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頂き物の小説
第44話「クリスマスの本番は25日。だけどのんびりできない人達もいる」



 ……僕、なんで飲み屋でイブすごしてんだろ。くそ、はやての飲酒を防げなかったのは、失敗だった。

 つか、僕とリインがそろってトイレ行ってる間に注文して飲んで……だもん。どうしろっていうのさ。







 ま、そこはともかく……だね。











「……ほら、はやて。隊舎着いたよ?」

「うにゅ……」



 とりあえず、はやてを背中に背負う。というか、手伝ってもらう……手配したタクシーの運転手さんに。



「……しかし、手のかかる彼女だねぇ。よっと」

「そうですね。ホントに……」



 運転手さんの言葉には、軽く返しておく。居酒屋でサリさんと別れて、ジュンイチさんを見送ってから、僕はタクシーで六課隊舎に来た。

 まだ、誰も目を覚ましてないような時間だ。風紀的には問題は……ないはず。だって、見ようによっては朝帰りだし。



「えっと……料金は払いましたよね?」

「えぇ、いただきましたよ。後は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。あの、ありがとうございました」



 はやてを背負い、手荷物を持ちながら、タクシーを見送る。

 ……さて、どうするこれ? いや、八神家メンバーに引き渡すしかないんだけどさ。



《しかし……どうしましょうか》

「うーん……」



 そのまま、隊員寮を目指して、歩きながら考える。

 これ、キツいよね……はやては振り切ったみたいなこと言ってたけど、まったくだよね?



《まったくですよ。ただ……マスターがヘタな発言もできませんしね》

「僕、ガマンした人間だしね。最悪、嫌みか皮肉にしか取られないよ」

《そうですね……
 やはり、サリさんとジュンイチさんですか》

「巻き込める人間、他にいないしね……
 あと、ヴェロッサさんにも話を聞かないと」





 そう、この話を知らせていい人間は、かなり限られるのだ。

 例えば八神家やカリムさんやシャッハさん。絶対に今の段階で教えるワケにはいかない。そんなことしたら、血の雨が降る。

 ヒロさんも同じくだな。どうなるかわかったもんじゃない。昨日は早々にリインと帰ってもらったから、詳しいとこまで知らないのが救いだ。

 リインも同じく、僕が耳を塞いだから、いろいろあったとしか認識できてないはず。ここからバレる心配は……



 ……あれ、おかしいな。どーして現状で敵しかいないのっ!?











とある魔導師と機動六課の日常×魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜



とある魔導師と守護者と機動六課の日常



第44話「クリスマスの本番は25日。だけどのんびりできない人達もいる」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……ちかれた。というか、眠い。





「恭文、大丈夫?」

「見たところ、まだ回復しきってはいないようだが」

「うん……いや、何て言うか、密度の濃いクリスマスイブだった」



 八神家にあの寝坊助タヌキを届けた後、僕は……エリオ様イクト様のお部屋に転がり込んだ。で、さっきまで寝てた。二時間ほどの仮眠だけど。



 時刻は朝の7時。既に陽が昇りきってたりします。そして今日は普通に仕事です。

 なお、制服姿です。ここに来る前に家に寄ってもらったから。

 ま、回収するものも制服以外にあったしね。



「だが……二時間ほどしか寝ていないのでは、貴様ら人間はかえって辛いと聞くが……
 いっそそのまま一睡もしなかった方がマシだったんじゃないのか?」

「あー、そこは人それぞれだから。
 一応、心配してくれてありがと、マスターコンボイ」



 ヒューマンフォームで経済新聞なんか読みながら、眉をひそめて口をはさんでくるマスターコンボイに答える……うん。基本的に僕は大丈夫な人だから。



「つかアンタ、本命ほったらかしてなにしてんのよ」

「そうだよっ! せっかくのクリスマスなのにっ!」



 なお、ミッドではクリスマスの風習は、さほど一般的ではない。最近、市井の方々にも知られるようになった感じ。

 だから、むしろ隊をあげてクリスマスムード一色だった六課の方が異色なんだよね……あ、後は108部隊か。あそこはゲンヤさんがいるしジュンイチさんが多大な影響を与えてるし。



「そんなせっかくのチャンスを、リイン曹長とのデートに使うなんてっ!」

「言わないで……」



 うぅ、フェイトとの素敵なイブが……いや、特に約束してなかったけど。行けるかどうかもわかんなかったし。



「でもでも、やっぱり一緒にいるべきだったと思うよ?
 ティアだって昨日はマスターコンボイさんと

「だからっ! アンタはことあるごとに言いふらすんじゃないわよっ、バカっ!」



 あ、ティアナがツッコんだ。うーん。相変わらずスバルのKYはいい切れ味してるね。



 ………………つか、うん。マスターコンボイにも負けたのか、僕は。



「勝ち負けの問題なのか……?
 というか、何を期待しているのか知らないが、別に大したことはしていないぞ?
 せいぜい、外食に連れ出されて、向こうでクリスマスプレゼントを渡したくらいだ」

「って、クリスマスプレゼント!? マスターコンボイが!?」



 ウソ!? なんかそういう行事にはまったくもって興味なさそうなのに!?



 ハッキリ言っていいかな!? うん。似合わないっ!



「放っておけ。自覚はしている。
 まぁ、どういう日かは知っているからな。渡さなかったりしようものなら……」



 答えて、マスターコンボイが“そちら”を見て……なんとなくわかった。



「あー、そっか。
 ティアナはともかく、渡さないとうるさいのがひとりいるからね」

《渡さないで騒がれるよりはさっさと渡しておとなしくしてもらった方がマシという判断ですか。
 要するに餌付けですね、餌付け》

「あ、あたしだって渡してもらえなくたってすねたりしないよ!
 なんかアルトアイゼンは失礼なこと言ってるしっ!」



 なんかスバルが騒いでるけど……うん。実際そうなったら騒がないなんて考えられないの。



 つか……



「で、マスターコンボイ。
 今の口ぶりだと、ティアナ以外にもプレゼント、あるみたいだけど?」

「あぁ、あるぞ。
 本当は今日の課業が終わってから渡すつもりだったが……まぁ、話も出たし、ちょうどいいか」



 言って、マスターコンボイが取り出したのは小さめの紙袋。そして、その中から取り出したのは、手のひらよりも少し大きめのサイズに統一された、包装紙に包まれた何か。



「えっと……これがスバルで、こっちがエリオ・モンディアル。
 キャロ・ル・ルシエがこっちで……恭文」

「え? 僕も?」



 いきなり目の前に差し出されて、戸惑いながら受け取る……数、四つしかなかったから、スバルにエリキャロにあずささん、で終わりだと思ってたんだけど。



「あぁ、あたしはもうもらってるから」

「そうなんですか!?」

「というか……それ、あたしが作り方教えたのよ。
 だから、完成品第一号をできた時に……ね」



 なるほど。そういうことか。



 けど……あずささんに教わった、ね……



《少なくとも、食べ物という線は消えましたね》

「ちょっ!?
 アルトアイゼン、それどーゆー意味!?」

《しょっちゅう料理の試食でヴァイス陸曹を医務室送りにしてる人が何を言いますか》

「う゛っ……」

《それにあなた、“JS事件”中にも自分の料理で六課隊長陣の人間組を壊滅状態に追い込んでるじゃないですか》

「あぅ……」

《そういった“前科”があるんですから、警戒するなという方がムリでしょう》

「………………ゴメンナサイ」



 あらら、あずささん、すっかり凹んじゃったよ。アルトも容赦ないね。



「ねぇねぇ、マスターコンボイさん、今開けてもいい?」

「好きにしろ。すでに所有権はお前らにある」



 スバルがマスターコンボイからお許しをいただいたので、僕もさっそく包みを開けて……って……



「これ……カートリッジのホルダー?」



 そう。包みの中身はデバイスで使う魔力カートリッジのホルダー……ただし、局の支給品よりちょっとゴツイ。



「ただのカートリッジホルダーじゃない。
 貴様らも、柾木あずさのエレメントカートリッジは知っているだろう?」



 マスターコンボイの言葉にうなずく――“エレメントカートリッジ”っていうのは、僕らの中でも主にあずささんが使っている特殊な魔力カートリッジ。

 普通のカートリッジはただ魔力をブーストするだけだけど、このエレメントカートリッジに込められた魔力にはブレイカーの技術の応用で魔力自体に任意の属性を付加してある。その力を使うことで、カートリッジの使用者がその属性を使うことが可能になる、という仕組みだ。



 たとえば、僕が“炎”を意味する“FLAME”のエレメントカートリッジを使うとする。そうすると、エレメントカートリッジに込められた“炎”の属性が付加された魔力が僕に注ぎ込まれることになる。

 その結果どうなるかっていうと……今の“FLAME”の例でたとえるなら、魔力の炎熱変換が先天資質なしでも容易になる――そう。その気になれば、僕がシグナムさんの“紫電一閃”を撃つことも可能になるワケだ。



「そいつには、そのエレメントカートリッジへの属性付加……ブレイカーの用語では“属性付加エンチャント”というらしいが、それをシステム化したものを組み込んである。
 目的の属性を設定したその中に魔力を込めたカートリッジを入れておけば、あとはそのホルダーの中で自動で“属性付加エンチャント”が行なわれる」

「それだけじゃないよ。
 魔力を普段から蓄積しておく魔力バッテリーも内蔵しててね。空っぽのカートリッジを入れておけば、カートリッジのチャージもできるんだから。
 あ、みんなのジャケットに合わせた装着用アタッチメントを一緒に包んでおいたから、着ける時にはそれを使うといいよ」



 あずささんも加わって説明してくれる……んだけど、聞けば聞くほど、ポータブルの携帯充電器みたい。あの、充電バッテリー入れて携帯を充電する、ってヤツ。



「あぁ、アレから発想持ってきてるから」



 マヂでアレだったんですか。







 でも、これがあれば、僕らでもエレメントカートリッジが用意しやすくなる。今まではあずささんしか用意できなかったから……なんか手間かけるのが申しわけなくて、なかなか頼めなかったの。



 けど、これでその問題が解決することになる。特に僕の場合、マジックカードとあわせれば、戦い方の幅が今よりもさらに広がる。







「元々カートリッジの使用に戒めを施している恭文にとっては、あまり役に立つ装備ではないかもしれないが……な」

「そんなことないよ。
 うん……すごく助かる。特に、年明けの試験でけっこう……ね」



 フェイトとも約束したしね。フェイトからもらう合格のバトン、ちゃんとスバル達に渡す……って。



「って、そうだよっ!
 恭文、フェイトさんとのコト!」



 ………………チッ、スバルめ。思い出したか。



「いいんだよ。
 別に約束とかしてたワケじゃないしね」



 それに……まぁ、プレゼントだって、忘れてない。だから大丈夫……まだ渡してないけど。







「でもなぎさん、フェイトさんちょっと怒ってたよ?」

「………………………………エ?」

「うん、朝……というか、さっき通りすがりにあいさつしたら、不機嫌だったね」

《マスター、ちゃんと謝ってくださいよ?》

「いや、何に対してっ!?」



 まてまて。約束すっぽかしたとかなら、わかる。でも、そうじゃないんだよ? ……どーいうことっ!?



「アンタ、本気で覚えないの? ……これだから男は」

「なぎさん、追い詰められる前に白状した方が、傷は浅いよ?」

「そうだよ。フェイトさんはうちの捜査主任なんだし、簡単に王手だよ」

「恭文、正直になろうよ。大丈夫、誠心誠意謝れば、きっとフェイトさんだってわかってくれるよ」

「きゅくきゅくっ!」

「蒼凪。知性ある者、自分の犯した罪に背を向けては生きていけないぞ?」

「はい、みんなで僕が悪いのは間違いなしって流れで話進めるのはやめようねっ!?
 というかっ! 本気で何もしてないからっ!」

「恭文……何もしなかったおかげでえらいことになったギンガ・ナカジマと柾木ジュンイチのことを忘れていないか?」

「そーいえばそーでしたぁっ!」



 ……とはいえ、それだって今回の件には当てはまらない………………はず……











「……ヤスフミ」











 すごいタイムリーな感じで聞こえてきたのは、僕のよく知る声。

 そちらを見ると……うん、怒ってる時の顔だ。



「ちょっと、話があるんだ。聞いてくれるかな」

「……拒否権って」

「ないよ」

「……………………………………………………うん、そうだよね。わかってた」





















「……イクト兄さん、一緒に行かなくていいんですか?」

「キャロ……お前は今のテスタロッサに近づきたいと思うのか?」

「………………ごめんなさい」





















「……昨日、何してたのかな」



 現在、取調室で詰問を受けています。というか、受け始めました。



「えっと……リインとヒロさんから聞いてない?」

「途中で、どうしてもやることができたんだよね。だから、サリさんやジュンイチさんも呼んで、付き合ってもらった」

「うんうん。こう、僕達にしかできないことがね」

「……はやてと一晩明かすことが?」



 …………………………え?



「私、今日たまたま早起きしてね。見たんだ。ヤスフミが、はやてをおぶってここに帰ってくるところ」



 ……マジですか。気をつけてたのに。



「どうして、はぐらかそうとしたの? どうして……話してくれなかったのかな」



 フェイトの表情に、悲しみの色が差す。なんでそこまでと言わんばかりに。



「……ごめん」

「謝る前に、話してほしい。みんなにも内緒にしてるよね。
 ……そういうことなの?」



 そういう……えぇっ!?



「違うよっ! どうしてそうなるのっ!?」

「……イブの夜を、女の子と一晩過ごした。それだけで充分だよ」



 あ、納得……って、んなワケあるかっ! つーかフェイトは大事なこと忘れてるしっ!



「サリさんやジュンイチさんも一緒だったんだよっ!?」

「じゃあ、どうして二人だけで帰ってきたの? おかしいよね」



 ……その言葉で、僕は覚悟を決めた。



 フェイトは誤解しかけている。このままだと……なのだ。もう、隠しておけない。



「ヤスフミ、お願い。ちゃんと……話して?」

「……わかった。ちゃんと説明する」



 全部は話せないけど……このまま誤解されるってのは、イヤだしね。



「えっと、はやてから、プライベートな相談事を受けたの。でも、それが相当重い話っぽくて……リインに聞かせられるような話じゃなかったんだよ。
 その上、はやてが酔っぱらちゃって……」



 それで、ヒロさん達を呼んで、リインだけは返そうとしたけど、サリさんもうれしいことに、それ付き合ってくれた。

 最悪の場合ははやてを鎮圧するために呼んだジュンイチさんも、同様に。



 それで、そのまま四人で居酒屋でそれ関連で一晩話をしていた……と、話した。



「……サリさんとジュンイチさんは?」

「えっと……サリさんに関しては、僕らの方が先に帰ってくる……って形だったから、どうなったかは何とも。
 ただ……はやてが酔った勢いでかなり荒れたから、お店の人にそうとう謝り倒したはず。ヘタしたら、片づけ手伝ってるかも」



 いくらサリさんのなじみの店だからって、ちょっと暴走を許容しすぎたからなぁ……まさかシュベルトクロイツを起動するおこすほど荒れるとは思わなかった。



「ジュンイチさんは……たぶん、マックスフリゲート。
 クリスマスパーティー、すっぽかすハメになったから、謝りに行くって」



 なのは達も昨夜は向こうに泊まりだったはず。こっちに帰ってくる前に、向こうで他のみんなと一種にいるうちにまとめて謝るつもりらしい。







「それで、たぶん今ごろ……宙を舞ってる」

「宙を……? ……あ」

「うん、みんなカンカンらしい」



 あっちに集結しているのはなのはにヴィヴィオにナカジマ家、スカリエッティにナンバーズにアルピーノ親子にアギト……リハビリ中だけどクイントさんの上司のゼストさんもいる。



 霞澄さん達は……あれ? 来るって言ってたっけ? ちょっと思い出せないや。旦那さんと二人っきりで……って選択肢だってあるワケだし。

 鷲悟さんはライラが捕獲に向かったから、そっちに捕まったはずだし……



 まぁ、あの人達がいないと仮定しても、実にほとんどのメンバーが戦闘要員。さらに大半がクリスマスは初めてで、すごく楽しみにしていたらしい。



 そんな状況下でドタキャンかましたんだから……うん。みんなして怒ってるであろうことは想像に難くない。まず確実にナンバーズのみんなからは袋叩きだろうね。



「あの、ごめん。
 ただ、黙っていたのは、別にやましいことがあるとかじゃなくて……」

「大丈夫だよ」



 さっきまでの表情を変えて、フェイトは優しく微笑んでくれた。



「はやてからの相談事、知られるようなことになるの、イヤだったんだよね」

「……うん、けっこう内容が重くてね。
 はやてにも、内緒にしててほしいって頼まれたから」



 僕としても、この一件についてはあまり知ってる人増やしたくないしね……主に、ヴェロッサさんの命のために。



「あの、私の方こそごめん。いきなり問い詰めるようなことして。
 それに……疑うようなことも。
 ホントにごめん。その……ビックリしたよね?」

「あの、少しだけ……でも、僕も大丈夫。
 というか、信じて……くれるの?」



 フェイトの視点からすれば、僕、まだウソついてるかもしれないのに。



「信じるよ」



 だけど、フェイトは迷いなくそう言ってくれた。



「今のヤスフミは、隠し事はしてても、ウソを言ってるように感じなかったから。
 ただ……ヤスフミ達だけで抱えきれないようなら、私のこと、頼ってほしい。
 それだけは、約束して」

「……うん、約束する。あと、フェイト」

「大丈夫、みんなには黙っておく。
 私も、相談されるまでは、知らなかったことにする。
 今されているのは、ヤスフミとサリさんとジュンイチさんだしね」

「そうしてくれると、助かる」



 僕らが……じゃなくて、ヴェロッサさんが、だね。



 ………………よし。



「時にフェイト」

「うん?」

「さっきまでの話とまったく変わるんだけど……」



 ごめん、ちょっとズルい方法で相談させて。僕の許容量をオーバーしてるのよ。



「例えば……だよ? この間の、ラトゥーアの時の僕達とまったく同じシチュ……ただ、僕らと違って二人きりの男女がいたとするじゃない?」

「……うん」



 顔を赤くするのは、きっといい傾向なのだと思うことにする。



「それで……だよ。
 もし、僕達と違って、“そう”なちゃったとしたら……どう思う?」



 瞬間、フェイトからスチームが上がった。いや、僕もだけど。



「……“そう”なりたかったの?」

「違うっ! そういう話じゃないからっ!
 その、なんというか、フェイトはそういうのどう思うか、気になって……」

「……そっか。
 でも、それだけじゃ判断できないよ。その二人の気持ちもあるワケだし」



 まぁ、そうだよね。まずはそこだよね。



「例えば、気持ちが通じ合って“そう”なるなら、いいと思う」



 通じ合って……ないよなぁ。

 話を聞く限り、なんか勢いで“そう”なっちゃったような……少なくとも僕はそう感じた。



「そういう“遊び”として“そう”なるのも、当人同士が納得の上なら、ありではあるよ」

「え? そっちもOKなの? ……ちょっと意外」

「あ、私はそういうのはイヤだよっ!? 絶対にっ!」



 え? なんで肩をつかむっ!?



「あくまでも、そういうのは個人の自由だし、私がどうこう言うのも、変かなっていう話なだけだよっ!  お願いだから誤解しないでっ!?」

「あの、ゴメンっ! ちゃんとわかってるから……ブンブン振り回すのはやめてーっ!」



 そこまで言って数秒後。ようやくフェイトは止まってくれた。



 あー、頭が揺れて、なんかガンガンしだした。

 いくらザルだって言っても、アルコールが体内に残ることには変わりない。そんな状態で今のは……正直、効いた。



「あの、ゴメン。大丈夫……?」

「うん、なんとか……
 後で味噌汁でも作ってもらって、飲む」



 もう食堂スタッフとは、ツーカーな関係なのだ。というか、たまにジュンイチさんみたいに手伝うこともあるし。



「あ、それで話の続きだね。
 ……そうじゃないのに“そう”なるのは、私は……ちょっとイヤかな。
 というより、男の人はどうかと思う」



 ま、またキツいご意見を……いや、僕もそう思うけど。



「女の子は、非力だよ?
 押し倒されてどうこうというのもあるけど、どこか雰囲気的なものに酔いやすい部分もある。
 そこは、男の人が気遣って、守るべきだと思う」



 うん、キツいよね。それはよくわかる。

 でも、男はガマンして、耐える生き物よ? 女の子のためならね。



「あ、もちろん男の人だけの話じゃないよ?
 女の子も、雰囲気に流されないで、しっかり自分を持つことが必要……だと、私は思う。
 要するに……結ばれるなら、雰囲気や状況に流されないで」

「ちゃんと自分達の気持ちを確かめた上で、二人で選ぶと……」

「私は、それが……正しい形だと思う。そう、母さんやリンディさん……あと、エイミィとか知佳さんとかから教えてもらったしね」



 ……桃子さん達、ちゃんと性教育してたんですね。ちょっとビックリですよ。

 フェイトの言動や行動を見てると、無自覚な時があるから、ノーダメバリアのアレコレとは別で心配だったのに。



「もし、それを怠ったら……きっと、後悔するし、戸惑うと思うな。
 私どうこうじゃなくて、きっと……誰でも」



 そうだね、後悔してる様子だよ。その前段階すっ飛ばしたから、どうしてこうなったのかすら、わかんないって感じだった。



「……自信、持ってほしいな」

「え?」

「みんなにあれこれ言われたから、そういうの気にするのかもしれないけど」



 ……そう解釈したのか。まぁ、話がおかしいし、仕方ないか。



「私はあの時、ヤスフミとイクトさんが怖い思いをさせないように……たくさん気遣ってくれて、守ってくれて、うれしかった。
 あの、ちょっとだけ恥ずかしかったけど、私にとっては大事な思い出になってるし、それに……」

「それに?」

「男の子として、最後までそうしてくれた二人だから……私、ちゃんと男の子として、異性として、見たい。選びたい。そう思った」



 ……恥ずかしい。というか、その……うれしい。そして、身体が熱い。

 フェイトが、真剣な瞳でそう言うから……気持ちが、貫かれたような感覚を覚えた。



 イクトさん、いなくて正解だったかも。抜け駆けしたようで気が引けるけど、こんなの聞いたらあの人卒倒するよ。せっかくはやてから解放されたのにわざわざ要介護者を増やしたくないのよ、僕は。



「あの……ありがと。うん、うれしい。というか、ごめん。いきなり変な話して」

「大丈夫だよ。だから……ね、チキンとかヘタレとか、意気地なしとか言われても、気にしないで?
 私は、そんなこと思ってないから」

「……うん」







 なら、いいのかな。うん、きっといいんだ。







「時にフェイトさんや」

「うん? ……あの、ヤスフミ。どうしてそんな……オーラを出してるの?」



 ま、それはそれとして……ぜひとも聞いておかなければならないことがある。



「まず誰がチキンとかヘタレとか、意気地なしとか言ったか、教えてほしいな。想像つくけど、確認って大事でしょ?」

「あの、ダメだよっ! いきなり実力行使でどうこうなんてっ!」

「大丈夫。『OHANASHI』するだけだから」

「それもダメっ!」











 ……なんてやりつつも、思考はいたってマジモードである。







 まずは、二人の気持ちの確認か。

 確かに、そこがわからないと、どうしようもない。ダメならダメってのは……認識必要だよね。

 でも……だよなぁ。







 ヴェロッサさんもそうだけど、はやても本心を吐き出してくれるかどうか。特にはやては、意地張ってる部分があるし。

 それに何よりですよ? こういうのは、第三者が横から口挟む問題じゃないし。うーん、やっぱりすぐにどうこうはムリかなぁ。







 いっそ誰かに……でも、ヘタすればその時点でヴェロッサさんの身が危うくなる。

 はやてはどうかって? ……こういう場合、責められるのは男って、相場が決まってんのよ。

 悲しいことに、男の味方をするのは、男だけだよ。つまり、男比率の少ないこのコミュニティでは、ヴェロッサさんは四面楚歌も同然だ。







 やばい。マジメにそんな中で相談出来る人間が思いつかないっ! せいぜいクロノさんと遠めな人でゲンヤさんくらいだよっ!?



 かと言って、相談を受けた僕ら三人だけじゃ絶対に手に余るし……何より、僕らだけで処理しようとすると、ジュンイチさんがどんなトンデモ手段に出るかわかったものじゃない。







 僕らだけじゃ手に負えない、うかつに相談もできない……どーすりゃいいのさ、これっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うー、頭痛い」

「はやてちゃん、大丈夫ですか?」

「うん、なんとかな。
 あ、リインもそないに心配そうな顔せんでえぇよ? これくらいすぐよくなるから」

「はい……」







 ……今日は動くのはムリよね。というか、私は恭文くんから昨日飲んだ量を聞いて、ビックリしたわ。

 いえ、恭文くんはそれ以上なんだけど……まったく酔わないのよね。まぁ、あの子はそういう体質だから。

 もちろん、肝臓に負担がかからないワケじゃないから、自重するようにとは言ってるけど。







「いくらなんでも飲み過ぎです。
 ……何かあったんですか?」

「……いやな、あの子と久々に話したら、ちょお感傷的になったんよ」

「……そうですか。
 とにかく、今日は一日休んでてくださいね? 仕事は大丈夫ですから」



 私がそう言うと、ベッドの中のはやてちゃんはうなずいた。その返事を確認してから、私はリインちゃんと寝室を出た。



「シャマル、主はどうだ?」

「ただの二日酔いだから、問題ないわ。
 ……ちょっと重症だけどね」

「そうか」



 部屋の外で待っていたザフィーラにそう返事をしつつも、私は歩を進める。というか、私も仕事しないと……



「今日は一日、我が主に付く事にする。安心しろ」

「そうね、お願いできる?」

「ザフィーラ、はやてちゃんのこと、お願いしますね」

「心得た」







 ……後をザフィーラに任せて、私達はそれぞれの職場に戻る。また、お昼になったら様子を見に行かないと……





 でも……なのよねぇ。







「リインちゃん、本当に何を話していたのか、わからないのよね」

「はい……リイン、恭文さんに耳塞がれてましたし」



 つまり、“リインちゃんには聞かせられない話”……よね。あの子のことどうこうじゃないわね。



「まぁ、そこはいいわね。今日もがんばって、お仕事しましょうか」

「はいですっ!」







 ……恭文くんやジュンイチさん、サリエルさんに聞いても、きっと答えてくれないわね。



 というより、必要があるなら、とっくに話してると思うわ。三人とも、そういう人だもの。







 恭文くんとなんやかんや……ないわね。フェイトちゃんと上手くいきかけているのに、そんなことするワケがないわ。







 はやてちゃんも、恭文くんは友達であって、そういうのじゃないと、公言しているし。うん、ノンセクシャルなのよ。





 はやてちゃん、一体……何があったんですか?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……やっさん、次はこのレポート、わかりやすい形で整理お願い」

「了解です。
 ……うわ、またこれは、たんまりありますね」



 六課に来てから、そんなでもないのに。というか、サリさんがこういうのやってたんじゃ。



「いや、なのはちゃんの気合いに圧されちゃってね。ついがんばっちゃったのよ。つーか……追加分?」

「あ、あの……恐縮です」



 ……現在、なのはとヒロさんに頼まれて、教導資料やレポートの整理作業中である。

 というか、僕は疑問がある。



「いいんですか? 僕だって教導受ける側なのに」

「アンタはいいのよ。つか、見ても感想持ったり、覚えないようにしてるでしょうが」



 書類を整理しながら、ヒロさんがそう言ってきた。そう、僕は覚えないようにしてる。だって、覚えても得はないから。



「もちろん、恭文くんが見ても大丈夫なものばかり任せてるけどね」

《それでこの量ですか……》

「やっぱ多いの?」

《かなり》



 バカをやりつつも、これだけのことをしてくれてるんだよね……感謝しないと。



 とにかく、必死に作業を手伝っていると、お昼になった。なので……





















『いただきまーすっ!』



 そう、お昼です。メンバーは、僕となのはとヒロさん。それに……



「ヴィヴィオ、ピーマン入ってるけど、がんばろうね」

「うんっ!」





 フェイトとヴィヴィオです。あ、なんか久しぶりな感じ。



 なお、メニューは……なのはとヴィヴィオがオムライス(サラダとスープ付き)。

 ヒロさんが、洋食中心のおかず構成になっている、本日のお勧めランチ。フェイトが、白身魚のフライがメインのCランチ。

 で、僕が『まさにトンカツ定食』な和風ランチです。



「そーいやさ、ママ達から聞いたけど、ヴィヴィオちゃん、ピーマンがダメなんだって?」

「はい……でも、食べられるようにがんばってますっ!」

《そうか、いいことだ。
 ……ボーイも見習わないとな》



 瞬間、みんなの視線が集まるけど……うん、気にしない気にしない。

 ……だって、本当に生のトマトはダメなんだもん。



「まぁ、誰だってダメなものはあるさ。かく言う私にもあったしね」

「そうなんですか?」

《あぁ、言ってましたね。レタスがダメだったと》



 あ、それは初耳。というか……何でも食べられそうに見えるのに。



「どういう意味だよそれっ!?」

《いや、確かにその通りだけどよ。雑食っぽく見えるよな》

「あ?」

《そんなことはありませんっ! マスターは繊細かつ、か弱いと思いますっ!》



 両手のアメイジアに、本気の殺気をぶつけるのは、我が姉弟子。でも、こういうのはやめてほしい。周りの人間がそれに圧されちゃってるから。



「でも……どうしてレタスがダメだったんですか?」

「ヒロさん、好き嫌いはしなさそうに見えますし……あ、もちろん雑食とか繊細じゃないという意味じゃないですっ!」

「……いや、そんなに念押ししなくていいから。まー、レタスっていうより、香りやクセの強いものがダメだったんだよ。
 例えば……」



 ヒロさんが、自分のお昼に入っていたポーチドエッグにフォークを刺す。そうしながらも、言葉を続ける。



「玉子もダメだった。口に入れた時に、独特の風味を感じちゃってね。でも……」

「でも?」



 ヒロさんは、フォークを突き刺したポーチドエッグをそのまま口に入れ、美味しそうに食べる。

 そして、それを飲み込むと、ヴィヴィオへと視線を戻した。



「今のヴィヴィオちゃんみたいにがんばって、食べられるようになったの。で、そこからまた食べてるうちに、玉子もレタスも、好きになったんだ」

「ヴィヴィオも……そうなれますか?」

「なれるなれる。それだけがんばってれば、近いうちにね。
 ……というワケで、やっさん」

「はい?」



 次の瞬間、僕の皿の上に赤い魔王……生のトマトが出現した。

 というか、ヒロさんやなのはにフェイトの皿から、移動してきた。うん、瞬間移動だね。



「さ、がんばろうか」

「はいっ!?」

「こんな小さい子ががんばってるんだ。アンタもがんばらなくてどうするのさ」

「そうだよ。いい機会だし、恭文くんもがんばらないと。ここにいる間に、トマト嫌いは克服しちゃお?」



 言ってる事は正論。しかし、納得はできない。だって、ホントにダメだから。



「ヤスフミ」



 反論しようとした僕に、声がかかる。その声の方……フェイトの方を向く。というか、真っ直ぐに僕を見ていた。



「せっかくだから、もう一回がんばってみようよ。生がダメなだけで、他は大丈夫なんだし」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ハイ」



 僕には、こうとしか言えなかった。だって、ヴィヴィオの前だし。



「……いや、やっぱフェイトちゃんは強いね」

《ボーイ、現時点で尻に敷かれてるな》



 なんか聞こえるけど、気にしない。



「さ、ヴィヴィオ。恭文くんも一緒にがんばるから……」

「うんっ! ヴィヴィオもがんばるっ!」

《いつも通りですね、マスター》

「うん、そうだね……」







 ……結局、僕はがんばった。ヴィヴィオもがんばった。







 けど……辛かった。本当に辛かったの。



 うぅ、やっぱり生のトマトはダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そんなお昼を終えた後は、みんなで……というか、三人でまた書類整理。



 ま、年末だしね。もう仕事納めまで一週間切ってるし。







 何より……これをすませないと、この部屋大掃除できないしね。



 仕事納めの日まで大掃除でバタバタしたくないのはこの三人の共通見解。だから……がんばる。







 協力しつつ、確認しつつ、テキパキとやっていく。







 そして……











「……うん、これで終了ですっ!」

『やったー!』



 夕方を通り過ぎて夜になった時刻、なのはの号令で、すべての作業が終了したことが告げられた。



「まぁ、明日からのみんなの試験の最終調整に入れば、また同じことに」

「言うなバカっ! そんなこと聞いたら、一気に疲れが増すじゃないのさっ!」

「バカってひどいよっ!」



 なんか言ってるけど、気にしないでいく。







 ……気にしないったら気にしないのっ!







《でもまぁ、ここまでのをちゃんと整理できたことは、無意味じゃないだろ》

「そうだよ、溜め込んでる方が、もっと大変になるしね」

「ま、それもそうですね」

「……つーワケだからやっさん、もういいよ?」



 え?



「フェイトちゃん、待たせちゃいけないしね。ま、がんばんな?」

「うん、今日はクリスマスだしね。気合い入れないとダメだよ」

《……ボーイ、俺は応援してるぜ。あ、シチュエーションと雰囲気だけは吟味しろよ? ブロンドガールはその辺りうるさそうだしよ》

「よし、お前らナニをカン違いしてるっ!? つーかそういうことのためじゃないからっ!」











 ……なんか、すごい応援されて、僕はその場を後にした。つーか本気で誤解してるよアレっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そうして来たのは、いつもの談話室。ま、その……ね。



 少し緊張しながら入ると、フェイトとイクトさんはもういた。なので……







「二人とも、ごめん。待たせた?」

「ううん、私達もちょうど来たところだから。
 ……なのはとヒロさん達の方は、大丈夫?」

「うん、なんとか終わった。そっちは?」

「私も大丈夫。今日は書類関係だけだったしね」

「オレは、幸い今日は事務仕事もなかったのでな」



 まぁ……イクトさんの場合、あったら絶対今ここに来れてないでしょうしね。



 とりあえず、フェイトとイクトさんと向き合う位置の椅子に座る。







 ……そだ、ちゃんと渡さないと。



「あのね、フェイト……これ」



 僕がフェイトに差し出したのは、青い包装紙に包まれた、40cm程度の四角い箱。それを、フェイトが受け取る。



「……これは?」

「……クリスマスプレゼント」

「あの……ありがと。というか、大きいね」

「そういう箱だったから。
 あ、イクトさんはこっち」

「オレにもあるのか……?」



 うん、あるの。



 だって……義理堅いイクトさんのことだからさ、「テスタロッサにだけプレゼントしてお前にないのは不公平だ」とか言って、僕の分のプレゼントも用意してそうだから。

 となれば、こっちもプレゼント返さないとそれこそ不公平でしょ。



「………………そんなにわかりやすいのか? オレは」



 やっぱり持ってきてたか。なんか複雑そうな顔をして、僕目の前に10cm四方くらいの大きさの包みを差し出してきた……なので、素直にそれを受け取る。



「テスタロッサにもだ」

「ありがとうございます」



 そしてフェイトにも、同じくらいの大きさの包みを渡す……形が違うから、同じものではなさそうだけど。



「あ、それじゃあ私も……はい」



 フェイトが渡してきたのは……赤と緑の縞模様のデザインになっている包装紙に、赤いリボンがラッピングされていた。15cmほどの長方形だね。

 ただ、箱というより……そのまま包まれてる感じ。イクトさんにも同じものを渡す。



「ありがと。というか……準備してくれてたんだ」

「……うん。その、いつももらってばかりだしね」



 ……フェイトにクリスマスプレゼントを送るのは、恒例になっている。といっても……そんなド直球なものじゃない。



「私、いつもお返ししなきゃと思って、最近は全然できてなかった。というか、メッセージカードとかばかりで……ゴメン」

「気にしなくていいのに。僕の好きでやってるんだし」

「気にするよっ! ……うん、気にする。あ、開けてみていい?」



 僕は、その言葉にうなずく。というか、僕とイクトさんも開ける。

 ……慎重に包装紙を開くと、フェイトのプレゼントの中から出てきたのは……紺色の手袋だった。毛糸で、すごく暖かそう。

 イクトさんのも同じだ。ただし、そっちは赤色。

 というか、これは……



「……私達、同じこと考えてたのかな?」

「……そうかも」



 そう口にするフェイトが手にしてるのは、僕がプレゼントした明るいクリーム色のマフラー。なお、お店で買ったヤツです。

 ……その、アレだよ。僕、男だしさ。もしフェイトにそういう相手ができても、使い続けられるものをと考えると……こうなるの。

 狙い過ぎてタンスの肥やしになるとか、ちょっとイヤだし。それなら、実用品かなと。



 ホントは、もうちょいがんばりたいんだけどね。



「………………オレも、もう少し飾り気のあるものにすればよかったか……」



 なんかイクトさんが僕らのプレゼントを見て凹んでる……ちなみにイクトさんへのプレゼントは方位磁石。それもけっこうなお値段だった、本格的なアウトドア用の作りのしっかりしたヤツ。

 デジタル系の地図とかはすぐに壊しちゃうイクトさんだけど、こういうアナログ系なら大丈夫だろう、ってことで。せめてこれで方向音痴くらいは治ればなー、と思って、これにした。



 で、そうやって凹んでるイクトさんのプレゼントは何かなー、って……



「……手袋……つか、グローブ?」



 そう。イクトさんから僕へのプレゼントは、本格的な革製のライダーグローブだった。



「貴様、バイクに乗るだろう? もう持っているだろうが、予備くらいに考えてくれればいい」



 なるほど……徹底して実用重視で、消耗品扱いを覚悟できたワケか、この人は。



 じゃあ、フェイトは……



「………………あの……これ、ひょっとして……」



 そうつぶやくフェイトの手にあるのは、スーツの内側に留めるタイプの追加ポケット。



 っていうか、そのポケットの形って……



「ひょっとして……バルディッシュを入れるための?」

「あぁ。
 そういう意味では、貴様とバルディッシュへのクリスマスプレゼント……ということになるのかもしれんな」



 そう。ポケットの形はちょうどバルディッシュを縦向きに入れたらピッタリ入るような感じになってた。

 間違いなく特注品だね、アレ。



「何を言っている。
 貴様のグローブも、“Bネット”支給の強襲アサルト戦闘服にも使われている防刃素材を使って作った特注品だぞ」



 ………………ンなもんを「予備とでも思ってくれればいい」ってポンとよこしたんですか、この人。



「あ、あの……大切にしますね、これ」

「特注だから、というつもりなら気にしなくてもいいぞ。
 要求する形状や強度を実現しているものが市販になかった。だから仕方なく特注で……というだけの話だからな」



 フェイトにお礼を言われて、イクトさんが照れながら答える……確かに、これは粗末には扱えないな。

 かと言って、大切にしまっていても、使ってほしいってよこしたイクトさんに悪いし……うん。大切に使っていこう。きっとそれが一番だ。



「……フカフカして柔らかい」

「僕も……それにこれ」



 僕らのプレゼントも、ちゃっかり着けてたりします。僕もそうだし、イクトさんも。そしてフェイトも……首にマフラーを巻く。



「すごく暖かい」

「……私も、暖かいよ」

「そう……だな」



 手を包む毛糸の手袋の感触が、すごく心地よくて、暖かい。フカフカして……心までそれに包まれてる感覚がする。



「あの、フェイト……ありがと。これ、大事にするから」

「あぁ、オレもな」

「うん……というか、それなら私もだよ。
 このマフラーも、バルディッシュのポケットも、大事にする。二人とも、ありがと」

「うん……」

《ありがとうございます》

「バルディッシュにも気に入ってもらえたようで何よりだ」



 ……こんな時間が、ずっと続けばいい。フェイトと気持ちがつながっている時間が。

 それだけで、幸せで、暖かくて、せつなくて……



「……ねぇ」

「うん?」

「どうした?」

「せっかくだし、少しだけ……デートしちゃおうか」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……冬のミッドの道を、私達は歩く。大事なクリスマスプレゼントを身につけて。



 デートと言っても、ご飯を食べて、帰ってくるだけなんだけど。明日も仕事や訓練があるし、本当に少しだけの、私達だけの時間。







 ……あの時のこと、思い出した。何て言うか、やっぱりそうだよね。







 今までのこと、今までの言葉、この間……顔を赤くしながら、真っ直ぐに届けてくれた想い。打ち明けてくれた、これからいたい場所。







 そのすべてが結びつく。そして示す。今日だって……そう。







 ヤスフミ、私へのクリスマスプレゼントを欠かしたこと、一度もない。うん、ただの一度も。



 それに……イクトさんも。回数は、今年会ったばかりだからしょぅがないけど……こういうのはガラじゃなさそうなのに、ちゃんと用意してくれた。しかもちょうどいいのがないからって、作ってもらってまで。







 うれしくないワケない。私だって……女の子だから。



 だから、ちゃんと考えて、応えたいな……と。







 というか、最近の私はちょっとおかしい。



 ……うん、おかしい。ヤスフミが他の女の子と仲良くしてると、ちょっとイライラする。



 イクトさんが同じようなことになっても、なんだか落ち着かない。







 なんていうか、私に言ってくれたいろいろな言葉は、ウソだったのかなと思う。そう考えると……少し、胸が苦しい。







 まぁ、そこはいいよね。今は、この時間を楽しみたい。私達だけのクリスマスを。











「……フェイト、寒くない?」

「うん、大丈夫だよ……暖かいから」



 首に巻いたマフラーが、心まで暖かくさせてくれる。あと……



「二人は大丈夫?」

「うん、大丈夫。その……同じくだから」

「おかげで、“力”で暖をとる必要もない。いいものだな」



 ヤスフミの手には紺色の、イクトさんの手には赤色の手袋。というか、私を真ん中にして三人で手をつなぎながら、歩いている……他の人達、歩道占領しちゃってごめんなさい。

 でも、手を通じて、手袋越しでも何かが伝わってきて……私の心は、寒さを感じさせないほどに、温度を上げる。



「しかし、人多いね」

「もうすぐ、今年も終わりだから。うん、どこでも年末はこうなんだよ」

「こういうところは、どこの社会も変わらないな」



 今年はあんな大事件もあったのに、そのせいで局の治安能力もガタガタで、犯罪率も上がってるっていうデータもあるのに……この光景を見ると、それがウソのように感じる。

 それほどに、今は平穏で……

 人々は忙しそうで、足早に歩く。だけど、そこから笑顔や幸せな表情を見つけることが多いのは、きっと気のせいじゃない。



「……こういうことなのかね」

「え?」



 ヤスフミが納得したような顔でつぶやいた。その視線に映っているのは……きっと、私と同じ。



「いやさ、前にギンガさんが言ってたのよ。
 『局員として、市民の平和と安全を守ることは仕事であると同時に、幸せにもなりえる』……ってさ」

「……うん、そうだね。そういう考え方はあるよ」



 世界の平和……というと大げさかもしれないけど、たくさんの人の普通の時間を守る手伝いができたなら……うん、私はうれしい。



「……すこーしだけ、それがわかった気がした。本当に少しだけ」

「ヤスフミ……」

「でも、やっぱり……だね」

「そのためには戦えないし、がんばれない?」



 ヤスフミは、少しだけ申しわけなさそうにうなずくと、足を止めて、私を見上げて……こう口にした。



「それよりも守りたいものがあるから。
 世界とか、そういうの関係なしで自分が守りたいと思うものが」

「同感だな。
 世界など、世界のことが好きなヤツが守ればいい。
 オレ達が世界を守るとするなら……それ以上に守りたいものを守るための“手段”でしかない」



 ……ダメ、なんだかドキドキしてくる。その、えっと……



「世界が守れても、自分が決めたそれを守れなかったら……意味がないんだ。
 ま、わがままだよね〜」

「そうかもしれないね。
 でも……二人はそれでいいと思う」

「そうかな?」

「そうだよ、きっと」



 少しだけ速まった心臓の鼓動を悟られないように、言葉を返していく。



 だって、その……二人の“守りたいもの”の中には……



「でも……」

「あぁ……」

「いいよ」

「……なんでわかるのさ」

「わかるよ。
 ヤスフミは、イクトさんは、それだけじゃなくて、今感じた事を理由に……戦っていい」



 今までの二人は、どこかでそういうのから背を向けていた。多分、許せなかった。

 自分は奪った人間だから、奪う人間だから、そう考える資格がない。そう、思ってたんだよね?



「……ま、たまのたまのたまの……たまーになら、やってもいいかな。優先順位は決まってるし」

「うん、それでいい。
 そう思えるようになっただけでも、私はいいことだと思う」

「そういうもんかな?」

「そういうものだよ」







 道も、志も、正解なんてない。私やみんな、ヤスフミ、イクトさん……それぞれのその形は、きっと違う。







 だから、自分で決めていく。わがままでも、身勝手でも、くだらなくても、自分だけの理由を。







 そして、それを強く信じ抜く。誰がなんと言おうと絶対に。そうすれば、きっとそれは折れない剣に……砕けない鉄になる。







 ……『強くなる』。これがその答えのひとつなんだ。力じゃない。心を、強くする。







 ……ヘイハチさん、あなたのおっしゃっていたことが最近、少しずつだけど、わかるようになってきました。







 私も、そうなっていきたいと思います。あの時のこと、折れない剣と言いながら、簡単に折れそうになったこと、悔しかったですから。







 本当の意味での折れない剣になります。力じゃない。私の心の鉄で打ち上げた、折れず、砕けず、誰よりも速く、鋭く斬れる雷光の刃に。







 私にも、ありますから。守りたい今と、記憶と時間が。それを守れるように……強くなって、いきます。







 …………それから私達は、また歩を進め始めた。目指しているレストランは、まだ先だから。







 静かに降り始めた雪の中を……手と、心をつなぎながら。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ったく……足が欲しいならオレよかマスターコンボイに頼めよな。アイツ、ビークルモードはトレーラーだぜ?」

「仕方ないですよ、ジュンイチさん。
 スバル達の書類仕事を手伝っていたんだから」

「というか……ほぼスバルさんの仕事でしたけどね」



 ボヤくオレにはライオコンボイとエアラザーが答える……えー、現在地、地上本部(仮庁舎)の転送ターミナルです。



 いよいよ本日、ジン達惑星ガイアからの訪問者組第二陣が到着ってことで、こうしてライオコンボイとエアラザー、ライラとメイルを連れてお出迎え。



 というか……出迎えを任されたライオ・コンボイ達を六課の人員輸送用のカーゴでデリバリーさせていただきました。

 ジン達を連れて帰るためにでっかめの車で行けってことで、大型免許を持ってるオレに……って、大型免許持ってるのオレだけじゃねぇだろ。完全にオレ、巻き込まれたクチじゃんかよ。



「お兄ちゃんと会うの、久しぶりだなー?」

「通信では何度も話していましたけどね。
 しかし、向こうで何度もムチャをしてくれましたしね……心配させられた分、タップリお話しなければなりませんね」



 で、メイルとライラは久々にジンに会えるってんでちょっとテンション高め……つか、ライラがちょっと怖い。頼むからスプラッタ的な意味でR18な展開にはしないでくれよ?



 ……あ、そだ。



「なぁ、ライラ。
 鷲悟兄とは昨日どうだったんだよ?」

「えぇ、ジュンイチさん達の側の地球でたっぷり楽しませていただきましたよ。タップリとね。フフフ……」

「………………喰ったの?」

「安心してください、ジュンイチさん。さすがにそこまでは。
 それは今後のお楽しみということで……昨日は街で遊んで、食事をしただけです」

「それは何より」



 うん。本当に何よりだ。

 はやてが“そっち方面”でややこしいことになってるってのに、これ以上人間関係をかき回されてたまるか。



「…………お、来たようだぞ」



 ライオコンボイの言葉に視線を戻す――見れば、案内板に表示された、ジン達を転送してくるはずのポートの状態表示が「転送完了」になってる。



 そして――











「お兄ちゃん!」

「兄さんっ!」











 真っ先に動いたのは当然この二人――飛び出したメイルとライラが、開いた扉の向こうから姿を現したジンに飛びついていた。



「ちょっ、メイル、ライラ……」

「わぁい! お兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだーっ!」

「久しぶりのこの抱き心地……やはり兄さんが一番ですね」



 あー……「久しぶり」とすら言えそうにないな、こりゃ。

 気を取り直して、オレは視線をその左……上の方に向けて、



「久しぶりだな、カオスプライム」

「貴様もな」



 むぅ、相変わらず愛想のないヤツ……って、オレの身内にゃゴロゴロしてるか、そーゆーヤツ。



 で……



「そっちが“お客さん”?」

「あぁ」



 カオスプライムの答えを聞きながら、その“お客さん”へと視線を向ける――トランスフォーマーが1名、あとはみんな人間……いや。なんか、純人間じゃねぇのが混じってんな。



「まぁ、いいや。
 お客さん方、ようこそ、魔法の国ミッドチルダへ」



 とはいえ、その辺をツッコむのはやっぱ気まずいだろう。気づいてないフリをして声をかけるオレだけど……なんか、みんな不思議そうに周り見回してるね。

 ……なんで見回してるのか、だいたい想像がつくけど。



「やっぱり、魔法の国には見えねぇか」

「あ、えっと……」

「気にしなくてもいいよ。
 魔法って言っても、科学技術級に技術概念が確立しちまってるからな、ここは」



 たぶん、すんげぇファンタジーな世界を想像してたんだろーなー。そしてジン達はおもしろがってわざとその辺の認識の違いを正さなかったんだろーなー。

 そんなことを考えながら、懸命にフォローの言葉を探る、マリンブルーの髪をショートカットにしている女の子に答える。



「ま、『あまりにも発達した技術は魔法と変わらない』ってヤツの逆バージョンとでも思っといてくれればいいからさ」







「そんなことはどうでもいい」







 オレの言葉に無愛想に答えたのは、初対面ズ唯一のトランスフォーマー……で、何?



「貴様の部隊に、かつて“メガトロン”を名乗りながら、今は“コンボイ”を名乗っている者がいると聞いたが」

「あぁ、マスターコンボイのこと?」

「そう。そいつだ。
 ヤツは今部隊にいるのか?」

「一応、部隊に常駐だけど……何なのさ?」

「何、同じ“メガトロン”として、“あいさつ”でも……と思ってな」



 ………………このテのタイプの“あいさつ”、絶対穏便に済まないんだろうなー……って?



「『同じ“メガトロン”』……?
 じゃあ、お前も……?」

「あぁ。
 オレの名は……」







「ベクターメガトロンだ」





















(本当におしまい)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回予告っ!

ヴィヴィオ「ねぇ、なのはママ。
 トナカイさんのお鼻ってどうして赤いの?」

なのは「んー。どうしてだろうねー」

ジュンイチ「それはな、サンタクロースとどっちがソリを引くかを巡って決闘をした時、サンタクロースをマットに沈めるべく繰り出したデンプシーロールに強烈なジョルトカウンターを叩き込まれたからなんだよ。
 その結果鼻の骨を砕かれたトナカイの鼻は子々孫々に至るまで真っ赤に……」

なのは「物騒なウソ教えないでくださいっ!」





第45話「とある執務官志望の正念場、とある大帝達の対峙」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あとがき



オメガ《さて、いろいろ禍根の種はあるものの、ひとまず平和なクリスマスだった第44話です》

Mコンボイ「本当に『ひとまず』だな……」

オメガ《まぁ、それはいつものことなので気にしないでおきましょう。
 とはいえ……ボスは何やら物騒なフラグが立ってますけど》

Mコンボイ「新参のベクターメガトロンとやらが、ずいぶんとオレにご執心のようだからな。
 サブタイトル的にも、次回はおそらく……」

オメガ《でしょうね。
 まったく、うちのボスは実にほうぼうから恨みを買ってますね》

Mコンボイ「知るか。
 ケンカを売ってくるなら受けて立つまでだ」

オメガ《……やれやれ。巻き込まれる私の身にもなってもらいたいものですよ。
 ……さて、そんなこんなで、そろそろお開きの時間ですね。
 みなさん、今回も読んでくださって、本当にありがとうございました》

Mコンボイ「次回も必ず読むがいい」





(おしまい)





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