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頂き物の小説
第47話「ハリキリ、とびきり、ぶっちぎりな、明日をつかむダブル・クライマックス」:1



 ……日付は1月10日。AAAランク試験当日。



 試験会場は廃棄都市部。見事なゴーストタウンである。



 そして、僕とアルト、そしてヒューマンフォームのマスターコンボイとオメガは……その一角、廃ビルの屋上で頭を抱えていた。いや、アルトとオメガは頭ないけど、気持ちとしてはそんな感じ。



 そんなのはおかまいなしで、いい感じで風が吹きすさび、これからの時間がタダで済まないことを感じさせる。



 というか……済まないだろうね。そこは絶対だ。







 今、僕達がそう思い、頭を抱えている原因はある……試験内容だ。



 試験内容はいたって簡単。二人がかりツーマンセルで魔導師ひとりを撃墜せよ。これだけである。







 なお、これはめったに出ない課題だそうだ。内容だけなら、あんまりにも簡単すぎるから。







 ただし、落とし穴がある。それもデカイのが。







 それは、相手の魔導師……仮想敵を務めるのが、教導隊所属のエース……オーバーSランクの魔導師だということ。



 ここまで言えば、賢明な方々は気づくだろう。この試験がどういう形で行われるのかを。



 つまり、実際に戦いながら、総合技能を見るのだ。それも、教導……戦闘のプロが、本気を出した上で。







 そういうワケなので、場合によっては勝っても厳しく採点された結果落とされることも多いとか。逆に負けてもそれ相応に優秀なのが戦いぶりから証明できれば合格になることもある……らしいけど、そっちはむしろレアケース。







 まー、結論を言うと、この課題はその内容と反比例して、非常に難易度が高いということだ。だからこそ、めったには出ないらしい。







 ……試験内容を聞いた時、昨日エリオとお風呂で話していた『“JS事件”による、局内の綱紀粛正』が原因じゃないかとちょっと思ったのは、内緒である。







 ま、ここは別にいい。正直、僕の運のなさを考えると、来るかなと予想と覚悟はしてた。







 うん、覚悟を決めてはいたよ? いたん……だけどさ。











 なんでよりにもよっておのれがいるっ!? 予想飛び越え過ぎて固まったわっ!











「……端末でランダムに選定したら、出てきたんだって」



 いや、そういうことじゃない。普通顔見知りと知ってたら、こういう場に持ってこないでしょうが。

 それ以前に、後遺症後遺症っ! どうなってんのよ、教導隊っ!



「私も断ったんだけどね、先輩方に怒られちゃった。
 『今ここでやらないのは、知り合いに手心を加える教導官と認めるのと同じだ』……ってね。
 あと、身体も……ムチャクチャしなければ問題ないよ」

「……そう、そりゃいい先輩方だね。良すぎて良すぎて、本気で感謝したいわ。今度ぶぶ漬けでもご馳走するって伝えといて」

「今度ぜひとも手合わせを願いたいな……ランクの差が戦力の決定的差でないことを教えてやると伝えておけ」

《しかし、見事にジョーカーですね》

《まったくだぜ》







 そうだね。でも……だ。負けるワケにはいかない。ううん、コイツだけには、絶対に負けたくない。



 場合によっては……出さないとダメか。







「恭文くん。
 マスターコンボイさん」

「なに?」

「予想はつくが一応聞いてやる……どうした?」

「私……加減しない。
 教導官として……ううん」



 そう言って、空中で……かまえた。手にした不屈の心を。



「そんなの、私達の間ではジャマだよね。
 恭文くんとも、マスターコンボイさんとも……私として、全力でぶつかるから。もちろん、採点はキッチリした上でね」

「とーぜんでしょうが。そうじゃなきゃ、つぶし甲斐がない。
 ……あと」

「うん」

「楽しむよ。勝ち負けはともかく、せっかくの最高のシチュだ。そうしなきゃ……損でしょ」

「確かに、な」



 アルトをかまえながら……笑って言う。



 うん、笑うのよ。だって、楽しいから。



「そうだね、楽しもう? それじゃあ……!」

「始めようかっ!」

「最初から……クライマックスでねっ!」











 ……こうして、試験は開始された。







 僕らが合格する最低条件はただひとつ。





















 高町なのはを……倒すこと。ただそれだけ。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第47話「ハリキリ、とびきり、ぶっちぎりな、明日をつかむダブル・クライマックス」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……さて、どうする? ま、行くしかないんだけどさっ!










《Flier Fin》





 久々登場の飛行魔法……ま、いいでしょ。使えるもんは何でも使ってくのよ。



 というワケで、先陣切って突撃っ! だけど、簡単にいくワケがない。





《Divine Shooter》





 かまえたレイジングハートから生まれたのは、十数発の桜色の誘導弾。迫ってくるそれらを、アルトを振るい、切り払いながら直進する。



 当然、狙いは僕だけじゃない。地上に残ったマスターコンボイも狙われてる――けど、







「なめるな!」







 叫んで、マスターコンボイが“飛ぶ”――“跳ぶ”じゃなくて、“飛ぶ”。

 そう。大きく跳躍してなのはの魔力弾をかわすと、そのまま大きく上昇。次いで追いかけてくる魔力弾に向けて反転、急降下してオメガの一振りで薙ぎ払う。



 さすが。もう完全に“気”で飛ぶのをマスターしてる。元々飛べたんだし、浮けるようになれば後は楽勝だったみたいだ。







 そんなマスターコンボイに後ろを任せて、僕は一直線になのはに向けて突っ込む。



 だけど……なのはは距離を取る。取りつつまた撃ってくる。



 やっぱ、接近を許しちゃくれないか。そうだよね。僕の得意レンジだし。

 追いかけてくる誘導弾を、動きを止めず、斬り払う。足を止めるのは、絶対になしだ。止めた瞬間に、砲撃がくる。



 でも、それは……!







《Stinger Snipe》

《Hound Shooter》







 向こうも同じっ!



 シューターを斬り払いながら、詠唱して撃つのは、僕の得意魔法。マスターコンボイが後ろから撃ってきた紫の光と共に、青い光がなのはを追いかけていく。

 そのまま、僕は最後のシューターを斬り払う。で、フライヤーフィンを羽ばたかせ……突撃っ!



 なのはは、スティンガーに追われつつ、こちらへも警戒を向けてくる。現在僕のスティンガーもマスターコンボイのハウンドも、僕らの制御は受けてない。

 熱量で自動追尾するプログラムを仕込んでいるアレンジ版だ。だから……



 なのはが魔力弾に対処している間に、僕らで前後から挟み込むなんていう攻撃も、できるワケですよっ!







「鉄輝――」



 魔力を込め、いつものように鋭い刃を打ち上げる。



「一閃っ!」



 僕は、アルトを上段から打ち込むっ!



「オォォォォォッ!」



 当然、反対側からもマスターコンボイがしかける。ただ力任せに魔力を込めてるだけの――だけど、僕の“鉄輝一閃”にも匹敵する魔力斬撃。なお、今のところネーミング考案中。







《Round Shield》







 だけど、簡単にはいかない。なのはは、右手を前……マスターコンボイへと向け、左手を後ろ……僕へと向け、シールドを二つ展開。

 僕らの放った、カートリッジを使った上での斬撃を、難なく受け止めた。



 つか、固いっ! あーもうこのバカ装甲がっ!



 斬るのはムリ。そう判断して、アルトを引く。で、すぐに術式をえい……



 視界の端に桜色が見えた。なので、下がるっ!



 僕が数メートル下がると、それまで僕がいた位置を、二つの弾丸が通りすぎる。くそ、誘導弾を隠してたか。いや、それだけじゃない。



 レイジングハートが変化した。音叉を思わせる形に。その先を僕に向ける。







《Short Buster》







 次の瞬間、僕へと砲撃が飛んだ。左へ回避。うわ、ギリだったし。僕のすぐ脇を、桜色の砲撃が通り過ぎた。

 威力を殺したスピード重視の砲撃か。まず当てることから考えた?





 マスターコンボイは――ダメだ、押し返されてる。さっきの僕と同じようになのはのシューターにけん制されて、後退させられている。



 当然、こっちもそんなことをいつまでも考えてる余裕はない。なのはの手の中のレイジングハートから、カートリッジが消費される。







《Accel Shooter》








 一気に30発もの魔力弾が生まれた。それが、僕へと集中的に放たれる。



 とりあえず、これっ!







《Stinger Snipe》







 またアレンジ版を放つ。だけど……スティンガーに数発のアクセルが殺到。それでつぶされた。くそ、読まれてるっ!?



 マスターコンボイはなのはの魔力弾に未だ手こずって……いや、違う。つぶすそばからまた撃たれてるんだ、アレ。



 それも、マスターコンボイを墜とすには明らかに足りない、本当に足止め程度の数を維持してる。先にこっちをつぶす魂胆ってことか。







 さすが、腐っても教導官。簡単にはいかないか。なら……ここはっ!



 僕はそのまま動かず、殺到するアクセルを……受け入れる。



 次の瞬間、アクセルが着弾。爆発が空間を支配した。





















《Accel Dash!
 Double》












 ……その頃には、僕はなのはの後ろに移動してるんだけど。











 ご自慢の加速魔法、アクセルダッシュで足止めを一瞬にして突破したマスターコンボイに抱えられて。











 悔しいけど、なのはの魔力弾制御は一級品。そのなのはが意識を集中させている僕がその攻撃をかいくぐることは難しい。







 けど……決して無視しているワケではないけれど、足止めできればいい、くらいにしか意識を向けられていないマスターコンボイはその限りじゃない。



 だから……最高速度よりも加速力において優れるアクセルダッシュを使えば、マスターコンボイが一瞬のスキをついて包囲網をかいくぐることは十分に可能、というワケだ――僕のところまで飛び込んで、なのはの視界からかっさらうことも含めて、ね。







 多少乱暴に、マスターコンボイが僕をなのはに向けて解放――要するに投げ飛ばす。同時、背後からなのはに向けてすっ飛びながら、カートリッジを3発消費。



《Elment-Install.
 “ICE”》




 刀身を包むのは、凍れる魔力――ついでに“氷”属性のエレメントカートリッジも使って強化する。



 背後はがら空きスキだらけ。上段から、アルトを打ち込むっ!







《Flash Move》







 ……え? からぶったっ!? つか、なのははどこっ!







「恭文! 下だ!」



「………………っ!」







《Divine Buster》

「ディバイン……!」







 マスターコンボイの警告と、下からの気配――確認するより速く、僕は……その声の発生源へと、突っ込むっ!



 あちらさんの発射体制はバッチリ。もう撃てる。というか。







「バスタァァァァァッ!」







 撃ってきたしっ!







 僕は、右へとわずかに移動。バスターをスレスレに避けつつ、全速力で突撃っ! バスターがジャケットとフィールドを掠めるけど、気にしないっ!



 現在、なのはは撃ち終わった直後でノーガード状態。これならっ!







《Protection Powered》







 ……ムダだよ。何がこようと。







《Elment-Install.
 “SLASH”》








「氷花っ!」







 そんなの関係ないっ! ただ……ぶった斬るだけだっ!







「一閃っ!」







 上段から、真一文字に打ち込んだ凍れる刃(斬撃強化付き)は、バリアを真っ二つにした。そして、その刃はそのままなのはへと……



 次の瞬間、爆発した。



 その元は、僕が斬ったバリア。はさまれる形で爆発を受け、攻撃がストップした……バリアバーストっ!?

 そのスキを見逃すなのはじゃない。当然、レイハ姐さんをかまえて、零距離……いや、少し下がりつつ。







《Short Bust







「させるかっ!」







 抜き打ちでぶっ放そうとしたなのはの魔力、その塊が撃ち抜かれ、爆発した。



 マスターコンボイのハウンドシューターが撃ち抜いた――うん、ナイスアシスト!







 ……今度は僕の番だ。一気になのはの懐へと踏み込む。

 飛び込みながら……カートリッジを3発消費。左手に生まれた青い魔力のスフィアを、撃つっ!











「クレイモアっ!」











 カートリッジにより、巨大になった青い魔力スフィアが、すべて散弾となり、なのはを襲った。







 そして、爆発。それになのはは、飲み込まれた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「や、恭文……なのはさんにためらいなくクレイモア撃ちましたよっ!?」

《そりゃ撃つだろ。そうでもしねぇと、ボーイ達は勝てないしな》

「相手はあのエース・オブ・エースだ。ためらったら、そこで終わるよ」

「それに、相手が高町であるということはこの際関係ない。
 今の彼女は“仮想・次元犯罪者”として蒼凪達の前に立っているんだ。手加減をする理由などない」



「ドクター、どう見ますか?」

「戦闘職じゃない私に聞かないでくれ、ウーノ。
 こういうことはトーレの方が専門なのはわかっているだろう?
 で……どうだい? トーレ」

「はい。
 今のところうまくさばいてはいますが……高町なのはの火力が一撃必殺の脅威であることは変わりません。一度でもクリーンヒットを許せば、そこから一気に崩されるでしょう。
 おそらく、マスターコンボイがロボットモードにならずヒューマンフォームのまま戦っている理由もそこです。技術はともかく、パラメータ的にはゴッドオンなしの彼の戦闘能力は六課フォワードの生身での戦闘能力とほぼ同等ですから。より小柄なヒューマンフォームで狙いを絞らせないのが狙いかと」



「えっと、クレアちゃん……だっけ。
 どう? 訓練とは違う、ガチの模擬戦を見た感想は」

「あ、こなたさん……
 なんていうか……すごいですね。“霊子生命体ソウル・ファクター”もなしにここまで戦えるんですか?」

「まぁね……っていうか、惑星ガイアで見なかったの? ジンの魔法戦」

「一応は……ただ、やっぱり訓練ばっかりだったし……その……」

「ジン、模擬戦は毎回ブッ飛ばされてばっかりだったじゃん」

「うるさいよ、チータス!
 あぁ、そうだよっ! どーせアリス姉やヴェルヌスに負け続けだったさっ!」







 ここは、六課隊舎のロビー。六課メンバーだけじゃない。こなた達カイザーズはもちろん、ガイア・サイバトロンのみなさんや外出許可をもらったマックスフリゲートのみんなも集まって、そこでみんなで、ヤスフミの試験を見ていた。

 でも……







「まさかなのはさんが来るとは」

「うん。つか、アイツはまた……」

「はやて姉も知らなかったのか?
 じゃあ……ビッグコンボイも?」

「あぁ……」



 はやては部隊長なのに……



「私もビッグコンボイも、教導隊の方の要請で高ランククラス試験の相手務めるとしか聞いてへんのよ。
 で、リミッターも限定的に解除するから、それも許可してほしい言われて……」

「いや、それで……って、ムリか。今日試験受けるのは、恭文だけじゃないしな」

「何より、試験内容が漏れたら大変ですよ……なぎくんとなのはさんは身内ですし」

「……いや、それでも八神部隊長にも知られないように話を進めるって、どんな手使ったんだよ」

《主にもできる範疇かと。
 しかし……蒼凪氏の運のなさもここに極まりですね。これはあり得ませんよ》



 そこを言われると辛い。なのはは、絶対に加減しないだろうし。



「つか、ジュンイチのヤツはどうしたんだよ?
 八神部隊長はともかく、アイツの目をごまかすなんざ絶対ムリだと思うんだが」

「あぁ、ジュンイチくんなら仕事よ」



 そうサリエルさんに答えたのは、万蟲姫を連れて見学に来ているリンディさん……うん。もうツッコまない。万蟲姫、完全に敵対意識ゼロなんだもの。



 というか……ジュンイチさん、仕事……ですか? 今日が恭文の試験っていうのは知ってたはずなのに……



「アイツにしては珍しいわね。
 恭文にとって大事な日に仕事入れるなんて」

「たぶん、だけど……試験がらみの仕事なんじゃないかしら。
 だって、『試験自体は見てられそうだから大丈夫』って言ってたから。受けた依頼には真摯な子だもの。そんなジュンイチくんが仕事しながらでも試験を見守れるっていうことは……たぶん、そういうことだと思うの」



 私と同じことを思ったらしいライカさんに、リンディさんが答える……ということは、試験の後方支援みたいな仕事かな?

 ジュンイチさん、私達で作った“アレ”に関われなかったのをちょっと気にしてたから……何かしらの形で恭文の試験を手伝えれば、とか思ったのかも。







《ま、何にせよボーイ達とねーちゃんは楽しそうだけどな》

「なぎさん……ちょっと笑ってたしね」

「この状況でも、変わらないんだね……」

《変わるはずがありません。だからこそ、蒼凪氏とアルトアイゼンは強いのです。
 そしてそれは、となりのマスターコンボイ氏とオメガにも伝わりつつあります》



 サリさんの胸元の金剛の言葉には同意。うん、それがヤスフミらしいというかなんというか……







「ほんとにあのバトルマニアは……」

「ヴィータちゃん、心中察するに余りあるよ」

「いや、だからそう言いながら、私とシグナムさんを見るのはやめてくんないかなっ!?」

「私もヒロリス殿も普通だっ! それを言ったら、テスタロッサはどうなるっ!?」

「私はちゃんと状況を見てますっ! 一緒にしないでくださいっ!」



 ……まぁ、ここはいいよね。うん、気にしなきゃいけないのは……



「なぁ……」

「乱入しに行っちゃダメですからね、ブレードさん」

「チッ」



 ………………いや、ブレードさんじゃない。シャマルさんがうまく抑えてくれてるから、きっと大丈夫。





 それよりも……







「ヴィヴィオ」

「フェイトママ……」



 やっぱり、不安そう。いきなりだもんね、ヤスフミとなのはが、こんな形で戦うなんて。



 それに、ジュンイチさんもいないし……



「……ヴィヴィオ」

「大丈夫だよ。ヴィヴィオ、最後まで見てる。恭文達の応援するって、約束してるから」

「そっか。うん、なら……フェイトママと一緒に、最後まで見ようね」

「うんっ!」











 ……画面の中の状況は、まだ動かない。



 でも、緊迫感だけは加速度的に上がり続ける。







 ヤスフミ。ヤスフミは、私の騎士になりたいんだよね?







 なら、お願いだから……勝って。勝ち負けで答えを決めるつもりなんてない。でも、負けてほしくない。







 うん、このままアッサリ負けたりするのは……なしだよ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……これで、終わるかな」



 すぐに距離を充分に取り、警戒しながらもカートリッジをリロード。次に懐からカードを取り出しつつ、自然と出た言葉はそれだった。



《終わると思います?》



 カードに念じると、青い光が身体を包む。消費した体力と魔力が、それで回復する。

 ……そう、回復魔法のカード。新型のおかげで、今までよりも効果が高い。



「いや、ムリだろ」

《だよなぁ……》



 マスターコンボイとオメガの言葉には全面的に同意。



 まだ、向こうは札を切ってない。だから……まだだ。警戒は緩めちゃ







「……正解だよ」







 その声が聞こえた瞬間、二人して身体を桜色のリングにしばられた。



「でも、ちょっと甘い」



 ……バインドっ!?



「エクセリオン……!」



 カートリッジの排出音。それも、1発じゃない。そして、バカデカイ魔力反応。あぁ、やっぱりかっ!



「バスタァァァァァァァァァァッ!」











 爆煙を突き破り、撃ち込まれたのは先ほどよりも大きな砲撃。バインド解除……くそ、間に合わないっ! ならっ!

 左の手のひらに、カードを3枚出現させる。1枚……発動っ!







 僕の目の前に生まれたのは、ベルカ式のラウンドシールド。カードに入力していた術式。それが、僕らとエクセリオンを隔てる。







 でも……それだけだった。



 やっぱり、エクセリオンには耐えきれない。シールドがどんどんひび割れる。そして、壊れた。







 でも、時間は稼げた。



 アルト達のサポートもあって、僕らのバインド解除は完了。即座に左右に移動して、ギリギリだったけど回避できた。







 ……あんま高位のバインドじゃなくてよかった。くそ、僕らの魔力量を見越して、やっぱ一撃当てること重視で動いてるか。

 確かに、僕はエクセリオンなんて一発食らったら、一気に沈むしなぁ。

 それだけじゃない。大量の誘導弾も、バインドも、僕ら二人の苦手領域だ。射撃戦闘とロングレンジの火力なら、僕らはなのはには勝てないし。







 あー、知り合いってやっぱやり辛いっ! こっちの弱点丸見えじゃないのさっ!







 そして、僕は2枚目、3枚目のカードを投げる。それはなのはへと飛んでいき……発動。



 一定空間の水分を材料に、でかい氷が生まれた。



 リインの“フリーレン・フェッセルン”と原理は同じ魔法。でも、意味がなかった。だって、回避されたし。







 つか、手札切りやがった。さっきまでのミニスカニーソックスジャケットじゃない。なのはのバリアジャケットが、変わってる。



 つか、ロングスカートになってる。



 しかも、それだけじゃない。なのはの上半身を覆うように、竜を思わせる装飾が施され、背中に実体の翼を備えた鎧が装着されている。



 レイジングハートとセットじゃないと登場できないっていう弊害のせいでちっともセリフに恵まれないなのはの相棒、パワードデバイスのプリムラ、そのアーマーモードだ。



《出番の話しないでーっ! すっごく気にしてるのーっ!》



 本人の抗議は無視。同じ悩みを抱えてるヤツがおのれの他に何人いると思ってやがるか。







 とにかく、これが……なのはの本気。エクシードモード+フルアーマーっ!







 なのはがこちらへ突っ込んでくる。ショートバスターを撃ちながら、真っ直ぐに。







 それを回避しつつ……突っ込むっ!



 斬りかかろうとした瞬間、なのはの姿が眼前から消える。そして、後ろに気配。







《Icicle Cannon》







 振り返りつつも、僕の左手をその気配へとかざす。

 その行動中に聞こえるのは、カートリッジの排出音が1発。うん、向こうのだ。こっちはヒマがない。



 そして、近距離で互いの砲撃が衝突。その衝撃と爆風で、僕もなのはも吹き飛ばされた。



 でも、すぐに体勢を立て直す。そしてまた……突っ込むっ!

 爆風を突き破るようにして、アクセルが十数発飛んでくる。それを斬り払いながら……詠唱。



 そして、左手をかざして発動っ!







《Stinger Ray》







 1発じゃない、連続発射。手応え……あり。というか、お返しにまた砲撃が飛んできた。それを回避。







 そんな僕とは別に、マスターコンボイが上空からなのはを狙う――けど、そちらにはなのはの背中の翼から分離した小型のビット、スケイルフェザーが迎撃に向かう。







 マスターコンボイがスケイルフェザーを薙ぎ払う間に、カードを3枚、なのはにぶん投げる。そしてそれは真っ直ぐになのはへと飛んでいき……



 ちゅどーんっ!



 ……ウソ、アクセルとショートバスターで撃ち落としやがったっ!







「おのれは……! 人の個人資材になにしてくれてるっ!」







 怒りの余り、アクセル最大出力で加速。



 そうして、一瞬でなのはに肉迫。



 横薙ぎにアルトを振るい、斬りつける。







「だって、敵の攻撃に対処するのは当然でしょっ!?」



 なのはは、それをレイジングハートで受け止める。



「やかましいっ! ムダに魔力多くてムダに装甲厚くてムダに正月太りしてるんだから、全部受けとけっ!」

「何それっ! というか、正月太りなんてしてないよっ!」







 こんな会話をしつつも、攻防は続く。なのはがレイジングハートで僕の斬撃を何度も受け止めながら、後退する。

 でも……僕の方が踏み込みの速度は速い。簡単には逃がさない。







「太ってるでしょうがっ! 今だってお腹の辺りがプックリっ!
 ジュンイチさんお手製のおせち食べ過ぎて後で凹んでたってヴィヴィオから聞いたぞっ!
 それに、聞いたところによると体重計に乗るのが……」

「それを……」







 高速移動で一気に下がった。瞬間――真上からの斬撃が空を斬る。



 くそっ、マスターコンボイの奇襲、読まれてたっ! しかも……砲撃体勢っ!?







「言わないでよっ!」







 何かが撃ち込まれた……見えないけど。だから、それぞれの刃に魔力を込めて……それを、斬るっ!

 手応え、あり。斬られたものは、僕らの目の前で爆発する。そして……目の前に大量の魔力弾。それらが一気に襲ってきた。



 クレイモア……ムリっ! カートリッジを使って、しっかりと防ぐっ!







《Round Shield》







 現れたベルカ式魔法陣の盾が、マスターコンボイも一緒に守ってアクセル達の猛攻を防ぐ。



 だけど……



 それすらも飲み込んで、桜色の魔力がぶつかってきた。







「ブレイク……!」







 魔力の奔流の勢いが、さらに強くなる。そう、完全に向こうの策にハマった。



 動きを止めちゃいけないって、固まったらアウトって、わかっていたはずなのに……結局止められた。一ヶ所に固められた。



 そして渾身の砲撃――確実に一撃入れての各個撃破を狙ってると思ったらっ!



 てか、ヤバい。マジメにヤバい。



 ヤバい……シールド、もたないっ!







「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥットっ!」











 ……そして、シールドが破れ……爆発に 飲み込まれた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ちょっ、恭文!?」

「マスターコンボイさん!?」

「……届かへんかったか」

『……試験、終了』



 その声は万蟲姫、スバル、そしてはやて――映像の中で、なのはがどこか無機質な声でそう告げた。そう、終わったと。



『受験者は撃墜。これで』



 言葉がそこで止まった。それに、全員の目が画面に集まる。







『……驚いた。どうやって防いだの?』

『知ってる? 斬ろうと思って斬れないもんなんて……ないのよ。まぁ……』







 爆煙が晴れると……そこには、マスターコンボイとヤスフミがいた。でも……





「アイツら……ボロボロじゃない」

「あんななぎさん、初めて見た」



 そう、ヤスフミのジャケットはボロボロだった。上半身の青いジャンパーは吹き飛び、インナーも肩口が破けて、胸元が見える。

 ジーンズも煤汚れて、穴が空いてて……



 マスターコンボイも似たような感じだ。ヤスフミが守ってくれたおかげでダメージは少なそうだけど、やっぱり全身ボロボロだ。



『余波でボロボロだけどね。魔力の大半持ってかれたし』

『まったく……やってくれるな、貴様』

『……ギブアップするのも、選択だよ?』



 多分、それは教導官としての意見。負けを認めるのも、大事だと言いたいんだ。



 けど……なのはとして意見は、きっと違う。



『すると思う?』

『しないよね。うん、するワケがない。恭文くんもマスターコンボイも、あきらめ悪いもん』

『当然だ。
 10年前、貴様と命のやり取りまでしておいて、この程度で引くワケがないだろうが』



 だから、なのははかまえる。



『だから、徹底的にいくね……』





















『ブラスター1』





















 ……え?











『リミット、リリースっ!』











 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?







「ブラスターシステムっ!?」

「あのバカっ! ナニ考えてやがるっ!」

「……やりおった」

「すみません、使用できないように処理をしておくべきでした。というか……どうしよー!?」







 そのなのはの行動で、ヤスフミやマスターコンボイもそうだし見ている私達もあ然となった。







「えっと……なのはちゃんバカ? つか、リミッターとかどうなってるのっ!? いや、今さらだけどっ!」

「バカっ! 解除されてるんだよっ! おいおい、これは……」

「……なのはちゃん、何してるのかしら」



 あ、シャマルさんの視線が……



『……バカでしょっ! 本気でバカでしょっ!? つーか何やってるっ!』

『貴様、今のコンディションの原因が何か、実はわかってないだろ!?』

『うん、そうだね。
 でも……これが私の全力全開だから。二人が相手だもの、ちゃんとぶつかりたい。私達、ライバルで……命を取り合った仲、でしょ?』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……あぁ、そうだったね。僕達は結局」

「こういうのが、ピッタリなんだよ。こっちの方が楽しいし、わかり合える」

「前例があるだけに……否定できんな」

「でしょう?
 それに……恭文くん。私達……約束、してるよね」

「そーだね」






 ……どんな時でも、ありったけで、全力でぶつかり合って、それを受け止め合って、心を通わせていこう。そう、約束してる。







「……なのは」

「うん、馬鹿げてるよ。でも、ここで私のありったけをぶつけないのは、もっと馬鹿げてる。
 10年前の私達が、そうだったみたいにね」







 ……8年前、僕と初めて模擬戦した時に言ったセリフとまったく同じことを、なのははマスターコンボイに対して口にした。

 そういや、僕の時も復帰直後なのに、エクシード使ったんだっけ。







 そして……マスターコンボイとの戦いでも、二人はお互いのありったけをぶつけ合ってる。



 グランドブラックホールのド真ん中で、お互いの想いを、力を、そのすべてを尽くしてぶつかり合った。







 そう。なのはは言ってる。僕らの関係は、出会った時から変わらない。だから、出会った時と同じように……いや、それ以上に、全力全開で、ぶつかり合いたいと。







「私は、大事な友達との約束を、違えたくなんてない。だから……」

「仕方あるまい。
 恭文……」

「うん。わかってる。
 いいさ……受け止めてあげるよ」







 なのはの身体のことを考えるなら、止めるのが正解なんでしょ。でもね……それは世界や常識の正解であって、僕らの正解じゃない。

 僕達の……僕の正解は、目の前のバカに付き合うことだ。僕達、そういう付き合い方してんのよ。友達になった時から、ずっとね。







 そしてきっと……マスターコンボイもそれは同じ。命がけの大ゲンカの末につながった絆なんて、そんなものなのよ。







「それじゃあ、マスターコンボイ。
 そろそろ本当のクライマックス、見せてあげようか」

「もっと盛り上げてからでもいいと思うが、まぁ、かまわんか」

「恭文くん達だけじゃないよ。
 私だって……これからなんだから!」



 僕とマスターコンボイの言葉に、なのはも答えてレイジングハートをかまえる。







 そして、僕らはなのはに向けて突撃して――





















 僕らの間を、真紅の砲撃が貫いた。






















「ぅわっとぉっ!?」

「きゃあっ!?」

「何だ!?」







 危うく砲撃の中に突っ込みそうになりながら、なんとかそれだけは免れる――けど、何事っ!?







 何が起きたのかと砲撃の飛来した方へと視線を向けて――そんな僕らの前を影が駆け抜ける。







 そして――







「おのれは……っ!」







 なのはの手からレイジングハートが弾かれ、







「ブラスターを使うなと……」







 次いで、なのはの目に帯のような何かが巻きつけられて視界がさえぎられ、







「耳にタコができるほど……」







 そして、背後から両腕ごと抱きしめるようにガッチリとホールドされて、











「言われてんだろうがぁぁぁぁぁっ!」











「ふにゃあぁぁぁぁぁっ!?」











 高々度からの豪快なイズナドロップが、なのはを脳天から地面に叩き落とした。











「………………あー、えっと……」











 ………………うん。とりあえず、何が起きたのかは理解できた。







 だって……攻撃の過程で思いっきり説明してくれたから。







 要するに……ドクターストップがかかってる身でありながらブラスター使ったことに腹を立てて撃墜した……ってことでいいんですかね?





















 ジュンイチさん。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『……………………………………………………はい?』







 突然のことにとまどっているのはヤスフミ達だけじゃない。







 だって……正直、その一言しか出てこないから。



 目の前で起きたことに、私達みんな思考が停止していたから。







 えっと……つまり、これは……











『………………試験に乱入した上試験官ブッ飛ばしたぁぁぁぁぁっ!?』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「きゅぅ〜〜……」



 足元には、完全に目を回したなのはが倒れている――改めて立ち上がって、ジュンイチさんは身体についたほこりをパンパンとはたく。

 ふぅ、と息をついて……一言。







「………………みっしょんこんぷりーと」







「どこがだぁぁぁぁぁっ!」







 えぇ、アルトで思い切りぶった斬りましたとも。



 まぁ、もちろん非殺傷設定だけど……だからってあっさり起き上がらないでほしい。ちょっと自信なくすから。







「………………何すんだよ?」

「『何すんだよ?』じゃないわボケっ!
 何いきなりなのは撃墜してるっ!? こっちは思いっきり試験中だし、話もガッツリ盛り上がってきたところだったっていうのにっ!
 最近スバルのKYが感染してきたなー、とは思ってたけど、これはいくら何でもないでしょうがっ!?」

「ンなこと言われてもなぁ……」



 僕の苦情申し立てに対して、ジュンイチさんは困ったように頭をかきながら答えた。







「これが今回の仕事なんだからしょうがないだろ」







 ………………はい?



 それって、つまり……なのはをしばき倒すのが、ジュンイチさんの仕事ってこと? なんでそんなアホな仕事受けてんの、この人?



「えっと……どういうことでしょうか……?」

「だから……これが今回の仕事なんだって。
 なのはの後遺症、本来の職場である教導隊が考慮しないワケないでしょうが」

「あ………………」



 なるほど……なんとなく話が見えてきた。



「要するに……これは教導隊からの依頼。つまり試験を仕切ってるみなさんは了承済み。
 依頼内容はなのはがブラスターを使わないよう監視して……」

《万一使用した場合、撃墜してでも退場させろ……と?》

「そういうこと」



 後遺症の残るなのはを試験に駆り出すわ身内が相手でも容赦なくやらせるわ、教導隊ってムチャクチャやるなぁ、とは思ってたけど……それでも一応、何も考えてないワケじゃなかったのか。







 まぁ……考えてみれば、今回のなのはの起用だって仕方のない一面はある。



 なんと言っても管理局……というかミッド地上は現在“JS事件”のアレコレから組織内浄化の真っ只中。



 当然その結果叩けばほこりの出るような連中は放逐される。逆に言えば、その分人員に穴が開くワケで、その穴を埋める人材が必要となる。







 そうなると、その人材を用意する上で一番しわ寄せが行くのはどこか?



 考えるまでもない。人材を育成する職種、特に現場で人材育成を行う……つまり、なのは達教導隊だ。







 要するに、療養が必要ななのはを試験に引っ張り出さなければならないほど、「身内が相手だから試験官を交代させてください」なんてワガママを聞いていられないほど、今の教導隊は業務に追われてる。

 できることといえば……なのはがまたバカをやらかさないように祈ること……なんだけど、祈った程度でこの魔王が止まるワケがない。



 ならどうする? 答えは簡単。







 なのはがバカをやらかした際のストッパーを用意すること……これだ。







 ただ、それも問題がないワケがない。



 だって……この場合のストッパーというコトは、バカをやらかした、つまりブラスターを使ったなのはを止めなければならないのだから。



 だからジュンイチさんに依頼が来た……ブラスターを使ったなのはを止められるだけの実力があるから。“JS事件”でユニクロンをブッ飛ばした後の二人の戦いは、ある意味伝説になってるしね。







 OK。ジュンイチさんがどうしてこんな暴挙に出たのか、そこは理解できた。







 ただ……状況は何ひとつ解決していないけど。



「け、けど、これって試験どうなるのさ?
 ジュンイチさん、何か聞いてる?」

「まぁ、一応ね」



 ……ホッ。よかった。



 これで試験中止なんて言われたら、どうしようかと思っ



「オレとしては、なのはにブラスターが必要だと判断させたって時点で、じゅーぶんAAA+の資質はあると思うんだけどさ……それでもやっぱりちゃんと採点したいってことで……」











「一応、オレが補欠試験官リザーバーとして最後まで面倒見ろ、って」











 ………………ちっともよくなかったぁぁぁぁぁっ!











「ふざけんなボケっ!
 要するにそれ、ジュンイチさんをブッ飛ばせってことでしょうがっ!
 一気に難易度跳ね上がったわっ! なのはの相手をした方がはるかにマシだわっ!」

「なぁに、安心しろ」



 僕の抗議に、ジュンイチさんは笑いながら答えた……えっと、どういう意味かな?



 まさかなのはのレベルに合わせてリミッターかけてもらってる……とか? 試験官の強さが途中で変わっちゃう、なんてイレギュラーもいいトコだろうし……



「戦い方を見て合否を判定するんだから……」











「負けたって問題なければ合格だろう?」











 ……そんなことだろうと思ったよ、ちくしょうっ!







「そういえば、貴様には“JS事件”中に一捻りにされた借りをまだ返していなかったな……」

「ご希望とあらば二捻り目、いっとくか?」

「ふざけていられるのも今の内だぞ。
 オレがどれだけ強くなったか、思い知らせてやる」







 しかも相方はやる気マンマンだし……これじゃやるしかないじゃないか。







「恭文!」



「はいはい、わかりました。わかりましたよ。
 そんじゃ……いきますかっ!」







 やると決まった以上、まずは速攻。この人相手に先手なんか許したらその一手で一気に主導権を持っていかれる。



 と、いうワケで先手必勝。唐突に、一気に間合いを詰めて、思い切りアルトで斬りつける。



 対して、しっかり読んでいたジュンイチさんも爆天剣で受け止める――けど、あっさり流される。刃をかたむけて僕の一撃を受け流して、背後に回り込んでいたマスターコンボイの斬撃を力任せに弾き返す。



 さらにそのまま身体を一回転させて、再び僕に向き直って一撃。素早く燃焼させた左手の炎を、至近距離からぶちかましてくる――とりあえず、イヤな予感がして下がってたおかげで回避成功……だけどっ!



 瞬間、腹部に衝撃を受けてブッ飛ばされる――追いかけられて蹴り飛ばされたんだと、体勢を立て直したところでようやく気づく。



 さらに僕に追撃をかけようとするジュンイチさんに、マスターコンボイが襲いかかる。背後からの斬撃を冷静にかわすジュンイチさんだけど――







「それでかわしたと思ったか?」







 マスターコンボイがニヤリと笑うのが見えた。その手のオメガはこれでもかというくらいに刀身に魔力を込めていて――











「エナジー!」



《Vortex》











 マスターコンボイが返す刀で、零距離で放った砲撃が、ジュンイチさんを直撃する!



 普通の相手ならこれで終わる――んだけど、今回の相手はジュンイチさん。ぶっちゃけ言って普通じゃないんだ。これで終わるはずがない。



 と、いうワケでマスターコンボイが素早く後退して――後退するそのすぐ鼻先を、ジュンイチさんの斬撃がわずかにかすめた。







「マスターコンボイ!」



「問題ない! 魔力障壁をかすめただけだ!」







 僕に答えて、マスターコンボイは追撃してきたジュンイチさんの斬撃を受け止める。







《Elment-Install.
 “CYCLONE”》








 そのまま、オメガでエレメントカートリッジをロード。魔力の風を目前で無造作に炸裂させて、強引にジュンイチさんとの距離を取る。



 その間に僕が突っ込む。放つのは当然――これっ!







「鉄輝――」







 ジュンイチさん相手に余計な小細工なんか通じない。そういうのはむしろあの人の領分。さらに上を行かれてつぶされるのがオチだ。



 だから――真っ向勝負。一撃一撃を、必殺の勢いで叩き込むだけっ!







「一閃っ!」







 最大速力、そして全力で叩き込んだ一撃は――ジュンイチさんのすぐ脇の空間を斬り裂く。かわされた!



 後退もそのまま駆け抜けることも許されない。次の動きに移ろうとする僕よりも早く、ジュンイチさんの炎が解放されて――







「恭文っ!」







 瞬間、衝撃音と共にジュンイチさんの姿が僕の眼前から消える。



 マスターコンボイだ――僕を援護しようと飛び蹴り一発。ジュンイチさんをブッ飛ばしたのだ。







「ごめん、助かった」

「礼は後にしておけ。
 今のところ、完全に向こうのペースだ」







 答えて、マスターコンボイはオメガをかまえる――当然僕も。



 そして、マスターコンボイの蹴りで廃ビルのひとつに叩き込まれたジュンイチさんは――







「いてぇな、オイ」







 平然と姿を現してくれたりする……くそっ、相変わらず強さの面でもKYだよね、この人っ!







「でもないさ。
 少なくとも攻撃は当てられる……やりようならいくらでもある」

「まぁ、それはそうだけどね」



 マスターコンボイに答えて、ジュンイチさんに視線を戻す――けど、長期戦になりそうだなー。今の一発も大して効いてないっぽいし。



 とはいえ……マスターコンボイの言う通り攻めどころがないワケでもないのもまた事実。たとえば……



「あの男は、オレ達“身内”が相手では本気で戦えない。
 手抜きをされているようでいい気分はしないが……全開のヤツを相手にしないだけマシというものだ」



 そう……ジュンイチさんは、僕ら身内が相手だと本気で戦えない。

 “戦わない”じゃない、“戦えない”。身内を“守る”ことに固執するジュンイチさんは、身内が相手だと無意識下でブレーキがかかるらしい。

 つまり、今戦っているジュンイチさんは本当に本気のジュンイチさんじゃない。“ブレーキがかかった状態で”本気のジュンイチさん、ということだ。



「敵に対してフルパワーで戦うヤツの姿がイメージの中にあるから気後れするんだ。
 ヤツがフルパワーではない、その事実を忘れるな」

「わかってるよ」



 マスターコンボイの言葉にそう答えるけど――



「………………残念だったな」



 何やらニヤリと笑って、ジュンイチさんはそれを取り出した。



 ちょっと分厚い折りたたみ式携帯、といった感じの端末ツールだ。







 ………………あー、ちょっと待ってください、旦那。







 それが何なのか、よぉ〜く知ってるんですけど……まさか、使うつもり!?







「大正解」







 言って、ジュンイチさんは問題のツール“ブレインストーラー”を開いて、上下に並んだボタン、その上側のボタンを押し込む。



《Mode-Install.
 Standing by.》




 ブレインストーラーのモードが切り替わり――その中に込められた“力”が解放された。ジュンイチさんの周囲に集まり、渦を巻く。



 それに伴い、ジュンイチさんが身にまとっている“装重甲メタル・ブレスト”が少しだけ変化する――腰のベルトのバックル部分が形状変化を起こし、ブレインストーラーをセットするための接続部が作り出される。







「確かに身内相手じゃ、オレはフルパワーで戦えない。
 その不利を跳ね返すにはどうすればいいか……答えは簡単だ」







 言って――







「パワーをセーブしていても圧倒できるくらい、地力を引き上げればいい」





















「“精霊獣融合インストール”!」



《Install of OGRE!》





















 ベルトのくぼみにブレインストーラーをセットし、咆哮――その瞬間、ジュンイチさんの周囲で渦巻いていた“力”が燃焼。炎となってジュンイチさんの姿を覆い隠す。



 それは言ってみれば“炎の繭”――しばらく燃え盛った後、内側から一刀両断された。



 そして現れたジュンイチさんの“装重甲メタル・ブレスト”は……完全にその形を変えていた。



 白地に青を基調としていたカラーリングは赤中心に。装甲部分もより大型化して身体を守る面積が増えていて、デザインもより生物的な曲線を描いている。



 爆天剣も変化している。柄尻側にもまっすぐな刃が生まれて、メインの刃が直刀から湾刀へと変化。ジュンイチさんの身の丈ほどもあるツインソードへと姿を変える。











 そして――ジュンイチさんが名乗る。











「真紅の鬼龍“ウィング・オブ・ゴッド”オーグリッシュフォーム。
 with――」





















皇牙オーガ爆天剣・“鬼刃きば”!」






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あきゅろす。
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