれたら?







「その時は、またこうして、手を握って……言葉をかけて、ほしい。それだけでも、私……安心できるから」

「うん、約束する。それで、守るから。フェイトの笑顔と、今を」

「たとえ約束しなくても、そのくらいはこっちで勝手に誓うさ」

「……うん」











 そのまま、はやて達が出てくるまで、ずっと手をつなぎながら、ちょこっとだけ先の話をした……うん、ちょっと早すぎな話をね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで結果は……?」



 検査結果を聞いた三人が戻ってきた。フェイトがそう聞くと、辺りの空気が静まりか







「あ、妊娠してなかったわ」







 溜めも何もなしで言い切ったっ!? 待て待てっ! なにそんな意外性ありな回答の出し方してるっ!



「いや、これで溜めてもしゃあないやんか。
 ……どーもな、精神的なもんで遅れてただけらしいんよ」

「それ以外は至って健康体。なんの問題もないそうだ。つまり……」

「……なるほど、何にしてもアコースが原因と」

《正解です》

「め、面目ないです……」



 でも、どーしようかこれ。二人とも盛り上がってたから、おめでとうと言うのもアレだし。かと言って、残念って言うのもちょっと違うし。



「そうだね。どう言おうか少し迷うね」

「まー、そんなんえぇよ。サッカーチームはしばらくお預け言うだけやし」

《八神御大将、本気だったのですか》

「アコース査察官、大変だな……」

「……がんばります」



 どうやら、ヴェロッサさんはこれからいろんな意味でがんばっていかないといけないらしい……ファイト。



「ほな、なんやかんやで上手くいったお祝いに、パーっとご飯食べ行こうかっ! とーぜん、迷惑かけたお詫びにうちとロッサがおごるわっ!」

『おー!』











 ……まぁ、ファミリーレストランで遅めの昼食という感じだったけど、みんなで楽しく食事をした。

 なお、サリさんが少し寂しそうだったのは、気にしないことにする。







 それから夕方。僕達は……六課隊舎へと帰ってきた。なお、ヴェロッサさんも一緒に。







 というか、いきなりあいさつって……本気ですか?











「何にしても、必要だしね。きっちりしていかないと」

《納得しました》



 ふむ、ヴェロッサさん吹っ切れたのかな? こう、頼れる感じが……



「僕もがんばんないとな」

「……あの、サッカーチームはその……」



 そう言ったのは、顔が真っ赤なせんこうの……まてまてっ!



「違うからっ! そういう意味じゃないよっ! フェイト、お願いだから顔を赤くしないでっ!」

《いいじゃないですか。きっと楽しいですよ?》

「そういう問題じゃないからっ!」











 とにかく、僕達は隊舎に入っていく。そう、これから決戦なのだ。







 さー、大変だぞこれからっ!





















『おめでとー!』











 ぱーんっ!





















『……え?』



 全員そろって、そんな声を出す。つか……エ?

 なんでいきなりクラッカーっ!?(notザク) つか、全員そろってお出迎えって……えぇっ!



「えー、というワケで」



 いや、ヒロさん。なにがというワケっ!? つか、なんでドレス姿っ! てか、みんなもおめかししてるっ!



「これから、やっさん達とらいあんぐるカップルの祝賀会を、開催しちゃうけど……いいよねっ!?」

『いいよ〜』

「答えは聞いてないっ!」





















 …………………………………………え?





















『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』







 しゅ、祝賀会っ!? なんですかそれっ!







“ヤスフミ、イクトさん、何かしたっ!?”

“何もしてないよっ! それを言うならフェイトもだよっ! というか、試験合格祝いの宴会はもうやってるよねっ!?”

“それに何でオレまで巻き込まれてる!?”

“えっと……3人ともおめでとう”

“アコース査察官っ! どうして普通に受け入れてるんですかっ!?”

“いや、そないなこと言うたかて……なぁ”



 まてまて、本気で意味がわからない。どうなってんのこれっ!



「あー、ヒロ。これ……なんだ?」

「え? やっさん達の祝賀会」

「……うん、そこはわかった。で、3人の何を祝おうってんだよ」

「そんなの、3人のとらいあんぐるカップル成立に決まってるじゃん」







 ……は?



 あれ、僕はもしかして、耳が悪くなったのかな? 今、とんでもないフレーズが……







「……恭文くん、フェイトちゃん。水臭いよ」



 はぁ?



「その……アレだ。ラトゥーアで……なんだろ? つか、それならそうとちゃんと言えよバカっ! アタシもなのはもスバル達も全員、ビックリしただろうがっ!」



 はぁっ!?







「……フェイト、アタシにも内緒って、なのはじゃないけど水臭過ぎないか?」

「アルフさんっ!?」

「というか……エイミィにクロノっ! リンディさんもどうしてっ!」



 な、なんでアルフさんやうちの家族がいるのっ! つーかおかしいからおのれらっ!



「おかしくなんてないわよ。だって、可愛い娘と息子の新しい門出を祝うためだもの」

「……恭文、いろいろ大変だったようだが、良かったな」

「うん、良かったね。本当にさ……」



 いや、だから何がよかったのさ? そこを僕らに教えてよっ!



「恭文……オレから言うことは何もない。
 ただ友として、お前らのことを祝福するのみだ」

「ヤスフミ……とうとうやったんだな。
 親友としてうれしいぞ、オレは……」



 まてまて、マスターコンボイもジンも、僕らが話についてこれないでいるのを察してよ!



「わらわは、わらわは、まだあきらめておらんのじゃっ!
 ミッドはいろいろ法的な制約があるが一夫多妻はOK! わらわが入る余地は十分なのじゃっ!」



 ………………バカ姫までいるぅぅぅぅぅっ!?



 ワケがわからない。誰か説明できる人いないの!?



“………………恭文”



 あぁ、ジュンイチさん。

 ちょうどいい。ジュンイチさんならどういうことか……



“お前らなぁ、はやての問題が片づいてないのにコレってどういうことだよ?
 同じタイミングで同じことやって微妙になってるはやて達がいたたまれないだろ”



 ………………わかってなかったぁぁぁぁぁっ!



 いや、あの……みなさん? なんでちょっと涙ぐむのかな。つーか、なにこれっ!? いったいぜんたいどういうことっ!?



“……フェイト、逃げよう”

“えっ!?”

“だってこれワケわかんないしっ! ここは三十六計逃げるが勝ちだよっ!”

“確かに。今ここで何を言っても聞いてもらえない気がする”

“そ、そうだね。みんなちょっとおかしいもの。少し冷静になってから……だよね”





 よし、方針は決まった。あとは……





“待て待てっ! オレらにこれ押しつけるつもりかっ!?”

“そんなこと言ったって仕方ないじゃないですかっ!”







「では、乾杯の音頭は我らがガイア・サイバトロン派遣隊のリーダー、ライオコンボイにお願いするじゃんっ!」

「じゃ、ライオコンボイ、どうぞっ!」

「え、えー……本日はお日柄もよく……」



 なんかチータスとラットルの仕切りでライオコンボイが音頭取って乾杯の準備をし出している今がチャンスなのよっ! お願いだから逃がしてっ!



“……ねぇ、キミ達……本当に付き合ってないの?”

“なぁ、怒らんから正直に言うてみ?”

“そんなのあるワケないよっ!”





 グサっ!





“大丈夫か蒼凪! 傷は浅いぞーっ!?”







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



“あー、恭文崩れたわ。ありゃダメージデカイわー”

“……つか、どうしますこれ。やっさんもイクトの旦那もフェイトちゃんも本気で覚えないみたいですし。つか、やっさんつぶれたし”

“どうするも何も、聞くしかないですよ。
 ……うし、私が聞いてみます”

“お願いします”







 さて……パパッと答えてくれそうなんは……うん、アレやな。







“ヴィータ”

“なに、どうしたのはやて”



 やっぱり……ヴィータやろ。



“とな、うちもロッサもなんでこうなってるかようわからんのよ”

“……はやて、それ本気で言ってる?”



 え?



“アタシら……知ってるんだ。はやて達、今日産婦人科に行ったんだよね”

“……はぁっ!?”



 な、なんでそれをっ!? まさかうちとロッサ……いや、それなら恭文達3人の話になるワケないか。



“つか、フェイト……どうだったのさ”

“何がや?”

“はやて、もうとぼけないでいいよ。
 ……バカ弟子かイクト、どっちかとの間に、子供ができたかもしれないんだろ?”





















 ………………はぁっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……じゃあナニ? 僕かイクトさんとフェイトがそうなったってカン違いしてるのっ!?











“……どうもそうらしいわ。
 どっちかと、やなくて3人カップルなんは、3人のここ最近の仲の良さからそういう形に落ち着いたと判断されたから、らしいわ。
 みんな、ロッサがラトゥーアいたこと知らんみたいやしな。いや、ビックリや”

“『ビックリや』じゃないよっ! ヤスフミ……”

“あぁ、クロノさんに中途半端に相談したのが失敗だったー!”

“となると、オレが巻き込まれているのは水隠夫妻に相談したからか……!”



 いや、今さらだけど。ヤバイよ。絶対にヤバイよこれっ!

 つか、どいつもこいつもどうして状況証拠だけで先走りしまくってるっ!? 1ヶ月前から、何ひとつ学習してないしっ!



“よし。もうみんなの言う通りに3人で付き合おうぜ。そうすりゃ解決だ”

“できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!”

“そうですよっ! あの……その……ヤスフミとは……その……!”

“てか、どんな理屈ですかそれっ! つーか、僕はコレがキッカケなんてイヤですよっ!”



 言っておくけど、フェイトが不満とかそういうのじゃない。だって……その……!



“フェイト、約束してくれたんです! 僕とイクトさんとの関係、ちゃんと考えて答えを出すって!”



 そう。確かにそう約束してくれた。それなのに……



“それなのに、こんななし崩しで付き合うっ!? そんなのイヤですっ! それじゃあ、意味がないっ!”

“オレも不満だな。
 そんな中途半端ではまた後で問題が噴出するぞ。それでテスタロッサが辛い思いをするのはごめんこうむる”

“ヤスフミ、イクトさん……”

“……でもな、二人はそうは言うけど、この状況で真実が言えるか?”



 う……



“悪いがオレは無理だ。つか……アレらが暴れだしたら止められない”



 た、確かにそうだ。産婦人科の事までバレてるってことは、当然はやてとヴェロッサさんの経緯まで話さないと……納得しない。

 ダメだ。師匠達やヒロさんが暴れ出したら……止められないっ!



“……僕が話すよ”

“ヴェロッサさんっ!?”



 待て待て待てっ! それは絶対にヤバイですからっ!



“いいよ、キミ達やフェイトちゃんにこれ以上迷惑はかけられない。ま、自業自得だよね”

“ヴェロッサさん……”

“そこまでの覚悟か……”

“……大丈夫。命は……助かるよね?”



 すみません、今回は本当にわかりません。てか、もう安全域じゃないですし。

 でもまぁ……



“私も一緒に話すわ。それならOKやろ”

“はやて……”



 はやても一緒なら、大丈夫でしょ。うん、愛は何者にも負けないのよ。



“大丈夫や。うちの子達は、みーんなわかってくれる。せやから……な?”

“……うん、ありがとう”










 ……そうして、二人による事情説明が行われた。でも……ね。





 言葉だけって、わかり合えないこと、あるよね。





















 とりあえず、結論だけ言うと……





















 “暴動鎮圧最終兵器・柾木ジュンイチ”が出動した、と……まぁ、そういうこと。







 今のお祭り騒ぎはカン違い組だったジュンイチさんも、はやて達の件は味方だから……おかげでヴェロッサさんは命拾いしました。めでたしめでたし、ということで。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……恭文さん、ヘタレですね」

「うっさいよバカっ! つーかいきなり過ぎだからっ!」







 そして夜。二つの月を眺めながら中庭で、リインと寝転がってる。リインは、僕の右腕を抱き枕代わりにしてる。でも……疲れたー!



 あれから、修羅の軍団を止めるのに、そうとう力を使ったもん。ジュンイチさんが鎮圧に動いてくれなかったらどうなっていたか……



 ま、そのおかげで僕らとフェイトのデマはいい感じにうやむやに……





「アコース査察官、大丈夫ですかね?」

「サリさんがいるから……たぶん。てか、リインは参加しなくていいの?」

「リインは早く寝るようにと言われました。というか、朝まで生討論だそうです」

《……マジですか》

「マジらしいですよ」



 そう、現在八神家一同はヴェロッサさんと姉代理でヒロさん。それに議長としてサリさんを交えて会議中です。当然、はやての弟分のジンやその妹のライラ、メイルも一緒に。

 いや、どうなることやら。シグナムさんと師匠、それからジンはジュンイチさんにこんがり焼かれた後だから、そうそう荒れることはないと思うけど……いや、それでも荒れかねないか、あの3人は。



「てかさ、リイン」

「はいです?」

「リインは……いいの?」

「……あぁ、そういうことですか」



 そういうことですよ。



「リインは、はやてちゃんが幸せなら、それが一番だと思いますから」

「……そっか」

「はい。あ、でもでもっ! はやてちゃんをこれ以上泣かせたら、許しませんけどねっ!」



 宙に浮かんで、シャドーなんてやってその気持ちを表しているのをみて、つい笑みがあふれる。

 ……ヴェロッサさん。本当にこれ以上はアウトですからね? つか、今回の件だけでコレなんです。何かあっても、僕らにはもう解決はムリです。



「……恭文さん」

「何?」

「ちょっとだけ……真剣なお話です。起きてください」



 なので、言われた通りに起き上がる。月明かりに照らされながらも、リインは凜とした表情で、僕を見る。



「……リイン、六課が解散したら……恭文さんのところで暮らしたいです」



 ……え? 待て待て。どういうことさそれ。



「恭文さんと、一緒にいたいです。パートナーとして、あなたの一部として。私は、あなたの側にいて、あなたを……守りたいんです。
 もう“JS事件”の時みたいに、離れ離れはイヤです」

「……リイン、気持ちは……うれしいよ? でも」

「もちろん、はやてちゃんとみんなには話します。納得してもらった上で……そうしたいです。
 だから……」

「僕にも、考えてほしい?」



 リインはうなずいた。ゆっくりと、だけど確かに。

 ……正直、難しいとこはある。リインがいなかったら、はやては大変になるだろうし。



 でも、リインとずっと一緒に……か。



「……うん、考えるだけ考えてみる」

「……ありがとうです。というか……うれしいです」

「まだ、イエスかノーかもわかんないよ?」

「それでもいいんです。新しい時間を考えてくれるだけでも、うれしいんです」











 ……季節は、新暦76年の1月……冬。







 もうすぐ終わる場所で、いろんなものが始まろうとしてる。







 それが良いことかどうかは、僕には……わかんないや。





















(第49話へ続く)





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