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頂き物の小説
第45話「とある執務官志望の正念場、とある大帝達の対峙」



「フェイト……準備は大丈夫?
 忘れ物とかない?」

「筆記具は向こうの貸し出しだったな?
 こちらから持っていくものはわかっているな?」

「うん。大丈夫。
 受験の辞令も、IDもちゃんとある」



 うん。そうだね。僕とイクトさんも一緒になって確認して、バッグ中に入れるのを見届けた。



 けど……それでもたまに心配になるのよ。フェイトって、たまにドジっ子スキル発動するから。



「そ、そんなことないよ!
 うん、ちゃんとしてるから!」

《先月の旅行の際ホテルのカードキーを紛失した人がそれを言いますか?》

「………………ゴメン」



 別に追い討ちをかけたいワケじゃないけど……そういう“前例”があるから、やっぱり心配なんだ。



 何もなければこのまま試験会場までついていきたいくらいに。



「さすがにそこまでしなくても大丈夫だよ。
 というか、そこまでされたら、むしろ恐縮というか、余計にプレッシャーになっちゃうというか……」







 えー、クリスマス本番から一夜が明けて、今日はいよいよフェイトの執務官試験の日。



 試験会場が本局ってことで、転送とかの都合上フェイトは朝早くから出発しなくちゃならない。なので……昨日のミニデートの後そのまま隊舎にお泊りして、こうして見送ることにした。



 繰り返しになるけど……フェイト、たまにすごいドジっ子に化けるから、事前の確認は念入りにやっとかないと不安でしょうがないんだ。







 けど……まぁ、この様子なら今回は大丈夫かな? あまり緊張とかもしてないっぽいし……いや、フェイトの場合今大丈夫だからって安心はできないか。



 あー、やっぱり心配だ。冗談抜きでついて行こうか。







「でも、ヤスフミだって仕事や試験に向けての訓練、あるんだし……フレイホークさん達のこと、ちゃんとフォローしてあげないと……」

「ん。わかってる」







 んー、それもあるんだよなー。







 前々から話に挙がってた、惑星ガイアからの見学ツアーご一行――僕の友達のジンが引率を任されたその一団が、ついに昨日六課にやってきた。



 時間的に夜遅くなっちゃったんで、昨夜の自己紹介は軽く済ませただけだったけど……あっちもあっちで頭が痛いよ。ジンの周り、なんかキャラ濃そうなのが増えてるんだもん。



「キャラの濃さを貴様が言うか……? 貴様も十分濃いだろうに」

《いえ、イクトさん、あなたもですよ》

「オレもか!?」











「あー! よかった! まだいたーっ!」











 突然上がった声に振り向く――と、こっちに向かってくるのはフェイトのそっくりさん。ただし、フェイトに比べていろんな意味でちっこいけど。



「大きなお世話だよっ!」

「だって事実じゃないのさ。
 つか、まだみんな寝てる時間なんだから、声のボリューム落とそうよ、アリシアさんや」



 そう。フェイトのお姉ちゃん、アリシアだ。



 つか、最近出番なかったけど……さすがに妹の正念場ともなれば出てくるか。



「出番の話はしないでっ!
 ……っと、そういう話をしに来たんじゃないんだ。
 …………はい、フェイト」



 言って、アリシアがフェイトに差し出したのは、ポケットに収まるくらいの包み……何これ?



「アリシア、これは……?」

「ふふん。これさえあれば筆記試験は楽勝だよっ!
 アリシアお姉ちゃん特製カンニンググッz



 その瞬間、アリシアがぶっ飛んだ……いや、僕とイクトさんが蹴飛ばしたからなんだけど。



「ひっどぉいっ!
 恭文はともかく、イクトさんまで蹴るなんてっ!」

「やかましいわっ!
 おのれはフェイトにナニ渡してるっ!?」

「テスタロッサを不合格にしたいのか、貴様はっ!」



 あー、もう、頭痛い。

 久々に出てきてやることがコレかい。アリシアもたいがいジュンイチさんに染まってるしなー。



「うぅっ、ただの冗談なのに……
 とにかく、フェイト、開けてみて」

「う、うん……」



 気を取り直したアリシアに促されて、フェイトが包みを開ける。そこに入っていたのは……



「………………お守り?」

「うん。
 学業成就のね」



 あ、ホントだ。地球の太宰府天満宮……学業の神様のお守りだ。

 他には聖王教会のアミュレットも……え? これも学業成就? 聖王教会、こんなのも作ってるの?



 それ以外にもけっこうな数、しかも全部学業成就……フェイトのためにこんなに集めてきてくれたんだ。







 ………………ちょっと意外。「お約束」とか言って安産祈願とか恋愛成就とか混ぜてくるかと思ったけど。







「いや、さすがにそのネタはねー……この大事なタイミングでフェイトの頭を熱暴走させられないでしょ」



 ………………納得した。フェイトは「そんなことないよ!」とか騒いでるけど……納得した。







「がんばってね、フェイト」

「うん。
 ありがとう、アリシア……がんばってくるね」







 ともかく……ちょっとひねくれた渡し方をされたお守りを手に、フェイトは出発していった。







「………………行くぞ、蒼凪」

「うん……」



 イクトさんに促されて、僕らは隊舎に戻る……うー、やっぱり心配だ。



「大丈夫だよ、恭文」



 そんな僕の頭をポンポンと叩いて答えるのはアリシアだ。



「フェイトだったら絶対合格できる。
 なんたって、あたしの妹だもん♪」

「んー、だといいけど……」

「それに……あたし達にだって、できることはあるよ?」



 ……なんか、アリシアが言うとイヤな予感しかしないんだけど。



《まさか、カンニングの手助けでもするつもりですか?》

「うん、アレは単なるジョークだから、そのネタから離れようかっ!
 それでなくても、地球で携帯電話を使った新しいカンニングの手口が出てきて時節的に厳しいネタなのにっ!」



 アルトの言葉に悲鳴に近い勢いでツッコんでくる……いや、だから時間早いんだから声のボリューム落とそうよ。



「あ、ごめん……
 で、あたし達にできることっていうのは単純明快。
 フェイトに、心配をかけないことだよ」



 ………………そうだね。

 フェイト、ちょっとでも思考にダウナー入るととたんに崩れるところがあるから……自分でも自覚して、なんとかしようってがんばってるけど、それが今日までに改善されたかと聞かれれば答えはノーだ。



 そんなフェイトが実力を出し切るには……心配事を持たせないこと。これが一番だ。



「そういうこと。
 今日一日、あたし達で六課の平和を守るんだよっ!」

《ミッドの平和を守る六課がまず自分達の平和を守らなければならないというのは、なんというか、アレな気がしますけど》

「……言わないで。アルトアイゼン。
 言いたいことはすっごくよくわかるけど言わないで……」



 アルトの言葉にアリシアが肩を落とす……うん、悪いけど僕もアルトに同感。



 今までだってたいがいだったのに、ジンが連れてきたあのやたらと濃ゆい面々まで加わったとなると……







 ……うん。覚悟だけは、しておこうか。











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第45話「とある執務官志望の正念場、とある大帝達の対峙」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……えー、先日周知した通り、惑星ガイアからの見学者の一行が、昨夜から六課に滞在しています」



 身内ばっかりでアットホームな感じのある機動六課だけど、その本質は管理局の一部隊。



 なので、朝一番にはちゃんと朝礼が行なわれる――と、いうワケで、現在、グリフィスが壇上に上がって、諸連絡の通達を行なっている。







 ………………はやては欠席。ったく、ヴェロッサのことで悩むのはいいけど、部隊長の仕事は果たせよなー。



「……ねぇ、ジュンイチ。
 はやてが最近変なの、本当に心当たりないの?」

「ん。ない」



 後ろから耳打ちしてくるライカに、迷うことなくウソをつく……さすがに、怪しく思うヤツも増えてきたなー。



 こりゃ、当事者達の踏ん切りがつくのを待ってられないかも……最悪、こっちでお膳立てしてムリヤリにでも二人が話し合う状況を作る必要性が出てくるかもしれない。



 ……とか考えてる間にもグリフィスの話は続く。



「六課ではあくまで宿舎を利用するのみということで、我々の業務には直接の関係はありませんが、“JS事件”を乗り越え、再出発を誓った管理局の一員として恥ずかしくない態度を心がけてください。
 では……見学者の引率を担当しているみなさんに代表してあいさつしていただきます」



 グリフィスがそう話を振り、代わって壇上に上がったのはジンだ。



「あー、ユニクロン戦以来のお久しぶりです。ジン・フレイホークです。
 今回は惑星ガイアからの見学者のみなさんを引率するということで、またみなさんのお世話になることになりました。
 ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」



 無難にあいさつを終えて、頭を下げてから壇上を後にする……まぁ、これが普通のあいさつだよな。いきなりひっくりこけた恭文が特殊例なだけで。



“うっさいよっ! あの日の話はするなーっ!”



 ………………恭文に怒られた。







 それはともかく……今のところ、ジン達はこっちで年を越すことになる。

 連中の滞在にかこつけて、ミッド在住のジンに地元で年越ししてもらおうって配慮らしい。向こうのゴリラコンボイも、なかなか味なことするじゃないのさ。



 とりあえず、ライオコンボイ達の研修期間満了まではいるって話になってるけど、そのライオコンボイ達の研修期間ってのが、なんか延びに延びてるからなぁ……連中の世話、こっちに丸投げするつもりだな。受け入れ責任者筆頭スタースクリームめ。



 まぁ、オレとしては、新生バルゴラの試作を試してもらわなきゃいけないし、ジンの滞在が長くなりそうっていうのは正直ありがたいんだけど。

 できるだけ早くすませたいから、ジンにはテストに専念してもらいたい……アリシアなんか、ここしばらくシャーリーと二人で出番を犠牲にしてまでラボにこもりっきりだしなー。

 オレが受けた仕事だから手出しは無用って言ってるんだけど、技術屋の血が騒いだのか止まりゃしねぇ。仕事を取られないうちに何か手を考えておかないと……











「………………最後に、ひとついいか?」











 そんなオレの思考を現実に引き戻したのは、朝礼を終わらせようとしたグリフィスを止めた一言だった。



 全員の視線が、発言者に集中する――ジンのパートナー、カオスプライムと一緒にこの朝礼に参加していたベクターメガトロンだ。







 え? 何? なんでこのタイミングで乱入?



 なんか、イヤな予感しかしないんだけど……







わしの名はベクターメガトロン。
 “メガトロン”の名が示す通り――大帝だ」



 ベクターメガトロンのその言葉に、みんなの視線が一斉に、もはやすっかりこっちが標準化したヒューマンフォームで列に並んでいるマスターコンボイに集中する……ま、当然だわな。元大帝だし、元メガトロンだし。



「………………なるほどな。
 貴様が“そう”なのか」



 “そんなみんなの視線を追って”、ベクターメガトロンがマスターコンボイを発見、笑みを浮かべる……なるほど。みんなの意識を誘導することで、顔を知らないマスターコンボイを見つけ出しやがったか。



 なかなか知恵が回りやがる……今までオレの出会ってきた大帝は、なんつーかシリアスなヤツよりもバカ/イロモノの人口比率が高かったからな……どうやらコイツは前者みたいだn



「儂の目的はただひとつ……」











「マスターコンボイ、貴様だ!」











 ………………前言撤回。



 コイツも……イロモノの類だったかぁぁぁぁぁっ!











「破壊大帝でありながら……“メガトロン”でありながら“コンボイ”を名乗るとは……なかなかにおもしろいヤツだ。
 だが、それも実力が伴わなければただの張子の虎……この儂が直々に確かめてやろう」







 『確かめてやろう』じゃないわ、『確かめてやろう』じゃっ!

 何イキナリ宣戦布告してんだ、このバカ大帝がっ!

 マイク片手に真っ向からマスターコンボイを指さして、どこのプロレスラーのマイクパフォーマンスかっ!







「………………ほう、言ってくれるな。
 そういう貴様こそ、“超越”大帝の名が泣くような無様な戦いをしないよう、せいぜいがんばるんだな」







 ほら見ろ! マスターコンボイもすっかり受けて立つ気マンマンだしっ! スバルはワタワタしてるし恭文も頭抱えてるしっ!



 あー、くそっ、結局また今日こうして一悶着起きるワケか……







「……今までの六課の『悶着』の大半に首を突っ込んでるアンタがそれを言うワケ?」



 後ろでライカが何か言ってるけど、あーあー、聞こえなーい。







 とりあえず、ライカは後で訓練ついでにしばき倒すとして……目の前で臨戦態勢のこの脳筋二人をどうするかだ。



 最低限、この場で始めないだけの理性はあるみたいだけど、訓練に乱入でもされたら即開戦だぞ、コレ。



「ですよねー。
 恭文くんやスバル達も年明けにはランクアップ試験だし、ここで訓練を遅れさせられるのは……」

「いや、そこはいつものことだろ」



 となりでうなずいているなのはに答える……そう。オレが問題にしたいのはそこではない。



「少なくとも今日は、余計な騒ぎは起きてほしくないって言ってんだよ。
 これがフェイトに知られてみろ。アイツの試験にどんな影響が出るかわかったもんじゃねぇ」



 もちろん、こっちから試験中のフェイト達に連絡をとるようなバカはやらない……つか、試験に集中してもらいたいのはみんな共通の想い。良い報せでも悪い報せでも、試験中に連絡なんかするバカはいないでしょ。

 けど、だからと言って安心はできない。こっちが連絡しなくても、向こうが試験の経過報告で連絡してきて、その中でバレる……という可能性は皆無じゃないんだ。



「ジュンイチさんも、フェイトちゃんのこと心配してくれてるんですか?」

「んにゃ」



 表情を輝かせるなのはに即答する――ケンカの絶えないオレがフェイトを心配するようなこと言ったから期待してるんだろうけど、残念ながらそういうことじゃない。

 オレが気にしてるのは――



「フェイトが落ちてお前や恭文が凹むのはゴメンだからな」

「……フェイトちゃん自身は凹んでもいいんですか……?」

「仲直りしたようでやっぱり仲悪いわよね、アンタ達……」



 なのはとライカに呆れられた……まったく、何を今さら。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………そろそろ、六課は仕事開始、かな……







 私がいるのは本局の会議室のひとつ。



 筆記試験は、この会議室を使って行なわれる――今の私は、本人確認の手続も済んで、試験開始を待っている段階。







 いよいよ……か……







 なのはの撃墜とか、いろいろあってこれまで二回失敗して……期間を開けて、これが三回目の受験。

 “三度目の正直”になるか、“二度あることは三度ある”になるか……



 それでなくても、“JS事件”の裏に最高評議会が絡んでいたり、事件の過程でジュンイチさんが局の暗部を片っ端から暴露したことで、今局は綱紀粛正が叫ばれてる……そんな中で、事件後初めての執務官試験……きっと、採点も厳しめになってるはず。



 ただでさえ狭い門が、さらに狭くなってる……正直、合格はかなり厳しい。











 ………………それでも、だよね。











 試験を受けるのは私だけじゃない。ヤスフミも、スバル達も年明けにはランクアップ試験が待ってる。



 それに、ティアナや、今はスバルも執務官志望……先輩として、ここは意地を見せなくちゃ……ね。







 ヤスフミ……絶対合格して帰るから。



 だから……今日一日、六課の方をお願いね?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まったく……久しぶりの再会に、とんでもない爆弾連れてきてくれたよね、ジン」

「言わないでくれ……正直後悔してるんだ……」



 六課の事務室におじゃまして、友達と積もる話。

 つか、ヤスフミの言葉に、オレは思わず頭を抱える……うん。本当に後悔してる。



 惑星ガイアでもアイツのケンカっ早さには振り回されてたけど……まさかこっちでも初日にやらかしてくれるなんてな。



「つか、それを言うならそっちこそ、マスターコンボイの手綱をしっかり握っててくれよ。
 このままだと絶対ぶつかるぞ、あの二人」

「まず確実にね。
 “新入りの歓迎はとりあえず模擬戦”なところが六課うちにはあるから、なんとかそっちの方向に持っていければ、まだ被害は最小限で済むか……」



 ………………意外と体育会系なんだな。女性の人口比率が高いから、そういう空気はないようなイメージがあるんだけど。



「確かに六課は上の方に女の子が多いけどさ、その“オンナノコ”がみんなして体育会系じゃあね……フェイト以外」

「さりげにフェイトさんはカウントから外すのな」



 相変わらず、フェイトさんにご執心だね……こっちに来る前に話を聞いた限りでは、関係はなんとか進展しているみたいだけど。







 ………………そうだよな……コイツ、無事好きな子との距離縮められてるんだよな。



 こっちはそういう相手もいない上に、非常にアレなヤツに気に入られてすっごく困ってるっていうのにっ!








「そうなの?
 まったく、ダーリンを困らせるなんて、どこの悪い子かしら?」

「いや、お前だよ、お前っ!」







 いきなり乱入してきたのは、ムダにスタイルのいい、紫に水色のグラデーションのかかったロングヘアーを後ろでまとめている……一応女の子。



 レヴィアタン……元々はオレ達の敵、プレダコンズの一員だったんだけど、いろいろあった末にこっち側に寝返って、今では……かなり迷惑だけど心強い味方。

 今は手元にいないオレのパートナーデバイスのバルゴラが、コイツがオレに惚れてるのを利用して……つか、オレをエサにしてこっち側に引き込んだんだ。



 おかげで戦力は強化されたけど、オレは貞操の危機に怯える毎日……コイツ、ちょっと油断するとすぐ“あぁるじゅうはち”な方向に話を持っていきたがるからなぁ……



「気持ちはよくわかるよ、ジン。
 こっちにも、やたらと言動がレッドゾーンな人がいるから……六課の人じゃないけど」

「………………霞澄さんか?」

「他にももうひとり」



 え? あんなのがまだいるの……あ、メガーヌさんか。ヒロさんの友達の。



《それに、そちらの方と同じように敵対組織にいながらマスターにフラグを立てられて、こっちに家出してきてる子もいますしね》

「そうなのか!?」



 アルトアイゼンの言葉に思わず声を上げる――そんな物好き、レヴィアタンだけかと思ってたけど……他にもいるのか。



「あー、あのバカ姫か。
 つか、アイツはいつまでジュンイチさんちに居座るつもりなのさ? マックスフリゲートでのクリスマスパーティーまでしっかり楽しんでたらしいし」

《マスターの花嫁衣裳に関するホーネットとの論争が決着するまでですよ、きっと》

「その話はしないでっ! 着ないからね、絶対っ!
 つか、あのバカ姫とくっつくつもりもないしっ! 僕はあくまでフェイト一筋なのっ!」

《当のフェイトさんはマスターとイクトさんを総取りするつもりみたいですけどね》



 ハハハ……ヤスフミも苦労してんだな……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「むむっ!? 恭文がわらわとの結婚の話をしている気配がっ!」

「……ずいぶんと具体的な気配ね」



 むー、リンディ殿はツッコミが厳しいのぉ。



 しかし、本当に恭文がわらわのことを話しているような気がしたのじゃがな……うん。そうだとしたらうれしいの。やはりわらわと恭文は離れていても運命の赤いナイロンザイルでつながってるのじゃっ!



「なんて丈夫な赤い糸!?」



 うん、気にしなくてもよいぞ、ブイリュウ。

 それだけわらわと恭文の絆は強くて切れないということなのじゃ♪



「まぁ……確かにあの子の性格を考えると縁が切れることはないでしょうけど……」

「恭文、なんだかんだで本命以外の子も振り切れないからねー」



 ……むぅ……そうじゃの。

 恭文め、わらわという相手がいながら、他の女子おなごのことも捨てきれずにいるからのぉ。



 それは恭文が優しい子じゃという証でもあるから、まぁ良いのじゃが……



「………………となると、わらわと恭文の愛の巣はみんなで住めるような大きな家にしなくてはのぉ……」

「他の子も受け入れること前提!?」

「ホント、ムダに器デカいよね、万蟲姫って!」



 …………そんなにおかしいことかのぉ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うぅ……フェイト、大丈夫かなぁ……?」

「落ち着け、ジャックプライム。
 我々がソワソワしていても解決しないだろう」



 スターセイバーはそう言うけど……うぅっ、やっぱり心配だよぉ……



「まったく……
 ……そういえば、例の惑星ガイアから客人達はどうしたんだ?」

「サイバトロンシティだ。
 ザラックコンボイとの面会のために、な」



 え………………? 父さんのところに……?

 でも、一応惑星ガイアからの交流っていう名目できてるんだし、地上本部の方に行った方が……



「地上本部の立て直しに日々忙殺されているレジアス・ゲイズを過労死させたいのか?」



 ………………なるほど。



「実質、“JS事件”で弱体化した地上本部はミッドの治安維持で精一杯。外交関係はザラックコンボイが一手に引き受けている形なのが実情だ。
 ……まさか、知らなかったのか? 息子の貴様が」

「うん、まったく。
 というか……むしろ『お前はまだ外で経験を積むべき時期だ』って言って、自分の仕事とかについてはちっとも教えてくれないし」



 でも、今回みたいに絡んでくる部分もあるんだし、ちょっとくらいなら教えてくれてもいいと思うんだけどねー。

 まぁ、そういうのも自分で調べろ、ってことなんだろう、うん……そういう意味じゃ、むしろ勉強不足の僕が悪いってことなんだけどね。



「スパルタなんだか放任なんだか……
 まぁ、とにかく、そんな経緯で、彼らは今日はサイバトロンシティだ」



 なるほど……

 だったら、とりあえず今日は安心かな?



「『安心』……?
 何の話だ?」

「ほら、今朝の朝礼。
 ジンくん達と一緒に来たあのベクターメガトロン、マスターコンボイに宣戦布告しちゃったでしょ。
 けど、向こうから来たみんながサイバトロンシティってことは、そっちについて行ってる……ってことでしょ?」

「あぁ……なるほど。
 確かに、今日は二人の衝突は避けられそうだな」



 別に、対戦すること、それ自体に異論はない。良くも悪くも六課うちじゃいつものことだし……ヘタに抑え込んで変な方向に爆発されるよりはマシだ。実際にそれで爆発したのがいつぞやのフェイトとジュンイチさんの大ゲンカだし。

 ただ……今日はぶつかってほしくないんだよね。試験に行ってるフェイトの耳に入ったらどんなことになるか……











「………………あれ?
 おい、スターセイバー。確かアイツら、今日六課にいるぞ?」











 ………………え?







 口を挟んできたビクトリーレオの言葉に、思考が止まる。







 えっと……どういうこと?



「いや、なんか惑星ガイアむこうでもいろいろあったらしくてさ……ジンとかいう小僧なんかデバイスぶっ壊れて修理中って話じゃねぇか」



 あぁ、言ってたね。で、ジュンイチさんがチーフって形で、うちで改造プランの立案を進めてるとか。



 ………………そのバルゴラって子、魔改造されなきゃいいんだけど。

 ジュンイチさんは“最後の切り札ラストカード”シリーズの例もあるし、趣味に走りすぎて機能性を損なうようなマネはしないだろうけど、むしろ一緒にいるアリシアとシャーリーの方が心配だよ、僕は。



「で……『向こうで大変だった分、今日くらいはのんびりしてろ』っていうビッグコンボイの配慮で、一行の戦闘要員、全員六課に残留して休息。サイバトロンシティに行く組には、ヴァイスとスプラングを貸し出すって……」



 えっと、つまり……











 ベクターメガトロン、好きなだけマスターコンボイとド突き合いできるってことじゃないのさっ!











「ジャックプライム!」

「わかってる!」



 スターセイバーに呼ばれるよりも先に動く――六課に到着した時に登録しておいたIDデータでベクターメガトロンの現在位置を探る。



 一秒も経たず、結果はすぐに出た。



 で……結論。











「………………手遅れだった」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なぁ……はやて姉、大丈夫かよ?
 なんか元気ないけど」

「あー、うん。大丈夫や。
 ちょお、いろいろあって……テンション落ちてるだけやから。
 心配してくれてありがとな、ジンくん」



 ………………悪い。ちっとも大丈夫には見えない。



 なんか見るからにテンションが低い。普段のはやて姉がいろんな意味でテンション高い分、余計にそれが強調されてる。

 シャマルさんの話じゃ、なんか昨日は酔いつぶれて仕事を休んだっていうし……ホント、何があったんだよ……



 ベクターメガトロンはマスターコンボイにケンカ売るし、レヴィアタンは相変わらずだし……あれ、そういえばヴェルヌスはどこ行った?

 アイツもある意味何しでかすかわからない部類だし、ちゃんと目の届くところにいてくれないと不安でしょうがない。



「失礼ですねぇ。
 私だって誰彼かまわず見境なくもてあそぶようなマネはしませんよ?」



 そんな言葉と同時、部隊長室の扉が開く――そして現れたのは紺色のストレートヘアにゴスロリ衣装、さらに黒色のネコミミ&尻尾標準装備の……ぶっちゃけロリっ子。



 こいつがヴェルヌス。惑星ガイアで出会った“霊子生命体ソウル・ファクター”……簡単に言うと、宇宙全体に散らばる“力”が集まって生まれる精霊のようなもの、らしい。

 なんか、オレの“力”と波長が合うのか半ば押しかける形でオレのパートナーに居座ってる……まぁ、確かにいろいろ助けてもらってるけどな。



 一応、今のロリっ子モードが基本なんだけど、もっと成長した八頭身の姿にもなれる……オレの魔力バカ食いされるからできれば戦闘時以外に勝手になるはやめてほしい。やめてくれないけど。



 ちなみに性格は典型的ないぢめっ



「そう言うことを言ってると、“アレ”と“アレ”と“アレ”、六課中にバラしますよ?」



 ゴメンナサイ。それだけはかんべんしてください。



「ほほぉ、ジンくんもいっちょ前に恥ずかしい秘密を持つような年になったんやな。
 どれ、ここはひとつ、この『はやてお姉ちゃん』に話してみ?」



 で、はやて姉はニヤニヤするな。そして子供の頃の呼び方を持ち出すな。なんでこんな話題になると復活するんだよ。







 ………………けど、まぁ……







“サンキュな、ヴェルヌス”

“今のでお礼なんて、どういう風の吹き回しですかぁ?”



 ……にしても、この姿だとしゃべりまでロリ化するよな、お前。



“いや……どんな形にせよ、ちょっとは悩んでることから他に気を散らせたみたいだからさ”

“ホントにジンはお姉ちゃんに甘々なんですね。にぱ〜♪”



 擬音つきで笑うな。さすがにそれはキャラ作りすぎだろ――







“おい、小僧”







 と、いきなりカオスプライムからの念話……どうしたのさ?







“貴様……ベクターメガトロンの監視には誰をつけた?
 今朝のアレがあったから、何をしでかすかわからないから……と言っていただろうが”

“え? それならヴェルヌスに……頼ん……で……”







 ………………あー、オレの気のせいなんでしょうか。



 そのヴェルヌスさんが、オレの目の前にいるんですけど。







「ヴェルヌス……ベクターメガトロンの監視はどうした?」

「もちろん怠っていないですよ。
 マスターコンボイに挑戦するために訓練場に行こうとしていたから、これはぜひみんなで観戦しなくちゃ……とジンくんを呼びに来たのですよ」







 ………………うん。







「このドアホぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………じゃあ、ちょっと休憩にしようか」



 なのはの言葉に、僕らの間の空気が緩む……あー、疲れたー。



「まぁ、やっさんとマスターコンボイはもう試験も目前だしね」

「ここでしっかり追い込んでおけば、本番でキツくなつても大丈夫だろ」

「まぁ、それはそうなんですけどね」



 ヒロさんとサリさんに答えて、額から垂れてきた汗をぬぐう。



 …………あ、そういえば。



「マスターコンボイ、飛行訓練の方はどうなってるのさ?」

「む……
 まぁ、言うより見せた方が早いか」



 一緒に試験受けるワケだし、ふと気になった……僕の質問に答えて、マスターコンボイはその場で静かに深呼吸一回。



 足を肩幅に開いて、意識を集中してるのがわかる……気づいたスバル達やなのは達が集まってくる中、マスターコンボイの周りで空気が渦を巻き始める。



 おぉっ、なんか……いけるっぽい……?



 森林に設定したフィールドの地面、足元の草が巻き起こった風で揺れる中、マスターコンボイはゆっくりと真上に浮き上がr





















「マスター、コンボイぃっ!」





















 いきなりの咆哮と同時、ヒューマンフォームのマスターコンボイの周りにでっかい影が落ちる――気づいて、飛びのいたマスターコンボイのいた地点に、巨大な何かが落下する。







 …………いや、まぁ、だいたい何が飛んできたかは想像つくんだけど。







「ほぉ……なかなかいい反応だ」



 言って、立ち上る土煙の中から現れたのは……予想通りの相手。



「フンッ、やはり貴様か……ベクターメガトロン」

「ベクターメガトロンさん!
 いきなり何するんですか!」

「今朝の集会で言ったはずだぞ。
 儂の目的はそこにいるマスターコンボイだとな」



 抗議の声を上げるなのはをあっさりと一蹴。ベクターメガトロンがマスターコンボイに向けて右手に生み出した光の剣を突きつける。



 つか……なんで現れるのさ!? ジン達がもめ事起こさないように監視つけてたんじゃないの!?



「“メガトロン”でありながら“コンボイ”となることを選んだ貴様に、儂は大いに興味がある。
 本当にそれだけの力があるのか、それともただ“メガトロン”と“コンボイ”の間をフラフラしているだけの小物か……確かめさせてもらうぞ!」

「ちょ――」



 なのはが止める間もない。勢いよく地を蹴ったベクターメガトロンが、マスターコンボイに向けて光の剣を振り下ろす!



 衝撃と共に地面が砕け散って、巻き起こる土煙で視界が覆われる――マスターコンボイ!?











「………………マスターコンボイさんを、バカにしないでよ」











 晴れてきた視界――そこにいたのは、マスターコンボイとベクターメガトロンだけじゃなかった。







「マスターコンボイさんは、あなたが思ってるよりも、ずっと、ずっとすごいんだから!」

「スバル……!?」

「ほぅ……それは楽しみだ」







 そう。スバルだ。ベクターメガトロンの一撃の瞬間に飛び込んで、リボルバーナックルで攻撃を弾いた……で、いいのかな?



 つか……







「ウソ……スバルが頼もしい、なんて……!?」

「恭文がいきなりひどい!?」







 いや、だって、スバルって僕の中じゃKYかまして誰かしらにブッ飛ばされてる印象がほとんどだし。



 六課に来たばかりの頃、模擬戦でさんざんな目にあわされたのだって、今となっては遠い忘却の彼方なんだよ。







「うー、ベクターメガトロンさんならともかく、恭文まで〜っ!
 マスターコンボイさんっ!」

「お、おぅっ!?」



 もうシリアスな空気は完全にどっかに飛んでった……いつものことって言っちゃえばそれまでなんだけど。

 とにかく、地団駄を踏んでいたスバルがマスターコンボイに声をかける……あ、この流れってもしかして……



「いいじゃない、相手してあげようよ!
 あたし達だって強くなってるんだって、恭文に見せてあげようよ!」

「ち、ちょっと待て!
 お前の敵はベクターメガトロンか恭文かどっちだっ!?」



 マスターコンボイのツッコミもスバルを止められない……あのさ、なのは。



「恭文くん……?」

「もう、やらせた方がいいよ、これ。
 こうなったら、スバルが止まらないのはなのはだってわかってるでしょ?」



 できれば今日一日おとなしくしていてほしかったけど……こうなったらもう、さっさとやってさっさと終わってもらった方がいい。

 フェイトの耳に入る前に終わらせる……フェイトに心配かけないようにするには、もうそうした方がよさそうだ。



「でも……」

「それに、なのはだって今のベクターメガトロンの一撃、見たでしょ?
 あっちもあっちでけっこうやるみたいだし……マスターコンボイやスバルの修行になると思えば……ね。
 こうなったら、もうとことん利用しちゃおうじゃないのさ」

「…………なんだか、丸め込まれてるような気がするんだけど……」



 うん。実際丸め込もうとしてるし。



「じゃあ、このまま『やる』『やらない』で押し問答しててもらう?
 それこそジャマでしょ。実際のところさ」

「…………しょうがないね。
 じゃあ、両者の対戦を許可します」

「やった!
 ありがとう、なのはさん!」



 おーおー、スバルってばすっかりはしゃいじゃって。



「やるよ、マスターコンボイさん!」

「……仕方あるまい。
 オレも、このまま『弱い』と思われているのはシャクだからな」



 結局、マスターコンボイもやる気だったみたいだ。ため息をつきながらロボットモードに。オメガを起動させてスバルのとなりに立つ。



「フンッ、二対一か。
 まぁ、儂は別にかまわないがな」

「心配するな。
 形の上だけでもちゃんと一対一になる。
 ……いくぞ、スバル!」

「うんっ!」



 ベクターメガトロンに答えたマスターコンボイにスバルがうなずいて――二人が叫ぶ。







『ゴッド、オン!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ふぅっ……」



 筆記試験は……自己採点してみないとなんとも言えないけど、感じた限りの手ごたえは……うん。なんとかなりそう。



 あとは実技……嘱託試験の時と同じ、儀式魔法の実践と、教導官を相手にした戦闘技能試験。



 大丈夫……今度こそ合格できるから……







 そうだ……絶対、合格して帰るんだ……







 ヤスフミ達が安心して試験に臨めるように、まずは私が弾みをつけないと……











 がんばるからね、ヤスフミ、イクトさん……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文!」

「ジン、遅い!」



 声をかけたオレに恭文が返す――仕方ないだろ! いざとなったらみんなで止めようって、ライオコンボイ達呼び集めてたんだからさ!



「それで……状況は?」

「仕方ないから、やらせた……ついさっき始まったところ」



 答える恭文の視線の先では、立て続けに巻き起こる衝撃と土煙……あそこか。



 煙で視界が悪い。どこに誰がいるのか確認しようと目をこらして……煙の中からマスターコンボイが飛び出してきた。



「オォォォォォッ!」



 獣のように吼えながら、ベクターメガトロンが斬りかかる――それをサイドステップでかわして、裏拳の要領でベクターメガトロンを吹っ飛ばす。



 ……いや、相打ちだ。殴られた瞬間、ベクターメガトロンもマスターコンボイに蹴りを叩き込んだんだ。



 互いにたたらを踏んで……同時に体勢を立て直して突撃。ベクターメガトロンの振り下ろした光の剣を、マスターコンボイも腕に装備したブレードで受け止める。



「……けっこうやるな、マスターコンボイも」

「正確にはスバル……だね。
 ゴッドオンできるメンツの中じゃ、付き合いが一番長いからね……ゴッドオン状態での能力特性もバランスがいいし」

「って、あれスバルちゃんなの!?」

「ってことは、マスターコンボイってトランステクターなのか……? トランスフォーマー自身がトランステクターって、そういうパターンもあるのか……?」

「まー、驚くのもわかるよ。
 マスターコンボイの場合は、いろいろ偶然が積み重なった結果の、偶然の産物らしいから」



 オレに答えた恭文の言葉に、マリンブルーの髪をショートカットにまとめた女の子……クレア・ランスロットと、そのパートナーである“霊子生命体ソウル・ファクター”のイリアスが声を上げる……まぁ、オレも初めて会った時は驚いたけどさ。



「けど、できちゃうんだからしょうがないでしょ。
 で、そのイレギュラーのせいらしいんだけど、マスターコンボイはゴッドマスターなら誰とでもゴッドオンできる。
 そうやって、二人でひとつの身体を協力して使いながら戦うのが、マスターコンボイとゴッドマスターの戦い方なんだよ」



 あー、そういえばそうなんだよな。実際、恭文ともゴッドオンできるんだし。



 ……あれ? ゴッドマスターなら誰とでも……ってことは、オレともゴッドオンできるってことか……?



 そんなことを話している間に、両者の均衡が崩れ始めた。ベクターメガトロンがマスターコンボイを――いや、スバルを押し返して、そこからさらに連続した斬撃で一気に攻めかかる。



「そらそら、どうしたどうしたっ!
 大口を叩いておいて、その程度かっ!」

「バカに……しないでっ!」



 言い返して、殴りかかるスバルだけど……さばかれた。受け流されて、バランスを崩したところを背中から蹴り飛ばされる。



「ベクターメガトロン、トランスフォーム!」



 さらにベクターメガトロンはビークルモード……こっちにくる前にリスキャニングした戦車形態にトランスフォーム。立て続けの砲撃でスバル達を寄せつけない。



「マズイな……
 実戦経験の差が出始めた」



 明らかに流れが変わった戦いに、そうつぶやくのはカオスプライムだ。



「戦闘技術という意味では、両者の間にそれほど差は見られない。
 マスターコンボイのフォローの分を差し引いても、前線に立って一年の新人とは思えないレベルだ。この部隊の連中は、よほどいい師と戦いに恵まれたようだな」

「そ、そうかな……?」



 カオスプライムの言葉になのはさん(名前で呼んでいいと言われたので名前呼び)が照れてる……恭文はうさんくさいものを見るみたいな感じでなのはさんを見てるけど。



「だが……実戦経験の量までは、師の指導がいかに優れていても補えるものではない。
 マスターコンボイもうまくフォローしているようだが……こればかりはな」



 確かに、技とかよりも戦いの進め方でスバルは遅れをとっている感じだ……ベクターメガトロンの攻撃をうまくかわしてるけど、かわした先にも砲撃を撃ち込まれて、なかなか攻めるタイミングをつかめないでいる。



 こりゃ、ベクターメガトロンの勝ちかな……?



「……さて、それはどうかな?」

「イクトさん……?」



 口を挟んできたのはイクトさん……まだ、スバル達には何かあるってことですか?



「あぁ。
 アイツらにしてはよくガマンしたようだが……そろそろそれも限界のようだからな」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くぅ……っ!」



 また際どいところに砲撃がきた……なんとかかわしてるけど、なんていうか、遊ばれてる感じがする。



《確かに、回避先を誘導されている感じだ……気に食わんな》



 マスターコンボイさんもか……

 さて、どうしようか……



《そんなもの、決まっている。
 オレ達のことを甘く見ているあの男に、目にもの見せてやるだけだ》

「恭文に、『またスペック勝負に出た』とか言われるよ」

《負けるよりはマシだろうが》

「そうだけど……ねっ!」



 砲撃をかわして距離をとる――それじゃ、やろうか!



「何をする気か知らないがっ!」



 ベクターメガトロンさんが、そんなあたし達に向けて砲撃を撃ってくる――けどっ!







「《ゴッド、アウト!》」







 ビームが届くよりも先にゴッドオンを解除。左右に跳んだあたし達の間をビームが駆け抜ける。



「この状況で一体化を解くとは!」



「オレもそう思うがな!」


 ベクターメガトロンさんは迷わずマスターコンボイさんだけに狙いをしぼる――ビームをかわして跳んで、マスターコンボイさんが答える。



「だが、こっちの“切り札”を切るには、一度分かれる必要があってな!
 スバル!」

「うん!」



 マスターコンボイさんに答えて、合流――いくよっ!





















『ハイパー、ゴッドオン!』





















 あたし達が同時に叫んで――あたしの身体がエネルギーに変換、マスターコンボイさんの中に入っていく。



〈Hyper Wind form!〉



 マスターコンボイさんの宿ってるトランステクターのメインシステムが、システムがあたしとのゴッドオン用に切り替わったことを教えてくれる――装甲のグレーだった部分にあたしの魔力が循環、あたしの魔力光の色である空色に変わっていく――けど、それだけじゃない。

 ハイパーゴッドオンでパワーアップしたあたしの魔力がどんどん出力を増していく――しまいには身体からあふれ出した魔力が色を一定に保てなくなって、まるで虹みたいに七色に輝き始める。

 ヴィヴィオがその血を引いている古代ベルカの聖王――そのベルカの聖王の先天資質“カイゼルファルベ”と同じもの……“擬似カイゼルファルベ”だ。



 マスターコンボイさんのオメガがツインアームブレードに変形、両腕に合体して――そんなあたし達のもとに飛来するものがあった。



 小型のステルス型サポートビークル“トライファイター”。ランディングギアの部分を根元の部分から後ろ側に展開したそれはマスターコンボイさんの胸に合体。ランディングギアの部分が両肩を押さえて機体をガッシリと固定する。



〈“TRI-STAR-SYSTEM”――start!〉



 起動するのは、トライファイターに搭載されたハイパーゴッドオンの制御システム“トライ・スター・システム”――ハイパーゴッドオンはマスターコンボイさんのスパークに大きな負担になる。それを抑えるためのシステムだ。



 これで戦闘準備は完了。ベクターメガトロンさんへと向き直って、二人で名乗りを上げる。







「双つの星がひとつの星に!」

「つながり“力”を呼び覚ます!」








『マスターコンボイトライスター――Stand by Ready!』















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ハイパー……ゴッドオン……!?」



 目の前の光景に、僕は正直言葉を失っていた。



 名前そのままで考えるなら、アレは“ゴッドオンの上を行くゴッドオン”……ジンのゴッドオンは見たことがあったが、あれは……



「まぁ……ライオコンボイは見たことなかったからな。オレできないし」



 そんな僕に答えたのはジンだ……ということは、誰もができるものじゃない……?



 けど、その詳細を尋ねることはできなかった。スバルとマスターコンボイが、ベクターメガトロンに向けて駆け出したからだ。



 当然、ベクターメガトロンも応戦する――砲撃を放つけど、あっけなくかわされて間合いを詰められた。スバルがすくい上げるように繰り出したアッパーカットが、戦車にトランスフォームしているベクターメガトロンの身体を思い切りひっくり返す。



「く………………っ!
 ベクターメガトロン、トランスフォーム!」



 さすがにひっくり返ったままでは戦車は戦えない。ロボットモードにトランスフォームするけど――



「遅いよっ!」



 そこから反撃に移る前に、スバルがその懐に飛び込んだ。体当たりで姿勢を崩して、追撃の蹴りでベクターメガトロンを吹っ飛ばす!



「フンッ、ようやくまともになったじゃないか!」

「言ってろ!
 スバル! 一気に押し切るぞ!」

「うん!」



 ベクターメガトロンにマスターコンボイが言い返して、スバルがかまえる――ベクターメガトロンも光の剣を生み出して、迎撃すべくかまえる。



「一気に終わらせるなどと、つまらんことを言ってくれるな!
 その力、この儂に示してみせろ!」

「悪いが、貴様の趣味に付き合うつもりはない!
 対戦に応じただけでも良しと思って――さっさと沈め!」



 そして、互いが同時に地を蹴って――





















「や、か、ま……しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」





















 突然の大爆発が、双方をまとめて吹き飛ばした……って………………あれ?



 いきなりのことに、僕だけじゃなく、ジンや恭文、なのは達機動六課の面々も呆然としていて……







「やれやれ……バカ騒ぎしやがって……」







 言いながら、爆発の中心で立ち上がったのは……え!? ジュンイチ!?





 いったいどういうつもりかと僕らが呆然としている中――大地に倒れるベクターメガトロンや、ゴッドオンも解けて目を回しているスバルやマスターコンボイを交互に見ながら、告げる。











「………………気が散って作業ができないだろうが。
 もーちょっと空気読んでくれよ。頼むからさぁ」











 ………………うん。











『お前が言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』











 ほぼ全員から総ツッコミが炸裂した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 結局、マスターコンボイ(スバル)VSベクターメガトロンの戦いはジュンイチさんの空気を読まない乱入によって水入り……と言っても、ベクターメガトロンにとっては価値のある内容だったみたいで、特に再戦を申し込まれることもなく話は決着した。



「あー、なんかドッと疲れた……」

「いったい何だったんだ? 今日の騒ぎは……」



 で……後片づけとかもなんとか終わって、ようやくジンと一緒に一息つけたところ。



「あー、そうだ。マスターコンボイとスバルは?」

「医務室。
 ハイパーゴッドオンなんて久しぶりだったからね。スバルはともかく、マスターコンボイには負担になるから、スキャン検査してもらうって」



 ジンに答えて、さっき自販機で買ってきたスポーツドリンクをノドに流し込む……あー、おいしー。



「けど……まぁ、当初の目的は果たせたんじゃないのか?」

「………………あー……」



 ……なんつーか、あまりの急展開に途中からそのこと忘れてた。



 まぁ……フェイトから連絡があったって話も聞かないし、なんとか知られずにすんだ……のかな?





















「ヤスフミ!」





















 突然僕の名を呼んだ声は、ちょうど今話題に上っていた“彼女”のもの……なので、クルリと振り向いて応える。



「おかえり……フェイト」

「うん……ただいま」



 そう。フェイトだ。僕に答えて、ニッコリと微笑んでくれる。



「ずいぶん早かったじゃないのさ」

「うん……六課のみんなが心配だったから、早く帰ってきちゃった」







 え………………?







 フェイトの言葉に、思わず背筋が凍る――まさか、今日の騒ぎがバレたとか!?



「あ、あの……心配、って……?」

「うん……いつものことって言ってしまえばそれまでだけど……六課っていろんな騒動がよく起きるから。
 だから、今日一日ずっと気になってて」



 フェイトの言葉に、僕はその場にへたり込んだ。



 今日の騒ぎがバレてないんだという安心感と、結局心配するオチは変わらないんかいという落胆によって。





 ………………待て。



 ずっと心配してたってことは……







「フェイト……そんなんで試験大丈夫だったの!?」

「え? あ、えっと……」







 ちょっと勢いよく食いつきすぎたかも。僕の勢いにちょっと押された形になったフェイトは……











「大丈夫だよ」











 クスリと笑って、そう答えた。







「ホントは、イクトさんと一緒にいる時に見せたかったんだけど……」







 そして、僕の目の前に差し出されるのは合否の通知書……うん。管理局の資格試験って、当日の内にはもう結果が出たりするの。基本的には採点とかも全部システム化されてるから。







 当然、前の各試験の講評の部分はすっ飛ばす。僕が見たいのはあくまで合否の部分。







 そこには、ミッド語で――





















 「合格」ってハッキリ書かれてた。





















「………………合格?」

「うん」

「受かった……の?」

「うん」

「“不合格”の見間違いとかじゃなくて?」

「間違いなく……だよ」











 …………そっか……受かったんだ……





















「………………ぃヤっ、たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





















 思わず飛び上がって喜んだ僕を、いったい誰が責められるというのかっ!



 だって合格だよ! 執務官だよ! 僕のフェイトがついに目標を叶えたんだよ! これを喜ばずに何に喜べというんですか奥さんっ!



「誰が奥さんだよ。
 …………まぁ、それはそれとして……おめでとうございます、フェイトさん」

「うん。ありがとう、フレイホークさん」

「あー、オレのことはジンでいいですよ。オレも名前で呼んじゃってますし」

「そうだね……
 じゃあ、やり直し……ありがとう、ジンくん」











 その後。



 僕の声を聞きつけたみんなもやってきて、フェイトの合格を聞いてやっぱり大喜び。







 特に、ティアナの喜び具合がハンパなかった……だって、今のフェイトは未来の自分の目指すべき姿なんだから。







 ここ最近テンションの低かったはやてもこればっかりはいつも以上のテンションに振り切れた。



 で……「これはもう祝わずにはいられないでしょ」というワケで、そのままみんなでフェイトの合格祝いの大宴会へとなだれ込んでいくことになる。











 ………………これで、フェイトも年明けの研修が終われば正式な執務官として新しいスタートを切る。







 そして……この合格は、同時に僕へのバトンタッチも意味していた。







 だって、年明けには僕とマスターコンボイのランクアップ試験が待ってるんだから。











 大丈夫……フェイトからのバトン。確かに受け取ったから。











 この「合格」のバトン……必ずスバル達に渡してみせるから。












 絶対に……合格してみせるから。











 たとえ、試験でどんな課題を出されたって……





















「ところでヤスフミ」

「ん………………?」

「ジュンイチさんが隊舎の屋上から逆さ吊りになってたけど……何かあったの?」

「ううん、何も」





















(第46話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

ティアナ「ところでフェイトさん。
 実技の試験ってどんな課題だったんですか?」

フェイト「え?
 あー、えっと……逮捕術の課題、だね。攻撃魔法やバインドはなし、補助魔法だけの状態で、犯人役の教導官の人を逮捕のために組み伏せる……っていう」

ティアナ「へぇ……そうなんですか」

フェイト(………………言えない。言えないよ……
 その際、動きづらい状況を想定した衣装を着せられて……私がくじで引き当てたのが、交通課のブタの着ぐるみだったなんて言えないよ……っ!)





第46話「とある機動六課メンバーの年越しの風景」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて……本家『とまと』ファーストシーズンを追従した結果リアルと話の中の季節のズレがひどいことになっている最近の『とまコン』。
 その流れの中で、久しぶりに季節感と縁のない話だった第45話です》

Mコンボイ「進学や就職の試験ならともかく、資格試験は季節など関係ないからな……ランク試験も、原作のスバルの言葉の通りなら年2回あるようだしな」

オメガ《もっとも、マジメな性格のミス・フェイトの試験の様子を詳しく描いたところで盛り上がりには欠けるということで、もうひとつのメイン、マスターコンボイVSベクターメガトロンに比重が置かれたストーリー構成になってますけどね》

Mコンボイ「まぁ……この作品は『ドラゴン桜』のような受験そのものをお題目にした話じゃないしな」

オメガ《意外なところからネタを持ってきますね、ボスは……対象年齢が高めのマンガが好きなんですかね?
 それはともかく……詳しい試験の描写を省いた理由はもうひとつ。
 ここで詳しい描写をやってしまうと、後に控えているミスタ・ヤスフミの試験の話が今回の話の二番煎じになってしまう……という理由もあったようですけど》

Mコンボイ「詳しい描写といえば……ジン・フレイホークとその仲間達が本格的に登場してきたが……」

オメガ《あー、確かに彼らも詳しい背景説明は控えられてますね。登場しているキャラクターも限られていますし。
 確かに、こちらでしか『とまコン』を読んでいなくて、作者のサイトに掲載しているDarkMoonNightさんの『とまコン・外典』を読んでいない方には優しい内容ではありませんが……だからと言って説明だらけになってもくどいですからね。
 なので、一気に全員挙げるような形にせず、今後の展開で少しずつメンバーをピックアップして説明を入れていく、という形をとったようですよ、あの作者は。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)






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