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頂き物の小説
第47話「ハリキリ、とびきり、ぶっちぎりな、明日をつかむダブル・クライマックス」:2



「こっ、ここでオーガを出すか、アイツ!?」

「本気でアイツらをつぶすつもり!?」







 ジュンイチさんとの距離が開いて、ひとまず戦いは一区切り――とりあえず切り抜けたヤスフミ達の様子にホッとしたのもつかの間、ジュンイチさんがいきなり切り札を切った。



 ジュンイチさんの使役する精霊獣“フレイム・オブ・オーガ”の力を借りた“オーグリッシュフォーム”……シグナムやティアが戦慄するのも当然と言い切れるほどの、ジュンイチさんの事実上の最強フォームだ。



 私の知る限り、だけど……身内を相手には決して使ったことのないこの形態を持ち出してきた……それだけで、ジュンイチさんが本気で勝ちに来ていることがわかる。







 通常のフォームですら、ジュンイチさんはブラスターを使ったなのはと互角に渡り合える。そのジュンイチさんが最強フォームで向かってくる……正直、AAAランク試験で相手をするには過剰戦力もいいところだ。







 けど――ジュンイチさんだってバカじゃない。これがヤスフミやマスターコンボイの試験だってことはわかってるはず。



 つまり……試されてるんだ、ヤスフミ達は。



 対身内補正でパワーを抑えられている分をフォームチェンジで補って、全力で向かってくる自分を相手にどこまで戦えるか。







 なのはがブラスターを使わなきゃ出て来れなかったリザーバー参戦とはいえ、わざわざそこまでしてくれるんだから……ヤスフミ、ジュンイチさんにもかっこ悪いところは見せられないよ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「い、く、ぜぇぇぇぇぇっ!」







 僕らのたて続けの斬撃をさばいて、かわして――すり抜けられた。上空に飛び上がり、僕らの頭上を押さえたジュンイチさんが背中に背負うように爆天剣を留めて、両手に“力”を集めていく。



 そして――







「だぁだだだだだだだだだだぁっ!」







 よく舌回るなーとか息継ぎ大変そうだなーとか、いろいろツッコみたい掛け声と共に、大量の火炎弾がその手から放たれる――無詠唱の“炎弾丸フレア・ブリッド”乱れ撃ちかいっ!







「マスターコンボイ!」



「かわせばいいんだろうがっ!」







 さっきなのはにやられた教訓がある。ここは受けずにかわすが吉――最大速力で飛び回り、なんとかジュンイチさんの魔力弾の連射から逃げていく。



 ………………流れ弾が地上に降り注いで、廃ビルが次々になぎ倒されているのは気にしない。気にしてる余裕もないし。



 手数で圧倒するつもりなのか狙いが荒いのが幸いだ。おかげでかいくぐりながらも砲撃の詠唱ができる――と、いうワケで!







《Icicle Cannon》

《Energy Vortex》







 僕とマスターコンボイの同時砲撃が、弾幕を一気に撃ち抜いてジュンイチさんを狙う。



 けど――届かない。ジュンイチさんの周囲に常時展開されている力場に防がれてしまう。くそっ、相変わらずエネルギー攻撃完全防御って反則すぎるでしょうが!







 もっとも――







「ムダな抵抗ってわかってる!?
 オレにエネルギー系の砲撃が通用するとでも――」







「思ってないさっ!」

「――――――っ!?」







 こっちもその程度のことは想定済みなワケだけど。







 僕らのW砲撃の本当の狙いはこれ。“弾幕を撃ち抜いてジュンイチさんを狙う”んじゃなくて、“弾幕を撃ち抜くのに紛れてマスターコンボイを突っ込ませる”ためのもの。



 これなら、弾幕の爆発に紛れてマスターコンボイの気配をごまかせる。気配探知に優れたジュンイチさんの索敵をごまかして懐に飛び込める!



 狙いは図に当たり、マスターコンボイは一気にジュンイチさんの目前に飛び出した。驚くジュンイチさんを、オメガで何度も斬りかかりながら追い回す。







 もちろん、僕もその間に距離を詰める。爆天剣を背中にしまっていたのが災いして、反撃のままならないジュンイチさんに向けてアルトを一閃っ!



 かわせるタイミングじゃない。僕の一撃はジュンイチさんを捉えて――











 すり抜けた。











「え――――――?」



 僕の一撃をくらったはずのジュンイチさんの姿がかき消える――まさか、幻術!?



《そのようですね。
 精霊力反応なし。完全に隠れられてます》

「……マズくない?」

《マズイでしょうね》



 ジュンイチさんのことだ。いつから幻術と入れ替わっていたのかはわからないけど……攻撃から逃れるため、なんて消極的な理由で離脱するとは思えない。

 なら、何のためか……簡単だ。







 勝つために決まってる。











「………………オプティックハイド、解除」











 告げられた言葉と同時――上っ!?



 見上げた僕らの視線の先で空間が歪んで、ジュンイチさんが姿を現す。











 とってもバカでっかい火球を、頭の上に生み出した状態で。











 ……って、ちょっと待てっ! あんなの作った状態で、しかも幻術のコントロールまでしながらアルトやオメガのサーチから逃れてたっての!? どういうステルス使ってるのさ!?







「後で教えてやるよ!
 とりあえず……お前らがこいつをくらってからな!」







 もう、撃たれる前に止めるとかそういう段階じゃない。言って、ジュンイチさんがかざした右手を振り下ろして――当然、火球も僕らめがけて突っ込んでくる!







「恭文!」

「決まってる――ぶった斬るよっ!」



 マスターコンボイに答えて、すかさずアルトに魔力を込める。当然だ。防御してどうこうできるレベルの攻撃じゃないし、逃げたってあの規模だ。爆発からはたぶん逃げられない。



 となると――迎撃するしかない。



「タイミングは任せる!」

「任された!」



 マスターコンボイも同様にオメガに魔力を込めて――二人で火球に向けて飛ぶ!



 この一撃でなんとかできることを祈りつつ、アルトを、オメガを叩きつけて――











 ぽんっ!と音を立てて、あっさりと破裂した。











 ………………って、あれ?







「残念、フェイクだったんだよ」







 その言葉に反応できなかった――それよりも早く、僕らの懐に飛び込んだジュンイチさんが、僕らを至近距離から放った炎でブッ飛ばしたからだ。







「今のはでっかくふくらませてそれっぽく見せた、ただの“炎弾丸フレア・ブリッド”さ。
 大きさはあんなでも使ってる精霊力は“炎弾丸フレア・ブリッド”一発分――アルトアイゼンやオメガの目をごまかすのはそれほど難しい話じゃない」







 あっさり言ってくれるね……こっちは痛いわ熱いわで大変なのに。



 ジュンイチさんの次の手を警戒しながら、取り出した2枚のマジックカードを使う。

 効果はどちらも回復。1枚を自分に、もう1枚をマスターコンボイに使う。







 つか……ムカつく。



 完全に遊ばれてる……ジュンイチさんお得意の、虚実入り混じったフェイントの嵐に完全に振り回されてる。







「恭文」







 と、マスターコンボイが声をかけてくる……何?







「もう……いい加減、使ってもいいとオレは思うんだが」

「……だね」







 ちょうどいい。僕もいい加減使ってやろうかと思っていたところだ。以心伝心っていいね、やっぱり。







「何の話だ?
 そろそろ本気でやろうって相談か?」

「まぁ……そんなところだね」







 ジュンイチさんに答えて、僕は立ち上がる……当然、マスターコンボイも。







「けどさ……その前に、ひとつルール変更ね」

「ルール変更?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『4分41秒だよ』

『………………?』

『ちょっと準備がいるけどね。でも、それだけもらえりゃ……僕らが勝つ。すぐに終わらせてあげるよ。
 それを過ぎたら僕らの負けでいい。つか、勝手にギブアップする』

『……本気か?』

『もちろん。
 というか……ギブアップするしかないんだわ。それで仕留められなきゃそれこそ打つ手がないから』



 その言葉に、また場が騒然となる。だって、今ヤスフミが口にしたのは……



「オーグリッシュフォームのジュンイチさん相手に……勝利宣言っ!?」

「それも、5分弱でなんて……」

「む、ムチャだよっ! 恭文もうボロボロなのにっ! 魔力だって、空に近いよねアレっ!?」

「アイツ、本気で何考えてるのっ!? バカだバカだとは思ってたけど、今回のは極めつけよっ! これはないでしょこれはっ!」

「……いえ、やれます」



 あわてふためくスバル達を抑えるように、静かにリインが口を開いた。強い確信を持って。



「恭文さんもアルトアイゼンも、やれます。マスターコンボイさんもオメガだって……同じです。
 “古き鉄”は……この状況で負けたりなんてしません。いつものノリで、ぶっ飛ばすだけですっ!」



 いつも通りに……『最初から最後までクライマックス』……でいけば、大丈夫。うん、きっと大丈夫だよね。



 そして……それは、きっとマスターコンボイとオメガも変わらない。



 だって、二人もれっきとしたヤスフミの“友達”なんだから。



『また言ってくれるねぇ。
 でも、そうしてくれると助かるかな。このフォーム、けっこう維持するの疲れるんだよ』

『上等。今から見せてあげるよ。
 ついでにその余裕の態度も引っぺがしてやる』



 そう言ってヤスフミは……



「恭文、笑ってる……」

「フェイトママ……」

「大丈夫……きっと大丈夫だから」











『僕らの新しい変身と……新しいクライマックスってヤツをね』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「了解だ。
 なら待っててやるから、早くやりなよ」

《おや、意外ですね。
 ここのところKY全開でしたから、空気も読まずに妨害してくるかと思いましたが》

「いや、純粋に勝ち負けにこだわるなら、むしろそれが正解なんだけどね」



 アルトの言葉に答えて、ジュンイチさんは軽く肩をすくめる。



「これでも、一応補欠試験官ですから。
 お前らの力を測らずにぶちのめすのは、ちょっとマズイと思っちゃったりするんだよ」

「一応、仕事はしてるんですね」

「当然」



 そんな話をしながら、こっちも準備に入る。せっかく待ってくれるって言ってるんだ。ご厚意に甘えることにしよう。



「それじゃ……そこで見てなよっ! 僕達の変身をっ!」



 言って、アルトを鞘に納めて右手を上げると、宙から回転しながらカードが出てきた。ただし、マジックカードじゃない。

 二回りほど大きく、色は全て銀色。表面には、剣を持った巨人のレリーフが刻まれている。



 同様に、マスターコンボイも空いている左手を頭上にかざしてカードを手にする――こちらは『∞』の記号を背景に騎士の絵が描かれている。



「いくよ、アルトっ!」

《はいっ!》

「オメガ!」

《やってやろうぜ、ボス!》



 そして僕らは、そのカードを自分の前へと放り投げる。



《Standby Ready》



 せっと……いや、ここはやっぱこれでしょっ!



『変身っ!』

《Riese Form》

《Infinite Form》







 そして、カードが回転しながら青く、眩い光を放つ。

 ボロボロだったバリアジャケットが、アルトも含めた装備が、一瞬でそのすべてを解除。再構築されていく。







 まず、下半身は、ジーンズではなく、黒のロングパンツへと変わる。ブーツは……黒色でリインと同型。



 上半身には、黒の半袖インナー。その上に、白のインナーシャツ……というか、リインやはやて、シグナムさんと同じものを着る。

 その上からまた、青いジャンパーだ。こちらも、デザインが変わって、多少制服然とした装飾が付いている。



 そしてジガンスクード。ただし、右手にも同じものを装着する。こちらは、カートリッジなしのただのガントレットだけど。



 でも、まだ終わらない。どこからともなく白いマントが現れる。そして……首元には空色の留め金。それを、すべての上から羽織る。



 最後に、上から鞘に納められる形で回転しながら現れたアルトを手に取り、腰に差すっ!







 これでようやく完成である。これが……僕とアルトの新しい力だ。











 そして、マスターコンボイもまた姿を変える。



 今まではオメガを起動させてもそのままであることが多かったヒューマンフォームの際の私服、ジーンズにTシャツ、ジャケットといういでたちから、上下共に白のインナーに変わる。



 そこに新たに造り出されたプロテクターが装着されていく。カラーリングは黒がベースで縁取りは赤。デザイン的には、どちらかといえばジュンイチさん達の“装重甲メタル・ブレスト”に近い感じ。



 特徴的なのが、背中から伸びるフレームに支えられる形で両肩に装備されたシールド。とりあえず、このシールドには別の役割もあるんだけど、それについてはまた後で。



 さらに、起動させたら抜き身のままだったオメガにも鞘が用意されている。左肩アーマーの先端、左側の盾に守られるように、切っ先を上に向ける形で設置されているそれにオメガを収め、誤って抜けないよう鍔のところでロックされる。











《「……オレ達っ!」》



 僕とマスターコンボイ、それぞれが右手の親指で自分を指す。そして……



《「ようやく参上っ!」》



 左手を前に、右手を後ろにして、ちょうど歌舞伎役者が見得を切るようなポーズを取るっ! というか……モモだよモモっ!



 ちなみにマスターコンボイは右手を頭上に、天を指し示すような感じにかざす決めポーズ……はい。天の道を往き総てを司るあの人です。なお、僕が教えた。



《……マスター、私これ……やりたかったんです。しかも、ポーズ付きですし》

「ま、せっかくだしね〜」



 いやぁ……やっぱいいないいなこれっ! あぁ、ここまで溜めておいてよかったー!







「……それがお前らの隠し玉か」



 そんな僕らの前に、ジュンイチさんが舞い降りてくる。



「この状況で出してくるからフルドライブかと思ったけど……違うみたいだな」

《さすが、あなたの目はごまかせませんか》

「……そうだね。
 僕のも、マスターコンボイのも、フルドライブなんかじゃない」





 一応、読者のために説明ね。

 これはエクセリオンみたいなフルドライブや、真・ソニックみたいなスーパーモードじゃない。ましてや、ブラスターみたいなリミットブレイクでもない。



 あくまでも、通常時で使っていけるジャケット……いや、違う。





「騎士甲冑だよ」





 あの時……フェイトに騎士になりたいと話した時、イクトさんから提案されたこと。



 そして、途中からマスターコンボイも加わって進めていたこと……騎士甲冑の作成。



 騎士になるなら甲冑は必要じゃないかと、言われたのだ。



 マスターコンボイも、これまでバリアジャケットらしいバリアジャケットはなし。その時々で適当に用意すればいい、っていう感じで通してきたけど、僕らの輪に加わってきた時に、これを機にちゃんとしたのを作ってみようという話になった。







 そして、みんなのおかげで出来上がったのがこれだ。



 そう、これが巨人と無限、二つの騎士甲冑。新しい僕の……僕達の姿だ。





《マスターの騎士としての姿。それが……新しい私達であり、古き鉄の巨人です》

《ボスも、ヒューマンフォームとの時だって“コンボイ”の名に恥ずかしくないカッコをしてもらわないとな》



 うん、だから……ね。一応今までよりは性能上がってるけど、ブラスターやらオーグリッシュやらには勝てない。でも、いいのよ。これで。



《“精霊獣融合インストール”? オーグリッシュ? 足りませんね。そんなのじゃ、聖王や“ゆりかご”や神様は止められても、私達は絶対に止められませんよ》

「理由を教えてやろうか」



 左手から出てきたのは、銀色のベルト。バックル部分には、赤い携帯が付いている。そう、皆様ご存知、あのベルトとケータイっ!

 僕はそれを腰に巻きつける。ただし、これで変身できるワケじゃない。



《Accel Fin》



 もう一度、ジガンからカートリッジを1発使った上で唱えるのは、青き翼を喚ぶ呪文。そうしながらも、左の親指でケータイのエンターボタンを押す。

 それから、右手に持った黒いパスを……ベルトのバックラーに通す。



《The music today is “Climax Jump the Final”》





 次の瞬間、ベルトから、電子音声が発せられた。いや、それだけじゃない。

 マント……背中の肩胛骨辺りから、青い翼が生まれ、瞬いた。辺りに、羽根が舞い散る。大きく、空を速く舞うための翼が。



 これはリーゼフォーム版のアクセル・フィン。某灼眼な作品を見て、良い機会なので、こっちもデザイン変更してみた。

 なお、フライヤー・フィンだと、一回り小さくなります。



 そして、マスターコンボイの甲冑の方にも動きが。両サイドを守るように配されていた盾が背中側に向けられて、“力”を放出し始める。

 同時、二枚の盾がまるでターンテーブルのように回転し始める。左右それぞれ逆の方向に回転するその盾に放出されたエネルギーが滞留していき、次第に遠心力によって縁の方に寄っていく。

 その軌跡は、二枚の盾の間で“力”の流れが重なっていることもあって、『8』の字が横倒しになったように――『∞』の記号を描き出しているように見える。

 さらに、盾の回転が加速、それによって“力”の流れも加速していき――マスターコンボイの身体が宙に浮き上がった。そのままゆっくりとジュンイチさんの方へと向き直る。



 これが、マスターコンボイのインフィナイトフォームに追加された盾のもうひとつの役割。盾であると同時、まだ飛行を覚え直したばかりのマスターコンボイをサポートする補助飛行ユニットであり、さらに回転と循環によってマスターコンボイの魔力粒子を加速、増幅する粒子加速器型のブースターでもあるのだ。







「……アルト、カウントお願い」

《はい。スタートします》



 僕らの準備が完了して――ベルトから大音量で音楽が流れ始めたっ!



 ……僕が腰に装着しているのは、最近ヒロさん経由で知り合った地上本部・第十三技術部という部署に所属しているイルド・シーという人が作ってくれたアイテム。



 その名も、サウンドベルトっ! なお、細かいツッコミは一切受けつけないっ!



 これは、今みたいに大音量で音楽を流すだけのアイテム。でも、そこに効用が二つある。

 ひとつは、装着者……僕のテンション、ノリを高めて、戦闘力を上げること。

 もうひとつは、大音量で流すことで、敵に一時的でも動揺を誘うこと。



 なんでも、実験でもこの二つの効能は科学的に証明されているとか。バサラな曲が流れると、本当にバサラになれるそうだ。



 ……すげーよイルドさん。どんな実験したのか、是非とも聞きたい。



 ま、相手はジュンイチさんだ。さすがに動揺はしないだろうけど……







「……いい? 戦いってのは、どっちが強いかじゃない」

《何時だって勝つのは、ノリのいい方です》

「どんな強者もノることができなければ勝てないし、どんな弱者もノることができれば勝利を手にできる」

《そして、相手のノリを自分のノリで塗りつぶした時もまた然り!》

「そーいうワケだから僕もマスターコンボイも、そしてアルトにオメガも」

《「始まる前からっ! 徹底的にクライマックスなんだよっ!(なんですよっ!)」》










 そして、そのまま僕達は飛び出した。



 ……もう、ジュンイチさんもわかってるはず。



 4分41秒。それはこの曲が終わるまでの時間。







 どんな手を使おうと、この曲が終わるまでに勝負をつける。というか、つけなきゃ勝てない。







 それで勝てなきゃ、次の曲にノる前につぶされるだけ――きっちりケリをつけてやるっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「時間の波を捕まえてー♪」

「たどり着いたねー♪」

『約束の場所ー♪』

「ヒロ、ヴィヴィオちゃんっ! それ危ないからストップっ!」

「以心伝心♪ もーう」

「リイン、アンタもやめてーなっ! つか、アイツ何しとるんやっ!?」



 あのベルトから流れだした曲。私は、それが何かを知っている。



「この曲……ヤスフミ、ホントに好きなんだ」

「そりゃ、電王だしね。
 ……でも、ファイナルでカウントダウンとは、やっさんわかってるじゃないのさ。私は、熱くなってきたよ」

「オレもだ。あんな感じに韻を踏むなら、『ハリキリ、とびきり、ぶっちぎり』……ってか?」



 そう、でも……なんだ。張り切って、とびっきりの勢いでぶっちぎる。どんな相手だって、自分のノリを通せるなら……勝つ。

 だって戦いは、ノリのいい方が勝つから。



《その通りです。新しき古き鉄と無限の勇者は、誰にも止められません》

《ボーイ達もねーちゃん達も……いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!》

「ノリノリで、ぶっ飛ばすですよー!」



 ヤスフミが生まれ変わったアクセルを羽ばたかせると、一瞬でジュンイチさんの正面に。そして、斬撃がジュンイチさんを襲う……しっかりとガードしたけど。

 さらにマスターコンボイが飛び込んだ。繰り出した蹴りをガードする――けど、こちらは勢いに負けて押し返される。

 ジュンイチさんが距離を取る形で間合いを取って、そこからまた攻防が始まった。でも……



「……ウソ、速いっ!」







 あの曲が流れ始めてから、ヤスフミの動きが変わった。格段にキレが増して、ジュンイチさんと互角に打ち合ってる。

 変わったといえばマスターコンボイもだ。こちらはスピードこそ今までのままだけど、しっかりと安定した動きで、より力の乗った一撃をジュンイチさんにお見舞いしている。



 さっきまで一方的だった戦いは……完全に五分の状態まで押し返されていた。







「……あの、あれホントにエクセリオンとかじゃないんですよねっ!?」

「そうだよ、ティア。
 マスターコンボイのは……まぁ、本人の希望でいろいろ付けてるけど、ヤスフミのは正真正銘、通常状態の騎士甲冑。私とフェイトさん、リイン曹長にみんなで作ったの」

「つまり、あれは本当に曲とか聞いてるノリだけで……」

「なぎさんとアルトアイゼンのノリ補正、チート過ぎるよ……」

「というか……マスターコンボイさんだよ。
 いつの間に恭文に染められちゃったんだろ……」



 スバルの言う通り……ホント、マスターコンボイまでヤスフミのノリについて来れるとは思わなかった。



 今までのアレコレが、本当に恭文とマスターコンボイのつながりを強くしたんだ。これだけでも……恭文が六課に来てからの時間がムダじゃなかったことの証明のような気がして、ちょっとうれしい。



「でも、これはこれでおかしくない?
 ノリでパワーアップできるなら、先生も立派に同類だよ? なのに、恭文達の方だけが強くなる度合いが上だなんて……」

「確かに、ノリで戦う、という意味では、ジュンイチも恭文の同類よ。サウンドベルトでパワーアップする余地は十分にあるわ」



 首をかしげるこなたにそう答えたのはライカさんだ。



 確かに、ジュンイチさんも曲が流れ出してからさっきまでより動きが良くなってる。ただ、それ以上にヤスフミ達の動きが良くなってるから、結果的に差が埋まって互角になってるんだ。



 でも……確かにこなたの言う通りだ。ジュンイチさんもヤスフミと同じ趣味をしてるのに、どうしてこんな差が……?



「今のアイツのマイブームは……ライダーよりもスパロボが上位だから。
 あの曲がJAM-Proだったらまた話は違ったんでしょうけど」

『単なる好みの問題っ!?』



 ………………意外に単純な理由でした。



「でも、それでも速すぎないか? 今までのアイツとは、まったく別物じゃないですか」

「そりゃそうだ。高速型のフェイトちゃんのジャケットがベースだしね」

《そうやって今までのボーイのジャケットに更なる“速さ”をプラスしたんだ。いや、苦労したぜ》



 そうジンくんに答えるのはヒロさんとアメイジア。そしてイクトさんに金剛と続く。



「蒼凪の今までのジャケットの魔力消費量を維持した上で、それプラス全体性能の若干の底上げだったからな」

《いっそのことフルドライブにしようという話も出ていたんですが……》



 でも、それだと魔力量が並みのヤスフミはすぐにガス欠を起こす。それで、みんなで苦労して……



「あの形に仕上げたと……」

「そういうこと。でも私さ、やっさんに追加報酬請求しようかどうか、悩んでるのよ」

「あ、オレも。あの働きはお中元じゃあ足りないし」

「な、なんというか……すみません」

「でも、それだと……」



 私のとなりにいたヴィヴィオが、モニターの中のヤスフミと私を見比べる。すごく疑問顔で。



「ヴィヴィオ、何か気になるですか?」

「恭文とフェイトママ、おそろいのジャケットってこと?」

『……………………………………………………え?』
 
「だって、リーゼフォームはフェイトママのジャケットがベースで、マントも付いてるし。というか、あれフェイトママのマントと同じだよね?」









 瞬間、場が凍りついた。



 ……ヤスフミ、お願い。早く終わらせて。みんなのニヤニヤした視線が辛いのー!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しゃらくせぇっ!」



 空中で何度も交錯し、刃を交える――咆哮と共に、ジュンイチさんが大剣と化した爆天剣を繰り出してくる。

 あの大きさと重量だっていうのに速力は前の形態と変わらない――まったく、厄介だよ。



「あらよっと!」



 もっとも――それでもリーゼフォームのスピードには届かないけど。あっさりかいくぐって腹に蹴りを一発――痛いのはむしろこっちの足だった。

 くそっ、防御力は向こうが上か。力場で物理攻撃止められない分、アーマー硬いからなー、ジュンイチさんの“装重甲メタル・ブレスト”って。



 まぁ、それならそれで――



「任せろ!」

「お願いっ!」



 マスターコンボイにお願いするだけだから。



書庫バンク――接続アクセス!」



 その言葉に、マスターコンボイの騎士甲冑――その胸の中央部分に配置された、五角形に切り出された緑色のクリスタルが光を放つ。

 それに伴って、マスターコンボイの右手に変化が――チラチラと紫色に光る魔力が右手に収束して、さらに甲高い音を立ててその光がぶれ始めた。

 要するに――高速で振動しているワケですよ。



「ちょっと待て! それ、まさかっ!?」

「その――まさかだっ!」



 マスターコンボイの伸ばした腕を、ジュンイチさんはとっさに肩のプロテクターで受ける。瞬間――



「名づけて……ビート、ブレイク!」



 マスターコンボイの宣言と同時、プロテクターの触れられた部分が粉々に粉砕される!



「スバルの――振動破砕かよ!?」

「それだけじゃないっ!」



 これにはさすがのジュンイチさんもビックリ。さらにマスターコンボイが答えて――距離を取ろうとしたジュンイチさんの足に鎖が絡みつく。



 それは、ジュンイチさんの直下に生み出された魔法陣から伸びていて――



「今度はキャロのアルケミックチェーンっ!?」

「そして――仕上げはこれだ!」



 そのまま、マスターコンボイがジュンイチさんに突っ込む――その手のオメガは、刀身が真っ赤に燃える炎に包まれていて――



「紫電、一閃!」

「ぐ――――――っ!」



 繰り出した炎熱変換付きの斬撃が、ジュンイチさんのかまえた爆天剣をその手もろともカチ上げる。



 そんでもって、ジュンイチさんがマスターコンボイにガードブレイクかまされたところを――



「っ、らぁっ!」



 思い切り――斬りつけるっ!



 それでもクリーンヒットを避けるのは大したものだけど――衝撃までは殺せなかったみたいだね。けっこうハデに押し返されて、なんとか体勢を立て直す。



「おいおい、何だよ、今のは……
 ただのサルマネにしちゃ、完成度高すぎだろうが……」

「当然だ。
 手がけた人間が優秀だからな」



 うめくジュンイチさんに対して、マスターコンボイはオメガを手にそう答える。



 そう。騎士甲冑を作るにあたって、マスターコンボイはさらなる戦闘能力の強化を望んだ。



 まぁ……ゴッドオンしてからがマスターコンボイの真骨頂だしね。それが発揮されないヒューマンフォームでの力不足を前々から感じていたんだと思う。



 で、その強化のネタとしてマスターコンボイの頭の中にあったのは、“相手や仲間の技を学習し、自分の技として取り入れるシステム”。



 なんでも、“JS事件”で戦った相手にそれを可能としていた相手がいたんだとか……だから、それをシステム化して、自分の騎士甲冑に組み込めないかと考えたワケだ。



 そのためにほうぼう飛び回って関係者から話を聞いて、シャーリーやヒロさんサリさんとあぁでもないこうでもないと意見を出し合って……しまいにはスカリエッティまで引っ張り出した末になんとかシステム化に成功。見事騎士甲冑のシステムに組み込んでみせた。



 元々僕やスバル達とゴッドオンして、みんなの技を一緒に使ってきたマスターコンボイだ。周りの仲間の技を学習して“無限”に強くなる、というのは非常に“らしい”スタイルだ……マスターコンボイの騎士甲冑の名前“インフィナイト”フォームはそれが由来というワケだね。







「く………………っ!
 フェザーファンネル!」

「ムダっ!」



 こっちの追撃よりも早く繰り出してくるビットを、マスターコンボイがオメガの一振りで薙ぎ払う。

 そして、僕はまたアクセルを羽ばたかせ、突っ込むっ!







 ……負けるワケがない。







「それならっ!」



 そんな僕へのカウンターを狙って、ジュンイチさんが炎を放つけど――



《High Blade Mode》



 アルトを大太刀に変化させて、一閃。それだけで、ジュンイチさんの炎を吹き飛ばす。そして、また動き出す。







 ……僕は、ひとりじゃないから。









「これにはねっ! リインにヒロさんサリさん、アメイジアに金剛っ! シャーリーにシグナムさんに師匠とレヴァンティンとグラーフアイゼンっ!
 それにバルディッシュとイクトさんと…………」







 ジュンイチさんの制御を受け、四方からくる“炎弾丸フレア・ブリッド”を、砲撃を、すべて足を止めない形で防御・回避していく。

 普通ならちょい難しい。でも、カードを使えば楽勝。魔力も消費しないしね。



 もう、出し惜しみする必要はない。全部斬っていくだけっ!







「フェイトの想いがこもってんだっ!
 みんなが力を貸してくれて、初めて生み出せたっ! 始められたっ!」







 そう、僕ひとりの力じゃない。だから……!



「絶対に負けらんないんだよっ!」

《コーヒーがなくても、心はてんこ盛りです。もう、私達は誰にも止められませんよ》

「悪いな!」



 僕らに答えて、ジュンイチさんが動く――爆天剣の前後の刃それぞれに炎を宿して、一気に突っ込んでくる。



「そう言われると、ますます止めたくなる性分でなっ!」

「止められないって――」

「言ってるだろうがっ!」



 対し、僕らは二人同時にジュンイチさんにしかける。



『ダブル! 鉄輝一閃!』



 繰り出すのは二人同時の“鉄輝一閃”。とっさにガードしたジュンイチさんを、ガードの上からブッ飛ばす!







「こなくそっ!」







 それでも、さすがジュンイチさんというか、すぐにリカバリしてくる――けど、もう遅い。







 集中する。世界が少しだけ静かになり、世界がゆっくりと動いていく。別に御神の奥義じゃないだろうけど、それでもそうなる。







 斬る。炎も、ジュンイチさんも、すべてだ。



 そうしようと思って斬れないものなんてなんにもない。そうだ、ここは今までと変わらない。僕はそうやって……



 今をっ! 覆すっ!







「決めろ、恭文!」

「……いくよ、密かに温めていた新必殺技」







 マスターコンボイにフィニッシュを託され、僕は、踏み込む。



「氷花……」







 背中のアクセルも羽ばたかせ、一気に零距離に近づく。







「一閃っ!」







 そして……アルトを抜き放つ。



 真下から真上に勢いよく振り抜かれたそれは、迎撃しようとジュンイチさんが放った炎を真っ二つにした。



 ……ひとつ。



 それだけじゃない。踏み込み、手首……刃を返し、やや袈裟斬り気味に打ち込む。

 それは……爆天剣に打ち込まれ、その刃を強制的に下にした。本当は叩き落としたかったけど、少なくともこれですぐには反応できないはず。



 ……二つ。



 まだ終わらない。最後に、がら空きになったジュンイチさんの上半身に向かって……左斜め下から斬り抜けながらの一閃。



 ……三つっ!



 時間にすれば1秒にも満たない一瞬の間に僕が生み出したのは、三つの斬撃。



 それが……魔力を、武器を、相手を……その三つを、一瞬で斬り裂いた。





「……またたききわみ

《いわゆるひとつの……パートVです》





 示現流の剣術にも、居合いがある。滴り落ちる水滴を、一瞬で三度の斬撃を放ち、斬り裂くほどのスピードの居合いが。

 もちろん、そのすべてが一撃必殺。一太刀防げても、意味がない。

 ……自身の防御と回避を捨て去り、相手より速く一太刀浴びせる事だけを、その一撃で相手を確実に倒すことを追及した剣術。それが、示現流だ。



 そう、これはどんな攻撃も防御も回避も意味をなさない神速の三連撃。『一撃必殺』と『先手必勝』。その二つを同時に具現化した一つの形。

 ……先生が、僕達の剣術の奥義というかひとつの到達点と言っていたものだ。



 今までは二連が限度だった。でも、今は違う。今は、撃てる。偶然とかじゃなくて、自分の意思で。







 きれいにクリーンヒットをもらい、ジュンイチさんがブッ飛ぶ――地面に突っ込んで、一度バウンドした後にひび割れたアスファルトの上に転がる。







 乾いた音を立てて、ジュンイチさんの手から離れた爆天剣が地面に転がる――倒れたまま起き上がる様子のないジュンイチさんの前に、僕は静かに降り立って――







「チェストォッ!」

「でぇっ!?」







 迷わず振り下ろしたアルトの切っ先から、ジュンイチさんがあわてて飛びのく――やっぱりタヌキ寝入りだったか。







「ご名答。
 まぁ、お前のことだからそのくらいは気づいてると思ってたけど……また迷わず斬りに来たな」

《当然です。
 あなたに戦闘能力を残しておいたら、何を仕掛けてくるかわかりませんから》







 そう。この人の場合本当に何をするかわからない。

 だから……念のため完全に意識が落ちるまでブッ飛ばす。







「いや、そこまでしなくてもいいよ。
 今日はもうやめだ」







 言って、ジュンイチさんが“精霊獣融合インストール”を解除する――けど、油断できない。やっぱり意識が落ちるまで……







「だから、もうやめだって言ってんだろうがっ!
 そんなに信用ならないか、オレがっ!」

《「うん」》



 迷うことなく即答する。日頃の行いを思い返してみなよ。どこに信用する要素があると?



「まぁ……そりゃそうなんだけどな。
 とにかく、今回のオレの役目はお前の試験の相手。この後の採点に支障が出るようなボコられ方は、できればしたくないのよ」



 その言葉に、僕はようやくアルトの切っ先を引っ込めた。



 だって……ジュンイチさんは「ボコ“られ”方」って言ったから。負けを前提にしたその物言いは、事実上の白旗と受け取っていいでしょ。



 つまり……







「じゃあ……正真正銘、僕らの勝ちってことで」

「あぁ」







 確認する僕の言葉に、ジュンイチさんはハッキリとうなずいて――







「“試合に負けても勝負で勝つ”。
 試験を不合格にしちまえば結局オレの勝ちってことで……」

「やっぱりブッ飛べぇぇぇぇぇっ!」







 渾身の力でフルスイングした僕らの一撃がジュンイチさんを空高くブッ飛ばして――そこでちょうど、曲は終わりを迎えたのだった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……とにもかくにも、やっさんのAAA試験はこうして終わりを告げた。





 で、みんなが気になる試験の結果だけど……。




















 見事、合格っ!




















 いや、なのはちゃんもジュンイチも、けっこう辛めに採点したらしいんだけどね。それでもこれですよ。やってることはともかく、成果は出してるしね。

 うん、私らもしっかりと鍛えた甲斐があるってもんだよ。よかったよかった。





 で、蛇足だけど、この試験の後、元々高かった古き鉄のあくひょ……もとい、評判は、さらに上昇することになった。





 理由は簡単。あの“ジョーカー・オブ・ジョーカー”にして“管理局の黒き暴君”、“漆黒の破壊神”、“隠し技の百貨店”、“反則技の伏魔殿”、“超広域型疫病神”、“生きた理不尽”、“歩くご都合主義”、えとせとらえとせとら……そんな数多くの異名をほしいままにしてきたジュンイチを、勝利宣言した上で、宣言通りにものの5分弱で倒したから。

 ……いや、やっさんの勝利宣言だけが広まっちゃって、その前段階すっ飛ばしてるのがアレだけどさ。





 これによって、局内外を問わず、誰であろうと決して敵に回してはいけない……魔王すらも一蹴出来る存在として、その名は更に広まっていくことになった。

 というか、悪化した……我が弟弟子がどこまでいくのか、楽しみでもあるけど、怖くもある。





 なお、試験の後、なのはちゃんがやけにゲッソリしていたのは、きっと気のせいだ。ブラスター使用の件でいろんな人から怒られたんだとは思うけど、きっと気のせいだ。





 そして……やっさんは、後日フェイトちゃんと局のセンターに向かい、IDカードを更新。





 新しいカードには、当然のようにしっかりと『空戦AAA+』の文字が記載されていた。





 フェイトちゃん曰く、やっさんとアルトアイゼンはそれを見て……とてもうれしそうだったらしい。





 そして、こう言ったらしい。





 『これを返却なんてしたら、バチが当たるね。一生持ってないと』……と。





 その時のことを、まるで自分の事のように喜びながら話すフェイトちゃんを見ながら私は……素直によかったなと、思ったよ。





 うん、本当によかったよ。いろいろとさ。





















(第48話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ:次の嵐はもう迫っていた。というか、今回は多分ぶっちぎりでアウト。







 ……合格祝いと称した宴会もあったりしたけど、いい感じで日常に戻った。そして、ここから始まった。





 もしかしたら、六課最大の危機だったかもしれないと、後に関係者が口をそろえて言うことになる大事件が。




















「……戦技披露会?」

「うん。3月の末くらいにやるらしくてね。で、今出場者を探してる最中なんだって」



 今日は、イクトさんを隊舎に残してフェイトの外回りに付き合っております。その道中、車内でそんな話をされた。



《また突然ですね……あぁ、アレとかコレのせいですか》

「そ、そこを言われると辛いけど……そうだね、それが大きいと思う」











 ……戦技披露会とは、局が定期的に行っている公開模擬戦のひとつだ。



 局内でもエースとされている人間が選出され、大衆の面前でその技術をぶつけ合う。これには目的がある。







 ぶっちゃけると、犯罪者やアウトゾーンな方々に対する威圧だ。局には、これだけの人材がいるというアピールのため。

 ま、そういうのは抜きで、これに選出されることは局員にとっては名誉とされているけどね。

 だって、対外的にも『アンタは強いっ!』って、局からお墨付きもらうのと同じだもの。







 ただ……ねぇ、やるにしてもメンバーはきっちりした方がいい。







「うん、上もそのつもりみたい……なのはとシグナムは酷かったから」

《まさしく血戦でしたしね。というか、出してまたこの間のようにブラスター使われても困りますよ》



 そう、なのはとシグナムさんは、以前これに出ている。ただ……すごい暴れっぷりで、観客を全員引かせた。そのおかげで、教材ビデオにも使えないとか。

 まぁ、あの時はみんなに説教されまくったから、大丈夫だとは思うけど……いや、油断はできない。相手はあの二人なんだから。



「それに、今ヘタに六課でこの話をしたら……聞かれたらマズイ人がいるでしょ?」

「あー、ブレードさんか」



 常駐ってワケじゃなくて、しょっちゅうケンカ相手を探してフラフラ出歩いてるけど、明らかに六課に滞在している時間が増えている我らがバトルジャンキー、ブレードさん。あの人がこの話を聞いたら……うん、シャレにならない事態になるのは目に見えてる。



「だからはやても、もし要請が来ても断るつもりみたい」

「正解だよ。つか、ブレードさんもそうだけど、なのはVSシグナムさんの再現は一般ピーポーにはキツいって」

《マスターはあの時楽しそうでしたけどね》



 気にしないで。『みんながモノクロの中、ただひとりカラーだった』とか言われるけど、気にしないで。



「……そうだ、ヤスフミ」

「なに?」

「はやて……様子が変なの。というか、どんどん酷くなってる」



 フェイトの顔から、心配の色がうかがえる。



 ……そう、あのタヌキの問題は未だに片づいていない。こりゃ……いよいよ放置できなくなったな。

 つか、こんがらがるなら、話を聞くって言ってたのに……



「ヤスフミ、私にも話してくれないかな」

「……えっと」

「悪いけど、もう知らんぷりはできないよ。はやてもそうだけど、八神家のみんなも相当気にしてる」



 だよ……ね。うし、こうなったら巻き込んじゃおう。僕の許容量を越えてるのは、間違いないんだから。

 何より……フェイトははやての友達だしね。



「……じゃあさ、今日ははやても入れて、3人で外で夕飯にしようか。ちょうどはやても中央本部に行ってるし」

「そこで……だね」

「うん。たださ、フェイト」



 ……ただひとつだけ、念押ししておこう。うん、絶対にだ。



「お願いだから、冷静にね? 絶対にザンバーとか真・ソニックとかはダメだから」

《本当にお願いします。血の雨が降るのは避けたいんですよ》











 ………………一応、万一の時のフェイトの抑え要員にイクトさんにも来てもらおう。道に迷いそうなら迎えに行ってでも。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……どうして、ヤスフミやアルトアイゼンが真剣な声でそう言ったのか、その時はわからなかった。



 でも、ヤスフミが呼んできたイクトさんも交えて、はやてからご飯を食べながら話を聞いて……意味がわかったよ。うん、許せない。





















 絶対に……許せない。





















「……フェイト、そう言いながら箸を握りしめるのはやめて。
 というか、折れちゃうからっ! 少なくとも箸に罪はないよっ!?」

「そうだね、罪があるのは……ヴェロッサ・アコースだよね」

「あ、あの……フェイトちゃん? マジで目が怖いんやけど」



 気にしないで。というか、ヤスフミっ!



「なんでこんな大事な事を黙ってたのっ!? そうと知ってたら……」

「そうやって怒りに駆られるからに決まってるでしょうがっ! みんながみんなそうなったら、本気でどうなるかわかんないでしょっ!?」

「……そうだね、ごめん」

《いきなり冷静になりましたね……》

「ちょっと、想像しちゃって」



 ……うん、とんでもないことになる。間違いなく。その光景を想像して、身体が震えた。



 なお、イクトさんははやてから話を聞いた時点で真っ赤になってフリーズしてます。



「とにかくはやて。アコース査察官とちゃんと話そう?
 その……気にしないでと言ったから、どうしても連絡し辛いのは、わかるけど」

「つか、はやてはどうしたいのよ。まずはそこだよ」



 私達がそう言うと、はやての表情が一気に重くなった。



 ……やっぱり辛いよね。うん、辛くないはずがない。



「……あのな」

『うん』

「そういう問題やなくなったかも知れんのよ」

『……はい?』



 え、どういうこと?



「……来ないんよ」

「来ない?」

「フェイトちゃん、知っとるやろ? うち……そんな遅れたりとかしないで」



 あ、そ……うだ……よね……うん、ちゃんと毎月決まった日に来るって……



《……はやてさん、まさか来ないというのは……》

「正解や」

「……はやて、一応確認。避妊しなかったの?」



 ヤスフミの言葉に、はやては……うなずいた。重く、辛そうな表情で。



 これにはさすがのイクトさんも真っ赤になっていられなかった。むしろ真っ青になってる。



「つ、つまりはやては……」

「妊娠……してるかも知れないってことっ!?」











 ……こうして始まった。機動六課最大の危機と騒動が。







 というか……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?




















(本当に続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

なのは「うぅ……久しぶりの私の見せ場だと思ったのに、撃墜されて途中退場なんて……」

ジュンイチ「事前の警告無視してブラスターなんぞ使うからだ、バカタレが」

なのは「そ、それはわかってますけど……
 ……けど、ジュンイチさんに思いっきり抱きつかれたのはラッキーだったかなー♪

プリムラ《あー、なの姉、わかってるー? アレ抱きついたんじゃなくて投げ技ー》

レイジングハート《いいんじゃないでしょうか? マスターが幸せなら》

ジュンイチ「………………何の話?」





第48話「天国と地獄は実は思った以上に紙一重」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《えー、ついにボスとミスタ・恭文の試験が終了。前回のどこぞの誰かのモノローグの通り、非常にカオスな展開を迎えた第47話をお送りしました》

Mコンボイ「あー……結局あのカオスは誰が原因なんだ?
 警告を無視してブラスターを使ったなのはか、いくらドクターストップのためとはいえ空気を読まない撃墜手段をとった柾木ジュンイチか」

オメガ《そんなの考えるまでもありません。
 作者に決まってるじゃないですか》

(ぐはぁっ!?)

Mコンボイ「あ、作者が吐血した」

オメガ《いや、だってそうじゃないですか。
 本家『とまと』と差異をつけるために対戦相手を入れ替えるだけならまだいいですよ。
 けどあの入れ替わり方はないでしょう。しかもあのタイミングで。盛り上がってた場の空気が一気に明後日の方向に振り切れてしまったじゃないですか》

Mコンボイ「まぁ……そこは否定しないが……」

オメガ《まぁ、それはともかく、今回の見所はやはりボスとミスタ・恭文の新フォームお披露目なワケですけど》

Mコンボイ「恭文はともかく、オレはヒューマンフォームに限定して見ると初のフォームチェンジなんだな」

オメガ《ですね。
 今まで、ヒューマンフォームで戦っている際のボスの服装ってそれほど突っ込んで描写してませんでしたからね。作中の話ではありませんが、これを機にしっかりしたのを作ろう、と。
 あくまで“魔導師/騎士の魔法戦コスチューム”というスタイルを崩していないミスタ・恭文のリーゼフォームに対して、プロテクター、メカニックが多めのパワードスーツ然としたイメージの騎士甲冑となったワケです》

Mコンボイ「あと……オレの場合特徴的なのが“相手の技を学習するシステム”か」

オメガ《それ自体のシステム名はまだ作者も考え中らしいですけど。
 とりあえず、これはミスタ・ジュンイチに対する対抗措置的な意味合いもあるようですね。今回未使用に終わった彼のデバイス“蜃気楼”は“デバイスをコピーするデバイス”ですから》

Mコンボイ「あー、なるほど……」

オメガ《まぁ、ボスもミスタ・ジュンイチもミスタ・恭文に対しては少々保護欲が強い感じですからね。
 こういったことを機に、二人でミスタ・恭文を奪い合うようなミルフィーユハヤテ垂涎のネタが》

Mコンボイ「いや、それは勘弁してくれ。
 というか……そのミルフィーユハヤテが大変なことになってるんだが」

オメガ《とうとう来ましたねー。本家『とまと』ファーストシーズン編における最大級の地雷イベントが。
 そて、こちらでは如何なるカオスが繰り広げられるのか……いろんな意味でご期待ください。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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