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頂き物の小説
第46話「とある機動六課メンバーの年越しの風景」



「おーっす、チンク」



 そんな軽いノリと共に、柾木のヤツがマックスフリゲートに現れたのは、12月の28日……今年も残りわずか、大掃除もようやく終わって、みんなでのんびりし始めた、そんな時だった。

 しかし……相変わらずムダに高い回復力をしているな、貴様は。先日クリスマスパーティーをすっぽかして我々から制裁を受けてふくろだだきにされてから、まだ3日だぞ?



「ンなのいつものことじゃねぇか。
 それよりさ……チンク、年末の31日、予定空いてるか?」

「え………………?」



 突然そう問われ、頭の中で予定を確認する。

 と言っても、そんな記憶の中をひっくり返すような話でもない。管理局が今日御用納めで、明日から正月三が日にかけての6日間は年末年始特別休暇。更生プログラムもないし、年末くらいはのんびりすごそうとみんなで話していた……程度のことしかない。



「いや……特に何もないな」

「だったらさ……」











「31日、ちょっと付き合ってくれないか?」











「………………何?」



 待て。

 今、コイツはなんと言った?



 31日、私に、つ、つつつ……「付き合え」、だと……!?



 それはつまり、私と新年を……







「みんなも一緒にさ」







 …………………………そんなことだろうと思ったわっ!



「大丈夫だ。問題ない」

「………………?
 なんか、いきなり不機嫌になってないか?」



 なんで私が不機嫌になったことには気がついてその理由には絶対に気がつかないんだ、お前はっ!?



「……まぁ、いいや。
 じゃあ……みんなの予定も確認して、出られるメンツの分の外出申請、クイントさんに上げておくから」

「あぁ、申請なら自分達で……」

「のんびりしたいであろう年の瀬に、ムリ言って付き合ってもらうんだ。このくらいはやらせろ」



 そう言うと、柾木は私の額を指で軽くつついて他の姉妹達の元に向かう。子供扱いされているようで少し腹立たしくもあるが……距離感の近さを感じるこういった扱いは、正直嫌いじゃない。



 しかし……柾木と年越しを一緒に、か……







 みんなと一緒とはいえ……少しは、期待してもいいのか……?





















 そんなことを考えていた時期が、私にもありました。





















「………………確かに、今日の予定は元々空いていた」

「ん」

「貴様に誘われて、快諾したのも事実だ」

「ん」

「だがな……柾木」





















「年末の同人誌即売会の行列に連れてこられるなどとは聞いていないぞっ!」



「当たり前だ。言わなかったんだから」





















 だ、だまされたぁぁぁぁぁっ!











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第46話「とある機動六課メンバーの年越しの風景」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うぅ〜、寒いっスね〜」



 現在地、第108管理外世界・地球……東京ビッグサイト前に発生した行列の中。

 柾木のヤツをランブルで爆殺したかったが、人目がある上にここが管理外世界であることを理由に必死に自重。ここまで来た以上引き返すワケにもいかずにおとなしく列に並んでいる私のとなりで、ウェンディが寒さに身を震わせている……すでにかなりの厚着をしているというのに、情けない。



 ちなみに、メンバーは私と柾木、ウェンディの他はウーノを除く姉妹全員、それに……



「まぁ、アレだ。
 さっさと慣れなさい、アンタ達……それが一番手っ取り早い解決策だから」

「ジュンイチさんに関わって生きてく上で、ある種の通過儀礼のようなものですから……」

「ライカ殿もジーナ殿も、悟っているな……」



 まぁ、この二人は柾木とは古い付き合いだからな。ある意味慣れているんだろう



 そして……



「あぁ、いたいた。
 なのはさん、マグナさん、あそこです!」

「あ、ホントだ。
 ジュンイチさーん、みんなー!」

「遅くなってごめんね、みんな」



 口々に声を上げながら、ちょうど今合流してきたのが、ギンガになのは、マグナ殿に……



「うにゅ……」

「むにゃむにゃ……」



 ヴィヴィオとホクトもだ。それぞれなのはに、ギンガに背負われて未だ夢見心地、といったところか。



「まだのんびりしてても大丈夫だったのに……
 ガキどもにゃまだ早い時間だし、そもそも今から開場まで待ってたら絶対退屈するぞ、こいつら」

「で、でも、みんながこんな寒い中列に並んでるのに、私達だけ……」



 そこはさすがに父親役か。ヴィヴィオとホクトの頭をなでながら言う柾木だが、なのはも譲らない……とりあえず、二人が話しているとムカつくので口を挟むことにする。



「しかし……意外だな。
 貴様のことだから、アリシアやスバル達にも声をかけると思ったんだが」

「あぁ、アイツらなら……」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 第97管理外世界・地球・東京臨海副都心――



「フフフ……今年は人数も確保できたし、すでにサークル入場しているひよりんからのメールで中の情報はすでに万端!
 さぁて、いっぱい買いまくるぞー♪」

「ったく、わざわざ地球まで呼び出すから何かと思えば……買い物の手伝いって……しかも同人……」

「だってぇ、かがみ達は神社の手伝いで来れないって言うんだもん。
 これも貴重な経験と思って、楽しもうよ、ティアにゃん♪」

「いろんな意味で避けたい経験なんですけど!?
 あとティアにゃん言うなっ!」

「まぁまぁ、ティア。
 せっかく来たんだし、終わってからこなたがお礼に手料理作ってくれるって言ってるんだからさ♪」

「スバルも料理に釣られてんじゃないわよっ!
 ジェットガンナーもロードナックルも何とか言ってよ!」

「しかしランスター二等陸士、誘われた時に『手伝う』と言ってしまったのだ。その義理は果たさなければならないだろう」

「ねぇねぇ、ゲーム会社とかがブース出してるんでしょ?
 最新ゲームとか遊べないかなー♪」

《期待してよさそうだな》

「あー、もうっ! ジェットガンナーはともかくロードナックルは兄弟そろって役に立たないっ!
 マスターコンボイ! アンタは……」

「『敵を知り己を知れば百選危うからず』と言う。
 柾木ジュンイチに勝つためにも、ヤツの好みを知っておくことは悪くない」

「丸め込まれてるわよ、それ絶対っ!」

「だよねー。
 ティアにゃん達誘えっていうの、ジュンイチさんのアイデアだし」

「黒幕あの人かいっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ミッドチルダ・臨海地区――



「フフフ……待っていたよ、この時を!」

「毎度ながら、テンション高いっスねー、アリシアさん」

「またまた、そういうジンくんだって、楽しみなんじゃないの?」

「いやまぁ、そうなんですけどねぇ……」



「ここでダーリンが楽しみにしてるイベントをやるワケ?」

「えぇ、そうですよ。
 いいですか、レヴィアタン。あなたが目指すべきは18禁サークルの島。そこで後からこっそり現れるであろうジンをストーキングして、彼の買う同人誌から彼の好みのシチュエーションをリサーチするのですよ」

「合点承知よっ!」




「………………ヴェルヌスとレヴィアタンがついてきてることに、一抹の不安を感じるんですけど」

「まぁ、そこは気にしないでおこうか。
 というか……いい加減特定の人を決めてアリスさん達を安心させるためにも……むしろ喰われろ?」

「オレ見捨てられた!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「アイツら別世界担当っ!?」

「他の世界でもやってるのかよ、コレ!?」



 アリシアにはミッドチルダの方の指揮を任せてるし、スバル達には97世界の地球でこなたの指揮下に入ってもらった……そう話したところ、チンクとノーヴェがみんなを代表してビックリ。

 まったく……わかってないな。年末三日間は、全次元世界共通で燃えと萌えの祭典の日だよ?



「まぁ……さすがに非ヲタク組や興味ない組、予定の入ってる連中には声かけなかったけどな。
 好きでもないものを強制するつもりもないし……あ、言っとくけどティアナについてはこなたの独断だからな」

「いや、我々は……」

「更生プログラムのサブカルチャー教育」



 思わずツッコんでくるトーレ(盗み聞きしてたのバレバレなんだっつの)に答える――とりあえずそーゆー教育はやってるみたいだけど、“こっち方面”にはまだ手を出してなかったらしいから、手伝いに駆り出すついでに……と思った次第だ。











 ………………あわよくばナンバーズの中で今までそっち方面に無関心だった面々をこの機会に“染めて”しまおうとか、そんなことは考えてませんから。えぇ、考えてませんとも。







「………………ん?
 ねぇ、ジュンイチ」

「ん? どうした、ディエチ?」

「いや……今の話に、恭文の名前が挙がらなかったんだけど……」







 ………………

 …………

 ……







 ………………円陣っ!



「どう思う? みんな。
 ディエチのヤツ、恭文の名前なかったのに真っ先に気づきやがったぞ」

「んー、やっぱりフラグ立ってるんスかねー?
 前に『好みのタイプだ』って言われてたし」

「でも、恭文くん、フェイトちゃんといい感じなんだよ? それは……」

「ぅわぁ、修羅場発生へのカウントダウンかしらね? これは」

「いや、どっちかっつーと現地妻が増える前兆な気が……」




「あー、いや、そういうのじゃないから。
 ジュンイチと仲がいいのに、声かけてないのが不思議だっただけだから」



 上からオレ、ウェンディ、なのは、ドゥーエ、そしてまたオレ……全員で円陣を組んで話し合うオレ達に、ディエチがあわてて弁明の声を上げる――まぁ、あんまり引っ張っても面白味がなさそうなので、素直に答えてやることにする。



「別に、大したことじゃないよ。
 恭文は“用事の入ってる組”……ってことだよ」







 そう。いつもならミッドか自分達の世界の地球じもとの方に参加している恭文は今回は欠席。



 なんでも、今年はフェイトやエリキャロにそのパートナーズ、でもってイクトと年越しなんだとか。



 ……あ、シャープエッジとアイゼンアンカーは違うんだっけ。アイツらはアイツらで、今ごろはこなた達に捕まってるはずの弟どもと夕方あたりに合流して、兄弟そろって年越しって話だ。



 行方知れずの一番上、ブレインジャッカーがいれば正真正銘の全員集合だったんだろうけどな……今ごろどこで何やってんだか、あの風来坊め。







 それはともかく……そういうことなら、恭文達もみんなでくればいいのに……とか最初は思ったよ。

 けど、よく考えるといろんな意味でマズイのがわかったから、結局声をかけるのはやめたんだ。



 だって……三日目って18禁系の比率が一気に跳ね上がる日だからねー。抵抗がないワケじゃないとはいえそれなりに理解のある(誰の教育の賜物かはあえて言わない。つか言わなくてもわかるでしょ?)ナンバーズはともかく、恭文周りの人間を巻き込むワケにはいかない。

 言うまでもなくエリキャロにはまだ早いし、フェイトは熱暴走起こしそうだし、イクトに至っては……まぁ、どうなるかは容易に想像がつく。



 と、いうワケで、恭文は今回参加見送りとなったワケで……まぁ、しっかり“お使い”頼まれたけど。フェイト達でも大丈夫なようにNotエロなのをたっぷりと。

 つか、渡された買い物メモには予想通り特撮系サークル様の『電王』本新刊の名前がズラリ……よし、ここにはマグナに突撃してもらおう。アイツも『電王』好きだし。







 ……さて、「だったらお前も家族とのんびり過ごせよ」とか言われそうなので、一応弁明。

 いやね、オレだってできることならヴィヴィオやホクトとのんびり年越ししたいんだよ。特に今年はアイツらにとって初の年越しな上、同じく初体験だったクリスマスをすっぽかしてる分余計に。



 ただ……オレ達の仲間内で、新刊購入戦線の総指揮って、毎回オレが執ってるワケですよ。

 各世界の人気ジャンル、各サークルの新刊発行部数から来場者の傾向、入場者の会場内人数の推移までを細かくデータ化して、さらにこちらの要員の能力と照らし合わせて最適な動きをシミュレート、適時指示を飛ばして……その努力の甲斐あって、毎回オレ達は人気サークルの新刊を欠かすことなくゲットできてる。

 けど……それは逆に言えば“オレの不在が新刊ゲット率の低下に直結する”ということでもある。なので、いろんな意味でオレは抜けるワケにはいかないんだ。

 今年はナンバーズもいるし、ウーノあたりにその辺頼もうかと思ってたら、あんにゃろめ、グリフィスとイチャイチャしながら年越すんだと。ルキノとモメなきゃいいんだけど。



 そして何より……なのはのヤツが行きたがったんだ。

 正直、運動音痴のなのはは戦力外通知モノ。実際今まではやてやアリシア達からもお呼びがかかったことはなかったらしいんだけど……前々から恭文以下ヲタク組から話を聞いて興味があったらしい。

 ついでに、ゲーム系サークルも出るって聞いてゲーマーの血まで騒いだらしい。一応、オフィシャルもいるけどあくまで同人誌メインってことも、今日がエロ集中日ってことも説明したんだけどなー。

 で、ホクトとヴィヴィオは純粋にオレと一緒にいたがっての同行。とりあえずこの二人はエロ区画に近づけなきゃ大丈夫でしょ。中に入ったらオレは会場のすみで指揮所開設だから、二人をそばに置いておくことは十分に可能だ。

 まぁ、最悪でも某京都の花札屋の企業ブースに放り込んどけば問題あるまい。二人もポケモン好きだし……つか、オレのお下がりの初代シリーズをくれてやったら、二人してLV99伝説ポケモンオールスターズなんていう凶悪極まりないパーティー作り上げやがったし。

 もちろんボゴボコにされましたとも。あんなのどないせぇっちゅーねん。







 ………………あ、欠席と言えばはやてもアウト。



 言うまでもなくヴェロッサとの一件が原因――よほどまいってるのか、こっちは買い物メモすら渡されなかった。



 とりあえず……アイツの好きそうなのを見繕って、明日以降年始のあいさつを兼ねて土産に持ってくか。ついでに、年末年始休みの内に一度話しておきたいし。







 つか……恭也さん・シグナム・知佳さん夫妻といいクロノ・ヴィータ・エイミィ夫妻といい……あの家、異性関係のネタでシリアスにモメるの異様に多くねぇか?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……エリオ、キャロ、はい」



 となりに並んで野菜を切っていた今日の相棒に、できたものを渡す。

 二人が小皿に乗ったそれに箸をつけるのと同時に……



「ほい、フリードも」



 後ろでパタパタと飛んでいたフリードにも、同じものを渡す。



「……うん、美味しいっ!」

「ホントだ……
 なぎさん、これ何なの?」

「きゅくきゅくー♪」



 ……今僕が渡したのは、うちで余ってた高菜を、小麦粉で作った生地に包んで焼いたオヤキ。

 メインデイッシュじゃないけど、小腹が空いてしかたないであろうちびっ子用に用意していた。準備には、もう少しかかるしね。



「んじゃ……これは二人とフリードで食べていいから。作りながら、さっとつまんじゃって」

「え? でも、恭文……」

「これから食事だよ?」

「前もってなんか入れておくと、胃が拡張されて、いっぱい食べられるのよ」



 ま、限度はあるけど。

 とにかく、フライパンで丸く焼いて切り分けたそれの半分を、キッチンの脇に置いておく。当然、皿に乗せた上で。



「わかった。じゃあ、いただきます」

「きゅくー」



 作業を進めつつもオヤキに食いつく弟分、妹分を横目で見つつ、残りの半分を入れた皿を持って、リビングに入る。



「フェイト、イクトさん、ジャックプライム。これ食べて、出来上がるまでガマンして〜」



 リビングでは、コタツに入って……なんかくつろいでる3人がいた。ちょっとぐったりめで。

 コタツは、普段はTVの前にあるソファーをどかせて、そこに設置。いや、冬はやっぱこれでしょ。



「あ、ありがと、恭文ー」

「というか……ごめんね。任せちゃって」

「いーよ。3人は食料調達という重要任務をこなしてもらったし」



 うん、すごい量だけどね。

 イクトさんとジャックプライムが腕力にモノを言わせて大量に買い込んできたもんだから……床、抜けないよね?



「ま、落ち着くまでは僕とちびっこ達に任せといてよ。これ食べて、とっとと回復してて」

「なら、お言葉に甘えるね……というか、これは?」

「オヤキ……か?」

《イクトさん、正解です。
 余りもので作った……地球の郷土料理ですよ》



 3人とも、まず手に取って一口……どう?



「……これ、美味しいよっ! こう、複雑なんだけど、ピリッと辛くて」

「ふむ……やるな、蒼凪」

「中に入ってるのは……高菜?」

「フェイト、正解。てきとうだけど、けっこういけるでしょ」



 なんにしても、気にいってもらったようだ。うん、よかった。



 なんてやってると、時間が来た。僕はある方向を見る……あるのは、デカイ業務用の炊飯器。

 そう、買っちゃってた。うん、けっこういいのをね。



 台所で、リビングで、おいしそうにオヤキにかぶりつくみんなをよそに、僕は炊飯器へと向かう。で、フタを開けると……あぁ、綺麗に炊けてる。

 お釜の中にあるのは、一粒一粒が立って、輝いているお米達……美味しそう。見ているだけでお腹が空く。





《マスター、楽しそうですね》

「そう見える?」

《はい》

「そうだね、楽しいかな……うん、楽しいよ。すっごく」










 ちょこっと大変だけど、これがなかなか……ね。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……きっかけは、5日ほど前のフェイトさんの言葉だった。



 大晦日と元旦は、恭文の家で一緒に過ごさないかと、誘われた。







 最初はとまどった。だって、フェイトさんと恭文とイクト兄さん、3人の時間……多く作った方がいいと思ってたから。







 でも、恭文やイクト兄さんも『“家族”と一緒に過ごしたい』と笑顔で言ってくれて……僕もキャロも、それでOKした。



 シャープエッジとアイゼンアンカーは、自分達の“家族”……GLXナンバーと過ごすことになったけど。アイゼンアンカーはともかく、シャープエッジなんかキャロに平謝りだったし。







 そんなワケで、僕は……なんか作ってます。











「……お餅に、絹さや」

「エリオ、椎茸忘れないでね」

「うん」



 油揚げに、その三種類を入れる。それを……



「恭文、上手だね……」

「ま、先生が良かったしね」



 カンピョウっていう細長い食べ物で、十字にしばる。これで……いい?



「うん、上出来上出来」

「でも、これなに?」

「餅巾着って言ってね。これもお鍋の具だよ」



 そう教えてくれるジャックプライムだけど……それを聞いて、僕は疑問だった。だって、入れたらお餅がとろけそうだよ。



「だから、とろけない油揚げに入れるんだよ。ま、お餅はちょこっと出番は早いけど、ぜひ体験してほしくてね」

「特にこのおもちはおいしいよ。
 なんたって、ジュンイチさんがおすそ分けでくれたヤツだから。毎年実家でついてる手作りなんだって」

「そうなんだ……あ、だからおもちの形が不ぞろいなんだね」



 恭文が『ムチャクチャ美味しいから、楽しみにしてていいよ』と付け加えたのを聞きながら、僕も調理を続ける。

 えっと、カンピョウはキツめにしばる……っと。



「そうだよ。じゃないと、中身が飛び出しちゃうから……あ、エリオ」

「なに?」

「そんな力入れなくていいから。リラックスして」



 言われて気づく。思いっきり力が入っていたことに。なので……深呼吸して、高ぶってた気持ちを落ち着かせる。



「あはは……なんか、こういうの慣れなくて」

「……だったら、今の内に慣れとく?」



 え?



「たまにこうやってご飯一緒に作る? エリオ、もうすぐ思いっきりアウトドアなとこ行くんだし、料理できないのはアウトでしょ」

「え……でも、いいの?」



 ただでさえ色々あって、忙しい感じなのに。



「だから、たまにだよ。ま、それにだ」



 恭文が、作業の手を止めずに僕を見ながら、言葉を続ける。



「男の子同士だし、しっかりと交流していくのも……大事でしょ? 付き合いはこれからも続くんだし」

「……うんっ!」

「んじゃ、ちょいあれこれ話そうか。また緊張しないように、軽い話をね」

「そうだね。うん、そうしよう」

「じゃあ、その前に……」

「うん……」

「だね……」



 恭文の言葉にうなずいて、僕ら三人は同じ方へと視線を向ける。で……恭文が一言。



「……となりで『緊張しなくていい』って話をしてるのを……イクトさん、ちゃんと聞いてます?」

「しっ、仕方ないだろう!
 オレの腕力ではヘタに力を入れたら引きちぎってしまうぞ!?」

《つくづく力加減のできない人ですね、イクトさんも……》



 あ、あはは……イクト兄さん、がんばれー。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……現在、エリオくん以下男の子組はリビングのテーブルを使って仕込み中。私とフェイトさんはキッチンでお魚や貝類の仕込み中。

 保護隊にいた時に教えてもらったから、こういうのはお手の物。というか……











「……キャロ、本当に上手だね。私、負けてる」

「あの、そんなことないです。フェイトさんだってすごく手際いいですし」

「ありがと。まぁ、昔から切るのは得意なんだ……貝類の処理は苦手だけど」











 ……なんて話しながら、調理を進めていく。かなりの量だけど、飲食店勤務経験者のなぎさんとフェイトさん曰く『クリスマスイブの翠屋より楽』……とのこと。

 というか二人とも、あの時どこを見ていたの? 遠い目になってたし。







 でも、あっちは楽しそう。作業しながら、いろいろ話してるみたいです。











「そうだね。男の子同士だし、やっぱり波長が合うんだよ。あと……数の問題?」

「六課……というより、このコミュニティだと、男の子は少ないですしね。
 それになぎさん、私やエリオくんにも、年上とかそういうことを抜きで、友達として接してくれますから」



 ……ほんの二ヶ月前は、名前を聞いていただけなのに、今は……違う。

 うん、スバルさんやエリオくんじゃないけど、仲間で……友達。



「特にキャロは、そういう感情強いよね」

「え?」

「見てると、四人の中で一番遠慮がないから」

「そ、そんなことないですよっ!」







 ……この二ヶ月間、メールのやり取りも含めて交流してるから、こう……ついついなぎさんのヘタレな部分に目がいくように。



 だってなぎさん、ツッコミ所がイッパイなんだもん。







「でも、私はうれしいかな。ヤスフミが六課でキャロと友達にならなかったら、キャロのそういう遠慮のないところ、見れなかったかも知れないから」

「フェイトさん……」



 うぅ、いいのかなぁ。フェイトさんは、なんだかうれしそうだけど。



「私にも、そうしてくれても、いいんだけどなぁ」

「えぇっ!? だ、ダメですよっ!」

「どうして?」

「フェイトさんは、なぎさんと違ってヘタレじゃないですから」

「それもひどいね……」







 別に嫌いとかじゃない。ただ、反応がこう……おもしろくて。



 あ、もちろんそれだけじゃなくて……







「でも、ヤスフミはそういう部分だけじゃないよ?」

「わかってます。ちゃんと、お兄ちゃんなところもある。知ってます」



 メールでやり取りしてて、私が本当に下らないことで止まった時、なぎさん……絶対に笑ったりしないで、最後まで聞いてくれる。

 その上で、打開策を一緒に考えてくれる……うん、お兄ちゃんだ。その、少し頼りないけど。



「……うん、ならいいんだ。あ、カキは終わったよ」

「こっちも鰤と鱈、終わりました。あとは……」

「鳥のつくねだね。それじゃあ、向こうのみんながビックリするくらい美味しいの、作ろうね」

「はいっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……今回は、チゲ鍋である。いや、具がフリーダムだけど。







 スープも若干手抜きして、市販のものを使ってる。ま、旨みは具材からってことで。







 ……いや、6人と一匹だしね。しかもその内ひとりはビックバンだし、量を考えると、どうしてもこうなって……ま、そこはいい。







《……もうそろそろじゃないですか?》

「そうだね」



 下ごしらえが終了し、それを持ち寄ってコタツに集合。

 で、バカデカい鍋に火をかけて……なんやかんやで、具材投入からの時間を考えるとそろそろである。



 なので、フタを取ると……湯気と一緒に辛味を含んだ匂いが、部屋を支配した。



 つか……美味しそうっ!







「……恭文」

「言いたいことはわかるから、よだれを拭きなさい少年」



 ま、とにかく……だよね。

 僕が手を合わせると、フェイトもエリオもキャロも、そしてイクトさんやジャックプライムも手を合わせる……フリード、ムリして翼を合わせなくていいから。



「それでは、みなさんご一緒に……」



 せーのっ!



『いただきまーすっ!』

「きゅくー!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……ただいまー」



 即売会は……うん、圧勝だったと言っておこう。

 新刊ゲット的な意味でも……みんなのリアクション鑑賞的な意味でも。トーレなんか、(ノルマ達成後に)試しにエロ区画にさりげなく誘導しやがったら予想通りフリーズしやがったし。いい絵をありがとうございました。後で存分にからかってやる。







 ただ……チンクやらウェンディやらなのはやらギンガやらが“戦果”を前に真剣に悩んでたのが気になった。

 ハード系な18禁同人見て「こういうのが好きなのか」……とかつぶやいてたけど……あー、まさかアレがオレの好みだと思われてる?

 あの18禁系の“戦果”の大半……







 母さんからの注文だったんだけど。







 ……うん。後でまた会うし、その時にでも母さんにフォローを頼もう。余計なことバラされるかもしれんけど。具体的には実際のオレの好みのジャンルとか。







 とにかく……“戦果”をとりあえず家に持ち帰りたいからと一旦なのは達とは分かれた。なのは達もヴィヴィオに買ってやったプリキュアのギャグ本、隊舎に置きに向かったはずだし。



 そんな流れで、現自宅なアジトに帰ってきたオレだけど……







「あら、お帰り」

「お帰りなのじゃーっ!」







 出迎えたのは、現在進行形で居候中の二人……年末年始ぐらいは実家に帰りやがれ。特にすでにケンカの終息している某提督、アンタだよ。



 ただ……問題は二人の格好。







「あー……その格好は一体?」

「見てわからぬかえ?
 水着じゃっ!」

「どう? ジュンイチくん。似合うかしr





















 間。





















「冬真っ盛りに何トチ狂ってやがるかてめぇら」

「た、タメなしで砲撃撃ったわね!?」

「ご近所迷惑を考えるのじゃーっ!」



 やかましい。帰ってきていきなりツッコみどころ満載な出迎えられ方すれば、程度の差はあれ誰だって一撃かますわ。

 それと安心しろ、万蟲姫。『ご近所』と言ってもこのビルは丸ごとオレんちだし……周辺住民にしてみたって、この程度のことはすでに“日常”だっ!







 ……言い直そう。「耐えられないご近所様はすでに引越しという名の逃亡済みだっ!」と。







 そんなワケで、玄関から廊下、リビングを経て向こう側の外壁まで突き抜けた砲撃の破壊跡の中、いい感じに焼けている二人がそこにいて……



「……あー、やっぱりこうなったか」



 言いながら、リビング――射線の外からブイリュウが顔を出す。さすが長年の付き合い。このオチを予想した上で放置してやがったか。できればこの二人がボケ倒す前に止めてほしかった。



「いや、止めて聞く二人じゃないでしょ」

「まぁ、確かに。
 で? 何をまたそんな季節感ガン無視な格好してるワケ?」



 作者達のリアル季節に合わせたとでも言うつもりか? でも作者がこの話書いてるのだってまだ5月よ? どっちみち季節感ガン無視じゃボケ。



「そうじゃないわよ。
 ほら、例の旅行で着る水着……行く前にもう一度試着しておこうと思ってね」



 あー、アンタの家出の原因になったアレですか。そーいや旅行は年明けでしたっけ。恭文の試験の結果を見届けてから行くって言ってましたっけ。



 ………………でも、それだと万蟲姫までトチ狂う理由にはならん気が……って!?



「まさか、万蟲姫も連れてくつもりか!?」

「えぇ。
 話をしたら行きたがって……」

「わらわも海で泳ぎたいのじゃーっ!
 目指せっ! 今年こそ浮き輪卒業っ!」



 で、万蟲姫の水着を買いに行ったついでに、改めて自分の水着を試着……って話になったワケね。うん、納得した。



 ……にしても……




「………………クロノが最初崩れ落ちた理由がわかった気がする」



 また際どい水着選んだなー。当然のように露出は多くて……しかしそれでいてロコツ過ぎない。ギリギリのラインを絶妙な感じで保ってる。

 それでなくてもリンディさん、元々美人な上にスタイル抜群なんだから、その上こんな水着なんぞ着れば……ねぇ?



 そりゃ母親がこんな水着着てたらいろんな意味で居づらいわマヂで。クロノの場合結婚してるから余計に。旅先でエイミィとヴィータに殺されるんじゃねぇか? アイツ。



「ウフフ……ありがと。
 あ、ひょっとしてジュンイチくんもグッと来ちゃった?」

「む………………」



 ………………まぁ、オレだってオトコノコなワケで。これで無反応だったらむしろヤバイだろ。



 ただ……ね。



「安心しろ。ちゃんと自制するから。
 守らなきゃならない身内を相手にそんなマネできるか……って、アレ? リンディさん、どうして崩れ落ちるんだよ!?」

「………………いい加減もげればいいと思うのじゃ、お主は」

「だよねー」



 万蟲姫とブイリュウにまで呆れられた……え? なんで? どうして?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 出来上がった鍋は実に最高の味でした。

 まぁ、みんなで作った鍋だもの。実際の味以上に思い出っていう最高の調味料がこれでもかってくらいに入ってるんだから、これでおいしくならないワケがない。

 みんな、ノンストップでハシが進んで……大量に買い込んだ具材が、見事に僕達の胃袋へと消えた。





 なので……











「……やっぱり、締めはおじやでしょ」



 炊いておいたご飯を投入。それをかき混ぜて、鍋の残りスープに混ぜる。

 で、いい感じでほぐれたところに……上から溶き卵を、全体的にかける。あとはフタをして、弱火でちょっと煮ればOKである。



「……楽しみだね。今日はいっぱい具材使ったから」



 フェイトが普段と違って興奮気味に言うのもムリはない……そうとう美味くなる予感がする。



「……でも、こういうのいいな」



 ふと、つぶやいたのはキャロだった。そして……



「そうだね。こう……“家族”……だよね。
 一緒にご飯を作って、一緒に食べて……」

「……二人がそう思ってくれるなら、私はうれしいな。
 その、私……二人の保護者で、隊長なのに、あまり一緒にいられないから」

「いえ、そんなことないですっ!」

「私もエリオくんも、大丈夫ですからっ!」

「でも……」







 ……気遣いすぎと心配性か。僕が入るスキ、ないように感じるのはどうして?



 チラリとイクトさんに視線を向けると、苦笑まじりに肩をすくめられた……あきらめ入ってるね。もしかして僕が六課に来る前からこんな感じ?







 そんな事を思いながら、親子のコミュニケーションに突入しだした3人はそれとして、鍋に視線を向ける。











 ……今年も終わりか。でも……問題は山積みだよなぁ。特にあの二人だよ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……さすがに放置なんてできなかった。なので……25日の翌日。復活したはやてと少し話した。







「……まぁ、アレだよ。ヴェロッサさんがどういうつもりだったか、確認しといた方がいいよ」

「いや、それはえぇよ。私……気にしてへんから」

「思い切りしてるでしょうが。
 ジンだっておかしいと思って聞きに来たんでしょう? それに……ここだけの話、師匠達も気づき始めてる」



 それとなく聞かれたさ。トボけるしかなかったけど。

 原因は、イブの二日酔い。その前後のはやての様子がおかしかったから。



 フェイトの執務官試験合格の報せで持ち直したと思ったけど、過ぎてしまえば元通り……つまり、今もおかしいのよ。



「でもな、ロッサには……気にするなって言うてるし」

「……あのね、ヴェロッサさんは関係ないよ。ま、重要要素ではあるけど」



 はやての目を真っ直ぐに見つめる。その先にある瞳に、不安の色が映っているのは、気のせいじゃない。



「今、重要なのは……はやてがどう思ってるかじゃないかな。後悔、してる?」

「……わからんのよ」

「……なら、まずはそこでしょ」



 わかんないのに『気にするな』とか言っちゃダメでしょうが。



 そうやって、納得しないまま振り切ろうとしてるから、こうして話がややこしくなってるんでしょうが。まったく……



「はやては、今回の一件を自分がどう思ってるかわからない。
 後悔してるとも、受け入れられるとも」

「……そうや」

「まず、そこをハッキリさせよう? じゃないと、ずっと引きずるよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……一応はうなずいてくれたけど、微妙だなぁ。というか、時間がかかりそうだ。







 ま、しゃあないか。答えを出すのは、はやてとヴェロッサさんだしね。

 僕ができるのは、あくまでもでき得る限りちゃんとした形で、その答えが出るようにすること。







 ……うん、焦れったくもあるけど、そこは……ね。







 あとはヴェロッサさんだけど……どうしよう。はやてから聞いたけど、しばらく連絡取ってないっていうし。いきなり僕から話してもなぁ……











《マスター》

「あ、もう?」

《はい》











 ……僕は、アルトの声に思考を現実へと引き戻す。料理はタイミングが大事。期を逃してはいけないのだ。



 とにかく火を止め、鍋のフタを開ける。



「………………わぁ」

「ほぉ…………」

「ふぇえ……」



 そして僕の、そしてイクトさんやジャックプライムの口からもれたのはため息。だって、そこにあるのは……芸術だから。







 スープの赤。卵の金色。お米の白。それが、グツグツを煮詰まり、ひとつの形になることで、満腹に近い腹に食欲を戻してくれる。







「はいはい、3人ともこっち見て」



 お話中だった3人の視線が、僕へ向く……訂正、鍋を開けたとたんに、もう向いてた。



「……話は、これを食べてからでいいと思わない?」







 当然、その言葉に異を唱える人間はいなかった。なので、僕も小ばちにおじやをよそっていく。もちろんフリードの分も。



 そして、全員同時に口に入れる。





『ふわぁ……』

「きゅく……」











 もう、ため息しか出なかった。お肉にお魚、貝にキノコに野菜の旨みが残ったスープ。それで作ったおじやだ。美味しくないワケがなかった。



 そうして、全員そろってほぼ無言で、おじやを完食した。なので……







『ごちそうさまでした……』

「きゅくきゅく……」







 この一言が出てくるワケである。



《お粗末さまでした》

「……アルト、どうしてそれをあなたが言ってる?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なんか、グダーっとしてるの……いいね」

『そうだね……』

《……マスターに感化されてますよ?》

「きゅく……」







 全員で後片づけを済ませた後、そろってコタツの中でゆったりしてた。というか……







「フリードが頭の上にいても、気にならないから、不思議だよね」

「きゅく……♪」

「フリード、なぎさんの頭の上、本当に気に入ったみたい。すごく安心するって言ってるよ」

《……帰巣本能でしょうか》



 ……ま、いいか。今、それを気にしてもつまんない。あと、帰巣本能は違うと思う。



「……来年も、こうして過ごせたら……いいですよね」

「うん、そうだね。こういう時間、絶対に持ちたい」

「できるでしょ。一年に一回のことって考えればさ……でも」



 全員の視線が僕に集まる。ちとそれにビビったりしつつ、言葉を続ける。



「僕……いても大丈夫?」







 ポコッ! コツンッ! ゴスッ! ビシッ! ガンッ!







「い、いひゃい……つーかいきなりなにするっ!? グーと刀の鞘が飛んできたんですけどっ!」

「……ヤスフミが寂しいこと言うからだよ」

「そうだよっ! 恭文だって、僕達の家族だよ? 前に言ったよね」

「……なぎさんも、絶対に参加だよ? というか、会場はなぎさんの家だから」

「こう言ってくれるフェイト達の気持ちを無下にするつもりなのかな?」

「と、いうワケで異論は認めん」



 みんな……なお、殴った順にしゃべってます。



「きゅくー!」

「あの、フリードっ!? 痛いから噛まないでー!」

《フリードさん、怒ってますよ? どうしますか、マスター》

「わかったっ! 僕も参加するから、落ち着いてー!」



 ……そんな風に、慌てて、フェイトとエリオ達が僕の様子を見て笑っている間に、年が変わった。



 知らせたのは、付けっぱだったTVの時報。全員の視線がそこに集まる……あの、みんなに殴られて、フリードに頭噛まれながら年越しって……





《ま、らしいでしょ》

「らしくないからっ! というか、みんなも笑うなー!」



 なにやら腹を抱えて笑うみんなに、初ツッコミ。というか、こんな年越しイヤだっ! お願いだから時間よ戻ってー!



「……ヤスフミ」

「なに? というか、その涙目やめてっ!?」

「今年もよろしくね」

「……うん、よろしく」



 ……ズルい。いきなりニッコリ微笑んで言うんだもん。僕、何も言えないじゃないのさ。



「僕らもよろしくっ!」

「まぁ、今年も一年、よろしく頼む」

「ういうい」



 そしてジャックプライムやイクトさんときて、



「なぎさん」

「恭文」

『今年もよろしくねっ!』

「きゅくー!」

「うん、二人もよろしく。フリードもね」



 締めはエリキャロ。頭の上のチビ竜をなでつつ応える……で、忘れちゃいけないね。



「アルト」

《はい》

「今年もよろしくね」

《はい、よろしくお願いします。マスター》











 ……こうして、激動の年・新暦75年は終わりを告げた。







 今は、新暦76年の1月1日。新しい一年の始まりである。











「……さて、最初のあいさつと、なぎさんのおかげで初笑いも済ませたし」

「ちょっとっ!?」

「これからどうします? やっぱり……」

「……うん。予定通り、ゲーム大会しちゃおうか。ヤスフミ、準備できてるよね?」



 いや、できてるにはできてるけど……



「フェイト、知ってる? 桃鉄ってね……信頼関係壊すよ?」

《そんなのは、あなたとはやてさんと高町教導官とヒロさんとサリさんだけですよ》











 だって……みんな平気な顔して、エグい妨害を……ヤツら、コントローラーを持つと、人格が変わるどころか恐ろしくなるのよ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………ねぇ、リンディ」



 マックスフリゲートにみんなが集まって、ナカジマ家、柾木家、ナンバーズ合同の年越しパーティー。

 年越しのカウントダウンも終わってひと段落した頃、クイントが話しかけてきた……うん、プライベートでは呼び捨てで呼び合うくらいには仲良しなのよ、私達。



 子供達はゲーム大会で盛り上がってる……けど、知ってる? スマブラも桃鉄と同じくらい信頼関係壊すわよ? タッグマッチルールならともかく、バトルロイヤルルールだと袋叩きか共闘かはたまた裏切りか……になるんだから。

 あと、なのはさん。さりげに一位独占するのはそのくらいにした方がいいわよ? ジュンイチくんを筆頭に、周りがコソコソ集中攻撃の相談始めてるから。



 それで……クイントは何?



「いや……彼、試験もうすぐだと思って」



 誰のことを言っているかはすぐにわかった。



 うちの子と、最近できた彼の新しい友達なコンボイだ。



 二人で年明けにランクアップ試験が控えてる……受験番号がとなり合ってたから、ツーマンセルな試験内容なら、たぶん組むことになる。



 まったく……フェイトさんの執務官試験が無事終わったって言うのに、気の休まるヒマもないわね。







 まぁ、そういうのを抜きにしても……なんというか、感慨深いし、ドキドキしてる。一応、あの子の親ですから。







「……大丈夫なの?」

「大丈夫よ。六課でそうとう鍛えられてるんだし」



 まさか、あの人のお弟子さん二人と付き合いを持っていたとは思わなかったけどね。でも、そのおかげで……



「いや、そういう意味じゃなくて……」

「え?」

「聞いたわよ。
 彼……そうとう運が悪いらしいじゃないのよ」



 その一言で、心の中がざわつき始めた。というか、嵐が起こり始めた。



「嘱託の認定試験の時だって、フェイトさんを相手に、魔導師をやめるやめないなんて話に発展したそうじゃない。
 それに……」

「……クイント、試験内容って、どうやって決まるんだったかしら?」

「基本的にはランダムね。
 でも確か……オーバーSクラスとの模擬戦、なんてのもあったわ。オーバーSなら、AAA候補のツーマンセルくらいは余裕だもの」



 実際、私達が受けた時もそれでさんざんな目にあった……とクイントは肩をすくめてみせる。どこか瞳が死んでるように見えるのは、きっと気のせいじゃない。



「……間違いなく来るわね」

「えぇ…………」










 ……とか話していた私達だったけど……甘かった。











 そう。あの子の運の悪さを、私達は甘く見ていた。











 1月10日……その日の試験が、管理局史上まれに見るカオスな展開を迎えることを……











 私達は、まだ知らずにいた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……時刻は、午前5時前後。僕達は初日の出を見るために、海が見える場所……というか、マンションの屋上に移動した。

 うちのベランダだと、見えるのはミッド地上の中央本部側……陸の方だ。海沿いは死角である。でも、ここなら水平線が一望出来る。







 でも……さ。うん、でも……さ。











「負債……億どころか……兆……」

「ゴメン。僕、見てておもしろかった……」

「おもしろくないからねアレっ! つーかどんだけやってもボンビー憑きっぱなしってどういうことっ!?」

「まさかオレが勝つとは思わなかった……」

「というか……イクトさんがコントローラ握ってゲームがイカレなかったことの方が奇跡だねー。
 もしかして……恭文の不幸発動? 恭文に負けさせるために、イクトさんの機械音痴が抑え込まれたとか」

「それもイヤなんだけどっ!?」



 いや、負けた原因などわかってるけど。すべての原因は、さりげなく一位取りまくって、カードで妨害仕掛けてきた小さい悪魔だ。

 そう、ヤツはコントローラーを持った途端に本性を出してきた。く、やっぱりはらぐ



「なぎさん、勝負は非情なんだよ? あと、私は腹黒くないからっ!」

「どうして思考を読めるっ!?」

「まぁまぁ……みんなで楽しめたんだし、いいんだよ」

「きゅくー」







 ……まぁ、楽しかった。ボンビーとずっと一緒だったけど、ワイワイ言いながらゲームするのは、やっぱり楽しい。

 でも、新年一発目でアレはイヤなんだよっ! 先行き不安過ぎるでしょうがっ!



 とにかく、次は絶対に勝とう。特にキャロだ。本気でつぶす。







「返り討ちにするね」

「だからどうして思考がわかるっ!?」

《わかりやすいんですよ。というか、マスター》



 何?



《……そろそろです》

「あ、もうそんな時間?」

《はい……来ました》



 アルトの言葉に合わせるように、水平線から……昇ってくる。黄金色の光が。それによって、辺りの闇が光によってその姿を消していく。

 今日は天候がいいから、くっきり見える。それが、うれしかったり。



 そうして、僕達四人と頭の上の一匹は、言葉なく、静かに、しばらくの間……それを見つめていた。







「……綺麗」







 静寂を破るようにつぶやいたのは、エリオだった。みんな、その言葉に同意する。声やアクションはないけど、それでも……わかる。



 今、僕達は全員、気持ちをひとつにしているんだと。



 そしてそれは、日が昇りきるまで……ずっと続いてた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なんか、いっぱい食べて、いっぱい遊んじゃったね」

「そうだね。でも……いい夢見れそう」







 話は一気に跳んで、時刻はすでに元旦の夜。というか、お休みの時間である。なので、全員パジャマ。







 あの後、羽根突きしたり……真っ黒になったけど。



 お汁粉食べたり……エリオがすごい量食べて、あっという間に鍋が空になったけど。



 書き初めしたり……どういうワケか『糖分』って書いたら、みんなからブーイングだったけど。というか、またフリードに頭かじられた。



 だって、銀さん好きなんだもん。あれ欲しかったんだもん。なお、『チャーハン』もダメでした。







《昨日と今日遊び倒したワケですし、休み明けからは頑張らないといけませんね》

「そうだね……」



 試験、もうすぐだしね。うん、しっかりやろう。アレらももうすぐ完成だしね。慣熱訓練もしっかりやんないと。



「……それじゃあ、電気消すね」



 黄色いパジャマ姿のフェイトが皆にそう言って、リビングの電気を消す。

 そして僕達は、川の字……いや、むしろ州の字? とにかく、並べた布団に入る。



「じゃあ……みんなおやすみ」

『おやすみ……』

《みなさん、良い初夢を》

「くきゅー」











 ……なんか、いいな。







 うん、家族……だよね。ハラオウン家で暮らすようになってからも感じてたけど、今感じてる気持ちは、それより少しだけ違って、強い。







 自分の家族……か。その、今まではあんまり興味なかった。だけど……











 そういうのも、悪くないかも知れない。





















(第47話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ:恭文の『糖分』は没になりました。ではこの人は……?







「………………ジュンイチくん」

「はい?」

「いや、あの……
 本気でそれ、飾るつもりかえ?」

「おかしい?」

「いや、おかしいっていうか……」



 リンディさんも、万蟲姫も、ブイリュウも、なんつーか表情が微妙だ。



 で、そんな3人が見てるのは、オレがこれから飾ろうとしている額縁。



 中には今年一発目に書いた書き初めが収められてる……暦的には1月2日に書くものらしいけど、明日は地球に初詣の予定だから、前倒しで今日書いたんだ。



 それを、フリーランスの方の仕事で依頼人クライアントとの面会とかに使ってる事務所スペースに決意表明みたいな感じで飾ろうと思ったんだけど……そんなに変かな?



「いや、ジュンイチくんの仕事を考えると、その書き初めを飾るのは……」

「間違いなく、今後の依頼の内容が偏ると思うのじゃ」

「うんうん」

「そうかな……?」



 三人のこれまた微妙なリアクションに、もう一度書き初めに視線を落とす。



 自画自賛になっちゃうけど、けっこうきれいな字で書けたと思うんだけどなー……











 『見敵必殺・完全殲滅』って。





















(本当におしまい)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

ウェンディ「恭文ーっ! お年玉ちょーだいっス!」

恭文「新年早々何ボケてんのさ!?
 ジュンイチさんとか他の大人組からもらったんじゃないの!?」

ウェンディ「………………ジュンイチに」

恭文「はい?」

ウェンディ「“お年玉争奪羽つき大会”で総取りされたっス」

恭文「何やってんのあの人っ!?」





第47話「ハリキリ、とびきり、ぶっちぎりな、明日をつかむダブル・クライマックス」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《えー、特に事件も何もなく、ごくごく平穏な年越しで……その結果必然的に我がバトルバカなボスの出番が激減してしまった第46話です》

Mコンボイ「待て! 出番については全面的に同意だが、今のオレの評価には異論を唱えるぞっ!」

オメガ《前回経緯的には巻き込まれ系だったクセして結局ノリノリでバトった人に否定する権利があるとお思いですか?》

Mコンボイ「む………………」

オメガ《それに次回はいよいよAAAランク試験。
 本家『とまと』の流れを考えると……》

Mコンボイ「………………オレが悪かった」

オメガ《わかればいいんですよ。
 いやはや、最近はボスもすっかりミスタ・恭文やミスタ・ジュンイチに毒されて……いや、ネタ的にはいいことなんでしょうけど》

Mコンボイ「否定したいのに何も言えないオレがいる……」

オメガ《いい加減あきらめてバカキャラ化してもいい頃合だと思うんですけどねぇ……まぁ、そこで転落せずに懸命にあがく姿がまた味なワケですけど。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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